特許第6285306号(P6285306)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6285306
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】地盤アンカーの緊張力変動表示装置
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/80 20060101AFI20180215BHJP
   G01L 5/00 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
   E02D5/80 Z
   G01L5/00 A
【請求項の数】2
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-151504(P2014-151504)
(22)【出願日】2014年7月25日
(65)【公開番号】特開2016-29234(P2016-29234A)
(43)【公開日】2016年3月3日
【審査請求日】2017年2月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】390029012
【氏名又は名称】株式会社エスイー
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100124316
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】竹家 宏治
(72)【発明者】
【氏名】小林 亮太
(72)【発明者】
【氏名】芥川 真一
【審査官】 岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/104687(WO,A1)
【文献】 実開昭50−061064(JP,U)
【文献】 特開2004−316093(JP,A)
【文献】 米国特許第05545987(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/80
E21D 21/00,21/02
G01L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
緊張力を付与された状態で地中に埋設される緊張材と、この緊張材の地盤側の先端部に接続され、地中に定着されるアンカー体と、前記緊張材の地表面側の頭部に接続され、地表面に露出した状態で地表面に定着される頭部定着体を備える地盤アンカーにおいて、
前記アンカー体と前記頭部定着体との間に架設され、前記アンカー体側の端部において前記アンカー体に直接、もしくは間接的に接続され、前記頭部定着体側の端部において前記頭部定着体に直接、もしくは間接的に接続されたばねに直接、もしくは間接的に接続されるケーブルと、前記頭部定着体に直接、もしくは間接的に回転自在に支持され、前記緊張材の伸縮に連動して回転する回転体とを備え
前記ケーブルの前記ばね側の端部に張力伝動部材が接続され、この張力伝動部材の他方側の端部に前記ばねが接続され、前記張力伝動部材に前記回転体が接触、もしくは噛合していることを特徴とする地盤アンカーの緊張力変動表示装置。
【請求項2】
前記回転体の半径より大きい長さを持つ表示針が前記回転体に一体化していることを特徴とする請求項1に記載の地盤アンカーの緊張力変動表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は緊張材に緊張力が付与された状態で地中に埋設された地盤アンカーの使用状態で緊張材の緊張力に変動が生じたときに、その変動状態を地表面において認識可能に表示する地盤アンカーの緊張力変動表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地盤アンカーは緊張材の地盤側の先端部に接続されたアンカー体が地中に定着され、緊張材の地表面側の頭部に接続された頭部定着体が地表面に定着された状態で、緊張材に緊張力が付与されることにより地盤に地表面と地中から圧縮力を加え、地盤を崩落に対して安定化させる働きをする。
【0003】
アンカー体は地中の不動層に定着されるが、頭部定着体が定着される地表面は不動層に対して移動の可能性のある移動層の表面であるため、移動層の、不動層との境界面である滑り面での滑り等に起因して緊張材の緊張力が変動する可能性がある。緊張材の緊張力に変動が生じ、緊張力が減少すれば、地盤に対する安定化の効果が失われ、緊張力が増加すれば、緊張材が破断する危険性が生じ、いずれの状況のときにも緊張力を調整する必要が発生するため、緊張力の変動の有無を確認することが必要になる。
【0004】
緊張力の変動を確認する方法としては、地表面から露出する緊張材の伸縮、もしくは変位を測定する方法(特許文献1〜4参照)、緊張力を測定する方法(特許文献5参照)等があるが、これらの方法では測定結果としての数値から緊張材が伸長状態か収縮状態かを判断しなければならないため、緊張材の緊張力の変動を外観から直感的に判断しにくい不便さがある。
【0005】
これらに対し、緊張材の頭部定着体を目視することにより直接、緊張材の緊張力の大きさ(変化)を確認する方法として、緊張材の頭部に接続し、緊張材の伸縮量に応じて相違する色彩の発光体を発光させる方法がある(特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−63972号公報(請求項1、段落0011〜0014、図1
【特許文献2】特開2002−81061号公報(請求項1、段落0008〜0012、図1図5
【特許文献3】特開2003−247232号公報(請求項1、段落0024〜0030、図1図6
【特許文献4】特開2009−293325号公報(段落0014〜0024、図1図8
【特許文献5】特開2000−46662号公報(請求項1、段落0013〜0044、図1
【特許文献6】特開平8−144273号公報(請求項1、段落0025〜0048、図1図8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献6では地表に露出した頭部定着体の一部に、複数の色彩の異なる表示器を持つ発光表示部と電源部を接続し、予め設定された範囲の緊張力に対応するいずれかの表示器を発光させるため、地表面側において目視により緊張力の大きさ(変化)を知ることができる利点がある。
【0008】
しかしながら、表示器の発光は電源部からの電力の供給に依存することから、電力の供給を途絶えさせないための蓄電池の併用を必要とする上(段落0027)、緊張材の緊張力の大きさに応じて複数の表示器の内のいずれかの表示器を発光させるための、発光表示部の制御を必要とするため(段落0031〜0033)、頭部定着体の周辺に設置される装備が多くなり、装備に要するコストが高くなる難点がある。また電源として太陽電池を使用した場合にも、例えば日照不足が継続し、蓄電池の電力が消費され尽くされたときには電力の供給が途絶える可能性があり(段落0027)、機能が停止する可能性がないとは言えない。
【0009】
本発明は上記背景より、電源を必要としない簡素な構成でありながら、緊張材の頭部定着体付近を目視することのみにより緊張材の緊張力の状態を直ちに把握可能な地盤アンカーの緊張力変動表示装置を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明の地盤アンカーの緊張力変動表示装置は、緊張力を付与された状態で地中に埋設される緊張材と、この緊張材の地盤側の先端部に接続され、地中に定着されるアンカー体と、前記緊張材の地表面側の頭部に接続され、地表面に露出した状態で地表面に定着される頭部定着体を備える地盤アンカーにおいて、
前記アンカー体と前記頭部定着体との間に架設され、前記アンカー体側の端部において前記アンカー体に直接、もしくは間接的に接続され、前記頭部定着体側の端部において前記頭部定着体に直接、もしくは間接的に接続されたばねに直接、もしくは間接的に接続されるケーブルと、前記頭部定着体に直接、もしくは間接的に回転自在に支持され、前記緊張材の伸縮に連動して回転する回転体とを備え
前記ケーブルの前記ばね側の端部に張力伝動部材が接続され、この張力伝動部材の他方側の端部に前記ばねが接続され、前記張力伝動部材に前記回転体が接触、もしくは噛合していることを構成要件とする。
【0011】
ケーブルがアンカー体側の端部において「アンカー体に直接、もしくは間接的に接続される」とは、ケーブルがアンカー体に直接、接続される場合と、図1等に示すようにアンカー体12に接続されるボルト等の連結材19に接続される場合があることを言うケーブル2が頭部定着体13側の端部において「頭部定着体に接続されたばねに直接、もしくは間接的に接続される」とは、ケーブル2ばね4に接続されたチェーンやベルト等の張力伝動部材5に接続されことを言う。「ばねが頭部定着体に直接、もしくは間接的に接続される」とは、ばね4が頭部定着体13に直接、接続される場合と、図示するように例えば頭部定着体13が定着された定着版16に接続(接合)され、頭部定着体13を被覆するキャップ18の先端(上端)に一体的に接合されたケース6にばね4が接続される場合があることを言う。図面ではケース6の一部である底板61にばね4を接続している。
【0012】
「回転体が頭部定着体に直接、もしくは間接的に回転自在に支持される」とは、回転体3が頭部定着体13に直接、回転自在に支持される場合と、図示するように例えば頭部定着体13に接合されたケース6のいずれかの部分に回転自在に支持されることを言う。図面ではケース6の一部である支持材7、もしくはその一部である支持板71に回転体3を回転自在に支持(軸支)させている。
【0013】
ばね4はケーブル2に与えるべき張力を負担することから、ばね2には軸方向に復元力を発揮するコイルスプリングの使用が適するが、使用方法によっては板ばね、皿ばね等のばねの使用も可能であり、ばね4の形態は問われない。
【0014】
図1−(a)に示すように緊張材11が初期の緊張力が与えられた、地中への設置状態から更なる伸長も収縮もしていない平常時には、ばね4は復元力によってケーブル2をばね4側へ引き寄せた状態(中立状態)にあり、ケーブル2は伸縮可能なばね4と釣り合いを保っている。このとき、ケーブル2はアンカー体12と頭部定着体13間に架設された状態でアンカー体12側の端部においてアンカー体12に接続されると共に、ばね4に接続されながら、ばね4と釣り合いを保っているため、緊張材11に伸縮が生ずれば、ケーブル2の地中に存在する区間が緊張材11に追従し、それに伴い、ケーブル2の地中から突出した区間の長さが拡縮(変化)する。
【0015】
ケーブル2と緊張材11は地中(グラウト材15)内では緊張材11の伸縮に追従できるよう、地盤の周辺(グラウト材15)との付着が切られた状態で埋設される。このため、ケーブル2の、地中に存在する区間においては地表面が沈下や隆起等に起因してアンカー体12に対して移動する結果としてアンカー体12側の端部(アンカー体12への接続部分)が相対的にアンカー体12と共に地表面(定着版16)に対して緊張材11の軸方向に移動することで、緊張材11に生じる伸縮に追従する。
【0016】
ケーブル2は地中に存在する区間と地中から突出した区間の全長に亘ってばね4から地表側へ引き寄せられた状態にあるため、ケーブル2の地中から突出した区間の長さが移動層の不動層に対する変動(移動)に伴って変化する。ケーブル2自体は基本的には伸縮しないため、図1−(b)に示すようにケーブル2の地中から突出した区間の長さが大きくなれば、ばね4が収縮し、(c)に示すようにケーブル2の地中から突出した区間の長さが小さくなれば、ばね4が伸長する。
【0017】
図1−(c)に示すように地表面が隆起等に起因してアンカー体12側から遠ざかる向きに移動したときには、ケーブル2のアンカー体12側の端部はアンカー体12に追従して地表面(定着版16)に対し、地表面から遠ざかる向きに相対的に移動する。(b)に示すように地表面が沈下等に起因してアンカー体12側に移動したときには、ケーブル2のアンカー体12側の端部はばね4に引き寄せられることでアンカー体12に追従して地表面に対し、地表面に接近する向きに相対的に移動する。このようにケーブル2の地中に存在する区間が緊張材11の伸縮に追従することは、ケーブル2の地中から突出した区間が定着版16と頭部定着体13に対して軸方向に相対移動することであり、ケーブル2の地中から突出した区間の長さが変化することである。
【0018】
請求項1における「回転体が緊張材の伸縮に連動して回転する」の回転は図1−(b)、もしくは(c)に示すように緊張材11の伸縮に起因してケーブル2の地中から突出した区間が定着版16(と頭部定着体13)に対して軸方向に移動する結果として、回転体3が回転軸(回転の中心)である支持軸3aの回りに、もしくは支持軸3aと共に、ケース6(頭部定着体13)に対して正負のいずれかの向きに回転することを言う。図3図4は回転体3が支持軸3aと共にケース6に対して回転する場合の具体例を示している。
【0019】
図1−(a)に示す平常状態(ばね4の中立状態)ではケーブル2のばね4側の端部はケース6への接続部分(底板61)側へ引き寄せられた状態(中立状態)にあり、ケーブル2の定着版16に対する軸方向の移動(緊張材11の伸縮)に連動する回転体3は中立位置からいずれの側にも回転していない状態にある。回転体3が中立位置から回転していない状態は、ケーブル2が緊張材11の中立状態から軸方向に移動していない状態であり、ケーブル2はばね4の復元力と釣り合いを保つから、ケーブル2には初期の状態でばね4に与えられる復元力と釣り合う張力が生じている。
【0020】
アンカー体12は前記のように地中の不動層に定着され、頭部定着体13は移動層の表面である地表面(定着版16)に定着されるため、地下水位の変動、地盤沈下等に起因して移動層が不動層に対して滑り等が生じたときに、アンカー体12と頭部定着体13間に架設されている緊張材11の緊張力に変化が生じる。緊張材11の緊張力に変化(変化量)は緊張材11の伸縮(伸縮量)として表れる。
【0021】
図1−(b)に示すように地表面が不動層側へ移動する等により緊張材11が収縮すれば、地表面からアンカー体12までの距離が短縮されることで、ケーブル2の地中に存在する区間が短くなり、地中から突出する区間が長くなるため、ケーブル2に接続されたばね4が復元力で収縮する。一方、(c)に示すように地表面が不動層の反対(不動層から遠ざかる)側へ移動する等により緊張材11が伸長すれば、地表面からアンカー体12までの距離が拡大することで、ケーブル2の地中に存在する区間が長くなり、地中から突出する区間が短くなるため、ケーブル2に接続されたばね4が地表面側へ引き寄せられて伸長する。
【0022】
図1−(b)に示すように緊張材11の収縮によりアンカー体12と頭部定着体13との間の距離が減少したときには、緊張材11が中立状態(初期状態)のときより弛緩するため、緊張材11の張力が初期状態より低下する。このとき、アンカー体12が地表面に接近することで、ケーブル2の地表面から地上へ突出する区間が長くなる結果、ばね4が自らの復元力により初期状態(中立状態)より収縮状態になるため、回転体3がばね4側へ回転する。回転体3のばね4側への回転は緊張材11の緊張力が低下したときに起こるから、このときの回転体3は緊張材11の緊張力の低下を表示することになる。
【0023】
図1−(c)に示すように緊張材11の伸長によりアンカー体12と頭部定着体13との間の距離が増加したときには、緊張材11が中立状態のときより緊張するため、緊張材11の張力が初期状態より上昇する。このとき、アンカー体12が地表面から遠ざかることで、ケーブル2の地表面から地上へ突出する区間が短くなる結果、ばね4がケーブル2から初期状態(中立状態)より引張力を受け、伸長状態になるため、回転体3がケーブル2側へ回転する。回転体3のケーブル2側への回転は緊張材11の緊張力が上昇したときに起こるから、このときの回転体3は緊張材11の緊張力の上昇を表示することになる。図1−(b)、(c)の状況から、結局、回転体3は緊張材11の伸縮に連動して回転し、緊張材11の伸長か収縮のいずれかを示す正負のいずれかの向きに回転する。
【0024】
回転体3は中立位置から正負の向き、すなわちケーブル2側とばね4側のいずれかの向きに回転することにより緊張材11の緊張力の変動を表示する機能を果たすため、中立位置からは緊張材11の伸縮に起因する地表面とアンカー体12との距離の変化に伴うばね4の伸縮に連動して正負の向きに回転する必要がある。この関係で、回転体3の中立位置からばね4が収縮できるよう、回転体3の中立位置ではばね4は自然長の状態から伸長している必要があるため、緊張材11に設置状態からの伸縮が生じていない平常時の状態(中立状態)ではばね4は伸長し、復元力を発揮した状態に置かれる。平常時の状態でばね4が伸長し、復元力を発揮した状態にある関係で、前記のように平常時にはばね4と釣り合うケーブル2にはばね4の復元力に相当する張力が作用した状態にある。
【0025】
緊張材11の平常時に回転体3が中立位置から回転を生じていない状態にあり、その状態からは緊張材11の伸縮に伴ってケーブル2の地中に存在する区間が拡縮し、ばね4が伸縮することで、回転体3が正負のいずれかの向きに回転する。前記のように地表面の変動等に起因して緊張材11が収縮すれば、ばね4が収縮する結果、回転体3はばね4側へ回転し、緊張材11が伸長すれば、ばね4が伸長する結果、回転体3はケーブル2側へ回転するため、回転体3の向きである正と負は例えばそれぞれ緊張材11の伸長(+)の向きと収縮(−)の向きを指す。この関係から、図1に示すように回転体3の回転の向きに正負の記号を表示しておくことで、回転体3の回転状況から直ちに緊張材11が伸長状態にあるか、収縮状態にあるかが判明することになる。特に緊張材11の伸縮に応じ、回転体3が正負のいずれの向きに回転しているかは、回転体3に後述の表示針8(請求項)が一体化した場合に、表示針8の先端が回転体3の回転角θを拡大して表示することができるため、観測者には容易に認識可能になる。
【0026】
緊張材11の初期状態ではケーブル2には必ずしも張力が与えられている必要はないが、ケーブル2が緊張材11の伸縮に追従して地中に存在する区間が拡縮し、緊張材11の初期状態(平常時)からの伸縮への反応性をよくする上では、ある程度の張力が与えられていることが適切であり、この初期の張力は前記のようにばね4の自然長からの伸び量に相当するばね4の復元力として与えられる。ケーブル2とばね4が回転体3を経由することで、緊張材11の緊張力の変化に拘わらず、ケーブル2の張力とばね4の復元力は常に平衡し、釣り合いを保った状態にあり、緊張材11が平常時から収縮し、緊張材11の緊張力が減少したときにはばね4も収縮し、復元力が減少する。緊張材11が平常時から伸長し、緊張材11の緊張力が増加したときにはばね4も伸長し、復元力が増加する。
【0027】
ケーブル2は地中では図1に示すように緊張材11と平行に、または平行に近い状態で配置され、地中から突出する区間において回転体3の位置で折り返して、または回転体3を経由して頭部定着体13等のいずれかの部分に接続されているばね4に接続されるため、ケーブル2が接触等する回転体3の回転軸である支持軸3aは緊張材11の軸方向に直交する面内の任意の方向を向く。「ケーブルが回転体を経由してばねに接続される」とは、ケーブル2(張力伝動部材5を含む)の、回転体3を挟んだ両側の区間の、緊張材11の軸線に平行な直線とのなす角度α、βが任意であり、例えば図1−(a)に示すように両側区間のなす角度α、βが等しいか、ほぼ等しく、0°に近い鋭角である場合と、回転体3を経由したばね4側の区間のなす角度βが直角、もしくは鈍角である場合があることを意味する。
【0028】
ケーブル2の、回転体3を挟んだ両側の区間のなす角度α、βは頭部定着体13に回転体3が収納されるケース6が接合される場合には、ばね4のケース6への接続位置と、ケーブル2が挿通するための、ケース6の一部に形成される挿通孔61aの位置によって決まる。ケース6の挿通孔61aの位置はケーブル2が定着版16を迂回しない場合の、ケーブル2が挿通するための挿通孔16aの位置によって決められるが、ケース6の挿通孔61aは図2に示すように回転体3の中心Oと定着版16の挿通孔16aを結ぶ直線上に位置する場合と、図1に示すようにそうでない場合がある。
【0029】
特にケーブル2が回転体3の位置で折り返す形で、図示するようにケース6のばね4に接続される場合には、ケーブル2の、回転体3を挟んだ両側の区間のなす角度α、βを等しくすることができ、その場合、回転体3の中心Oを通り、緊張材11の軸線に平行な直線に関してばね4とケーブル2を対称に位置させることができる。「緊張材11の軸線に平行な直線」とは、回転体3の中心Oを通る直線が図示するように緊張材11の軸線上に位置する場合と、緊張材11の軸線から外れた線上に位置する場合があることを言う。
【0030】
この場合、ケーブル2が回転体3の位置で折り返さない場合(α、βが相違する場合)との対比では、ケーブル2、またはケーブル2の一部になる張力伝動部材5の回転体3への巻き付け区間(巻き付け角)を大きく取ることが可能であるため、ケーブル2と回転体3との間での張力の伝達効果が高まり、ケーブル2が回転体3に対して滑りを生じにくくすることが可能である。またケーブル2が回転体3を折り返すことで、図示するように頭部定着体13に一体化するケース6内においてばね4とケーブル2を包囲する領域の幅を抑えることができるため、ばね4が伸長した状態を含め、常にばね4とケーブル2を限られた容積を持つケース6内に収納することができ、ばね4とケーブル2の外気への暴露を回避し易くなる。
【0031】
回転体3は支持軸3a回りの、あるいは支持軸3aの中心回りの回転によって緊張材11の張力の変化(変化量)を表示し、緊張材11の張力の変化を回転体3の回転角度θとして表示するが、図3に示す回転体3の半径rが大きい程、回転体3の外周面の移動量が回転角度θを周長θ×rとして回転角度θの半径r倍に拡大するため、回転体3の半径rを大きめに設定するか、または回転体3に回転体3の半径rより大きい長さを持つ(回転体3の中心から先端までの距離が大きい)表示針8を一体化することで(請求項)、ケーブル2の張力の変化を拡大して表示することが可能である。後者の場合、回転体3の回転角度θが表示針8の長さR倍の移動量(=周長(θ×R))に拡大されることで、僅かな回転体3の回転(回転角度θ)が表示針8の先端の移動に反映され易くなるため、観測者への視認性を高める効果がある。回転体3の支持軸3aは前記のように緊張材11の軸方向に直交する面内の任意の方向を向くが、観測者の視覚に訴える上では、回転体3の支持軸3aは観測者側に向けられる。
【0032】
以上のように本発明では緊張材11の緊張力の変化量を緊張材11の伸縮に連動して回転する回転体3の回転量(回転角θ)として表示することができるため、電源を必要としない簡素な構成でありながら、緊張材11の頭部定着体13側に配置された回転体3の回転角度を目視することのみにより緊張材11の緊張力の状態(変化)を直ちに把握することが可能になる。特に回転体3に表示針8を一体化させた場合には、表示針8が回転体3の回転角度θを表示針8の長さR倍の周長(θ×R)に拡大して表示するため、観測者への視認性を高めることが可能である。
【0033】
また緊張力変動表示装置1は地盤アンカー10の内、地表に突出した頭部定着体13に接続される形で、ケーブル2の地表に突出した区間と共に地上に設置されることから、地盤アンカー10が法面に設置された場合に、上方からの落石等の発生により緊張力変動表示装置1が損傷、もしくは流出することがあっても、ケーブル2の地中に存在する区間は健全に保たれるため、容易に緊張力変動表示装置1を再設置、または復旧させることが可能である。
【0034】
ケーブル2は頭部定着体13を通過する区間においては、頭部定着体13が定着される定着版16のいずれかの部分に形成された挿通孔16a、もしくは接続された部品の挿通孔を挿通することにより、または定着版16を迂回する形で、地中から地表に露出する。露出するとは、ケーブル2が地表面から地中外に突出することを言い、外気に暴露されるとは限らず、図示するように頭部定着体13に一体化するケース6に収納されることもある趣旨である。ケーブル2は使用状態での摩耗を防止、もしくは抑制する上では、定着版16に接触しないことが望ましいが、接触によるケーブル2との摩擦力の発生があってもケーブル2の移動への影響と、それによる回転体3の回転への影響はないため、定着版16のいずれかの部分に接触することは許容される。ケーブル2が定着版16(挿通孔16a)に接触する状況になる場合には、ケーブル2は必要によりその摩耗を低減するための低摩擦材に接触させられる。
【0035】
ケーブル2はアンカー体12と頭部定着体13(ケース6)との間に架設され、ばね4への接続により張力を与えられていることで、ばね4の復元力と釣り合いを保ちながら、緊張材11の伸縮に追従するため、ケーブル2の地表面から突出した区間(地上へ突出する区間)の平常時からの移動量ΔL1、すなわちばね4の平常時からの伸縮量が緊張材11の緊張力の増減を示すことになる。ケーブル2の地表面から突出した区間の移動は緊張材11の伸縮に伴って発生するため、ケーブル2の伸縮がなければ、ケーブル2の地表面から突出した区間の移動量(ばね4の伸縮量)ΔL1は設置状態からの緊張材11の伸縮量ΔL0に等しい。
【0036】
図面では図3に示すように回転体3にスプロケットを使用し、ケーブル2の全長の内、回転体3に噛み合う区間にチェーンを接続した場合の例を示しているが、回転体3はこれには限られず、プーリ、ローラ、歯車等も使用され、回転体3の形態に応じてケーブル2の一部区間にはベルト、歯形ベルト等も使用される。ケーブル2の全長の内、回転体3に噛み合う区間にチェーン、ベルト等を接続したことは、ケーブル2のばね4側の端部に張力伝動部材5が接続されたこと(請求項)の例に当たる。
【0037】
ケーブル2の、少なくとも回転体3に噛み合う区間に張力伝動部材5が接続されること(請求項)には、張力伝動部材5と回転体3とが互いに滑りを生じることなく、接触、もしくは噛合した状態を維持できる可能性が高まるため、ケーブル2の伸縮を確実に回転体の回転に伝達することができる利点がある。
【0038】
ここで、図3に示すように回転体3の中心Oからケーブル2(の厚さ方向の中心)までの距離(回転体の半径)をrとすれば、ケーブル2の移動量(ばね4の伸縮量)ΔL1は回転体3の回転方向の周長(回転量)であるから、回転体3の回転角度Δθ(ラジアン)とケーブル2の移動量ΔL1はΔL1=r・Δθの関係にある。この関係から、回転体3の半径r、すなわち回転体3の中心からケーブル2の接触面までの距離が小さい程、回転体3の回転角度Δθが大きくなり、ケーブル2の移動量ΔL1が回転体3の回転角度Δθに反映され易くなり、視覚に訴え易くなることになる。
【0039】
このことから、回転体3に表示針8を一体化させる場合には、回転体3の半径rを小さくしながら、表示針8の先端までの距離Rを大きくする程、ケーブル2の移動量ΔL1を回転体3の回転角度Δθに拡大した上で、表示針8の回転量(周長)に拡大して表示することができるため、観測者への認識効果を高めることが可能になる。
【0040】
また前記のようにケーブル2の移動量ΔL1は緊張材11の伸縮量ΔL0でもあるから、緊張材11の元の長さ(張力が与えられず、伸縮を生じていない自然長)L0に対する伸縮量ΔL0の比率ΔL0/L0(=ε:歪み度=σ/E)から、緊張材11の張力の変化量ΔT0は緊張材11の断面積A0、弾性係数E0を用いてΔT0=E0・A0・(ΔL0/L0)として表されるため、ケーブル2の移動量(ばね4の伸縮量)ΔL1(=ΔL0)から直接、緊張材11の緊張力の変化量ΔT0を算出することが可能である。
【発明の効果】
【0041】
地盤アンカーの緊張力変動表示装置を、アンカー体と頭部定着体との間に緊張材に並列に架設され、頭部定着体に接続されるばねとアンカー体に接続されるケーブルと、頭部定着体に接続され、緊張材の伸縮に連動して回転する回転体から構成するため、緊張材の伸縮量に対応した緊張材の緊張力の変化量を緊張材の伸縮に連動する回転体の回転量(回転角)として表示することができる。従って電源を必要としない簡素な構成でありながら、緊張材の頭部定着体側に配置された回転体の回転角度を目視することのみにより緊張材の緊張力の状態を直ちに把握することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】(a)は地盤アンカーを構成する緊張材が、緊張力を与えられた状態で地中に埋設され、その状態から緊張材が伸縮を生じていない平常時の様子を示した縦断面図、(b)は(a)の状態から地表面が不動層側へ移動し、緊張材の緊張力が低下したときの様子を示した縦断面図、(c)は(a)の状態から地表面が不動層の反対側へ移動し、緊張材の緊張力が上昇したときの様子を示した縦断面図である。
図2図1に示す地盤アンカーのケーブルを頭部定着体のキャップの外周側を通して頭部定着体の定着板を貫通させ、地中に配置した場合の変形例を、緊張材の緊張力が低下したときの様子として示した縦断面図である。
図3】ケーブルのばね側の端部に接続された張力伝動部材が回転体に巻き付けられ、ばねに接続されている様子を示した立面図である。
図4図3のx−x線断面図である。
図5】回転体に表示針が一体化し、立面上、表示板の前面側に配置されている様子を示した立面図である。
図6】表示板に表示針(回転体)の回転角度に対応したケーブル移動量(緊張材の伸縮量)の、元の状態との比率を表示した様子を示した立面図である。
図7】地盤アンカーの地中への設置状態と、頭部定着体の地表面への定着状態を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
図1−(a)は緊張力を付与された状態で地中に埋設される緊張材11と、緊張材11の地盤側の先端部に接続され、地中に定着されるアンカー体12と、緊張材11の地表面側の頭部に接続され、地表面に露出した状態で地表面に定着される頭部定着体13を備える地盤アンカー10の、緊張材11の緊張力の変動状態を表示する緊張力変動表示装置1の構成例を示す。図1−(a)は緊張材11が緊張力を付与されて定着された状態で、緊張力の変動が生じていない中立状況を示している。
【0044】
緊張力変動表示装置1はアンカー体12と頭部定着体13との間に架設され、アンカー体12側の端部においてアンカー体12に直接、もしくは間接的に接続され、頭部定着体13側の端部において頭部定着体13に直接、もしくは間接的に接続されたばね4に直接、もしくは間接的に接続されるケーブル2と、頭部定着体13に直接、もしくは間接的に回転自在に支持され、緊張材11の伸縮に連動して回転する回転体3を基本的な構成要素として備える。
【0045】
「ケーブル2がアンカー体12に間接的に接続される」とは、図示するようにアンカー体12や緊張材11に直接、接続されたねじ(アイボルト)等の連結材19にケーブル2が接続されることを言う。「ばね4が頭部定着体13に間接的に接続される」とは、図示するように頭部定着体13の先端部に直列に接合されたケース6を構成するいずれかの部分(底板61)にばね4が接続されることを言う。
【0046】
「ケーブル2がばね4に間接的に接続される」とは、図示するようにケーブル2の内、回転体3に接触する区間がチェーン等の張力伝動部材5に置き換わり、この張力伝動部材5の一端がばね4に接続されることを言う。「直接、接続される」とは、ケーブル2に張力伝動部材5が接続されることなく、ケーブル2が直接、ばね4に接続されることを言う。「回転体3が頭部定着体13に間接的に支持される」とは、頭部定着体13に接合されたケース6を構成するいずれかの部分(支持材7(支持板71))に回転体3が支持されることを言う。
【0047】
地盤アンカー10のアンカー体12と緊張材11は地中にアンカー体12の設置深度まで削孔14を形成し、削孔14内に例えばアンカー体12の定着のためのグラウト材15を充填した後、グラウト材15中に挿入される。アンカー体12はその全長が地中の不動層中に埋設されるだけの深度にまで到達させられる。削孔14内へのグラウト材15の充填は地山の崩落防止と、グラウト材15の地山中への浸透防止のために削孔14の内周側にケーシングを挿入した状態で行われる。グラウト材15の充填後、ケーシングは回収される。アンカー体12はグラウト材15の硬化により地中に定着され、緊張材11への緊張力の導入が可能になる。
【0048】
グラウト材15の充填後、図1図7に示すように地表面に頭部定着体13の定着のための定着版16が設置、もしくは構築される。その後、緊張材11に緊張力が導入され、定着版16から地盤に対し、緊張材11の軸方向に圧縮力が付与される。図7は地盤アンカー10のアンカー体12を地中に定着させ、頭部定着体13を定着版16に定着させた様子を示している。図7では定着版16を地表面ではなく、地表面(法面)の保護、あるいは崩落防止のために地表面(法面)に設置、もしくは構築されるブロック状、あるいはフレーム状の保護ブロック20の表面に定着させている。
【0049】
緊張材11への緊張力の導入後、緊張材11の地表面から突出した端部である頭部定着体13が定着版16にナット等の定着材17により定着される。緊張材11の頭部定着体13側の先端部と定着材17は定着版16の表面側に固定されるキャップ18内に納まり、雨水と外気から保護される。図示するようにケーブル2が定着版16を迂回せずにグラウト材15中に配置される場合には、定着版16にはケーブル2が挿通するための挿通孔16aが形成される。
【0050】
緊張材11は硬化しているグラウト材15内で地表面の変動(移動層の移動)に応じて自由に伸縮できるよう、シース内に挿通させられるか、グリースが塗布される等により緊張材11と地盤(グラウト材15)との付着が切られた状態でグラウト材15内に挿入される。緊張材11と地盤との付着が切られることで、緊張材11と地盤とが付着することによる緊張力の損失が防止される。
【0051】
緊張材11に併設されるケーブル2も硬化しているグラウト材15内で緊張材11の伸縮と同時にグラウト材15に対して移動できるよう、シース内に挿通させられるか、グリースが塗布される等によりグラウト材15との付着が切られた状態で、グラウト材15内に地盤アンカー10の一部として挿入される。
【0052】
アンカー体12の地中への定着方法は図示する例には限られず、アンカー体12は地中に形成された削孔14内に挿入された後、袋体内へのグラウト材の注入等により自ら膨張することにより地中に定着されることもあり、その場合、削孔14内中のグラウト材15の充填は必ずしも必要ではない。
【0053】
ケーブル2の地表面側の端部は緊張材11の端部に一体化した頭部定着体13が定着されている定着版16を挿通し、または迂回し、キャップ18の軸方向の先端部、またはキャップ18の周囲に接合(固定)されたケース6内に挿入され、ケース6内に軸支されている回転体3を直接、もしくは間接的に経由し、ケース6内に一端が接続されているばね4に直接、もしくは間接的に接続される。
【0054】
「回転体3を間接的に経由」とは、ケーブル2のケース6側に接続(連結)されたチェーン等の張力伝動部材5が回転体3に巻き付けられ、回転体3を経由することを言う。ケーブル2のアンカー体12側の端部はアンカー体12のいずれかの部分に、または緊張材11のアンカー体12寄りの区間のいずれかの部分に直接、もしくは間接的に連結され、実質的にアンカー体12と共に地中の不動層に定着された状態に置かれる。図面ではアンカー体12に接続(連結)される上記の連結材19にケーブル2のアンカー体12側の端部を接続している。連結材19はグラウト材15中でのケーブル2の配置の向きを調整するために図2に示すように頭部定着体13のグラウト材15内に位置する部分に接続されることもある。
【0055】
ケース6内には図3に示すようにキャップ18の先端(上端)に接合され、ばね4の一端を接続(連結)するための底板61と、底板61の、キャップ18の反対側に一体化し、回転体3を軸支するための支持材7が収納され、ケーブル2の端部が直接、もしくは間接的にばね4に接続されることで、ばね4とケース6を介してケーブル2の一端が頭部定着体13に定着された状態になる。図面では底板61と支持材7が別体で製作されているが、一体の場合もある。底板61には図3に示すようにケーブル2が挿通するための挿通孔61aが形成される。
【0056】
図面ではばね4としてコイルスプリングを使用しているが、この場合のばね4の一端のフックは底板61に直接、もしくは底板61に連結されたリング62に接続され、他端のフックはケーブル2、もしくはケーブル2の一部になったチェーンやベルト等の張力伝動部材5に接続される。
【0057】
ケーブル2、もしくはケーブル2に連結され、ケーブル2の一部になった張力伝動部材5は回転体3を経由して張架された状態でケース6内に納まる場合には、図1−(a)に示すように回転体3を経由した両側の区間が互いに並列するように配置されることから、回転体3の回転軸となる支持軸3aは緊張材11の軸に直交する面内のいずれかの方向を向いた状態で支持材7に支持される。回転体3は支持材7(支持板71)に支持、もしくは固定された支持軸3aに回転自在に支持される。または図示するように回転体3が一体化した支持軸3aが支持材7(支持板71)に回転自在に支持(軸支)される。
【0058】
図面では図4に示すように支持軸3aに回転体3としてのスプロケットを一体化させている関係で、支持軸3aを箱状の支持材7の対向する支持板71、71に軸受け材3bを介して軸回りに回転自在に支持させている。軸受け材3bは支持板71の表面側に固定されるハウジング72内に収納され、ハウジング72内で支持軸3aを支持板71、71に対して回転自在に支持させている。
【0059】
回転体3としてのスプロケットにはケーブル2の一部になる張力伝動部材5としてのチェーンが噛合しながら巻き付けられ、チェーンは一端においてケーブル2に連結され、他端においてばね4に連結される。ばね4にはチェーン、すなわちケーブル2の張力が作用し、ばね4の復元力はケーブル2の張力と釣り合いを保つため、平常時の状態からのケーブル2の定着版16に対する移動に応じてばね4は伸縮する。
【0060】
前記のように頭部定着体13を被覆するキャップ18には、ケーブル2を含む緊張力変動表示装置1を収納するケース6が一体化することから、緊張力変動表示装置1はキャップ18の定着版16への設置(固定)時に同時に設置される。ここで、ケーブル2の地中に配置される区間は緊張材11と共にグラウト材15中に埋設されているため、ケーブル2の定着版16から突出している区間の先端部(ばね4側の端部)、または張力伝動部材5はキャップ18(ケース6)の設置が完了するまではばね4に接続されない状態に置かれ、キャップ18の設置完了後にケーブル2(張力伝動部材5)がばね4に接続される。またはケーブル2(張力伝動部材5)が接続されたばね4が底板61に接続されない状態に置かれ、キャップ18の設置完了後にばね4が底板61に接続される。
【0061】
緊張材11が緊張力を与えられて地中に埋設された状態から更なる伸長も収縮もしていない図1−(a)に示す平常時の状態から、例えば(b)に示すように地表面が不動層側へ移動した場合には、緊張材11が弛緩することで、ケーブル2の地中に存在する区間の長さが減少し、ケーブル2の地中から突出した区間の長さが増加する。この結果、ケーブル2と釣り合いを保つばね4が復元力によって平常時から収縮するため、回転体3はばね4側へ回転する。図1−(b)では回転体3に一体化し、回転体3の回転量を拡大して表示する表示針8がばね4の収縮(−)側に回転している様子を示している。緊張材11が弛緩したとき、緊張材11の張力は減少する。
【0062】
一方、(a)に示す平常時の状態から(c)に示すように地表面が不動層の反対側へ移動した場合には、緊張材11が平常時より緊張することで、ケーブル2の地中に存在する区間の長さが増加し、ケーブル2の地中から突出した区間の長さが減少する。この結果、ばね4は平常時より回転体3側へ引き寄せられ、伸長するため、回転体3はケーブル2側へ回転する。図1−(c)では回転体3に一体化した表示針8がばね4の伸長(+)側へ回転している様子を示している。緊張材11が緊張したとき、緊張材11の張力は増加する。
【0063】
このケーブル2の伸縮に伴い、回転体3はばね4側かケーブル2側のいずれかの側へ回転するが、回転体3の回転状況のみからは、地表面にいる観測者がいずれの側に回転しているのか、直ちに判読(認識)しにくいことがある。そこで、回転体3の回転による緊張材の張力の変動(伸縮)の観測者への伝達効果を高める目的から、図示するように回転体3に、その半径rより大きい長さRを持つ表示針8が一体化させられる。表示針8は回転体3に一体化することで、回転体3の回転に連動して回転するが、先端が回転体3の回転中心回りの回転角度θを回転角度θ×長さRの周長に拡大して表示するため、回転角度θの観測者への伝達効果を高める働きがある。
【0064】
表示針8は図3の断面図である図4図5に示すように回転体3の支持軸3aに接合される等により一体化し、緊張材11の平常時の状態では図1−(a)に示すように先端が中立位置(0の位置)を指すように向けられる。表示針8の先端がどの位置を指す状態を中立位置とするかは任意であるが、図1−(a)に示すように表示針8が緊張材の軸方向を向いたときが中立位置になるように設定しておくことで、表示針8の向きから直ちに緊張材11が伸長した(張力が増加した)状態にあるのか、収縮した(張力が減少した)状態にあるのかの判断がし易くなる。
【0065】
表示針8の先端が指し示す位置を観測者に伝達し易くする上では、図5に示すように表示針8の背面側(支持材7側)に、表示針8の平常時からの回転角度θに対応した、緊張材の張力の変動の程度を目盛化した表示板9が配置され、支持材7に接合される。表示板9は例えば図4に示すように支持板71の表面に重なった状態で、支持板71に接合されるハウジング72に保持され、支持板71に接合される。
【0066】
緊張材11の張力の変化量ΔT0は緊張材11の断面積A0、弾性係数E0を用いてΔT0=E0・A0・(ΔL0/L0)として表されるため、緊張材11の伸縮量ΔL0はΔL0=(ΔT0・L0)/(E0・A0)になる。
【0067】
ここで、例えば緊張材11の断面積A0=270.9mm、弾性係数E0=190kN/mm、自然長L0=15.96m、定着荷重(設計荷重)T0=270.2kNとしたとき、緊張材11の張力の変化量ΔT0が定着荷重から20%減少したときには、緊張材11はΔL0=(−0.2×270.2×15.96×1000)/(270.9×190)=−16.76mm収縮する。また緊張材11の張力の変化量ΔT0が定着荷重から10%減少したときには、緊張材11はΔL0=−8.38mm収縮する。一方、緊張材11の張力ΔT0が定着荷重から10%増加したときには、同様にΔL0=8.38mm伸長し、20%増加したときには、ΔL0=16.76mm伸長する。
【0068】
緊張材11の平常時からの伸縮量ΔL0と回転体3の回転角度Δθ(度)は、回転体3の半径をrとしてΔL0=π・r・Δθ/180(度)の関係にあるから(Δθの単位がラジアンの場合はΔL0=r・Δθ)、緊張材11の伸縮量ΔL0からは回転体3の回転角度ΔθがΔθ=(180・ΔL0)/π・rとして求まる。
【0069】
回転体3の半径r=15.27mmとすると、緊張材11の張力ΔT0が定着荷重から10%減少したときには、Δθ=−31.4度、収縮側へ回転し、20%減少したときには、Δθ=−62.9度、収縮側へ回転する。一方、緊張材11の張力ΔT0が定着荷重から10%増加したときには、Δθ=31.4度、伸長側へ回転し、20%増加したときには、Δθ=62.9度、伸長側へ回転する。
【0070】
この緊張材11の張力の変化量ΔT0の程度に対応した、中立位置からの中心角度を図6に示すように扇形に形成された表示板9に表示することで、表示板9の表面側に重なる表示針8の位置から直ちに張力ΔT0の変動が伸長側であるか収縮側であるか、及び張力ΔT0の変動がどの程度であるかを把握することが可能になる。例えば図示するように張力の変化量ΔT0が0のときの表示針8の向きを中立位置として0を記入し、その周方向両側に上記の10%と20%増加時と10%と20%減少時の角度を表示する、扇形の中心を通る直線を記入しておけば、表示針8がどの範囲内にあるかが一見して認識されるため、観測者の理解を早める効果が生かされる。この場合、回転体3を中心方向に見たとき、扇形状の中心と回転体3の中心は一致させられる。
【0071】
表示針8(回転体3)が図1−(a)に示す中立位置から(b)に示すようにばね4側回転しているときには、緊張材11の緊張力が減少し、緊張材11による地盤の拘束(安定化)の効果が低下していることを示しているから、回転角度θの程度に応じ、頭部定着体13を被覆しているキャップ18を定着版16から外し、定着材17を一旦、解除して頭部定着体13を再緊張し、緊張材11の緊張力を増加させることが行われる。回転角度θの程度とは、例えば回転角度が−20%の境界線を越える等、回転角度θが一定量を越えていたときを言う。
【0072】
キャップ18にはばね4が接続されたケース6が一体化していることから、キャップ18を外すときには、ばね4に接続されているケーブル2(張力伝動部材5)がばね4から外されるか、ばね4がケース6(底板61)から外され、緊張力の調整後、ケーブル2、もしくはばね4がばね4、もしくはケース6に接続される。
【0073】
一方、表示針8(回転体3)が中立位置から(c)に示すようにケーブル2側へ回転したときには、緊張材11の緊張力が平常時より増加していることを示しているから、例えば回転角度が20%の境界線を越える等、回転角度θが一定量を越えたときに、緊張材11の緊張力を緩め、低下させることが行われる。この場合もキャップ18は定着版16から外され、定着材17は一旦、解除される。
【0074】
緊張材11の緊張力を増加させる場合も、低下させる場合も、緊張材11の緊張力の調整後には緊張材11が定着材17で定着版16に定着させられ、ケース6付きのキャップ18が定着版16に固定され、頭部定着体13の周辺が現状に復帰させられる。
【0075】
なお、表示板9に対する表示針8の位置が夜間でも容易に認識されるようにする上では、表示板9と表示針8の少なくともいずれか一方の表面に、暗闇中でも光を対象に向けることにより観測者の視点に反射光が到達する再帰反射機能を備えたシート(再帰反射材)を貼着することが有効である。
【0076】
また表示針8は回転体3に一体化することで、回転体3の回転に連動するが、この表示針8に、表示針8が回転体3の回転角度の絶対値が0から増加する向き(正の向きと負の向き)にのみ係止し、表示針8のばね4による0側への復帰時にも到達した角度の位置で表示板9との間の摩擦力等により静止した状態を維持する置き針を重ねておくことで、観測者が表示針8を認識する以前に記録した最大の回転角度を確認することが可能である。現在の表示針8が表示している回転角度より大きい最大角度を置き針が表示している場合には、緊張材11が過去にその最大角度に対応した緊張力を負担したことがあることを示しているため、その緊張力の大きさによっては緊張材11が降伏している可能性があることも判明し、緊張材11(地盤アンカー10)自体の交換の必要性の有無を判断することも可能になる。
【符号の説明】
【0077】
1……緊張力変動表示装置、
2……ケーブル、3……回転体、3a……支持軸、3b……軸受け材、
4……ばね、5……張力伝動部材、
6……ケース、61……底板、61a……挿通孔、62……リング、7……支持材、71……支持板、72……ハウジング、
8……表示針、9……表示板、
10……地盤アンカー、
11……緊張材、12……アンカー体、13……頭部定着体、
14……削孔、15……グラウト材、16……定着版、16a……挿通孔、
17……定着材、18……キャップ、19……連結材、20……保護ブロック。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7