(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
(放射性セシウムの植物移行抑制剤)
本発明の放射性セシウムの植物移行抑制剤は、水酸化鉄と硫酸塩を含有する固形分を含み、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
【0011】
<水酸化鉄と硫酸塩を含有する固形分>
前記水酸化鉄と硫酸塩を含有する固形分は、水酸化鉄と硫酸塩とで複塩を形成していると考えられ、更に、カルシウムイオン等をその構造中に含有してもよい。放射性セシウムイオンが固形分中の複塩の金属イオンとイオン交換、あるいは固形分に吸着することで、含セシウム複塩を形成し、水に難溶性となり、植物への放射性セシウム吸収が抑制されると考えられる。
前記水酸化鉄はFe(OH)
3であることが好ましく、前記硫酸塩はCaSO
4、K
2SO
4、Na
2SO
4、及びMgSO
4から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。また、前記固形分は、更に、CaO、SiO
2を含有することが好ましい。前記固形分中の水酸化鉄の含有量は25質量%以上であることが好ましい。
なお、前記放射性セシウムの植物移行抑制剤の固形分以外の成分として、水分とAl、Zn、Mn、Cu等の金属成分を含んでもよい。
前記水酸化鉄と硫酸塩を含有する固形分を含む放射性セシウムの植物移行抑制剤は、後述の硫化鉄鉱床鉱水を処理した後の、中和殿物として得ることができ、安価な費用で製造することができ、かつ硫化鉄鉱床鉱水から出る廃棄物の再資源化が可能となる。
以下、水酸化鉄と硫酸塩を含有する固形分を含む放射性セシウムの植物移行抑制剤の製造方法について説明する。
【0012】
(放射性セシウムの植物移行抑制剤の製造方法)
本発明の放射性セシウムの植物移行抑制剤の製造方法は、除去工程と、酸化工程と、第一の中和工程と、第二の中和工程と、固液分離工程とを含み、更に必要に応じてその他の工程を含んでなる。前記放射性セシウムの植物移行抑制剤の製造方法は、例えば、
図1に示す工程フローにより行われる。
【0013】
<<除去工程>>
前記除去工程は、第一鉄及び該第一鉄以外の重金属を含有する硫化鉄鉱床鉱水に、第二鉄塩を添加した後、アルカリを加えてpH3.2以上とし、該pH3.2以上の状態を保持しながら水酸化第二鉄の沈殿を形成させ、固液分離により該水酸化物沈殿を除去することにより前記第一鉄の一部と前記第一鉄以外の重金属を除去する工程である。この工程では、結果として第一鉄の一部も除去される。
【0014】
−第一鉄及び該第一鉄以外の重金属を含有する硫化鉄鉱床鉱水−
前記第一鉄及び該第一鉄以外の重金属を含有する硫化鉄鉱床鉱水は、酸性水であり、量が多く、半永久的に処理しなければならないことから、安全かつ有効に処理することが望まれている。
【0015】
前記第一鉄及び該第一鉄以外の重金属を含有する硫化鉄鉱床鉱水に含まれる2価の鉄イオンの濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、500ppm〜3,000ppmが好ましい。
前記第一鉄及び該第一鉄以外の重金属を含有する硫化鉄鉱床鉱水に含まれる前記第一鉄以外の重金属の成分としては、例えば、砒酸、亜砒酸、セレン酸、亜セレン酸、クロム酸などの酸素酸アニオン、銅、亜鉛、マンガン、カドミウムなどが挙げられる。
【0016】
−第二鉄塩−
前記第二鉄塩としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ポリ硫酸第二鉄が好ましい。
前記ポリ硫酸第二鉄は、式:[Fe
2(OH)
n(SO
4)
3−n/2]
m〔ただし、式中、n<2であり、m>10である。〕で表される化合物である。
前記ポリ硫酸第二鉄としては、特に制限はなく、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。前記市販品としては、例えば、ポリテツ R(日鉄鉱業株式会社製)、バイオフェリック(卯根倉鉱業株式会社製)などが挙げられる。
前記第一鉄及び該第一鉄以外の重金属を含有する硫化鉄鉱床鉱水に前記ポリ硫酸第二鉄を添加すると、水酸化第二鉄(Fe(OH)
3)が析出し、この析出した水酸化第二鉄が凝集して沈降する。水酸化第二鉄が析出して凝集する際に、第一鉄及び該第一鉄以外の重金属を含有する液中の前記第一鉄以外の、例えば、亜ヒ酸(H
3AsO
3)等と共沈するなどして、重金属を捕捉するものと考えられる。
【0017】
前記第二鉄塩としてのポリ硫酸第二鉄の添加量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記第一鉄及び該第一鉄以外の重金属を含有する硫化鉄鉱床鉱水に対して、10g/L以下が好ましく、0.5g/L〜10g/Lがより好ましく、1g/L〜5g/Lが更に好ましい。
前記添加量が、0.5g/L未満であると、第一鉄以外の重金属の除去効果が低下してしまうことがあり、10g/Lを超えると、アルカリ消費量が多くなり、コストが高くなってしまう。
【0018】
−アルカリ−
前記アルカリとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、苛性ソーダ(NaOH)、苛性カリ(KOH);石灰、生石灰(CaO)、消石灰(Ca(OH)
2)、炭酸カルシウム等のカルシウム(Ca)系アルカリ剤;酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム等のマグネシウム(Mg)系アルカリ剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
−pHの調整−
前記第一鉄及び該第一鉄以外の重金属を含有する硫化鉄鉱床鉱水に、前記第二鉄塩としてのポリ硫酸第二鉄を添加した後、アルカリを加えてpHを3.2以上に調整することが好ましく、pHを3.6〜4.5に調整することがより好ましい。pHが3.2以上の状態を保持しながら水酸化第二鉄の沈殿を形成させ、固液分離により前記水酸化第二鉄の沈殿を除去する。
前記pHが、3.2未満であると、第一鉄以外の重金属の除去能力が低下してしまうことがあり、pHが4.5を超えると、第一鉄の殿物の量が徐々に増加し、pHが6以上になると澱物の発生量が急激に増加するので、pH3.6〜4.5がより好ましい。前記pHが、前記より好ましい範囲であると、第一鉄以外の重金属の除去の観点から有利である。
前記pHは、例えば、市販のpHメーターにより測定することができる。
【0020】
<<酸化工程>>
前記酸化工程は、酸化剤を用いて前記第一鉄以外の重金属を除去後の前記硫化鉄鉱床鉱水の処理液に含まれる2価鉄を3価鉄に酸化する工程である。
前記第一鉄の酸化法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、鉄酸化細菌、次亜塩素酸塩、過酸化水素、空気、酸素ガス、オゾンガス、オゾン水、などが挙げられる。これらの中でも、薬剤コスト及び酸化効率の観点から、鉄酸化細菌が特に好ましい。
【0021】
前記鉄酸化細菌としては、前記除去工程後の処理液中で酸化力を有するものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、チオバチルス・フェロオキシダント(
Thiobachillus ferrooxidans)などが挙げられる。これらの中でも、チオバチルス・フェロオキシダントが特に好ましい。チオバチルス・フェロオキシダントは、pH2〜3で生息し、酸化活性を有するので、pHが低い環境下で2価鉄を3価鉄まで迅速に酸化することができる。
前記鉄酸化細菌による2価鉄の酸化反応は、以下の式で表される。
Fe
2+ + H
++1/4O
2 → Fe
3+ + 1/2H
2O
前記鉄酸化細菌の前記除去工程後の処理液への添加は、一度に行ってもよいが、数回に分けて行ってもよい。連続酸化処理を行う場合には、鉄酸化細菌を適宜補充することが好ましい。
前記鉄酸化細菌の前記除去工程後の処理液への添加量は、前記除去工程後の処理液中の2価鉄の濃度などに応じて適宜選択することができる。
【0022】
<<第一の中和工程>>
前記第一の中和工程は、前記酸化工程後の処理液を第一の中和剤でpH4.0〜4.5に中和する工程である。
前記第一の中和剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、薬剤コストの点から、炭酸カルシウムが好ましい。
第一の中和工程の中和反応は、例えば、以下の通りである。
Fe
2(SO
4)
3+3CaCO
3 →
2Fe(OH)
3↓+3CaSO
4↓+3CO
2↑
前記第一の中和剤の前記酸化工程後の液への添加は、一度に行ってもよいが、数回に分けて行ってもよい。
【0023】
<<第二の中和工程>>
前記第二の中和工程は、前記第一の中和工程後の処理液を、第二の中和剤でpH7.3〜8.3に中和する工程である。前記pHは、中和処理水の排水基準により規定される。
前記第二の中和剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、発生する殿物の沈降性の点から、消石灰が好ましい。
第二の中和工程の中和反応は、例えば、以下の通りである。
Fe
2(SO
4)
3+3Ca(OH)
2 → 2Fe(OH)
3↓+3CaSO
4↓
前記第二の中和剤の前記第一の中和工程後の液への添加は、一度に行ってもよいが、数回に分けて行ってもよい。
【0024】
<<固液分離工程>>
前記固液分離工程は、前記第二の中和工程後の処理液を固液分離する工程である。この固液分離工程により、水酸化鉄と硫酸塩を含有する固形分を含む放射性セシウムの植物移行抑制剤が得られる。
前記固液分離としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、膜濾過、吸引濾過、加圧濾過、沈降分離、遠心分離などが挙げられる。
前記固液分離工程は、具体的には、シックナーで固液分離した後、フィルタープレスにより水分を除去して、含水率60%以下の水酸化鉄と硫酸塩を含有する固形分を含む放射性セシウムの植物移行抑制剤が得られる。
【0025】
得られた水酸化鉄と硫酸塩を含有する固形分における水酸化鉄の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、25質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましい。前記水酸化鉄の含有量が、25質量%未満であると、放射性セシウムの植物への移行抑制効果が得られないことがある。即ち、前記水酸化鉄と硫酸塩を含有する固形分は、水酸化鉄と硫酸塩等との混合物あるいは複塩であることが好ましい。
前記水酸化鉄と硫酸塩を含有する固形分には水酸化鉄(Fe(OH)
3等)以外にも、例えば、硫酸塩としてCaSO
4、K
2SO
4、Na
2SO
4、及びMgSO
4から選ばれる少なくとも1種を含み、CaO、水酸化アルミニウム、SiO
2等の酸化物や水酸化物、更に、Al、Zn、Mn、Cu等の微量な金属成分などを含有してもよい。なお、Cd、Cr、As等の重金属は前記除去工程で除去され、通常の分析装置で検出されないレベルとなる。
【0026】
得られた水酸化鉄と硫酸塩を含有する固形分は、優れた放射性セシウムの植物への移行抑制効果を有しており、そのまま放射性セシウムの植物移行抑制剤として用いることができ、以下に説明する本発明の植物の生長方法に用いることができる。なお、前記放射性セシウムの植物移行抑制剤は、前記固形分に加えて水分を含んでいてもよい。
【0027】
(植物の生長方法)
本発明の植物の生長方法は、水酸化鉄と硫酸塩を含有する固形分を含む本発明の前記放射性セシウムの植物移行抑制剤を、放射性セシウムを含有する土壌に散布し、前記土壌で植物を栽培する。本発明において、前記放射性セシウムを含有する土壌とは、100Bq/kg以上の放射性セシウムを含有する土壌を指し、更に好ましく適用されるのは500Bq/kg以上の放射性セシウムを含有する土壌である。
【0028】
前記植物の生長方法に用いられる対象植物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ウリ科、ナス科、マメ科、バラ科、アブラナ科、キク科、セリ科、アカザ科、イネ科、アオイ科、ウコギ科、シソ科、ショウガ科、スイレン科、サトイモ科の野菜、キク科、バラ科、サトイモ科、ナデシコ科、アブラナ科、イソマツ科、リンドウ科、ボマノハグサ科、マメ科、ボタン科、アヤメ科、ナス科、ヒガンバナ科、ラン科、リュウゼツラン科、ミズキ科、アカネ科、ヤナギ科、ツツジ科、モクセイ科、モクレン科、サクラソウ科、シュウカイドウ科、シソ科、フウロソウ科、ベンケイソウ科、キンポウゲ科、イワタバコ科、サボテン科、シダ類、ウコギ科、クワ科、ツユクサ科、パイナップル科、クズウコン科、トウダイクサ科、コショウ科、タカトウダイ科、ユキノシタ科、アカバナ科、アオイ科、フトモモ科、ツバキ科、オシロイバナ科の切り花類、あるいは鉢物類の花卉、バラ科、ブドウ科、クワ科、カキノキ科、ツツジ科、アケビ科、マタタビ科、トケイソウ科、ミカン科、ウルシ科、パイナップル科、フトモモ科の果樹、藻類などが挙げられる。
【0029】
更に詳しく例示すると、米、麦、キュウリ、メロン、カボチャ、ニガウリ、ズッキーニ、スイカ、シロウリ、トウガン、ヘチマ、キンシウリ、トマト、ピーマン、トウガラシ、ナス、ペピーノ、シシトウ、エンドウ、インゲンマメ、ササゲ、エダマメ、ソラマメ、シカクマメ、サヤエンンドウ、サヤインゲン、フジマメ、イチゴ、トウモロコシ、オクラ、ブロッコリー、カイワレダイコン、クレソン、コマツナ、ツケナ、レタス、フキ、シュンギク、食用ギク、セルリー、パセリー、ミツバ、セリ、ネギ、ワケギ、ニラ、アスパラガス、ホウレンソウ、オカヒジキ、ウド、シソ、ショウガ、ダイコン、カイワレダイコン、二十日ダイコン、カブ、ワサビ、ラディシュ、ルタバカ、コカブ、ニンニク、ラッキョウ、レンコン、サトイモ等の野菜;アスター、ローダンセ、アザミ、ナデシコ、ストック、ハナナ、スターチス、トルコキキョウ、キンギョソウ、スィートピー、ハナショウブ、キク、リアトリス、ガーベラ、マーガレット、ミヤコワスレ、シャスターデージー、カーネーション、シュツコンカスミソウ、リンドウ、シャクヤク、ホウズキ、リオン、ダリア、カラー、グラジオラス、アイリス、フリージア、チューリップ、スイセン、アマリリス、シンビジューム、ドラセナ、バラ、ボケ、サクラ、モモ、ウメ、コデマリ、キイチゴ、ナナカマド、ミズキ、サンシュ、サンダンカ、ブルバディア、ヤナギ、ツツジ類、レンギョウ、モクレン、シラネリア、ディモルホセカ、プリムラ、ペチュニア、ベゴニア、リンドウ、コリウス、ゼラニュウム、ペラルゴニューム、ロケヤ、アンスリューム、クレマチス、スズラン、セントポーリア、シクラメン、ラナンキュラス、グロキシニア、デンドロビューム、カトレア、ファレノプシス、バンダ、エビデンドラム、オンシジウム、シャコバサボテン、カニバサボテン、クジャクサボテン、カランコエ、ネフロレピス、アジアンタム、タニワタリ、ポトス、ディフェンバキヤ、スパティフラム、シンゴニューム、オリヅルラン、シエフレラ、ヘデラ、ゴムノキ、ドラセナ、コルジリネ、ブライダルベール、アナナス類、カラテヤ、クロトン、ペペロミヤ、ポインセチア、ハイドランジア、フクシア、ハイビスカス、ガーデニア、ギョリュウバイ、ツバキ、ブーゲンビレア、ボタン等の花卉;ニホンナシ、モモ、オウトウ、スモモ、リンゴ、プルーン、ネクタリン、アンズ、ラズベリー、ウメ、ブドウ、イチジク、カキ、ブルーベリー、アケビ、キウィフルーツ、パッションフルーツ、ビワ、ウンシュウミカン、マーコレット、レモン、ユズ、仏手柑、ハッサク、ブンタン、花ユズ、キンカン、セミノール、イヨカン、ネーブルオレンジ、アンコール、ノバ、日向夏、ライム、スダチ、カボス、晩白柚、タンカン、マンゴー、パインアップル、グアバ等の果樹;又は藻類などが挙げられる。
【0030】
前記放射性セシウムの植物移行抑制剤の土壌への散布方法としては、特に制限はなく、植物の種類、量などに応じて適宜選択することができる。
前記放射性セシウムの植物移行抑制剤の土壌への散布量は、特に制限はなく、目的に応択することができ、例えば、目安として植物の生育に必要な所定の体積の土壌に関し10質量%以上の量を散布するのが好ましい。
前記植物の栽培方法としては、特に制限はなく、植物の種類、量などに応じて適宜選定することができるが、普通に行われている方法により行うことができる。
【0031】
本発明の放射性セシウムの植物移行抑制剤を用いた本発明の植物の生育方法によれば、安価にかつ植物の生長を阻害することなく、植物への放射性セシウムの移行(吸収)を抑制することができる。その結果、放射性セシウムを含有する土壌で植物を栽培しても、一般食品(野菜、果実など)の放射性セシウムの基準値である100Bq/kg以下の植物中の放射性セシウム含有量を達成することができ、安全に植物を生育することができる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0033】
(製造例1)
−放射性セシウムの植物移行抑制剤の作製−
下記表1に示す組成の硫化鉄鉱床の鉱山廃水を用い、
図1に示す前述の方法により、水酸化鉄と硫酸塩を含有する固形分を含む放射性セシウムの植物移行抑制剤を製造した。
【0034】
【表1】
【0035】
まず、硫化鉄鉱床の鉱山廃水に28℃で、第二鉄塩としてのポリ硫酸第二鉄(バイオフェリック、卯根倉鉱業株式会社製)を0.7g/L添加した。ポリ硫酸第二鉄を含む排水を撹拌し、次いで、24質量%苛性ソーダを添加しながら、pHを3.6とした。pH3.6の状態を保持しながら水酸化第二鉄の沈殿を形成させ、シックナーにより殿物スラリーと上澄水とに分離した(除去工程)。なお、pHは、pHメーター(株式会社堀場製作所製、HORIBA 9625−10D)を用いて測定した。
【0036】
次に、鉄酸化細菌としてチオバチルス・フェロオキシダンス(
Thiobachillus ferrooxidans)を用いて、前記除去工程後の濾液に含まれる2価鉄を3価鉄に酸化した(酸化工程)。
次に、酸化工程後の処理液をシックナーによりバクテリア酸化殿物スラリーと上澄水に分離した。
次に、前記酸化工程後の上澄水を炭酸カルシウムでpH4.0〜4.5の範囲となるように中和した(第一の中和工程)。
次に、前記第一の中和工程後の液を消石灰でpH7.3〜8.3の範囲となるように中和した(第二の中和工程)。
次に、第二の中和工程後の液をシックナーで固液分離した後、フィルタープレスにより含水率60%以下の水酸化鉄と硫酸塩を含有する固形分を含む放射性セシウムの植物移行抑制剤を得た。
得られた放射性セシウムの植物移行抑制剤の固形分の組成を下記表2に示した。
【0037】
【表2】
表2の結果から、得られた放射性セシウムの植物移行抑制剤は、水酸化鉄(Fe(OH)
3)を52質量%、CaSO
4を18.3質量%、CaOを5.3質量%(CaSO
4とCaOを合計で23.6質量%)、SiO
2を3質量%、水分を21質量%程度含み、Cd、Cr、As等の重金属は、分析の検出限界以下であることがわかった。なお、Cd、Cr、Asの含有量の単位は質量ppmである。
ここで、前記放射性セシウム植物移行抑制剤中のFe(OH)
3の含有量は、前記放射性セシウム植物移行抑制剤中のFeの含有量をJIS K0102−57.4に基づき分析・測定し、全てのFeがFe(OH)
3であるとしてFe(OH)
3の含有量を算出した。 前記放射性セシウム植物移行抑制剤中のCaSO
4とCaOについては、前記放射性セシウム植物移行抑制剤中のCaの含有量をJIS K0102−50.3に基づき分析・測定し、前記放射性セシウム植物移行抑制剤中のSO
4の含有量をICPで分析・測定し、全てのSO
4がCaSO
4であるとしてCaSO
4の含有量を算出し、前記CaSO
4に消費されたCaを除く全てのCaがCaOであるとしてCaOの含有量を算出した。
前記放射性セシウム植物移行抑制剤中のSiO
2の含有量は、前記放射性セシウム植物移行抑制剤中のSiの含有量をICPで分析・測定し、全てのSiがSiO
2であるとしてSiO
2の含有量を算出した。
前記放射性セシウム植物移行抑制剤中のCdはJIS K0102−55.3に基づき分析・測定した。
前記放射性セシウム植物移行抑制剤中のCrはJIS K0102−55.1に基づき分析・測定した。
前記放射性セシウム植物移行抑制剤中のAsはJIS K0102−61.3に基づき分析・測定した。
なお、前記放射性セシウム植物移行抑制剤中のFe(OH)
3、CaSO
4、CaO等の化合物形態は固形分のX線回折分析等により同定、確認した。
【0038】
<元の土壌>
東京電力福島第一原子力発電所事故により放射能汚染された福島市内の土壌を採取し、その放射性セシウム含有量を以下のようにして測定した。結果を表3に示した。
【0039】
<<放射性セシウムの含有量の測定>>
NaIシンチレーション検出器を用いたガンマ線スペクトロメータ(EMFジャパン株式会社製、EMF211型)により測定した。
【0040】
<添加物としての「放射性セシウムの植物移行抑制剤」>
製造例1で作製した前記「放射性セシウムの植物移行抑制剤」を添加物として用いた。この「放射性セシウムの植物移行抑制剤」の放射性セシウム含有量を上記と同様にして測定したところ、不検出であった。
【0041】
<添加物としての「くん炭」>
「くん炭」は籾殻を炭にしたもので孔隙が多く、土壌改良剤として保水性、通気性の確保、酸性土壌のpH矯正用に従来から用いられている。この「くん炭」の放射性セシウム含有量を上記と同様にして測定したところ、不検出であった。
【0042】
<添加物としての「調整土」>
岡山県の放射性セシウムに汚染されていない土壌を添加剤として用いた。この「調整土」の放射性セシウム含有量を上記と同様にして測定したところ、不検出であった。
【0043】
(実施例1)
<カイワレダイコンの栽培>
元の土壌8kgに対して、添加物として前記製造例1の「放射性セシウムの植物移行抑制剤」2kgを添加した混合土壌(混合比率20質量%)をプランター(250mm×90mm×50mm)に入れ、カイワレダイコンの種蒔(面蒔き)を行った。
カイワレダイコンの種蒔を行ったプランターをビニールハウス内に設置し、通常の栽培を行った。種蒔後18日間栽培することで約500gのカイワレダイコンを収穫できた。
得られたカイワレダイコンについて、上記と同様にして放射性セシウム(Cs)含有量を測定した。また、混合土壌中のカリウム(K)含有量を以下のようにして測定した。それぞれの結果を表3に示した。
【0044】
<<土壌のカリウムの含有量の測定>>
土壌のカリウム含有量を原子吸光光度計(株式会社日立製作所製、Z−8100)で測定した。なお、土壌中のカリウム(K)を測定したのは、その濃度が、放射性セシウムの植物への移行に影響を及ぼす報告例があり、参考値を得るためである。土壌のカリウムイオン濃度が高いと、放射性セシウムの植物への移行率が低下することは知られている。カリウムの含有量は25mg/100gが必要最小量として推奨されている。また、溶解性のカリウムと、そうでないものが存在し、溶解性カリウムのセシウム吸収抑制効果が大きいことが報告されている。
一方、カリウムには放射性同位体であるカリ−40が一定比率で含まれており、セシウムと同様にガンマ線を放出し、かつ移行係数も高いため植物に吸収され易い。土壌への過剰なカリウム施肥は、農作物経由での体内被曝を助長する懸念が示されている(参考文献:結田康一、「農作物と農地、森林生態系の放射能汚染を総合的に考える」参照)。
【0045】
(比較例1)
<カイワレダイコンの栽培>
元の土壌8Lに対して、添加物として前記「くん炭」2Lを添加した混合土壌(混合比率20体積%)をプランター(250mm×90mm×50mm)に入れ、カイワレダイコンの種蒔を行った。
カイワレダイコンの種蒔(面蒔き)を行ったプランターをビニールハウス内に設置し、通常の栽培を行った。種蒔後18日間栽培することで約500gのカイワレダイコンを収穫できた。
得られたカイワレダイコンについて、上記と同様にして放射性セシウム(Cs)含有量及び土壌のカリウム(K)含有量を測定した。結果を表3に示した。
【0046】
(比較例2)
<カイワレダイコンの栽培>
元の土壌8kgに対して、添加物として前記「調整土」2kgを添加した混合土壌(混合比率20質量%)をプランター(250mm×90mm×50mm)に入れ、カイワレダイコンの種蒔を行った。
カイワレダイコンの種蒔(面蒔き)を行ったプランターをビニールハウス内に設置し、通常の栽培を行った。種蒔後18日間栽培することで約500gのカイワレダイコンを収穫できた。
得られたカイワレダイコンについて、上記と同様にして放射性セシウム(Cs)含有量及び土壌のカリウム(K)含有量を測定した。結果を表3に示した。
【0047】
【表3】
表3中の「セシウム含有量(%)(調整土との対比)」、及び「セシウムの移行係数」は、下記の通り算出した。
*「セシウム含有量(%)(調整土との対比)」:比較例2を100%とした場合の削減率である。式で表すと、削減率=(比較例2のCs含有量−実施例1及び比較例1のCs含有量)÷(比較例2のCs含有量)×100となる。
*「セシウムの移行係数」:土壌単位重量中に含まれるCs量とその土壌で栽培された作物単位重量に含まれるCs量との比である。式で表すと、実施例1のCs134移行係数=実施例1のCs134含有量÷元の土壌のCs134含有量となる。
【0048】
表3の結果から、「放射性セシウムの植物移行抑制剤」を添加した実施例1は、「くん炭」を添加した比較例1、及び「調整土」を添加した比較例2に比べて、高い放射性セシウムの植物への移行抑制効果を有することが認められた。
【0049】
(比較例3)
<二十日ダイコンの栽培>
元の土壌8kgに対して、添加物として前記「調整土」2kgを添加した混合土壌(混合比率20質量%)をプランター(570mm×110mm×100mm)に入れ、二十日ダイコンの種蒔(点播)を行った。
二十日ダイコンの種蒔を行ったプランターをビニールハウス内に設置し、通常の栽培を行った。種蒔後78日間栽培することで約200gの二十日大根を収穫できた。
得られた二十日ダイコンについて、放射性セシウム(Cs)含有量を上記と同様にして測定した。結果を表4に示した。
【0050】
(実施例2)
<二十日ダイコンの栽培>
元の土壌8kgに対して、添加物として前記製造例1の「放射性セシウムの植物移行抑制剤」2kgを添加した混合土壌(混合比率20質量%)をプランター(570mm×110mm×100mm)に入れ、二十日ダイコンの種蒔(点播)を行った。
二十日ダイコンの種蒔を行ったプランターをビニールハウス内に設置し、通常の栽培を行った。種蒔後78日間栽培することで約200gの二十日ダイコンを収穫できた。
得られた二十日ダイコンについて、放射性セシウム(Cs)含有量を上記と同様にして測定した。結果を表4に示した。
【0051】
【表4】
表4中の「セシウム含有量(%)(調整土との対比)」、及び「セシウムの移行係数」は、下記の通り算出した。
*「セシウム含有量(%)(調整土との対比)」:比較例3を100%とした場合の削減率である。
*「セシウムの移行係数」:土壌単位重量中に含まれるセシウム(Cs)量とその土壌で栽培された作物単位重量に含まれるセシウム(Cs)量との比である。
【0052】
表4の結果から、「放射性セシウムの植物移行抑制剤」を添加した実施例2は、「調整土」を添加した比較例3に比べて、高い放射性セシウムの植物への移行抑制効果を有することが認められた。