特許第6284818号(P6284818)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6284818微細孔と取り扱い強度を有した多孔膜積層体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6284818
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】微細孔と取り扱い強度を有した多孔膜積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/24 20060101AFI20180215BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
   B32B5/24 101
   B32B27/32 D
【請求項の数】16
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2014-90268(P2014-90268)
(22)【出願日】2014年4月24日
(65)【公開番号】特開2015-208881(P2015-208881A)
(43)【公開日】2015年11月24日
【審査請求日】2017年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100101362
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 幸久
(72)【発明者】
【氏名】大和 洋
【審査官】 相田 元
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/097249(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/013300(WO,A1)
【文献】 特開2008−245537(JP,A)
【文献】 特開2009−050851(JP,A)
【文献】 特開2010−244875(JP,A)
【文献】 特開2009−073124(JP,A)
【文献】 特開2012−124029(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0148901(US,A1)
【文献】 特開2010−247446(JP,A)
【文献】 特開2011−122124(JP,A)
【文献】 特開2012−167181(JP,A)
【文献】 特開平07−47633(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B01D 39/00−41/04
H01M 2/14− 2/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布基材の少なくとも片面に多孔質膜が積層されている多孔膜積層体であって、
前記多孔質膜は、連通性を有する多数の微小孔を有し、該微小孔の平均孔径が0.01〜10μmであり、
多孔質膜表面の算術平均表面粗さSaが0.5μm以下であり、
多孔膜積層体の透気度の値が0.5〜30秒であり、
多孔膜積層体の引張強さが4.0N/15mm以上であり、
下記テープ剥離試験により前記不織布基材と前記多孔質膜とが界面剥離を起こさないことを特徴とする多孔膜積層体。
(テープ剥離試験)
多孔膜積層体の多孔質膜表面にマスキングテープ[寺岡製作所社製、商品名「フィルムマスキングテープNo.603(#25)」、幅24mm]を貼り、直径30mm、200gf荷重のローラーで圧着した後、引張試験機を用いて剥離速度50mm/分でT型剥離を行う。
【請求項2】
前記多孔質膜表面の算術平均表面粗さSaが0.4μm以下である請求項1記載の多孔膜積層体。
【請求項3】
前記多孔質膜表面の算術平均表面粗さSaが0.3μm以下である請求項1記載の多孔膜積層体。
【請求項4】
前記多孔質膜表面の算術平均表面粗さSaが0.2μm以下である請求項1記載の多孔膜積層体。
【請求項5】
気度の値が0.5〜20秒である請求項1〜4の何れか1項に記載の多孔膜積層体。
【請求項6】
気度の値が0.5〜10秒である請求項1〜4の何れか1項に記載の多孔膜積層体。
【請求項7】
気度の値が0.5〜5秒である請求項1〜4の何れか1項に記載の多孔膜積層体。
【請求項8】
前記多孔質膜が、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、及びポリエーテルスルホン系樹脂からなる群より選択された少なくとも一種を含む請求項1〜の何れか1項に記載の多孔膜積層体。
【請求項9】
前記不織布基材が、ポリオレフィン系不織布、ポリアミド系不織布、又はこれらを不織布の一部に含む多層不織布である請求項1〜8の何れか1項に記載の多孔膜積層体。
【請求項10】
前記多孔質膜の内部の平均開孔率(空孔率)が30〜80%である請求項1〜9の何れか1項に記載の多孔膜積層体。
【請求項11】
前記不織布基材の厚みが10〜500μmである請求項1〜10の何れか1項に記載の多孔膜積層体。
【請求項12】
下記高温放置試験における形状変化率が5%以内である請求項1〜11の何れか1項に記載の多孔膜積層体。
(高温放置試験)
多孔質膜と一体化した積層体を約5cm×10cmの概略長方形に整形し、前記概略長方形の直交する2辺の長さa1、b1を測定し、140℃に調温した恒温槽内に前記積層体を投入し30分間放置してから、前記積層体を取り出し、室温になるまで放冷した後に、前記概略長方形の直交する2辺の長さa2、b2を測定し、下記式を用いて形状変化率を計算した。
a1、a2による形状変化率(%)={|a2−a1|/a1}×100
b1、b2による形状変化率(%)も同様にして求め、これらの値の平均値を、本高温放置試験における形状変化率とした。
【請求項13】
気体、液体、固体のフィルター、分離膜、電池やキャパシタのセパレーター、またはその一部として用いられる請求項1〜12の何れか1項に記載の多孔膜積層体。
【請求項14】
前記不織布基材と多孔質膜の積層法が熱融着によるものであり、多孔質膜を構成する樹脂のガラス転移温度>不織布を構成する樹脂の融点である請求項1〜13の何れか1項に記載の多孔膜積層体を得る多孔膜積層体の製造方法。
【請求項15】
前記多孔質膜が、高分子溶液を基材上へフィルム状に流延した後、凝固液に導き、基材から剥離させた膜単体を次いで乾燥に付すことにより得られたものである請求項14記載の多孔膜積層体の製造方法。
【請求項16】
前記高分子溶液が、高分子成分8〜25重量%、水溶性ポリマー5〜50重量%、水0〜10重量%、及び水溶性極性溶媒30〜82重量%からなる混合溶液である請求項15記載の多孔膜積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細孔と取り扱い強度を有した多孔膜積層体及びその製造方法に関する。
さらに詳細には、不織布基材の少なくとも片面に、連通性を有する多数の微小孔を有する多孔質層が積層されている多孔膜積層体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細孔を有している多孔膜として、例えば、特許文献1には、アミドイミド系ポリマー又はイミド系ポリマーからなる多孔性フィルムが開示されている。特徴として、該フィルムの厚みが5〜200μm、微小孔の平均孔径が0.01〜10μm、空孔率が30〜80%、微小孔の連通性を示す透気度がガーレー値で0.2〜29秒/100ccであることを特徴とする多孔性フィルムが開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、不織布上に多孔質層が積層された積層体が開示されている。不織布基材の少なくとも片面に、連通性を有する多数の微小孔を有し、該微小孔の平均孔径が0.01〜10μmである多孔質層が積層されている多孔膜積層体であって、テープ剥離試験により基材と多孔質層とが界面剥離を起こさない多孔膜積層体が開示されている。
【0004】
さらに、特許文献3には、不織布を基材とし、不織布の表面に多孔質層を有している積層体として、下排水用分離膜が開示されている。不織布として、セルロース繊維、セルローストリアセテート繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維が挙げられており、最も好ましい組み合わせとして、ポリエステル繊維製不織布上にポリフッ化ビニリデン(PVDF)の多孔質層を有している積層体が開示されている。
【0005】
また、特許文献4には、超高分子量ポリエチレンの焼結多孔質シートとポリエステル不織布が積層されているエアクリーナー用フィルターが開示されている。このフィルターの製造法は以下の段階を含む。
1.超高分子量ポリエチレン粉末を金型に充填し、容器に入れ、容器内を減圧にする。
2.容器内に加熱水蒸気を導入し160℃×6気圧で5時間加熱後、徐冷する。
3.作成した円柱状の焼結多孔質体をシート状に切削した後に延伸して多孔質シートを得る。
4.多孔質シート上にホットメルト粘着剤を塗布し、ポリエステル不織布を貼り合せてラミネートする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3963765号
【特許文献2】国際公開第2007/097249号
【特許文献3】特開2010−221218号公報
【特許文献4】特開2006−257888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1記載の多孔膜の場合、連通性のよい微細孔を有しているため強度が非常に弱く、取り扱いに注意を要するため、用途に制限を生じるという問題があった。フィルムの加工時にはロール・ツー・ロールで取り扱われることが多く、それに耐え得る強度が確保できない場合があるなどの問題があった。
【0008】
また、特許文献2記載の積層体の場合、不織布を基材とし、その上に多孔質層を形成しているため、不織布により十分な強度を確保することが可能となる。しかし、不織布は構造上孔を有するため、高分子溶液を不織布上へフィルム状に流延して多孔質層を形成する方法では、高分子溶液が不織布の孔内に浸透していき、多孔質層表面が凸凹になったり不織布が部分的に露出したり、ピンホールが発生したり、透気性が悪化するという問題があった。そして、一般的に不織布が有する孔は多孔質層が有する孔より圧倒的に大きく、微視的に見た場合非常に不均質であるため、高分子溶液の浸透量が場所によりばらつき、結果として多孔質層の厚みもばらつき、その特性としての透気度もばらつくという問題があった。
【0009】
特許文献3記載の積層体の場合も、不織布基材の表面に多孔質樹脂層を有してなり、多孔質樹脂層の一部が不織布基材の内部に入り込んでいるため、上記と同様の問題がある。また、多孔質層表面の開孔度が非常に低いという問題や多孔質樹脂層内部にマクロボイドが存在する不均質な孔構造を持っているため、やはり透気度が場所によりばらつくという問題があった。
【0010】
また、特許文献4記載の積層体の場合、製造法により孔径を小さくすることや表面開口率を小さくするのは困難であるという問題があった。また、本フィルターの製造法は上述のように非常に手間がかかるという問題があった。さらに、多孔質シートとポリエステル不織布はホットメルト粘着剤により貼り合わされているため透気性が阻害されるという問題もあった。
【0011】
そのため、透気性に優れ、ピンホールの発生も無く、表面平滑性が高く、柔軟性を有し、しかも取扱性及び成形加工性に優れた多孔膜積層体及びその製造方法が求められている。
【0012】
従って、本発明の目的は、透気性に優れ、ピンホールの発生も無く、表面平滑性が高く、柔軟性を有し、しかも取扱性及び成形加工性に優れた多孔膜積層体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、本発明者らが、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、不織布基材の表面上に多孔質層を熱融着により積層することにより、透気性に優れ、ピンホールの発生も無く、表面平滑性が高く、柔軟性を有し、しかも取扱性及び成形加工性に優れた多孔膜積層体が得られることを見出した。また、一般的な不織布基材を用い塗布により作製された多孔膜積層体では、多孔質層表面が凸凹になったり不織布が部分的に露出したり、ピンホールが発生したり、透気性が悪化し、使用に耐えなくなるということを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明は、
不織布基材の少なくとも片面に多孔質層が積層されている多孔膜積層体であって、
前記多孔質層は、連通性を有する多数の微小孔を有し、該微小孔の平均孔径が0.01〜10μmであり、
多孔質膜表面の算術平均表面粗さSaが0.5μm以下であり、
多孔膜積層体の透気度の値が0.5〜30秒であり、
多孔膜積層体の引張強さが4.0N/15mm以上であり、
下記テープ剥離試験により前記基材と前記多孔質層とが界面剥離を起こさないことを特徴とする多孔膜積層体を提供する。
(テープ剥離試験)
多孔膜積層体の多孔質層表面にマスキングテープ[寺岡製作所社製、商品名「フィルムマスキングテープNo.603(#25)」、幅24mm]を貼り、直径30mm、200gf荷重のローラーで圧着した後、引張試験機を用いて剥離速度50mm/分でT型剥離を行う。
(算術平均表面粗さSaの測定)
光干渉法を用いた非接触式表面計測システムVertScan2.0(株式会社菱化システム製)を用いて表面形状を測定することにより表面粗さを算出した。測定領域は、250μm×188μmの範囲とした。測定条件は、対物レンズ=50倍、鏡筒=0.5×Body、ズームレンズ=NoRelay、波長フィルター=530white、測定モード=Wave、視野サイズ=640×480である。
【0015】
前記多孔質膜表面の算術平均表面粗さSaが0.4μm以下であることが好ましい。
【0016】
前記多孔質膜表面の算術平均表面粗さSaが0.3μm以下であることが好ましい。
【0017】
前記多孔質膜表面の算術平均表面粗さSaが0.2μm以下であることが好ましい。
【0018】
前記積層体の透気度の値が0.5〜20秒であることが好ましい。
【0019】
前記積層体の透気度の値が0.5〜10秒であることが好ましい。
【0020】
前記積層体の透気度の値が0.5〜5秒であることが好ましい。
【0021】
前記高分子溶液が、高分子成分8〜25重量%、水溶性ポリマー5〜50重量%、水0〜10重量%、及び水溶性極性溶媒30〜82重量%からなる混合溶液であることが好ましい。
【0022】
前記多孔質層が、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、及びポリエーテルスルホン系樹脂からなる群より選択された少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0023】
前記不織布基材が、ポリオレフィン系不織布、ポリアミド系不織布、又はこれらを不織布の一部に含む多層不織布であることが好ましい。
【0024】
前記多孔質層の内部の平均開孔率(空孔率)が30〜80%であることが好ましい。
【0025】
前記基材の厚みが10〜500μmであることが好ましい。
【0026】
下記高温放置試験における形状変化率が5%以内であることが好ましい。
(高温放置試験)
多孔質層と一体化した積層体を約5cm×10cmの概略長方形に整形し、前記概略長方形の直交する2辺の長さa1、b1を測定し、140℃に調温した恒温槽内に前記積層体を投入し30分間放置してから、前記積層体を取り出し、室温になるまで放冷した後に、前記概略長方形の直交する2辺の長さa2、b2を測定し、下記式を用いて形状変化率を計算した。
a1、a2による形状変化率(%)={|a2−a1|/a1}×100
b1、b2による形状変化率(%)も同様にして求め、これらの値の平均値を、本高温放置試験における形状変化率とした。
【0027】
気体、液体、固体のフィルター、分離膜、電池やキャパシタのセパレーター、またはその一部として用いられることが好ましい。
【0028】
前記不織布基材と多孔質膜の積層法が熱融着によるものであり、多孔質膜を構成する樹脂のガラス転移温度>不織布を構成する樹脂の融点であることが好ましい。
【0029】
前記多孔質膜が、高分子溶液を基材上へフィルム状に流延した後、凝固液に導き、基材から剥離させた膜単体を次いで乾燥に付すことにより得られたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明の多孔膜積層体は、多数の微小孔を有する多孔質層を有するため柔軟性に優れると共に、透気性に優れ、ピンホールの発生も無く、表面平滑性が高く、しかも該多孔質層は基材に裏打ちされているため、空隙率を有する場合であっても十分な強度を発揮でき、耐折性、取扱性に極めて優れている。本発明によれば、上記特性を有し、膜質が均一な多孔膜積層体を簡易な方法で安定して製造することができる。こうして得られる多孔膜積層体は、上記特性を有するため、気体や液体や固体のフィルターや分離膜、電池用やキャパシタのセパレーター、またはその一部として利用可能である。例えば、液体分離膜、固体分離膜、ガス分離膜、またはその一部として利用可能である。
【0031】
具体的には、バッグフィルター、集塵フィルター、空調フィルター、自動車のフィルター(エアクリーナー、オイルクリーナー、室内清浄フィルター、外気取入れフィルター等)等を挙げることができる。その他にも、回路用基板、電池用セパレーター、電磁波シールドや電磁波吸収体等の電磁波制御材、電解コンデンサー、低誘電率材料、クッション材、インク受像シート、試験紙、絶縁材、断熱材、細胞培養基材、放射線遮蔽マット用材料、吸油材等の広範囲な基板材料として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】製造例1で作製された多孔質膜表面の電子顕微鏡写真(SEM写真)である。
図2】製造例2で作製された多孔質膜表面の電子顕微鏡写真(SEM写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本願発明の多孔膜積層体について、詳細を説明する。
【0034】
[テープ剥離試験]
本発明の多孔膜積層体は、前記テープ剥離試験により、前記基材と前記多孔質層とが界面剥離を起こさない。
【0035】
前記テープ剥離試験は、多孔膜積層体の多孔質層表面に24mm幅の寺岡製作所社製マスキングテープ[フィルムマスキングテープNo.603(#25)]を貼り、直径30mm、200gf荷重のローラーで圧着した後、引張試験機を用いた剥離速度50mm/分でT型剥離により行われる。すなわち、前記基材と前記多孔質層とが、上記テープ剥離試験で界面剥離が起こらない程度の層間密着強度で積層されていることを意味している。
【0036】
本発明の多孔膜積層体は、上記のように、前記基材と前記多孔質層とが特定の層間密着強度で直接積層された構成を有するため、柔軟性と優れた空孔特性を備える一方、適度な剛性を有するため取扱性が向上している。しかも、多孔質層を構成する高分子成分を広く選択することができるため、多様な分野の材料として適用可能であるという利点がある。前記基材と前記多孔質層との層間密着強度は、各層を構成する素材の種類や界面の物理的特性を適宜設定することにより調整することができる。
【0037】
[不織布基材]
本発明の多孔膜積層体は、不織布基材の少なくとも片面に多孔質層が積層されている構成を有している。
【0038】
前記不織布基材は単層であってもよく、同一又は異なる素材からなる複数の層からなってもよい。前記複数の層は、複数の不織布を必要に応じて接着剤等を用いて積層したり、製造段階で積層した積層フィルムであってもよく、コーティング、蒸着、スパッタ等の処理が施されて得られるものでもよい。
【0039】
前記不織布基材には、粗化処理、易接着処理、静電気防止処理、サンドブラスト処理(サンドマット処理)、コロナ放電処理、プラズマ処理、ケミカルエッチング処理、ウォーターマット処理、火炎処理、酸処理、アルカリ処理、酸化処理、紫外線照射処理、シランカップリング剤処理等表面処理が施されていてもよい。
【0040】
また、上記表面処理を複数組み合わせて行うことも可能である。例えば、前記基材に対し、まず、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理、酸処理、アルカリ処理、酸化処理、紫外線照射処理等の何れかの処理を施した後、シランカップリング剤処理を行う方法等を利用できる。前記基材の種類によっては、上記方法は、シランカップリング剤の単独処理と比較して処理が強化される場合がある。前記シランカップリング剤としては、信越化学工業社製やジャパンエナジー社製の製品を挙げることができる。
【0041】
前記不織布基材の厚みは、例えば、10〜500μm、好ましくは10〜300μm、より好ましくは10〜200μm、さらに好ましくは10〜100μmである。厚みが薄くなりすぎると取り扱いが困難になる一方で、厚すぎる場合には柔軟性が低下する場合がある。
【0042】
前記不織布基材の目付は、強度保持と柔軟性の観点から、例えば、2〜250g/m2、好ましくは2〜150g/m2、より好ましくは2〜100g/m2、さらに好ましくは2〜50g/m2である。
【0043】
前記不織布基材の密度は、適度な透気性確保の観点から、例えば、0.05〜0.90g/cm3、好ましくは0.10〜0.80g/cm3、さらに好ましくは0.15〜0.70g/cm3である。
【0044】
前記不織布基材の透気度は30秒以下であることが好ましく、20秒以下であることがより好ましく、10秒以下であることがさらに好ましい。なお、透気度の測定限界は0.1秒程度であるが、前記基材にはその透気度が0.1秒未満であるものも含まれる。
【0045】
前記不織布基材と前記多孔質層との密着性を向上させる観点から、前記不織布基材における前記多孔質層を積層する側の表面には、例えば、サンドブラスト処理(サンドマット処理)、コロナ放電処理、酸処理、アルカリ処理、酸化処理、紫外線照射処理、プラズマ処理、ケミカルエッチング処理、ウォーターマット処理、火炎処理、シランカップリング剤処理等の適宜な表面処理を施すことが好ましい。前記シランカップリング剤としては、上記に例示のものを用いることができる。前記表面処理は、複数を組み合わせて施されてもよく、不織布基材によっては、前記シランカップリング剤処理と、その他の処理を組み合わせて施されることが好ましい。
【0046】
(不織布)
不織布とは、繊維を配列させ、接着剤あるいは繊維自身の融着力やからみ合いの力によって繊維相互を接合させて得られるシート状のものを指し、いわゆるペーパーも含む概念とする。前記不織布は、抄紙法、メルトブロー法、スパンボンド法、ニードルパンチ法、エレクトロスピニング法等の一般的に知られた方法で製造することができる。
【0047】
不織布の基材を構成する樹脂の種類は、融点や耐薬品性等に応じて選択できる。前記不織布としては、市販品を利用できる。例えば、日本バイリーン社製のポリオレフィン不織布(商品名「FT−330N」)、廣瀬製紙社製のポリオレフィン不織布(商品名「06HOP−2」、「06HOP−4」、「HOP−10H」、「HOP−30H」、「HOP−60HCF」、「HOP−80H」)等が入手可能である。その他にも、廣瀬製紙社製の二層不織布(商品名「05EP−50」、「15EP−50」)等が入手可能である。
【0048】
不織布としては、(多孔質膜を構成する樹脂のガラス転移温度)>(不織布を構成する樹脂の融点)であることが好ましく、このようなものであれば特に制限は無い。ポリオレフィン不織布、ポリエステル不織布、ポリアミド不織布等が好ましく用いられるが、それらの二層不織布、多層不織布でもよい。より好ましくは、ポリオレフィン不織布、二層不織布からなる群より選択された少なくとも一種を利用できる。
【0049】
現在、一般に入手可能な不織布としては、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン)からなるものが多く、他には、二層不織布(例えば、ポリプロピレン/ポリエステル系樹脂の積層品)もある。これらは多くの種類があり、コスト的にも安価であるため、好ましい。
【0050】
前記不織布基材として前述の不織布を用いているため、該基材表面に熱融着などの方法により多孔質層を積層することにより、優れた層間密着強度で積層することができるという利点がある。また、柔軟性と優れた空孔特性を備える一方、適度な剛性を有するため、取扱性を向上する効果を得ることができる。
【0051】
[多孔質膜(多孔質層)]
前記多孔質膜(多孔質層ともいう)は、主成分が例えば高分子成分で構成されている。前記高分子成分としては、前記多孔質膜を形成可能であれば特に限定されず、前記多孔質膜を構成する材料に応じて適宜選択できる。前記高分子成分としては、例えば、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、液晶性ポリエステル系樹脂、芳香族ポリアミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリベンゾオキサゾール系樹脂、ポリベンゾイミダゾール系樹脂、ポリベンゾチアゾール系樹脂、ポリスルホン系樹脂、セルロース系樹脂、アクリル系樹脂等のプラスチック等が挙げられる。これらの高分子成分は単独で又は2種以上混合して使用してもよく、また、上記樹脂の共重合体(グラフト重合体、ブロック共重合体、ランダム共重合体等)を単独で又は組み合わせて用いることも可能である。さらに、上記樹脂の骨格(ポリマー鎖)を主鎖又は側鎖に含む重合物を用いることも可能である。このような重合物の具体例として、ポリシロキサンとポリイミドの骨格を主鎖に含むポリシロキサン含有ポリイミド等が挙げられる。
【0052】
なかでも、前記高分子成分の好ましい例として、耐熱性があり、耐薬品性、電気特性に優れているポリアミドイミド系樹脂又はポリイミド系樹脂を主成分とするものが挙げられる。ポリアミドイミド系樹脂は、通常、無水トリメリット酸とジイソシアネートとの反応、又は無水トリメリット酸クロライドとジアミンとの反応により重合した後、イミド化することによって製造することができる。ポリイミド系樹脂は、例えば、テトラカルボン酸成分とジアミン成分との反応によりポリアミック酸を得て、それをさらにイミド化することにより製造することができる。多孔質層をポリイミド系樹脂で構成する場合には、イミド化すると溶解性が悪くなるために、まずポリアミック酸の段階で多孔膜を形成してからイミド化(熱イミド化、化学イミド化等)されることが多い。前記高分子成分の他の好ましい例として、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂を主成分とするものが挙げられる。
【0053】
樹脂製で耐熱性のあるものとして、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系多孔質膜も知られているが、これも同様に使用可能である。
【0054】
前記多孔質層(膜)の厚みは、例えば1〜100μm、好ましくは1〜50μm、より好ましくは1〜20μm、さらに好ましくは1〜10μmである。厚みが薄くなりすぎると安定して製造するのが困難になり、一方厚すぎる場合には透気性が悪くなるという問題がある。
【0055】
前記多孔質層(膜)は、連通性を有する多数の微小孔を有し、該微小孔の平均孔径(=フィルム内部の平均孔径)が0.01〜10μmであるが、好ましくは0.05〜5μmであり、さらに好ましくは0.1〜2μmである。平均孔径が上記範囲外である場合には、用途に応じた所望の効果が得られにくい点で空孔特性に劣り、例えばサイズが小さすぎる場合には、透気性の低下、クッション性能の低下、インクの浸透性の低下、絶縁性や断熱性の低下等を引き起こす場合があり、大きすぎる場合にはろ過性能が低下したり、インクが拡散したり、微細な配線を形成しにくくなる場合がある。
【0056】
前記多孔質層(膜)の内部の平均開孔率(空孔率)は、例えば30〜80%、好ましくは40〜80%、さらに好ましくは45〜80%である。空孔率が上記範囲外である場合には、用途に対応する所望の空孔特性が得られにくく、空孔率が低すぎると、透気性が低下したり、誘電率が上がったり、クッション性能が低下したり、インクが浸透しなかったり、断熱性が低下したり、機能性材料を充填しても所望の効果が得られない場合があり、空孔率が高すぎると、強度や耐折性に劣る可能性がある。
【0057】
前記多孔質層(膜)の表面の開孔率(表面開孔率)は、例えば48%以上(例えば48〜80%)であり、好ましくは60〜80%程度である。表面開孔率が低すぎると透過性能が充分でない場合が生じる他、空孔に機能性材料を充填してもその機能が十分に発揮できないことがあり、高すぎると強度、耐折性が低下しやすくなる。
【0058】
前記多孔質層(膜)の表面の表面粗さ(算術平均表面粗さSa)は、0.5μm以下であるが、好ましくは0.4μm以下であり、より好ましくは0.3μm以下であり、さらに好ましくは0.2μm以下である。表面粗さが大き過ぎると平滑性がなくなり、例えば液体をろ過する時に気泡が張り付きやすくなり、その部分はフィルターとしての機能が失われてしまう場合がある。また、ろ過時に捕捉(或いは捕集)した微粒子が不均質に引っかかることにより、ろ過の効率が落ちたり、ろ過速度が不安定になってしまう場合がある。なお、表面粗さ(算術平均表面粗さSa)は、光干渉法を用いた非接触式表面計測システムを用いて表面形状を測定することにより、実施例記載の方法によって求めることができる。
【0059】
前記多孔質層(膜)は、前記不織布基材の少なくとも片面に形成されていればよく、両面に形成されていても良い。
【0060】
前記多孔質層(膜)には、耐薬品性の付与処理が施されていてもよい。その結果、多孔膜積層体に耐薬品性を付与され、多孔膜積層体の多様な利用形態において、溶剤、酸、アルカリ等に接触した場合に、層間剥離、膨潤、溶解、変質等の不具合を避けることができる点で有利である。耐薬品性の付与処理としては、熱、紫外線、可視光線、電子線、放射線等による物理的処理;多孔質層に耐薬品性高分子等を被覆する化学的処理等が挙げられる。
【0061】
前記多孔質層(膜)は、耐薬品性高分子により被覆されていてもよい。このような多孔膜積層体は、例えば多孔質層の表面や内部の微小孔の表面に耐薬品性の被膜が形成され、耐薬品性を有する積層体を構成しうる。ここで、薬品とは、従来の多孔性フィルムを構成する樹脂を溶解、膨潤、収縮、分解して、多孔性フィルムとしての機能を低下させるものとして公知のものが挙げられ、多孔質層及び基材の構成樹脂の種類によって異なり一概に言うことはできないが、このような薬品の具体例として、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、2−ピロリドン、シクロヘキサノン、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸エチル、アセトニトリル、塩化メチレン、クロロホルム、テトラクロルエタン、テトラヒドロフラン(THF)等の強い極性溶媒;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の無機塩;トリエチルアミン等のアミン類;アンモニア等のアルカリを溶解した水溶液や有機溶媒等のアルカリ溶液;塩化水素、硫酸、硝酸等の無機酸;酢酸、フタル酸等のカルボン酸を持つ有機酸等の酸を溶解した水溶液や有機溶媒等の酸性溶液;及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0062】
前記耐薬品性高分子化合物は、強い極性溶媒、アルカリ、酸等の薬品に優れた耐性を有していても良く、例えば、フェノール系樹脂、キシレン系樹脂、尿素系樹脂、メラミン系樹脂、ベンゾグアナミン系樹脂、ベンゾオキサジン系樹脂、アルキド系樹脂、トリアジン系樹脂、フラン系樹脂、不飽ポリエステル、エポキシ系樹脂、ケイ素系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイミド系樹脂等の熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂;ポリビニルアルコール、酢酸セルロース系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、フッ素系樹脂、フタル酸系樹脂、マレイン酸系樹脂、飽和ポリエステル、エチレン−ビニルアルコール共重合体、キチン、キトサン等の熱可塑性樹脂等が挙げられる。これらの高分子化合物は、一種または二種以上混合して使用することができる。また、高分子化合物は、共重合物でもよく、グラフト重合物であってもよい。
【0063】
このような耐薬品性高分子により被覆された多孔質層(膜)で構成されている多孔膜積層体は、前記強い極性溶媒、アルカリ、酸等の薬品と接触した場合にも、多孔質層が溶解したり、膨潤して変形したりする等の変質が全く生じないか、使用目的や用途に影響のない程度に変質を抑制することができる。例えば、多孔質層と薬品とが接触する時間が短い用途では、その時間内で変質しない程度の耐薬品性が付与されていればよい。
【0064】
なお、前記耐薬品性高分子化合物は、同時に耐熱性を有する場合が多いため、前記多孔質層(膜)が前記耐薬品性高分子化合物で被覆される前と比較して耐熱性が低下するおそれは少ない。
【0065】
前記多孔質層(膜)を構成する微小孔には、機能性材料を充填されていてもよい。前記機能性材料としては、例えば、フェライト微粒子、金属微粒子(金属酸化物微粒子等の金属含有微粒子を含む)、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレン、酸化チタン、チタン酸バリウム等が挙げられる。
【0066】
前記機能性材料の充填条件は、特に限定されないが、サブミクロン〜ミクロン単位の分解能で充填することにより、多孔質層が本来有する空孔特性の損失を抑え、しかも機能性材料の充填量を調整しやすい等の取扱性、操作性を向上でき好ましい。機能性材料を充填する場合、多孔質層の微小孔が小さすぎると機能性材料が充填されにくく、大きすぎると機能性材料の充填をサブミクロン〜ミクロン単位に制御することが困難となるため、微小孔の平均孔径は上記数値範囲内であることが好ましく、フィルム表面の最大孔径は15μm以下が好ましい。
【0067】
[不織布基材と多孔質層(膜)との組み合わせ]
前記不織布基材と前記多孔質層(膜)との密着性の観点から、前記不織布基材と前記多孔質層(膜)とを構成する成分として、良好な密着性(親和性)を発揮しうる素材を組み合わせて用いることが好ましい。具体的には、前記多孔質層(膜)が、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系多孔質膜、及びポリエーテルスルホン系樹脂からなる群より選択された少なくとも一種を含み、前記不織布基材が、ポリオレフィン不織布、ポリエステル不織布、ポリアミド不織布等が好ましく用いられるが、それらの二層不織布、多層不織布からなる群より選択された少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0068】
また、前記多孔質層(膜)が、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、及びポリエーテルスルホン系樹脂からなる群より選択された少なくとも一種を含み、前記不織布基材が、ポリオレフィン不織布、ポリエステル不織布等が好ましく用いられるが、それらの二層不織布、多層不織布からなる群より選択された少なくとも一種を含むことがより好ましい。
【0069】
また、前記多孔質層(膜)が、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、及びポリエーテルスルホン系樹脂からなる群より選択された少なくとも一種を含み、前記不織布基材が、ポリオレフィン不織布、ポリエステル不織布等が好ましく用いられるが、それらの二層不織布からなる群より選択された少なくとも一種を含むことがさらに好ましい。
【0070】
前記多孔質層(膜)が上記樹脂を含む場合、その含有率は前記多孔質層全体に対して、例えば、80〜100重量%であり、90〜100重量%であることが好ましく、95〜100重量%であることがより好ましい。
【0071】
前記不織布基材が上記樹脂又は繊維を含む場合、その含有率は前記不織布基材全体に対して、例えば、60〜100重量%であり、80〜100重量%であることが好ましく、90〜100重量%であることがより好ましい。
【0072】
[多孔膜積層体]
本発明の多孔膜積層体は、前記不織布基材と前記多孔質層(膜)とが優れた密着性で一体化した構造を有するため、高い機械的強度を備えている。そのため、多孔膜積層体の総厚みが、例えば100μm未満程度の薄い場合にも十分な強度を発揮できる点で有利である。
【0073】
本発明の多孔膜積層体の好ましい形態は、前記不織布基材の片面又は両面が多孔質層(膜)により被覆されており、連通性を有する多数の微小孔を有し、該微小孔の平均孔径が0.01〜10μmである多孔質層(膜)を有する多孔膜積層体であり、その多孔質層(膜)の厚みが1〜100μmであり、空孔率が30〜80%であって、不織布基材の厚みが10〜500μmである。このような多孔膜積層体は、多孔質層(膜)及び基材を構成する材料や厚み、製造条件等を適宜設定することにより製造できる。
【0074】
前記多孔膜積層体の透気度の値は、0.5〜30秒であるが、好ましくは0.5〜20秒であり、より好ましくは0.5〜10秒であり、さらに好ましくは0.5〜5秒である。透気度が上記範囲であるため、高い透気性を保つことができ、多孔膜積層体は、気体や液体のフィルター、電池用やキャパシタのセパレーターなどとして有用である。なお、多孔膜積層体の透気度の値は、ガーレー式デンソメーターB型を用い、JIS P8117に準じて、実施例記載の方法で測定できる。
【0075】
前記多孔膜積層体の引張強さは、4.0N/15mm以上であるが、好ましくは5.0N/15mm以上であり、より好ましくは6.0N/15mm以上であり、さらに好ましくは8.0N/15mm以上である。引張強さが一定以上であるため、多孔膜積層体の強度や柔軟性を保つことができ、取扱性がよい。なお、多孔膜積層体の引張強さは、万能引張試験機を用い、実施例記載の方法で測定できる。
【0076】
下記高温放置試験における形状変化率は、例えば5%以内、好ましくは4%以内、より好ましくは3%以内である。形状変化率が上記範囲内であると、高温下でも形状が保たれ、電極の短絡が起こりにくく、結果として安全性が向上し、多孔膜積層体は、電池用やキャパシタのセパレーターなどとして有用である。
【0077】
(高温放置試験)
多孔質層(膜)と一体化した積層体を約5cm×10cmの概略長方形に整形し、前記概略長方形の直交する2辺の長さa1、b1を測定し、140℃に調温した恒温槽内に前記積層体を投入し30分間放置してから、前記積層体を取り出し、室温になるまで放冷した後に、前記概略長方形の直交する2辺の長さa2、b2を測定し、下記式を用いて形状変化率を計算した。
a1、a2による形状変化率(%)={|a2−a1|/a1}×100
b1、b2による形状変化率(%)も同様にして求め、これらの値の平均値を、本高温放置試験における形状変化率とした。
【0078】
本発明の多孔膜積層体は、基材の少なくとも片面に多孔質層(膜)が積層されていればよく、基材の両面に多孔質層(膜)を有していてもよい。また、前記多孔質層(膜)には機能性材料が充填されていてもよく、複数の多孔質層を有する場合には同一又は異なる種類の機能性材料が充填されていてもよい。
【0079】
本発明の多孔膜積層体は、前記多孔質層(膜)が有する空孔特性をそのまま利用したり、又は前記多孔質層の空孔を機能性材料で機能化したりすることにより、フィルター、分離膜、セパレーターとして、またはその一部として利用可能である。
【0080】
さらに、本発明の多孔膜積層体には、所望の特性を付与するため、必要に応じて熱処理や被膜形成処理を施されていてもよい。
【0081】
本発明の多孔膜積層体は、上記構成を有するため、広範な分野において多様な用途に適用できる。特にフィルター、分離膜、セパレーターとして、またはその一部としての利用が適しており、例えば、液体分離膜、固体分離膜、ガス分離膜、またはその一部として利用可能である。その他にも、回路用基板、放熱材(ヒートシンク、放熱板等)、電池用セパレーター、電磁波シールドや電磁波吸収体等の電磁波制御材、電解コンデンサー、低誘電率材料、クッション材、インク受像シート、試験紙、絶縁材、断熱材、細胞培養基材、放射線遮蔽マット用材料、吸油材等の広範囲な基板材料として利用可能である。
【0082】
具体的には、バッグフィルター、集塵フィルター、空調フィルター、自動車のフィルター(エアクリーナー、オイルクリーナー、室内清浄フィルター、外気取入れフィルター等)等に適している。
【0083】
その他にも、回路用基板、放熱材(ヒートシンク、放熱板等)、電池用セパレーター、電磁波シールドや電磁波吸収体等の電磁波制御材、電解コンデンサー、低誘電率材料、クッション材、インク受像シート、試験紙、絶縁材、断熱材、細胞培養基材、放射線遮蔽マット用材料、吸油材等の広範囲な基板材料として利用可能である。
【0084】
不織布自体もフィルター、分離膜、セパレーターに使用可能ではあると考えられるが、孔径は最小でも数十μm以上あり微細なものを捕集することができなかった。
【0085】
本発明の多孔膜積層体は、フィルター、分離膜、セパレーターとして好適に利用できる。不織布基材に多孔質層が形成されているため、基材は十分な強度を確保することができる。多孔性フィルムは空孔率が高いため、多孔性フィルム単体では強度が十分でなかった用途へも展開できる可能性がある。本発明の多孔膜積層体を用いたフィルターとしては、例えば水等の水溶液や溶剤のろ過や空気等の気体のろ過用フィルター;サブミクロン以上の異物を除去しうる廃水処理用フィルター;赤血球の分離等の血液等のろ過用フィルター;粉塵、花粉、カビ、ダニの死骸等を空気から分離するエアコン用フィルター等が挙げられる。本発明の多孔膜積層体は、また、エアコンに用いられる酸素富化膜用の基材として用いることも可能である。
【0086】
その他にも、例えば、インクジェットプリンタ用フィルターとしての使用等が挙げられる。インクジェットプリンタでは、インクジェットヘッドの微細な孔からインクを目詰まりなく安定して吐出させるため、目的に応じて種々のフィルターが使用されている。メーカーによって種々の名称が使用されているが、カプセルフィルター、インク充填フィルター、バルクフィルター、ヘッド保護用ラストチャンスフィルター、インクダンパー(フィルタダンパー)用フィルター、気泡抑制フィルター、インラインフィルター等がその例として挙げられる。
【0087】
その他にも、例えば、医療関係で使われるフィルターとしての使用等が挙げられる。医療関係では、血液の凍結保存や、生殖細胞(精子や卵子)、培養した細胞、生物学的サンプルや素材の凍結保存のために液体窒素などが使用される。このような用途で使用される液体窒素などはウイルスなどの異物を除去する必要がある。ウイルスは、約0.1〜0.2μmぐらいなので、液体窒素を本発明の多孔膜積層体でろ過することでウイルスの除去が可能となる。
【0088】
また、本発明の多孔膜積層体は、試験紙として利用することもできる。試験紙は、実験用、医療用等で広く用いられており、例えば、pH試験紙(例えばリトマス試験紙)、水質検査試験紙(例えばイオン試験紙)、オイル試験紙、水分試験紙、オゾン試験紙、尿試験紙、血液試験紙等を挙げることができる。前記イオン試験紙は、金属イオンや陰イオンを定性的、又は定量的に調べることができる。尿試験紙は、尿糖、尿タンパク、潜血等を定量的に調べることができる。血液試験紙は、血糖値等を定量的に調べることができる。これらの試験紙は、測定方法が簡易なため、使用機会が年々増加している。
【0089】
本発明の多孔質積層体は、多孔質層(膜)が基材に密着しているため、取り扱う上で十分な強度を確保することができる。また、多孔質層は、判定に使用される指示薬を吸着することができるため、好ましい媒体である。また、水等の溶剤、尿、血液等のサンプルを保持できるため、これらの用途での使用に好適である。
【0090】
本発明の多孔膜積層体は、また、電池用セパレーターとして好ましく利用できる。電池用セパレーターは、正負極を分離すると共に、電解液の保持性に優れイオン導電性が良好である必要がある。また、耐熱性、柔軟性、強度等の種々の特性を備えていることが求められる。本発明の多孔膜積層体によれば、これらの特性をバランス良く発揮することができるため、各種電池用セパレーターとして極めて有用である。
【0091】
電池用セパレーターは、過去の発火事故や自動車用用途や産業用用途での安全性向上のため、高耐熱性が求められており、本発明の多孔膜積層体はこの点からも有用である。
【0092】
本発明の多孔膜積層体では、水に耐性のある不織布を基材として使用することができるため、不織布基材の膨潤を防ぐことができる。
【0093】
[多孔膜積層体の製造方法]
本発明の多孔膜積層体は、前記多孔膜(多孔質層)を、高分子溶液をフィルム基材上へフィルム状に流延し、凝固液に接触させて多孔化処理を施すなどの方法により製造した後、前記不織布基材の少なくとも片面に多孔膜を熱融着などの方法により積層させることにより製造できる。以下、詳細に説明する。
【0094】
(多孔膜単体の製造方法)
前記多孔膜(多孔質層)は、例えば、高分子溶液をフィルム基材上へフィルム状に流延し、凝固液に接触させて多孔化処理を施した後、フィルム基材から剥離させ、その後乾燥に付して多孔膜を得る方法等により製造できる。凝固液に接触させて多孔質化する方法としては、例えば、湿式相転換法によりフィルムを得る方法(例えば、特開2001−145826号公報参照)、乾式相転換法(例えば、国際公開公報WO98/25997号パンフレット等参照)、及び溶媒置換速度調整材を用いる方法(例えば、特開2000−319442号公報、特開2001−67643号公報参照)等の公知の方法を利用可能である。
【0095】
前記多孔膜は、ポリオレフィン系多孔質膜に代表される樹脂多孔質膜の製造方法でも製造することもできる。樹脂多孔質膜の製造方法には、大別すると、抽出工程で多孔質化する湿式法と延伸工程で多孔質化する乾式法との二つの方法が挙げられる。前者の方法としては、例えば特開昭58−59072号公報に記載の方法が挙げられる。特開昭58−59072号公報では、可塑剤等を樹脂と共に練り込んで溶融押し出しした後、抽出槽で可塑剤等を抽出して多孔質化する製造方法が開示されている。
【0096】
一方、後者の方法としては、例えば、特開昭62−121737号公報に記載の方法が挙げられる。特開昭62−121737号公報では、溶融押し出しした原反にラメラ晶を形成させ、縦一軸延伸によりラメラ晶の間を開裂させて多孔質化する製造方法が開示されている。この方法によれば、湿式法とは異なり抽出工程が不要となり、工程が簡素化できる。また、乾式法を用いた二軸延伸多孔質膜の製造方法として、国際公開第2007/098339号に記載の方法が挙げられる。国際公開第2007/098339号には、公知の縦一軸延伸で得た多孔質膜を熱間で縦方向に緩和しながら横延伸する技術が開示されている。
【0097】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系多孔質膜もポリオレフィン系多孔質膜と同様の方法で製造できる。
【0098】
流延に付す高分子溶液としては、例えば、多孔質層を構成する素材となる高分子成分、水溶性ポリマー、水溶性極性溶媒、必要に応じて水からなる混合溶液等を用いることができる。
【0099】
前記多孔質層(膜)を構成する素材となる高分子成分としては、水溶性極性溶媒に溶解性を有し相転換法によりフィルムを形成しうるものが好ましく、上記に例示のものを一種又は二種以上混合して利用できる。また、前記多孔質層を構成する高分子成分の代わりに、該高分子成分の単量体成分(原料)や、そのオリゴマー、イミド化や環化等の前の前駆体等を用いてもよい。
【0100】
流延に付す高分子溶液への水溶性ポリマーや水の添加は、膜構造をスポンジ状に多孔化するために効果的である。前記水溶性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、多糖類等やその誘導体、及びこれらの混合物等が挙げられる。なかでもポリビニルピロリドンは、フィルム内部におけるボイドの形成を抑制し、フィルムの機械的強度を向上しうる点で好ましい。これらの水溶性ポリマーは単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。多孔化の観点から、前記水溶性ポリマーの分子量は200以上が良く、好ましくは300以上、特に好ましくは400以上(例えば、400〜20万程度)であり、特に分子量1000以上であってもよい。水の添加によりボイド径を調整でき、例えばポリマー溶液への水の添加量を増やすとボイド径を大きくすることが可能となる。
【0101】
前記水溶性ポリマーは、膜構造をスポンジ状にするのに非常に有効であり、前記水溶性ポリマーの種類と量を変更する事により多様な構造を得ることが可能である。このため、前記水溶性ポリマーは、所望の空孔特性を付与する目的で、多孔質層を形成する際の添加剤として極めて好適に用いられる。一方、前記水溶性ポリマーは、最終的には多孔質層を構成しない、除去すべき不要な成分である。湿式相転換法を利用する方法においては、前記水溶性ポリマーは水等の凝固液に浸漬して相転換する工程において容易に洗浄除去される。これに対し、乾式相転換法においては、多孔質層を構成しない成分(不要な成分)は加熱により除去され、水溶性ポリマーを加熱によって除去することは、湿式相転換法を利用した場合ほど容易ではない。このように、乾式層転換法を利用した場合よりも、湿式相転換法を利用する製造方法は、所望の空孔特性を有する多孔膜を容易に製造できる点で有利である。
【0102】
前記水溶性極性溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、2−ピロリドン及びこれらの混合物等が挙げられ、前記高分子成分として使用する樹脂の化学骨格に応じて溶解性を有するもの(高分子成分の良溶媒)を使用することができる。
【0103】
流延に付すポリマー溶液としては、多孔性フィルムを構成する素材となる高分子成分8〜25重量%、水溶性ポリマー5〜50重量%、水0〜10重量%、水溶性極性溶媒30〜82重量%からなる混合溶液等が好ましい。この際に、高分子成分の濃度が低すぎると多孔質層の厚みが不十分となったり、所望の空孔特性が得られにくくなったりする。また、高分子成分の濃度が高すぎると空孔率が小さくなる傾向にある。水溶性ポリマーは、フィルム内部を均質なスポンジ状の多孔構造にするために添加するが、この際に濃度が低すぎるとフィルム内部に10μmを超えるような巨大ボイドが発生し均質性が低下する。また水溶性ポリマーの濃度が高すぎると溶解性が悪くなる他、50重量%を超える場合には、フィルム強度が弱くなる等の不具合が生じやすい。水の添加量はボイド径の調整に用いることができ、添加量を増やすことで径を大きくすることが可能となる。
【0104】
高分子溶液をフィルム状に流延する際に、該フィルムを相対湿度70〜100%、温度15〜90℃からなる雰囲気下に0.2〜15分間保持した後、高分子成分の非溶剤からなる凝固液に導くのが望ましい。流延後のフィルム状物を上記条件におくことにより、多孔質層を均質で連通性の高い状態にすることができる。この理由としては、加湿下に置くことにより水分がフィルム表面から内部へと侵入し、高分子溶液の相分離を効率的に促進するためと考えられる。特に好ましい条件は、相対湿度90〜100%、温度30〜80℃であり、相対湿度約100%(例えば、95〜100%)、温度40〜70℃である。空気中の水分量がこれよりも少ない場合は、表面の開孔率が充分でなくなる不具合が発生する場合がある。
【0105】
前記多孔膜の製造方法によれば、例えば、連通性を有する多数の微小孔を有し、該微小孔の平均孔径が0.01〜10μmである多孔質層を容易に成形することができる。本発明における多孔膜を構成する多孔質層の微小孔の径、空孔率、開孔率は、上記のように、高分子溶液の構成成分の種類や量、水の使用量、流延時の湿度、温度及び時間等を適宜選択することにより所望の値に調整することができる。
【0106】
相転換法に用いる凝固液としては、高分子成分を凝固させる溶剤であればよく、高分子成分として使用する高分子の種類によって適宜選択されるが、例えば、ポリアミドイミド系樹脂又はポリアミック酸を凝固させる溶剤であればよく、例えば、水;メタノール、エタノール等の1価アルコール、グリセリン等の多価アルコール等のアルコール;ポリエチレングリコール等の水溶性高分子;これらの混合物等の水溶性凝固液等が使用できる。
【0107】
前記多孔膜の製造方法においては、凝固液に導いてフィルム基材表面に多孔質層を成形した後、剥離し、そのまま乾燥に付すことにより、多孔膜が製造される。乾燥は、凝固液等の溶剤成分を除去しうる方法であれば特に限定されず、加熱下でもよく、室温による自然乾燥であってもよい。加熱処理の方法は特に制限されず、熱風処理、熱ロール処理、あるいは、恒温槽やオーブン等に投入する方法でもよく、多孔膜を所定の温度にコントロールできるものであればよい。加熱温度は、例えば室温〜600℃程度の広範囲から選択することができる。加熱処理時の雰囲気は、空気、窒素、不活性ガスの何れでもよい。空気を使用する場合が最も安価であるが、酸化反応を伴う可能性がある。これを避ける場合は、窒素や不活性ガスを使用するのがよく、コスト面からは窒素が好適である。加熱条件は、生産性、多孔質膜の物性等を考慮して適宜設定される。乾燥に付すことにより、多孔膜を得ることができる。
【0108】
こうして得られた多孔膜には、さらに、熱、可視光線、紫外線、電子線、放射線等を用いて架橋処理を施してもよい。前記処理により、多孔質層を構成する前駆体の重合、架橋、硬化等が進行して高分子化合物を形成し、多孔質膜が高分子化合物で構成されている場合には架橋や硬化等が進行し、剛性や耐薬品性等の特性が一層向上した多孔膜を得ることができる。例えば、ポリイミド系前駆体を用いて成形した多孔質層には、さらに熱イミド化あるいは化学イミド化等を施すことによりポリイミド多孔質層を得ることができる。ポリアミドイミド系樹脂を用いて成形された多孔質層には熱架橋を施すことができる。なお、熱架橋は、凝固液に導いた後、乾燥に付すための加熱処理と同時に施すことも可能である。
【0109】
(不織布基材と多孔質層(膜)の積層)
前記不織布基材と多孔質膜の積層法は熱融着などにより合理的に製造できる。その時、(多孔質膜を構成する樹脂のガラス転移温度)>(不織布を構成する樹脂の融点)であることが好ましい。
【0110】
具体的な製造方法を述べる。不織布基材の少なくとも片面上に多孔質膜を載せ、多孔質膜の側から、又は両側から熱源で加熱し、多孔質膜と接している不織布基材表面を少し溶融させることで不織布基材と多孔質膜が密着した積層体を得ることができる。この時、多孔質層、不織布基材、又は両方を摩擦などから保護するため、保護フィルムを片側、又は両側に載せたりすることも好ましい。熱源は、アイロン、ラミネーター、加熱ロールなどを利用することができ、ラミネート装置、ヒートシール装置、カレンダー装置、ロールプレス装置などを使用してもよい。
【0111】
(多孔質膜を構成する樹脂のガラス転移温度)>(不織布を構成する樹脂の融点)であることが好ましいのは、微細孔を持つ多孔質膜は、熱による影響をほとんど、あるいは全く受けず、不織布基材のみを少し溶融させるためである。加熱は、不織布が溶融し、多孔質膜と密着できればよく、必要以上の加熱は不織布の孔の閉塞を招くおそれがあるため好ましくない。加熱温度は、(多孔質膜を構成する樹脂のガラス転移温度)と(不織布を構成する樹脂の融点)の間にするのが好ましく、
(多孔質膜を構成する樹脂のガラス転移温度)>(加熱温度)≧(不織布を構成する樹脂の融点)
が好ましい。この時の加熱温度は多孔質層と不織布基材が接しているところの温度である。例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンは融点が130〜165℃程度であるので、加熱温度は、140〜170℃程度であればいい。
【0112】
一般的な不織布はガーレー式透気度計で測定した透気度は、測定限界の0.1秒以下であるので、熱融着でポリオレフィン系不織布の一部が熱変形しても透気度にはほとんど影響しない。ただし、(不織布を構成する樹脂の融点)以上で長時間保持するのは好ましくない。熱融着をコントロールする技術的なポイントは加熱温度、熱源の移動速度、圧力などであり、これらを適切にコントロールすることが重要である。
【0113】
高分子溶液を基材上へフィルム状に流延した後、凝固液に導き、基材から剥離させた膜単体を次いで乾燥に付すことにより得られた多孔質膜と不織布基材を熱融着などにより積層するものであり、多孔質膜を構成する樹脂のガラス転移温度>不織布を構成する樹脂の融点であることが好ましい。
【0114】
このような方法で、優れた空孔特性を有する多孔質層と基材とが直接積層された多孔膜積層体を容易に得ることができる。
【0115】
前記多孔膜積層体の製造方法によれば、前記基材の片面、又は両面が前記多孔質層により被覆されており、前記多孔質層は連通性を有する多数の微小孔を有し、該微小孔の平均孔径が0.01〜10μmである多孔質層を有する積層体を容易に得ることができる。
【実施例】
【0116】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。テープ剥離試験、平均孔径の測定、多孔質層の内部の平均開孔率(空孔率)の測定、透気度試験、高温放置試験、算術平均表面粗さSa(表面粗さ)の測定、引張強さの測定は以下の方法で行った。
【0117】
(テープ剥離試験)
(i)多孔膜積層体の多孔質層表面に下記のテープを貼り、下記のローラーで接着部分をなぞり、テープを圧着する。
(ii)下記の万能引張試験機を用いて50mm/分の条件でT型剥離を行う。
(iii)多孔質層と耐熱不織布基材の界面剥離の有無を観察する。
・テープ:寺岡製作所製、
(商品名「フィルムマスキングテープNo.603(#25)」、24mm幅)
・ローラー:直径30mm、200gf荷重
・万能引張試験機:(株)オリエンテック社製、
(商品名「TENSILON RTA−500」)
【0118】
なお、実施例1におけるフィルムの平均孔径及び空孔率は以下の方法で算出した。これらの平均孔径及び空孔率は、電子顕微鏡写真の最も手前に見えている微小孔のみを対象として求められており、写真奥に見えている微小孔は対象外とした。
【0119】
(平均孔径の測定)
電子顕微鏡写真から、積層体の表面又は断面の任意の30点以上の孔についてその面積を測定し、その平均値を平均孔面積Saveとした。孔が真円であると仮定し、下記式を用いて平均孔面積から孔径に換算した値を平均孔径とした。ここでπは円周率を表す。
表面又は内部の平均孔径[μm]=2・(Save/π)1/2
【0120】
(多孔質層の内部の平均開孔率(空孔率)の測定)
比較例1では、多孔質層は不織布内部まで入り込み、基材と一体化しているため、そのままでは多孔質層内部の空孔率の測定は困難である。よって、基材としてPET不織布の代わりにPETフィルム(帝人デュポン社製、商品名「HS74AS」:厚み100μm)を用い、原液をPETフィルムの易接着面上にキャスト後、水中に浸積して凝固させ、次いでPETフィルムから剥離して乾燥させて得た多孔性フィルムを用いて測定し、内部の空孔率を下記式より算出した。基材の無いものはそのまま下記式より算出した。
Vはフィルムの体積[cm3]、Wは多孔質層の重量[g]、ρは多孔質層素材の密度[g/cm3]を示す。ポリアミドイミドの密度は1.45[g/cm3]、ポリエーテルイミドの密度は1.27[g/cm3]とした。
空孔率[%]=100−100・W/(ρ・V)
【0121】
(透気度試験)
透気度は、テスター産業株式会社製のガーレー式デンソメーターB型を用い、JIS P8117に準じて測定した。秒数はデジタルオートカウンターで測定した。透気度(ガーレー値)の値が小さいほど空気の透過性が高いこと、つまり多孔質膜における微小孔の連通性が高いことを意味する。なお、基材の透気度、多孔質積層体の透気度の何れも、特に断りの無い限り、本試験法で評価した。
【0122】
(高温放置試験)
多孔質層と一体化した積層体を約5cm×10cmの概略長方形に整形し、直交する2辺a、bの距離を測定することによりサンプルの形状の変化を評価した。まず、初期の距離a1、b1を測定した。次に、140℃に調温した恒温槽内にサンプルを投入し30分間放置した。次にサンプルを取り出し、室温になるまで放冷した後に距離a2、b2を測定した。下記式を用いて、a、bのそれぞれの変化率を計算した。
高温放置後のaの変化率(%)={|a2−a1|/a1}×100
bの変化率も同様の方法で算出した。
【0123】
(算術平均表面粗さSa(表面粗さ)の測定)
光干渉法を用いた非接触式表面計測システムVertScan2.0(株式会社菱化システム製)を用いて表面形状を測定することにより表面粗さを算出した。測定領域は、250μm×188μmの範囲とした。測定条件は、対物レンズ=50倍、鏡筒=0.5×Body、ズームレンズ=NoRelay、波長フィルター=530white、測定モード=Wave、視野サイズ=640×480である。表面粗さとして、算術平均表面粗さ(Sa)を用いた。
【0124】
(引張強さの測定)
大きさ15×150mmの試験片をサンプル作成時のMD方向(流れ方向)にとり、万能引張試験機を用い、チャック間距離を100mmとして毎分約200mmの速さで試験片を引っ張り、その引張り強さを測定した。単位はN/15mmで表わした。
【0125】
[製造例1]
ポリアミドイミド系樹脂溶液(東洋紡績社製の商品名「バイロマックスHR11NN」;固形分濃度15重量%、溶剤NMP、溶液粘度20dPa・s/25℃)100重量部に、水溶性ポリマーとしてポリビニルピロリドン(分子量5.5万)35重量部を加えて製膜用の原液とした。ガラス板上に基材として、帝人・デュポン社製のPETフィルム(厚み100μm:商品名「HS74AS」)の易接着面を上にしておき、該PETフィルム上に25℃に保持した原液をフィルムアプリケーターを使用してキャストした。キャスト時のフィルムアプリケーターとPETフィルムとのギャップは51μmで行った。キャスト後速やかに湿度約100%、温度50℃の容器中に4分間保持した。その後、水中に浸漬して凝固・洗浄していると、自然とPETフィルムから多孔質層が剥離した。
室温下で自然乾燥することによって多孔質膜を得た。多孔質膜の厚みは約23μmであった。この多孔質膜を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層の表面に存在する孔の平均孔径は約0.5μmであり、多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が約0.5μmの連通性を持つ微小孔が存在していた。また、多孔質層内部の空孔率は70%であった。多孔質膜の透気度を測定したところ平均4秒(測定値4秒、4秒、4秒)であった。図1に、製造例1で得られた多孔質膜表面の電子顕微鏡写真(SEM写真)を示す。
【0126】
[製造例2]
ポリエーテルイミド系樹脂溶液(日本GEプラスチック製、商品名「ウルテム1000P」;固形分濃度18重量%、溶剤NMP)100重量部に、水溶性ポリマーとしてポリビニルピロリドン(分子量5.5万)30重量部を加えて製膜用の原液とした。
ガラス板上に基材として、帝人・デュポン社製のPETフィルム(厚み100μm:商品名「HS74AS」)の易接着面を上にしておき、該PETフィルム上に25℃に保持した原液をフィルムアプリケーターを使用してキャストした。キャスト時のフィルムアプリケーターとPETフィルムとのギャップは51μmで行った。キャスト後速やかに湿度約100%、温度50℃の容器中に4分間保持した。その後、水中に浸漬して凝固・洗浄していると、自然とPETフィルムから多孔質層が剥離した。室温下で自然乾燥することによって多孔質膜を得た。多孔質膜の厚みは約24μmであった。この多孔質膜を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層の表面に存在する孔の平均孔径は約1μmであり、多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が約1μmの連通性を持つ微小孔が存在していた。また、多孔質層内部の空孔率は73%であった。多孔質膜の透気度を測定したところ平均4秒(測定値3秒、4秒、4秒)であった。図2に、製造例2で得られた多孔質膜表面の電子顕微鏡写真(SEM写真)を示す。
【0127】
[実施例1]
製造例1のポリアミドイミド系多孔質膜を日本バイリーン製ポリオレフィン不織布(厚み約250μm、目付約80g/m2、密度約0.36g/cm3、透気度0.1秒:商品名「FT−330N」)の上に重ね合わせ、それを、二つ折りにしたPETフィルム(東レ社製、厚み100μm:製品名「ルミラーS10」)の間に挟みこんで、机の上に置いた。松下電器産業社製スチームアイロン(品番:NI−R70)の温度設定を中(約150℃)とし、設定温度に到達した状態で、PETフィルムごとポリアミドイミド系多孔質膜の側から加熱した。スチームアイロンの移動速度は約60cm/分とした。
上記の方法により、ポリアミドイミド系多孔質膜とポリオレフィン不織布とが一体化した積層体を得た。積層体の総厚みは約313μmであった。ポリアミドイミド系多孔質膜の側はガラス転移温度が約300℃のため変化は見られなかった。
得られた積層体についてテープ剥離試験を行ったところ、不織布と多孔質層とが界面剥離を起こさなかった。この積層体を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層の表面に存在する孔の平均孔径は約0.5μmであった。積層体の透気度を測定したところ平均4秒(測定値4秒、5秒、4秒)であり、積層前のポリアミドイミド系多孔質膜の値と同じであった。積層体としたことによる透気性の悪化は見られず、ばらつきもほとんどなかった。
また、高温放置後の変化率はa、bとも1.0%であり、積層体の高温放置による形状の変化はほとんど見られなかった。本積層体の高温下での形状安定性が優れていることが確認された。
【0128】
[実施例2]
製造例1のポリアミドイミド系多孔質膜を日本バイリーン製ポリオレフィン不織布(厚み約250μm、目付約80g/m2、密度約0.36g/cm3、透気度0.1秒:商品名「FT−330N」)の上に重ね合わせ、それを、二つ折りにしたPIフィルム(東レ・デュポン社製、厚み25μm:製品名「カプトン100H」)の間に挟みこんだ。アイリスオーヤマ社製ラミネーター(品番:LFA341D)の温度設定目盛りを13(約150℃)とし、設定温度に到達した状態で、PIフィルムごと両側から加熱した。ラミネーターのラミネート速度は約47cm/分であった。
上記の方法により、ポリアミドイミド系多孔質膜とポリオレフィン不織布とが一体化した積層体を得た。積層体の総厚みは約249μmであった。両側から加熱したため、ポリオレフィン不織布の面の表面が若干熱溶融し、平滑性が増していた。ポリアミドイミド系多孔質膜の側はガラス転移温度が約300℃のため変化は見られなかった。
得られた積層体についてテープ剥離試験を行ったところ、不織布と多孔質層とが界面剥離を起こさなかった。この積層体を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層の表面に存在する孔の平均孔径は約0.5μmであった。積層体の透気度を測定したところ平均5秒(測定値5秒、5秒、4秒)であり、積層前のポリアミドイミド系多孔質膜の値とほとんど同じであり、ばらつきもほとんど無かった。積層体としたことによる透気性の悪化は見られなかった。
また、高温放置後の変化率はa、bそれぞれ1.4%、1.5%であり、積層体の高温放置による形状の変化はほとんど見られなかった。本積層体の高温下での形状安定性が優れていることが確認された。
【0129】
[実施例3]
実施例2において、不織布として、廣瀬製紙製の片面ポリエステル、片面ポリプロピレンの二層不織布(厚み約105μm、目付約50g/m2、密度約0.43g/cm3、透気度0.1秒:商品名「05EP−50」)を用い、ポリアミドイミド系多孔質膜を二層不織布のポリプロピレン側の上に重ね合わせた点以外は実施例2と同様の操作を行って、不織布と多孔質層が一体化した積層体を得た。積層体の総厚みは約135μmであった。両側から加熱したが、ポリエステルの融点は約260℃であるため、ポリエステル不織布の面の表面に変化は見られなかった。ポリアミドイミド系多孔質膜の側はガラス転移温度が約300℃のため変化は見られなかった。
得られた積層体についてテープ剥離試験を行ったところ、不織布と多孔質層とが界面剥離を起こさなかった。この積層体を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層の表面に存在する孔の平均孔径は約0.5μmであった。積層体の透気度を測定したところ平均4秒(測定値4秒、4秒、4秒)であり、積層前のポリアミドイミド系多孔質膜の値と同じであり、ばらつきも無かった。積層体としたことによる透気性の悪化は見られなかった。
また、高温放置後の変化率はa、bそれぞれ0%、0.5%であり、積層体の高温放置による形状の変化はほとんど見られなかった。本積層体の高温下での形状安定性が優れていることが確認された。
【0130】
[実施例4]
実施例2において、不織布として、廣瀬製紙製の片面ポリエステル、片面ポリプロピレンの二層不織布(厚み約93μm、目付約50g/m2、密度約0.42g/cm3、透気度0.1秒:商品名「15EP−50」)を用い、ポリアミドイミド系多孔質膜を二層不織布のポリプロピレン側の上に重ね合わせた点以外は実施例2と同様の操作を行って、不織布と多孔質層が一体化した積層体を得た。積層体の総厚みは約131μmであった。両側から加熱したが、ポリエステルの融点は約260℃であるため、ポリエステル不織布の面の表面に変化は見られなかった。ポリアミドイミド系多孔質膜の側はガラス転移温度が約300℃のため変化は見られなかった。
得られた積層体についてテープ剥離試験を行ったところ、不織布と多孔質層とが界面剥離を起こさなかった。この積層体を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層の表面に存在する孔の平均孔径は約0.5μmであった。積層体の透気度を測定したところ平均4秒(測定値4秒、4秒、4秒)であり、積層前のポリアミドイミド系多孔質膜の値と同じであり、ばらつきも無かった。積層体としたことによる透気性の悪化は見られなかった。
また、高温放置後の変化率はa、bそれぞれ0.4%、0.5%であり、積層体の高温放置による形状の変化はほとんど見られなかった。本積層体の高温下での形状安定性が優れていることが確認された。
【0131】
[実施例5]
実施例2において、不織布として、廣瀬製紙製ポリオレフィン不織布(厚み約13μm、目付約2.6g/m2、密度約0.20g/cm3、透気度0.1秒:商品名「06HOP−2」)を用いた点以外は実施例2と同様の操作を行って、ポリアミドイミド系多孔質膜とポリオレフィン不織布とが一体化した積層体を得た。積層体の総厚みは約38μmであった。両側から加熱したため、ポリオレフィン不織布の面の表面が若干熱溶融し、平滑性が増していた。ポリアミドイミド系多孔質膜の側はガラス転移温度が約300℃のため変化は見られなかった。
得られた積層体についてテープ剥離試験を行ったところ、不織布と多孔質層とが界面剥離を起こさなかった。この積層体を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層の表面に存在する孔の平均孔径は約0.5μmであった。積層体の透気度を測定したところ平均5秒(測定値4秒、4秒、5秒)であり、積層前のポリアミドイミド系多孔質膜の値とほとんど同じであった。積層体としたことによる透気性の悪化は見られなかった。
また、高温放置後の変化率はa、bそれぞれ1.6%、0.7%であり、積層体の高温放置による形状の変化はカールが発生したのみであった。本積層体の高温下での形状安定性が優れていることが確認された。
【0132】
[実施例6]
実施例2において、不織布として、廣瀬製紙製ポリオレフィン不織布(厚み約13μm、目付約2.6g/m2、密度約0.20g/cm3、透気度0.1秒:商品名「06HOP−2」)を用いた点と、製造例2のポリエーテルイミド系多孔質膜を用いたこと以外は実施例2と同様の操作を行って、ポリエーテルイミド系多孔質膜とポリオレフィン不織布とが一体化した積層体を得た。積層体の総厚みは約39μmであった。両側から加熱したため、ポリオレフィン不織布の面の表面が若干熱溶融し、平滑性が増していた。ポリエーテルイミド系多孔質膜の側はガラス転移温度が約217℃のため変化は見られなかった。
得られた積層体についてテープ剥離試験を行ったところ、不織布と多孔質層とが界面剥離を起こさなかった。この積層体を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層の表面に存在する孔の平均孔径は約1μmであった。積層体の透気度を測定したところ平均4秒(測定値5秒、4秒、3秒)であり、積層前のポリエーテルイミド系多孔質膜の値と同じであり、ばらつきも僅かであった。積層体としたことによる透気性の悪化は見られなかった。
また、高温放置後の変化率はa、bそれぞれ0.2%、0.6%であり、積層体の高温放置による形状の変化はカールが発生したのみであった。本積層体の高温下での形状安定性が優れていることが確認された。
【0133】
[比較例1]
ポリアミドイミド系樹脂溶液(東洋紡績社製の商品名「バイロマックスHR11NN」;固形分濃度15重量%、溶剤NMP、溶液粘度20dPa・s/25℃)100重量部に、水溶性ポリマーとしてポリビニルピロリドン(分子量5.5万)40重量部を加えて製膜用の原液とした。ガラス板上に日本バイリーン社製のPET不織布(厚み130μm、目付約90g/m2、密度約0.69g/cm3、透気度0.1秒:商品名「MF−90」)を置き、該不織布上に25℃に保持した原液をフィルムアプリケーターを使用してキャストした。キャスト時のフィルムアプリケーターと不織布とのギャップは51μmで行った。キャスト後速やかに湿度約100%、温度50℃の容器中に4分間保持した。その後、水中に浸漬して凝固・洗浄し、次いで不織布から剥離させることなく水中から取り出し、紙ウエスに載せ、室温下で自然乾燥することによって不織布と多孔質層とが一体化した積層体を得た。積層体の総厚みは約147μmであった。
得られた積層体についてテープ剥離試験を行ったところ、不織布と多孔質層とが界面剥離を起こさなかった。この積層体を電子顕微鏡で観察したところ、多孔質層が不織布に密着しており、多孔質層の表面に存在する孔の平均孔径は約0.2μmであり、多孔質層内部はほぼ均質で全域に亘って平均孔径が約0.2μmの連通性を持つ微小孔が存在していた。また、多孔質層内部の空孔率は70%であった。積層体の透気度を測定したところ、平均136秒(測定値142秒、170秒、96秒)であった。実施例1〜6の積層体サンプルと比較して非常に透気性が悪く、またばらつきも非常に大きいことが分かった。
【0134】
実施例1〜6、比較例1の積層体の表面粗さSaの値を表1に示す。本発明の熱融着(ヒートシール)によって得られた積層体表面は非常に小さな表面粗さを持っているが、比較例の塗布により得られた積層体表面は相対的に随分大きな表面粗さを持っていることが確かめられた。また、本発明の積層体は表面が平滑であり、かつ透気性が高いが、比較例の積層体は不織布内に多孔質層が深く入り込んでしまうため、透気性が阻害されることが確認された。
【表1】
【0135】
表2に高温放置試験の結果をまとめた。また比較のため、市販のポリオレフィン系セパレーターとして、セルガード社製のセパレータ(厚み約25μm、品番2500)の高温放置試験を行ったところ、試験後にはセパレーターは特に一辺方向に著しく収縮し、さらにカールが発生していた。ポリオレフィン系セパレーターの高温下での形状安定性が非常に劣っていることが確認された。一方、本発明の積層体は高温下での形状安定性が確認された。
【表2】
【0136】
表3に実施例1〜6の積層体と製造例1〜2の多孔質膜の引張強さの測定結果を示した。製造例1〜2の多孔質膜と比較して、実施例1〜6の積層体は引張強さが大きくなっており、取扱性が改善されていることが確認された。
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明の多孔膜積層体は、空孔特性や表面平滑性に優れ、耐熱性と柔軟性を有し、しかも取扱性及び成形加工性に優れるため、特に高温下で使用されるフィルター、分離膜、セパレーターとして、又はその一部として有用である。
図1
図2