(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6285352
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】3−デセン酸誘導体およびその用途
(51)【国際特許分類】
C07C 233/09 20060101AFI20180215BHJP
C07C 69/65 20060101ALI20180215BHJP
C07C 69/533 20060101ALI20180215BHJP
C07C 251/28 20060101ALI20180215BHJP
C07D 295/185 20060101ALI20180215BHJP
C07D 211/32 20060101ALI20180215BHJP
C07D 223/22 20060101ALI20180215BHJP
C07D 279/30 20060101ALI20180215BHJP
C07D 265/38 20060101ALI20180215BHJP
C07D 401/04 20060101ALI20180215BHJP
C07D 405/06 20060101ALI20180215BHJP
C07D 307/64 20060101ALI20180215BHJP
C07D 277/16 20060101ALI20180215BHJP
C07D 401/12 20060101ALI20180215BHJP
A61K 31/165 20060101ALI20180215BHJP
A61K 31/16 20060101ALI20180215BHJP
A61K 31/426 20060101ALI20180215BHJP
A61K 31/4409 20060101ALI20180215BHJP
A61K 31/155 20060101ALI20180215BHJP
A61K 31/395 20060101ALI20180215BHJP
A61K 31/445 20060101ALI20180215BHJP
A61K 31/495 20060101ALI20180215BHJP
A61K 31/55 20060101ALI20180215BHJP
A61K 31/5415 20060101ALI20180215BHJP
A61K 31/538 20060101ALI20180215BHJP
A61K 31/403 20060101ALI20180215BHJP
A61K 31/496 20060101ALI20180215BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20180215BHJP
A61K 31/341 20060101ALI20180215BHJP
A61K 31/444 20060101ALI20180215BHJP
A61K 31/231 20060101ALI20180215BHJP
A61K 31/265 20060101ALI20180215BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
C07C233/09 ZCSP
C07C69/65
C07C69/533
C07C251/28
C07D295/185
C07D211/32
C07D223/22
C07D279/30
C07D265/38
C07D401/04
C07D405/06
C07D307/64
C07D277/16
C07D401/12
A61K31/165
A61K31/16
A61K31/426
A61K31/4409
A61K31/155
A61K31/395
A61K31/445
A61K31/495
A61K31/55
A61K31/5415
A61K31/538
A61K31/403
A61K31/496
A61K31/506
A61K31/341
A61K31/444
A61K31/231
A61K31/265
A61P35/00
【請求項の数】15
【全頁数】41
(21)【出願番号】特願2014-507737(P2014-507737)
(86)(22)【出願日】2013年3月18日
(86)【国際出願番号】JP2013057723
(87)【国際公開番号】WO2013146437
(87)【国際公開日】20131003
【審査請求日】2016年3月16日
(31)【優先権主張番号】特願2012-70164(P2012-70164)
(32)【優先日】2012年3月26日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】597018325
【氏名又は名称】飯沼 宗和
(73)【特許権者】
【識別番号】512077985
【氏名又は名称】赤尾 幸博
(73)【特許権者】
【識別番号】000106771
【氏名又は名称】シーシーアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】飯沼 宗和
(72)【発明者】
【氏名】赤尾 幸博
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 博宣
【審査官】
水野 浩之
(56)【参考文献】
【文献】
特表2006−522746(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/038110(WO,A1)
【文献】
特開2001−163719(JP,A)
【文献】
J. Chem. Soc., Chem. Commun.,1993年,Vol.1,p.65-66,Table1, Product 3g, 3h
【文献】
Tetrahedron,2006年,Vol.62, No.26,p.6355-6360,第6356頁右カラム、Eq.6、化合物3b(E)
【文献】
Tetrahedron,2003年,Vol.59, No.49,p.9857-9864,Scheme3, 化合物15a,15b
【文献】
J. Jpn. Oil. Chem. Soc.,1999年,48(11),pp. 1257-1262
【文献】
Chinese Journal of Chemistry,2009年,27,pp.179-182
【文献】
Tetrahrdron ,1993年,49(29),pp. 6473-6482
【文献】
J. Org. Chem.,1976年,41(6),pp. 986-996
【文献】
J. Am. Chem. Soc.,1974年,96(17),pp. 5563-5565
【文献】
Tetrahedron Letters,2003年,44,pp. 7249-7251
【文献】
J. Am. Chem. Soc.,1981年,103(20),pp. 6251-6253
【文献】
Tetrahedron Letters,2006年,47,pp. 683-687
【文献】
J. Org. Chem.,1998年,63,pp. 7939-7944
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07D
A61K
A61P
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表される化合物またはその製薬上許容されうる塩:
【化1】
式中、
Aは、−NR
1R
2を表し、
この際、R
1が非置換のアルキル基を表し、R
2が非置換のシクロアルキル基を表すか、あるいは、
R
1が水素原子を表し、R
2がシクロアルキル基;アルキルアミノ基で置換されたアリール基;アルキルアミノ基で置換されたアルキル基;アリール基で置換された−NR
4R
5(R
4およびR
5は、ともにアルキル基である);またはアルキル基で置換されたアリール基を表す。
【請求項2】
下記の化合物1、化合物2、化合物4、化合物7〜化合物9、化合物11、化合物13もしくは化合物14またはこれらの製薬上許容されうる塩:
【化2】
【請求項3】
下記化学式1で表される化合物またはその製薬上許容されうる塩:
【化3】
式中、
Aは、−NR
1R
2を表し、
この際、R
1とR
2とは結合して複素環を形成しており、かつ、
上記複素環は、非置換のアザシクロオクタン環;アルキル基で置換されたピペリジン環;アルキル基もしくはアリール基もしくはヘテロアリール基で置換されたピペラジン環;非置換のイミノスチルベン環;非置換のジベンズアゼピン環;非置換のフェノチアジン環;または非置換のフェノキサジン環を表す。
【請求項4】
下記の化合物24〜化合物30、化合物32、化合物33もしくは化合物36またはこれらの製薬上許容されうる塩:
【化4】
【化5】
【請求項5】
下記化学式1で表される化合物またはその製薬上許容されうる塩:
【化6】
式中、
Aは、−OR
3を表し、
この際、R
3は、ハロゲン原子で置換されたアリール基;アルコキシ基で置換されたアリール基;アルケニル基;アルキニル基;シクロアルキル基;シクロアルケニル基;ヘテロアリール基;ヒドロキシ基もしくはそのエステル;アルコキシ基;アリールオキシ基;またはアルキルカルボニル基を表す。
【請求項6】
下記の化合物41もしくは化合物42またはこれらの製薬上許容されうる塩:
【化7】
【請求項7】
下記化学式1で表される化合物またはその製薬上許容されうる塩:
【化8】
式中、
Aは、−SR
3を表し、
この際、R
3は、非置換のヘテロアリール基;水素原子;アルケニル基;アルキニル基
;シクロアルケニル基;ヘテロアリール基;ヒドロキシ基もしくはそのエステル;アルコキシ基;アリールオキシ基;またはアルキルカルボニル基を表す。
【請求項8】
下記の化合物49もしくは化合物50またはこれらの製薬上許容されうる塩:
【化9】
【請求項9】
下記化学式1で表される化合物またはその製薬上許容されうる塩:
【化10】
式中、
Aは、−C(R
3)
3を表し、
この際、R
3は、それぞれ独立して、水素原子;アルキル基;アルケニル基;アルキニル基;シクロアルキル基;シクロアルケニル基;アリール基;ヘテロアリール基;ヒドロキシ基もしくはそのエステル;アルコキシ基;アリールオキシ基;またはアルキルカルボニル基を表し、かつ、R
3の少なくとも1つが、アリール基で置換されたアルキル基を含む。
【請求項10】
下記の化合物51またはその製薬上許容されうる塩:
【化11】
【請求項11】
下記化学式1で表される化合物またはその製薬上許容されうる塩:
【化12】
式中、
Aは、−N=C(R
3)
2を表し、
この際、R
3は、それぞれ独立して、水素原子;アルキル基;アルケニル基;アルキニル基;シクロアルキル基;シクロアルケニル基;アリール基;ヘテロアリール基;ヒドロキシ基もしくはそのエステル;アルコキシ基;アリールオキシ基;またはアルキルカルボニル基を表す。
【請求項12】
R3の少なくとも一方が、置換されていてもよいアリール基を含む、請求項11に記載の化合物またはその製薬上許容されうる塩。
【請求項13】
下記の化合物52またはその製薬上許容されうる塩:
【化13】
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の化合物またはその製薬上許容されうる塩を有効成分として含有する医薬。
【請求項15】
請求項14に記載の医薬からなる、がんの予防および/または治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3−デセン酸誘導体およびその用途に関する。具体的には、抗がん作用を有する新規化合物と、その医薬(例えば、がんの予防および/または治療剤)としての用途に関する。
【背景技術】
【0002】
がんは、今日最も死亡率の高い疾患で、治療法には三大療法として化学療法、放射線療法、外科療法がある。化学療法は、マイトマイシンC、アクチノマイシンDなどの抗腫瘍性抗生物質、5−フルオロウラシル、メトトレキサートなどの代謝拮抗剤、シクロホスファミド、ニムスチンなどのアルキル化剤、アナストロゾール、エチニルエストラジオールなどのホルモン剤、シスプラチン、オキサリプラチンなどのプラチナ製剤、イリノテカン、エトポシドなどの植物アルカロイドのような抗がん剤が用いられている。しかし、抗がん剤は、がん細胞のみに選択的に作用するのではなく、正常細胞にも作用するため、抗がん剤の投与を受けた患者は嘔吐、食欲不振、悪心、脱毛、骨髄抑制、肝機能障害、腎機能障害、心機能障害など種々の副作用によりQOL(Quality of Life、生活の質)を著しく低下させられるという大きな問題があり、抗がん活性に優れ正常細胞に対する毒性が低く安全性の高い抗がん剤が常々望まれている。
【0003】
従来、上記のように多種多様の抗がん剤が知られているが、安全性の高い抗がん剤として不飽和脂肪酸誘導体を有効成分とする抗がん剤が提案されている(特許文献1および特許文献2を参照)。具体的には、特許文献1では、10トランス,12シス−共役リノール酸を有効成分とする抗腫瘍剤が開示されている。また、特許文献2では、9トランス,11トランス−共役リノール酸誘導体を有効成分とする抗腫瘍剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−171272号公報
【特許文献2】特開2005−247754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したような従来提案されている不飽和脂肪酸誘導体のがんに対する作用は十分でなく、さらに強力な抗がん活性を有する化合物の創出が望まれているのが現状である。
【0006】
そこで本発明は、がんの予防・治療剤として有用な、新規な化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、従来の技術における上記課題に鑑み鋭意検討を行った。その過程で、特定の構造を有する不飽和脂肪酸誘導体の1種である3−デセン酸誘導体が、高い抗がん活性を有することを偶然にも知得した。そして、この知見に基づき、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明の一形態によれば、下記化学式1で表される化合物またはその製薬上許容されうる塩が提供される。
【0009】
【化1】
【0010】
化学式1において、
Aは、−NR
1R
2、−OR
3、−SR
3、−C(R
3)
3、または−N=C(R
3)
2を表し、
この際、R
1およびR
2は、互いに独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基、ヒドロキシ基もしくはそのエステル、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルカルボニル基、−NR
4R
5(ここで、R
4およびR
5は、互いに独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基、ヒドロキシ基もしくはそのエステル、アルコキシ基、アリールオキシ基、またはアルキルカルボニル基を表すか、結合して複素環を形成してもよい)、または−N=C(R
3)
2を表す、
ここで、上記アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、またはアルキルカルボニル基は、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基、ヒドロキシ基もしくはそのエステル、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、カルボキシ基もしくはそのエステル、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シアノ基、ニトロ基または複素環基で置換されていてもよく、
さらに当該アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基または複素環基は、アリール基、ヘテロアリール基、ヒドロキシ基もしくはそのエステル、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、アルコキシアルコキシ基またはカルボキシ基もしくはそのエステルで置換されていてもよい;
あるいは、R
1とR
2とは結合して複素環を形成してもよい、
ここで、上記複素環は、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヒドロキシ基もしくはそのエステル、アルコキシ基、アリールオキシ基またはカルボキシ基もしくはそのエステルで置換されていてもよく、
さらに当該アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基またはアリールオキシ基は、アリール基、ヒドロキシ基もしくはそのエステル、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシアルコキシ基またはカルボキシ基もしくはそのエステルで置換されていてもよい;
R
3は、互いに独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基、ヒドロキシ基もしくはそのエステル、アルコキシ基、アリールオキシ基またはアルキルカルボニル基を表し、
当該アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基またはアルキルカルボニル基は、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基、ヒドロキシ基もしくはそのエステル、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、カルボキシ基もしくはそのエステル、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シアノ基、ニトロ基または複素環基で置換されていてもよく、
さらに当該アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基または複素環基は、アリール基、ヘテロアリール基、ヒドロキシ基もしくはそのエステル、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、アルコキシアルコキシ基またはカルボキシ基もしくはそのエステルで置換されていてもよい。
【0011】
また、本発明の他の形態は、上述した化合物の用途として、上述した化合物またはその製薬上許容されうる塩を有効成分として含有する医薬に関する。さらに、本発明のさらに他の形態によれば、当該医薬からなるがんの予防および/または治療剤が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、悪性腫瘍の予防・治療剤として有用な、新規な化合物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例において、本発明に係る化合物(化合物14、化合物25、または化合物40;濃度10μM、処理時間48時間)で処理したK562細胞を、倒立顕微鏡(オリンパス株式会社製)にて観察した結果を示す写真である。
【
図2】実施例において、本発明に係る化合物(化合物14、化合物25、または化合物40;濃度10μM、処理時間48時間)で処理したK562細胞におけるLC3Bタンパク質の発現を抗LC3B抗体(Cell Signaling technology社製)を1次抗体として用いたウエスタンブロットにより確認した結果を示す写真である。
【
図3】(A)は、実施例において、本発明に係る化合物(化合物24)を用い、がん細胞(ヒト膀胱癌細胞株NKB1)を移植したマウスを用いた抗がん活性の確認試験を行った結果を示すグラフである。(B)は、がん細胞を移植後、化合物24を投与したマウスの腫瘍部位におけるLC3Bタンパク質の発現を上記と同様のウエスタンブロットにより確認した結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
≪用語の定義≫
本発明において、下記の用語は、特に断らない限り、以下の意味を有する。
【0015】
「アルキル基」とは、直鎖状または分岐鎖状の炭素数1〜20(好ましくは炭素数1〜12、より好ましくは炭素数1〜6)のアルキル基を意味し、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、1,2−ジメチルプロピル基、ヘキシル基、イソヘキシル基などが挙げられる。
【0016】
「アルケニル基」とは、二重結合を1個含む直鎖状または分枝鎖状の炭素数2〜20(好ましくは炭素数2〜10)の不飽和炭化水素基を意味する。具体的には、例えば、ビニル基、プロペニル基、メチルプロペニル基、ブテニル基またはメチルブテニル基等が挙げられる。
【0017】
「アルキニル基」とは、三重結合を1個含む直鎖状または分枝鎖状の炭素数2〜10(好ましくは炭素数2〜6)の不飽和炭化水素基を意味する。具体的には、例えば、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、2−ブチニル基、ペンチニル基またはヘキシニル基等が挙げられる。
【0018】
「シクロアルキル基」とは、炭素数3〜10(好ましくは炭素数3〜7)の飽和環状炭化水素基を意味し、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基が挙げられ、好適にはシクロペンチル基またはシクロヘキシル基である。なお、「シクロアルキル基」の概念には、飽和ビシクロ環も包含される。
【0019】
「シクロアルケニル基」とは、二重結合を1個含む環状の炭素数3〜10(好ましくは炭素数3〜7)の不飽和炭化水素基を意味する。具体例としては、1−シクロペンテニル基、1−シクロヘキセニル基等が挙げられる。
【0020】
「アリール基」とは、炭素数6〜20(好ましくは炭素数6〜14)の芳香族炭化水素基を意味し、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基などが挙げられ、好適にはフェニル基である。
【0021】
「ヘテロアリール基」とは、1〜5個の炭素原子、ならびに窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群から独立して選択される1〜4個のヘテロ原子を含有する5または6員の芳香族複素環基を意味する。ただし、これらの環は、隣接する酸素原子および/または硫黄原子を含まない。ヘテロアリール基の具体例として、例えば、ピロリル基、フリル基、チエニル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、1,2,4−トリアゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、イソキサゾリル基、テトラゾリル基、ピリジル基、ピラジニル基、ピリミジル基などが挙げられる。これらの芳香族複素環基の全ての位置異性体が考えられる(例えば、2−ピリジル基、3−ピリジル基、4−ピリジル基など)。好ましいヘテロアリール基は、イミダゾリル基、ピラゾリル基、チアゾリル基、ピリジル基、ピラジニル基またはピリミジル基である。
【0022】
「アルコキシ基」とは、直鎖状または分岐鎖状の炭素数1〜20(好ましくは炭素数1〜12、より好ましくは炭素数1〜6)のアルコキシ基を意味し、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基などが挙げられる。
【0023】
「アリールオキシ基」とは、(アリール基)−O−で表される基を意味し、例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基、アントリルオキシ基、フェナントリルオキシ基などが挙げられ、好適にはフェノキシ基である。
【0024】
「ヘテロアリールオキシ基」とは、(ヘテロアリール基)−O−で表される基を意味し、例えば、上述したヘテロアリール基に対応する基が挙げられる。
【0025】
「アルキルカルボニル基」とは、(アルキル基)−C(=O)−で表される基を意味し、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基、バレリル基、イソバレリル基などが挙げられ、好適にはアセチル基である。
【0026】
「アリールカルボニル基」とは、(アリール基)−C(=O)−で表される基を意味し、例えば、上述したアリール基に対応する基が挙げられ、具体的には、ベンゾイル基、1−ナフトイル基、2−ナフトイル基等が挙げられる。
【0027】
「複素環」とは、「芳香族へテロ環」および「非芳香族へテロ環」の総称である。このうち「芳香族へテロ環」は、上述したヘテロアリール基に対応するものであり、例えば、フラン、チオフェン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、テトラゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、フラザン、ピラジン、オキサジアゾール等が挙げられる。また、「非芳香族へテロ環」とは、窒素原子、酸素原子、および/または硫黄原子を1〜3個含む炭素数1〜5の非芳香族へテロ環を意味し、例えば、ピロリン、ピロリジン、イミダゾリン、イミダゾリジン、ピラゾリン、ピラゾリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、テトラヒドロピラン等が挙げられる。なお、「複素環基」とは、上述した複素環から水素原子が脱離してなるラジカルである。
【0028】
「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を表し、好適には、フッ素原子または塩素原子である。
【0029】
「ヒドロキシ基のエステル」とは、−OH基の水素原子が上述したアルキルカルボニル基等のアルキルカルボニル基に対応するカルボン酸でエステル化されたものを意味する。
【0030】
「カルボキシ基のエステル」とは、−C(=O)OH基のOHが上述したアルコキシ基等のアルコキシ基に対応するアルコールでエステル化されたものを意味する。
【0031】
「アルキルアミノ基」とは、モノアルキルアミノ基およびジアルキルアミノ基の総称である。「モノアルキルアミノ基」とは、上述したアルキル基が1つ結合したアミノ基を意味し、例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、n−プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、n−ブチルアミノ基、n−ヘキシルアミノ基等が挙げられる。また、「ジアルキルアミノ基」とは、上述したアルキル基が2つ結合したアミノ基を意味し、例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジn−プロピルアミノ基等が挙げられる。
【0032】
「アリールアミノ基」とは、上述したアリール基等のアリール基にアミノ基が結合した基を意味し、例えば、フェニルアミノ基、ビフェニルアミノ基、ナフチルアミノ基、アントリルアミノ基、フェナントリルアミノ基等が挙げられる。
【0033】
「アルキルチオ基」とは、(アルキル基)−S−で表される基を意味し、例えば、上述したアルキル基に対応する基が挙げられる。
【0034】
「アリールチオ基」とは、(アリール基)−S−で表される基を意味し、例えば、上述したアリール基に対応する基が挙げられる。
【0035】
≪3−デセン酸誘導体≫
本発明の一形態は、下記化学式1で表される化合物またはその製薬上許容されうる塩(3−デセン酸誘導体)に関する。
【0037】
化学式1において、Aは、−NR
1R
2、−OR
3、−SR
3、−C(R
3)
3、または−N=C(R
3)
2を表す。以下、置換基Aがとりうる選択肢のそれぞれの場合に分けて、化学式1で表される化合物の好ましい実施形態についてより詳細に説明する。
【0038】
[アミド誘導体]
まず、Aが−NR
1R
2を表す場合、化学式1で表される化合物は、下記化学式2で表されるアミド誘導体である:
【0040】
化学式2において、R
1およびR
2は、互いに独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基、ヒドロキシ基もしくはそのエステル、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルカルボニル基、−NR
4R
5(ここで、R
4およびR
5は、互いに独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基、ヒドロキシ基もしくはそのエステル、アルコキシ基、アリールオキシ基、またはアルキルカルボニル基を表すか、結合して複素環を形成してもよい)、または−N=C(R
3)
2を表す。
【0041】
そして、R
1およびR
2の選択肢として上述したアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、またはアルキルカルボニル基は、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基、ヒドロキシ基もしくはそのエステル、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、カルボキシ基もしくはそのエステル、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シアノ基、ニトロ基または複素環基で置換されていてもよい。
【0042】
また、R
1およびR
2を置換しうる基として上述したアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基または複素環基は、アリール基、ヘテロアリール基、ヒドロキシ基もしくはそのエステル、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、アルコキシアルコキシ基またはカルボキシ基もしくはそのエステルでさらに置換されていてもよい。
【0043】
R
1および/またはR
2が−N=C(R
3)
2を表すとき、R
3は、互いに独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基、ヒドロキシ基もしくはそのエステル、アルコキシ基、アリールオキシ基またはアルキルカルボニル基を表す。
【0044】
そして、R
3の選択肢として上述したアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基またはアルキルカルボニル基は、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、ヘテロアリール基、ヒドロキシ基もしくはそのエステル、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、カルボキシ基もしくはそのエステル、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シアノ基、ニトロ基または複素環基で置換されていてもよい。
【0045】
また、R
3を置換しうる基として上述したアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基または複素環基は、アリール基、ヘテロアリール基、ヒドロキシ基もしくはそのエステル、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロアリールオキシ基、アルコキシアルコキシ基またはカルボキシ基もしくはそのエステルでさらに置換されていてもよい。
【0046】
好ましい一実施形態においては、R
1およびR
2の少なくとも一方が、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアルケニル基、置換されていてもよいシクロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロアリール基、−NR
4R
5、または−N=C(R
3)
2を表す。より好ましい実施形態においては、R
1およびR
2の少なくとも一方が、置換されていてもよいアルキル基、または置換されていてもよいシクロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、または−NR
4R
5を表す。さらに好ましい実施形態においては、R
1が非置換のアルキル基を表し、R
2が非置換のシクロアルキル基を表す。
【0047】
R
1およびR
2が上述の定義を有する場合の好ましいアミド誘導体は、以下の化合物1〜化合物23からなる群から選択されるものである。
【0053】
これらのうち、抗がん活性が特に高いという観点から、化学式1(化学式2)で表される化合物は、化合物1、化合物2、化合物4、化合物7〜化合物9、化合物11、化合物13、および化合物14からなる群から選択されるものであることが好ましい。
【0054】
あるいは、化学式2において、R
1とR
2とは結合して複素環を形成してもよい。
【0055】
ここで、当該複素環は、ハロゲン原子、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヒドロキシ基もしくはそのエステル、アルコキシ基、アリールオキシ基またはカルボキシ基もしくはそのエステルで置換されていてもよい。
【0056】
また、上記複素環を置換しうる基として上述したアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルコキシ基またはアリールオキシ基は、アリール基、ヒドロキシ基もしくはそのエステル、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシアルコキシ基またはカルボキシ基もしくはそのエステルでさらに置換されていてもよい。
【0057】
なお、上述した複素環としては、置換されていてもよいアザシクロオクタン(アゾカン)環、置換されていてもよいピペリジン環、置換されていてもよいピペラジン環、置換されていてもよいイミノスチルベン環、置換されていてもよいジベンズアゼピン環、置換されていてもよいフェノチアジン環、置換されていてもよいフェノキサジン環、および置換されていてもよいカルバゾール環が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。なかでも、置換されていてもよいアザシクロオクタン(アゾカン)環、置換されていてもよいピペリジン環、置換されていてもよいピペラジン環、置換されていてもよいイミノスチルベン環、置換されていてもよいジベンズアゼピン環、置換されていてもよいフェノチアジン環、および置換されていてもよいフェノキサジン環が好ましい。
【0058】
R
1とR
2とが結合して複素環を形成する場合の好ましいアミド誘導体は、以下の化合物24〜化合物37からなる群から選択されるものである。
【0062】
これらのうち、抗がん活性が特に高いという観点から、化学式1(化学式2)で表される化合物は、化合物24〜化合物30、化合物32、化合物33、および化合物36からなる群から選択されるものであることが好ましい。
【0063】
なお、化学式2で表される化合物(アミド誘導体)は、常法に従って製造することが可能である。当該化合物の製造方法の一例としては、例えば、3−デセン酸を塩化チオニルと反応させて対応する酸塩化物(3−デセン酸クロライド)を合成し、これに対応するアミン(ヒドラジン誘導体を含む)を反応させるという方法が挙げられる。なお、酸塩化物に代えて、対応する酸無水物やエステルを用いて同様にアミンと反応させてもよい。また、製造された目的化合物については、抽出、分配、カラムクロマトグラフィー等の公知の分離、精製手段を用いて単離することができる。
【0064】
[エステル誘導体]
続いて、Aが−OR
3を表す場合、化学式1で表される化合物は、下記化学式3で表されるエステル誘導体である:
【0066】
化学式3において、R
3は、上記と同様の定義を有する。ただし、化学式3におけるR
3は、好ましくは置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいアルケニル基、または置換されていてもよいアリール基を表す。
【0067】
好ましいエステル誘導体は、以下の化合物38〜化合物47からなる群から選択されるものである。
【0070】
これらのうち、抗がん活性が特に高いという観点から、化学式1(化学式3)で表される化合物は、化合物38、化合物39、化合物41、および化合物42からなる群から選択されるものであることが好ましい。
【0071】
なお、化学式3で表される化合物(エステル誘導体)は、常法に従って製造することが可能である。当該化合物の製造方法の一例としては、例えば、3−デセン酸を塩化チオニルと反応させて対応する酸塩化物(3−デセン酸クロライド)を合成し、これに対応するアルコールを反応させるという方法が挙げられる。なお、酸塩化物に代えて、対応する酸無水物やエステルを用いて同様にアルコールと反応させてもよい。また、製造された目的化合物については、抽出、分配、カラムクロマトグラフィー等の公知の分離、精製手段を用いて単離することができる。
【0072】
[チオエステル誘導体]
また、Aが−SR
3を表す場合、化学式1で表される化合物は、下記化学式4で表されるチオエステル誘導体である:
【0074】
化学式4において、R
3は、上記と同様の定義を有する。ただし、化学式4におけるR
3は、好ましくは置換されていてもよいアルキル基、または置換されていてもよいヘテロアリール基を表す。
【0075】
好ましいチオエステル誘導体は、以下の化合物48〜化合物50からなる群から選択されるものである。
【0077】
これらのうち、抗がん活性が特に高いという観点から、化学式1(化学式4)で表される化合物は、化合物49および化合物50からなる群から選択されるものであることが好ましい。
【0078】
なお、化学式4で表される化合物(チオエステル誘導体)は、常法に従って製造することが可能である。当該化合物の製造方法の一例としては、例えば、3−デセン酸を塩化チオニルと反応させて対応する酸塩化物(3−デセン酸クロライド)を合成し、これに対応するチオールを反応させるという方法が挙げられる。なお、酸塩化物に代えて、対応する酸無水物やエステルを用いて同様にチオールと反応させてもよい。また、製造された目的化合物については、抽出、分配、カラムクロマトグラフィー等の公知の分離、精製手段を用いて単離することができる。
【0079】
[ケトン誘導体]
さらに、Aが−C(R
3)
3を表す場合、化学式1で表される化合物は、下記化学式5で表されるケトン誘導体である:
【0081】
化学式5において、R
3は、上記と同様の定義を有する。ただし、好ましくは、化学式5におけるR
3の少なくとも1つが、置換されていてもよいアルキル基を含む。
【0082】
好ましいケトン誘導体は、以下の化合物51で表されるものである。当該化合物51もまた、抗がん活性が高いという点で、化学式1で表される化合物の好ましい一例である。
【0084】
なお、化学式5で表される化合物(ケトン誘導体)は、常法に従って製造することが可能である。当該化合物の製造方法の一例としては、例えば、3−デセン酸を塩化チオニルと反応させて対応する酸塩化物(3−デセン酸クロライド)を合成し、これに対応する有機金属反応剤(RLi、RMgX(Xはハロゲン原子))を反応させるという方法が挙げられる。なお、酸塩化物に代えて、対応する酸無水物やエステルを用いて同様に有機金属反応剤と反応させてもよい。また、製造された目的化合物については、抽出、分配、カラムクロマトグラフィー等の公知の分離、精製手段を用いて単離することができる。
【0085】
[イミン誘導体]
また、Aが−N=C(R
3)
2を表す場合、化学式1で表される化合物は、下記化学式6で表されるイミン誘導体である:
【0087】
化学式6において、R
3は、上記と同様の定義を有する。ただし、好ましくは、化学式6におけるR
3の少なくとも一方が、置換されていてもよいアリール基を含む。
【0088】
好ましいイミン誘導体は、以下の化合物52で表されるものである。当該化合物52もまた、抗がん活性が高いという点で、化学式1で表される化合物の好ましい一例である。
【0090】
なお、化学式6で表される化合物(イミン誘導体)は、常法に従って製造することが可能である。当該化合物の製造方法の一例としては、例えば、3−デセン酸を塩化チオニルと反応させて対応する酸塩化物(3−デセン酸クロライド)を合成し、これに対応するケトン(化合物52の場合はジフェニルケトン)を縮合反応させるという方法が挙げられる。なお、製造された目的化合物については、抽出、分配、カラムクロマトグラフィー等の公知の分離、精製手段を用いて単離することができる。
【0091】
上述した化学式1で表される化合物は、化合物自体であってもよいし、適用可能である限り、当該化合物製薬上許容されうる塩、プロドラッグおよび溶媒和物を含む。例えば、アニオンと、化学式1で表される化合物上の正荷電基(例えば、アミノ基)との間で塩が形成されうる。適当なアニオンとしては、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、クエン酸イオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、酢酸イオン、リンゴ酸イオン、トシラートイオン、酒石酸イオン、フマル酸イオン、グルタミン酸イオン、グルクロン酸イオン、乳酸イオン、グルタル酸イオン、およびマレイン酸イオンが挙げられる。同様に、カチオンと、化学式1で表される化合物上の負荷電基との間でも塩が形成されうる。適当なカチオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、およびテトラメチルアンモニウムイオン等のアンモニウムカチオンが挙げられる。本化合物には、第4級窒素原子を含むこれらの塩もまた含まれる。プロドラッグの例としては、エステルや他の製薬上許容されうる誘導体が挙げられ、これらは対象への投与によって活性な化合物を提供することができる。溶媒和物とは、活性化合物と製薬上許容されうる溶媒との間で形成される複合体を意味する。製薬上許容されうる溶媒としては、水、エタノール、イソプロパノール、酢酸エチル、酢酸およびエタノールアミンが挙げられる。
【0092】
≪用途(医薬、がんの予防および/または治療剤)≫
他の形態において、本発明は、上述した化合物の用途として、上述した化合物またはその製薬上許容されうる塩(またはプロドラッグもしくは溶媒和物)を有効成分として含有する医薬を提供する。特に、本発明の一形態によれば、当該医薬からなるがんの予防および/または治療剤が提供される。また、他の形態として、がんの治療方法もまた、提供される。当該治療方法は、がんに関連した病状を治療する必要のある患者に、化学式1で表される化合物の1つ以上の有効量を投与することを含む。
【0093】
がんは細胞群が自律増殖能を有する疾患のクラス、すなわち、急速に増殖する細胞増殖や場合によっては腫瘍転移に特徴づけられる異常状態である。がんとしては、例えば、大腸がん、肝がん、下咽頭がん、食道がん、乳がん、肺がん、前立腺がん、胃がん、胆道がん、脾臓がん、腎がん、膀胱がん、子宮がん、卵巣がん、精巣がん、甲状腺がん、膵臓がん、脳腫瘍、造血器腫瘍(例えば、急性骨髄性白血病、急性前骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病等)などが挙げられる。なかでも、造血器腫瘍が特に好ましい。なお、本発明に係る3−デセン酸誘導体が抗がん活性を発揮するメカニズムとしては、3−デセン酸誘導体ががん細胞においてオートファジーを誘導することによるものが推定されている(後述する実施例を参照)。
【0094】
上述した治療を必要とする患者には、化学式1で表される化合物のうちの1つの有効量と他の治療薬の1以上の有効量とを同時に投与してもよい。治療薬としては、G−CSF、ステロイド性または非ステロイド性抗炎症薬、化学療法薬、抗血管新生薬、COX2阻害剤、ロイコトリエン受容体阻害剤、プロスタグランジン調節剤、TNF調節剤および免疫抑制剤(例えば、シクロスポリンA)が挙げられる。例えば、本発明の化合物と化学療法薬とを組み合わせて使用してがん(血液がんまたは固形がん)を治療してもよい。化学療法薬はがん細胞の増殖抑制剤または細胞毒薬剤である。抗血管新生薬は血管新生過程の阻害によってその治療効果を与える薬である。「同時に投与」との語は、2以上の活性剤を同時にまたは治療期間の異なる時点で投与することを意味する。同時投与の例としては、2以上の活性剤の固体または液体混合物の患者への適用が挙げられる。
【0095】
上述した病状の予防および/または治療に使用される化学式1で表される化合物(またはその製薬上許容されうる塩、プロドラッグもしくは溶媒和物)の1つ以上および製薬上許容されうる添加剤(担体、結合剤、賦形剤、希釈剤(例えば蒸留水)、pH緩衝剤(例えばリン酸緩衝生理食塩水)、崩壊剤、可溶化剤、溶解補助剤、等張剤等)を含有する組成物、および上記治療用の薬剤の製造のための当該組成物の使用もまた、本発明の技術的範囲に包含されうる。
【0096】
また本形態に係るがんの予防および/または治療剤は、その使用形態に応じて経口的にまたは非経口的に投与されうる。経口的な投与としては、通常用いられる投与形態、例えば粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤、液剤、懸濁液、油剤、乳化剤等の投与形態が採用されうる。また、非経口的な投与としては、通常用いられる投与形態、例えば上記の液剤、懸濁液等にしたものを直接損傷部位に投与する形態が採用されうる。
【0097】
本形態に係るがんの予防および/または治療剤の投与量は、患者の体重、性別、疾患の進行の程度、投与の方法に応じて適宜選択されうる。
【実施例】
【0098】
以下、実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0099】
[化合物の合成]
(化合物3(第2級アミド誘導体)の合成)
3−デセン酸(17 g, 0.1 mol)(東京化成工業社製)を塩化チオニル(25 ml)(和光純薬工業社製)と室温で2時間、次いで水浴上で1時間加熱還流した。過剰な塩化チオニルは減圧下に留去し、酸塩化物である3−デセン酸クロライドを得た。
【0100】
得られた3−デセン酸クロライド(1.9 g, 10 mmol)のテトラヒドロフラン溶液(10 ml)に1−アミノピペリジン(2.1 g, 21.2 mmol)(東京化成工業社製)を含むテトラヒドロフラン溶液(20 ml)を加えて、水浴上で3時間加熱還流した。テトラヒドロフランを減圧下に留去し、水および酢酸エチルを加えて分配した。酢酸エチル可溶部を水洗した後、減圧下に留去した。残渣はシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム)で精製して、(E)−N−(ピペリジン−1−イル)デセ−3−エンアミド(化合物3)1.8gを得た。
【0101】
(化合物14(第3級アミド誘導体)の合成)
化合物3の合成と同様の手法により合成した3−デセン酸クロライド(0.94 g, 5 mmol)のテトラヒドロフラン溶液(15 ml)にN−イソプロピルヘキシルアミン(705 mg, 5 mmol)(東京化成工業社製)およびピリジン(400 mg)を含むテトラヒドロフラン溶液(20 ml)を加えて、水浴上で3時間加熱還流した。テトラヒドロフランを減圧下に留去し、水を加えて酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル層を水洗後濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;ヘキサン:酢酸エチル=5:1)で精製して、(E)−N−シクロヘキシル−N−イソプロピルデセ−3−エンアミド(化合物14)1.2gを得た。
【0102】
(化合物39(エステル誘導体)の合成)
化合物3の合成と同様の手法により合成した3−デセン酸クロライド(1.7 g) のエタノール溶液(20 ml)に濃硫酸 (0.5 ml)を加え、水浴上で3時間加熱還流した。冷却後、反応液に水を加えて酢酸エチルで分配し、水洗後、酢酸エチルを留去した。残渣はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;ヘキサン:酢酸エチル=3:1)で精製して、(E)−エチルデセ−3−エノエート(化合物39)1.3gを得た。
【0103】
(化合物44(エステル誘導体)の合成)
化合物3の合成と同様の手法により合成した3−デセン酸クロライド(2.0 g, 10.1 mmol)のテトラヒドロフラン溶液(10 ml)に桂皮アルコール(1.4 g, 10.1 mmol)(東京化成工業社製)およびピリジン(950 mg)を含むテトラヒドロフラン溶液(20 ml)を加え、水浴上で3時間加熱還流した。テトラヒドロフランを減圧下で留去した後、水を加えて酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル層を水洗後濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;ヘキサン:ベンゼン=2:1)で精製して、(E)−シンナミルデセ−3−エノエート(化合物44)2.5 gを得た。
【0104】
(化合物48(チオエステル誘導体)の合成)
化合物3の合成と同様の手法により合成した3−デセン酸クロライド(2.0 g, 10.1 mmol)のテトラヒドロフラン溶液(10 ml)に2−フェニルエタンチオール(1.4 g, 10.1 mmol)(東京化成工業社製)およびピリジン(950 mg)を含むテトラヒドロフラン溶液(20 ml)を加え、水浴上で3時間加熱還流した。テトラヒドロフランを減圧下で留去した後、水を加えて酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル層を水洗後濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;ヘキサン:酢酸エチル=5:1)で精製して、(E)−S−フェニルエチルデセ−3−エンチオエート(化合物48)2.6gを得た。
【0105】
(化合物1、2、4〜13、15〜38、40〜43、45〜47、49〜52の合成)
上述した化合物の合成と同様の手法により、または当該手法を常法により一部改変して、化合物1、2、4〜13、15〜38、40〜43、45〜47、49〜52を合成した。
【0106】
(生成物の物性および構造の確認)
上記で合成した化合物の一部について、物性(色、形状)および構造(MS、
1H−NMR)の確認を行った。結果を以下に示す。なお、物性および構造を確認したことが以下に記載されていない化合物についても、所望の構造を有するものが得られていると考えられる。
【0107】
【化21】
【0108】
【化22】
【0109】
【化23】
【0110】
【化24】
【0111】
【化25】
【0112】
【化26】
【0113】
[化合物の抗がん活性の評価]
(増殖阻害アッセイ)
上記で合成した化合物のいくつかを試験化合物として用いて、以下の手法による増殖阻害アッセイにより、抗がん活性を評価した。
【0114】
培養細胞としては、ヒト骨髄性白血病細胞K562を使用した。この細胞の培養は、10%FBSを含むRPMI-1640培地中、37
oC, 5%CO
2の条件下で行った。
【0115】
K562細胞に試験化合物を異なる濃度で加え、48時間後の生細胞数をtrypan-blue染色によりカウントした。このカウント結果に基づき、化合物1〜化合物52の増殖阻害活性を+1〜+3の3段階で評価した(+3は活性がより大きいことを意味する)。この結果を下記の表1に示す。また、いくつかの化合物については、化合物を溶解させた溶媒であるジメチルスルホキシド(DMSO)をコントロールとしてIC
50を算出した。この結果を下記の表2に示す。
【0116】
【表1】
【0117】
【表2】
【0118】
表1および表2に示す結果から明らかなように、本発明に係る3−デセン酸誘導体はK562細胞に対して高い細胞増殖阻害活性を示し、そのIC
50値も既存の抗がん剤に匹敵しうる優れた結果を示す。
【0119】
(細胞の形態の顕微鏡観察)
本発明に係る化合物(化合物14、化合物24、または化合物38;濃度10μM、処理時間48時間)で処理したK562細胞を、倒立顕微鏡(オリンパス株式会社製)にて観察した。観察結果をコントロールの観察結果と併せて
図1に示す。
図1に示すように、本発明に係る化合物で処理した細胞は、化合物処理により膨化して、最終的には細胞死に至ることが観察された(
図1に示す矢印)。
【0120】
(生化学的検証)
本発明者らは、上述した顕微鏡観察による観察結果を受けて、細胞死のメカニズムがオートファジーによるものではないかとの仮説を設定した。そして、当該仮説を検証する目的で、オートファジーのマーカータンパク質であるLC3Bタンパク質の発現をウエスタンブロットにより確認した。
【0121】
具体的には、本発明に係る化合物(化合物14、化合物24、または化合物38;濃度10μM、処理時間48時間)で処理したK562細胞を回収し、LC3Bタンパク質を抗LC3B抗体(Cell Signaling technology社製)を1次抗体として用い、内部標準としてβ−アクチンを用いて、ウエスタンブロットを行った。結果を
図2に示す。
図2に示すように、それぞれの化合物についてより高い濃度で処理した場合に(すなわち、化合物の用量依存的に)LC3B IのバンドからLC3B IIへのバンドに移行していくことが観察された。このことから、本発明に係る化合物を用いた処理によりもたらされる細胞死はオートファジーによるものであることが示唆される。
【0122】
(がん細胞を移植した動物を用いた抗がん活性の確認)
ヒト膀胱癌細胞株NKB1 2×10
6個を5週齢ヌードマウスの皮下に移植し、一定の大きさに腫瘍が生着したところで7匹ずつ3群(コントロール群、少用量投与群、および高用量投与群)に分けた。そして、各群のマウスの腹腔内に週に1回薬液を投与し、その都度腫瘍体積を測定した。ここで、コントロール群には薬液として大豆油を投与し、少用量投与群および高用量投与群にはそれぞれ、薬液として大豆油に上記の化合物24を乳化させたものを投与した。なお、少用量投与群における投与量は9mg/kg体重となるように調整し、高用量投与群における投与量は45mg/kg体重となるように調整した。
【0123】
結果を
図3(A)に示す。
図3(A)に示すように、高用量投与群では14日目から腫瘍体積の増大は抑えられ、21日目からはコントロール群に対して有意な差が見られ、42日目の判定でも非常に顕著な抗腫瘍効果が認められた。ここで、
図3(A)に示す「T」は移植(Transplant)を意味し、「S」は解剖(Sacrifice)を意味する。
【0124】
なお、42日目の各群のマウスの腫瘍についても、上述した「生化学的検証」と同様のウエスタンブロットによりLC3Bタンパク質の発現を確認した。具体的には、各腫瘍組織をタンパク質溶解液中にて破砕してタンパク質を回収し、上記と同様にしてウエスタンブロットを行った。結果を
図3(B)に示す。
図3(B)に示す結果から、高用量投与群では、LC3B IのバンドからLC3B IIへのバンドへの移行がより顕著に確認される。この動物モデルの実験結果からも本発明に係る化合物によるがん細胞の細胞死はオートファジーによるものであることが示唆された。