(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6285198
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】歯科用レジン強化型グラスアイオノマー組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 6/00 20060101AFI20180215BHJP
【FI】
A61K6/00 A
【請求項の数】15
【外国語出願】
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-23131(P2014-23131)
(22)【出願日】2014年2月10日
(65)【公開番号】特開2014-152179(P2014-152179A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2017年1月18日
(31)【優先権主張番号】13/764,717
(32)【優先日】2013年2月11日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】598036436
【氏名又は名称】ケール コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】シュエジュン・チアン
(72)【発明者】
【氏名】シアンシュ・チェン
【審査官】
横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−213829(JP,A)
【文献】
特開2003−012430(JP,A)
【文献】
特開2008−308418(JP,A)
【文献】
特開2006−299201(JP,A)
【文献】
特開平02−164807(JP,A)
【文献】
特開2007−091689(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/016373(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K6/00−6/10
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)約3,000〜約100,000の範囲の重量平均分子量を有する、カルボン酸、カルボン酸無水物、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される、複数の酸性官能基を有する酸性ポリマー;
(b)4−(メタ)アクリロキシアルキルトリメリット酸無水物、4−(メタ)アクリロキシアルキルトリメリット酸、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される酸性重合性モノマー;
(c)アクリレート基、メタクリレート基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、及びビニル基から成る群から選択される少なくとも1つの重合性基を有する、非酸性重合性モノマー;
(d)フルオロアルミノシリケートガラスフィラー;
(e)水;並びに
(f)光開始剤系、レドックス開始剤系、アルカリ性芳香族スルフィネート、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される、少なくとも1つの重合開始剤系
を含む、歯科用レジン強化型グラスアイオノマー組成物であって、
前記酸性ポリマー(a):前記酸性重合性モノマー(b)の比率が、1:4〜4:1である組成物。
【請求項2】
前記酸性ポリマー(a)が、約10,000〜約100,000の範囲の重量平均分子量を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記酸性ポリマー(a)が、アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、アコニット酸、無水アコニット酸、メサコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、グルタコン酸、無水グルタコン酸、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される酸モノマーのホモポリマー又はコポリマーである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記酸性ポリマー(a)が、アクリレート基、メタクリレート基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、及びビニル基から成る群から選択される複数のエチレン性不飽和基を含む重合性酸性ポリマーである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記重合性酸性ポリマーが、アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、アコニット酸、無水アコニット酸、メサコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、グルタコン酸、無水グルタコン酸、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される酸モノマーのホモポリマー又はコポリマーを含み、前記エチレン性不飽和基が、複数の酸性官能基の少なくとも一部分を介して前記ホモポリマー又はコポリマーに共有結合している、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記重合性酸性ポリマーが、無水イタコン酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水アコニット酸、無水グルタコン酸、及びこれらの組み合わせから成る群から選択されるモノマーとアクリル酸のコポリマーと、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと、の反応生成物である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記酸性重合性モノマー(b)が、4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸無水物、4−(メタ)アクリロキシプロピルトリメリット酸無水物、4−(メタ)アクリロキシブチルトリメリット酸無水物、4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸、4−(メタ)アクリロキシプロピルトリメリット酸、4−(メタ)アクリロキシブチルトリメリット酸、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記酸性重合性モノマー(b)が、4−メタクリロキシエチルトリメリット酸無水物、4−メタクリロキシエチルトリメリット酸、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記フルオロアルミノシリケートガラスフィラー(d)が、約0.02μm〜約20μmの平均粒子径を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記重合開始剤系が、置換チオ尿素、バルビツール酸、バルビツール酸誘導体、バルビツール酸の塩、アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体、アスコルビン酸の塩、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される還元剤;並びに、第3級ヒドロペルオキシド、過硫酸塩、過マンガン酸塩、及びこれらの組み合わせから選択される酸化剤を含むレドックス開始剤系である、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記還元剤が前記置換チオ尿素であり、前記酸化剤が前記第3級ヒドロペルオキシドである、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
請求項1に記載の歯科用グラスアイオノマー組成物の成分(a)〜(f);
少なくとも前記フルオロアルミノシリケートガラスフィラー(d)を含む第1部分;
前記第1部分から分かれてパッケージされた、少なくとも酸性ポリマー(a)及び酸性重合性モノマー(b)を含む第2部分(ここで、成分(c)、(e)、及び(f)は、前記第1部分と第2部分のいずれか又は両方に含まれる);及び、
前記第1部分と第2部分とを均一に混合して混合レジン強化型グラスアイオノマー組成物を形成し、該混合レジン強化型グラスアイオノマー組成物を歯質に適用するための指示書を含む、歯科用レジン強化型グラスアイオノマー組成物キット。
【請求項13】
重合開始剤系(f)が、還元剤及び酸化剤を含むレドックス開始剤系を含み、ここで、前記酸化剤が前記第1部分中にあり、前記還元剤が前記第2部分中にあるか、又は、前記酸化剤が前記第2部分中にあり、前記還元剤が前記第1部分中にある、請求項12に記載のキット。
【請求項14】
成分(d)を含む前記第1部分が粉体であり、成分(a)、(b)、(c)、及び(e)を含む前記第2部分が液体である、請求項12に記載のキット。
【請求項15】
成分(c)及び(d)を含む前記第1部分がペーストであり、成分(a)、(b)、(e)、及び成分(a)に対してイオン的に反応性ではない少なくとも1つの微粉化フィラー(g)を含む前記第2部分がペーストである、請求項12に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯牙構造への良好な接着をもたらす、歯科用レジン強化型グラスアイオノマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科用セメントは、病気の歯がその機能及び審美性を回復できるようにするために、インレー、オンレー、クラウン、又はポスト等の人工補装具を歯牙構造に対して取り付けるのに使用される。歯科用セメントは、歯並びのずれを治し、又は歯の間のスペースを調整するために、矯正用ブラケット又は矯正用バンド等の歯科矯正用器具を歯牙構造に対して取り付けるのにも使用できる。歯科用セメントは根管シーラントとしても使用できる。
【0003】
人工補装具及び歯科矯正用器具を歯牙構造に対して固定化する場合、歯科医が選択するために市販されている、様々なクラスの歯科用セメントがあり、これらは、例えば、(1)リン酸亜鉛セメント、(2)カルボン酸亜鉛セメント、(3)酸化亜鉛ユージノール(ZOE)セメント、(4)グラスアイオノマーセメント、(5)レジンセメント、及び(6)レジン強化型グラスアイオノマー(RMGI)セメントが挙げられる。それぞれのタイプのセメントは、次に説明するように、有利な点と欠点を同時に有する。
【0004】
例えば、リン酸亜鉛セメントは、亜鉛酸化物とリン酸との間の酸塩基硬化反応を利用する。一般的に、リン酸亜鉛セメントは、粉体/液体系として供給され、これは適用の前に粉体及び液体成分を手動混合する必要がある。手動混合は煩雑な工程であったり、且つ、しばしば粉体及び液体成分の不適切な計量/配合のために、一貫性を欠く場合があったりする。さらに、リン酸亜鉛セメントは、歯牙構造に対する低い接着力、高い光学不透明性(低い審美性)を有し、且つ、口腔環境中での高い溶解性を示す。リン酸亜鉛セメントは、本質的に低い初期pHを有し、これは硬化の初期段階の間、刺激又は炎症を引き起こし得る。
【0005】
カルボン酸亜鉛セメントは、亜鉛酸化物とポリカルボン酸との間の酸塩基硬化反応を利用する。カルボン酸亜鉛セメントは、対応するリン酸亜鉛に比べて、比較的に歯髄組織に対して刺激が少なく、歯牙構造に対して良好な接着特性を有する。しかしながら、カルボン酸亜鉛セメントは、短い作業時間、高い光学不透明性、低い機械的強度を示し、且つ、固定化の前に追加のコンディショニング工程を必要とする。
【0006】
酸化亜鉛ユージノール(ZOE)セメントは、亜鉛華ユージノールキレートを形成するために、水の存在下における亜鉛酸化物とユージノールとの間の酸塩基硬化反応を利用する。ZOEセメントは、低い機械的強度、低い接着特性、低い審美性、及び水に対する高い溶解性を示し、そのため仮着用のセメントとしての用途のみに適している。
【0007】
レジンセメントは、メタクリレートモノマーのフリーラジカル重合硬化反応を利用する。一般的に、レジンセメントは無機ガラスフィラーで補強され、非常に良好な機械的強度、有利な審美性、及び水に対する低い溶解性を有する。レジンセメントは、結合剤との組み合わせで用いられた場合に、歯牙構造に対して非常に良好な接着強度を示す。結果として、レジンセメントは、脆いセラミックの修復であるが、審美的な修復の接合に最も適している。にもかかわらず、レジンセメントはかなり疎水性であり、水/唾液のコンタミネーションに影響を受けやすい。レジンセメントはまた、手法に非常に影響を受けやすく、別の結合剤を必要とする複雑な接着手法により、術後の刺激を引き起こす可能性を有する。
【0008】
グラスアイオノマーセメントは、ポリカルボン酸とフルオロアルミノシリケートガラスフィラーとの間の酸塩基硬化反応を利用する。リン酸亜鉛セメントと比べて、一般的に、グラスアイオノマーセメントは良好な接着特性、水に対する低い溶解性、良好な機械的強度を示し、フッ化物の長期持続放出によるう蝕原性特性の追加の利点を有する。しかしながら、この硬化反応は、効果の初期段階の間、乾燥剤と同様に水/湿気のコンタミネーションに非常に影響を受けやすい。レジンセメントと比較した場合、グラスアイオノマーセメントは非常に脆く、且つこれらの歯牙構造に対する接着強度はかなり低い。
【0009】
レジンセメントの化学的性質とグラスアイオノマーセメントの化学的性質とを組み合わせてレジン強化型グラスアイオノマー(RMGI)セメントを形成する、種々の試みが行われてきた。Akahaneら(特許文献1)は、重合性モノマー、光開始剤、界面活性剤、及び還元剤をグラスアイオノマー組成物に導入して、酸塩基反応及びフリーラジカル光重合の両方によって硬化可能なRMGI組成物を得た。Mitraら(特許文献2及び3)は、光開始剤系をグラスアイオノマー組成物に導入し、アミド結合を介してポリカルボン酸に対して重合可能な基を加えて、酸塩基反応及びフリーラジカル光重合の両方によって硬化可能なRMGI組成物を得た。Jandourek(特許文献4)は、光開始剤系、重合性モノマー、及び重合性ポリカルボン酸をグラスアイオノマー組成物に導入し、酸塩基反応及びフリーラジカル光重合の両方によって硬化可能なRMGI組成物を得た。Mitraら(特許文献5)は、重合性モノマー及び重合性ポリカルボン酸と共に、レドックス開始剤系をグラスアイオノマー組成物に導入し、光開始剤系またレドックス開始剤系のどちらかによる、酸塩基反応及びフリーラジカル重合によって硬化可能なRMGI組成物を得た。Nakaseko(特許文献6)は、重合性モノマー及びカプセル化重合開始剤をグラスアイオノマー組成物に導入することによりペースト/ペーストRMGI組成物を調製した。
【0010】
したがって、RMGIセメント組成物は、グラスアイオノマーセメントとレジンセメントの両方からの硬化の化学的性質を兼ね備える。RMGIセメント組成物は、フッ化物の長期持続放出の利点を保持し、且つ、従来のグラスアイオノマーセメント単独のものを上回る、良好な機械的強度、破壊靭性、審美性、及び接着特性をもたらす。また、親水性及び自己接着性により、一般的に、RMGIセメント組成物は、レジンセメントに比べて、湿気/唾液のコンタミネーション及び手法に対してより影響を受けにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第5,063,257号
【特許文献2】米国特許第5,130,347号
【特許文献3】米国特許第5,925,715号
【特許文献4】欧州特許出願公開第0,329,268A2号公報
【特許文献5】米国特許第5,154,762号
【特許文献6】米国特許第6,214,101号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、従前のRMGIセメント組成物の歯牙構造に対する接着強度は、結合剤との組み合わせで用いられるレジンセメントよりも依然として非常に低い。そのため、RMGIセメント組成物の接着特性を更に改善することが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の実施形態による歯科用レジン強化型グラスアイオノマー組成物は、歯牙構造に対して優れた接着強度及び単純な修復手順をもたらす。この目的のために、本発明の実施形態は、(a)約3,000〜約100,000の範囲の重量平均分子量を有する、カルボン酸、カルボン酸無水物、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される、複数の酸性官能基を有する酸性ポリマー;(b)4−(メタ)アクリロキシアルキルトリメリット酸無水物、4−(メタ)アクリロキシアルキルトリメリット酸、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される酸性重合性モノマー;(c)アクリレート基、メタクリレート基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、及びビニル基から成る群から選択される少なくとも1つの重合性基を有する、非酸性重合性モノマー;(d)フルオロアルミノシリケートガラスフィラー;(e)水;並びに(f)光開始剤系、レドックス開始剤系、アルカリ性芳香族スルフィネート、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される、少なくとも1つの重合開始剤系、を含む歯科用RMGI組成物を提供する。
【0014】
本発明の別の実施形態によれば、歯科用レジン強化型グラスアイオノマー組成物キットが提供され、このキットは、上述した(a)〜(f)の成分、少なくともフルオロアルミノシリケートガラスフィラー(d)を含む第1部分、及び少なくとも酸性ポリマー(a)及び酸性重合性モノマー(b)を含む、第1部分から分かれてパッケージされた第2部分を含む。成分(c)、(e)、及び(f)は、いずれか又は両方の部分に含まれる。このキットは、第1部分と第2部分とを均一に混合し、混合されたレジン強化型グラスアイオノマー組成物を形成し、この混合されたレジン強化型グラスアイオノマー組成物を歯質に適用するための指示書を含む。
【0015】
本発明のこれらの及び他の態様は、以下の詳細な説明及び添付の特許請求の範囲の記載からより容易に理解できるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0016】
別の特定がない限り、本明細書で用いられるように、用語「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」又は「メタクリレート」を表し、用語「(メタ)アクリルアミド」は「アクリルアミド」又は「メタクリルアミド」を表し、用語「(メタ)アクリロキシ」は「アクリロキシ」又は「メタクリロキシ」を表す。
【0017】
本発明の実施形態は、酸性ポリマー、酸性重合性モノマー、非酸性重合性モノマー、フルオロアルミノシリケートガラスフィラー、水、及び少なくとも1つの重合開始剤系を含む、歯科用RMGI組成物を対象とする。本発明の別の実施形態によれば、歯科用RMGI組成物は、種々の反応性成分の分離を維持するキットとして提供され得る。この歯科用RMGI組成物の成分の混合により、得られる混合物は、限定されないが、充填物、矯正リテーナー、ブリッジ、保隙装置、歯科用補綴物、義歯、クラウン、ポスト、ジャケット、インレー、オンレー、フェーシング、ベニア、ファセット、インプラント、アバットメント、歯科用セメント、結合剤、及びスプリント等の、様々な直接的及び間接的な歯科用途における使用に適しており、象牙質、エナメル質、歯科用合金、ジルコニア、セラミック材料、又は陶材等の歯質に対する良好な接着強度をもたらし、且つ、それにもかかわらず他の所望な特性を維持する。
【0018】
より具体的には、本発明による歯科用RMGI組成物は、以下を含む。
【0019】
(a)約3,000〜約100,000の範囲の重量平均分子量を有する、カルボン酸、カルボン酸無水物、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される、複数の酸性官能基を有する酸性ポリマー;
【0020】
(b)4−(メタ)アクリロキシアルキルトリメリット酸無水物、4−(メタ)アクリロキシアルキルトリメリット酸、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される酸性重合性モノマー;
【0021】
(c)アクリレート基、メタクリレート基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、及びビニル基から成る群から選択される少なくとも1つの重合性基を有する、非酸性重合性モノマー;
【0022】
(d)フルオロアルミノシリケートガラスフィラー;
【0024】
(f)光開始剤系、レドックス開始剤系、アルカリ性芳香族スルフィネート、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される、少なくとも1つの重合開始剤系。
【0025】
成分(a)として、少なくとも1つの酸性ポリマーが歯科用RMGI組成物に用いられる。酸性ポリマーは、カルボン酸、カルボン酸無水物、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される複数の酸性官能基を含む。酸性ポリマーは、スタンダードとして既知の様々な分子量のポリアクリル酸を用いるゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定される、約3,000〜約100,000の範囲の重量平均分子量を有することを特徴にする。別の実施形態において、酸性ポリマーは約5,000〜約100,000の範囲の重量平均分子量を有する。例えば、酸性ポリマーの重量平均分子量は、約5,000、約10,000、約15,000、約25,000、約35,000、約45,000、約55,000、若しくは約75,000とすることができ、又はこれらの組み合わせの範囲内とすることができる。
【0026】
一実施形態において、成分(a)は、少なくとも1つのα,β−不飽和カルボン酸又はカルボン酸無水物のホモポリマー又はコポリマーを含む。例示される単量体のα,β−不飽和カルボン酸又はカルボン酸無水物としては、これらに限定されないが、アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、アコニット酸、無水アコニット酸、メサコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、グルタコン酸、無水グルタコン酸等が挙げられる。例えば、酸性ポリマーとしては、前述した例示のα,β−不飽和カルボン酸若しくはカルボン酸無水物の1つのホモポリマー、又は前述した例示のα,β−不飽和カルボン酸若しくはカルボン酸無水物の2つ以上のコポリマーが挙げられ得る。
【0027】
一実施形態によれば、成分(a)は、アクリレート基、メタクリレート基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、ビニル基、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される複数のエチレン性不飽和基を有する重合性酸性ポリマーである。好適な重合性酸性ポリマーは、Mitraによる米国特許第5,130,347号に記載されているものが挙げられる。一実施形態において、重合性酸性ポリマーは、アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、アコニット酸、無水アコニット酸、メサコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、グルタコン酸、無水グルタコン酸、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される酸モノマーのホモポリマー又はコポリマーを含み、ここで、エチレン性不飽和基は、複数の酸性官能基の少なくとも一部分を介してこのホモポリマー又はコポリマーに共有結合する。
【0028】
例えば、一実施形態によれば、重合性基は、エチレン性不飽和部分に結合している好適な反応性官能基と、ポリマー又はコポリマー中のカルボン酸無水物官能基との反応によりポリマー又はコポリマーに結合する。さらに、一実施形態において、残りのカルボン酸無水物基の一部又はすべてが、カルボン酸基に変換される。
【0029】
一実施形態において、重合性酸性ポリマーは、無水イタコン酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水アコニット酸、及び無水グルタコン酸から成る群から選択されるモノマー又はこれらの組み合わせとアクリル酸とのコポリマーと、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートと、の反応生成物である。この実施形態によれば、(メタ)アクリレート基は、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの水酸基と無水物基との反応に起因するエステル結合を介してポリマーに結合する。例示される重合性酸性ポリマーとしては、無水イタコン酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水アコニット酸、及び無水グルタコン酸から成る群から選択されるモノマー又はこれらの組み合わせとアクリル酸とのコポリマーと、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートと、の反応生成物が挙げられる。他の例示される重合性酸性ポリマーとしては、無水イタコン酸及びアクリル酸のコポリマーと、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応生成物;又は、無水マレイン酸及びアクリル酸のコポリマーと、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応生成物が挙げられる。一実施形態において、(メタ)アクリレート基は、結合可能なカルボン酸無水物基の一部のみを介してポリマー又はコポリマーに結合し、これにより複数の無水物基を有するポリマー又はコポリマーをもたらす。別の実施形態によれば、(メタ)アクリレート基は、結合可能な酸無水物基の一部のみに結合し、残りの酸無水物基は部分的に又は完全にカルボン酸基に変換される。
【0030】
本発明の実施形態によれば、酸性ポリマー(a)は、歯科用RMGI組成物の約0.5wt%〜約50wt%の量(wt%は歯科用RMGI組成物の全重量に基づいている)で存在し得る。一実施形態において、酸性ポリマー(a)は、歯科用RMGI組成物の約1wt%〜約30wt%の量で存在し得る。一実施形態において、酸性ポリマー(a)は、歯科用RMGI組成物の約2wt%〜約20wt%の量で存在し得る。
【0031】
成分(b)として、歯科用RMGI組成物において少なくとも1つの酸性重合性モノマーが用いられる。本発明の実施形態によれば、酸性重合性モノマーは、4−(メタ)アクリロキシアルキルトリメリット酸無水物、4−(メタ)アクリロキシアルキルトリメリット酸、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される。成分(b)は、グラスアイオノマー組成物に非常に良好な接着特性をもたらす。一実施形態において、酸性重合性モノマー(b)は、4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸無水物、4−(メタ)アクリロキシプロピルトリメリット酸無水物、4−(メタ)アクリロキシブチルトリメリット酸無水物、4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸、4−(メタ)アクリロキシプロピルトリメリット酸、4−(メタ)アクリロキシブチルトリメリット酸、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される。別の実施形態において、酸性重合性モノマー(b)は、4−メタクリロキシエチルトリメリット酸無水物、4−メタクリロキシエチルトリメリット酸、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される。本発明の実施形態によれば、酸性重合性モノマー(b)は、歯科用RMGI組成物の全重量に基づいて、約0.5wt%〜約50wt%の量で存在し得る。例えば、酸性重合性モノマー(b)は、歯科用RMGI組成物の約1wt%〜約30wt%の量で存在し得る。別の実施形態において、酸性重合性モノマー(b)は、歯科用RMGI組成物の約2wt%〜約20wt%の量で存在し得る。
【0032】
成分(c)として、歯科用RMGI組成物において、少なくとも1つの非酸性重合性モノマーが用いられる。本発明の実施形態によれば、非酸性重合性モノマーとして、アクリレート基、メタクリレート基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、及びビニル基から成る群から選択される少なくとも1つの重合性基を含む。一実施形態において、非酸性重合性モノマー(c)は、アクリレート及びメタクリレートから成る群から選択される少なくとも1つの重合性基を有する。例示される重合性モノマーとしては、これらに限定されないが、メチル(メタ)アクリレート;エチル(メタ)アクリレート;プロピル(メタ)アクリレート;ブチル(メタ)アクリレート;ヘキシル(メタ)アクリレート;オクチル(メタ)アクリレート;ラウリル(メタ)アクリレート;デシル(メタ)アクリレート;トリデシル(メタ)アクリレート;2−エトキシエチル(メタ)アクリレート;2’−エトキシ−2−エトキシエチル(メタ)アクリレート;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート;ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート;ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート;グリセロールジ(メタ)アクリレート;グリセロールモノ(メタ)アクリレート;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート;ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート;トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(TEGDMA);テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールモノ−(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールジ−(メタ)アクリレート;ポリプロピレングリコールモノ−(メタ)アクリレート;ポリプロピレングリコールジ−(メタ)アクリレート;ポリテトラメチレングリコールモノ−(メタ)アクリレート;ポリテトラメチレングリコールジ−(メタ)アクリレート;ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート;トリメチロイルプロパントリ(メタ)アクリレート;2,4,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート(UDMA)と2−ヒドロキシエチルメタクリレートとの反応生成物;2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルプロポキシ)−フェニル]−プロパン(ビス−GMA);エトキシル化ビスフェノールAジメタクリレート(「EBPADMA−n」、nは分子中のエチレンオキシドの総モル数を表し、例えば2〜20である);テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート;N,N’−メチレンビス(アクリルアミド);N,N’−エチレンビス(アクリルアミド);N,N’−ブチレンビス(アクリルアミド);又はこれらの組み合わせが挙げられる。別の実施形態によれば、非酸性重合性モノマー(c)は、少なくとも1つのヒドロキシル基及び少なくとも1つのエチレン性不飽和基を含む。少なくとも1つのヒドロキシル基及び少なくとも1つのエチレン性不飽和基を有する重合性モノマーの例としては、これらに限定されないが、以下が挙げられる:ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート;ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート;ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート;グリセリルジ(メタ)アクリレート;グリセリルモノ(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエトキシエチル(メタ)アクリレート;2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルプロポキシ)−フェニル]−プロパン;又はこれらの組み合わせ。本発明の実施形態によれば、非酸性重合性モノマー(c)は、歯科用RMGI組成物の全重量に基づいて、約0.5wt%〜約50wt%の量で存在し得る。例えば、一実施形態において、非酸性重合性モノマー(c)は、歯科用RMGI組成物の約1wt%〜約40wt%の量で存在し得る。別の実施形態において、非酸性重合性モノマー(c)は、歯科用RMGI組成物の約2wt%〜約30wt%の量で存在し得る。
【0033】
成分(d)として、歯科用RMGI組成物において、少なくとも1つのフルオロアルミノシリケートガラスフィラーが用いられる。フルオロアルミノシリケートガラスフィラーは、酸性ポリマー(a)又は酸性重合性モノマー(b)等の酸に対してイオン的に反応性である。本明細書で用いるとおり、「イオン的に反応性」は、微粉化フルオロアルミノシリケートガラスフィラー(d)と、酸性ポリマー(a)、及び/又は酸性重合性モノマー(b)とが水の存在下で共に混合される場合、その混合組成物の粘度の上昇又は硬化のいずれかが確認できることを意味する。本発明の実施形態によれば、フルオロアルミノシリケートガラスフィラーは、約0.02μm〜約20μmの範囲の平均粒子径を有する微粉化フィラーである。微粉化フルオロアルミノシリケートガラスフィラーの平均粒子径は、レーザー光散乱法を用いる通常の粒径測定器で測定できる。そうした測定器の例としては、Horiba Model 910 Laser Scattering Particle Size Analyzer (Horiba Inc., Irvine, CA)を挙げることができる。一実施形態において、微粉化フルオロアルミノシリケートガラスフィラーの平均粒子径は、約0.10μm〜約10μmの範囲内である。一態様によれば、微粉化フルオロアルミノシリケートガラスフィラーは、さらに、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、希土類金属、ジルコニウム、亜鉛、及びこれらの組み合わせを含み得る。例示される希土類金属としては、これらに限定されないが、イッテルビウム、イットリウム、又はこれらの組み合わせが挙げられる。一実施形態において、フルオロアルミノシリケートガラスフィラーの表面をカップリング剤で処理又は被膜して、フィラーとレジンマトリックスとの間の界面結合を強化させ、且つ機械特性を向上させる。一実施形態において、カップリング剤は、アクリレート基、メタクリレート基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、及びビニル基から成る群から選択される少なくとも1つの重合性基を有するシラン化合物である。カップリング剤の有用な例としては、これらに限定されないが、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(MPTMS)、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピル
メチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、及びビニルトリエトキシシランが挙げられる。別のカップリング剤の有用な例は、アクリレート基、メタクリレート基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、及びビニル基から成る群から選択される重合性基と、酸性官能基とを有する化合物である。有用な例としては、これらに限定されないが、アクリル酸、メタクリル酸、及びマレイン酸が挙げられる。本発明の実施形態によれば、フルオロアルミノシリケートガラスフィラー(d)は、歯科用RMGI組成物中に、歯科用RMGI組成物の全重量に基づいて、約1wt%〜約85wt%の量で存在し得る。例えば、一実施形態において、フルオロアルミノシリケートガラスフィラー(d)は、歯科用RMGI組成物の約5wt%〜約80wt%の量で存在し得る。別の実施形態において、フルオロアルミノシリケートガラスフィラー(d)は、歯科用RMGI組成物の約20wt%〜約80wt%の量で存在し得る。
【0034】
成分(e)として、水は、酸性ポリマー(a)及び/又は酸性重合性モノマー(b)と、フルオロアルミノシリケートガラスフィラー(d)との間でのイオン性酸−塩基反応が生じるのに必要な媒体を提供する。本発明の実施形態によれば、水(e)は、歯科用RMGI組成物の全重量に基づいて、約0.5wt%〜約40wt%の量で存在し得る。例えば、一実施形態において、水(e)は、歯科用RMGI組成物の約1.0wt%〜約30wt%の量で存在し得る。別の実施形態において、水(e)は、歯科用RMGI組成物の約2.0wt%〜約25wt%の量で存在し得る。
【0035】
成分(f)として、歯科用RMGI組成物において、少なくとも1つの重合開始剤系が用いられる。本発明の実施形態によれば、重合開始剤系は、光開始剤系、レドックス開始剤系、アルカリ性芳香族スルフィネート、又はこれらの組み合わせであり得る。一実施形態において、光開始剤が組成物中に組み込まれる。光開始剤は、光源への暴露によりフリーラジカルを発生し、組成物の重合又は硬化を引き起こすことができるあらゆる化合物又は化合物の組み合わせであり得る。光源は、可視又は紫外光領域の光を放射するあらゆる歯科用の硬化性の光線であり得る。光開始剤の例としては、これらに限定されないが、ジケトン化合物;ベンゾイン;ベンゾインエーテル及びエステル;2,2−ジエトキシアセトフェノン;モノアシルホスフィンオキシド;Ellrichらの米国特許第4,792,632号に記載されているビスアシルホスフィンオキシド;ジアリールヨードニウム塩;トリアリールスルホニウム塩;及び光開始剤の任意の混合物が挙げられる。ジケトン化合物の例としては、これらに限定されないが、カンファーキノン及び1−フェニル−1,2−プロパンジオンが挙げられる。さらに、硬化性能を向上させるために、光開始剤と共に共開始剤が使用され得る。共開始剤としては、第3級アミン及びスルフィネート化合物が挙げられる。例示される共開始剤としては、これらに限定されないが、エチル4−(N,N−ジメチルアミノ)ベンゾエート;4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸;4−(N,N−ジメチルアミノ)ベンゾニトリル;4−(N,N−ジメチルアミノ)ベンズアルデヒド;2−(エチルヘキシル)−4−(N,N−ジメチルアミノ)ベンゾエート;N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート;N,N−ジメチルアミノフェネチルアルコール;ベンゼンスルフィン酸ナトリウム;及びトルエンスルフィン酸ナトリウムが挙げられる。一実施形態によれば、光開始剤系は、エチル4−(N,N−ジメチルアミノ)ベンゾエート;4−(N,N−ジメチルアミノ)安息香酸;4−(N,N−ジメチルアミノ)ベンゾニトリル;4−(N,N−ジメチルアミノ)ベンズアルデヒド;2−(エチルヘキシル)−4−(N,N−ジメチルアミノ)ベンゾエート;N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート;及びN,N−ジメチルアミノフェネチルアルコール等の第3級アミンとカンファーキノンとの組み合わせが挙げられる。別の実施形態において、光開始剤系は、カンファーキノンと、ビスアシルホスフィンオキシド又はモノアシルホスフィンオキシドとの組み合わせを含む。別の実施形態において、光開始剤系は、カンファーキノンと、第3級アミンと、ビスアシルホスフィンオキシド又はモノアシルホスフィンオキシドとの組み合わせを含む。本発明の実施形態によれば、光開始剤は、歯科用RMGI組成物の全重量に基づいて、約0.01wt%〜約10wt%の量で存在し得る。例えば、光開始剤は、歯科用RMGI組成物の約0.05wt%〜約5wt%の量で存在し得る。
【0036】
別の実施形態によれば、レドックス開始剤系が歯科用RMGI組成物中に組み込まれる。通常、レドックス開始剤系は少なくとも1つの還元剤及び少なくとも1つの酸化剤を含む。還元剤及び酸化剤が共に混合される場合、酸化還元(レドックス)反応が、フリーラジカルの発生及びモノマーの重合を開始することを促進し、結果として混合組成物の硬化又は固化がもたらされる。モノマーの重合を効果的に開始できる限り、還元剤及び酸化剤のあらゆる組み合わせが使用され得る。
【0037】
還元剤としては、これらに限定されないが、芳香族スルフィン酸塩、脂肪族スルフィン酸塩;チオ尿素;置換チオ尿素;Fe(II)塩;Cu(I)塩;Co(II)塩;アスコルビン酸;アスコルビン酸誘導体及びその塩;バルビツール酸;並びにバルビツール酸誘導体及びその塩が挙げられる。一実施形態において、還元剤は置換チオ尿素である。置換チオ尿素としては、これらに限定されないが、1−(2−ピリジル)−2−チオ尿素;1−アセチル−2−チオ尿素;1−(2−テトラヒドロフルフリル)−2−チオ尿素;1−ベンゾイルチオ尿素;1−ベンゾイル−3−フェニルチオ尿素;及び1,1,3,3−テトラメチルチオ尿素が挙げられる。一実施形態において、還元剤は、バルビツール酸、バルビツール酸誘導体、バルビツール酸の塩、及びそれらの組み合わせから成る群から選択される。別の実施形態において、還元剤は、アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体、アスコルビン酸の塩、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される。本発明の実施形態によれば、還元剤又はその組み合わせは、歯科用RMGI組成物の全重量に基づいて、約0.01wt%〜約10wt%の量で存在し得る。例えば、還元剤又はその組み合わせは、歯科用RMGI組成物の約0.1wt%〜約3wt%の量で存在し得る。
【0038】
酸化剤としては、これらに限定されないが、少なくとも1つの第3級炭素に結合した少なくとも1つのヒドロペルオキシド基を有する第3級ヒドロペルオキシド化合物;Cu(II)アセチルアセトネート、Cu(II)ベンゾイルアセトネート、又はCu(II)シクロヘキシルブチレート等のCu(II)塩;FeCl
3、Fe(III)ベンゾイルアセトネート、またはFe(III)シクロヘキシルブチレート等のFe(III)塩;Co(III)塩;過硫酸塩;過マンガン酸塩;及びこれらの組み合わせが挙げられる。一実施形態において、第3級ヒドロペルオキシド化合物が用いられる。第3級ヒドロペルオキシド化合物の例としては、これらに限定されないが、t−ブチルヒドロペルオキシド;t−アミルヒドロペルオキシド;p−ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド;クメンヒドロペルオキシド;ピナンヒドロペルオキシド;p−メタンヒドロペルオキシド;及び1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロペルオキシドが挙げられる。一実施形態において、酸化剤は、過硫酸塩、過マンガン酸塩、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される。過硫酸塩の例としては、これらに限定されないが、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸リチウム、及び過硫酸アンモニウムが挙げられる。本発明の実施形態によれば、酸化剤又はその組み合わせは、歯科用RMGI組成物の全重量に基づいて、約0.01wt%〜約10wt%の量で存在し得る。例えば、すべての酸化剤又はその組み合わせは、歯科用RMGI組成物の約0.1wt%〜約5wt%の量で存在し得る。
【0039】
一実施形態において、スルフィン酸塩化合物が開始剤として組み込まれる。芳香族スルフィン酸塩及び/又は脂肪族スルフィン酸塩が使用され得る。脂肪族スルフィン酸塩の例としては、これらに限定されないが、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム、及びp−トルエンスルフィン酸リチウムが挙げられる。
【0040】
光開始剤系、レドックス開始剤系、及びスルフィン酸塩化合物は、単独又は互いの組み合わせで組み込まれ得る。一実施形態において、光開始剤系とレドックス開始剤系の組み合わせが本発明の組成物中で用いられる。別の実施形態において、光開始剤とスルフィン酸塩化合物の組み合わせが本発明の組成物中で用いられる。別の実施形態において、光開始剤、レドックス開始剤、及びスルフィン酸塩がすべて本発明の組成物中に組み込まれる。
【0041】
一実施形態によれば、歯科用RMGI組成物は、酸性ポリマー(a)又は酸性重合性モノマー(b)に対してイオン的に反応性ではない、成分(g)少なくとも1つの微粉化フィラーがさらに含まれる。酸性部分に対してイオン的に反応性ではないフィラーとしては、これらに限定されないが、無機塩、フッ化物、シリケートガラス、アルミノシリケートガラス、アルミノボロシリケートガラス、石英、シリカ、ジルコニア、ジルコニア−シリカ、または高分子フィラーが挙げられる。一実施形態において、酸性ポリマー(a)又は酸性重合性モノマー(b)に対してイオン的に反応性ではない微粉化フィラー(g)は、フッ化ストロンチウム、フッ化イッテルビウム、フッ化イットリウム、硫酸バリウム、タングステン酸バリウム、酸化ジルコニウム、石英、シリカ、及び高分子フィラーから成る群から選択される。好適なシリカフィラーとしては、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ、及び/又は沈降シリカが挙げられる。シリカフィラーの例としては、Degussa(Ridgefield Park,NJ)により販売されているOX-50、OX-130、及びOX-200シリカ等のAerosil(登録商標)シリーズ、並びにCabot Corp(Tuscola,IL)により販売されているCab-O-Sil(登録商標)M5及びCab-O-Sil(登録商標)TS-530シリカが挙げられる。微粉化フィラー(g)は、例えばゾル−ゲルプロセスにより得られるナノ粒子を含んでいてもよい。異なる粒子の混合物も使用され得る。一実施形態において、微粉化フィラー(g)は、X線造影能力に対してX線不透過性の無機フィラーある。X線不透過性の無機フィラーの例としては、Sr、Y、Zr、Ba、La、Hf、Zn、Bi、W、及び希土類金属等の原子番号の大きい元素を含む、金属、塩、酸化物、フッ化物、シリケートガラス、アルミノシリケートガラス、アルミノボロシリケートガラス、及びフルオロアルミノシリケートガラス、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0042】
一態様において、無機フィラーの表面は、カップリング剤で処理又は被膜して、フィラーとレジンマトリックスとの間の界面結合を強化させ、且つ機械特性を向上させてもよい。一実施形態において、カップリング剤は、アクリレート基、メタクリレート基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、及びビニル基から成る群から選択される少なくとも1つの重合性基を有するシラン化合物である。有用なカップリング剤の例としては、これらに限定されないが、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(MPTMS)、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、及びビニルトリエトキシシランが挙げられる。
【0043】
一実施形態によれば、微粉化フィラー(g)は、高分子フィラーである。高分子フィラーは、約5重量%〜約100重量%の高分子マトリックスと、約0重量%〜約95重量%の少なくとも1つの無機フィラーを含む。一実施形態において、高分子マトリックスは、1以上の熱硬化材料を含む。例として、高分子フィラーは、ポリマー又は高分子複合材料を粉砕して、約1.0μmよりも大きく約50μmよりも小さい平均粒子径の微粒子にすることにより得ことができる。一実施形態において、高分子フィラーは約2μmよりも大きく約30μmよりも小さい平均粒子径を有する。一実施形態において、微粉化フィラー(g)は、歯科用RMGI組成物の全重量に基づいて、約0.5wt%〜約70wt%の量で存在し得る。例えば、一実施形態において、成分(g)は、歯科用RMGI組成物の約1wt%〜約60wt%の量で存在し得る。一実施形態において、成分(g)は、歯科用RMGI組成物の約2wt%〜約50wt%の量で存在し得る。
【0044】
一実施形態において、歯科用RMGI組成物は、多塩基酸等の、重合性基をまったく含まない非高分子の酸化合物をさらに任意選択で含む。例としては、これらに限定されないが、酒石酸及びクエン酸が挙げられる。
【0045】
一実施形態において、歯科用RMGI組成物は、重合阻害剤、UV安定剤、及び着色剤から成る群から選択される成分(h)、並びにこれらの組み合わせをさらに含む。重合阻害剤は、修復材料の保存安定性を向上させる安定剤である。最も一般的に用いられる安定剤としては、2,6−ジ−(tert−ブチル)−4−メチルフェノール(BHT)及び4−メトキシフェノール(MEHQ)が挙げられる。UV安定剤は、UV光の暴露に対する修復材料の色調安定性を向上させるのに用いられる。例示されるUV安定剤は、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン(UV−9)である。着色剤は、目的とする色合いを達成するのに用いることができ、無機顔料又は有機染料であり得る。
【0046】
一実施形態において、歯科用RMGI組成物は、スルホン酸基、スルフィン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、及びホスフェート基から成る群から選択される少なくとも1つの酸基を有する重合性モノマーを任意選択でさらに含む。
【0047】
本発明の実施形態によれば、歯科用RMGI組成は、粉体、液体、及びペーストから成る群から選択される各部分を有する、多部分(マルチパート)組成物である。一実施形態において、この組成物は、第1部分が成分(d)を含む粉体形態であり、第2部分が成分(a)、(b)、(c)、及び(e)を含む液体形態である2部分の粉体/液体組成物であり;ここで、重合開始剤(f)は、第1部分、第2部分、又は両方の部分に含まれ得る。第1部分は、第2部分中の成分(a)と同じか又は異なってもよい酸性ポリマー(a);第2部分中の(b)と同じか又は異なってもよい酸性重合性モノマー(b)、及びこれらの組み合わせから成る群から選択される成分をさらに含み得る。一実施形態において、2部分の粉体/液体組成物は、酸性ポリマー(a)又は酸性重合性モノマー(b)に対してイオン的に反応性ではない少なくとも1つの微粉化フィラー(g)をさらに含む。一実施形態において、2部分の粉体/液体組成物は、重合阻害剤、UV安定剤、及び着色剤、並びにこれらの組み合わせから成る群から選択される少なくとも1つの成分(h)をさらに含む。
【0048】
別の実施形態において、歯科用RMGI組成物は、成分(a)、(b)、(e)、及び成分(a)又は(b)に対してイオン的に反応性ではない少なくとも1つの微粉化フィラー(g)を含む第1のペーストと、成分(c)及び(d)を含む第2のペーストを含み、重合開始剤系(f)がどちらか又は両方のペーストに組み込まれ得る、2部分のペースト/ペースト組成物である。別の実施形態において、第1のペーストは、第2のペースト中の成分(c)と同じか又は異なってもよい非酸性の重合性モノマー(c)をさらに含み得る。重合開始剤系(f)がレドックス開始剤系である場合、酸化剤が成分(a)及び(b)を含む第1のペースト中に組み込むことができ、また、還元剤が成分(c)及び(d)を含む第2のペースト中に組み込むことができる。重合開始剤系(f)の1以上の成分が、水溶性封入剤でマイクロカプセル化され得る。レドックス開始剤系のいずれか又は両方の成分がカプセル化される場合、還元剤及び酸化剤の両方を第2のペースト中に組み込むことができる。別の実施形態において、2部分のペースト/ペースト歯科用RMGI組成物は、重合阻害剤、UV安定剤、及び着色剤、並びにこれらの組み合わせから成る群から選択される少なくとも1つの成分(h)をさらに含む。2つのペーストは、任意の容積比で混合され得る。一実施形態において、2つのペーストは約10:1〜約1:10の容積比で混合される。一実施形態において、2つのペーストは1:1の容積比で混合される。
【0049】
適用の直前に混合することが必要な2つの部分は、歯質に適用され、患者の口内で自己硬化又は自己硬化及び光硬化の組み合わせで硬化する。
【0050】
そのため、成分(a)〜(f)、及び任意成分(g)〜(h)は、キットとして提供されてもよい。
【0051】
本発明の歯科用RMGI組成物は、空洞充填材、セメント、ベース/ライナー、又はピット/フィッシャーシーラント等の修復材料の調製に有用である。本発明の実施形態の歯科用RMGI組成物は、歯科矯正用接着剤又はセメント等の歯科矯正材料の調製に有用でもある。本発明の実施形態の歯科用RMGI組成物は、シーリング又は充填材等の歯内治療材料の形成にも有用である。
【0052】
本発明の別の実施形態によれば、歯科修復方法が提供される。この方法は、適用の直前に少なくとも成分(a)〜(f)を均一に混合して、上述した本発明の実施形態による歯科用RMGI組成物を調製する工程;混合した歯科用RMGI組成物を象牙質、エナメル質、歯科用合金、ジルコニア、セラミック材料、又は陶材等の歯質に適用する工程;並びにその混合物を自己硬化又は自己硬化及び光硬化の組み合わせにより硬化させる工程を含む。混合組成物の象牙質に対する接着強度は、少なくとも5MPaである。一実施形態において、混合組成物の象牙質に対する接着強度は、少なくとも10MPaである。
【0053】
本発明を以下の実施例により説明する。この実施例は、単に本発明又は本発明を実施する方法を説明する目的であり、本発明又は本発明を実施する方法の範囲を限定するものとしてはみなされない、便宜上、各成分の量は、本発明の組成物の全量に基づく重量パーセントで示す。
【実施例】
【0054】
<圧縮強度試験>
混合組成物を直径4mm×高さ3mmの寸法のステンレス鋼金型中に充填し、37℃のオーブン中で約60分間自己硬化させて試料を調製した。硬化した円板を金型から取り出し、37℃の水中で24時間コンディショニングし、Instron Universal Tester (Model 4467)を用いて、0.50mm/分のクロスヘッド速度の圧縮モードにおいて硬化した円板を機械的試験に供した。試料が破壊される時点でのピーク荷重を、MPa単位で表される圧縮強度の計算に用いた。それぞれの組成において、6つの試料を試験した。
【0055】
<接着強度試験>
象牙質試料として、抜かれた人の歯(6試料で1セット)を低温硬化したアクリル樹脂中に埋め込んだ。ダイヤモンドソーを用いてクラウンを取り除き、露出した象牙質表面を600グリッドのSiC紙で研磨し、水でリンスし、歯科用シリンジで乾燥させた。エナメル質試料として、抜かれた牛の歯(6試料で1セット)を低温硬化したアクリル樹脂中に埋め込んだ。エナメル質接着面を微細なダイヤモンドの刻み目で調製し、水でリンスし、歯科用シリンジで乾燥させた。
【0056】
調製した象牙質及びエナメル質試料を円筒状の金型(Φ=2.38mm)の接着治具(Ultradent, Inc.)によりしっかりと保持した。混合組成物を金型の内部にある象牙質又はエナメル質の表面に直接塗布し、自己硬化させた。接着治具を含む接着したアセンブリを高湿チャンバー(相対湿度85〜90%)中で、37℃で1時間コンディショニングした。接着治具を取り除いた後、接着した試料を37℃の水中で24時間コンディショニングした後、インストロン機械的試験機(Model 4467, Instron Corporation)を用いて、1.0mm/分のクロスヘッド速度で、半円形の切り欠きエッジを用いるせん断モードにより剥離試験を行った。MPa単位のせん断接着強度値を、ピーク荷重を接着面積で割ることにより計算し、それぞれのセットで平均化した。
【0057】
2部分のみ、2通りの硬化のペースト/ペーストセメントRMGI組成物を調製し、以下の試験例で試験した。本明細書中で実施例が示されていないが、他の構成(自己硬化vs2通りの硬化;セメントvs充填材量、ライナー/ベース;ペースト/ペーストvs粉体/液体)は、異なる硬化開始剤(自己硬化開始剤、又は自己硬化開始剤と光開始剤の組み合わせ)、フィラータイプ(酸に対する反応性フィラー及び/又は非反応性フィラー)、及び粘度(フィラー濃度を変化させる)を組み込むことに、容易に得ることができる。
【0058】
<実施例>
すべての試験例において、材料の略語が用いられる。
【0059】
2,6−ジ−(tert−ブチル)−4−メチルフェノール(BHT);2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルプロポキシ)−フェニル]−プロパン(Bis−GMA);カンファーキノン(CQ);エチル4−(N,N−ジメチルアミノ)ベンゾエート(EDMAB);グリセリルジメタクリレート(GDM);ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA);4−メタクリロキシエチルトリメリット酸無水物(4−META);1−(2−ピリジル)−2−チオ尿素(PTU);γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面処理され、4.0μmの平均粒子径を有するストロンチウム亜鉛フルオロアルミノシリケートガラス(FASフィラー);γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面処理されたOX−50ヒュームドシリカ(ST−OX−50);1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロペルオキシド(TMBHP);Cabot Corpにより市販されている表面処理ヒュームドシリカ又はコロイダルシリカ(TS−530);及び、HEMAと、アクリル酸(AA)及び無水イタコン酸(IA)のAA:IA=3.8:1のモル比でのコポリマーとの反応生成物(70%の無水物基がHEMAによりエステル化され、最終ポリマーは15,600の重量平均分子量を有する)(MA−Poly(AA−IA))。
【0060】
ベースペースト及び触媒ペーストを含む、2部分のペースト/ペーストRMGI組成物の以下の3つの試験例の調製において、すべてのモノマー及びレジン混合物中に溶解するあらゆる他の成分を最初に混合し、均一な液体混合物を調製し、次いでフィラー(TS−530、ST−OX−50、FASフィラー)をこの均一な液体混合物中でブレンドしてペーストを調製した。すべての物理試験(ゲルタイム、硬化時間、圧縮強度、象牙質及びエナメル質に対する接着強度)のために、ベース及び触媒ペーストをデュアルバレルシリンジ中に1:1(容量比)で充填し、スタティックミキサーを用いて混合した。しかしながら、必要に応じて、他の容量比を用いることも可能である。代わりに、スパチュラを用いる手動での混合が行われ得る。
【0061】
3つのすべての試験例のためのベースペーストは同じ(B1)であり、以下の表1に示す組成であった。
【0062】
【表1】
【0063】
表2に示すとおり、3つの試験例のための触媒ペーストは異なる組成(C1、C2、及びC3)であった。触媒ペースト中のTMBHPと、ベースペースト中のPTUは、レドックス開始剤系を構成した。ベースペースト中のCQとEDMABは、光開始剤系を構成した。
【0064】
【表2】
【0065】
<比較例1>
比較の目的のために、ベースペースト(B1)及び触媒ペースト(C1)を含む、現在の技術を表す比較例1を調製した。触媒ペースト(C1)は、酸性ポリマー(成分(a))のみを含んでおり、酸性重合性モノマー(成分(b))を全く含んでいなかった。
【0066】
スタティックミキサーを備えるデュアルバレルシリンジによりベースペースト(B1)を触媒ペースト(C1)と混合した場合、混合材料は1分55秒でゲル化し、4分10秒後に硬化(又は固化)した。比較例1の硬化組成は、120.0±9.5MPaの圧縮強度を有し、象牙質に対して0.0±0.0MPaの、エナメル質に対して0.0±0.0MPaのせん断接着強度を有した。比較例において試験した6試料のそれぞれが測定可能なせん断接着強度をもたらすことができなかったが、これは珍しいことではない。低いせん断接着強度の試料(例えば、<2MPa)にとって、本試験例で採用したせん断接着試験方法は、型から取り外す間、試料をハンドリングする間、及び試験の間の乾燥によってもたらされるストレスに影響を受けやすい。そのため、従来の結論は、象牙質及びエナメル質に接着した比較例1の試料のせん断接着強度は、2MPa未満であったということである。
【0067】
<実施例2>
実施例2の組成物はベースペースト(B1)及び触媒ペースト(C2)から成った。触媒ペースト(C2)は、酸性ポリマー(成分(a))に加えて、3.89重量%の酸性重合性モノマー(成分(b))を含んでいた。スタティックミキサーを備えるデュアルバレルシリンジによりベースペースト(B1)を触媒ペースト(C2)と混合した場合、混合材料は2分5秒でゲル化し、4分10秒後に硬化(又は固化)した。実施例2の硬化組成は、128.0±11.0MPaの圧縮強度を有し、象牙質に対して9.4±4.3MPaの、エナメル質に対して6.6±5.0MPaのせん断接着強度を有した。
【0068】
<実施例3>
実施例3の組成物はベースペースト(B1)及び触媒ペースト(C3)から成った。触媒ペースト(C3)は、酸性ポリマー(成分(a))に加えて、8.89重量%の酸性重合性モノマー(成分(b))を含んでいた。スタティックミキサーを備えるデュアルバレルシリンジによりベースペースト(B1)を触媒ペースト(C3)と混合した場合、混合材料は2分12秒でゲル化し、4分18秒後に硬化(又は固化)した。実施例3の硬化用組成は、123.6±13.9MPaの圧縮強度を有し、象牙質に対して16.5±3.1MPaの、エナメル質に対して15.7±6.0MPaのせん断接着強度を有した。
【0069】
上記の試験例1〜3(比較例1並びに実施例2及び3)は、酸性ポリマーと酸性重合性モノマーを両方含む本発明の歯科用RMGI組成物の、歯牙構造に対して現在の技術よりも顕著に優れる接着特性をもたらすという有用性を実証している。特に、酸性ポリマーと酸性重合性モノマーの組み合わせは、酸性ポリマーのみを含む現在の技術に比べて、象牙質及びエナメル質の両方に対するせん断接着強度を向上しつつ、同等の圧縮強度をもたらした。より具体的には、現在の技術の例は2MPa未満のせん断接着強度を示したが、本発明の組成物は、少なくとも5MPaの、さらに10MPaを超える象牙質に対するせん断接着強度を示す。実施例3におけるより高い接着強度は、同じ成分(a)+(b)の全量でありながら、酸性ポリマー(a)の量に対する酸性重合性モノマー(b)の量の増加により達成された。実施例2における成分(a):(b)の比が約6:1であったのに対し、実施例3における成分(a):(b)の比は約2:1であり、効果は、象牙質に対する接着は2倍とまではいかないが、エナメル質に対する接着は2倍を超えた。そのため、本発明の一実施形態において、成分(a):(b)の比率は、約1:1〜約8:1、例えば、約1:1、約1.5:1、約2:1、約2.5:1、約3:1、約4:1、約5:1、約6:1、約7:1、約8:1等とすることができ、又は、約1.5:1〜約4:1等の、これらの組み合わせの範囲内とすることができる。本発明の別の実施形態において、成分(a):(b)の比率は約1:4〜約1:1、例えば、約1:4、約1:3、約1:2.5、約1:2等とすることができる。
【0070】
本発明の歯科用RMGI組成物は、歯科修復用組成物、歯内治療用組成物、及び歯列矯正用組成物として用いることができる。本発明の有用な修復用組成物は、歯科用空洞充填材料、セメント、ライナー、ベース、又はピット/フィッシャーシーラント組成物であり得る。有用な歯内治療用組成物は、歯根管をシーリングし充填するための、又は接着後のセメントのための歯内シーリング及び/又は充填用組成物であり得る。有用な歯列矯正用組成物は、矯正用器具を歯の表面に接着するための矯正用接着剤又はセメント組成物とすることができる。一実施形態において、本発明の歯科用RMGI組成物は歯科用セメント組成物である。
【0071】
一実施形態において、本発明の歯科用RMGI組成物は、歯科用空洞充填用組成物である。一実施形態において、本発明の歯科用RMGI組成物は、歯科用空洞ライナー又はベース組成物である。一実施形態において、本発明の歯科用RMGI組成物は、歯科用ピット/フィッシャーシーラント組成物である。
【0072】
本発明を1以上の本発明の実施形態の記載により説明し、且つ、実施形態を非常に詳細に記載したが、これらはそうした詳細な範囲まで添付の特許請求の範囲を制限し、如何なる方法でも限定することを意図していない。さらなる有用性及び改良は、当業者にとって容易に理解できるだろう。そのため、より広い態様の本発明はその具体的な詳細、代表的な物及び方法、並びに示され、記載された実施例に限定されない。そのため、本発明の概念の範囲から逸脱しない限り、応用がなされ得る。