特許第6285290号(P6285290)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6285290
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 9/04 20060101AFI20180215BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20180215BHJP
【FI】
   H02P9/04 M
   H02M7/48 M
   H02M7/48 E
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-124676(P2014-124676)
(22)【出願日】2014年6月17日
(65)【公開番号】特開2016-5371(P2016-5371A)
(43)【公開日】2016年1月12日
【審査請求日】2017年3月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(72)【発明者】
【氏名】村上 達也
(72)【発明者】
【氏名】居安 誠二
(72)【発明者】
【氏名】吉田 秀治
(72)【発明者】
【氏名】加藤 章
【審査官】 ▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−017987(JP,A)
【文献】 特開2002−218793(JP,A)
【文献】 特開2012−060723(JP,A)
【文献】 特開平10−112942(JP,A)
【文献】 特開2011−087407(JP,A)
【文献】 特開平01−194866(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0033274(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0094247(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 9/04
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
星型結線された第1巻線群(14)及び第2巻線群(16)を有する回転機(10)と、
第1蓄電手段(20a)と、
前記第1蓄電手段よりも定格電圧が高い第2蓄電手段(20b)と、
前記第1蓄電手段と前記第1巻線群との間に設けられ、複数の開閉手段(QXp,QXn,QYp,QYn,QZp,QZn)を有する第1電力変換器(18a)と、
前記第2蓄電手段と前記第2巻線群との間に設けられ、複数の開閉手段(QUp,QUn,QVp,QVn,QWp,QWn)を有する第2電力変換器(18b)と、
前記第1巻線群の中性点(N1)と前記第2巻線群の中性点(N2)とを電気的に接続する接続経路(23)と、
前記接続経路の電流値を検出する電流検出手段(26)と、
前記第1電力変換器及び前記第2電力変換器の制御を行う制御装置(30)と、を備え、
前記制御装置は、前記回転機の停止時に、前記第1電力変換器及び前記第2電力変換器を制御することにより、前記第1蓄電手段と前記第2蓄電手段との間での電力の授受を行い、
前記第1蓄電手段から前記第2蓄電手段への電力の供給の際に、前記電流検出手段により検出される前記電流値に基づいて、前記第1電力変換器による、前記第1蓄電手段と前記第2蓄電手段との間の電流の遮断と、前記第2電力変換器による、前記接続経路に印加される電圧の抑制とを、選択的に実行することを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記電流値が第1閾値(I1)よりも大きく、前記第1閾値よりも大きい第2閾値(I2)よりも小さい場合には、前記電流値が前記第1閾値となるように前記第2電力変換器を制御し、
前記電流値が前記第2閾値よりも大きい場合には、前記第1電力変換器を制御することにより、前記電流を遮断することを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記電流値が第1閾値よりも大きく、前記第1閾値よりも大きい第3閾値(I3)よりも小さい場合には、前記電流値の上昇に伴い、前記電圧が単調減少するように前記第2電力変換器を制御し、
前記電流値が第3閾値よりも大きく、前記第3閾値よりも大きい第2閾値よりも小さい場合には、前記電流値が前記第3閾値となるように前記第2電力変換器を制御し、
前記電流値が前記第2閾値よりも大きい場合には、前記第1電力変換器により、前記電流を遮断することを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記電流値が第1閾値よりも大きく、前記第3閾値よりも小さい場合には、前記第1蓄電手段と前記第2蓄電手段との間で授受される電力が一定となるように前記第2電力変換器を制御することを特徴とする請求項3に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過電流検出時に保護動作を行う電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、過電流検出時に保護動作を行う装置として、特許文献1記載の電力変換装置がある。特許文献1記載の電力変換装置では、過電流が検出された場合に、過電流保護装置からスイッチ回路の遮断を行い、過電流から回路を保護している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−191122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の電力変換装置では、過電流が検出された場合には、直ちに停止している。すなわち、回路中の短絡に伴い大電流が流れた場合のみならず、短絡に起因しない一時的な電流の増加の場合においても、電流の遮断が行われる。
【0005】
ところで、特許文献1に記載の電力変換装置に係る制御を、複数の蓄電池間で電力の授受を行う電力変換装置に適用した場合、回路中の短絡に起因しない一時的な電流の増加の場合にも電流を遮断しているため、電力の授受速度が低下する。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、電力授受の速度を担保しつつ、且つ、負荷短絡時等の過電流から回路を保護することが可能な、電力変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、電力変換装置であって、星型結線された第1巻線群及び第2巻線群を有する回転機と、第1蓄電手段と、第1蓄電手段よりも定格電圧が高い第2蓄電手段と、第1蓄電手段と第1巻線群との間に設けられ、複数の開閉手段を有する第1電力変換器と、第2蓄電手段と第2巻線群との間に設けられ、複数の開閉手段を有する第2電力変換器と、第1巻線群の中性点と第2巻線群の中性点とを電気的に接続する接続経路と、接続経路の電流値を検出する電流検出手段と、第1電力変換器及び第2電力変換器の制御を行う制御装置と、を備え、制御装置は、回転機の停止時に、第1電力変換器及び第2電力変換器を制御することにより、第1蓄電手段と第2蓄電手段との間での電力の授受を行い、第1蓄電手段から第2蓄電手段への電力の供給の際に、電流検出手段により検出される電流値に基づいて、第1電力変換器による、第1蓄電手段と第2蓄電手段との間の電流の遮断と、第2電力変換器による、接続経路に印加される電圧の抑制とを、選択的に実行することを特徴とする。
【0008】
上記構成により、第2蓄電手段の充電に必要とされる電力が上昇する重負荷時等、接続経路に流れる電流が増加した場合には、電圧を抑制し、電池間での電力の授受を継続することができる。一方、回路中で短絡が発生した場合等の、接続経路に大電流が流れる場合には、電流を遮断することにより回路を保護することができる。したがって、電力の授受の速度を担保しつつ、負荷短絡時等の大電流から回路を保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係る電力変換装置の全体構成図。
図2】第1実施形態における、中性点電流と中性点電圧との関係を示す図。
図3】第1実施形態において、制御装置が実行する制御を示すフローチャート。
図4】第1実施形態において、中性点電流が第1閾値を超える場合の、中性点電流の変化と中性点電圧の変化とを示す図。
図5】第1実施形態において、中性点電流が第2閾値を超える場合の、中性点電流の変化と中性点電圧の変化とを示す図。
図6】第2実施形態における、中性点電流と中性点電圧との関係を示す図。
図7】第2実施形態において、制御装置が実行する制御を示すフローチャート。
図8】第3実施形態における、中性点電流と中性点電圧との関係を示す図。
図9】第3実施形態において制御装置が実行する制御を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
以下、本発明に係る電力変換装置を車両に適用した第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0011】
図1に示すように、制御システムは、モータ10、第1インバータ18a、第2インバータ18b、及び制御装置30を備えている。本実施形態では、モータ10として、3相2重巻線回転機を用いている。より具体的には、モータ10として、スタータ(電動機)及びオルタネータ(発電機)の機能を統合したISG(Integrated Starter Generator)を用いている。モータ10を構成するロータ12には、図示しないエンジンのクランク軸が機械的に接続されている。モータ10をスタータとして動作させることにより、クランク軸に初期回転を付与してエンジンを始動させることができる。なお、モータ10としては、例えば、巻線界磁型同期機や、永久磁石型同期機を用いることができる。なお、第1インバータ18aは第1電力変換器として機能し、第2インバータ18bは第2電力変換器として機能する。
【0012】
モータ10は、星型結線された第1巻線群14と、星型結線された第2巻線群16とを備えている。第1巻線群14は、第1中性点N1を有し、X相巻線14X、Y相巻線14Y及びZ相巻線14Zからなる3相巻線である。第2巻線群16は、第2中性点N2を有し、U相巻線16U、V相巻線16V及びW相巻線16Wからなる3相巻線である。
【0013】
第1巻線群14には、第1インバータ18aが電気的に接続され、第2巻線群16には、第2インバータ18bが電気的に接続されている。第1インバータ18aには、第1コンデンサ22aを介して第1蓄電手段である第1バッテリ20aが接続され、第2インバータ18bには、第2コンデンサ22bを介して第2蓄電手段である第2バッテリ20bが接続されている。本実施形態では、第2バッテリ20bとして、その端子間電圧が第1バッテリ20aの端子間電圧よりも高いものを用いている。例えば、第1バッテリ20aの端子間電圧は12Vであり、第2バッテリ20bの端子間電圧は48Vである。各バッテリ20a,20bの負極端子には、共通のグランドGNDが接続されている。
【0014】
第1インバータ18aは、開閉手段として、X相上アームスイッチQXpと、X相下アームスイッチQXnとの直列接続体と、Y相上アームスイッチQYpと、Y相下アームスイッチQYnとの直列接続体と、Z相上アームスイッチQZpと、Z相下アームスイッチQZnとの直列接続体とを備えている。
【0015】
X相に対応する直列接続体の接続点には、X相巻線14Xの第1端が接続されており、Y相に対応する直列接続体の接続点には、Y相巻線14Yの第1端が接続されており、Z相に対応する直列接続体の接続点には、Z相巻線14Zの第1端が接続されている。一方、X相巻線14Xの第2端、Y相巻線14Yの第2端、及び、Z相巻線14Zの第2端は、第1中性点N1で接続されている。
【0016】
第2インバータ18bは、第1インバータ18aと同様に、開閉手段として、U相上アームスイッチQUpと、U相下アームスイッチQUnとの直列接続体と、V相上アームスイッチQVpと、V相下アームスイッチQVnとの直列接続体と、W相上アームスイッチQWpと、W相下アームスイッチQWnとの直列接続体とを備えている。
【0017】
U相に対応する直列接続体の接続点には、U相巻線16Uの第1端が接続されており、V相に対応する直列接続体の接続点には、V相巻線16Vの第1端が接続されており、W相に対応する直列接続体の接続点には、W相巻線16Wの第1端が接続されている。一方、U相巻線16Uの第2端、V相巻線16Vの第2端、及び、W相巻線16Wの第2端は、第2中性点N2で接続されている。
【0018】
本実施形態では、第1インバータ18a及び第2インバータ18bの各スイッチとして、NチャネルMOSFETを用いている。そして、各スイッチにはダイオードが逆方向に並列接続されている。
【0019】
第1巻線群14の第1中性点N1と第2巻線群16の第2中性点N2とは、中性点接続経路23を介して電気的に接続されている。中性点接続経路23には、オフ操作(開操作)によって中性点接続経路23を電気的に開状態とし、オン操作(閉操作)によって中性点接続経路23を電気的に閉状態とするリレー28が設けられている。
【0020】
本実施形態に係る制御システムは、第1バッテリ20aの端子間電圧を検出する第1電圧センサ24aと、第2バッテリ20bの端子間電圧を検出する第2電圧センサ24bと、中性点接続経路23に流れる電流を検出する中性点電流センサ26とを備えている。また、第1巻線群14の各相、第2巻線群16の各相に流れる電流を検出する、図示しない電流センサも備えている。第1電圧センサ24aは第1電圧検出手段として機能し、第2電圧センサ24bは第2電圧検出手段として機能し、中性点電流センサ26は電流検出手段として機能する。なお、中性点接続経路23に流れる電流は、スイッチング周期で変動する波形であって、上限値と下限値とを往復する三角波状の波形となる。そのため、本実施形態では、電流波形の上限値及び下限値の中央値(平均値)を、中性点電流Ineuと定義する。
【0021】
上記各種センサの検出値は、制御装置30に取り込まれる。制御装置30は、中央処理装置(CPU)及びメモリを備え、メモリに格納されたプログラムをCPUにて実行することでモータ10の制御を行う。このとき、制御装置30は、リレー28をオフ操作した状態で、モータ10をスタータ及びオルタネータの一方として選択的に動作させるために、各センサの検出値に基づき、第1インバータ18a及び第2インバータ18bを構成する各スイッチを操作する。例えば、モータ10の制御量(例えばトルク)を指令値に制御すべく、アームスイッチの直列接続体について、上アームスイッチをオン操作して、且つ、下アームスイッチをオフ操作する処理と、上アームスイッチをオフ操作して、且つ、下アームスイッチをオン操作する処理とを、交互に繰り返す。なお、モータ10の制御は、例えば周知の電流ベクトル制御によって行えばよい。
【0022】
上述した処理により、モータ10をスタータとして動作させる場合、第1インバータ18aは、第1バッテリ20aから出力された直流電圧を交流電圧に変換して第1巻線群14に供給する。一方、モータ10をオルタネータとして動作させる場合、第1インバータ18aは、第1巻線群14から出力された交流電圧を直流電圧に変換して第1バッテリ20aに供給する。なお、第2インバータ18bについても同様である。
【0023】
制御装置30は、さらに、モータ10の停止時において第1バッテリ20aと第2バッテリ20bとの間での、電力授受処理を行う。電力授受処理は、リレー28をオン操作した状態で、第1バッテリ20aの出力電圧を昇圧して第2バッテリ20bに供給する昇圧処理と、第2バッテリ20bの出力電圧を降圧して第1バッテリ20aに供給する降圧処理とを含む処理である。
【0024】
本実施形態において、昇圧処理及び降圧処理のそれぞれでは、第1インバータ18aを構成するX相上アームスイッチQXp、Y相上アームスイッチQYp、Z相上アームスイッチQZpの全てをオン操作し、X相下アームスイッチQXn、Y相下アームスイッチQYn、Z相下アームスイッチQZnの全てをオフ操作する。こうした操作を前提として、第2インバータ18bを構成するU相上アームスイッチQUp、V相上アームスイッチQVp、W相上アームスイッチQWpのいずれかと、それに対応するU相下アームスイッチQUn、V相下アームスイッチQVn、W相下アームスイッチQWnのいずれかとを交互にオンオフ操作する。ここで、昇圧処理においては、第2電圧センサ24bによって検出される電圧が出力電圧Voutとなり、第1電圧センサ24aによって検出される電圧が入力電圧Vinとなる。一方、降圧処理においては、第1電圧センサ24aによって検出される電圧が出力電圧Voutとなり、第2電圧センサ24bによって検出される電圧が入力電圧Vinとなる。
【0025】
インバータの昇圧処理では、出力電圧Voutが、入力電圧Vinとデューティー比Dとを用いて、Vout=Vin/(1−D)となることを利用し、上アームスイッチと下アームスイッチとを交互にオン/オフ操作する。すなわち、1スイッチング周期に対するD(=(Vout−Vin)/Vout)の期間において、上アームスイッチをオン操作し、且つ、下アームスイッチをオフ操作し、(1−D)の期間において、下アームスイッチをオン操作し、且つ、上アームスイッチをオフ操作する。
【0026】
ここで、デューティー比Dを求める具体的な処理について説明する。まず、第2バッテリ20bに対する印加電圧の目標値である目標電圧Vout’から、第2電圧センサ24bによって検出された出力電圧Voutを減算した値を、電圧偏差ΔVoutとして算出する。本実施形態において、目標電圧Vout’は、第2バッテリ20bの定格電圧V1(48V)に設定されている。電圧偏差ΔVoutを比例積分制御することにより、中性点接続経路23に流す電流の目標値である目標中性点電流Ineu’を算出する。中性点電流Ineuを目標中性点電流Ineu’から減算することにより、電流偏差ΔIneuを算出し、電流偏差ΔIneuを比例積分制御することによって、スイッチの操作量を算出する。算出された操作量と出力電圧Voutとを加算し、さらに入力電圧Vinを用いて、上述したデューティー比Dを決定する。そして、決定されたデューティー比Dを用いて、上アームスイッチ及び下アームスイッチの制御を行う。
【0027】
一方、第2バッテリ20bから第1バッテリ20aへ電力を供給する降圧処理の際には、出力電圧Voutが、入力電圧Vinとデューティー比Dとを用いて、Vout=Vin・Dとなることを利用する。
【0028】
本実施形態では、制御装置30は、昇圧処理を行って第1バッテリ20aから第2バッテリ20bへ電力を供給する際に、回路を大電流から保護する制御を行う。
【0029】
図2は、本実施形態に係る制御を行う際の、中性点電流Ineuと目標電圧Vout’との関係を示している。本実施形態では、中性点電流Ineuが過電流であるか否かを判定する閾値を第1閾値I1とし、回路中で短絡が発生し、大電流が流れたと判定する閾値を第2閾値I2としている。
【0030】
中性点電流Ineuが第1閾値I1よりも小さい場合には、目標電圧Vout’を定格電圧V1に設定して、上述した第2インバータ18bの制御を行う。一方、中性点電流Ineuが第1閾値I1を超えた場合には、中性点電流Ineuが第1閾値I1となるように、目標中性点電流Ineu’を第1閾値I1とする定電流制御を行う。定電流制御において、出力電圧Voutは抑制されることとなるため、電圧抑制制御ということもできる。そして、中性点電流Ineuが第2閾値I2を超えた場合には、中性点接続経路23を通過する電流の遮断する電流遮断制御を行う。この電流遮断制御では、制御装置30は、第1インバータ18aを構成するX相上アームスイッチQXp、Y相上アームスイッチQYp、Z相上アームスイッチQZpの全てをオフ操作する。すなわち、第1バッテリ20aから第1巻線群14及び第2巻線群16への電流の流入を遮断する。
【0031】
図3は、制御装置30が実行する制御を示すフローチャートである。図3に示すフローチャートに係る処理は、所定の制御周期で実行される。
【0032】
まず、中性点電流Ineuが、第1閾値I1よりも小さいか否かの判定がなされる(S101)。中性点電流Ineuが第1閾値I1よりも小さいと判定された場合(S101:YES)、中性点電流Ineuは過電流ではないため、目標電圧Vout’を定格電圧V1とする(S102)。一方、中性点電流Ineuが第1閾値I1よりも小さいと判定されなかった場合(S101:NO)、中性点電流Ineuが第2閾値I2よりも小さいか否かの判定がなされる(S103)。
【0033】
中性点電流Ineuが第2閾値I2よりも小さいと判定された場合(S103:YES)、回路中で短絡は発生していないものの、中性点接続経路23には過電流が流れているため、中性点電流Ineuを第1閾値I1に保つ、上述した定電流制御が行われる(S104)。
【0034】
一方、中性点電流Ineuが第2閾値I2よりも小さいと判定されなかった場合(S103:NO)、回路中に短絡が発生しているおそれがあるため、上述した電流遮断制御を行う(S105)。
【0035】
図4は、時間T1において、中性点電流Ineuが第1閾値I1よりも大きくなった場合の、中性点接続経路23に流れる電流と中性点接続経路23に印加される電圧の変化を示している。
【0036】
まず、時間T1までは、中性点接続経路23に流れる電流の中間値である中性点電流Ineuは第1閾値I1を超えないため、中性点接続経路23に印加される電圧はV1となっている。そして、時間T1において、中性点電流Ineuが第1閾値I1以上となるため、時間T1において、上述した定電流制御が行われる。これにより、中性点電流Ineuが第1閾値I1に維持されるとともに、中性点接続経路23に印加される電圧が低下する。
【0037】
図5は、時間T2において回路中に短絡が発生し、中性点電流Ineuが第2閾値I2を超えた場合の、中性点接続経路23に流れる電流と中性点接続経路23に印加される電圧の変化を示している。
【0038】
まず、時間T1までは、中性点電流Ineuは第1閾値I1を超えないため、中性点接続経路23に印加される電圧はV1となっている。そして、時間T2において、中性点電流Ineuが第2閾値I2以上となっているため、時間T2において、上述した電流遮断制御が行われる。電流遮断制御が行われることにより、中性点接続経路23に印加される電圧はゼロになる。そして、回路中に残存する電力が回路中で消費され、それに伴い中性点接続経路23に流れる電流も減少する。そして、中性点接続経路23に流れる電流はやがてゼロとなる。
【0039】
本実施形態は、上記構成により、第2蓄電手段の充電に必要とされる電力が上昇する重負荷時等、中性点接続経路23に流れる電流が増加した場合には、電圧を抑制し、第1バッテリ20aと第2バッテリ20bとの間での電力の授受を継続することができる。一方、回路中で短絡が発生した場合等の、中性点接続経路23に大電流が流れる場合には、電流を遮断することにより回路を保護することができる。したがって、電力の授受の速度を担保しつつ、負荷短絡時等の大電流から回路を保護することができる。
【0040】
<第2実施形態>
本実施形態に係る電力変換装置は、第1実施形態に係る電力変換装置と構成は共通しており、制御装置30が実行する制御が異なっている。
【0041】
図6は、本実施形態に係る制御を行う際の、中性点電流Ineuと目標電圧Vout’との関係を示している。本実施形態においても、第1実施形態と同様に、中性点電流Ineuが過電流であるか否かを判定する閾値を第1閾値I1とし、回路中で短絡が発生し、大電流が流れたと判定する閾値を第2閾値I2としている。さらに、本実施形態では、第1閾値I1よりも大きく第2閾値I2よりも小さい第3閾値I3を設けている。中性点電流Ineuが第1閾値I1以上であり、第3閾値I3未満である場合には、第1バッテリ20aから第2バッテリ20bへ供給される電力を一定とする定電力制御を行う。すなわち、目標電圧Vout’について、Vout’=V1・I1/Ineuとして算出し、中性点電流Ineuの第1閾値I1から第3閾値I3への上昇に伴い、目標電圧Vout’が単調減少するものとして、昇圧処理を行う。
【0042】
中性点電流Ineuが第3閾値I3以上であり、第2閾値I2未満である場合には、中性点電流Ineuが第3閾値I3となるように、目標中性点電流Ineu’を第3閾値I3とする定電流制御を行う。そして、中性点電流Ineuが第2閾値I2を超えた場合には、第1実施形態と同様に、中性点接続経路23を通過する電流の遮断する電流遮断制御を行う。
【0043】
図7は、制御装置30が実行する制御を示すフローチャートである。図7に示すフローチャートに係る処理は、所定の制御周期で実行される。
【0044】
まず、中性点電流Ineuが、第1閾値I1よりも小さいか否かの判定がなされる(S201)。中性点電流Ineuが第1閾値I1よりも小さいと判定された場合(S201:YES)、中性点電流Ineuは過電流ではないため、目標電圧Vout’を定格電圧V1とする(S202)。一方、中性点電流Ineuが第1閾値I1よりも小さいと判定されなかった場合(S201:NO)、中性点電流Ineuが第3閾値I3よりも小さいか否かの判定がなされる(S203)。
【0045】
中性点電流Ineuが第3閾値I3よりも小さいと判定された場合(S203:YES)、第1バッテリ20aから第2バッテリ20bへ供給される電力を一定とする(S204)。すなわち、上述した定電力制御を行う。
【0046】
中性点電流Ineuが第3閾値I3よりも小さいと判定されなかった場合(S203:NO)、中性点電流Ineuが第2閾値I2よりも小さいか否かの判定がなされる(S205)。中性点電流Ineuが第2閾値I2よりも小さいと判定された場合(S205:YES)、回路中で短絡は発生していないものの、中性点接続経路23には過電流が流れているため、中性点電流Ineuを第3閾値I3に保つ定電流制御が行われる(S206)。
【0047】
そして、中性点電流Ineuが第2閾値I2よりも小さいと判定されなかった場合(S205:NO)、回路中に短絡が発生しているおそれがあるため、第1実施形態に準ずる電流遮断制御を行う(S207)。
【0048】
上記構成により、中性点電流Ineuが、過電流から回路を保護する必要が生ずる第1閾値I1よりも大きくなった場合においても、第1バッテリ20aと第2バッテリ20bとの間で授受される電力を一定に保つことができる。そのため、中性点電流Ineuが、過電流から回路を保護する必要が生ずる値となった場合においても、中性点電流Ineuが第3閾値I3よりも大きくならない限りは、電力の授受効率を維持することができる。
【0049】
<第3実施形態>
本実施形態に係る電力変換装置は、第1実施形態に係る電力変換装置と構成は共通しており、制御装置30が実行する制御が異なっている。
【0050】
図8は、本実施形態に係る制御を行う際の、中性点電流Ineuと目標電圧Vout’との関係を示している。本実施形態においても、第1実施形態と同様に、中性点電流Ineuが過電流であるか否かを判定する閾値を第1閾値I1とし、回路中で短絡が発生し、大電流が流れたと判定する閾値を第2閾値I2としている。また、本実施形態では、第2実施形態と同様に、第1閾値I1よりも大きく第2閾値I2よりも小さい第3閾値I3を設けている。中性点電流Ineuが第1閾値I1以上であり、第3閾値I3未満である場合には、目標電圧Vout’を、数式1に係る演算により求める。
【0051】
【数1】
すなわち、中性点電流Ineuの第1閾値I1から第3閾値I3への上昇に伴い、目標電圧Vout’が、定格電圧V1から、定格電圧V1よりも小さく0よりも大きい値であるV2まで単調減少するものとして、昇圧処理を行う。
【0052】
中性点電流Ineuが第3閾値I3以上であり、第2閾値I2未満である場合には、中性点電流Ineuが第3閾値I3となるように、目標中性点電流Ineu’を第3閾値I3とする定電流制御を行う。そして、中性点電流Ineuが第2閾値I2を超えた場合には、第1、第2実施形態と同様に、中性点接続経路23を通過する電流を遮断する電流遮断制御を行う。
【0053】
図9は、制御装置30が実行する制御を示すフローチャートである。図9に示すフローチャートに係る処理は、所定の制御周期で実行される。
【0054】
まず、中性点電流Ineuが、第1閾値I1よりも小さいか否かの判定がなされる(S301)。中性点電流Ineuが第1閾値I1よりも小さいと判定された場合(S301:YES)、中性点電流Ineuは過電流ではないため、目標電圧Vout’を定格電圧V1とする(S302)。一方、中性点電流Ineuが第1閾値I1よりも小さいと判定されなかった場合(S301:NO)、中性点電流Ineuが第3閾値I3よりも小さいか否かの判定がなされる(S303)。
【0055】
中性点電流Ineuが第3閾値I3よりも小さいと判定された場合(S303:YES)、目標電圧Vout’を数式1により算出し、算出された目標電圧Vout’を用いて昇圧処理を行う。すなわち、中性点電流Ineuの第1閾値I1から第3閾値I3へと上昇するのに伴い、目標電圧Vout’が直線的に減少する。
【0056】
中性点電流Ineuが第3閾値I3よりも小さいと判定されなかった場合(S303:NO)、中性点電流Ineuが第2閾値I2よりも小さいか否かの判定がなされる(S305)。中性点電流Ineuが第2閾値I2よりも小さいと判定された場合(S305:YES)、回路中で短絡は発生していないものの、中性点接続経路23には過電流が流れているため、中性点電流Ineuを第3閾値I3に保つ、上述した定電流制御が行われる(S306)。
【0057】
そして、中性点電流Ineuが第2閾値I2よりも小さいと判定されなかった場合(S305:NO)、回路中に短絡が発生しているおそれがあるため、第1実施形態及び第2実施形態に準ずる電流遮断制御を行う(S307)。
【0058】
本実施形態に係る電力変換装置は、上記構成により、第2実施形態に準ずる効果を奏する。
【0059】
<変形例>
・上記各実施形態において、中性点接続経路23に設けた中性点電流センサ26の検出値を用いて昇降圧処理を行うものとした。しかしながら、第1巻線群14の各相、及び、第2巻線群16の各相に設けられた電流センサの検出値を用いて、中性点接続経路23に流れる電流を算出し、昇降圧処理を行うものとしてもよい。また、各相のうち、1相を除く各相に電流センサを設けるものとしてもよい。上述した各実施形態では、一対のアームスイッチを用いて昇圧を行うものを例示しているが、各相又は1相を除く各相に、目標中性点電流Ineu’を各相の目標電流として分配するものとすることができる。こうすることにより、第2インバータ18bの各アームスイッチに対する負荷が分散され、それに伴い、各アームスイッチの発熱を抑制することができる。また、3相巻線の特定の相の巻線のみに電流が流れるものとならず、3相巻線の各相に電流を分散させることができる。これにより、各相巻線における発熱を抑制することもできる。
【0060】
・上記第2実施形態では、中性点電流Ineuの第1閾値I1から第3閾値I3への変化に対して、定電力制御を行うものとし、第3実施形態では、目標電圧Vout’をV1からV2にかけて直線的に降下させるものとした。しかしながら、これらに限られず、目標電圧Vout’がV1からV2にかけて単調減少していればよい。
【0061】
上記各実施形態において、第1バッテリ20aの定格電圧を12Vとし、第2バッテリ20bの定格電圧を48Vとした。しかしながら、第1バッテリ20aの定格電圧と第2バッテリ20bの定格電圧はこれに限られず、第1バッテリ20aの定格電圧が第2バッテリ20bの定格電圧よりも低ければよい。言い換えれば、2つのバッテリ間で昇圧処理を行って電力の授受を行う際に、低圧のバッテリに接続されたインバータで電流遮断制御を行い、高圧のバッテリに接続されたインバータで、電圧抑制制御を行うものであればよい。
【0062】
・上記実施形態において、回転電機を3相回転電気としたが、3相以外の多相回転電気であってもよい。
【符号の説明】
【0063】
10…モータ、14…第1巻線群、16…第2巻線群、18a…第1インバータ、18b…第2インバータ、20a…第1バッテリ、20b…第2バッテリ、23…中性点接続経路、26…中性点電流センサ、30…制御装置、N1…第1中性点、N2…第2中性点、QUn…U相下アームスイッチ、QUp…U相上アームスイッチ、QVn…V相下アームスイッチ、QVp…V相上アームスイッチ、QWn…W相下アームスイッチ、QWp…W相上アームスイッチ、QXn…X相下アームスイッチ、QXp…X相上アームスイッチ、QYn…Y相下アームスイッチ、QYp…Y相上アームスイッチ、QZn…Z相下アームスイッチ、QZp…Z相上アームスイッチ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9