特許第6285418号(P6285418)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6285418DDR型ゼオライト結晶の製造方法及びDDR型ゼオライト膜の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6285418
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】DDR型ゼオライト結晶の製造方法及びDDR型ゼオライト膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 39/48 20060101AFI20180215BHJP
   C01B 37/02 20060101ALI20180215BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20180215BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
   C01B39/48
   C01B37/02
   B01D69/10
   B01D71/02
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-508582(P2015-508582)
(86)(22)【出願日】2014年3月26日
(86)【国際出願番号】JP2014058511
(87)【国際公開番号】WO2014157323
(87)【国際公開日】20141002
【審査請求日】2016年10月17日
(31)【優先権主張番号】特願2013-75369(P2013-75369)
(32)【優先日】2013年3月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】萩尾 健史
(72)【発明者】
【氏名】谷島 健二
(72)【発明者】
【氏名】市川 真紀子
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/070879(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/046016(WO,A1)
【文献】 特開2004−083375(JP,A)
【文献】 特開2005−067991(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/090049(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/105407(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/20ー39/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともシリカ、水、有機溶媒、及び構造規定剤である1−アダマンタンアミンを混合して原料溶液を調製する原料溶液調製工程と、
前記原料溶液を加熱処理してDDR型ゼオライト結晶を生成させるDDR型ゼオライト結晶生成工程とを有し、
前記有機溶媒が、アミンを含有しない有機溶媒であり、
前記原料溶液が、エチレンジアミン及びフッ化カリウムを含まない原料溶液であり、
前記原料溶液中の前記有機溶媒のモル単位で表した含有量に対する、前記原料溶液中の前記シリカのモル単位で表した含有量の比の値が、1以上、6以下であるDDR型ゼオライト結晶の製造方法。
【請求項2】
前記有機溶媒が、低級アルコール、アセトン又は低級アルコールとアセトンとの混合物を70モル%以上含む請求項1に記載のDDR型ゼオライト結晶の製造方法。
【請求項3】
前記有機溶媒が、炭素数3以下のアルコールである請求項2に記載のDDR型ゼオライト結晶の製造方法。
【請求項4】
前記低級アルコールが、1価又は2価のアルコールである請求項2又は3に記載のDDR型ゼオライト結晶の製造方法。
【請求項5】
前記低級アルコールが、エタノールまたはエチレングリコールである請求項2〜4のいずれかに記載のDDR型ゼオライト結晶の製造方法。
【請求項6】
前記原料溶液中の前記有機溶媒のモル単位で表した含有量に対する、前記原料溶液中の前記水のモル単位で表した含有量の比の値が、6以上である請求項1〜5のいずれかに記載のDDR型ゼオライト結晶の製造方法。
【請求項7】
前記原料溶液中の前記有機溶媒のモル単位で表した含有量に対する、前記原料溶液中の前記水のモル単位で表した含有量の比の値が、6〜100である請求項6に記載のDDR型ゼオライト結晶の製造方法。
【請求項8】
前記原料溶液調製工程において、前記構造規定剤である1−アダマンタンアミンを前記有機溶媒に溶解して、1−アダマンタンアミンが溶解した有機溶媒を作製し、前記1−アダマンタンアミンが溶解した有機溶媒、前記シリカ及び前記水を混合する請求項1〜のいずれかに記載のDDR型ゼオライト結晶の製造方法。
【請求項9】
前記DDR型ゼオライト結晶生成工程において、DDR型ゼオライト種結晶を前記原料溶液に分散させた後に、前記原料溶液の加熱処理を行う請求項1〜のいずれかに記載のDDR型ゼオライト結晶の製造方法。
【請求項10】
少なくともシリカ、水、有機溶媒、及び構造規定剤である1−アダマンタンアミンを混合して原料溶液を調製する原料溶液調製工程と、
DDR型ゼオライト種結晶が表面に付着した支持体を、前記原料溶液に浸漬した後に、水熱合成を行って、前記支持体の表面にDDR型ゼオライト膜を製膜する製膜工程とを有し、
前記有機溶媒が、アミンを含有しない有機溶媒であり、
前記原料溶液が、エチレンジアミン及びフッ化カリウムを含まない原料溶液であり、
前記原料溶液中の前記有機溶媒のモル単位で表した含有量に対する、前記原料溶液中の前記シリカのモル単位で表した含有量の比の値が、1以上、6以下であるDDR型ゼオライト膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DDR型ゼオライト結晶の製造方法及びDDR型ゼオライト膜の製造方法に関する。さらに詳しくは、原料溶液調製工程において、環境負荷が高い物質(PRTR物質)を使用することなく、構造規定剤を容易に溶解することができるDDR型ゼオライト結晶の製造方法及びDDR型ゼオライト膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトは、触媒、触媒担体、吸着材等として利用されている。また、金属やセラミックからなる多孔質支持体の表面に成膜されたゼオライト膜は、ゼオライトの分子篩作用を利用し、ガス分離膜や浸透気化膜として用いられるようになってきている。
【0003】
ゼオライトは、その結晶構造により、LTA、MFI、MOR、AFI、FER、FAU、DDR等の多くの種類が存在する。これらの中でDDR(Deca−Dodecasil 3R)型ゼオライトは、主成分がシリカからなる結晶である。そして、その細孔は酸素8員環を含む多面体によって形成されている。更に、酸素8員環の細孔径は4.4×3.6オングストロームであることが知られている。これらは、「W.M.Meier,D.H.Olson,Ch.Baerlocher,Atlas of zeolite structure types,Elsevier(1996)」に記載されている。
【0004】
DDR型ゼオライトは、ゼオライトの中では比較的細孔径が小さいものであり、二酸化炭素(CO)、メタン(CH)、エタン(C)といった低分子ガスの分子篩膜として適用できる可能性を有する。
【0005】
このようなDDR型ゼオライトを製造する際には、通常、シリカ及び「構造規定剤である1−アダマンタンアミン」を水に溶解して原料溶液を作製し、当該原料溶液を加熱処理してDDR型ゼオライト結晶を生成させていた。そして、このとき、1−アダマンタンアミンが水に溶解し難いため、1−アダマンタンアミンの溶解を促進するために、原料溶液にエチレンジアミン、フッ化カリウム等を混合させていた(例えば、特許文献1、非特許文献1を参照)。更に、原料溶液にエチレンジアミン、フッ化カリウム等を混合させているのは、別の結晶相の生成を抑制するためでもある。
【0006】
しかし、エチレンジアミン、フッ化カリウム等は、PRTR物質であり、環境負荷の大きなものであった。尚、PRTR物質は、PRTR(Pollutant Release and Transfer Register:環境汚染物質排出移動登録)制度(PRTR法)における、対象化学物質のことである。
【0007】
また、PRTR物質を使用せずにDDR型ゼオライト結晶及びDDR型ゼオライト膜を製造しようとする方法が開示されている(例えば、特許文献2,3、非特許文献2を参照)。
【0008】
しかし、従来の、PRTR物質を使用しない製法では、余分な操作が必要なことがあったり、原料溶液を均一にし難いことがあったりという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2010/90049号
【特許文献2】国際公開第2011/46016号
【特許文献3】米国特許第4698217号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】H.Gies,Journal of Inclusion Phenomena 2,(1984)275−278
【非特許文献2】A.Stewart,D.W.Johnson and M.D.Shannon,Studies in Surface Science and Catalysis vol.37,(1988)57−64
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたものである。本発明は、原料溶液調製工程において、環境負荷が高い物質(PRTR物質)であるエチレンジアミン及びフッ化カリウムを使用することなく、構造規定剤を容易に溶解することができるDDR型ゼオライト結晶の製造方法及びDDR型ゼオライト膜の製造方法である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によって、以下のDDR型ゼオライト結晶の製造方法及びDDR型ゼオライト膜の製造方法が提供される。
【0013】
[1] 少なくともシリカ、水、有機溶媒、及び構造規定剤である1−アダマンタンアミンを混合して原料溶液を調製する原料溶液調製工程と、前記原料溶液を加熱処理してDDR型ゼオライト結晶を生成させるDDR型ゼオライト結晶生成工程とを有し、前記有機溶媒が、アミンを含有しない有機溶媒であり、前記原料溶液が、エチレンジアミン及びフッ化カリウムを含まない原料溶液であり、前記原料溶液中の前記有機溶媒のモル単位で表した含有量に対する、前記原料溶液中の前記シリカのモル単位で表した含有量の比の値が、1以上、6以下であるDDR型ゼオライト結晶の製造方法。
【0014】
[2] 前記有機溶媒が、低級アルコール、アセトン又は低級アルコールとアセトンとの混合物を70モル%以上含む[1]に記載のDDR型ゼオライト結晶の製造方法。
【0015】
[3] 前記有機溶媒が、炭素数3以下のアルコールである[2]に記載のDDR型ゼオライト結晶の製造方法。
【0016】
[4] 前記低級アルコールが、1価又は2価のアルコールである[2]又は[3]に記載のDDR型ゼオライト結晶の製造方法。
【0017】
[5] 前記低級アルコールが、エタノールまたはエチレングリコールである[2]〜[4]のいずれかに記載のDDR型ゼオライト結晶の製造方法。
【0018】
[6] 前記原料溶液中の前記有機溶媒のモル単位で表した含有量に対する、前記原料溶液中の前記水のモル単位で表した含有量の比の値が、6以上である[1]〜[5]のいずれかに記載のDDR型ゼオライト結晶の製造方法。
【0019】
[7] 前記原料溶液中の前記有機溶媒のモル単位で表した含有量に対する、前記原料溶液中の前記水のモル単位で表した含有量の比の値が、6〜100である[6]に記載のDDR型ゼオライト結晶の製造方法。
【0021】
] 前記原料溶液調製工程において、前記構造規定剤である1−アダマンタンアミンを前記有機溶媒に溶解して、1−アダマンタンアミンが溶解した有機溶媒を作製し、前記1−アダマンタンアミンが溶解した有機溶媒、前記シリカ及び前記水を混合する[1]〜[]のいずれかに記載のDDR型ゼオライト結晶の製造方法。
【0022】
] 前記DDR型ゼオライト結晶生成工程において、DDR型ゼオライト種結晶を前記原料溶液に分散させた後に、前記原料溶液の加熱処理を行う[1]〜[]のいずれかに記載のDDR型ゼオライト結晶の製造方法。
【0023】
10] 少なくともシリカ、水、有機溶媒、及び構造規定剤である1−アダマンタンアミンを混合して原料溶液を調製する原料溶液調製工程と、DDR型ゼオライト種結晶が表面に付着した支持体を、前記原料溶液に浸漬した後に、水熱合成を行って、前記支持体の表面にDDR型ゼオライト膜を製膜する製膜工程とを有し、前記有機溶媒が、アミンを含有しない有機溶媒であり、前記原料溶液が、エチレンジアミン及びフッ化カリウムを含まない原料溶液であり、前記原料溶液中の前記有機溶媒のモル単位で表した含有量に対する、前記原料溶液中の前記シリカのモル単位で表した含有量の比の値が、1以上、6以下であるDDR型ゼオライト膜の製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明のDDR型ゼオライト結晶の製造方法は、原料溶液調製工程において、「アミンを含有しない有機溶媒」が混合されるため、構造規定剤である1−アダマンタンアミンが当該「アミンを含有しない有機溶媒」によって容易に溶解される。また、1−アダマンタンアミンの溶解を促進させるための上記「アミンを含有しない有機溶媒」は、「アミンを含有しない」ものであるため、PRTR物質であるエチレンジアミン等を用いることなく1−アダマンタンアミンを溶解することができている。また、原料溶液がPRTR物質であるエチレンジアミン及びフッ化カリウムを含まないものであるため、本発明のDDR型ゼオライト結晶の製造方法は、PRTR物質であるエチレンジアミン及びフッ化カリウムの混入、排出のない製造方法である。
【0025】
また、本発明のDDR型ゼオライト膜の製造方法も同様に、原料溶液調製工程において、「アミンを含有しない有機溶媒」が混合されるため、構造規定剤である1−アダマンタンアミンが当該「アミンを含有しない有機溶媒」によって容易に溶解される。そして、1−アダマンタンアミンの溶解を促進させるための上記「アミンを含有しない有機溶媒」は、「アミンを含有しない」ものであるため、PRTR物質であるエチレンジアミン等を用いることなく1−アダマンタンアミンを溶解することができている。また、原料溶液がPRTR物質であるエチレンジアミン及びフッ化カリウムを含まないものであるため、本発明のDDR型ゼオライト膜の製造方法は、PRTR物質であるエチレンジアミン及びフッ化カリウムの混入、排出のない製造方法である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態について具体的に説明する。本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0027】
(1)DDR型ゼオライト結晶の製造方法:
本発明のDDR型ゼオライト結晶の製造方法の一実施形態は、原料溶液調製工程とDDR型ゼオライト結晶生成工程とを有するものである。そして、原料溶液調製工程は、「少なくともシリカ、水、有機溶媒、及び構造規定剤である1−アダマンタンアミンを混合して」原料溶液を調製する工程である。更に、DDR型ゼオライト結晶生成工程は、原料溶液を加熱処理してDDR型ゼオライト結晶を生成させる工程である。そして、上記「有機溶媒」は、アミンを含有しない有機溶媒であり、上記「原料溶液」は、PRTR物質であるエチレンジアミン及びフッ化カリウムを含まない原料溶液である。
【0028】
このように、本実施形態のDDR型ゼオライト結晶の製造方法は、原料溶液調製工程において、「アミンを含有しない有機溶媒」が混合されるため、構造規定剤である1−アダマンタンアミンが当該「アミンを含有しない有機溶媒」によって容易に溶解される。また、1−アダマンタンアミンの溶解を促進させるための上記「アミンを含有しない有機溶媒」は、「アミンを含有しない」ものであるため、PRTR物質であるエチレンジアミン等を用いることなく1−アダマンタンアミンを溶解することができている。従って、本実施形態のDDR型ゼオライト結晶の製造方法は、原料溶液調製工程において、環境負荷が高い物質(PRTR物質)を使用することなく、構造規定剤を容易に溶解することができるものである。
【0029】
以下、本実施形態のDDR型ゼオライト結晶の製造方法を工程毎に具体的に説明する。
【0030】
(1−1)原料溶液調製工程;
本実施形態のDDR型ゼオライト結晶の製造方法において、原料溶液調製工程は、少なくともシリカ、水、「アミンを含有しない有機溶媒」、及び構造規定剤である1−アダマンタンアミンを混合して原料溶液を調製する工程である。そして、原料溶液にはPRTR物質であるエチレンジアミン及びフッ化カリウムが含まれていない。
【0031】
原料溶液調製工程においては、原料溶液中に有機溶媒が含まれることにより構造規定剤である1−アダマンタンアミンが溶解しやすくなっている。原料溶液中の各成分を混合する際の順序は特に限定されない。ただし、シリカ源としてコロイダルシリカを用いる場合は、コロイダルシリカと有機溶媒のいずれかを、水と混合してから混合することが好ましい。構造規定剤である1−アダマンタンアミンの溶解を、より促進させるために、以下のような溶解方法を行うことが好ましい。つまり、構造規定剤である1−アダマンタンアミンを有機溶媒に溶解して、「1−アダマンタンアミンが溶解した有機溶媒」を作製し、「1−アダマンタンアミンが溶解した有機溶媒」及び「水とシリカ源の混合液」を混合することが好ましい。1−アダマンタンアミン(構造規定剤)は、有機溶媒に溶解しやすいため、あらかじめ1−アダマンタンアミン(構造規定剤)を有機溶媒に溶解することにより、原料溶液調製工程における1−アダマンタンアミンの溶解を、より容易に行うことができる。
【0032】
原料溶液調製工程において、有機溶媒は、低級アルコール、アセトン又は低級アルコールとアセトンとの混合物を70モル%以上含有するものであることが好ましく、80モル%以上含有するものであることが更に好ましい。そして、有機溶媒は、低級アルコール、アセトン又は低級アルコールとアセトンとの混合物であることが特に好ましい。有機溶媒を、上記のような化合物や混合物にすることにより、構造規定剤である1−アダマンタンアミンを容易に溶解し、均一な原料溶液を得ることができる。1−アダマンタンアミンは、水に溶けにくいため、原料溶液を均一にするためには、有機溶媒が「1−アダマンタンアミンと水との間を取り持つ」という機能を有することが必要である。つまり、有機溶媒が構造規定剤を溶解し、且つ、水に溶解する必要がある。低級アルコールは、アルキル基とOH基を有するため、構造規定剤を溶解し、且つ、水に溶解するという上記条件を満たすものである。また、アセトンは、「C=O」(カルボニル基)の結合部で極性を有するため、上記条件を満たすものである。本明細書において、「低級アルコール」とは、炭素数5以下のアルコールを意味する。有機溶媒に含有される上記低級アルコールは、炭素数3以下のアルコールであることが好ましい。更に、有機溶媒は、炭素数3以下のアルコールであることが好ましい。これにより、1−アダマンタンアミンを更に容易に溶解し、均一な原料溶液を得ることができる。有機溶媒は、炭素数が多くなるほど、疎水性が高まり、水に溶解し難くなる。また、炭素数が増加し、構造が複雑になると、立体障害が大きくなり、1−アダマンタンアミンとシリカとの接触を妨害する方向に作用すると推測される。そのため、有機溶媒としては、炭素数3以下のアルコール及びアセトンが好ましい。また、上記低級アルコールは、1価又は2価のアルコールであることが好ましい。有機溶媒が3価以上のアルコールであると、より水に溶解し易くなるが、一方で、水と有機溶媒との水素結合が増加し、原料溶液中のSiO源の均一性が低下することがある。そのため、有機溶媒として2価以下のアルコールを用いることにより、有機溶媒と水との結合性を調整し、原料溶液内が不均一になることを防止している。ここで、「SiO源」とは、原料溶液中で「Si−O」の結合を有する物質であり、例えば、シリカゾル、有機シリカ、シリコンアルコキシド(例えば、オルトケイ酸テトラメチル、オルトケイ酸テトラエチル等)、ケイ酸ナトリウム等を挙げることができる。また、1価のアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール又はペンタノールが好ましい。2価のアルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール(例えば、1,2−プロパンジオール等)、ブチレングリコール(例えば、1,2−ブタンジオール等)、又はペンチレングリコール(例えば、1,2−ペンタンジオール等)が好ましい。また、有機溶媒に混合する上記低級アルコールは、エタノールまたはエチレングリコールであることが好ましい。
【0033】
原料溶液中の有機溶媒の「モル単位で表した含有量」に対する、原料溶液中の水の「モル単位で表した含有量」の比の値が、6以上であることが好ましく、6〜100であることが更に好ましく、20〜100であることが特に好ましい。原料溶液中の有機溶媒の含有量(モル)に対する、原料溶液中の水の含有量(モル)の比の値(水/有機溶媒)が、6未満であるとシリカ源が均一に混和しにくくなることがある。上記比の値(水/有機溶媒)が、20未満であると、DDR型ゼオライト結晶生成工程においてゲル化が発生し、生成物にアモルファス(非晶質)が混入することがある。
【0034】
また、原料溶液中の有機溶媒の「モル単位で表した含有量」に対する、原料溶液中のシリカ(SiO)の「モル単位で表した含有量」の比の値が、1〜6であ、1〜4であることが好ましい。原料溶液中の有機溶媒の含有量(モル)に対する、原料溶液中のシリカの含有量(モル)の比の値(シリカ/有機溶媒)が、1未満であると、DDR型ゼオライト結晶生成工程においてゲル化が発生し、生成物にアモルファス(非晶質)が混入することがある。原料溶液中の有機溶媒の含有量(モル)に対する、原料溶液中のシリカの含有量(モル)の比の値が、6を超えると、シリカ源が均一に混和しにくくなることがある。
【0035】
また、原料溶液中のアルミナ(Al)の「モル単位で表した含有量」に対する、原料溶液中のシリカ(SiO)の「モル単位で表した含有量」の比の値が、50以上であることが好ましく、70以上であることが更に好ましく、100以上であることが特に好ましい。50未満であると、DDRの結晶が成長しにくくなることがある。
【0036】
(1−2)DDR型ゼオライト結晶生成工程;
DDR型ゼオライト結晶生成工程は、原料溶液を加熱処理してDDR型ゼオライト結晶を生成させる工程である。原料溶液を加熱処理する際の温度条件としては、150〜220℃が好ましく、160〜200℃が更に好ましく、160〜180℃が特に好ましい。150℃より低いと、DDR型ゼオライト結晶が生成し難くなることがある。220℃より高いと、DDR型ゼオライト結晶とともに別の結晶相が生成し易くなることがある。原料溶液を加熱処理する時間としては、24時間以上が好ましく、36時間以上が更に好ましく、48時間以上が特に好ましい。24時間より短いと、DDR型ゼオライト結晶が十分に生成しないことがある。また、原料溶液は、静置した状態で加熱処理を行うことが好ましい。
【0037】
DDR型ゼオライト結晶生成工程において、DDR型ゼオライト種結晶を原料溶液に分散させた後に、原料溶液の加熱処理を行うことで、加熱温度を低下することができ、更に加熱処理の時間を短くすることができる。DDR型ゼオライト種結晶を原料溶液に分散させた場合、原料溶液を加熱処理する際の温度条件としては、100〜200℃が好ましく、120〜180℃が更に好ましく、120〜160℃が特に好ましい。100℃より低いと、DDR型ゼオライト結晶の結晶性が低くなることがある。200℃より高いと、DDR型ゼオライト結晶とともに別の結晶相が生成し易くなることがある。原料溶液を加熱処理する時間としては、4時間以上が好ましく、4〜24時間が更に好ましく、4〜16時間が特に好ましい。4時間より短いと、DDR型ゼオライト結晶が十分に生成しないことがある。原料溶液中のDDR型ゼオライト種結晶の含有率は、0.003〜10質量%が好ましく、0.05〜3質量%が更に好ましく、0.06〜2質量%が特に好ましい。0.003質量%より少ないと、DDR型ゼオライト結晶の分散性が低下することがある。10質量%より多いと、原料が行渡らず、個々のDDR型ゼオライト結晶が充分に結晶化しないことがある。
【0038】
また、DDR型ゼオライト種結晶は、構造規定剤である1−アダマンタンアミンを含有していることが好ましい。これにより、加熱処理中の安定性が増し、種結晶としての働きが得やすくなるという利点がある。
【0039】
DDR型ゼオライト種結晶は、平均粒子径が30〜300μmであることが好ましく、50〜250μmが更に好ましく、50〜150μmが特に好ましい。平均粒子径が30μmより小さいと、凝集などで長期保管が困難になることがあり、更に、均一なDDR結晶を得にくくなることがある。平均粒子径が300μmより大きいと、加熱処理の前に沈殿して均一なDDR結晶が得られないことがある。平均粒子径は、動的光散乱法で測定した値である。
【0040】
DDR型ゼオライト種結晶は、比表面積が50〜500m/gであることが好ましく、70〜300m/gが更に好ましく、100〜300m/gが特に好ましい。50m/gより小さいと、加熱処理の前に沈殿して均一なDDR結晶が得られないことがある。比表面積が500m/gより大きいと、凝集によって均一なDDR結晶を得にくくなることがある。比表面積は、流動法のBET1点法で測定した値である。
【0041】
DDR型ゼオライト種結晶の製造方法は特に限定されず、国際公開2010/090049号に記載の種結晶の製法に基づいて作製することができる。また、本発明のDDR型ゼオライト結晶の製造方法によって、DDR型ゼオライト結晶を製造した後には、本発明のDDR型ゼオライト結晶の製造方法によって得られたDDR型ゼオライト結晶を種結晶として用いることが好ましい。また、得られた、DDR型ゼオライトを、ボールミル、ビーズミル等を用いて粉砕して、所望の平均粒子径のDDR型ゼオライト種結晶にすることが好ましい。特に、粉砕にはビーズミルを用いることが好ましい。
【0042】
(1−3)洗浄工程;
本実施形態のDDR型ゼオライト結晶の製造方法は、DDR型ゼオライト結晶生成工程の後に、生成したDDR型ゼオライト結晶を、水で洗浄する洗浄工程を有することが好ましい。洗浄工程における洗浄方法は、特に限定されないが、例えば、DDR型ゼオライト結晶生成工程で得られた、DDR型ゼオライト結晶を含有する生成物に、純水を加えて遠心分離することにより洗浄を行う方法が好ましい。
【0043】
(2)DDR型ゼオライト膜の製造方法:
本発明のDDR型ゼオライト膜の製造方法の一実施形態は、原料溶液調製工程と製膜工程とを有するものである。原料溶液調製工程は、「少なくともシリカ、水、有機溶媒、及び構造規定剤である1−アダマンタンアミンを混合して」原料溶液を調製する工程である。更に、原料溶液調製工程においては、有機溶媒が、アミンを含有しない有機溶媒であり、原料溶液が、PRTR物質であるエチレンジアミン及びフッ化カリウムを含まない原料溶液である。製膜工程は、DDR型ゼオライト種結晶が表面に付着した支持体を、原料溶液に浸漬した後に、水熱合成を行って、支持体の表面にDDR型ゼオライト膜を製膜する工程である。本実施形態のDDR型ゼオライト膜の製造方法は、原料溶液調製工程において、「アミンを含有しない有機溶媒」が混合されるため、構造規定剤である1−アダマンタンアミンが当該「アミンを含有しない有機溶媒」によって容易に溶解される。そして、1−アダマンタンアミンの溶解を促進させるための上記「アミンを含有しない有機溶媒」は、「アミンを含有しない」ものであるため、PRTR物質であるエチレンジアミン等を用いることなく1−アダマンタンアミンを溶解することができている。また、原料溶液がPRTR物質であるエチレンジアミン及びフッ化カリウムを含まないものであるため、本発明のDDR型ゼオライト膜の製造方法は、PRTR物質であるエチレンジアミン及びフッ化カリウムの混入、排出のない製造方法である。
【0044】
(2−1)原料溶液調製工程:
本実施形態のDDR型ゼオライト膜の製造方法にける原料溶液調製工程は、上述した、本発明の「DDR型ゼオライト結晶」の製造方法における原料溶液調製工程と同様であることが好ましい。
【0045】
(2−2)製膜工程:
本実施形態のDDR型ゼオライト膜の製造方法にける製膜工程は、上記のように、DDR型ゼオライト種結晶が表面に付着した支持体を、原料溶液に浸漬した後に、水熱合成を行って、支持体の表面にDDR型ゼオライト膜を製膜する工程である。
【0046】
「DDR型ゼオライト種結晶が表面に付着した支持体」は、DDR型ゼオライト種結晶を含有するスラリーを、支持体の表面に塗布し、乾燥することにより作製することが好ましい。DDR型ゼオライト種結晶を含有するスラリーは、DDR型ゼオライト種結晶をアルコールに分散させたスラリーであることが好ましい。アルコールとしては、エタノールが好ましい。スラリー中の、DDR型ゼオライト種結晶の含有率は、0.001〜0.5質量%が好ましく、0.005〜0.3質量%が更に好ましく、0.01〜0.2質量%が特に好ましい。0.001質量%より少ないと、DDR型ゼオライト膜が不均一に成長することがある。0.5質量%より多いと、DDR型ゼオライト膜の厚くなることがある。
【0047】
支持体は、多孔質(多孔質支持体)であることが好ましい。多孔質支持体は、セラミックにより形成されていることが好ましい。多孔質支持体を構成するセラミックとしては、アルミナ、ムライト、コージェライト、炭化珪素、チタニア、ジルコニア、ガラス、これらの複合物等を挙げることができる。多孔質支持体の形状は、特に限定されず、用途に応じて任意の形状とすることができる。例えば、板状、筒状、ハニカム形状、モノリス形状等を挙げることができる。これらの中でも、ハニカム形状又はモノリス形状が好ましい。これらの形状は、単位体積当たりの膜面積を大きくすることが可能である。なお、「モノリス形状」とは、「流体の流路となり、両端面間に亘って延びるとともに両端面に開口する」貫通孔が複数形成された柱状を意味する。例えば、貫通孔の延びる方向に直交する断面の形状が、蓮根の「空洞の延びる方向に直交する断面」の形状のようになっているものを挙げることができる。
【0048】
多孔質支持体の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。例えば、以下のような方法を挙げることができる。まず、所定のセラミック原料を含有する成形原料を混練し、モノリス形状の成形体が形成されるような口金を用いて押出成形し、モノリス形状の成形体を得る。その後、モノリス形状の成形体を乾燥し、焼成することによりモノリス形状の多孔質支持体を得る。
【0049】
「DDR型ゼオライト種結晶が表面に付着した支持体」を作製した後に、当該「DDR型ゼオライト種結晶が表面に付着した支持体」を、原料溶液に浸漬し、その後に、水熱合成を行って、支持体の表面にDDR型ゼオライト膜を製膜する。支持体の表面に形成されるDDR型ゼオライト膜は、水熱合成により、複数のDDR型ゼオライト種結晶が支持体表面上に膜状に成長したものである。
【0050】
具体的には、原料溶液を入れた耐圧容器等に、「DDR型ゼオライト種結晶が表面に付着した支持体」を入れて、加熱することにより水熱合成し、支持体の表面にDDR型ゼオライト膜を形成することが好ましい。
【0051】
水熱合成に際しての温度条件は、100〜180℃であることが好ましく、120〜160℃であることが更に好ましく、120〜150℃であることが特に好ましい。100℃未満で水熱合成を行った場合には、DDR型ゼオライト膜を形成するために必要な時間が膨大になることがある。180℃超で水熱合成を行った場合には、DDR型ゼオライトとは異なる結晶相が形成されることがある。水熱合成の時間は、DDR型ゼオライト種結晶の量にも依存するが、10時間以上が好ましく、10〜50時間が更に好ましく、10〜40時間が特に好ましい。
【0052】
本実施形態のDDR型ゼオライト膜の製造方法は、製膜工程の後に、構造規定剤を除去するための構造規定剤除去工程を有することが好ましい。構造規定剤除去工程は、得られた「DDR型ゼオライト膜(1−アダマンタンアミンを含有するDDR型ゼオライト膜)が形成された多孔質支持体」を、425〜600℃で15〜200時間加熱する工程であることが好ましい。加熱温度は440〜550℃が更に好ましく、440〜500℃が特に好ましい。加熱時間は15〜100時間が更に好ましく、15〜50時間が特に好ましい。これにより、1−アダマンタンアミンを燃焼除去し、多孔質支持体のセルの壁面に配設されたDDR型ゼオライト膜(1−アダマンタンアミンを含有しないDDR型ゼオライト膜)を得ることができる。加熱温度が425℃より低いと、充分に構造規定剤が除去されないことがある。また、加熱温度が600℃より高いと、DDR型ゼオライト膜が割れることがある。加熱時間が15時間より短いと、充分に構造規定剤が除去されないことがある。また、加熱時間が200時間より長いと、DDR型ゼオライト膜が割れることがあり、製造コストも高くなることがある。
【0053】
支持体の表面に形成されたDDR型ゼオライト膜(1−アダマンタンアミンを含有しないDDR型ゼオライト膜)の厚さは、0.5〜4μmであることが好ましく、0.5〜2μmであることが更に好ましく、0.5〜1μmであることが特に好ましい。4μmより厚いと、得られるDDR型ゼオライト膜を被処理流体が透過するときの透過速度が低くなることがあり、更に、構造規定剤脱離時の欠陥発生の原因となることがある。0.5μmより薄いと、得られるDDR型ゼオライト膜の分離性能が低下することがある。DDR型ゼオライト膜(1−アダマンタンアミンを含有しないDDR型ゼオライト膜)の膜厚は、厚さ方向に沿って切断した断面の電子顕微鏡写真により測定した5ヶ所の断面位置での膜厚の平均値である。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
フッ素樹脂製の250cmの密閉容器に9.97gのエタノール(甘化学社製)を入れた後、1.98gの1−アダマンタンアミン(シグマアルドリッチ社製)を加え、シェーカーにて振とうすることにより、1−アダマンタンアミンを完全に溶解した。エタノールとしては、エタノール濃度95質量%のエタノール水溶液(エタノールと水の混合溶液であり、アミンを含有しないもの)を用いた。別の容器に、核としてDDR型ゼオライト微結晶を0.500質量%含む水溶液(核含有液)を149.47g入れ、シリカを30質量%含むシリカゾル(スノーテックスS、日産化学工業社製)を97.90g加えて攪拌し、「核を含むシリカゾル」を得た。ここで、「核」とは、DDR型ゼオライト結晶の結晶成長の核となる微結晶のことである。その後、得られた「核を含むシリカゾル」を、先に用意した「1−アダマンタンアミンを溶解したエタノール」(1−ADAエタノール溶液)の入った密閉容器に素早く加え、密閉容器内の混合液が透明になるまでシェーカーにて振とうした。これにより、原料溶液(原料ゾル)を得た。振とう時間は1時間であった。原料溶液は、PRTR物質を含まないものであった。表1に示される「1−ADA有機溶媒溶液溶解方法」は、「1−アダマンタンアミンを溶解した有機溶媒」を「核を含むシリカゾル」に溶解する方法である。実施例1では、エタノールが有機溶媒である。
【0056】
原料溶液中の、有機溶媒の「モル単位で表した含有量」に対する、原料溶液中の水の「モル単位で表した含有量」の比の値は、54.5であった。また、原料溶液中の有機溶媒の「モル単位で表した含有量」に対する、原料溶液中のシリカの「モル単位で表した含有量」の比の値は、2.3であった。
【0057】
核として用いたDDR型ゼオライト微結晶は、国際公開第2010/090049号に記載の方法を基に、DDR型ゼオライト粉末を作製し、これを粉砕することにより得た。DDR型ゼオライト粉末から核を作製する方法は、具体的には、以下の通りである。比表面積16.07m/gのDDR型ゼオライト結晶をアシザワ・ファインテック社製ビーズミル(商品名:スターミル)にて120分粉砕処理を行った。粉砕処理後3000rpmで15分間遠心分離を行い、粗粒子を取り除き、比表面積106m/gの核を得た。
【0058】
次に、原料溶液を加熱(水熱合成)してDDR型ゼオライト結晶を生成させた。具体的には、原料溶液を内容積300cmのフッ素樹脂製内筒付きステンレス製耐圧容器に入れた。そして、容器中の原料溶液を、静置した状態で160℃で16時間加熱した(水熱合成した)。水熱合成後、「結晶(DDR型ゼオライト結晶)が分散した溶液に、純水を加え、遠心分離する作業」を2回繰り返すことで、洗浄を行った。
【0059】
得られた結晶(生成物)を、XRD測定(粉末X線回折測定)した結果、DDR型ゼオライト結晶であることが確認された。具体的には、上記洗浄後の結晶の一部を80℃で一晩乾燥して、乾燥粉末を得た。そして、得られた乾燥粉末の結晶相を、XRD測定(粉末X線回折測定)により確認した。製造条件の一部及び生成物について表1に示す。表1において、「1−ADA」は、「1−アダマンタンアミン」を意味する。
【0060】
【表1】
【0061】
(実施例2)
原料溶液調製の際の、エタノールの添加量を5.38gとし、1−アダマンタンアミンの添加量を1.073gとした。更に、「核を含むシリカゾル」の核の濃度を0.690質量%とし、「核を含むシリカゾル」の添加量を108.91gとした。更に、「シリカを30質量%含むシリカゾル」の添加量を90.95gとした。上記条件以外の条件は、実施例1と同様にして、DDR型ゼオライト結晶を得た。原料溶液中の、有機溶媒の「モル単位で表した含有量」に対する、原料溶液中の水の「モル単位で表した含有量」の比の値は、80.8であった。また、原料溶液中の有機溶媒の「モル単位で表した含有量」に対する、原料溶液中のシリカの「モル単位で表した含有量」の比の値は、3.8であった。製造条件の一部及び生成物について表1に示す。
【0062】
(実施例3)
フッ素樹脂製の100cmの密閉容器に6.64gのエタノール(甘化学社製)を入れた後、0.66gの1−アダマンタンアミン(シグマアルドリッチ社製)を加え、シェーカーにて振とうすることにより、1−アダマンタンアミンを完全に溶解した。エタノールとしては、エタノール濃度95質量%のエタノール水溶液(エタノールと水の混合溶液であり、アミンを含有しないもの)を用いた。別の容器に、核としてDDR型ゼオライト微結晶を0.536質量%含む水溶液(核含有液)を46.49g入れ、シリカを30質量%含むシリカゾル(スノーテックスS、日産化学工業社製)を32.63g加えて撹拌し、「核を含むシリカゾル」を得た。その後、得られた「核を含むシリカゾル」を、先に用意した「1−アダマンタンアミンを溶解したエタノール」の入った密閉容器に素早く加え、密閉容器内の混合液が透明になるまでシェーカーにて振とうし、原料溶液(原料ゾル)を得た。振とう時間は1時間であった。原料溶液は、PRTR物質を含まないものであった。
【0063】
原料溶液中の、有機溶媒の「モル単位で表した含有量」に対する、原料溶液中の水の「モル単位で表した含有量」の比の値は、26.1であった。また、原料溶液中の有機溶媒のモル単位で表した含有量に対する、原料溶液中のシリカのモル単位で表した含有量の比の値は、1.1であった。
【0064】
核として用いたDDR型ゼオライト微結晶は、実施例1において用いられたものと同じものを用いた。
【0065】
次に、原料溶液を加熱(水熱合成)してDDR型ゼオライト結晶を生成させた。具体的な方法は、原料溶液を内容積100cmのフッ素樹脂製内筒付きステンレス製耐圧容器に入れた以外は、実施例1と同様の方法とした。
【0066】
得られた結晶(生成物)を、実施例1の場合と同様にして、XRD測定(粉末X線回折測定)した結果、DDR型ゼオライト結晶であることが確認された。製造条件の一部及び生成物について表1に示す。
【0067】
参考例4)
原料溶液調製の際の、エタノールの添加量を9.97gとし、「核を含むシリカゾル」の核の濃度を0.625質量%とし、「核を含むシリカゾル」の添加量を39.85gとした。上記条件以外の条件は、実施例3と同様にして、DDR型ゼオライト結晶を得た。原料溶液中の、有機溶媒の「モル単位で表した含有量」に対する、原料溶液中の水の「モル単位で表した含有量」の比の値は、16.2であった。また、原料溶液中の有機溶媒の「モル単位で表した含有量」に対する、原料溶液中のシリカの「モル単位で表した含有量」の比の値は、0.8であった。製造条件の一部及び生成物について表1に示す。表1の「生成物」の欄の「DDR+アモルファス」は、DDR結晶とアモルファス状のシリカの混合物を意味する。
【0068】
参考例5)
原料溶液調製の際の、エタノールの添加量を16.61gとし、「核を含むシリカゾル」の核の濃度を0.938質量%とし、「核を含むシリカゾル」の添加量を2.56gとした。上記条件以外の条件は、実施例3と同様にして、DDR型ゼオライト結晶を得た。原料溶液中の、有機溶媒の「モル単位で表した含有量」に対する、原料溶液中の水の「モル単位で表した含有量」の比の値は、8.3であった。また、原料溶液中の有機溶媒の「モル単位で表した含有量」に対する、原料溶液中のシリカの「モル単位で表した含有量」の比の値は、0.5であった。製造条件の一部及び生成物について表1に示す。
【0069】
(実施例6)
「1−ADAエタノール溶液溶解方法」を「室温放置」とし、水熱合成を120℃で、16時間行った以外は、実施例1と同様にしてDDR型ゼオライト結晶を得た。製造条件の一部及び生成物について表1に示す。
【0070】
(実施例7)
水熱合成を140℃で、16時間行った以外は、実施例6と同様にしてDDR型ゼオライト結晶を得た。製造条件の一部及び生成物について表1に示す。
【0071】
(実施例8)
原料溶液を加熱(水熱合成)してDDR型ゼオライト結晶を生成させる際の、加熱温度及び加熱時間を、138℃、20時間とした。また、「1−ADAエタノール溶液溶解方法」を「室温放置」とした。上記条件以外の条件は、実施例1と同様にして、DDR型ゼオライト結晶を得た。製造条件の一部及び生成物について表1に示す。
【0072】
(実施例9)
フッ素樹脂製の100cmの密閉容器に2.60gのエチレングリコール(EG)(キシダ化学社製)を入れた。その後、当該容器に、更に0.454gの1−アダマンタンアミン(シグマアルドリッチ社製)を加え、シェーカーにて振とうすることにより、1−アダマンタンアミンを完全に溶解した。別の容器に、核としてDDR型ゼオライト微結晶を0.500質量%含む水溶液(核含有液)を34.25g入れ、シリカを30質量%含むシリカゾル(スノーテックスS、日産化学工業社製)を22.418g加えて撹拌し、「核を含むシリカゾル」を得た。その後、得られた「核を含むシリカゾル」を、先に用意した「1−アダマンタンアミンを溶解したエチレングリコール」の入った密閉容器に素早く加え、密閉容器内の混合液が透明になるまでシェーカーにて振とうし、原料溶液(原料ゾル)を得た。振とう時間は70分であった。原料溶液は、PRTR物質を含まないものであった。実施例9では、エチレングリコール(EG)が有機溶媒である。
【0073】
原料溶液中の、有機溶媒の「モル単位で表した含有量」に対する、原料溶液中の水の「モル単位で表した含有量」の比の値は、66.8であった。また、原料溶液中の有機溶媒のモル単位で表した含有量に対する、原料溶液中のシリカのモル単位で表した含有量の比の値は、2.7であった。
【0074】
核として用いたDDR型ゼオライト微結晶は、実施例1において用いられたものと同じものを用いた。
【0075】
次に、原料溶液を加熱(水熱合成)してDDR型ゼオライト結晶を生成させた。具体的な方法は、原料溶液を内容積80cmのフッ素樹脂製内筒付きステンレス製耐圧容器に入れた以外は、実施例1と同様の方法とした。製造条件の一部及び生成物について表1に示す。
【0076】
(実施例10)
原料溶液中のエタノールをアセトン(キシダ化学社製)に変更し、「1−ADAエタノール溶液溶解方法」を「室温放置」とした以外は、実施例3と同様にしてDDR型ゼオライト結晶を生成させた。製造条件の一部及び生成物について表1に示す。実施例10では、アセトンが有機溶媒である。
【0077】
(実施例11)
実施例1で得られたDDR型ゼオライト結晶0.08gを、130gのエタノールに分散させて、種付け用スラリーを調製した。
【0078】
次に、モノリス状の多孔質支持体を、片方の端面が鉛直方向上側を向くようにして載置した。そして、多孔質支持体の上記片方の端面の上側に、出口の広い「広口ロート」を配置した。広口ロートの出口の直径は、多孔質支持体の上記片方の端面の直径と同程度の大きさであった。そして、得られた種付け用スラリーを、広口ロートに注ぎ、広口ロートの出口から流出した種付け用スラリーを、モノリス状の多孔質支持体のセル内に流し込んだ。そして、種付け用スラリーが、多孔質支持体のセルを通過するようにした(種付け用スラリー流下操作)。多孔質支持体のセル内に流し込んだ種付け用スラリーは、160cmであった。多孔質支持体は、底面の直径30mm、中心軸方向の長さ160mmの円柱状であった。また、多孔質支持体には、「一方の端面から他方の端面まで延びるとともに、両端面に開口する」セルが、61本形成されるものであった。そして、セルの、中心軸方向に直交する断面の直径(セルの径)は2.14mmであった。また、多孔質支持体の平均細孔径は、0.1μmであった。また、多孔質支持体は、アルミナ基材の表面にアルミナ層が形成されたものであった。
【0079】
種付け用スラリーを多孔質支持体のセル内に流し込み、セル内の壁面に種付け用スラリー(DDR型ゼオライト種結晶)を塗膜した後、風速2〜7m/秒の条件で、セル内に空気を流した。セル内に空気を流す操作は、室温で行った。また、セル内に空気を流した時間は10分であった。これにより、セル内の壁面に塗膜された種付け用スラリーを乾燥させた(乾燥操作)。
【0080】
上記「種付け用スラリー流下操作」及び「乾燥操作」をそれぞれ1回行う一連の操作を「1サイクルの操作」としたときに、当該「1サイクルの操作」を合計で2回行い、種結晶付着多孔質支持体を得た。
【0081】
フッ素樹脂製容器に、5.382gのエタノール(甘化学社製)を入れた後、1.073gの1−アダマンタンアミン(シグマアルドリッチ社製)を加え、1−アダマンタンアミンを完全に溶解した。別の容器に、シリカを30質量%含むシリカゾル(スノーテックスS、日産化学工業社製)90.95gとイオン交換水108.2gを入れ、1分間撹拌してシリカ分散液を調製した。その後、シリカ分散液に、先に用意した1−アダマンタンアミンを溶解したエタノール溶液を加え、シェーカーにて90分間撹拌し、膜形成用原料溶液を調製した。
【0082】
容積300cmのフッ素樹脂製内筒付きステンレス製耐圧容器内に、種結晶付着多孔質支持体を配置し、調合した膜形成用原料溶液を入れ、138℃(合成温度)にて30時間(合成時間)、加熱処理(水熱合成)を行った。これにより、多孔質支持体のセル内の壁面にDDR型ゼオライト膜(1−アダマンタンアミンを含有するDDR型ゼオライト膜)を形成した。その後、DDR型ゼオライト膜(1−アダマンタンアミンを含有するDDR型ゼオライト膜)が形成された多孔質支持体を取り出し、72時間、水で洗浄を行った。
【0083】
得られた「DDR型ゼオライト膜(1−アダマンタンアミンを含有するDDR型ゼオライト膜)が形成された多孔質支持体」を450℃で50時間加熱した。これにより、1−アダマンタンアミンを燃焼除去し、多孔質支持体のセルの壁面に配設されたDDR型ゼオライト膜(1−アダマンタンアミンを含有しないDDR型ゼオライト膜)を得た。
【0084】
得られた膜が、DDR型ゼオライト膜であることは、XRD測定(粉末X線回折測定)で確認した。
【0085】
実施例1〜3,6及び参考例4,5より、原料溶液に有機溶媒を含有させることにより、PRTR物質を用いなくても1−アダマンタンアミンを容易に溶解することができ、DDR型ゼオライト結晶を得ることができることがわかる。また、実施例7より、膜形成用原料溶液に有機溶媒を含有させることにより、PRTR物質を用いなくても1−アダマンタンアミンを容易に溶解することができ、DDR型ゼオライト膜を得ることができることがわかる。参考例4,5より、エタノール量が多いと、DDR型ゼオライト結晶とアモルファス状のシリカが生成することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のDDR型ゼオライト結晶の製造方法は、DDR型ゼオライト結晶の製造に好適に用いることができる。本発明のDDR型ゼオライト膜の製造方法は、DDR型ゼオライト膜の製造に好適に用いることができる。