特許第6285218号(P6285218)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6285218スプリング、フローティングカッターユニット、およびトリミングプレス加工装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6285218
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】スプリング、フローティングカッターユニット、およびトリミングプレス加工装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/00 20060101AFI20180215BHJP
   B21D 28/14 20060101ALI20180215BHJP
   B21D 28/00 20060101ALI20180215BHJP
   F16J 15/18 20060101ALI20180215BHJP
   F16F 9/32 20060101ALI20180215BHJP
   F16F 9/36 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
   F16F9/00 C
   B21D28/14 F
   B21D28/00 A
   F16J15/18 A
   F16F9/32 H
   F16F9/32 Q
   F16F9/36
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-43131(P2014-43131)
(22)【出願日】2014年3月5日
(65)【公開番号】特開2015-169231(P2015-169231A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2017年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104570
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 光弘
(72)【発明者】
【氏名】桐明 秀樹
【審査官】 村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭56−143831(JP,A)
【文献】 特開昭63−219929(JP,A)
【文献】 特開平7−293622(JP,A)
【文献】 特開2012−240109(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第2261526(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/00−9/58
B21D 28/00
B21D 28/14
F16J 15/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反力を付与するスプリングであって、
一方の端部が開口した筒状のシリンダと、
前記シリンダ内に充填された圧縮性流体と、
前記シリンダ内を当該シリンダの軸心方向に往復運動する柱状のピストンと、
一方の端面が前記ピストンに連結され、他方の端面が反力の付与対象物に当接するピストンロッドと、
前記ピストンをスライド可能に保持する貫通穴が形成され、前記圧縮性流体を前記シリンダ内に封止する環状のシール材と、
前記シリンダの前記一方の端部側に配置され、前記ピストンをスライド可能に保持しながら、当該ピストンの、前記シリンダの他方の端部側から前記一方の端部側への移動を規制するとともに、前記シール材を、前記シリンダの前記一方の端部側から当該シリンダ内の前記他方の端部側へ押し込む環状のガイド部材と、を有し、
前記シリンダの内周面には、段差が形成されている
ことを特徴とするスプリング。
【請求項2】
請求項1に記載のスプリングであって、
前記段差は、前記シリンダの内周面において、前記シール材より前記シリンダの前記他方の端部側に位置している
ことを特徴とするスプリング。
【請求項3】
請求項2に記載のスプリングであって、
前記段差は、前記シリンダの内周面に、内周方向に沿って環状に形成された凸部であり、前記ピストンを、前記圧縮性流体が移動可能な隙間を介してスライド可能に保持する
ことを特徴とするスプリング。
【請求項4】
請求項3に記載のスプリングであって、
前記シール材の前記圧縮性流体と接触する側の端面と、当該端面と対面する前記凸部の側面との間に、前記ピストンの外周面と前記凸部の内周面との隙間に連結され、前記圧縮性流体が充填可能な隙間が設けられている
ことを特徴とするスプリング。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載のスプリングであって、
前記ガイド部材は、
前記ピストンをスライド可能に保持するとともに、当該ピストンの前記シリンダの前記一方の端部側への移動を規制する段付き貫通穴が形成された環状のバックアップリングと、
前記バックアップリングおよび前記シール材を、当該バックアップリングおよび前記シール材より前記シリンダの前記一方の端部側から当該シリンダ内の前記他方の端部側へ押し込む環状のガイドリングと、を有する
ことを特徴とするスプリング。
【請求項6】
板状素材からスクラップを切断し、さらに当該スクラップを分断するトリミングプレス加工装置に取り付けられて用いられるフローティングカッターユニットであって、
素材からスクラップを切断するフローティングカッターと、
前記フローティングカッターを、当該フローティングカッターの軸心方向に移動可能に保持するホルダセットと、
ピストンロッドの他方の端面が前記フローティングカッターの尾端面に当接し、当該フローティングカッターに反力を付与する請求項1ないし5のいずれか一項に記載のスプリングと、を有する
ことを特徴とするフローティングカッターユニット。
【請求項7】
板状素材からスクラップを切断し、さらに当該スクラップを分断するトリミングプレス加工装置であって、
トリミングプレス用下型と、
前記トリミングプレス用下型に向かって移動し、前記トリミングプレス用下型との間で、板状素材から製品部以外のスクラップを切り落とすトリミングプレス用上型と、
前記トリミングプレス用上型とともに前記トリミングプレス用下型に向かって移動し、前記トリミングプレス用上型とともに前記トリミングプレス用下型との間で前記板状素材から前記スクラップを切り落とす請求項6に記載のフローティングカッターユニットと、
前記トリミングプレス用下型の刃先から、前記トリミングプレス用上型の移動方向に、前記板状素材の板厚に応じた間隔をあけて配置されたスクラップ切断用プレス下型と、
前記トリミングプレス用上型とともに移動し、前記スクラップ切断用プレス下型との間で前記スクラップを分断するスクラップ切断用プレス上型と、を備え、
前記フローティングカッターユニットのスプリングは、
前記スクラップを切り落としたフローティングカッターが前記スクラップ切断用プレス下型に押し当てられると、前記フローティングカッターを、前記ホルダセットに対して前記トリミングプレス用上型の移動方向と逆方向へ移動させ、
前記スクラップ切断用プレス上型は、
前記ホルダセットに対する前記フローティングカッターの移動により、前記スクラップ切断用プレス下型との間で前記スクラップを分断する
ことを特徴とするトリミングプレス加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反力を付与するスプリングに関し、特に、フローティングカッターに反力を付与するスプリングの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、トリミングにより発生するスクラップを分断可能なトリミングプレス加工装置が開示されている。
【0003】
このトリミングプレス加工装置には、板状素材から製品部分以外のスクラップを切り落とす切断刃を有するトリミング用プレス上下型の他、切り落とされたスクラップをさらに分断する切断刃を有するスクラップ切断用プレス上下型が設けられている。
【0004】
トリミング用プレス上下型のうち、トリミング用プレス上型は、主トリミング用プレス上型と副トリミング用プレス上型とにより構成されている。主トリミング用プレス上型は、固定されたトリミング用プレス下型に対して昇降し、副トリミング用プレス上型は、状況に応じて、主トリミング用プレス上型に同期あるいは非同期で動く。このトリミングプレス加工装置による加工工程は、トリミング用プレス上下型によりスクラップを切り落とすトリミング加工工程(第一工程)、およびスクラップ切断用プレス上下型によりスクラップをさらに分断するスクラップ分断工程(第二工程)の二つの工程から成り立っている。第一工程において、副トリミング用プレス上型は、主トリミング用プレス上型とともに下降し、トリミング用プレス下型との間に板状素材を挟み込んで、板状素材から製品部分以外のスクラップを切り落とす。その後、第二工程において、さらに、主トリミング用プレス上型とともに下降した副トリミング用プレス上型が、スクラップ切断用プレス下型上のスクラップと接触し、一定荷重でスクラップを押圧してその状態を維持し、主トリミング用プレス上型に対して相対的に上昇する。スクラップ切断用プレス上型は、主トリミング用プレス上型とともに下降し、製品部品以外のスクラップを切り落とした後の副トリミング用プレス上型の相対的な上昇によって、一定荷重でスクラップを押圧し続け、スクラップ切断用プレス下型との間にスクラップを挟み込み、スクラップをスクラップ分断線に沿って分断する。
【0005】
ここで、主トリミング用プレス上型に対して移動可能に副トリミング用プレス上型を保持するため、この副トリミング用プレス上型にはフローティングカッター(可動切断刃)に反力を付与するスプリング(液体圧発生部)が設けられている。フローティングカッターは、トリミング用プレス上下型によるスクラップ切り落としのときには、スプリングの反力により、主トリミング用プレス上型に対する相対的な上昇が阻止される一方、スクラップ切り落とし後に、副トリミング用プレス上型がスクラップ切断用プレス下型に接触し押圧されたときには、スプリングの圧縮により、主トリミング用プレス上型に対する相対的な上昇が許容される。
【0006】
図10(A)および図10(B)は、フローティングカッターに反力を付与する従来のスプリング9の上面図および正面図であり、図10(C)は、図10(A)のG−G断面図である。
【0007】
図示するように、従来のスプリング9は、一方の端面900が閉口し、他方の端面901が開口した円筒状のシリンダ90と、シリンダ90内に充填されたビンガム流体等の圧縮性流体91と、シリンダ90内をα方向およびβ方向に往復運動する円柱状のピストン92と、一方の端面930がピストン92に連結され、他方の端面931がフローティングカッターの尾端面に当接するピストンロッド93と、ピストン92をスライド可能に保持するとともにピストン92のβ方向の移動を規制する段付き貫通穴940が形成された円環状のバックアップリング94と、ピストン92をスライド可能に保持する貫通穴950が形成されるとともに、バックアップリング94よりもスプリング9の一方の端面900側に配置されて圧縮性流体91をシリンダ90内に封止する円環状のシール材95と、バックアップリング94およびシール材95をシリンダ90内に押し込む円環状のガイドリング96と、ガイドリング96の貫通穴961に配置され、ピストンロッド93をスライド可能に保持するガイドブッシュ97と、を備えている。
【0008】
ガイドリング96の外周面には雄ネジ部962が形成されており、この雄ネジ部962がシリンダ90の他方の端面901側の端部903の内周面に形成された雌ネジ部904と螺合することにより、ガイドリング96がシリンダ90内に押し込まれる。その結果、バックアップリング94がシリンダ90内に押し込まれ、このバックアップリング94によりβ方向の移動を規制されたピストン92に、圧縮性流体91によって適度な圧力(初圧)が加えられる。そして、フローティングカッターの動きがピストンロッド93に伝わりピストン92がシリンダ90内をα方向に移動すると、シリンダ90内の圧縮性流体91が圧縮され、圧縮性流体91の圧力が高まる。この圧力がピストン92に加えられ、反力として、ピストンロッド93を介してフローティングカッターに伝わる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−126304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図10に示した従来のスプリング9にはつぎのような問題がある。トリミングプレス加工装置のスクラップ分断工程(第二工程)において、スクラップ切り落とし後に、主トリミング用プレス上型とともに下降した副トリミング用プレス上型のフローティングカッターが、スクラップ切断用プレス下型に当接して押圧されると、この押圧力がピストンロッド93を介してピストン92に伝わり、ピストン93がα方向へ移動する。これにより、シリンダ90内の圧縮性流体91が圧縮されて、圧縮性流体91の圧力が急激に高まり、これが反力としてピストン92に作用し、ピストンロッド93を介してフローティングカッターに伝わる。このとき、圧縮性流体91の圧力の急激な高まりがピストン92の周囲に配置されたシール材95に直接作用し、この作用が繰り返し発生する。このため、シール材95の劣化の進行が速く、シール材95を頻繁に交換する必要が生じ、フローティングカッターをシール材の交換なしに長期間使用することができなかった。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、シール材の劣化を防いで、スプリングの寿命を延ばすことのできる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明では、反力を付与するスプリングのシリンダの内周面に、円周方向に沿って凸部を設け、ピストンの移動によって圧縮性流体が圧縮された場合に、この圧縮による圧縮性流体のシール材側への移動を凸部により迂回させ、シール材と接触する圧縮性流体の圧力の高まりを遅らせるようにした。
【0013】
例えば、本発明のスプリングは、反力を付与するスプリングであって、
一方の端部が開口した筒状のシリンダと、
前記シリンダ内に充填された圧縮性流体と、
前記シリンダ内を当該シリンダの軸心方向に往復運動する柱状のピストンと、
一方の端面が前記ピストンに連結され、他方の端面が反力の付与対象物に当接するピストンロッドと、
前記ピストンをスライド可能に保持する貫通穴が形成され、前記圧縮性流体を前記シリンダ内に封止する環状のシール材と、
前記シリンダの前記一方の端部側に配置され、前記ピストンをスライド可能に保持しながら、当該ピストンの、前記シリンダの他方の端部側から前記一方の端部側への移動を規制するとともに、前記シール材を、前記シリンダの前記一方の端部側から当該シリンダ内の前記他方の端部側へ押し込む環状のガイド部材と、を有し、
前記シリンダの内周面には、段差が形成されている。
【0014】
また、本発明のフローティングカッターユニットは、板状素材からスクラップを切断し、さらに当該スクラップを分断するトリミングプレス加工装置に取り付けられて用いられるフローティングカッターユニットであって、
素材からスクラップを切断するフローティングカッターと、
前記フローティングカッターを、当該フローティングカッターの軸心方向に移動可能に保持するホルダセットと、
ピストンロッドの他方の端面が前記フローティングカッターの尾端面に当接し、当該フローティングカッターに反力を付与する上述するスプリングと、を備える。
【0015】
また、本発明のトリミングプレス加工装置は、板状素材からスクラップを切断し、さらに当該スクラップを分断するトリミングプレス加工装置であって、
トリミングプレス用下型と、
前記トリミングプレス用下型に向かって移動し、前記トリミングプレス用下型との間で、板状素材から製品部以外のスクラップを切り落とすトリミングプレス用上型と、
前記トリミングプレス用上型とともに前記トリミングプレス用下型に向かって移動し、前記トリミングプレス用上型とともに前記トリミングプレス用下型との間で前記板状素材から前記スクラップを切り落とす上述のフローティングカッターユニットと、
前記トリミングプレス用下型の刃先から、前記トリミングプレス用上型の移動方向に、前記板状素材の板厚に応じた間隔をあけて配置されたスクラップ切断用プレス下型と、
前記トリミングプレス用上型とともに移動し、前記スクラップ切断用プレス下型との間で前記スクラップを分断するスクラップ切断用プレス上型と、を備え、
前記フローティングカッターユニットのスプリングは、
前記スクラップを切り落としたフローティングカッターが前記スクラップ切断用プレス下型に押し当てられると、前記フローティングカッターを、前記ホルダセットに対して前記トリミングプレス用上型の移動方向と逆方向へ移動させ、
前記スクラップ切断用プレス上型は、
前記ホルダセットに対する前記フローティングカッターの移動により、前記スクラップ切断用プレス下型との間で前記スクラップを分断する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、シリンダ内に充填された圧縮性流体がピストンの移動によって圧縮された場合に、この圧縮による圧縮性流体のシール材側への移動をシリンダの内周面に配置された段差によって迂回させ、圧力の高まった圧縮性流体がシール材と接触するのを遅らせるようにしたので、圧縮性流体の圧力の急激な高まりがシール材に直接作用するのを防止でき、これによりシール材の劣化を防いで、スプリングの寿命を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1(A)および図1(B)は、本発明の一実施の形態に係るフローティングカッターユニット1の概略構成を示す外観図および部分断面図であり、図1(C)は、図1(A)のA−A断面図である。
図2図2は、フローティングカッターユニット1の部品展開図である。
図3図3(A)〜(D)は、フローティングカッター2の上面図、正面図、側面図および底面図であり、図3(E)は、図3(B)のB−B断面図である。
図4図4(A)および図4(B)は、フローティングカッター2を挿通するための貫通穴312にブッシュ34が嵌合されたホルダ31の上面図および底面図であり、図4(C)は、図4(A)のC−C断面図である。
図5図5(A)は、ホルダプレート32の上面図であり、図5(B)は、図5(A)のD−D断面図である。
図6図6(A)および図6(B)は、スプリング4の上面図および正面図であり、図6(C)は、図6(A)のE−E断面図である。
図7図7は、図6(C)に示すスプリング4のA部拡大図である。
図8図8(A)は、本発明の一実施の形態に係るフローティングカッターユニット1を用いたトリミングプレス加工装置の金型部の概略構成を示す図であり、図8(B)、(C)は、図8(A)のS1矢示図およびS2矢示図である。
図9図9(A)〜(D)は、本発明の一実施の形態に係るフローティングカッターユニット1を用いたトリミングプレス加工装置によるトリミングプレス加工を説明するための図である。
図10図10(A)および図10(B)は、フローティングカッターに反力を付与する従来のスプリング9の上面図および正面図であり、図10(C)は、図10(A)のG−G断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態を説明する。
【0019】
本実施の形態に係るフローティングカッターユニット1は、例えば、板状素材から製品部分以外のスクラップを切断分離した後、さらに、このスクラップを分断する場合に、トリミングプレス加工装置のトリミング用金型に取り付けて用いられる。
【0020】
図1(A)および図1(B)は、本発明の一実施の形態に係るフローティングカッターユニット1の概略構成を示す外観図および部分断面図であり、図1(C)は、図1(A)のA−A断面図である。また、図2は、フローティングカッターユニット1の部品展開図である。
【0021】
図示するように、本実施の形態に係るフローティングカッターユニット1は、フローティングカッター2と、フローティングカッター2を保持するホルダセット3と、ホルダセット3に対するフローティングカッター2の上昇(α方向)を制限する円筒状のスプリング4と、を有する。
【0022】
ホルダセット3は、ホルダ31と、ホルダ31のα方向側の一方の端面(トリミングプレス加工装置のトリミング用金型側の面:以下、上面)315に重ね合わせて配置されるホルダプレート32と、ホルダセット3に対するフローティングカッター2の回転を阻止する回り止め33と、ホルダ31にαおよびβ方向に形成されたフローティングカッター2挿通用の貫通穴312に嵌合された円管状のブッシュ34と、トリミングプレス加工装置のトリミング用金型にホルダセット3を固定するための取付け用ボルトおよびナット(不図示)と、を有する。これら各部材の詳細は以下の通りである。
【0023】
図3(A)〜(D)は、フローティングカッター2の上面図、正面図、側面図および底面図であり、図3(E)は、図3(B)のB−B断面図である。
【0024】
図示するように、フローティングカッター2は、円柱状のシャンク部21と、シャンク部21の一方の端部213に連結するように一体的に形成された角柱状の刃部22と、を有する。
【0025】
刃部22には、一端224側の先端の刃面221と各側面の刃面222との交線によって刃先223が形成されている。シャンク部21の他方の端部(刃部22が一体的に形成されている端部213とは逆側の端部:以下、尾端面)212の外周には、径方向外周側に突出した円板状のフランジ部23が形成され、この円板状のフランジ部23の外周面231の一部には、刃先223に対して所定の位置関係を有する平面状の切り欠き部232が形成されている。この切り欠き部232は、ホルダ31(後述の回り止め用溝314)内に収容された回り止め33の側面331に接触し(図1参照)、ホルダセット3に対して刃先223を位置決めするとともに、ホルダセット3に対してフローティングカッター2がその軸心24周りに回転するのを防ぐ。この切り欠き部232は、図示した平面状に限らず、回り止め33の形状に応じた、回転を防ぐ形状であればよい。
【0026】
図4(A)および図4(B)は、フローティングカッター2を挿通するための貫通穴312にブッシュ34が嵌合されたホルダ31の上面図および底面図であり、図4(C)は、図4(A)のC−C断面図である。
【0027】
図示するように、ホルダ31には、取付け用ボルト(不図示)が挿入される貫通孔311が形成されるとともに、一方の端面である上面315と他方の端面である底面316とを貫く方向(図1のα方向、β方向)にフローティングカッター2が挿入される貫通孔312が形成されている。貫通孔311は、ホルダ31の上面315側よりも底面316側の方が大径(r3<r4)の段付き孔であり、挿入された取付け用ボルトに締結される取付け用ナット(不図示)が底面316側に収容されるように形成されている。貫通孔312は、フローティングカッター2のフランジ部23の外径(図3(A)のr1)よりも大きな内径r2を有しており、その内側に、ブッシュ34が嵌めこまれ、さらに、このブッシュ34の内周面(後述の摺動面)345でフローティングカッター2のシャンク部21が保持されるようにフローティングカッター2が挿入される。また、貫通孔312の内壁面313の一端部側(上面315側)には、上面315側が開放された凹状の回り止め用溝314が形成されており、この回り止め用溝314に回り止め33が収容される。なお、ホルダ31には、さらに、トリミングプレス加工装置のトリミング用金型に対する回り止め、位置決め等のためのピンが挿入されるノック穴317が形成されていてもよい。
【0028】
ブッシュ34は、ホルダ31の貫通孔312の深さh2よりも回り止め33の長さ(図2のh3)だけ少なくとも短い長さh1を有しており、ホルダ31の貫通孔312内に嵌合されて、両端面343、344がホルダ31の貫通孔312から軸方向に突き出ない位置で固定される。この状態において、ブッシュ34内にフローティングカッター2のシャンク部21が挿入されると、ホルダ31の貫通孔312からフローティングカッター2が抜け落ちないように、ホルダ31の貫通孔312内でフローティングカッター2のフランジ部23がブッシュ34の一方の端面344に当接する(図1参照)。このとき、フローティングカッター2がスムーズに挿入されるようにするため、ブッシュ34の内周部341には、フローティングカッター2のシャンク部21の外周面211が摺動する摺動面345が形成されている。具体的には、ブッシュ34の内周部341には摺動層342が形成されている。この摺動層342は、例えば、黒鉛等の固体潤滑剤を銅合金等に分散させ、これを焼結して得られる多孔質の焼結合金層にさらに含油処理を施したものである。このようなブッシュ34として、例えばオイレス工業株式会社のオイレス♯2000がある。このオイレス♯2000は、金属製の管とその内側に形成された摺動層からなる二重構造を有しており、重量比で、錫を4〜10%、ニッケルを10〜40%、燐を0.5〜4%、黒鉛を3〜10%含み、残部として銅を含む円筒状の圧粉体を、鉄、鉄合金、銅および銅合金のうちのいずれか一つの金属で形成された管の内側に圧入したものを焼結することにより形成される。なお、摺動層342に代えて、例えば、黒鉛等の固体潤滑剤を、ブッシュ34の内周面341から露出するようにブッシュ34に埋め込んでもよい。このようなブッシュ34としては、例えばオイレス工業株式会社のオイレス♯500がある。
【0029】
ここで、フローティングカッター2のシャンク部21の外径(図2のr5)は、基準寸法に対してゼロまたはプラス公差で仕上げられ、このシャンク部21が挿入されるブッシュ34の内径(図2のr6)は、基準寸法に対してゼロまたはマイナス公差で仕上げられている。これにより、フローティングカッター2のシャンク部21の外径r5とブッシュ34の内径r6とのクリアランスがゼロまたはマイナスクリアランスとなるにもかかわらず、ブッシュ34が摺動層342を備えていることにより、フローティングカッター2のシャンク部21は、かじりを生じることなくブッシュ34内にスムーズに挿入される。また、スクラップ分断加工時においても、かじりを生じることなく、スムーズな動きを発揮する。
【0030】
回り止め33は、ホルダ31の回り止め用溝314にホルダ31の上面315側から挿入される。この回り止め33は、ホルダ31の貫通孔312に挿入されたフローティングカッター2のフランジ部23の切り欠き部232に接触する、貫通孔312の径方向の厚さ(図2のt)を有している。これにより、ホルダ31の貫通孔312内において、フローティングカッター2のフランジ部23の切り欠き部232に回り止め33の側面331が接触して(図1参照)、ホルダセット3に対して刃先223を位置決めするとともに、ホルダセット3に対する軸心24周りのフローティングカッター2の回転を防止する。さらに、少なくとも回り止め33の側面331に、ブッシュ34の内周部341の摺動面345と同様な摺動面を形成することによって、回り止め33に、回り止めの機能と共に、軸方向への滑りを補助する機能を付与してもよい。
【0031】
図5(A)は、ホルダプレート32の上面図であり、図5(B)は、図5(A)のD−D断面図である。
【0032】
図示するように、ホルダプレート32には、ホルダ31の上面315に重ね合わせて配置された状態において、ホルダ31の各貫通孔311、312につながる貫通孔321、322が形成されている。貫通孔321には、ホルダ31の貫通孔311に挿入された取付け用ボルト(不図示)が挿入される。貫通孔322には、ホルダ31の貫通孔312に挿入されたフローティングカッター2と同軸に配置されたスプリング4(シリンダ41)が挿入される。この貫通孔322は、一方の面(トリミングプレス装置のトリミング用金型側の面)325側よりも他方の面(ホルダ31の上面315に重ね合わせられる面)326側において大径の段付き穴(r7<r8)であり、大径部3221内にスプリング4のフランジ部460が収容される。なお、ホルダ31にノック穴317が形成されている場合、ホルダプレート32にも、それらのノック穴317に挿入されたピンが挿通する貫通孔327が形成される。
【0033】
図6(A)および図6(B)は、スプリング4の上面図および正面図であり、図6(C)は、図6(A)のE−E断面図である。また、図7は、図6(C)に示すスプリング4のA部拡大図である。
【0034】
図示するように、スプリング4は、一方の端面400にエア抜き用ネジ孔402が形成され、他方の端面401が開口した円筒状のシリンダ40と、シリンダ40内に充填されたシリコンゴム、ビンガム流体等の圧縮性流体41と、シリンダ40内をシリンダ40の軸心方向(α方向およびβ方向)に往復運動する円柱状のピストン42と、一方の端面430がピストン42に連結され、他方の端面431がフローティングカッター2の尾端面212に当接するピストンロッド43と、ピストン42をスライド可能に保持するとともにピストン42のβ方向の移動を規制する段付き貫通穴440が形成された円環状のバックアップリング44と、ピストン42をスライド可能に保持する貫通穴450が形成されるとともに、バックアップリング44よりもシリンダ40の一方の端面400側に配置されて圧縮性流体41をシリンダ40内に封止する円環状のシール材45と、シリンダ40の他方の端部403側に配置され、バックアップリング44およびシール材45をシリンダ40内に押し込む円環状のガイドリング46と、ガイドリング46の貫通穴461に配置され、ピストンロッド43をスライド可能に保持するガイドブッシュ47a、47bと、エア抜き用ネジ孔402に螺合されたエア抜き用ネジ48と、圧縮性流体41のエア抜き用ネジ孔402からの漏れを防止するための漏れ防止用リング49と、ピストンロッド43とガイドブッシュ47aとの隙間を密閉するOリング50と、を備える。
【0035】
ガイドリング46の外周面463には雄ネジ462が形成されており、この雄ネジ462が、シリンダ40の内周面405の他方の端面401側の端部403に形成された雌ネジ404と螺合することにより、ガイドリング46がシリンダ40内に押し込まれる。その結果、バックアップリング44がシリンダ40内に押し込まれ、このバックアップリング44によりβ方向の移動を規制されたピストン42に、圧縮性流体41によって適度な圧力(初圧)が加えられる。そして、フローティングカッター2の動きがピストンロッド43に伝わりピストン42がシリンダ40内をα方向に移動すると、シリンダ40内の圧縮性流体41が圧縮され、圧縮性流体41の圧力が高まる。この圧力がピストン42に加えられ、反力として、ピストンロッド43を介してフローティングカッター2に伝わる。
【0036】
また、ガイドリング46には、シリンダ40内に挿入される一方の端部464と反対側の他方の端部465において外周面から突出したフランジ460が形成されている。このフランジ部460は、向かい合う一対の平面4601と、向かい合う一対の曲面4602とより外周が形成されている。この一対の曲面4602は、ガイドリング46の外周面463から突出しており、それらの間の距離r9がホルダプレート32の貫通穴322の径r7よりも大きい。このため、フランジ部460がホルダプレート32の大径部3221に嵌合し、ホルダプレート32からのスプリング4の抜け出しを防止する。
【0037】
シリンダ40の一方の端面400に形成されているエア抜き用ネジ孔402はストレートネジ孔となっており、このエア抜き用ネジ孔402に、ストレートネジであるエア抜き用ネジ48を螺合させている。エア抜き用ネジ孔402およびエア抜き用ネジ48に、ストレートネジ孔およびストレートネジを用いることにより、圧縮性流体41を圧縮してスプリング4の初圧を設定する際に、圧縮性流体41に混入した空気を、エア抜き用ネジ孔402のネジ溝413とエア抜き用ネジ48のネジ部480のネジ山481との隙間を介して、シリンダ40の外部に逃がすようにしている。
【0038】
漏れ防止用リング49は、エア抜き用ネジ48のネジ部480に挿入され、エア抜き用ネジ48の頭部482の下面483と、エア抜き用ネジ孔402の周囲(シリンダ40の端面400)との間に配置される。漏れ防止用リング49は、シリンダ40およびエア抜き用ネジ48の材料より柔らかい材料で形成される。例えば、シリンダ40およびエア抜き用ネジ48にニッケルクロムモリブデン鋼(SNCM439等)が用いられている場合、漏れ防止用リング49には銅等が用いられる。圧縮性流体41を圧縮してスプリング4の初圧を設定する際に、エア抜き用ネジ孔402のネジ溝413とエア抜き用ネジ48のネジ部480のネジ山481との隙間を介して、圧縮性流体41に混入した空気をシリンダ40の外部に逃がした後、エア抜き用ネジ48をエア抜き用ネジ孔402にきつく螺合させることにより、漏れ防止用リング49が若干変形して、エア抜き用ネジ孔402の周囲(シリンダ40の端面400)とエア抜き用ネジ48の頭部482の下面483との間を密閉する。これにより、シリンダ40内に充填された圧縮性液体41がエア抜き用ネジ孔402を介して漏れるのを防止できる。
【0039】
シリンダ40の内周面405には、シリンダ40の軸心方向に向かって突出した円環状の凸部406が、シール材45よりもシリンダ40の端面400側に配置されるように、ピストン42の外周方向に沿って形成されている。凸部406の内径r11は、ピストン42の外径r10より僅かに大きく設定されている。これにより、凸部406は、ピストン42をα方向およびβ方向にスライド可能に保持する。このようにすることにより、ピストン42のα方向の移動によってシリンダ40内に充填された圧縮性液体41が圧縮された場合に、この圧縮による圧縮性流体41のシール材45側への移動を、対面するピストン42の外周面420と凸部406の内周面410との隙間を通るように迂回させ、圧力の高まった圧縮性流体41がシール材45と接触することを遅らせるようにしている。なお、対面する凸部406の側面407とシール材45の端面451との隙間gは、圧縮性流体41によってピストン42に初圧が加えられた状態、あるいは初圧状態から圧力が加えられた状態において、圧縮性流体41がこの隙間gにより形成される領域全体に行きわたって、圧縮性流体41の圧力がシール材45の端面451全体に分散することができるように、適度な間隔があることが好ましい。
【0040】
バックアップリング44は、大径穴443および大径穴443より小さな径の小径穴444が、アックアップリング44の上端面442から下端面441に向けて順番に連続して形成された段付き貫通穴440を有している。また、アックアップリング44の下端面441には、小径穴444よりも大きな径の円環溝51が小径穴444に連続して形成されている。また、ガイドリング46の上端面(一方の端部464の端面)466には、貫通穴461よりも大きな径の円環溝52が貫通穴461に連続して形成されている。円環溝51、52は、略同径であり、バックアップリング44の下端面441とガイドリング46の上端面(一方の端部464の端面)466とが当接することにより、両者が重なり合ってガイドブッシュ47aの上端面470とともに、圧縮性流体41の緩衝領域として機能する円環状の液だまり53を形成する。これにより、ピストン42がα方向に移動して圧縮性流体41が圧縮された際に、バックアップリング44の段付き貫通穴440とピストンロッド43との隙間を通って移動してきた圧縮性流体41の勢いを和らげることができる。
【0041】
ガイドブッシュ47a、47bは、ガイドブッシュ47aがガイドブッシュ47bに対してシリンダ40の一方の端面400側(シリンダ40の内部側)に配置するように、ガイドリング46の貫通穴461内に装着される。また、Oリング50は、ガイドブッシュ47aの下端面471とガイドブッシュ47bの上端面472との間に挟み込まれるようにして、ガイドリング46の貫通穴461内に装着される。これにより、Oリング50は、液だまり53よりもシリンダ40の他方の端面401側において、ブッシュ47aとピストンロッド43との隙間を密閉する。このため、液だまり53で勢いが緩和された圧縮性流体41が、ブッシュ47a、47bとピストンロッド43との隙間を通って外部へ漏れるのを防止できる。
【0042】
上記構成のスプリング4により、フローティングカッター2に対して、ホルダ31の底面316から上面315へ向かう方向(図1の上昇方向α)に所定値未満の大きさの力が加えられても、シリンダ40内の圧縮性流体41の抵抗力によりピストン42のα方向への移動が阻止され、ホルダ31に対してフローティングカッター2は移動しない。一方、フローティングカッター2に対して、α方向に所定値以上の大きさの力が加えられると、シリンダ40内の圧縮性流体41の流動によりピストン42がα方向へ移動し、これによりホルダ31に対してフローティングカッター2がα方向へ移動する。
【0043】
また、所定値以上の大きさの力が解除されると、フローティングカッター2は、圧縮性流体41の復元力により、初期位置に復帰する。圧縮性流体41の復元力は、フローティングカッター2に対するホルダ31の保持力(ブッシュ34とフローティングカッター2のシャンク部21の締め代による固定力およびブッシュ34の摺動面345とフローティングカッター2のシャンク部21の外周面211との摩擦力)より大きく設定されているため、フローティングカッター2を確実に初期位置に復帰させることが可能である。
【0044】
つぎに、本実施の形態に係るフローティングカッターユニット1の組立て手順の概要を説明する。
【0045】
図2に示すように、ブッシュ34は、ホルダ31の貫通孔312に嵌め込まれて固定される。回り止め33は、ホルダ31の回り止め用溝314に、ホルダ31の上面315側から挿入される。フローティングカッター2は、フランジ部23の切り欠き部232を回り止め33の側面331側に向けて、刃部22の方からホルダ31の貫通孔312に挿入される。これにより、ホルダ31の貫通孔312内においてフローティングカッター2のフランジ部23がブッシュ34の一方の端面344に当接するまで、フローティングカッター2のシャンク部21がブッシュ34に挿入される。このとき、上述したように、フローティングカッター2のシャンク部21の外径r5とブッシュ34の内径r6とがゼロまたはマイナスクリアランスとなるにもかかわらず、ブッシュ34の内周部341の摺動層342により、フローティングカッター2のシャンク部21は、かじりを生じることなくブッシュ34内にスムーズに挿入される。
【0046】
また、ホルダ31の貫通孔312内において、フローティングカッター2のフランジ部23の切り欠き部232は、回り止め33の側面331に接触する。スプリング4は、ピストンロッド43の他方の端部431がフローティングカッター2の尾端面212に当接するように、フローティングカッター2の尾端面212側に配置される。ホルダプレート32は、スプリング4のシリンダ40が貫通孔322に挿入されるように、ホルダ31の上面315にかぶせられる。これにより、ピストンロッド43の他方の端部431がフローティングカッター2の軸心24上でフローティングカッター2の尾端面212に当接するように(ピストンロッド43がフローティングカッター2と同軸に位置されるように)、フローティングカッター2に対してスプリング4が位置付けられる。
【0047】
このように、フローティングカッター2が、ホルダ31にスムーズに挿入でき、かつ、ピストンロッド43とフローティングカッター2とが、ホルダセット3によって芯出しされ、さらに、ガタつくことなく保持されるため、フローティングカッター2およびピストンロッド43の交換容易性を実現しつつ、フローティングカッター2の取付け精度を高く維持することができる。
【0048】
つぎに、本実施の形態に係るフローティングカッターユニット1を用いたトリミングプレス加工装置によるトリミングプレス加工について説明する。
【0049】
図8(A)は、本実施の形態に係るフローティングカッターユニット1を用いたトリミングプレス加工装置の金型部の概略構成を示す斜視図であり、図8(B)および図8(C)は、図8(A)のS1矢示図およびS2矢示図である。
【0050】
図示するように、トリミングプレス加工装置は、板状素材から製品部分以外のスクラップを切り落とすトリミング用プレス上下型70、71と、切り落とされたスクラップをさらに分断するスクラップ切断用プレス上下型72、73と、トリミング用プレス下型71およびスクラップ切断用プレス下型73に対してトリミング用プレス上型70およびスクラップ切断用プレス上型72を昇降させる油圧ラム(不図示)と、を有する。
【0051】
トリミング用プレス上型70は、トリミング用プレス下型71に対して昇降する複数の主トリミング用プレス上型701、702と、主トリミング用プレス上型701、702とともに昇降するフローティングカッターユニット1と、を有する。フローティングカッターユニット1の構成要素の一つであるフローティングカッター2の刃部22は、トリミング用プレス下型71と対向するいずれかの刃先223が主トリミング用プレス上型701、702の刃先7011、7021とともに、製品部分の輪郭線を形成するように主トリミング用プレス上型701、702の間に配置されている。
【0052】
スクラップ切断用プレス下型73の上側刃面731は、トリミング用プレス下型71の上側刃面711よりも下方の位置に配置されており、それらの間には板状素材の板厚以上の間隔iがあけられている。
【0053】
なお、簡略化のため、図8では、主トリミング用プレス上型701、702が2つ、フローティングカッターユニット1が1つの場合を示しているが、実際には、適宜定められた数の主トリミング用プレス上型およびフローティングカッターユニット1が用いられる。また、スクラップ切断用プレス上型72が主トリミング用プレス上型701と一体的に形成されている場合を示しているが、これらはそれぞれ別個に形成されたものでもよい。
【0054】
図9(A)〜(D)は、本実施の形態に係るフローティングカッターユニット1を用いたトリミングプレス加工装置によるトリミングプレス加工を説明するための図である。
【0055】
図9(A)に示すように、板状素材74がトリミング用プレス下型71上にセットされると、油圧ラムの駆動により、主トリミング用プレス上型701、702、フローティングカッターユニット1、およびスクラップ切断用プレス上型72が、トリミング用プレス下型71に向かう方向βに下降し始める。
【0056】
そして、図9(B)に示すように、主トリミング用プレス上型701、702の刃先7011、7021およびフローティングカッター2の刃先223と、トリミング用プレス下型71の刃先712とによって、板状素材74から製品部分以外のスクラップ741が切り落とされる。なお、このとき、シリンダ40内の圧縮性流体41の抵抗力によりピストン42の移動が阻止されるため、フローティングカッター2は、ホルダ31に対して移動しない。このため、主トリミング用プレス上型701、702の刃先7011、7021およびフローティングカッター2の刃先223が同期して移動する。
【0057】
その後、図9(C)に示すように、主トリミング用プレス上型701、702、フローティングカッターユニット1、およびスクラップ切断用プレス上型72がβ方向に下降し続ける。これにより、フローティングカッター2の先端の刃面221が、スクラップ741を介してスクラップ切断用プレス下型73に押し当てられると、図9(D)に示すように、シリンダ40内の圧縮性流体41の流動によりピストン42が上昇方向αへ移動し、フローティングカッター2が、ホルダ31に対してα方向に上昇する。すなわち、主トリミング用プレス上型701、702およびスクラップ切断用プレス上型72のみが下降を続ける。これにより、スクラップ切断用プレス上下型72、73の刃先721、732によって、スクラップ741が分断される。
【0058】
以上、本発明の一実施の形態を説明した。
【0059】
本実施の形態によれば、シリンダ40内に充填された圧縮性流体41がピストン42の移動によって圧縮された場合に、この圧縮による圧縮性流体41のシール材45側への移動を円環状の凸部406によって迂回させ、シール材45と接触する圧縮性流体41の圧力の高まりを遅らせるようにしている。このため、圧縮性流体41の圧力の急激な高まりがシール材45に直接作用するのを防止できる。さらに、対面する凸部406の側面407とシール材45の端面451との隙間gにより、圧縮性流体41の圧力をシール材45の端面451全体に分散させることができるので、シール材45の端面451が受ける圧力を低減できる。このように、圧縮性流体41の圧力の急激な高まりがシール材45に直接作用するのを防止でき、さらに、シール材45の端面451が受ける圧力を低減ができるので、シール材45の早期劣化を防いで、スプリング4の寿命を延ばすことができる。
【0060】
また、本実施の形態によれば、フローティングカッター2に反力を付与するスプリング4のシリンダ40内に充填された圧縮性流体41を圧縮してスプリング4の初圧を設定する際に、圧縮性流体41に混入した空気を、シリンダ40に設けられたエア抜き用ネジ孔402のネジ溝413とエア抜き用ネジ孔402に螺合したエア抜き用ネジ48のネジ部480のネジ山481との隙間を介して、シリンダ40の外部に逃がすようにしている。このため、スプリング4に十分な初圧を設定することが可能となり、フローティングカッター2に十分な反力を付与することができる。
【0061】
また、圧縮性流体41を圧縮してスプリング4の初圧を設定する際に、エア抜き用ネジ孔402のネジ溝413とエア抜き用ネジ48のネジ部480のネジ山481との隙間を介して、圧縮性流体41に混入した空気をシリンダ40の外部に逃がした後、エア抜き用ネジ48をエア抜き用ネジ孔402にきつく螺合させることにより、シリンダ40およびエア抜き用ネジ48の材料より柔らかい材料で形成された漏れ防止用リング49が若干変形して、エア抜き用ネジ孔402の周囲(シリンダ40の端面400)とエア抜き用ネジ48の頭部482の下面483との間を密閉する。これにより、シリンダ40内に充填された圧縮性液体41がエア抜き用ネジ孔402aを介して漏れるのを防止できる。
【0062】
また、エア抜き用ネジ48のネジ部480の長さ、あるいは漏れ防止用リング49の厚みを変えることにより、エア抜き用ネジ48をエア抜き用ネジ孔402にきつく螺合させた場合におけるシリンダ40内の圧縮性流体41の圧力(初圧)を、シリンダ40への圧縮性流体41の充填量を変えることなく変えることができる。
【0063】
また、本実施の形態によれば、バックアップリング44の下端面441とガイドリング46の上端面466とが当接することにより、バックアップリング44の下端面441において段付き貫通穴440と連続して形成された円環溝51と、ガイドリング46の上端面466において貫通穴461と連続して形成された円環溝52とが重なり合って、ガイドブッシュ47aの上端面470とともに、圧縮性流体41の緩衝領域として機能する円環状の液だまり53を形成する。これにより、ピストン42がα方向に移動して圧縮性流体41が圧縮された際に、バックアップリング44の段付き貫通穴440とピストンロッド43との隙間を通って移動してきた圧縮性流体41の勢いを和らげることができる。
【0064】
また、ガイドブッシュ47aの下端面471とガイドブッシュ47bの上端面472との間に挟み込まれるようにして、ガイドリング46の貫通穴461内に装着されたOリング50が、液だまり53よりもシリンダ40の他方の端面401側において、ブッシュ47aとピストンロッド43との隙間を密閉するため、液だまり53で勢いが緩和された圧縮性流体41が、ブッシュ47a、47bとピストンロッド43との隙間を通って外部へ漏れるのを防止できる。
【0065】
また、本実施の形態によれば、フローティングカッター2のシャンク部21の外径r5が、基準寸法に対してゼロまたはプラス公差で仕上げられ、このシャンク部21が挿入されるブッシュ34の内径r6が、基準寸法に対してゼロまたはマイナス公差で仕上げられるとともに、このブッシュ34の内周部341に、フローティングカッター2のシャンク部21の外周面211が摺動する固体潤滑剤が分散された摺動面345が形成されている。このため、フローティングカッター2のシャンク部21とブッシュ34とがゼロまたはマイナスクリアランスとなるにもかかわらず、ブッシュ34の摺動層342により、フローティングカッター2のシャンク部21をブッシュ34内にスムーズに挿入することができる。したがって、フローティングカッター2の交換容易性を実現しつつ、フローティングカッター2の取付け精度を高く維持することができる。
【0066】
また、スプリング4とフローティングカッター2とを個別のモジュールとし、これらをホルダセット3によって連結するだけで、スプリング4のピストンロッド43とフローティングカッター2とが芯出しされ、ゼロまたはマイナスクリアランスにより昇降中のフローティングカッター2がガタつくことなく保持されるようにしている。このため、フローティングカッター2の取付け精度を高く維持しながら、フローティングカッター2とスプリング4との組合せを簡単に変えることができる。
【0067】
また、ホルダ31に回り止め用溝314を形成し、このなかに回り止め33が収容されるため、ホルダセット3に対してフローティングカッター2の刃先223を簡単に位置決めすることができるとともに、ホルダセット3に対する軸心24周りのフローティングカッター2の回転を阻止することができる。
【0068】
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形が可能である。
【0069】
また、上記の実施の形態では、シリンダ40の内周面405に円周方向に沿って円環状の凸部403を形成しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、シリンダ40の内周面405に少なくとも一つの段差が円周方向に沿って形成されているものであればよい。この場合でも、シリンダ40内に充填された圧縮性流体41が圧縮された際に、この圧縮による圧縮性流体41のシール材45側への移動を段差によって迂回させることができるので、シール材45と接触する圧縮性流体41の圧力の高まりを遅らせることが可能となる。
【0070】
また、上記の実施の形態では、エア抜き用ネジ孔402をシリンダ40の端面400に形成しているが、本発明はこれに限定されず、シリンダ40の外周面411に形成してもよい。
【0071】
また、上記の実施の形態では、バックアップリング44の下端面441に、段付き貫通穴440の小径穴444を囲む円環溝51がこの段付き貫通穴440と連続して形成されるとともに、ガイドリング46の上端面466に、貫通穴461を囲む円環溝52がこの貫通穴461と連続して形成され、バックアップリング44の下端面441とガイドリング46の上端面466とが当接することにより、両者が重なり合って、ガイドブッシュ47aの上端面470とともに、圧縮性流体41の緩衝領域として機能する円環状の液だまり53を形成している。しかし、本発明はこれに限定されない。液だまり53は、Oリング50よりもシリンダ40の一方の端面400側において、バックアップリング44の段付き貫通穴440とピストンロッド43との隙間を通って移動してきた圧縮性流体41を溜めることができる位置に形成されていればよい。例えばバックアップリング44の段付き貫通穴440の小径穴444(バックアップリング44の下端面441側の部分)の内壁に形成してもよい。
【0072】
また、上記の実施の形態では、バックアップリング44およびガイドリング46を別部品としているが、これらは一体的に形成されたものでもよい。
【0073】
また、上記の実施の形態では、円柱状のスプリング4を例にとり説明したが、本発明のスプリング4は角柱その他の柱状のものでもよい。
【0074】
また、上記の実施の形態では、四方向の使用が可能な角柱状の刃部22を有するフローティングカッター2を用いているが、他の形状の刃部を有するフローティングカッターを用いてもよい。
【0075】
また、上記の実施の形態では、フローティングカッター2に反力を付与するスプリング4を例にとり説明した。しかし、本発明はこれに限定されない。本発明のスプリングは、その他の工具、カム装置等の対象物に反力を付与するスプリングに広く適用できる。
【符号の説明】
【0076】
1:フローティングカッターユニット、 2:フローティングカッター、 3:ホルダセット、 4:スプリング、 21:フローティングカッター2のシャンク部、 22:フローティングカッター2の刃部、 23:フローティングカッター2のフランジ部、 24:フローティングカッター2の軸心、 31:ホルダ、 32:ホルダプレート、 33:回り止め、 34:ブッシュ、 40:シリンダ、 41:圧縮性流体、 42:ピストン、 43:ピストンロッド、 44:バックアップリング、 45:シール材、 46:ガイドリング、 47a、47b:ガイドブッシュ、 48:エア抜き用ネジ、 49:漏れ防止用リング、 50:Oリング、 51、52:円環溝、 53:液だまり、 211:シャンク部21の外周面、 212、213:フローティングカッター2の端部、 221、222:フローティングカッター2の刃面、 223:フローティングカッター2の刃先、 231:フランジ部23の外周面、 232:フランジ部23の切り欠き部、 311:取付け用ボルト挿入の貫通孔、 312:フローティングカッター挿入用の貫通孔、 313:貫通孔312の内壁面、 314:ホルダ31の回り止め用溝、 315:ホルダ31の上面、 316:ホルダ31の底面、 317:ノック穴、 321:取付け用ボルト挿入の貫通孔、 322:スプリング挿入用の貫通孔、 327:ピン挿入用の貫通孔、 325:ホルダプレート32の表面、 326:ホルダプレート32の裏面、 331:回り止め33の側面、 341:ブッシュ34の内周部、 342:ブッシュ34の摺動層、 343、344:ブッシュ34の端面、 345:ブッシュ34の摺動面、 400、401:シリンダ40の端面、 402:エア抜き用ネジ孔、 403:シリンダ40の端部、 404:シリンダ40の雌ネジ部、 405:シリンダ40の内周面、 406:凸部、 407:凸部の側面、 410:凸部406の内周面、 411:シリンダ40の外周面、 413:エア抜き用ネジ孔のネジ溝、 420:ピストン42の外周面、 430、431:ピストンロッド43の端部、 440:バックアップリング44の段付き貫通穴、 441:バックアップリング44の下端面、 442:バックアップリング44の上端面、 443:段付き貫通穴440の大径穴443、 444:段付き貫通穴440の小径穴、 450:シール材45の貫通穴、 451:シール材45の端面、 460:ガイドリング46のフランジ部、 461:ガイドリング46の貫通穴、 462:ガイドリング46の雄ネジ部、 463:ガイドリング46の外周面、 464、465:ガイドリング46の端部、 470:ブッシュ47aの上端面、 471:ブッシュ47aの下端面、 472:ブッシュ47bの上端面、 471:ブッシュ47の挿入孔、 480:エア抜き用ネジ48のネジ部、 481:エア抜き用ネジ48のネジ部480のネジ山、 482:エア抜き用ネジ48の頭部、 483:エア抜き用ネジ48の頭部482の下面
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