(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記油圧制御装置は、前記切替操作が行なわれた場合、前記第2油路の油圧が前記しきい圧に達した時以降に前記係合要素に油圧を供給する油路を前記第1油路から前記第2油路に切り替える、請求項1または2に記載の自動変速機の油圧制御装置。
前記油圧制御装置は、前記切替操作が行なわれてから所定時間経過した場合に、前記係合要素に油圧を供給する油路を前記第1油路から前記第2油路に切り替える、請求項1〜3のいずれかに記載の自動変速機の油圧制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
駆動源としてモータを備える車両においては、モータの回転方向を反転させることにより前後進の切替が可能である。したがって、このような車両においては、係合される摩擦係合要素を同一としつつ、摩擦係合要素に油圧を供給する油路を切り替えることによって、前進レンジと後進レンジとを切り替える自動変速機を搭載するものがある。
【0005】
上記の自動変速機を搭載した車両において、前進レンジと後進レンジとの切替操作をユーザが行なった時点で即座に油路を切り替えると、切替後の油路の油圧の応答遅れによって摩擦係合要素の油圧が一時的に低下し、これが原因となってショックが発生するおそれがある。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、制御状態が切り替えられる際に、係合される係合要素を同一としつつ、係合要素に油圧を供給する油路を切り替える自動変速機において、油路の切替に起因するショックを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る油圧制御装置は、自動変速機の油圧を制御する。自動変速機は、自動変速機の制御状態が第1状態である場合および第2状態である場合のいずれの場合にも所定圧以上の油圧が供給されることで係合される係合要素と、自動変速機の制御状態が第1状態である場合に係合要素へ油圧を供給するための第1油路と、自動変速機の制御状態が第2状態である場合に係合要素へ油圧を供給するための第2油路と、係合要素に油圧を供給する油路を第1油路と第2油路とのいずれかに切替可能な切替装置とを備える。油圧制御装置は、自動変速機の制御状態を第1状態から第2状態に切り替える切替操作が行なわれた場合、第2油路の油圧が所定圧に対応するしきい圧以上であることを条件として係合要素に油圧を供給する油路を第1油路から第2油路に切り替える。
【0008】
このような構成によれば、第1状態(たとえば前進レンジ)から第2状態(たとえば後進レンジ)への切替操作をユーザが行なった場合、油圧制御装置は、第2油路の油圧が所定圧に対応するしきい圧(所定圧あるいは所定圧よりもショックが発生しない程度に僅かに小さい油圧)以上であることを条件として係合要素に油圧を供給する油路を第1油路から第2油路に切り替える。そのため、第1油路から第2油路へ切り替える際に係合要素の油圧が第2油路の油圧の応答遅れに伴って一時的に低下することが抑制される。その結果、油路の切替に起因するショックが抑制される。
【0009】
好ましくは、自動変速機は、第1油路および第2油路へ油圧を供給する油圧源を備える。油圧源から第2油路への油圧の供給は、切替操作に応じて開始される。
【0010】
このような構成によれば、切替操作に応じて油圧源から第2油路への油圧の供給が開始されるため、切替操作が行なわれた直後は第2油路の油圧がしきい圧に未だ達していないことが想定される。このような構成において、油圧制御装置は、切替操作が行なわれた場合、第2油路の油圧がしきい圧以上であることを条件として、係合要素に油圧を供給する油路を第1油路から第2油路に切り替える。すなわち、油圧制御装置は、切替操作が行なわれた場合、第2油路の油圧がしきい圧に達するまでは係合要素に油圧を供給する油路を第1油路に維持し、第2油路の油圧がしきい圧に達した後に係合要素に油圧を供給する油路を第2油路に切り替える。これにより、係合要素を係合状態に保持することができる。
【0011】
好ましくは、油圧制御装置は、切替操作が行なわれた場合、第2油路の油圧がしきい圧に達した時以降に係合要素に油圧を供給する油路を第1油路から第2油路に切り替える。
【0012】
このような構成によれば、第2油路の油圧の応答遅れを考慮して、ユーザが切替操作を行なった時点ではなく、第2油路の油圧がしきい圧に達した時以降に第1油路から第2油路に切り替えられる。そのため、係合要素の油圧が一時的に低下することが適切に抑制される。
【0013】
好ましくは、油圧制御装置は、切替操作が行なわれてから所定時間経過した場合に、係合要素に油圧を供給する油路を第1油路から第2油路に切り替える。
【0014】
このような構成によれば、第2油路の油圧を測定するセンサを設けることなく、係合要素に油圧を供給する油路を第1油路から第2油路に切り替えることができる。
【0015】
好ましくは、第1状態は、自動変速機が搭載される車両を前進させるための前進レンジであり、第2状態は、車両を後進方向に走行させるための後進レンジであり、車両の駆動源は、モータを含む。車両は、前進レンジで前進する場合には係合要素を係合させつつモータを前進方向に回転させ、後進レンジで後進する場合には係合要素を係合させつつモータを後進方向に回転させる。
【0016】
このような構成によれば、係合される係合要素を同一としつつ、モータの回転方向を反転させることによって、前進レンジと後進レンジとを切り替えることができる。
【0017】
好ましくは、係合要素は、係合された場合に自動変速機の内部に設けられる所定の回転部材を固定する。自動変速機は、係合要素とは別に、所定の回転部材が一方向に回転可能とし他方向に回転不能とするワンウェイクラッチを有する。
【0018】
このような構成によれば、係合要素を係合していなくても、ワンウェイクラッチによって所定の回転部材が他方向に回転することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、制御状態が切り替えられる際に、係合される係合要素を同一としつつ、係合要素に油圧を供給する油路を切り替える自動変速機において、油路の切替に起因するショックを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0022】
<車両の構成>
図1は、本実施の形態による車両1の全体構成図である。車両1は、エンジン10と、差動部20と、自動変速部30と、差動歯車装置42と、駆動輪44とを備える。また、車両1は、インバータ28と、蓄電装置29と、ECU(Electronic Control Unit)60とをさらに備える。
【0023】
エンジン10は、たとえばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等によって構成される内燃機関である。
【0024】
差動部20は、エンジン10に連結される。差動部20は、後述のように、インバータ28によって駆動されるモータジェネレータ(
図2参照)と、エンジン10の出力を自動変速部30とモータジェネレータとに分割する動力分割装置とを含む。
【0025】
自動変速部30は、差動部20に連結され、差動部20に接続される入力軸の回転速度と差動歯車装置42に接続される出力軸の回転速度との比である変速比(ギヤ段)を変更可能に構成される。差動部20および自動変速部30の構成については、後ほど詳しく説明する。
【0026】
差動歯車装置42は、自動変速部30の出力軸に連結され、自動変速部30から出力される動力を駆動輪44へ伝達する。
【0027】
インバータ28は、蓄電装置29に電気的に接続され、ECU60からの制御信号に基づいて、差動部20に含まれるモータジェネレータを駆動する。
【0028】
蓄電装置29は、走行用の電力を蓄え、その蓄えられた電力をインバータ28へ供給する。蓄電装置29は、差動部20のモータジェネレータによって発電される電力をインバータ28から受けることによって充電される。
【0029】
車両1には、シフトセンサ2が設けられる。シフトセンサ2は、ユーザによって操作されるシフトレバー2aの位置(以下「シフトポジションSP」という)を検出し、検出結果をECU60に送信する。なお、シフトポジションSPには、D(前進)ポジション、R(後進)ポジション、N(ニュートラル)ポジション、P(駐車)ポジションなどが含まれる。
【0030】
さらに、図示していないが、車両1には、アクセル開度(ユーザによるアクセルペダル操作量)、エンジン10の回転速度、車速Vなど、車両1を制御するために必要なさまざまな物理量を検出するための複数のセンサが設けられる。これらのセンサは、検出結果をECU60に送信する。
【0031】
ECU60は、図示しないCPU(Central Processing Unit)およびメモリを内蔵する。ECU60は、各センサからの情報およびメモリに記憶された情報に基づいて所定の演算処理を実行し、演算結果に基づいて車両1の各機器を制御する。
【0032】
ECU60は、シフトセンサ2の検出結果であるシフトポジションSPに基づいて、自動変速部30の制御状態(以下「シフトレンジ」ともいう)を変更する。
【0033】
たとえば、シフトポジションSPがDポジションである場合、ECU60は、シフトレンジを「Dレンジ(前進レンジ)」とする。Dレンジでは、たとえばアクセル開度および車速などをパラメータとする変速線図(図示せず)に基づいて、前進走行可能な1速ギヤ段〜4速ギヤ段のいずれかが形成されるように自動変速部30が制御される。
【0034】
また、シフトポジションSPがRポジションである場合、ECU60は、シフトレンジを「Rレンジ(後進レンジ)」とする。Rレンジでは、後進走行可能な後進ギヤ段が形成されるように自動変速部30が制御される。
【0035】
また、シフトポジションSPがNポジションである場合、ECU60は、シフトレンジを「Nレンジ」とする。Nレンジでは、自動変速部30がニュートラル状態(動力を伝達しない状態)に制御される。
【0036】
また、シフトポジションSPがPポジションである場合、ECU60は、シフトレンジを「Pレンジ」とする。Pレンジでは、自動変速部30の出力軸が固定される。
【0037】
<差動部および自動変速部の構成>
図2は、
図1に示した差動部20および自動変速部30の構成を示した図である。なお、差動部20および自動変速部30は、その軸心に対して対称的に構成されているので、
図2では、差動部20および自動変速部30の下側を省略して図示されている。
【0038】
差動部20は、モータジェネレータMG1,MG2と、動力分割装置24とを含む。モータジェネレータMG1,MG2は、交流の回転電機であって、インバータ28(
図1)によって駆動される。
【0039】
動力分割装置24は、シングルピニオン型のプラネタリギヤによって構成され、サンギヤS0と、ピニオンギヤP0と、キャリアCA0と、リングギヤR0とを含む。キャリアCA0は、入力軸22すなわちエンジン10の出力軸に連結され、ピニオンギヤP0を自転および公転可能に支持する。サンギヤS0は、モータジェネレータMG1の回転軸に連結される。リングギヤR0は、伝達部材26に連結され、ピニオンギヤP0を介してサンギヤS0と噛み合うように構成される。伝達部材26には、モータジェネレータMG2の回転軸が連結される。すなわち、リングギヤR0は、モータジェネレータMG2の回転軸とも連結される。
【0040】
動力分割装置24は、サンギヤS0、キャリアCA0およびリングギヤR0が相対的に回転することによって差動装置として機能する。サンギヤS0、キャリアCA0およびリングギヤR0の各回転速度は、後述(
図4)するように共線図において直線で結ばれる関係になる。動力分割装置24の差動機能により、エンジン10から出力される動力がサンギヤS0とリングギヤR0とに分配される。そして、サンギヤS0に分配された動力によってモータジェネレータMG1が発電機として作動し、モータジェネレータMG1により発電された電力は、モータジェネレータMG2に供給されたり、蓄電装置29(
図1)に蓄えられたりする。
【0041】
自動変速部30は、シングルピニオン型のプラネタリギヤ32,34と、クラッチC1,C2と、ブレーキB1,B2と、ワンウェイクラッチF1とを含む。プラネタリギヤ32は、サンギヤS1と、ピニオンギヤP1と、キャリアCA1と、リングギヤR1とを含む。プラネタリギヤ34は、サンギヤS2と、ピニオンギヤP2と、キャリアCA2と、リングギヤR2とを含む。
【0042】
クラッチC1,C2およびブレーキB1,B2の各々は、油圧により作動する摩擦係合要素である。各摩擦係合要素は、たとえば、重ねられた複数枚の摩擦板が油圧により押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻付けられたバンドの一端が油圧によって引き締められるバンドブレーキ等によって構成される。
【0043】
ワンウェイクラッチF1は、互いに連結されるキャリアCA1およびリングギヤR2を正方向(車両前進方向)に回転可能とし、かつ、負方向(車両後進方向)に回転不能に支持する。
【0044】
差動部20と自動変速部30とは、伝達部材26によって連結される。そして、プラネタリギヤ34のキャリアCA2に連結される出力軸36が差動歯車装置42(
図1)に連結される。
【0045】
図3は、自動変速部30の係合作動表を示す図である。クラッチC1,C2およびブレーキB1,B2、ならびにワンウェイクラッチF1が、
図3に示される係合作動表に従って係合されることにより、1速ギヤ段〜4速ギヤ段(前進ギヤ段)および後進ギヤ段のいずれかのギヤ段が形成される。なお、
図3において、「○」は係合状態であることを示し、空欄は解放状態であることを示す。また、「N」はニュートラル状態を示す。
【0046】
たとえば、クラッチC1およびブレーキB2を係合し、その他のクラッチおよびブレーキを解放すると、1速ギヤ段(1st)および後進ギヤ段(Rev)が形成される。すなわち、本実施の形態による自動変速部30においては、Dレンジで1速ギヤ段を形成するための摩擦係合要素と、Rレンジで後進ギヤ段を形成するための摩擦係合要素とを同一にしている。これにより、Rレンジ専用の摩擦係合要素およびソレノイドバルブを廃止できるため、自動変速部30を小型化することが可能となる。
【0047】
車両1の前進と後進との切替は、モータジェネレータMG2の回転方向を反転することによって実現される。すなわち、ECU60は、1速ギヤ段で車両1を前進させる場合にはクラッチC1およびブレーキB2を係合しつつモータジェネレータMG2を正方向に回転させ、車両を後進させる場合にはクラッチC1およびブレーキB2を係合しつつモータジェネレータMG2を負方向に回転させる。
【0048】
図4は、差動部20および自動変速部30によって構成される変速機構の共線図である。
図4とともに
図2を参照して、差動部20に対応する共線図の縦線Y1は、動力分割装置24のサンギヤS0の回転速度(すなわちモータジェネレータMG1の回転速度)を示す。縦線Y2は、動力分割装置24のキャリアCA0の回転速度(すなわちエンジン10の回転速度)を示す。縦線Y3は、動力分割装置24のリングギヤR0の回転速度(すなわちモータジェネレータMG2の回転速度)を示す。なお、縦線Y1〜Y3の間隔は、動力分割装置24のギヤ比に応じて定められている。
【0049】
また、自動変速部30に対応する共線図の縦線Y4は、プラネタリギヤ34のサンギヤS2の回転速度を示す。縦線Y5は、互いに連結されたプラネタリギヤ34のキャリアCA2およびプラネタリギヤ32のリングギヤR1の回転速度を示す。縦線Y6は、互いに連結されたプラネタリギヤ34のリングギヤR2およびプラネタリギヤ32のキャリアCA1の回転速度を示す。縦線Y7は、プラネタリギヤ32のサンギヤS1の回転速度を示す。そして、縦線Y4〜Y7の間隔は、プラネタリギヤ32,34のギヤ比に応じて定められている。
【0050】
クラッチC1が係合すると、差動部20のリングギヤR0に自動変速部30のプラネタリギヤ34のサンギヤS2が連結され、サンギヤS2がリングギヤR0と同じ速度で回転する。したがって、クラッチC1が係合すると、サンギヤS2の回転速度を示す縦線Y4が自動変速部30の入力軸の回転速度となる。
【0051】
一方、クラッチC2が係合すると、差動部20のリングギヤR0に自動変速部30のプラネタリギヤ32のキャリアCA1およびプラネタリギヤ34のリングギヤR2が連結され、キャリアCA1およびリングギヤR2がリングギヤR0と同じ速度で回転する。したがって、クラッチC2が係合すると、キャリアCA1およびリングギヤR2の回転速度を示す縦線Y6が自動変速部30の入力軸の回転速度となる。
【0052】
プラネタリギヤ34のキャリアCA2の回転速度を示す縦線Y5が、自動変速部30の出力回転速度(出力軸36の回転速度)を示す。
【0053】
たとえば、
図3の係合作動表に示したように、クラッチC1およびブレーキB1を係合しその他のクラッチおよびブレーキを解放して2速ギヤ段(2nd)が形成されると、自動変速部30の共線図は「2nd」で示される直線のようになる。
【0054】
また、
図3の係合作動表に示したように、クラッチC1およびブレーキB2を係合しその他のクラッチおよびブレーキを解放すると、モータジェネレータMG2の回転状態に応じて1速ギヤ段(1st)および後進ギヤ段(Rev)が形成される。
【0055】
モータジェネレータMG2(リングギヤR0)が正方向に回転している時には、自動変速部30の共線図は「1st」で示される直線のようになる。すなわち、クラッチC1を係合することによってサンギヤS2がリングギヤR0と同じ正方向に回転し、ブレーキB2を係合することによってリングギヤR2の回転は停止されるため、自動変速部30の出力軸36は正方向(前進方向)に回転する。
【0056】
一方、モータジェネレータMG2(リングギヤR0)が負方向に回転している時には、自動変速部30の共線図は「Rev」で示される直線のようになる。すなわち、クラッチC1を係合することによってサンギヤS2がリングギヤR0と同じ負方向に回転し、ブレーキB2を係合することによってリングギヤR2の回転は停止されるため、自動変速部30の出力軸36は負方向(後進方向)に回転する。なお、リングギヤR2の負方向への回転は、ワンウェイクラッチF1によっても抑制される。
【0057】
このように、自動変速部30において、クラッチC1,C2およびブレーキB1,B2を
図3の係合作動表に従って係合または解放させることにより、1速ギヤ段〜4速ギヤ段、後進ギヤ段、およびニュートラル状態を形成することができる。
【0058】
一方、差動部20においては、モータジェネレータMG1,MG2を適宜回転制御することにより、キャリアCA0に連結されるエンジン10の所定の回転速度に対して、リングギヤR0の回転速度すなわち伝達部材26の回転速度を連続的に変更可能な無段変速が実現される。
【0059】
<油圧回路>
自動変速部30には、クラッチC1,C2およびブレーキB1,B2を
図3の係合作動表に従って係合または解放させるための油圧回路が設けられる。
【0060】
図5は、ブレーキB2に油圧を供給するための油圧回路50の構成を模式的に示す図である。
【0061】
この油圧回路50は、ソレノイドバルブSL2と、マニュアルバルブMVと、切替装置SC2と、第1油路51と、第2油路52と、第3油路53とを含む。ブレーキB2は、油圧回路50から供給される油圧(以下「B2圧」ともいう)が所定圧以上である場合に係合する。
【0062】
ソレノイドバルブSL2は、ECU60からの制御信号に基づいて、オン状態およびオフ状態のいずれかに制御される。ソレノイドバルブSL2がオン状態であると、ソレノイドバルブSL2は、図示しない油圧源から供給される元圧(ライン圧)を所定圧に調圧して第1油路51に出力する。
【0063】
一方、ソレノイドバルブSL2がオフ状態であると、ソレノイドバルブSL2は、元圧を最小圧MIN(たとえば0)に調圧して第1油路51に出力する。
【0064】
したがって、第1油路51の油圧(以下「SL2圧」ともいう)は、ソレノイドバルブSL2がオン状態であると所定圧となり、ソレノイドバルブSL2がオフ状態であると最小圧MINとなる。なお、シフトポジションSPがDポジションである場合、ECU60は、ソレノイドバルブSL2をオン状態に制御する。したがって、Dレンジでは、SL2圧は所定圧となる。
【0065】
マニュアルバルブMVは、シフトレバー2aに機械的に連結され、シフトレバー2aの位置(シフトポジションSP)に応じて、図示しない油圧源から供給される元圧(ライン圧)の供給先を切り替える。シフトポジションSPがDポジションである場合、マニュアルバルブMVは、元圧(ライン圧)を第2油路52とは異なる油路54に供給する。シフトポジションSPがRポジションである場合、マニュアルバルブMVは、元圧を第2油路52に供給する。このようなマニュアルバルブMVの動作によって、第2油路52の油圧(以下「Rレンジ圧」ともいう)は、シフトポジションSPがDポジションであると最小圧MINとなり、シフトポジションSPがRポジションに切り替えられると所定圧まで上昇する。言い換えれば、油圧源から第2油路52への油圧の供給は、DレンジからRレンジに切り替える操作(以下「前後進切替操作」ともいう)をユーザが行なったことに応じて開始される。
【0066】
切替装置SC2は、ECU60からの制御信号に基づいてオン状態およびオフ状態のいずれかに制御されるオンオフソレノイドバルブである。切替装置SC2は、第1油路51、第2油路52、第3油路53に接続される。切替装置SC2は、第3油路53を介してブレーキB2に接続される。
【0067】
切替装置SC2は、ブレーキB2に油圧を供給する油路(以下「B2圧供給元油路」ともいう)を、第1油路51と第2油路52とのいずれかに切替可能に構成される。切替装置SC2がオン状態であると、切替装置SC2は、B2圧供給元油路を第1油路51にすることで、SL2圧をブレーキB2に供給する。一方、切替装置SC2がオフ状態であると、切替装置SC2は、B2圧供給元油路を第2油路52にすることで、Rレンジ圧をブレーキB2に供給する。
【0068】
<フェール時の退避走行>
自動変速部30の油圧回路は、油圧回路内のいずれかのソレノイドバルブが故障(フェール)した場合、第1油路51の油圧(SL2圧)をクラッチC2に供給して3速ギヤ段を形成するように構成されている。
【0069】
たとえば、Dレンジにおいて1速ギヤ段での前進中にフェールした場合、SL2圧の供給先がブレーキB2からクラッチC2に変更される。これにより、ブレーキB2が解放されるとともにSL2圧によってクラッチC2が係合されて、3速ギヤ段が形成される。そのため、3速ギヤ段での退避走行が可能となる。
【0070】
ところが、クラッチC2が係合してしまうと、車両1は後進できなくなってしまう。すなわち、クラッチC2が係合すると、差動部20のリングギヤR0と自動変速部30のリングギヤR2とが連結されて一体的に回転することになるが、リングギヤR2の後進方向への回転はワンウェイクラッチF1によって抑制される。そのため、リングギヤR0(モータジェネレータMG2)を負方向に回転することができず、車両1は後進できなくなる。
【0071】
したがって、Rレンジにおいては、フェール時にSL2圧の供給先がブレーキB2からクラッチC2に変更されたとしても、クラッチC2が係合されないようにしておく必要がある。
【0072】
そこで、本実施の形態においては、上述の前後進切替操作(DレンジからRレンジに切り替える操作)をユーザが行なった場合には、ECU60は、B2圧供給元油路をSL2圧からRレンジ圧に切り替える(すなわち切替装置SC2をオン状態からオフ状態に切り替える)ことによって、Rレンジ圧によってブレーキB2を係合させる。そして、ECU60は、SL2圧を所定圧から0に低下させる(すなわちソレノイドバルブSL2をオン状態からオフ状態に切り替える)。これにより、フェール時にSL2圧がクラッチC2に供給されたとしてもクラッチC2は係合されない。そのため、後進での退避走行が可能となる。
【0073】
<B2圧供給元油路の切替制御>
上述のように、本実施の形態においては、Dレンジで1速ギヤ段を形成する場合と、Rレンジで後進ギヤ段を形成する場合とで同じブレーキB2を係合するが、後進での退避走行を可能とするために、DレンジとRレンジとでB2圧供給元油路を切り替える。
【0074】
しかしながら、ユーザが前後進切替操作を行なった時点でB2圧供給元油路を切り替えると、ショックが発生するおそれがある。
【0075】
図6は、ショックの発生原理を説明するための図(本発明に対する比較例)である。前後進切替操作が行われると、マニュアルバルブMVが作動し、第2油路52の油圧(Rレンジ圧)は最小圧MINから所定圧に上昇する。ところが、油圧の応答遅れの影響により、Rレンジ圧が所定圧に上昇するまでには多少の時間がかかる。そのため、前後進切替操作が行われた時点でB2圧供給元油路を第1油路51から第2油路52に切り替えると、未だ所定圧に達していないRレンジ圧をブレーキB2に供給することになる。これにより、B2圧が一時的に低下し、モータジェネレータMG2からサンギヤS2に入力されるトルクTinの反力によってブレーキB2がスリップし、自動変速部30のリングギヤR2の回転速度が上昇する(一点鎖線参照)。
【0076】
その後、Rレンジ圧が所定圧に達すると、ブレーキB2が再係合し、自動変速部30のリングギヤR2の回転速度が再び0となる。この際、ブレーキB2のスリップ量が大きいと、ブレーキB2の再係合時におけるリングギヤR2の回転速度の変動量が大きくなり、ショックが発生するおそれがある。
【0077】
このようなショックを抑制するために、本実施の形態によるECU60は、前後進切替操作があった場合、Rレンジ圧が「しきい圧」に達するのを待ってから(すなわち第2油路52の油圧がしきい圧以上であることを条件として)、B2圧供給元油路を第1油路51から第2油路52に切り替える。
【0078】
ここで、「しきい圧」は、上述したショックが発生しない程度にブレーキB2のスリップ量を抑制可能な油圧に設定される。ブレーキB2のスリップ量を0にしたい場合には、しきい圧を、ブレーキB2が完全に係合する「所定圧」に設定することができる。ショックが発生しない程度にブレーキB2が僅かにスリップするのを許容する場合には、しきい圧を、「所定圧」よりも僅かに小さい値に設定することもできる。いずれの場合であっても、しきい圧は、所定圧に対応する油圧(所定圧あるいは所定圧よりも僅かに小さい油圧)であって、第2油路52の油圧が「しきい圧」以上である場合には、B2圧供給元油路を第1油路51から第2油路52に切り替えてもショックは発生しない。
【0079】
図7は、ECU60が行なうB2圧供給元油路の切替制御の処理の流れを示すフローチャートである。このフローチャートは、Dレンジである場合に所定周期で繰り返し実行される。
【0080】
S10にて、ECU60は、シフトポジションSPに基づいて、前後進切替操作(DレンジからRレンジへの切替操作)があったか否かを判定する。
【0081】
前後進切替操作がない場合(S10にてNO)、ECU60は、S11にて、切替装置SC2をオン状態に維持する(すなわちB2圧供給元油路を第1油路51に維持する)とともに、ソレノイドバルブSL2をオン状態に維持する(すなわちSL2圧を所定圧に維持する)。
【0082】
前後進切替操作があった場合(S10にてYES)、すなわちマニュアルバルブMVが作動し油圧源からの元圧が第2油路52へ供給され始めたことによって第2油路52の油圧(Rレンジ圧)が上昇し始めた場合、ECU60は、S12にて、前後進切替操作時点からの経過時間のカウント(計測)を開始する。
【0083】
S13にて、ECU60は、前後進切替操作時点からの経過時間が所定時間αを超えたか否かを判定する。この判定は、前後進切替操作時点からの経過時間に基づいてRレンジ圧が上述のしきい圧に達したか否かを判定する処理である。
【0084】
ここで、所定時間αは、前後進切替操作時点からRレンジ圧がしきい圧に達するまでに要する時間に設定される。なお、所定時間αは、予め実験等によって求めた固定値としてもよいし、Rレンジ圧の立ち上がり応答性に影響を与えるパラメータ(たとえば油温など)に応じて変更される可変値としてもよい。いずれの場合においても、本実施の形態においては、Rレンジ圧を測定する油圧センサを設けることなく、Rレンジ圧がしきい圧に達したか否かを判定することができる。
【0085】
前後進切替操作時点からの経過時間が所定時間αを超えていない場合(S13にてNO)、ECU60は、処理をS13に戻す。
【0086】
前後進切替操作時点からの経過時間が所定時間αを超えた場合(S13にてYES)、ECU60は、Rレンジ圧がしきい圧に達したと判定して、切替装置SC2をオン状態からオフ状態に切り替える。これにより、B2圧供給元油路が第1油路51から第2油路52に切り替えられ、ブレーキB2にはSL2圧に代えてRレンジ圧が供給される。また、ECU60は、ソレノイドバルブSL2をオン状態からオフ状態にする。これにより、SL2圧が最小圧MINに低下される。
【0087】
図8は、B2圧供給元油路の切替制御による油圧変化の様子を示す図である。なお、
図8には、しきい圧が「所定圧」に設定されている場合が示されている。
【0088】
前後進切替操作があった時刻t1にて、マニュアルバルブMVが作動し、油圧源からの元圧が第2油路52に供給され始める。これに伴い、第2油路52の油圧(Rレンジ圧)は最小圧MINから徐々に上昇していく。
【0089】
前後進切替操作時点から所定時間αが経過する時刻t2よりも前は、Rレンジ圧が未だ所定圧(しきい圧)に達していないため、切替装置SC2はオン状態に維持される。すなわち、B2圧供給元油路はSL2圧に維持される。
【0090】
そして、所定時間αが経過した時刻t2にて、Rレンジ圧が所定圧(しきい圧)に達したため、切替装置SC2がオン状態からオフ状態に切り替えられる。これにより、B2圧供給元油路がSL2圧からRレンジ圧に切り替えられる。そのため、B2圧は、低下することなく所定圧に維持される。
【0091】
さらに、ソレノイドバルブSL2がオン状態からオフ状態に切り替えられる。これにより、SL2圧が最小圧MINに低下する。そのため、その後にフェールしてSL2圧がクラッチC2に供給されたとしてもクラッチC2は係合されないため、後進での退避走行が可能となる。
【0092】
以上のように、本実施の形態においては、ユーザが前後進切替操作を行なった場合、ECU60は、B2圧供給元油路を第1油路51から第2油路52に切り替える。この際、ECU60は、第2油路の油圧の応答遅れを考慮して、ユーザが切替操作を行なった時点(すなわちマニュアルバルブMVが作動して油圧源からの元圧が第2油路52に供給され始めた時点)ではなく、ユーザが前後進切替操作を行なった時点から所定時間αが経過した時以降に(すなわち第2油路52の油圧がしきい圧に達するのを待ってから)、B2圧供給元油路を第1油路51から第2油路52に切り替える。そのため、B2圧供給元油路を第1油路51から第2油路52に切り替える際に、第2油路52の油圧の応答遅れに伴ってB2圧が一時的に低下することが適切に抑制される。その結果、B2圧供給元油路の切替に起因するショックが抑制される。
【0093】
<変形例>
なお、本実施の形態は、たとえば以下のように変更することもできる。
【0094】
(1) 本実施の形態では、第2油路52の油圧(Rレンジ圧)がしきい圧に達するのを待ってからB2圧供給元油路を第1油路51から第2油路52に切り替える場合を説明したが、B2圧をしきい圧以上に保つことができれば、B2圧供給元油路の切替態様はこれに限定されない。
【0095】
たとえば、ユーザによるシフトレバー2aの操作に応じて作動するマニュアルバルブMVに代えて、ECU60からの制御信号に基づいてRレンジ圧を調圧可能なソレノイドバルブを設け、前後進切替操作があった時点で、即座にRレンジ圧を立ち上げてB2圧供給元油路を第1油路51から第2油路52に切り替えるようにしてもよい。
【0096】
また、切替装置SC2をSL2圧とRレンジ圧とのいずれか一方を選択的に出力する構成とするのではなく、ECU60からの制御信号に基づいてSL2圧の出力割合とRレンジ圧の出力割合とを調整可能な構成に変更し、Rレンジ圧の出力割合の上昇に応じてSL2圧の出力割合を徐々に低下させるようにしてもよい。
【0097】
(2) 本実施の形態では、自動変速機の制御状態を切り替える例としてDレンジからRレンジに切り替える場合を説明したが、本発明が適用可能な場合はこのような場合に限定されない。
【0098】
たとえば、必要に応じて、ソフトレンジをNレンジからRレンジに切り替える場合にも本発明は適用可能である。また、必要に応じて、シフトレンジではなくギヤ段(変速比)を切り替える場合にも本発明は適用可能である。
【0099】
(3) 本実施の形態では、ソレノイドバルブSL2をオンオフバルブとする場合を説明したが、ソレノイドバルブSL2をECU60からの制御信号に基づいて出力油圧を調圧可能な調圧バルブとしてもよい。
【0100】
(4) 本実施の形態では、エンジンと2つのモータジェネレータMG1,MG2とを駆動源として備える、いわゆるスプリット方式のハイブリッド車両に本発明を適用する場合を説明したが、本発明が適用可能な車両は本実施の形態で示した車両に限定されない。たとえば、エンジンと1つのモータジェネレータとを備える一般的なシリーズ方式あるいはパラレル方式のハイブリッド車両にも本発明は適用可能である。また、モータジェネレータのみを備える電気自動車にも本発明は適用可能である。
【0101】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。