特許第6285065号(P6285065)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6285065
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】金属ナノ粒子製造方法、その製造装置
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/14 20060101AFI20180215BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20180215BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20180215BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
   B22F9/14 Z
   B82Y30/00
   B82Y40/00
   B22F1/00 P
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-97085(P2017-97085)
(22)【出願日】2017年5月16日
【審査請求日】2017年5月18日
(31)【優先権主張番号】特願2016-167917(P2016-167917)
(32)【優先日】2016年8月30日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究事業「元素間融合技術の確立と理論予測に基づく固溶型ナノ合金の構築」」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000192383
【氏名又は名称】アドバンス理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108006
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】北川 宏
(72)【発明者】
【氏名】草田 康平
(72)【発明者】
【氏名】阿川 義昭
(72)【発明者】
【氏名】鳥巣 重光
(72)【発明者】
【氏名】坂口 賢至
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−035100(JP,A)
【文献】 特開2003−245540(JP,A)
【文献】 特開平11−269623(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00〜9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内に設置された容器内で常温常圧で液体のジエチレングリコール又はトリエチレングリコールの有機化合物と、チオールとを、前記有機化合物及び前記チオールの溶液において前記チオールが7〜15重量%となるように混合して充填する第1の工程と、
アークプラズマ蒸着源において前記容器の上方に位置するタングステンの蒸着材料を蒸発させてタングステンのイオンを前記有機化合物に照射し、前記有機化合物内に前記蒸着材料の単分散の前記タングステンの金属ナノ粒子を製造する第2の工程と
を有する
金属ナノ粒子製造方法。
【請求項2】
前記アークプラズマ蒸着源は、円筒状のアノード電極と当該アノード電極の内側に前記蒸着材料を電気的に接続した円柱状のカソード電極を同軸上に配置して構成されており、
前記アノード電極に印加される放電電圧は70V以上、1000V以下である
請求項1に記載の金属ナノ粒子製造方法。
【請求項3】
前記アノード電極と蒸着材料との間のアーク放電のためのコンデンサ容量は360μF以上である
請求項2に記載の金属ナノ粒子製造方法。
【請求項4】
前記第2の工程は、前記容器を回転させながら、前記蒸着材料を前記有機化合物に照射する
請求項1〜3のいずれかに記載の金属ナノ粒子製造方法。
【請求項5】
前記アークプラズマ蒸着源の放電電流の放電時間を調整できる機能を有する
請求項1〜4のいずれかに記載の金属ナノ粒子製造方法。
【請求項6】
前記放電電流を、任意の時間で地絡させる地絡手段
を有する請求項5に記載の金属ナノ粒子製造方法。
【請求項7】
真空チャンバ内に設置され、常温常圧で液体のジエチレングリコール又はトリエチレングリコールの有機化合物と、チオールとを、前記有機化合物及び前記チオールの溶液において前記チオールが7〜15重量%となるように混合して充填する容器と、
前記容器の上方に位置するタングステンの蒸着材料を蒸発させて前記タングステンのイオンを前記有機化合物に照射するアークプラズマ蒸着源と
を有し、
前記有機化合物内に前記蒸着材料の単分散の前記タングステンの金属ナノ粒子を製造する
金属ナノ粒子製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池触媒、光触媒、排ガス触媒、リチウム電池、空気電池などを取り扱う自動車産業、エネルギー産業、家電産業化学工業など広範囲な技術分野に用いられる、粒度分散が揃った金属の単分散の金属ナノ粒子製造方法、その製造装置、並びにその金属ナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、燃料電池触媒、光触媒、排ガス触媒、リチウム電池、空気電池などに用いる触媒は、貴金属等の地金を粉末状にして、溶融塩を生成し、そのスラリーを用いてコーティング担持するという複雑な湿式法で作られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の単分散ナノ粒子は、湿式法では、塩化白金酸なりの強酸溶液中に金属を溶解し、その後還元処理等を行い作製したが、このプロセスでは、粒度分散が大きく、均一な粒子が揃った単分散のナノ粒子を得ることは困難であった。
また金属の種類においてはある一定以下の粒径サイズより小さなものができなかった。特に溶液中で粒子を調製する場合には安定化剤が必要になり、触媒等に用いる場合、焼成等それらを取り除くための操作が必要でありその後濾過工程と多段な工程が必要であった。
【0004】
また多元系(2種類以上の元素を含有したナノ粒子)ナノ粒子の作製においては、溶液法では、溶媒に2種類の元素が溶融しなければならない。
上述した方法では粒子が担体に密着し、その粒子を担体から剥がすことができない、また均一な粒子が揃った単分散のナノ粒子を得ることは困難であった。特に、溶液中で粒子を調製する場合には安定化剤が必要になり、触媒等に用いる場合、焼成等それらを取り除くための操作が必要であった。一方、アークプラズマ蒸着源を用いて気相での作成を試みたが、基板上に密着してしまい、単分散のナノ粒子を形成することは難しかった。
【0005】
特に、光触媒,人工光合成触媒等に用いられるタングステンの金属ナノ粒子を製造することが求められている。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためのものであり、粒度分散が揃ったタングステンの単分散の金属ナノ粒子を製造できる金属ナノ粒子製造方法、その製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した従来技術の問題点を解決し、上述した目的を達成するために、本発明の金属ナノ粒子製造方法は、真空チャンバ内に設置された容器内で常温常圧で液体のジエチレングリコール又はトリエチレングリコールの有機化合物と、チオールとを、前記有機化合物及び前記チオールの溶液において前記チオールが7〜15重量%となるように混合して充填する第1の工程と、アークプラズマ蒸着源において前記容器の上方に位置するタングステンの蒸着材料を蒸発させてタングステンのイオンを前記有機化合物に照射し、前記有機化合物内に前記蒸着材料の単分散の前記タングステンの金属ナノ粒子を製造する第2の工程とを有する。
【0008】
好適には、前記アークプラズマ蒸着源は、円筒状のアノード電極と当該アノード電極の内側に前記蒸着材料を電気的に接続した円柱状のカソード電極を同軸上に配置して構成されており、前記アノード電極に印加される放電電圧は70V以上、1000V以下である。
好適には、前記アノード電極と蒸着材料との間のアーク放電のためのコンデンサ容量は360μF以上である。
好適には、前記第2の工程は、前記容器を回転させながら、前記蒸着材料を前記有機化合物に照射する。
好適には、前記アークプラズマ蒸着源の放電電流の放電時間を調整できる機能を有する。
好適には、前記放電電流を、任意の時間で地絡させる地絡手段を有する法。
【0009】
本発明の金属ナノ粒子製造装置は、真空チャンバ内に設置され、常温常圧で液体のジエチレングリコール又はトリエチレングリコールの有機化合物と、チオールとを、前記有機化合物及び前記チオールの溶液において前記チオールが7〜15重量%となるように混合して充填する容器と、前記容器の上方に位置するタングステンの蒸着材料を蒸発させて前記タングステンのイオンを前記有機化合物に照射するアークプラズマ蒸着源とを有し、前記有機化合物内に前記蒸着材料の単分散の前記タングステンの金属ナノ粒子を製造する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、粒度分散が揃ったタングステンの単分散の金属ナノ粒子を製造できる金属ナノ粒子製造方法、その製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態に係る粒度分散が揃った金属の単分散のナノ粒子が混入された有機化合物の製造装置の模式図である。
図2】金属ナノ粒子と直径と触媒活性の有無との関係を示す実験データである。
図3】蒸着エネルギと蒸着状態との関係を示す実験データである。
図4】蒸着エネルギと蒸着状態との関係を示す実験データである。
図5図1に示す金属ナノ粒子製造装置で製造される有機化合物をX線回折測定した結果を説明するための図である。
図6】本発明の実施形態の変形例に係る粒度分散が揃った金属の単分散のナノ粒子が混入された有機化合物の製造装置を説明するための図である。
図7図6に示す装置の放電電流を説明するための図である。
図8図6に示す装置の放電電流を説明するための図である。
図9図6に示す装置の放電電流を説明するための図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態に係わる、粒度分散が揃った金属(タングステン)の単分散のナノ粒子が混入された有機化合物の製造方法、その製造装置、並びにその有機化合物について説明する。
【0023】
<実施形態>
タングステンの融点は3300℃と高く、銀等に比べて蒸発させるために大きなエネルギーが必要である。しかしながら、このような大きなエネルギーにより蒸発したタングステン(W)のイオンを、有機化合物7としてポリエチレングリコールを収容した容器10に向けて放出すると、有機化合物7の温度が上がり蒸発してしまう。
そのため、本実施形態では、沸点が高い、ジエチレングリコール又はトリエチレングリコールを有機化合物7として用いる。
【0024】
[金属ナノ粒子製造装置1]
図1は本発明の実施形態に係る粒度分散が揃った金属の単分散のナノ粒子が混入された有機化合物の製造装置の模式図である。
本実施形態に係る金属ナノ粒子製造装置1は円筒状の真空チャンバ2を備えている。
【0025】
この真空チャンバ2内には、被蒸着材料保持部4が回転自在に設けられている。
被蒸着体保持部4には容器(シャーレ)10が着脱自在に取り付けられており、この容器10には常温常圧で液体の有機化合物7が充填されている。被蒸着材料保持部4の回転に連動して容器10が回転し、容器10内の有機化合物7中にナノ粒子が均一に形成される。
【0026】
有機化合物7は、保護材を含んだジエチレングリコール又はトリエチレングリコールであり、低蒸気圧の液体である。
ジエチレングリコール又はトリエチレングリコールの沸点は、ポリエチレングリコールに比べて高く、蒸発しにくい。
【0027】
上記保護材は、PVP等のポリマー、界面活性剤等の低蒸気圧の液体、オレイルアミンやオレイン酸など高級アミン・カルボン酸である。
【0028】
容器10には、チオールが有機化合物7と混合して充填されている
容器10内における有機化合物7との溶液は、チオールが7〜15重量%となるように充填されている。
7重量%未満であると、タングステンのナノ粒子が膨潤してしまう。また、15重量%を超えても、膨潤抑制効果は変わらない。
すなわち、チオールを充填しないと、タングステンのナノ粒子が50nmを超えて膨潤してしまう。本実施形態では、容器10内で有機化合物7の他にチオールを充填することで、タングステンのナノ粒子の直径は0.8〜50nmに保つことができる。
【0029】
また、図1に示すように、真空チャンバ2内には同軸型真空アーク蒸着源5が収納されている。
【0030】
図1に示すように、同軸型真空アーク蒸着源5は、金属ナノ粒子作製用材料で構成されている円柱状又は円筒状のカソード電極12と、カソード電極12に固定された蒸着材料11と、ステンレス等から構成されている円筒状のアノード電極23と、ステンレス等から構成されている円筒状のトリガ電極(例えば、リング状のトリガ電極)13と、蒸着材料11とトリガ電極13との間に両者を離間させるために設けられた円板状又は円筒状の絶縁碍子(以下、ハット型碍子とも称す)14とから構成されており、これらは同軸状に取り付けられている。
【0031】
蒸着材料11は、容器10に対向して設けられている。蒸着材料11と絶縁碍子14とトリガ電極13との3つの部品は、図示していないが、ネジ等で密着させて同軸状に取り付けられている。
【0032】
アノード電極23は、図示していないが、支柱で真空フランジに容器10に対する角度が変更可能なように取り付けられ、この真空フランジは真空チャンバ11の上面に取り付けられている。
【0033】
カソード電極12は、アノード電極23の内部に同軸状にアノード電極の壁面から一定の距離だけ離して設けられている。カソード電極12は、その少なくとも先端部(アノード電極23の開口部側の端部に相当する)に蒸着材料11が固定されている
【0034】
蒸着材料11は、タングステン(金属原子)である。
【0035】
トリガ電極13は、蒸着材料11あるいはカソード電極12との間にアルミナ等から構成された絶縁碍子14を挟んで取り付けられている。
【0036】
絶縁碍子14は蒸着材料11とトリガ電極13とを絶縁するように取り付けられており、また、トリガ電極13は絶縁体を介してカソード電極12に取り付けられていてもよい。これらのアノード電極23とカソード電極12とトリガ電極13とは、絶縁碍子14及び絶縁体により電気的に絶縁が保たれていることが好ましい。この絶縁碍子14と絶縁体とは一体型に構成されたものであっても別々に構成されたものでも良い。
【0037】
カソード電極12とトリガ電極13との間にはパルストランズからなるトリガ電源が接続されており、また、カソード電極12とアノード電極23との間にはアーク電源34が接続されている。アーク電源34は直流電圧源32とコンデンサユニット33とからなり、このコンデンサユニット33の両端は、それぞれ、カソード電極12とアノード電極23とに接続され、コンデンサユニット33と直流電圧源32とは並列接続されている。
同軸型真空アーク蒸着源5では、蒸着材料11とアノード電極23との間にアーク放電が生じる。
【0038】
コンデンサユニット33は、1つ又は複数個のコンデンサ(図1では、1個のコンデンサを例示してある)が接続したものであって、その1つの容量が例えば2200μF(耐電圧160V)であり、直流電圧源32により随時充電できるようになっている。
【0039】
トリガ電源13は、入力200Vのμsのパルス電圧を約17倍に変圧して、3.4kV(数μA)、極性:プラスを出力している。
アーク電源34は、100V、数Aの容量の直流電圧源32を有し、この直流電圧源からコンデンサユニット33(例えば、5個のコンデンサユニットの場合、1800μFに充電している。この充電時間は約1秒かかるので、本システムにおいて1800μFで放電を繰り返す場合の周期は、3Hzで行われる。
【0040】
トリガ電源32のプラス出力端子は、トリガ電極13に接続され、マイナス端子は、アーク電源34の直流電圧源32のマイナス側出力端子と同じ電位に接続され、カソード電極12に接続されている。アーク電源34の直流電圧源32のプラス端子は、グランド電位に接地され、アノード電極23に接続されている。コンデンサユニット33の両端子は、直流電圧源32のプラス端子及びマイナス端子間に接続されている。
【0041】
図1中、18はコントローラであり、各コントローラは各トリガ電源32に接続されており、各コントローラのスイッチをONにしてこのコントローラに接続された各トリガ電源32に信号を入力すると、このトリガ電源から高電圧が出力されるように構成されている。また、各コントローラ18は、CPU19に接続され、このCPUからの信号(外部信号)により、各コントローラを動作させることができるように構成することが好ましい。
【0042】
真空チャンバ2の壁面には、ガス導入系16及び真空排気系9が接続されている。このガス導入系16は、バルブ61、マスフローコントローラー62、バルブ63及び酸素ガスボンベ64がこの順序で金属製配管で接続されている。この酸素ガスは、蒸着材料の酸化を行うために導入する。
真空排気系9は、バルブ54、ターボ分子ポンプ51、バルブ52及びロータリーポンプ53がこの順序で金属製真空配管で接続されており、真空チャンバ2内を好ましくは0.1〜1Paに真空排気できるように構成されている。
また、真空チャンバ2内は、好ましくは20〜100℃に保たれている。
【0043】
本実施形態では、カソード電極12に固定される蒸着材料11として、銀を用いた。
また、金属ナノ粒子製造装置1は、有機化合物7内に蒸着材料11の単分散の直径0.8〜50nmの銀の金属ナノ粒子を製造する。
図2は、金属ナノ粒子と直径と触媒活性の有無との関係を示す実験データである。
これは、図2に示すように、タングステンの金属ナノ粒子が、直径0.8nm未満、並びに50nmを超えると触媒活性しない。図2において、○は触媒活性あり、×は触媒活性なしを示している。
【0044】
触媒活性の有無は、各触媒での評価方法においてその活性化エネルギを測定した。その活性化エネルギ−が所定の基準より低い方場合に触媒活性ありとし、そうでない場合に触媒活性なしとして評価した。
【0045】
また、金属ナノ粒子製造装置1は、上述したように、タングステンの金属ナノ粒子が直径0.8〜50nmのとなるように、下記式で規定される蒸着エネルギが36.45J以上、364.5J以下となるように放電電圧、コンデンサ容量、蒸着回数を設定する。
【0046】
(蒸着エネルギ)= 1/2×(放電電圧)×(コンデンサ容量)×(蒸着回数)
【0047】
図3及び図4は、蒸着エネルギと蒸着状態との関係を示す実験データである。
図3及び図4に示すように、蒸着エネルギが36.45J未満あるいは364.5Jを超えると、蒸着状態が不良となることが確認された。図3及び図4において、○は蒸着状態が良好であり、×は蒸着状態が不良であることを示している。
すなわち、蒸着エネルギが36.45J未満であると容器10に向けてタングステンのイオンが到達しない。また、蒸着エネルギが364.5Jを超えると、有機化合物7が蒸発してゲル状になってしまう。
【0048】
蒸着状態は、以下の方法により確認した。透過型電子顕微鏡とXRDで確認した。透過型電子顕微鏡でタングステンナノ粒子が球形であることを確認した。また、XRDで、タングステン特有の結晶構造であることからタングステン粒子であることを確認した。
【0049】
また、アノード電極23に印加される放電電圧は70V以上、1000V以下とする。
これは、放電電圧が70V未満であるとプラズマが前方にドリフトせず、1000Vを超えるとカソードとアノード間で放電が発生し不都合が生じるためである。
【0050】
アノード電極23と蒸着材料との間のアーク放電のためのコンデンサユニット33のコンデンサ容量は360μF以上である。コンデンサ容量が360μF未満だとナノ粒子を形成できず、原子は飛び出すがそれを凝集できないためである。1,800μFが好適である。
【0051】
以下、金属ナノ粒子製造装置1を用いた有機化合物の製造方法を説明する。
まず、真空チャンバ2内を高真空雰囲気にしておく。次いで、アーク電源32により、アノード電極23に対して、カソード電極12に直流電圧を印加しておく。その状態でトリガ電源31を起動し、トリガ電極13にパルス電圧を印加する。
すると、蒸着材料11の表面とトリガ電極13の表面との間に絶縁碍子14の円筒状部分の厚み分の距離(約1mm)を介して印加することで絶縁碍子14の表面でトリガ放電となる沿面放電が発生する。このトリガ放電によって、蒸着材料11の表面からその構成物質が蒸発し、蒸気や、イオンや電子等が発生する。また、蒸着材料11と絶縁碍子14のつなぎ目から電子が発生する。
【0052】
それらの蒸気、イオン、電子等によってアノード電極23内の圧力が上昇し、アノード電極23と蒸着材料11との間の絶縁耐圧が低下すると、コンデンサユニット33に充電された電荷よって、蒸着材料11とアノード電極23との間でアーク放電が発生する。
アーク放電は連続放電ではなく、パルス的放電であり、発生回数と間隔を調整して行われる。
【0053】
このアーク放電により、蒸着材料11に多量の電流が流入し、ジュール熱により蒸着材料11が蒸発すると、正電荷を有する荷電微粒子であるタングステンイオンが、蒸着材料11の側面からアノード電極23に向けて大量に放出される。
かかるアーク放電によって生じたアーク電流により、アノード電極23内に磁場が形成される。その磁場は、正電荷を有する粒子に対し、アノード電極23の開口部方向に押しやる力を及ぼすので、アノード電極23に向けて放出されたタングステンイオンは、真空チャンバ2内に放出され、被蒸着材料保持部4の容器10内の有機化合物7の表面に向かって噴射される。そうすると有機化合物7中に粒度分布の狭い単分散のタングステンのナノ粒子が均一に混入し、ナノ粒子含有有機化合物を製造することができる。
【0054】
金属ナノ粒子製造装置1では、同軸型真空アーク蒸着源5の蒸着材料11であるタングステンがプラズマになり原子状イオンになり、常温常圧で液体の有機化合物7に衝突し凝集することでタングステンのナノ粒子が得られる効果を奏する。
【0055】
上述した有機化合物の製造方法、その製造装置、によれば、粒度分散が揃ったタングステンの単分散のナノ粒子が混入された有機化合物を製造できる。
すなわち、タングステンの融点は3300℃と高く、銀等に比べて蒸発させるために大きなエネルギーが必要である。しかしながら、このような大きなエネルギーにより蒸発したタングステンのイオンを、有機化合物7としてポリエチレングリコールを収容した容器10に向けて放出すると、有機化合物7の温度が上がり蒸発してしまう。
そのため、本実施形態では、モノエチレングリコールに比べて沸点が高いジエチレングリコール又はトリエチレングリコールを有機化合物7として用いる。これより、液体状態の有機化合物7にタングステンを噴射させて、タングステンナノ粒子を生成できる。
【0056】
また、本実施形態では、容器10内に有機化合物7とチオールとの溶液を充填させることで、タングステンのナノ粒子の直径を0.8〜50nmに保つことができる。
【実施例】
【0057】
有機化合物7として10mLのジエチレングリコールに10重量%のチオールを溶解した溶液をφ5cmの容器10に収納し、ロータリポンプ53で1Paまで減圧した。
同軸型真空アーク蒸着源5のコンデンサユニット33のコンデンサ容量:1080μF,放電電圧:100Vに設定した。
【0058】
蒸着材料11の蒸着材料としてタングステンを用いた。
この状態で10000ショット3HzでPVP溶液に向けてタングステンプラズマを有機化合物7に照射した。事前の準備で上記条件にて10000ショットで10mgのタングステンがシリコン基板上に蒸着されることは確認した。
【0059】
そして、有機化合物(PVP溶液)7をTEM観察したところ、直径3〜10nmのタングステンナノ粒子を確認した。
【0060】
また、X線回折測定を行い、バルクのタングステンの結晶のピークとナノ粒子の結晶のピークの位置が一致しているため、このナノ粒子はバルクのタングステンと同じ結晶性をもつことが確認された。また、直径3〜10nmの結晶性が良好な単分散のタングステンナノ粒子が形成されていることを確認した。
【0061】
図5において、縦軸は観測されたx線の強度で、結晶性の高い試料ほど強くてシャープなピークが出る。また、横軸は結晶格子の周期に対応している。
図5において、41が有機化合物7を精製して得られたタングステンナノ粒子の特性であり、43がバルクタングステン粉末の特性である。
調製された粒子は室温において安定であり、数ヶ月たっても凝集体は確認されなかった。
【0062】
<実施形態の変形例>
本実施形態では、同軸型真空アーク蒸着源5の放電電流の放電時間を調整できる機能を有している。それ以外の機能は実施形態と同様である。
図6は、本発明の実施形態の変形例に係る粒度分散が揃った金属の単分散のナノ粒子が混入された有機化合物の製造装置101の模式図である。
【0063】
図6に示すように、金属ナノ粒子製造装置101では、アーク電源34とカソード電極12との間に地絡手段としてのトランジスタ112を有している。
トランジスタ112は、コントローラ18からの制御に基づいてオン/オフし、尖塔放電電流を、任意の時間で地絡させる。
【0064】
トランジスタ112に設定した時間で尖塔放電電流に流し込みゼロにする。これにより、タングステンのナノ粒子の量や金属のミクロンサイズの液滴を低減できる。
図7はトランジスタ112による地絡動作を行わない場合の放電電流の波形を示す図、図8及び図9は地絡動作を行う場合の放電電流の波形を示す図である。
地絡手段としては、トランジスタ112の代わりに、サイリスタを用いてもよい。
【0065】
本発明は上述した実施形態には限定されない。
すなわち、当業者は、本発明の技術的範囲またはその均等の範囲内において、上述した実施形態の構成要素に関し、様々な変更、コンビネーション、サブコンビネーション、並びに代替を行ってもよい。
【0066】
本実施形態で製造される粒度分散が揃った金属の単分散のナノ粒子が混入された有機化合物は、ペースト、インク、複合粒子および複合材料、触媒用途、蛍光・発光技術、有機EL、導電性の付与、リチウム電池、燃料電池等に応用、活用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は燃料電池触媒、光触媒、排ガス触媒,リチウム電池、空気電池などを取り扱う自動車産業、エネルギー産業、家電産業化学工業など広範囲な技術分野に適用される。
【符号の説明】
【0068】
1…金属ナノ粒子製造装置
2…真空チャンバ
4…被蒸着材料保持部
5…同軸型真空アーク蒸着源
6・・・電源装置
7…有機化合物(ジエチレングリコール又はトリエチレングリコール)
10…容器
11…蒸着材料(タングステン)
12…カソード電極
13…トリガ電極
15…絶縁碍子
18…コントローラ
23…アノード電極
31…トリガ電源
32…直流電圧源
33…コンデンサユニット

【要約】
【課題】 粒度分散が揃った金属の単分散のナノ粒子が混入された有機化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】 真空チャンバ2内に設置された容器10に常温常圧で液体のジエチレングリコール又はトリエチレングリコールである有機化合物7を充填する第1の工程と、容器10の上方に位置するタングステンの蒸着材料11をアークプラズマ蒸着源5から有機化合物7に照射し、液体の有機化合物7内に蒸着材料11のタングステン単分散ナノ粒子を作る第2の工程を有する。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9