(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、コバール金属は流通量が少なく高価格なため、特殊な用途にしか使用できない課題があった。また、金属部材の30℃〜500℃の熱膨張係数は一般に10ppm/K以上であり、セラミック部材とは熱膨張係数が大きく異なっている。このため、セラミック部材と金属部材との接合に従来の接合材を用いた場合、例えば長期にわたってヒートサイクルを繰り返すことで、クラックや剥離等の不具合を生ずることがあった。したがって、熱膨張係数の大きく異なる部材間の接合部を長期にわたって気密に保持することのできる接合材が求められている。
加えて、近年、産業界では低コスト化等により安価な金属材料(例えば、ステンレス鋼、銅、アルミニウム等)を皮膜処理(表面処理)なしで使用する取組みが進められている。これに伴って、ガラス接合材に含まれるアルカリ成分(例えばカリウム(K)やナトリウム(Na))が問題になることがあり得る。すなわち、アルカリ成分はガラスに流動性を与えて軟化点を下げたり熱膨張係数を調節したりするために有用であるが、一方で、上記安価な金属材料の接合部に使用した場合に、500℃以上の高温域において金属材料(例えばクロム(Cr)成分)と反応して、接合部の安定性低下(例えば接着性の低下や耐久性の低下)を引き起こすことがあり得る。また、上記反応によって毒性の高い6価のクロム化合物を生成することも危惧される。このような事情から、例えば被接合部材の種類や接合体の使用環境、用途等によっては、アルカリ成分を含まない(アルカリレスの)接合材が求められている。
【0005】
本発明はかかる事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、アルカリ成分を含有しない接合材であって、熱膨張係数の異なる部材間(例えばセラミック部材と金属部材の間)を強固に接合することができ、かつ、耐久性(特には耐ヒートサイクル性)の高い接合部を実現し得るアルカリレスの接合材を提供することにある。関連する他の目的は、かかる接合材を用いてなる接合部を備えた接合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここに開示される接合材は、熱膨張係数の異なる部材間を接合するためのものである。かかる接合材は、3層以上のガラス層から構成され、かつ、該ガラス層の積層方向において、一方の端部のガラス層から他方の端部のガラス層に向かって30℃〜500℃の熱膨張係数が段階的に増大する積層ガラスであり、上記隣り合うガラス層間の30℃〜500℃における熱膨張係数の差がいずれも1.5ppm/K以下である。そして、いずれのガラス層にもアルカリ成分を含まない。
【0007】
接合材を3層以上の積層ガラス構造とし、かつ、隣り合うガラス層間の熱膨張係数を段階的に異ならせることで、接合材(接合部)に熱膨張係数の勾配をつけることができる。これにより、熱膨張係数の異なる部材間の熱膨張係数の差を緩和することができる。その結果、これらの部材間を強固に接合することができ、なおかつ当該接合部に高い耐熱性や化学的安定性、耐久性を付与することができる。さらに、いずれのガラス層にもアルカリ成分を含まないため、例えばセラミック部材とクロム系の金属部材とを接合して高温環境下で使用する場合等においても、両部材間の接合部を長期にわたって高い気密性と機械的強度で維持することができる。すなわち、信頼性や耐久性(長期高温耐久性)に優れた接合部を安定的に実現することができる。
【0008】
本明細書において「熱膨張係数」とは、30℃から500℃までの温度領域において、一般的な熱機械分析装置(Thermomechanical Analysis:TMA)で測定した平均膨張係数(平均線膨張係数)をいい、試料の初期長さに対する試料長さの変化量を温度差で割った値を指すものとする。熱膨張係数の測定は、JIS R 3102(1995)に準じて行うことができる。また、本明細書において「アルカリ成分を含まない」とは、少なくとも積極的には当該成分を添加しないことをいう。換言すれば、不可避的な不純物等として、例えば接合材(積層ガラス)全体の1質量%未満(典型的には0.1質量%以下、好ましくは0.01質量%以下)程度の割合で当該成分が混入することは許容され得る。
なお、積層構造のガラスセラミック材料に関する先行技術文献としては、特許文献2が挙げられる。
【0009】
ここに開示される接合材の好適な一態様では、上記積層ガラス全体の30℃〜500℃における熱膨張係数が、5ppm/K以上20ppm/K以下である。
これにより、例えば、30℃〜500℃の熱膨張係数が凡そ6ppm/K以上8ppm/K以下の部材と、30℃〜500℃の熱膨張係数が凡そ10ppm/K以上23ppm/K以下の部材と、を好適に接合することができる。
【0010】
ここに開示される接合材の好適な一態様では、上記3層以上のガラス層が、それぞれ独立して、Ba、Si、Al、Ti、Zn、B、Caのうちの1種または2種以上の元素の酸化物を含んでいる。
これら元素の酸化物は、各ガラス層の熱膨張係数を調整したり、安定性等の諸特性を制御したりするために役立ち得る。したがって、本発明の効果をより高いレベルで発揮することができる。
【0011】
ここに開示される接合材の好適な一態様では、上記積層ガラス全体が、酸化物換算の質量比で、BaO:50〜65質量%、SiO
2:20〜35質量%、Al
2O
3:5〜15質量%、TiO
2:1〜10質量%、ZnO:0〜5質量%、B
2O
3:1〜5質量%、MgO、CaOおよびSrOのうちの少なくとも1種:1〜5質量%、の成分を含んでいる。
このような組成とすることで、耐熱性、化学的安定性、耐久性のうち少なくとも1つを向上させることができる。さらには、上記熱膨張係数の範囲を好適に実現し得、本発明の効果を一層高いレベルで発揮することができる。
【0012】
ここに開示される接合材の好適な一態様では、上記一方の端部のガラス層の30℃〜500℃における熱膨張係数が6ppm/K以上8ppm/K以下であり、且つ、上記他方の端部のガラス層の30℃〜500℃における熱膨張係数が10ppm/K以上16ppm/K以下である。
これにより、例えば30℃〜500℃の熱膨張係数が凡そ6ppm/K〜8ppm/Kと、30℃〜500℃の熱膨張係数が凡そ10ppm/K〜15ppm/Kの部材と、を強固に接合することができ、耐久性に優れた接合部を形成することができる。
【0013】
ここに開示される接合材は、特に熱膨張係数の大きく異なる(例えば熱膨張係数が4ppm/K以上異なる)異種部材間の接合部、例えばセラミック部材と金属部材との接合に好適に用いることができ、かつ高温域においても当該接合部を長期にわたり安定して高い気密状態に維持することができるものである。したがって、本発明の他の側面として、セラミック部材と金属部材と両部材間を接合する接合部とを備える接合体が提供される。
【0014】
ここに開示される接合体の好適な一態様では、上記セラミック部材は、30℃〜500℃の熱膨張係数が6ppm/K以上8ppm/K以下のセラミック材料によって構成されている。このようなセラミック部材としては、例えばアルミナ系セラミックスが挙げられる。また、上記金属部材は、30℃〜500℃の熱膨張係数が10ppm/K以上23ppm/K以下の金属材料によって構成されている。このような金属部材としては、例えばステンレス鋼が挙げられる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0017】
≪接合材≫
ここに開示される接合材(ガラス接合材)は、熱膨張係数の異なる2つ以上の部材間、例えば、セラミック部材同士、金属部材同士、あるいはセラミック部材−金属部材間を接合するための接合材である。かかる接合材は、熱膨張係数が段階的に(典型的には階段状に)異なる3層以上のガラス層から構成される積層ガラスである。換言すれば、3層以上のガラス層から構成され、かつ、該ガラス層の積層方向において、一方の端部のガラス層から他方の端部のガラス層に向かって熱膨張係数が段階的に増大する積層ガラスである。そして、隣り合う2つのガラス層間の熱膨張係数の差(以下、「隣り合う2つのガラス層間の熱膨張係数の差」を、単に「熱膨張係数の差」ということがある。)が、いずれも1.5ppm/K以下である。
かかる構成によれば、例えば熱膨張係数が相対的に最も小さなガラス層(熱膨張係数小ガラス層)から、熱膨張係数が相対的に最も大きなガラス層(熱膨張係数大ガラス層)へと、熱膨張係数を徐々に変化(増大)させることができる。そして、接合材の熱膨張係数大ガラス層の側を相対的に熱膨張係数の大きな被接合部材(例えば金属部材)と接触させ、接合材の熱膨張係数小ガラス層の側を相対的に熱膨張係数の小さな被接合部材(例えばセラミック部材)と接触させて両部材間の接合に供することにより、熱膨張係数の小さな部材と熱膨張係数の大きな部材との熱膨張係数の整合をとることができる。その結果、例えば常温域〜高温域でヒートサイクルを繰り返した場合であっても接合部に熱応力が生じ難くなり、残留応力の発生を抑えることができる。つまり、耐ヒートサイクル性に優れた接合部を実現することができる。
【0018】
ここに開示される技術において、接合材(積層ガラス)の隣り合う2つのガラス層間の熱膨張係数の差は1.5ppm/K以下であり、典型的には1.4ppm/K以下、例えば0.5ppm/K以上1.4ppm/K以下であるとよい。熱膨張係数の差を1.4ppm/K以下とすることで、一層高い耐ヒートサイクル性を実現することができる。また、熱膨張係数の差を0.5ppm/K以上とすれば、積層するガラス層の数を少なくすることができるため、作業性やコストの観点から好ましい。
【0019】
接合材(積層ガラス)を構成する各ガラス層の具体的な熱膨張係数については、被接合部材の熱膨張係数によっても異なり得るため、特に限定されない。典型的には、各ガラス層の熱膨張係数が、一の被接合部材の熱膨張係数以上(例えば凡そ5ppm/K以上)であって、他の一の被接合部材の熱膨張係数以下(例えば凡そ23ppm/K以下)であるとよい。
好適な一態様では、一方の端部のガラス層(熱膨張係数小ガラス層)の熱膨張係数がセラミック部材の熱膨張係数と同程度かそれより若干低く、かつ、他方の端部のガラス層(熱膨張係数大ガラス層)の熱膨張係数が金属部材の熱膨張係数と同程度かそれより若干低い。例えば、熱膨張係数小ガラス層の熱膨張係数が6ppm/K以上8ppm/K以下(例えば6.0ppm/K以上7.9ppm/K以下)であって、熱膨張係数大ガラス層の熱膨張係数が10ppm/K以上16ppm/K以下(例えば11.6ppm/K以上15.0ppm/K以下)であるとよい。かかる態様によれば、例えばアルミナ系のセラミック部材(熱膨張係数が凡そ10ppm/K〜15ppm/K)と、金属部材として汎用なステンレス鋼(熱膨張係数が凡そ6ppm/K〜8ppm/K)とを強固に接合することができ、物理的安定性や耐久性に優れた接合部を実現することができる。
好適な他の一態様では、接合材(積層ガラス)全体の熱膨張係数が、5ppm/K以上20ppm/K以下である。かかる接合材は、熱膨張係数が6ppm/K以上8ppm/K以下の部材と、熱膨張係数が10ppm/K以上23ppm/K以下の部材と(例えば、上記セラミック部材と金属部材と)を接合するために好適に用いることができる。
【0020】
ここに開示される接合材(積層ガラス)の各ガラス層を構成するガラスマトリックス(ガラス組成物)は、実質的にアルカリ成分を含まないこと以外は特に限定されず、種々の用途に応じて任意に決定することができる。
好適な一態様では、各ガラス層に、バリウム成分とケイ素成分とアルミニウム成分とを含んでいる。全てのガラス層にこの3成分を含むことで、積層ガラスとしての一体性や物理的安定性を高める効果がある。かかる観点から、特には、各ガラス層のガラスマトリックスに占めるバリウム成分とケイ素成分とアルミニウム成分との総和が80質量%以上(例えば85質量%以上)であるとよい。
【0021】
バリウム成分(典型的には、酸化バリウム(BaO))は、各ガラス層の熱膨張係数を調整し、ガラスマトリックスの熱的安定性を向上させるための成分である。各ガラス層のガラスマトリックスに占めるバリウム成分の割合は、上記熱膨張係数の差の範囲を実現する限りにおいて特に限定されないが、酸化物換算の質量比で、凡そ20質量%以上(例えば25質量%以上)であって、85質量%以下(例えば83質量%以下)であるとよい。
【0022】
ケイ素成分(典型的には、酸化ケイ素(SiO
2))は、ガラスの骨格を構成する成分である。各ガラス層のガラスマトリックスに占めるケイ素成分の割合は、上記熱膨張係数の差の範囲を実現する限りにおいて特に限定されないが、酸化物換算の質量比で、凡そ5質量%以上(例えば10質量%以上)であって、55質量%以下(例えば53質量%以下)であるとよい。これにより、各ガラス層の軟化点が高くなりすぎることを防止することができ、比較的低い温度で接合を行うことができる。さらに、当該接合材を用いてなる接合部の耐水性、耐薬品性、耐熱衝撃性のうちの少なくとも1つを向上させることができる。
【0023】
アルミニウム成分(典型的には、酸化アルミニウム(Al
2O
3))は、ガラスマトリックス溶融時の流動性を制御し、付着安定性に関与する成分である。各ガラス層のガラスマトリックスに占めるアルミニウム成分の割合は、上記熱膨張係数の差の範囲を実現する限りにおいて特に限定されないが、酸化物換算の質量比で、凡そ1質量%以上(例えば2質量%以上)であって、15質量%以下(例えば13質量%以下)であるとよい。これにより、各ガラス層の軟化点が高くなりすぎることを防止することができ、比較的低い温度で接合を行うことができる。また、被接合部材を安定的に(均質に)接合することができる。さらに、当該接合材を用いてなる接合部の耐薬品性を向上させることができる。
【0024】
各ガラス層を構成するガラスマトリックス(ガラス組成物)は、上記バリウム成分とケイ素成分とアルミニウム成分に加えて、典型的には1種以上の任意の添加成分を含んでいる。そのような添加成分としては、例えば、Ba以外の広義のアルカリ土類金属成分(例えば、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)。特にはカルシウム。)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、ホウ素(B)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、鉄(Fe)、銅(Cu)、スズ(Sn)、リン(P)、ランタン(La)、セリウム(Ce)等が挙げられる。
【0025】
好適な一態様では、各ガラス層を構成するガラスマトリックスが、それぞれ独立して、Ba、Si、Alに加えて、Ti、Zn、B、Caのうちの1種または2種以上の元素の酸化物を含んでいる。
例えば、チタン成分(典型的には、酸化チタン(TiO
2))は熱膨張係数を高め得る成分である。これにより、ガラス層の熱膨張係数を比較的高い値に維持することができる。
また、亜鉛成分(典型的には酸化亜鉛(ZnO))は、ガラスフリットの熱的安定性を向上させる効果が高い成分である。さらに、熱衝撃性が高く水に侵され難い等、化学的に安定した性質および耐久性を実現し得る効果もある。
また、カルシウム成分(典型的には、酸化カルシウム(CaO))は、上記バリウム成分と同様に、熱膨張係数を調整してガラスマトリックスの熱的安定性を向上させる効果が高い成分である。さらに、ガラスマトリックスの硬度を上げて、接合部の耐摩耗性を向上させ得る効果もある。
また、ホウ素成分(典型的には、酸化ホウ素(B
2O
3))は、ガラスフリットの熱的安定性を向上させる(熱膨張係数を調整する)とともに、ガラスフリットの軟化点を低下させる効果が高い成分である。
このため、各ガラス層を構成するガラスマトリックスの成分およびその含有割合を調整することで、所望の熱膨張係数を備えかつ用途等に応じた諸特性にも優れたガラス層を実現することができる。
【0026】
各ガラス層を構成する成分は、典型的には3成分以上、例えば4成分以上10成分以下であるとよい。ガラスマトリックスが3成分以上の多成分系で構成されることで、物理的安定性が向上する。また、作業性やコストの観点からは、ガラスマトリックスが10成分以下で構成されることが好ましい。
【0027】
好適な一態様では、隣り合うガラス層間において、一方のガラス層が有しているガラス構成元素(成分)のうち少なくとも1つの元素は、他方のガラス層に存在しない(以下、このような元素を「隣接非共有元素」ということもある。)。換言すれば、接合材(積層ガラス)を構成する各ガラス層について、少なくとも1の隣り合うガラス層間で一方のガラス層が有しているガラス構成元素(成分)のうち少なくとも1つは他方のガラス層に存在しないよう構成するとよい。より好ましくは、かかるガラス層間が連続的あるいは断続的(例えば1つおき、あるいは2つおき)に存在するよう各ガラス層を構成するとよい。例えば、接合材(積層ガラス)を構成するいずれの隣り合うガラス層間においても、一方のガラス層が有しているガラス構成元素のうち少なくとも1つは他方のガラス層に存在しないように構成してもよい。なお、上記隣接非共有元素の種類は全てのガラス層間で同じであってもよく、異なっていてもよい。
本発明者の検討によれば、隣り合うガラス層同士の構成成分が全く同じであって例えば酸化物換算の質量比のみが異なる場合には、当該隣り合うガラス層同士が混ざり合って均質化されることがあり得る。隣接非共有元素の存在により、上記隣接するガラス層同士の均質化(典型的には高温焼成時の融合)が防止され、接合部の熱膨張係数の勾配をより安定的に確保することができる。その結果、部材間の接合部をより強固なものとすることができる。したがって、本発明の効果をより高いレベルで発揮することができる。
【0028】
好適な他の一態様では、接合材(積層ガラス)全体が、酸化物換算の質量比で、
BaO 50〜65質量%(例えば54〜59質量%)、
SiO
2 20〜35質量%(例えば24〜29質量%)、
Al
2O
3 5〜15質量%(例えば7〜9質量%)、
TiO
2 1〜10質量%(例えば4〜6質量%)、
ZnO 0〜5質量%(例えば0〜1質量%)、
B
2O
3 1〜5質量%(例えば1〜3質量%)、
MgO、CaOおよびSrOのうちの少なくとも1種 1〜5質量%(例えば2〜3質量%)、
の成分を含んでいる。積層ガラスを構成するガラスマトリックス全体をこのような組成とすることで、接合部の安定性を一層向上させることができ、本願発明の効果を更に高いレベルで発揮することができる。
【0029】
ここに開示される接合材(積層ガラス)の各ガラス層は、実質的にアルカリ成分を含まない。換言すれば、ここに開示される接合材の各ガラス層を構成するガラスマトリックスには、アルカリ成分を積極的に添加しない(不可避的な不純物として混入することは許容され得る)。アルカリ成分(例えばカリウム成分やナトリウム成分)は高温環境下において飛散が生じ易く、これによってガラス層の熱膨張係数が変化したり機械的強度が低下したりすることがあり得る。また、上述の通り、例えばクロム系の金属材料や安価な金属材料を皮膜処理なしで使用する場合等に、当該金属材料と反応して接合部の安定性が低下することがある。このため、いずれのガラス層にもアルカリ成分を含まないことで、例えば被接合部材(金属部材)の種類や接合体の使用環境等に依らず、安定して、接合部の耐久性(長期高温耐久性)が高い接合体を実現することができる。
加えて、各ガラス層には、ヒ素成分(As)や鉛成分(Pb)をも含まないことが好ましい。これらの成分は人体や環境に対して悪影響となり得るため、環境性や作業性、安全性の観点から好ましくない。
【0030】
ここに開示される接合材(積層ガラス)の好ましい一態様を、
図1に模式的に示す。
図1に示す態様では、接合材10は熱膨張係数の異なる3つのガラス層、すなわちX層(熱膨張係数小ガラス層)12、Y層(熱膨張係数中ガラス層)14、およびZ層(熱膨張係数大ガラス層)16から構成される3層構造の積層ガラスである。3つのガラス層の熱膨張係数(ppm/K)は、X層12<Y層14<Z層16、の関係である。そして、X層12とY層14の間の熱膨張係数の差(すなわち、(Y層14の熱膨張係数)−(X層12の熱膨張係数))、および、Y層14とZ層16の間の熱膨張係数の差(すなわち、(Z層16の熱膨張係数)−(Y層14の熱膨張係数))が、いずれも1.5ppm/K以下である。
被接合部材間を接合する際には、接合材(積層ガラス)10の第一の面10aが、相対的に熱膨張係数の小さな部材と接するよう配置される。また、接合材(積層ガラス)10の第二の面10bが、相対的に熱膨張係数の大きな部材と接するよう配置される。
【0031】
各ガラス層の厚み(すなわち、接合材(積層ガラス)10の第一の面10aから第二の面10bに向かう垂直方向の長さ)は同じであってもよく、異なっていてもよい。
図1に示す態様では、X層12、Y層14、Z層16の厚みが概ね同等である。また、各ガラス層の厚みは特に限定されないが、典型的には各ガラス層の厚みが数μm〜数百μm、例えば1μm〜100μm程度であるとよい。各ガラス層の厚みを凡そ1μm以上とすることで、接合材10の熱膨張係数を第一の面10aから第二の面10bに向かって安定的に少しずつ変化させることができる。このため、より信頼性の高い接合部を実現することができる。また、各ガラス層の厚みを凡そ100μm以下とすることで、残留応力の発生を一層抑制することができ、より一層耐ヒートサイクル性に優れた接合部を実現することができる。
【0032】
なお、
図1に示す態様では、接合材10は3層のガラス層から構成されているが、これに限定されず、例えば4層のガラス層、あるいは5層以上のガラス層から構成することもできる。好適なガラス層の数の上限は、例えば各ガラス層の厚み等にも依るため特に限定されないが、作業効率や生産性等を考慮すると、典型的には20層以下、例えば10層以下とするとよい。
【0033】
このような接合材(積層ガラス)の製造方法は特に制限されないが、例えば、先ず、各ガラス層の構成成分を含有する酸化物、炭酸塩、硝酸塩、複合酸化物等を含む工業製品、試薬、または各種の鉱物原料を用意し、それぞれ所望の組成となるよう混合する。原料粉末の調製は、例えばボールミル等の混合機に上記原料を投入し、数時間〜数十時間混合することによって行うことができる。このようにして得られたガラス原料粉末を乾燥した後、それぞれ高温(典型的には1000℃〜1500℃)条件下で加熱・溶融して、冷却または急冷することでガラスを調製する。好適な一態様では、次に、得られたガラスを適当な大きさ(典型的には、平均粒径が0.5μm〜50μm程度。例えば、平均粒径が0.1μm〜10μm程度。)となるまで粉砕し、ガラスカレットまたはガラスパウダー等の形態に調製する。次に、得られたガラス(粉砕後のガラスカレットおよびガラスパウダー)を圧縮成形した後、ガラス粒子同士が互いに結着する程度の温度で仮焼して、ペレット状または板状に加工する。これらの作業を繰り返して、少なくとも3つのガラス層を作製する。そして、得られた各ガラス層の熱膨張係数を測定して熱膨張係数の順に積層した後、例えば50MPa〜150MPa程度の圧力でプレス処理して一体化させる。これにより、ここに開示されるような接合材(積層ガラス)を得ることができる。
【0034】
≪接合方法≫
上記のようにして得られた接合材(積層ガラス)は、従来の接合材とは異なり、ガラス層の積層方向において、一方の端部のガラス層(一のガラス層面)から他方の端部のガラス層(他の一のガラス層面)に向かって熱膨張係数が段階的に高くなっている(あるいは低くなっている)。このため、熱膨張係数の大きく異なる部材間、例えばセラミック部材と金属部材の接合に好適に用いることができる。
換言すれば、本発明により、セラミック部材と金属部材とを接合する方法が提供される。かかる接合方法は、以下の工程:セラミック部材と金属部材とを用意すること;上記接合材をセラミック部材と金属部材の接合部分に付与すること;上記付与された接合材を上記接合部分から流出しない温度域で焼成すること;を包含する。
【0035】
具体的には、先ず、被接合部材としてのセラミック部材と金属部材とを用意する。次に、これらの部材が相互に接触・接続するよう配置し、当該接続部位に、ここに開示される接合材を配置(付与)する。そして、これらの複合体を接合材(ガラス)の軟化点以上の温度域(典型的には600℃以上、例えば700℃〜900℃)で焼成し、ガラス成分を硬化させる。これにより、被接合部材間に気密性の高い接合部を形成することができる。
【0036】
接合対象(被接合部材)としては特に限定されないが、一好適例として、アルミナ、ムライト、ステアタイト、フォルステライト、チタニア、イットリア、クロミア、ジルコニア、部分安定化ジルコニア等のセラミック材料からなるセラミック部材を考慮することができる。これらはいずれか1種のセラミック材料の単体であっても良いし、上記に例示した2種以上のセラミック材料が複合化されたセラミック複合材料(例えば、アルミナジルコニア、ムライト等)からなるものであっても良い。なかでも、ファインセラミック材料、例えば、機械的、熱的、電気的、磁気的、化学的に様々な優れた特性を有するアルミナを好ましく用いることができる。これらセラミック部材の熱膨張係数は、おおよその目安として、6ppm/K以上8ppm/K以下であり得る。
【0037】
他の一好適例として、ステンレス鋼、アルミニウム、クロム、鉄、ニッケル、銅、銀、マンガン、およびこれらの合金等の金属材料からなる金属部材を考慮することができる。より具体的には、フェライト系やオーステナイト系のステンレス鋼、純アルミニウム、アルミニウム合金(ジュラルミン、アルミニウム青銅等)、銀、銀合金(洋銀等)、銅、銅合金(リン青銅等)等であり得る。特に、高温環境下においてアルカリ成分との反応が生じ易いクロム系の材料や、あるいは皮膜処理が施されていない安価な金属材料(例えばステンレス鋼)を用いる場合に、本発明の効果がより発揮され得る。これら金属部材の熱膨張係数は、おおよその目安として、10ppm/K以上23ppm/K以下(典型的には10ppm/K以上20ppm/K以下、例えば11ppm/K以上17ppm/K以下)であり得る。
【0038】
≪接合体≫
このようにして、熱膨張係数の異なる2つ以上の部材と、部材間を接合する接合部とを備える接合体を得ることができる。ここに開示される接合材によれば、部材間の接合部に優れた耐熱性や化学的安定性、長期耐久性を付与することができる。したがって、当該接合体は、様々な環境下(例えば、高温環境下や、強酸、強アルカリの雰囲気下)で長期にわたって安定的に使用することができる。一好適例では、熱膨張係数の異なるセラミック部材および金属部材と、両部材間を接合する接合部とを備える接合体を得ることができる。
ここに開示される接合体は、具体的には、半導体装置や液晶パネル、蓄電素子や太陽電池等の各種発電システム、およびそれらを製造するための製造装置、ゴミ焼却装置や下水処理装置、排ガス除去装置等の環境装置、車両用の排ガス処理装置、エンジン燃焼試験装置、真空系給排気機器、医療機器、半導体装置等を構成するために用いられる、セラミック部材と金属部材との接合体であり得る。
【0039】
以下、本発明に関する幾つかの試験例を説明するが、本発明をかかる試験例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0040】
ここでは、表1に示す組成の板状ガラスa〜jを用いて、計8種類のガラス接合材(S1〜S8)を作製し、接合性について評価した。
【0042】
〔熱膨張係数の評価〕
上記板状ガラスa〜jを、それぞれダイヤモンドカッターでΦ5mm×10mm〜20mm程度の円柱状に切り出して、測定用の試験片とした。この試験片を、熱機械分析装置(株式会社リガク製、TMA8310)を用いて評価した。具体的には、室温(25℃)から1000℃まで10℃/分の一定速度で昇温したときの30℃から500℃の間の平均線膨張量を算出した。結果を表1に示す。
【0043】
〔接合性評価〕
先ず、板状ガラスa〜jのなかから選択したものを表2に示す順序で積層し、それぞれ50MPa〜150MPa程度で加圧成形することによって一体化させ、積層ガラス(S1〜S8)を得た。次に、これらの積層ガラスを表2に示す被接合部材(金属およびセラミックス)間に配置し、窒素雰囲気で、800℃〜1100℃で1時間焼成することで、被接合部材の接合を試みた。
なお、試験に使用した金属部材およびセラミック部材の熱膨張係数は以下の通りである。
・フェライト系ステンレス鋼(SUS430) 熱膨張係数:11.5ppm/K
・フェライト系ステンレス鋼(SUS310) 熱膨張係数:16.5ppm/K
・アルミナ 熱膨張係数:7.0ppm/K
【0045】
その後、それぞれの積層体について接合されているか、接合されている場合には気密な接合が実現されているかを確認した。具体的には、残留応力による影響を考慮するために、常温環境下で3日間置いた後、ピンセットを用いて被接合材から接合部が剥がせるかどうかで、両者が機械的に接合されているか否かを確認した。接合が確認できた接合体については、さらに浸透探傷検査を行って、クラックの有無を確認した。
結果を表3の接合性の欄に示す。表3において、「◎」は両者が機械的に接合され、かつ、クラックが確認されなかったことを、「×」は接合不良(剥離)または接合部にクラックが認められたことを表している。
【0047】
表3には、接合性の評価結果と同時に、隣り合うガラス層間の熱膨張係数の差分を示している。表3に示すように、S5〜S8に比べて、S1〜S4ではステンレス鋼とアルミナとが良好に接合されていた。このことから、熱膨張係数が隣り合う2つのガラス層間で段階的に異なり、当該隣り合うガラス層間の熱膨張係数の差がいずれも1.5ppm/K以下の積層ガラスをガラス接合材として用いることで、気密性の高い接合部を実現できることがわかった。
【0048】
〔ステンレス鋼との反応性評価〕
被接合部材間の良好な接合性が確認された接合体(S1〜S4)については、被接合部材として使用したステンレス鋼との反応が生じていないかを確認した。ステンレス鋼は鉄(Fe)を主成分とし(50質量%以上であり)、またクロム(Cr)成分を10%以上含んでいることから、ここではCr元素の拡散性に基づいてステンレス鋼とガラス接合材の反応性について評価した。具体的には、接合体の断面を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)で観察し、エネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy:EDX)を用いて得られた観察画像をCr元素でマッピングすることにより、接合部にCrが拡散していないかを確認した。また、比較例として、接合部にアルカリ成分である酸化カリウムを含んだガラス接合材を使用して別途接合体を作製し、同様に接合部にCrが拡散していないかを確認した。結果を表3のSUSとの反応性の欄に示す。表3において、「◎」は接合部にCr元素が認められなかったことを、「×」は接合部にCr元素が認められたことを表している。
【0049】
表3に示すように、比較例ではCr元素の接合部への拡散が認められ、被接合部材としてのステンレス鋼とガラス接合材との反応が生じていた。一方、アルカリ成分を含まないS1〜S4では、Cr元素の接合部への拡散は認められずステンレス鋼との反応は確認されなかった。かかる結果は、本発明の技術的意義を示すものである。
【0050】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。