(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しながら説明する。
【0011】
図1は、実施の形態に係る極低温冷凍機1の一例を模式的に示す図である。実施の形態に係る極低温冷凍機1は、例えば冷媒ガスとしてヘリウムガスを用いるギフォードマクマホン(Gifford-McMahon; GM)タイプの極低温冷凍機である。
図1に示すように、極低温冷凍機1は、第1ディスプレーサ2と、第1ディスプレーサ2に長手方向に連結される第2ディスプレーサ3を備える。第1ディスプレーサ2と第2ディスプレーサ3とは、例えば、ピン4、コネクタ5、ピン6を介して接続される。
【0012】
第1シリンダ7と第2シリンダ8とは一体に形成されており、それぞれ高温端と低温端とを備える。第1シリンダ7の低温端と第2シリンダ8の高温端とが第1シリンダ7の底部にて接続されている。第2シリンダ8は第1シリンダ7と同一の軸方向に延在する形態にて形成されており、第1シリンダ7よりも小径の円筒部材である。第1シリンダ7は第1ディスプレーサ2を長手方向に往復移動可能に収容する容器である。また第2シリンダ8は第2ディスプレーサ3を長手方向に往復移動可能に収容する容器である。
【0013】
第1シリンダ7、第2シリンダ8には、強度、熱伝導率、ヘリウム遮断能などを考慮して、例えばステンレス鋼が用いられる。第2ディスプレーサ3の外周部は、ステンレス鋼などの金属製の筒である。第2ディスプレーサ3の外周面上には、フッ素樹脂などの耐摩耗性樹脂の皮膜を形成してもよい。
【0014】
第1シリンダ7の高温端には、第1ディスプレーサ2および第2ディスプレーサ3を往復駆動するスコッチヨーク機構(図示せず)が設けられている。第1ディスプレーサ2、第2ディスプレーサ3は、それぞれ第1シリンダ7、第2シリンダ8にそって往復移動する。第1ディスプレーサ2および第2ディスプレーサ3は、それぞれ高温端と低温端とを備える。
【0015】
第1ディスプレーサ2は円筒状の外周面を有する容器である。第1ディスプレーサ2には、比重、強度、熱伝導率などの観点から、例えば布入りフェノール樹脂等が用いられる。第1ディスプレーサ2の内部には、例えばメッシュ状に加工された金属(金網)を積層した第1蓄冷材が充填されている。第1ディスプレーサ2の内部容積は第1蓄冷器9として機能する。第1蓄冷器9の上部には整流器10が、下部には整流器11が設置される。第1ディスプレーサ2の高温端には、室温室12から第1ディスプレーサ2に冷媒ガスを流通する第1開口13が形成されている。
【0016】
室温室12は、第1シリンダ7と第1ディスプレーサ2の高温端により形成される空間である。室温室12は、第1ディスプレーサ2の往復移動に伴い容積が変化する。室温室12には、圧縮機14、サプライバルブ15、リターンバルブ16からなる吸排気系統を相互に接続する配管のうち、給排共通配管が接続されている。また、第1ディスプレーサ2の高温端よりの部分と第1シリンダ7との間にはシール17が装着されている。
【0017】
第1ディスプレーサ2の低温端には、第1膨張空間18に第1クリアランスC1を介して冷媒ガスを導入する第2開口19が形成されている。第1膨張空間18は、第1シリンダ7と第1ディスプレーサ2により形成される空間である。第1膨張空間18は、第1ディスプレーサ2の往復移動に伴い容積が変化する。第1シリンダ7の外周のうち、第1膨張空間18に対応する位置には、図示しない冷却対象物に熱的に接続された第1冷却ステージ20が配置されている。第1冷却ステージ20は、第1クリアランスC1を通る冷媒ガスにより冷却される。
【0018】
第2ディスプレーサ3は円筒状の外周面を有する容器である。第2ディスプレーサ3の内部は、上端の整流器21、下端の整流器22、上下中間に位置する仕切り材23を挟んで軸方向に二段に分かれている。第2ディスプレーサ3の内部容積のうち、仕切り材23よりも高温側の高温側領域24には、例えば鉛やビスマスなどの非磁性材からなる第2蓄冷材が充填される。仕切り材23の低温(下段)側の低温側領域25には、高温側領域24とは異なる蓄冷材、例えばHoCu
2などの磁性材からなる第3蓄冷材が充填される。鉛やビスマス、HoCu
2等は球状に形成されており、複数の球状の形成物が集まって蓄冷材が構成されている。仕切り材23は、高温側領域24の蓄冷材と低温側領域25の蓄冷材とが混合するのを防止する。この第2ディスプレーサ3の内部容積である高温側領域24と低温側領域25とが第2蓄冷器34として機能する。第1膨張空間18と第2ディスプレーサ3の高温端とは、コネクタ5周りの連通路で連通されている。この連通路を介して第1膨張空間18から第2蓄冷器34に冷媒ガスが流通する。
【0019】
第2ディスプレーサ3は、冷媒ガスの流れる向きによって冷媒ガスの流路抵抗が異なる挿入部材35が挿入されている。より具体的に、挿入部材35は、第2ディスプレーサ3の高温端から低温端に向かう冷媒ガスの流路抵抗が、低温端から高温端に向かう冷媒ガスの流路抵抗よりも大きくなるように構成されている。挿入部材35の詳細は後述する。
【0020】
第2ディスプレーサ3の低温端には、第2膨張空間26に第2クリアランスC2を介して冷媒ガスを流通させるための第3開口27が形成されている。第2膨張空間26は、第2シリンダ8と第2ディスプレーサ3により形成される空間である。第2膨張空間26は、第2ディスプレーサ3の往復移動に伴い容積が変化する。第2クリアランスC2は、第2シリンダ8の低温端と第2ディスプレーサ3により形成される。
【0021】
第2シリンダ8の外周の第2膨張空間26に対応する位置には、冷却対象物に熱的に接続された第2冷却ステージ28が配置されている。第2冷却ステージ28は、第2クリアランスC2を通る冷媒ガスにより冷却される。
【0022】
第1ディスプレーサ2および第2ディスプレーサ3は、それぞれ低温端に蓋部29および蓋部30を備えてもよい。蓋部29および蓋部30は、ディスプレーサ本体との接合の観点から、二段状の円柱形状を有している。蓋部29は圧入ピン31により第1ディスプレーサ2に固定され、蓋部30は圧入ピン32により第2ディスプレーサ3に固定される。
【0023】
次に、実施の形態に係る極低温冷凍機1の冷却サイクルを説明する。冷媒ガス供給工程のある時点においては、第1ディスプレーサ2および第2ディスプレーサ3は、第1シリンダ7および第2シリンダ8の下死点に位置する。それと同時、またはわずかにずれたタイミングでサプライバルブ15を開とすると、サプライバルブ15を介して高圧のヘリウムガス(例えば2.2MPaのヘリウムガス)が給排共通配管から第1シリンダ7内に供給され、第1ディスプレーサ2の上部に位置する第1開口13から第1ディスプレーサ2の内部の第1蓄冷器9に流入する。第1蓄冷器9に流入した高圧のヘリウムガスは、第1蓄冷材により冷却されながら第1ディスプレーサ2の下部に位置する第2開口19および第1クリアランスC1を介して、第1膨張空間18に供給される。
【0024】
第1膨張空間18に供給された高圧のヘリウムガスは、コネクタ5周りの連通路を介して、第2ディスプレーサ3の内部の第2蓄冷器34に流入する。第2蓄冷器34に流入した高圧のヘリウムガスは、第2蓄冷材により冷却されながら第2ディスプレーサ3の下部に位置する第3開口27および第2クリアランスを介して、第2膨張空間26に供給される。
【0025】
このようにして、第1膨張空間18および第2膨張空間26は、高圧のヘリウムガスで満たされ、サプライバルブ15は閉とされる。このとき、第1ディスプレーサ2および第2ディスプレーサ3は、第1シリンダ7および第2シリンダ8内の上死点に位置する。以上が冷媒ガスの給気工程である。
【0026】
第1ディスプレーサ2および第2ディスプレーサ3は、第1シリンダ7および第2シリンダ8内の上死点に位置と同時、またはわずかにずれたタイミングでリターンバルブ16を開とすると、第1膨張空間18、第2膨張空間26内の冷媒ガスは減圧され膨張し、低圧のヘリウムガス(例えば0.8MPaのヘリウムガス)となる。このとき、冷媒ガスの膨張により、寒冷が発生する。膨張により低温になった第1膨張空間18のヘリウムガスは第1クリアランスC1を介して第1冷却ステージ20の熱を吸収する。また、第2膨張空間26のヘリウムガスは第2クリアランスC2を介して第2冷却ステージ28の熱を吸収する。
【0027】
第1ディスプレーサ2および第2ディスプレーサ3は下死点に向けて移動し、第1膨張空間18および第2膨張空間26の容積は減少する。第2膨張空間26内のヘリウムガスは、第2クリアランスC2、第3開口27、第2蓄冷器34、および連通路を介して第1膨張空間18に戻される。さらに、第1膨張空間18内のヘリウムガスは、第2開口19、第1蓄冷器9、および第1開口13を介して、圧縮機14の吸入側に戻される。その際、第1蓄冷材、第2蓄冷材、および第3蓄冷材は、冷媒ガスにより冷却される。すなわち、第1蓄冷材、第2蓄冷材、および第3蓄冷材は、冷媒ガスの膨張により生じた寒冷を蓄積する。以上が冷媒ガスの排気工程である。給気工程と排気工程とを合わせた工程を1サイクルとする冷却サイクルを繰り返すことで、極低温冷凍機1は第1冷却ステージ20および第2冷却ステージ28を冷却する。
【0028】
次に、実施の形態に係る挿入部材35についてより詳細に説明する。
【0029】
上述したように、極低温冷凍機1における冷却サイクルは、冷媒ガスであるヘリウムガスが第2ディスプレーサ3内の第2蓄冷器34へ流入と流出を繰り返す動作を含む。極低温冷凍機1の動作中、第2蓄冷器34の蓄冷材は、第2蓄冷器34の軸に沿って温度勾配が生じる。
【0030】
図2は、実施の形態に係る第2蓄冷器34の温度勾配の一例を示す図であり、第2蓄冷器の高温端から低温端に至るまでの距離を1として正規化した場合における第2蓄冷器34の温度勾配を示すグラフである。
図2に示すように、第2蓄冷器34の温度勾配は、高温端から低温端に向けて線形に減少するものではない。
図2に示すように、第2蓄冷器34の高温端(正規化距離が0)では温度は40K程度であり、低温端(正規化距離が1)では温度が5K程度である。
【0031】
上述した冷却サイクルの給気工程において、第2ディスプレーサ3の高温端から40K程度の温度の冷媒ガスが流入する。第2ディスプレーサ3の高温端に流入した冷媒ガスは、第2蓄冷器34内の蓄冷材に冷却されながら低温端に向かう。このため、給気工程において第2ディスプレーサ3の高温端に流入した冷媒ガスが十分に冷却されずに流れると、比較的高温の冷媒ガスが第2膨張空間26に流入することになり、極低温冷凍機1の冷凍性能を低下させる要因となる。
【0032】
一方、上述した冷却サイクルの排気工程において、第2膨張空間26で減圧され膨張する冷媒ガスは、第2ディスプレーサ3の低温端から流入し、第2蓄冷器34内の蓄冷材を通って高温端から流出する。このため、排気工程において第2ディスプレーサ3の低温端に流入した冷媒ガスが第2ディスプレーサ3を速やかに通過できないと、冷媒ガスは第2膨張空間26で十分な膨張が得られない。
【0033】
冷媒ガスが蓄冷材と接触する時間を長くすることで、冷媒ガスと蓄冷材との間の熱交換を十分に行うことができる。これは蓄冷材の中を流れる冷媒ガスの流速を小さくすることで実現できる。これに対し、第2膨張空間26で冷媒ガスを十分に膨張させるためには、蓄冷材の中を流れる冷媒ガスの流速を大きくすればよい。しかしながら、一般に蓄冷材はメッシュ形状や粒形状である。これらの形状は、第2ディスプレーサ3の高温端から低温端に向かう方向と、低温端から高温端に向かう方向とについて等方的な形状である。したがって、第2ディスプレーサ3が収容する蓄冷材は、第2ディスプレーサ3の高温端から低温端に向かう冷媒ガスの流路抵抗と、低温端から高温端に向かう冷媒ガスの流路抵抗とは、実質的に等しい。
【0034】
そこで実施の形態に係る第2ディスプレーサ3は、蓄冷材が充填されている領域に、流路抵抗に異方性がある挿入部材35を備える。
【0035】
図3(a)−(b)は、実施の形態に係る挿入部材35の形状の一例を模式的に示す断面図である。
図3(a)は、挿入部材35がいわゆるボルダの口金(Borda's mouthpiece)である場合の断面を示す図である。ボルダの口金は、第1開口部35aと第2開口部35bとを両端に備える漏斗状の形状であり、第1開口部35aの面積が、第2開口部35bの面積よりも小さい。挿入部材35は、第1開口部35aが高温端に向き、第2開口部35bが低温端に向くようにして、第2ディスプレーサ3の蓄冷材が充填されている領域に挿入される。
【0036】
挿入部材35は、第2開口部35bから第1開口部35aに向かって、冷媒ガスの流路面積が連続的に減少する。このため、冷媒ガスが第2ディスプレーサ3の低温端から高温端に向かって流れるとき、冷媒ガスは第2開口部35bから挿入部材35に流入する。一方、冷媒ガスが第2ディスプレーサ3の高温端から低温端に向かって流れるとき、冷媒ガスは第1開口部35aから挿入部材35に流入する。そのため、冷媒ガスが第2ディスプレーサ3の低温端から高温端に向かって流れるときの挿入部材35の流入口の面積は、冷媒ガスが第2ディスプレーサ3の高温端から低温端に向かって流れるときの挿入部材35の流入口の面積よりも大きい。したがって、挿入部材35は、第2ディスプレーサ3の高温端から低温端に向かう冷媒ガスの流路抵抗が、低温端から高温端に向かう冷媒ガスの流路抵抗よりも大きくなる。結果として、冷却サイクルの給気工程において第2ディスプレーサ3の高温端から低温端に向かうときの冷媒ガスの流速は、排気工程において低温端から高温端に向かうときの流速よりも小さくなる。ゆえに、給気工程においては冷媒ガスは蓄冷材によって冷却されやすくなり、排気工程において冷媒ガスは第2膨張空間26で膨張しやすくなる。
【0037】
図3(a)に示すように、ボルダの口金の断面は曲線である。このため、第2開口部35bから第1開口部35aに向かうとき、挿入部材35の流路面積は非線形に変化する。より具体的には、挿入部材35の両端、すなわち第1開口部35aおよび第2開口部35b付近の流路面積の変化率は、挿入部材35の中央部の変化率よりも小さい。
【0038】
この他、挿入部材35は、流路面積が線形に変化する線形テーパ形状であってもよい。
図3(b)は、挿入部材35が線形テーパである場合の断面を示す図である。
図3(b)に示す挿入部材35も、
図3(a)に示す挿入部材35と同様に、第1開口部35aと第2開口部35bとを両端に備える。挿入部材35の第1開口部35aの面積は第2開口部35bの面積よりも小さい。挿入部材35は、第1開口部35aが高温端に向き、第2開口部35bが低温端に向くようにして、第2ディスプレーサ3の蓄冷材が充填されている領域に挿入される。これにより、
図3(b)に示す挿入部材35も、第2ディスプレーサ3の高温端から低温端に向かう冷媒ガスの流路抵抗が、低温端から高温端に向かう冷媒ガスの流路抵抗よりも大きくなる。
【0039】
図4(a)−(b)は、実施の形態に係る挿入部材35の形状の別の例を模式的に示す図である。この挿入部材35は、複数の冷媒ガスの流路を備える円板形状のパンチング板である。
図4(a)は挿入部材35の上面図であり、
図4(b)は、
図4(a)におけるA−A’断面図である。
【0040】
図4に示す挿入部材35は、第2ディスプレーサ3の蓄冷材が充填されている領域に嵌挿される。挿入部材35は例えばステンレス等の金属で構成されており、打ち抜き加工(パンチング)によって複数の冷媒ガスの流路が形成されている。これらの冷媒ガスの流路はそれぞれ、第2ディスプレーサ3の高温端側に向けられた第1開口部35aと、低温端側に向けられた第2開口部35bとを備えている。
【0041】
図4(b)に示すように、各冷媒ガスの流路において、第1開口部35aの面積は第2開口部35bの面積よりも小さくなるように構成されている。これにより、冷媒ガスが第2ディスプレーサ3の低温端から高温端に向かって流れるときに挿入部材35を通過するための流入口の面積は、高温端から低温端に向かって流れるときの面積よりも大きくなる。したがって、挿入部材35は、第2ディスプレーサ3の高温端から低温端に向かう冷媒ガスの流路抵抗が、低温端から高温端に向かう冷媒ガスの流路抵抗よりも大きくなる。結果として、冷却サイクルの給気工程において第2ディスプレーサ3の高温端から低温端に向かうときの冷媒ガスの流速は、排気工程において低温端から高温端に向かうときの流速よりも小さくなる。ゆえに、給気工程においては冷媒ガスは蓄冷材によって冷却されやすくなり、排気工程において冷媒ガスは第2膨張空間26で膨張しやすくなる。
【0042】
図5(a)−(b)は、実施の形態に係る挿入部材35の形状のさらに別の例を模式的に示す図である。この挿入部材35は、複数の冷媒ガスの流路を備える円形状の板状部材である。
図5(a)は挿入部材35の上面図であり、
図5(b)は、
図5(a)におけるA−A’断面図である。
【0043】
図5に示す挿入部材35も、
図4に示す挿入部材35と同様に、第2ディスプレーサ3の蓄冷材が充填されている領域に嵌挿される。挿入部材35は例えば布入りフェノール等の樹脂であり、一方の面にエンボス加工が施されている。このため、
図5に示す挿入部材35は、エンボス加工が施されている面に複数の錐体状の凸部を備える。ここで各錐体状の凸部における錐体の頂点と挿入部材35のもう一方の面とは貫通しており、冷媒ガスの流路が形成されている。この流路はそれぞれ、錐体の頂点側に第1開口部35a、もう一方の面側に第2開口部35bを備えており、第1開口部35aの面積が、第2開口部35bの面積よりも小さくなっている。挿入部材35は、第2ディスプレーサ3の高温端側に第1開口部35a、低温端側に第2開口部35bが向くように、第2ディスプレーサ3に嵌挿される。
【0044】
これにより、冷媒ガスが第2ディスプレーサ3の低温端から高温端に向かって流れるときに挿入部材35を通過するための流入口の面積は、高温端から低温端に向かって流れるときの面積よりも大きくなる。したがって、挿入部材35は、第2ディスプレーサ3の高温端から低温端に向かう冷媒ガスの流路抵抗が、低温端から高温端に向かう冷媒ガスの流路抵抗よりも大きくなる。結果として、冷却サイクルの給気工程において第2ディスプレーサ3の高温端から低温端に向かうときの冷媒ガスの流速は、排気工程において低温端から高温端に向かうときの流速よりも小さくなる。ゆえに、給気工程においては冷媒ガスは蓄冷材によって冷却されやすくなり、排気工程において冷媒ガスは第2膨張空間26で膨張しやすくなる。
【0045】
ここで、
図4および
図5に示す挿入部材35は、複数の冷媒ガスの流路が、挿入部材35の表面に分散して配置されている。このため、
図3に示す挿入部材35と比較すると、冷媒ガスは第2ディスプレーサ3内の広い範囲において挿入部材35を通過することができる。したがって、
図4および
図5に示す挿入部材35を通過後に冷媒ガスが蓄冷材と接触する面積も、
図3に示す挿入部材35と比較して広くなる。ゆえに、
図4および
図5に示す挿入部材35は、
図3に示す挿入部材35と比較して、挿入部材35を通過した冷媒ガスと蓄冷材との間の熱交換効率を向上できる。
【0046】
一方、
図4および
図5に示す挿入部材35は、
図3に示す挿入部材35よりも厚みがある。このため、第2ディスプレーサ3に挿入したときに、
図3に示す挿入部材35は、
図4および
図5に示す挿入部材35と比較して死容積(dead volume)が小さくなる。したがって、第2ディスプレーサ3に挿入したときに、
図3に示す挿入部材35は、
図4および
図5に示す挿入部材35と比較して、蓄冷材をより多く充填することができる。
【0047】
以上説明したように、実施の形態に係る第2ディスプレーサ3は、
図3、
図4、または
図5に示す挿入部材35を備えることにより、第2ディスプレーサ3の高温端から低温端に向かう冷媒ガスの流路抵抗が、低温端から高温端に向かう冷媒ガスの流路抵抗よりも大きくなる。これにより、給気工程において冷媒ガスが蓄冷材と接触する時間が長くなり、冷媒ガスは蓄冷材によって十分冷却される。また排気工程においては冷媒ガスは第2ディスプレーサ3から速やかに排出されるため、冷媒ガスは第2膨張空間26で膨張しやすくなる。この結果、極低温冷凍機1の冷凍性能を安定化することができる。
【0048】
以上本発明の好ましい実施例について詳細に説明したが、本発明は上述した実施例に制限されることなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形および置換を加えることができる。
【0049】
上述した極低温冷凍機においては段数が二段である場合を示したが、この段数は一
段であってもよいし、三段以上に適宜選択してもよい。また、実施の形態では、極低温冷凍機がディスプレーサ式のGM冷凍機を例について説明したが、これに限られない。蓄冷器内部を冷媒ガスが往復する冷凍機であれば本発明を適用することができ、例えばスターリング冷凍機、ソルベイ冷凍機などにも適用することができる。
【0050】
上記では挿入部材35を第2ディスプレーサ3が収容する蓄冷材の中に挿入する場合について主に説明した。挿入部材35は第2ディスプレーサ3に代えて、あるいはこれに加えて、第1ディスプレーサ2に挿入してもよい。挿入部材35を第1ディスプレーサ2に挿入することにより、冷却サイクルの給気工程において第1ディスプレーサ2の高温端から低温端に向かうときの冷媒ガスの流速は、排気工程において低温端から高温端に向かうときの流速よりも小さくなる。ゆえに、給気工程においては冷媒ガスは第1ディスプレーサ2内の蓄冷材によって冷却されやすくなり、排気工程において冷媒ガスは第1膨張空間18で膨張しやすくなる。これにより、極低温冷凍機1の冷凍性能をさらに安定化することができる。
【0051】
ここで上述したように、第1ディスプレーサ2が収容する蓄冷材はメッシュ状に加工された金属を積層したものである。したがって第1ディスプレーサ2に
図3に示す挿入部材35を挿入する場合、蓄冷材であるメッシュとメッシュとの間に挿入するしてもよい。
【0052】
一方、第2ディスプレーサ3が収容する蓄冷材は、例えば直径が0.5mm程度の球状に加工された金属である。このため、第2ディスプレーサ3が収容する蓄冷材に
図3に示す挿入部材35を挿入すると、挿入部材35は蓄冷材によって保持され、その形状も保たれる。そのため、
図3に示す挿入部材35は、第2ディスプレーサ3に挿入することが好ましい。極低温冷凍機1が3つ以上のディスプレーサを備える多段式の冷凍機である場合は、
図3に示す挿入部材35は、その最終段に備えられるディスプレーサに挿入するのが好ましい。