特許第6285175号(P6285175)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6285175
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】焙煎コーヒー豆の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23F 5/10 20060101AFI20180215BHJP
【FI】
   A23F5/10
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-266347(P2013-266347)
(22)【出願日】2013年12月25日
(65)【公開番号】特開2014-140359(P2014-140359A)
(43)【公開日】2014年8月7日
【審査請求日】2016年12月9日
(31)【優先権主張番号】特願2012-288976(P2012-288976)
(32)【優先日】2012年12月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】草浦 達也
【審査官】 西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/081937(WO,A1)
【文献】 特開2000−342182(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/011396(WO,A1)
【文献】 米国特許第04857351(US,A)
【文献】 米国特許第03244532(US,A)
【文献】 米国特許第03132947(US,A)
【文献】 米国特許第03620758(US,A)
【文献】 欧州特許出願公開第01867235(EP,A1)
【文献】 特開2011−055716(JP,A)
【文献】 特開2012−183035(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/122660(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F 5/
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器内に原料焙煎コーヒー豆を収容し、原料焙煎コーヒー豆に対する質量比として0.001〜0.06となる量の水を添加し、密閉容器内を加湿した条件下、100〜160℃で加熱処理する、焙煎コーヒー豆の製造方法。
【請求項2】
加熱状態における密閉容器内の水蒸気分圧が10kPa以上である、請求項1記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
【請求項3】
加熱状態における密閉容器内の相対湿度の上昇量が5%以上である、請求項1又は2記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
【請求項4】
加熱時間が0.5〜4時間である、請求項1〜のいずれか1項記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
【請求項5】
原料焙煎コーヒー豆のL値は、焙煎コーヒー豆の所望するL値よりも1以上高いものである、請求項1〜のいずれか1項記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
【請求項6】
原料焙煎コーヒー豆のL値が10〜40である、請求項1〜のいずれか1項に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
【請求項7】
原料焙煎コーヒー豆が粉砕されたものである、請求項1〜のいずれか1項記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
【請求項8】
当該焙煎コーヒー豆は、焙煎コーヒー豆1kgあたりのヒドロキシヒドロキノンの含有量が40mg以下である、請求項1〜のいずれか1項記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
【請求項9】
当該焙煎コーヒー豆は、焙煎コーヒー豆1kg当たりのハイドロキノンの含有量が10mg以上である、請求項1〜のいずれか1項記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
【請求項10】
当該焙煎コーヒー豆は、(A)ハイドロキノンと(B)ヒドロキシヒドロキノンとの質量比[(B)/(A)]が3以下である、請求項1〜のいずれか1項に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
【請求項11】
当該焙煎コーヒー豆は、焙煎コーヒー豆100g当たりのクロロゲン酸類の含有量が0.5g以上である、請求項1〜10いずれか1項記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焙煎コーヒー豆の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒー飲料にはポリフェノールの一種である、クロロゲン酸、カフェ酸、フェルラ酸等のクロロゲン酸類が含まれており、クロロゲン酸類は血圧降下作用等の優れた生理活性を有することが知られている。しかしながら、生コーヒー豆を焙煎すると、ヒドロキシヒドロキノンが自然発生し、このヒドロキシヒドロキノンがクロロゲン酸類の生理作用を阻害することが報告されている。したがって、クロロゲン酸類による生理作用を十分発現させるためには、クロロゲン酸類の含有量が高く、かつヒドロキシヒドロキノンの含有量の低い焙煎コーヒー豆とすることが有利である。そこで、ヒドロキシヒドロキノン含有量を低減させた焙煎コーヒー豆の製造方法として、例えば、大気圧下で80〜150℃の原料焙煎コーヒー豆を、6.7kPa以下の真空条件下、90〜150℃の温度で加熱処理する方法が提案されている(特許文献1)。
【0003】
また、コーヒー飲料は嗜好飲料として広く愛好されており、風味の良好なコーヒー飲料の原料として有用な焙煎コーヒー豆が求められる。例えば、コーヒー焙煎豆の酸味成分を低減し、かつ、その抽出率を向上させ、コーヒー由来の優れた香味を引き出すことのできるコーヒー焙煎豆の処理方法として、コーヒー焙煎豆に水蒸気を通気状態で供給して水蒸気処理を行う方法が提案されている(特許文献2)。また、雑味が抑制されたコーヒー飲料の原料として有用な焙煎コーヒー豆の製造方法として、L値が30〜50の原料焙煎コーヒー豆を、密閉容器内に収容して100〜160℃で加熱処理する方法が提案されている(特許文献3)。同様にL値が10〜40の原料焙煎コーヒー豆を、160〜190℃で加熱処理する方法が提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−055716号公報
【特許文献2】国際公開第2005/011396号
【特許文献3】特開2012−183035号公報
【特許文献4】国際公開第2011/122660号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コーヒー風味には、苦味、酸味、甘味などの様々な要素があり、コーヒー飲料の風味はこれらの味覚のバランスの上に成り立っており、また味に奥行きや広がりが増すことでコクとして感じられる。したがって、コーヒー風味の一つの要素が低減すると、風味バランスが崩れ、風味に違和感や雑味が感じられることがあり、またバランスの崩れたコーヒー風味からはコクを感じ難い。ここで、本明細書において「雑味」とは、焙煎コーヒー豆本来の風味バランスを阻害する、後に引く異味をいう。
そこで、本発明の課題は、コクが豊かで、かつ雑味が抑制され、しかもヒドロキシヒドロキノン量が低減されたコーヒー飲料の原料として有用な焙煎コーヒー豆の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題に鑑み検討した結果、密封容器内に収容した焙煎コーヒー豆を加湿条件下、特定温度で加熱処理することにより、意外にも、コクが豊かで、かつ雑味が抑制され、しかもヒドロキシヒドロキノン量が低減されたコーヒー飲料の原料として有用な焙煎コーヒー豆が得られることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、密閉容器内に原料焙煎コーヒー豆を収容し、加湿条件下、100〜160℃で加熱処理する、焙煎コーヒー豆の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、コクが豊かで、かつ雑味が抑制され、しかもヒドロキシヒドロキノン量が低減されたコーヒー飲料の原料として有用な焙煎コーヒー豆を簡便な操作で効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の焙煎コーヒー豆の製造方法は、密閉容器内に原料焙煎コーヒー豆を収容し、加湿条件下、100〜160℃で加熱処理するものである。
【0010】
本発明で使用する密閉容器は外気との接触を遮断できれば特に限定されないが、例えば、レトルトパウチ、缶、ビン等を挙げることができる。なお、缶及びピンは、栓や蓋により開閉自在なものが好ましい。また、密閉容器の形状及び材質も特に限定されないが、加熱により変質せず、かつ加圧に耐え得る容器が好ましく、例えば、金属製容器、ガラス製容器等を挙げることができる。
【0011】
本発明の製造方法においては、原料焙煎コーヒー豆を加湿条件下で加熱処理するために、密閉容器内を加湿する。
加湿方法としては、例えば、密閉容器内に水を添加し加湿する方法が挙げられる。具体的には、密閉容器内に水を収容した容器を置く方法、密閉容器内に吸水性材料を置き、該吸水性材料に水を添加する方法、密閉容器内に予め水を添加した吸水性材料を置く方法、原料焙煎コーヒー豆に水を添加する方法などを挙げることができる。吸水性材料としては、吸水性を有し、かつ加熱により変質しないものであれば特に限定されないが、例えば、布、不織布、紙製ウエスなどが挙げられる。
【0012】
水の添加量は、ヒドロキシヒドロキノンの低減、コクの増強の観点から、原料焙煎コーヒー豆に対する質量比が、0.001以上となる量が好ましく、0.002以上となる量がより好ましく、0.003以上となる量が更に好ましく、0.004以上となる量がより更に好ましく、0.006以上となる量がより更に好ましく、0.008以上となる量がより更に好ましく、0.01以上となる量がより更に好ましく、また風味バランス、酸味のキレの観点から、0.06以下となる量が好ましく、0.05以下となる量がより好ましく、0.04以下となる量が更に好ましい。水の添加量の範囲としては、原料焙煎コーヒー豆に対する質量比が、好ましくは0.001〜0.06、より好ましくは0.002〜0.06、更に好ましくは0.003〜0.06、より更に好ましくは0.004〜0.05、より更に好ましくは0.006〜0.05、より更に好ましくは0.008〜0.04、より更に好ましくは0.01〜0.04となる量である。
【0013】
本発明で使用する原料焙煎コーヒー豆の豆種としては、例えば、アラビカ種、ロブスタ種、リベリカ種等が挙げられる。また、コーヒー豆の産地としては特に限定されないが、例えば、ブラジル、コロンビア、タンザニア、モカ、キリマンジェロ、マンデリン、ブルーマウンテン、グァテマラ等が挙げられる。
【0014】
原料焙煎コーヒー豆は、1種単独で又は2種以上を混合して使用することができる。2種以上の原料焙煎コーヒー豆を使用する場合、豆種や産地の異なるコーヒー豆だけでなく、焙煎度の異なるコーヒー豆を混合して使用することも可能である。
【0015】
原料焙煎コーヒー豆は、本発明によって得られる焙煎コーヒー豆の所望するL値よりも高いものを使用することが好ましい。例えば、原料焙煎コーヒー豆のL値は、焙煎コーヒー豆の所望するL値よりも1以上高いことが好ましく、1〜10高いことが更に好ましい。より具体的には、L値20前後の焙煎コーヒー豆を所望する場合、L値が21〜30の原料焙煎コーヒー豆が好ましく使用される。ここで、本明細書において「L値」とは、黒をL値0とし、また白をL値100として、焙煎コーヒー豆の明度を色差計で測定したものである。色差計として、例えば、スペクトロフォトメーター SE2000((株)日本電色社製)を用いることができる。
【0016】
本発明で使用する原料焙煎コーヒー豆のL値としては、風味の観点から、10以上が好ましく、12以上がより好ましく、14以上が更に好ましく、そして、40以下が好ましく、38以下がより好ましく、36以下が更に好ましい。原料焙煎コーヒー豆のL値の範囲としては、好ましくは10〜40、より好ましくは12〜38、更に好ましくは14〜36である。なお、焙煎度の異なる2種以上の原料焙煎コーヒー豆を使用する場合、L値の平均値が上記範囲内となるように適宜組み合わせて使用すればよく、L値の平均値は、使用する原料焙煎コーヒー豆のL値に、当該原料焙煎コーヒー豆の含有比率を乗じた値の総和として求められる。
【0017】
原料焙煎コーヒー豆は、生コーヒー豆を焙煎したものでも、市販品でもよい。
生コーヒー豆の焙煎方法としては特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することが可能である。例えば、焙煎温度は好ましくは180〜300℃、より好ましくは190〜280℃、更に好ましくは200〜280℃であり、加熱時間は所望の焙煎度が得られるように適宜設定可能である。また、焙煎装置としては、例えば、焙煎豆静置型、焙煎豆移送型、焙煎豆攪拌型等の装置が使用できる。具体的には、棚式乾燥機、コンベア式乾燥機、回転ドラム型乾燥機、回転V型乾燥機等が挙げられる。加熱方式としては、直火式、熱風式、半熱風式、遠赤外線式、赤外線式、マイクロ波式、過熱水蒸気式等が挙げられる。
【0018】
また、原料焙煎コーヒー豆は、未粉砕のものでも、粉砕したものでもよいが、反応性の観点で粉砕したものが好ましい。粉砕した原料焙煎コーヒー豆の大きさは適宜選択することが可能であるが、Tyler標準篩12メッシュを通過し、かつTyler標準篩115メッシュを通過しないものが好ましい。
【0019】
原料焙煎コーヒー豆を容器内に収容する方法としては、例えば、密閉容器内に水を添加した吸水性材料を置く場合には、その吸水性材料に接触するように焙煎コーヒー豆を収容してもよく、また吸水性材料と原料焙煎コーヒー豆とが接触しないよう容器内にメッシュ等の仕切り板を設けて収容してもよい。
また、原料焙煎コーヒー豆を仕込む際には、原料焙煎コーヒー豆を密閉容器内に収容したときに、該容器内に一定の空間容積を有するように仕込み量を調整することが好ましい。例えば、容器内に収容する原料焙煎コーヒー豆の質量(g)と、密閉容器の内容積(cm3)との比率が、0.005g/cm3以上であることが好ましく、0.01g/cm3以上であることがより好ましく、0.02g/cm3以上であることが更に好ましく、そして、0.25g/cm3以下であることが好ましく、0.13g/cm3以下であることがより好ましく、0.1g/cm3以下であることが更に好ましく、0.05g/cm3未満であることが更に好ましい。かかる比率の範囲としては、好ましくは0.005〜0.25g/cm3、より好ましくは0.01〜0.13g/cm3、更に好ましくは0.02〜0.1g/cm3、更に好ましくは0.02g/cm3以上0.05g/cm3未満である。
【0020】
容器内に原料焙煎コーヒー豆を収容した後、容器を密閉するが、その際の密閉容器内の雰囲気は、大気雰囲気でも、窒素等の不活性ガス雰囲気であってもよい。
【0021】
次に、密閉容器内に収容された原料焙煎コーヒー豆を加熱する。
加熱温度は、風味、ヒドロキシヒドロキノン低減の観点から、100℃以上が好ましく、105℃以上がより好ましく、110℃以上が更に好ましく、115℃以上が更に好ましく、120℃以上が更に好ましく、そして、160℃以下が好ましく、155℃以下がより好ましく、150℃以下が更に好ましく、145℃以下が更に好ましく、140℃以下が更に好ましい。加熱温度の範囲としては、好ましくは100〜160℃、より好ましくは105〜155℃、更に好ましくは110〜150℃、更に好ましくは115〜145℃、更に好ましくは120〜140℃である。また、105〜145℃としてもよい。
【0022】
また、原料焙煎コーヒー豆を加熱する際には、水の添加量を考慮し、加熱状態における密閉容器内の添加した水由来の水蒸気分圧及び相対湿度が以下になるように加熱温度を制御することが好ましい。
【0023】
加熱状態における密閉容器内の水蒸気分圧は、ヒドロキシヒドロキノン低減の観点から、10kPa以上が好ましく、14kPa以上がより好ましく、18kPa以上が更に好ましく、25kPa以上がより更に好ましく、40kPa以上がより更に好ましく、60kPa以上がより更に好ましく、また風味の観点から、300kPa以下が好ましく、250kPa以下がより好ましく、210kPa以下が更に好ましく、200kPa以下がより更に好ましく、195kPa以下がより更に好ましい。水蒸気分圧の範囲としては、好ましくは10〜300kPa、より好ましくは14〜250kPa、更に好ましくは18〜210kPa、より更に好ましくは25〜200kPa、より更に好ましくは40〜195kPa、より更に好ましくは60〜195kPaである。
【0024】
また、加熱状態における密閉容器内の相対湿度の上昇量は、ヒドロキシヒドロキノン低減の観点から、5%以上が好ましく、6%以上がより好ましく、7%以上が更に好ましく、10%以上がより更に好ましく、15%以上がより更に好ましく、20%以上がより更に好ましい。また、相対湿度は100%であってもよいが、風味の観点から、95%以下が好ましく、90%以下がより好ましく、85%以下が更に好ましい。相対湿度の上昇量の範囲としては、好ましくは5〜100%、より好ましくは6〜100%、更に好ましくは7〜100%、より更に好ましくは10〜95%、より更に好ましくは15〜90%、より更に好ましくは20〜85%である。ここで、本明細書において「相対湿度の上昇量」とは、密閉容器内に焙煎コーヒー豆のみを収容し、加湿せずに所定温度にて加熱した場合の密閉容器内の相対湿度を基準とし、この基準値に対する、焙煎コーヒー豆を収容し、加湿条件下、所定温度にて加熱したときの密閉容器内の相対湿度の上昇量をいう。なお、焙煎コーヒー豆には殆ど水が含まれておらず、また密閉容器内に元々含まれる水蒸気量は所定温度に加熱したときに極微量となるから、密閉容器内に焙煎コーヒー豆のみを収容し、加湿せずに所定温度にて加熱した場合の密閉容器内の相対湿度は略0%であるとみなすことができる。
【0025】
加熱時間は、風味、ヒドロキシヒドロキノン低減の観点から、0.5時間以上が好ましく、1時間以上がより好ましく、また生産効率の観点から、4時間以下が好ましく、3時間以下がより好ましく、2時間以下が更に好ましい。加熱時間の範囲としては、好ましくは0.5〜4時間、より好ましくは1〜3時間、更に好ましくは1〜2時間である。ここでいう加熱時間は、予め加熱装置を所望の温度に加熱しておく場合は、加熱装置に密閉容器を投入してからの経過時間であり、また加熱装置に密閉容器を投入後に昇温を行う場合は、所望の温度に到達してからの経過時間である。
【0026】
加熱装置としては、例えば、オートクレーブや加熱可能な乾燥器を使用することができる。
【0027】
加熱処理後、加熱装置から密閉容器を取り出し、30分以内に0〜100℃、更に10〜60℃まで冷却することが好ましい。そして、冷却後、密閉容器を開封し、容器から焙煎コーヒー豆を取り出し、本発明の焙煎コーヒー豆を得ることができる。
【0028】
このようにして得られた焙煎コーヒー豆は、ヒドロキシヒドロキノンの含有量が焙煎コーヒー豆中に通常含まれる量よりも十分に低減されている。具体的には、焙煎コーヒー豆1kg当たりのヒドロキシヒドロキノンの含有量が、より一層の雑味抑制、コク増強の観点から、好ましくは40mg以下、より好ましくは35mg以下、更に好ましくは30mg以下、更に好ましくは25mg以下であり、またヒドロキシヒドロキノンの含有量は、0mgであってもよいが、生産効率の観点から、好ましくは0.1mg以上、より好ましくは0.5mg以上、更に好ましくは1mg以上である。焙煎コーヒー豆1kg当たりのヒドロキシヒドロキノンの含有量の範囲としては、好ましくは0.1〜40mg、より好ましくは0.5〜35mg、更に好ましくは1〜30mg、更に好ましくは1〜25mgである。
【0029】
更に、得られた焙煎コーヒー豆は、以下の特性を具備することができる。
(1)焙煎コーヒー豆1kg当たりのハイドロキノンの含有量が、より一層の雑味抑制、コク増強の観点から、好ましくは10mg以上、より好ましくは15mg以上、更に好ましくは20mg以上であり、また風味バランスの観点から、好ましくは50mg以下、より好ましくは45mg以下である。焙煎コーヒー豆1kg当たりのハイドロキノンの含有量の範囲としては、好ましくは10〜50mg、より好ましくは15〜45mg、更に好ましくは20〜45mgである。
(2)(A)ハイドロキノンと(B)ヒドロキシヒドロキノンとの質量比[(B)/(A)]が、より一層の雑味抑制、コク増強の観点から、好ましくは3以下、より好ましくは2以下、更に好ましくは1以下であり、また質量比[(B)/(A)]は0であってもよいが、生産効率の観点から、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.1以上である。かかる質量比[(B)/(A)]の範囲としては、好ましくは0.01〜3、より好ましくは0.05〜2、更に好ましくは0.1〜1である。
(3)焙煎コーヒー豆中のクロロゲン酸類の含有量は、生理効果増強の観点から、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは0.6質量%以上、更に好ましくは0.7質量%以上であり、また風味の観点から、好ましくは7質量%以下、より好ましくは6.5質量%以下、更に好ましくは6質量%以下である。焙煎コーヒー豆中のクロロゲン酸類の含有量の範囲としては、好ましくは0.5〜7質量%、より好ましくは0.6〜6.5質量%、更に好ましくは0.7〜6質量%である。ここで、本明細書において「クロロゲン酸類」とは、3−カフェオイルキナ酸、4−カフェオイルキナ酸及び5−カフェオイルキナ酸のモノカフェオイルキナ酸と、3−フェルラキナ酸、4−フェルラキナ酸及び5−フェルラキナ酸のモノフェルラキナ酸と、3,4−ジカフェオイルキナ酸、3,5−ジカフェオイルキナ酸及び4,5−ジカフェオイルキナ酸のジカフェオイルキナ酸を併せての総称であり、クロロゲン酸類量は上記9種の合計量に基づいて定義される。
【0030】
なお、本明細書における「焙煎コーヒー豆中のハイドロキノン含有量」、「焙煎コーヒー豆中のヒドロキシヒドロキノン含有量」及び「焙煎コーヒー豆中のクロロゲン酸類含有量」は、焙煎コーヒー豆から得られたコーヒー抽出液中のハイドロキノン含有量、ヒドロキシヒドロキノン含有量及びクロロゲン酸類含有量に基づいて下記式(i)〜(iii)により求めたものである。
【0031】
(i)焙煎コーヒー豆中のハイドロキノン含有量(mg/kg)=[コーヒー抽出液中のハイドロキノン含有量(mg/kg)]×[コーヒー抽出液の質量(kg)]/[焙煎コーヒー豆の質量(kg)]
(ii)焙煎コーヒー豆中のヒドロキシヒドロキノン含有量(mg/kg)=[コーヒー抽出液中のヒドロキシヒドロキノン含有量(mg/kg)]×[コーヒー抽出液の質量(kg)]/[焙煎コーヒー豆の質量(kg)]
(iii)焙煎コーヒー豆中のクロロゲン酸類含有量[質量%]=[コーヒー抽出液中のクロロゲン酸類含有量(g/g)]×[コーヒー抽出液の質量(g)]/[焙煎コーヒー豆の質量(g)]×100
【0032】
なお、コーヒー抽出液の分析条件は、次のとおりである。先ず、焙煎コーヒー豆を粉砕し、Tyler標準篩12メッシュを通過し、かつTyler標準篩115メッシュを通過しない焙煎コーヒー豆粉砕物を採取する。次に、焙煎コーヒー豆粉砕物0.5gに、抽出用水(リン酸1gと、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸(HEDPO)0.03gをイオン交換水1Lに溶解した液)を80g加え、95〜99℃の間に保持しながら10分間浸漬抽出を行う。次に、コーヒー抽出液の上清を採取し、それを後掲の実施例の記載の方法に供して、ハイドロキノン含有量、ヒドロキシヒドロキノン含有量及びクロロゲン酸類含有量を分析する。
【0033】
前述の実施形態に関し、本発明は以下の焙煎コーヒー豆の製造方法を開示する。
<1>
密閉容器内に原料焙煎コーヒー豆を収容し、加湿条件下、100〜160℃で加熱処理する、焙煎コーヒー豆の製造方法。
【0034】
<2>
密閉容器が、好ましくはレトルトパウチ、又は開閉自在な栓若しくは蓋を有する、缶若しくはビンである、前記<1>記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
<3>
密閉容器が、好ましくは金属製又はガラス製である、前記<1>又は<2>記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
<4>
加湿方法が、好ましくは密閉容器内に水を添加する方法である、前記<1>〜<3>のいずれか一に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
【0035】
<5>
加湿方法が、好ましくは下記(i)〜(iv)のいずれかの方法である、前記<1>〜<4>のいずれか一に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
(i)密閉容器内に水を収容した容器を置く方法
(ii)密閉容器内に吸水性材料を置き、該吸水性材料に水を添加する方法
(iii)密閉容器内に予め水を添加した吸水性材料を置く方法
(iv)原料焙煎コーヒー豆に水を添加する方法
<6>
吸水性材料が、好ましくは布、不織布又は紙製ウエスである、前記<5>記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
<7>
水の添加量が、原料焙煎コーヒー豆に対する質量比として、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.002以上、更に好ましくは0.003以上、より更に好ましくは0.004以上、より更に好ましくは0.006以上、より更に好ましくは0.008以上、より更に好ましくは0.01以上であって、好ましくは0.06以下、より好ましくは0.05以下、更に好ましくは0.04以下である、前記<4>〜<6>のいずれか一に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
<8>
水の添加量が、原料焙煎コーヒー豆に対する質量比として、好ましくは0.001〜0.06、より好ましくは0.002〜0.06、更に好ましくは0.003〜0.06、より更に好ましくは0.004〜0.05、より更に好ましくは0.006〜0.05、より更に好ましくは0.008〜0.04、より更に好ましくは0.01〜0.04である、前記<4>〜<7>のいずれか一に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
【0036】
<9>
原料焙煎コーヒー豆が、好ましくは当該製造方法により得られる焙煎コーヒー豆の所望のL値よりも高いものである、前記<1>〜<8>のいずれか一に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
<10>
原料焙煎コーヒー豆のL値が、焙煎コーヒー豆の所望のL値よりも好ましくは1以上、更に好ましくは1〜10高いものである、前記<1>〜<9>のいずれか一に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
<11>
原料焙煎コーヒー豆のL値が、好ましくは10以上、より好ましくは12以上、更に好ましくは14以上であって、好ましくは40以下、より好ましくは38以下、更に好ましくは36以下である、前記<1>〜<10>のいずれか一に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
<12>
原料焙煎コーヒー豆のL値が、好ましくは10〜40、より好ましくは12〜38、更に好ましくは14〜36である、前記<1>〜<11>のいずれか一に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
<13>
原料焙煎コーヒー豆が、好ましくは粉砕されたものである、前記<1>〜<12>のいずれか一に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
<14>
粉砕された原料焙煎コーヒー豆の大きさが、好ましくはTyler標準篩12メッシュを通過し、かつTyler標準篩115メッシュを通過しないものである、前記<13>記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
<15>
密閉容器内に収容する原料焙煎コーヒー豆の質量(g)と、密閉容器の内容積(cm3)との比率が、好ましくは0.005g/cm3以上、より好ましくは0.01g/cm3以上、更に好ましくは0.02g/cm3以上であって、好ましくは0.25g/cm3以下、より好ましくは0.13g/cm3以下、更に好ましくは0.1g/cm3以下、更に好ましくは0.05g/cm3未満である、前記<1>〜<14>のいずれか一に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
<16>
密閉容器内に収容する原料焙煎コーヒー豆の質量(g)と、密閉容器の内容積(cm3)との比率が、好ましくは0.005〜0.25g/cm3、より好ましくは0.01〜0.13g/cm3、更に好ましくは0.02〜0.1g/cm3、更に好ましくは0.02g/cm3以上0.05g/cm3未満である、前記<1>〜<15>のいずれか一に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
【0037】
<17>
加熱温度が、好ましくは100℃以上、より好ましくは105℃以上、更に好ましくは110℃以上、更に好ましくは115℃以上、更に好ましくは120℃以上であって、好ましくは160℃以下、より好ましくは155℃以下、更に好ましくは150℃以下、更に好ましくは145℃以下、更に好ましくは140℃以下である、前記<1>〜<16>のいずれか一に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
<18>
加熱温度が、好ましくは100〜160℃、より好ましくは105〜155℃、更に好ましくは110〜150℃、更に好ましくは115〜145℃、更に好ましくは120〜140℃であり、また105〜145℃でもよい、前記<1>〜<17>のいずれか一に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
【0038】
<19>
加熱状態における密閉容器内の水蒸気分圧が、好ましくは10kPa以上、より好ましくは14kPa以上、更に好ましくは18kPa以上、より更に好ましくは25kPa以上、より更に好ましくは40kPa以上、より更に好ましくは60kPa以上であって、好ましくは3000kPa以下、より好ましくは250kPa以下、更に好ましくは210kPa以下、より更に好ましくは200kPa以下、より更に好ましくは195kPa以下である、前記<1>〜<18>のいずれか一に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
<20>
加熱状態における密閉容器内の水蒸気分圧が、好ましくは10〜300kPa、より好ましくは14〜250kPa、更に好ましくは18〜210kPa、より更に好ましくは25〜200kPa、より更に好ましくは40〜195kPa、より更に好ましくは60〜195kPaである、前記<1>〜<19>のいずれか一に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
<21>
加熱状態における密閉容器内の相対湿度の上昇量が、好ましくは5%以上、より好ましくは6%以上、更に好ましくは7%以上、より更に好ましくは10%以上、より更に好ましくは15%以上、より更に好ましくは20%以上であって、好ましくは100%以下、より好ましくは95%以下、更に好ましくは90%以下、更に好ましくは85%以下である、前記<1>〜<20>のいずれか一に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
<22>
加熱状態における密閉容器内の相対湿度の上昇量が、好ましくは5〜100%、より好ましくは6〜100%、更に好ましくは7〜100%、より更に好ましくは10〜95%、より更に好ましくは15〜90%、より更に好ましくは20〜85%である、前記<1>〜<21>のいずれか一に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
【0039】
<23>
加熱時間が、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上であって、好ましくは4時間以下、より好ましくは3時間以下、更に好ましくは2時間以下である、前記<1>〜<22>のいずれか一に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
<24>
加熱時間が、好ましくは0.5〜4時間、より好ましくは1〜3時間、更に好ましくは1〜2時間である、前記<1>〜<23>のいずれか一に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
<25>
加熱処理後、好ましくは30分以内に、好ましくは0〜100℃、更に好ましくは10〜60℃まで冷却する、前記<1>〜<24>のいずれか一に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
【0040】
<26>
得られた焙煎コーヒー豆のヒドロキシヒドロキノンの含有量が、焙煎コーヒー豆1kg当たり、好ましくは40mg以下、より好ましくは35mg以下、更に好ましくは30mg以下、更に好ましくは25mg以下である、前記<1>〜<25>のいずれか一に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
<27>
得られた焙煎コーヒー豆のヒドロキシヒドロキノンの含有量が、焙煎コーヒー豆1kg当たり、好ましくは0mg以上、より好ましくは0.1mg以上、更に好ましくは0.5mg以上、更に好ましくは1mg以上である、前記<1>〜<26>のいずれか一に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
<28>
得られた焙煎コーヒー豆のヒドロキシヒドロキノンの含有量が、焙煎コーヒー豆1kg当たり、好ましくは0mg、より好ましくは0〜40mg、更に好ましくは0.1〜40mg、より更に好ましくは0.5〜35mg、より更に好ましくは1〜30mg、より更に好ましくは1〜25mgである、前記<1>〜<27>のいずれか一に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
<29>
得られた焙煎コーヒー豆のハイドロキノンの含有量が、焙煎コーヒー豆1kg当たり、好ましくは10mg以上、より好ましくは15mg以上、更に好ましくは20mg以上である、前記<1>〜<28>のいずれか一に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
<30>
得られた焙煎コーヒー豆のハイドロキノンの含有量が、焙煎コーヒー豆1kg当たり、好ましくは50mg以下、より好ましくは45mg以下である、前記<1>〜<29>のいずれか一に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
<31>
得られた焙煎コーヒー豆のハイドロキノンの含有量が、焙煎コーヒー豆1kg当たり、好ましくは10〜50mg、より好ましくは15〜45mg、更に好ましくは20〜45mgである、前記<1>〜<30>のいずれか一に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
<32>
得られた焙煎コーヒー豆は、(A)ハイドロキノンと(B)ヒドロキシヒドロキノンとの質量比[(B)/(A)]が、好ましくは3以下、より好ましくは2以下、更に好ましくは1以下である、前記<1>〜<31>のいずれか一に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
<33>
得られた焙煎コーヒー豆は、(A)ハイドロキノンと(B)ヒドロキシヒドロキノンとの質量比[(B)/(A)]が、好ましくは0以上、より好ましくは0.01以上、更に好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.1以上である、前記<1>〜<32>のいずれか一に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
<34>
得られた焙煎コーヒー豆は、(A)ハイドロキノンと(B)ヒドロキシヒドロキノンとの質量比[(B)/(A)]が、好ましくは0、好ましくは0〜3、より好ましくは0.01〜3、更に好ましくは0.05〜2、より更に好ましくは0.1〜1である、前記<1>〜<33>のいずれか一に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
【0041】
<35>
得られた焙煎コーヒー豆のクロロゲン酸類の含有量が、焙煎コーヒー豆中、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは0.6質量%以上、更に好ましくは0.7質量%以上である、前記<1>〜<34>のいずれか一に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
<36>
得られた焙煎コーヒー豆のクロロゲン酸類の含有量が、焙煎コーヒー豆中、好ましくは7質量%以下、より好ましくは6.5質量%以下、更に好ましくは6質量%以下である、前記<1>〜<35>のいずれか一に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
<37>
得られた焙煎コーヒー豆のクロロゲン酸類の含有量が、焙煎コーヒー豆中、好ましくは0.5〜7質量%、より好ましくは0.6〜6.5質量%、更に好ましくは0.7〜6質量%である、前記<1>〜<36>のいずれか一に記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
<38>
クロロゲン酸類が、3−カフェオイルキナ酸、4−カフェオイルキナ酸、5−カフェオイルキナ酸、3−フェルラキナ酸、4−フェルラキナ酸、5−フェルラキナ酸、3,4−ジカフェオイルキナ酸、3,5−ジカフェオイルキナ酸及び4,5−ジカフェオイルキナ酸から選ばれる少なくとも1種である、前記<37>又は<37>記載の焙煎コーヒー豆の製造方法。
【実施例】
【0042】
1.クロロゲン酸類(CGA)の分析
分析機器はHPLCを使用した。装置の構成ユニットの型番は次の通りである。
・UV−VIS検出器:L−2420((株)日立ハイテクノロジーズ)、
・カラムオーブン:L−2300((株)日立ハイテクノロジーズ)、
・ポンプ:L−2130((株)日立ハイテクノロジーズ)、
・オートサンプラー:L−2200((株)日立ハイテクノロジーズ)、
・カラム:Cadenza CD−C18 内径4.6mm×長さ150mm、粒子径3μm(インタクト(株))。
【0043】
分析条件は次の通りである。
・サンプル注入量:10μL、
・流量:1.0mL/min、
・UV−VIS検出器設定波長:325nm、
・カラムオーブン設定温度:35℃、
・溶離液A:0.05M 酢酸、0.1mM HEDPO、10mM 酢酸ナトリウム、5(V/V)%アセトニトリル溶液、
・溶離液B:アセトニトリル。
【0044】
濃度勾配条件
時間 溶離液A 溶離液B
0.0分 100% 0%
10.0分 100% 0%
15.0分 95% 5%
20.0分 95% 5%
22.0分 92% 8%
50.0分 92% 8%
52.0分 10% 90%
60.0分 10% 90%
60.1分 100% 0%
70.0分 100% 0%
【0045】
HPLCでは、コーヒー抽出液を、メンブレンフィルター(GLクロマトディスク25A、孔径0.45μm、ジーエルサイエンス(株))にて濾過後、分析に供した。クロロゲン酸類の保持時間(単位:分)
・モノカフェオイルキナ酸:5.3、8.8、11.6の計3点
・モノフェルラキナ酸:13.0、19.9、21.0の計3点
・ジカフェオイルキナ酸:36.6、37.4、44.2の計3点。
ここで求めた9種のクロロゲン酸類の面積値から5−カフェオイルキナ酸を標準物質とし、クロロゲン酸類含有量(質量%)を求めた。
【0046】
2.HPLC−電気化学検出器によるハイドロキノン及びヒドロキシヒドロキノンの分析方法
分析機器はHPLC−電気化学検出器(クーロメトリック型)であるクーロアレイシステム(モデル5600A、米国ESA社製)を使用した。装置の構成ユニットの名称・型番は次の通りである。
・アナリティカルセル:モデル5010、クーロアレイオーガナイザー、
・クーロアレイエレクトロニクスモジュール・ソフトウエア:モデル5600A、
・溶媒送液モジュール:モデル582、グラジエントミキサー、
・オートサンプラー:モデル542、パルスダンパー、
・デガッサー:Degasys Ultimate DU3003、
・カラムオーブン:505、
・カラム:CAPCELL PAK C18 AQ 内径4.6mm×長さ250mm 粒子径5μm((株)資生堂)。
【0047】
分析条件は次の通りである。
・サンプル注入量:10μL、
・流量:1.0mL/min、
・電気化学検出器の印加電圧:200mV、
・カラムオーブン設定温度:40℃、
・溶離液C:0.1(W/V)%リン酸、0.1mM 1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、5(V/V)%メタノール溶液、
・溶離液D:0.1(W/V)%リン酸、0.1mM 1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、50(V/V)%メタノール溶液。
【0048】
溶離液C及びDの調製には、高速液体クロマトグラフィー用蒸留水(関東化学(株))、高速液体クロマトグラフィー用メタノール(関東化学(株))、リン酸(特級、和光純薬工業(株))、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸(60%水溶液、東京化成工業(株))を用いた。
【0049】
濃度勾配条件
時間 溶離液C 溶離液D
0.0分 100% 0%
10.0分 100% 0%
10.1分 0% 100%
20.0分 0% 100%
20.1分 100% 0%
50.0分 100% 0%
【0050】
コーヒー抽出液をボンドエルートSCX(固相充填量:500mg、リザーバ容量:3mL、ジーエルサイエンス(株))に通液し、初通過液約0.5mLを除いて通過液を得た。この通過液について、メンブレンフィルター(GLクロマトディスク25A、孔径0.45μm、ジーエルサイエンス(株))にて濾過し、速やかに分析に供した。
【0051】
HPLC−電気化学検出器の上記の条件における分析において、ヒドロキシヒドロキノンの保持時間は6.38分であり、ハイドロキノンの保持時間は9.2分であった。
得られたピークの面積値から、ハイドロキノン(和光純薬工業(株))及びヒドロキシヒドロキノン(和光純薬工業(株))を標準物質とし、ハイドロキノン含量(mg/kg)及びヒドロキシヒドロキノン含量(mg/kg)を求めた。
【0052】
3.L値の測定
試料を、色差計((株)日本電色社製 スペクトロフォトメーター SE2000)を用いて測定した。
【0053】
4.官能評価
各実施例及び比較例で得られたコーヒー抽出液の雑味、コクについて、専門パネル5名が下記の基準に基づいて評価し、その後協議により最終スコアを決定した。また、実施例9、10及び17で得られたコーヒー抽出液の酸味のキレについて、専門パネル5名が下記の基準に基づいて評価し、その後協議により最終スコアを決定した。
【0054】
雑味の評価基準
5:雑味を感じない
4:僅かに雑味を感じる
3:やや雑味を感じる
2:雑味を感じる
1:非常に雑味を感じる
【0055】
コクの評価基準
5:非常にコクを感じる
4:コクを感じる
3:僅かにコクを感じる
2:コクを感じない
【0056】
酸味のキレの評価基準
5:酸味のキレが良好である
4:酸味のキレがやや良好である
3:どちらともいえない
2:酸味のキレがやや悪い
1:酸味のキレが悪い
【0057】
実施例1
内容積190cm3のSOT缶(stay-on-tab缶)に、布を敷き、そこにイオン交換水を0.02g添加した後、L17.5の原料焙煎コーヒー豆を、粉砕機(ワンダーブレンダーWB−1、大阪ケミカル(株)、以下同じ)にて粉砕し、Tyler標準篩12メッシュを通過し、かつTyler標準篩115メッシュを通過しない粉砕物を採取し、それを5g(嵩体積10cm3)入れ、開口部を密封したのち、SOT缶をオートクレーブ(ハイクレーブHVA−85、(株)平山製作所、以下同じ)に投入し、ゲージ圧で0.145MPaの加圧下、125℃で1時間の加熱処理を行い、L16.0の焙煎コーヒー豆を得た。
次いで、得られた焙煎コーヒー豆0.5gに、抽出用水(リン酸1gと、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸(HEDPO)0.03gをイオン交換水1Lに溶解した液)を80g加え、95から99℃の間に保持しながら10分間浸漬抽出を行い、上清を採取し、コーヒー抽出液を得た。得られたコーヒー抽出液(1)に基づいて成分分析を行った。その結果を表1に示す。
さらに、焙煎コーヒー豆5gに熱水(98℃)100gを加え、十分に攪拌し、市販コーヒー用フィルターにてろ過し、コーヒー抽出液を得た。得られたコーヒー抽出液(2)について官能試験を行った。その結果を表1に示す。
【0058】
実施例2〜4
表1に示すイオン交換水の添加量に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作にて焙煎コーヒー豆を得た。そして、得られた焙煎コーヒー豆について、実施例1と同様の操作にて成分分析と官能試験を行った。その結果を表1に示す。
【0059】
実施例5
L23.5の原料焙煎コーヒー豆を使用したこと以外は、実施例1と同様の操作にて焙煎コーヒー豆を得た。そして、得られた焙煎コーヒー豆について、実施例1と同様の操作にて成分分析と官能試験を行った。その結果を表1に示す。
【0060】
実施例6〜7
表1に示すイオン交換水の添加量に変更したこと以外は、実施例5と同様の操作にて焙煎コーヒー豆を得た。そして、得られた焙煎コーヒー豆について、実施例5と同様の操作にて成分分析と官能試験を行った。その結果を表1に示す。
【0061】
実施例8
L25.5の原料焙煎コーヒー豆を使用したこと以外は、実施例1と同様の操作にて焙煎コーヒー豆を得た。そして、得られた焙煎コーヒー豆について、実施例1と同様の操作にて成分分析と官能試験を行った。その結果を表1に示す。
【0062】
実施例9〜10
表1に示すイオン交換水の添加量に変更したこと以外は、実施例5と同様の操作にて焙煎コーヒー豆を得た。そして、得られた焙煎コーヒー豆について、実施例5と同様の操作にて成分分析と官能試験を行った。その結果を表1に示す。
【0063】
実施例11
L34.8の原料焙煎コーヒー豆を使用したこと以外は、実施例3と同様の操作にて焙煎コーヒー豆を得た。そして、得られた焙煎コーヒー豆について、実施例3と同様の操作にて成分分析と官能試験を行った。その結果を表1に示す。
【0064】
実施例12〜13
表1に示す加熱処理温度に変更したこと以外は、実施例6と同様の操作にて焙煎コーヒー豆を得た。そして、得られた焙煎コーヒー豆について、実施例6と同様の操作にて成分分析と官能試験を行った。その結果を表1に示す。
【0065】
実施例14〜16
表1に示す加熱処理時間に変更したこと以外は、実施例6と同様の操作にて焙煎コーヒー豆を得た。そして、得られた焙煎コーヒー豆について、実施例6と同様の操作にて成分分析と官能試験を行った。その結果を表1に示す。
【0066】
比較例1
L17.5の原料焙煎コーヒー豆を、粉砕機にて粉砕し、Tyler標準篩12メッシュを通過し、かつTyler標準篩115メッシュを通過しない粉砕物を採取した。
得られた焙煎コーヒー豆について、実施例1と同様の操作にて成分分析と官能試験を行った。その結果を表1に示す。
【0067】
比較例2
イオン交換水を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の操作にて焙煎コーヒー豆を得た。そして、得られた焙煎コーヒー豆について、実施例1と同様の操作にて成分分析と官能試験を行った。その結果を表1に示す。
【0068】
比較例3
L23.5の原料焙煎コーヒー豆を使用したこと以外は、比較例1と同様の操作にて焙煎コーヒー豆を得た。そして、得られた焙煎コーヒー豆について、比較例1と同様の操作にて成分分析と官能試験を行った。その結果を表1に示す。
【0069】
比較例4
イオン交換水を添加しなかったこと以外は、実施例5と同様の操作にて焙煎コーヒー豆を得た。そして、得られた焙煎コーヒー豆について、実施例5と同様の操作にて成分分析と官能試験を行った。その結果を表1に示す。
【0070】
比較例3
L23.5の原料焙煎コーヒー豆を使用したこと以外は、比較例1と同様の操作にて焙煎コーヒー豆を得た。そして、得られた焙煎コーヒー豆について、比較例1と同様の操作にて成分分析と官能試験を行った。その結果を表1に示す。
【0071】
比較例4
イオン交換水を添加しなかったこと以外は、実施例5と同様の操作にて焙煎コーヒー豆を得た。そして、得られた焙煎コーヒー豆について、実施例5と同様の操作にて成分分析と官能試験を行った。その結果を表1に示す。
【0072】
比較例5
L25.5の原料焙煎コーヒー豆を使用したこと以外は、比較例1と同様の操作にて焙煎コーヒー豆を得た。そして、得られた焙煎コーヒー豆について、比較例1と同様の操作にて成分分析と官能試験を行った。その結果を表1に示す。
【0073】
比較例6
イオン交換水を添加しなかったこと以外は、実施例8と同様の操作にて焙煎コーヒー豆を得た。そして、得られた焙煎コーヒー豆について、実施例8と同様の操作にて成分分析と官能試験を行った。その結果を表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
実施例17
表1に示すイオン交換水の添加量に変更したこと以外は、実施例9と同様の操作にて焙煎コーヒー豆を得た。そして、得られた焙煎コーヒー豆について、実施例9と同様の操作にて成分分析を行い、雑味、コク、酸味のキレについて評価した。その結果を実施例9及び10の結果とともに表2に示す。
【0076】
【表2】
【0077】
表1、2から、加湿された密閉容器内に、原料焙煎コーヒー豆を収容し100〜160℃で加熱処理することにより、コクが豊かで、かつ雑味が抑制され、しかもヒドロキシヒドロキノン量が低減されたコーヒー飲料の原料として有用な焙煎コーヒー豆が得られることがわかる。また、表2から、水の添加量が原料焙煎コーヒー豆に対する質量比で0.06以下のときに酸味のキレが良好であることがわかる。