特許第6285329号(P6285329)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6285329
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】車両用ブロアモータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/00 20160101AFI20180215BHJP
   H02P 23/00 20160101ALI20180215BHJP
【FI】
   H02P29/00
   H02P23/00
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-186524(P2014-186524)
(22)【出願日】2014年9月12日
(65)【公開番号】特開2016-59246(P2016-59246A)
(43)【公開日】2016年4月21日
【審査請求日】2017年5月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000101352
【氏名又は名称】アスモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】水野 公太
【審査官】 尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−057475(JP,A)
【文献】 特開平7−177775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/00− 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ又は回路の温度を示す物理量を検知する物理量検知部と、
前記モータを駆動させる駆動部と、
前記モータの実回転速度を検知する回転速度検知部と、
前記物理量検知部が検知した物理量が閾値未満でフェールが検出されない場合には、目標回転速度と実回転速度との偏差に応じた比例項及び積分項を用いて前記駆動部の比例積分制御を行うと共に、前記物理量検知部が検知した物理量が閾値以上になってフェールが検出された場合には、前記モータへの電力供給を遮断する保護動作モードに移行し、前記物理量検知部が検知した物理量が閾値未満になって保護動作モードが解除された場合には、フェール検出時の前記モータの実回転速度、フェール検出時の積分項、及び保護動作モードが解除された場合の前記モータの実回転速度を用いて定めた積分項に基づいて比例積分制御を行う制御部と、
を含む車両用ブロアモータ制御装置。
【請求項2】
フェール検出時の積分項及び実回転速度を記憶する記憶部をさらに備えた請求項1記載の車両用ブロアモータ制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、保護動作モードが解除された場合には、現在の実回転速度とフェール検出時の実回転速度との比にフェール検出時の積分項を乗算して得た新たな積分項に基づいて前記駆動部を制御する請求項1又は2記載の車両用ブロアモータ制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、保護動作モードが解除された場合には、前記新たな積分項を算出すると共に比例項をクリアし、前記新たな積分項と所定の増幅係数との積に基づいて前記駆動部を制御する請求項3記載の車両用ブロアモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ブロアモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ブロアモータ(以下、「モータ」と略記)の駆動制御を行うインバータ回路にはスイッチング素子としてFET(電界効果トランジスタ)等の半導体が実装されている。これらFET等の半導体は、所定の温度以上になると損傷するおそれがある。
【0003】
FET等の半導体の熱による損傷を防止すために、回路が過熱した場合には、一時的にモータの回転を停止することが行われている。特許文献1には、モータの停止指令が出力されたときの電流値を記憶し、停止指令の後、モータに対する起動指令が発せられたときに、起動指令と、記憶した電流値とに基づいて目標電流値を決定するモータ制御装置の発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−3802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
モータの回転速度の制御には、回転速度の制御の目標値である目標回転速度と実際のモータの回転速度である実回転速度との偏差を低減することで実回転速度を目標回転速度に近づけるPI制御(Proportional-Integral Controller)が用いられる。モータに印加する電圧のデューティ比はPWM(Pulse Width Modulation)制御によって算出されるが、PI制御によって目標回転速度と実回転速度との偏差を低減する補正をPWM制御にフィードバックすることにより、モータの実回転速度を目標回転速度に近付けるためのデューティ比が算出される。
【0006】
PI制御では、目標回転速度と実回転速度との偏差(P項)に所定のP項ゲインを乗算して得た値に基づいて当該偏差を補正するP(比例)制御と、P項を累積して得たI項に所定のI項ゲインを乗算して得た値で偏差を補正するI(積分)制御とが実行される。
【0007】
PI制御では、特にI制御において、PWM制御によるモータの回転速度の連続的な変化に基づいて目標回転速度と実回転速度との偏差が補正される。特許文献1のように回路が過熱して一時的にモータの回転を停止させるには、PWM制御を中断してモータに印加する電圧のデューティ比を示すモータ出力を0にするが、PWM制御が中断されることにより、回転速度の制御の連続性が損なわれるので、PI制御におけるI項の値も0にクリアすることが一般に行われている。
【0008】
しかしながら、ブラシレスDCモータは回転体であるロータに永久磁石を備えているので、モータを停止させるためにモータのコイルに印加する電圧を遮断しても、モータのロータは慣性により、しばし回転を続ける。かかる状態で、モータ出力を0とし、PI制御のI項の値をクリアすると、モータを再始動させた際に、モータに印加される電圧のデューティ比が、惰力で回転していた場合の実回転速度でモータを回転させる場合のデューティ比よりも小さくなり、モータの実回転速度が惰力で回転していた場合よりも低下するという問題点があった。
【0009】
図5は、PI制御で、モータの再始動時にI項の値をクリアした場合のモータの目標回転速度90、モータの実回転速度92、I項及びモータ出力の変化を対比させた概略図である。図5の時刻t0からt1までのように、PI制御によってモータの回転速度の制御が正常に行われているのであれば、目標回転速度90と実回転速度92は略一致する。
【0010】
図5の時刻t1では、モータ又は回路の温度が所定の閾値を超えた等によりフェールが発生し、インバータ回路からモータに印加されるモータ駆動電圧が遮断される。その結果、モータ出力は時刻t1以降0となる。
【0011】
図5の時刻t2では、モータ又は回路の温度が低下した等によってフェールが解消した結果、モータにはインバータ回路が生成した電圧が印加されることにより、モータが再始動される。時刻t2の再始動時は、モータの始動時と同様に目標回転速度90を予め定めた加速度で徐々に加速し、徐々に加速する目標回転速度に実回転速度を近づけるようにPI制御が行われる。
【0012】
しかしながら、前述のように、フェール検出後はPWM制御が中断されるので、モータ出力は0であり、PI制御のI項がクリアされているので、再開されたPWM制御によって算出されるデューティ比は、時刻t2まで惰力で回転していた場合の実回転速度でモータを回転させる場合のデューティ比よりも小さくなる。
【0013】
その結果、時刻t2での再始動後にモータの実回転数が低下し、結果として、目標回転速度90と実回転速度92とには、未補正偏差△Rが生じる。未補正偏差△Rは、モータの仕様によって異なるが、350〜400rpmに達し、モータの円滑な回転制御を妨げていた。
【0014】
本発明は上記に鑑みてなされたもので、一時停止したモータの再始動時での円滑な回転制御が可能な車両用ブロアモータ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決するために、請求項1記載の車両用ブロアモータ制御装置は、モータ又は回路の温度を示す物理量を検知する物理量検知部と、前記モータを駆動させる駆動部と、前記モータの実回転速度を検知する回転速度検知部と、前記物理量検知部が検知した物理量が閾値未満でフェールが検出されない場合には、目標回転速度と実回転速度との偏差に応じた比例項及び積分項を用いて前記駆動部の比例積分制御を行うと共に、前記物理量検知部が検知した物理量が閾値以上になってフェールが検出された場合には、前記モータへの電力供給を遮断する保護動作モードに移行し、前記物理量検知部が検知した物理量が閾値未満になって保護動作モードが解除された場合には、フェール検出時の前記モータの実回転速度、フェール検出時の積分項、及び保護動作モードが解除された場合の前記モータの実回転速度を用いて定めた積分項に基づいて比例積分制御を行う制御部と、を含んでいる。
【0016】
この車両用ブロアモータ制御装置は、モータの再始動時に、フェール検出時のモータの実回転速度、フェール検出時の積分項、及び保護動作モードが解除された場合のモータの実回転速度を用いて定めた積分項に基づいて比例積分制御(PI制御)を行う。
【0017】
電圧供給が遮断されても慣性で回転しているモータの回転速度を考慮したPI制御を行なっているので、モータの再始動時にモータに印加される電圧の降下が抑制され、一時停止したモータの再始動時での円滑な回転制御が可能となる。
【0018】
請求項2記載の車両用ブロアモータ制御装置は、請求項1記載の車両用ブロアモータ制御装置において、フェール検出時の積分項及び実回転速度を記憶する記憶部をさらに備えている。
【0019】
この車両用ブロアモータ制御装置によれば、フェール検出時の積分項及び実回転速度を記憶している。その結果、記憶したフェール検出時の積分項及び実回転速度と、保護動作モードが解除された場合に回転速度検知部が検知したモータの実回転速度と、に基づいてフェール解消時の積分項を算出することができる。
【0020】
請求項3記載の車両用ブロアモータ制御装置は、請求項1又は2記載の車両用ブロアモータ制御装置において、前記制御部は、保護動作モードが解除された場合には、現在の実回転速度とフェール検出時の実回転速度との比 フェール検出時の積分項を乗算して得た新たな積分項に基づいて前記駆動部を制御する。
【0021】
この車両用ブロアモータ制御装置によれば、モータを再始動させる際に、PI制御の積分項であるI項を、現在の実回転速度とフェール検出時の実回転速度との比にフェール検出時のI項を乗算して算出している。I項はクリアされていないので、モータの再始動時にモータに印加される電圧の降下が抑制され、一時停止したモータの再始動時での円滑な回転制御が可能となる。
【0022】
請求項4記載の車両用ブロアモータ制御装置は、請求項2記載の車両用ブロアモータ制御装置において、前記制御部は、保護動作モードが解除された場合には、前記新たな積分項を算出すると共に比例項をクリアし、前記新たな積分項と所定の増幅係数との積に基づいて前記駆動部を制御する。
【0023】
この車両用ブロアモータ制御装置によれば、モータを再始動させる際に、PI制御のP(比例)項をクリアする。しかしながら、現在の実回転速度と電圧の印加の停止時に記憶部に記憶された実回転速度と電圧の印加の停止時に記憶部に記憶されたI項の値に基づいて算出された新たなI項の値と所定の増幅係数であるI項ゲインとの積に基づいて駆動部を制御する。その結果、一時停止したモータの再始動時での円滑な回転制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施の形態に係る車両用ブロアモータ制御装置を用いたモータユニットの構成を示す概略図である。
図2】本発明の実施の形態に係る車両用ブロアモータ制御装置の概略を示す図である。
図3】本発明の実施の形態に係る車両用ブロアモータ制御装置のPI制御で、モータの再始動時のモータの回転速度、I項及びモータ出力の変化を対比させた概略図である。
図4】本発明の実施の形態に係る車両用ブロアモータ制御装置のモータ駆動制御処理の一例を示すフローチャートである。
図5】PI制御で、モータの再始動時にI項の値をクリアした場合のモータの目標回転速度、モータの実回転速度、I項及びモータ出力の変化を対比させた概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本実施の形態に係る車両用ブロアモータ制御装置20を用いたモータユニット10の構成を示す概略図である。図1の本実施の形態に係るモータユニット10は、一例として車載エアコンの送風に用いられる、いわゆるブロアモータのユニットである。
【0026】
本実施の形態に係るモータユニット10は、ステータ14の外側にロータ12が設けられた、アウターロータ構造の三相モータに係るものである。ステータ14はコア部材に導線が巻かれた電磁石であって、U相、V相、W相の三相を構成している。ステータ14のU相、V相、W相の各々は、後述する車両用ブロアモータ制御装置20の制御により、電磁石で発生する磁界の極性が切り替えられることにより、いわゆる回転磁界を発生する。
【0027】
ロータ12の内側(図示せず)にはロータマグネットが設けられており、ロータマグネットは、ステータ14で生じた回転磁界に対応することにより、ロータ12を回転させる。ロータ12にはシャフト16が設けられており、ロータ12と一体になって回転する。図1には示していないが、本実施の形態ではシャフト16には、いわゆるシロッコファン等の多翼ファンが設けられ、当該多翼ファンがシャフト16と共に回転することにより、車載エアコンにおける送風が可能となる。
【0028】
ステータ14は、上ケース18を介して、車両用ブロアモータ制御装置20に取り付けられる。車両用ブロアモータ制御装置20は、車両用ブロアモータ制御装置20の基板22と、基板22上の素子から生じる熱を放散するヒートシンク24とを備えている。ロータ12、ステータ14及び車両用ブロアモータ制御装置20を含んで構成されるモータユニット10には、下ケース60が取り付けられる。
【0029】
図2は、本実施の形態に係る車両用ブロアモータ制御装置20の概略を示す図である。インバータ回路40は、モータ52のステータ14のコイルに供給する電力をスイッチングする。例えば、インバータFET44A,44DはU相のコイル14Uに、インバータFET44B,44EはV相のコイル14Vに、インバータFET44C,44FはW相のコイル14Wに、各々供給する電力のスイッチングを行う。
【0030】
インバータFET44A,44B,44Cの各々のドレインは、ノイズ除去用のチョークコイル46を介して車載のバッテリ80の正極に接続されている。また、インバータFET44D,44E,44Fの各々のソースは、逆接防止FET48を介してバッテリ80の負極に接続されている。
【0031】
本実施の形態では、シャフト16と同軸に設けられたロータマグネット12A又はセンサマグネットの磁界をホール素子12Bが検出する。マイコン32は、ホール素子12Bにより検出された磁界に基づいてロータ12の回転速度及び位置(回転位置)を検出し、ロータ12の回転速度及び回転位置に応じてインバータ回路40のスイッチングの制御を行う。
【0032】
マイコン32には、エアコンのスイッチ操作に対応してエアコンを制御するエアコンECU82からのロータ12の回転速度に係る速度指令値を含む制御信号が入力される。また、マイコン32には、サーミスタ54Aと抵抗54Bとで構成された分圧回路54と、インバータ回路40とバッテリ80の負極との間に設けられた電流センサ56とが接続されている。
【0033】
分圧回路54を構成するサーミスタ54Aは、回路の基板22の温度に応じて抵抗値が変化するので、分圧回路54が出力する信号の電圧は基板22の温度に応じて変化する。マイコン32は、分圧回路54から出力される信号の電圧の変化に基づいて、基板22の温度を算出する。本実施の形態では、便宜上、分圧回路54から出力される信号をサーミスタ54Aの検知結果に基づく信号とする。また、本実施の形態では、サーミスタ54Aの検知結果に基づいて算出された回路の基板22の温度を、サーミスタ54Aが検知した回路の基板22の温度とする。
【0034】
電流センサ56は、例えば、シャント抵抗56Aとシャント抵抗56Aの両端の電位差を増幅するアンプ56Bとを有している。マイコン32は、アンプ56Bが出力した信号に基づいて、インバータ回路40の電流を算出する。
【0035】
本実施の形態では、サーミスタ54Aからの信号、電流センサ56が出力した信号、及びホール素子12Bが出力した信号は、マイコン32内の温度保護制御部62に入力される。温度保護制御部62は、各々入力された信号に基づいて基板22の素子の温度、インバータ回路40の電流、及びロータ12の回転速度等を算出する。また、温度保護制御部62には、電源であるバッテリ80が接続されており、温度保護制御部62は、バッテリ80の電圧を電源電圧として検知する。
【0036】
エアコンECU82からの制御信号は、マイコン32内の速度制御部64に入力される。速度制御部64には、ホール素子12Bが出力した信号も入力される。速度制御部64は、エアコンECU82からの制御信号並びにホール素子12Bからの信号に基づくロータ12の回転速度及び回転位置に基づいて、インバータ回路40のスイッチングの制御に係るPWM制御のデューティ比を算出する。
【0037】
速度制御部64が算出したデューティ比を示す信号は、PWM出力部66と温度保護制御部62とに入力される。温度保護制御部62は、基板22の素子の温度、ロータ12の回転速度及び車両用ブロアモータ制御装置20の回路の負荷に基づいて、速度制御部64が算出したデューティ比を補正して、速度制御部64にフィードバックする。回路の負荷は、例えば、インバータ回路40の電流、電源電圧及びPWM出力部66がインバータ回路40に生成させモータ52に印加する電圧のデューティ比である。本実施の形態では、一例として、インバータ回路40の電流、電源電圧及び基板22の温度を、負荷を示す物理量とする。なお、本実施の形態では、モータ52の負荷及び車両用ブロアモータ制御装置20の回路の負荷を、モータの負荷として総称する。
【0038】
温度保護制御部62は、回路の基板22の温度が所定の温度閾値以上に、インバータ回路40の電流が所定の電流閾値以上に、電源電圧が所定の電源電圧閾値以上に、各々なった場合にモータ52又は回路にフェールが検出されたと判定する。フェールが検出された場合、モータ52への電力供給を遮断する保護動作モードに移行し、温度保護制御部62は、モータ52への電圧の印加を停止するように速度制御部64にフィードバックする。速度制御部64はモータ52に印加する電圧のデューティ比を0にすることで、モータ52への電圧の印加を停止する。所定の温度閾値、所定の電流閾値及び所定の電源電圧閾値は、モータ52及び車両用ブロアモータ制御装置20の仕様によって異なるので、コンピュータを用いたシミュレーション及び実機を用いた実験等を通じて具体的に決定する。
【0039】
また、温度保護制御部62には、記憶装置であるメモリ68が接続されている。メモリ68には、後述するような、モータ再始動時のPI制御におけるI項の処理に関するプログラム等が記憶されている。また、メモリ68には、モータ52の回転速度、PWM制御によるモータ出力及びI項の値等も記憶される。
【0040】
速度制御部64は、温度保護制御部62による補正を、例えばPI制御等によって自身が算出したデューティ比にフィードバックし、当該フィードバックを行ったデューティ比を示す信号をPWM出力部66にモータ出力として出力する。PWM出力部66は、モータ出力が示すデューティ比の電圧を生成するようにインバータ回路40のスイッチングを制御する。
【0041】
続いて、本実施の形態に係る車両用ブロアモータ制御装置20の作用並びに効果について説明する。図3は、本実施の形態に係る車両用ブロアモータ制御装置20のPI制御で、モータ52の再始動時のモータ52の回転速度、I項及びモータ出力の変化を対比させた概略図である。図3の時刻t0からt1までは、モータ52の回転速度の制御が正常に行われており、目標回転速度94と実回転速度96とが略一致している。
【0042】
図3の時刻t1では、モータ52又は回路の温度が所定の閾値を超えた等によりフェールが発生し、モータ52への電力供給を遮断する保護動作モードに移行し、インバータ回路40からモータに印加されるモータ駆動電圧が遮断される。しかしながら、時刻t1以降もモータ52はロータ12等の慣性により減速しながらも回転を継続しているので、本実施の形態では、ホール素子12Bが検知したモータ52の回転に基づいてモータ出力を仮想的に算出すると共に、PI制御のI項のクリアを行わず、慣性で回転するモータ52の実回転速度に基づいてI項を算出する。
【0043】
図3の時刻t1から時刻t2までのモータ出力の仮想的な算出は、下記の式(1)を用いて行う。

【0044】
また、フェール検出後のI項は、下記の式(2)を用いて算出する。

【0045】
例えば、フェール発生時(時刻t1)でのI項の値が1000でモータ52の実回転速度が5000rpmで、フェール検出後(時刻t1から時刻t2)のモータ52の実回転速度が4000rpmの場合、上記の式(2)を用いると、フェール検出後のI項は800となる。
【0046】
図3の時刻t2では、モータ52又は回路の温度が低下した等によってフェールが解消した結果、保護動作モードが解除され、モータ52にはインバータ回路40が生成した電圧が印加されることにより、モータが再始動される。時刻t2の再始動時は、モータの始動時と同様に目標回転速度90を予め定めた加速度で徐々に加速し、徐々に加速する目標回転速度に実回転速度を近づけるようにPI制御が行われる。
【0047】
本実施の形態では、フェール検出時(時刻t1)からのI項を、上記の式(2)によって算出しているので、再始動後のモータ出力の低下は図5の場合よりも抑制され、その結果、目標回転速度94と実回転速度96との偏差である未補正偏差△R図5の場合よりも低減される。未補正偏差△Rは、モータの仕様によって異なるが、略50〜100rpmであり、図5の場合に比してモータ52の円滑な回転制御が可能になる。
【0048】
図4は、本実施の形態に係る車両用ブロアモータ制御装置20のモータ駆動制御処理の一例を示すフローチャートである。ステップ400では、目標回転速度の演算、実回転速度の演算及びサーミスタ54Aが検知した基板22の温度の取得を開始する。目標回転速度94は、エアコンECU82から入力される指令値に基づく回転速度であり、実回転速度96は、ホール素子12Bが出力した信号に基づいて算出される。
【0049】
ステップ402では、サーミスタ54Aが検知した基板22の温度が所定の温度閾値以上となった等によりフェールが検出されたか否かを判定する。ステップ402でフェールが検出されなかった場合には、ステップ404でインバータ回路40にモータ駆動電圧を生成させ、モータ52に印加する。
【0050】
ステップ406では、PI制御のP項を目標回転速度から実回転速度を減算して算出する。ステップ408では、直前に算出したI項にステップ406で算出したP項を加算して新たなI項を算出する。
【0051】
ステップ410では、ステップ406で算出したP項にP項ゲインを乗算して得た値に、ステップ408で算出した新たなI項にI項ゲインを乗算して得た値を加算することにより、PI制御によるモータ出力の補正値を算出する。ステップ412では、ステップ410で算出したモータ出力の補正値に基づいてインバータ回路40を制御し、モータ52に印加する電圧を生成して処理をリターンする。
【0052】
ステップ402でフェールを検出した場合には、ステップ414でフェール検出時のI項及び実回転速度をメモリ68に記憶して、ステップ416でモータ52に印加する電圧であるモータ駆動電圧を遮断する。そして、ステップ418で、サーミスタ54Aが検知した温度が所定の温度閾値未満である等によりフェールが解消した場合には、ステップ420で、フェール検出時のI項の値をメモリ68から読み出し、ステップ422でフェール検出時の実回転速度96をメモリ68から読み出す。また、ステップ418でフェールが解消していない場合には、手順をステップ414に移行させる。
【0053】
ステップ424では、P項をクリアし、ステップ426では、上記の式(2)を用いてフェール検出後のI項の値を算出する。
【0054】
ステップ428では、P項にP項ゲインを乗算して得た値に、ステップ426で算出したI項にI項ゲインを乗算して得た値を加算することにより、PI制御によるモータ出力の補正値を算出する。P項はステップ424でクリアされているので、ステップ426では、実質的にはI項とI項ゲインとの積がPI制御によるモータ出力の補正値となる。
【0055】
ステップ430では、ステップ428で算出したモータ出力の補正値に基づいてインバータ回路40を制御し、モータ52に印加する電圧を生成する。ステップ432では、目標回転速度を予め定めた加速度で徐々に加速してエアコンECU82から入力される指令値に基づく目標回転速度に近づける処理を開始し、手順をステップ406に移行させる。
【0056】
ステップ406では、PI制御のP項を、所定の加速度で指令値に基づく目標回転速度へ漸増させている目標回転速度から実回転速度を減算して算出する。ステップ408では、ステップ426で算出したI項にステップ406で算出したP項を加算して新たなI項を算出する。
【0057】
ステップ410では、ステップ406で算出したP項にP項ゲインを乗算して得た値に、ステップ408で算出した新たなI項にI項ゲインを乗算して得た値を加算することにより、PI制御によるモータ出力の補正値を算出する。ステップ412では、ステップ410で算出したモータ出力の補正値に基づいてインバータ回路40を制御し、モータ52に印加する電圧を生成して処理をリターンする。
【0058】
以上説明したように、本実施の形態によれば、基板22等の温度が所定の温度閾値以上に上昇した場合等によりフェールが検出された結果、モータ52への通電を遮断した場合でも、惰力で空転するモータ52の回転速度に基づいて、PI制御のI項を算出している。その結果、 フェール解消後のモータ52の再始動において、惰力で空転しているモータ52の実回転速度に応じたデューティ比を算出でき、PI制御による未補正の偏差を低減できるので、一時停止したモータ52の再始動時に円滑な回転制御が可能となる。
【0059】
また、上記の式(1)を用いて、フェールが解消した時のモータ出力を算出し、算出したモータ出力に基づいて、モータ52に印加する電圧のデューティ比を算出してもよい。式(1)においても、フェール検出後に惰力で空転しているモータ52の回転速度を考慮してデューティ比を決定するので、モータ52の再始動時に、モータ52の回転速度が低下する現象を抑制できる。
【符号の説明】
【0060】
10…モータユニット、12…ロータ、12A…ロータマグネット、12B…ホール素子、14…ステータ、14U,14V,14W…コイル、16…シャフト、18…上ケース、20…車両用ブロアモータ制御装置、22…基板、24…ヒートシンク、32…マイコン、40…インバータ回路、44A,44B,44C,44D,44E,44F…インバータFET、46…チョークコイル、48…逆接防止FET、52…モータ、54…分圧回路、54A…サーミスタ、54B…抵抗、56…電流センサ、56A…シャント抵抗、56B…アンプ、60…下ケース、62…温度保護制御部、64…速度制御部、66…PWM出力部、68…メモリ、80…バッテリ、82…エアコンECU、90…目標回転速度、92…実回転速度、94…目標回転速度、96…実回転速度
図1
図2
図3
図4
図5