【文献】
RO濃縮水のリスク低減に向けた取組,廃炉・汚染水対策チーム会合、第6回事務局会議資料,福島第一廃炉推進カンパニー,2014年 5月29日,URL,http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/20140529_01.html
【文献】
福島第一原子力発電所の汚染水処理システムと東芝の取組み,東芝レビュー,日本,株式会社東芝,2012年,Vol.67 No.11,P.54,URL,https://www.toshiba.co.jp/tech/review/2012/11/index_j.html
【文献】
II 2.38 モバイル型ストロンチウム除去装置等,原子力規制委員会が、平成26年5月22日に東京電力株式会社から「福島第一原子力発電所 特定原子力施設に係る実施計画」の変更認可申請を受理し、同日公表した添付資料,2014年 5月26日
【文献】
放射能汚染水をモバイルタイプで出張処理! モバイル式汚染水処理装置 SARRY−Aqua,IHI技報,日本,株式会社IHI,2013年 4月,Vol.53 N0.1,P.4-,URL,https://www.ihi.co.jp/ihi/technology/review/2013/53_01.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記不都合に鑑みて、本発明は、放射性ストロンチウム及びストロンチウム以外のアルカリ土類金属を含有する汚染水からストロンチウムを選択的に除去できる稼働率の高い汚染水処理方法及び汚染水処理システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた発明は、放射性ストロンチウム及びストロンチウム以外のアルカリ土類金属を含有する汚染水から上記放射性ストロンチウムを除去するための汚染水処理方法であって、上記汚染水を移動可能な吸着ユニットに供給する工程を備え、上記吸着ユニットが、ストロンチウムを選択的に吸着する吸着剤が充填されている複数の吸着塔を有することを特徴とする。
【0008】
当該汚染水処理方法は、ストロンチウムを選択的に吸着する吸着剤を使用することにより、ストロンチウム以外のアルカリ土類金属を除去する工程を経ることなく、放射性ストロンチウムを除去できる。このため、当該汚染水処理方法は、放射性元素を含むアルカリ土類金属の廃棄物を排出しないので、最終処分すべき放射性廃棄物の総量を抑制できる。また、当該汚染水処理方法は、複数の吸着塔を有する吸着ユニットを使用するので、各吸着塔に充填された吸着剤を有効に利用できることによっても、放射性廃棄物の排出を抑制できる。また、当該汚染水処理方法は、移動可能な吸着ユニットを使用するため、汚染水を貯留する水槽の近傍に、吸着ユニットを含む汚染水処理システムを容易に設置及び撤去できると共に吸着ユニットを容易に交換できるので、汚染水処理の稼働率を高くできる。
【0009】
上記吸着ユニットから排出される処理水を上記汚染水が貯留される水槽に還流させるとよい。このように、処理水を汚染水の水槽に還流させることで、当該汚染水処理方法は、処理水を貯留する水槽の放射性元素による汚染度を低下させることができ、水槽のメンテナンス、解体、除染等が容易となる。また、処理水を還流させることで、処理水を受け入れる別の水槽を設置する必要がなく、汚染を拡大しない。
【0010】
上記複数の吸着塔が直列に接続されるとよい。このように、吸着塔を直列に接続すれば、処理水から段階的に放射性ストロンチウムを除去することで、放射性ストロンチウムの除去率を高められる。
【0011】
最上流の上記吸着塔を取り外して最下流に新しい吸着塔を追加する工程をさらに備えるとよい。このように、最上流の上記吸着塔を取り外して最下流に新しい吸着塔を追加することにより、吸着能力に余力のある吸着塔を下流側に配置して上流側の比較的古い吸着塔をバックアップすることによって放射性ストロンチウムの除去を担保できるので、上流側の吸着塔の吸着剤の吸着能力を使い切ることができる。
【0012】
上記汚染水が放射性ストロンチウム以外の放射性元素をさらに含み、上記吸着ユニットから排出される処理水中の上記放射性ストロンチウム以外の放射性元素を吸着剤により除去する工程をさらに備えるとよい。このように処理水中に残留する放射性ストロンチウム以外の放射性元素を除去する後工程を備えることで、放射性元素の除去をより完全なものとすることができる。
【0013】
上記吸着塔にセシウムを選択的に吸着する吸着剤がさらに充填されているとよい。このように、吸着ユニットの吸着塔においてSARRY(単純型汚染水処理システム)による処理後に残留するセシウム(放射性セシウム及び非放射性同位体)を除去することによって、放射性元素の除去をより完全なものとすることができる。
【0014】
上記汚染水が浮遊物質又は油分をさらに含み、上記吸着塔に上記浮遊物質又は油分を濾し取る濾材が充填されているとよい。このように、吸着塔に濾材を充填することによって、浮遊物質や油分が後工程の機能を阻害しないようにできる。
【0015】
また、上記課題を解決するためになされた別の発明は、放射性ストロンチウム及び放射性ストロンチウム以外のアルカリ土類金属を含有する汚染水から上記放射性ストロンチウムを除去するための汚染水処理システムであって、移動可能な吸着ユニットを備え、上記吸着ユニットが、ストロンチウムを選択的に吸着する吸着剤が充填されている複数の吸着塔を有することを特徴とする。
【0016】
当該汚染水処理システムは、ストロンチウムを選択的に吸着する吸着剤を使用することにより、ストロンチウム以外のアルカリ土類金属を除去する必要がない。このため、当該汚染水処理システムは、放射性元素を含むアルカリ土類金属の廃棄物を排出しないので、最終処分すべき放射性廃棄物の総量を抑制できる。また、当該汚染水処理システムは複数の吸着ユニットを効率よく利用することによっても、最終処分すべき放射性廃棄物の排出量を抑制できる。さらに、当該汚染水処理システムは、移動可能な吸着ユニットを備えることによって、設置及び撤去並びに吸着ユニットの交換が容易であるので、稼働率を高められる。
【0017】
上記複数の吸着塔へ汚染水を供給するポンプと、このポンプを載置する自走可能な台車とを有する移動可能なポンプユニットをさらに備えるとよい。このように、移動可能なポンプユニットを有することで、吸着ユニットと同様にポンプユニットの汚染水を貯留する水槽の近傍への設置及び撤去が容易となる。その結果、当該汚染水処理システムの稼働率を高くできる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の汚染水処理方法及び汚染水処理システムは、ストロンチウムを選択的に吸着する吸着剤を使用することにより、ストロンチウム以外のアルカリ土類金属を除去する必要がないので放射性廃棄物の総量を抑制できる。また、当該汚染水処理方法及び汚染水処理システムは、移動可能な吸着ユニットを使用するため、吸着ユニットの設置及び撤去並びに交換が容易であり、汚染水処理の稼働率を高くできる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。
【0021】
[第一実施形態]
図1の汚染水処理システムは、原水槽10と、移動可能なポンプユニット20と、移動可能な吸着ユニット30と、吸着ユニット30から排出される処理水を貯留する処理水槽40とを備える。原水槽10、ポンプユニット20、吸着ユニット30及び処理水槽40は、流路を構成する配管を介して接続される。
【0022】
<原水槽>
原水槽10には、汚染原水に対し、SARRY(単純型汚染水処理システム)によって放射性セシウムを除去する一次処理、並びに鉄共沈処理によって有機物及びα核種を除去する二次処理を施した中間汚染水(以下、単に汚染水と呼ぶことがある)が貯留される。
【0023】
当該汚染水処理システムは、炭酸塩沈殿処理等の処理によってアルカリ土類金属を除去することなく、放射性ストロンチウム及びストロンチウム以外のアルカリ土類金属を含有する汚染水から主に放射性ストロンチウムを除去する三次処理を行うためのシステムである。
【0024】
上記汚染原水としては、例えば原子炉から漏えいした冷却水、地下水、海水等に種々の異物が混合した水と、放射性ストロンチウム、放射性セシウム等の放射性元素と、カルシウム、マグネシウム等の放射性ストロンチウムの以外のアルカリ土類金属と、有機物等の浮遊物質(SS)及び油分とを含むものが想定される。
【0025】
このような原水槽10は、汚染原水の量が多い場合には、例えば容量1000kL以上のものが多数設けられ得る。
【0026】
<ポンプユニット>
ポンプユニット20は、原水槽10から汚染水を送出する1又は複数の給水ポンプ21と、この1又は複数の給水ポンプ21が載置される自走可能な台車(自動車)22とを有する。また、ポンプユニット20は、給水ポンプ21を駆動するためのエンジン、発電機等を有してもよく、外部から電力の供給を受けてもよい。給水ポンプ21の形式等は特に限定されないが、汚染水が外部に漏出しない完全密閉式のポンプであることが好ましい。また、複数のポンプユニット20を並列に接続してもよい。
【0027】
<吸着ユニット>
吸着ユニット30は、自走可能な台車(自動車)31と、この台車31の上に配置される3つの吸着塔32a,32b,32cとを有する。吸着塔32a,32b,32cには、ストロンチウムを選択的に吸着するストロンチウム用吸着剤が充填されている。複数の吸着ユニット30を並列又は直列に接続してもよい。
【0028】
(ストロンチウム用吸着剤)
ストロンチウム用吸着剤としては、例えばカルシウム及びマグネシウムを透過せず、ストロンチウムを選択的に透過する膜を表面に有し、ストロンチウムを吸着する無機材料を内部に有するカプセル状の吸着剤が使用できる。
【0029】
上記ストロンチウムを選択的に透過する膜としては、例えばカルシウムアルギン酸膜等が挙げられる。
【0030】
また、ストロンチウムを吸着する無機材料としては、A型ゼオライト、X型ゼオライト等が挙げられる。
【0031】
このようなストロンチウム用吸着剤は、浮遊物質及び油分を濾し取る濾材としても機能する多孔質体に担持させることが好ましい。このような担持体としては、活性炭、ゼオライト等が挙げられる。
【0032】
また、吸着塔32a,32b,32cには、ストロンチウム用吸着剤の担持体とは別に、浮遊物質及び油分を濾し取る濾材が充填されてもよい。
【0033】
さらに、吸着塔32a,32b,32cには、ストロンチウム用吸着剤に加えて、セシウムを選択的に吸着するセシウム用吸着剤が充填されていることが好ましい。
【0034】
セシウム用吸着剤としては、ゼオライト、フェロシアン化金属化合物等が挙げられる。ゼオライトは、セシウム選択性はあまり高くないが、他の放射性元素を吸着でき、上記担持体及び上記濾材としても機能するため好適である。また、フェロシアン化金属化合物は、塩水中でのセシウム吸着効果が高いので汚染水が海水等を含む場合には特に有効である。フェロシアン化金属化合物としては、フェロシアン化鉄、フェロシアン化コバルト、フェロシアン化ニッケル等が挙げられ、中でも放射性セシウム吸着能力に優れるフェロシアン化鉄が好ましい。
【0035】
吸着ユニット30において、吸着塔32a,32b,32cは、例えば
図2に示すように接続される。吸着塔32a,32b,32cは、給水側に給水三方弁33a,33b,33cを有し、排水側に排水三方弁34a,34b,34cを有する。
【0036】
各給水三方弁33a,33b,33cの1つのポートは、ポンプユニット20から汚染水が供給される供給流路(配管)35がそれぞれ接続される。また、各排水三方弁34a,34b,34cの1つのポートは、排出流路(配管)36を介して処理水槽40に接続される。一方、第1の吸着塔32aの排出三方弁34aのもう1つのポートは、第1の中間流路37aを介して第2の吸着塔32bの給水三方弁33bのもう1つのポートに接続される。また、第2の吸着塔32bの排出三方弁34bのもう1つのポートは、第2の中間流路37bを介して第3の吸着塔32cの給水三方弁33cのもう1つのポートに接続される。また、第3の吸着塔32cの排出三方弁34cのもう1つのポートは、第3の中間流路37cを介して第1の吸着塔32aの給水三方弁33aのもう1つのポートに接続される。
【0037】
<処理水槽>
処理水槽40は、吸着ユニット30から排出される処理水を貯留する水槽である。この処理水槽40としては、汚染水の貯留に使用されたことのない新品のタンク、汚染水の排出後に除染されたタンク、又は原水槽10に貯留する汚染水と比べて十分に放射性元素の含有量が少ない汚染水を貯留したタンクが使用される。
【0038】
この処理水槽40に貯留された処理水は、放射性元素が残留していないことが確認されてから、又は残留する放射性元素を除去する次の処理工程において残留する放射性元素が除去されてから、例えば海洋へ放出される。
【0039】
[汚染水処理方法]
これより、
図1の汚染水処理システムを用いる汚染水処理方法について説明する。
【0040】
当該汚染水処理方法は、
図3に示すように、SARRYによるセシウム除去工程(ステップS1)と、鉄共沈処理による有機物及びα核種除去工程(ステップS2)と、上記汚染水処理システムによるストロンチウム除去工程(ステップS3)と、吸着処理による残留放射性元素除去工程(ステップS4)とを備える。
【0041】
<セシウム除去工程>
ステップS1のセシウム除去工程では、SARRYによって、汚染原水から放射性セシウム(及び非放射性同位体)を吸着除去する。SARRYについては公知であるため、詳細な説明を省略する。このセシウム除去工程において放射性セシウムが少なくとも部分的に除去された中間汚染水は、不図示の水槽に貯留される。
【0042】
<有機物及びα核種除去工程>
ステップS2の有機物及びα核種除去工程では、鉄共沈処理により、有機物及びα核種を沈殿除去する。鉄共沈処理については公知であるため、詳細な説明を省略する。この有機物及びα核種除去工程においてさらに有機物及びα核種が除去された中間汚染水は、
図1の原水槽10に貯留される。
【0043】
<ストロンチウム除去工程>
ステップS3のストロンチウム除去工程は、当該汚染水処理システムを組み立てる工程と、吸着ユニット30の吸着塔32a,32b,32cへ汚染水を供給する工程と、排出される処理水の放射線量が増加したときに吸着ユニット30を交換する工程と、当該汚染水処理システムを撤去する工程とを有する。
【0044】
(組み立て工程)
汚染水処理システムの組み立ては、先ず、ポンプユニット20の台車22及び吸着ユニット30の台車31を自走させ、ポンプユニット20及び吸着ユニット30を原水槽10の近傍に駐車する。次いで、原水槽10とポンプユニット20との間、ポンプユニット20と吸着ユニット30との間、及び吸着ユニット30と処理水槽40との間の配管を接続する。
【0045】
(汚染水供給工程)
汚染水供給工程では、ポンプユニット20の給水ポンプ21を駆動することにより、原水槽10から汚染水を引き抜いて、吸着ユニット30の吸着塔32a,32b,32cへ供給する。例えば、原水槽10における放射能濃度が10万ベクレル程度である場合に、このストロンチウム除去工程において、吸着ユニット30から排出される処理水の放射能濃度が100ベクレル以下となると考えられる。
【0046】
(吸着ユニット交換工程)
さらに、当該汚染水処理方法では、当該汚染水処理システムの処理流量を監視すると共に、排出流路36から処理水を定期的にサンプリングして処理水の放射線量を測定する。そして、処理流量が所定の下限値以下となったとき、及び処理水の放射線量が予め定めた上限値以上となったときには、給水ポンプ21の駆動を中断して、吸着ユニット30を新しいものに交換する。なお、放射線量の上限値は、サンプリング間隔及び放射線量の測定に要する時間を考慮して、十分に低い値に設定する。
【0047】
吸着ユニット30の交換は、古い吸着ユニット30を自走させて当該廃水処理システムから撤去し、これにより空いたスペースに新しい吸着ユニット30を自走させて配置する。また、撤去した古い吸着ユニット30は、そのまま自走させることにより、放射性廃棄物の処理を行う場所に移動してもよい。
【0048】
(撤去工程)
原水槽10の汚染水をすべて処理できたならば、原水槽10とポンプユニット20との間、ポンプユニット20と吸着ユニット30との間、及び吸着ユニット30と処理水槽40との間の各配管を取り外し、ポンプユニット20及び吸着ユニット30を自走させて当該汚染水処理システムを撤去する。
【0049】
また、撤去したポンプユニット20及び吸着ユニット30を自走させて、別の原水槽10の近傍に移動し、別の原水槽10に貯留されている汚染水から放射性ストロンチウムを除去する汚染水処理システムを組み立てるために使用してもよい。
【0050】
<残留放射性元素除去工程>
ステップS4の残留放射性元素除去工程では、放射性元素を吸着する吸着剤を用いて処理水槽40に貯留する処理水から残留する放射性元素を除去する。使用する吸着剤等、残留放射性元素除去工程の条件は公知であるため、詳細な説明は省略する。なお、この残留放射性元素除去工程は、ステップS1のセシウム除去工程、ステップS2の有機物及びα核種除去工程、並びにステップS3のストロンチウム除去工程の能力が十分に高い場合には省略してもよい。
【0051】
<利点>
当該汚染水処理方法では、処理水に対して炭酸塩沈殿処理等の前処理を行うことなく、当該汚染水処理システムの吸着塔32a,32b,32cにおいて処理水中のストロンチウムを選択的に吸着するので、放射性廃棄物となる汚泥を生じさせることなく、処理水から放射性ストロンチウムを除去することができる。
【0052】
当該汚染水処理システムは、ポンプユニット20及び吸着ユニット30が自走可能であるので、当該汚染水処理システムの組み立て及び撤去、並びに吸着ユニット30の交換のためにクレーン車等の重機を必要としない。このため、当該汚染水処理システムは、ダウンタイムが短く、稼働率を高くできる。
【0053】
また、当該汚染水処理システムは、吸着塔32a,32b,32cにストロンチウムを選択的に吸着する吸着剤が充填されているので、汚染水中にカルシウムやマグネシウムが存在していても、放射性ストロンチウム(及び非放射性同位体)を効率よく除去できる。これにより、当該汚染水処理システムは、炭酸塩沈殿処理によるアルカリ土類金属の除去を必要としないので、放射性元素を含む炭酸塩スラリーを排出せず、最終処分すべき放射性廃棄物の排出量を低減できる。
【0054】
また、当該汚染水処理システムでは、吸着塔32a,32b,32cに濾材を充填することにより、汚染水中の浮遊物質や油分も除去することができる。このため、次の工程で残留する放射性元素を容易に除去できる。
【0055】
また、当該汚染水処理システムでは、吸着塔32a,32b,32cにセシウム用吸着剤も充填することにより、SARRYによって除去しきれずに汚染水中に残留する放射性セシウムも除去することができる。これにより、SARRYの負荷を低減することができる。
【0056】
特に、放射性セシウムは、γ線を放出する放射性元素であるため、処理水中に残留していると処理水を貯留する水槽の外部にγ線が漏えいするため、完全に除去することが望まれる。従って、当該汚染水処理システムは、放射性セシウム除去能力を併せ持つことが好ましい。このように、当該汚染水処理システムによって、放射性セシウム及び放射性ストロンチウムを除去することで、処理水槽からの放射線の漏出を防止できる。このため、当該汚染水処理システムの処理水を処理水槽に貯留した状態で置いておいても放射能に係るリスクは比較的小さいので、最終処理を遅らせることができる
【0057】
また、当該汚染水処理システムでは、処理水槽40の放射性元素濃度を十分に低くすることができる。これにより、将来、この処理水槽40を解体して除染する際に、その作業が容易となる。
【0058】
[第二実施形態]
図4の汚染水処理システムは、原水槽10から汚染水を送出する移動可能なポンプユニット20と、ポンプユニット20により汚染水が供給される移動可能な吸着ユニット30とを備え、吸着ユニット30から排出される処理水が原水槽10に還流される。
【0059】
図4の汚染水処理システムにおいて、原水槽10、ポンプユニット20及び吸着ユニット30の構成は、
図1の汚染水処理システムにおける原水槽10、ポンプユニット20及び吸着ユニット30の構成と同様であるため、重複する説明は省略する。
【0060】
[汚染水処理方法]
図4の汚染水処理システムを使用する汚染水処理方法も、SARRYによるセシウム除去工程と、鉄共沈処理による有機物及びα核種除去工程と、当該汚染水処理システムによるストロンチウム除去工程と、吸着処理による残留放射性元素除去工程とを備える。
【0061】
この汚染水処理方法は、
図3の汚染水処理方法とストロンチウム除去工程が異なるだけであるため、セシウム除去工程、有機物及びα核種除去工程、並びに残留放射性元素除去工程については説明を省略する。
【0062】
<ストロンチウム除去工程>
図4の汚染水処理システムによるストロンチウム除去工程は、当該汚染水処理システムを組み立てる工程と、汚染水を吸着ユニット30に供給する工程と、吸着塔32a,32b,32cのうち最上流に接続されている1つを取り外し、最下流に新しい吸着塔を追加する工程と、当該汚染水処理システムを撤去する工程とを有する。
【0063】
(組み立て工程)
当該汚染水処理システムの組み立ては、先ず、ポンプユニット20の台車22及び吸着ユニット30の台車31を自走させ、ポンプユニット20及び吸着ユニット30を原水槽10の近傍に駐車する。次いで、原水槽10とポンプユニット20との間、ポンプユニット20と吸着ユニット30との間、及び吸着ユニット30と原水槽10との間の配管を接続する。
【0064】
(汚染水供給工程)
汚染水供給工程では、ポンプユニット20の給水ポンプ21を駆動することにより、原水槽10から汚染水を引き抜いて、吸着ユニット30の吸着塔32a,32b,32cへ供給する。
【0065】
(吸着塔取り外し及び追加工程)
この工程では、
図5A乃至
図5Cに示す手順で、吸着塔32a,32b,32cのうちの1つの交換を行う。
【0066】
当該汚染水処理方法では、当該汚染水処理システムの処理流量を監視すると共に、排出流路36から処理水を定期的にサンプリングして処理水の放射線量を測定する。そして、処理流量が所定の下限値以下となったとき、及び処理水の放射線量が予め定めた上限値以上となったときには、最上流に接続されている吸着塔を取り外し、最下流に新しい吸着塔を追加する。
【0067】
図5Aには、汚染水が、最初に第1の吸着塔32a、次いで第2の吸着塔32b、そして最後に第3の吸着塔32cを通過するようにした状態が示されている。なお、
図5A乃至
図5Cでは、吸着塔32a,32b,32cの吸着剤の状態を模式的に示すため、内部の吸着剤の飽和度が高いほど、狭い間隔のハッチングがなされている。
【0068】
吸着塔32a,32b,32cは、内部の吸着剤がストロンチウムを吸着し、この吸着剤が上流側から徐々に飽和する。排出流路36の処理水の放射線量が上限値に達したとき、
図5Aに示すように、最上流に接続されている吸着塔32aの吸着剤が完全に飽和していると考えられるが、下流側の吸着塔32b,32cは、完全には飽和しておらず、ストロンチウムの吸着能力に余力を残している。
【0069】
そこで、
図5Bに示すように、最上流に接続されている吸着塔32aの給水三方弁33a及び排水三方弁34aを遮断し、2番目の吸着塔32bの給水三方弁33bの供給流路35側のポートを開いて、汚染水が1番目以外の2つの吸着塔32b,32cのみを通過するように流路構成を変更する。そして、この状態で、飽和した吸着塔32aを新しい吸着塔に交換する。
【0070】
ここで、
図5Cに示すように、新しく取り付けた吸着塔32aが最下流に追加されるようなバルブパターンが選択される。これにより、吸着塔32a,32b,32cは、下流側程飽和度が低く、吸着能力の余力が大きくなるような順番で接続される。
【0071】
この後、最上流に接続されている吸着塔が飽和する度に、順次、最上流に接続されている吸着塔を取り外して新しい吸着塔を最下流に追加する。
【0072】
以上のように、
図4の汚染水処理システムでは、汚染水の処理を継続しながら、吸着塔32a,32b,32cのうちの1つを交換する。
【0073】
(撤去工程)
図4の汚染水処理システムでは、原水槽10に貯留する汚染水の放射性ストロンチウム濃度又は放射能濃度を測定し、汚染水中の放射性ストロンチウムを十分に除去できたと判断したなら、原水槽10とポンプユニット20との間、ポンプユニット20と吸着ユニット30との間、及び吸着ユニット30と処理水槽40との間の各配管を取り外し、ポンプユニット20及び吸着ユニット30を自走させて当該汚染水処理システムを撤去する。
【0074】
<利点>
図4の汚染水処理システムは、吸着ユニット30から処理水を原水槽10に還流させるので、汚染水を繰り返し吸着ユニット30に供給して原水槽10に貯留する汚染水の放射性ストロンチウム含有量を徐々に低下させる。つまり、当該汚染水処理システムは、吸着ユニット30から排出される処理水の放射性ストロンチウム濃度が一定である必要がなく、吸着塔32a,32b,32cのストロンチウム吸着能力が低くても時間をかけることによって、汚染水の放射性ストロンチウム濃度を目標濃度まで低下させられる。
【0075】
このため、
図4の汚染水処理システムは、吸着塔32a,32b,32cのストロンチウム吸着能力が低下しても運転を継続できるので、
図1の汚染水処理システムと比べて吸着塔32a,32b,32cの有効寿命を延ばすことができる。また、
図4の汚染水処理システムにおいて、吸着塔32a,32b,32cの寿命を
図1の汚染水処理システムと同じに設定する場合には、吸着塔32a,32b,32cの容量を小さくできる。この結果、
図4の汚染水処理システムは、一定量一定汚染度の汚染水を処理するために必要とされる吸着剤の総量が
図1の汚染水処理システムよりも少なくて済む。
【0076】
また、
図4の汚染水処理システムは、処理水を原水槽10に還流するため、原水槽10の他に水槽を必要とせず、別の水槽を汚染しない。
【0077】
また、当該汚染水処理方法では、原水槽10の放射性ストロンチウム濃度を低下させるので、ストロンチウム除去工程後に原水槽10から汚染水を排出した後、残される原水槽10の放射能濃度が低くなる。このため、原水槽10のメンテナンス、解体、除染等が容易となる。
【0078】
また、当該汚染水処理方法では、吸着塔32a,32b,32cの交換のためにストロンチウム除去工程を中断する必要がないので、さらに稼働率を向上できる。
【0079】
[その他の実施形態]
上記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、上記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて上記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらはすべて本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0080】
当該汚染水処理システムの吸着ユニットは、移動可能であればよく、自走能力がないものであってもよい。自走能力のない移動可能な吸着ユニットとしては、例えば他の自動車等に牽引されるもの、フォークリフト等によって搬送可能に構成されるものなどが挙げられる。
【0081】
例えば、吸着塔の数は3つに限定されず、2以上の任意の数とすることができる。
【0082】
当該汚染水処理方法において、処理水中の浮遊物質等が少なく、目詰まりのおそれがない場合には、当該汚染水処理システムの処理流量の監視を省略してもよい。
【0083】
また、吸着塔に充填された吸着剤の飽和は、中間流路等において各吸着塔から排出される処理水の放射線量を測定することによって吸着塔毎に判断してもよい。また、吸着塔に充填された吸着剤の飽和は、放射線量の測定の他、処理水のストロンチウム濃度、放射能濃度、金属イオン濃度等の値、又は各吸着塔に供給される汚染水と排出される処理水との放射能濃度、金属イオン濃度等の差を指標として判定することができる。
【0084】
また、
図1の装置構成の廃水処理システムに、
図5A乃至
図5Cの吸着塔取り外し及び追加工程を適用してもよく、
図4の装置構成の廃水処理システムにおいて、吸着塔を交換することなく吸着ユニットを交換してもよい。
【0085】
また、ストロンチウム除去工程を多段階に分けてもよい。例えば、前段の汚染水処理システムの処理水槽が次段の汚染水処理システムの原水槽となるよう、当該汚染水処理システムを直列に接続してもよい。この場合、各段の汚染水処理システムの吸着ユニットのストロンチウム除去能力や汚染水流量が異なるよう設計することもできる。
【0086】
この場合、前段の汚染水処理システムは吸着ユニットのストロンチウム除去能力が低下しても運転を継続できるので、全体として吸着剤の利用率を高めることができ、実質的に吸着塔の寿命を延長できる。また、前段の汚染水処理システムは、ストロンチウムのすべてを除去することを企図しないので、吸着塔における汚染水の流量を大きくして原水槽に貯留する高濃度の汚染水をより早く減少させることにより、汚染拡散のリスクを低減できる。また、このような処理速度の向上を求めない場合には、各吸着塔の容量を小さくすることもできる。
【0087】
例えば、下流側の汚染水処理システムで一定程度使用した吸着ユニットを上流側の汚染水処理システムの吸着ユニットとして使用すれば、上流側の吸着ユニットの吸着剤を全て飽和するまで使い切ることができる。これにより、吸着塔の利用効率をさらに高め、結果として最終処分すべき放射性廃棄物の量を抑制できる。
【0088】
また、当該汚染水処理システムの吸着ユニットは、ストロンチウム用吸着剤を充填した吸着塔と、セシウム用吸着剤を充填した吸着塔とを有してもよい。この場合、汚染水は、先にセシウム用吸着剤を充填した吸着塔に通水され、次いでストロンチウム用吸着剤を充填した吸着塔に通水されることが好ましい。これは、セシウムよりもストロンチウムの方が除去が難しく、セシウム用吸着剤はストロンチウムも吸着できることが多いため、先にセシウム用吸着剤でストロンチウムの一部を除去することにより、ストロンチウムの除去率を向上できるからである。
【0089】
また、当該汚染水処理システムは、事故原発における原子炉容器、格納容器等を原水槽として構築してもよい。これにより、炉心冷却用循環水の放射能濃度を低減できる。