(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6284749
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】分繊性に優れたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維
(51)【国際特許分類】
D01F 6/60 20060101AFI20180215BHJP
D02J 1/18 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
D01F6/60 371Z
D02J1/18 Z
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-239074(P2013-239074)
(22)【出願日】2013年11月19日
(65)【公開番号】特開2015-98664(P2015-98664A)
(43)【公開日】2015年5月28日
【審査請求日】2016年10月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219266
【氏名又は名称】東レ・デュポン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】森 拓也
(72)【発明者】
【氏名】川口 昭次
【審査官】
清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−162838(JP,A)
【文献】
特開昭48−096804(JP,A)
【文献】
特開2001−279521(JP,A)
【文献】
特開2005−133249(JP,A)
【文献】
特開2004−011043(JP,A)
【文献】
特開平11−189916(JP,A)
【文献】
特開昭63−243330(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/048770(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0092830(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00−9/04
D02G 1/00−3/48
D02J 1/00−13/00
D01D 1/00−13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単糸繊度3.5〜10dtexの単糸を5〜100フィラメント有し、かつ、JIS L−1013:2010 8.15に準拠して測定された交絡度が1を超えて5以下であることを特徴とする分繊性に優れたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維。
【請求項2】
ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維を構成する単糸の強度が15cN/dtex以上である請求項1記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維。
【請求項3】
請求項1又は2記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維から分繊してなる、総繊度3.5〜150dtexの極細ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分繊性に優れたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維に関する。さらに詳しくは、分繊工程における毛羽や断糸の発生が抑制されたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来細繊度の糸条を効率的に生産する方法として、太繊度の多条繊維を分割して細繊度の糸条を得る「分繊」と呼ばれる方法が提案されている。しかし、一般的なアラミド繊維の製造方法として湿式紡糸及び乾湿式紡糸法が用いられるため製造の際に口金から吐出された各単糸は凝固浴を経由する際に凝固液から繊維引っ張り方向とは異なる力を受ける。このため、凝固液を通過する際に少なからず単糸間の交絡が混入することで分繊により各糸条に分けて取り出そうとしても、紡糸工程で混入した交絡のため分繊時に毛羽や断糸が発生し易く、安定に分繊することが難しい。
【0003】
そこで、特許文献1には、分繊時における毛羽の発生が無く強度低下が生じないアラミド繊維として、油剤を付着させ、かつ交絡数を5〜60個/mの範囲に限定した糸条が提案されている。この方法によれば、通常のアラミド繊維よりも細繊度(総繊度220dtex)の糸条は得られるものの、極細アラミド繊維は得られていない。またこの方法は、一旦細繊度糸を紡出した後に合糸した糸条を分繊する方法であるため、細繊度の糸条の効率的な生産方法とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−011043号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、分繊工程における毛羽や断糸の発生が抑制された分繊性に優れるポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、単糸繊度3.5〜10dtexの単糸を用いて単糸の交絡度を極力抑えることにより、上記課題を効率的に解決できるとの知見に基づいてなされたのである。
【0007】
すなわち、本発明は、単糸繊度3.5〜10dtexの単糸を5〜100フィラメント有し、かつ、
JIS L−1013:2010 8.15に準拠して測定された交絡度が1を超えて5以下であることを特徴とする分繊性に優れたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維を提供する。
また本発明は、上記のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維から分繊してなる、総繊度3.5〜150dtexの極細ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維を分繊に適用すれば、分繊時における毛羽や断糸が発生しにくい。したがって、本発明のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維を分繊することにより、極細アラミド繊維を効率的に安定生産することができる。本発明によりアラミド繊維製品の品質改善、例えば、より柔軟性に優れる防護衣料やより細いケーブルを補強可能な高強度繊維の提供が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細を説明する。
【0010】
本発明におけるポリパラフェニレンテレフタルアミド(以下、「PPTA」と称する。)は、テレフタル酸とパラフェニレンジアミンを重縮合して得られる重合体であり、少量のジカルボン酸及びジアミンを共重合したものも使用することができる。
【0011】
PPTA繊維の製造方法の代表例は、PPTAを濃硫酸に溶解して18〜20重量%の粘調な溶液とし、該溶液を紡糸口金からせん断速度25,000〜50,000sec
−1で吐出して、わずかの間空気中に紡出後、水中へ紡糸し、紡糸浴中で凝固した繊維を水酸化ナトリウム水溶液で中和処理した後、100〜300℃で5〜120秒間熱処理し、熱処理後の繊維をボビンに巻き取る方法である。熱処理の前工程又は後工程として、油剤付与を行う。
【0012】
本発明のPPTA繊維における単糸繊度は、3.5〜10dtex、好ましくは4.0〜8.0dtexとするのが適当である。単糸繊度が3.5dtex未満の場合には、単糸強力が弱く、分繊時に単糸が糸条間で交絡し易くなることで、分繊時に毛羽や断糸が発生しや
すくなるので好ましくない。一方、単糸繊度が10dtexを超える場合には、紡出後の脱硫酸効率が著しく低下するため、生産性が著しく低下する原因となるので好ましくない。
【0013】
本発明のPPTA繊維を構成するフィラメント数は、5〜100、好ましくは10〜50とするのが適当である。構成フィラメント数が5未満の場合には、単フィラメント当たりの凝固液及び工程から受ける抵抗が大きくなることで、単糸切れを引き起こしやすくなり、PPTA繊維を安定に生産することが難しくなる。一方、構成フィラメント数が多くなるにつれてフィラメント同士が交絡しやすくなることで、分繊時に毛羽や断糸が発生しやすくなり、100を超える場合には、毛羽の発生や断糸回数が顕著に増大する傾向が見られるようになるので好ましくない。
【0014】
本発明のPPTA繊維の交絡度は1を超えて5以下である。本発明においては、紡糸工程通過時の張力を常に高張力に保つことで、交絡度をこの範囲に抑制でき、またこの範囲とすることで容易かつ安定的な分繊が可能になる。一方、交絡度が増加すると、分繊を行う際に交絡繊維が絡まったり引張られたりすることで断糸が発生し易くなり、交絡度が5を超える場合にはこの傾向が顕著に見られるため分繊が難しくなる。また、より好ましくは交絡度が4.5以下であり、この場合に分繊における断糸や毛羽発生が著しく減少する。
【0015】
本発明において、付着させる油剤の種類は特に限定されるものではなく、従来公知の油剤を任意に使用することができ、分繊を行うPPTA繊維に応じて適宜選択すればよい。油剤の付着量も特に限定はなく、水分量を0%に換算したPPTA繊維重量に対して、0.1〜5.0重量%、好ましくは0.2〜2.0重量%の範囲が望ましい。
【0016】
PPTA繊維の単糸の引張強度は、該繊維を用いた防護衣料等に対して高強度を付与する点より、一般的な高強度繊維が有する強度である15cN/dtex以上であることが好ましい。他の高機能繊維、例えば全芳香族ポリエステル繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、LCP(液晶ポリマー)繊維、ポリケトン繊維等との交織織物にも、遜色なく用いることができる。
【0017】
本発明のPPTA繊維を従来公知の分繊機にて適宜分割することで、従来にない極細繊度のPPTA繊維を得ることができる。得られる極細PPTA繊維の総繊度は、3.5〜150dtex、好ましくは10〜150dtex、より好ましくは30〜100dtexが適当である。3.5dtex未満の場合には、糸の強力が弱く、織物及び編物の製造時に断糸し易くなる。150dtexを超える場合には、3分割以上の分繊をした場合は、分繊時に毛羽や断糸が発生し難いPPTA繊維を得ることが難しくなり、2分割分繊した場合は、繊維の生産性が著しく低下する。
【実施例】
【0018】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0019】
(実施例1)
通常の方法で得られたPPTA(分子量約20,000)1kgを4kgの濃硫酸に溶解し、直径0.1mmのホールを25個有する口金から剪断速度30,000sec
−1となるよう吐出し、4℃の水中に紡糸した後、10重量%の水酸化ナトリウム水溶液で10℃×15秒の条件で中和処理した。その後、200℃×15秒間の加熱処理をした後、油剤を2.0重量%付与し、巻き取り工程にてボビンに巻き取り、水分率10%の150dtexの総繊度を有するPPTA繊維を調製した。紡糸以降巻き取り工程までで糸にかかる張力は、いずれの工程においても1g/dtex以上の張力を保ったまま処理を行った。
【0020】
(実施例2)
実施例1において、口金ホール数50個有する口金を用いた以外は実施例1と同様の方法で、総繊度を300dtexとしたPPTA繊維を調製した。
【0021】
(実施例3)
実施例1において、口金ホール数100個有する口金を用いた以外は実施例1と同様の方法で、総繊度を350dtexとしたPPTA繊維を調製した。
【0022】
(比較例1)
実施例2と同様の方法で、総繊度を300dtexとしたPPTA繊維を調製した。その際に、各工程にかかる張力制御を行わず処理を行った。この結果、PPTA繊維の持つ交絡度8.7を有する繊維を得た。
【0023】
(比較例2)
実施例3と同様の方法で、総繊度を200dtexに変更し、単糸繊度2.0dtexのフィラメントを有するPPTA繊維を調製した。
【0024】
(比較例3)
口金ホール数150個有する口金を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、総繊度を600dtexとしたPPTA繊維を調製した。
【0025】
<交絡度>
JIS L−1013:2010 化学フィラメント糸試験方法 8.15に準拠した。
【0026】
<分繊時の断糸回数>
1本のボビンについて分繊速度50m/minにて3分割分繊を10,000m実施した。断糸が発生した場合には分繊設備を停止した後に再度分割を行い、分繊を再開した。この作業を合計5回実施し平均断糸回数を算出した。
【0027】
<毛羽発生有無>
分繊後に巻き取られたボビン表面に存在する毛羽及びループを目視観察し発生の有無を確認した。
【0028】
実施例及び比較例で得たPPTA繊維について、単糸強度(JIS L−1013準拠)、交絡度、ならびに、3分割分繊を巻きとり速度50m/minにて10,000m実施した際の平均断糸回数、毛羽発生の有無の評価結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
実施例で得られたPPTA繊維は、分繊機にて3分割分繊を行った際、毛羽の発生や断糸の発生率が低く、50m/minの巻き取り速度にて容易にかつ安定して分繊することが可能であった。
【0031】
本発明のPPTA繊維では、フィラメント数を規定するとともに高張力下で繊維を製造することにより、製造の際に単糸間で生じる交絡を限りなく減少させることができ、単糸同士の分割性が良好で、分繊時の毛羽や断糸を抑制することができ、高品位の分繊糸をきわめて安定して得ることが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維を分繊した極細アラミド繊維は、高強度かつ細繊度の繊維として、防護衣料、補強用繊維等に有用である。