特許第6285135号(P6285135)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6285135
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】セメントクリンカ及びセメント
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/02 20060101AFI20180215BHJP
【FI】
   C04B7/02
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-197151(P2013-197151)
(22)【出願日】2013年9月24日
(65)【公開番号】特開2015-63422(P2015-63422A)
(43)【公開日】2015年4月9日
【審査請求日】2016年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【弁理士】
【氏名又は名称】村地 俊弥
(72)【発明者】
【氏名】大野 麻衣子
(72)【発明者】
【氏名】黒川 大亮
(72)【発明者】
【氏名】平尾 宙
【審査官】 浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−169084(JP,A)
【文献】 特開2000−272939(JP,A)
【文献】 特開2007−008785(JP,A)
【文献】 特開2010−120787(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
C04B 40/00−40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボーグ式で算出される2CaO・SiO2の含有率が40〜60質量%のセメントクリンカであって、
該セメントクリンカ中、MgOの含有率が1.93.0質量%であり、SOの含有率が0.4〜1.2質量%であり、P25の含有率が0.05〜0.3質量%であることを特徴とするセメントクリンカ。
【請求項2】
上記セメントクリンカに含まれる2CaO・SiO2中の、MgOの含有率が1.0質量%以下である、請求項に記載のセメントクリンカ。
【請求項3】
上記セメントクリンカに含まれる2CaO・SiO2中の、SO3の含有率が0.3質量%以上である、請求項1または2に記載のセメントクリンカ。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項に記載のセメントクリンカの粉砕物と石膏を含むセメント。
【請求項5】
上記セメントが中庸熱ポルトランドセメントまたは低熱ポルトランドセメントである請求項4に記載のセメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントクリンカ及びセメントに関する。
【背景技術】
【0002】
2CaO・SiO2(ビーライト;以下、「C2S」ともいう。)の含有率が大きいセメント(高ビーライト系セメント)は、長期強度発現性に優れている。しかし、高ビーライト系セメントであっても、該セメント中のMgOの含有率が大きくなると、長期強度発現性が低下するという問題があった。
一方、セメント中のMgOの含有率と長期強度発現性との関係について、従来、様々な報告がなされている。例えば、特許文献1には、少なくともリン含有廃棄物をその原料の一部として用いる、水硬率が1.80〜2.15、ケイ酸率が2.8〜4.5、P25含有量が0.05〜2.0質量%の範囲にあるポルトランドセメントクリンカの製造方法であって、焼成後のポルトランドセメントクリンカ中のMgO含有量が1.0質量%以下となるように調整して原料を調合し、これを焼成することを特徴とする前記ポルトランドセメントクリンカの製造方法が記載されている。該方法によって得られたポルトランドセメントクリンカを用いれば、セメントの長期強度発現性の低下を改善することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−13023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
セメントクリンカの主たる原料として、石灰石が挙げられる。石灰石中のMgOの含有率が大きい場合、セメントクリンカ中のMgOの含有率の調整は困難である。
本発明の目的は、高ビーライト系でかつMgOの含有率が大きいセメントの材料として用いる場合であっても、セメントの長期強度発現性の低下を抑制できるセメントクリンカを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、C2Sの含有率が30〜60質量%であり、MgOの含有率が1.2〜3.5質量%であり、SO3の含有率が0.4〜1.2質量%であるセメントクリンカによれば、上記目的を達成することができることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[5]を提供するものである。
[1] ボーグ式で算出される2CaO・SiO2の含有率が30〜60質量%のセメントクリンカであって、該セメントクリンカ中、MgOの含有率が1.2〜3.5質量%であり、SO3の含有率が0.4〜1.2質量%であることを特徴とするセメントクリンカ。
[2] 上記セメントクリンカ中のP25の含有率が0.05〜0.5質量%である、前記[1]に記載のセメントクリンカ。
[3] 上記セメントクリンカに含まれる2CaO・SiO2中の、MgOの含有率が1.0質量%以下である、前記[1]または[2]に記載のセメントクリンカ。
[4] 上記セメントクリンカに含まれる2CaO・SiO2中の、SO3の含有率が0.3質量%以上である、前記[1]〜[3]のいずれかに記載のセメントクリンカ。
[5] 前記[1]〜[4]のいずれかに記載のセメントクリンカの粉砕物と石膏を含むセメント。
【発明の効果】
【0006】
本発明のセメントクリンカによれば、高ビーライト系でかつMgOの含有率が大きいセメントの材料として用いる場合であっても、セメントクリンカ中のSO3の含有率を特定の範囲内に調整しているので、セメントの長期強度発現性の低下を抑制することができる。
なお、上記高ビーライト系セメントとしては、中庸熱ポルトランドセメント及び低熱ポルトランドセメント等が挙げられる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のセメントクリンカは、ボーグ式で算出される2CaO・SiO2の含有率が30〜60質量%であり、MgOの含有率が1.2〜3.5質量%であり、SO3の含有率が0.4〜1.2質量%であるものである。
ここで、MgOの含有率とは、Mg(マグネシウム)の酸化物換算の含有率をいう。
本発明のセメントクリンカ中の、ボーグ式で算出されるC2Sの含有率は、30〜60質量%であり、好ましくは40〜60質量%である。該含有率が30質量%未満では、MgOの含有率が大きくなっても、セメントの長期強度発現性の低下の程度がそれほど大きくないので、SO3の含有率を調整する必要性が乏しくなる。該含有率が60質量%を超えると、セメントの初期強度発現性が低下する。
【0008】
なお、本明細書中、セメントクリンカ中の3CaO・SiO2(エーライト;以下、「C3S」ともいう。)、C2S(ビーライト)、3CaO・Al23(アルミネート相;以下、「C3A」ともいう。)、4CaO・Al23・Fe23(フェライト相;以下、「C4AF」ともいう。)の各含有率は、セメントクリンカ全量(100質量%)中の割合として、原料や焼成物の化学成分に基づき、下記のボーグの計算式を用いて算出される。
3S(質量%)=(4.07×CaO(質量%))−(7.60×SiO2(質量%))−(6.72×Al23(質量%))−(1.43×Fe23(質量%))
2S(質量%)=(2.87×SiO2(質量%))−(0.754×C3S(質量%))
3A(質量%)=(2.65×Al23(質量%))−(1.69×Fe23(質量%))
4AF(質量%)=3.04×Fe23(質量%)
【0009】
本発明のセメントクリンカ中のMgOの含有率は、1.2〜3.5質量%、好ましくは1.5〜3.2質量%、より好ましくは1.7〜3.1質量%、特に好ましくは1.9〜3.0質量%である。該含有率が1.2質量%未満では、セメントの長期強度発現性の低下が生じないため、SO3の含有率を調整する必要性が乏しくなる。また、使用するセメントクリンカ原料(特に、石灰石)によっては、セメントクリンカ中のMgOの含有率が1.2質量%未満となることは困難となる。該含有率が3.5質量%を超えると、セメントの長期強度発現性の低下を抑制することが困難となる。
なお、市販品の中庸熱ポルトランドセメントクリンカまたは低熱ポルトランドセメントクリンカ中の、MgOの含有率は、通常、1.1質量%以下である。
【0010】
本発明のセメントクリンカ中のSO3の含有率は、0.4〜1.2質量%、好ましくは0.45〜1.1質量%、より好ましくは0.5〜1.0質量%である。該含有率が0.4質量%未満では、セメントの長期強度発現性の低下を抑制することが困難となる。該含有率が1.2質量%を超えると、セメントの長期強度発現性の低下を抑制する効果が低下する。また、廃石膏ボード等のSO3源を用いずに、原料の種類、配合を調整するだけで、該含有率を、1.2質量%を超えるようにすることは困難である。
上記SO3の含有率が上記数値範囲内となるように原料を調整することで、セメント中のMgOの含有率が大きくても、セメントの長期強度発現性の低下を防ぐことができる。
【0011】
本発明のセメントクリンカ中のSO3の含有率を上記数値範囲内となるように調整する方法としては、SO3源とセメントクリンカ原料を予め混合する方法等が挙げられる。該SO3源としては、例えば、各種石膏や廃石膏ボード等が挙げられる。
【0012】
本発明のセメントクリンカ中のP25の含有率は、好ましくは0.05〜0.5質量%、より好ましくは0.06〜0.4質量%、特に好ましくは0.07〜0.3質量%である。
セメントクリンカ中のP25の含有率が上記数値範囲内であれば、セメントの強度発現性が向上する。
25は下水汚泥等の廃棄物に多く含まれるものであり、セメントクリンカの原料としての廃棄物の有効利用の観点から、上記含有率は、好ましくは0.05質量%以上である。
上記含有率が0.5質量%以下であると、セメントの凝結時間が好適となる。
【0013】
本発明のセメントクリンカに含まれるC2S中のMgOの含有率は、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.4〜0.9質量%である。
該含有率が1.0質量%以下であると、C2Sの長期強度発現性が好適となり、その結果、セメントの長期強度発現性も好適となる。
【0014】
本発明のセメントクリンカに含まれるC2S中のSO3の含有率は、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは0.4質量%以上、特に好ましくは0.5〜1.0質量%である。該含有率が0.3質量%以上であると、セメント中のMgOの含有率が大きくても、セメントの長期強度発現性の低下を防ぐことができる。
【0015】
本発明のセメントクリンカの粉砕物と石膏を含むセメントは、長期強度発現性に優れている。
本発明のセメントクリンカと石膏は個別に粉砕した後に混合してもよく、混合した後に同時に粉砕してもよい。
石膏としては、無水石膏、二水石膏、半水石膏等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
石膏の含有率は、本発明のセメントクリンカ及び石膏の合計量に対して、SO3換算で、好ましくは1.5〜4.0質量%、より好ましくは1.8〜3.0質量%である。
該含有率が、SO3換算で1.5質量%以上であると、モルタル等の流動性が好適となる。該含有率が、SO3換算で4.0質量%以下であると、セメントの強度発現性が好適となる。
上記セメントと、水、骨材(粗骨材、細骨材)、及び必要に応じて配合される他の材料を混合することによって、セメント組成物(モルタル、コンクリート等)を調製することができる。該セメント組成物は、長期材齢における圧縮強度に優れている。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
使用材料は、以下に示すとおりである。
(1)セメントクリンカ用原料:石灰石等のセメント工場において使用されている原料
(2)MgO源:酸化マグネシウム(試薬)
(3)SO3源:廃石膏ボード
(4)石膏:二水石膏
【0017】
[実施例1〜、比較例1〜8、参考例1〜2
MgOとSO3の各含有率を調整したセメントクリンカ用原料を、電気炉を用いて1450〜1550℃で焼成して、セメントクリンカ1〜12を製造した。MgO及びSO3の含有率の調整は、上記MgO源及びSO3源をセメントクリンカ用原料に混合することで行った。
得られたセメントクリンカ中の化学成分を、蛍光X線分析法(XRF)を用いて測定した。各セメントクリンカ中、MgO及びSO3の含有率、及び、ボーグ式で算出されたセメントクリンカの鉱物組成を表1に示す。
なお、セメントクリンカ1〜12の化学組成は、CaOが62.6〜65.2質量%、SiO2が26.0〜26.8質量%、Al23が3.5〜3.7質量%、Fe23が2.8〜3.8質量%、Na2Oが0.15〜0.17質量%、K2Oが0.20〜0.52質量%、P25が0.08〜0.09質量%、フリーライム量が0.1〜0.5質量%であった。
【0018】
【表1】
【0019】
また、セメントクリンカ1〜12に含まれるC2S中、MgO及びSO3の含有率を、電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いて測定した。結果を表2に示す。
【0020】
【表2】
【0021】
セメントクリンカ1〜12に、セメントクリンカ及び石膏の合計量に対して、全SO3量が2.0質量%となるように石膏を添加した後、ブレーン比表面積が3,400cm/gとなるように粉砕し、セメント1〜12を製造した。得られたセメントを用いて、「JIS R 5201」に準拠したモルタルの圧縮強度試験を行った。
結果を表3に示す。
【0022】
【表3】
【0023】
参考例1〜2と比較例5〜6、および、実施例1〜2と比較例7〜8を比較すると、セメントクリンカ中のSO3の含有率を特定の数値範囲内(0.4〜1.2質量%)に調整することで、材齢28日における圧縮強度の低下を抑制することができることがわかる。
また、比較例1〜4から、セメントクリンカ中のMgOの含有率が、本発明で規定するMgOの含有率の下限値(1.2質量%)を下回ると、SOの含有率を増加させても、SOの添加による材齢28日における圧縮強度の低下の抑制効果が見られないことがわかる。
なお、比較例1、5、7より、セメントクリンカ中のMgOの含有率が増加すると、材齢28日における圧縮強度が低下することがわかる。