(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
植物の生長には酸素が必要である。酸素は植物の根や葉から吸収される。水耕栽培の場合、養液中に酸素を供給し、溶存酸素濃度を高める工夫が必要である。また、植物の生長を促すには、養液に含まれるリン、カリウム、窒素等の栄養素が根から吸収されやすい環境を作ることが大切である。水耕栽培において、養液の循環が行われない場合、根の周りの栄養素濃度や溶存酸素濃度が低下して、植物の発育が十分に期待できない。
【0003】
そこで出願人は先に、液槽中の養液を循環させつつ、養液中の溶存酸素濃度も高めることができる植物栽培器具について提案した(下記の特許文献1参照)。
図9は、特許文献1に開示された植物栽培器具の使用状態を示した断面図である。
【0004】
植物栽培器具50は、液肥60を貯留する液槽51と、液槽51の上部に配設される栽培槽52と、液槽51及び栽培槽52の上方に設置される蓋53と、蓋体53の中央段付き穴53aに設置される栽培鉢54とを備えている。
【0005】
栽培槽52には、凹部52aと円筒部52bとが形成され、円筒部52bが排水口として機能するようになっている。液槽51の底部には水中(液送)ポンプ55が設置され、水中ポンプ55に接続されたパイプ56が栽培槽52及び蓋53に形成された穴52c、53bを介して蓋53の上方まで延出されている。パイプ56の上端部は折り返され、空気混入器57を介して、蓋53に形成された穴(図示せず)に接続されている。
【0006】
植物栽培器具50では、水中ポンプ55を作動させると、液槽51内の液肥60がパイプ56を通って蓋53の上方まで汲み上げられ、空気混入器57を介して栽培槽52に放出される。放出された液肥60は栽培槽52に溜まり、円筒部52bをオーバーフローした液肥60が液槽60に流れ込む。このようにして液肥60が循環されるようになっている。
【0007】
しかしながら、上記した植物栽培器具50では、各部の形状や構造等が複雑で加工コストや部品コスト等が高くつきやすく、また、液肥60を吸引して送出する水中ポンプ55を使用しているため、長期間使用すると、水中ポンプ55に使用されているモーターが発熱し、その熱により液肥(養液)60の温度上昇が生じて、植物の生長に悪影響を与える虞があった。また、長期間の使用中に液肥中の成分が水中ポンプ55内に析出することがあり、この析出に起因する水中ポンプ55の不具合発生を防止するために、定期的に水中ポンプ55のメンテナンス等を行う必要があり手間がかかるという課題もあった。
【発明の概要】
【0009】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであって、安価で、長期間使用しても良好な栽培環境を維持することができ、植物の生長を促進させることができる植物栽培器具を提供することを目的としている。
【0010】
上記目的を達成するために本発明に係る植物栽培器具(1)は、水耕栽培用の植物栽培器具であって、養液が収容される養液槽と、該養液槽を上部と下部とに仕切る仕切部材と、前記養液槽の上部に配設される植物保持部材とを備え、前記仕切部材が、前記養液槽の下部に空気を供給して発生させた気泡を前記養液槽の上部に移動させるための通気部と、前記養液槽の上部の前記養液を前記養液槽の下部に移動させるための通液部とを備え、前記通気部が、前記気泡を収集可能な形状をした気泡収集部と、該気泡収集部に収集された前記気泡を通過させる通気孔とを含んで構成され
、前記仕切部材が、底面部を有する栽培槽で構成され、前記底面部の一端側に前記通気部が形成され、他端側に前記通液部が形成され、
前記養液槽が、前記栽培槽を配置するための段差部を備えていることを特徴としている。
【0011】
上記植物栽培器具(1)によれば、前記仕切部材により前記養液槽が上部と下部に仕切られ、前記養液槽の下部に空気を供給して発生させた気泡が前記気泡収集部で収集され、これら収集された気泡が前記通気孔を通って前記養液槽の上部に移動(上昇)し、これら気泡の上昇に伴って、前記養液が前記養液槽の下部から上部にポンプアップされる。このポンプアップ作用に伴って、前記養液槽の上部の養液が前記通液部の方向に流れ、その後、該通液部を通って前記養液槽の下部に流れる。その結果、安価な構成で、前記養液中の溶存酸素濃度を高く維持することができるとともに、前記養液を前記養液槽内で効率よく循環させることができ、長期間使用しても良好な栽培環境を維持することができ、植物の生長を促進させることができる。
【0012】
また本発明に係る植物栽培器具(2)は、水耕栽培用の植物栽培器具であって、養液が収容される養液槽と、該養液槽を上部と下部とに仕切る仕切部材と、前記養液槽の上部に配設される植物保持部材とを備え、前記仕切部材が、前記養液槽の下部に空気を供給して発生させた気泡を前記養液槽の上部に移動させるための通気部と、前記養液槽の上部の前記養液を前記養液槽の下部に移動させるための通液部と、前記通気部が前記通液部よりも上に位置するように傾斜させて形成された仕切面とを備え
、前記仕切部材が、底面部を有する栽培槽で構成され、前記底面部の一端側に前記通気部が形成され、他端側に前記通液部が形成され、前記養液槽が、前記栽培槽を配置するための段差部を備えていることを特徴としている。
【0013】
上記植物栽培器具(2)によれば、前記仕切部材により前記養液槽が上部と下部に仕切られ、前記養液槽の下部に空気を供給して発生させた気泡が、前記傾斜した仕切面に沿って上昇した後、前記通気部を通って前記養液槽の上部に移動(上昇)し、これら気泡の上昇に伴って、前記養液が前記養液槽の下部から上部にポンプアップされる。このポンプアップ作用に伴って、前記養液槽の上部の養液にも前記通液部の方向への流れが生じる。さらに、前記仕切面が傾斜しているので、前記養液槽の上部の養液が前記通液部の方向に流れやすくなっており、その後、該通液部を通って前記養液槽の下部に流れ込むこととなる。その結果、安価な構成で、前記養液中の溶存酸素濃度を高く維持することができるとともに、前記養液を前記養液槽内で効率よく循環させることができ、長期間使用しても良好な栽培環境を維持することができ、植物の生長を促進させることができる。
【0015】
上記植物栽培器具
(1)、(2)によれば、前記仕切部材が前記栽培槽で構成され、前記養液槽が前記栽培槽を配設するための段差部を備えているので、前記栽培槽を前記養液槽に容易に設置することができる。また、前記底面部の一端側に前記通気部が形成され、他端側に前記通液部が形成されているので、前記養液槽内の養液全体を一定の方向に循環させることができ、植物の根全体に酸素や栄養素が吸収されやすい環境を作り出すことができる。
【0016】
また本発明に係る植物栽培器具
(3)は、上記植物栽培器具
(1)又は(2)において、前記植物保持部材が、植物を保持する植物保持部と、液体肥料容器を保持する液肥保持部とを備え、該液肥保持部に装着される液肥補給手段をさらに備え、該液肥補給手段が、前記養液槽に収容された養液が所定位置より低下すると前記液体肥料容器から液肥を補給するものであることを特徴としている。
【0017】
上記植物栽培器具
(3)によれば、前記植物保持部材の前記植物保持部により前記植物を簡単に定植することができ、また、前記液肥保持部に前記液体肥料容器を常時設置しておくことができる。また、前記液肥補給手段が前記液肥保持部に装備されているので、養液量を一定に保つことができる。すなわち、長期間使用しても養液中の液体肥料の濃度を一定に保つことができ、植物の生長に良好な栽培環境を作りだすことができる。
【0018】
また本発明に係る植物栽培器具
(4)は、上記植物栽培器具(1)〜
(3)のいずれかにおいて、前記気泡を発生させるエアポンプをさらに備えていることを特徴としている。
【0019】
上記植物栽培器具
(4)によれば、前記エアポンプを使用するので、水中(液送)ポンプと比較してメンテナンスの手間が少なく、また、前記水中ポンプと比較して安価であり、消費電力も少なく、長期間使用した場合の節電効果を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る植物栽培器具の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る植物栽培器具の要部分解断面図である。
図2は、実施の形態に係る植物栽培器具を構成する保持板の平面図であり、
図3は、栽培槽の平面図である。
図4は、実施の形態に係る植物栽培器具の組立状態を示す断面図であり、
図5は、使用状態を示す断面図である。
【0022】
植物栽培器具1は、養液が収容される養液槽10と、養液槽10を上部と下部とに仕切る仕切部材としての栽培槽20と、養液槽10の開口部11に配設される植物保持部材としての保持板30とを含んで構成され、
図4、5に示すようにエアポンプ3を使用して養液槽10の下部(栽培槽20の下方)の養液2中に空気が供給される構造となっている。
【0023】
養液槽10は、平面視略円形の底面部12と、側面を構成する側壁部13とを備えている。側壁部13の高さ方向の中間部内周面には、栽培槽20を配設するための段差部14が形成され、側壁部13の高さ方向の上部内周面には、保持板30を配設するための段差部15が形成されている。養液槽10の大きさは特に限定されないが、家庭用とする場合には、使い勝手を考慮して、直径約30cm〜50cm、深さ約20cm〜30cm程度の大きさとすることが好ましい。
【0024】
栽培槽20は、平面視略円形の底面部21と、側面を構成する側壁部22とを備え、養液槽10内の段差部14に底面部21が配設されるようになっている。底面部21には、エアポンプ3に接続されたチューブ4先端のエア供給部5から養液槽10の下部(栽培槽20の下方)に発生させた気泡を養液槽10の上部(栽培槽20内)に移動させるための通気部23と、養液槽10の上部の養液2を養液槽10の下部に移動させるための通液部24とが形成されている。通気部23は、底面部21における中心線上の一端部に形成され、通液部24は、前記中心線上の他端部に形成されている。
【0025】
通気部23は、気泡が収集可能なように上に凸の曲面状(断面視略円弧形状)に形成された気泡収集部23aと、気泡収集部23aの略中央頂部に形成された通気孔23bとを含んで構成されている。気泡収集部23aの大きさ(面積)は、エアポンプ3から養液槽10の下部に供給される気泡の広がりを考慮して、これら気泡が収集されやすい大きさに設定されている。また、通気孔23bの大きさは、前記気泡の上昇に伴う養液2のポンプアップ作用が得られる大きさであれば特に限定されないが、使用するエアポンプ3の空気吐出量等を考慮して、養液2の上昇流が生じる大きさに設定される。
【0026】
例えば、エアポンプ3の空気吐出量が、約0.5L〜2L/min程度である場合には、通気孔23bの大きさは直径約0.5cm〜1.5cm程度とすることが好ましい。また、通気孔23bの数は、1個に限定されるものではなく、栽培槽20の大きさや形状、エアポンプ3の空気吐出量などを考慮して設定される。例えば、
図6に示した栽培槽20Aのように通気孔23bを複数個形成してもよい。係る構成によれば、通気孔23bを流れる養液2の上昇流がより効率良く生じることとなる。また、通気孔23bを筒形状としても同様のポンプアップ作用が得られる。
【0027】
通液部24は、下に凸のなだらかな傾斜面状に形成された養液流入部24aと、養液流入部24aに形成された通液孔24bとを含んで構成されている。養液流入部24aの大きさ(面積)は、通気部23側から流れてくる養液2が流れ込みやすいように、気泡収集部23aの面積よりも大きく設定されている。また、通液孔24bの大きさは、養液2の循環流が生じやすくするために通気孔23よりも大きく形成されている。
【0028】
保持板30は、略円盤形状に形成され、養液槽10上部の段差部14に配設される。保持板30を構成する材料は、耐水性を有しているものであれば特に限定されないが、軽量で取り扱いが容易であるという観点から厚さが2〜5cm程度の発泡スチロールで構成することが好ましい。
【0029】
保持板30には、植物を保持する定植孔31(植物保持部)と、液体肥料容器32を保持する液肥保持孔33(液肥保持部)と、エアポンプ3のチューブ4を通すためのチューブ孔34が形成されている。定植孔31には、植物の種苗等が配置される保持具35(
図4、5参照)が配設されている。保持具35の形態は、定植孔31に配設可能であれば特に限定されず、種から栽培する場合や苗から栽培する場合に応じて適した形態、例えば、筒形状や篭形状にすることができる。また、保持具35の内部には、種苗の保持性を高めるためスポンジなどの多孔質部材を配設する構成としてもよい。かかる保持具35によって、生長した植物を安定した状態で保持することが可能となる。なお、保持具35を使用せずに、定植孔31に植物の苗を直接定植してもよい。定植孔31や保持具35によって、栽培する植物の根全体が栽培槽20内の養液2に浸かるようになっている。
【0030】
液肥保持孔33には、
図4、5に示すように液体肥料容器32の口に装着された液肥補給具36が、その先端部が養液面に接触するように配設される。養液槽10の養液面が液肥補給具36の先端位置より低下すると、液体肥料容器32の液肥が液肥補給具36の先端位置まで自動的に補給されるようになっている。
【0031】
また、液肥保持孔33は、栽培槽20の通気孔23bと略対向する位置付近に形成されている。そのため、液体肥料容器32から供給された液肥が、養液2の循環する流れに乗って植物の根全体に行き渡りやすくなっている。また、定植孔31の数は、1つに限定されるものではなく、保持板30の大きさや形状等に応じて複数個形成してもよい。
【0032】
また、植物栽培器具1に使用されるエアポンプ(送気ポンプ)3の形式は特に限定されないが、モーターを使用しない安価かつ耐久性のある熱帯魚用の小型電磁式(磁石と電磁石を組み合わせて構成された)エアポンプを使用することが好ましい。小型電磁式のエアポンプを使用することで、従来使用されていた水中(送液)ポンプを使用する栽培と比較して、電気代を約半分に抑えることが可能となる。エアポンプ3の駆動電力は、図示しない家庭用電源又は電池などから供給されるようになっている。
【0033】
エアポンプ3に接続されたチューブ4(
図4、5参照)は、保持板30のチューブ孔34及び栽培槽20の通気孔23bを通して養液槽10の下部に配置され、チューブ4の先端部には、気泡を発生させるための多孔質体、例えば、スポンジやエアストーンで形成されたエア供給部5が装着されている。
【0034】
次に植物栽培器具1における酸素供給作用と養液循環作用について説明する。
植物栽培の準備が整った後、エアポンプ3を作動させると、
図5に示すようにチューブ4先端のエア供給部5から養液中に気泡が発生し、養液中に酸素が供給される。これら気泡は、上昇しながら栽培槽20の底面部21の気泡収集部23aに収集され、その後、通気孔23bから養液槽10の上部(栽培槽20内)に上昇する。この気泡の上昇とともに、養液2が養液槽10の下部から上部にポンプアップされる。このポンプアップ作用に伴って、栽培槽20内の養液2が通液部24の方向に流れ、底面部21の通液孔24bから養液槽10の下部に養液2が流れ込むこととなる。このようにして養液槽10内の下部(栽培槽20の下)から上部(栽培槽20内)へ、該上部から下部へと養液2が循環する流れが生じる。この循環流に乗って、栽培槽20内の植物の根全体に養液中の酸素や液肥の栄養素が行き渡るようになっている。
【0035】
また、養液2の蒸発や植物への吸収によって養液槽10の養液面が低下した場合、液肥補給具36の先端から液体肥料容器32内の液肥が補給されて、養液面がほぼ一定に保たれ、植物の根全体が、常に養液2に浸かった状態にすることが可能となっている。
【0036】
上記実施の形態に係る植物栽培器具1によれば、栽培槽20により養液槽10が上部と下部に仕切られ、エアポンプ3から養液槽10の下部に空気を供給して発生させた気泡が通気部23(気泡収集部23a及び通気孔23b)を通って養液槽10の上部に移動(上昇)するため、通気部23を通る気泡の上昇とともに、養液2が養液槽10の下部から上部(栽培槽20内)にポンプアップされる。このポンプアップ作用に伴って、栽培槽20内の養液2は、通液部24の方向に流れ、その後、通液部24の通液孔24bを通って養液槽10の下部に流れ込むこととなる。この結果、エアポンプ3から発生させた気泡によって養液中の溶存酸素濃度を高く維持することができ、しかも養液2を養液槽10内で効率よく循環させることができ、長期間使用する場合でも良好な栽培環境を維持することができる。また、安価な熱帯魚用(電磁式)のエアポンプ3を使用することができ、小規模で少数の植物を安定した環境で生長させることができる安価な水耕栽培システムを実現できる。
【0037】
また、栽培槽20の通気部23が気泡を収集可能な形状をした気泡収集部23aを有しているので、養液槽10の下部(栽培槽20の下方)に発生させた気泡を効率良く収集することができ、養液槽10の下部から上部(栽培槽20内)に流れる養液2のポンプアップ作用を高めることができる。
【0038】
また、養液槽10の側面に栽培槽20を配設するための段差部14が形成されているので、栽培槽20を養液槽10に容易に設置することができる。また、栽培槽20の底面部21における中心線上の一端部に通気部23が形成され、他端部に通液部24が形成されているので、養液槽10内の養液全体を一定の方向に循環させることができ、植物の根全体に酸素や栄養素が吸収されやすい環境を作り出すことができる。
【0039】
また、保持板30の定植孔31に保持具35を介して植物を簡単に定植することができる。また、保持板30の液肥保持孔33に液肥補充具36を装着した液体肥料容器32を常時設置しておくことができるので、養液量を一定に保つことができ、また、養液中の液体肥料の濃度を一定に保つことができ、植物の生長に良好な栽培環境を作りだすことができる。
【0040】
なお、本発明に係る植物栽培器具に適用できる栽培槽は、上記実施の形態で説明した栽培槽20、20Aに限定されるものではなく、例えば、
図7に示した栽培槽20Bを適用することができる。
図7に示した別の実施の形態に係る植物栽培器具1Aを構成する栽培槽20Bは、傾斜底面部21aと、側面を構成する側壁部22とを備え、養液槽10内の段差部14に配設されるようになっている。
【0041】
傾斜底面部21aには、一端部に通気部23としての通気孔23bが形成され、他端部に通液部24としての通液孔24bが形成され、底面全体を通気部23から通液部24側に下方へ傾斜させた形態となっている。傾斜底面部21aの水平面に対する傾斜角度は、養液槽10の下部に発生させた気泡が通気孔23bに収集されやすく、かつ、養液槽10の上部(栽培槽20B内)の養液が通液孔24bに流れ込みやすくするという観点から、養液槽10や栽培槽20Bの大きさも考慮して、約2°〜15°の範囲、より好ましくは3°〜10°の範囲に設定されている。
【0042】
このような植物栽培器具1Aによれば、上記した植物栽培器具1と略同様の効果を得ることができる。また、栽培槽20Bが傾斜底面部21aを備えているので、養液槽10の下部に発生させた気泡が傾斜底面部21aの傾斜に沿って上昇し、通気孔23bに収集されやすく、また、栽培槽20内の養液2が、傾斜底面部21aの傾斜に沿って通液孔24bに流れ込みやすくなっており、養液槽10内で養液2をより効率良く循環させることができる。また、別の形態では、傾斜底面部21aの中間部分で、通気部23側の傾斜が大きくなるように傾斜角を変えた形態にしたり、さらに別の形態では、通気孔23bの周辺部に上に凸の曲面状をした気泡収集部を形成して、通気孔23bに気泡がさらに収集されやすい形態とすることもできる。
【0043】
なお、上記した植物栽培器具1、1Aでは、養液槽10を上部と下部とに仕切る仕切部材として、容器形状をした栽培槽20、20Bが採用されているが、前記仕切部材は、容器形状に限定されるものではなく、例えば、通気部23と通液部24とを備えた平板部材などを採用することもできる。また、養液槽10や栽培槽20、20Aの形状は、平面視円形状に限定されるものではなく、平面視矩形形状や平面視楕円形状とすることができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
実施例1では、実施の形態に係る植物栽培器具1を使用してトマトの栽培を行い、生長した葉の展開面積を観察した。なお、展開面積とは、栽培したトマトを植物栽培器具の正面側から撮影し、生育により展開した葉全体(シルエット)の面積を示している。
【0045】
養液槽10には、上面開口部11の直径が約32cm、深さが約20cmの大きさものを使用した。栽培槽20には、通気部23として気泡収集部23aと、直径約1cmの通気孔23bとが形成され、通液部24として養液流入部24aと、長径が9cm、短径が約3cmの略楕円形をした通液孔24bとが形成されたものを使用した。保持板30には、厚さ3cmの発泡スチロール製のものを使用した。エアポンプ3には、最大吐出能力が、約1L/minの小型電磁式のエアポンプを使用した。
【0046】
栽培槽20やエアポンプ3等をセットした養液槽10に、所定量の養液2を入れ、保持板30の定植孔31にトマトの種が配置された保持具35を養液面に浸かるようにセットし、エアポンプ3を作動させた。
【0047】
比較例1では、上記養液槽10と略同程度の容積の栽培容器中に、所定量の養液を入れ、トマトの種を入れた栽培鉢を養液中に浸けて栽培を行った。比較例1では、実施例1のような仕切部材としての栽培槽20は設けていない。さらにエアポンプによる養液中へ空気の供給も行っていない。養液は、実施例1と同じものを使用した。
【0048】
比較例2では、上記養液槽10と略同程度の容積の栽培容器中に、所定量の養液を入れ、トマトの種を入れた栽培鉢を養液中に浸けて栽培を行った。比較例2では、実施例1のような仕切部材としての栽培槽20は設けていないが、実施例1と同じエアポンプ3による養液中へ空気の供給のみを行った。養液は、実施例1と同じものを使用した。
【0049】
これら実施例1に係る植物栽培器具及び比較例1、2に係る植物栽培器具を野外の同じ場所に設置して、栽培経過を観察した。なお、養液は適宜補充した。
図8は、実施例1に係る植物栽培器具及び比較例1、2に係る植物栽培器具を用いて、トマトを種から120日間栽培したときの、生長した葉の展開面積の変化を示したグラフを示している。
【0050】
図8に示すように、栽培開始90日目において、実施例1では、比較例1、2と比較して、展開面積が約1.5〜1.7倍程度となっており、生長速度に明らかな差が確認され始めた。さらに、栽培開始120日目において、実施例1では、比較例1、2と比較して、展開面積が約2.8〜3倍程度とさらに大きくなっており、比較例1、2と比較して植物の生長が大きく促進されていることが確認できた。すなわち、実施例1に係る植物栽培器具1では、エアポンプ3から養液槽10下部の養液中へ空気を供給することによって養液槽10及び栽培槽20内に養液の循環流を発生させることができ、植物の根全体から養液中の酸素や栄養素が常に吸収されやすい環境を作り出すことができた。