(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6285435
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】水蒸気ストリッピングにより炭化水素ストリームから塩化物を除去する方法
(51)【国際特許分類】
C10G 31/08 20060101AFI20180215BHJP
【FI】
C10G31/08
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-523657(P2015-523657)
(86)(22)【出願日】2013年7月10日
(65)【公表番号】特表2015-524863(P2015-524863A)
(43)【公表日】2015年8月27日
(86)【国際出願番号】IN2013000426
(87)【国際公開番号】WO2014033733
(87)【国際公開日】20140306
【審査請求日】2016年6月2日
(31)【優先権主張番号】2116/MUM/2012
(32)【優先日】2012年7月24日
(33)【優先権主張国】IN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】511269587
【氏名又は名称】リライアンス、インダストリーズ、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】RELIANCE INDUSTRIES LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100125184
【弁理士】
【氏名又は名称】二口 治
(72)【発明者】
【氏名】マルヴェ、マヘッシュ ゴパルラオ
(72)【発明者】
【氏名】パレク、アミット クマール
(72)【発明者】
【氏名】ダス、アシット クマール
(72)【発明者】
【氏名】ドンガラ、ラジェスワール
(72)【発明者】
【氏名】ラナ、デヴパル シン
(72)【発明者】
【氏名】ビシュット、ハレンダー
(72)【発明者】
【氏名】サフ、ヒテシュ クマール
(72)【発明者】
【氏名】シン、ジャイ クマール
(72)【発明者】
【氏名】ナス、カルヤン
(72)【発明者】
【氏名】ヤダヴ,マノジ
(72)【発明者】
【氏名】ネリヴェトラ、サンパス
(72)【発明者】
【氏名】マンダル、スクマール
【審査官】
森 健一
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭59−045398(JP,A)
【文献】
特表2003−533584(JP,A)
【文献】
特公昭37−017820(JP,B1)
【文献】
特表2001−507740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む軽質減圧軽油から塩化物を除去する方法:
・塩化物を加水分解して塩化水素にし、塩化水素と軽質炭化水素を含有する水蒸気流を得るため、塩化物を10〜20ppmの範囲で含有する軽質減圧軽油を、ストリッピング媒体として水蒸気に、温度を軽質減圧軽油の初留点以下に維持し、かつ100-450oCの範囲で、また圧力を0.1-2 barの範囲、軽質減圧軽油とストリッピング媒体の比を1〜13.5の範囲で接触させる段階; および
・前記水蒸気流を軽質減圧軽油から分離し、塩化物が除去された軽質減圧軽油を得る段階。
【請求項2】
請求項1の方法であって、軽質減圧軽油には100-2000 ppm の範囲にある水分が含まれているもの。
【請求項3】
上記各請求項の方法であって、軽質減圧軽油から分離された蒸気に含まれる軽質炭化水素が1 wt% 以下であるもの。
【請求項4】
請求項1の方法であって、軽質減圧軽油の初留点が180-600oCの範囲にあるもの。
【請求項5】
請求項1の方法であって、軽質減圧軽油の初留点が300- 500oCの範囲にあるもの。
【請求項6】
請求項1の方法であって、軽質減圧軽油とストリッピング媒体を充填塔、トレーカラム、シーブカラムから選択したストリッピング塔で接触させるもの。
【請求項7】
請求項1の方法であって、軽質減圧軽油とストリッピング媒体の流れを並流、向流から選択したもの。
【請求項8】
請求項1の方法であって、ストリッピング塔下流、水蒸気および補助加熱媒体から選択した少なくとも一つのストリームとの熱交換により軽質減圧軽油をストリッピング温度まで加熱することが含まれるもの。
【請求項9】
請求項1の方法であって、さらに蒸気流を凝縮させ、後の塩化物除去のために凝縮したストリームから軽質炭化水素を回収することが含まれるもの。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、炭化水素ストリームから塩化物を除去する方法に関する。特に、本開示はナフサ、ディーゼル燃料、軽質減圧軽油、軽質コーカー軽油、重質常圧軽油、重質減圧軽油、重質コーカー軽油、減圧軽油ないしはこれらの混合物などの重質炭化水素ストリームから塩化物を除去する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭化水素ストリームに存在する無機、有機の塩化物は、たとえ微量であったにせよ、触媒被毒または機材の腐食の原因となってプロセスを阻害する。例えば、原油蒸留塔(トッパー)、水素化処理装置やサージドラム、高温熱交換器、配管などのダウンストリーム系統における、とりわけエルボーやジョイント部分に見られる激しい腐食である。一般的に、これらの機器には孔食と呼ばれる形式の腐食が見られ、塩化物が主な原因となっていることが伺える。塩化物の中でも、塩化水素および塩化アンモニウムが腐食の原因として高い可能性を有するものといえる。水素化処理装置では、有機塩化物も無機塩化物、つまり塩化水素に転化されることから腐食の問題はより深刻である。
【0003】
原油蒸留塔より得られる炭化水素ストリームには相当な量の無機、有機塩化物が含まれている。例えば、常温蒸留により生産される軽油には、25 ppmもの塩化物が含まれることがある。減圧蒸留塔の上部より得られる軽質軽油も50 ppmまでの塩化物を含むことがある。これらの塩化物は主にマグネシウムやカルシウムの塩化物塩の加水分解により発生する。これらの金属塩は原油に存在し、減塩処理の不足から蒸留塔に混入する。このようにして無機、有機の塩化物は炭化水素処理設備、とりわけ水素化処理装置にとって有害であり、炭化水素ストリームの処理の前に除去されるべきものである。
【0004】
通常、炭化水素流から塩化物を除去するには吸着剤や触媒が使用される。US3864243 は塩化物吸着剤としてのボーキサイトの使用について開示している。吸着剤は使用前に425-650°C に置かれて脱水処理されている。US3935295 は無機塩化物除去における酸化カルシウムおよび酸化亜鉛の使用について開示している。US4713413 は、有機塩化物除去のための20°Cでのアルミナ吸着剤の使用について開示している。US5107061 は結晶性モレキュラーシーブゼオライトXを使用した炭化水素ストリームからの有機塩化物除去について開示している。US5595648 および US5645713 は低表面積の固体苛性ソーダ床を用いた炭化水素流塩化物除去について開示している。US5614644 は銅を含有する補足剤による有機塩化物除去について開示している。さらにUS6060033 は炭化水素流の無機塩化物除去における、アルミナに担持させたアルカリ金属酸化物の使用について開示している。
【0005】
以上に示したような塩化物吸着剤の使用による減圧軽油、コーカー軽油などの重質炭化水素流の塩化物除去は、その高い粘度、高い流動点および少量のアスファルテンの存在により不可能である。重質炭化水素ストリームのこのような性質は、吸着剤が使用された場合に以下の問題の原因となる。すなわち、吸着剤床による大きな圧力損失の問題、吸着に高温が必要となる問題、吸着剤の再生が困難である問題、塩化物吸着力が低く、除去の効率が悪い問題である。
【0006】
過去には、有機塩化物を無機塩化物に転化するために触媒も使用されている。US3892818 ではロジウム触媒を使用して純粋な有機塩化物を塩化水素に転化している。触媒は0.1 wt% のロジウムを含有し、反応は概ね 250°Cで行われている。US4721824 は酸化マグネシウムとバインダーを使用した触媒による炭化水素流の有機塩化物除去について開示している。 US5371313 は130-170°Cでの酸化カルシウムを使用した塩化t-ブチルの除去について開示している。ここまでに示したプロセスは軽質炭化水素流(< C
20)への応用には適しているが、転化により生成した無機塩化物の除去を行う後処理が必要となる。
【0007】
いくつかの既知のプロセスでは無機塩化物を除去し、または腐食の影響を軽減する添加物が使用されている。US5269908 は、蒸気、窒素、有機ガスないしは天然ガスなどの不活性気体の添加による塩化アンモニウム付着の低減について開示している。US5387733 は炭化水素処理機器における、フィルム非形成性ポリアミン添加物による塩化アンモニウム付着の阻害と除去について開示している。 US5558768 は、非イオン性界面活性剤(酸化エチレンおよび酸化プロピレンの共重合体)による原油からの塩化物除去について開示している。ここまでに示された方法は添加物ないしは触媒を使用するものであり、そのため、添加物ないしは触媒の除去や不活性化といった後処理が必要となる。
【0008】
さらに、他のいくつかの既知のプロセスでは、炭化水素ストリームから不純物を除去するために蒸留やストリッピングが使用されており、場合によりこれらのプロセスに添加物が併用されている。2つのストリッピング媒体を用いた、水素、硫化水素、アンモニアやC11以下の炭化水素などの軽質成分をヒーティングオイルなどより重質な製品から分離するプロセスが US5141630 で開示されている。第一の媒体は軽質成分を除去ないしは分離し、第二の媒体は残留する第一のストリッピング媒体やより軽い残留成分の一切を除去する。ストリッピング温度は200-750°F (93-400°C) に保たれ、圧力は0-200 psig (0-14 bars)である。第一のストリッピング媒体は、標準として、水素、メタン、プロパン、蒸気または他の不活性気体から選択したものであり、さらに第二のストリッピング媒体は、標準として、窒素ガスである。US5141630 で開示されているプロセスによれば、蒸気は好ましいストリッピング媒体とは言えない。示された条件下では蒸気はストリッピングにより得られる製品を水で飽和させ、この水分の除去のために製品の脱水、乾燥のステップが必要となるからである。さらに、このプロセスは重油から塩化物を除去することには適さない。
【0009】
塩化物除去のための他の既知のプロセスがUS2004238405 に開示されてる。オイルストリームを添加物と安定剤により処理し、塩化物を揮発性化合物に転化してストリッピングにより除去するものである。このプロセスは原油の処理に適している。もう一つのプロセスがUS4992210 に開示されている。有機アミンと苛性カリの水溶性溶液を使用した脱塩により塩化マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウムや有機酸などの腐食性の汚染物を原油から除去するプロセスである。もう一つの方法がGB1105287 および GB724266 により開示されている。腐食防止剤により腐食を予防するものである。GB1105287 による方法では、原油に苛性ソーダや苛性カリなどの塩基を添加することにより腐食性の塩酸塩および硫化水素の生成を制限し、金属製の石油精製装置の腐食が予防できるとしている。GB724266 は炭化水素油の水蒸気蒸留におけるグアニジンないしはその派生物を使用した蒸留装置の防腐について開示している。
【0010】
ここまでに示したすべての既存のプロセスは、軽質の炭化水素留分や原油の処理に使用されている。高い粘度と高い流動点をもつため、重質の炭化水素ストリームの処理は困難である。これらのストリームの塩化物除去は、不純物の濃度が数ppmの範囲になるとさらに困難となる。
【0011】
さらに、これらの既存のプロセスはすべて蒸留に基づいたものであり、塩化物の除去と共に大量の炭化水素をも除去してしまう。本開示では、蒸留への依存を最低限にし、ストリッピングに基づいた塩化物除去を可能とするものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以下に本発明の課題のいくつかを示す:
本開示の一つの課題は、ナフサ、ディーゼル燃料、軽質減圧軽油、軽質コーカー軽油、重質常圧軽油、重質減圧軽油、重質コーカー軽油、減圧軽油ないしはこれらの混合物などの重質炭化水素ストリームから塩化物を除去するための簡単で、効果的で、経済的な方法を提供することである。
【0013】
本開示のもう一つの課題は、吸着剤、添加剤、触媒を用いずに重質炭化水素ストリームから無機、有機両方の塩化不純物を除去する方法を提供することである。
【0014】
本開示のさらなる一つの課題は、重質炭化水素ストリームから水分を除去する方法を提供することである。
【0015】
本発明の他の課題や利点は、添付されている図表とともに以下の説明により明確にされるが 、これらの図表や説明は本発明の範囲を限定するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本開示によれば、以下の段階を含む重質炭化水素ストリームから塩化物を除去する方法が提供される:
・炭化水素ストリームから塩化物を除去するため、重質炭化水素ストリームをストリッピング媒体に温度を100-450
0Cの範囲に、また圧力を0.1-2 barの範囲において接触させる段階。重質炭化水素ストリームとストリッピング媒体の比は1-30の範囲にあり、また温度は炭化水素ストリームの初留点以下に維持する。および
・塩化物と軽質炭化水素を含む水蒸気流を重質炭化水素ストリームから分離する段階。
【0017】
標準として、重質炭化水素ストリームに含まれる塩化物は2-100 ppmの範囲にある。
【0018】
本開示のある一つの実施形態によれば、重質炭化水素ストリームには100-2000 ppm の範囲にある水分が含まれている。
【0019】
本開示のある一つの実施形態によれば、ストリッピング媒体は水蒸気であり、金属塩化物は 加水分解されて塩化水素になり、このようにして塩化物は炭化水素ストリームから塩化水素の形でストリッピングされる。
【0020】
本開示の他の実施形態によれば、ストリッピング媒体は窒素、空気、アルゴン、他の不活性気体からなる群から少なくとも一つを選択したものであって、重質炭化水素ストリームから水分の除去も行う。
【0021】
標準として、本開示によれば、重質炭化水素ストリームはナフサ、ディーゼル燃料、軽質減圧軽油、重質減圧軽油、軽質コーカー軽油、重質コーカー軽油、重質常圧軽油、減圧軽油からなる群から少なくとも一つの炭化水素留分を選択したものである。
【0022】
本開示によれば、好ましくは、重質炭化水素ストリームとストリッピング媒体の比は 1-20の範囲にある。
【0023】
標準として、本開示によれば、重質炭化水素ストリームの初留点は180-600
oCの範囲にある。
【0024】
本開示によれば、充填塔、トレーカラム、シーブカラムから選択したストリッピング塔で重質炭化水素ストリームはストリッピング媒体と接触させる。重質炭化水素ストリームとストリッピング媒体の流れは並流、向流から選択したものであり、またストリッピングの実行はバッチ、半連続、連続から選択した方式で行う。
【0025】
標準として、本開示による方法にはストリッピング塔下流、水蒸気および補助加熱媒体から選択した少なくとも一つのストリームとの熱交換により重質炭化水素ストリームをストリッピング温度まで加熱することが含まれる。
【0026】
好ましくは、本開示による方法にはさらに蒸気流を凝縮させ、後の塩化物除去のために凝縮したストリームから軽質炭化水素を回収することが含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
本開示の説明を補助するため、以下の添付図表を用いる。
【
図1】
図1 は本開示による炭化水素ストリームの蒸気ストリッピングの構成を図示したものである。および
【
図2】
図2 は本開示に沿った軽質減圧軽油の処理プロセスの略図である。
【0028】
図1は本開示に沿った重質炭化水素ストリームの蒸気ストリッピングの実施例100を示したものである。実施例100では、蒸気発生装置102がストリッピング塔106に接続されている。蒸気発生装置102は2 ml / 分の流量で水を取り入れる給水口104を含む。水は装置により約300°Cの蒸気となる。この300°Cの蒸気はストリッピング塔106に、取入口112から塔に送られる重質炭化水素ストリームに対向する向流のパターンで送られる。ストリッピング塔の温度は200°Cに保たれる。ストリッピング塔106の寸法は、一例として、高さ100 cm、直径2.5 cmである。ストリッピング塔106は底上げ部から40 cmの高さまでセラミック球で充填されている。ストリッピング塔106の40 cmから80 cmまでの部分は5 mmの大表面積充填剤が入っている。重質炭化水素ストリームと蒸気の接触の大部分は大表面積充填剤が入っている40 cmから80 cmまでの部分で起こる。精製された炭化水素ストリームは下部の取り出し口108より回収され、また、使用されたストリッピング媒体(蒸気)はストリッピング塔106の上部に設けられた蒸気排気口110より大気に排出される。
【0029】
図2は、本開示に沿った軽質減圧軽油の処理プロセスを簡略に示したものである。炭化水素流の留点の範囲に基づいてプロセスの条件を変更することにより、本方法と同様の方法で多くの種類の重質炭化水素および炭化水素残留物を処理することが可能である。典型的な実施形態によれば、プロセスはその主な段階として、ストリッピング温度まで軽質減圧軽油を加熱する段階を含む。最初は、ストリッピング塔の下流に配管C(炭化水素の流れ道は数字206により示されている)を通じて取り出される処理済み軽質減圧軽油と熱交換を行うことにより加熱する。後には、加熱は高圧蒸気ないしは他の補助の加熱媒体202を用いる。処理は適切な理論段数をもつ充填塔ないしはトレーカラム204にて、向流のパターンで行われる。ストリッピング媒体は配管Bを通じて導かれ、上向きに流通する。200
oCの炭化水素流は配管Aから入り、塔204を下向きに流れる。軽質減圧軽油を含んだ水蒸気は上部より除去され、コンデンサー208へと導かれ凝縮される。凝縮されたストリームはレシーバー210で処理され、非凝縮性ガスを配管Eより分離する。塩化物を含む水は配管Fから排水され、軽質減圧軽油は配管Dより取り出される。非凝縮性ガスは燃焼させて利用する。いくらかの塩化物を含む軽質減圧軽油は粗脱塩装置へ送られ、さらなる塩化物の除去を行う。精製された炭化水素流は塔の下流で回収され、配管Cより取り出される。処理済みの製品は塩化物を1-10 ppm含み、一切の触媒失活や腐食抑制を必要とせずに水素化処理装置へ送ることができる。このプロセスは再生、再活性化や充填剤・トレーの洗浄を不要として同一のストリッピング塔で連続的に実行することができる。また、このプロセスでは窒素、空気、アルゴンや他の不活性気体などのストリッピング媒体を使用して、水分の低減を図ることが可能である。さらにこのプロセスは炭化水素ストリームとストリッピング媒体を同方向に流す並流の方式でも可能である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
塩化物を2-100 ppmの範囲で含むナフサ、ディーゼル燃料、軽質減圧軽油、軽質コーカー軽油、重質常圧軽油、重質減圧軽油、重質コーカー軽油、減圧軽油ないしはこれらの混合物などの重質炭化水素ストリームは、本開示の提供する方法に沿って処理することができる。
【0031】
炭化水素ストリームの塩化物塩は、脱塩処理後であっても少量であれ残留する。塩の大部分はアルカリ金属ないしはアルカリ土類金属の無機塩、すなわち、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムである。
原油蒸留装置(CDU)では、脱塩された原油は約370
oC に加熱され、複数の製品の分離を行う。この処理において、加水分解性の塩、とりわけマグネシウム塩およびカルシウム塩は蒸気の存在下で加水分解され、塩化水素として蒸留装置上部より排出される。加水分解されなかった塩は残留し、CDUより減圧蒸留装置(VDU)へ送られ、ここでさらなる加水分解が起こり、塩化水素として排出される。しかし、気化した塩化水素の一部は炭化水素ストリームに存在する水分に再吸収される。炭化水素ストリームが例えば45-130°Cの範囲などの低い温度にあると再吸収は多くなる。減圧蒸留装置から取り出される炭化水素ストリームにおける塩化物の濃度は1-100 ppmの範囲にある。
表1に示すように、炭化水素の加水脱塩により塩化物の70%以上が除去される。一方、水分含有は相当に増加する。
【0033】
このデーターはこれらの炭化水素ストリームに存在する塩化物全体の70% 以上が水溶性の無機塩化物であることと、残留しているのは水不溶性の有機塩化物であることを暗示している。標準として、水分は安定した微細な乳化物として存在する。塩化水素と金属塩化物の内部での無機塩化物の分布は脱塩水の含有金属の分析により表2に示すものと推測される。
【0035】
軽質減圧軽油に含まれる塩化物の全量は10-20 ppmであるから、表2が示すようなすべての金属の塩化物塩が存在するとすれば、各金属の塩化物塩は2 ppmに満たない。このことは、水溶性無機塩化物の大部分は塩化水素として存在しており、10-20%のみが金属塩化物であることを暗示している。
本開示による方法には、重質炭化水素ストリームをストリッピング媒体により厳密に制御された温度においてストリッピングすることにより重質炭化水素ストリームから塩化不純物を除去することが含まれる。この温度は重質炭化水素ストリームの初留点(IBP)以下の温度である。この時の圧力は0.1 から 3 barの範囲にある。
【0036】
初留点が180-600
oCの範囲にあるナフサ、ディーゼル燃料、軽質減圧軽油、軽質コーカー軽油、重質常圧軽油、重質減圧軽油、重質コーカー軽油、減圧軽油ないしはこれらの混合物などの重質炭化水素ストリームは、温度が100-450
0Cの範囲、圧力が0.1-2 barの範囲にあるストリッピング塔で、低圧蒸気、中圧蒸気、高圧蒸気、窒素、空気、アルゴンまたは他の不活性気体から選択したストリッピング媒体と互いに並流または向流に流通され、重質炭化水素ストリームとストリッピング媒体の比が1-30の範囲で、好ましくは1-20の範囲で接触を行う。
【0037】
本開示の一つの実施形態によれば、蒸気がストリッピング媒体として使用されている。蒸気は金属塩化物を塩化水素に加水分解される。すなわち、塩化物は塩化水素の形で分離される。ストリッピングの最中には、炭化水素流のいくつかの金属塩化物(MgCl
2、 CaCl
2など)は塩化水素に加水分解され、その後塩化水素は炭化水素流より分離される。このようにして得られる精製された重質炭化水素ストリームに含まれる塩化物はその70%まで減量されている。
【0038】
本開示のある他の実施形態によれば、窒素、空気、アルゴンおよび他の不活性気体からなる群から選択した不活性気体がストリッピング媒体として使用されている。100-2000 ppmの範囲にある水分が含まれる重質炭化水素供給物をストリッピング媒体と接触させる。ストリッピング媒体として不活性気体または空気を使用した場合には、ストリッピングで塩化物を分離できるだけでなく、重質炭化水素ストリームから水分をも除去することができる。重質炭化水素ストリームは塩化水素ガスを溶解した状態で含有している。気体ストリッピング媒体をこのような炭化水素ストリームに流通させると、溶存している塩化水素の溶解度が低下し、溶解気体から析出して気体ストリッピング媒体と共に除去される。
【0039】
ストリッピング塔は高い効率をもつ充填塔、トレーカラム、シーブカラムまたは他の接触反応塔であり、バッチ、半連続、連続の処理が可能なものである。ストリッピングの温度は炭化水素ストリームの初留点以下に維持される。
【0040】
プロセスでは、重質炭化水素ストリームのうち1 wt% 以下の軽質炭化水素が蒸気として分離される。蒸気は凝縮され、この軽質炭化水素はここから回収され、さらなる塩化物の除去が行なわれる。
【0041】
炭化水素供給物を蒸留せず、ないしはその蒸留を最低限に抑えて、しかも最大限の塩化物の除去を行うことを目したストリッピングのプロセスにおいては、温度と圧力は大いに重要なパラメーターである。炭化水素供給物の蒸留は、元の供給物とくらべてより高い濃度の塩化物を含有する軽質炭化水素を生成してしまい、この留分は元の供給物より腐食力が高いものとなってしまうため、好ましくない。本開示による方法によれば、ストリッピング処理における温度と圧力の正確な制御により炭化水素供給物の蒸留を最低限に抑えることができる。
【0042】
ストリッピング塔下流のストリーム、蒸気ないしは補助加熱媒体により重質炭化水素ストリームをストリッピング塔に投入する前にストリッピング温度に達するまで加熱しておくことができる。
【実施例】
【0043】
以下、本開示を例によって説明するが、これらの例は本開示の範囲を限定するものではない。
【0044】
例1:
図1により開示されている装置により、以下の実験を行った。流量2 ml / 分の蒸留水を蒸気発生装置に供給し、300°Cの蒸気を得た。この蒸気をストリッピング塔の底からの高さ40 cmの点に供給した。塔は200°Cに維持した。12 ppmの塩化物と588 ppmの水分を含有する軽質減圧軽油をストリッピング塔に、底から80 cmの点に注入した。軽質減圧軽油の流量は10 ml/分に維持され、軽質減圧軽油と蒸気の比は4.5 (w/w)とした。ストリッピングは常圧で行った。使用済みのストリッピング蒸気は塔の上部より排気し、分離された炭化水素ストリームをストリッピング塔下部より回収した。分離後の軽質減圧軽油における塩化物の含有は3.7 ppmであって、69% の減少となった。分離後の軽質減圧軽油の含有水分は710 ppmで、20.7% 増加した。
【0045】
例2:
図1により開示されている装置により、以下の実験を行った。プロセスの条件は、軽質減圧軽油の流量を30 ml/分に増やし、それにより軽質減圧軽油と蒸気の比が13.5 (w/w)となった点を除き、すべて例1と同様とした。分離後の軽質減圧軽油における塩化物の含有は6.8 ppmであって、43% の減少となった。分離後の軽質減圧軽油の含有水分は690 ppmで、17.3% 増加した。
【0046】
例3: この実験では、プロセスの条件は、ストリッピング媒体を窒素とした点を除き、すべて例1と同様とした。分離後の軽質減圧軽油における塩化物の含有は8.5 ppmであって、27.6% の減少となった。分離後の軽質減圧軽油の含有水分は461 ppmで、21.5% 減少した。
例1から3の結果を表3に示す。
【0047】
【表3】
【0048】
例1から3では、蒸気が窒素より高い分離効率を示した。同様に、供給物の流量と炭化水素対媒体比が分離効率に影響することが示された。炭化水素流とストリッピング媒体の接触時間が長いほど良好な塩化物除去が得られた。
【0049】
技術的進歩性
本開示に沿った重質炭化水素ストリームから塩化物を除去する方法における技術進歩性には以下の点が示すものが含まれるがこれらに限定されない:
【0050】
本開示による方法はナフサ、ディーゼル燃料、軽質減圧軽油、軽質コーカー軽油、重質常圧軽油、重質減圧軽油、重質コーカー軽油、減圧軽油ないしはこれらの混合物などの重質炭化水素ストリームから塩化物を除去するための簡単で、効果的で、経済的な方法である;本開示による方法によれば、吸着剤、添加剤や触媒を一切使用することなく重質炭化水素ストリームから無機塩化不純物を除去することができる;さらに本開示による方法によれば、重質炭化水素ストリームから残留水分をも取り除くことができる。
【0051】
本仕様書全体で使用されている"comprise"なる言葉もしくは"comprises"または"comprising"のようなその変形は、陳述された要素、整数またはステップの包含を暗示するが、その他の要素、整数またはステップの除外を暗示しないと理解される。
【0052】
"at least"あるいは"at least one"なる表現の使用は、使用を1つまたはそれ以上の望ましい目的または結果を得るか達成するため、公開特許の具体化中に入れてもよいので、1つまたはそれ以上の要素または成分あるいは数量の使用を示唆する。
【0053】
本明細書に含まれる文書、材料、デバイス、論文などに関するすべての考察は、本発明説明を整えるためのみの目的で行われている。これにより本発明の一部または全部が既存技術の一部を構成していることを認めている、ないしは本発明の日付以前から通常一般の知識として存在していたことを認めているとみなすべきものではない。
【0054】
ここで示されたさまざまな物理パラメータ、寸法、量の数値は近似値にすぎず、本発明とその請求項では、そこに示された物理パラメータ、容積、量の数値よりも高い値も、相反する記述がない限りは、許容されることが予想される。
【0055】
本発明の原理を応用した実施形態は多様に及ぶものであるから、以上に示された形態は単なる例示であると理解すべきである。発明の特定の特徴や効能が相当に強調されている一方、好ましい形態に、発明の基本的概念から出発することなく、簡単に様々な変更を加えることが可能であることを知るべきである。技能ある者は、本開示に基づいて、明白に発明および好ましい実施形態への変更を行うことができるであろう。ここで示されている例は、専ら実施例の理解を容易にするためのものであり、実施例の適用範囲を限定するためのものと解するべきではない。