特許第6285425号(P6285425)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6285425
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】オレフィン重合用触媒組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 4/654 20060101AFI20180215BHJP
   C08F 10/00 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
   C08F4/654
   C08F10/00 510
【請求項の数】13
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2015-519024(P2015-519024)
(86)(22)【出願日】2013年6月24日
(65)【公表番号】特表2015-521682(P2015-521682A)
(43)【公表日】2015年7月30日
(86)【国際出願番号】EP2013063143
(87)【国際公開番号】WO2014001257
(87)【国際公開日】20140103
【審査請求日】2016年5月13日
(31)【優先権主張番号】12004860.8
(32)【優先日】2012年6月29日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】502132128
【氏名又は名称】サウディ ベーシック インダストリーズ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100139723
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100090468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐久間 剛
(72)【発明者】
【氏名】タフタフ,マンスール
(72)【発明者】
【氏名】ゾイデフェルト,マーティン アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】バティナス−ゲーツ,オーロラ アレクサンドラ
(72)【発明者】
【氏名】サイナニ,ジャイプラカシュ ブリジラル
(72)【発明者】
【氏名】ヴィマルクマール,マヘンドラバイ パテル
(72)【発明者】
【氏名】ザカロフ,ウラジミール アレクサンドロヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】ブカトフ,ゲンナディ ドミトリエヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】セルゲーエフ,セルゲイ アンドレイヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】ガリト,ヌルディン
【審査官】 渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/106497(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/106494(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/106500(WO,A1)
【文献】 特表2009−537675(JP,A)
【文献】 特表2003−510425(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101104656(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F4、C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン重合用触媒組成物であって、内部電子供与体として、式(I)のフィッシャー投影式により表される化合物を含む触媒組成物:
【化1】
式中、
1、R2、R3、R4、R5およびR6は、同じかまたは異なり、水素、1から20の炭素原子を有する、直鎖、分岐鎖および環状アルキル並びに芳香族置換および未置換ヒドロカルビルからなる群より独立して選択され;
7は、1から20の炭素原子を有する、直鎖、分岐鎖および環状アルキル並びに芳香族置換および未置換ヒドロカルビルからなる群より選択され;
8は、6から20の炭素原子を有する芳香族置換および未置換ヒドロカルビルからなる群より選択され;
Nは窒素原子であり;Oは酸素原子であり;Cは炭素原子である。
【請求項2】
1、R2、R3、R4、R5およびR6が、水素、C1〜C10直鎖および分岐鎖アルキル;C3〜C10シクロアルキル;C6〜C10アリール;並びにC7〜C10アルカリルおよびアラルキル基からなる群より独立して選択される、請求項1記載の触媒組成物。
【請求項3】
1およびR2の各々が水素原子であり、R3、R4、R5およびR6の各々が、C1〜C10直鎖および分岐鎖アルキル;C3〜C10シクロアルキル;C6〜C10アリール;並びにC7〜C10アルカリルおよびアラルキル基からなる群より選択される、請求項1または2記載の触媒組成物。
【請求項4】
3およびR4の一方並びにR5およびR6の一方が、少なくとも1つの炭素原子を有し、R3およびR4の他方並びにR5およびR6の他方の各々が水素原子である、請求項1から3いずれか1項記載の触媒組成物。
【請求項5】
7が、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、tert−ブチル、フェニル、ベンジル、置換ベンジルおよびハロフェニル基からなる群より選択される、請求項1から4いずれか1項記載の触媒組成物。
【請求項6】
8が、C6〜C10アリール;およびC7〜C10アルカリルおよびアラルキル基からなる群より選択される、請求項1から5いずれか1項記載の触媒組成物。
【請求項7】
前記内部電子供与体が、安息香酸4−[ベンゾイル(メチル)アミノ]ペンタン−2−イル;二安息香酸2,2,6,6−テトラメチル−5−(メチルアミノ)ヘプタン−3−オール;安息香酸4−[ベンゾイル(エチル)アミノ]ペンタン−2−イル;およびビス(4−メトキシ)安息香酸4−(メチルアミノ)ペンタン−2−イルからなる群より選択される、請求項1から6いずれか1項記載の触媒組成物。
【請求項8】
マグネシウム含有担体をハロゲン含有チタン化合物および内部電子供与体と接触させる工程を有してなる、請求項1から7いずれか1項記載の触媒組成物を調製する方法であって、前記内部電子供与体が、式(I)のフィッシャー投影式により表され、
【化2】
式中、
1、R2、R3、R4、R5およびR6は、同じかまたは異なり、水素、1から20の炭素原子を有する、直鎖、分岐鎖および環状アルキル並びに芳香族置換および未置換ヒドロカルビルからなる群より独立して選択され;
7は、1から20の炭素原子を有する、直鎖、分岐鎖および環状アルキル並びに芳香族置換および未置換ヒドロカルビルからなる群より選択され;
8は、6から20の炭素原子を有する芳香族置換および未置換ヒドロカルビルからなる群より選択され;
Nは窒素原子であり;Oは酸素原子であり;Cは炭素原子である、方法。
【請求項9】
i)化合物R9zMgX2-z(式中、R9は、1から20の炭素原子を含有する芳香族、脂肪族または脂環式基であり、Xはハロゲン化物であり、zは0より大きく2より小さい範囲内にある)をアルコキシまたはアリールオキシ含有シラン化合物と接触させて、第1の中間反応生成物を生成する工程;
ii)この固体Mg(OR1x2-xを、電子供与体および式M(OR10v-w(OR11w(式中、Mは、Ti、Zr、HfまたはAlである)およびM(OR10v-w(R11w(式中、MはSiである)(両式中、R10およびR11の各々は、独立して、アルキル、アルケニルまたはアリール基を表し、vはMの価数であり、vは3または4のいずれかであり、wはvより小さい)の化合物により形成される群から選択される少なくとも1つの活性化化合物と接触させる工程;および
iii)その第2の中間反応生成物を、ハロゲン含有Ti化合物、および式(I)のフィッシャー投影式
【化3】
(式中、
1、R2、R3、R4、R5およびR6は、同じかまたは異なり、水素、1から20の炭素原子を有する、直鎖、分岐鎖および環状アルキル並びに芳香族置換および未置換ヒドロカルビルからなる群より独立して選択され;
7は、1から20の炭素原子を有する、直鎖、分岐鎖および環状アルキル並びに芳香族置換および未置換ヒドロカルビルからなる群より選択され;
8は、6から20の炭素原子を有する芳香族置換および未置換ヒドロカルビルからなる群より選択され;
Nは窒素原子であり;Oは酸素原子であり;Cは炭素原子である)
により表される内部電子供与体と接触させる工程;
を含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記第1の中間反応生成物が、工程i)においてアルコールおよびチタンテトラアルコキシドと接触させられる、請求項9記載の方法。
【請求項11】
請求項1から7いずれか1項記載の触媒組成物、助触媒、および必要に応じて、外部電子供与体を含む、重合用触媒系。
【請求項12】
オレフィンを請求項11記載の触媒系と接触させることにより、ポリオレフィンを製造する方法。
【請求項13】
オレフィン重合用触媒組成物における内部電子供与体としての式(I)のフィッシャー投影式により表される化合物の使用:
【化4】
式中、
1、R2、R3、R4、R5およびR6は、同じかまたは異なり、水素、1から20の炭素原子を有する、直鎖、分岐鎖および環状アルキル並びに芳香族置換および未置換ヒドロカルビルからなる群より独立して選択され;
7は、1から20の炭素原子を有する、直鎖、分岐鎖および環状アルキル並びに芳香族置換および未置換ヒドロカルビルからなる群より選択され;
8は、6から20の炭素原子を有する芳香族置換および未置換ヒドロカルビルからなる群より選択され;
Nは窒素原子であり;Oは酸素原子であり;Cは炭素原子である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィン重合用触媒組成物に関する。本発明はまた、その触媒組成物を調製する方法に関する。さらに、本発明は、その触媒組成物、助触媒および必要に応じて外部電子供与体を含むオレフィン重合用触媒系;オレフィンをその触媒系と接触させることによってポリオレフィンを製造する方法;およびその方法により得られるポリオレフィンに関する。本発明はまた、オレフィン重合へのその触媒組成物の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
チーグラー・ナッタ触媒系およびその成分が、例えば、ポリプロピレンなどのポリオレフィンを調製するのに適していると一般的に公知である。その用語は、当該技術分野において公知であり、典型的に、遷移金属を含有する固体触媒化合物;有機金属成分、および必要に応じて、1種類以上の電子供与化合物(外部供与体)を含む触媒系を称する。その遷移金属を含有する固体触媒化合物は、遷移金属ハロゲン化物、すなわち、塩化マグネシウムまたはシリカなどの金属または半金属化合物上に担持されたチタン、クロム、バナジウムを含む。様々な触媒タイプの概要が、例えば、非特許文献1に与えられている。例えば、遷移金属、担体のタイプ、内部/外部供与体、助触媒を変えることにより;追加の化合物を加えることにより;および/またはチーグラー・ナッタ型触媒を製造する様々な工程段階に特定の成分を導入することにより;触媒活性、および分子量分布やアイソタクチック性(isotacticity)などの、そのような触媒を使用することにより製造されるポリオレフィンの形態と性質を調整することができる。分子量分布(MWD)は、ポリオレフィンの性質に影響を与え、それ自体、ポリマーの最終用途に影響を与える;MWDが広いと、加工中の高い剪断速度下での流動性およびブロー技法と押出技法などの、かなり高いダイスウェルでの高速加工を必要とする用途におけるポリオレフィンの加工が改善される傾向にある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】T. Pullukat and R. Hoff in Catal. Rev. - Sci. Eng. 41, vol. 3 and 4, 389-438, 1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、よりよい性能、特に、立体化学のよりよい制御を示し、より広い分子量分布を有するポリオレフィンの調製を可能にする触媒が、この業界で依然として必要とされている。
【0005】
それゆえ、オレフィン重合用のさらに別の触媒組成物を提供することが、本発明の課題である。よりよい性能を示す、特に、立体化学のよりよい制御を示し、より広い分子量分布を有するポリオレフィンの調製を可能にする触媒組成物を提供することが、本発明のさらに別の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上述した課題の少なくとも1つは、オレフィン重合用触媒組成物であって、内部電子供与体として、式(I)のフィッシャー投影式により表される化合物を含み、
【0007】
【化1】
【0008】
式中、
1、R2、R3、R4、R5およびR6は、同じかまたは異なり、水素、1から20の炭素原子を有する、直鎖、分岐鎖および環状アルキル並びに芳香族置換および未置換ヒドロカルビルからなる群より独立して選択され;
7は、1から20の炭素原子を有する、直鎖、分岐鎖および環状アルキル並びに芳香族置換および未置換ヒドロカルビルからなる群より選択され;
8は、6から20の炭素原子を有する芳香族置換および未置換ヒドロカルビルからなる群より選択され;
Nは窒素原子であり;Oは酸素原子であり;Cは炭素原子である;
触媒組成物により達成される。
【0009】
1、R2、R3、R4、R5およびR6が、水素、1から10の炭素原子を有する、直鎖、分岐鎖および環状アルキル並びに芳香族置換および未置換ヒドロカルビルからなる群より独立して選択されることが好ましい。R1、R2、R3、R4、R5およびR6が、水素、C1〜C10直鎖および分岐鎖アルキル;C3〜C10シクロアルキル;C6〜C10アリール;並びにC7〜C10アルカリルおよびアラルキル基からなる群より独立して選択されることがより好ましい。R1、R2、R3、R4、R5およびR6が、水素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、tert−ブチル、フェニル、トリフルオロメチルおよびハロフェニル基からなる群より独立して選択されることがさらにより好ましい。R1、R2、R3、R4、R5およびR6の各々が、水素、メチル、エチル、プロピル、tert−ブチル、フェニルまたはトリフルオロメチルであることが最も好ましい。
【0010】
1およびR2の各々が水素原子であることが好ましい。R1およびR2の各々が水素原子であり、R3、R4、R5およびR6の各々が、水素、C1〜C10直鎖および分岐鎖アルキル;C3〜C10シクロアルキル;C6〜C10アリール;並びにC7〜C10アルカリルおよびアラルキル基からなる群より選択されることがより好ましく;R3、R4、R5およびR6の各々が、水素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、tert−ブチル、フェニル、トリフルオロメチルおよびハロフェニル基からなる群より選択されることがさらにより好ましく;R3、R4、R5およびR6の各々が、水素、メチル、エチル、tert−ブチル、プロピル、フェニルまたはトリフルオロメチルであることが最も好ましい。
【0011】
3およびR4の少なくとも一方並びにR5およびR6の少なくとも一方が、少なくとも1つの炭素原子を有し、先に定義された群から選択されることが好ましい。R3およびR4の一方並びにR5およびR6の一方が少なくとも1つの炭素を有する場合、R3およびR4の他方並びにR5およびR6の他方の各々が水素原子であることがより好ましい。R3およびR4の一方並びにR5およびR6の一方が少なくとも1つの炭素を有する場合、R3およびR4の他方並びにR5およびR6の他方の各々が水素原子であり、R1およびR2の各々が水素原子であることが最も好ましい。
【0012】
7が水素原子ではないという条件で、R7が、R1、R2、R3、R4、R5およびR6のいずれと同じかまたは異なることが好ましい。
【0013】
7が、1から10の炭素原子を有する、直鎖、分岐鎖および環状アルキル並びに芳香族置換および未置換ヒドロカルビルからなる群より選択されることが好ましい。R7が、C1〜C10直鎖および分岐鎖アルキル;C3〜C10シクロアルキル;C6〜C10アリール;並びにC7〜C10アルカリルおよびアラルキル基からなる群より選択されることがより好ましい。R7が、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、tert−ブチル、フェニル、ベンジルと置換ベンジルおよびハロフェニル基からなる群より選択されることがさらにより好ましい。R7が、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ベンジルまたはフェニルであることが最も好ましく、R7が、メチル、エチルまたはプロピルであることがさらに最も好ましい。
【0014】
8は、R1〜R7のいずれと同じであっても異なっても差し支えなく、6から10の炭素原子を有する芳香族置換および未置換ヒドロカルビルであることが好ましい。R8が、例えば、アシルハライドまたはアルコキシドにより置換されたまたは未置換のC6〜C10アリール;およびC7〜C10アルカリルおよびアラルキル基;例えば、4−メトキシフェニル、4−クロロフェニル、4−メチルフェニルからなる群より選択されることがより好ましい。R8が、置換または未置換のフェニル、ベンジル、ナフチル、オルト−トリル、パラ−トリルまたはアニソール基であることが特に好ましい。R8がフェニルであることが最も好ましい。
【0015】
1およびR2の各々が水素原子であり、R3およびR4の一方並びにR5およびR6の一方が、C1〜C10直鎖および分岐鎖アルキル;C3〜C10シクロアルキル;C6〜C10アリール;並びにC7〜C10アルカリルおよびアラルキル基からなる群より選択されることが好ましく;R5およびR6が、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチルなどのC1〜C10アルキル、tert−ブチル、フェニル、トリフルオロメチルおよびハロフェニル基からなる群より選択されることがより好ましく;R3およびR4の一方並びにR5およびR6の一方がメチルであることが最も好ましい。
【0016】
意外なことに、内部電子供与体として式(I)の化合物を含む触媒組成物が、立体化学のよりよい制御を示し、広い分子量分布および高いアイソタクチック性を有するポリオレフィン、特に、ポリプロピレンの調製を可能にすることが分かった。広い分子量分布を有するポリオレフィンは、ここでは、6超、または6.5超、さらには7超のMw/Mnを有するであろうポリオレフィンであり、広い分子量分布は、熱成形、パイプ、発泡体、フイルム、ブロー成形などの特定の用途に使用される様々なグレードのポリマーの開発に望ましい。高いアイソタクチック性は、例えば、ポリマーの合計量の3質量%未満、2質量%未満、さらには1質量%未満などの、得られた生成物中の非晶質アタクチックポリマーが少量であることを示す。本発明の触媒組成物により得られるポリオレフィンのキシレン可溶物含有量も、低い、例えば、6質量%未満、または5質量%未満、4質量%未満、および/または3質量%未満である。分子量分布、アタクチックポリマーの量、キシレン可溶物含有量およびメルトフローレートを決定するために本発明に使用される方法は、本発明の実験部分に記載されている。
【0017】
本発明のさらなる利点は、重合反応中にワックス、すなわち、低分子量ポリマーが少量しか形成されず、そのため、重合反応器の内壁上およびその反応器内部の「粘着性」が低減しているか全くないことである。その上、本発明による触媒組成物は、フタレートを含まないことができ、それゆえ、ヒトの健康に有害な影響を示さない非毒性のポリオレフィンを得ることができ、それゆえ、例えば、食品産業および医療産業に使用できる。さらに、本発明による触媒組成物を使用することによって得られるポリマーの低いメルトフローレート(MFR)値、すなわち、6dg/分未満、4dg/分未満、さらには3dg/分未満のMFRは、安定したMFR値を有するポリマーの製造に関して、改善されたプロセス安定性を示す。
【0018】
内部供与体(内部電子供与体とも称される)は、ここでは、オレフィン重合用のチーグラー・ナッタ触媒系のための固体触媒成分の調製における反応体と従来技術に一般に記載される電子供与化合物として定義される;すなわち、マグネシウム含有担体をハロゲン含有Ti化合物および内部供与体と接触させる。
【0019】
ここに用いたように、「ヒドロカルビル」という用語は、アルキル、アルケニル、およびアルキニルなどの直鎖または分岐鎖の、飽和または不飽和の脂肪族ラジカル;シクロアルキル、シクロアルケニルなどの脂環式ラジカル;単環式または多環式芳香族ラジカルなどの芳香族ラジカル;並びにアルカリルおよびアラルキルなどのその組合せを含む、水素および炭素原子のみを含有する置換基である。
【0020】
ここに記載したように、「置換ヒドロカルビル」という用語は、1つ以上の非ヒドロカルビル置換基により置換されたヒドロカルビル基である。非ヒドロカルビル置換基の非限定的例はヘテロ原子である。ここに用いたように、ヘテロ原子は、炭素または水素以外の原子である。ヘテロ原子の非限定的例としては、ハロゲン(F、Cl、Br、I)、N、O、P、B、SおよびSiが挙げられる。
【0021】
本発明による触媒組成物が、チーグラー・ナッタ触媒中の唯一の内部電子供与体として、式(I)の化合物を含むことが好ましい。
【0022】
制限されないが、式(I)の化合物の特別な例に、式(II)〜(XII)に示された構造がある。例えば、式(II)は、安息香酸4−[ベンゾイル(メチル)アミノ]ペンタン−2−イルに対応するであろう;式(III)は、安息香酸3−[ベンゾイル(シクロヘキシル)アミノ]−1−フェニルブチルに対応するであろう;式(IV)は、安息香酸3−[ベンゾイル(プロパン−2−イル)アミノ]−1−フェニルブチルに対応するであろう;式(V)は、安息香酸4−[ベンゾイル(プロパン−2−イル)アミノ]ペンタン−2−イルに対応するであろう;式(VI)は、安息香酸4−[ベンゾイル(メチル)アミノ]−1,1,1−トリフルオロペンタン−2−イルに対応するであろう;式(VII)は、二安息香酸3−(メチルアミノ)−1,3−ジフェニルプロパン−1−オールに対応するであろう;式(VIII)は、二安息香酸2,2,6,6−テトラメチル−5−(メチルアミノ)ヘプタン−3−オールに対応するであろう;式(IX)は、安息香酸4−[ベンゾイル(エチル)アミノ]ペンタン−2−イルに対応するであろう;式(X)は、二安息香酸3−(メチル)アミノ−プロパン−1−オールに対応するであろう;式(XI)は、二安息香酸3−(メチル)アミノ−2,2−ジメチルプロパン−1−オールに対応するであろう;式(XII)は、ビス(4−メトキシ)安息香酸4−(メチルアミノ)ペンタン−2−イルに対応するであろう。式(II)、(IX)、(XII)および(XIII)の化合物は、より広い分子量分布およびより高いアイソタクチック性を有するポリオレフィンの調製を可能にするので、本発明による触媒組成物中の最も好ましい内部電子供与体である。本発明による触媒組成物を使用することにより得られるポリマーの低いメルトフローレート(MFR)値、すなわち、6dg/分未満、4dg/分未満、さらに3dg/分未満のMFRは、安定なMFR値を有するポリマーの製造に関する改善されたプロセス安定性を示す。
【0023】
【化2】
【0024】
【化3】
【0025】
【化4】
【0026】
【化5】
【0027】
【化6】
【0028】
【化7】
【0029】
【化8】
【0030】
【化9】
【0031】
【化10】
【0032】
【化11】
【0033】
【化12】
【0034】
本発明はまた、安息香酸4−[ベンゾイル(メチル)アミノ]ペンタン−2−イル(式II)、安息香酸3−[ベンゾイル(シクロヘキシル)アミノ]−1−フェニルブチル(式III)、安息香酸3−[ベンゾイル(プロパン−2−イル)アミノ]−1−フェニルブチル(式IV)、安息香酸4−[ベンゾイル(プロパン−2−イル)アミノ]ペンタン−2−イル(式V)、安息香酸4−[ベンゾイル(メチル)アミノ]−1,1,1−トリフルオロペンタン−2−イル(式VI)、二安息香酸3−(メチルアミノ)−1,3−ジフェニルプロパン−1−オール(式VII)、二安息香酸2,2,6,6−テトラメチル−5−(メチルアミノ)ヘプタン−3−オール(式VIII)、二安息香酸4−(エチル)アミノペンタン−2−イル(式IX)、二安息香酸3−(メチル)アミノ−プロパン−1−オール(式X)、二安息香酸3−(メチル)アミノ−2,2−ジメチルプロパン−1−オール(式XI)、ビス(4−メトキシ)安息香酸4−(メチルアミノ)ペンタン−2−イル(式XII)からなる群より選択される新規の化合物にも関する。これらの化合物の各々は、チーグラー・ナッタ触媒組成物における内部電子供与体として使用でき、本出願の実施例に示されるように、より広い分子量分布および高いアイソタクチック性を有するポリオレフィンが生じる。本発明による触媒組成物を使用することにより得られるポリマーの低いメルトフローレート(MFR)値、すなわち、6dg/分未満、4dg/分未満、さらに3dg/分未満のMFRは、安定なMFR値を有するポリマーの製造に関する改善されたプロセス安定性を示す。
【0035】
式(I)による化合物は、当該技術分野で公知のどの方法により製造しても差し支えない。この点に関して、J. Chem. Soc. Perkin trans. I 1994, 537-543およびOrg. Synth.1967, 47, 44を参照のこと。これらの文献に、溶媒の存在下で置換2,4−ジケトンを置換アミンと接触させて、ベータ−エナミノケトンを得る工程a);それに続く、溶媒の存在下でこのベータ−エナミノケトンを還元剤と接触させて、ガンマ−アミノアルコールを得る工程b)が開示されている。前記置換2,4−ジケトンおよび前記置換アミンは、0.5から2.0モル、好ましくは1.0から1.2モルに及ぶ量で、工程a)において適用できる。工程a)およびb)における溶媒は、ジケトンの総量に基づいて、5から15体積、好ましくは3から6体積の量で加えてよい。工程b)におけるベータ−エナミノケトン対ジケトンのモル比は、0.5から6、好ましくは1から3であってよい。工程b)における還元剤対ベータ−エナミノケトンのモル比は、3から8、好ましくは4から6であってよい;この還元剤は、金属ナトリウム、酢酸中のNaBH4、Ni−Al合金からなる群より選択してよい。その還元剤は、安価な試薬であるので、金属ナトリウムであることが好ましい。
【0036】
化合物(I)の製造に使用できる前記ガンマ−アミノアルコールは、前記文献に記載されたように、また先に述べられたように合成することができるか、またはこの化合物は、市販のものを直接購入し、式(I)により表される化合物を得るための反応における出発化合物として使用しても差し支えない。詳しくは、ガンマ−アミノアルコールが、文献に記載されたように合成されたか、または市販のものを購入したかにかかわらず、ガンマ−アミノアルコールは、塩基の存在下で置換または未置換の塩化ベンゾイルと反応させて、式(I)により表される化合物を得ることができる(ここでは工程cとも称される)。この置換または未置換の塩化ベンゾイル対ガンマ−アミノアルコールのモル比は、2から4、好ましくは2から3に及んでよい。その塩基は、ガンマ−アミノアルコールを脱プロトン化できるどのような塩基性化合物であってもよい。その塩基は、少なくとも5、または少なくとも10、もしくは5と40の間のpKaを有することができる。ここで、pKaは、酸解離定数kaの負の対数として、当業者にすでに知られている定数である。その塩基が、ピリジン、トリアルキルアミン、例えば、トリエチルアミン、または金属水酸化物、例えば、NaOH、KOHであることが好ましい。塩基がピリジンであることが好ましい。この塩基とガンマ−アミノアルコールとの間のモル比は、3から10、好ましくは4から6に及んでよい。
【0037】
工程a)、b)およびc)のいずれに使用される溶媒も、トルエン、ジクロロメタン、2−プロパノール、シクロヘキサンなどの任意の有機溶媒または任意の有機溶媒の混合物から選択することができる。工程a)、b)およびc)の各々にトルエンを使用することが好ましい。工程b)にトルエンと2−プロパノールの混合物を使用することがより好ましい。工程c)における溶媒は、ガンマ−アミノアルコールに基づいて、3から15体積、好ましくは5から10体積の量で加えて差し支えない。
【0038】
工程a)、b)およびc)のいずれにおける反応混合物も、約1時間超、好ましくは約3時間超、最も好ましくは約10時間超であるが、約24時間未満に亘り、従来の撹拌器のどのタイプを使用することによって撹拌してもよい。工程a)およびb)のいずれにおける反応温度も、室温、すなわち、約15から約30℃、好ましくは約20から約25℃であってよい。工程c)における反応温度は、0℃と10℃の間、好ましくは5℃と10℃の間に及んでよい。工程a)、b)およびc)のいずれにおける反応混合物も、約10時間超、好ましくは約20時間超であるが、約40時間未満に亘り、または反応が完了するまで(反応の完了は、ガスクロマトグラフィー、GCによって測定できる)還流してもよい。次いで、工程a)およびb)の反応混合物を室温、すなわち、約15から約30℃、好ましくは約20から約25℃の温度まで冷ましてよい。溶媒およびどのような過剰な成分も、蒸発、洗浄などの当該技術分野に公知のどの方法によって、工程a)、b)およびc)のいずれにおいて除去してもよい。工程b)およびc)のいずれにおいて得られる生成物も、金属塩、例えば、硫酸ナトリウム上の抽出などの当該技術分野に公知のどの方法によって反応混合物から分離しても差し支えない。
【0039】
マグネシウムに対する式(I)の内部供与体のモル比は0.02から0.5であり得る。このモル比が0.05と0.2の間であることが好ましい。
【0040】
本発明による触媒組成物を調製する方法は、マグネシウム含有担体を、ハロゲン含有チタン化合物および式(I)のフィッシャー投影式により表される化合物である内部供与体と接触させる工程を有してなる。
【0041】
本発明による方法に使用されるマグネシウム含有担体およびハロゲン含有チタン化合物は、チーグラー・ナッタ触媒組成物の典型的な成分として、当該技術分野に公知である。当該技術分野に公知のチーグラー・ナッタ触媒成分のいずれを、本発明による方法に使用しても差し支えない。例えば、ポリオレフィン製造、特にポリプロピレン製造のための、ハロゲン化マグネシウム、マグネシウムアルキルおよびマグネシウムアリール、またマグネシウムアルコキシおよびマグネシウムアリールオキシ化合物などの、様々なマグネシウム含有担体前駆体による、そのようなチタン−マグネシウム系触媒組成物の合成が、例えば、米国特許第4978648号、国際公開第96/32427A1号、国際公開第01/23441A1号、欧州特許出願公開第1283222A1号、欧州特許第1222214B1号、米国特許第5077357号、米国特許第5556820号、米国特許第4414132号、および米国特許第5106806号の各明細書に記載されているが、本発明の方法は、これらの文献の開示に制限されない。
【0042】
本発明による前記触媒組成物を調製する方法が、
i)化合物R9zMgX2-z(式中、R9は、1から20の炭素原子を含有する芳香族、脂肪族または脂環式基であり、Xはハロゲン化物であり、zは0より大きく2より小さい範囲内にある)をアルコキシまたはアリールオキシ含有シラン化合物と接触させて、第1の中間反応生成物を生成する工程;
ii)固体Mg(OR1x2-xを、電子供与体および式M(OR10v-w(OR11w(式中、Mは、Ti、Zr、HfまたはAlである)およびM(OR10v-w(R11w(式中、MはSiである)(両式中、R10およびR11の各々は、独立して、アルキル、アルケニルまたはアリール基を表し、vはMの価数であり、vは3または4のいずれかであり、wはvより小さい)の化合物により形成される群から選択される少なくとも1つの活性化化合物と接触させる工程;および
iii)第2の中間反応生成物を、ハロゲン含有Ti化合物、および式(I)のフィッシャー投影式
【0043】
【化13】
【0044】
(式中、
1、R2、R3、R4、R5およびR6は、同じかまたは異なり、水素、1から20の炭素原子を有する、直鎖、分岐鎖および環状アルキル並びに芳香族置換および未置換ヒドロカルビルからなる群より独立して選択され;
7は、1から20の炭素原子を有する、直鎖、分岐鎖および環状アルキル並びに芳香族置換および未置換ヒドロカルビルからなる群より選択され;
8は、6から20の炭素原子を有する芳香族置換および未置換ヒドロカルビルからなる群より選択され;
Nは窒素原子であり;Oは酸素原子であり;Cは炭素原子である)
により表される内部電子供与体と接触させる工程;
を含むことが好ましい。
【0045】
本発明によるこの方法によって、より広い分子量分布および高いアイソタクチック性を有するポリオレフィン、好ましくはポリプロピレンを得ることを可能にする触媒組成物が生じる。
【0046】
工程i)
工程i)において、第1の中間反応生成物、すなわち、固体マグネシウム含有担体は、例えば、国際公開第96/32427A1号および国際公開第01/23441A1号に記載されているように、式R9zMgX2-z(式中、R9は、1から20の炭素原子を含有する芳香族、脂肪族または脂環式基であり、Xはハロゲン化物であり、zは0より大きく2より小さい範囲内にある)の化合物または化合物の混合物をアルコキシまたはアリールオキシ含有シラン化合物と接触させることによって調製される。グリニャール化合物とも称される、化合物R9zMgX2-zにおいて、Xは、好ましくは塩素または臭素、より好ましくは塩素である。
【0047】
9は、アルキル、アリール、アラルキル、アルコキシド、フェノキシドなど、またはそれらの混合物であって差し支えない。基R9の適切な例には、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、ヘキシル、シクロヘキシル、オクチル、フェニル、トリル、キシリル、メシチル、およびベンジルがある。本発明の好ましい実施の形態において、R9は、芳香族基、例えば、フェニル基を表す。式R9zMgX2-z(式中、Zは0より大きく2より小さい範囲内にある)のグリニャール化合物は、zが約0.5から1.5であることによって特徴付けられることが好ましい。
【0048】
工程i)に使用されるアルコキシまたはアリールオキシ含有シランは、一般式Si(OR134-n14n(式中、nは0から3までに及んで差し支えなく、好ましくはnは0から1までであり、R13およびR14基の各々が、独立して、例えば、1〜20のC原子を有する、1つ以上のヘテロ原子、例えば、O、N、SまたはPを必要に応じて含有する、アルキル、アルケニルまたはアリール基を表す)を有する化合物または化合物の混合物であることが好ましい。適切なシラン化合物の例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリブトキシシラン、フェニルトリエトキシシランが挙げられる。本発明による方法において固体Mg含有化合物を調製する上で、シラン化合物としてテトラエトキシシランが使用されることが好ましい。工程i)において、国際公開第01/23441A1号に記載されているように、前記シラン化合物および前記グリニャール化合物が混合装置に同時に導入されて、都合よい形態の粒子、特により大きい粒子が得られることが好ましい。ここで、「形態(morphology)」は、固体Mg化合物およびそれから製造された触媒の粒子の形状だけでなく、粒径分布(スパンとしても特徴付けられる)、その微粒子含有量、粉末流動性、および触媒粒子の嵩密度も称する。さらに、そのような触媒成分に基づく触媒系を使用した重合方法において製造されるポリオレフィン粉末は、その触媒成分と類似の形態を有することがよく知られている(いわゆる「複製効果」;例えば、S. van der Ven, Polypropylene and other Polyolefins, Elsevier 1990, p. 8-10を参照のこと)。したがって、2より小さい長さ/直径比(l/D)および良好な粉末流動性を有する、ほとんど丸いポリマー粒子が得られる。同時に導入とは、グリニャール化合物とシラン化合物の導入が、国際公開第01/23441A1号に記載されているように、これらの化合物の混合装置への導入中にモル比Mg/Siが実質的に変動しないような様式で行われることを意味する。シラン化合物およびグリニャール化合物は、混合装置に連続的にまたはバッチ式に導入されても差し支えない。両方の化合物が混合装置に連続的に導入されることが好ましい。
【0049】
あるいは、工程i)のグリニャール化合物が違う構造を有する、例えば、錯体であることも可能であることを明白に強調しておく。そのような錯体は、当業者にすでに公知である;そのような錯体の特別な例は、フェニル4Mg3Cl2である。
【0050】
混合装置は様々な形態を有して差し支えない;この装置は、シラン化合物がグリニャール化合物とその中で予混される混合装置であって差し支えなく、その混合装置は、それらの化合物の間の反応が中で行われる撹拌式反応器であっても差し支えない。工程i)のために混合物が反応器に導入される前に、それらの化合物が予混されることが好ましい。このようにして、最良の形態(高い嵩密度、狭い粒径分布、(実質的に)微粒子がないこと、優れた流動性)を有するポリマー粒子を結果として生じる形態を有する触媒成分が形成される。工程i)中のSi/Mgモル比は、広い範囲内、例えば、0.2から20まで様々であってよい。Si/Mgモル比が0.4から1.0であることが好ましい。
【0051】
先に示された反応工程における予混の期間は、幅広い範囲、例えば、0.1から300秒間で様々であってよい。予混が1から50秒間に亘り行われることが好ましい。
【0052】
予混工程中の温度は、特に重要ではなく、例えば、0℃と80℃の間の範囲にあってよく、その温度が10℃と50℃の間であることが好ましい。前記化合物間の反応は、例えば、−20℃と100℃の間の温度、好ましくは0℃から80℃の温度で行われてよい。
【0053】
シラン化合物とグリニャール化合物との間の反応から得られる第1の中間反応生成物は、不活性溶媒、例えば、ペンタン、イソペンタン、ヘキサンまたはヘプタンなどの、例えば、1〜20のC原子を有する炭化水素溶媒で濯ぐことによって、通常精製される。この固体生成物は、その不活性溶媒中の懸濁液として、貯蔵され、さらに使用されても差し支えない。あるいは、その生成物は、乾燥され、好ましくは穏やかな条件下、例えば、周囲温度と周囲圧力で、好ましくは部分乾燥されてもよい。
【0054】
工程i)により得られる第1の中間反応生成物は、式Mg(OR9x2-x(式中、基R9は、1〜12の炭素原子を含有するアルキルまたはアリール基である)の化合物を含んでよいが、本発明は、それにより制限されない。Xはハロゲン化物であり、xは0より大きく2より小さい、好ましくは0.5と1.5の間である。Xが塩素または臭素であることが好ましく、Xが塩素であることがより好ましい。
【0055】
第1の中間反応生成物がMg(OR9x2-xにより表され、R9がアルキルである場合、そのアルキル基は、直鎖または分岐鎖であってよい。R9基が1〜8の炭素原子を含有することが好ましい。R9基の少なくとも1つがエチル基を表すことがより好ましい。好ましい実施の形態において、各R9基がエチル基を表す。
【0056】
工程i)に使用されるR9zMgX2-zは、国際公開第96/32427A1号および国際公開第01/23441A1号に記載されているように、金属マグネシウムを有機ハロゲン化物R9Xと接触させることによって調製されてもよい。金属マグネシウムの全ての形態を使用してよいが、微細な金属マグネシウム、例えば、マグネシウム粉末を使用することが好ましい。速い反応を達成するために、使用前に窒素雰囲気下でマグネシウムを加熱することが好ましい。R9およびXは、上述したのと同じ意味を有する。2種類以上の有機ハロゲン化物R9Xの組合せを使用しても差し支えない。
【0057】
マグネシウムおよび有機ハロゲン化物R9Xは、別の分散剤を使用せずに、互いに反応させることができる;それから、有機ハロゲン化物R9Xは過剰に使用される。有機ハロゲン化物R9Xおよびマグネシウムは、不活性分散剤の存在下で、互いに接触させても差し支えない。これらの分散剤の例には、4から20までの炭素原子を含有する脂肪族、脂環式または芳香族分散剤がある。
【0058】
9zMgX2-zを調製するこの工程において、反応混合物にエーテルも加えることが好ましい。エーテルの例には、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソブチルエーテル、ジイソアミルエーテル、ジアリルエーテル、テトラヒドロフランおよびアニソールが挙げられる。ジブチルエーテルおよび/またはジイソアミルエーテルを使用することが好ましい。有機ハロゲン化物R9Xとして、過剰のクロロベンゼンを使用することが好ましい。したがって、クロロベンゼンは、分散剤並びに有機ハロゲン化物R9Xとして働く。
【0059】
有機ハロゲン化物/エーテルの比は、触媒成分の活性に作用する。クロロベンゼン/ジブチルエーテルの体積比は、例えば、75:25と35:65の間、好ましくは70:30と50:50の間で様々であってよい。
【0060】
少量のヨウ素および/またはアルカリハロゲン化物を加えて、金属マグネシウムと有機ハロゲン化物R9Xとの間の反応をより速い速度で進行させても差し支えない。アルキルハロゲン化物の例には、塩化ブチル、臭化ブチルおよび1,2−ジブロモエタンがある。有機ハロゲン化物R9Xがアルキルハロゲン化物である場合、ヨウ素および1,2−ジブロモエタンを使用することが好ましい。
【0061】
9zMgX2-zを調製する反応温度は、通常、20℃と150℃の間であり、反応時間は、通常、0.5時間と20時間の間である。R9zMgX2-zを調製する反応が完了した後、溶解した反応生成物を固体の残留生成物から分離してもよい。
【0062】
工程ii)
前記電子供与体および式M(OR10v-w(OR11wとM(OR10v-w(R11wの化合物も、ここでは、活性化化合物と称してよい。
【0063】
工程ii)に使用できる適切な電子供与体の例が当業者に公知であり、その例としては、アルコール、カルボン酸およびカルボン酸誘導体が挙げられる。工程ii)における電子供与体としてアルコールが使用されることが好ましい。そのアルコールが、1〜12の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖脂肪族もしくは芳香族であることがより好ましい。アルコールが、メタノール、エタノール、ブタノール、イソブタノール、ヘキサノール、キシレノールおよびベンジルアルコールから選択されることがさらにより好ましい。アルコールがエタノールまたはメタノールであることが最も好ましい。
【0064】
適切なカルボン酸の例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソブタン酸、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、シクロヘキサンモノカルボン酸、シス−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、フェニルカルボン酸、トルエンカルボン酸、ナフタレンカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸および/またはトリメリット酸が挙げられる。
【0065】
10およびR11基は、直鎖、分岐鎖または環状アルキルまたはアルケニル基であって差し支えなく、適切な基は、1から20の炭素原子、好ましくは1〜12または1〜8の炭素原子を含有する。これらの基は、独立して異なっても、同じであってもよい。R10基の少なくとも1つがエチル基を表すことが好ましい。好ましい実施の形態において、R10およびR11がエチル、プロピルまたはブチルであり;全ての基がエチル基であることがより好ましい。R10およびR11は、例えば、アルキル基により必要に応じて置換された芳香族炭化水素基であっても差し支えなく、例えば、6から20の炭素原子を含有し得る。
【0066】
前記活性化化合物のMがTiまたはSiであることが好ましい。wの値が0であり、活性化化合物が、例えば、4〜32のC原子を含有するチタンテトラアルコキシドであることが好ましい。前記化合物中の4つのアルコキシド基は、同じであっても、独立して異なってもよい。この化合物中のアルコキシ基の少なくとも1つがエトキシ基であることが好ましい。前記化合物が、チタンテトラエトキシドなどのテトラアルコキシドであることがより好ましい。活性化化合物として適したSi含有化合物は、工程i)について先に列挙したものと同じである。
【0067】
Ti系化合物、例えば、チタンテトラエトキシドを、工程ii)におけるエタノールまたはヘキサノールなどのアルコールと一緒に使用して、前記固体触媒担体を生成することが好ましい。
【0068】
本発明による好ましい方法の工程ii)に2種類以上の化合物が使用される場合、それらの添加順序は重要ではないが、使用する化合物に応じて、触媒性能に影響するかもしれない。当業者は、いくつかの実験に基づいて、それらの添加を最適化してよい。工程ii)の前記化合物は、一緒に添加しても、連続して添加しても差し支えない。
【0069】
前記第1の中間反応生成物は、前記活性化化合物とどのような順序で接触させても差し支えない。1つの好ましい実施の形態において、前記電子供与体は、この第1の中間反応生成物に最初に添加され、次いで、化合物M(OR10v-w(OR11wまたはM(OR10v-w(R11wが添加される;この順序で、固体粒子の凝集は観察されない。工程ii)の化合物は、各々、例えば、0.1〜6時間、好ましくは0.5〜4時間、最も好ましくは1〜2.5時間の期間中にゆっくりと添加されることが好ましい。
【0070】
前記不活性分散剤が炭化水素溶媒であることが好ましい。その分散剤は、例えば、1〜20のC原子を有する脂肪族または芳香族炭化水素であってよい。その分散剤が脂肪族炭化水素であることが好ましく、ペンタン、イソペンタン、ヘキサンまたはヘプタンがより好ましく、ヘプタンが最も好ましい。本発明による好ましい方法において、第1の中間反応生成物のマグネシウム原子に対する活性化化合物のモル比が、幅広い範囲に及んでよく、例えば、0.02と1.0の間である。そのモル比が、活性化化合物のタイプに応じて、0.1と0.7の間であることが好ましい。本発明による方法において、工程ii)の温度は、−20℃から70℃;好ましくは−10℃から50℃の範囲、より好ましくは0℃と30℃の間の範囲内であって差し支えない。前記反応成分の少なくとも1つが、好ましくは、時間内に、例えば、0.1から6時間、好ましくは0.5から4時間、より詳しくは1〜2.5時間で添加される。
【0071】
得られた第2の中間反応生成物は、固体であってよく、好ましくは不活性分散剤としても使用される溶媒により、さらに洗浄されてよく、次いで、その不活性溶媒中の懸濁液として貯蔵され、さらに使用されても差し支えない。あるいは、その生成物は、乾燥されてもよく、好ましくはゆっくりと、穏やかな条件下で、例えば、周囲温度と周囲圧力で、部分乾燥されることが好ましい。
【0072】
形態が制御された固体のMg含有生成物から出発して、活性化化合物による処理中に、その形態はマイナスの影響を受けない。得られた固体の第2の中間反応生成物は、工程ii)に定義されたようなMg含有化合物および少なくとも1種類の化合物の付加物であると考えられ、まだ形態が制御されている。マグネシウムを含有する固体触媒担体であるこの第2の中間反応生成物は、その後、工程iii)において、ハロゲン含有チタン化合物および式(I)を有する内部電子供与体と接触させられる。
【0073】
固体の第1の中間反応生成物は、アルコールと、次いで、チタンテトラアルコキシドおよび不活性分散剤と接触させられて、固体の第2の中間反応生成物を生成し、この第2の中間反応生成物は、次いで、工程iii)において、四塩化チタンおよび式(I)により表される内部電子供与体と接触させられることが好ましい。
【0074】
工程iii)
第2の中間反応生成物とハロゲン含有チタン化合物との間の反応におけるTi/Mgモル比は、好ましくは10と100の間、最も好ましくは10と50の間である。
【0075】
マグネシウムに対する式(I)の内部電子供与体のモル比は、幅広い範囲、例えば、0.02と0.5の間で様々であってよい。このモル比が0.05と0.4の間であることが好ましく、0.1と0.3の間がより好ましく、0.1と0.2の間が最も好ましい。
【0076】
第2の中間反応生成物およびハロゲン含有チタン化合物を接触させている最中に、不活性分散剤が使用されることが好ましい。その分散剤は、形成される実質的に全ての副生成物がその分散剤中に溶解されるように選択されることが好ましい。適切な分散剤の例としては、例えば、4〜20のC原子を有する、脂肪族および芳香族炭化水素並びにハロゲン化芳香族溶媒が挙げられる。その例としては、トルエン、キシレン、ベンゼン、デカン、o−クロロトルエンおよびクロロベンゼンが挙げられる。
【0077】
工程iii)において、第2の中間反応生成物およびハロゲン含有チタン化合物を接触させる最中の反応温度は、好ましくは0℃と150℃の間、より好ましくは50℃と150℃の間、より好ましくは100℃と140℃の間である。反応温度が110℃と125℃の間であることが最も好ましい。得られた反応生成物は、本発明の触媒成分を得るために、通常は不活性脂肪族または芳香族炭化水素またはハロゲン化芳香族化合物で、洗浄してもよい。所望であれば、反応工程とその後の精製工程は、一回以上繰り返してもよい。最後の洗浄工程は、他の工程に関して先に記載したように、懸濁されたまたは少なくとも部分乾燥された触媒成分が得られるように脂肪族炭化水素により行われることが好ましい。
【0078】
本発明はさらに、本発明による方法により得られるオレフィンの重合用触媒組成物に関する。
【0079】
本発明はまた、本発明による触媒組成物および助触媒を含む重合用触媒系にも関する。この触媒系は、外部電子供与体または単に外部供与体とも称される、外部電子供与化合物も含むことが好ましい。この外部供与体化合物の主要機能は、3以上の炭素原子を有するオレフィンの重合における触媒系の立体選択性に影響を与えることであり、したがって、選択性制御剤と呼ばれることもある。前記助触媒が、元素の周期表(Handbook of Chemistry and Physics, 70th Edition, CRC Press, 1989-1990)の1、2、12または13族の金属を含有する有機金属化合物であり、前記触媒系が外部電子供与体をさらに含むことが好ましい。
【0080】
本発明はさらに、少なくとも1種類のオレフィンを、本発明による触媒組成物を含む重合用触媒系と接触させることによって、ポリオレフィンを製造する方法に関する。本発明の触媒系を使用することにより製造されるポリオレフィンがポリプロピレンであることが好ましい。その触媒を使用することにより得られるポリオレフィンが、広い分子量分布を有し、アタクチック分画およびキシレン可溶物を少量しか有さないことが本発明の利点である。
【0081】
ポリオレフィンの調製は、本発明による触媒成分、助触媒、および必要に応じて、外部供与体を含む触媒系の存在下で、1種類以上のオレフィンを同時におよび/または連続的に重合させることによって行ってもよい。本発明によるオレフィンは、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、ヘキセン、オクテンおよび/またはブタジエンなどの、2から10の炭素原子を含有するモノオレフィンおよびジオレフィンから選択してよい。本発明の好ましい実施の形態によれば、そのオレフィンは、プロピレンのホモポリマーまたはコポリマーを得るために、プロピレンまたはプロピレンとエチレンの混合物である。プロピレンコポリマーは、ここでは、例えば、10モル%までの、比較的少ないコモノマー含有量を有するいわゆるランダムコポリマー、並びに例えば、5から80モル%、より一般に10から60モル%の、より多いコモノマー含有量を含むいわゆる耐衝撃性コポリマーの両方を含むことを意味する。この耐衝撃性コポリマーは、実際に、異なるプロピレンポリマーのブレンドである;そのようなコポリマーは、1つまたは2つの反応器内で製造でき、コモノマー含有量が少なくかつ結晶度の高い第1の成分および結晶度が低いまたはゴム状特性を有する、コモノマー含有量の多い第2の成分のブレンドであり得る。そのようなランダムコポリマーおよび耐衝撃性コポリマーが、当業者によく知られている。
【0082】
一般に、前記助触媒は、元素の周期表(Handbook of Chemistry and Physics, 70th Edition, CRC Press, 1989-1990)の1、2、12または13族の金属を含有する有機金属化合物である。この助触媒が有機アルミニウム化合物であることが好ましい。この有機アルミニウム化合物は、例えば、式AlR153を有する化合物であってよく、式中、各R15は、例えば、1〜10のC原子を有するアルキル基、または例えば、6〜20のC原子を有するアリール基を独立して表す。適切な有機アルミニウム化合物の例には、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、および/またはトリオクチルアルミニウムがある。助触媒がトリエチルアルミニウムであることが好ましい。
【0083】
適切な外部供与体の例としては、有機ケイ素化合物が挙げられる。外部供与体の混合物も使用して差し支えない。外部供与体として適している有機ケイ素化合物の例には、一般式Si(OR164-n17nの化合物または化合物の混合物があり、式中、nは、より高い値には立体選択性にプラスの影響がないので、0から2であって差し支えなく、nが1または2であることが好ましく、R16およびR17の各々は、独立して、R13およびR14について先に定義したように、1つ以上のヘテロ原子、例えば、O、N、SまたはPを必要に応じて含有し、例えば、1〜20のC原子を有する、アルキルまたはアリール基を表す。適切な化合物の例としては、先に記載したように、工程i)で使用できるシラン化合物が挙げられる。外部供与体として使用される有機ケイ素化合物が、n−プロピルトリメトキシシランであることが好ましい。重合中の重合用触媒系におけるチタンに対する助触媒の金属のモル比は、例えば、5から2000まで様々であってよい。この比が50と300の間にあることが好ましい。
【0084】
前記重合用触媒系におけるアルミニウム/外部供与体のモル比は、好ましくは0.1と200の間、より好ましくは1と100の間である。
【0085】
前記重合プロセスは、気相または液相(バルクまたはスラリー)で行っても差し支えない。スラリー(液相)中における重合の場合、分散剤が存在する。適切な分散剤の例としては、n−ブタン、イソブタン、n−ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンおよび液体プロピレンが挙げられる。例えば、重合温度と重合時間、モノマー圧、触媒の汚染の回避、スラリープロセスにおける重合媒質の選択、ポリマーのモル質量を制御するためのさらに別の成分(水素など)の使用、および他の条件などの、本発明による方法の重合条件は、当業者によく知られている。重合温度は、幅広い範囲内で様々であってよく、例えば、プロピレン重合について、0℃と120℃の間、好ましくは40℃と100℃の間である。(プロピレン)(共)重合中の圧力は、例えば、0.1MPaと6MPaの間、好ましくは0.5〜3MPaの間である。
【0086】
重合中に得られるポリオレフィンのモル質量は、重合中に水素またはその目的に適していることが知られているどのような他の作用物質を添加することによって、制御しても差し支えない。その重合は、連続式またはバッチ様式で行って差し支えない。スラリー、バルク、および気相重合プロセス、これらのタイプの重合プロセスの各々の多段階プロセス、または多段階プロセスにおける異なるタイプの重合プロセスの組合せが、ここでは考えられる。重合プロセスは、一段階気相プロセスまたは、各段階において気相プロセスが使用される、多段階、例えば、二段階気相プロセスであることが好ましい。
【0087】
気相重合プロセスの例としては、撹拌床型反応器および流動床型反応システムの両方が挙げられ、そのようなプロセスが当該技術分野においてよく知られている。典型的な気相α−オレフィン重合用反応システムは、アルファ−オレフィンモノマーおよび触媒系を加えることができ、成長するポリマー粒子の撹拌床を収容する反応容器を備えている。
【0088】
本発明はまた、ポリオレフィンに関し、好ましくは、オレフィン、好ましくはプロピレンまたはプロピレンとエチレンの混合物を、本発明による触媒組成物と接触させる工程を含む方法によって得られたまたは得られるポリプロピレンにも関する。ポリプロピレンおよびプロピレン系ポリマーという用語は、ここでは、交換可能に使用される。このポリプロピレンは、プロピレンホモポリマーまたはプロピレン系コポリマー、例えば、異相プロピレン−オレフィンコポリマー、ランダムプロピレン−オレフィンコポリマーなどのプロピレンとエチレンの混合物であってもよく、プロピレン系コポリマーにおけるオレフィンがエチレンであることが好ましい。そのようなプロピレン系(コ)ポリマーは、当業者に公知であり、それらは先に記載されている。
【0089】
本発明によるポリオレフィン、好ましくはポリプロピレンは、6超、好ましくは7超、より好ましくは7.5超、かつ例えば、10未満または9未満の分子量分布を有する。本発明によるポリオレフィン、好ましくはポリプロピレンの分子量分布は、例えば、6と9の間、好ましくは6と8の間、より好ましくは7と8の間である。本発明によるポリオレフィン、好ましくはポリプロピレンは、キシレンの量が6質量%未満、好ましくは5質量%未満、より好ましくは3質量%未満、最も好ましくは2.7質量%未満である。本発明によるポリオレフィン、好ましくはポリプロピレンは、キシレンの量が、2質量%と6質量%の間、好ましくは2質量%と5質量%の間、より好ましくは2質量%と4質量%の間、最も好ましくは2質量%と3質量%の間である。
【0090】
本発明によるポリオレフィン、好ましくはポリプロピレンは、核形成剤、清澄剤、安定剤、離型剤、顔料、染料、可塑剤、酸化防止剤、帯電防止剤、傷防止剤、高性能充填剤、衝撃改質剤、難燃剤、発泡剤、リサイクル剤(recycling additives)、カップリング剤、抗菌剤、かぶり防止剤、スリップ剤、ブロッキング防止剤、滑剤などの高分子加工助剤、表面張力改質剤、助剤、例えば、1,4−ブタンジオールジメチルアクリレート、アクリレートまたはメタクリレート;ポリマーとタルクとの間の界面結合を向上させる成分、例えば、マレイン酸変性ポリプロピレンなどの添加剤をさらに含んでもよい。そのような添加剤は当該技術分野でよく知られている。当業者は、必要以上の実験を行わずに、添加剤のどの適切な組合せおよび添加剤の量も容易に選択できる。添加剤の量はそれらのタイプと機能による。典型的に、添加剤の量は、全ポリマー組成物に基づいて、0から30質量%、例えば、0から20質量%、例えば、0から10質量%または0から5質量%である。ポリオレフィン、好ましくはプロピレン系ポリマーまたはその組成物を形成するためにプロセスにおいて添加される全成分の合計は、100質量%になるべきである。
【0091】
本発明はまた、例えば、食品に接触する用途における、射出成形、ブロー成形、押出成型、圧縮成形、薄肉射出成形などへの本発明によるポリオレフィン、好ましくはポリプロピレンの使用にも関する。
【0092】
本発明によるポリオレフィン、好ましくはポリプロピレンは、多種多様な加工技法を使用して、成形された半製品または完成品に変えられるであろう。適切な加工技法の例としては、射出成形、射出圧縮成形、薄肉射出成形、押出成形、および押出圧縮成形が挙げられる。例えば、キャップと筐体、電池、バケツ、容器、バンパーなどの自動車用外装部品、計器パネルなどの自動車用内装部品、またはボンネット下の自動車用部品などの物品を製造するために、射出成形が広く使用されている。例えば、棒材、シート、フイルムおよびパイプなどの物品を製造するために、押出しが広く使用されている。薄肉射出成形は、例えば、薄肉パッケージの製造に使用されることがある。
【0093】
さらに、本発明は、本発明によるポリオレフィン、好ましくはポリプロピレンを含む成形品に関する。
【0094】
本発明はさらに、オレフィン重合用触媒組成物における内部電子供与体としての化合物(I)の使用に関する。性質が改善された、例えば、広い分子量分布および高いアイソタクチック性を有するポリオレフィンが、チーグラー・ナッタ触媒組成物における内部電子供与体として式(I)の化合物を使用することにより製造される。
【0095】
本発明は、請求項に挙げられた特徴の可能な組合せの全てに関することを留意されたい。説明に記載された特徴をさらに組み合わせてもよい。
【0096】
「含む(comprising)」という用語は、他の要素の存在を排除しないことをさらに留意されたい。しかしながら、特定の成分を含む生成物についての説明が、これらの成分からなる生成物も開示することも理解すべきである。同様に、特定の工程を含む方法についての説明は、これらの工程からなる方法も開示することも理解すべきである。
【0097】
本発明を、以下の実施例によりさらに説明するが、それらには制限されない。
【実施例】
【0098】
安息香酸4−[ベンゾイル(メチル)アミノ]ペンタン−イル(AB)の調製
工程a)
【0099】
【化14】
【0100】
トルエン(150ml)中の置換ペンタン−2,4−ジオン(50g、0.5モル)の撹拌溶液に、40%のモノメチルアミン水溶液(48.5g、0.625モル)を滴下した。添加後、反応生成物を3時間に亘り室温で撹拌し、次いで、還流した。還流中、形成された水を、ディーン・スターク・トラップを使用して、共沸により除去した。次いで、減圧下で溶媒を除去して、4−(メチルアミノ)ペント−3−エン−2−オン、53.5g(収率95%)を得た。次いで、これを、還元するために直接使用した。
【0101】
工程b)
【0102】
【化15】
【0103】
1000mlの2−プロパノールおよび300mlのトルエンの撹拌混合物に4−(メチルアミノ)ペント−3−エン−2−オン(100g)を加えた。この溶液に、金属ナトリウムの小片132gを、25〜60℃の間の温度で徐々に加えた。この反応生成物を18時間に亘り還流した。この生成物を室温に冷却し、冷水中に注ぎ入れ、ジクロロメタンで抽出した。その抽出物を硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濾過し、次いで、減圧下で蒸発させて、65gの4−(メチルアミノ)ペンタン−2−オール(異性体混合物)油(収率63%)を得た。
【0104】
工程c)
【0105】
【化16】
【0106】
ピリジン(16.8g)およびトルエン(100ml)の混合物に4−(メチルアミノ)ペンタン−2−オール(10g)を加えた。生成物を10℃に冷却し、塩化ベンゾイル(24g)を滴下した。この混合物を6時間に亘り還流した。次いで、この混合物をトルエンと水で希釈した。その有機層を希釈HCl、水飽和重炭酸塩およびブライン溶液で洗浄した。この有機層を硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濾過し、次いで、減圧下で蒸発させた。その残留物をフラッシュクロマトグラフィーにより精製して、粘度の高い油として25gの生成物(収率90%)を得た。この生成物を1H NMRおよび13C NMRにより特徴付けた:m/z = 326.4 (m+1), 1H NMR (300MHz, CDCl3),δ= 7.95 - 7.91 (m, 1H), 7.66 - 7.60 (m, 2H), 7.40 - 7.03 (m, 5H), 6.78 - 6.76 (m, 2H), 4.74 - 5.06 (br m, 1H), 3.91 - 3.82 (m, 1H), 2.83-2.56 (ddd, 3H), 2.02 - 1.51 (m,1H), 1.34-1.25 (dd,1H), 1.13-1.02 (m, 6H);13C NMR (75 MHz, CDCl3),δ= 170.9, 170.4, 170.3, 164.9, 164.6, 135.9, 135.8, 135.2, 131.8, 131.7, 131.6, 129.6, 129.4, 129.3, 128.9, 128.4, 128.3, 128.2, 128.0, 127.7, 127.3, 127.2, 127.1, 127.0, 125.7, 125.6, 125.0, 124.9, 68.3, 67.5, 67.3, 49.8, 49.4, 44.9, 44.4, 39.7, 39.0, 38.4, 38.3, 30.5, 29.8, 25.5, 25.1, 19.33, 19.1, 18.9, 18.3, 17.0, 16.8, 16.7。
【0107】
同じ調製方法を適用することによって、表1に記載され、特徴付けられた内部電子供与体も得た:
【0108】
【表1】
【0109】
実施例1
触媒組成物の調製
A. グリニャール形成工程(工程A)
この工程は、欧州特許第1222214B1号明細書の実施例XVIに記載されたように行った。
【0110】
9lの容積のステンレス鋼製反応器にマグネシウム粉末360gを入れた。この反応器を窒素雰囲気下に置いた。マグネシウムを1時間に亘り80℃で加熱し、その後、ジブチルエーテル(1リットル)およびクロロベンゼン(200ml)の混合物を加えた。次いで、ヨウ素(0.5g)およびn−クロロブタン(50ml)を反応混合物に連続して加えた。ヨウ素の色が消えた後、温度を94℃に上昇させた。次いで、ジブチルエーテル(1.6リットル)およびクロロベンゼン(400ml)の混合物を1時間でゆっくりと加え、次いで、4リットルのクロロベンゼンを2.0時間でゆっくりと加えた。反応混合物の温度を98〜105℃の区間に維持した。反応混合物を97〜102℃でさらに6時間に亘り撹拌した。次に、撹拌と加熱を停止し、固体物質を48時間に亘り沈殿させた。沈殿物の上の溶液を他の容器に移すことによって、1.3モルMg/lの濃度を有する塩化フェニルマグネシウム反応生成物Aの溶液を得た。この溶液をさらに触媒調製に使用した。
【0111】
B. 第1の中間反応生成物の調製(工程B)
この工程は、反応器の添加温度が35℃であり、添加時間が360分であり、プロペラ式撹拌機を使用したことを除いて、欧州特許第1222214B1号明細紙の実施例XXに記載されたように行った。反応器に、プロペラ式撹拌機および2つのバッフルを取り付けた。反応器を35℃にサーモスタットで調温した。
【0112】
工程Aの反応生成物の溶液(360ml、0.468モルのMg)およびジブチルエーテル(DBE)中のテトラエトキシシラン(TES)の溶液(55mlのTESおよび125mlのDBE)を10℃に冷却し、次いで、撹拌機およびジャケットが設けられた、0.45mlの容積の混合装置に同時に添加した。添加時間は360分であった。その後、予混した反応生成物AおよびTES溶液を反応器に導入した。この混合装置(ミニミキサ)を、ミニミキサのジャケット内を循環する冷水によって10℃に冷却した。ミニミキサにおける撹拌速度は1000rpmであった。反応器内の撹拌速度は、添加の始めに350rpmであり、添加段階の終わりの600rpmまで徐々に上昇させた。添加が完了した際に、反応混合物を60℃に加熱し、この温度に1時間に亘り維持した。次いで、撹拌を停止し、固体物質を沈殿させた。上清をデカンテーションにより除去した。500mlのヘプタンを使用して、この固体物質を3回洗浄した。その結果、反応生成物B(固体の第1の中間反応生成物;担体)である薄黄色の固体物質を得て、200mlのヘプタン中に懸濁させた。担体の平均粒径は22μmであり、スパン値(d90−d10)/d50=0.5。
【0113】
C. 第2の中間反応生成物の調製(工程C)
担体の活性化を、国際公開第2007/134851号の実施例IVに記載されたように行って、第2の中間反応生成物を得た。
【0114】
20℃の不活性窒素雰囲気において、機械式撹拌機を備えた250mlのガラスフラスコに、60mlのヘプタン中に分散された5gの工程Bの反応生成物のスラリーを入れた。その後、20mlのヘプタン中の0.22mlのエタノール(EtOH/Mg=0.1)の溶液を1時間で撹拌しながら添加した。30分間に亘り反応混合物を20℃に維持した後、20mlのヘプタン中の0.79mlのテトラエトキシチタン(TET/Mg=0.1)の溶液を1時間で加えた。このスラリーを90分間で30℃にゆっくりと暖まらせ、さらに2時間に亘りその温度に維持した。最後に、上清を固体反応生成物(第2の中間反応生成物;活性化担体)から別の容器に移し、この生成物を30℃で90mlのヘプタンで一度洗浄した。
【0115】
D. 触媒成分の調製(工程D)
反応器を窒素雰囲気下に置き、それに125mlの四塩化チタンを加えた。反応器を100℃に加熱し、これに、15mlのヘプタン中に約5.5gの活性化担体(工程C)を含有する懸濁液を撹拌しながら加えた。次いで、反応混合物の温度を10分間で110℃に上昇させ、3mlのクロロベンゼン中の1.92gの安息香酸4−[ベンゾイル(メチル)アミノ]ペンタン−イル(アミノ安息香酸エステル、AB、AB/Mgのモル比=0.15)を反応器に加え、この反応混合物を105分間に亘り115℃に維持した。次いで、撹拌を停止し、固体物質を沈殿させた。上清をデカンテーションにより除去し、その後、固体生成物を20分間に亘り100℃でクロロベンゼン(125ml)で洗浄した。次いで、洗浄溶液をデカンテーションにより除去し、その後、四塩化チタン(62.5ml)およびクロロベンゼン(62.5ml)の混合物を加えた。反応混合物を30分間に亘り115℃に維持し、その後、固体物質を沈殿させた。上清をデカンテーションにより除去し、最後の処理をもう一度繰り返した。得られた固体物質を、60℃で150mlのヘプタンを使用して5回洗浄し、その後、ヘプタン中に懸濁された触媒成分を得た。
【0116】
プロピレンの重合
工程Dによる触媒成分、助触媒としてのトリエチルアルミニウムおよび外部供与体としてのn−プロピルトリメトキシシランを含む触媒系の存在下において、70℃の温度、0.7MPaの全圧および水素の存在下(55ml)で、1時間に亘り、ヘプタン(300ml)中において、ステンレス鋼製反応器(0.7lの容積)内でプロピレンの重合を行った。触媒成分の濃度は0.033g/lであり;トリエチルアルミニウムの濃度は4.0ミリモル/lであり;n−プロピルトリメトキシシランの濃度は0.2ミリモル/lであった。
【0117】
プロピレン重合に関する触媒性能についてのデータが表2に提示されている。
【0118】
実施例2
実施例2は、実施例1と同じ様式で行ったが、ABの代わりに、工程Dにおいて安息香酸4−[ベンゾイル(エチル)アミノ]ペンタン−2−イル(式IX、AB−Et、AB−Et/Mgのモル比=0.15)を使用した。
【0119】
実施例3
実施例3−1は、実施例1と同じ様式で行ったが、ABの代わりに、工程Dにおいてジ(4−メトキシ安息香酸)4−(メチルアミノ)ペンタン−2−オール(式XII、AB−p−MeOPh、AB−p−MeOPh/Mgのモル比=0.15)を使用した。
【0120】
実施例4
実施例4は、実施例1と同じ様式で行ったが、ABの代わりに、工程Dにおいて二安息香酸2,2,6,6−テトラメチル−5−(メチル)アミノ]ヘプタン−3−オール(式VIII、AB−TMH、AB−TMH/Mgのモル比=0.15)を使用した。
【0121】
実施例5
実施例5は、実施例1と同じ様式で行ったが、工程Dにおいて、Mg含有担体として5gのMg(OEt)2(アルドリッチグレード)および2.15gのAB(AB/Mgモル比=0.15)を使用した。
【0122】
実施例6
実施例6は、実施例1と同じ様式で行ったが、工程Dにおいて、米国特許第5077357号明細書にしたがって調製したMg含有担体を5g、ABを1.43g(AB/Mgのモル比=0.15)使用した。
【0123】
実施例CE1(比較例1)
実施例CE1は、実施例1と同じ様式で行ったが、ABの代わりに、フタル酸ジ−n−ブチル(DBP、DBP/Mgのモル比=0.15)を使用した。
【0124】
実施例CE2(比較例2)
実施例CE2は、実施例1と同じ様式で行ったが、ABの代わりに、国際公開第2011/106494A1号に記載の安息香酸4−[ベンゾイルアミノ]ペンタン−2−イル(AB−H、AB−H/Mgのモル比=0.15)を使用した。
【0125】
実施例CE3(比較例3)
実施例CE3は、実施例5と同じ様式で行ったが、ABの代わりに、安息香酸4−[ベンゾイルアミノ]ペンタン−2−イル(AB−H、AB−H/Mgのモル比=0.15)を使用した。
【0126】
【表2】
【0127】
これらの実施例により、オレフィン重合のための新規の触媒組成物が得られ、その触媒組成物は、良好な性能を示し、特に、立体化学の良好な制御を示し、より広い分子量分布を有するポリオレフィンの調製を可能にすることが示されている。例えば、本発明による触媒組成物により、IDとしてフタル酸エステルを有する通常の触媒(実施例CE1)と比べてより広いMWDを有するポリプロピレン(実施例1〜6)を得られることが分かる。また、N−Me結合(実施例1および4〜6)またはN−Et結合(実施例2)を含む内部供与体を有する触媒は、N−H結合を有する類似の公知の内部供与体を有する触媒(実施例CE2およびCE3、Mw/Mn=6.4〜6.5)と比べて、より広いMWD(Mw/Mn=7.1〜7.8)を示す。それと同時に、得られたポリマーは、XS=3.5〜3.6%(実施例CE2およびCE3)と比べて、高いアイソタクチック性(XS=2.5〜3.6%)を示す。式(I)の内部供与体を含む触媒の類似の良好な性能が、異なるマグネシウム含有担体−前駆体(実施例1、5および6)についても観察されることも分かる。
【0128】
省略形および測定方法:
・PP収率、kg/g触媒は、触媒成分のグラム当たりに得られたポリプロピレンの量である
・APP、質量%は、アタクチックポリプロピレンの質量パーセントである。アタクチックPPは、重合中にヘプタン中に可溶性であるPP画分である。APPは、以下のように決定した:ポリプロピレン粉末(xg)およびヘプタンを分離して得られた100mlの濾液(yml)を水蒸気浴で、次いで、60℃での真空下で乾燥させた。これによりzgのアタクチックPPが生成された。アタクチックPPの総量(qg)は:(y/100)×z。アタクチックPPの質量パーセントは:(q/(q+x))×100%
・XS、質量%は、ASTM D5492−10にしたがって測定した、キシレン可溶物である
・MFRは、ISO 1133にしたがって測定した、2.16kgの荷重により230℃で測定したメルトフローレートである
・Mw/Mn:ポリマーの分子量およびその分布(MWD)は、Viscotek 100示差粘度計と組み合わされたWaters 150℃ゲル浸透クロマトグラフにより決定された。そのクロマトグラムは、1ml/分の流量で溶媒として1,2,4−トリクロロベンゼンを使用して140℃で行った。分子量に関する信号を収集するために、屈折率検出器を使用した
1H−NMRおよび13C−MNRスペクトルを、溶媒として重水素化クロロホルムを使用して、Varian Mercury−300MHz NMR分光計で記録した。