(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6284722
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】座屈拘束ブレースおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20180215BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
E04B1/58 D
E04H9/02 311
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-175425(P2013-175425)
(22)【出願日】2013年8月27日
(65)【公開番号】特開2015-45132(P2015-45132A)
(43)【公開日】2015年3月12日
【審査請求日】2016年7月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(72)【発明者】
【氏名】岡本 勇紀
(72)【発明者】
【氏名】森 貴久
【審査官】
兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−052612(JP,A)
【文献】
特開2000−265706(JP,A)
【文献】
特開2007−255085(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0250732(US,A1)
【文献】
特開平01−271579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/58
E04H 9/02
E04G 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端に建物の躯体と接合する接合部を有する板状の芯材と、この芯材の両面に沿って対向配置した一対の拘束材とを有し、これら一対の拘束材が、前記芯材との対向方向に開口した溝形鋼材と、この溝形鋼材内に充填されたコンクリート、モルタル、またはセメントミルクからなるコンクリート系材とでなる座屈拘束ブレースにおいて、
前記芯材に前記拘束材側へ突出する滑り止め突起が基端で溶接して設けられ、前記コンクリート系材に前記滑り止め突起の基端の溶接ビードが入る逃がし凹部が設けられ、深さ方向に垂直な断面において前記逃がし凹部よりも断面の小さい第2の凹部が前記逃がし凹部の底面に続いて設けられ、前記拘束材の前記コンクリート系材に前記滑り止め突起が嵌まり込む突起受け金物が、少なくとも前記第2の凹部の内周において設けられ、前記突起受け金物は前記溶接ビードに当たらず前記滑り止め突起に当たることを特徴とする座屈拘束ブレース。
【請求項2】
請求項1に記載の座屈拘束ブレースを製造する方法であって、前記拘束材に前記コンクリート系材を充填する前に、前記溝形鋼材内に前記突起受け金物を配置し、この突起受け金物上に、前記逃がし凹部を成形する成形型本体と、この成形型本体の片面から突出して前記突起受け金物に嵌まる金物嵌まり込み突部、および前記成形型本体の他の片面から突出するつまみ部を有する逃がし凹部成形型を配置し、前記コンクリート系材を充填する座屈拘束ブレースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、構造物の骨組みに組み込まれ、地震等の際に振動エネルギーを吸収して振動を減衰させる座屈拘束ブレース、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
座屈拘束ブレースとしては、従来より、芯材の周囲を鋼板のみで補鋼したもの、RCで補鋼したもの、鋼材とモルタルやコンクリートで被覆したもの等、様々な補鋼形式が提案され、実用化されている。例えばその一例として、溝形鋼材内にモルタルまたはコンクリートを充填してなる一対の拘束材で、芯材を挟み付けた構成のものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−293461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本件出願人は、上記構成の座屈拘束ブレースにおいて、
図6に示すように、芯材22の長手方向の中間部に拘束材23側へ突出する滑り止め突起31を基端で溶接して設け、拘束材23内のモルタル25またはコンクリートに前記滑り止め突起31が嵌まり込んで係合する筒状の突起受け金物32を設けることで、芯材22と拘束材23がその接触面に沿う方向に相互に滑ることを防止する滑り止め機構を構成したものを案出した。
【0005】
この場合、滑りを効果的に抑止するために、
図6のように突起受け金物32の内径を滑り止め突起31の外径にできるだけ近い値に設定すると、滑り止め突起31の基端を芯材22に溶接する溶接ビード33の上に突起受け金物32が載ってしまう。その結果、芯材22と拘束材23との間の隙間が大きくなり、これが座屈拘束ブレースの一時的な耐力低下の主因となる。
【0006】
そこで、上記課題を解決するために、
図7のように、突起受け金物32の内径を、前記溶接ビード33の外周寸法より僅かに大きく設定することを試みた。この場合、一定の効果が確認されたものの、効果にバラツキが見られた。この効果のバラツキは、前記溶接ビード33がきれいな形状に仕上がるかどうかが溶接工の技量に左右されることに起因すると考えられる。そこで、溶接工の技量に左右されることなく、芯材22と拘束材23との間の隙間が大きくならないように滑り止め機構を構成することが望まれる。
【0007】
この発明の目的は、溶接工の技量に左右されることなく、芯材と拘束材との間の隙間が大きくならないように滑り止め機構を構成できる座屈拘束ブレース、およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の座屈拘束ブレースは、両端に建物の躯体と接合する接合部を有する板状の芯材と、この芯材の両面に沿って対向配置した一対の拘束材とを有し、これら一対の拘束材が、前記芯材との対向方向に開口した溝形鋼材と、この溝形鋼材内に充填されたコンクリート、モルタル、またはセメントミルクからなるコンクリート系材とでなる座屈拘束ブレースにおいて、前記芯材に前記拘束材側へ突出する滑り止め突起
が基端で溶接して設け
られ、前記コンクリート系材に前記滑り止め突起の基端の溶接ビードが入る逃がし凹部
が設け
られ、深さ方向に垂直な断面において前記逃がし凹部よりも断面の小さい第2の凹部が前記逃がし凹部の底面に続いて設けられ、前記拘束材の前記コンクリート系材に前記滑り止め突起が嵌まり込む突起受け金物が、
少なくとも前記第2の凹部の内周において設けられ、前記突起受け金物は前記溶接ビードに当たらず前記滑り止め突起に当た
ることを特徴とする。
【0009】
この構成の座屈拘束ブレースでは、上記のように、前記コンクリート系材に滑り止め突起の基端の溶接ビードが入る逃がし凹部を設け、突起受け金物は溶接ビードに当たらず滑り止め突起に当たる範囲に設けている。前記逃がし凹部は拘束材の厚さ方向の一部だけに設けるため、その径を十分に大きく形成できる。その結果、滑り止め突起の基端の溶接ビードの外周への張出し寸法に多少のバラツキがあっても、突起受け金物の先端が滑り止め突起の基端の溶接ビードに乗ってしまうことがない。したがって、溶接工の技量に左右されることなく、芯材と拘束材との間の隙間が大きくならないように滑り止め機構を構成でき、前記隙間が大きい場合に座屈拘束ブレースに生じる一時的な耐力低下を確実に防止できる。
【0010】
この発明の座屈拘束ブレースの製造方法は、前記発明の座屈拘束ブレースを製造する方法であって、前記拘束材に前記コンクリート系材を充填する前
に、前記溝形鋼材内に前記突起受け金物
を配置し、この突起受け金物上に、前記逃がし凹部を成形する成形型本体と、この成形型本体の片面から突出して前記突起受け金物に嵌まる金物嵌まり込み突部、および前記成形型本体の他の片面から突出するつまみ部を有する逃がし凹部成形型を配置し、前記コンクリート系材を充填するものである。
この構成によると、芯材と拘束材との間の隙間が大きくならない滑り止め機構を有する座屈拘束ブレースを容易に製造できる。
【発明の効果】
【0011】
この発明の座屈拘束ブレースは、両端に建物の躯体と接合する接合部を有する板状の芯材と、この芯材の両面に沿って対向配置した一対の拘束材とを有し、これら一対の拘束材が、前記芯材との対向方向に開口した溝形鋼材と、この溝形鋼材内に充填されたコンクリート、モルタル、またはセメントミルクからなるコンクリート系材とでなる座屈拘束ブレースにおいて、前記芯材に前記拘束材側へ突出する滑り止め突起
が基端で溶接して設け
られ、前記コンクリート系材に前記滑り止め突起の基端の溶接ビードが入る逃がし凹部
が設け
られ、深さ方向に垂直な断面において前記逃がし凹部よりも断面の小さい第2の凹部が前記逃がし凹部の底面に続いて設けられ、前記拘束材の前記コンクリート系材に前記滑り止め突起が嵌まり込む突起受け金物が、
少なくとも前記第2の凹部の内周において設けられ、前記突起受け金物は前記溶接ビードに当たらず前記滑り止め突起に当た
るため、溶接工の技量に左右されることなく、芯材と拘束材との間の隙間が大きくならないように滑り止め機構を構成できる。
【0012】
この発明の座屈拘束ブレースの製造方法は、前記発明の座屈拘束ブレースを製造する方法であって、前記拘束材に前記コンクリート系材を充填する前
に、前記溝形鋼材内に前記突起受け金物
を配置し、この突起受け金物上に、前記逃がし凹部を成形する成形型本体と、この成形型本体の片面から突出して前記突起受け金物に嵌まる金物嵌まり込み突部、および前記成形型本体の他の片面から突出するつまみ部を有する逃がし凹部成形型を配置し、前記コンクリート系材を充填するため、芯材と拘束材との間の隙間が大きくならない滑り止め機構を有する座屈拘束ブレースを容易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】この発明の一実施形態にかかる座屈拘束ブレースの分解斜視図である。
【
図3】同座屈拘束ブレースの変形例を示す分解斜視図である。
【
図4】同座屈拘束ブレースにおける滑り止め機構を示す部分拡大断面図である。
【
図5】同座屈拘束ブレースにおける滑り止め機構の製作手順の説明図である。
【
図6】座屈拘束ブレースにおける滑り止め機構の提案例を示す説明図である。
【
図7】座屈拘束ブレースにおける滑り止め機構の他の提案例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明の一実施形態を
図1ないし
図5と共に説明する。
図1はこの実施形態の座屈拘束ブレースの分解斜視図を、
図2はその断面図をそれぞれ示す。この座屈拘束ブレース1は、芯材2と、この芯材2の両面に沿って対向配置した一対の拘束材3とを有する。芯材2は、
図1のように細長い板状の部材であって、SN材(建築構造用圧延鋼材)やLY材(低降伏点鋼材)等の平鋼板からなる。芯材2の両端は、建物の躯体となる柱や梁等の鉄骨材と接合する接合部2Aであり、その両面の幅方向中央位置からそれぞれ垂直に突出するリブ2aを有する断面十字状とされている。芯材2の接合部2Aには複数のボルト孔(図示せず)が穿設されている。拘束材3は、芯材2の接合部2Aの先端側部分を除く芯材2の略全体を覆うように配置される。
【0015】
前記一対の拘束材3は、
図2のように、それぞれ前記芯材2との対向方向に開口した溝形鋼材4と、この溝形鋼材4内に充填されたコンクリート、モルタル、またはセメントミルクからなるコンクリート系材5とでなる。溝形鋼材4は、ウエブ4aの両端から垂直に立ち上がる両フランジ4bが不等辺となった溝形断面に鋼板を折り曲げた曲げ加工品である。拘束材3の芯材2と対向する表面には、アンボンド材9が貼り付けられる。アンボンド材9は、例えば板状ないしシート状のブチルゴム等からなる。また、溝形鋼材4における前記両フランジ4bのうち、幅寸法を長くした一方の内面における芯材2の配置される高さ相当位置には、溝形鋼材4の長さ方向に延びて芯材2を幅方向に位置規制する棒状のスペーサ6が溶接等により固定されている。上記幅寸法を長くしたフランジ4bは、他方の拘束材3の溝形鋼材4における幅寸法の短い方のフランジ4bの外面に被さり、その被さり部分が互いに溶接等で接合されている。溝形鋼材4の両端部には、それらの端部開口を閉塞する蓋片4cがそれぞれ設けられ、これら両蓋片4cと、前記ウエブ4aおよび両フランジ4bにより、溝形鋼材4内が方形箱状に囲まれている。
【0016】
前記一対の拘束材3と芯材2とは、芯材2側に設けられた滑り止め突起11と各拘束材3側に設けられた突起受け金物12とを有する滑り止め機構10により、互いに接面方向へ滑る動きが規制されている。前記滑り止め突起11は、芯材2の長手方向の中間部で、かつ幅方向の中間部に芯材2の両面から各拘束材3側へそれぞれ突出するように、それらの基端が溶接して芯材2に設けられる。前記突起受け金物12は、前記滑り止め突起11が嵌まり込んで係合する筒状の部材であって、各拘束材3のコンクリート系材5に埋め込んで配置される。
【0017】
図4は、前記滑り止め機構10の具体例を拡大断面図で示す。滑り止め突起11は角柱状鋼材からなり、その基端がすみ肉溶接の溶接ビード13により芯材2の片面に固定されている。拘束材3における前記突起受け金物12が埋め込まれるコンクリート系材5の芯材2と対向する表面側には、前記滑り止め突起11の基端の溶接ビード13が入る逃がし凹部14が設けられる。コンクリート系材3に埋め込まれる突起受け金物12は、芯材2側の滑り止め突起11と同心となる位置で前記溶接ビード13に当たらず滑り止め突起11に当たる高さ範囲に配置される。ここでは、突起受け金物12は、前記逃がし凹部14の
開口面から溝形鋼材4のウエブ4aまでの高さ範囲にわたって埋め込まれる。
前記突起受け金物12が前記コンクリート系材5に嵌まっている空間が、請求項1で言う「第2の凹部」である。
【0018】
上記鋼製の座屈拘束ブレース1によると、滑り止め機構10として、芯材2の長手方向の中間部に拘束材3側へ突出する滑り止め突起11を基端で溶接して設け、拘束材3のコンクリート系材5に前記滑り止め突起11が嵌まり込んで係合する筒状の突起受け金物12を埋め込んでいる。この構成において、前記コンクリート系材5に滑り止め突起11の基端の溶接ビード13が入る逃がし凹部14を設け、前記突起受け金物12は前記溶接ビード13に当たらず滑り止め突起11に当たる範囲に設けている。これにより、滑り止め突起11の基端の溶接ビード13の張出し寸法(のど厚)に多少のバラツキがあっても、突起受け金物12の先端が滑り止め突起11の基端の溶接ビード13に乗ってしまうことがない。そのため、溶接工の技量に左右されることなく、芯材2と拘束材3との間の隙間が大きくならないように滑り止め機構10を構成でき、前記隙間が大きい場合に座屈拘束ブレース1に生じる一時的な耐力低下を確実に防止できる。
【0019】
図5は、前記滑り止め機構10におけるコンクリート系材5側の逃がし凹部14の成形手順を示している。この成形手順では、拘束材3の溝形鋼材4内にコンクリート系材5を充填する前に、
図5(A)のように上向きに配置した溝形鋼材4内に突起受け金物12を埋め込み完了時の位置および姿勢となるように配置する。突起受け金物12は、点溶接、接着等の適宜の手法で溝形鋼材4に対して仮に固定しておく。この突起受け金物12の上に凹部成形型15を配置する。凹部成形型15は、前記逃がし凹部14を成形する成形型本体15aと、この成形型本体15aの片面から突出して突起受け金物12に嵌まる金物嵌まり込み突部15bと、成形型本体15aの他の片面から突出するつまみ部15cとを有する。凹部成形型15は、鋼材、樹脂材、木材等のいずれの材質であっても良い。凹部成形型15の金物嵌まり込み突部15bは、コンクリート系材5を充填する時に凹部成形型15が移動するのを防止するのに有効である。このように、凹部成形型15を配置した後に、溝形鋼材4内にコンクリート系材5を充填する。
コンクリート系材5が固化した後に、
図5(B)のように凹部成形型15を脱型することで、前記逃がし凹部14を成形することができる。凹部成形型15のつまみ部15cは脱型操作に有効である。
【0020】
このように、上記構成の凹部成形型15を用いて拘束材3のコンクリート系材5に逃がし凹部14を成形すると、その成形を精度良く容易に行うことができ、座屈拘束ブレース1全体の製作が容易になる。
【0021】
図3には、この座屈拘束ブレース1の変形例の分解斜視図を示す。この例では、芯材2は、長手方向の中央部に他よりも幅の狭い絞り部7を有する。絞り部7は、他よりも断面二次モーメントが小さいエネルギー吸収部とされる。絞り部7の両側には、スペーサ8が配置される。その他の構成および作用効果は、先の構成例の場合と略同様である。
【符号の説明】
【0022】
1…座屈拘束ブレース
2…芯材
2A…接合部
3…拘束材
4…溝型鋼材
5…コンクリート系材
10…滑り止め機構
11…滑り止め突起
12…突起受け金物
13…溶接ビード
14…逃がし凹部
15…凹部成形型
15a…成形型本体
15b…金物嵌まり込み突部
15c…つまみ部