特許第6284874号(P6284874)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6284874アスファルト舗装体、アスファルト舗装路面構造及びアスファルト舗装体の形成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6284874
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】アスファルト舗装体、アスファルト舗装路面構造及びアスファルト舗装体の形成方法
(51)【国際特許分類】
   E01C 7/22 20060101AFI20180215BHJP
   E01C 3/02 20060101ALI20180215BHJP
   E01C 11/24 20060101ALN20180215BHJP
【FI】
   E01C7/22
   E01C3/02
   !E01C11/24
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-236790(P2014-236790)
(22)【出願日】2014年11月21日
(65)【公開番号】特開2016-98570(P2016-98570A)
(43)【公開日】2016年5月30日
【審査請求日】2016年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000245852
【氏名又は名称】矢作建設工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501436045
【氏名又は名称】ヤハギ道路株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】織田 裕
(72)【発明者】
【氏名】神谷 隆
(72)【発明者】
【氏名】高木 正則
(72)【発明者】
【氏名】井上 司
【審査官】 神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−031679(JP,A)
【文献】 特開2013−028958(JP,A)
【文献】 特開平07−252434(JP,A)
【文献】 米国特許第04341836(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 7/22
E01C 3/02
E01C 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスファルト混合体を基体とする多孔質層と、
前記多孔質層の空隙に充填されることで微細孔を形成する微粒体群と、
前記多孔質層の空隙において、前記微粒体群よりも表層側に充填されることで細孔を形成する粒体群と、
前記多孔質層の前記表層において、前記粒体群を構成する粒体同士を接着する疎水性樹脂と、
前記表層において、前記細孔の内壁に付着して親水性膜を形成する界面活性剤と、
を備え
前記粒体群を構成する前記粒体は、前記微粒体群を構成する微粒体よりも粒径が大きく、
前記細孔は前記微細孔よりも大きい
ことを特徴とするアスファルト舗装体。
【請求項2】
記微粒体の粒度範囲が0.005〜0.15mmであり、
前記粒体の粒度範囲が0.08〜0.4mmである
請求項1に記載のアスファルト舗装体。
【請求項3】
前記多孔質層において、前記表層の厚さが0.5cm以上、1cm以下である
請求項1または請求項2に記載のアスファルト舗装体。
【請求項4】
請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載のアスファルト舗装体と、
前記アスファルト舗装体を支持する保水性を有する路盤と、
を備えるアスファルト舗装路面構造。
【請求項5】
アスファルト混合体を基体とする多孔質層を形成する多孔質層形成工程と、
前記多孔質層の空隙に微粒体群を充填して微細孔を形成する微粒体充填工程と、
前記多孔質層の空隙において、前記微粒体群よりも表層側に、接着用の疎水性樹脂と混合した粒体群を充填して細孔を形成する粒体充填工程と、
前記表層に界面活性剤を散布して、前記細孔の内壁に前記界面活性剤による親水性膜を形成する界面活性剤散布工程と、
を備え
前記粒体群を構成する粒体は、前記微粒体群を構成する微粒体よりも粒径が大きく、
前記細孔は前記微細孔よりも大きい
ことを特徴とするアスファルト舗装体の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスファルト舗装体、アスファルト舗装路面構造及びアスファルト舗装体の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、透水性を有する多孔質の舗装体の空隙に微粒体を充填することによって、降雨等の水分を微粒体の周囲に保持するとともに、晴天時にその水を毛細管現象による揚水作用によって路面から気化させることにより、路面の温度上昇を継続的に抑制するアスファルト舗装体がある。また、このような微粒体を含む舗装体を上下2層とし、下層には微粒体をそのまま充填する一方で、上層においては充填される微粒体をセメントで固化することにより、微粒体の飛散を抑制する技術がある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−31679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1のように毛細管現象による揚水作用を発揮する微粒体は粒度範囲が0.005〜0.15mm程度と非常に小さいため、特に路面への負荷が高い場所などで路面が削られると、微粒体がわずかながら飛散してしまう、という課題がある。
【0005】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、多孔質層の空隙に充填された微粒体の飛散を抑制することができるアスファルト舗装体、アスファルト舗装路面構造及びアスファルト舗装体の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決するアスファルト舗装体は、アスファルト混合体を基体とする多孔質層と、前記多孔質層の空隙に充填されることで微細孔を形成する微粒体群と、前記多孔質層の空隙において、前記微粒体群よりも表層側に充填されることで細孔を形成する粒体群と、前記多孔質層の前記表層において、前記粒体群を構成する粒体同士を接着する疎水性樹脂と、前記表層において、前記細孔の内壁に付着して親水性膜を形成する界面活性剤と、を備え、前記粒体群を構成する前記粒体は、前記微粒体群を構成する微粒体よりも粒径が大きく、前記細孔は前記微細孔よりも大きい
【0007】
この構成によれば、微粒体群よりも表層側に充填される粒体を疎水性樹脂によって接着することによって、微粒体を多孔質層の空隙内にとじこめることができる。なお、表層において粒体を接着するために疎水性樹脂を使用しているが、粒体群が形成する細孔の内壁には、界面活性剤が付着することで親水性膜を形成しているので、水の浸透や蒸発を妨げない。また、疎水性樹脂で接着された粒体群が形成する細孔の内壁に界面活性剤を付着させて親水性膜を形成することにより、界面活性剤を疎水性樹脂に混合して施工する場合よりも、疎水性樹脂の硬化時間を短くすることができる。そして、多孔質層の空隙において微粒体よりも表層側に充填する粒体の粒径を微粒体よりも大きくすることによって、路面が削られた場合にも粒体の飛散が抑制される。したがって、多孔質層の空隙に充填された微粒体の飛散を抑制することができる。
【0008】
上記アスファルト舗装体において、前記微粒体の粒度範囲が0.005〜0.15mmであり、前記粒体の粒度範囲が0.08〜0.4mmであることが好ましい。
【0009】
多孔質層に充填される粒体の径が大きいと、飛散はしにくいものの、毛細管現象による揚水作用が発揮されないために、微細孔に保持された水を路面から蒸散させることができない。一方、粒体の粒径が過度に小さいと、保水力が高くなる一方で、疎水性樹脂で接着した場合に空隙が微小になり、路面における透水性(排水性)が低下してしまう。その点、上記構成によれば、粒体の粒度範囲は0.08〜0.4mmであるので、路面における透水性を確保しつつ、毛細管現象による揚水作用を発揮して、微細孔に保持された水をスムーズに路面から蒸散させることができる。したがって、微粒体の飛散を抑制しつつ、路面の温度上昇を効果的に抑制することができる。
【0010】
上記アスファルト舗装体は、前記多孔質層において、前記表層の厚さが0.5cm以上、1cm以下であることが好ましい。
粒径が小さい微粒体が形成する微細孔は、粒体が形成する細孔よりも保水力が高く、また、毛細管現象による揚水作用が活発であるので、微粒体群を路面に近い位置に配置しておくことによって微細孔に保持された水を継続的に気化させて、路面の温度上昇効果を長時間発揮することができる。一方、粒体が充填された表層が薄すぎると、表層が削られたときに微粒体が露出して飛散してしまうおそれがある。その点、上記構成によれば、多孔質層において表層の厚さが0.5cm以上、1cm以下であるので、微粒体群を路面近くに配置して水の気化を促進しつつ、疎水性樹脂によって接着された表層の強度を確保して微粒体及び粒体の飛散を抑制することができる。
【0011】
上記課題を解決するアスファルト舗装路面構造は、上記アスファルト舗装体と、前記アスファルト舗装体を支持する保水性を有する路盤と、を備える。
この構成によれば、上記アスファルト舗装体と同様の作用効果を得ることができる。
【0012】
上記課題を解決するアスファルト舗装体の形成方法は、アスファルト混合体を基体とする多孔質層を形成する多孔質層形成工程と、前記多孔質層の空隙に微粒体群を充填して微細孔を形成する微粒体充填工程と、前記多孔質層の空隙において、前記微粒体群よりも表層側に、接着用の疎水性樹脂と混合した粒体群を充填して細孔を形成する粒体充填工程と、前記表層に界面活性剤を散布して、前記細孔の内壁に前記界面活性剤による親水性膜を形成する界面活性剤散布工程と、を備え、前記粒体群を構成する粒体は、前記微粒体群を構成する微粒体よりも粒径が大きく、前記細孔は前記微細孔よりも大きい
【0013】
この構成によれば、上記アスファルト舗装体と同様の作用効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アスファルト舗装体において、多孔質層の空隙に充填された微粒体の飛散を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】アスファルト舗装体及びアスファルト舗装路面構造の一実施形態を断面で示す模式図。
図2】多孔質層の構成を示す模式図。
図3】アスファルト舗装体の施工フロー。
図4】微粒珪砂の保水性に関する試験結果を示すグラフ。
図5】珪砂層の吸水時間の試験結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、アスファルト舗装体、アスファルト舗装路面構造及びアスファルト舗装体の形成方法の一実施形態を図面に従って説明する。本実施形態のアスファルト舗装体及びアスファルト舗装路面構造は、主に歩行者用道路、軽車両通過道路、地域道路及び幹線道路などにおいて好適に適用できるものである。
【0017】
図1に示すように、本実施形態のアスファルト舗装路面構造11は、アスファルト舗装体12と、アスファルト舗装体12を支持する保水性を有する路盤13と、を備える。路盤13は、通常舗装の路盤材料を用いてもよいが、例えば粒度調整砕石またはクラッシャーランなどの透水性舗装用の路盤材料を用いて、強度及び耐久性の他、適度な透水性及び貯水性を備えることが好ましい。
【0018】
図2に示すように、アスファルト舗装体12は、アスファルト混合体を基体とする多孔質層14と、多孔質層14の空隙に充填された多数の微粒体21からなる微粒体群と、多孔質層14の空隙において微粒体21よりも表層15側に充填された多数の粒体22からなる粒体群と、を備える。微粒体群は、多孔質層14の空隙に充填されることで、多数の微細孔17を形成する。粒体群は、多孔質層14の空隙に充填されることで、多数の細孔18を形成する。また、アスファルト舗装体12は、多孔質層14の表層15において、粒体群を構成する粒体22同士を接着する疎水性樹脂23と、細孔18の内壁に付着して親水性膜を形成する界面活性剤25と、を備える。
【0019】
多孔質層14は、例えば骨材24とアスファルトとの混合物からなる開粒度アスファルトが基体を構成する。多孔質層14は、容積百分率で18〜25%程度の空隙率で、厚さ4〜5cm程度に形成されることが好ましい。また、路盤13を含んだアスファルト舗装路面構造11の厚さは14〜25cm程度であることが多い。
【0020】
微粒体21は、例えば鉱物性の微粒珪砂であり、粒度範囲が0.005〜0.15m(5〜150μm)のものを用いることが好ましい。また、こうした微粒珪砂の平均粒径は0.08〜0.2mm程度であることが好ましい。なお、このような粒径を備える微粒珪砂の好例として、愛知県瀬戸市で算出されるものの品質を表1に示す。
【0021】
【表1】
粒体22は、微粒体21よりも粒径が大きい粒体であり、例えば6号珪砂(粒度範囲0.2〜0.4mm)や7号珪砂(粒度範囲0.08〜0.3mm)などを用いることが好ましい。
【0022】
疎水性樹脂23としては、可撓性があり、また、取り扱いの安全上、成分に揮発性の溶剤や非反応性の可塑剤などを使用していないものが好ましく、例えばゴム変性エポキシ樹脂などのエポキシ樹脂や、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂などを用いることができる。
【0023】
粒体22は、予め疎水性樹脂23と混合した後に、多孔質層14の表層において骨材24の空隙に充填する。粒体22に混合した疎水性樹脂23は、粒体22と粒体22との間に空隙を残しつつ、それら粒体22の表面に付着することで、粒体22同士を接着するとともに、粒体22を多孔質層14の骨材24に接着する。また、粒体22に付着した疎水性樹脂23が硬化することによって、骨材24同士が接着されることにもなり、表層15の強度が向上する。
【0024】
疎水性樹脂23は水をはじくため、表層15における粒体22の接着に用いると、雨水等の浸透に時間がかかり、降雨後の路面に水たまりができてしまったり、水の蒸発を抑制したりしてしまう。そこで、本実施形態においては、疎水性樹脂23で接着された粒体22を界面活性剤25による親水性膜で被覆することにより、表層15における透水性を確保している。
【0025】
多孔質層14において、粒体22が充填された表層15は、疎水性樹脂23で粒体22としての珪砂を接着した後に、界面活性剤25を散布することによって樹脂珪砂層を形成する。なお、アスファルト舗装路面構造11において樹脂珪砂層と路盤13との間において微粒体21としての微粒珪砂が充填された領域のことを微粒珪砂層16という。また、多孔質層14において、空隙に粒体22、疎水性樹脂23及び界面活性剤25を含む表層15の厚さは、0.5cm以上、1cm以下であることが好ましい。
【0026】
次に、アスファルト舗装体12の形成方法について、アスファルト舗装体12の施工フローに基づいて説明する。
まず、図3に示すように、路盤13上にアスファルト混合体を敷設して、アスファルト混合体を基体とする多孔質層14を形成する(多孔質層形成工程S11)。
【0027】
次に、多孔質層14の表層側0.5〜1cmを残して、多孔質層14の空隙に微粒体21を充填する(微粒体充填工程S12)。これにより、多孔質層14の空隙に充填された微粒体群が多数の微細孔17を形成する。このとき、微粒体21と水とを重量比1:1程度で混合したものを散布して、多孔質層14の空隙に自然流下させると、施工性がよい。また、このような微粒体21と水との混合物を多孔質層14の空隙に充填した後に振動を加えると、隙間無く微粒体21を充填することが可能になる。
【0028】
続いて、多孔質層14の空隙において、微粒体群よりも表層側に残した空隙に、接着用の疎水性樹脂23と混合した粒体22を充填する(粒体充填工程S13)。これにより、多孔質層14の空隙に充填された粒体群が多数の細孔18を形成する。疎水性樹脂23は、施工前に主剤と硬化剤とを混合した後に、粒体22と混合する。すなわち、疎水性樹脂23と粒体22を混合することで粒体22を疎水性樹脂23で被覆し、その疎水性樹脂23と粒体22の混合物を、多孔質層14を構成する骨材24の隙間に擦り込む。このとき、顔料を混合しておけば、路面に着色することができる。
【0029】
疎水性樹脂23は、多孔質層14の空隙に粒体22を充填した後に、粒体22の空隙に擦り込むことによって、粒体22の接着に用いることもできる。しかし、この場合には、疎水性樹脂23の浸透度合いによって使用量がばらついてしまうため、予め疎水性樹脂23を粒体22と混ぜてから施工した方が、疎水性樹脂23の使用量を適切に管理することができる。
【0030】
そして、粒体22を充填した多孔質層14の表面をレーキ等で均した後、表層15に界面活性剤25を散布して、細孔18の内壁に界面活性剤25による親水性膜を形成する(界面活性剤散布工程S14)。
【0031】
なお、界面活性剤25は、予め疎水性樹脂23とともに粒体22に混合し、その混合物を多孔質層14の空隙に充填することによっても、表層15の透水性を確保することは可能である。しかし、界面活性剤25を混合すると、界面活性剤25を混合しない場合よりも疎水性樹脂23の硬化時間が長くなってしまう上、その硬化時間の変化は界面活性剤25の混合量によって変化するので、界面活性剤25の配合率の管理が難しくなる。
【0032】
例えば、界面活性剤25を混合しない場合、粒体22の表面に付着させた疎水性樹脂23が硬化するのに要する硬化時間は、気温の高い夏季では30分程度であり、気温の低い冬季では1時間程度である。これに対して、表層15の親水性を確保するのに必要な量の界面活性剤25を疎水性樹脂23に混ぜて施工すると、その硬化時間は数時間以上に延びてしまう。本実施形態では、こうした課題を解決するため、疎水性樹脂23で粒体22を接着した後に、界面活性剤25を散布するようにしている。
【0033】
次に、以上のように構成されたアスファルト舗装体12及びアスファルト舗装路面構造11の作用について説明する。
アスファルト舗装路面構造11においては、路面を形成するアスファルト舗装体12が多孔質層14であることから、骨材24、粒体22及び微粒体21の隙間を通じて雨水等の水がスムーズに浸透し、路面の排水が速やかに行われる。なお、表層15において粒体22を接着するために疎水性樹脂23を使用しているが、疎水性樹脂23によって接着された粒体22は界面活性剤25による親水性膜で被覆されているので、水の浸透や蒸発を妨げない。
【0034】
また、微粒体21は表1に品質を示す細骨材と比較して粒子径が小さく、毛細管力が大きいため、路面から浸透した水は、微粒体21が形成する空隙である微細孔17に保水される。なお、細骨材とは、10mmふるいを全て通過し、5mmふるいを通過するものが重量で85%以上含まれる骨材であって、標準的には、5mmふるいを通過するものが重量で90〜100%、0.15mmふるいを通過するものが重量で2〜10%の骨材である。
【0035】
図4には、表1に示す細骨材と微粒体21としての微粒珪砂を試験体として保水性を比較するために行った試験の結果を示す。この試験においては、直径7.5cmで高さ200cmの円筒状の容器に、表1に示す細骨材と微粒珪砂を乾燥状態でそれぞれ充填し、上面から8リットルの水道水を注入した。そして、水の注入完了後、底面から2cmのみ水に浸した状態で2週間放置した後の含水比(水の重量/試験体の乾燥重量)を底面より高さ5cmを基準として、上方に10cm間隔で測定したものである。
【0036】
図4に示すように、微粒珪砂は、細骨材と比較して、各高さ位置において細骨材の2〜3倍程度の含水比を示し、特に高さ位置45〜85cmでは7〜9倍の含水比を示している。また、細骨材は高さ位置が高くなるにつれて含水比が低下し、高さ位置25cmで含水比10%程度である。
【0037】
これに対して、微粒珪砂は高さ位置5〜45cmまで含水比が45%前後でほぼ同等であり、それ以上の高さ位置においては徐々に含水比が低下するものの、高さ位置75cmにおいても含水比40%程度を維持している。この試験結果が示すように、微粒珪砂は微細な連続空隙を形成することによって高い保水力を有するとともに、毛細管現象による揚水作用が高いといえる。
【0038】
そのため、降雨時等には路面から浸透した水が多孔質層14に充填された微粒体21の周囲や保水性を備える路盤13に保持されるとともに、晴天時等に路面から水が蒸発すると、多孔質層14や路盤13に保持された水が揚水されて、路面側に供給される。
【0039】
そして、特に夏季など、路面温度が上昇したときには、多孔質層14に保持された水を路面から蒸発させることによって路面温度を低下させることが可能になる。また、多孔質層14や路盤13に保持された水を揚水して路面側に供給することにより、路面の温度低減効果を長時間継続することが可能になる。
【0040】
ここで、多孔質層14の表層15に粒体22として充填される珪砂は、粒体の粒度範囲が小さいほど揚水効果が高いため、路面温度の低減効果が高い。例えば、表層15に4号珪砂(粒度範囲0.6〜1.2mm)を充填した場合には、粒度が大きく、毛細管現象による揚水作用が十分に得られない。また、表層15に5号珪砂(粒度範囲0.3〜0.8mm)を充填した場合には、毛細管現象による揚水作用はあるものの、揚水速度が十分でなく、温度の低減効果が十分でない。すなわち、多孔質層14に充填する微粒体21及び粒体22は、毛細管現象による揚水作用を発揮することができる程度の小さい粒径であることが望まれる。
【0041】
一方、表層15に8号珪砂(粒度範囲0.05〜0.2mm)を充填した場合には、揚水効果は高いものの、珪砂の間の空隙が小さくなりすぎるため、路面における透水性が確保できない。したがって、多孔質層14の表層15に充填される粒体22は、疎水性樹脂23で固化した場合に、路面からの透水性を確保できる程度の大きさの粒径であることが望まれる。
【0042】
その点、表層15に粒体22として充填する珪砂を6号珪砂(粒度範囲0.2〜0.4mm)または7号珪砂(粒度範囲0.08〜0.3mm)にすると、路面の透水性を確保しつつ、十分な揚水作用を得ることができる。
【0043】
なお、路面における温度の低減効果を継続的に発揮するためには、夏季等に日射による熱を吸収した路面の温度が60度程度になって水の蒸発量が大きくなった場合にも、表層15において、微粒珪砂層16が保持した水を所定の速度で路面に向けて揚水する必要がある。
【0044】
図5には、円筒状の容器の中に微粒珪砂を充填した微粒珪砂層(層厚42〜52mm)を設け、さらにその上層に珪砂を充填した珪砂層(層厚5〜15mm)を設けて微粒珪砂層と珪砂層の合計厚を57mmとし、微粒珪砂層の底面から7mmのみを水に浸した場合の吸水時間(揚水時間)を測定した試験の結果を示す。この試験においては、珪砂層として、6号珪砂及び7号珪砂をそれぞれ層厚が0mm、5mm、10mm、15mmとなるように設けた試験体を作成した上で、各珪砂層をエポキシ樹脂によって接着し、各試験体の表面全体が湿潤状態になるまでの時間を吸水時間として測定した。
【0045】
なお、この試験において、珪砂層の層厚が0mmの試験体は、珪砂に替えて微粒珪砂を充填したもので、他の試験体と層厚を合わせた微粒珪砂層のみからなる。また、この試験においては、水溶性のエポキシ樹脂によって珪砂の接着を行っているが、この場合にも、疎水性のエポキシ樹脂で珪砂を接着した上で界面活性剤25による親水膜を形成した場合と同等の透水性と強度を得られる。
【0046】
図5に示すように、6号珪砂と7号珪砂とで吸水時間を比較すると、粒度範囲の小さい7号珪砂の方が6号珪砂よりも吸水時間が若干短いものの、両者の間で大きな差はなく、いずれも珪砂層の層厚が10mm以下であれば、微粒珪砂のみの層と同等程度の吸水速度が得られた。
【0047】
したがって、本実施形態のように多孔質層14において粒体22を含む表層15の厚さを1cm以下とすれば、表層15において揚水速度を低下させることなく、微粒珪砂層16または路盤13に保持した水を路面側に供給することが可能になる。ただし、表層15の厚さを0.5cm未満にすると、車両の通過等により表層15が削られたときに微粒珪砂層16が露出して微粒体21が飛散してしまうおそれがあるため、表層15の厚さは0.5cm以上であることが好ましい。
【0048】
そして、本実施形態のアスファルト舗装体12によれば、降雨時等においては路面における良好な透水性を確保しつつ、路面から浸透した水を微細孔17や細孔18などの空隙に保持して、晴天時等に路面から保持した水を蒸散させることによって、気化熱によって路面の温度上昇を抑制することが可能になる。また、アスファルト舗装路面構造11の路盤13が保水性を有することにより、さらに、路盤13に保持した水も揚水して路面から蒸散させることができるので、路面の温度上昇効果を持続させることが可能になる。
【0049】
本実施形態に対する比較例として、多孔質層14の表層を粒体22または微粒体21を含むセメントで固化した場合には、時間の経過とともに表面に白い生成物が出現する白華現象や、乾湿による色相の変化による発色ムラなどが生じるため、美観に影響を与えるおそれがある。その点、外観に与える影響がほとんどない疎水性樹脂23によって粒体22を接着することによって、白華現象を抑制し、路面の美観を保つことが可能である。また、セメントで固化する場合には路面の均質な着色が困難であるのに対して、疎水性樹脂23を用いる場合には、顔料を混合することによって路面を容易に着色することができるので、路面の美観を向上させることが可能である。
【0050】
以上詳述した実施形態によれば次のような効果が発揮される。
(1)微粒体群よりも表層15側に充填された粒体22を疎水性樹脂23によって接着することによって、微粒体21を多孔質層14の空隙内にとじこめることができる。なお、表層15において粒体22を接着するために疎水性樹脂23を使用しているが、粒体群が形成する細孔18の内壁には、界面活性剤25が付着することで親水性膜を形成しているので、水の浸透や蒸発を妨げない。また、疎水性樹脂23で接着された粒体群が形成する細孔18の内壁に界面活性剤25付着させて親水性膜を形成することにより、界面活性剤25を疎水性樹脂23に混合して施工する場合よりも、疎水性樹脂23の硬化時間を短くすることができる。そして、多孔質層14の空隙において微粒体21よりも表層15側に充填する粒体22の粒径を微粒体21よりも大きくすることによって、路面が削られた場合にも粒体22の飛散が抑制される。したがって、多孔質層14の空隙に充填された微粒体21の飛散を抑制することができる。
【0051】
(2)多孔質層14に充填される粒体22の径が大きいと、飛散はしにくいものの、毛細管現象による揚水作用が発揮されないために、微細孔17に保持された水を路面から蒸散させることができない。一方、粒体22の粒径が過度に小さいと、保水力が高くなる一方で、疎水性樹脂23で接着した場合に空隙が微小になり、路面における透水性(排水性)が低下してしまう。その点、上記実施形態によれば、粒体22の粒度範囲は0.08〜0.4mmであるので、路面における透水性を確保しつつ、毛細管現象による揚水作用を発揮して、微細孔17に保持された水をスムーズに路面から蒸散させることができる。したがって、微粒体21の飛散を抑制しつつ、路面の温度上昇を効果的に抑制することができる。
【0052】
(3)粒径が小さい微粒体21が形成する微細孔17は、粒体22が形成する細孔18よりも保水力が高く、また、毛細管現象による揚水作用が活発であるので、微粒体群を路面に近い位置に配置しておくことによって微細孔17に保持された水を継続的に気化させて、路面の温度上昇効果を長時間発揮することができる。一方、粒体22が充填された表層15が薄すぎると、表層15が削られたときに微粒体21が露出して飛散してしまうおそれがある。その点、上記実施形態によれば、多孔質層14において表層15の厚さは0.5cm以上、1cm以下であるので、微粒体群を路面近くに配置して水の気化を促進しつつ、疎水性樹脂23によって接着された表層15の強度を確保して微粒体21及び粒体22の飛散を抑制することができる。
【0053】
(変更例)
なお、上記実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。また、下記変更例は、任意に組み合わせることができる。
【0054】
・アスファルト舗装体12の形成方法は、アスファルト舗装路面構造11の補修に用いることもできる。例えば、上記実施形態と異なるアスファルト舗装体において、表面が部分的に削れて多孔質層14の骨材24が脱落したような箇所を補修する際に、アスファルト混合体からなる基体を補修した後に微粒体21を充填する。また、その表層に疎水性樹脂23と混合した粒体22を充填し、界面活性剤25を散布する。このようにすれば、硬化した疎水性樹脂23の作用により、路面に対する負荷が高い箇所の補修に際して、その路面を補強しつつ、路面の透水性を確保することができる。
【0055】
・粒体22及び疎水性樹脂23を含む表層15と微粒体21としての微粒珪砂が充填された微粒珪砂層16との間に、疎水性樹脂23によって固化されない粒体22が充填された中間層(珪砂層)が存在してもよい。
【0056】
・微粒体21の平均粒径を含む品質は上記実施形態に例示したものに限らず、十分な保水性と揚水作用が確保できれば、任意の微粒体21を用いることができる。
・粒体22の粒度範囲を含む品質は上記実施形態に例示したものに限らず、疎水性樹脂で固化した状態で適度な透水性と揚水作用が確保できれば、任意の粒体22を用いることができる。
【0057】
・粒体22を接着する疎水性樹脂23はエポキシ樹脂には限らず、硬化時のムラが少なく、硬化後の吸水性及び保水性が確保できるものであれば、任意の疎水性樹脂を採用することができる。
【0058】
・多孔質層14において粒体22及び疎水性樹脂23を含む表層15の厚さは、十分な強度を確保できる場合には、0.5cm未満であってもよい。
・多孔質層14において粒体22及び疎水性樹脂23を含む表層15の厚さは、十分な揚水作用が確保できる場合には、1cmより厚くてもよい。
【符号の説明】
【0059】
11…アスファルト舗装路面構造、12…アスファルト舗装体、13…路盤、14…多孔質層、15…表層、17…微細孔、18…細孔、21…微粒体、22…粒体、23…疎水性樹脂、25…界面活性剤。
図1
図2
図3
図4
図5