【実施例】
【0166】
材料及び方法。
洗浄白血球低減アフェレーシス血小板(WAP)調製物。
血小板物質単位(白血球低減アフェレーシス血小板単位)を収集し、「Circular of Information for the Use of Human Blood and Blood Components」(2009年12月)に従って処理し、FDA及びUS Department of Healthの適用法令及び規則に適合させた。
【0167】
各単位は、およそ200mLの量を有した。各単位は、検査され、FDAの規制、要件、及びガイドラインに基づいて輸血可能な血液成分の提供にふさわしいと判断された単一ドナーから採取された。FDAによって承認されたキット及び方法(B型肝炎ウイルス表面抗原;B型肝炎ウイルスコア抗原に対する抗体;C型肝炎ウイルス抗体;ヒトT細胞白血球ウイルス1型及び2型抗体;ヒト免疫不全ウイルス1型及び2型抗体;核酸増幅検査(nucleic acid technology testing)(NAT)によるHIV−1;NATによるHCV RNA;NATによるウエストナイルウイルスRNA;及び梅毒血清検査)を用いることによって、赤血球抗体に対し非反応性であり、かつこれらウイルスが陰性であることが判明した単位のみが含まれた。白血球低減アフェレーシス収集単位中の血小板の最小数は、情報の回状に定められた通りであった:≧3.0×10
11(単一全血単位中の血小板の数は、≧5.5×10
10である)。
【0168】
全単位は、洗浄工程まで、輸血の推奨条件下で維持された(FDAによって承認されたthe blood collection,processing,and storage systemの使用法を参照のこと)。
【0169】
洗浄手順。
各単位は、無菌条件下で次の通りに洗浄された。
1.各単位は、室温にて4658×gで6分にわたって遠心分離された(破砕回転翼(break rotor)は使用しなかった)。こうした緩やかな条件下で、細胞の破損は回避された。
2.上澄みを廃棄し、無菌連結された(無菌状態を維持するために、閉鎖システムにおいて容器間で液体を移送する方法)200mLの生理食塩水中で血小板ペレットを再構成した。
3.工程1で指定されたのと同じ条件で第2の遠心分離を行った。
4.生理食塩水を廃棄し、ペレット化された血小板を無菌連結された生理食塩水200mLの中に再懸濁した。
5.洗浄され、再懸濁された血小板を−20〜−30℃で凍結した。凍結工程は、先の工程から4時間以内に行われた。
【0170】
白血球低減血小板アフェレーシス単位の慎重に実施された上記収集及び洗浄手順は、血液収集センターで行われた(Rock River Valley Blood Center,Rockford,IL/FDA License #249)。最終WAPバッグは、調製日から2か月以内に実験用に供給された。これら単位は、ドライアイスの上で凍結された状態で受領した。
【0171】
実施例1:プールしたWAPから調製されかつ溶媒/洗剤(S/D)で処理された凍結乾燥された血小板抽出物。
9個のWAPバッグ(各バックは約200mLを含有する)は、該バックを37℃の水浴に30分にわたって入れることによって解凍された。次の工程で、WAPバッグを70%エタノールで拭き、切り開き、それらの内容物を室温(約22℃)にてステンレス鋼製ビーカーの中に注ぎ込んだ。ビーカーを攪拌装置の上に置き、プールしたWAP物質(〜1800mL)を、室温(約22℃)にて5分間ゆっくり混合した。攪拌中、200mLの酢酸塩グリシン緩衝液[200mMの酢酸ナトリウム(Sigma−Aldrich,St.Louis,MO,USA;カタログ番号32318)、及び100mMのグリシン(Sigma−Aldrich,St.Louis,MO,USA;カタログ番号15527)(pH 6.8〜7.4)]、及びヒト血清アルブミン(HSA;総体積に対する最終濃度5% v/v)(Plasbumin 25、Talecris Biotherapuetics,NC,USA;カタログ番号Plasbumin 25)を、プールしたWAPに添加した。(2000mLのうち)500mLのサンプルを取り出し、溶媒及び洗剤(S/D)で処理し、脂質エンベロープウイルスを不活性化した(以下の手順を参照のこと)。残り(1500mL)は、後で分析するために−80℃で凍結した(「プールしたWAP」)。サンプル500mLを冷やした(4℃)ステンレス鋼製ビーカーに移し、4℃の水浴に入れた。サンプルを次の通りにS/D処理に供した。1%のTriton X−100(Sigma−Aldrich,St.Louis,MO,USA;カタログ番号20180501)及び0.3%のリン酸トリ−(n−ブチル)(TnBP;Merckカタログ番号100002)(v/v)を一緒に混合した後、RW20オーバーヘッドスターラー(IKA−Werke GmbH & Co.,Staufen,Germany)に接続された3枚羽根ステンレス鋼プロペラを使用して60RPMで攪拌しながらサンプルにゆっくり加えた。サンプルをその後も引き続き4℃にて4時間にわたって攪拌した。S/D処理の後、S/D除去工程に先立って粗粒子状残骸を除去するために、20、10、及び5μmポリプロピレン製のカプセルフィルタ(DOL Type、MDI Advanced Microdevices Pvt.Ltd.,Ambala,India;カタログ番号はそれぞれDOLX5111DDXX101、DOLX5108DDXX101、DOLX5107DDXX101)にサンプルを連続して通し、濾過した。
【0172】
S/Dの除去は、SDR HyperD溶媒−洗剤除去クロマトグラフィー樹脂(Pall Corp,Port Washington,NY,USA;カタログ番号20033−015)80mLが詰め込まれたXK26/40液体クロマトグラフィーカラム(Amersham Pharmacia Biotech,GE Healthcare;カタログ番号18−8768−01)を、AKTAprime自動液体クロマトグラフィーシステム(GE Healthcare)と共に使用して行われた。カラム長さは15cmであった。流量は、試行全体にわたって10mL/分であった。再蒸留水(ddH
20)320mLを用いてカラムを調製し、240mLの酢酸塩グリシン緩衝液(20mMの酢酸ナトリウム、10mMのグリシン、pH 6.8〜7.4)及びHSA(総体積に対し5% v/v)でカラムを平衡化した。サンプル(500mL)を充填した後、カラムを、5% HSA(v/v)を含有する(上記の)酢酸塩グリシン緩衝液144mL、次いでddH
2O 144mLで洗浄した。未結合サンプル及び洗浄緩衝液を含む収集した全フロースルー体積は720mLであった。(上記の)酢酸塩グリシン緩衝液中のD−マンニトール(Sigma−Aldrich,St.Louis,MO,USA;カタログ番号M9546)を、フロースルーで収集した物質に加え(最終濃度2% v/vになるように)、このD−マンニトールは、次の凍結乾燥プロセスの間のタンパク質の抗凍結剤としての役割を果たした。WAPの凍結及び解凍、並びにWAPをS/D処理及びS/D除去に供することで、血小板抽出物/溶解物の調製物を得た。
【0173】
フロースルーで収集した物質を、高圧滅菌したガラス製バイアル(Fiolax Clear 40×22×1mm、Schott,Mullheim,Germany)中に分注し(各バイアルに2mL)、下の表1に詳しく述べられているサイクルに従って凍結乾燥した(Freeze Dryer Epsilon 2−8D、Martin Christ Gefriertrocknungsanlagen GmbH,Osterode am Harz,Germany)。
【表1】
【0174】
凍結乾燥物質は、窒素雰囲気下及び60kPa(0.6Bar)の不完全真空下で、高圧滅菌したゴム栓(シリコーン20mm、West Pharmaceutical Services,Lionville,PA,USA;カタログ番号7001−2742)で密封された。プールしたWAPから調製され、S/D及びSDR HyperDクロマトグラフィー樹脂で処理された凍結乾燥血小板抽出物は、本明細書では「LYO I」と呼ばれる。
【0175】
LYO Iの精製工程は、単一ウイルス不活性化工程であるS/D処理を含んだ。
【0176】
実施例2:様々な血小板抽出物調製物のタンパク質プロフィールの特徴付け。
以下の実験は、洗浄白血球低減アフェレーシス血小板のタンパク質プロフィールを特徴付け[全血(MDA Blood Bankより入手)からの洗浄血小板と比較した場合の、未処理のWAP物質(上述のthe US Blood Collection Centerから入手)]、S/D処理又はS/D処理+SDR HyperDクロマトグラフィー樹脂精製がWAPのタンパク質プロフィールに影響を与えたかどうかを調べることを目的とした。S/D処理及びSDR HyperDクロマトグラフィー樹脂精製は上で詳述した通りに行われた。全ての場合において、抽出物は、血小板を凍結・解凍し、必要であれば、S/D処理することによって得た。タンパク質プロフィール分析はドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)によって行われた。各試験調製物のタンパク質の量は、以下に特定されている。全タンパク質量は、Pierce BCAタンパク質アッセイ(Thermo Fisher Scientific Inc.,Rockford,IL,USA;カタログ番号23235)を使用し、製造者の使用説明書に従って決定された。SDS−PAGE手順は、次のようなやり方で行われた。調製物を、トリス−グリシンランニング緩衝液(Bio−Rad Laboratories,Hercules,CA,USA;カタログ番号161−0772)を有する、4〜12%のトリス−グリシンゲル1.5mM×10ウェル(Invitrogen,Carlsbad,CA,USA;カタログ番号EC6038BOX)に充填した。用いた実行条件は、25mA定電流にて1.5時間であり、PowerPack 300電源(Bio−Rad Laboratories,Hercules,CA,USA)を使用した。実行工程の後、ゲルを、InstantBlue Coomassieベースの染色液を製造者の使用説明書(Expedeon Inc.,San Diego,CA,USA;カタログ番号ISB01L)に従って使用して、2〜8℃にて一晩染色した。
図1は、様々な調製物のタンパク質プロフィールを示す。
【0177】
結果は、全血輸血から得た洗浄血小板(レーン3)に対し、洗浄白血球低減アフェレーシス血小板(WAP;レーン4)は微量のアルブミンを含有することを示している。S/D処理後(レーン5)及びS/D処理+SDR HyperDクロマトグラフィー樹脂精製後(レーン6)のWAPのバンド形成パターンは、出発物質(即ち、WAP;レーン4)のそれと同様であった。
【0178】
これらの結果は、タンパク質の組成は、上記処理工程中に有意に影響を受けないことを示している。
【0179】
実施例3:LYO Iが細胞増殖及び細胞の形態に与える影響。
以下の実験は、LYO I(プールしたWAPから調製され、S/Dで処理され、SDR HyperDクロマトグラフィー樹脂にさらされ、かつ凍結乾燥された、凍結乾燥血小板抽出物−実施例1に詳述されている通りに調製)が、線維芽細胞の細胞増殖に与える生体影響を調べるために行われた。LYO Iが細胞増殖に与える影響を、WAPの影響と比較した。
【0180】
細胞増殖アッセイ。
この目的のため、3T3−スイスアルビノ線維芽細胞(ATCC、カタログ番号CCL92)を、25×10
3細胞/mL(2500細胞/ウェル)の濃度で、組織培養用の処理をしたCostar社の96ウェルプレート(Corning Life Science,MA USA)の中の100μLの完全増殖培地[4.5gr/Lのグルコースを含有し、4mMのグルタミン(Biological Industries,Israel;カタログ番号03−020−1B)、10%のウシ胎児血清(FCS;HyClone,USA;カタログ番号SH30070.03)、ペニシリン(100U/mL)/ストレプトマイシン(0.1mg/mL)/アンフォテリシン(amphotericine)(0.25μg/mL)溶液(P/S/A;Biological Industries,Israel;カタログ番号03−033−1B)を添加したDMEM(Biological Industries,Israel;カタログ番号01−055−1A)]中に播いた。播種した細胞を、5% CO
2の湿気のある環境中で、37℃にてインキュベートした。細胞播種から24時間後に、完全増殖培地を廃棄し、ウェルを100μLの飢餓培地で2回洗浄し、100μLの新鮮な飢餓培地を各ウェルに加えた[飢餓培地:4.5gr/Lのグルコースを含有し、4mMのグルタミン、1%のMEM−EAGLE非必須アミノ酸(Biological Industries,Israel;カタログ番号01−340−1B)、1%のヒト血清アルブミン(Plasbumin 25、Talecris Biotherapeutics,Germany)、及びP/S/A(上記の濃度)を添加したDMEM]。
【0181】
増殖は、「プールしたWAP」(上記の調製参照)又は再構成された「LYO I」を添加することによる培地の交換の24時間後に誘発された。LYO Iは、0.4mLの飢餓培地の中で再構成された(凍結乾燥前の物質に比べて5倍の濃度)。全タンパク質量は、Pierce BCAタンパク質アッセイによって決定された(実施例2参照)。WAP I及びLYO Iの両方におけるいくつかの成長因子の濃度を、ELISA(R&D Systems,MN USAのQuantikine:ヒトTGF−β1カタログ番号DB100B、ヒト線維芽細胞増殖因子カタログ番号HSFB00D、ヒトPDGF−ABカタログ番号DHD00B、ヒトEGFカタログ番号DEG00)によって検出し、増殖アッセイ中のウェルに存在する量は次の通りである:WAP I及びLYO Iで処理したウェル中、それぞれ、TGF−β1−205及び350ng/mL;bFGF−260及び265pg/mL;PDGF−AB−75及び7ng/mL;並びにEGF−3及び3ng/mL。
【0182】
増殖は、WAP又はLYO I添加の48時間後に、ミトコンドリア活性に基づいて細胞増殖及び細胞生存率定量化するWST−1細胞増殖試薬を製造者の使用説明書(Roche Diagnostics,Mannheim,Germany;カタログ番号11−644−807)に従って使用して評価した。プレートを、5% CO
2の湿気のある環境中で、37℃にて2時間インキュベートした後、1分間振盪した。ELISAリーダーを用いて、サンプルの吸光度を、ブランクとしてのバックグラウンド対照(細胞を有さない飢餓培地)に対して450nmで測定した。650nmで得た基準値を各値から減算した。
【0183】
「プールしたWAP」又は「LYO」で処理した3T3細胞の増殖が、
図2に示されている。実験を3回ずつ行った。飢餓培地で成長した細胞(「0」としてマークされている)を対照として用いた[
***−p<0.001(t検定分析)、「0」と比較]。
【0184】
結果は、対照(0としてマークされている)に比べ、WAP及びLYO Iを添加することによって、細胞増殖速度が有意に促進されたことを示す。
【0185】
細胞形態。
LYO Iが細胞の形態に与える影響を、次の2つの異なる細胞株の型を用いてモニターした:新生児由来の内皮幹細胞であるヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC;Lonza Switzerland;カタログ番号C2519A);及び3T3−スイスアルビノ線維芽細胞。一定の条件の下で、例えば創傷治癒過程の間、線維芽細胞はスピンドル状の形状を獲得する。これら形状は、線維芽細胞の運動性の増加の特性である(Park et al.Comparative study on motility of the cultured fetal and neonatal dermal fibroblasts in extracellular matrix.Yonsei Med J.2001 Dec;42(6):587〜94;Nagano et al.PDGF regulates the actin cytoskeleton through hnRNP−K−mediated activation of the ubiquitin E3−ligase MIR.EMBO J.2006 May 3;25(9):1871〜82)。HUVECは多くの場合、血管様構造体からの様々な物質による血管新生の誘導を評価するために用いられる(Arnaoutova I,Kleinman HK.In vitro angiogenesis:endothelial cell tube formation on gelled basement membrane extract.Nat Protoc.2010;5(4):628〜35)。これら形態変化は血管形成に関連する。
【0186】
LYO Iが細胞の形態に与える影響をモニターするために、HUVEC又は3T3−スイスアルビノ細胞を、25×10
3細胞/mL(2500細胞/ウェル)の濃度で、96ウェルプレートの中の100μLの完全増殖培地[HUVEC:Low Serum Growth Supplement(LSGS;Gibco Invitrogen,CA USA;カタログ番号S00310)及びP/S/A溶液(上記濃度)を添加したmedium 200(Gibco Invitrogen,CA USA;カタログ番号M200500);3T3−スイスアルビノ細胞用:先行実験に記載されている通り]中に播いた。細胞播種から24時間後に、完全増殖培地を廃棄し、各ウェルを100μLの飢餓培地で2回洗浄し、100μLの新鮮な飢餓培地を加えた[HUVEC:2%のFCS及びP/S/A(上記濃度と同じ)を添加したmedium 200;3T3用:先行実験に記載されている通り]。飢餓培地に変更してから24時間後に、再構成したLYO I(ウェル当たりの総タンパク質は20mg/mL;再構成は各細胞に適した飢餓培地0.4mLの中で行われた)をウェルに加えた。ウェルにおけるTGF−β、bFGF、PDGF−AB、及びEGFの濃度は、増殖アッセイにおけるものと同じである。
【0187】
いくつかのHUVECサンプルに追加処理を行った。いくつかのサンプルには、2IU/mLのトロンビン(ウェル中の最終濃度)[EVICEL(商標)フィブリン封止剤(Omrix Biopharmaceuticals Ltd.)のトロンビン成分と同じ溶液]を添加し、いくつかのサンプルには、1:16に希釈したフィブリノーゲン成分(ウェル中の最終希釈;使用したフィブリノーゲン成分は、EVICEL(商標)フィブリン封止剤のBAC成分)を添加し、他のサンプルには、LYO I+2IU/mLのトロンビン(ウェル中の最終濃度)を添加し、他のサンプルには、LYO I+希釈したフィブリノーゲン成分(1:16)を添加した。希釈は全て飢餓培地中で行われた。飢餓培地で増殖した未処理の細胞を対照として使用した。
【0188】
様々な処理の後48時間(3T3;
図3)又は72時間(HUVEC、
図4)の時点で、細胞の形態を顕微鏡で評価した。各実験を3回ずつ行った。
【0189】
結果は、未処理の3T3−スイスアルビノ細胞(
図3A)は、菱形の凧状の形状を有した(ストライプの矢印参照)ことを示している。LYO Iの添加は(
図3B)、スピンドル様構造(連続矢印)の形成をもたらした。
【0190】
HUVECの未処理の細胞及びトロンビンで処理した細胞(それぞれ、
図4A及び
図4C)は、菱形の形状(ストライプの矢印)を有し、LYO Iの添加は(
図4B)、血管様構造の形成を誘発した(連続矢印)。更に、HUVEC細胞を、LYO I及びトロンビン(
図4D)又はLYO I及びBAC(
図4F)で処理すると、他の処理群に比べて血管様構造の形成の増加がもたらされた。BACのみでの処理(
図4E)は、軽微な影響をもたらした(少数の血管様構造が形成された)。
【0191】
実施例4:プールしたWAPから調製され、S/Dで処理され、低温殺菌され、かつ無菌濾過された凍結乾燥血小板抽出物。
ヒト血液由来の製品は、ウイルスなどの感染病原体を伝播させる危険性を伴い得る。通常は、ウイルス及び/又は未知の病原体を伝播させる危険性を最小限に抑えるためにいくつかの手段がとられ、該手段には、特定のウイルスが存在するかどうかに関する提供されたサンプルの定期試験、及び製造プロセスの間のウイルス不活性化/除去工程などが含まれる。ウイルス伝播の危険性の効果的な低減は、製品の有益な特性を変更しない少なくとも2つの直交するウイルス不活性化工程を含むことによって達成され得る。HIV、B型肝炎、C型肝炎、及びウエストナイルウイルスなどの脂質エンベロープウイルスは、ウイルスの脂質膜を破壊するS/D処理によって、迅速かつ効果的に不活性化される。
【0192】
低温殺菌は、熱が脂質エンベロープ及び非エンベロープウイルスの両方を破壊するプロセスである。ナノ濾過は、特別なナノメートルスケールのフィルタを使用することによって、脂質エンベロープ及び非エンベロープウイルスをサンプルから排除するプロセスである。
【0193】
以下の実施例では、第2のウイルス不活性化工程として低温殺菌を用いる能力を評価した。
【0194】
WAP物質のプールを調製し、次の1)〜8)であることを除いては、実施例1に詳述されている通りにS/D処理した。1)3個のWAPバッグを使用した(総体積600mL)。2)430mLのサンプルを取り出してS/Dで処理し、残りの170mLは、後で分析するために−80℃で凍結した(「プールしたWAP II」)。3)HSAを最終濃度1% v/vになるように(LYO Iに見られるように5%のHSAではない)サンプルに添加した。4)500mL[430mLのサンプル+70mLの酢酸塩グリシン緩衝液(200mMの酢酸ナトリウム及び100mMのグリシン)]のサンプルをステンレス鋼製ビーカーに移し、25℃(実施例1に見られるように4℃ではない)に設定された水浴に入れた。5)Triton X−100及びTnBPを添加した後、サンプルを25℃にて2時間にわたって連続的に撹拌した(S/D処理が、実施例1の4℃に対し25℃と高い温度で行われたので、Triton X−100及びTnBPは、実施例1の4時間に対し、この実験では2時間と短時間で添加された)。6)S/D除去は、SDR HyperD溶媒−洗剤除去クロマトグラフィー樹脂80mLが詰め込まれたXK26/40液体クロマトグラフィーカラムを、BT300−2J蠕動ポンプ(MRC,Israel)、及びUA−6 UV/VIS検出器+Type 11記録計(ISCO,NE,USA)と共に使用し、10mL/分の定流量で実施された。カラムを320mLのddH
20を用いて調製した後、1%のHSA v/v(5%ではない)を含有する240mLの酢酸塩グリシン緩衝液(20mMの酢酸ナトリウム、10mMのグリシン、pH 6.8〜7.4)で平衡させた。7)サンプル(450mL)の充填後、カラムを144mLの酢酸塩グリシン緩衝液(20mMの酢酸ナトリウム、10mMのグリシン、pH 6.8〜7.4)+1%のHSA v/vで洗浄し、続いて144mLのddH
2Oで洗浄した。8)D−マンニトールはフロースルー物質に添加されなかった。次に、S/D処理されたフロースルー物質(即ち非結合分画及び洗浄緩衝液)(610mL)を、以下の通りに安定化工程及び低温殺菌に供した。フロースルーサンプル1グラム当たり1グラムのスクロースを、スクロースが完全に溶解するまで混合しながら(約22℃)、フロースルー物質にゆっくりと加えた。次に、溶液を37±1℃まで温め、フロースルー物質1g当たり0.11gのグリシンを、混合及び0.5NのNaOHを用いてpHを6.8〜7.4に調製しながら、溶液にゆっくりと加えた。pH調製は、グリシンが完全に溶解するまで行われた。その後、フロースルー物質1g当たり0.8gのスクロースを、完全に溶解するまで37℃で混合しながら徐々に加えた。スクロース及びグリシンは、低温殺菌工程中の安定化剤としての役割を果たすように溶液に添加された。次に、連続的に混合しながら(50RPM)60℃にて10時間にわたって熱処理することによって、溶液を低温殺菌した。(安定化剤の添加によって形成された)得られた粘性溶液を清潔な容器に移すため、最大総体積1830mLまで酢酸塩グリシン緩衝液(20mMの酢酸ナトリウム、及び10mMのグリシン、pH 6.8〜7.4)で希釈した。2 Omega Minisette 10kDaカセット(Pall Corp,Port Washington,NY,USA)を備えるFiltron Ultrafiltration Systemを用いて、酢酸塩グリシン緩衝液(20mMの酢酸ナトリウム、10mMのグリシン、pH 6.8〜7.4)に対して透析濾過を行うことによって、溶液から安定化剤を除去した。透析濾過工程は次の通りに行われた。初めに、サンプルを900mLの体積まで濃縮し、溶液体積を900±100mLに維持しながら緩衝液を徐々に加えることによって、総体積5,400mLの酢酸塩グリシン緩衝液(20mMの酢酸ナトリウム、10mMのグリシン、pH 6.8〜7.4)に対して透析を行った。次に、透析した溶液を400mLになるまで濃縮した。
【0195】
凝集物質を除去するため、溶液を、5及び1.2μmのSartopure PP2フィルタ(カタログ番号5591342P5、5591303P5)に通し、次に0.45μmのSartopore 2フィルタ(Sartorius Stedim Biotech S.A.,Aubagne,France;カタログ番号5441306G5)に通して、連続的に濾過した。滅菌濾過は、無菌条件下で(生体無菌キャビネットの中で)、0.2μmのSartopore 2フィルタ(Sartorius Stedim Biotech S.A.,Aubagne,France;カタログ番号5441307H5)を使用して行われた。次に、実施例1に示されているように、溶液を高圧滅菌したガラス製バイアルの中に分注し(4mL)、凍結乾燥し、窒素雰囲気下及び60kPa(0.6Bar)の不完全真空下で高圧滅菌したゴム栓で密封した。上で調製された凍結乾燥血小板抽出物は、本明細書では「LYO II」と呼ばれる。
【0196】
LYO IIの調製は、S/D処理、低温殺菌工程、及び0.2μmを通す最終滅菌濾過を含んだ。
【0197】
実施例5:LYO IIが細胞増殖及び細胞形態に与える影響。
以下の実験は、LYO II(プールしたWAPから調製され、S/Dで処理され、SDR HyperDクロマトグラフィー樹脂にさらされ、低温殺菌、無菌濾過、及び凍結乾燥された血小板抽出物)が細胞増殖に与える影響を決定することを目的とした。細胞播種濃度及び完全増殖培地交換は、2つの異なる細胞株であるHUVEC及び3T3−スイスアルビノにおいて、実施例3と同様に行われた(各細胞型に適合する完全増殖培地及び飢餓培地を用いた;上記培地成分参照;100μLの培地中、1ウェル当たり2500個の細胞)。
【0198】
3T3−スイスアルビノ細胞では、プールしたWAP II又は再構成LYO II(4mLの溶液から凍結乾燥され、0.5mLの滅菌精製水中で再構成されたLYO II−プールしたWAP IIと比べて8倍に濃縮)を加えることによる培地の交換から24時間後に増殖が誘発された。LYO IIの再構成の後、LYO II及びプールしたWAP IIの両方を、適合する飢餓培地で5倍に連続希釈した(プールしたWAP IIの開始濃度を1とし、それに基づいて、1、0.2、0.04、0.008、0.0016、0.00032の相対濃度を用いた;LYO IIの開始濃度を8(この濃度は本実験では試験されなかった)とし、それに基づいて、1.6、0.32、0.064、0.0128、0.00256の相対濃度を用いた)。各希釈から10μLをウェルに加えた(初期接種濃度は2500個の細胞;及び100μLの培地)。WAP II及びLYO IIの両方におけるいくつかの成長因子の濃度を、ELISA(Quantikine by R&D Systems,MN USA:ヒトPDGF−ABカタログ番号DHD00B、ヒトVEGFカタログ番号DVE00)によって検出し、増殖アッセイ中にウェルに存在する有効濃度(最高濃度)は次の通りである:WAP II及びLYO IIで処理したウェル中、それぞれ、bFGF−120及び280pg/mL;VEGF−0.75及び2.7ng/mL;並びにPDGF−AB−80及び36ng/mL。
【0199】
3T3−スイスアルビノ細胞の増殖レベルを、WST−1細胞増殖試薬を使用して48時間後に評価した。プレートを、5% CO
2の湿気のある環境中で、37℃にて4時間インキュベートした後。インキュベーション期間の終わりに、プレートを1分間振盪し、サンプルの吸光度を、実施例3に詳述されている通りに測定した。未処理細胞で得たOD値を得られたOD結果から減算し、計算値をS字用量反応曲線としてプロットした。GraphPad Prismソフトウェアを使用して、R
2フィット及び半有効濃度(EC50)値を算出した。LYO II又はプールしたWAP IIが3T3−スイスアルビノ線維芽細胞に及ぼす増殖促進効果が
図5に示されている。実験を3回ずつ行った。
【0200】
結果は、LYO IIが3T3−スイスアルビノに及ぼす増殖促進効果は、出発物質(プールしたWAP II)のそれと同様であること示す。これらの結果は、2段階のウイルス不活性化を含むLYO IIの生産過程は、WAP出発物質と比較してその効力に影響を与えないことを示している(例えば、EC50値は、プールしたWAP IIで0.018及びLYO IIで0.013であった)。
【0201】
HUVECでは、様々な処理[再構成LYO IIと共に、又は再構成LYO IIなしでの、トロンビン(T;ウェル中の最終濃度1IU/mL;Omrix Biopharmaceuticals Ltd.のEVICEL(商標)フィブリン封止剤からのトロンビン成分)の添加、及び再構成LYO IIの添加]による培地交換から24時間後に増殖が誘発された。未処理の細胞を基準として用いた(0としてマークされている)。各処理溶液10μLを各ウェルに加えた。
【0202】
4mLの溶液から凍結乾燥されたLYO IIの再構成は、0.5mLの滅菌精製水中で行われた(即ち8倍濃縮)。
【0203】
bFGF、VEGF、及びPDGF−ABの濃度は、3T3細胞において行われた増殖アッセイと同じであった。
【0204】
増殖レベルの測定は、処理開始から72時間後に、WST−1細胞増殖試薬によって行われた。インキュベーション期間(4時間)の終わりに、プレートを1分間振盪し、サンプルの吸光度を前述の通りに測定した。測定は2回ずつ行った。LYO IIの血管形成能を調査するため、第3の複製物をCalcein−AMで染色した(結果は下の「HUVECにおける血管様構造の形成」を参照のこと)。
【0205】
LYO II、トロンビン、及びトロンビン+LYO IIによる誘発後のHUVECの増殖速度が
図6に示されている。
【0206】
これらの結果は、HUVECに対するLYO IIの添加は、対照細胞(「0」、LYO IIを有さない)又はトロンビンのみで処理された細胞と比べて、有意に高い増殖をもたらしたことを示している。LYO II+トロンビン(T)の添加は、LYO IIのみの添加と比べて、より顕著な増殖活性をもたらした。HUVECにおける血管様構造の形成。
【0207】
以下の実験は、基底膜抽出物(BME)コーティング上のHUVEC飢餓培地中で成長させたときにHUVECによってもたらされる血管様構造を観察するための陽性対照として実施された。BMEは、細胞粘着、遊走、増殖、及び分化、並びに細胞の成長に影響を与える組織構築において極めて重要な役割を果たす(Mehta VB,Besner GE.HB−EGF promotes angiogenesis in endothelial cells via PI3−kinase and MAPK signaling pathways.Growth Factors.2007 Aug;25(4):253〜63;Arnaoutova I,Kleinman HK.2010)。コラーゲンでコーティングされたウェル上のHUVEC飢餓培地中で成長した細胞を、陰性対照として用いた。
【0208】
陽性対照の画像を得るため、(上で記載されている通り)HUVEC細胞を、1×10
5細胞/mL(10000細胞/ウェル)の濃度で、96ウェルプレートの100μLのHUVEC完全増殖培地中に播いた。播種された細胞を、5% CO
2の湿気のある環境中で、37℃にてインキュベートした。24時間後、完全増殖培地を廃棄し、100μLの新鮮な飢餓培地を各ウェルに加えた(上記実施例3の培地成分参照)。細胞播種に先立ち、ウェルは、50μL/ウェルの成長因子を低減した基底膜抽出物(BME;Cultrex,Trevigen Inc.,MD,USA;カタログ番号3433−005−001)で、製造者の手順に従ってコーティングされた、又は濃度3mg/mLの50μL/ウェルのウシのコラーゲンI(Invitrogen,CA,USA、カタログ番号A10644−01、ゲル化手順に関する製造者の手順に従って調製)でコーティングされた。
【0209】
24時間のインキュベーション期間の後、5μMを37℃にて30分にわたって添加することによって細胞を染色し、Axiovert 200顕微鏡(倍率100倍)及び530nmの蛍光フィルタ(Carl Zeiss MicroImaging,NY,USA)を使用して、代表写真を撮った。Calcein−AMは、細胞生存率を試験するため、及び細胞を短期間標識化するために用いられる蛍光染料であり、細胞内に輸送された後、細胞内のエステラーゼ(生存細胞に存在する)は、メトキシ酢酸基(acetomethoxy group)を除去し、分子が中に閉じ込められ、強い緑色蛍光を提供する。死細胞には活性エステラーゼがないので、生細胞のみが標識化される。結果を
図7に示す。
【0210】
結果は、血管形成の可能性を反映するはっきりした管状構造が、BEMでコーティングされた表面上で検出された。コラーゲンコーティングでは管形成は観察されなかった(データは示されていない)。
【0211】
血管形成を誘発するLYO IIの能力を調査するため、先の実験(実施例5の細胞増殖実験)からの第3の複製物を、上記のように5μMのCalcein−AMで染色し、Axiovert 200顕微鏡(倍率200倍)及び530nmの蛍光フィルタを使用して、代表写真を撮った。LYO IIによる処理の後にHUVECによってもたらされた血管様構造を
図8に示す。
【0212】
再構成LYO IIの添加(8B)は、陽性対照の処理(BMEコーティング上に播種されたHUVEC、
図7)と同様に、管状構造の形成の開始をもたらしたことが分かる。
【0213】
誘発された細胞運動性と相関している可能性がある細胞形態変化を誘発するLYO IIの能力を調査するため、実施例5の細胞増殖アッセイと同様の条件で、3T3−スイスアルビノ細胞で実験を行った(適合する完全増殖培地及び飢餓培地を使用した)。未処理の細胞と比較して、LYO II及びプールしたWAP IIは、(菱形の形状からスピンドル様形状への)形態変化を誘発したことが観察された(データは示されていない)。
【0214】
別の実験では、フィブリン封止剤又はフィブリノーゲンの存在下で血管様構造を誘発するLYO IIの能力を評価した。フィブリン封止剤は、細胞外基質成分、例えば、フィブロネクチン及びフィブリノーゲンを含む(Bar et al.「The binding of fibrin sealant to collagen is influenced by the method of purification and the cross−linked fibrinogen−fibronectin(heteronectin)content of the『fibrinogen』component」.Blood Coagul Fibrinolysis.2005;16:111〜117)。インビボ設定と似た環境条件を作り出すため、フィブリン封止剤の添加を行った。この目的のため、HUVECを、1×10
5細胞/mL(10000細胞/ウェル)の濃度で、組織が(フィブリノーゲン又はフィブリンで−以下の手順参照)プレコートされた培養処理済みのCostar社の96ウェルプレートの、100μLの完全培地中に播種した。24時間後、培地を廃棄し、100μLの飢餓培地を加えた(培地は上記成分を含む)。フィブリノーゲン又はフィブリンのプレコートは以下の通りに形成された。
a.50μLのフィブリノーゲン成分(EVICEL(商標)フィブリン封止剤の成分;Omrix biopharmaceuticals Ltd.、HUVEC飢餓培地で4mg/mLに希釈)を各ウェルに加えた。プレートを37℃で1時間インキュベートし、溶液を吸引し、ウェルをPBSで2回洗浄した。
b.50μL/ウェルのフィブリンを25μLのフィブリノーゲン成分(EVICEL(商標)フィブリン封止剤の成分、HUVEC飢餓培地で8mg/mLに希釈)及び25μLのトロンビン成分(EVICEL(商標)フィブリン封止剤の成分、HUVEC飢餓培地で2IU/mLに希釈)から形成した。
【0215】
コーティング溶液をウェルに塗布した後、プレートを37℃で1時間インキュベートした。次に、溶液を吸引し、ウェルをPBSで2回洗浄した。次に、上記の条件下で細胞を播種した(100μLの完全増殖培地中10000細胞/ウェル)。細胞播種から24時間後に、培地を100μLの飢餓培地と交換した。培地を変えてから24時間後に、10μLのプールしたWAP II又は(2mLの滅菌水中で、即ちWAP出発物質の体積に対して2倍の濃度に)再構成されたLYO IIを、ウェルに加えた。WAP II及びLYO IIの両方におけるいくつかの成長因子の濃度は、次の通りであった:WAP II及びLYO IIで処理したウェル中、それぞれ、bFGF−480及び1120pg/mL;VEGF−3及び10.8ng/mL;及びPDGF−AB−320及び144ng/mL。
【0216】
細胞を上記のようにCalcein−AMで染色し、代表写真を倍率100倍で撮った。結果を
図9に示す。
【0217】
フィブリノーゲン又はフィブリンでコーティングされた表面は、管形成をもたらすことになる顕著な形態変化を誘発するには不十分であったことが明らかである。しかしながら、LYO II又はプールしたWAP IIのいずれかを、フィブリノーゲン又はフィブリンコーティングと一緒に加えると、管状構造形成を促進した。
【0218】
実施例6:プールした洗浄白血球低減アフェレーシス血小板(WAP)から調製され、S/D処理、低温殺菌、無菌濾過、及び濃縮された凍結乾燥血小板抽出物。
S/D処理及び熱処理されたWAP物質のプールを、次の1)〜8)であることを除いては、実施例4の通りに調製した。1)10個のWAPバッグを使用した(総体積2000mL)。2)1720mLのサンプルを取り出してS/Dで処理し、残りの280mLは、後で分析するために−80℃で凍結した(「プールしたWAP III」)。3)最終濃度が1%のHSA v/vになるようにHSAをサンプルに添加した。4)S/D除去は、SDR HyperD溶媒−洗剤除去クロマトグラフィー樹脂295mLが詰め込まれたXK50液体クロマトグラフィーカラムを、蠕動ポンプ及びUA−6 UV/VIS検出器+Type 11記録計と共に使用し、40mL/分の定流量で実施された。5)フロースルーで収集した物質の体積は2700mLであった。6)安定化及び低温殺菌の後に粘性溶液を移動させるため、溶液を総体積8600mLまで酢酸塩グリシン緩衝液(20mMの酢酸ナトリウム、及び10mMのグリシン)で希釈した。7)Centramate PE接線流濾過薄膜カートリッジホルダー+4 Omega Centramate 10kDa限外濾過カセット(Pall Corp,Port Washington,NY,USA)を使用し、最初にサンプルを3500mLの体積まで濃縮し(体積8600mLから)、続いて、溶液体積を3500mL±200mLに維持しながら緩衝液を徐々に加えることによって、総体積10,320mLの酢酸塩グリシン緩衝液(上記と同様)に対して透析を行うことによって、透析濾過を行った。次に、透析したサンプルを450mLまで濃縮した(開始時体積の約25%:1720mLのサンプルを取り出してS/Dで処理した上記工程2を参照のこと)。8)凝集物質を除去するために、濃縮された透析溶液を、20、5、及び1.2μmのSartopure PP2フィルタに通し、次に0.45μmのSartopore 2フィルタに通して連続的に濾過した(5及び1.2μmに通すだけでなく、続いて0.45μmにも通した)。滅菌濾過は0.2μmを通して行われた。次に、前述のように、濾過したサンプルを分注し(4mL)、凍結乾燥した。上で調製された凍結乾燥血小板抽出物は、本明細書では「LYO III」と呼ばれる。
【0219】
LYO IIと同様に、LYO IIIのウイルス精製工程は、S/D処理、追加の低温殺菌工程、及び最終滅菌濾過を含んだ。透析工程の間、透析した溶液の体積は、出発体積と比較して4倍に濃縮された。
【0220】
実施例7:プールした洗浄白血球低減アフェレーシス血小板(WAP)から調製され、S/D処理、低温殺菌、及び濃縮された凍結乾燥血小板抽出物(「LYO III」)中の血漿タンパク質の濃度。
血液凝固に関与するタンパク質を含む様々な血漿タンパク質の濃度を、プールしたWAP III及びLYO IIIにおいて測定した。
【0221】
LYO IIIの再構成は、凍結乾燥前の体積(4mL)のddH
2O中で行われた。
【0222】
様々なタンパク質の濃度を次のように評価した。
【0223】
以下の修正済みのヨーロッパ薬局方検定(0903/1997)手順により、トロンビンの凝固活性を測定した。トロンビン標準品(Omrix,Israel)と0.1%フィブリノーゲン溶液(Enzyme Research Laboratories,IN,USA)とを、STart4凝固器具(Diagnostica Stago,Asnieres sur Seine,France)を使用して混合することによって、対数凝固時間と対数トロンビン濃度とを比較する検量線をプロットした。得られた凝固時間(凝固機により自動的に計算、検量線から内挿し、その後希釈係数を乗じた)により、様々なサンプル中のトロンビンの活性を算出した。
【0224】
活性のあるフィブリノーゲンの定量化を、クラウス法に基づく、修正済みのヨーロッパ薬局方検定(0903/1997)に従って評価した。凝固時間を、STart4凝固器具(Diagnostica Stago,Asnieres sur Seine,France)を使用して測定した。この方法では、トロンビンの過剰存在下でフィブリノーゲン(Enzyme Research Laboratories,IN,USA)を用いて検量線を作成した後、この検量線からサンプルのフィブリノーゲン濃度を算出する。
【0225】
市販のELISAキット(MD Biosciences,Zurich,Switzerland;カタログ番号HFIBKT)を製造者の使用説明書に従って使用して、総フィブリノーゲンを測定した。
【0226】
フィブロネクチンの定量化は、市販のELISAキット(Technoclone、カタログ番号TC12030)を使用して行われた。
【0227】
フォンヴィレブランド因子(vWF)の定量化は、ELISAアッセイにより行われた。ポリクローナルウサギ抗ヒトvWF抗体(DAKO;カタログ番号A0082)、及びポリクローナルウサギ抗ヒトvWF HRPコンジュゲート抗体を、アッセイで使用した。Unicalibrator(Diagnostica Stago;カタログ番号00625)を使用して標準曲線を作成した。
【0228】
第II因子、第VII因子、第VIII因子、第IX因子、第X因子、及び第XI因子の量は、Diagnostica Stago、Asnieres sur Seine、Franceから購入した次の試薬を使用し、STart4凝固器具を用いて決定した:STA−Deficient II(カタログ番号00745)、STA−Deficient VII(カタログ番号00743)、STA−Deficient VIII(カタログ番号0725)、STA−Deficient IX(カタログ番号00724)、STA−Deficient X(カタログ番号00738)、及びSTA−Deficient XI(カタログ番号00723)。全ての試薬は、製造者の使用説明書に従って使用した。
【0229】
IgG濃度は、ウエスタンブロット法による半定量的分析によって、アルカリ性ホスファターゼ結合アフィニィピュア(AffiniPure)ヤギ抗ヒトIgG+IgM(H+L)(Jackson ImmunoResearch Laboratories Inc.,PA,USA;カタログ番号109−055−088)を使用して測定した。サンプル中のIgG濃度は、ヒトIgG BRP Ph.Eur.標準品を用いて作成した検量線から算出した。
【表2】
* 値は検出限界を指すので、サンプルはこれらタンパク質が欠乏していると考えられる。
【0230】
表2に示される結果は、プールしたWAP III及びLYO IIIの両方が、非常に少量の血漿タンパク質を含んでいることを示す。LYO IIIにおける凝固タンパク質の限界レベル又は完全欠損は、血小板抽出物を非凝固性にする。これと比べると、Burnouf(WO 2009/087560)に従って調製された血小板抽出物は、高濃度の凝固因子を含有する。LYO III及びプールしたWAP IIIは、0.08mg/mL未満の活性のあるフィブリノーゲンを含む。
【0231】
実施例8:線維芽細胞の細胞増殖及びHUVECの形態変化にLYO IIIが与える影響。
LYO IIIが細胞増殖に与える影響を、3T3−スイスアルビノ細胞を使用し、実施例5に詳述されている通りに行った。
【0232】
4mLの溶液から凍結乾燥され、WAPの開始体積と比較して4倍に濃縮されたLYO IIIを、0.5mLの滅菌精製水の中で再構成した(即ち8倍濃縮)(プールしたWAP IIIの出発体積と比較すると32倍の濃縮)。再構成の後、プールしたWAP III又は再構成LYO IIIを、適切な飢餓培地中で5倍に連続希釈し、各希釈物の10μLを、100μLの飢餓培地を含有するウェルに加えた。プールしたWAP IIIの開始濃度を1とし、それに基づいて連続的な希釈を算出した。LYO IIIの開始濃度を32とし、それに基づいて連続的な希釈を算出した。WAP III及びLYO IIIの両方におけるいくつかの成長因子の濃度を、ELISA(R&D Systems,MN USAのQuantikine:ヒトTGF−β1カタログ番号DB100B、ヒト線維芽細胞増殖因子カタログ番号HSFB00D、ヒトVEGFカタログ番号DVE00、ヒトPDGF−ABカタログ番号DHD00B)によって検出し、増殖アッセイ中にウェル中に存在した有効濃度(最高濃度)は次の通りである:WAP III及びLYO IIIで処理したウェル中、それぞれ、TGF−β1−170及び4250ng/mL;bFGF−85及び540pg/mL;VEGF−1及び13ng/mL;並びにPDGF−AB−73及び33ng/mL。
【0233】
標準対照として、組み換えヒト成長因子のカスタム混合物(本明細書ではMasterMix;MMと呼ぶ)を、次の成分を用いて調製した:TGF−β1 200ng/mL、b−FGF 0.5ng/mL、VEGF 5ng/mL、及びPDGF−AB 300ng/mL(成長因子はR&D Systemsから購入した;それぞれ、カタログ番号240−B−010/CF、233−FB−025/CF、293−VE−010/CF、及び222−AB−010)。MM混合物も飢餓培地中で5倍に連続希釈し、ウェルに加えた(10μL)。処理の開始から72時間後に、WST−1細胞増殖試薬を使用して増殖を評価した(添加剤を有さない細胞をバックグラウンドとし、OD値から減算した)。インキュベーション期間(4時間)の終わりに、プレートを1分間振盪し、サンプルの吸光度を前述の通りに測定した。試験を3回ずつ行った。共通因子に基づいて様々な物質を比較するために、得られた結果は、PDGF−AB(全試験物質中に存在する、3T3細胞増殖を引き起こす成長因子)の濃度に正規化された(以下参照)。PDGF−ABへの正規化は、再構成LYO III中のPDGF−AB濃度を測定し[市販のELISAキット(Quantikine,R&D Systems,MN,USA;カタログ番号DHD00B)]、相対希釈におけるPDGF−ABの濃度を算出することによって行われた。WST−1細胞増殖試薬によって得たOD結果を、算出したPDGF−AB濃度値に対してプロットした。MasterMix(MM)を陽性対照として用いた。正規化は特異的ELISAによって評価されたPDGF−AB濃度に対して行われた。
【0234】
3T3−スイスアルビノ細胞に対するLYO III又はプールしたWAP IIIの増殖促進効果の結果を
図10に示す。
【0235】
結果は、サンプル中に存在するPDGF−ABの量に正規化されると、LYO III又はプールしたWAP IIIの濃度の増加が、3T3−スイスアルビノ線維芽細胞の増殖レベルに影響を及ぼし、LYO IIIの影響がより顕著であることを示している。特に、両方の処理の影響は、陽性対照(MM)よりも更に顕著であった。
【0236】
LYO IIIの血管新生効果を評価し、かつLYO III及びフィブリン封止剤又はその成分の推定される共力効果を調査するために、管形成アッセイを行った。プレート表面への細胞の結合に対する添加剤のあらゆる考えられる影響を排除するために、最初に細胞を播種し、その後初めて様々な添加剤で処理した。
【0237】
この目的のため、HUVECを、50×10
3細胞/mL(5000細胞/ウェル)の濃度で、組織培養用の処理をしたCostar社の96ウェルプレートの中の100μLの完全増殖培地(上記と同じ成分)中に播いた。細胞播種から24時間後に、完全培地を廃棄し、ウェルを100μLの飢餓培地で2回洗浄し、100μLの飢餓培地を各ウェルに加えた(上記と同じ成分)。
【0238】
培地を交換してから24時間後に、10μLのLYO III(0.5mLの滅菌水中で再構成−プールしたWAP IIIの体積と比較すると32倍に濃縮)又はLYO IIIとフィブリン[1IU/mLのトロンビン(ウェル中の最終濃度)及び11.3mg/mL(総タンパク質)のフィブリノーゲンで形成:トロンビン及びフィブリノーゲンは共に、飢餓培地で希釈されたEVICEL(商標)フィブリン封止剤(Omrix Biopharmaceuticals Ltd.)の成分である]との組み合わせを添加することによって、アッセイを開始した。ウェル中のTGF−β、bFGF、VEGF、及びPDGF−ABの濃度は、上記の細胞増殖アッセイと同じであった。
【0239】
上記と同じ濃度のトロンビン及び/又はフィブリノーゲンで処理した細胞を、基準として用いた。様々な処理から48時間後に、5uMのCalcein−AMを37℃にて30分にわたって使用して細胞を染色し、倍率100倍のAxiovert 200顕微鏡及び530nmの蛍光フィルタ(Zeiss)を使用して、代表写真を撮った。結果を
図11に示す。
【0240】
図11に示すように、対照細胞(A)に管形成は観察されなかった。また、トロンビン又はフィブリノーゲンのみは、非常に少ない数の細長い細胞及び血管状の形状から評価され得るように、HUVECの形態変化を誘発する最低限の能力しか有さなかったことが明らかである(それぞれB及びC)。フィブリン(トロンビン及びフィブリノーゲン;E)による処理は、管形成に向けた細胞の再配列をもたらしたが、明らかな血管構造物は検出されなかった。HUVEC単層へのLYO III(D)の添加は管形成を促進し、これはフィブリン(F)の添加によって更に増大された。
【0241】
実施例9:プールした洗浄白血球低減アフェレーシス血小板(WAP)から調製され、低凝集条件下でS/Dで処理され、低温殺菌及び濃縮された凍結乾燥血小板抽出物。
この実験では、凍結乾燥された血小板抽出物は、次のように解凍される前の凍結物質から調製された。10個のWAPバッグを個別に坪量し、70%エタノールで拭き、切り開き、25℃に調整された水浴に浸漬している大きいビーカーの中に凍結物質を入れた。空のバッグを坪量し、空のバッグと中身の詰まったバッグとの間の重量差を利用して、正味WAP重量を算出した(各バッグの正味WAP重量は約200gであった)。プールした物質を、RW20オーバーヘッドスターラー(IKA−Werke GmbH & Co.,Staufen,Germany)に接続されたステンレス鋼製のプロペラを20RPMで使用して、完全に解凍するまで25℃にてゆっくり混合した。プールしたWAPのオスモル濃度は、275mOsであった[The Advanced(商標)Micro Osmometer Model 3300(Advanced Instruments Inc,Norwood,MA,USA)を使用して測定]。10%の酢酸塩グリシン緩衝液(200mMの酢酸ナトリウム、100mMのグリシン、pH 6.8〜7.4)及び1%のHSA(溶液の最終体積に対するv/v)をプールしたWAPに加えた。プロセスを通じてオスモル濃度レベルを可能な限り一定に保つために、NaCl(Sigma−Aldrich,St.Louis,MO,USA)を使用して、緩衝液のオスモル濃度をWAP出発物質のオスモル濃度に合わせて調整した。次の工程において、1%のTriton X−100及び0.3%のTnBP(v/v)を、50RPMで混合しながらプールしたサンプルにゆっくりと加えることによって、S/D処理を行った。粒子状物質が存在する可能性によりウイルス不活性化が準最適となるのを回避するため、S/D処理を2つのパートに分割した。最初に、サンプルを30分にわたって連続的に攪拌した後、20、5及び1.2μmのSartopure PP2フィルタ、並びに0.45μmのSartopore 2(Sartorius Stedim Biotech S.A.,Aubagne,France)を通して濾過した。次に、濾過した物質を、25℃に調整された水浴に浸漬されているビーカーに戻し、ウイルス不活性化プロセスを継続させるために、50RPMにて更に2時間混合した。
【0242】
295mLのSDR HyperD溶媒−洗剤除去クロマトグラフィー樹脂(Pall Corp)が詰め込まれたXK50液体クロマトグラフィーカラムを、蠕動ポンプ及びUA−6 UV/VIS検出器+Type 11記録計(ISCO,NE,USA)と共に使用して、S/D除去を行った。1800mLのS/D処理された血小板抽出物をカラムに充填した後、540mLの酢酸塩グリシン緩衝液(200mMの酢酸ナトリウム、100mMのグリシン、pH 6.8〜7.4)+1%のHSA v/vで洗浄した。2700mLの総体積をカラムから収集した(フロースルー)。製造の後の段階を妨げる可能性がある非水溶性の凝集物は、製造プロセスの間に形成されることが見出された。凝集は、カルシウムの存在下で増すこともまた見出された。したがって、早い段階での凝集物の沈殿を促進し、その後清澄濾過によってこれら凝集物を除去するために、カルシウムを使用することを決定した。したがって、S/D除去過程の後に、CaCl
2をゆっくりと抽出物に添加し(最終濃度が40mMになるように)、該抽出物を50RPMで混合しながら、25℃にて30分にわたってインキュベートした。次に、20、5及び1.2μmのSartopure PP2フィルタ及び0.45μmのSartopore 2(Sartorius Stedim Biotech S.A.,Aubagne,France)を使用して、生成物を濾過した。次の工程で、この抽出物を、実施例4と同様に安定化工程及び低温殺菌に供した。得られた粘性溶液を清潔な容器に移すため、酢酸塩グリシン緩衝液(粘性溶液中の最終濃度は20mMの酢酸ナトリウム、及び10mMのグリシンとなる、pH 6.8〜7.4)及び1%のHSA v/vで、総重量が最大11,320mLになるまで希釈した。Centramate PE接線流濾過薄膜カートリッジホルダー+4 Omega Centramate 10kDa限外濾過カセット(Pall)を使用して、酢酸塩グリシン緩衝液に対して透析濾過を行うことによって、安定化剤の除去を行った(上記の通り)。透析濾過は次の通りに行われた。初めに、抽出物を3600mLの体積まで濃縮し、次に、溶液体積を3600±200mLに維持しながら緩衝液を徐々に加えることによって、総体積10,800mLの酢酸塩グリシン緩衝液に対して透析を行った(上記の通り)。次いで、透析した溶液を473mLの体積まで濃縮した(これは出発体積の約25%である)。
【0243】
安定化のため、マンニトールを最終濃度2% w/wになるまで溶液に添加した。凝集物質を除去するため、サンプルを20、5及び1.2μmのSartopure PP2フィルタ、及び0.45μmのSartopore 2フィルタに通して連続的に濾過した。滅菌濾過は、0.2μmのSartopore 2フィルタを使用し、無菌条件下で行われた。次に、生成物を無菌条件下で4mLずつ分注し、上で詳述されている通りに凍結乾燥した。凍結乾燥物質を、窒素雰囲気下及び60kPa(0.6Bar)の不完全真空下で密封した。上で調製された凍結乾燥血小板抽出物は、本明細書では「LYO IV」と呼ばれる。
【0244】
LYO IVのウイルス精製工程は、S/D処理内に濾過サブ工程を含むS/D処理を含んだ。この工程の濾過は、20、5、1.2、及び0.45μmのフィルタを通して行われた。更に、低温殺菌工程が行われ、最終滅菌濾過が行われた。透析工程の間に、透析した溶液の体積は、出発体積と比較して4倍に濃縮された。
【0245】
実施例10:LYO IVが、線維芽細胞における細胞増殖及び形態変化、並びにHUVECにおける形態変化に与える影響。
細胞増殖に対するLYO IVの影響を、実施例5に詳述されている通りに行った。3T3−スイスアルビノ細胞を、25×10
3細胞/mL(2500細胞/ウェル)の濃度で、組織培養用の処理をしたCostar社の96ウェルプレートの中の完全増殖培地(上で詳述した成分)中に播いた。細胞播種後24時間で、完全増殖培地を新鮮な飢餓培地と交換した(上述の通り)。プールしたWAP IV又は再構成LYO IVの添加によって培地が交換されてから24時間後に、増殖が誘発された。再構成は次の通りに行われた。(出発プールしたWAPと比較して4倍に濃縮された)4mLの溶液から凍結乾燥されたLYO IVを、0.5mLの滅菌精製水中で再構成した(即ち8倍濃縮)(出発体積のプールしたWAP IVと比較すると32倍濃縮)。再構成に続いて、再構成LYO IV又はプールしたWAP IVを、適切な飢餓培地中で5倍に連続希釈し、各希釈物の10μLを、100μLの飢餓培地を含有するウェルに加えた。プールしたWAP IVの開始濃度を1とし、それに基づいて連続的な希釈を算出した(相対濃度)。LYO IVの開始濃度を32とし、それに基づいて連続的な希釈を算出した。WAP IV及びLYO IVの両方におけるいくつかの成長因子の濃度を、ELISA(上記と同じキット)によって検出し、増殖アッセイ中にウェルに存在する有効濃度(最高濃度)は次の通りである:WAP IV及びLYO IVで処理したウェル中、それぞれ、TGF−β−230及び2000ng/ml、bFGF−100及び170pg/ml、VEGF−1.25及び8.1ng/ml、PDGF−AB−57及び27ng/ml、並びにトロンボスポンジン−1−60及び330ng/mL。
【0246】
実施例8で調製したMasterMix(MM)を陽性対照として使用した。この混合物を飢餓培地中で5倍に連続希釈し、10μLをウェルに加えた。MMの最大濃度を30とし(MM中のPDGF−ABの濃度が30ng/mLであったので)、それに基づいて連続的な希釈を算出した。
【0247】
細胞の増殖を、上で詳述されている通りに、処理の開始から48時間後に評価した。WST−1で4時間インキュベートした後、サンプルの吸光度を前述の通りに測定した。得られた結果をPDGF−ABに正規化した(上で説明した通り)。全ての試験は3回ずつ行われた。結果を
図12に示す。
【0248】
結果は、LYO IV及びプールしたWAP IVが、3T3−スイスアルビノ線維芽細胞の増殖レベルに同様の影響を有したことを示す。得られた結果は、陽性対照(MM)よりも更に顕著であった。
【0249】
LYO IVが3T3−スイスアルビノ細胞の形態変化に与える影響を評価するため、処理の後に位相差顕微鏡画像を撮った(細胞は、実施例10の増殖アッセイと同様に播種され、100μLの飢餓培地に添加した10μLの再構成LYO IV(0.5mLの滅菌水中)、プールしたWAP IV、及び最大濃度のMM(実施例8と同様)で処理され、処理後2日目に画像を撮った)。ウェル中のTGF−β、bFGF、VEGF、PDGF−AB、及びトロンボスポンジン−l濃度は、増殖アッセイと同様であった。代表画像を
図13に示す。
【0250】
未処理の線維芽細胞は菱形の形状を有する(
図13A)。3T3−スイスアルビノ線維芽細胞に対するLYO IV(B)の添加は、菱形の形状の細胞からスピンドル状の形状(運動性を有する線維芽細胞の特徴)への細胞の形態変化を促進した。これら観察された形態変化は、プールしたWAP IV(C)及び陽性対照(MM;D)で処理した後に観察された変化よりも激しかった。
【0251】
上で示したように、3T3線維芽細胞のスピンドル状の形状は、運動性の潜在性の特性である。次の実験で、創傷遊走アッセイを用いることによって、LYO IVで処理した後の細胞の実際の運動性を評価した(Liang et al.インビトロスクラッチアッセイ:インビトロでの細胞遊走を分析するための便利で安価な方法。Nat Protoc.2007;2(2):329〜33)。3T3−スイスアルビノ細胞を、1×10
5細胞/mL(50,000細胞/ウェル)の濃度で、組織培養用の処理をしたCostar社の24ウェルプレート(Corning Life Science,MA USA)の中の0.5mLの完全増殖培地(上述の通り)中に播いた。播種に先立ち、次の1及び2の一方でウェルをコーティングした。
1.コラーゲンコーティング−コラーゲン溶液(コラーゲンI、ウシ、5mg/mL、Invitrogen,CA,USA、カタログ番号A10644−01、薄コーティング手順のために製造者の手順に従って調製、10mMの酢酸中50μg/mLの希釈物を使用)から12.5μg/cm
2。コーティングは製造者の手順に従って塗布された。
2.DMEM培地で1mg/mLのフィブリノーゲンに希釈された、EVICEL(商標)フィブリン封止剤(Omrix Biopharmaceuticals Ltd.)のフィブリノーゲン成分から250μg/cm
2。室温で1時間インキュベートした後、溶液を吸引し、ウェルを新鮮なDMEMで洗浄した。
【0252】
未コーティングのウェルを対照として使用した。細胞播種から6時間後、完全増殖培地を廃棄し、0.5mLの飢餓培地でウェルを2回洗浄し、0.5mL新鮮な飢餓培地を各ウェルに加えた(上述の通り)。一晩飢餓状態に保った後、p200プラスチックピペットチップを使用してウェルの中央の細胞単層に創傷をつけ、剥離した細胞を飢餓培地と一緒に洗い流し、0.5mLの新鮮な飢餓培地を加えた。プールしたWAP IV、再構成LYO IV(2mLの滅菌水中)、又はPRP−R(PRP−放出物)[次の通りに調製:単一ドナーのPRP(MDA,Blood Bank,Israelによって調製され、かつそこから入手)60mLを、1000IU/mLのトロンビン(EVICEL(商標))3mL及び2MのCaCl
2 2mLで活性化した後、3000gで10分にわたり4℃にて遠心分離し、実験で使用する上澄み27mLを得た]のいずれかを添加した後に、細胞の遊走(即ち運動性)を評価した。全処理溶液を1:10に希釈し、ウェル(50μL)に入れた。各処理を2回ずつ行った。
【0253】
WAP IV及びLYO IVの両方におけるいくつかの成長因子の濃度は、次の通りである:ウェル中、それぞれ、TGF−β−920及び8000ng/mL;bFGF−400及び680pg/mL;VEGF−5及び32.4ng/mL;PDGF−AB−228及び108ng/mL;並びにトロンボスポンジン−1−240及び1320ng/mL(それぞれ、WAP IV及びLYO IVに関する)。
【0254】
0時点及び24時間後に、創傷の幅を、各ウェルの異なる3か所において、位相差顕微鏡(倍率100倍)を使用してキャプチャした(各処理毎に6枚の写真)。各写真で、創傷の幅を5回(1ウェル当たり15回)測定し、創傷修復(wound closure)(狭くなった創傷の幅)を、同じ位置における処理の開始から24時間後に残っている創傷の割合として算出した。
【0255】
異なる処理における異なる時点での創傷の幅の代表的な位相差写真を
図14に示す。異なる処理群における処理の開始から24時間後に残っている割合としての、創傷の修復の定量的評価を
図15に示す。結果は、6つの複製物の平均±標準偏差として示されている。
【0256】
結果は、全ての表面上(コーティングされた又は未コーティングのウェル)で、LYO IVは、プールしたWAP IV及びPRP−R(インビボ設定における創傷治癒に有効であると報告されている、Lacci KM,Dardik A,2010)と同様のやり方で、線維芽細胞運動性及び単層におけるスクラッチの修復を促進した(創傷は、対照標準処理よりも狭い)。
【0257】
コラーゲンでコーティングされたウェルは、フィブリノーゲンでコーティングされたウェルと比較して、わずかに高い運動性促進効果を示した。
【0258】
HUVECの形態変形を誘発するLYO IVの能力を評価するため、管形成アッセイを行った。これら形態変化は血管形成に関連する。この目的のため、HUVECを、1×10
5細胞/mL(10000細胞/ウェル)の濃度で、組織培養用の処理をしたCostar社の96ウェルプレートの中の100μLの飢餓培地(2%のFCS以外は上記の通り)中に播いた。細胞外基質環境をシミュレートするため、細胞播種の前に、ウェルをBMEでコーティングした(製造者の手順に従って50μL/ウェル)。
【0259】
播種の間、10μLのプールしたWAP IV又はLYO IV(2mLの滅菌水中で再構成、プールしたWAP IVの体積に対し8倍に濃縮)のいずれかを、指定されたウェルに加えた。ウェル中のTGF−β、bFGF、VEGF、PDGF−AB、及びトロンボスポンジン−1の濃度は、上記遊走アッセイと同じであった。BMEコーティング上に播種した未処理のHUVECを基準として用いた。24時間後、細胞を、37℃で30分にわたり5uMのCalcein−AMで染色し、倍率60倍のAxiovert 200顕微鏡及び530nmの蛍光フィルタ(Zeiss)を使用して代表写真を撮った。結果を
図16に示す。
【0260】
図16に見られるように、WAP IV(C)又は未処理の細胞(A)と比較して、LYO IV(B)は最も高い管形成(tubologenic)能力を有した(LYO IVによる処理は血管様構造形成をもたらした)。
【0261】
実施例11:第2のウイルス不活性化工程としてのナノ濾過の使用を評価する。
WAP物質のプールを、10個体のドナーから、実施例1に詳述されている通りに調製した(2000mL)。次に、200mLの酢酸塩グリシン緩衝液及び1%のHSA v/vを、プールしたWAPに加えた。50mLのサンプルを取り出し、以下に詳述されている通りにS/Dで処理し、アッセイまで−80℃で貯蔵した。分析に当たって、サンプルを室温で解凍した後、0.45μmのシリンジフィルタ(Millex−HV by Millipore;カタログ番号SLHV033RS)を通して濾過した(あらゆる粒子状物質を除去するため)。(50mLのうち)約25mLのみが、フィルタが詰まる前に濾過されたので、残りのサンプルに関しては新しいフィルタを使用した。抽出物は、凍結・解凍によって、及びS/D処理を行うことによって得られた。
【0262】
解凍後、S/D除去工程を、8mLのSDR HyperD溶媒−洗剤除去クロマトグラフィー樹脂(Pall Corp.)が詰め込まれたHR 10×10液体クロマトグラフィーカラム(Amersham Pharmacia Biotech)を、蠕動ポンプ及びUA−6 UV/VIS検出器+Type 11記録計(ISCO,NE,USA)と共に使用して行った。プロセスの間に用いたフローパラメータは、1mL/分、最大圧力制限100kPa(1.0Bar)であった。
【0263】
カラムは、32mLの精製水の後、1%のHSA v/vを含む24mLの酢酸塩グリシン緩衝液を用いて調製した。カラムに40mLの抽出物サンプルを充填した。抽出物サンプルを充填した後、最初に、1%のHSA v/vを含む14mLの酢酸塩グリシン緩衝液でカラムを洗浄した。第2の洗浄工程は、10%のエタノール/1MのNaCl/0.2%のHSAを含む22mLの酢酸塩グリシン緩衝液を使用して行われた。後者の洗浄工程は、いくつかの成長因子、例えば、PDGF−AB及びPDGF−BBの回収を増加させることが、我々の実験で判明した(実施例12参照)。次に、カラムを16mLの精製水で洗浄した。収集されたフロースルーの総体積は80mLであった。初期段階における凝集物の沈殿を促進するため、実施例9に記載のように、CaCl
2を用いた沈殿が行われた。CaCl
2処理後の抽出物サンプルの清澄濾過は、5μmのカプセルフィルタ(mdi Advanced Microdevices)を使用した後、0.45μmのシリンジフィルタ(Millex−HV by Millipore;カタログ番号SLHV033RS)を使用して行われた。
【0264】
小さな凝集物を取り除くため、物質を0.2及び0.1μmのフィルタに通過させることによって、ナノ濾過工程の前に前濾過工程を行った。全抽出物サンプル80mLを濾過するため、2つの0.2μm真空フィルタ(Nalgene Supor Mach V 50mM)及び4つの0.1μmのシリンジフィルタ(MilliporeのMillex VV;カタログ番号SLVV033RS)を使用した。次に、濾過した物質をナノ濾過工程に供した。ナノ濾過システムは、次の通りに一列に組み立てられた:加圧窒素ガスタンク−圧力調整器−250kPa(2.5Bar)圧力計(PG1)を有するフィルタハウジングSEALKLEEN(Pall Corp.)−バルブ−0.2μmのフィルタ(SartoriusのMinisart;カタログ番号16534)−0.1μmのフィルタ(Millipore;カタログ番号VVLP02500)−100kPa(1.0Bar)圧力計(PG2)−PLANOVA 75Nフィルタ(Asahi Kasei;カタログ番号75NZ−001)−100kPa(1.0Bar)圧力計(PG3)−PLANOVA 35Nフィルタ(Asahi Kasei;カタログ番号35NZ−001)−100kPa(1.0Bar)圧力計(PG4)−PLANOVA 20Nフィルタ(Asahi Kasei;カタログ番号3520NZ−001)。
【0265】
ナノ濾過手順は次の通りに行われた。
【0266】
抽出物サンプルを充填する前に、フィルタハウジングを40mLの精製水(PuW)で充填し、システムへの窒素ガス流を増加させて圧力を上昇させることによって、システムの性能を試験した。通常の状態で、溶液は、各PLANOVAフィルタを通過した後にわずかな圧力低下があるだけで、システムを貫流するはずである。下の表3に示されるように、40mLのPuWは、圧力が激減することなくシステムを通過した。
【0267】
システムの性能を確認した後、フィルタハウジングを、1%のHSAを含有する酢酸塩グリシン緩衝液(20mMの酢酸ナトリウム、10mMのグリシン、pH 6.8〜7.4)(抽出物サンプル中の存在するのと同じ緩衝液)で充填した。下の表の結果は、圧力レベル及び流量が、緩衝液が全システムを貫流するのを可能にしたことを示す。しかしながら、抽出物サンプルを充填すると、システムを貫流することができなかった。下の表に示されるように、PLANOVA 75N(PG2)の前の圧力読み値は90kPa(0.9Bar)であるのに対し、PLANOVA 75Nの後でPLANOVA 35Nフィルタ(PG3)の前はたったの20kPa(0.2Bar)であり、このことは、サンプルがPLANOVA 75Nフィルタを簡単に貫流することができなかったことを示した。
【表3】
【0268】
結果は、上で詳述されている条件を用いてナノ濾過を第2のウイルス不活性化工程として利用するのは実行可能でないことを示している。
【0269】
実施例12:プールした洗浄アフェレーシス白血球除去血小板(WAP)から調製され、S/Dで処理され、溶離条件を用いるSDR HyperDクロマトグラフィーによってS/D除去され、低温殺菌及び濃縮された凍結乾燥血小板抽出物。
この実験では、凍結乾燥された血小板抽出物を次の通りに調製した。10個のWAPバッグを個別に坪量し、70%エタノールで拭き、切り開き、25℃に調整された水浴に浸漬している大きいビーカーの中に凍結物質を入れた。空のバッグを坪量し、空のバッグと中身の詰まったバッグとの間の重量差を利用して、正味WAP重量を算出した。プールしたWAPの総正味重量は1947gであった。プールした物質を、完全に解凍するまで25℃にてゆっくり混合した(実施例9と同じ攪拌条件)。プールしたWAPのオスモル濃度は265mOsであった。213mLの酢酸塩グリシン緩衝液(最終濃度は20mMの酢酸ナトリウム、10mMのグリシン、pH 6.8〜7.4、となるように)及び1% v/v(溶液の最終体積に対する)のヒト血清アルブミン(HSA,Talecris USA)を、プールしたWAPに加えた。プロセスを通じてオスモル濃度レベルを可能な限り一定に保つために、NaCl(Sigma−Aldrich,St.Louis,MO,USA)を使用して、緩衝液のオスモル濃度をWAP出発物質のオスモル濃度に合わせて調整した。1%のTriton X−100及び0.3%のTnBP(v/v)を、50RPMで混合しながらプールしたサンプルにゆっくり加えることによって、前述のようにS/D処理を行った。粒子状物質が存在する可能性によりウイルス不活性化が準最適となるのを回避するため、S/D処理の間にサンプルを濾過した。簡潔には、S/Dを加えた後、サンプルを30分にわたって連続攪拌し、続いて、20、3及び1.2μmのSartopure PP2フィルタ及び0.45μmのSartopore 2(Sartorius Stedim Biotech S.A.,Aubagne,France)に通して濾過した。次に、濾過した物質を、25℃に調整された水浴に浸漬されているビーカーに戻し、ウイルス不活性化プロセスを継続させるために、50RPMにて更に2時間混合した。
【0270】
295mLのSDR HyperD溶媒−洗剤除去クロマトグラフィー樹脂(Pall Corp)が詰め込まれたXK50液体クロマトグラフィーカラムを、蠕動ポンプ及びUA−6 UV/VIS検出器+Type 11記録計(ISCO,NE,USA)と共に使用して、S/D除去を行った。1800mLのS/D処理された血小板抽出物(血小板物質を1620mLを含有)をカラムに充填した後、600mLの酢酸塩グリシン緩衝液+1%のHSAで洗浄した。次に、10%のエタノール、1MのNaCl、及び0.2%のHSAを含有する900mLの酢酸塩グリシン緩衝液で溶離した。最後にカラムを600mLの精製水で洗浄した。未結合及び溶離物質を収集した。総体積3600mLをカラムから収集した。凝集物の沈殿を促進するため、前述のように、S/D除去過程の後にCaCl
2をゆっくりと抽出物に添加し(最終濃度が40mMになるように)、該抽出物を50RPMで混合しながら、25℃にて30分にわたってインキュベートした。20及び3μmのSartopure PP2フィルタ及び0.45μmのSartopore 2(Sartorius Stedim Biotech S.A.,Aubagne,France)を使用して、生成物を濾過した。次の工程で、この抽出物を、実施例4と同様に安定化工程及び低温殺菌に供した。酢酸塩グリシン緩衝液(上記の通り)に対して透析濾過を行うことによって、安定化剤の除去を行った。次に、透析した溶液を530mL(出発体積の約29%)になるまで濃縮した。
【0271】
安定化のため、マンニトールを最終濃度2% w/wになるまで溶液に添加した。凝集物質を除去するため、サンプルを3μmのSartopure PP2フィルタ及び0.45μmのSartopore 2フィルタに通して濾過した。滅菌濾過は、0.2μmのSartopore 2フィルタを使用し、無菌条件下で行われた。次に、得られた生成物(体積452mL)を無菌条件下で4mLずつ分注し、上で詳述されている通りに凍結乾燥した。凍結乾燥物質を、窒素雰囲気下及び60kPa(0.6Bar)の不完全真空下で密封した。上で調製された凍結乾燥血小板抽出物は、本明細書では「LYO V」と呼ばれる。
【0272】
LYO Vのウイルス精製工程は、S/D処理内に濾過サブ工程を含むS/D処理を含んだ。この工程の濾過は、20、3、1.2、及び0.45μmのフィルタを通して行われた。SDR工程は、非定組成溶液を使用してカラムを洗浄することを含んだ。非定組成溶液は、10%のエタノール、1MのNaCl、及び0.2%のHSAを含有する酢酸塩グリシン緩衝液であった。更に、低温殺菌工程が行われ、最終滅菌濾過が行われた。透析工程の間、透析した溶液の体積は、出発体積と比較して約3.5倍に濃縮された。
【0273】
LYO II〜LYO Vの物質生産過程において、サンプルをSDRクロマトグラフィー樹脂に充填する前の物質、及びSDR樹脂からサンプルを収集した後(溶媒及び洗剤除去の後)の物質のPDGF−AB含有量を測定した。異なる物質生産過程(LYO II〜LYO V)におけるPDGF−ABの回収率を表4に示す。市販の特異的ELISAキット(QuantikineヒトPDGF−ABイムノアッセイ;製造者:R&D systems;カタログ番号DHD00B、並びにQuantikine HSヒトbFGFカタログ番号DHD00B、及びQuantikine HSヒトbFGFカタログ番号HSFB00Dイムノアッセイ;製造者:それぞれR&D systems)を使用して、PDGF−AB及びbFGF含有量を測定した。
【表4】
【0274】
表4に示されるように、LYO Vの処理中に、上記のようにS/D除去工程において非定組成溶液による溶離工程を加えることにより、PDGF−ABの回収率がより高くなる。溶離工程がある場合のPDGF−ABの回収率は45%であり、これと比べてこの工程の不在下での回収率は11〜16%であり、回収率は約3倍増大した。PDGF−AB及びbFGFの濃度もまた、4mLの再蒸留水(DDW)による再構成の後、最終凍結乾燥物質で測定された。PDGF−ABの濃度は15,028pg/mLであり、これは出発物質として用いた血小板当たり2.26×10
−6pg PDGF−ABに相当する。bFGFの濃度は36pg/mLであり、これは出発物質として用いた血小板当たり5.4×10
−9pg bFGFに相当する。
【0275】
実施例13:線維芽細胞の細胞増殖にLYO Vが与える影響。
LYO Vが細胞増殖に与える影響を、3T3−スイスアルビノ細胞を使用し、実施例5に詳述されている通りに行った。
【0276】
4mLの溶液から凍結乾燥され、WAPの開始体積と比較して4倍に濃縮されたLYO Vを、0.5mLの滅菌精製水中で再構成した(即ち8倍濃縮)(プールしたWAP Vの開始濃度と比較すると32倍濃縮)。再構成に続いて、プールしたWAP V又は再構成LYO Vを適切な飢餓培地中で5倍に連続希釈し、各希釈物の10μLを、100μLの飢餓培地を含有するウェルに加えた。プールしたWAP Vの開始濃度を1とし、それに基づいて連続的な希釈を算出した。LYO Vの開始濃度を32とし、それに基づいて連続的な希釈を算出した。標準対照として、組み換えヒトPDGF−AB(R&D Systems;カタログ番号222−AB−010)を使用した。PDGF−ABもまた飢餓培地中で5倍に連続希釈し、ウェル(10μL)に加えた。WAP V及びLYO Vの両方におけるいくつかの成長因子の濃度をELISA(上記と同じキット)によって検出し、増殖アッセイ中にウェルに存在する有効濃度(最高濃度)は次の通りである:WAP V及びLYO Vで処理したウェル中、それぞれ、TGF−β−159.4及び169.8ng/mL;bFGF 0.1ng/mL及び0.029ng/mL;VEGF−0.89及び1.05ng/mL;PDGF−AB−56.86及び12ng/mL。
【0277】
処理の開始から72時間後に、WST−1細胞増殖試薬を使用して増殖を評価した(添加剤を有さない細胞をバックグラウンドとし、OD値から減算した)。インキュベーション期間(4時間)の最後に、プレートを1分間振盪し、サンプルの吸光度を前述の通りに測定した。試験を3回ずつ行った。WST−1細胞増殖試薬によって得たOD結果を、算出したPDGF−AB濃度値に対してプロットした。結果を
図17に示す。
【0278】
結果は、LYO V又はプールしたWAP Vの濃度の増加が、3T3−スイスアルビノ線維芽細胞の増殖レベルに影響を及ぼし、LYO Vの影響が若干少ないことを示している。この明らかな減少は、LYO混合物中に存在し、その回収が先の実施例と比較して有意に増加した1つの成長因子のみ(PDGF−AB)に結果を正規化したことに起因した。特に、両方の処理(LYO V及びWAP V)の影響は、組み換えPDGF−AB単独による影響よりも顕著であり、このことは、他の血小板の抽出成分が線維芽細胞の増殖を相乗的に高めることを示した。
【0279】
実施例14:上記実施例で調製したLYO I〜LYO IVにおいて実施された製造工程の比較。
表5は、各LYOの調製において実施された主要な製造工程を要約している。
【表5】
* 溶離は、10%のエタノール、1MのNaCl、及び0.2%のHSAを含有する酢酸塩グリシン緩衝液(20mMの酢酸ナトリウム及び10mMのグリシン、pH 6.8〜7.4)を用いて行われた。
【0280】
実施例15:本発明に従って調製した血小板抽出物中の凝集物含有量のレベル。
タンパク質製剤にける凝集は、生物活性を損ない得るからだけでなく、望ましくない副作用(例えば、免疫原性)の可能性を増加させるので、望ましくない。凝集はタンパク質安定性も低下させ得る。以下の実施例では、本発明に従って調製した血小板抽出物中の凝集物含有量を決定した。
【0281】
この目的のため、凝集レベル(濁度)を、320nm(OD
320)で光学密度を測定し(これは、Ultraviolet absorption Spectroscopy,Mach H.et al.,in Protein stability and folding,Ed.Shirley B.A.pp 91〜114,1995,Humana Press,New Jerseyに記載されているように、凝集物の存在を典型的に示す)、かつ、血小板抽出物中に高濃度で存在し、バックグラウンド読み値であると考えられたヒト血清アルブミン(HSA)のOD
320読み値を減算することによって決定した。減算の前に、濁度(320nmにおける原液の吸光度)をタンパク質濃度[Pierce BCAタンパク質アッセイ(Thermo Fisher Scientific Inc.,Rockford,IL,USA;カタログ番号23235)によって決定]で割ることによって、正規化濁度(凝集)を得た。
【0282】
凝集物レベルを次式に従って算出した。
【数2】
【0283】
タンパク質1mg当たり≦0.03より低い、得られた算出OD
320レベルは、低凝集物含有量であると考えられた。
【0284】
上記実施例に従って調製した異なる凍結乾燥血小板抽出物(LYO II−V)を、(凍結乾燥工程前と同じ体積となるように)DDW中で再構成した。次の工程で、1mLのサンプルをアクリル製キュベット(Sarstedt、カタログ番号67.740)の中に移し、ODを、Ultrospec 2100 pro分光光度計(Amersham Pharmacia Biotech)を使用して320nmで測定した。これと平行して、HSAのODレベルを320nmで測定し(試験抽出物と同じパラメータで)、凝集物レベルを上記式に従って算出した(異なるHSA濃度を用い、該式に示されるように読み値を溶液の総タンパク質で除した)。
【0285】
試験した全ての血小板抽出物の算出されたOD
320レベルは、タンパク質1mg当たり≦0.03であることが判明した。したがって、本発明に従って調製した血小板抽出物は、低い凝集物レベルを有した。
【0286】
実施例16:プールした洗浄白血球低減アフェレーシス血小板(WAP)から調製され、S/Dで処理され、非定組成溶液による2段階を用いてSDR溶離され、かつ低温殺菌及び濃縮された凍結乾燥血小板抽出物。
この実験では、凍結乾燥血小板抽出物を次の通りに調製した。10個のWAPバッグを個別に坪量し、70%エタノールで拭き、切り開き、25℃に調整された水浴に浸漬している大きいビーカーの中に凍結物質を入れた。空のバッグを坪量し、空のバッグと中身の詰まったバッグとの間の重量差を利用して、正味WAP重量を算出した。プールしたWAPの総正味重量は1906gであった。プールした物質を、完全に解凍するまで25℃にてゆっくり混合した(実施例9と同じ攪拌条件)。プールしたWAPのオスモル濃度は267mOsであった。209mLの酢酸塩グリシン緩衝液(最終濃度は20mMの酢酸ナトリウム、10mMのグリシン、pH 6.8〜7.4)及び0.2% v/v(溶液の最終体積に対する)ヒト血清アルブミン(HSA,Talecris USA)を、プールしたWAPに添加した。プロセスを通じてオスモル濃度レベルを可能な限り一定に保つために、NaCl(Sigma−Aldrich,St.Louis,MO,USA)を使用して、緩衝液のオスモル濃度をWAP出発物質のオスモル濃度に合わせて調整した。1%のTriton X−100及び0.3%のTnBP(v/v)を、50RPMで混合しながらプールしたサンプルにゆっくりと加えることによって、S/D処理を上述の通りに行った。粒子状物質が存在する可能性によりウイルス不活性化が準最適となるのを回避するため、S/D処理の間にサンプルを濾過した。最初に、サンプルを30分にわたって連続的に攪拌した後、20及び3μmのSartopure PP2フィルタ及び0.45μmのSartopore 2(Sartorius Stedim Biotech S.A.,Aubagne,France)を通して濾過した。次に、濾過した物質を、25℃に調整された水浴に浸漬されているビーカーに戻し、ウイルス不活性化プロセスを継続させるために、50RPMにて更に2時間混合した。
【0287】
295mLのSDR HyperD溶媒−洗剤除去クロマトグラフィー樹脂(Pall Corp)が詰め込まれたXK50液体クロマトグラフィーカラムを、蠕動ポンプ及びUA−6 UV/VIS検出器+Type 11記録計(ISCO,NE,USA)と共に使用して、S/D除去を行った。1800mLのS/D処理された血小板抽出物(血小板物質を1620mLを含有)をカラムに充填した後、600mLの酢酸塩グリシン緩衝液+0.2%のHSAで洗浄した。ヘパリンは特定の成長因子に結合することで知られている。溶離工程において成長因子を回収する際のヘパリンの効果を調査した。したがって、この実験では、溶離は、12.5%のエタノール、0.5MのNaCl、5IU/mLのヘパリン(ヘパリンナトリウム−Fresenium 5000IU/mL、Bodene(PTY)Ltd,South Africa)、及び0.2%のHSAを含有する600mLの酢酸塩グリシン緩衝液を使用して行われた。この溶離工程の後に、10%のエタノール、1MのNaCl、及び0.2%のHSAを含有する600mLの酢酸塩グリシン緩衝液を用いる第2の溶離工程を行った。最後にカラムを300mLの精製水で洗浄した。未結合及び溶離物質を収集し、記録した。総体積3700mLをカラムから収集した。収集した材料を、3及び1.2μmのSartopure PP2フィルタ、並びに0.45μmのSartopore 2(Sartorius Stedim Biotech S.A.,Aubagne,France)を使用して濾過した。次の工程で、この抽出物を、実施例4と同様に安定化工程及び低温殺菌に供した。酢酸塩グリシン緩衝液(上記の通り)に対して透析濾過を行うことによって、安定化剤の除去を行った。次に、透析した溶液を450mLの体積まで濃縮した(これは出発体積の約25%である)。
【0288】
安定化のため、マンニトールを最終濃度2% w/wになるまで溶液に添加した凝集物質を除去するため、サンプルを3μmのSartopure PP2フィルタ及び0.45μmのSartopore 2フィルタに通して濾過した。滅菌濾過は、0.2μmのSartopore 2フィルタを使用し、無菌条件下で行われた。得たサンプルを無菌条件下で4mLずつ分注し、上で詳述されている通りに凍結乾燥した。凍結乾燥物質を、窒素雰囲気下及び60kPa(0.6Bar)の不完全真空下で密封した。上で調製された凍結乾燥血小板抽出物は、本明細書では「LYO VI」と呼ばれる。
【0289】
LYO VIのウイルス精製工程は、S/D処理内に濾過サブ工程を含むS/D処理を含んだ。この工程の濾過は、20、3、及び0.45μmのフィルタを通して行われた。SDR工程は、非定組成溶液を使用するいくつかの溶離工程を含み、該溶液のうちの1つは5IU/mLのヘパリンを含んだ。更に、低温殺菌工程が行われ、最終滅菌濾過が行われた。透析工程の間に、透析した溶液の体積は、出発体積と比較して4倍に濃縮された。
【0290】
LYO II〜LYO IV及びLYO VIの物質生産過程において、サンプルをSDRクロマトグラフィー樹脂に充填する前の物質、及びSDR樹脂からサンプルを収集した後(溶媒及び洗剤除去の後)の物質のPDGF−AB及びbFGF含有量を測定した。異なる過程におけるPDGF−AB及びbFGFの回収率を表6に示す。PDGF−AB及びbFGF含有量を、上記の市販の特異的ELISAキットを使用して測定した。
【表6】
【0291】
表6に示されるように、ヘパリンを含む溶離工程を加えることによって、PDGF−ABの回収率だけでなく、bFGFの回収率も有意に向上した。bFGFの回収率は56%であり、それに対して非定組成溶液中にヘパリンが存在しない場合(LYO V)では37%であった。LYO VIにおけるbFGFの回収率と、LYO II〜IVにおけるbFGFの回収率とを比較すると、約2倍の増加が観察された。
【0292】
PDGF−AB及びbFGFの濃度も、4mLの再蒸留水(DDW)による再構成の後、最終LYO VIで測定された。PDGF−AB及びbFGFの濃度は、それぞれ、4,578及び127pg/mLであり、これは出発物質として用いた血小板当たり7×10
−7pgのPDGF−AB及び1.95×10
−8pgのbFGFに相当する。
【0293】
実施例17:LYO VIが線維芽細胞の細胞増殖に与える影響。
LYO VIが細胞増殖に与える影響を、3T3−スイスアルビノ細胞を使用し、実施例5に詳述されている通りに行った。
【0294】
4mLの溶液から凍結乾燥され、WAPの開始体積と比較して4倍に濃縮されたLYO VIを、0.5mLの滅菌精製水中で再構成した(即ち凍結乾燥前の血小板抽出物と比べて8倍濃縮)(合計で、プールしたWAP VIの出発体積と比較すると32倍濃縮)。再構成に続いて、プールしたWAP VI又は再構成LYO VIを、適切な飢餓培地中で5倍に連続希釈し、各希釈物の10μLを、100μLの飢餓培地を含有するウェルの中に充填した。プールしたWAP VIの開始濃度を2.5とし(これは凍結乾燥前の血小板抽出物2.5μLを表す。凍結乾燥前の血小板抽出物と比較して4倍に希釈されたWAPを10μL使用した。)、それに基づいて連続的な希釈を算出した。
【0295】
試験したLYO VIの開始濃度を80とし(これは凍結乾燥前の血小板抽出物80μLを表す−凍結乾燥粉末の再構成後の8倍濃縮物質10μL)、それに基づいて連続的な希釈を算出した。WAP VI及びLYO VIの両方におけるいくつかの成長因子の濃度を、ELISA(上記と同じキット)で測定した。増殖アッセイ中にウェルに添加された有効濃度(最高濃度)は次の通りである:WAP VI及びLYO VIで処理されたウェル中、それぞれ、TGF−β−180及び2000ng/mL;bFGF−120及び1000pg/mL;VEGF−1.1及び11.7ng/mL;PDGF−AB−84.4及び36.6ng/mL;並びにEGF−3.6及び24.4ng/mL。
【0296】
陽性対照としてPRP−Rを使用した。PRP−Rは、10個体のドナーによるプールしたPRPから調製された。簡潔には、10個のバッグの全血(400mL/バッグ)(MDA,Blood Bank,Israelより入手)を、それぞれ室温にて850×gで10分間遠心分離した。次に、各バッグの得られた上澄み80mLを、室温にて850×gで更に10分間別々に遠心分離した。30mL(各バッグから得た)のPRP上澄みを収集し、2〜8℃で一晩貯蔵した。翌日、PRPを、1000IU/mLのトロンビン1.5mL及び2MのCaCl
2 1mLで室温にて1時間にわたり活性化させた後、3000gにて10分にわたり4℃で遠心分離した。最終的に10個体のドナー全ての上澄みをプールし、回転運動によって約10分にわたって一緒に混合した。このプールしたPRP−Rストック(総体積170mL)を、この実験の出発PRP−R物質として使用した。PRP−R中のTGF−β、bFGF、VEGF、PDGF−AB、及びEGFの濃度は次の通りであった;15ng/mL;2pg/mL;90pg/mL;9ng/mL;及び80pg/mL。調製したPRP−Rを適切な飢餓培地中で5倍に連続希釈し、出発PRP−R 10μL及び各希釈物10μLを各ウェルに加えた。PRP−Rの開始濃度を10とした(これは凍結乾燥前の血小板抽出物に相当する)。
【0297】
処理の開始から48時間後に、WST−1細胞増殖試薬を使用して増殖を評価した(添加剤を有さない細胞をバックグラウンドとし、OD値から減算した)。インキュベーション期間(4時間)の最後に、プレートを1分間振盪し、サンプルの吸光度を前述の通りに測定した。試験を3回ずつ行った。WST−1細胞増殖試薬によって得たOD結果を、実際に細胞に添加した血小板抽出物濃度値に対してプロットした(上で説明した通り)。結果を
図18に示す。結果は、LYO VI、プールしたWAP VI、及びPRP−Rの濃度の増加が、3T3−スイスアルビノ線維芽細胞の増殖レベルを増大させ、LYO VIの影響が少なかったことを示している。
【0298】
実施例18:プールした洗浄白血球低減アフェレーシス血小板(WAP)から調製され、S/D処理され、硫酸デキストランを使用してインキュベートされ、硫酸デキストラン使用してSDR溶離され、低温殺菌及び濃縮された凍結乾燥血小板抽出物。
この実験では、凍結乾燥血小板抽出物を次の通りに調製した。10個のWAPバッグ個別に坪量し、70%エタノールで拭き、切り開き、及び25℃に調整された水浴に浸漬している大きいビーカーの中に凍結物質を入れた。空のバッグを坪量し、空のバッグと中身の詰まったバッグとの間の重量差を利用して、正味WAP重量を算出した。プールしたWAPの総正味重量は1916gであった。プールした物質を、完全に解凍するまで25℃にてゆっくり混合した(実施例9と同じ攪拌条件)。プールしたWAPのオスモル濃度は272mOsであった。211mLの酢酸塩グリシン緩衝液(最終濃度は20mMの酢酸ナトリウム、10mMのグリシン、pH 6.8〜7.4)及び0.2% v/v(溶液の最終体積に対する)ヒト血清アルブミン(HSA,Talecris USA)をプールしたWAPに加えた。プロセスを通じてオスモル濃度レベルを可能な限り一定に保つために、NaCl(Sigma−Aldrich,St.Louis,MO,USA)を使用して、緩衝液のオスモル濃度をWAP出発物質のオスモル濃度に合わせて調整した。
【0299】
1%のTriton X−100及び0.3%のTnBP(v/v)を、50RPMで混合しながらプールしたサンプルにゆっくりと加えることによって、S/D処理を上述の通りに行った。粒子状物質が存在する可能性によりウイルス不活性化が準最適となるのを回避するため、S/D処理を2つのパートに分割した。最初に、サンプルを30分にわたって連続的に攪拌した後、20及び3μmのSartopure PP2フィルタ、並びに0.45μmのSartopore 2(Sartorius Stedim Biotech S.A.,Aubagne,France)を通して濾過した。次に、濾過した物質を、25℃に調整された水浴に浸漬されているビーカーに戻し、ウイルス不活性化プロセスを継続させるために、50RPMにて更に2時間混合した。
【0300】
硫酸デキストランは特定の成長因子に結合することで知られている。したがって、硫酸デキストランの添加が血小板因子の回収率に与える影響を調査した。硫酸デキストラン(Sigma−Aldrich,Canada;カタログ番号D4911)を最終濃度1%(w/w)になるようにサンプルに添加し、50RPMにて20分間攪拌しながら25℃でインキュベートした。粒子状物質を除去するため、5μmのSartopore PP2フィルタを使用してサンプルを濾過した。
【0301】
次に、295mLのSDR HyperD溶媒−洗剤除去クロマトグラフィー樹脂(Pall Corp)が詰め込まれたXK50液体クロマトグラフィーカラムを、蠕動ポンプ及びUA−6 UV/VIS検出器+Type 11記録計(ISCO,NE,USA)と共に使用して、S/D除去を行った。1%の硫酸デキストラン及び0.2%のHSAを含有する900mLの酢酸塩グリシン緩衝液でカラムを平衡化させた。S/D及び硫酸デキストランで処理した血小板抽出物1800mL(血小板物質を1620mLを含有)をカラムに充填した後、12.5%のエタノール、0.5MのNaCl、0.1%の硫酸デキストラン、及び0.2%のHSAを有する600mLの酢酸塩グリシン緩衝液を使用して溶離工程を行った。その後、1%の硫酸デキストランと0.2%のHSAとを含有する600mLの酢酸塩グリシン緩衝液を使用して洗浄した(先の工程で用いられた溶液と比較すると非定組成であると考えられる)。次に、カラムを300mLの精製水で洗浄した。総体積3000mLをカラムから収集した。収集した材料を、3及び1.2μmのSartopure PP2フィルタ、並びに0.45μmのSartopore 2(Sartorius Stedim Biotech S.A.,Aubagne,France)を使用して濾過した。次の工程で、この抽出物を、実施例4と同様に安定化工程及び低温殺菌に供した。酢酸塩グリシン緩衝液(上記の通り)に対して透析濾過を行うことによって、安定化剤の除去を行った。次に、透析した溶液を480mLの体積まで濃縮した(これは出発体積のおよそ27%である)。
【0302】
安定化のため、マンニトールを最終濃度2% w/wになるまで溶液に添加した凝集物質を除去するため、サンプルを3μmのSartopure PP2フィルタ及び0.45μmのSartopore 2フィルタに通して濾過した。滅菌濾過は、0.2μmのSartopore 2フィルタを使用し、無菌条件下で行われた。次に、得た生成物を無菌条件下で4mLずつ分注し、上で詳述されている通りに凍結乾燥した。凍結乾燥物質を、窒素雰囲気下及び60kPa(0.6Bar)の不完全真空下で密封した。
【0303】
上で調製された凍結乾燥血小板抽出物は、本明細書では「LYO VII」と呼ばれる。LYO VIIのウイルス精製工程は、S/D処理内に濾過サブ工程を含むS/D処理を含んだ。この工程の濾過は、20、3、及び0.45μmのフィルタを通して行われた。SDR除去の前に、血小板抽出物を硫酸デキストランを使用して処理した。SDR工程は、硫酸デキストランの存在下で非定組成溶液を使用するいくつかの溶離工程を含んだ。更に、低温殺菌工程が行われ、最終滅菌濾過が行われた。透析工程の間、透析した溶液の体積は、出発体積と比較して4倍に濃縮された。
【0304】
LYO II〜LYO IV及びLYO VIIの物質生産過程において、サンプルをSDRクロマトグラフィー樹脂に充填する前の物質、及びSDR樹脂からサンプルを収集した後(溶媒及び洗剤除去の後)の物質のPDGF−AB及びbFGF含有量を測定した。異なる物質生産過程におけるPDGF−AB及びbFGFの回収率を表7に示す。PDGF−AB及びbFGF含有量を、上記の市販のELISAキットを使用して測定した。
【表7】
【0305】
表7に示されるように、硫酸デキストランを使用するインキュベーション及び硫酸デキストランの存在下での溶離を加えることによって、PDGF−AB及びbFGF双方の回収率が有意に向上した。bFGFの回収率は85%であり、PDGF−ABの回収率は88%であった。
【0306】
驚くべきことに、LYO VIIにおける出発物質からのPDGF−ABの回収率は、LYO VIにおける1.5%からLYO VIIにおける51%まで増加した。更に、LYO VIIにおける出発物質からのVEGFの回収率は、LYO VIにおける37%からLYO VIIにおける73%まで増加した。
【0307】
PDGF−AB及びbFGFの濃度は、4mLの再蒸留水(DDW)による再構成の後、最終LYO VII物質で測定された。PDGF−AB及びbFGFの濃度は、それぞれ、194,353及び64pg/mLであり、これは出発物質として用いた血小板当たり3.12×10
−5pgのPDGF−AB及び1.03×10
−8pgのbFGFに相当する。
【0308】
これらの知見は、プロセス工程に硫酸デキストランを加えることは、SDRカラムの下流の因子回収にも好ましい影響をもたらすことを示している。
【0309】
実施例19:LYO VIIが線維芽細胞の細胞増殖に与える影響。
LYO VIIが細胞増殖に与える影響を、3T3−スイスアルビノ細胞を使用し、実施例5に詳述されている通りに行った。
【0310】
4mLの溶液から凍結乾燥され、WAPの開始体積と比較して約4倍に濃縮されたLYO VIIを、0.5mLの滅菌精製水中で再構成した(即ち8倍濃縮)(プールしたWAP VIIの出発体積と比較して約32倍の総濃度)。再構成に続いて、プールしたWAP VII又は再構成LYO VIIを、飢餓培地中で5倍に連続希釈し、各希釈物の10μLを、100μLの飢餓培地を含有するウェルに加えた。上で説明した通り、プールしたWAP VIIの開始濃度を2.5とし、それに基づいて連続的な希釈を算出し、LYO VIIの開始濃度を80とし、それに基づいて連続的な希釈を算出した。WAP VII及びLYO VIIの両方におけるいくつかの成長因子の濃度を、ELISA(上記と同じキット)によって測定し、増殖アッセイ中にウェルに添加された有効濃度(最高濃度)は次の通りである:WAP VII及びLYO VII中、それぞれ、TGF−β−260及び2800ng/ml;bFGF−190及び510pg/ml;VEGF−1.1及び21ng/mL;PDGF−AB−114及び1550ng/mL;PDGF−BB−21及び150ng/mL;並びにEGF−3.1及び33.1ng/mL。
【0311】
更に、実施例16と同様に調製されたWAP VI及びLYO VIを、活性比較のためのアッセイと同じアッセイで試験した(実施例16に記載の10μLの連続希釈物;血小板抽出物単位への標準化は実施例17に記載の通りに行われた)。
【0312】
処理の開始から48時間に、WST−1細胞増殖試薬を使用して増殖を評価した(添加剤を有さない細胞をバックグラウンドとし、OD値から減算した)。試薬を使用するインキュベーション期間(4時間)の最後に、プレートを1分間振盪し、サンプルの吸光度を前述の通りに測定した。試験を3回ずつ行った。WST−1細胞増殖試薬によって得たOD結果を、凍結乾燥が 実際に細胞に添加される前に、血小板抽出物単位に対してプロットした(上で説明した通り)。GraphPad Prismソフトウェアを用いてS字用量反応分析を実施し、EC50値をグラフで示す。結果を
図19に示す。結果は、LYO VI(EC50 4.10)と比較すると、LYO VII(EC50 1.26)は線維芽細胞の増殖を誘発する上でより有力である一方で、それらの出発物質であるWAP VII及びWAP VI(EC50は、それぞれ、0.36及び0.32)は、線維芽細胞の増殖レベルに同程度の影響を与えたことを明確に示している。LYO VIIの増殖促進効果はより顕著であり、LYO VIよりも出発WAPに近かった。
【0313】
実施例20:上記実施例で調製したLYO II〜VIIにおいて実施された製造工程の比較。
表8は、全てのLYOの調製において実施された製造工程を要約している。
【表8】
* 溶離はエタノール及びNaClの存在下で行われた。
** 溶離はヘパリンの存在下で行われた。
*** 溶離は硫酸デキストランの存在下で行われた。
【0314】
実施例21:本発明に従って調製した血小板抽出物におけるいくつかの成長因子の間の比率。
以下の実施例は、本発明に従って調製した血小板抽出物におけるいくつかの成長因子の間の比率を示し、求めた比率が生理学的比率に近いかどうかを調べる。生理学的比率は、血清中の成長因子値に従って算出された。これらの値は、上の成長因子測定で使用した特異的ELISAキットの添付文書から得た。
【0315】
血清は、フィブリノーゲン又は他の凝固因子を有さない血漿である。血清は、活性化された血小板によって放出された因子を含有する。
【0316】
TGF−b1、PDGF−AB、及びVEGFのレベルを、上記市販の特異的ELISAキットを使用してLYO VII(4mLのDDW中での再構成の後)中で測定し、PDGF−AB:TGFb1、及びPDGF−AB:VEGFの比率を算出した。成長因子のレベル及び比率を、それぞれ下の表9及び10に示す。
【表9】
* 値はng/mLで示されている。
** 上記測定で使用した特異的ELISAキットの添付文書から得た、血清における検出可能な値の平均。
【表10】
【0317】
表10に示されている結果は、LYO VIIが0.56のPDGF−AB:TGF−b1比(血清における生理学的比率である0.5と同様)及び74のPDGF−AB:VEGF比を含むことを示している。値は共に、上記実施例の出発物質(WAP)における算出比率内であることが判明した。
【0318】
実施例22:本発明に従って調製した血小板抽出物の凝固活性。
以下の実験は、LYO VI〜VIIがプロ凝固活性を有するかどうかを判定することを目的とした。血小板抽出物中の活性化された凝固因子の存在を、非活性化部分トロンボプラスチン時間測定試験(NAPTT)によって評価した。この試験は、European Pharmacopoeia 7.0.;2.6.22:Activated coagulation factors monograph(01/2008:20622);in European Pharmacopoeia Strasburg(France),Council of Europe,2009に記載のアッセイに基づく。
【0319】
一般に、試験は、凝固カスケードの開始を可能にするために、ヒト血漿へのリン脂質(Rabbit Brain Cephalin、Pel−Freez、カタログ番号41053−2)及びカルシウムの添加を含む。ヒト標準血漿(Unicalibrator、Diagnostica Stago、カタログ番号0625又はCoagulation Reference、TC technoclone、参照番号5220120)に含まれる不活性凝固因子は、活性凝固因子を含むサンプルの添加の後活性化され、血漿プロトロンビンを活性トロンビンに転換させる。その結果、血漿フィブリノーゲンは不溶性フィブリンに直ちに転換し(クロット形成)、凝固時間は凝固計(STart4 Coagulation Instrument、Diagnostica Stago,Asnieres sur Seine,France)によって測定することができる。上記参照対照サンプルにおける因子活性化プロセスは、通常4〜7分を要する。並列実験で、血小板抽出物のサンプルをヒト標準血漿中に添加し、凝固時間を上記のように測定する。得られた結果を参照対照サンプルの結果で割る。算出された比率は、試験した血小板抽出物サンプルのプロ凝固活性の尺度となる。1未満の比率は、試験したサンプルが活性化された凝固因子を含有しており、したがってプロ凝固活性を有することを意味する。
【0320】
試験した血小板抽出物は、測定前に4mLの精製水(PuW)を使用して再構成された。
【表11】
* 3回の測定の平均値。
【0321】
表11に示される結果は、本発明に従って調製した血小板抽出物は、NAPTTアッセイによって評価すると、プロ凝固活性を有さないことを示している。
【0322】
実施例23:本発明に従って調製した血小板抽出物中の凝固因子の存在の判定。
以下の実験は、LYO VI〜VII因子が凝固因子を含むかどうかを判定することを目的とした。血小板抽出物中の凝固因子(活性又は不活性因子)の存在を、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)[カオリンセファリン凝固時間(KCCT)又はカオリン加部分トロンボプラスチン時間(PTTK)としても知られる]によって判定した。
【0323】
APTTは、血漿由来のサンプルが凝固を経る可能性を評価することができる、内在性凝固経路の一般的凝固スクリーニング試験である。APTTは、次の凝固因子の存在を検出する:因子XII、XI、IX、VIII、X、V、II(プロトロンビン)、及びI。
【0324】
アッセイは、標準化された量のケファリン(即ちリン脂質)及び第XII因子活性化剤(カオリン)の存在下での血漿のカルシウム再沈着を含む。アッセイは、試験されるサンプルが999秒後に凝固を示すべきでない限度試験として設計された。
【0325】
アッセイは、キット試薬C.K.PREST(登録商標),Diagnostica Stago、参照番号00597(試薬1と試薬2とを含む)を使用して、製造者の説明書に従って行われた。試験したLYOは、APTT試験を行う前に4mLの精製水(PuW)を使用して再構成された。
【表12】
*RSD−相対標準偏差
【0326】
結果は、APTT試験によると、本発明による血小板抽出物は、凝固因子XII、XI、IX、VIII、X、V、II、及びIの1つ以上を欠いており、抽出物を非凝固性にしていること示している。
【0327】
実施例24:本発明に従って調製した血小板抽出物がインビボモデルにおける血管形成レベル及び全体的治癒に与える影響。
本発明に従って調製した血小板抽出物が血管形成及び全体的治癒に与える影響を、ラットの皮下移植モデルを用いて調べた。このモデルは、移植組織における組織反応、血管形成、及び全体的治癒を評価するためによく使用される[International Organization for Standartization(ISO)10993−6,Biological Evaluation of Medical Devices−Part 6:Tests for Local Effects After Implantation(2007)]。
【0328】
移植の後3日目及び7日目に2つのパラメータを評価した。
【0329】
10匹の雌ラットをこの実験で使用した。各動物は、背中の両側に沿って皮下組織の中に外科的に作られた2つの皮下ポケットを有した(合計で4つのポケット)。各ポケットに次の試験物品のうちの1つを充填した:フィブリン封止剤+1X血小板抽出物、フィブリン封止剤+0.1X血小板抽出物(1Xで使用した血小板抽出物の量の10%)、フィブリン封止剤のみ、及び生理食塩水。
【0330】
試験物品の調製及び投与。
フィブリン封止剤+1X血小板抽出物−実施例16と同様に(LYO VIの調製と同様に)4mLの血小板抽出物溶液から調製された凍結乾燥血小板抽出物を、2mLのフィブリノーゲン溶液(EVICEL(商標)フィブリン封止剤(Omrix Biopharmaceuticals Ltd.)のBAC成分と同様の溶液)を使用して再構成することによって、1X血小板抽出物を調製した。血小板抽出物−フィブリノーゲン混合物からの100μLを、100μLのトロンビン溶液(EVICEL(商標)フィブリン封止剤(Omrix Biopharmaceuticals Ltd.)のトロンビン成分と同様の溶液であるが、40mMの塩化カルシウム溶液中で濃度20IU/mLに希釈、最終トロンビン濃度は10IU/mLであった)と混合した。200μLの血小板抽出物−フィブリノーゲン−トロンビン混合物を、上で作ったポケットのうちの1つの中に投与した。
【0331】
フィブリン封止剤+0.1X血小板抽出物−0.1X血小板抽出物を、実施例16と同様に調製した400μLの血小板抽出物溶液を凍結乾燥し、2mLのフィブリノーゲン溶液を使用してこの凍結乾燥物を再構成することによって調製した。mLの血小板抽出物−フィブリノーゲン混合物からの100μLを、100μLの希釈トロンビン溶液と混合した(使用したフィブリノーゲン及び希釈トロンビン溶液は、上記で特定された通りである)。200μLの血小板抽出物−フィブリノーゲン−トロンビン混合物を第2のポケットの中に投与した。
【0332】
0.1X及び1X中に実際に投与したいくつかの成長因子の量は、それぞれ次の通りであった:TGF−b1 5.27及び52.7ng;PDGF−AB 0.1及び1.05ng;bFGF 0.0024及び0.024ng;並びにVEGF 0.023及び0.23ng(フィブリン封止剤200μLと共に投与)。
【0333】
フィブリン封止剤−100μLのフィブリノーゲン溶液と100μLの希釈トロンビン溶液とを混合した(上述の通り)。最終混合部を第3のポケットの中に投与した。
【0334】
生理食塩水−200μLの生理食塩水を第4のポケットの中に投与し、対照群として使用した。
【0335】
4種の試験物質の投与は、各ポケット内に設置した位置標識[サイズ1mm×1mm×5mmの蒸気殺菌した高密度ポリエチレン(HDPE)]に隣接して行われた(後の評価のために投与した正確な位置を標識するため)。
【0336】
5匹の動物を各時点(移植から3日後及び7日後)で人道的に屠殺し、(各時点において各動物から)4つの移植部位全てを収集し、10%中性緩衝ホルマリンに浸漬した。各移植部位から複数の部位を切断し、これらの部位を微視的評価用に処理した。組織部位をヘマトキシリン・エオシンにより染色した。
【0337】
異なる試験群の移植領域における血管形成及び全体的治癒を、以下に規定する主観的評価尺度を用いて顕微鏡的に評価した。
【0338】
血管形成の評価尺度:
0=なし;1=不十分:限定的、局所的、又は断片的、物品の限定的浸透、1〜3の新生血管芽及び限定的な線維芽細胞支持組織;2=可:限局的、多発的、又は拡散、物品への浸透を伴う、毛細管群が適切に線維芽細胞を支持;3=良:物品は組織に完全に浸透、線維芽細胞支持構造を有する毛細管;及び4=優:評価した研究間隔で期待されたよりも良好。
【0339】
全体的創傷治癒の評価尺度:
0=なし;1=不十分:対照移植部位よりも低い、外科的処置及び移植後時間での予想よりも低い;2=可:対照移植部位に匹敵又は同じ、外科的処置及び移植後時間での予想とほぼ同じ;3=良:外科的処置及び移植後時間での予想よりもやや良好;及び4=優:外科的処置及び移植後時間での予想以上。
【0340】
異なる試験物品の血管形成及び治癒に関する平均採点値を下の表13に示す。
【表13】
* 移植後3日後に関しては、研究間隔が非常に短かったので(「治癒」を顕微鏡によって明らかにするには時間が十分でない)、全体的治癒を適切に採点することができなかった。
【0341】
両方の間隔において、様々な試験物品による処理後に有害効果は観察されなかった(移植部位における少数のマクロファージ及びリンパ球の存在によって顕微鏡で判定した場合)。
【0342】
移植後3日の2つの試験されたパラメータにおいて、異なる試験物品の間に有意な差異又は傾向は観察されなかった。したがって、3日間隔は、残りの研究間隔の基準としての役割を果たした。
【0343】
移植後7日では、フィブリン封止剤+1X血小板抽出物は、他の試験物品と比較して、より多くの血管形成及びより良好な全体的治癒を伴った(表13の平均点を参照のこと)。フィブリン封止剤+1X血小板抽出物の7日目の血管形成の評点は、移植後3日に観察された評点よりも高かった。
【0344】
フィブリン封止剤+0.1X血小板抽出物は、フィブリン封止剤のみ及び生理食塩水の試験物品と比較すると、より多くの血管形成及びより良好な全体的治癒に向けた傾向を示した。
【0345】
実施例25:S/D除去工程における溶離工程中の異なる非定組成条件の影響。
以下の実施例では、HIC S/D除去工程中の異なる溶離条件がPDGF−AB及びbFGFの回収率に与える影響を調べた。
【0346】
実験は、2つの異なる種類の疎水性樹脂であるHyperD SDR(PALL)及びC−18(Waters)を使用して行われた。双方とも石英系である。C−18は、18個の炭素原子を有する疎水性ポリマー部分を有し、これに対してHyperDは、シリカビーズと架橋する疎水性ポリマーを有し、かつ分子排除効果に関連する混合モード吸着を伴う[Guerrier L et al.「Specific sorbent to remove solvent−detergent mixtures from virus−inactivated biological fluids」.J Chromatogr B Biomed Appl.1995 Feb 3;664(1):119〜125]。
【0347】
2mLの樹脂を直径1cmのBio−Radカラムに詰め込んだ(小規模実験)。用いた最大流量は0.3mL/分であった。
【0348】
以下の実験全てにおいて、S/Dで処理された血小板溶解物を次の通りに調製した。20mMの酢酸ナトリウム、10mMのグリシン、及び1%のHSA v/v(溶液の最終体積に対する)を含有する洗浄白血球低減アフェレーシス血小板(WAP)10mLを37℃で解凍した(プールしたWAP物質は、酢酸塩グリシン−HSA緩衝液の添加後に凍結された)。次の工程で、1%のTriton X−100及び0.3%のTnBPを溶液に加え、溶液をインキュベートし、血小板溶解及び抗ウイルス処理のために室温(22±2℃)にて2時間にわたり(チューブ回転装置の上で)混合した。次に、あらゆる粒子状物質を除去するため、溶解物を10μm及び5μmのシリンジフィルタを通して濾過した。
【0349】
別段の指示がない限り、樹脂充填カラムは、S/D処理された溶解物を充填する前に10mLの精製水で洗浄され、10mLの酢酸塩グリシン−HSA緩衝液で平衡化された(上記と同じ濃度;試験したpH値)。次の工程で、9mLのS/D処理された溶解物をカラムに充填した後、10mLの酢酸塩グリシン緩衝液+HSA(上記と同じ濃度、試験したpH値)で洗浄した。この洗浄工程の後、以下に詳述されるように補充された酢酸塩グリシン−HSA緩衝液(非定組成溶液)10mLを使用する異なる溶離工程が行われた。洗浄及び溶離物質を収集し、プールした。
【0350】
全実験において、サンプルをクロマトグラフィー樹脂に充填する前の溶解物、及び樹脂からサンプルを収集した後(溶媒及び洗剤除去の後)の溶解物中のPDGF−AB及びbFGF含有量を測定し、異なる溶離工程における因子の回収率を算出した。両方の因子の含有量を、上記市販の特異的ELISAキットを使用して測定した。
【0351】
実験の第1セットは、S/D除去中の酢酸塩グリシン−HSA緩衝液のNaCl含有量及びpH値が、PDGF−ABの回収率に与える影響を調べた。酢酸塩グリシン−HSA緩衝液を異なるNaCl濃度(0.3〜1.5M)で補充し、補充した緩衝液を非定組成溶液として用いてSDR溶離工程を行った。
【表14】
【0352】
結果は、C−18樹脂を使用する場合には、0.3Mから最大で1Mの範囲のNaCl濃度を用いるHICの後、溶離緩衝液のNaCl濃度とPDGF−ABの回収率との間に正の相関関係が存在することを示している。1Mの濃度で最適な結果が得られた(PDGF−AB回収率は約30%)。試験したpHは回収率に影響を与えなかった。
【0353】
SDR樹脂を使用する場合には、NaClの試験濃度(0.7及び1.5M)全てにおいて同様の回収率が得られた。また、C−18を樹脂として使用する場合と比較して、SDRを樹脂として使用する場合に、より高いPDGF−AB回収率が得られることが観察された(3と7のPDGF−AB回収率を比較されたい)。
【0354】
実験の別のセットは、S/D除去中の酢酸塩グリシン−HSA緩衝液へのNaCl及びエタノールの両方の添加が、SDR又はC−18カラムからのPDGF−ABの回収率に与える影響を調べた。この目的のため、酢酸塩グリシン−HSA緩衝液を異なるNaCl及びエタノール濃度で補充し、補充した緩衝液を非定組成溶液として使用して、SDR溶離工程を行った。
【表15】
【0355】
結果は、NaClに加えてエタノールを溶液に添加すると、NaClのみを使用する場合と比較すると、より高い回収率となったことを示している(表15の1及び2を表14の2と比較、並びに表15の3を表14の4と比較されたい)。最大PDGF−AB回収率は、両方の樹脂タイプにおいて1MのNaCl及び20%のエタノールにより得られ、SDR樹脂はより高い回収率を有したことも観察された。
【0356】
実験の前回のセットでは、両方の樹脂タイプにおいて、1MのNaCl及び20%のエタノールで補充された酢酸塩グリシン−HSA緩衝液により、最大PDGF−AB回収率が得られたことが示された。実験の次のセットでは、同じ条件下(1MのNaCl及び20%のエタノールが補充された酢酸塩グリシン−HSA緩衝液)でのS/D物質(TritonX−100及びTnBP)除去の有効性を評価した。注目すべきことには、血液由来の製品中のTriton X−100及びTnBPのそれぞれの許容限度は、5μg/mLである。収集された分画中のTriton X−100及びTnBPの濃度を、S/D除去工程の後に測定した。Triton x−100は、紫外線検出器を使用する逆相HPLCによって決定し、TnBPは、水素炎イオン化検出器を使用する毛細管ガスクロマトグラフィーによって決定した。S/D物質のレベルは、非定組成条件による溶離に供されていないLYO IVと同様の方法で調製されたS/D処理された溶解物においても評価された(大規模調製であるが、S/D除去工程の後にこの手順は中止された)。結果を以下の表16に示す。
【表16】
* 該当なし−データなし
【0357】
結果は、1MのNaCl及び20%のエタノール(先の実験でPDGF−ABの回収に有効であるとして決定された)を用いて溶離工程を行うことにより、比較的多量のS/D物質(例えば、Triton X−100の濃度は5.7又は0.6μg/mL)が血小板溶液中に存在することになることを示している。しかしながら、低濃度のNaCl及び/又はエタノールを用いると、共に低濃度のTritonX−100及びTnBPが、S/D物質除去工程の後の血小板溶液中で検出された。
【0358】
更に、結果は、同じ実験条件下では、SDR樹脂を使用する場合と比較して、C−18樹脂を使用する場合に、検出されるS/D物質がより少ないことも示している(2と4及び3と5を比較されたい)。
【0359】
次の工程では、SDR工程中にNaClとエタノールとの組み合わせを用いて溶離工程を行うことによって、b−FGFの回収率を調べた。異なるイオン強度及び異なるエタノール濃度を調べた。この実験では、SDR樹脂を使用した。
【表17】
【0360】
結果は、PDGF−AB回収率を効果的に改善することが示された試験した非定組成条件は、b−FGFの回収率にわずかな影響しか有さなかったことを示した(1と2〜5を比較されたい)。
【0361】
溶離工程中のb−FGFの回収率を高め、かつPDGF−ABの回収率を更に高めるため、非定組成溶液へのヘパリン添加の効果を調べた。ヘパリンはいくつかの成長因子に結合することが知られているという理由から、ヘパリンを試験した。この実験では、SDR樹脂を使用した。異なる溶離条件下でのb−FGFの回収率の結果を下の表18に示す。
【表18】
【0362】
結果は、濃度10及び100IU/mLのヘパリン単独では、明白な効果が低かったことを示した(表18の1及び2と表17の1とを比較されたい)。しかしながら、濃度範囲2〜30IU/mLのヘパリンと、濃度0.5MのNaCl及び濃度範囲12.5〜15%のエタノールとの組み合わせは、ヘパリン単独使用と比較すると、相乗的に増加したb−FGFの回収率をもたらした(3〜6と1〜2を比較されたい)。NaCl濃度が0.5Mから1Mに増加し、エタノール濃度が10%に減少すると、回収率は約22%に低下した。
【0363】
結果は、試験した条件下では、溶離工程中のヘパリンの添加はPDGF−ABの回収率に影響を与えなかったことも示した(データは示されていない)。
【0364】
SDRカラムからのPDGF−AB及びb−FGFの回収率を更に高めるため、次の実験では、溶解物は、S/D除去工程の前に硫酸デキストランを使用してインキュベートされた、及び/又は溶離工程において添加された。ヘパリンと同様に、硫酸デキストランは、様々な成長因子に結合してb−FGF、及びVEGFを安定化させることができる硫酸化多糖類である[Kajio,Kawahara & Kato(1992)FEBS v306 p243〜6;Huang et al.,(2007)Biomacromolecules v8 p1607〜14]。洗浄及び溶離は、表19に詳述されている順番で行われた。
【0365】
硫酸デキストラン(0.1%又は1%)を、単独で又はNaCl及びEtOHtpと組み合わせて試験した。硫酸デキストランによる溶解物のインキュベーション(条件I−L)を室温にて15分間行った。
【表19】
*条件は、溶離1の前のAc−Gly−HSAを使用した洗浄工程を含んだ。
** 条件は、溶離1及び2の前の酢酸塩グリシン−HSA緩衝液を使用した追加の溶離工程を含んだ。
【0366】
「条件」はCon.と略されており、「平衡」はEq.と略されており、「酢酸塩グリシン−HSA」はAGHと略されており、「硫酸デキストラン」はD.S.と略されている。
【0367】
表19から分かるように、溶離溶液の順序は、PDGF−AB及びb−FGFの回収レベルに影響を及ぼす。例えば、条件AとB又は条件EとFとを比較すると、溶離の順序は逆であり、成長因子の回収率に影響を与えた。
【0368】
緩衝液組成も試験した成長因子の回収率に影響を与え、条件KがPDGF−AB及びb−FGFの回収率に好都合である(それぞれ62%及び51%)。
【0369】
〔実施の態様〕
(1) ウイルスに対して安全な血小板抽出物を調製するための方法であって、該方法は、少なくとも2つの直交するウイルス不活性化処理を含み、かつ、
複数のドナーから血小板が濃縮された分画を提供する工程と、
血小板溶解物を調製する工程と、
溶媒洗剤(S/D)ウイルス不活性化処理を行う工程と、
疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)によって前記S/Dを除去する工程であって、該HICは、前記溶解物をHICに充填する工程及び非定組成条件下で溶離された物質を収集する工程、を含む、除去工程と、
第2の直交するウイルス不活性化処理を実施する工程と、
を含む方法。
(2) 前記血小板溶解物を調製することが、前記S/Dウイルス不活性化処理中に行われる、実施態様1に記載の方法。
(3) 前記S/Dウイルス不活性化処理中に、凝集物低減のサブ工程が行われる、実施態様1又は2に記載の方法。
(4) 前記凝集物低減が濾過によって行われる、実施態様3に記載の方法。
(5) 前記HICが、前記溶解物をHICに充填する工程と、HICを定組成溶液で洗浄する工程と、非結合物質を収集する工程と、HICを非定組成溶液で洗浄する工程と、溶離物質を収集する工程と、を含む、実施態様1〜4のいずれかに記載の方法。
【0370】
(6) 前記定組成溶液が、酢酸塩グリシン緩衝液及びヒト血清アルブミンから成り、前記非定組成溶液が、有機溶媒及び/又は血小板由来因子に結合することができる分子を含む、実施態様5に記載の方法。
(7) S/D除去の前に、前記溶解物を、血小板由来因子と結合することができる分子と接触させることを更に含む、実施態様1〜6のいずれかに記載の方法。
(8) 前記分子が、ヘパリン、硫酸デキストラン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、実施態様6又は7に記載の方法。
(9) 前記第2の直交するウイルス不活性化処理が熱不活化を含む、実施態様1〜8のいずれかに記載の方法。
(10) 前記血小板が濃縮された分画が、複数のドナーからプールしたアフェレーシス(aphaeresis)からの洗浄及び/又は白血球低減血小板分画である、実施態様1〜9のいずれかに記載の方法。
【0371】
(11) 前記抽出物を凍結乾燥することを更に含む、実施態様1〜10のいずれかに記載の方法。
(12) 実施態様1〜11のいずれかの方法に従って得ることができる、ウイルスに対して安全な血小板抽出物。
(13) 生物活性血小板細胞成長因子及び/又は栄養因子の混合物を含む、複数のドナー由来のウイルスに対して安全な血小板抽出物。
(14) PDGF−AB、VEGF、及びTGFb1を含み、PDGF−AB:TGF−b1の比が少なくとも0.2である、及び/又はPDGF−AB:VEGFの比が少なくとも45である、実施態様13に記載の抽出物。
(15) PDGF−ABが濃縮された、実施態様12〜14のいずれかに記載の抽出物。
【0372】
(16) bFGFが濃縮された、実施態様12〜15のいずれかに記載の抽出物。
(17) 非凝固性である、実施態様12〜16のいずれかに記載の抽出物。
(18) 凝集物含有量が少ない、実施態様12〜17のいずれかに記載の抽出物。
(19) 前記抽出物が固形の形態である、実施態様12〜18のいずれかに記載の抽出物。
(20) 送達剤と共に提供される、実施態様12〜19のいずれかに記載の抽出物。
【0373】
(21) 前記送達剤が、ポリマー、ヒドロゲル、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ゼラチン、アルギネート、コラーゲンマトリックス、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、寒天、酸化再生セルロース、自己組織化ペプチド、ポリ(グリコール)酸、ポリ(乳)酸、フィブリン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される天然及び/又は合成材料で作製される、実施態様20に記載の抽出物。
(22) 組織治癒、臓器再構築、組織再生、及び/又は炎症の治療用である、実施態様12〜21のいずれかに記載の抽出物。
(23) 実施態様12〜21のいずれかに記載の抽出物の治療的有効量を、必要とする被験体に投与することを含む、組織治癒、臓器再構築、及び/又は組織再生の方法。
(24) 実施態様12〜21のいずれかに記載の抽出物の治療的有効量を、必要とする被験体に投与することを含む、必要とする被験体の炎症を治療する方法。
(25) 前記抽出物が送達剤と一緒に投与される、実施態様23又は24に記載の方法。
【0374】
(26) 疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)によって生体液体混合物から溶媒−洗剤(S/D)を除去するための方法であって、
前記生体液体混合物を提供する工程と、
前記混合物をHICに充填する工程と、非結合物質及び非定組成条件下で溶離された物質を収集する工程と、を含む、方法。
(27) HICによって生体液体調製物から溶媒−洗剤(S/D)を除去するための方法であって、
前記調製物を提供する工程と、
前記調製物をHICに充填する工程と、
非定組成条件下で溶離された物質を収集する工程と、を含む、方法。
(28) 前記生体調製物が血小板由来の調製物である、実施態様27に記載の方法。
(29) 前記方法が、前記調製物をHICに充填する工程と、HICを定組成溶液で洗浄する工程と、非結合物質を収集する工程と、HICを非定組成溶液で洗浄する工程と、溶離物質を収集する工程と、を含む、実施態様27又は28に記載の方法。
(30) 前記定組成溶液が、酢酸塩グリシン緩衝液及びヒト血清アルブミンからなり、前記非定組成溶液が、有機溶媒及び/又は血小板由来因子に結合することができる分子を含む、実施態様29に記載の方法。
【0375】
(31) 実施態様26〜30のいずれかに記載の方法によって得ることができる、ウイルスに対して安全な調製物又は混合物。
(32) 実施態様12〜19のいずれかに記載の抽出物を収容する容器を含むキット。
(33) 送達剤を更に含む、実施態様32に記載のキット。
(34) 前記送達剤が、ポリマー、ヒドロゲル、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ゼラチン、アルギネート、コラーゲンマトリックス、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、寒天、酸化再生セルロース、自己組織化ペプチド、ポリ(グリコール)酸、ポリ(乳)酸、フィブリン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される天然及び/又は合成材料で作製される、実施態様32又は33に記載のキット。