【文献】
J. Pept. Sci.,2012年 4月30日,Vol. 18,pp. 394-399
【文献】
遺伝,1989年,Vol. 43, No. 1,pp. 25-29
【文献】
電子情報通信学会論文誌,1995年,Vol. J78-C-I, No. 11,pp. 599-604
【文献】
Langmuir,2012年 4月,Vol. 28,pp. 9131-9139
【文献】
Chem. Soc. Rev.,2013年 4月,Vol. 42,pp. 6378-6405
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ナノ粒子は、金、銀、鉄、アルミニウム、錫、白銀、クロム、ニッケル、およびラテックスからなる群から選択された、1つまたは複数の材料から形成される、請求項1に記載のセンサ。
前記被覆物質は、SBA(セカンダリーブチルアルコール)、BSA(ウシ血清アルブミン)、乳タンパク質、およびPEG(ポリエチレングリコール)からなる群から選択される、請求項4に記載のセンサ。
前記第2物質は、前記アミノ酸を基準にして前記第1化合物とは反対側に、他の物質に結合可能な第2の基を有する第2化合物を有している、請求項1〜8のいずれかに記載のセンサ。
前記プロトロンビン時間を測定する際の前記第3物質は、血液凝固第VII因子と化学反応を生じることによって、血液凝固第X因子と化学反応を生じることが可能な物質に変化するものである、請求項15または16に記載のセンサ。
前記活性化部分トロンボプラスチン時間によって、血液凝固第II因子、第V因子、第VII因子、第IX因子、第X因子、第XI因子、および第XII因子の大小を判定する、請求項18に記載のセンサ。
前記活性化部分トロンボプラスチン時間を測定する際の前記第3物質は、血液凝固第XII因子と化学反応することによって、血液凝固第XI因子と化学反応することが可能な物質に変化するものである、請求項18または19に記載のセンサ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態に係るセンサ、検出方法、検出システム、および検出装置について、適宜図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0010】
<センサについて>
本発明の実施形態に係るセンサは、検体に第1物質が含まれるか否かを検出するためのセンサであって、基体と、基体の表面に第2物質が固定化されている検出部とを備え、第2物質は、アミノ酸と、酵素と反応して切断される結合と、アミノ酸に前記結合によって結合しており且つ他の物質に結合可能な第1の基を有する第1化合物とを有している。そして、第1物質との反応によって酵素を生成する第3物質に接触した検体が、検出部に導入される。ここで、固定化とは、2つの物質、例えば第2物質と基体の表面とが化学的に結合している状態を意味する(以下においても同様)。本実施形態において、検体としては、例えば血液または血漿が挙げられる。
【0011】
このように、第3物質に接触させた検体を検出部に導入して、第2物質の結合が切断されたか否かを測定することによって、検体に第1物質が含まれるか否かを検出することができる。より具体的には、第2物質は、基体の表面に固定化されており、且つアミノ酸および他の物質に結合可能な第1の基を有する第1化合物が、酵素と反応して切断される結合によって結合していることから、第1化合物の結合相手である物質を適当に選択することによって、酵素との反応による第2物質の結合の切断に基づいて第1物質を精度良く検出することが可能となる。
【0012】
なお、以下では、検出対象となる第1物質を「ターゲット物質」とも記載する。また、数値範囲を「〜」を使用して示す場合は、特に断りがない限り、下限および上限の数値をそれぞれ含むものとする。例えば、数値範囲「300〜500」は、特段の断りがない限り、下限が「300以上」であることを示し、上限が「500以下」であることを示す。
【0013】
本実施形態に係るセンサは、例えば、第2物質の結合が切断されることに伴って生じる基体の表面の状態変化を検出する検出方法に用いられる。例えば、SPR(Surface Plasmon Resonance、表面プラズモン共鳴)装置による測定に用いられる測定セル、SAW(Surface Acoustic Wave、表面弾性波)センサ、QCM(Quartz Crystal Microbalance、水晶発振子マイクロバランス法)水晶センサなどである。これらのセンサを用いた検出方法の詳細については後述する。なお、SAWを利用する素子を用いてセンサを構成すれば、次の観点で好ましい。例えば、光を利用する素子を用いたセンサと比較して光学系が不要であるため、センサの小型化を実現することが可能となる。また、光を利用した素子を用いたセンサと比較して、非常に少ない検体の量、例えば2〜100uLで検出が可能となる。また、SAWセンサにおいては信号に高周波信号を用いて素子中を伝搬させることから、周波数や伝搬路長を選択することで必要な精度を選択することができ、検査の種類や検査範囲の幅を拡げることも可能となる。
【0014】
以下では、本実施形態に係るセンサの構造の一例として、SAWを利用する素子を用いたバイオセンサ(以下、センサともいう。)100について詳細に説明する。なお、以下に説明する各図面において同じ構成部材には同じ符号を付すものとする。また、各部材の大きさや部材同士の間の距離などは模式的に図示しており、現実のものとは異なる場合がある。また、センサ100は、いずれの方向が上方または下方とされてもよいものであるが、以下では、便宜的に、直交座標系xyzを定義するとともにz方向の正側を上方として、上面、下面などの用語を用いるものとする。
【0015】
センサ100は、
図3などに示すように、主に、第1カバー部材1、第2カバー部材2および検出素子3からなる。
【0016】
本実施形態において、センサ100は、基体10が上面に配置される第1カバー部材1、および第1カバー部材1に接合された第2カバー部材2を有する。また、センサ100は、第1カバー部材1および/または第2カバー部材2に、検体が流入する流入口と、流入口から少なくとも基体10の表面上まで延びた溝部とを有する。例えば、センサ100は、第1カバー部材1が上面に凹部を有し、凹部に基体10が収容され、第2カバー部材2が溝部を有する。
【0017】
また、センサ100は、基体10の表面に設けられており且つ後述する検出部13に向かって伝搬する弾性波を発生させる第1IDT(InterDigital Transducer)電極を有する。また、センサ100は、基体10の表面に設けられており且つ検出部13を通過した弾性波を受信する第2IDT電極を有する。
【0018】
また、センサ100は、第1IDT電極上に第1振動空間を設けるようにして基体10の上面に接合されており、且つ、第1IDT電極を第1振動空間内に密閉する第1接合部材を有する。また、センサ100は、第2IDT電極上に第2振動空間を設けるようにして基体10の上面に接合されており、且つ、第2IDT電極を第2振動空間内に密閉する第2接合部材を有する。
【0019】
以下、各構成要素について、詳細に説明する。
【0020】
[第1カバー部材および第2カバー部材]
第1カバー部材1は、第1基体1aおよび第1基体1a上に積層される第2基体1bを有し、第2カバー部材2は、第2基体1b上に積層される第3基体2aおよび第3基体2a上に積層される第4基体2bを有する。検出素子3は弾性表面波素子であり、主に基体10、第1IDT電極11、第2IDT電極12、および検出部13からなる。
【0021】
第1カバー部材1と第2カバー部材2とは互いに貼り合わされており、貼り合わされた第1カバー部材1および第2カバー部材2の内部に検出素子3が収容されている。
図4の断面図に示すように、第1カバー部材1は上面に凹部5を有し、凹部5の中に検出素子3が配置されている。
【0022】
第2カバー部材2は、
図1に示すように、長手方向(x方向)の端部に検体の入口である流入口14を有するとともに、流入口14から検出素子3の直上部分に向かって延びた溝部15を有している。なお、
図1では溝部15の位置を示すために溝部15を破線で示している。
【0023】
図2は、第1カバー部材1および第2カバー部材2の分解斜視図を示す。
【0024】
第1カバー部材1を構成する第1基体1aは平板状であり、その厚みは、例えば0.1mm〜0.5mmである。第1基体1aの平面形状は概ね長方形状であるが、長手方向の一方端は外方に向かって突出した円弧状となっている。第1基体1aのx方向の長さは、例えば1cm〜5cmであり、y方向の長さは、例えば1cm〜3cmである。
【0025】
第1基体1aの上面には第2基体1bが貼り合わされる。第2基体1bは、平板状の板に凹部形成用貫通孔4を設けた平板枠状とされており、その厚みは、例えば、0.1mm〜0.5mmである。平面視したときの外形は、第1基体1aとほぼ同じであり、x方向の長さおよびy方向の長さも第1基体1aとほぼ同じである。
【0026】
凹部形成用貫通孔4が設けられた第2基体1bを平板状の第1基体1aに接合することによって、第1カバー部材1に凹部5が形成されることとなる。すなわち、凹部形成用貫通孔4の内側に位置する第1基体1aの上面が凹部5の底面となり、凹部形成用貫通孔4の内壁が凹部5の内壁となる。
【0027】
また、第2基体1bの上面には、端子6および端子6から凹部形成用貫通孔4まで引き回された配線7が形成されている。端子6は、第2基体1bの上面のx方向における他方の端部に形成されている。端子6が形成されている部分は、センサ100を外部の測定器(図示せず)に挿入したときに実際に挿入される部分であり、端子6を介して外部の測定器と電気的に接続されることとなる。また、端子6と検出素子3とは、配線7などを介して電気的に接続されている。そして、外部の測定器からの信号が端子6を介してセンサ100に入力されるとともに、センサ100からの信号が端子6を介して外部の測定器に出力されることとなる。
【0028】
第1基体1aおよび第2基体1bからなる第1カバー部材1の上面には、第2カバー部材2が接合されている。第2カバー部材2は、第3基体2aおよび第4基体2bを有する。
【0029】
第3基体2aは、第2基体1bの上面に貼り合わされている。第3基体2aは平板状であり、その厚みは、例えば0.1mm〜0.5mmである。第3基体2aの平面形状は概ね長方形状であるが、第1基体1aおよび第2基体1bと同様に長手方向の一方端は外方に向かって突出した円弧状となっている。第3基体2aのx方向の長さは、第2基体1bに形成された端子6が露出するように第2基体1bのx方向の長さよりも若干短くされており、例えば0.8mm〜4.8cmである。y方向の長さは、例えば、第1基体1aおよび第2基体1bと同様に1cm〜3cmである。
【0030】
第3基体2aには切欠き8が形成されている。切欠き8は、第3基体2aの円弧状になっている一方端の頂点部分からx方向の他方端に向かって第3基体2aを切り欠いた部分である。かかる切欠き8は溝部15を形成するためのものである。第3基体2aの切欠き8の両隣には、第3基体2aを厚み方向に貫通する第1貫通孔16および第2貫通孔17が形成されている。第3基体2aを第2基体1bに積層したときに、第1貫通孔16および第2貫通孔17の内側には検出素子3と配線7との接続部分が位置するようになっている。第3基体2aの第1貫通孔16と切欠き8との間の部分は、後述するように溝部15と第1貫通孔16によって形成される空間とを仕切る第1仕切り部25となる。また、第3基体2aの第2貫通孔17と切欠き8との間の部分は、溝部15と第2貫通孔17によって形成される空間とを仕切る第2仕切り部26となる。
【0031】
第3基体2aの上面には第4基体2bが貼り合わされる。第4基体2bは、平板状であり、その厚みは、例えば0.1mm〜0.5mmである。平面視したときの外形は、第3基体2aとほぼ同じであり、x方向の長さおよびy方向の長さも第3基体2aとほぼ同じである。この第4基体2bが切欠き8が形成された第3基体2aと接合されることによって、第2カバー部材2の下面に溝部15が形成されることとなる。すなわち、切欠き8の内側に位置する第4基体2bの下面が溝部15の底面となり、切欠き8の内壁が溝部15の内壁となる。溝部15は、流入口14から少なくとも検出部13の直上領域まで延びており、断面形状は、例えば矩形状である。
【0032】
第4基体2bには、第4基体2bを厚み方向に貫く第3貫通孔18が形成されている。第3貫通孔18は、第4基体2bを第3基体2aに積層したときに切欠き8の端部上に位置している。よって溝部15の端部は第3貫通孔18と繋がっている。この第3貫通孔18は、溝部15内の空気などを外部に放出するためのものである。
【0033】
第1基体1a、第2基体1b、第3基体2aおよび第4基体2bは、例えば、紙、プラスティック、セルロイド、セラミックスなどからなる。これらの基体は、すべて同じ材料によって形成することができる。これらの基体をすべて同じ材料で形成することによって各基体の熱膨張係数をほぼ揃えることができるため、基体ごとの熱膨張係数の差に起因する変形が抑制される。また、検出部13には生体材料が塗布されることがあるが、その中には紫外線など外部の光によって変質しやすいものもある。その場合は、第1カバー部材1および第2カバー部材2の材料として遮光性を有する不透明なものを用いると良い。一方、検出部13の外部の光による変質がほとんど起こらない場合は、溝部15が形成されている第2カバー部材2を透明に近い材料によって形成してもよい。この場合は、流路内を流れる検体の様子を視認することができる。
【0034】
[検出素子]
図5は検出素子3の斜視図、
図6は第1接合部材21および第2接合部材22を外した状態における検出素子3の平面図である。
【0035】
検出素子3は、基体10と、基体10の上面に配置された検出部13、第1IDT電極11、第2IDT電極12、第1引出し電極19および第2引出し電極20を有する。
【0036】
(基体)
基体10は、例えば、タンタル酸リチウム(LiTaO
3)単結晶、ニオブ酸リチウム(LiNbO
3)単結晶、水晶などの圧電性を有する単結晶の基板からなる。基体10の平面形状および各種寸法は適宜に設定されてよい。一例として、基体10の厚みは、0.3mm〜1mmである。
【0037】
(IDT電極、引出し電極)
第1IDT電極11は、
図6に示すように1対の櫛歯電極を有する。各櫛歯電極は、互いに対向する2本のバスバーおよび各バスバーから他のバスバー側へ延びる複数の電極指を有している。そして、1対の櫛歯電極は、複数の電極指が互いに噛み合うように配置されている。第2IDT電極12も第1IDT電極11と同様に構成されている。第1IDT電極11および第2IDT電極12は、トランスバーサル型のIDT電極を構成している。
【0038】
ここで、第1IDT電極11および第2IDT電極12の電極指の本数、隣接する電極指同士の距離、電極指の交差幅などをパラメータとして、周波数特性を設計することが可能である。IDT電極によって励振されるSAWとしては、レイリー波、ラブ波、リーキー波などがある。なお、第1IDT電極11のSAWの伝搬方向における外側の領域にSAWの反射抑制のための弾性部材を設けてもよい。SAWの周波数は、例えば数メガヘルツ(MHz)から数ギガヘルツ(GHz)の範囲内において設定可能である。中でも、数百MHzから2GHzとすれば、実用的であり、かつ基体10の小型化ひいてはSAWセンサの小型化を実現することが可能となる。
【0039】
第1IDT電極11は所定の弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)を発生させるためのものであり、第2IDT電極12は、第1IDT電極11で発生したSAWを受信するためのものである。第1IDT電極11で発生したSAWを第2IDT電極12が受信できるように第1IDT電極11と第2IDT電極12とは同一直線状に配置されている。第1IDT電極11および第2IDT電極12の電極指の本数、隣接する電極指同士の距離、電極指の交差幅などをパラメータとして周波数特性を設計することができる。IDT電極によって励振されるSAWとしては、種々の振動モードのものが存在するが、検出素子3においては、例えば、SH波とよばれる横波の振動モードを利用している。
【0040】
また、第1IDT電極11および第2IDT電極12のSAWの伝搬方向(y方向)における外側にSAWの反射抑制のための弾性部材を設けてもよい。SAWの周波数は、例えば数メガヘルツ(MHz)から数ギガヘルツ(GHz)の範囲内において設定可能である。中でも、数百MHzから2GHzとすれば、実用的であり、かつ検出素子3の小型化ひいてはセンサ100の小型化を実現することができる。
【0041】
第1引出し電極19は、第1IDT電極11に接続されている。第1引出し電極19は、第1IDT電極11から検出部13とは反対側に引き出され、第1引出し電極19の端部19eは第1カバー部材1に設けた配線7に電気的に接続されている。また、第2引出し電極20は、第2IDT電極12に接続されている。第2引出し電極20は、第2IDT電極12から検出部13とは反対側に引き出され、第2引出し電極20の端部20eは、配線7に電気的に接続されている。
【0042】
第1IDT電極11、第2IDT電極12、第1引出し電極19および第2引出し電極20は、例えば、アルミニウム、アルミニウムと銅との合金などからなる。またこれらの電極は、多層構造としてもよい。多層構造とする場合は、例えば、1層目がチタンまたはクロムからなり、2層目がアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる。
【0043】
第1IDT電極11および第2IDT電極12は、保護膜(図示せず)によって覆われている。保護膜は、第1IDT電極11および第2IDT電極12の酸化防止などに寄与するものである。保護膜は、例えば、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、窒化珪素、またはシリコンによって形成されている。保護膜の厚さは、例えば、第1IDT電極11および第2IDT電極12の厚さの1/10程度(10〜30nm)である。保護膜は、第1引出し電極19の端部19eおよび第2引出し電極20の端部20eを露出するようにして基体10の上面全体にわたって形成されてよい。
【0044】
(検出部)
検出部13は、第1IDT電極11と第2IDT電極12との間に設けられている。検出部13は、酵素と反応して切断される結合210を有する第2物質200を基体10の表面に有する。検出部13の詳細については後述する。
【0045】
y方向に沿って配置された第1IDT電極11、第2IDT電極12および検出部13を1セットとすると、センサ100にはそのセットが2つ設けられている。そして、2つの検出部13のうちの1つについては、酵素と反応して切断される結合210を有する第2物質200を固定化せずに、リファレンスとして用いてもよい。
【0046】
(接合部材)
第1IDT電極11は、
図5に示すように、第1接合部材21によって覆われていてもよい。第1接合部材21は、基体10の上面に位置し、両者で囲われる内側部分に空間が形成されている。第1接合部材21が基体10の上面に載置された状態における第1接合部材21によって囲われる内側部分の空間が、第1振動空間23である。第1IDT電極11は第1振動空間23内に密閉されている。これにより第1IDT電極11が外気および検体と隔離され、第1IDT電極11を保護することができる。また、第1振動空間23が確保されることによって、第1IDT電極11において励振されるSAWの特性の劣化を抑えることができる。
【0047】
同様に、第2IDT電極12は、第2接合部材22によって覆われていてもよい。第2接合部材22も第1接合部材21と同じく基体10の上面に位置し、
図4(a)に示すように内部が空間となっている。第2接合部材22が基体10の上面に載置された状態における第2接合部材22によって囲われる内側部分の空間が第2振動空間24である。第2IDT電極12は第2振動空間24内に密閉されている。これにより第2IDT電極12が外気および検体と隔離され、第2IDT電極12を保護することができる。また、第2振動空間24が確保されることによって、第2IDT電極12において受信されるSAWの特性の劣化を抑えることができる。
【0048】
なお、振動空間の形状は、直方体状であってもよく、断面視したときにドーム状となってもよく、平面視したときに楕円状となってもよく、IDT電極の形状や配置などに合わせて任意の形状としてよい。
【0049】
第1接合部材21は、x方向に沿って配置された2つの第1IDT電極11を取り囲むようにして基体10の上面に固定された環状の枠体と、枠体の開口を塞ぐように枠体に固定された蓋体とからなる。このような構造は、例えば、感光性の樹脂材料を使用して樹脂膜を形成し、この樹脂膜をフォトリソグラフィー法などによりパターニングすることによって形成することができる。第2接合部材22も同様にして形成することができる。
【0050】
なお、センサ100においては、2つの第1IDT電極11を1つの第1接合部材21で覆っているが、2つの第1IDT電極11を別個の第1接合部材21で覆うようにしてもよい。また、2つの第1IDT電極11を1つの第1接合部材21で覆い、2つの第1IDT電極11の間に仕切りを設けるようにしてもよい。第2IDT電極12についても同様に、2つの第2IDT電極12を別個の第2接合部材22で覆ってもよいし、1つの第2接合部材22を使用して2つの第2IDT電極12の間に仕切りを設けるようにしてもよい。
【0051】
[検体の検出について]
SAWを利用した検出素子3において検体の検出を行なうには、まず、第1IDT電極11に、配線7や第1引出し電極19などを介して、外部の測定器から所定の電圧を印加する。そうすると、第1IDT電極11の形成領域において基体10の表面が励振され、所定の周波数を有するSAWが発生する。発生したSAWは、その一部が検出部13に向かって伝搬し、検出部13を通過した後、第2IDT電極12に到達する。
【0052】
ここで、検出部13では、後述するように、検体に第1物質が含まれている場合には、検出部13を構成する第2物質200の結合210が、第1物質に起因して生成された酵素によって切断されることによって、第2物質200の構造が変化して検出部13の重量が変化する。この結果、検出部13の下を通過するSAWの位相などの特性が変化する。このように特性が変化したSAWが第2IDT電極12に到達すると、それに応じた電圧が第2IDT電極12に生じる。この電圧が第2引出し電極20、配線7などを介して外部に出力され、それを外部の測定器で読み取ることによって検体の性質や成分を調べることができる。
【0053】
[検体の検出部への導入、および流路について]
本実施形態のセンサ100は、検体を検出部13に誘導(導入)するために、毛細管現象を利用する。
【0054】
具体的には、第2カバー部材2が第1カバー部材1と接合されることによって、第2カバー部材2の下面に形成された溝部15の部分が細長い管となる。そこで、検体の種類、第1カバー部材1および第2カバー部材2の材質などを考慮して溝部15の幅あるいは径などを所定の値に設定することによって、溝部15により形成される細長い管に毛細管現象を生じさせることができる。溝部15の幅(y方向の寸法)は、例えば、0.5mm〜3mmであり、深さ(z方向の寸法)は、例えば、0.1mm〜0.5mmである。なお、溝部15は検出部13を越えて延びた部分である延長部15eを有し、第2カバー部材2には延長部15eに繋がった第3貫通孔18が形成されている。検体が流路内に入ってくると、流路内に存在していた空気は第3貫通孔18から外部へ放出される。
【0055】
このような毛細管現象を生じる管を第1カバー部材1および第2カバー部材2からなるカバー部材に形成しておくことによって、流入口14に検体を接触させれば検体が溝部15を流路としてカバー部材の内部に吸い込まれていく。それ故、センサ100によれば、それ自体が検体の吸引機構を備えているため、ピペットなどの器具を使用することなく検体の吸引を行なうことができる。また、流入口14がある部分は丸みを帯びており、その頂点に流入口14を形成しているため、流入口14を判別しやすくなっている。
【0056】
ここで、溝部15によって形成される検体の流路は深さが0.3mm程度であるのに対し、検出素子3は厚みが0.3mm程度であり、流路の深さと検出素子3の厚さとがほぼ等しい。そのため、流路上に検出素子3をそのまま置くと流路が塞がれてしまう。そこでセンサ100においては、
図4に示すように、検出素子3が実装される第1カバー部材1に凹部5を設け、この凹部5の中に検出素子3を収容することによって、検体の流路が塞がれないようにしている。すなわち、凹部5の深さを検出素子3の厚みと同程度にし、その凹部5の中に検出素子3を実装することによって、溝部15によって形成される流路を確保することができる。
【0057】
図3は、第2カバー部材2の第4基体2bを外した状態における斜視図である。この構成によれば、検体の流路が確保されているため、毛細管現象によって流路内に流入した検体を検出部13までスムーズに誘導することができる。
【0058】
検体の流路を十分に確保する観点から、
図4に示すように、基体10の上面の凹部5の底面からの高さは、凹部5の深さと同じかまたはそれよりも小さくしておくと良い。例えば、基体10の上面の凹部5の底面からの高さを凹部5の深さと同じにしておけば、流入口14から溝部15の内部を見たときに、流路の底面と検出部13とをほぼ同一高さとすることができる。センサ100においては、基体10の厚みを凹部5の深さよりも小さくし、第1接合部材21および第2接合部材22の凹部5の底面からの高さが凹部5の深さとほぼ同じになるようにしている。第1接合部材21および第2接合部材22の凹部5の底面からの高さを凹部5の深さよりも大きくすると、第3基体2aの第1仕切り部25および第2仕切り部26を他の部分よりも薄く加工する必要があるが、第1接合部材21および第2接合部材22の凹部5の底面からの高さを凹部5の深さとほぼ同じにしておくことによって、そのような加工の必要がなくなり生産効率が良くなる。
【0059】
凹部5の平面形状は、例えば、基体10の平面形状と相似の形状とされており、凹部5は基体10よりも若干大きい。より具体的には、凹部5は基体10を凹部5に実装したときに、基体10の側面と凹部5の内壁との間に100μm程度の隙間が形成されるような大きさである。
【0060】
検出素子3は、例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シリコン樹脂などを主成分とするダイボンド材によって、凹部5の底面に固定されている。第1引出し電極19の端部19eと配線7とは、例えば、Auなどからなる金属細線27によって電気的に接続されている。第2引出し電極20の端部20eと配線7との接続も同様である。なお、第1引出し電極19および第2引出し電極20と配線7との接続は金属細線27によるものに限らず、例えば、Agペーストなどの導電性接着材によるものでもよい。
【0061】
第1引出し電極19および第2引出し電極20と配線7との接続部分には空隙が設けられているため、第2カバー部材2を第1カバー部材1に貼り合わせた際に金属細線27の破損が抑制される。この空隙は、第3基体2aに第1貫通孔16および第2貫通孔17を設けておくことによって簡単に形成することができる。また、第1貫通孔16と溝部15との間に第1仕切り部25が存在することによって、溝部15を流れる検体が第1貫通孔16によって形成された空隙に流れ込むのを抑制することができる。これにより、複数の第1引出し電極19の間で検体による短絡が発生するのを抑制することができる。同様に、第2貫通孔17と溝部15との間に第2仕切り部26が存在することによって、溝部15を流れる検体が第2貫通孔17によって形成された空隙に流れ込むのを抑制することができる。これにより、複数の第2引出し電極20の間で検体による短絡が発生するのを抑制することができる。
【0062】
第1仕切り部25は第1接合部材21上に位置し、第2仕切り部26は第2接合部材22上に位置している。よって、検体の流路は、より厳密にいえば、溝部15だけでなく第1接合部材21の溝部側の側壁と第2接合部材22の溝部側の側壁とによっても構成される。第1貫通孔16および第2貫通孔17により形成される空隙への検体の漏れを防止する観点からは、第1仕切り部25は第1接合部材21の上面に、第2仕切り部26は第2接合部材22の上面にそれぞれ接触させておいた方が良いが、センサ100では、第1仕切り部25の下面と第1接合部材21の上面との間および第2仕切り部26の下面と第2接合部材22の上面との間に隙間を有するようにしている。この隙間は、例えば10μm〜60μmである。このような隙間を設けておくことによって、例えば、センサ100を指でつまんだ際などにこの部分に圧力が掛かっても、隙間によって圧力を吸収し、第1接合部材21および第2接合部材22に直接圧力が掛かるのを抑制することができる。その結果、第1振動空間23および第2振動空間24が大きく歪むのを抑制することができる。また、検体は通常ある程度の粘弾性を有するため、隙間を10μm〜60μmにしておくことによって、検体がこの隙間に入り込みにくくなり、検体が第1貫通孔16および第2貫通孔17によって形成される空隙に漏れるのを抑制することもできる。
【0063】
第1仕切り部25の幅は、第1振動空間23の幅よりも広くされている。換言すれば、第1接合部材21の枠体上に第1仕切り部25の側壁が位置するようにされている。これにより、外部からの圧力によって第1仕切り部25が第1接合部材21に接触した場合でも、第1仕切り部25が枠部によって支えられるため、第1接合部材21の変形を抑制することができる。同様の理由により、第2仕切り部26の幅も第1振動空間23の幅よりも広くしておくと良い。
【0064】
第1貫通孔16および第2貫通孔17によって形成される空隙内に位置する第1引出し電極19、第2引出し電極20、金属細線27および配線7は絶縁性部材28によって覆われている。第1引出し電極19、第2引出し電極20、金属細線27および配線7が絶縁性部材28で覆われていることによって、これらの電極などが腐食するのを抑制することができる。また、この絶縁性部材28を設けておくことによって、検体が第1仕切り部25と第1接合部材21との隙間、あるいは第2仕切り部26と第2接合部材22との隙間に入り込んだ場合でも、絶縁性部材28によって検体が堰き止められる。よって、検体の漏れによる引き出し電極間の短絡などを抑制することができる。
【0065】
かくしてセンサ100によれば、検出素子3を第1カバー部材1の凹部5に収容したことによって、流入口14から検出部13に至る検体の流路を確保することができ、毛細管現象などによって流入口から吸引された検体を検出部13まで流すことができる。すなわち、厚みのある検出素子3を用いつつ、それ自体に吸引機構を備えたセンサ100を提供することができる。
【0066】
(センサの検出部の詳細について)
上述したように、検出部13は、基体10の表面に固定化された第2物質200を有する。
【0067】
また、第2物質200は、詳細について後述するが、アミノ酸と、酵素と反応して切断される結合210と、アミノ酸と結合210によって結合しており且つ他の物質と結合可能な第1の基202を有する第1化合物201とを有している。ここで、第1化合物201は、他の物質に結合可能な第1の基202を有する。また、酵素としては、例えばトロンビンが挙げられる。
【0068】
また、第1物質は、検体中に含まれるか否かをセンサ100によって検出される物質であって、第3物質との反応によって酵素を生成するものであり、例えば、プロトロンビンが挙げられる。第3物質としては、例えばトロンボプラスチンが挙げられる。また、酵素としては、例えばトロンビンが挙げられる。
【0069】
なお、検出部13は、例えば、金属膜と、金属膜上に固定化された第2物質200とを有するようにしてもよい。基体10の表面に金属膜を有する場合には、金属膜を形成する金属としては、任意の金属を用いてよい。例えば、金やTi、Cuなどを用いてよく、中でも金が好ましい。また、検出部13は、基体10の表面に位置しているが、基体10の表面の全面であってもよく、基体10の表面の一部であってもよい。
【0070】
そして、検出部13は、検体のプロトロンビン時間を測定可能であり、その場合には、第1物質としては、血液凝固第II因子、第V因子、第VII因子および第X因子が挙げられる。プロトロンビン時間を測定することによって、血液凝固第II因子、第V因子、第VII因子、第X因子の大小、例えば濃度や数などを判定することができる。
【0071】
ここで、プロトロンビン時間を測定する際に用いられる第3物質は、血液凝固第VII因子と化学反応を生じることによって、血液凝固第X因子と化学反応を生じることが可能な物質に変化するものである。このような第3物質としては、例えばトロンボプラスチンが挙げられる。
【0072】
プロトロンビン時間は、次のようにして測定することができる。
【0073】
まず、プロトロンビン時間が既知である試薬を用いて、予め検量線(例えば、プロトロンビン時間/ピーク時間の関係)を取得しておく。ここで、検量線は、プロトロンビン時間が既知である複数の検体を用いて、下記の手法によって下記ピークにあたる時間を取得しプロットすることによって作成すればよい。
【0074】
次に、検体が第3物質(トロンボプラスチン)と接触することで、外因系凝固機構が活性化する。その結果として、第1物質(プロトロンビン)は酵素(トロンビン)に変化する。
【0075】
そして、酵素(トロンビン)により、基体の表面に固定化された第2物質の結合(アミド結合)の一部が切断される。これによって、SAWの伝搬路上に固定化されている第2物質の質量負荷が変化する。この質量変化をSAWの特性変化(位相、振幅など)の時間依存性として測定する。
【0076】
上記のような測定結果からプロトロンビン時間を求める手法として、例えば、特性変化の曲線の一次微分を取り、そのピークにあたる点を時間Aとする。そして、上述の予め取得した検量線から時間Aに対応するプロトロンビン時間を求めることができる。
【0077】
また、検出部13は、検体の活性化部分トロンボプラスチン時間を測定可能なものであってもよく、その場合には、第1物質として、血液凝固第II因子、第V因子、第VII因子、第IX因子、第X因子、第XI因子および第XII因子が挙げられる。
【0078】
検出部13は、活性化部分トロンボプラスチン時間を測定することによって、血液凝固第II因子、第V因子、第VII因子、第IX因子、第X因子、第XI因子、第XII因子の大小を判定することができる。
【0079】
ここで、活性化部分トロンボプラスチン時間を測定する際に用いられる第3物質は、血液凝固第XII因子と化学反応を生じることによって、血液凝固第XI因子と化学反応を生じることが可能な物質に変化するものである。このような第3物質としては、例えばエラグ酸が挙げられる。
【0080】
活性化部分トロンボプラスチン時間は、上述のプロトロンビン時間と同様、次のようにして測定することができる。
【0081】
まず、活性化部分トロンボプラスチン時間が既知である試薬を用いて、予め検量線(例えば、活性化部分トロンボプラスチン時間/ピーク時間の関係)を取得しておく。ここで、検量線は、活性化部分トロンボプラスチン時間が既知である複数の検体を用いて、下記の手法によって下記ピークにあたる時間を取得し、プロットすることによって作成すればよい。
【0082】
次に、検体が第3物質(エラグ酸)と接触することで、内因系凝固機構が活性化する。その結果として、第1物質(プロトロンビン)は酵素(トロンビン)に変化する。
【0083】
そして、酵素(トロンビン)により、基体の表面に固定化された第2物質の結合(アミド結合)の一部が切断される。これによって、SAWの伝搬路上に固定化されている第2物質の質量負荷が変化する。この質量変化をSAWの特性変化(位相、振幅など)の時間依存性として測定する。
【0084】
上記のような測定結果から活性化部分トロンボプラスチン時間を求める手法として、例えば、特性変化の曲線の一次微分を取り、そのピークにあたる点を時間Bとする。そして、上述の予め取得した検量線から時間Bに対応する活性化部分トロンボプラスチン時間を求めることができる。
【0085】
次に、第2物質200は、上述したように、基体10の表面に固定化されている。そして、第2物質200は、アミノ酸と、酵素と反応して切断される結合210と、アミノ酸に結合210によって結合しており且つ他の物質に結合可能な第1の基202を有する第1化合物201とを有している。ここで、第1化合物201は、他の物質に結合可能な第1の基202を有する。また、アミノ酸としては、例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、トリプトファン、メチオニン、プロリン、グリシン、チロシン、セリン、スレオニン、システイン、アスパラギン、グルタミン、リシン、アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられる。酵素としては、例えばトロンビンが挙げられる。
【0086】
第1化合物201は、ベンゼン環を有する芳香族化合物であることが好ましい。これによれば、比較的短い時間で精度の高い測定が可能となる。第1化合物201の第1の基202は、アミノ基およびカルボキシル基の少なくとも一方を含むことが好ましく、これによれば、アミド結合によって他の物質を結合させることができる。
【0087】
また、第2物質200は、アミノ酸を基準にして第1化合物201とは反対側に、他の物質に結合可能な第2の基204を有する第2化合物203を有していることが好ましい。これによれば、酵素によって切断される結合210の両側に、それぞれ様々な物質を結合させることができるため、検出部に適した構造にすることによって検出精度を高めることができる。また、第2物質200は、結合210を基準にして、一方側を基体10に固定化しつつ、他方側に種々の化合物を選択することによって、検出方法に最適な構造を設計することができるため、第1物質の検出精度をより向上させることが可能となる。
【0088】
第2物質200は、例えば、下記式(1)で表わされる。
【0091】
式中、AおよびDはそれぞれ、Cys(システイン)、Lys(リシン)、ビオチンおよびポリエチレングリコール誘導体からなる群より選択される少なくとも1種を含み、Bは、Pro(プロリン)およびPhe(フェニルアラニン)等のアミノ酸、ならびにピぺコリン酸からなる群より選択される少なくとも1種を含み、Cは、フェニレンジアミンおよびアミノ安息香酸等の芳香族化合物からなる。なお、アミノ酸としては、例えばArg(アルギニン)を用いることができる。
【0092】
この例において、第2物質200の第1化合物201は、式中に示される(C)、あるいは(C)および(D)であり、他の物質に結合可能な第1の基202は、例えば、式中に示される(D)の一部となる。これによれば、酵素であるトロンビンによって、Arg(アルギニン)と式中に示される(C)との間のアミド結合を切断することが可能となる。その結果、基体10の表面に固定化されている第2物質200のうち、式中に示される(C)および(D)が分離される。このように、第1化合物201の結合相手である物質を適当に選択することによって、第2物質200の結合210の切断に基づく第1物質の検出精度を向上させることができる。
【0093】
上述の式(1)において、式中CはpPDA(パラフェニレンジアミン)を用いることができる。また、式(1)において、式中BはD-Phe−Pipを用いることができる。ここで、D-PheはD体のフェニルアラニンを表わし、Pipはピぺコリン酸を表わす。
【0094】
そして、第2物質200は、好ましくは、下記式(2)で表わされる。
【0095】
式(2) A−D-Phe−Pip−Arg−pPDA−D
【0097】
この例において、アミノ酸としてArg(アルギニン)が用いられ、第2物質200の第1化合物201は、式中に示されるpPDA(パラフェニレンジアミン)、あるいはpPDA(パラフェニレンジアミン)および(D)であり、他の物質に結合可能な第1の基202は、例えば、式中に示される(D)の一部となる。これによれば、酵素であるトロンビンによって、Arg(アルギニン)とpPDA(パラフェニレンジアミン)との間のアミド結合を切断することが可能となる。その結果、基体10に固定化されている第2物質200のうち、式中に示されるpPDA(パラフェニレンジアミン)および(D)が分離される。このように、第1化合物201の結合相手である物質を適当に選択することによって、第2物質200の結合210の切断に基づく第1物質の検出精度を向上させることができる。また、pPDA(パラフェニレンジアミン)は芳香族化合物であるため、酵素であるトロンビンによるArg(アルギニン)とpPDA(パラフェニレンジアミン)との間のアミド結合を切断する効率を向上させることができるため、より短時間で第1物質を高い精度にて測定することが可能となる。
【0098】
また、第2物質200は、結合210が切断されることによって検出部13から分離される分離部分220に、ナノ粒子221を有することが好ましい。これによれば、第2物質200の結合210が切れた際にナノ粒子221も検出部13から分離されることから、ナノ粒子221がない場合と比較して基体10の表面の状態変化を大きくすることができる。すなわち、SAWセンサにおいては、位相変化量を大きくすることが可能となるため、検出精度をより向上させることができる。
【0099】
ナノ粒子221は、例えば、金、銀、鉄、アルミニウム、錫、白銀、クロム、ニッケル、ラテックスなどの任意の1つまたは複数の材料を用いて任意の手法にて形成される。ナノ粒子221の粒径は、100nm以下であることが好ましい。
【0100】
ナノ粒子221は、タンパク質などが非特異的に吸着しにくいものが好ましい。例えば、金ナノ粒子を用いる場合には、ナノ粒子221の表面を、SBA(Secondary Butyl Alcohol、セカンダリーブチルアルコール)やBSA(ウシ血清アルブミン)、乳タンパク、PEG(Poly Ethylene Glycol、ポリエチレングリコール)などで覆ったものを用いることが好ましい。なお、ラテックスナノ粒子は、表面が覆われていない金ナノ粒子よりも非特異吸着性が小さいことが知られており、表面が覆われていない金ナノ粒子よりも好ましい。ただし、ラテックスナノ粒子についても表面を覆う処理を施すことが好ましい。
【0101】
(基体の表面への第2物質の固定化方法について)
次に、基体10の表面に第2物質200を固定化する場合の固定化手法について説明する。
【0102】
固定化手法としては、任意の手法を用いてよい。
【0103】
例えば、ストレイプトアビジンとビオチンとの強い親和性を利用することで固定化してもよい。この場合には、例えば、検出部13に予めストレイプトアビジンを固定化しておく。より詳細には、固定化した時に、基体10の表面(Auなど)を極力覆うように、アルキルチオールなどで形成した自己集積膜(SAM、Self-Assembled Monolayer)を予め形成した基体の上にストレイプトアビジンを固定化する。また、第2物質200の端部にビオチンを予め固定化しておき、第2物質200を含む溶液を作製しておく。その後、第2物質200を含む溶液を検出部13の領域に接触させることで、第2物質200を固定化する。なお、その後、検出部13に固定化されず、検出部13に残留している第2物質200を除去することを目的として、任意の溶媒を用いて検出部13を洗浄してもよい。洗浄に用いる溶媒は、例えばNaOHである。ただし、NaOHに限定されるものではなく、任意の溶媒を用いてよい。あるいは、基体10の表面が金である場合には、第2物質200の端部にCys(システイン)を予め固定化しておくことき、第2物質200を含む溶液を検出部13と接触させることで、第2物質200を固定化する。
【0104】
また、固定化手法の他の例として、例えば、基体10の表面にSAM膜を公知の技術を用いて生成し、SAM膜上に末端がCOOHとなるPEGで修飾する。その上で、末端にアミン基を有する第2物質200と反応させることで、第2物質200を基体10の表面に固定化してもよい。また、第2物質200の端部にLys(リジン)を固定化しておくことで、SAM膜上に末端がCOOHとなるPEGで修飾し、その上に第2物質200と反応させることで、第2物質200を基体10の表面に固定化してもよい。
【0105】
なお、ナノ粒子を有する第2物質200を用いる場合は、トロンビンと反応して結合210が切断される化合物に対して、基体10の表面に第2物質200を固定化するのと同様の手法を用いて、任意のナノ粒子を固定化し、ナノ粒子が固定化された化合物を第2物質200として用いてよい。
【0106】
また、SAWの伝搬定数の変化は、基体10のごく表面の変化に限定される。この結果、検体と反応しなかった未反応物が、基体10上に存在する検体中あるいは流路の表面に残っていても、それらを除去する等の処理は特に必要ない。毛細管流路に検体を単に流し込む操作のみで、第2物質200の分離部分220の分離による影響を選択的に検出可能である。
【0107】
<検出方法について>
本発明の実施形態に係る検出方法は、酵素と反応して切断される結合を有しており、且つアミノ酸に前記結合によって結合しているとともに他の物質に結合可能な第1の基を有する第1化合物を有する第2物質を有しており、第2物質が基体の表面に固定化されている検出部を有するセンサを準備する工程と、第1物質との反応によって酵素を生成する第3物質に接触させた検体を、センサの検出部に接触させる工程と、接触によって生じる第2物質の結合の切断を検出することによって、検体に第1物質が含まれるか否かを検出する工程とを備える。
【0108】
以下、検出方法の各工程について順に説明する。なお、センサ100に関する内容については、特記しない限り、上述した記載事項を適用することができるものである。
【0109】
まず、
図1〜
図6および
図8、特に
図6および
図8(1)に示すように、基体10と、基体10の表面に第2物質200が固定化されている検出部13とを備え、第2物質200は、アミノ酸と、酵素と反応して切断される結合210と、アミノ酸に結合210によって結合しており且つ他の物質に結合可能な第1の基202を有する第1化合物201とを有しているセンサ100を準備する準備工程を行なう。
【0110】
例えば、第2物質200は、
図8(1)に示すように、上述の式(2)の構成に加えて上述のナノ粒子221を有する。そして、第1の基202は、式(2)中に示される(D)の一部であり、第1の基202には他の物質としてナノ粒子221が結合している。
【0111】
次に、
図8に示すように、第1物質との反応によって酵素を生成する第3物質に接触させた検体を、センサ100の検出部13に接触させる接触工程を行なう。
【0112】
例えば、酵素の一例であるトロンビンを生成する第3物質に接触させた検体を、センサ100の検出部13に導入して、第2物質200に接触させる。第2物質200は、基体10の上面に固定化されており、トロンビンと反応して切断される結合210を有している。
【0113】
具体的には、例えば、検体に第3物質を添加して混合することによって第3物質と接触した検体を、センサ100の基体10の表面に手動などで直接的に接触させてもよい。また、同様の手法で第3物質に接触した検体を、センサ100の流入口14から流路内に入れて、流入口14から溝部15を介して検出部13へと流すことによって、検出部13に接触させてもよい。また、センサ100の流路に第3物質が予め付着されている場合には、検体をそのまま流入口14から流路内に入れることで、流路に付着された第3物質に体が接触しつつ、流入口14から溝部15を介して検出部13へと流すことによって、検出部13に接触させてもよい。
【0114】
次に、
図8(2)に示すように、接触工程によって生じる第2物質200の結合210の切断を検出することによって、検体に第1物質が含まれるか否かを検出する検出工程を行なう。
【0115】
例えば、
図8(2)に示すように、酵素であるトロンビンによって、アミノ酸の一種であるArg(アルギニン)とpPDA(パラフェニレンジアミン)との間のアミド結合を切断することが可能となる。すなわち、基体10に固定化されている第2物質200のうち、式(2)中に示されるpPDA(パラフェニレンジアミン)、(D)およびナノ粒子221を有する分離部分220が分離される。その結果、基体10の表面に固定化された第2物質200の分子量が変化し、基体10の表面の状態が変化することになる。この場合、基体10の表面に残るのは、固定化された第2物質200のうち、結合210よりも基体10の表面から離れた分離部分220を除いた部分230となる。
【0116】
このように、第1化合物201の結合相手である物質を適当に選択することによって、酵素との反応による第2物質200の結合210の切断に基づいて第1物質を精度良く検出することが可能となる。また、pPDA(パラフェニレンジアミン)は芳香族化合物であるため、酵素であるトロンビンによるArg(アルギニン)とpPDA(パラフェニレンジアミン)との間のアミド結合を切断する効率を向上させることができるため、より短時間で第1物質をより精度良く検出することが可能となる。
【0117】
以上のように、酵素との反応によって第2物質200の結合210が切断されることに伴って生じる基体10の表面の状態変化を検出することによって、第1物質を精度良く検出することが可能となる。なお、基体10の表面の変化は、第2物質200の分離部分220が検出部13から分離することに起因しており、第2物質200の分離部分220が分離するのは、例えばトロンビンによって第2物質200の結合210が切断される場合である。
【0118】
ここで、基体10の表面の状態変化とは、基体10の表面に固定化された第2物質200の結合210が切断されることで分離部分220が分離することに起因した質量変化や誘電率変化、粘弾性変化、伝播特性変化、共振周波数変化などである。例えば、SPR装置を用いて測定を行なう場合には、結合210が切断されて分離部分220が分離すると、基体10の表面の質量や誘電率が変化し、この変化に起因するSPR角度変化を発生する。この場合に、基体10の表面の状態変化とは、分離部分220の分離に起因する質量変化や誘電率変化となり、SPR角度変化を検出することで基体10の表面の状態変化が検出される。また、SAWセンサを用いる場合には、基体10の表面の質量変化や粘弾性変化に起因する伝播特性変化が発生する。この場合に、基体10の表面の状態変化とは、分離部分220の分離に起因する質量変化や粘弾性変化であり、伝播特性変化を検出することで基体10の表面の状態変化が検出される。また、QCM測定装置を用いる場合には、基体10の表面の質量変化に起因する共振周波数変化が発生する。この場合に、基体10の表面の状態変化とは、分離部分220の分離に起因する質量変化であり、共振周波数変化を検出することで基体10の表面の状態変化が検出される。
【0119】
<検出システム、検出装置について>
本発明の実施形態に係る検出システムは、センサ100と、検出装置とを有する。なお、センサ100に関する内容については、特記しない限り、上述した記載事項を適用することができるものである。
【0120】
本実施形態に係る検出システムは、検体に第1物質が含まれるか否かを検出するための検出システムであって、酵素と反応して切断される結合を有しており、且つアミノ酸に前記結合によって結合しているとともに他の物質に結合可能な第1の基を有する第1化合物を有する第2物質を有しており、第2物質が基体の表面に固定化されている検出部を有するセンサと、第1物質との反応によって酵素を生成する第3物質に接触させた検体を、センサの検出部に接触させて、第2物質の結合の切断を検出することで、検体に第1物質が含まれるか否かを検出する検出装置とを備える。
【0121】
また、本発明の実施形態に係る検出装置は、上述したセンサ100を用いた任意の検出処理を実行する装置である。検出装置は、例えば、SPR装置、SAWセンサの制御装置、QCM測定装置などであり、好ましくは、SAWセンサの制御装置である。本実施形態に係る検出装置としてのSPR装置、SAWセンサの制御装置、QCM測定装置は、上述のセンサ100を用いて測定ができれば、任意の装置を用いることができる。
【0122】
具体的には、SAWを利用した検出素子3において検体の検出を行なう場合は、まず、第1IDT電極11に、配線7や第1引出し電極19などを介して、外部の測定器から所定の電圧を印加する。そうすると、第1IDT電極11の形成領域において基体10の表面が励振され、所定の周波数を有するSAWが発生する。発生したSAWは、その一部が検出部13に向かって伝搬し、検出部13を通過した後、第2IDT電極12に到達する。
【0123】
ここで、検体に第1物質が含まれている場合には、検出部13を構成する第2物質200の結合210が、第1物質に起因して生成された酵素によって切断されることによって、第2物質200の構造が変化して検出部13の重量が変化する。この結果、検出部13の下を通過するSAWの位相などの特性が変化する。このように特性が変化したSAWが第2IDT電極12に到達すると、それに応じた電圧が第2IDT電極12に生じる。この電圧が第2引出し電極20、配線7などを介して外部に出力され、それを外部の測定器で読み取ることによって検体の性質や成分を調べることができる。
【0124】
このように、センサ100の検出装置、検出システムによって検出されるのは、第1物質そのものではなく、第2物質200の分離部分220の分離に起因する変化である。このことを踏まえ、検出装置は、第2物質200の分離部分などに起因して得られた検出結果を、第1物質についての検出結果に変換する変換処理を実行してもよい。例えば、第1物質の分子量とシグナル物質の分子量とが既知の場合において、「分離部分220が「x」グラム(g)(あるいは、モル(mol))存在する。」という結果が得られる場合に、かかる結果を「第1物質が「y」グラム(g)(あるいは、モル(mol))存在する。」という結果に変換してもよい。
【0125】
本発明は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
【0126】
例えば、上述した実施形態に係る検出素子3として、弾性表面波素子を用いた例を説明したが、これに代えて、表面プラズモン共鳴が起こるように光導波路などを形成した検出素子3を用いてもよい。この場合は、例えば、検出部における光の屈折率の変化などを読み取ることとなる。その他、水晶などの圧電基板に振動子を形成した検出素子3を用いることもできる。この場合は、例えば、振動子の発振周波数の変化を読み取ることとなる。
【0127】
また、検出素子3として、1つの基体10上に複数種類のデバイスを併存させても構わない。例えば、SAW素子の隣に、酵素電極法の酵素電極を設けてもよい。この場合は、抗体やアプタマーを用いた免疫法に加えて、酵素法での測定も可能となり、1度に検査できる項目を増やすことができる。
【0128】
また、上述した実施形態においては、検出素子3が1個設けられている例について説明したが、検出素子3を複数個設けてもよい。この場合は、検出素子3ごとに凹部5を設けてもよいし、すべての検出素子3を収容できるような長い凹部5を形成するようにしてもよい。
【0129】
また、第2物質200を基体10の上面に固定化して検出部13を形成する上で金属膜が不要な場合には、金属膜を用いなくてもよい。言い換えると、金属膜を用いることなく、圧電基板である基体10の表面における第1IDT電極11と第2IDT電極12との間の領域に、第2物質200を固定化することによって検出部13としてもよい。
【0130】
また、上述した実施形態においては、第1カバー部材1が第1基体1aおよび第2基体1bによって形成され、第2カバー部材2が第3基体2aおよび第4基体2bによって形成されている例を示したが、これに限らずいずれかの基体同士が一体化されたもの、例えば、第1基体1aと第2基体1bが一体化された第1カバー部材1を用いてもよい。
【0131】
また、溝部15は、第1カバー部材1と第2カバー部材2とのいずれに設けられてもよく、両方に設けられてもよい。例えば、第1カバー部材1と第2カバー部材2との両方に溝を設けることで流路を形成してもよく、第1カバー部材1と第2カバー部材2との片方に溝を設けることで流路を形成してもよい。
【0132】
また、上述した実施形態においては、基体10が第1カバー部材1上に設けられ、第1カバー部材1と第2カバー部材2とが接合される場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、基体10に直接カバー部を接合することで流路を形成してもよい。
【0133】
また、基体10に、タンパク質などの非特異的な吸着を抑制するような処理を行なっても良い。例えば、基体10の表面を、BSA(ウシ血清アルブミン)、PEG(Poly Ethylene Glycol、ポリエチレングリコール)などで覆ったものを用いるのが好ましい。これによれば、タンパク質などの非特異吸着による信号の影響を抑えつつ、第2物質200の結合210の切断による信号を測定することができる。
【0134】
また、SAWの検出回路は、多くの無線端末やタブレット端末内の通信装置に採用されている回路構成と同様であるため、無線端末やタブレット端末などの電子機器に簡単に接続することも可能である。
【0135】
また、上述のように、検体に接触させる第3物質は、センサ100の任意の箇所に付着させておき、検体が流路を通ることで検体と第3物質とを接触させてもよい。また、検体に接触させる第3物質は、センサ100の流路に検体が流し込まれる前に検体に溶かし込んでおいてもよい。センサ100に第3物質を予め付着させておく場合は、基体10上ではなく、溝部に付着させることが好ましい。例えば、基体10の検出部13に対向する流路の天井に付着させてもよく、基体10が実装されるカバー部材の内流路を形成する任意の領域に付着させてもよい。さらに、第3物質は、SAWの近傍に付着させることがより好ましく、これによれば、検体が第3物質に接触して反応した後よりも短時間でSAWによる検出を行なうことができるため、検体自体に起因する誤差を抑制することによって検出精度を向上させることができる。