(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記押圧機構は、前記所定の変速段でエンジンブレーキを効かせる場合、および前記後進変速段が設定されている場合に、前記第2部材を前記第1部材側に押圧するように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の自動変速機。
前記押圧機構は、前記第2部材を軸線方向における一方側に押圧する弾性体と、該弾性体により前記第2部材が押圧される荷重に対抗した荷重を発生させるアクチュエータとを備えていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の自動変速機。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された自動変速機に、特許文献2および特許文献3に記載されている噛み合い式の係合機構を適用することができる。しかしながら、その噛み合い式の係合機構は、ドグ歯にトルクが作用している際には、ドグ歯同士の歯面に摩擦力が生じる。そのようにドグ歯にトルクが作用していると噛み合い式の係合機構を解放することが困難になるので、通常、ドグ歯に作用するトルクを低下させてから噛み合い式の係合機構を解放させる。このようにドグ歯に作用するトルクを低下させてから噛み合い式の係合機構を解放させる際には、ドグ歯に作用するトルクを低下させるための制御と、噛み合い式の係合機構を解放させる制御とを協調させることになるので、噛み合い式の係合機構を解放させる際の制御が複雑になる可能性がある。
【0007】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、噛み合い式の係合機構を解放させて変速する際の制御を簡素化することができる自動変速機を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、係合することにより所定の変速段を設定し、かつ所望の変速段を設定する際に解放させられる第1係合機構を備え、前記第1係合機構は、第1ドグ歯が形成された第1部材と、軸線方向に移動することにより前記第1ドグ歯に噛み合う第2ドグ歯が形成された第2部材とを備えている自動変速機において、前記第1ドグ歯は、円周方向での一方を向いた第1歯面と、円周方向での他方を向いた第2歯面とを有し、前記第2ドグ歯は、前記第1歯面と対向する第3歯面と、前記第2歯面と対向する第4歯面とを有し、前記第1歯面と前記第3歯面とは、前記所定の変速段から前記所望の変速段への変速の際に、これら第1歯面と第3歯面とを接触させる方向のトルクに応じて前記第1部材と前記第2部材とを軸線方向に離隔させるように推力を発生させる傾斜面とされ、前記第1歯面と前記第3歯面とが接触した状態を維持するように前記第2部材を前記第1部材側に押圧する押圧機構を備
え、前記第2歯面と前記第4歯面とは、前記第2歯面と前記第4歯面とを接触させてトルクを伝達する際に、前記第1部材と前記第2部材とが前記軸線方向で離隔しない歯面とされていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記所定の変速段は、複数の前進変速段のうちのいずれかの変速
段であり、前記第1係合機構は、前記所定の変速段と後進変速段とを設定する際に係合させられ
るように構成されており、前記所定の変速段では、前記第2歯面と前記第4歯面とが接触してトルクを伝達し、前記後進変速段では、前記第1歯面と前記第3歯面とが接触してトルクを伝達するように構成されていることを特徴とする自動変速機である。
【0010】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記押圧機構は、前記所定の変速段でエンジンブレーキを効かせる場合、および前記後進変速段が設定されている場合に、前記第2部材を前記第1部材側に押圧するように構成されていることを特徴とする自動変速機である。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記押圧機構は、前記第2部材を軸線方向における一方側に押圧する弾性体と、該弾性体により前記第2部材が押圧される荷重に対抗した荷重を発生させるアクチュエータとを備えていることを特徴とする自動変速機である。
【0012】
請求項5の発明は、請求項4の発明において、前記アクチュエータは、供給される油圧に応じた荷重を発生させるように構成されていることを特徴とする自動変速機である。
【0013】
請求項6の発明は、請求項4の発明において、前記アクチュエータは、通電される電流値に応じた荷重を発生させるように構成されていることを特徴とする自動変速機である。
【0014】
請求項7の発明は、請求項4ないし6のいずれかの発明において、前記弾性体は、前記第2部材を前記第1部材から離隔させる方向に弾性力を作用させるように構成され、前記第2歯面と前記第4歯面とが接触し、かつ前記アクチュエータが荷重を発生させていない場合に、前記弾性体により押圧されて前記第2部材が前記第1部材から離隔しないように、前記第2歯面と前記第4歯面とは、前記第1部材および前記第2部材の回転方向に対して傾斜して形成されていることを特徴とする自動変速機である。
【0015】
請求項8の発明は、請求項1ないし7のいずれかの発明において、相対回転可能に設けられた第3部材と第4部材とをトルク伝達可能に連結する第2係合機構を更に備え、前記所定の変速段は、前記第1係合機構を係合させるとともに、前記第2係合機構を解放させることにより設定され、かつ前記所望の変速段は、前記第1係合機構を解放させるとともに、前記第2係合機構を係合させることにより設定されるように構成されていることを特徴とする自動変速機である。
【0016】
請求項9の発明は、請求項8の発明において、前記第2係合機構は、伝達するトルク容量を変化させることができるように構成され、前記第2係合機構の伝達トルク容量の増大に伴って、前記第1部材または前記第2部材に作用するトルクの方向が次第に反転するように構成されていることを特徴とする自動変速機である。
【0017】
請求項10の発明は、請求項1ないし9のいずれかの発明において、前記第1係合機構は、ブレーキ機
構として構成されていることを特徴とする自動変速機である。
【0018】
請求項11の発明は、請求項1ないし9のいずれかの発明において、前記第1部材と前記第2部材とは相対回転可能に設けられており
、前記第1係合機構は、前記各ドグ歯が噛み合うことにより前記第1部材と前記第2部材とを連結して一体に回転させるクラッチ機
構として構成されていることを特徴とする自動変速機である。
【0019】
請求項12の発明は、請求項1ないし11のいずれかの発明において、前記所定の変速段と、前記所望の変速段とで係合させられる第3係合機構を更に備えていることを特徴とする自動変速機である。
【0020】
請求項13の発明は、請求項1ないし12のいずれかの発明において、少なくとも三つの回転要素を有する第1遊星歯車機構と、他の三つの回転要素を有する第2遊星歯車機構とを更に備え、前
記第1係合機構は、前記第1遊星歯車機構または前記第2遊星歯車機構におけるいずれかの回転要素同士を連結し、またはいずれかの回転要素を固定するように構成されていることを特徴とする自動変速機である。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、自動変速機は、第1部材と第2部材とが噛み合うことにより所定の変速段を設定し、所望の変速段を設定する際にその噛み合いを解消するように構成されている。また、各ドグ歯には、互いに対向した傾斜面が形成されており、その傾斜面同士を接触させる方向のトルクに応じて第1部材と第2部材とを軸線方向に離隔させるように構成されている。したがって、各ドグ歯における傾斜面同士が接触するように第1係合機構に伝達するトルクを制御するのみで、所定の変速段から所望の変速段へ変速することができる。そのため、上記のように変速する際における制御を簡素化することができる。また、第1歯面と第3歯面とが接触した状態を維持するように第2部材を第1部材側に押圧する押圧機構を備えているので、押圧機構を制御することにより、第1係合機構に伝達されるトルクの向きに拘わらず、第1係合機構を係合させた状態を維持することができる。すなわち、第1歯面と第3歯面とが接触するように第1係合機構に伝達されるトルクが反転した際に、第1部材と第2部材とを係合させた状態を維持するための他の装置を設ける必要がない。その結果、変速機が大型化することを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
この発明に係る自動変速機は、互いに噛み合う二つの部材を有する第1係合機構を備え、その第1係合機構を係合させることにより設定される所定の変速段から、第1係合機構を解放させることにより設定される所望の変速段に変速するように構成されている。そのように構成された自動変速機の構成の一例を
図6に示している。
図6に示す自動変速機は、車両に搭載されたものであって、従来知られているダブルピニオン型の遊星歯車機構(以下、第1遊星歯車機構1と記す)と、ラビニョ型の遊星歯車機構(以下、第2遊星歯車機構2と記す)とを有している。この自動変速機は、駆動力源であるエンジン3の出力軸4に、図示しないトルクコンバータを介して連結されており、入力されたトルクや回転数を変化させて出力するように構成されている。より具体的には、前進第1速段から前進第8速段までの変速段と、後進第1速段および後進第2速段の変速段とを設定することができるように構成され、エンジン3の目標回転数や、要求される駆動力などに応じていずれかの変速段を設定するように構成されている。
【0024】
図6に示す自動変速機の構成を具体的に説明すると、まず、第1遊星歯車機構1は、ハウジングなどの固定部5に連結された第1サンギヤ6と、第1サンギヤ6に噛み合う第1インナーピニオンギヤ7と、第1インナーピニオンギヤ7に噛み合う第1アウターピニオンギヤ8と、第1アウターピニオンギヤ8に噛み合う第1リングギヤ9と、第1インナーピニオンギヤ7および第1アウターピニオンギヤ8を自転および公転可能に保持し、かつ入力軸10に連結された第1キャリヤ11とによって構成されている。すなわち、第1遊星歯車機構1は、エンジン3が駆動力を出力している際に、第1キャリヤ11が入力要素として機能し、第1サンギヤ6が反力要素として機能し、第1リングギヤ9が出力要素として機能するように構成された、三つの回転要素を有する差動機構である。また、第1遊星歯車機構1は、減速機として機能する。
【0025】
図6に示す第2遊星歯車機構2は、入力軸10と同心円上に配置された第2サンギヤ12および第3サンギヤ13と、第3サンギヤ13に噛み合う第2インナーピニオンギヤ14と、第2インナーピニオンギヤ14および第2サンギヤ12に噛み合う第2アウターピニオンギヤ15と、第2インナーピニオンギヤ14および第2アウターピニオンギヤ15を自転および公転可能に保持する第2キャリヤ16と、第2アウターピニオンギヤ15に噛み合う第2リングギヤ17とによって構成されている。すなわち、第2遊星歯車機構2は、第2キャリヤ16および第2リングギヤ17を共有したシングルピニオン型の遊星歯車機構およびダブルピニオン型の遊星歯車機構により構成されている。したがって、この第2遊星歯車機構2は、第2サンギヤ12、第3サンギヤ13、第2キャリヤ16、第2リングギヤ17の四つの回転要素を有する差動機構として構成されている。
【0026】
さらに、上述した第1遊星歯車機構1における各回転要素と、第2遊星歯車機構2における各回転要素とを選択的に係合させる複数のクラッチや、いずれかの回転要素を停止させるブレーキが設けられている。具体的には、第1リングギヤ9と第3サンギヤ13とを連結するように第1クラッチC1が設けられ、入力軸10または第1キャリヤ11と第2キャリヤ16とを連結するように第2クラッチC2が設けられ、第1リングギヤ9と第2サンギヤ12とを連結するように第3クラッチC3が設けられ、第1キャリヤ11と第2サンギヤ12とを連結するように第4クラッチC4が設けられている。これら各クラッチC1,C2,C3,C4は、油圧アクチュエータや電磁アクチュエータなどの制御量に基づいて伝達トルク容量を変更することができるように構成されている。以下の説明では、摩擦力によりトルクを伝達し、かつ油圧アクチュエータに供給される油圧に応じて、その伝達トルク容量を変化させることができるように構成された摩擦クラッチを例に挙げて説明する。
【0027】
また、ハウジングなどの固定部5と第2サンギヤ12とを連結することにより、第2サンギヤ12を停止させるように第1ブレーキB1が設けられ、同様に固定部5と第2キャリヤ16とを連結することにより、第2キャリヤ16を停止させるように第2ブレーキB2が設けられている。なお、
図6に示す例では、第1ブレーキB1は、摩擦力を変化させること、すなわち、伝達トルク容量を変化させることにより第2サンギヤ12に作用させる制動力を制御することができる摩擦ブレーキによって構成され、第2ブレーキB2は、第2キャリヤ16と固定部5とが噛み合うことにより第2キャリヤ16を停止させるように構成されている。この第2ブレーキB2が、この発明を実施した場合における第1係合機構に相当する。
【0028】
そして、エンジン3や各係合機構などを制御するための電子制御装置(以下、ECU18と記す)が設けられている。このECU18は、従来知られたものと同様にマイクロコンピュータを主体として構成されたものであって、図示しないセンサから信号が入力され、その入力された信号と予め記憶されたマップや演算式などとによりエンジン3や各係合機構に出力する信号を定め、その定められた信号を出力するように構成されている。その一例としては、車速センサにより検出された車速と、アクセル開度センサにより検出されたアクセル開度との信号が、ECU18に入力される。そして、ECU18には、従来知られているように車速とアクセル開度とをパラメータとして予め用意された変速マップが記憶されており、上記入力された信号と変速マップとにより変速段を定める。ついで、その定められた変速段となるように、上記の各クラッチや各ブレーキに信号を出力する。その際に、変速段が変化することによるショックを抑制するためなど、種々の条件に応じて摩擦クラッチや摩擦ブレーキなどの伝達トルク容量を制御してもよい。
【0029】
各変速段を設定する際に係合させられる係合機構を、
図7の係合表に示している。なお、
図7において「○」は、クラッチまたはブレーキが係合している状態を示し、「−」は、クラッチまたはブレーキが解放している状態を示している。
図7に示すように、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とを係合させることにより前進第1速段が設定され、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とを係合させることにより前進第2速段が設定され、第1クラッチC1と第3クラッチC3とを係合させることにより前進第3速段が設定され、第1クラッチC1と第4クラッチC4とを係合させることにより前進第4速段が設定され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とを係合させることにより前進第5速段が設定され、第2クラッチC2と第4クラッチC4とを係合させることにより前進第6速段が設定され、第2クラッチC2と第3クラッチC3とを係合させることにより前進第7速段が設定され、第2クラッチC2と第1ブレーキB1とを係合させることにより前進第8速段が設定される。また、第2ブレーキB2と第3クラッチC3とを係合させることにより後進第1速段が設定され、第2ブレーキB2と第4クラッチC4とを係合させることにより後進第2速段が設定される。なお、前進第6速段を設定している際の変速比が「1」となり、前進第1速段から前進第5速段までの変速段を設定している際の変速比は、「1」よりも大きくなり、前進第7速段および前進第8速段を設定している際の変速比は、「1」未満となる。また、上記前進第1速段が、この発明を実施した場合における所定の変速段に相当し、上記前進第2速段が、この発明を実施した場合における所望の変速段に相当し、第1ブレーキB1が、この発明を実施した場合における第2係合機構に相当し、第1クラッチC1が、この発明を実施した場合における第3係合機構に相当する。
【0030】
図8は、各変速段毎における各回転要素の運転状態を共線図で示している。なお、
図8における縦軸は、各回転要素の回転数を示しており、また、変速機に入力される回転数を一定として示している。以下の説明では、各回転要素の回転方向が、エンジン3の回転方向と同一方向の場合を、正回転と記し、エンジン3の回転方向と反対方向の場合を、負回転と記す。また、負回転で回転している際に、その回転数を低下させる方向に作用するトルク、または正回転で回転している際に、その回転数を増大させる方向に作用するトルクを、正トルクと記し、正回転で回転している際に、その回転数を低下させる方向に作用するトルク、または負回転で回転している際に、その回転数を増大させる方向に作用するトルクを、負トルクと記す。したがって、
図8では、正回転が、「0」よりも上側となり、負回転が、「0」よりも下側になり、各回転要素に対して上方向に作用するトルクが、正トルクとなり、下方向に作用するトルクが、負トルクとなる。
【0031】
上述したように第1遊星歯車機構1は、減速機として機能するように構成されており、エンジン3から伝達されたトルクを増幅して第1リングギヤ9から出力するように構成されている。また、前進第1速段では、第1クラッチC1が係合させられている。すなわち、上述したように第1リングギヤ9と第3サンギヤ13とが第1クラッチC1を介して連結されている。したがって、エンジン3から第1リングギヤ9を介して第3サンギヤ13に正トルクが入力されるので、その第3サンギヤ13が、第2遊星歯車機構2の入力要素として機能する。また、前進第1速段では、第2ブレーキB2が係合して第2キャリヤ16と固定部5とを連結しているので、第2キャリヤ16の回転数が「0」になるように維持される。したがって、その第2キャリヤ16が、第2遊星歯車機構2の反力要素として機能する。その結果、変速機に入力されたトルクは、変速機のギヤ比に応じて増幅されて第2リングギヤ17から出力される。なお、エンジン3から駆動力を出力している際には、第2キャリヤ16に負トルクが伝達される。
【0032】
また、前進第2速段も前進第1速段と同様に第1クラッチC1が係合させられている。したがって、エンジン3から第1リングギヤ9を介して第3サンギヤ13に正トルクが入力されるので、その第3サンギヤ13が、第2遊星歯車機構2の入力要素として機能する。一方、前進第2速段では、第1ブレーキB1が係合して第2サンギヤ12と固定部5とを連結しているので、第2サンギヤ12の回転数が「0」になるように維持される。したがって、その第2サンギヤ
12が、第2遊星歯車機構2の反力要素として機能する。その結果、変速機に入力されたトルクは、変速機のギヤ比に応じて増幅されて第2リングギヤ17から出力される。
【0033】
上記のように設定される前進第1速段から前進第2速段にアップシフトする際には、第2ブレーキB2を解放するとともに、第1ブレーキB1を係合させる。一方、第2ブレーキB2は、上述したように噛み合いによってトルクを伝達するように構成されている。このように噛み合いによってトルクを伝達するブレーキは、伝達トルク容量を制御することができない。したがって、第2キャリヤ16が反力要素として機能しているときには、第2ブレーキB2に大きなトルクが掛かることにより、噛み合い面に大きな摩擦力が作用するので、第2ブレーキB2が解放しにくくなる場合がある。そのため、この自動変速機では、第1ブレーキB1の伝達トルク容量を増大させて前進第1速段での反力として機能させることにより、第2ブレーキB2に掛かるトルクを低下させて、第2ブレーキB2を解放させるように構成されている。すなわち、前進第1速段を設定して走行している際に、第2ブレーキB2に掛かる負トルクを低下させるように構成されている。
【0034】
一方、第2ブレーキB2にトルクが掛かることを抑制するように第1ブレーキB1の伝達トルク容量を増大させ、その後に、第2ブレーキB2を解放させ、更にその後に、第1ブレーキB1の伝達トルク容量を増大させることにより、前進第2速段に移行する場合には、第2ブレーキB2が完全に解放されたことを判断した後に、第1ブレーキB1を係合させるためにその第1ブレーキB1の伝達トルク容量を増大させる必要がある。そのため、第2ブレーキB2が完全に解放されたことを検出するセンサなどを設けると装置が大型化してしまう可能性があり、または第2ブレーキB2が解放されたことを待つことを要因として変速応答性が低下する可能性がある。また、第2ブレーキB2を解放させる制御と、第1ブレーキB1の伝達トルク容量を変化させる制御とを協調させることになるため、変速制御が複雑になる可能性がある。
【0035】
そのため、この自動変速機は、第2キャリヤ16に正トルクが伝達されるように、第1ブレーキB1の伝達トルク容量を増大させることにより、第2ブレーキB2を解放することができるように構成されている。
図1は、その第2ブレーキB2の構成を説明するための模式図である。
図1に示す第2ブレーキB2は、固定部5にスプライン係合したピストン19と、第2キャリヤ16とが噛み合うように構成されている。具体的には、第2キャリヤ16の側面とピストン19とが軸線方向で対向して設けられており、第2キャリヤ16におけるピストン19に対向した面には、軸線方向に突出した第1ドグ歯20が、円周方向に所定の間隔を空けて複数形成され、ピストン19における第2キャリヤ16に対向した面には、軸線方向に突出しかつ第1ドグ歯20と噛み合う第2ドグ歯21が、円周方向に所定の間隔を空けて複数形成されている。上述したようにこのピストン19は、固定部5とスプライン係合している。したがって、ピストン19は、軸線方向に移動することができ、かつ回転方向においては停止している。なお、ピストン19が、この発明を実施した場合における第2部材に相当する。
【0036】
このピストン19に軸線方向の押圧力を付与するための押圧機構22が設けられている。
図1に示す例では、ピストン19が第2キャリヤ16から離隔するように、そのピストン19に荷重を作用させるリターンスプリング23と、そのリターンスプリング23のバネ力に対抗して押圧力を作用させるように、ピストン19の背面(第2キャリヤ16と対向した面とは反対側の面)側に設けられた油圧アクチュエータ24とによって押圧機構22が構成されている。したがって、
図1に示すピストン19は、油圧アクチュエータ24に供給される油圧を増大させることにより、ピストン19が第2キャリヤ16に接近し、それとは反対に、油圧アクチュエータ24に供給された油圧を低下させることにより、リターンスプリング23のバネ力によってピストン19が第2キャリヤ16から離隔するように構成されている。なお、ピストン19が第2キャリヤ16に接近するようにリターンスプリング23のバネ力を作用させ、そのバネ力に対抗した荷重、すなわち、ピストン19が第2キャリヤ16から離隔する方向の荷重を油圧アクチュエータ24が発生するように構成していてもよい。
【0037】
また、
図1に示すそれぞれのドグ歯20,21は、前進第1速段を設定している際に油圧アクチュエータ24に供給する油圧を低下させることができるように構成されている。具体的には、第1ドグ歯20と第2ドグ歯21とが接触している際に、ピストン19に対して、第2キャリヤ16から離隔させる推力が生じにくいように、各ドグ歯20,21の歯面が形成されている。
図1に示す例では、前進第1速段を設定して車両が走行している際にドグ歯20,21同士が接触する側面、すなわち、第1ドグ歯20と第2ドグ歯21とが対向した歯面25,26が、回転方向に対してほぼ直交して形成されている。これら、前進第1速段を設定して車両が走行している際に接触する第1ドグ歯20の歯面25が、この発明を実施した場合における第2歯面に相当し、第2ドグ歯21の歯面26が、この発明を実施した場合における第4歯面に相当する。
【0038】
なお、
図1に示す例では、各歯面25,26が回転方向に対して直交して形成されているが、要は、各歯面25,26が接触してトルクを伝達している際に
、ピストン19が第2キャリヤ16から離隔しなければよい。すなわち、各歯面25,26が接触してトルクを伝達する際に生じる軸線方向の荷重、より具体的には、歯面
25,26で生じる摩擦力のうちの軸線方向の成分と、リターンスプリング23のバネ力と、ピストン19および固定部5に生じる摩擦力との合力が、ピストン19を第2キャリヤ16から離隔させる方向に作用しなければよい。したがって、各歯面25,26は、
図1に破線で示すように各ドグ歯20,21の頂部と歯面25,26とがなす角度が鈍角となるように形成されていてもよく、
図1に一点鎖線で示すように頂部と歯面25,26とがなす角度が鋭角となるように形成されていてもよい。なお、頂部と歯面25,26とがなす角度が鈍角となるように形成する場合には、上記のように各歯面25,26が接触してトルクを伝達している際に
、ピストン19が第2キャリヤ16から離隔しないように、その傾斜角度を定めればよい。
【0039】
一方、前進第1速段を設定している際に、第1ブレーキB1の伝達トルク容量を増大させ始めると、まず、第2キャリヤ16に伝達される負トルクが低下する。そして、第1ブレーキB1の伝達トルク容量を更に増大させると、第2キャリヤ16に伝達されるトルクの向きが反転して正トルクとなる。すなわち、第1ブレーキB1の伝達トルク容量の増大に伴って第2キャリヤ16に伝達されるトルクの向きが次第に反転する。そのように第2キャリヤ16に伝達されるトルクの向きが反転すると、ドグ歯20,21の噛み合いが反転する。そのため、この自動変速機では、ドグ歯20,21の噛み合いを反転させ、かつ歯面27,28を接触させる方向のトルクに応じて、ピストン19が第2キャリヤ16から離隔する推力を発生させるように構成されている。具体的には、各ドグ歯20,21の噛み合いが反転することにより接触する歯面27,28を、その歯面27,28と頂部とがなす角度が鈍角となるように傾斜させている。なお、歯面27,28は、各歯面25,26と円周方向で反対方向を向いており、この発明を実施した場合における第1歯面と第3歯面とに相当する。
【0040】
ここで、各傾斜面27,28の形状について具体的に説明する。各ドグ歯20,21は、軸線方向と各歯面27,28とが成す角度θが所定値以上大きくなるように形成されている。すなわち、各歯面27,28が接触することにより、各歯面27,28に掛かるトルクに応じて、第2キャリヤ16からピストン19が離隔する方向に、そのピストン19に荷重を作用させるように構成されている。この傾斜角度θは、以下の式を満たす角度に設定することが好ましい。
B−C−μ
1×F>0 …(1)
【0041】
なお、式(1)におけるBは、歯面28に荷重が作用した際に第2キャリヤ16からピストン19を離隔させるように、第2キャリヤ16に伝達されるトルクに応じてピストン19に作用する荷重である。この式(1)におけるBは、歯面28に掛かる垂直抗力Aと傾斜角度θに基づいて算出することができる。具体的には、以下により式(1)におけるBを算出することができる。なお、以下の式におけるFは、ピストン19に作用する回転方向の荷重である。
B=A×sinθ …(2)
A=F/cosθ …(3)
【0042】
また、ピストン19が軸線方向に移動することにより摩擦力が生じるので、その摩擦力の軸線方向の成分が、ピストン19に作用する。その摩擦力の軸線方向の成分が、式(1)におけるCである。そのため、Cは、以下の式で求めることができる。なお、以下の式におけるμ
2は、各ドグ歯20,21の接触面での摩擦係数である。
C=μ
2×A×cosθ …(4)
【0043】
さらに、式(1)における「μ
1×F」は、ピストン19と固定部5とにより生じる摩擦力であって、μ
1は、ピストン19と固定部5との接触面での摩擦係数である。
【0044】
したがって、式(1)では、押圧機構22がピストン19を押圧していない状態で各歯面27,28にトルクが掛かった場合に、ピストン19が移動することができる条件を示している。なお、リターンスプリング23は常時ピストン19を押圧するので、式(1)における左辺に、そのリターンスプリング23のバネ力を加算してもよい。
【0045】
上述したように第2ブレーキB2を構成することにより、第1ブレーキB1により伝達するトルクを制御することで、ピストン19に荷重を作用させて第2ブレーキB2を解放させることができる。具体的には、前進第1速段が設定されているときに、第1ブレーキB1の伝達トルク容量を増大させることにより、第1ブレーキB1がその伝達トルク容量に応じた反力トルクを受け持つ。そのため、第2ブレーキB2に掛かるトルクが次第に低下する。すなわち、第1ブレーキB1と第2ブレーキB2とが反力トルクを受け持つことになる。第1ブレーキB1の伝達トルク容量を更に増大させることにより、第2キャリヤ16には、正トルクが伝達されることになり、第2ブレーキB2の噛み合い方向が反転する。そのように第2ブレーキB2の噛み合い方向が反転することにより歯面27,28が接触するので、押圧機構22によりピストン19を第2キャリヤ16側に押圧していなければ、より具体的には、油圧アクチュエータ24に供給されたオイルを排出すれば、第2ブレーキB2が解放させられる。
【0046】
一方、
図6に示す自動変速機は、
図7および
図8に示すように後進第1速段および後進第2速段を設定するためには、第2ブレーキB2を係合させる必要がある。すなわち、第2キャリヤ16を反力要素として機能させる必要がある。しかしながら、
図7および
図8に示すように後進第1速段および後進第2速段では、第2サンギヤ12が入力要素として機能するので、後進走行時には、第2キャリヤ12に正方向のトルクが伝達される。したがって、後進走行時には、歯面27,28が接触するようにトルクが入力される。このようにトルクが入力されると、上述したようにピストン19が第2キャリヤ16から離隔するように、そのピストン19
における歯面28に軸線方向の荷重
が掛かる。同様に、前進第1速段を設定している際に、エンジン3のポンピングロスなどにより制動力を作用させる、いわゆるエンジンブレーキ時には、第2キャリヤ12に正方向のトルクが伝達されて、ピストン19が第2キャリヤ16から離隔するように、そのピストン19における歯面28に軸線方向の荷重が掛かる。そのため、この自動変速機は、後進走行時およびエンジンブレーキ時には、押圧機構22により、ピストン19を第2キャリヤ16側に押圧するように構成されている。より具体的には、油圧アクチュエータ24に油圧を供給して、ピストン19が第2キャリヤ16から離隔しないように、言い換えると、係合状態を維持するように構成されている。
【0047】
つぎに、上述したように構成された自動変速機の制御の一例を、
図5に示すフローチャートを参照して説明する。なお、
図5に示すフローチャートは、所定時間毎に繰り返し実行されている。
図5に示す例では、まず、前進第1速段から前進第2速段への変速の要求があるか否かが判断される(ステップS1)。具体的には、現状設定されている変速段が、前進第1速段であって、車速とアクセル開度とに応じてその前進第1速段から前進第2速段への変速の要求があるか否かを判断し、または、シフトレバーの位置や各種のスイッチの操作などに応じて変速の要求があるか否かを判断する。なお、アクセルペダルが踏み込まれている状態でアップシフトが要求されている時には、変速応答性を向上させることが好ましいので、アクセルペダルが踏み込まれている状態で、車速が所定の車速以上になることにより、前進第1速段から前進第2速段への変速の要求がある場合に、この制御を開始してもよい。
【0048】
前進第1速段から前進第2速段への変速の要求があり、ステップS1で肯定的に判断された場合には、第2キャリヤ16に伝達される負トルクを低下させるため、または第2キャリヤ16に正トルクを伝達させるために、第1ブレーキB1の伝達トルク容量を増大させる(ステップS2)。具体的には、まず、第2ブレーキB2に掛かるトルクを「0」にするために、第1ブレーキB1に要求される伝達トルク容量を算出する。これは、車速と、入力軸10のトルクおよび回転数と、ギヤ比とに基づいて算出することができる。ついで、ピストン19を移動させるために要する第1ブレーキB1の伝達トルク容量を算出する。具体的には、ピストン19を離隔させるための時間を求め、その時間でピストン19を離隔させることができるように第1ブレーキB1の伝達トルク容量を算出する。なお、ピストン19を離隔させるための時間は、アクセル開度や車速の変化率に基づいてイナーシャ相に移行させるまでの時間を定め、その時間に基づいてピストン19を離隔させるまでの時間を定めることができる。また、上述したようにピストン19には、第2キャリヤ16に伝達されるトルクに応じて軸線方向の荷重が作用する。したがって、上記のように定められたピストン19を解放させるまでの時間と、ピストン19が噛み合っている軸線方向の長さとに基づいてピストン19に作用させる荷重を求め、その荷重に基づいて第1ブレーキB1の伝達トルク容量を算出することができる。そして、上述したように第2ブレーキB2に作用するトルクを「0」にするために、第1ブレーキB1に要求される伝達トルク容量と、変速速度に応じて算出される第1ブレーキB1の伝達トルク容量とを加算し、その加算された伝達トルク容量を目標値として、第1ブレーキB1の伝達トルク容量を増大させる。
【0049】
さらに、第2ブレーキB2を制御する油圧アクチュエータ24の油圧を低下させる(ステップS3)。すなわち、ピストン19に作用させる推力を低下させる。具体的には、油圧アクチュエータ24の油圧室からオイルを排出させる。なお、ステップS3は、第2ブレーキB2を係合させている状態であっても、油圧アクチュエータ24に油圧を供給している場合に判断するものである。すなわち、上述したように頂部と各歯面25,26とがなす角度が、鋭角に形成されている場合には、第2ブレーキB2を係合させている際にピストン19が第2キャリヤ16から離隔することがないので、油圧アクチュエータ24に油圧を供給する必要がない。そのため、第2ブレーキB2を係合させている際に油圧アクチュエータ24に油圧が供給する必要がないように構成されている場合には、ステップS3を実行しなくてもよい。また、ステップS3では、油圧を制御しながら低下させてもよく、単にオイルをドレーンしてもよい。なお、ステップS3をステップS2に先行して開始してもよく、ステップS2とステップS3とを同時に開始してもよい。
【0050】
上述したように第1ブレーキB1の伝達トルク容量を増大させることにより、第2キャリヤ16に伝達される負トルクが次第に低下し、その後に、第2キャリヤ16に正トルクが伝達される。その結果、各歯面27,28が接触する。その際には、油圧アクチュエータ24の油圧が低下させられているので、各歯面27,28が接触してトルクが掛かると、ピストン19が第2キャリヤ16から離隔する。また、第1ブレーキB1は、前進第2速段を設定するために係合させられる係合機構であり、かつ前進第1速段から前進第2速段への変速時に、第1ブレーキB1は、前進第1速段を維持するために要する伝達トルク容量よりも大きな伝達トルク容量に設定される。そのため、各ドグ歯20,21の噛み合いが解消されると同時に第2キャリヤ12の回転数が、「0」に近づくように変化し、それに伴って、エンジン3の回転数が低下する。そして、第1ブレーキB1が係合させられる。したがって、ステップS3についで、第1ブレーキB1が係合したか否かを判断する(ステップS4)。このステップS4は、車速と前進第2速段におけるギヤ比とに基づいて算出されるエンジン回転数と、実際のエンジン回転数とが一致したか否かにより判断することができる。
【0051】
なお、上述したように第2ブレーキB2が解放されると同時に第2サンギヤ12の回転数とエンジン回転数とが変化し始めてイナーシャ相に移行する。このイナーシャ相に移行する際には、上述したようにエンジン回転数が低下するので、エンジン回転数を検出することにより、イナーシャ相に移行したか否かを判断することができる。そのようにイナーシャ相に移行したことを判断した場合に、第1ブレーキB1の伝達トルク容量とエンジン3の出力トルクとを、イナーシャ相時の制御に切り替えてもよい。
【0052】
第1ブレーキB1が未だ係合させられておらず、ステップS4で否定的に判断された場合には、第1ブレーキB1が係合させられるまで、ステップS2およびステップS3を繰り返し実行する。それとは反対に、第1ブレー
キB1が係合させられてステップS4で肯定的に判断された場合には、そのままこのルーチンを一旦終了する。
【0053】
一方、現在の変速段が前進第1速段でなく、または現在の変速段が前進第1速段であるものの前進第2速段への変速が要求されておらず、ステップS1で否定的に判断された場合には、ついで、前進第1速段を設定した状態でエンジンブレーキを作用させる運転状態か否かが判断される(ステップS5)。このステップS5は、従来知られたフューエルカット制御が実行されているか否か、またはアクセル開度と車速とから定められる変速段が前進第1速段でないものの、シフトレバーの操作により前進第1速段が選択されているか否かなどに基づいて判断することができる。
【0054】
エンジンブレーキを作用させる運転状態であり、ステップS5で肯定的に判断された場合には、ピストン19が第2キャリヤ16から離隔しないように油圧アクチュエータ24の油圧を増大させて(ステップS6)、このルーチンを一旦終了する。このステップS6による油圧アクチュエータ24の目標油圧は、歯面27,28の傾斜角度と、伝達されるトルクとに基づいて算出することができる。
【0055】
それとは反対に、エンジンブレーキを作用させる運転状態でなく、ステップS5で否定的に判断された場合には、リバースレンジが選択されているか否かを判断する(ステップS7)。このステップS7は、シフトレバーの位置を検出することにより判断することができる。リバースレンジが選択されており、ステップS7で肯定的に判断された場合には、ステップS6に移行して、油圧アクチュエータ24の油圧を増大させる。それとは反対に、リバースレンジが選択されておらず、ステップS7で否定的に判断された場合には、このままこのルーチンを一旦終了する。
【0056】
上述したように第2ブレーキB2におけるピストン19に傾斜面を形成することにより、変速後における変速段を設定する第1ブレーキB1の伝達トルク容量を増大させると、ピストン19が解放させられるように第2ブレーキB2にトルクが掛かるので、その第2ブレーキB2を解放させることができる。すなわち、変速時に、第1ブレーキB1の伝達トルク容量を制御すれば、第2ブレーキB2を解放させることができる。なお、その際に、油圧アクチュエータ24の油圧を低下させることが好ましいが、その油圧アクチュエータ24の油圧は、単に低下させればよく、第1ブレーキB1の伝達トルク容量がどの程度増大したかなどを検出して油圧を制御する必要がない。すなわち、第1ブレーキB1の伝達トルク容量の制御と協調させる必要がない。そのため、第2ブレーキB2が係合させられて設定される変速段から、その第2ブレーキB2を解放させて設定される変速段への変速制御が複雑になることを抑制することができる。また、第2ブレーキB2に掛かるトルクが低下したことを判断するためや、第2ブレーキB2が解放されたことを判断するための時間を要することなく、上述したように第2ブレーキB2が解放させられると同時にイナーシャ相に移行することができる。その結果、変速応答性を向上させることができる。さらに、ピストン19を第2キャリヤ16により押圧して第2ブレーキB2を解放させるので、ピストン19の移動速度を向上させることができ、その結果、第2ブレーキB2を解放させ始めてから解放させ終わるまでの時間を短くすることができる。そのため、より一層変速応答性を向上させることができる。
【0057】
また、上述したように変速制御を簡素化するために、ドグ歯における一方の歯面を傾斜して形成したとしても、エンジンブレーキを作用させる時や後進走行時に、押圧機構22によりピストン19を第2キャリヤ16側に押圧することができる。その結果、要求される走行状態などに応じて第2ブレーキB2を係合させた状態を維持することができる。そのため、摩擦クラッチなどの他の装置を設ける必要がなく自動変速機を小型化することができる。また、摩擦クラッチは、通常、摩擦プレートを対向させて配置し、その摩擦プレートの耐久性の低下を抑制するために、常時、潤滑油が供給されている。そのため、摩擦クラッチを設けた場合には、摩擦プレート同士の間に介在する潤滑油によって引きずり損失が生じるが、上記の自動変速機では、第2ブレーキB2と並列に摩擦クラッチを設ける必要がないので、引きずり損失が生じることを抑制することができる。また、上記のように前進第1速段が設定されて各歯面25,26が接触する際には、ピストン19が第2キャリヤ16から離隔するように荷重が作用しにくい。したがって、摩擦力によって動力を伝達する係合機構とした構成よりも、前進第1速段が設定されている際に、油圧アクチュエータ24に供給する油圧を低下させることができる。
【0058】
なお、この発明における第1係合機構は、最大変速比となる変速段(前進第1速段)を設定する際に係合させられるものに限らず、例えば、前進第2速段を設定する際に係合させられる係合機構であってもよい。すなわち、
図6における第1ブレーキB1を、
図1に示すようにドグ歯に傾斜面が形成された噛み合い式のブレーキとしてもよい。その場合には、前進第2速段から前進第3速段へ変速する際に、第3クラッチC3の伝達トルク容量を増大させることにより、第1ブレーキB1が解放されて変速することができる。
【0059】
また、この発明における第1係合機構は、回転部材を停止させるように機能するものに限定されず、相対回転する部材を連結する、いわゆるクラッチとして機能するように構成されたものであってもよい。具体的には、
図6における第1クラッチC1を、
図1に示すようにドグ歯に傾斜面が形成された噛み合い式のクラッチに置き換えてもよい。そのように第1クラッチC1を噛み合い式のクラッチに置き換えた場合には、前進第5速段から前進第6速段に移行する際に、第4クラッチC4の伝達トルク容量を増大させることにより、第1クラッチC1を解放させるようにトルクを作用させることができる。
【0060】
さらに、上述した例では、前進第1速段から前進第2速段へアップシフトする例を示したが、前進第1速段から前進第3速段へ、または前進第4速段へのアップシフトなど前進第2速段よりも高い変速段へ変速する場合にも適応することができる。そのようにいわゆる「飛び変速」を行う場合には、前進第3速段へアップシフトする際に第3クラッチC3の伝達トルク容量を増大させればよく、前進第4速段へアップシフトする際に第4クラッチC4の伝達トルク容量を増大させればよい。
【0061】
また、
図1には、第2キャリヤ16とピストン19とが対向する面にドグ歯を形成した構成を例に挙げて示しているが、従来知られているドグクラッチと同様に回転部材の外周面にドグ歯を形成し、そのドグ歯に噛み合うスリーブを軸線方向に移動させて、固定部5と回転部材とを係合させるように構成していてもよい。そのようにスリーブによってドグ歯を噛み合わせるように構成した場合には、ドグ歯の歯面とスリーブの端面、または第2キャリヤ16の端面とがなす角度が、上述した例における傾斜角度θに相当するように形成すればよい。
【0062】
つぎに、この発明における押圧機構の他の構成例を説明する。
図2は、その一例を説明するための模式図である。
図2に示す例は、電磁力によりピストン19を押圧するように構成されている。この例では、固定部5の内部にコイル29が設けられており、そのコイル29に通電することにより、ピストン19にその電流値に応じた押圧力が作用するように構成されている。すなわち、コイル29およびピストン19が電磁アクチュエータとして機能し、その電磁アクチュエータとリターンスプリング23とにより押圧機構が構成されている。なお、他の構成は、
図1に示す例と同様である。このように構成することにより、第2ブレーキB2を解放させる際には、コイル29への通電を停止し、または、ピストン19を第2キャリヤ16から離隔させるように、第2ブレーキB2を係合させるようにコイル29に通電する際とは反対方向に電流を流すことで、歯面27,28に荷重が作用したときに、第2ブレーキB2を解放させることができる。
【0063】
また、
図1および
図2に示す例では、ピストン19にドグ歯20,21を形成した例を示しているが、
図3に示すように、一方の端部に油圧を受けて軸線方向に移動するピストン19が連結され、ドグ歯20に噛み合うドグ歯21を有する噛み合い部材30が他方の端部に連結されたシフトフォーク31を備えた構成であってもよい。すなわち、
図3に示す例では、油圧アクチュエータによる軸線方向の推力を、シフトフォーク31により噛み合い部材30に伝達するように構成されており、したがって、その油圧アクチュエータおよびシフトフォーク31ならびに噛み合い部材30により押圧機構22が構成されている。
【0064】
さらに、
図4に示すようにいわゆるボールカム機構32によりピストン19を押圧するように構成されていてもよい。ここで、
図4に示す構成を簡単に説明すると、
図4に示すボールカム機構32は、ピストン19の背面側が回転方向に対して傾斜して形成されており、その傾斜面に対向した傾斜面が形成された回転部材33を備えている。そして、それら傾斜した面にボール34が挟み付けられている。また、回転部材33の側面のうち傾斜面が形成された側面とは反対側の側面には、軸線方向に突出した突部35が形成されている。なお、突部35の先端面は、固定部5に接触するように配置されている。すなわち、回転部材33は、軸線方向に移動できないように配置されている。そして、突部35に作用する油圧に基づいて回転部材33にトルクが生じるように油圧室36が形成されている。
【0065】
このように構成されたボールカム機構32は、油圧室36に油圧を供給することにより突部35が円周方向に押圧されて回転部材33にトルクが生じる。そのトルクは、傾斜面と接触するボール34を介してピストン19に伝達され、そのピストン19に伝達されるトルクとピストン19に形成された傾斜面の傾斜角度とに応じてピストン19が軸線方向に押圧される。一方、油圧室36の油圧を低下させ、かつ上述したようにドグ歯27,28に荷重が作用すると、ピストン19が回転部材33側に押圧される。そのようにピストン19が押圧されると、ボール34および回転部材33は、軸線方向に押圧されるが、回転部材33は、上述したように軸線方向に移動できないように配置されている。そのため、回転部材33を回転させるようにボール34が傾斜面を転がり、かつ回転部材33が回転する。その結果、ピストン19が第2キャリヤ16から離隔する。すなわち、回転部材33が油圧アクチュエータとして機能する。このように構成された場合であっても、油圧室36に供給する油圧を制御することにより、歯面27,28が接触してトルクが作用する際に、第2ブレーキB2を係合させた状態を維持することや、第2ブレーキB2を解放させることを選択的に切り替えることができる。
【0066】
つぎに、この発明の対象とすることができる自動変速機の他の例を、
図9に示すスケルトン図を参照して簡単に説明する。なお、
図6に示す自動変速機と同様の構成については、同一の参照符号を付して、その説明を省略する。
図9に示す自動変速機は、前進第1速段から前進第6速段までの変速段と、後進第1速段とを設定することができるように構成されている。具体的には、シングルピニオン型の遊星歯車機構(以下、第3遊星歯車機構37と記す)と、ラビニョ型の遊星歯車機構(以下、第4遊星歯車機構38と記す)とにより構成されている。
【0067】
図9に示す第3遊星歯車機構37は、図示しないトルクコンバータを介してエンジン3に連結された第4サンギヤ39と、その第4サンギヤ39と同心円上に配置された第3リングギヤ40と、第4サンギヤ39および第3リングギヤ40に噛み合うピニオンギヤ41と、そのピニオンギヤ41を自転および公転可能に保持する第3キャリヤ42とにより構成されている。
【0068】
また、
図9に示す第4遊星歯車機構38は、入力軸10と同心円上に配置されかつ第3キャリヤ42に連結された第5サンギヤ43と、入力軸10と同心円上に配置されかつ第5サンギヤ43に隣り合って配置された第6サンギヤ44と、第5サンギヤ43に噛み合う第3インナーピニオンギヤ45と、第6サンギヤ44および第3インナーピニオンギヤ45に噛み合う第3アウターピニオンギヤ46と、第3アウターピニオンギヤ46に噛み合う第4リングギヤ47と、第3インナーピニオンギヤ45および第3アウターピニオンギヤ46を自転および公転可能に保持しかつ出力ギヤ48が連結された第4キャリヤ49とによって構成されている。すなわち、第4遊星歯車機構38は、第5サンギヤ43と、第6サンギヤ44と、第4キャリヤ49と、第4リングギヤ47との四つの回転要素を有する差動機構として構成されている。
【0069】
そして、入力軸10または第4サンギヤ39と第6サンギヤ44とを連結するように第5クラッチC5が設けられ、入力軸10または第4サンギヤ39と第4リングギヤ47とを連結するように第6クラッチC6が設けられている。また、第3キャリヤ42を停止させるように第3ブレーキB3が設けられ、第4リングギヤ47を停止させるように第4ブレーキB4が設けられ、第3リングギヤ40を停止させるように第5ブレーキB5が設けられている。
【0070】
図9に示す例では、第5クラッチC5、第6クラッチC6、第3ブレーキB3、第5ブレーキB5が、摩擦力によりトルクを伝達するように構成され、第4ブレーキB4が噛み合いによってトルクを伝達するように構成されている。
【0071】
この自動変速機では、
図10に示すように第5クラッチC5と第4ブレーキB4とを係合させることにより、前進第1速段が設定され、第5クラッチC5と第3ブレーキB3とを係合させることにより、前進第2速段が設定され、第5クラッチC5と第5ブレーキB5とを係合させることにより、前進第3速段が設定され、第5クラッチC5と第6クラッチC6とを係合させることにより、前進第4速段が設定され、第6クラッチC6と第5ブレーキB5とを係合させることにより、前進第5速段が設定され、第6クラッチC6と第3ブレーキB3とを係合させることにより、前進第6速段が設定される。また、第4ブレーキB4と第5ブレーキB5とを係合させることにより後進第1速段が設定される。
【0072】
図10に示すように構成された自動変速機における各回転要素の運転状態を
図11に示している。
図10および
図11に示すように前進第1速段では、第5クラッチC5が係合させられているので、第6サンギヤ44が、第4遊星歯車機構38における入力要素として機能し、第4ブレーキB4が係合させられているので、第4リングギヤ47が反力要素として機能し、第4キャリヤ49が出力要素として機能する。したがって、前進第1速段が設定されており、駆動力を出力ギヤ48に伝達している場合には、第4ブレーキB4には、負トルクが掛かる。
【0073】
一方、前進第2速段では、第5クラッチC5が係合させられているので、第6サンギヤ44が、第4遊星歯車機構38における入力要素として機能し、第3ブレーキB3が係合させられているので、第3キャリヤ42を介して第5サンギヤ43が停止させられるため、第5サンギヤ43が、第4遊星歯車機構38における反力要素として機能し、第4キャリヤ49が出力要素として機能する。
【0074】
したがって、前進第1速段から前進第2速段への変速時には、第4ブレーキB4を解放させるとともに、第3ブレーキB3を係合させる。その際に、第3ブレーキB3の伝達トルク容量を増大させると、
図6に示す例と同様に、第4リングギヤ47に伝達される負トルクが次第に低下して、ついには第4リングギヤ47に正トルクが伝達され始める。すなわち、第4ブレーキB4に掛かるトルクが反転する。そのため、この第4ブレーキB4を
図1に示すドグ歯を有する構成とすることにより、
図6に示す例と同様の効果を奏することができる。
【0075】
また、
図9に示す自動変速機では、前進第1速段を設定した状態で、エンジンブレーキを作用させるときや、後進第1速段を設定しかつ駆動力を出力している際にも、
図6に示す自動変速機と同様に噛み合い式のブレーキである第4ブレーキB4に正トルクが掛かる。言い換えると、前進走行時とは反対方向にトルクが掛かる。そのため、上述した例と同様に第4ブレーキB4に押圧機構22を設けることにより、上述した例と同様の効果を奏することができる。
【0076】
さらに、この発明における自動変速機は、
図6に示すように遊星歯車機構の回転要素同士を係合させ、またはいずれかの回転要素を固定することにより変速段を設定するものに限らず、入力軸に複数のギヤが相対回転可能に連結され、それらギヤのうちのいずれか一つのギヤと入力軸とをドグクラッチにより係合させて所定の変速段を設定し、他のギヤと入力軸とを摩擦クラッチにより係合させて、所定の変速段よりも変速比の小さい所望の変速段へ変速するように構成された自動変速機であってもよい。