【課題を解決するための手段】
【0007】
インクジェットプリンタにおいて、Yバーは、通常、重力方向の上方の位置に設けられる。そのため、この部分が重くなると、インクジェットプリンタにおける高い位置の重量が大きくなり、インクジェットプリンタにおける重心位置が高くなる。また、立体物への印刷を行うインクジェットプリンタの場合、印刷可能な立体物の最大高さを考慮した位置にYバーが設けられるため、重心位置が特に高くなる。
【0008】
そして、本願の発明者は、このような構成に関し、Yバー等の重量が大きくなることにより、印刷時に生じる振動の影響が大きくなりやすいことを見出した。また、その結果、例えば印刷可能な領域をより大きくしようとする場合、従来のインクジェットプリンタのガイドレール等の長さ(Y方向における幅)を単に変更するのみでは、適切に印刷を行えない場合があると言えることを見出した。また、本願の発明者は、振動と印刷品質の低下の関係について、更なる鋭意研究を行った。そして、Yバーを移動させる際に生じる振動の影響により、画質の低下が生じていることを突き止めた。
【0009】
より具体的に説明すると、インクジェットプリンタにおいて、被印刷体の各部に印刷を行うためには、被印刷体に対して相対的にインクジェットヘッドを移動させることが必要となる。そのため、例えば、所定のY方向(主走査方向)については、Yバーにおけるガイドレールに沿ってインクジェットヘッドを移動させることにより、被印刷体に対して相対的にインクジェットヘッドを移動させる。また、インクジェットヘッドは、Y方向へ移動しつつインク滴を吐出する主走査動作(スキャン動作)を行うことにより、Y方向の各位置において、被印刷体にインク滴を吐出する。
【0010】
また、Y方向と直交するX方向については、例えば、主走査動作の合間に、被印刷体に対して相対的にインクジェットヘッドを移動させる。より具体的に、例えば、立体物に対して印刷を行うインクジェットプリンタにおいては、YバーをX方向へ所定距離だけ移動させることにより、被印刷体に対して相対的にインクジェットヘッドを移動させる。これにより、被印刷体において次の主走査動作により印刷が行われる領域を順次変更する送り動作を行う。
【0011】
ここで、この送りの動作においては、インクジェットヘッドのみではなく、Yバーの全体を移動させるため、送り動作に必要な駆動力も大きくなる。そのため、各回の送り動作の完了時において、Yバーの移動を止める際に生じる衝撃も、その分だけ大きくなる。また、その衝撃に応じて、Yバー等の振動が生じやすくなる。更に、例えばYバーの重量が大きい場合や、重心位置が高い場合には、この振動が大きくなる。
【0012】
そして、本願の発明者は、鋭意研究により、例えばYバーの重量が大きい場合や、重心位置が高い場合において、送り動作の停止時に生じた振動が、その後の主走査動作の開始後にも続き、印刷品質に影響を与える場合があることを見出した。より具体的には、例えば、Yバーの重量が大きい場合や、重心位置が高い場合、Yバーの振動が生じやすく、かつ、生じた振動の減衰に要する時間も長くなると考えられる。そのため、この場合、例えば従来と同じ構成で送り動作を行い、その後に従来と同じタイミングで主走査動作を行うと、Yバーの振動が十分に減衰されない状態で印刷が行われることとなり、印刷品質が低下すると考えられる。そこで、本願の発明者は、この問題点の認識に基づき、更に、送り動作の停止時に生じる振動を軽減する方法について、鋭意研究を行った。そして、この鋭意研究において、本願の発明者は、送り動作の動力源となる駆動部の構成に着目した。
【0013】
例えば、従来の印刷装置においては、タイミングベルト等のベルト駆動により、Yバーを移動させ、送り動作を実現している。これに対し、本願の発明者は、送り動作の停止時に生じる振動の大きな原因が、このベルト駆動を行う構成にあることを見出した。
【0014】
より具体的には、例えば、送り動作をベルト駆動により行う場合、応力によりベルトが伸縮する結果、停止位置の精度が低下する場合があることを見出した。また、送り動作をベルト駆動により行う場合、例えばウォームギア及びプーリーを用いた構成となり、ウォームギアとプーリーとの間の偏心の影響によっても、停止位置の精度に誤差が生じる。更には、ベルト駆動の停止位置の精度は、動力の伝達経路で用いる減速ギアにおける遊びの量の影響もうける。
【0015】
そして、例えばYバーの重量が大きい場合や、重心位置が高い場合、停止位置の誤差の範囲の影響により、振動が生じやすくなる。また、その振動が、その後の主走査動作の開始後にも続きやすくなる。そして、その結果、印刷品質に影響を与えることとなると考えられる。また、送り動作をベルト駆動により行う場合、この振動の影響が大きくなり、高精度の印刷を適切な速度で行うことが困難になる場合がある。そこで、本願の発明者は、ベルト駆動に代わるより適切な方法により送り動作を行い、振動を抑えることを考えた。上記の課題を解決するために、本発明は、以下の構成を有する。
【0016】
(構成1)被印刷体に対してインクジェット方式で印刷を行うインクジェットプリンタであって、インク滴を吐出するインクジェットヘッドと、インクジェットヘッドを被印刷体と対向させて保持する部材であり、インクジェットプリンタにおいて予め設定されたY方向へ延伸するY方向延伸部材と、Y方向と直交するX方向へY方向延伸部材を移動させるX方向駆動部と、X方向へ延伸する構造によりX方向へのY方向延伸部材の移動をガイドするガイド部材と、Y方向延伸部材をガイド部材に沿ってX方向へ移動可能とする被ガイド部と、インクジェットヘッド及びY方向延伸部材よりも重力方向の下方に設けられる台状
で平板状の部材である台部とを備え、印刷時において、インクジェットヘッドは、Y方向延伸部材に沿って移動しつつ、被印刷体へ向けてインク滴を吐出し、X方向駆動部は、ボールネジを有しており、ボールネジの回転量に応じてY方向延伸部材を前記X方向へ移動させるものであり、ボールネジは、Y方向におけるY方向延伸部材の中央位置に合わせた位置に設けられ、ボールネジは、ボールネジ軸とボールネジナットとを含んで構成され、ボールネジの回転はボールネジ軸の回転により行われるものであり、ボールネジ軸の両端は軸受けを介して台部上に固定され、ボールネジナットは
、Y方向延伸部材の下方においてY方向延伸部材に対して固定されている。
【0017】
インクジェットヘッドは、Y方向延伸部材に沿って移動しつつインク滴を吐出することにより、主走査動作(スキャン動作)を行う。X方向駆動部は、例えば、主走査動作の合間に、Y方向延伸部材を移動させる。また、これにより、X方向駆動部は、主走査動作の合間に、送り動作を行う。
【0018】
このように構成した場合、ボールネジを用いることにより、例えばベルト駆動を行う場合と比べ、送り速度を変えずに送りの解像度を細かくして、より高い分解能でY方向延伸部材を移動させることが可能となる。また、その結果、Y方向延伸部材の移動を停止させるタイミングにおいて、振動をより発生しにくくできる。そのため、このように構成すれば、例えば、その後の主走査動作の開始後における振動の影響を適切に抑えることができる。また、これにより、高い精度での印刷を適切に行うことができる。
【0019】
(構成2)インクジェットヘッド及びY方向延伸部材よりも重力方向の下方に設けられる台状の部材である台部と、台部上においてX方向へ延伸する構造によりX方向へのY方向延伸部材の移動をガイドするガイド部材と、台部上においてY方向延伸部材を支える部材であり、ガイド部材に沿ってX方向へ移動可能な被ガイド部を有する支持部材とを更に備える。
【0020】
このように構成すれば、例えば、X方向駆動部によりY方向延伸部材を適切に移動させることができる。また、これにより、高い精度での印刷を、より適切に行うことができる。尚、X方向において、支持部材は、例えば、ガイド部材に沿って移動する。また、ガイド部材は、例えばレールである。
【0021】
(構成3)少なくとも、2個の支持部材と、2個のガイド部材とを備え、2個のガイド部材のそれぞれは、台部のY方向におけるそれぞれの端部側に設けられ、2個の支持部材のそれぞれにおける被ガイド部は、2個のガイド部材のそれぞれによりガイドされる。
【0022】
このように構成すれば、例えば、Y方向延伸部材をより適切に支持できる。また、X方向駆動部によりY方向延伸部材をより適切に移動させることができる。
【0023】
(構成4)インクジェットプリンタを載置する載置面上で台部を支える脚部を更に備え、脚部は、台部におけるガイド部材が設けられている面と反対側の面において、ガイド部材と平行かつ長尺状に連設された連接部と、連接部から重力方向の下方へそれぞれ突出して載置面と当接することにより、載置面上で台部を支持する複数の突出部とを有する。
【0024】
本願の発明者は、ボールネジを用いることで高精度の送り動作を実現し、振動の影響を抑えた後にも、より高精度の印刷を行うために、更なる鋭意研究を行った。そして、振動の影響が大きい従来の構成においては認識されていなかった新たな問題点として、台部に生じるゆがみ(たわみ)等の影響の問題点を見出した。より具体的には、例えば、X方向においてY方向延伸部材を移動させる場合、その移動により、台部において重量がかかる位置が変化する。そして、その結果、Y方向延伸部材に応じて台部にゆがみが生じる。そして、このゆがみが、印刷品質に一定の影響を与えると考えられる。
【0025】
ここで、例えば送り動作時に生じる振動の影響が大きい場合、このゆがみの影響は、振動が印刷品質に与える影響に比べて小さい。そのため、この場合、ゆがみの影響は、問題になりにくい。これに対し、ボールネジを用いることで高精度の送り動作を実現し、振動の影響を抑えた場合、台部に生じるゆがみが印刷品質に与える影響も、無視できなくなる。
【0026】
そこで、本願の発明者は、鋭意研究により、上記のような連接部を用い、台部のゆがみを抑えることを考えた。また、この構成により、印刷品質に対する台部のゆがみの影響を適切に抑え得ることを見出した。すなわち、上記のような連接部を用いることにより、例えば、台部を補強し、台部の剛性を適切に向上させることができる。また、これにより、Y方向延伸部材等の重量をガイド部材上で受けることで台部に生じるゆがみを適切に抑えることができる。そのため、このように構成すれば、例えば、高い精度での印刷を、より適切に行うことができる。
【0027】
(構成5)連接部は、台部を挟んでガイド部材と対向する位置に設けられ、突出部は、連接部及び台部を挟んでガイド部材と対向する位置に設けられる。
【0028】
このように構成した場合、例えば重力方向において、ガイド部材の直下に脚部が設けられ、ガイド部材、連接部、及び突出部が一直線上に並ぶこととなる。そのため、このように構成すれば、ガイド部材及び台部をより適切に補強し、台部のゆがみをより適切に抑えることをできる。また、これにより、例えば、高い精度での印刷を、より適切に行うことができる。
【0029】
(構成6)連接部は、重力方向において被ガイド部の直下近傍となる位置に配設されている。このように構成すれば、例えば、送り動作時にYバー等に振動が生じた場合にも、早期に振動を抑えることができる。また、この場合、突出部は、連接部の直下近傍に配設されていることが好ましい。
【0030】
上記のように、X方向駆動部においてボールネジを用いることにより、送り動作時において振動を発生しにくい構成を実現できる。しかし、より適切に振動を抑えるためには、ボールネジの駆動力の伝達によりX方向へ移動する部分において、Y方向延伸部材等の重量を支える被ガイド部の構造等も重要である。これに対し、このように構成した場合、被ガイド部や、被ガイド部をガイドするガイド部材の直下またはその近傍に脚部の連接部があるため、振動が生じた場合にも、振動が減衰しやすい構成、すなわち、減衰率の高い構成になっていると言える。また、その結果、振動が発生した場合にも、いつまでも振動が続くことはなく、早期に振動を収めることができる。また、これにより、例えば、送り動作の後、次の主走査動作を早々に開始することが可能となる。
【0031】
(構成7)被印刷体が載置される被印刷体載置部を更に備え、Y方向延伸部材及び被ガイド部のそれぞれは、被印刷体載置部において被印刷体が載置される部分を中心にして、重力方向におけるその上下にそれぞれ離間して配設されている。
【0032】
このように構成した場合、被印刷体載置部において被印刷体が載置される部分を中心にして、一方にY方向延伸部材が配置され、他方に被ガイド部が配置された構成となるため、例えば、Y方向延伸部材を含む部分であり、送り動作においてX方向へ移動する部分であるYバーの重心と、Yバーの移動をガイドするガイド部材とが離間し、両者の距離が大きくなる。そのため、この場合、ベルト駆動により送り動作を行おうとすると、振動の問題が生じやすくなる。より具体的には、例えば、タイミングベルト等のベルトは、駆動時において、応力がかかることにより伸びる。一方、停止時には、応力の緩和により縮み、元の状態に戻る。そのため、ベルト駆動により送り動作を行うと、停止時の応力緩和によりベルトが収縮することによる振動が被ガイド部に伝わることとなる。また、更には、Yバーの重心と、ガイド部材とが離間した構成により、その振動が増幅され、Yバーに振動が発生すると考えられる。更には、タイミングベルトを用いる場合、ベルトの歯と歯が切りかわるタイミングにおいて、少なからず円滑性が低下し、ギクシャクした動作になる。そして、この円滑性の低下も、振動の原因となり、増幅されてYバーに伝わることとなる。そのため、Yバーの重心と、ガイド部材とが離間した構成の場合、ベルト駆動により送り動作を行うと、特に振動の問題が生じやすいと考えられる。
【0033】
これに対し、X方向駆動部においてボールネジを用いた場合、ベルト駆動を行う場合に生じる上記の問題を、適切に解決できる。また、これにより、Yバーの重心と、ガイド部材とが離間した構成の場合においても、振動の影響を適切に抑え、高い精度での印刷を適切に行うことが可能となる。
【0034】
尚、インクジェットプリンタにおいて、送り動作を行う構成としては、例えば上記のようにYバーの側を動かす構成の他に、X方向におけるインクジェットヘッドの位置を固定して、被印刷体を載せるテーブル(被印刷体載置部)の側を移動させる構成も知られている。しかし、この場合、テーブルにおいて被印刷体を載せる部分と、テーブルの移動をガイドするガイド部材との間の距離は、比較的小さいと言える。そのため、例えばテーブルの移動をベルト駆動により行ったとしても、上記のような振動の問題は生じにくい。また、その結果、送り動作においてテーブルの側を移動させる場合には、振動により印刷品質が低下する問題は、実質的に生じないと考えられる。従って、送り動作においてテーブルの側を移動させる場合、振動を抑える目的でボールネジを用いる必要はないと考えられる。
【0035】
(構成8)Y方向延伸部材に沿って移動することによりインクジェットヘッドが印刷を行う領域のY方向における幅は、50cm以上である。印刷を行う領域のY方向における幅は、より望ましくは、60cm以上である。
【0036】
このように構成した場合、例えば、Y方向においてインクジェットヘッドを移動させる距離が長くなるため、Y方向延伸部材の重量が大きくなる。そのため、例えば従来の構成で送り動作を行う場合、振動の影響が大きくなり、高い精度での印刷を適切に行うことが困難になるおそれがある。これに対し、このように構成すれば、振動の影響を適切に抑えることができる。また、これにより、高い精度での印刷を適切に行うことができる。
【0037】
(構成9)インクジェットヘッドがインク滴を吐出する方向における高さが10cm以上の被印刷体に対して印刷可能である。
【0038】
このように構成した場合、例えば、Y方向延伸部材及びインクジェットプリンタ全体の重心位置が高くなるため、例えば従来の構成で送り動作を行う場合、振動の影響が大きくなり、高い精度での印刷を適切に行うことが困難になるおそれがある。これに対し、このように構成すれば、振動の影響を適切に抑えることができる。また、これにより、高い精度での印刷を適切に行うことができる。
【0039】
尚、重心位置が高い構成の場合、例えば従来の構成で送り動作を行うと、印刷を行う領域のY方向における幅がより小さい場合であっても、振動の影響が生じやすいと言える。例えば、印刷を行う領域のY方向における幅が30cm程度以上の場合、振動の影響が生じやすいと考えられる。これに対し、このように構成すれば、印刷を行う領域のY方向における幅が30cm程度以上の場合であっても、振動の影響を適切に抑えることができる。
【0040】
(構成10)被印刷体に対してインクジェット方式で印刷を行う印刷方法であって、インク滴を吐出するインクジェットヘッドと、インクジェットヘッドを被印刷体と対向させて保持する部材であり、インクジェットプリンタにおいて予め設定されたY方向へ延伸するY方向延伸部材と、Y方向と直交するX方向へY方向延伸部材を移動させるX方向駆動部とを用い、印刷時において、インクジェットヘッドをY方向延伸部材に沿って移動させつつ、インクジェットヘッドに、被印刷体へ向けてインク滴を吐出させ、X方向駆動部は、ボールネジを有しており、X方向において、ボールネジの回転量に応じてY方向延伸部材を移動させる。このように構成すれば、例えば、構成1と同様の効果を得ることができる。