特許第6285038号(P6285038)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ オリオン エンジニアード カーボンズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツングの特許一覧

<>
  • 特許6285038-断熱用ミクロドメインカーボン材料 図000011
  • 特許6285038-断熱用ミクロドメインカーボン材料 図000012
  • 特許6285038-断熱用ミクロドメインカーボン材料 図000013
  • 特許6285038-断熱用ミクロドメインカーボン材料 図000014
  • 特許6285038-断熱用ミクロドメインカーボン材料 図000015
  • 特許6285038-断熱用ミクロドメインカーボン材料 図000016
  • 特許6285038-断熱用ミクロドメインカーボン材料 図000017
  • 特許6285038-断熱用ミクロドメインカーボン材料 図000018
  • 特許6285038-断熱用ミクロドメインカーボン材料 図000019
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6285038
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】断熱用ミクロドメインカーボン材料
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/18 20170101AFI20180215BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20180215BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20180215BHJP
   F16L 59/065 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
   C01B32/18
   C08K3/04
   C08L101/00
   F16L59/065
【請求項の数】18
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-546150(P2016-546150)
(86)(22)【出願日】2013年10月4日
(65)【公表番号】特表2016-538232(P2016-538232A)
(43)【公表日】2016年12月8日
(86)【国際出願番号】EP2013070659
(87)【国際公開番号】WO2015049008
(87)【国際公開日】20150409
【審査請求日】2016年8月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】516097882
【氏名又は名称】オリオン エンジニアード カーボンズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】カデック マルティン
【審査官】 磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−507477(JP,A)
【文献】 特表2008−519091(JP,A)
【文献】 特表2002−502793(JP,A)
【文献】 特表2001−518048(JP,A)
【文献】 特表2002−525260(JP,A)
【文献】 特開昭63−183941(JP,A)
【文献】 特表平11−504359(JP,A)
【文献】 特表2013−510065(JP,A)
【文献】 特開2013−067797(JP,A)
【文献】 特表2002−525543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/18
C08K 3/04
C08L 101/00
F16L 59/065
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクおよび中空開放型コーンの形状のカーボン粒子を含むカーボン粒子材料の断熱のための使用。
【請求項2】
前記中空開放型コーンが以下の開放角度:19.2°、38.9°、60°、83.6°および112.9°の1つまたは幾つかを有する請求項1の使用。
【請求項3】
前記カーボンディスクの厚みおよび前記中空開放型カーボンコーンの壁厚が、100nm未満である請求項1または2の使用。
【請求項4】
前記カーボンディスクおよび前記中空開放型カーボンコーンの最長寸法が5μm未満である請求項1〜3のいずれか一項の使用。
【請求項5】
前記カーボン粒子材料が、300Kで、Λ=1.4μm〜35μmのIR照射について1200〜1700m2/kgの範囲の全有効比消衰係数e*を有する請求項1〜4のいずれか一項の使用。
【請求項6】
前記カーボン粒子材料が、少なくとも1つのさらなる材料との組み合わせで用いられる請求項1〜5のいずれか一項の使用。
【請求項7】
前記の少なくとも1つのさらなる材料が断熱材料である請求項6の使用。
【請求項8】
前記カーボン粒子材料が不透熱性充填材として用いられる請求項6または7の使用。
【請求項9】
前記カーボン粒子材料が真空断熱パネル(VIP)に組み込まれる請求項8の使用。
【請求項10】
前記カーボン粒子材料が、少なくとも1つのさらなる断熱材料を含むマトリックスに組み込まれる請求項8の使用。
【請求項11】
前記の少なくとも1つのさらなる断熱材料がポリマー材料である請求項10の使用。
【請求項12】
前記断熱材料が、ビニルポリマーおよびポリウレタンから選択される少なくとも1つのポリマーを含む請求項11の使用。
【請求項13】
前記断熱材料が、ビニル芳香族ポリマーから選択される少なくとも1つのポリマーを含む請求項12の使用。
【請求項14】
前記断熱材料がポリマーフォームを含む請求項10〜13のいずれか一項の使用。
【請求項15】
前記ポリマーフォームが熱可塑性または熱硬化性のポリマーを含む請求項14の使用。
【請求項16】
前記ポリマーフォームが、発泡性ポリスチレン、スチレンと少なくとも1つの共重合性モノマーとの発泡性共重合体、発泡性ポリプロピレン、押出ポリスチレン、およびポリウレタンフォームの少なくとも1つを含む請求項15の使用。
【請求項17】
前記カーボン粒子材料がさらなる充填材料とともに用いられる請求項10〜16のいずれか一項の使用。
【請求項18】
前記さらなる充填材料がヒュームド・シリカである請求項17の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミクロ構造カーボン粒子材料の断熱用途における使用、特に不透熱性充填材としての使用に関する
【背景技術】
【0002】
エネルギー節約のための断熱は、持続可能な成長への要請と増加するエネルギーコストの観点から、注目を集めてきている。エネルギーの価格の上昇、減少する資源、CO2放出削減への要請、エネルギー供給の持続的な削減への必要性、およびまた、熱と寒冷に対する保護が将来直面せざるを得ない増大する厳しい要求の観点から、断熱はかつて無い大きな重要性を帯びてきている。断熱の最適化に対するこの増大する厳しい要求は、同様に建造物、例えば、新規建物または既存の建物、および携帯電話、ビジネス用の諸設備、およびステーショナリーセクターにも当てはまる。
【0003】
鋼鉄、コンクリート、石工、およびガラス、ならびに天然石などの建設部材は比較的良い熱導体であり、これらから作られた建物の外壁は寒い天気の際に非常に速く熱を内側から外側に放出してしまう。そのため、例えば、コンクリートおよび石工の場合、開発としては、まず、これらの建設部材の多孔性を増加させることによって断熱特性を上げることが試みられ、次に外壁を断熱部材で被覆することが試みられる。現在、主に用いられる断熱部材は低い熱伝導性を有する材料である。使用される部材としては、有機断熱材および無機断熱材、例えば、ポリスチレンおよびポリウレタンなどの発泡プラスチック;木毛およびコルクなどの木質繊維材料;大麻、亜麻、羊毛などの植物または動物繊維;鉱物、グラスウール、板状の発泡ガラス、ケイ酸カルシウム板、石こうボードが挙げられる。これらの断熱部材は、主に、発泡または加圧ボードおよび成形品の形態で、単独または他のものとの組み合わせで用いられる。断熱を提供する他の有効な方法は、真空断熱の原理に基づく真空断熱パネル(VIPs)の使用である。これらのVIPsは真空を支えるために多孔性のコア材料を含み、高気密性材料で覆われている。上記コアとして使用できる材料としては、連続気泡ポリマーフォーム(ポリマー発泡体)、マイクロファイバー材料、ヒュームドシリカ、およびパーライトが挙げられる。
【0004】
上述した材料および真空/材料の組み合わせそれぞれの断熱容量は、それぞれ、赤外線照射と作用することのできる不透熱性材料を添加して、赤外線透過を減少させることによって、さらに向上させることができる。例えば、不透熱性材料は、断熱性ポリマーフォームの充填材として、および、真空断熱パネルにおいて、使用することができる。発泡性熱可塑性ポリマーおよびこれらの中で特に発泡性ポリスチレン(EPS)は、従来からの断熱材料であって、様々な適用分野、そのうち最も重要なものの一つは断熱、に用いることができる発泡物品を調製するために長い間用いられ、知られている。発泡性ポリスチレンの平板は、このポリマーの熱伝導度が最低になるため、約30g/lの密度で通常用いられている。技術的に可能であったとしても、この下限値より下がることには有益性はないが、これは、下限値より下がることにより、平板の熱伝導度が劇的に上がり、平板の厚みを増加させることにより、これを補償しなければならなくなるからである。このような難点を避けるために、ポリマーはグラファイト(BASFのNeopor(登録商標))、カーボンブラック、またはアルミニウムなどの不透熱性材料で充填することができる。上記不透熱性充填材の良好な性能およびそれ故の全体的な断熱性は、全体の耐熱性を減少させることなく、発泡物品の密度や厚みを顕著に減少させることができる。
【0005】
EP620,246Aには、不透熱性材料を、例えばカーボンブラック、表面に分布させて、または代わりに、粒子自体の内部に取り込んで、含む発泡性ポリスチレンの粒子の製造方法が記載されている。
【0006】
カーボンブラックの使用は充填材もしくは顔料として、または他の人工降雨剤(例えば、Chem.Abstr.,1987,"Carbon Black Containing Polystyrene Beads"を参照)として知られている。種々のカーボンブラックのうち、最も重要であるものは、石油燃焼からのカーボンブラック(「石油ブラック(petroleum black)」)/ガス燃焼からのカーボンブラック、アセチレンからのカーボンブラック、ランプブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、および導電性カーボンブラックである。WO1997/45477には、スチレンポリマーとランプブラック型のカーボンブラック0.05〜25%とを含む発泡性ポリスチレンに基づく組成物が記載されている。
【0007】
製造方法に応じて、これらのカーボンブラックは、約10nm〜1,000nmの範囲の直径を有し、非常に異なる比表面積を有する(10〜2,000m2/g)。これらの差異により、赤外線の封鎖容量が異なってくる。WO2006/61571には、スチレンポリマーとランプブラック型のカーボンブラック0.05%以上1%未満とを含む、比表面積が550〜1,600m2/gである発泡性ポリスチレンに基づく組成物が記載されている。
【0008】
グラファイトもまた、黒体として効果的に使用できることが知られている(例えば、特開昭63−183941号公報、WO04/022636、WO96/34039に記載されている)。しかし、ポリマーフォームでの赤外線の消衰剤としてのグラファイトの使用は、より最近のことである。
特開昭63−183941号公報は、6〜14μmの範囲の波長の赤外線の封鎖において活性である何らかの添加剤を使用して、永久に持続する低い熱伝導度を可能とする断熱熱可塑性樹脂を得ることを提案した最初の文献である。これらすべての添加剤の中で、グラファイトが好ましい。
【0009】
DE9305431Uには20kg/m3未満の密度で低熱伝導度の発泡成形品の製造方法が記載されている。この結果は、グラファイト、またカーボンブラックなどの不透熱性材料を固いポリスチレンフォームに取り込むことで達成されている。国際出願WO98/51735には、ポリスチレンマトリックスに均一に分布された合成または天然グラファイト粒子を0.05〜25重量%含む発泡ポリスチレン粒子が記載されている。グラファイトは好ましくは、1〜50μmの平均粒径、100〜500g/lの範囲の見掛け密度、および5〜20m2/gの範囲の表面積を有する。
【0010】
WO2011/042800は、150nm以下の厚み、10μm以下の平均次元(長さ、幅、または直径)、および>50m2/gの表面積を有するナノスケールのグラフェンシートを含む不透熱性充填材を含む、発泡性熱可塑性ナノコンポジットポリマー組成物、好ましくはポリスチレン組成物に関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
スペースを多く必要とせず、それ故多様な使用分野が可能である、高度に効果的な断熱材についての必要性は留まらない。本発明の基となる課題は、断熱性を向上させるための従来の材料と組み合わせて用いることができる非常に低い熱放射伝導度を有する粒子状材料を見出すことである。より、詳細には、ポリマーフォームおよび真空断熱パネルで使用のための不透熱性充填材料が探求される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
我々は今般、ディスク(「カーボンディスク」)および中空開放型コーン(「カーボンコーン」)の形状のカーボン粒子を含むカーボン粒子材料を断熱に用いることができることを見出した。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】WO98/42621の図である。
図2】真空粉末分散システムを示す図である。
図3】方向性半球透過率Tdh(左側)、および方向性半球反射率Rdh(右側)の決定のための積分球の配置を示す図である。
図4】カーボン粒子材料(IE1)のスペクトル比吸光係数aΛを示す図である。
図5】カーボン粒子材料(IE1)のスペクトル有効比散乱係数s*Λを示す図である。
図6】カーボン粒子材料(IE1)のスペクトル有効比消衰係数e*Λを示す図である。
図7】IE2(3重量%のIE1を含む発泡ポリスチレンフォーム)およびIE3(5重量%のIE1を含む発泡ポリスチレンフォーム)のスペクトル比吸光係数aΛを示す図である。
図8】IE2およびIE3の、スペクトル有効比散乱係数s*Λを示す図である。
図9】IE2およびIE3の、スペクトル有効比消衰係数e*Λを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
「カーボンコーン」および「カーボンディスク」は、ミクロドメインまたはそれより小さいドメイン(ナノードメイン)の特定のカーボン構造を指定するために用いられる。これらの構造は、肉眼でみて、平面または円錐状構造のグラファイトシートの積層体として特徴づけられる。中空開放型カーボンコーンは、一般的に、開放した端を除いて、1つ1つがグラファイトの連続したシートから作り上げられている中空コーンである。全てのコーンは先端で閉じており、5つの異なる開放角度でのみ存在する。六角形でのみ構成されるグラファイトシートは連続的なコーン頂点を形成することができず、平板またはディスクを形成する。曲線状の先端を形成するためには五角形を加えなければならない。開放型のカーボンコーンは、包まれたグラファイトシートとして形作ることができる。ひずみなく滑らかに包むために、上記シートから扇形を切り出さなければならず、その後、端は連結されなければならない。グラファイトシートの対称性を考慮して、上記扇形はTD=N×60°であって、N=0、1、2、3、4、または5の角度(合計回位TD)を持たなければならず、特定の合計回位(曲率)を生じさせるために必要な五角形の有効数に相当する。したがって、コーンの開放角度αは、α=2arcsin(1−N/6)の式にしたがって、特定個別の値のみを有する。0°(N=0)の合計回位は平板に相当する、すなわち、カーボンディスクは純粋な六角形のグラファイト構造を有する平坦な円のグラファイトシートとして特徴づけられる。国際出願WO98/42621から取った図1は、可能なカーボンコーンの投影角度(開放または先端の角度)を種々図示している。
【0015】
カーボンコーンおよびディスクに適用される回位および投影角度の概念は、ネイチャー(1997)、7月31日版の「Graphitic Cones and the Nucleation of Curved Carbon Surfaces」との記事を参照することにより良く理解される。図1に示すように、可能なコーンそれぞれに対する投影角度は、19.2°、38.9°、60°、83.6°および112.9°であり、それぞれ、合計回位300°(N=5)、240°(N=4)、180°(N=3)、120°(N=2)、および60°(N=1)に相当する。さらに、平板のグラファイトシートは投影角度180°および合計回位0°である。カーボン粒子材料の電子顕微鏡写真によって、上述のように、少なくとも1つの可能な開放角度を有するディスクおよびコーンの存在が確認された。上述された角と異なる開放角度を有するカーボンコーンは観察されなかった。
【0016】
カーボンコーンおよびディスクの、特徴的なサイズまたは最長寸法は、典型的には、5μm未満、好ましくは4μm未満、より好ましくは2μm以下、例えば、1〜2μm、または1μm未満、または800nm未満であり、中空開放型カーボンコーンの壁厚、またはディスクの厚みは、典型的には、100nm未満であり、好ましくは80nm未満であり、より好ましくは50nm未満、例えば20〜30nmである。典型的なアスペクト比は1〜50の範囲であり、100〜1000の範囲のアスペクト比を有するカーボンナノチューブのミクロドメイン構造のものとは明確に区別される。
【0017】
カーボンディスクおよびコーンは、本発明のカーボン粒子材料の中で強く支配的なカーボンミクロドメイン構造である。典型的には、カーボン粒子材料は、90重量%以上のカーボンミクロドメイン構造と、約10重量%までの通常のカーボンブラックとを含む。上記粒子材料のミクロドメイン部位は、通常、少なくとも10重量%のカーボンコーンを含み、好ましくは、80重量%のカーボンディスクおよび20重量%のカーボンコーンを含む。さらに、ナノチューブやフラーレンなどのミクロドメインまたはナノドメイン構造が存在していてもよいが、微量でのみである。
【0018】
本発明のカーボン粒子材料は、いわゆるクベルネルカーボンブラック&水素プロセス(Kvaerner Carbon Black & Hydrogen Process)、プラズマトーチプロセス、で製造され、これは、WO98/42621に十分記載されている。この製造方法は、2段階熱分解プロセスであって、炭化水素の原料が、まず、プラズマ領域に誘導され、そこで穏やかな熱分解段階に付されて炭化水素は一部のみ破壊または分解し、多環式芳香族炭化水素(PAH)を形成し、その後、このPAHは2番目の十分に強いプラズマ領域に入り、上記炭化水素の元素の炭素および水素への分解を達成する。
【0019】
US6,476,154は、ゴム組成物の機械的特性を向上させるために、本発明のミクロドメインカーボン粒子材料をジエン系エラストマーで使用することに関連する。ゴム組成物の用途としては、タイヤ、ベルト、およびホースが挙げられる。カーボン粒子材料の熱放射伝導度については、言及されておらず、US6,476,154で参照されている出願にも何ら関係がない。
【0020】
WO2006/052142は、元々非伝導性の材料であってクベルネルカーボンブラック&水素プロセスで調製された本発明のカーボン粒子材料からなる電気伝導性充填材を負荷することにより伝導性にされた材料を含む、電気伝導型コンポジット材料に関する。WO2006/052142は、また、上記充填材および、その結果の熱伝導性のコンポジット材料をうたっているが、証拠は示されていない。
【0021】
熱伝導性を増加させるために、非伝導性の材料にカーボン粒子材料を添加するというWO2006/052142の教示を考慮すると、カーボン粒子材料を断熱に用いることができるということは非常に驚くべきことである。ミクロ構造カーボン粒子材料が、赤外線照射に対し非常に高い消衰係数を有し、これがこの材料を断熱用途に理想的なものとしていることを見出したことは、本発明者らの功績である。
【0022】
Λ= 1.4μm〜35μmの範囲の波長での有効比消衰係数e*Λは、この材料を透過する熱照射の減衰の評価基準である。消衰は、材料内での吸収および散乱の両プロセスを含む。放射伝達での異方性の散乱の影響は、星でマークされた、いわゆる有効量(s*Λ、e*Λ、および ω*0. Λ)へのスケーリングにより包囲することができる。有効比消衰係数e*Λは、スペクトル有効比散乱係数s*Λおよびスペクトル吸収係数aΛの合計である。
【0023】
【数1】
【0024】
有効比消衰係数e*Λと密度ρとの積の逆数は、媒体の熱放射の平均自由行程LΛ、すなわち、散乱または吸収が起こる前の行程である:
【0025】
【数2】
【0026】
スペクトル有効アルベドω*0. Λは、スペクトル有効比散乱係数s*Λおよびスペクトル有効比消衰係数e*Λの商である。
【0027】
【数3】
【0028】
アルベドω*0. Λの値は、0と1との間に見出される(吸収のみの場合は0であり、散乱のみの場合は1である。)
【0029】
赤外光学特性の完全な表現は、消衰係数およびアルベド、または散乱および吸収係数のいずれかにより与えられる。これらの4つの値は、式(1)および式(3)を介して連結される。
【0030】
散乱または吸収媒体を介した全熱放射輸送を表すために、温度e*(T)の関数としての全有効比消衰係数がΛ=1.4μm〜35μmの範囲の全波長Λにわたるスペクトル有効比消衰係数e*Λを、ロスランド重量関数(Rosseland weight function) (fR(Λ,T))を用いて積分することによって得る:
【0031】
【数4】
【0032】
式中、ロスランド関数は、所定の波長Λおよび温度Tで黒体から放出されたスペクトル強度iB(Λ,T)の、同じ温度での全強度iB(T)に関する偏導関数である:
【0033】
【数5】
【0034】
放射伝導度は、全有効比消衰係数が分っていれば、サンプル厚みにしたがって計算することができる:
【0035】
【数6】
【0036】
式中、Tは平均サンプル温度であり、σ= 5.67・10-8 W m-2K-4 、ステファン−ボルツマン定数(StefanBoltzmann constant)である。
光学的に厚いサンプル(すなわち、e*・ρ・d >> 1)については、式(6)は以下のように要約される:
【0037】
【数7】
【0038】
λrad,∝はサンプル厚みに依存しない。
一般的に、Λ= 1.4μm〜35μmの赤外線照射についての本発明のカーボン粒子材料の300Kでの全有効比消衰係数e*は、1200〜1700m2/kgの範囲であり、典型的には、1290〜1640m2/kgの範囲である。カーボン粒子材料の全有効比消衰係数e*を計算するためのパラメータは実施例に記載したように得た。
【0039】
本発明のミクロ構造カーボン粒子材料の赤外線消衰は、実際、これまで不透熱性充填材として用いられている公知のカーボンブラックおよびグラファイトと比較してずっと高い。特定のカーボン粒子材料が工業スケールで通常のカーボンブラックとおおよそ同じ規模と生産コストで製造できることは、本発明のさらなる基本的な利点である。
【0040】
独特のIR消衰特性により、本発明のカーボン粒子材料は、単独で、または好ましくは、他のいずれかの材料との組み合わせで、断熱のための如何なる用途でも有用である。上記の他の材料は、典型的には、断熱性であり、有機または無機の断熱材料の両方が挙げられる。断熱材料に本発明のカーボン粒子材料を加えることにより、このコンポシットを介して熱伝導度が顕著に減少し、それによって断熱効果が向上する。本発明のカーボン粒子材料と組み合わせて用いることのできる断熱材料の例としては、熱可塑性または熱硬化性のいずれかのポリマー材料;木毛およびコルクなどの木質繊維材料;大麻、亜麻、羊毛などの植物または動物繊維;鉱物、グラスウール、板状の発泡ガラス;ケイ酸カルシウム板、石こうボード;ヒュームド・シリカ、およびこれらの材料の少なくとも2つの混合物が挙げられる。ポリマー材料の例としては、ビニルポリマー、好ましくは、ビニル芳香族ポリマー、例えばポリスチレン、スチレンの少なくとも1つの共重合性モノマーとの共重合体、およびポリプロピレン;ならびにポリウレタンが挙げられる。様々なポリマーのブレンドもまた使用することができる。上記のものを含む断熱ポリマー材料は、典型的には、開放型または閉鎖型セルのフォームの形態で存在する。本発明のカーボン粒子材料とともに使用されるポリマーフォームとしては、例えば発泡性ポリスチレン(EPS)、スチレンと少なくとも1つの共重合性モノマーとの発泡性共重合体、発泡性ポリプロピレン、押出ポリスチレン(XPS)、およびポリウレタンフォームが挙げられる。幾つかの実施態様では、ポリマーフォームは、ポリマー材料の重量に基づいて、1〜10重量%、好ましくは1.5〜8重量%、より好ましくは、2〜6重量%の本発明のカーボン粒子材料を含む。
【0041】
本発明のカーボン粒子材料は、不透熱性充填材として用いられ、好ましくは上述のポリマーフォームであるマトリックス材料に包含され/組み込まれる。幾つかの実施態様では、カーボン粒子材料は、断熱性であっても断熱性でなくてもよい他の充填材料の少なくとも1つと共に不透熱性充填材として用いられる(例えば、好ましくは上述のようなポリマーフォームであるマトリックス材料中で)。本発明のカーボン粒子材料とともに用いられる充填材の例としては、Aerosil(登録商標)R812(ヘキサメチルジシラザンで後処理されたな疎水性ヒュームド・シリカであって、エボニックインダストリーズAG(Evonik Industries AG)(ドイツ)から入手可能なもの)が挙げられる。当業者には、不透熱性充填材をポリマーフォームにどのように組み込むかについてはよく知られており、様々な方法が文献、例えば、WO2011/042800に記載されており、WO2011/042800は、不透熱性充填材を負荷された、熱可塑性ポリマー、好ましくは、ポリスチレン、の発泡シートまたは発泡押出シートの製造方法を幾つか開示している。
【0042】
さらに、本発明のカーボン粒子材料は、真空断熱パネル(VIPs)に使用して、さらに熱伝導性を下げることができる。これは、支持コアとして使用される材料に加えることができ、好ましくは、多孔性コア材料に組み込まれる。本発明のカーボン粒子材料とともに上記コアとして使用することのできる材料としては、ポリウレタンフォーム、ミクロファイバー材料、ヒュームド・シリカ、およびパーライトなどの開放型セルポリマーフォームが挙げられる。
【0043】
本発明のカーボン粒子材料が単独で、または他の断熱材料との組み合わせで用いることができる他の用途は、高温加熱炉の断熱のための充填材としての用途である。
【実施例】
【0044】
本発明の幾つかの実施態様が、以下の実施例で詳細に記載される。
【0045】
材料
全てのカーボンブラック粉末は、オリオンエンジニアードカーボンズゲゼルシャフトミットベシュレンクテルハフツング(Orion Engineered Carbons GmbH)(ハーナウ、ドイツ)より、市販品として入手可能である。

実施例番号 説明
IE1 ディスクおよびコーンを含むカーボン粒子材料1
IE2 3重量%のIE1を含む発泡ポリスチレンフォーム2
IE3 5重量%のIE1を含む発泡ポリスチレンフォーム2
CE4* 天然グラファイト粉末3

*比較例
1WO98/42621に記載のクベルネルカーボンブラック&水素プロセスで製造
2重量%はポリスチレンの重量に基づく
3カナダのカナダカーボンより入手可能
【0046】
粉末試料(実施例)および2つのフォーム(実施例2および3)は、環境温度(300K)において、全有効比消衰係数e*を得るために研究された。
【0047】
測定
サンプルは、ブルカー フーリエ変換赤外分光計Vertex 70vを用いて、環境温度での放射熱輸送に決定的な1.4μm〜35μmの波長範囲で測定された。スペクトル方向性半球透過率および反射率の測定のために、粉末試料の薄膜を、赤外線波長域において透明である支持PE層上に拡げた。粉末薄膜は上記PE層に真空ゲージを用いて噴霧される。均一薄膜の調製は、市販の粉末分散システムであるGALAI PD 10を用いて行う。真空チャンバーへの強い空気流入により、上記粉末が塊のない状態、部分的に帯電した細粉となり、ゆっくりと支持体ホイル上に堆積して、適度に安定な試料を形成する。図2は、真空粉末分散システムGALAI PD 10を示す:真空管の最上部のウェル内に配置される粉粒子が開放部に吸い込まれ、PEホイル上に堆積する。30μmおよび500μmの間の厚みの粉末層を粉末の量を変化させることにより達成することができる。
【0048】
フォームのスペクトル方向性半球透過率および反射率の測定のために、各フォーム試料の幾つかの層がフォームボードから完全に無くされた。上記層の直径は16mmである。
【0049】
その後、サンプルは分光計に接続された積分球の開口部に配置される。図3は、環境温度で、表面の垂直方向での、方向性半球透過率Tdh(左側)、および方向性半球反射率Rdh(右側)の決定のための積分球の配置を示す。サンプルは表面の垂直方向で照射され、半球の正面側へ反射された放射または半球の後側へ透過した放射を、それぞれ透過スペクトルまたは反射スペクトルのために測定する。異なる厚みの幾つかのサンプルを最終的な不均等性を考慮し、十分良い平均測定値を保証するために測定した。スペクトル有効比消衰係数e*Λを計算するために、各サンプルの面積当たり質量m"もまた決定された。
【0050】
スペクトル方向性半球透過率および反射率から、各試料のスペクトル有効比消衰係数e*Λおよびスペクトル有効アルベドω*0. Λが、放射伝達の式の特定のソリューション、いわゆる、3フラックスソリューション(three-flux solution)を用いて計算された。3フラックスソリューションにより、拡散または吸収する媒体を介して放射伝達を定量すること、および研究試料のスペクトル拡散および吸収係数を決定することが可能になる。
【0051】
図4は、ディスクおよびコーンを含むカーボン粒子材料(IE1)の、1.4〜35μmの波長Λに従ったスペクトル比吸光係数aΛを示す。
【0052】
図5は、ディスクおよびコーンを含むカーボン粒子材料(IE1)の、1.4〜35μmの波長Λに従ったスペクトル有効比散乱係数s*Λを示す。
【0053】
図6は、ディスクおよびコーンを含むカーボン粒子材料(IE1)の、1.4〜35μmの波長Λに従ったスペクトル有効比消衰係数e*Λを示す。
【0054】
図7は、IE2(3重量%のIE1を含む発泡ポリスチレンフォーム)およびIE3(5重量%のIE1を含む発泡ポリスチレンフォーム)の、1.4〜35μmの波長Λに従ったスペクトル比吸光係数aΛを示す。
【0055】
図8は、IE2(3重量%のIE1を含む発泡ポリスチレンフォーム)およびIE3(5重量%のIE1を含む発泡ポリスチレンフォーム)の、1.4〜35μmの波長Λに従ったスペクトル有効比散乱係数s*Λを示す。
【0056】
図9は、IE2(3重量%のIE1を含む発泡ポリスチレンフォーム)およびIE3(5重量%のIE1を含むポリ発泡スチレンフォーム)の、1.4〜35μmの波長Λに従ったスペクトル有効比消衰係数e*Λを示す。
【0057】
1.4μmと35μmとの間の波長範囲のスペクトル有効比消衰係数e*Λより、環境温度での全有効比係数が本願の明細書中の式に従って計算される。
【0058】
結果
表1に研究された試料の300Kにおける全有効比消衰係数e*が報告されている。式(4)から計算される全有効比消衰係数e*は、誤差約10%〜15%で決定することができる。
【0059】
【表1】
【0060】
表2においては、研究されたIE2およびIE3の、温度T=300Kにおける全有効比消衰係数e*、式(7)に従って計算される放射伝導度λrad,∝、およびフォーム密度ρが示される。
【0061】
【表2】
【0062】
表1に示される結果から、ディスクおよびコーンを含むミクロドメインカーボン粒子材料(IE1)が、これまで不透熱性充填材として用いられているグラファイトと比較して顕著に高い全有効比消衰係数e*を有していることが明らかである。さらに、表2から見て取れるように、本発明のカーボン粒子材料を負荷されたEPSフォームが、通常真空断熱パネルで到達する範囲の非常に低い熱伝導度であることは、極めて興味深い。これは、約16kg/m3の比較的低い密度のEPSフォームにおいて得られているため、特に注目に値する。低い密度は熱伝導度を極度に増加させるため、断熱目的で使用される負荷されていないEPSフォームは少なくとも30kg/m3の密度でなければならないものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9