特許第6284865号(P6284865)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シェルルブリカンツジャパン株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6284865
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】変速機用潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 111/02 20060101AFI20180215BHJP
   C10M 169/04 20060101ALI20180215BHJP
   C10M 105/04 20060101ALN20180215BHJP
   C10M 101/02 20060101ALN20180215BHJP
   C10M 137/00 20060101ALN20180215BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20180215BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20180215BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20180215BHJP
   C10N 30/02 20060101ALN20180215BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20180215BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20180215BHJP
【FI】
   C10M111/02
   C10M169/04
   !C10M105/04
   !C10M101/02
   !C10M137/00
   C10N20:00 A
   C10N20:02
   C10N30:00 Z
   C10N30:02
   C10N30:06
   C10N40:04
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-200669(P2014-200669)
(22)【出願日】2014年9月30日
(65)【公開番号】特開2016-69531(P2016-69531A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年8月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】517436615
【氏名又は名称】シェルルブリカンツジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】篠田 憲明
(72)【発明者】
【氏名】丸山 竜司
(72)【発明者】
【氏名】岡見 克次
【審査官】 中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/043709(WO,A1)
【文献】 特表2010−513698(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00−177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ベース基油として、GTL低粘度基油(100℃における動粘度2mm/s〜5mm/s)と、
(B)潤滑油組成物の全質量を基準として2〜20質量%の量で、Group1である高粘度基油(100℃における動粘度30mm/s〜35mm/s)と
を含むと共に、
(C)粘度指数向上剤である高分子化合物の含有量が、潤滑油組成物の全質量を基準として0〜1.0質量%である潤滑油組成物であって、
(D)流動点が−50℃以下であり、−40℃におけるブルックフィールド粘度が10,000mPa・s以下であり、
(E)60℃、3.0m/sにおけるEHD油膜厚さが、同条件で測定したポリアルファオレフィン(100℃における動粘度4.0mm/s)の油膜厚さ比で15%以上であり、
(F)100℃における動粘度が4mm/s〜6mm/sであり、
(G)40℃における動粘度が20mm/s〜30mm/sである
ことを特徴とする変速機用潤滑油組成物。
【請求項2】
潤滑油組成物が、潤滑油組成物の全質量を基準として、リン系添加剤をリン分として0.10〜0.20質量%含有することを特徴とする請求項1の変速機用潤滑油組成物。
【請求項3】
(A)ベース基油として、GTL低粘度基油(100℃における動粘度2mm/s〜5mm/s)と、
(B)潤滑油組成物の全質量を基準として2〜20質量%の量で、Group1である高粘度基油(100℃における動粘度30mm/s〜35mm/s)と
を混合する工程を含む潤滑油組成物の製造方法であって、
得られた潤滑油組成物が、
(C)粘度指数向上剤である高分子化合物の含有量が、潤滑油組成物の全質量を基準として0〜1.0質量%であり、
(D)流動点が−50℃以下であり、−40℃におけるブルックフィールド粘度が10,000mPa・s以下であり、
(E)60℃、3.0m/sにおけるEHD油膜厚さが、同条件で測定したポリアルファオレフィン(100℃における動粘度4.0mm/s)の油膜厚さ比で15%以上であり、
(F)100℃における動粘度が4mm/s〜6mm/sであり、
(G)40℃における動粘度が20mm/s〜30mm/sである
ことを特徴とする変速機用潤滑油組成物の製造方法。
【請求項4】
潤滑油組成物が、潤滑油組成物の全質量を基準として、リン系添加剤をリン分として0.10〜0.20質量%含有することを特徴とする請求項3の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機用潤滑油組成物に関する。より詳細には、本発明は、低粘度化により撹拌抵抗を減少させる一方、油膜を保持し、ギヤ歯面の損傷を防ぐ省燃費型の変速機用潤滑油組成物に関する。また、本発明は、低温粘度も低く、冬季の始動性にも優れた変速機用潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より多くの潤滑油組成物が提案されている。例えば、特許文献1には、粘度指数が高く粘度指数向上剤の使用量を低減させるメリットを持つフィシャー・トロプッシュ由来基油(FT油)が開示されている。また、特許文献2には、低粘度FT油と高粘度Group1(溶剤精製鉱油)とを混合して得られた潤滑剤が開示されている。更には、特許文献3には、低粘度の鉱油系高度精製油と高粘度の溶剤精製鉱油とを混合して得られたギヤ油が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−236407号公報
【特許文献2】特開2009−520078号公報
【特許文献3】特開2012−193255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1〜3を含め、従来の潤滑油組成物は、その用途として自動車用変速機を考慮した場合、当該用途に求められる省燃費性を向上させ、耐荷重性を有し、油膜保持特性及び低温粘度特性のすべてを充足したものは存在していないのが実情である。ギヤ歯面に発生するピッチングなどの疲労破壊を防止するためには、特にこの油膜保持特性が重要である。一方、ギヤ油として耐荷重能を向上させるためには、化学的活性のある添加剤を使用する必要があるが、金属腐食を発生させる問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、省燃費性、耐荷重性、油膜保持特性及び低温粘度特性のすべてを充足した自動車用変速機(特に省燃費型)を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、GTL低粘度基油に、Group1である高粘度基油を所定量含み、化学活性のある添加剤添加量を最適化した潤滑油組成物が所望の物性を備えることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は、下記の通りである。
[1] (A)ベース基油として、GTL低粘度基油(100℃における動粘度2mm/s〜5mm/s)と、
(B)潤滑油組成物の全質量を基準として2〜20質量%の量で、Group1である高粘度基油(100℃における動粘度30mm/s〜35mm/s)と
を含むと共に、
(C)粘度指数向上剤である高分子化合物の含有量が、潤滑油組成物の全質量を基準として0〜1.0質量%である潤滑油組成物であって、
(D)流動点が−50℃以下であり、−40℃におけるブルックフィールド粘度が10,000mPa・s以下であり、
(E)60℃、3.0m/sにおけるEHD油膜厚さが、同条件で測定したポリアルファオレフィン(100℃における動粘度4.0mm/s)の油膜厚さ比で15%以上であり、
(F)100℃における動粘度が4mm/s〜6mm/sであり、
(G)40℃における動粘度が20mm/s〜30mm/sである
ことを特徴とする変速機用潤滑油組成物;
[2] 潤滑油組成物が、潤滑油組成物の全質量を基準として、リン系添加剤をリン分として0.10〜0.20質量%含有することを特徴とする[1]の変速機用潤滑油組成物;
[3] (A)ベース基油として、GTL低粘度基油(100℃における動粘度2mm/s〜5mm/s)と、
(B)潤滑油組成物の全質量を基準として2〜20質量%の量で、Group1である高粘度基油(100℃における動粘度30mm/s〜35mm/s)と
を混合する工程を含む潤滑油組成物の製造方法であって、
得られた潤滑油組成物が、
(C)粘度指数向上剤である高分子化合物の含有量が0〜1.0質量%であり、
(D)流動点が−50℃以下であり、−40℃におけるブルックフィールド粘度が10,000mPa・s以下であり、
(E)60℃、3.0m/sにおけるEHD油膜厚さが、同条件で測定したポリアルファオレフィン(100℃における動粘度4.0mm/s)の油膜厚さ比で15%以上であり、
(F)100℃における動粘度が4mm/s〜6mm/sであり、
(G)40℃における動粘度が20mm/s〜30mm/sである
ことを特徴とする変速機用潤滑油組成物の製造方法;
[4] 潤滑油組成物が、潤滑油組成物の全質量を基準として、リン系添加剤をリン分として0.10〜0.20質量%含有することを特徴とする[3]の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低粘度化により撹拌抵抗を減少させる一方、油膜を保持することによって、ギヤ歯面の損傷(疲労破壊)を防ぐ省燃費型の変速機用潤滑油組成物であり、低温粘度も低く、冬季の始動性にも優れた変速機用潤滑油組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本形態に係る変速機用潤滑油組成物は、GTL低粘度基油にGroup1である高粘度基油が配合されてなる。以下、本形態に係る変速機用潤滑油組成物の、具体的な成分、各成分の配合量、物性、用途に関して詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されない。
【0010】
≪変速機用潤滑油組成物≫
<成分>
(基油)
・GTL低粘度基油
GTL基油とは、天然ガスからGTL(Gas To Liquids)技術により合成されたCOやHを原料にしてフィッシャー−トロプシュ合成プロセスにより液化炭化水素を製造し、その液化炭化水素を水素化処理、水素異性化及び必要により接触若しくは溶剤脱ろうすることにより得られる潤滑油基油である。当該基油は、原油から精製された鉱油基油と比較して、硫黄分や芳香族分が極めて低く、パラフィン構成比率が極めて高いため、酸化安定性に優れ、蒸発損失も非常に小さいため、本発明の基油として好適である。GTL低粘度基油の粘度性状は特に制限されない。
【0011】
ここで、本発明に係る基油は、このようなGTL基油の内、GTL低粘度基油の100℃における動粘度が2〜5mm/sになるよう調整したGTL低粘度基油である。GTL低粘度基油は単独でも複数の混合でもよい。尚、当該動粘度は、好ましくは2.5〜4.5mm/s、より好ましくは2.7〜4.2mm/sである。100℃における動粘度が2mm/sを下回ると、前記(F)記載の潤滑油組成物としての動粘度を得るために多量の粘度指数向上剤を使用する必要があり、その場合せん断安定性の悪化が懸念される。一方、100℃における動粘度が5mm/sを上回ると、前記(F)記載の潤滑油組成物としての動粘度を得るのが困難となる。また40℃における動粘度は、2〜680mm/s、より好ましくは5〜120mm/sであってもよい。また通例全硫黄分は10ppm未満、全窒素分1ppm未満であってもよい。そのようなGTL基油商品の一例として、SHELL XHVI(登録商標)を挙げることができる。
【0012】
・Group1である高粘度基油(G1高粘度基油)
グループ1基油には、例えば、原油を常圧蒸留して得られる潤滑油留分に対して、溶剤精製、水素化精製、脱ろうなどの精製手段を適宜組合せて適用することにより得られるパラフィン系鉱油がある。粘度指数は、好ましくは80〜120、より好ましくは90〜110である。
【0013】
Group1高粘度基油の100℃動粘度は、30〜35mm/sであり、好ましくは30.5〜33.5mm/sである。100℃における動粘度が30mm/sを下回ると、十分な油膜厚さを保持することができず潤滑性の悪化を招く。一方、100℃における動粘度が35mm/sを上回ると、低温特性が悪化する。また全硫黄分は1.5質量%未満、好ましくは1.3質量%未満がよい。
【0014】
・その他の基油
本発明においては、発明の効果を阻害しない範囲で、上記の基油以外の基油を含むことができる。
【0015】
(リン系添加剤)
本発明においては、リン系添加剤を使用することができる。こうしたリン系添加剤としては、潤滑油用のリン系添加剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であるが、具体的には、例えば、リン酸モノエステル類、リン酸ジエステル類、リン酸トリエステル類、亜リン酸モノエステル類、亜リン酸ジエステル類、亜リン酸トリエステル類、及びこれらのエステル類とアミン類或いはアルカノールアミン類との塩等が使用できる。リン酸金属塩は、極圧剤としては特にジチオリン酸亜鉛が好ましく、ジチオリン酸亜鉛としては、例えば下記一般式(1)で表される化合物を例示できる。
【0016】
【化1】
【0017】
上記一般式(1)中のR1、R2、R3及びR4は、それぞれ別個に炭素数1〜24の炭化水素基を示す。これら炭化水素基としては、炭素数1〜24の直鎖状又は分枝状のアルキル基、炭素数3〜24の直鎖状又は分枝状のアルケニル基、炭素数5〜13のシクロアルキル基又は直鎖状若しくは分枝状のアルキルシクロアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は直鎖状若しくは分枝状のアルキルアリール基、及び炭素数7〜19のアリールアルキル基等のいずれかであることが望ましい。また、アルキル基やアルケニル基は、第1級、第2級及び第3級のいずれであってもよい。
【0018】
上記ジチオリン酸亜鉛の好適な具体例としては、例えば、ジイソプロピルジチオリン酸亜鉛、ジイソブチルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ブチルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ペンチルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−ヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−オクチルジチオリン酸亜鉛、ジ−2−エチルヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−デシルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−ドデシルジチオリン酸亜鉛、ジイソトリデシルジチオリン酸亜鉛、及びこれらの任意の組合せに係る混合物等が挙げられる。これらのリン系添加剤は、単独で用いることも、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0019】
(その他の成分)
必要に応じて、本発明に係る潤滑油組成物は、酸化防止剤、無灰分散剤、金属清浄剤、摩擦調整剤、防錆剤、腐食防止剤、消泡剤などを含むことが出来る。また、変速機用として上記添加剤をパッケージ化した添加剤パッケージなども使用可能であり、また、上記添加剤とパッケージの併用も可能である。
【0020】
(粘度指数向上剤)
但し、本発明に係る潤滑油組成物は、粘度指数向上剤である高分子化合物を含有していないことが好適であり、含有していたとしても下記で述べる量以下である。ここで、粘度指数向上剤の例には、非分散型粘度指数向上剤として、ポリメタクリレート及びエチレン/プロピレンコポリマーやスチレン/ジエンコポリマー等のオレフィンコポリマー等、並びにこれらと窒素含有モノマーを共重合することによって得られるもの等の分散型粘度指数向上剤が挙げられる。粘度指数向上剤の増粘力又は粘度指数付加力は通常、これの分子量に伴って増大する。しかし、粘度指数向上剤の分子量が増大するに伴い、せん断安定性は減少すると共に粘度低下を招く。
【0021】
<配合量>
以下、本発明の潤滑油組成物の配合について、詳細に説明する。
【0022】
(基油の配合量)
基油は、潤滑油組成物の全質量(100質量%)に対し、好ましくは70〜98質量%、より好ましくは80〜95質量%含有する。
【0023】
・潤滑油組成物におけるGTL低粘度基油の配合量
GTL低粘度基油は、潤滑油組成物の全質量(100質量%)に対し、好ましくは50〜96質量%、より好ましくは60〜93質量%含有する。
【0024】
・潤滑油組成物におけるGroup1高粘度基油の配合量
Group1高粘度基油は、潤滑油組成物の全質量(100質量%)に対し、2〜20質量%、好ましくは2〜15質量%、より好ましくは2〜10質量%含有する。20質量%を上回るとブルックフィールド粘度が、10,000mPa・sを超えてしまい粘性抵抗が非常に大きくなり、燃費の悪化を招くからである。2質量%を下回ると十分な油膜厚さが得られなくなり潤滑性の悪化を招く。
【0025】
(リン系添加剤の配合量)
全組成物におけるリン系添加剤のリン分としての配合量は0.10〜0.20質量%である。好ましくは、0.12〜0.18質量%である。配合量が、0.10未満の場合、摩擦係数が高く変速が円滑に行えず、またギヤ油としての耐荷重能レベルが維持できない。一方、0.20質量%を超えて添加すると腐食摩耗が進行の懸念及び、摩擦係数が低くなりすぎ変速時におけるシンクロの不具合が発生する恐れがある。
【0026】
(粘度指数向上剤の配合量)
粘度指数向上剤の配合量は、1.0質量%以下であり、好ましくは0.5質量%以下であり、より好ましくは0質量%である。粘度指数向上剤が1.0質量%を超えると、せん断安定性が低下し、当初粘度よりも低くなり油膜の膜厚の維持ができなくなる。
【0027】
<配合比>
以下、本発明を構成する成分相互の配合比について説明する。
【0028】
・GTL低粘度基油とGroup1高粘度基油との比
GTL低粘度基油とGroup1高粘度基油との配合比は、その質量において、好ましくは、GTL低粘度基油:Group1高粘度基油=1:0.01〜1:0.30であり、より好ましくは、1:0.02〜1:0.27である。
【0029】
≪変速機用潤滑油組成物の物性≫
次に、本発明に係る変速機用潤滑油組成物の物性に関して説明する。
【0030】
(流動点)
JIS K 2269により測定された流動点は、−50℃以下である。−50℃を超えると、寒冷地で使用される車両に当該潤滑油組成物が用いられる際に、潤滑油が十分な流動性を維持するために必要な性能を有さないことになる。
【0031】
(ブルックフィールド粘度)
DIN51398に準拠して測定されたブルックフィールド粘度は、−40℃において、10,000mPa・s以下である。好ましくは、組成物の−40℃でのブルックフィールド粘度は9000mPa・s未満で、より好ましくは8000mPa・s未満である。寒冷地など低温環境で使用される車両に当該潤滑油組成物が用いられる際に、−40℃におけるBF粘度が10,000mPa・sを上回ると、潤滑油撹拌時における粘性抵抗が非常に大きくなり、燃費の悪化を招く。
【0032】
(EHD油膜厚さ)
60℃、3.0m/sにおけるEHD油膜厚さ(PCS Insturuments社製EHD油膜測定装置を使用)が、同条件で測定したポリアルファオレフィン(100℃における動粘度4.0mm/s)の油膜厚さ比で15%以上である。より好ましくは、16%以上である。ここで、油膜厚さとは、弾性流体潤滑領域において摺動する物体間に形成される潤滑油の膜厚のことである。油膜が厚いと金属同士の接触を防ぐことができる事から、摩耗を抑制しさらには疲労寿命も延長することができる。逆に油膜が薄い場合、つまり油膜厚さが15%未満である場合には、十分に摩耗を抑制することができず、また疲労寿命が短くなる。
【0033】
(100℃における動粘度)
ASTM D445に準拠して測定された100℃における動粘度は、4mm/s〜6mm/sであり、好ましくは4.5mm/s〜5.5mm/sである。この100℃動粘度が4mm/sを下回ると、金属接触域の割合が増大し、摩擦抵抗の増加による燃費効率の悪化が懸念される。一方、100℃動粘度が6mm/sを上回ると、撹拌抵抗が増大することにより燃費が悪化する結果となる。
【0034】
(40℃における動粘度)
ASTM D445に準拠して測定された40℃における動粘度は、20mm/s〜30mm/sであり、好ましくは22mm/s〜28mm/sである。この100℃動粘度が20mm/sを下回ると、金属接触域の割合が増大し、摩擦抵抗の増加による燃費効率の悪化が懸念される。一方、40℃動粘度が30mm/sを上回ると、撹拌抵抗が増大することにより燃費が悪化する結果となる。
【0035】
(KRLせん断安定性)
せん断安定性は、ドイツ工業規格DIN52350−6に記載の方法に準拠したKRLせん断安定性試験により評価される。具体的には、KRLせん断試験機を用い、潤滑油組成物を60℃で20hrの間、せん断条件下(1450rpm)におき、試験前の100℃における動粘度に対する試験後の100℃における動粘度の低下率を求める。この値が小さいほどせん断安定性に優れることを表す。せん断安定性試験の動粘度の低下率の値は、好適には2%以下である。実施例・比較例中、KRLせん断安定性試験後における100℃における動粘度の低下率が2%以下のものを○、2%を超えるものについては×とした。
【0036】
(シフトフィーリング評価)
実車に充てんし、シフトの操作を評価した。通常の操作が可能な場合○と評価した。シフトチェンジの時にシフトが抜けにくい、又は入れにくい場合は×と評価した。
リン系添加剤などの摩擦調整剤の添加量が少なすぎると、摩擦係数が高くなり、ギヤコーンとシンクロナイザーリングが離れにくくなる現象、スティックトルクが発生する。その結果、シフトチェンジの際にギヤが抜けにくく感じられる。一方、添加量が多すぎると、摩擦係数が低くなり、ギヤコーンとシンクロナイザーリングが滑ってしまい同期不良となり、ギヤを入れにくくなる。
【0037】
≪用途≫
本発明に係る潤滑油組成物は、変速機(歯車装置、CVT、AT,MT、DCT、Diffなど)用である。特に、本発明に係る潤滑油組成物は、省燃費変速機油として適している。
【0038】
≪作用機序≫
本発明での新知見は、GTL低粘度基油に所定量のGroup1高粘度基油を混合することにより、粘度指数向上剤を加えずに優れた低温性とギヤ耐久性を両立した点である。ここで、GTL基油は従来のGroup2やGroup3に属する高度精製基油と比較し粘度指数が高いため、粘度指数向上剤を使用せずとも高粘度指数の潤滑油を得ることができる。その結果、基油自体の粘度を高くすることが可能となり、潤滑面における油膜を厚く保持し、ギヤ歯面等の金属接触部におけるハードウェア保護性が大幅に向上する。ここで、粘度指数向上剤は高分子ポリマーである。そのため、ギヤ歯面などで繰り返しせん断を受けると、高分子ポリマーの機械せん断が生じて粘度が低下し、ギヤ歯面の疲労耐久性はさらに悪化することとなる。本発明に係る潤滑油組成物は、粘度指数向上剤を用いないことで、低粘度による省燃費性能とギヤ歯面の損傷を防ぐことによる耐久性を兼ね備えることができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例及び比較例により、更に詳細に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
【0040】
≪原料≫
本実施例1〜10及び比較例1〜10で用いた原料は以下の通りである。
【0041】
<基油>
(低粘度基油)
・基油A:フィッシャートロプシュ法により合成されたGTL(ガストゥーリキッド)基油で、グループ2もしくはグループ3に属するものである。組成物としての100℃における動粘度が5mm/sになるよう、粘度の異なる基材を混合して使用した(昭和シェル石油社製、商品名:XVHI)。
・基油B:高度精製鉱物油でグループ2もしくはグループ3に属するものである。組成物としての100℃における動粘度が5mm/sになるよう、粘度の異なる基材を混合して使用した(SKルブリカンツ製、商品名:Yubase)。
・基油C:ポリアルファオレフィンでグループ4に属するものであり、100℃における動粘度が4.1mm/s、粘度指数が128のものである。
(高粘度基油)
・基油D:原油精製により得られたパラフィン系鉱油で、グループ1に属するものであり、100℃における動粘度が32.5mm/s、粘度指数が97のものである。
・基油E:ポリアルファオレフィンであり、100℃における動粘度が40mm/s、粘度指数が180のものである。
【0042】
<添加剤>
添加剤A:Zn系GL−4添加剤パッケージ
添加剤B:リン系FM添加剤パッケージ
添加剤C:PMA系粘度指数向上剤
【0043】
≪製造方法≫
表1及び表2に示した配合にて、各種成分を混合・撹拌し、実施例1〜10及び比較例1〜10に係る潤滑油組成物を得た。
【0044】
<潤滑油組成物の物性試験>
以上の原料の構成及び製造方法により調製した潤滑油組成物について、100℃及び40℃における動粘度、粘度指数、流動点、ブルックフィールド粘度、KRLせん断安定性、EHD油膜厚さを上記に記載された方法により測定し、表1及び2にその結果を示した。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】