【実施例】
【0033】
1.試験方法
レンチキュラーレンズの上に積層される繊維シートとして用いるシート材料の空隙率については画像処理を用いて測定し、ヘイズ値H、全光線透過率Tt、拡散透過率Td、平行光線透過率Tpの光学特性についてはヘイズメーターを用いて測定した。
次に、光学的特性を測定したシート材料を、
図1に示されるように同じレンチキュラーレンズシートのレンチキュラーレンズの上に積層し、その視認性を目視によって評価した。
【0034】
2.画像処理
図1の構成を持つレンチキュラーレンズシートを落射光・レンズ倍率50倍の条件下、顕微鏡にて画像撮影し、撮影した画像を二値化した上で、空隙率を測定した。尚、レンズの倍率が低すぎる場合は、焦点深度が深くなり、レンチキュラーレンズの凹凸面にまで焦点が合ってしまうため、目的とする画像が得られないため、適正なレンズ倍率の選択が必要となる。
【0035】
3.光学的特性の測定方法
繊維シートのヘイズ値Hは、JIS―K7136、全光線透過率Tt、拡散透過率Td、平行光線透過率Tpは、JIS−K7361−1に準拠した日本電色工業社製のヘイズメーター(商品名:NDH−2000)を用いて測定した。
【0036】
4.視認性の評価
視認性は、繊維シートが積層されたレンチキュラーレンズシートの立体画像および動的画像の変化を10人のパネラーによって目視により評価した。
評価は、各繊維シートが積層されたそれぞれのレンチキュラーレンズシートに対し、表1に示される評価基準に基づいて1〜4点の4段階の得点を与え、その総得点から平均得点を算出した。
レンチキュラーレンズシートの平均得点から、4点以上を「◎」、3点以上4点未満を「○」、2点以上3点未満を「△」、2点未満を「×」とし、その中の「◎」を最も好ましい範囲にあるシートとし、「○」を「◎」の次いで好ましい範囲にあるシートとし、さらに「△」と「×」は本発明の繊維シートとしては適さない範囲にあるシートとして評価した。
【0037】
【表1】
【0038】
5.繊維シート材料
(1)和紙(塩素未使用典具帳紙、ひだか和紙社製)
坪量(g/m
2)・・・2.0;3.5;5.0;7.3;9.0
(2)パレットカラー紙(20g/m
2、竹尾社製)
色彩・・・白;ストロー;ピンク;ブルー;レッド;イエロー;グリーン
(3)パレットカラー・パラフィン紙(20g/m
2、竹尾社製)
色彩・・・白;ストロー;ピンク;ブルー;レッド;イエロー;グリーン
(4)その他の汎用紙
紙種・・・白グラシン紙(竹尾社製);クラシコトレーシング紙(A本判T目30kg、竹尾社製);GLトレーシング紙(A本判T・Y目35.5kg、竹尾社製);典具帖紙(オギノ社製);典具帖加工用原紙(オギノ社製);油とり紙(オギノ社製);コピー用上質紙(マルチペーパースーパーエコノミー、アスクル社製)
(5)樹脂製シート
種類・・・PVCシート(住友ベークライト社製、VSS−3701、0.lmm);PVCシート(華信社製、A7、0.5mm);TACシート(LOFO製、TacphanR862SM、0.04mm);PETシート(太平社製、PG−700M、0.36mm)
【0039】
表2に、坪量が異なる和紙についての空隙率、光学的特性および視認性の評価を示す。
【表2】
【0040】
表2に示されるように、繊維シートとして和紙を用いた場合は、坪量によらず、すべての種類の和紙について画像の鮮明性と画像の暈しの程度が高度にバランスした優れた視認性を得られる。ただし、坪量が小さくなるとヘイズ値Hが小さくなってやや画像の曇りの程度に欠ける傾向があり、逆に和紙の坪量が大きくなると、平行光線透過率Tpが小さくなってやや画像の模様等の輪郭の視認性が低下する傾向がある。
【0041】
表3に、色彩が異なるパレットカラー紙についての光学的特性および視認性の評価を示す。
【表3】
【0042】
表3に示されるように、繊維シートとしてパレットカラー紙のような一般的な加工紙を用いた場合は、色彩によらず、すべての色彩のパレットカラー紙についての平行光線透過率Tpが小さくなるので、画像の中の模様等の輪郭も立体画像及び動的画像も視認することができなくなる。
【0043】
表4に、色彩が異なるパレットカラー・パラフィン紙についての光学的特性および視認性の評価を示す。
【表4】
【0044】
表4に示されるように、繊維シートとしてパレットカラー・パラフィン紙を用いた場合は、パレットカラー紙と異なり、色彩によって視認性の評価が異なる。これは、パレットカラー紙をパラフィン処理することにより紙の透明性、特に平行光線透過率Tpが改善され、画像の模様等の輪郭の視認性がパレントカラー紙に対して相対的に向上したためと考えられる。ただし、パレットカラー・パラフィン紙においてレッドのように色彩の濃い色を用いた場合は、全光線透過率Ttおよび平行光線透過率Tpが共に低下するので、画像の中の模様等の輪郭も立体画像及び動的画像も殆ど視認することができなくなる。
【0045】
表5に、紙種が異なる和紙および加工紙についての光学的特性および視認性の評価を示す。
【表5】
【0046】
表5に示されるように、繊維シートとして紙の透明性(透かし度)を改善したグラシコ紙、
トレーシング紙のような加工紙を用いた場合は、暈しの程度が強く、画像の中の模様等の輪郭を視認し難くなるが、立体画像及び動的画像を明確に把握することができる。また、繊維シートとして典具帖紙のような和紙を用いた場合は、特に平行光線透過率Tpが向上するので模様等の輪郭の視認性が良好な画像が得られ、画像の鮮明性と画像の暈しの程度がバランスした優れた視認性が得られる。一方、コピー上質紙のような紙の透明性(透かし度)が改善されていない加工紙を用いた場合は、全光線透過率Ttおよび平行光線透過率Tpが共に低下してしまうので、画像の中の模様等の輪郭も立体画像及び動的画像も殆ど視認することができなくなる。
【0047】
表6に、樹脂製シートについての光学的特性および視認性の評価を示す。
【表6】
【0048】
表6に示されるように、繊維シートとして樹脂製シートを用いた場合は、紙製よりやや劣るが、画像の鮮明性と暈しの程度のバランスがとれたレンチキュラーレンズシートを得ることができる。特に繊維シートが薄物仕様のPVCシートである場合は、ヘイズ値Hが小さくなってやや画像の曇りの程度に欠ける傾向があり、逆に繊維シートが厚物仕様のPVCシートやTACシートである場合は、平行光線透過率Tpが小さくなってやや画像の模様等の輪郭の視認性が低下する傾向がある。また、繊維シートがPETシートである場合は、全光線透過率Ttおよび平行光線透過率Tpが共に低下してしまうので
画像の中の模様等の輪郭も立体画像及び動的画像も殆ど視認することができなくなる。
【0049】
特に本発明の目的に適した繊維シートとしては、樹脂製のシートよりも和紙又は加工紙からなるシートの方が適しており、さらに加工紙よりも和紙の方がより好ましく適している。
【0050】
樹脂製シートでは、可視光がその材料の中を均一に透過し、レンチキュラーレンズシートの屈折を変化させてヒトの目に到達するため、暈し効果は得られるが画像に自然な風合いを付与することはできていない。これに対し、紙又は加工紙からなる繊維シートでは、可視光が繊維及び繊維間の隙間を介して不均一にヒトの目に到達するため、その移り変わりが自然なものとなる。
【0051】
また、和紙または加工紙からなるシートは、樹脂製シートと比較して静電気を帯び難く筆記も容易であるので、レンチキュラーレンズシートの帯電防止や筆記特性を向上にも役立てることができる。
【0052】
さらに、加工紙からなるシートよりも和紙からなるシートの方が適しているのは、一般的に和紙の繊維は加工紙の繊維に比べて長く、またその密度が疎であるため、可視光を有効に通過させる繊維間の隙間が加工紙より大きく、画像の鮮明性と暈しの程度をバランスさせるのに有利であるからである。