特許第6285046号(P6285046)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6285046
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】水系ポリウレタン樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/00 20060101AFI20180215BHJP
   C08G 18/12 20060101ALI20180215BHJP
   C08G 18/08 20060101ALI20180215BHJP
   C08G 18/65 20060101ALI20180215BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20180215BHJP
   C08K 5/3472 20060101ALI20180215BHJP
   C08K 5/3447 20060101ALI20180215BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20180215BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
   C08G18/00 C
   C08G18/12
   C08G18/08 019
   C08G18/65 076
   C08L75/04
   C08K5/3472
   C08K5/3447
   H01L23/30 R
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-557481(P2016-557481)
(86)(22)【出願日】2015年9月8日
(86)【国際出願番号】JP2015075418
(87)【国際公開番号】WO2016072145
(87)【国際公開日】20160512
【審査請求日】2017年1月17日
(31)【優先権主張番号】特願2014-224173(P2014-224173)
(32)【優先日】2014年11月4日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬成相
(72)【発明者】
【氏名】北村武大
【審査官】 前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−225042(JP,A)
【文献】 特開平10−053636(JP,A)
【文献】 特表2002−500698(JP,A)
【文献】 特開2003−261764(JP,A)
【文献】 特開2002−080554(JP,A)
【文献】 特開2009−263565(JP,A)
【文献】 特開平11−209455(JP,A)
【文献】 特開昭60−197720(JP,A)
【文献】 特開2011−046912(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/019598(WO,A1)
【文献】 特開2008−214617(JP,A)
【文献】 特開2001−329467(JP,A)
【文献】 特開2011−213884(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0077779(US,A1)
【文献】 米国特許第4644030(US,A)
【文献】 特開2003−246834(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/136861(WO,A1)
【文献】 Shih Min Huang, Teng Ko Chen,Effects of ion group content and polyol molecular weight on physical properties of HTPB-based waterb,Journal of Applied Polymer Science,2007,Vol.105,No.6,p.3794-3801
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00− 18/87
C08L 75/00− 75/16
C08K 3/00− 13/08
C09D175/00−175/16
C09J175/00−175/16
C09K 3/10
H01L 23/00− 23/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基含有化合物(A)(ただし(A)は酸性基を含有しない)、イソシアネート基含有化合物(B)および酸性基含有ポリオール(C)を反応させて得られるウレタンプレポリマー(X)に、(X)のイソシアネート基との反応性を有する鎖伸張剤(D)を更に反応させて得られる、ポリウレタン樹脂(Y)の水分散体を含有する、電気電子部品の封止用水系ポリウレタン樹脂組成物であって、
前記水酸基含有化合物(A)が、水酸基含有化合物(A)100質量部に対して、ポリブタジエンポリオール、水添ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール、および水添ポリイソプレンポリオールからなる群より選ばれる一種以上(A1)を80質量部以上含有し、
前記イソシアネート基含有化合物(B)がイソホロンジイソシアネートおよび/またはトリレンジイソシアネート(B2)を含有し、
前記鎖伸張剤(D)がアジピン酸ジヒドラジドを含有し、
前記鎖伸張剤(D)の含有量が、ポリウレタン樹脂(Y)100質量部に対して、1〜12質量部である、
電気電子部品の封止用水系ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項2】
前記水酸基含有化合物(A)が、水酸基含有化合物(A)100質量部に対して、ポリブタジエンポリオール、水添ポリブタジエンポリオールおよびポリイソプレンポリオールからなる群より選ばれる一種以上(A1)を95質量部以上含有する、請求項1記載の電気電子部品の封止用水系ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項3】
前記(X)の酸価が5〜40(mgKOH/g)である請求項1または2記載の電気電子部品の封止用水系ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項4】
さらにトリアゾール化合物および/またはベンゾイミダゾール化合物を含有する、請求項1〜3いずれか記載の電気電子部品の封止用水系ポリウレタン樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載の電気電子部品の封止用水系ポリウレタン樹脂組成物の乾燥物を封止部分に有する電気電子部品
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系ポリウレタン樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子回路基板や電子部品は、外部からの汚染を防ぐためにポリウレタン樹脂等を用いて封止することが行われている。そして近年、環境等の問題から有機溶媒を使用しない水系ポリウレタン樹脂が要望されるようになってきた。本発明者らは、硬化物の耐熱性、耐湿熱性が優れる、特定構造のポリオールとポリイソシアネートとを反応させて得られたウレタンプレポリマーに、鎖伸張剤を更に反応させて得られる一液型絶縁性ポリウレタン樹脂の水分散体を含有することを特徴とする水系ポリウレタン樹脂組成物を開示した(特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−31726号公報
【特許文献2】特開2007−119786号公報
【特許文献3】特開2007−119787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし近年、作業工程の変化により、さらに乾燥性の優れる水系ポリウレタン樹脂組成物が求められるようになってきた。そこで、本発明は、前記問題点に鑑みて為されたものであり、硬化物の耐熱性、耐湿熱性に優れ、かつ乾燥性の優れる水系ポリウレタン樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定構造の水酸基含有化合物(A)、イソシアネート基含有化合物(B)と酸性基含有ポリオール(C)とを反応させて得られるウレタンプレポリマー(X)に、特定量の(X)のイソシアネート基との反応性を有する鎖伸張剤(D)を更に反応させて得られる、ポリウレタン樹脂(Y)の水分散体を含有する、水系ポリウレタン樹脂組成物により、上記課題を解決できることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明は下記に掲げる発明に関する。
(1)水酸基含有化合物(A)(ただし(A)は酸性基を含有しない)、イソシアネート基含有化合物(B)および酸性基含有ポリオール(C)を反応させて得られるウレタンプレポリマー(X)に、(X)のイソシアネート基との反応性を有する鎖伸張剤(D)を更に反応させて得られる、ポリウレタン樹脂(Y)の水分散体を含有する、電気電子部品の封止用水系ポリウレタン樹脂組成物であって、前記水酸基含有化合物(A)が、水酸基含有化合物(A)100質量部に対して、ポリブタジエンポリオール、水添ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール、および水添ポリイソプレンポリオールからなる群より選ばれる一種以上(A1)を80質量部以上含有し、前記イソシアネート基含有化合物(B)がイソホロンジイソシアネートおよび/またはトリレンジイソシアネート(B2)を含有し、前記鎖伸張剤(D)がアジピン酸ジヒドラジドを含有し、前記鎖伸張剤(D)の含有量が、ポリウレタン樹脂(Y)100質量部に対して、1〜12質量部である、電気電子部品の封止用水系ポリウレタン樹脂組成物。
(2)前記水酸基含有化合物(A)が、水酸基含有化合物(A)100質量部に対して、ポリブタジエンポリオール、水添ポリブタジエンポリオールおよびポリイソプレンポリオールからなる群より選ばれる一種以上(A1)を95質量部以上含有する、(1)記載の電気電子部品の封止用水系ポリウレタン樹脂組成物。
(3)前記(X)の酸価が5〜40(mgKOH/g)である(1)または(2)記載の電気電子部品の封止用水系ポリウレタン樹脂組成物。
(4)さらにトリアゾール化合物および/またはベンゾイミダゾール化合物を含有する、(1)〜(3)いずれか記載の電気電子部品の封止用水系ポリウレタン樹脂組成物。
(5)(1)〜(4)いずれか記載の電気電子部品の封止用水系ポリウレタン樹脂組成物の乾燥物を封止部分に有する電気電子部品
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、硬化物の耐熱性、耐湿熱性に優れ、かつ乾燥性にも優れる水系ポリウレタン樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の水系ポリウレタン樹脂組成物は、水酸基含有化合物(A)、イソシアネート基含有化合物(B)と酸性基含有ポリオール(C)とを反応させて得られるウレタンプレポリマー(X)に、(X)のイソシアネート基との反応性を有する鎖伸張剤(D)を更に反応させて得られる、ポリウレタン樹脂(Y)の水分散体を含有する。
【0009】
本発明における水酸基含有化合物(A)は、ポリブタジエンポリオール、水添ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール、および水添ポリイソプレンポリオールからなる群より選ばれる一種以上(A1)を含有する。これらの中で、乳化性の観点からはポリブタジエンポリオールが好ましく、耐熱性の観点からは、水添ポリブタジエンポリオール、水添ポリイソプレンポリオールが好ましい。水酸基含有化合物(A)の分子量は、耐熱性、耐湿熱性、可とう性、低温特性の観点から分子量400以上が好ましい。
【0010】
本発明におけるポリブタジエンポリオール、水添ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール、および水添ポリイソプレンポリオールからなる群より選ばれる一種以上(A1)の含有量は、水酸基含有化合物(A)100質量部に対して、80質量部以上であり、好ましくは90質量部以上であり、より好ましくは95質量部以上である。これらの範囲であれば、耐熱性、耐湿熱性、可とう性、低温特性の点で好ましい。
【0011】
本発明におけるポリブタジエンポリオール、水添ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール、および水添ポリイソプレンポリオールからなる群より選ばれる一種以上(A1)の数平均分子量は乳化性の観点から500〜5000が好ましく、1000〜3000がより好ましい。
【0012】
本発明に用いる水酸基含有化合物(A)には、ポリブタジエンポリオール、水添ポリブタジエンポリオールおよびポリイソプレンポリオール以外のポリオールを配合することができる。このようなポリオールとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールなどが挙げられる。これらは一種又は二種以上を使用することができる。
【0013】
前記ポリエーテルポリオールとしては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、4,4'−ジヒドロキシフェニルプロパン、4,4'−ジヒドロキシフェニルメタン等の2価アルコールあるいはグリセリン、1,1,1−トリメチロールプロパン、1,2,5−ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール等の3価以上の多価アルコールと、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、α−オレフィンオキサイド等のアルキレンオキサイドとの付加重合物等が挙げられる。
【0014】
前記ポリエステルポリオールとしては、特に限定されないが、例えば、脂肪酸とポリオールとの反応物であり、該脂肪酸としては、特に限定されないが、例えば、リシノール酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オキシカプロン酸、オキシカプリン酸、オキシウンデカン酸、オキシリノール酸、オキシステアリン酸、オキシヘキサンデセン酸のヒドロキシ含有長鎖脂肪酸等が挙げられる。脂肪酸と反応するポリオールとしては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール及びジエチレングリコール等のグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン及びトリエタノールアミン等の3官能ポリオール、ジグリセリン及びペンタエリスリトール等の4官能ポリオール、ソルビトール等の6官能ポリオール、シュガー等の8官能ポリオール、これらのポリオールに相当するアルキレンオキサイドと脂肪族、脂環族、芳香族アミンとの付加重合物や、該アルキレンオキサイドとポリアミドポリアミンとの付加重合物等が挙げられる。なかでも、リシノール酸グリセライド、リシノール酸と1,1,1−トリメチロールプロパンとのポリエステルポリオール等が好ましい。
【0015】
本発明におけるイソシアネート基含有化合物(B)は、脂肪族イソシアネート(B1)および/またはトリレンジイソシアネート(B2)を含有する。
【0016】
前記脂肪族イソシアネート(B1)としては、特に限定されないが、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2−メチルペンタン−1,5−ジイソシアネート、3−メチルペンタン−1,5−ジイソシアネートなどが挙げられる。また、脂肪族ジイソシアネートのカルボジイミド変性体、イソシアヌレート体、アロファネート体、水酸基含有化合物(A)との末端イソシアネート基プレポリマー、等の変性体を使用することもできる。これらは一種又は二種以上を使用することができる。
【0017】
前記トリレンジイソシアネート(TDI)(B2)としては、2,4−TDI、2,6−TDIが挙げられる。およびこれらのカルボジイミド変性体、イソシアヌレート体、アロファネート体、水酸基含有化合物(A)との末端イソシアネート基プレポリマー、等の変性体を使用することもできる。これらは一種又は二種以上を使用することができる。
【0018】
本発明に用いるイソシアネート基含有化合物(B)には、脂肪族イソシアネート(B1)および/またはトリレンジイソシアネート(B2)以外のイソシアネート基含有化合物を配合することができる。このようなイソシアネート基含有化合物としては、特に限定されないが、例えば、脂環族ポリイソシアネート化合物、トリレンジイソシアネート(B2)以外の芳香族ポリイソシアネート化合物および芳香脂肪族ポリイソシアネート化合物などが挙げられる。この他に、上記脂肪族イソシアネート(B1)および/またはトリレンジイソシアネート(B2)以外のイソシアネート基含有化合物のカルボジイミド変性体、イソシアヌレート体、アロファネート体、水酸基含有化合物(A)との末端イソシアネート基プレポリマー、等の変性体を使用することもできる。これらは一種又は二種以上を使用することができる。
【0019】
本発明おけるイソシアネート基含有化合物(B)中の脂肪族イソシアネート(B1)および/またはトリレンジイソシアネート(B2)の含有量としては、耐熱性、耐湿熱性の点で、イソシアネート基含有化合物(B)100質量部に対して、50質量部以上が好ましく、60質量部以上が、より好ましい。
【0020】
前記脂環族ポリイソシアネート化合物としては、特に限定されないが、例えば、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンなどが挙げられる。これらのうち、耐熱性、耐湿熱性、耐黄変性の点でイソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートが好ましい。
【0021】
前記トリレンジイソシアネート(B2)以外の芳香族ポリイソシアネート化合物としては、特に限定されないが、例えば、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、4,4’−ジベンジルジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0022】
本発明における、酸性基含有ポリオール(C)は、酸性基を少なくとも1個分子内に有するポリオール化合物である。酸性基としては、特に限定されないが、例えば、カルボキシル基、スルホニル基、リン酸基、フェノール性水酸基などが挙げられる。中でも、乳化性、塗膜の作成性、乾燥性および耐水性の観点から、カルボキシル基が好ましい。
【0023】
本発明で使用できる酸性基含有ポリオール化合物(C)は、特に制限されないが、具体的には、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸等のジメチロールアルカン酸、N,N−ビスヒドロキシエチルグリシン、N,N−ビスヒドロキシエチルアラニン、3,4−ジヒドロキシブタンスルホン酸、3,6−ジヒドロキシ−2−トルエンスルホン酸等が挙げられる。この中でも入手可能性の観点から、2個のメチロール基を含む炭素原子数4〜12のアルカン酸(ジメチロールアルカン酸)が好ましく、中でも、2,2−ジメチロールプロピオン酸が好ましい。
【0024】
本発明における、鎖伸張剤(D)は、ポリウレタンプレポリマー(X)のイソシアネート基に対して反応性を有する活性水素原子を分子中に2個以上有する化合物が好ましい。このような鎖伸張剤として、例えば、1分子中に2個以上の1級又は2級アミノ基を含有するポリアミン化合物、ヒドラジド化合物、あるいは分子量400未満の低分子量ポリオール化合物が挙げられる。ポリアミン化合物、ヒドラジド化合物としては、メラミン、ジメチロールウレア、ジメチロールエチルアミン、ジエタノールメチルアミン、ジプロパノールエチルアミン、ジブタノールメチルアミン、ヘキシレンジアミン、テトラエチレンペンタミン、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、ヒドラジン、エチレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、ジアミノジフェニルメタン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、水素添加ジフェニルメタンジアミン、ノルボランジアミン、ポリアミドポリアミン、ポリエチレンポリイミン等が挙げられる。分子量400未満の低分子量ポリオール化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。鎖伸張剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でもヒドラジド化合物が好ましく、工業的な入手の容易性の観点、基材との密着性、塗膜の物性、耐久性から、アジピン酸ジヒドラジドが特に好ましい。
【0025】
鎖伸張剤(D)の添加量は、得られるウレタンポリマー中の鎖伸張起点となるイソシアネート基の当量以下であることが好ましい。鎖伸張剤(D)の添加量が、イソシアネート基の当量以下であれば、硬化物の耐熱性、耐湿熱性、基材との密着性の観点から好ましい。鎖伸張は水によっても行なうことができる。この場合は分散媒としての水が鎖伸張剤を兼ねることになる。
【0026】
本発明における前記鎖伸張剤(D)の含有量は、ポリウレタン樹脂(Y)100質量部に対して、1−12質量部である。好ましくは2−11質量部であり、より好ましくは3−10質量部である。これらの範囲であることにより、耐熱性、耐湿熱性、強度、伸度、可とう性、低温特性が良好となる。また、本発明においては、鎖伸張は水によっても行なうことができるが、前記鎖伸張剤(D)の含有量の算出においては、水を含まない。
【0027】
イソシアネート基含有化合物(B)、水酸基含有化合物(A)及び酸性基含有ポリオール(C)の含有量は、目的とする硬化物の硬度等の物性によって適宜決められるが、通常、水酸基含有化合物(A)及び酸性基含有ポリオール(C)の活性水素の合計に対して、イソシアネート基含有化合物(B)のイソシアネート基が1.0〜2.2倍当量が好ましく、より好ましくは1.2〜2.0倍当量である。
【0028】
本発明における前記ポリブタジエンポリオール、水添ポリブタジエンポリオールおよびポリイソプレンポリオールからなる群より選ばれる一種以上(A1)と、前記脂肪族イソシアネート(B1)の含有量は、(A1)の活性水素に対して、(B1)のイソシアネート基が1.5〜3.5倍当量が好ましく、より好ましくは1.8〜3.2倍当量である。これらの範囲であると、耐熱性、耐湿熱性、可とう性、低温特性の点で好ましい。
【0029】
本発明における前記ポリブタジエンポリオール、水添ポリブタジエンポリオールおよびポリイソプレンポリオールからなる群より選ばれる一種以上(A1)と、前記鎖伸張剤(D)の質量比は、(A1)/(D)=3〜20/1が好ましく、4〜17/1がより好ましい。これらの範囲であると、耐熱性、耐湿熱性、可とう性、低温特性の点で好ましい。
【0030】
本発明における前記脂肪族イソシアネート(B1)と、前記鎖伸張剤(D)の質量比は、(B1)/(D)=2〜15/1が好ましく、3〜12/1がより好ましい。これらの範囲であると、耐熱性、耐湿熱性の点で好ましい。
【0031】
本発明における前記(X)の酸価は5〜40(mgKOH/g)であることが好ましく、8〜35(mgKOH/g)であることがより好ましい。これらの範囲であれば、乳化が行いやすく、かつ塗膜の耐湿熱性の点で好適である。なお、酸価は実施例に記載の方法で算出される。
【0032】
ポリウレタンプレポリマー(X)を水中に分散するために、塩基性成分をウレタンプレポリマー溶液に添加し、ポリウレタンプレポリマーに含まれる酸性基含有ポリオール化合物(C)由来の酸性基を中和することができる。中和に用いることができる塩基性成分としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−フェニルジエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、N−メチルモルホリン、ピリジン等の有機アミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機アルカリ、アンモニア等が挙げられる。中でも好ましくは、有機アミンであり、特に好ましいものはトリエチルアミンである。添加方法としては、ポリウレタンプレポリマー溶液に、塩基性成分を、直接又は水溶液として添加する方法が好ましく、その添加量は、ポリウレタンプレポリマー中の酸性基に対して0.3〜2倍当量とすることができ、0.4〜1.5倍当量が好ましい。
【0033】
本発明の水系ポリウレタン樹脂組成物中のポリウレタン樹脂含有率は特に限定されないが、乳化性、乾燥性の観点から20〜65重量%が好ましく、25〜55重量%であることがより好ましい。
【0034】
本発明の水系ポリウレタン樹脂組成物の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、水酸基含有化合物(A)とイソシアネート基含有化合物(B)とを活性水素基を有しない有機溶媒中で反応させてイソシアネート末端のウレタンプレポリマー(X)を合成した後、酸性基含有ポリオール(C)加えてポリウレタン樹脂(Y)を含有する有機溶剤溶液を得、該有機溶剤溶液に水を加えて水に分散させ、得られた水系組成物から有機溶剤を分離する方法があげられる。この方法において、鎖伸張剤(D)を加えるのは、前記水を加えるのと同時であることが好ましい態様である。また、有機溶媒を使用せずにプレポリマー(X)を合成することもできる。プレポリマー(X)を水に分散させる際には、必要に応じて界面活性剤を使用しても良い。
【0035】
本発明の水系ポリウレタン樹脂組成物には本発明の効果を阻害しない範囲内で、充填剤、難燃剤、消泡剤、防菌剤、防錆剤、安定剤、可塑剤、増粘剤、防黴剤、他の水系分散樹脂等の添加剤を含むことができる。
【0036】
本発明における消泡剤としては、特に限定されない。本発明に対する消泡効果の観点から、オクタメチルシクロテトラシロキサンを含有するシリコーンエマルションが好ましい。水系ポリウレタン樹脂組成物中のシリコーンエマルションの含有量は、特に限定されないが、ポリウレタン樹脂(Y)に対して0.001〜2重量%が好ましく、0.003〜1重量%が更に好ましい。
【0037】
本発明における防錆剤としては、特に限定されないが、例えば、トリアゾール化合物が挙げられる。トリアゾール化合物としては、トリアゾール基を有する化合物、およびその誘導体であれば特に限定されないが、例えば、1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、5−アミノ−3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、1,2,3−トリアゾール、1H−ベンゾトリアゾール等が挙げられる。これらの中で、本発明に対する防錆効果の観点から、1,2,3−トリアゾールが好ましい。水系ポリウレタン樹脂組成物中のトリアゾール化合物の含有量は、特に限定されないが、ポリウレタン樹脂(Y)に対して0.001〜2重量%が好ましく、0.003〜1重量%が更に好ましい。
【0038】
本発明における防黴剤としては、特に限定されないが、例えば、ベンゾイミダゾール化合物が挙げられる。ベンゾイミダゾール化合物としては、ベンゾイミダゾール基を有する化合物、およびその誘導体であれば特に限定されないが、例えば、4,5,6,7−テトラクロル−2−トリフルオロメチルベンゾイミダゾール、1−(ブチルカルバモイル)−2−ベンゾイミダゾールカルバミン酸メチル、2−メトキシカルボニルアミノベンゾイミダゾール、2−(4−チアゾリル)−ベンゾイミダゾール、2−メトキシカルボニルアミノベンゾイミダゾール等が挙げられる。これらの中で、これらの中で、本発明に対する防黴効果の観点から、2−(4−チアゾリル)−ベンゾイミダゾールが好ましい。水系ポリウレタン樹脂組成物中のベンゾイミダゾール化合物の含有量は、特に限定されないが、ポリウレタン樹脂(Y)に対して0.001〜2重量%が好ましく、0.002〜1重量%が更に好ましい。
【0039】
本発明の耐熱性は、水分散体をテフロン(登録商標)容器に、wet(水分散体の状態)100μmの厚みで流し、25℃、65%RHで24時間放置し、次いで80℃24時間乾燥して得た試験片を120℃×3000時間処理後、表面抵抗を測定したとき、1011Ω以上であることが好ましい。
【0040】
本発明の耐湿熱性は、水分散体をテフロン(登録商標)容器に、wet(水分散体の状態)100μmの厚みで流し、25℃、65%RHで24時間放置し、次いで80℃24時間乾燥して得た試験片を85℃×85%RH×3000時間処理後、表面抵抗を測定したとき、1011Ω以上であることが好ましい。
【0041】
本発明の乾燥性は、水分散体をテフロン(登録商標)容器に、wet(水分散体の状態)100μmの厚みで流し、25℃、65%RHで24時間放置した後、表面抵抗を測定したとき、1013Ω以上であることが好ましい。これらの範囲であれば作業性が良好である。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明のポリウレタン樹脂組成物および本発明のポリウレタン樹脂用原料組成物について詳細に説明する。なお、本明細書中に於ける「部」、「%」は、特に明示した場合を除き、「質量部」、「質量%」をそれぞれ表している。
【0043】
(実施例1)
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、A1成分としてポリブタジエンポリオール(Poly bd R-15HT)、B1成分としてイソホロンジイソシアネート、およびメチルエチルケトンを加え、75℃で1時間反応させることで、プレポリマーを30%含むMEK溶液を得た。さらにC成分としてジメチロールプロピオン酸、トリエチルアミン、ネオスタンU−28およびメチルエチルケトンを加え、75℃で1時間反応させ、プレポリマーを50%含むMEK溶液を得た。次に、この溶液を45℃まで冷却し、続いて、乳化水およびD成分としてアジピン酸ジヒドラジドを混合した。この乳化分散液を50℃、3トールで2時間減圧して脱溶剤を行い、最後にFSアンチフォーム013A、1,2,3−ベンゾトリアゾールおよびホクスター25%ゾルを添加し、(Y)の含有量40質量%の水系ポリウレタン樹脂組成物を得た。
【0044】
(実施例2〜13、比較例1〜4)
表1に記載の組成および含有量にて、実施例1記載の方法で調整した。
表1および表2において使用した原料は以下の通りである。
(A1−1)ポリブタジエンポリオール、Poly bd R-15HT、分子量1200、水酸基価102.7(mgKOH/g)(出光興産製)
(A1−2)ポリブタジエンポリオール、Poly bd R-45HT、分子量2800、水酸基価46.6(mgKOH/g)(出光興産製)
(A1−3)水添ポリブタジエンポリオール、GI−1000、分子量1500、水酸基価67.5(mgKOH/g)(日本曹達製)
(A1−4)ポリイソプレンポリオール、Poly ip、分子量2500、水酸基価46.6(mgKOH/g)(出光興産製)
(A1−5)水添ポリイソプレンポリオール、エポール、分子量2500、水酸基価50.5(mgKOH/g)(出光興産製)
(A2−1)アジピン酸、1,4−ブタンジオールのポリエステルポリオール、テスラック2464、分子量1000、水酸基価112(mgKOH/g)(日立化成製)
(B1−1)イソホロンジイソシアネート
(B2−1)2,4−TDI、2,6−TDIの8:2混合物、コロネートT-80、(日本ポリウレタン工業製)
(B3−1)4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート
(C1)ジメチロールプロピオン酸
(D1)アジピン酸ジヒドラジド
(E1)トリエチルアミン
(E2)スタナスオクトエート、ネオスタンU−28(日東化成工業製)
(F)水
(G1)シリコーン系消泡剤、FSアンチフォーム013A(東レダウコーニング製)
(G2)1,2,3−ベンゾトリアゾール
(G3)2−(4−チアゾリル)ベンズイミダゾール、ホクスター25%ゾル(北興化学工業製)
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
<酸価>
ウレタンプレポリマー(X)1g中に含まれる遊離カルボキシル基を中和するに要するKOHのmg数を示し、用いた酸性基含有ポリオール(ジメチロールプロピオン酸(C1)の仕込量より算出した。
【0048】
<評価方法>
(耐熱性、耐湿熱性)
1.試験片の作成
水分散体をテフロン(登録商標)容器に、wet(水分散体の状態)100μmの厚みで流し、25℃、65%RHで24時間放置し、次いで80℃24時間乾燥して得た。
2.耐熱性の評価
試験片を120℃×3000時間処理後、表面抵抗を測定し、下記の方法で評価した。なお、実施例において表面抵抗は、ADVANTEST社製 ULTRA HIGH RESISTANCE METER R8340Aを用い、25±5℃、65±5%RHで、試験片(70mm×70mm)に500Vの測定電圧を印加し、60秒後の数値を測定することで行なった。
○:表面抵抗1011Ω以上
×:表面抵抗1011Ω未満
3.耐湿熱性の評価
試験片を85℃×85%RH×3000時間処理後、前記の方法で表面抵抗を測定した。
○:表面抵抗1011Ω以上
×:表面抵抗1011Ω未満
【0049】
(乾燥性)
水分散体をテフロン(登録商標)容器に、wet(水分散体の状態)100μmの厚みで流し、25℃、65%RHで24時間放置した後、前記の方法で表面抵抗を測定した。
○:表面抵抗1013Ω以上
×:表面抵抗1013Ω未満
【0050】
<評価結果>
実施例1〜12から分かるように、本発明の水系ポリウレタン樹脂組成物は、耐熱性、耐湿熱性および乾燥性に優れることが分かる。
【0051】
一方、比較例1のように(A1)の量が少ない系、比較例3のように(D)の含有量が多い系では、耐湿熱性が劣る。比較例2のように(B1)および/または(B2)を含有しない系、比較例4のように(C)の含有量が少なく酸価の低い系では、乳化をすることができず、性能を評価をすることもできなかった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の水系ポリウレタン樹脂組成物は、電気洗濯機、便座、湯沸し器、浄水器、風呂、食器洗浄機等のスイッチ部や電動工具等に使用されている電子、電気部品に含まれる電気・電子回路を水分、湿気から保護するために該回路を封止する封止剤、電気、電子機器のシーリング剤やコーティング剤、及びコンデンサー、コンバーター、トランス、電線、コイル、電装品(自動車の電子部品)の絶縁材料等として好適に使用される。