特許第6285493号(P6285493)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6285493オレフィン混合物からの硫黄化合物の水素支援吸着
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6285493
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】オレフィン混合物からの硫黄化合物の水素支援吸着
(51)【国際特許分類】
   C07C 7/12 20060101AFI20180215BHJP
   C07C 11/08 20060101ALI20180215BHJP
   C07C 11/09 20060101ALI20180215BHJP
   C07C 9/12 20060101ALI20180215BHJP
   C07C 9/10 20060101ALI20180215BHJP
   C07C 11/167 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
   C07C7/12
   C07C11/08
   C07C11/09
   C07C9/12
   C07C9/10
   C07C11/167
【請求項の数】15
【外国語出願】
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2016-104409(P2016-104409)
(22)【出願日】2016年5月25日
(65)【公開番号】特開2016-222658(P2016-222658A)
(43)【公開日】2016年12月28日
【審査請求日】2016年8月2日
(31)【優先権主張番号】15169655.6
(32)【優先日】2015年5月28日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501073862
【氏名又は名称】エボニック デグサ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】特許業務法人あしたば国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100098682
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 賢次
(74)【代理人】
【識別番号】100131255
【弁理士】
【氏名又は名称】阪田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100125324
【弁理士】
【氏名又は名称】渋谷 健
(72)【発明者】
【氏名】ステファン パイツ
(72)【発明者】
【氏名】グイード ストッフニオル
(72)【発明者】
【氏名】ディートリッヒ マッシュメイヤー
(72)【発明者】
【氏名】ヘレネ リーカー
(72)【発明者】
【氏名】ライナー ブコール
【審査官】 水野 浩之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/044959(WO,A1)
【文献】 特開2013−094732(JP,A)
【文献】 特表2014−521497(JP,A)
【文献】 特表2009−504878(JP,A)
【文献】 特開平06−212173(JP,A)
【文献】 特開昭55−069521(JP,A)
【文献】 特表2017−502121(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素混合物を精製するプロセスであって、3〜8個の炭素原子を有するオレフィンを含む汚染された炭化水素混合物を、固体収着媒と接触させることによって、前記炭化水素混合物から硫黄含有不純物を少なくとも部分的に取り除き、前記炭化水素混合物が、前記収着媒との接触中はすべて液体状態にあり、前記収着媒が、合計すると100wt%になる次の組成:
・酸化銅:10wt%〜60wt%(CuOとして計算);
・酸化亜鉛:10wt%〜60wt%(ZnOとして計算);
・酸化アルミニウム:10wt%〜30wt%(Alとして計算);
・他の物質:0wt%〜5wt%;
を有する、プロセスにおいて、
前記汚染された炭化水素混合物を、水素の存在下で、前記固体収着媒と接触させることを特徴とする、プロセス。
【請求項2】
前記汚染された炭化水素混合物が、前記固体収着媒との接触直前に、前記汚染された炭化水素混合物の全質量に対して1wtppm〜10000wtppmの濃度で水素を含有することを特徴とする、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記水素が、前記液体の汚染された炭化水素混合物中に完全に溶解されていることを特徴とする、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
水素添加前の前記汚染された炭化水素混合物は1wtppm未満の水素しか含有していないので、前記水素濃度を、前記接触直前に、前記汚染された炭化水素混合物に水素を添加することによって確定することを特徴とする、請求項2または3に記載のプロセス。
【請求項5】
前記収着媒が、合計すると100wt%になる次の組成:
・酸化銅:30wt%〜45wt%(CuOとして計算);
・酸化亜鉛:30wt%〜50wt%(ZnOとして計算);
・酸化アルミニウム:10wt%〜15wt%(Alとして計算);
・別の金属酸化物:0wt%〜2wt%;
・グラファイト:0wt%〜3wt%;
・他の物質:0wt%〜1wt%
を有することを特徴とする、請求項1または請求項2から4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記接触が、下記条件:
・温度10℃〜150℃;
・圧力0.5〜3.5MPa;
・空時収率(毎時重量空間速度−WHSV)0.5h−1〜20h−1
の下で行われることを特徴とする、請求項1または請求項2から5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記汚染された炭化水素混合物が、硫黄含有不純物として、次の物質クラス:
a)一般式R−SHを有するチオール(式中、Rは、アルキル、アリール、シクロアルキル、またはアルケニル基であり得る);
b)一般式R−S−S−R’を有する二硫化物(式中、RおよびR’は、同一または異なる、アルキル、アリール、シクロアルキル、またはアルケニル基であり得る);
c)一般式R−S−R’を有する硫化物(式中、RおよびR’は、同一または異なる、アルキル、アリール、シクロアルキル、またはアルケニル基であり得る);
d)置換または非置換の硫黄含有ヘテロ環化合物を含有していることを特徴とする、請求項1または請求項2から6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記汚染された炭化水素混合物中の前記硫黄含有不純物の重量割合が、硫黄として計算すると、その総重量に対して0.2wt%未満
であることを特徴とする、請求項7に記載のプロセス。
【請求項9】
前記収着との接触によって、前記汚染された炭化水素混合物から、前記汚染された炭化水素混合物中に存在する少なくとも90wt%の硫黄含有不純物を取り除くことを特徴とする、請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
前記汚染された炭化水素混合物が、より高度に汚染された原材料混合物を予備精製して前記汚染された炭化水素混合物を得る予備精製段階から得られることを特徴とする、請求項8または9に記載のプロセス。
【請求項11】
前記収着媒が不可逆に使用されることを特徴とする、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
前記汚染された炭化水素混合物が、次の仕様A、B、C、およびD:
仕様A:
・イソブタン15%〜45wt%;
・n−ブタン5%〜18wt%;
・1−ブテン5%〜20wt%;
・イソブテン12%〜25wt%;
・2−ブテン9%〜40wt%;
・1,3−ブタジエン0%〜3wt%;
・水0%〜1wt%;
・硫黄含有不純物0.5wt%未満;
・水素1wtppm未満、
仕様B:
・イソブタン0.5%〜15wt%;
・n−ブタン0.5%〜20wt%;
・1−ブテン9%〜25wt%;
・イソブテン10%〜35wt%;
・2−ブテン3%〜15wt%;
・1,3−ブタジエン25%〜70wt%;
・水0%〜1wt%;
・硫黄含有不純物0.5wt%未満;
・水素1wtppm未満、
仕様C:
・イソブタン0.5%〜18wt%;
・n−ブタン0.5%〜25wt%;
・1−ブテン9%〜40wt%;
・イソブテン10%〜55wt%;
・2−ブテン3%〜25wt%;
・1,3−ブタジエン0%〜5wt%;
・水0%〜1wt%;
・硫黄含有不純物0.5wt%未満;
・水素1wtppm未満、
仕様D:
・イソブタン0%〜20wt%;
・n−ブタン10%〜35wt%;
・1−ブテン0.2%〜45wt%%;
・2−ブテン35%〜85wt%%;
・水0%〜1wt%;
・硫黄含有不純物0.5wt%未満;
・水素1wtppm未満
のうちの1つを満足するものであり、これらの各々が、合計すると100wt%になり、規定の前記重量割合が各々、前記汚染された炭化水素混合物の総重量に基づいていること
を特徴とする、請求項4または請求項5から11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
前記収着媒との接触が、前記汚染された炭化水素混合物中に存在する1−ブテンの5%未満の転化をもたらすことを特徴とする、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
前記汚染された炭化水素混合物が、1−ブテンを含み、前記収着媒との接触によって、前記汚染された炭化水素混合物に含まれる1−ブテンの5%未満が転化されることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項15】
不純物が少なくとも部分的に取り除かれた前記炭化水素混合物に、下に列挙する後処理ステップ:
a)前記炭化水素混合物中に存在する1,3−ブタジエンの抽出;
b)前記炭化水素混合物中に存在するジオレフィンおよび/またはアセチレンのオレフィンへの選択的な水素添加;
c)前記炭化水素混合物中に存在するオレフィンの対応するオリゴマーへのオリゴマー化;
d)1−ブテンおよび/またはイソブタンを高純度で得るための、前記炭化水素混合物中に存在する1−ブテンおよび/またはイソブタンの蒸留除去;
e)イソブテンを水によりtert−ブタノールにおよび/またはメタノールによりメチルtert−ブチルエーテルに転化させることによる前記炭化水素混合物中に存在するイソブテンの除去;
f)前記炭化水素混合物中に存在するブタンのブテンへの脱水素;
g)前記炭化水素混合物中に存在するブテンのブタジエンへの酸化的脱水素;
h)同様に存在するイソブタンを含む前記炭化水素混合物中に存在するn−ブテンのアルキル化;
i)無水マレイン酸を調製するための、前記炭化水素混合物中に存在する4個の炭素原子を有する炭化水素の酸化
の少なくとも1つを施すことを特徴とする、請求項1または請求項2から14のいずれか一項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素混合物を精製するプロセスであって、3〜8個の炭素原子を有するオレフィンを含む汚染された炭化水素混合物を、酸化銅、酸化亜鉛、および酸化アルミニウムをベースとする固体収着媒と接触させることによって、この炭化水素混合物から硫黄含有不純物を少なくとも部分的に取り除き、この炭化水素混合物がこの収着媒との接触中はすべて液体状態にある、プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
炭化水素は、炭素および水素のみからなる化合物である。炭化水素の命名法は、炭化水素1分子当たりに存在する炭素原子数に基づく。省略表記法では、接頭辞Cが一般に使用され、ここで、nは前記の数である。
【0003】
したがって、1分子当たりの炭素原子数が4である場合、C炭化水素は、炭素および水素のみからなる化合物である。C炭化水素の重要な代表例は、4個の炭素原子を有するアルケンおよびアルカン、すなわち、ブテンおよびブタンである。
【0004】
アルケン(別名:オレフィン)は、分子中に1個のC=C二重結合を有する炭化水素である。一方、アルカン(パラフィン)は、単結合のみを有する炭化水素である。したがって、これらは飽和とも呼ばれる。同じ炭素原子数を有するアルカンおよびアルケンは、通常、化学工業の原材料混合物中に一緒に生じる。アルケンは、その不飽和二重結合のためにより反応性が高いので、化学反応用の出発材料として適している。アルカンは、反応性がはるかに低く、一般に燃料としてのみ使用することができる。オレフィンは、そのより高い反応性のためにパラフィンよりも価値がある。原材料混合物中のアルケンの割合がアルカンと比較して大きいほど、原材料は高価である。
【0005】
炭化水素の混合物は、下流の石油化学に由来する原材料である。これらは、例えば、水蒸気分解装置(いわゆる、「分解C4」)から、接触分解装置(いわゆる、「FCC C4」(FCC:「流動接触分解」)または「DCC C4」(DCC:「深度接触分解」))から、熱分解(「熱分解C4」)から、MTOもしくはMTPプロセス(MTO:「メタノールからオレフィン」、MTP:メタノールからプロピレン)またはイソブタンおよびn−ブタンの脱水素から生じる。最も一般的なものは、水蒸気分解装置(分解C4)および接触分解装置(FCC C4)からのC炭化水素である。また、様々な由来のC混合物の混合物が取引され、「C留分」と呼ばれている。個々の成分を利用するためには、C混合物は、最高純度でその構成物質に分割しなければならない。
【0006】
水蒸気分解装置または接触分解装置からのC流れの後処理は、K.−D.Wiese、F.Nierlich、DGMK−Tagungsbericht[German Society for Petroleum and Coal Science and Technology、Conference Report]2004−3、ISBN3−936418−23−3に原理的に記載されている。包括的なプロセス全体の説明は、DE102008007081A1に見ることができる。
【0007】
本発明に関連するCの後処理の態様を、以下に簡潔に説明する。
【0008】
前述源からの工業用C炭化水素混合物は、通常、飽和および一不飽和化合物だけでなく多不飽和化合物も含有している。個々の化合物をこれらの混合物から単離する可能性がある前には、他の化合物を可能な限り最大に除去することがしばしば必要である。これは、物理的方法、例えば、蒸留、抽出蒸留、または抽出によって、しかしまた、除去すべき成分の選択的化学転化よっても行うことができる。C炭化水素混合物中に存在する酸素、窒素、および硫黄を含有する成分などの不純物は、触媒毒として個々のプロセスステップに悪影響を及ぼす可能性があるので、これらを可能な限り最大に除去することに特に注意を払わなければならない。これらの不純物は、分解C4中にわずかしか通常存在しないが、例えば、FCC C4流れにはより高濃度で存在する場合もある。
【0009】
水蒸気分解装置または流動接触分解装置からのC炭化水素混合物は、通常、表0に列挙する主成分を有する(不純物は示さず)。
【0010】
(表0)
成分 分解C4[wt%] FCC C4[wt%]
イソブタン 1〜3 15〜45
n−ブタン 6〜11 5〜15
1−ブテン 14〜20 5〜20
2−ブテン 4〜8 20〜35
イソブテン 20〜28 10〜20
1,3−ブタジエン 40〜45 1未満
表0:分解C4およびFCC C4の典型的な組成物
(主成分の組成は、横列に記載の通りである。)
【0011】
原材料の組成は、材料の由来によって著しく変化する可能性がある。列挙したC成分は、炭素原子がより少ないまたはより多い炭化水素、ならびに少量の不純物、例えば、メルカプタン、硫化物、二硫化物、窒素含有化合物、および酸素含有化合物などにより補完される。
【0012】
一変法において、FCC Cの後処理は、最初に、蒸留中の蒸留ステップによりイソブタンの濃度を5wt%未満の値に低下させるように行うことができる。同時に、混合物中に存在する低沸点物(例えば、C炭化水素、軽質酸素、窒素、および硫黄含有化合物)を除去または最小限にする。後続ステップでは、カラムにおいてすべての高沸点物(例えば、C炭化水素、重質酸素、窒素、および硫黄含有化合物)を底から除去する。次のステップでは、イソブテンを、例えば、メタノールと反応させて、メチルtert−ブチルエーテル(MTBE)を生じさせて除去し、それを蒸留除去する。純粋なイソブテンを得る場合、後で、メチルtert−ブチルエーテルをイソブテンおよびメタノールに再び開裂することができる。
【0013】
混合物のさらなる後処理では、依然として残存する多不飽和化合物を、選択的水素添加プロセスを用いて、対応する一不飽和および飽和化合物に転化させなければならない。こうして、1−ブテンおよび残存するイソブタンを蒸留により十分な純度で取り出すことができ、残存する2−ブテンおよびn−ブタンにさらなる後処理を施すことができる。しばしば、2−ブテンは、オリゴマー化によって、より特定すると、二量化によってオクテンに転化される。これは、各々が4個の炭素原子を有する2個の分子から8個の炭素原子を有する1個の分子を形成する。その後、オクテンは、ヒドロホルミル化によってPVC可塑剤アルコールに転化することができる。オレフィンがなくなった後に残る飽和C4炭化水素は、噴霧剤としてエアロゾルに特に使用することができる。
【0014】
オリゴマー化とは、オレフィンから、より特定すると、プロペンおよびブテンなどから6〜20個の炭素原子を有する高級アルケンが形成されるプロセスを意味すると理解されたい。工業的に使用されるプロセスの一例は、ニッケル触媒によるOCTOLプロセスであるが、これは、Hydrocarbon Process.,Int.Ed.(1986年)65(2.Sect.1)31〜33頁、ならびにDE3914817、EP1029839、およびDE102004018753に詳細に記載されている。OCTOLプロセスによれば、オリゴマー化は液相において行われ、そのため、高いプロセス集約度(intensity)が実現される。
【0015】
個々のプロセスステップに使用する投入物流れは、一般に、不純物を繰り返し除去する先行のプロセスにより既に高純度に達している。しかし、残存する不純物が、可逆的にまたはさらに不可逆的に触媒を不活性化する可能性がある。当然ながら、この不活性化は、経済的な理由から最小限に低減されるべきである。したがって、さらなる精製段階によって、触媒からできるだけ多くの触媒毒を遠ざけるべきである。
【0016】
工業用C混合物中に存在する種々の触媒毒は、様々な方法で被毒作用を及ぼす。例えば、酸性触媒系または共触媒などの系成分は、それ自体が塩基性である成分、またはさらなる反応により塩基を少なくとも放出する成分によってほぼ完全に被毒される。このような物質の特に典型的な例はアセトニトリルであり、これは非常に弱い塩基として収着プロセスによる除去が比較的困難である。しかし、これは強ルイス酸を可逆的に被毒する。微量の水の存在下では、これはアセトアミドを介して加水分解されて強塩基アンモニアになり、次いで、その上、アンモニウムイオンの形成によりブレンステッド酸(Bronsted Acid)を不可逆的に不活性化する。ちなみに、水自体でさえも常に部分的な触媒毒であるが、水がさらなる反応により強い触媒毒の形成に寄与しなければ、その作用は通常、可逆的である。OCTOL触媒におけるブテンのニッケル触媒によるオリゴマー化に関しては、約5ppmの水分でさえ測定可能な不活性化をまねく。しかし、水は多くの系からオレフィンに添加され、形成されたアルコールは、熱力学的平衡に達するまで、他の不飽和成分の水素添加と共に、移動型水素添加を介して標準触媒系によって酸化される。
【0017】
金属錯体触媒も塩基性物質に敏感である。被毒作用は、主として酸性共触媒の不活性化により通常明らかにされる。
【0018】
対照的に、触媒の金属成分は、特定の化合物の形をした硫黄などの成分によって特に強く攻撃され、これにより、特定の状況下で、やや難溶性の硫化物が形成されて、金属水素化物または金属錯体が不可逆的に破壊される。金属は通常かなり低い酸化状態にあるので、金属を酸化して比較的高い酸化状態にすることができる硫黄化合物、例えば、二硫化物および多硫化物が特に有効である。したがって、異なる硫黄化合物は、全く異なる主作用を有することができる。例えば、二硫化物は非常に効率的に反応して、チオエーテルおよび硫黄を生じ、次いで、金属水素化物を酸化して、硫化物を形成する。一方、チオエーテル自体の主作用は、おそらく初めはルイス塩基としてのみである。しかし、一般に詳細には知られてさえいない、系中のさらなる微量成分とのさらなるプロセスおよび反応を通じて、これらはまた同様に、最終的に、とはいえ、非常にゆっくりと、金属硫化物の形成をまねく。
【0019】
上述によれば、触媒反応ユニットを用いて炭化水素混合物を価値のある構成物質に分留するプラント操作の経済的成功に関して、したがって、問題は、触媒毒から、特に硫黄化合物から、使用する触媒を最大効率で保護することである。特異的に転化させるためには、触媒が反応性であるほど、これは強く当てはまり、したがって、これは、特に、不均一系触媒、例えば、OCTOLプロセスの触媒に当てはまる。
【0020】
産業的実施において、アルカリスクラブは、プロペンおよびブテンの流れから硫黄含有毒を除去する。これらのスクラブでは、硫化水素およびメルカプタンが、特に効率的に反応する。通常、アルカリスクラブ溶液は、空気で酸化することにより再生される。
【0021】
このようなスクラブ効果は、工業的用途ではUOP LLCからMEROX(登録商標)の名称で提供されている(G.A.Dziabis、「UOP MEROX PROCESS」 in Robert Meyers、Handbook of Petroleum Refining Processes、第3版、2004年、McGraw−Hill)。
【0022】
MEROX(登録商標)プロセスにおいて、メルカプタンは、スクラブ水溶液中で酸化されて、二硫化物および多硫化物になり、これらは油相として除去される。しかし、これらの二硫化物および多硫化物のごく一部が、アルカリ金属水酸化物水溶液中に溶解または懸濁されて残存し、多くの場合、スクラビングへの再生利用前にこの残渣を定量的に除去することは、スクラビングオイルなどでこの水相をスクラビングしても不可能であり、その結果、メルカプタンは実質上除去されるが、一方で、少量の二硫化物および多硫化物は流れに戻される。まさに述べたように、これらは、やや難溶性の金属硫化物への反応に必須の金属水素化物を転化する硫黄成分であり、さらには触媒を不可逆的に不活性化する。通常、例えば、FCC C4流れは、約100〜200ppmの硫黄を含有している。MEROX(登録商標)スクラブの後、この含有量は、通常、10ppm未満の値に低減し、次いで、硫黄化合物は、主として前述の二硫化物および多硫化物からなるが、メルカプタンもより多くなる。
【0023】
実際、熟練を要する分離操作、例えば、蒸留により、毒の一部を敏感な触媒ともはや接触しない留分に誘導することもできる。しかし、大抵の場合、これによって流れの純度を望ましいと思われる程度にするのは不可能であり、その結果、必要な純度を確実にするために、収着媒を触媒の上流に挿入しなければならない。
【0024】
収着媒は、収着質と呼ばれる別の物質と接触した場合、その物質を結合することができる固体物質である。結合は、物理的および/または化学的作用によって収着媒の表面で生じる。この点において、物理吸着と化学吸着とは区別される。収着媒の作用機構が必ずしも疑いなく明らかとは限らないので、ここでは、作用に起因すると考えずに、収着媒について述べる。
【0025】
技術的観点から、収着媒は、再生可能なものと、触媒毒を不可逆的に転化または化学的に結合するものとに通常分類されるべきである。
【0026】
使用される再生可能な収着媒は、大抵、モレキュラーシーブおよびゼオライトである。再生可能な収着媒は、汚染材料を中強度でしか結合しない。収着媒の再生の過程において、より高温およびより低圧など、例えば、収着媒が収着質を再び放出する条件が確定される。この性質から、破過前の容量は比較的低くなる。さらに、収着媒の排出および洗浄、ならびに再生気体あるいは液体流の供給および廃棄により操作費用がしばしば高くなる。
【0027】
対照的に、不可逆性収着媒は、破過後、再生されず、廃棄される。したがって、これらは、低費用で入手でき、使い捨てできるものでなければならない。不可逆性収着媒は吸着質を化学的に結合するので、吸着される物質に対するその透過性は、再生可能な収着媒の場合よりも低い。したがって、不可逆性収着媒は、再生可能な収着媒よりも優れた純度レベルを実現する。
【0028】
EP0064464A1は、炭化水素バッチの脱硫に特に使用可能な触媒材料を記載している。触媒材料は、酸化銅を含有し、アルミナまたはX型もしくはY型ゼオライトから構成される支持体をベースとしている。重要な問題は、カドミウムが発癌性物として分類されているため、酸化カドミウムの含有量が義務づけられていることである。発癌物質は、取り扱いおよび廃棄に高い費用および不便さを伴う可能性があり、したがって、特に、このような触媒材料の不可逆的使用は非経済的である。
【0029】
EP0354316B1は、銅、銀、および亜鉛を含有するゼオライトによる液体C炭化水素混合物のカドミウム不含精密脱硫を記載している。好ましい温度範囲は50〜130℃であり、好ましい圧力は1〜50barである。毎時重量空間速度は、1〜40h−1と報告されている。ここに記載の収着媒は潜在的に危険なカドミウムをまったく含有していないが、この材料は銀含有量が少なくとも2wt%と高いため、同様に非経済的である。
【0030】
ニッケル含有オリゴマー化触媒は、特に触媒毒の傾向がある。2〜4個の炭素原子を有する炭化水素混合物は、OCTOLプロセスなどのオリゴマー化用基質としてしばしば働く。触媒毒を効果的に除去するためには、オリゴマー化に入る前にこのような流れをモレキュラーシーブに通過させることが有用であることが分かった。例えば、EP0395857B1は、製油所プロペンの脱硫が、そのオリゴマー化の前に、銅交換Xゼオライトにおいて温度120℃、圧力50bar(絶対)、および毎時重量空間速度0.75h−1で行われるプロセスを記載している。これらの条件下では、プロペンは超臨界である。
【0031】
これらの単純なモレキュラーシーブは容易に入手可能で、健康にいずれの潜在的危険性も示さないので、これらは、最近、C〜C炭化水素混合物の精密脱硫の産業的実施において選択されている収着媒である。非変性モレキュラーシーブは本質的に物理的手段によって不純物を結合するので、この種の収着媒は再生することができる。しかし、その収着容量は、化学収着媒と比較して低く、その結果、非変性ゼオライトによる精密脱硫では、ほどほどの純度しか実現できない。この欠点を補うために、ゼオライトが化学的にも不純物を捕縛するように変性されているが、これが変性ゼオライトの再生性を制限している。
【0032】
WO2014/009159A1は、オリゴマー化プラントの上流に不可逆的に硫黄を吸着するための自然発火性ニッケルの使用を開示している。ある実験において、この収着媒を使用して、Cオレフィン混合物から硫化ジメチルを除去するのに成功している。この収着媒の欠点は、取り扱いを困難にするその自然発火性である。したがって、工業的には制限のある状態でしか使用できない。
【0033】
独国特許出願公開第102013225724.4号は、出願日にはまだ公開されていないが、メタノール合成で通常使用される銅/亜鉛/アルミニウム触媒による液体オレフィン混合物の精製を記載している。精製は水素がない状態で行われる。実験から、この材料が、C4オレフィン混合物(特にメルカプタン)において通常生じる硫黄化合物をすべて事実上完全に結合することが実証されている。これは、自然発火性ニッケル材料よりも取り扱いが容易であるという利点を有する。
【0034】
このCuO/ZnO/Al収着媒の欠点は、これが、再び投入された硫黄の一部を、二硫化物、より特定すると、二硫化ジメチル、二硫化ジエチル、二硫化エチルメチル、および同様の物質の形で放出することである。二硫化物の形成は収着媒自体において起こり、この点で、材料は触媒的に活性であると思われる。2個のチオラートユニットは、明らかに酸化的結合して、CuO表面上で二硫化物を形成する。これが明らかにわずかな程度しか起こらない。
【0035】
DE102013225724に記載されているCuO/ZnO/Al収着媒の顕著な欠点は、硫黄または硫黄化合物に対する吸着容量が約1.4wt%しかないという低さである。それに比べて、WO2014/009159A1は、約25%の硫黄容量を保証している。
【0036】
WO94/28089は、不可逆的に硫黄を吸着するCu元素含有吸着媒の使用を開示している。これらは、CuO含有前駆体から、CuOを水素で事前還元してCu元素を得ることにより得られる。Cu元素が、CuOよりも、メルカプタンおよび硫黄元素と比較して非常に反応性が高いことがそこに述べられている。二硫化物がこのような材料によって効率的に保持されないことは明らかである。さらなる欠点は、吸着反応器でそれを使用する前に、高温で水素流れ中においてCuOをCu元素に還元する必要があることである。これは、高価な耐熱反応器、またはエクスシチュー調整に続いて保護雰囲気下での吸着媒の設置が必要である。
【0037】
EP0320979A2はまた、酸化銅、酸化亜鉛、および酸化アルミニウムをベースとする脱硫剤を記載している。しかし、酸化物収着媒は、使用前に水素で還元され、したがって、これは最終的に金属形態で使用される。
【0038】
US2007034552は、硫黄化合物を補足する材料としてCuO/ZnO/Alの使用を開示している。炭化水素混合物としてのナフサ中における硫黄成分としてのブタンチオールに基づいて、液相での吸着の場合、3.7wt%〜10wt%の硫黄(元素形態で計算)が、様々なCuO/ZnO/Al材料に保持され得ることが示された。しかし、吸着床による破過点は、硫黄投入物の80%が吸着器の出力において検出されたときとして定義された。これは、この時点で吸着作用が実際に既に失われていたことを意味する。数千ppbの硫黄にさえ影響を受ける下流プロセスでは、破過のこのような定義は完全に不適当である。
【0039】
W.Turbevilleら、Cat.Today、519〜525頁(2006年)は、US2007034552と類似している材料およびそれらの吸着速度論を記載している。硫黄破過に関するグラフから、許容できる定義の破過、例えば、供給硫黄含有量の20%の場合の破過は、はるかに短い実行時間で起こることが明らかである。例えば、記載されているすべての実験において20%破過マークに到達するまでの時間は、80%マークの約4分の1である。これは、20%破過限界が工業的に非常に適切である適用事例では、耐用年数が4分の1に短縮され、したがって、吸着器を4倍というより高い頻度で交換しなければならないことを意味する。Turbevilleらにより記載されている材料および実験のさらなる欠点は、メルカプタンから形成される二硫化物の永続的な通過であり、これは顕著に吸着されるようには思われない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0040】
【特許文献1】DE102008007081A1
【特許文献2】DE3914817
【特許文献3】EP1029839
【特許文献4】DE102004018753
【特許文献5】EP0064464A1
【特許文献6】EP0354316B1
【特許文献7】EP0395857B1
【特許文献8】WO2014/009159A1
【特許文献9】独国特許出願公開第102013225724.4号
【特許文献10】DE102013225724
【特許文献11】WO94/28089
【特許文献12】EP0320979A2
【特許文献13】US2007034552
【特許文献14】DE2846614C3
【特許文献15】DE1568864C3
【特許文献16】EP0125689B2
【特許文献17】DE10160486A1
【特許文献18】US4279781
【特許文献19】WO2014009148A1
【非特許文献】
【0041】
【非特許文献1】K.−D.Wiese、F.Nierlich、DGMK−Tagungsbericht[German Society for Petroleum and Coal Science and Technology、Conference Report]2004−3、ISBN3−936418−23−3
【非特許文献2】Hydrocarbon Process.,Int.Ed.(1986年)65(2.Sect.1)31〜33頁
【非特許文献3】G.A.Dziabis、「UOP MEROX PROCESS」 in Robert Meyers、Handbook of Petroleum Refining Processes、第3版、2004年、McGraw−Hill
【非特許文献4】W.Turbevilleら、Cat.Today、519〜525頁(2006年)
【非特許文献5】R.H.Hoppener、E.B.M.Doesburg、J.J.F.Scholten:Preparation and characterization of stable copper/zinc oxide/alumina catalysts for methanol synthesis.Appl.Catal.25巻(1986年)109〜119頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0042】
この背景に対して、本発明によって対処する問題は、液体オレフィン混合物を精製するプロセスであって、混合物中に存在する硫黄化合物が、実質的に完全に除去され、同時に、新たな硫黄化合物が顕著な程度には再び形成されないプロセスを規定することであった。精製後、硫黄含有量が確実に1ppmを十分に下回り、その結果、オリゴマー化などの下流の触媒プロセスは特に被毒されないようになる。本発明によって対処するさらなる重要な問題は、使用する収着媒の容量または耐用年数を明らかに増大させるプロセスを規定することである。さらに、不適切な収着材料の場合、1−ブテンがそれほど価値のない2−ブテンに異性化されてしまうが、このプロセスはまた、価値のある1−ブテンを高い割合で有する炭化水素混合物の精製に適しているので、混合物の精製において、そこに存在する価値ある生成物、例えば、1−ブテンが失われることはない。最後に、使用する収着媒は、発癌性の構成物質をまさに実質上含まず、容易に入手可能である。
【課題を解決するための手段】
【0043】
これらの問題は、合計すると100wt%になる次の組成:
・酸化銅:10wt%〜60wt%(CuOとして計算);
・酸化亜鉛:10wt%〜60wt%(ZnOとして計算);
・酸化アルミニウム:10wt%〜30wt%(Al2O3として計算);
・他の物質:0wt%〜5wt%;
を有する収着媒を使用し、
水素の存在下で精製を行うことによって解決される。
【0044】
これは、このようなCuO/ZnO/Al2O3系が、汚染された炭化水素混合物との接触中に少量の水素が存在した場合、いずれの種の硫黄化合物も事実上放出しないことが分かったからである。材料が硫黄化合物、例えばメルカプタンを結合する優れた能力は、水素が存在することで実際に高められる。したがって、収着媒の容量は増大される。さらに、現状の知識によれば、対応する吸着媒にほとんど保持されない硫黄成分も、高度に結合される。水素は少量しか添加されないので、1−ブテンなどの価値のある反応性物は、望ましくない水素添加を受けてもほとんど失われず、それ故、実質上かなり保存される。副生成物の望ましくない副反応は、使用する収着材料によってわずかに促進される。
【発明を実施するための形態】
【0045】
したがって、本発明は、炭化水素混合物を精製するプロセスであって、3〜8個の炭素原子を有するオレフィンを含む汚染された炭化水素混合物を、水素の存在下で固体収着媒と接触させることによって、この炭化水素混合物から硫黄含有不純物を少なくとも部分的に取り除き、この炭化水素混合物が、この収着媒との接触中はすべて液体状態にあり、この収着媒が、合計すると100wt%になる次の組成:
・酸化銅:10wt%〜60wt%(CuOとして計算);
・酸化亜鉛:10wt%〜60wt%(ZnOとして計算);
・酸化アルミニウム:10wt%〜30wt%(Alとして計算);
・他の物質:0wt%〜5wt%
を有する、プロセスを提供する。
【0046】
本発明のプロセスの実用上の利点は、前記CuO/ZnO/Al系が、特別に調製する必要がなく、容易に商業的に入手可能、すなわち、メタノール合成で通常使用されるような触媒として入手可能なことである。
【0047】
メタノールは、重要な汎用化学物質であり、固体の銅/亜鉛/アルミニウム触媒の存在下、水素、一酸化炭素、および二酸化炭素の気体混合物から合成される。メタノールは非常に大量に世界的に製造されるので、このために必要な銅/亜鉛/アルミニウム触媒は、容易に入手可能である。本発明の本質的な態様は、水素の存在下でオレフィン混合物を脱硫するための収着媒としてこのようなメタノール触媒を利用することである。
【0048】
メタノール合成用の固体の銅/亜鉛/アルミニウム触媒は、特許文献に何度も記載されている。
【0049】
例えば、DE2846614C3は、38.3%のCu、48.8%のZn、および12.9%のAlを含有する触媒の存在下、200〜350℃の温度で、CO、CO、およびHの気体混合物からメタノールを調製するプロセスを開示している。
【0050】
DE1568864C3は、銅触媒は硫黄により容易に被毒される可能性があるので、メタノール生成では合成用気体を脱硫すべきであると指摘している。ここに記載されている銅/亜鉛/アルミニウム触媒は、35wt%超の銅を含有しており、亜鉛含有量は、15wt%〜50wt%である。アルミニウム含有量は、4wt%〜20wt%と報告されている。
【0051】
EP0125689B2は、触媒活性物質として酸化銅および酸化亜鉛、さらに熱安定化物質として酸化アルミニウムを含むメタノール合成用触媒を記載している。非還元状態では、例として生成された触媒前駆体は、例えば、65wt%〜68wt%のCuO、21wt%〜23wt%のZnO、および10wt%〜12wt%のAlを有する。比表面積は、100〜130g/mである。メタノール合成は、250℃および50barで行われる。
【0052】
63wt%〜65wt%のCuO、24wt%〜27wt%のZnO、および10wt%〜11wt%のAlを有する類似のメタノール触媒が、DE10160486A1に記載されている。
【0053】
銅含有量が比較的低く、亜鉛含有量が高い触媒(43.2wt%のCuO、47.0wt%のZnO、および10.2wt%のAl)が、US4279781において生成された。しかし、メタノール合成におけるその触媒活性は、比較的貧弱なものとして評価された。
【0054】
メタノール合成のための酸化銅、酸化亜鉛、酸化アルミニウム触媒の調製が、R.H.Hoppener、E.B.M.Doesburg、J.J.F.Scholten:Preparation and characterization of stable copper/zinc oxide/alumina catalysts for methanol synthesis.Appl.Catal.25巻(1986年)109〜119頁により科学的に取り組まれた。
【0055】
汎用化学物質のメタノールの合成は産業的に非常に重要であるため、銅/亜鉛/アルミニウム触媒は、科学文献および特許文献において理論的用語で記載されるだけでなく、容易に商業的に入手可能でもある。例として、Clariant(以前はSud−Chemie)からのMegaMax(登録商標)700および800、ならびにHaldor TopsoeのMk−101およびMk−121が挙げられる。
【0056】
発癌性に分類される物質が存在しないので、この材料の廃棄は比較的問題はない。ちなみに、この材料は価値のある銅を大量に含有しているので、このような収着媒の再生利用は経済的に魅力がある。
【0057】
メタノール触媒のC〜C炭化水素混合物の脱硫への適合性は、このような混合物の後処理が液相中で通常行われるため、驚くべきものである。というのは、3個を超える炭素原子を有する炭化水素は、低費用で液化され、次いで、高いプロセス集約度で処理され得るからである。しかし、メタノール合成は、もっぱらガス相中で行われる。ガス相触媒作用のための材料が液相収着にも適しているとは期待できなかった。
【0058】
原理的に、前記組成物を有する市販のどんなCu/Zn/Al触媒も、水素の存在下でC〜C炭化水素混合物を精製するための固体収着媒として適している。しかし、次の組成:
・酸化銅:30%〜45wt%(CuOとして計算);
・酸化亜鉛:30%〜50wt%(ZnOとして計算);
・酸化アルミニウム:10%〜15wt%(Alとして計算);
・別の金属酸化物:0%〜2wt%;
・グラファイト:0%〜3wt%;
・他の物質:0%〜1wt%
を有する触媒の使用が優先される。
【0059】
この状況における別の有用な金属酸化物は、例えば、酸化鉄または酸化マグネシウムである。健康に有害であることが既知の重金属酸化物、例えば、カドミウムまたは鉛またはクロムは、可能な限り存在するべきではない。比較的少量のグラファイトまたはステアリン酸マグネシウムは、結着剤として収着媒のより良好な成形に役立つ。この状況では、「他の物質」とは、収着媒の生成関連の不純物を意味すると理解されたい。
【0060】
成形に関して、収着媒は、粉末形態または顆粒形態で存在し得る。さらに、収着媒を確定型に圧入して、例えば、球状、ペレット状、タブレット状、リング状、トーラス状、または丸みを帯びた三角状(trilobular)の成形体にすることができる。
【0061】
酸化銅の表面積が大きい材料の使用は、吸着の反応速度および転化の反応速度がそれと相互関連し、また、これらの材料がより高い収着容量を有することから有利である。好ましくは、第1収着媒は、その酸化銅含有量に対して少なくとも50m/g、好ましくは100m/gの酸化銅表面積を有する。これは、吸着作用を促進する。表面積は、窒素の収着により定量される。
【0062】
収着媒の生成に適する方法は、原理的に、十分な取り扱い安定性を有する固体をもたらすすべての技術的方法である。これは、次の2つのステップ:
i)酸化アルミニウムから構成される多孔質フレームワーク材料を用意するステップ;
ii)このフレームワーク材料を酸化銅および酸化亜鉛とブレンドするステップ
を本質的に包含する。
【0063】
酸化銅粉末、炭酸銅粉末、または水酸化物含有銅化合物、およびこれらの混合物を使用することが可能である。銅の場合、炭酸銅含有化合物を、アンモニア性溶液を用いて、完全にまたは部分的に、出発材料として働く炭酸テトラアンミン銅溶液に転化することも可能である。これらの物質を、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、または水酸化亜鉛、およびAl含有粉末と一緒に本発明の混合比に従って混合する。この粉末は、フレームワーク材料として機能する。Al含有粉末として、Alの多形、また、酸化アルミニウム水和物またはアルミニウムヒドロキシオキシド、および水酸化アルミニウムをすべて使用することが可能である。Alと同様に、SiOが一部存在することも可能である。個々の固体成分を、適切なミキサー、インテンシブミキサーまたは混練機においてブレンドおよびホモジナイズすることができる。このプロセスでは、慣習的に脱塩水で湿潤させる。適当な混合の後に任意の適切な成形操作を続けることができる。いくつかの状況下では、混合物の完全もしくは部分乾燥および/または粉砕が前もって必要である。成形に関しては、例えば、押出機またはタブレット成形機が適切である。これらの目的には、パンペレタイザが適当であり得る。タブレット成形の場合、グラファイトなどの潤滑補助剤が混合物にしばしば添加される。押出成形の場合、混合物の必要な可塑化性を確立するのに適している他の有機添加物がしばしば選択される。これらには、例えば、セルロース様物質、ポリエーテル、ポリエチレングリコールなどがあり、いくつかの状況下では、これらの物質は、成形操作に通常続く熱処理により完全にまたは部分的に除去された場合、孔形成物としても働き得る。対応するパンペレタイザでのペレット化の場合、適切な量の水を徐々に添加することによって、集結凝集が実現される。ステアリン酸マグネシウムの添加は、粉末の圧密において成形体の確定に役立つ。
【0064】
熱処理は、1ステップまたは連続ステップで行われる。水成分あるいは有機成分はここで除去され、成形体の機械的強度は、このプロセスで通常増大される。さらに、前駆体材料が必要な酸化物相の形にまだなっていない場合、その酸化物相が形成される。
【0065】
調製の別の方式では、硝酸塩を水溶液中で使用するか、または酸化物化合物を硝酸で完全にまたは部分的に溶解する。特に、酸化アルミニウム型化合物の場合、完全溶解には大抵達せず、代わりに、酸を用いて材料を変性する。この操作はペプチゼーションと呼ばれている。次いで、ペプチドを、前述の他の溶解成分と混合し、成形体に処理する。熱処理の結果として、温度が適切に選択された場合、各々の酸化物が硝酸塩から形成され得る。
【0066】
硝酸塩含有塩溶液を使用した際の別の結果として、固体混合物を得るために、沈降反応を行わなければならない場合がある。pHは、水酸化ナトリウムまたは炭酸ナトリウムの溶液で調節する。この例はEP0125689B2に見ることができる。
【0067】
さらに、硝酸塩溶液をスプレー乾燥により固形の酸化物生成混合物に転化することが可能である。通常、その後に、粉砕操作および前述の成形操作が続く。最終熱処理は、構成物質をスプレー乾燥または粉砕した直後に行うこともでき、必須の残存硝酸塩の分解をもたらし、成分を酸化物に転化し、成形体を固める。
【0068】
市販のメタノール触媒の使用により、収着媒の前述の特別な製造を省くことができる。
【0069】
本発明の本質的な態様は、精製、すなわち、汚染された炭化水素混合物と収着媒との接触が、水素の存在下で行われることである。この点において、本発明は、水素が存在しない状態で行われる、議論されたプロセスとは異なる。
【0070】
水素の存在とは、接触時、汚染された炭化水素混合物の全質量に対して1ppm超の質量の水素分子(H)による接触を意味すると理解されたい。ここでの測定単位ppmは、常に10−6を意味する。
【0071】
より特定すると、汚染された炭化水素混合物は、固体収着媒との接触直前に、汚染された炭化水素混合物の全質量に対して水素を1wtppm〜10000wtppmの濃度で含有すべきである。これは、水素含有量がより高いと、炭化水素混合物中に存在する価値のある生成物、例えば、特に1−ブテンなどの望ましくない水素添加または水素異性化をまねくからである。
【0072】
重大なことは、水素および精製される炭化水素混合物が同時に収着媒と接触するということである。炭化水素混合物との接触前に収着媒を水素で処理するだけでは十分ではなく、それよりむしろ、精製される炭化水素混合物中に水素を溶解させなければならない。
【0073】
接触時の適切な水素含有量は、先と同様に汚染された炭化水素混合物の全質量に対して1〜10000ppmの濃度であることが分かった。
【0074】
水素は、汚染された炭化水素混合物中に実質的に完全に溶解させるべきである。これは、精製が、気体状水素がない状態で行われることを意味する。汚染された炭化水素混合物は本発明によれば液体なので、接触時、問題となるガス相はまったく存在しない。これはプロセス集約度を増大させる。
【0075】
均一の液体形態に溶解される最大水素含有量は操作圧力および操作温度の両方に依存するので、温度が10℃〜150℃、圧力が0.5〜3.5MPaという好ましい操作条件下での実施可能な水素含有量は、1wtppm〜1000wtppmであることが分かった。好ましい水素含有量は、10wtppm〜500wtppmの濃度であることが分かり、接触時の特に好ましい水素含有量は、50wtppm〜300wtppmの濃度であることが分かった。
【0076】
本発明の方法による精製を施すつもりの工業用炭化水素流れは通常水素を含まず、下流の石油化学からの典型的なCおよびCオレフィン混合物の水素濃度は1wtppm未満である。
【0077】
これは、接触直前に、汚染された炭化水素混合物に水素を添加することによって本発明の水素濃度を確定しなければならないことを意味する。というのは、そうしないと、汚染された炭化水素混合物は、接触時に1wtppm未満の水素しか含有していないからである。
【0078】
したがって、汚染された炭化水素混合物への水素の測定添加を可能にする工業的手段が必要である。水素は液体炭化水素混合物に気体形態で供給されるので、これは市販の気体/液体ミキサーでよい。水素は、低濃度のため、液体炭化水素混合物中に完全に溶解されて、収着媒上での接触は、純粋な液体/固体接触、すなわち、気相が存在しない状態での接触になる。
【0079】
汚染された炭化水素混合物中の水素濃度は、水素気体調節器などの適切な送達系により容易に確定することができる。これは化学工業では標準的技法なので、この方法で高度な自動化を実現することが可能である。しかし、必要に応じて、水素含有量を、熱伝導度検出器を用いてガスクロマトグラフィーにより定量することができる。これにより、所定の濃度範囲内にすることが完全に可能である。
【0080】
水素の過量投与が行われた場合、これは下流の操作において触媒に通常、害を及ぼさない。しかし、そうでない場合、流れの中に存在する価値のある生成物が水素添加および/または異性化により失われる可能性があるので、前述の水素濃度の上限に従うべきである。未転化の可能性がある水素の除去は、好ましくは、既存の蒸留ステップ、例えば、1−ブテン蒸留の頂部において行われる。
【0081】
本発明において重要なことは、収着媒が、前記水素濃度の存在下でさえ、オレフィンのエーテル化、水素添加、異性化、オリゴマー化、または別の反応に関して触媒活性を本質的に有さないことである。炭化水素のこれらの反応は、収着媒上ではなく、それを意図する触媒上でのみ進行する。そのため、保護すべき触媒は、好ましくは、少なくとも別の床または他の装置において収着媒から離れている。
【0082】
状況によって、0.01〜0.2時間の接触時間が通常企図されるが、必要に応じて、さらに長くてもよい。高温で操作すると、消耗が加速し、硫黄容量が増加するので、通常存在する予熱器の下流にそれを配置させることが有利である。収着媒の特定の温度の観察は、その精製能力にとって重要である。
【0083】
したがって、実験は、接触が、10℃〜150℃、好ましくは20℃〜130℃、最も好ましくは30℃〜120℃の温度で行われるべきであることを示している。最適な接触温度は、約80℃〜100℃である。市販のメタノール触媒ははるかに高い温度で使用されるので、これらの範囲内では熱的安定性が見られる。保護すべき触媒を異なる温度で操作する場合、収着媒は、別個の容器内に、すなわち、反応器の外に配置すべきである。
【0084】
重要なことは、汚染された炭化水素混合物が収着媒との接触中にもっぱら液体状態にあるということである。特定の温度範囲内では、これは、0.5MPa〜3.5MPa(5〜35barに対応)の圧力によって保証される。しかし、炭化水素が液体状態にあれば、根本的には、圧力は重要ではない。この場合、毎時重量空間速度(WHSV)は、好ましくは、0.5h−1〜20h−1の間で選択される。これは、1時間当たりに0.5〜20kgの汚染された炭化水素混合物が、1kg当たりの収着媒を通過することを意味する。0.7kg/m〜1.5kg/mの範囲、好ましくは約1.15kg/mのかさ密度を有する収着媒を容器に注ぐ。精製される炭化水素混合物は、床を含有している容器を通過するように導かれる。
【0085】
特に効果的な精製を実現し、収着媒の交換により生じる操作の中断を回避するために、常に、負荷が最も大きい容器を入口に配置し、負荷が最も小さいものを出口に配置するように、循環式で連続して接続することができる複数の容器を使用することが望ましい。この場合、精製する流れを中断することなく、少なくとも1個の容器を取り外すことができ、その中にある材料を洗浄し、取り出し、続いて、類似の方法で再充填することができる。
【0086】
本発明によるプロセスは、3〜8個の炭素原子を有するオレフィンを含む炭化水素混合物の精製に適している。工業関連の炭化水素混合物は、例えば、プロペン、n−ブテン、n−ペンテン、ヘキセン、ネオヘキセンなど、およびこれらの飽和類似体であると見なされる。これらのうち、プロパン/プロペンおよびブタン/ブテンは、極めて最も重要なものである。したがって、これは、3個および/または4個の炭素原子を有するオレフィンを含む炭化水素混合物の精製に特に好んで利用される。汚染された炭化水素混合物の中のエテン、少なくとも4個の炭素原子を有するオレフィン、および芳香族化合物の全含有量は、500wtppm未満、好ましくは50wtppm未満であるべきである。
【0087】
本発明による収着媒は、在中するブテンを転化する直前に、処理状態にある典型的なCオレフィン流れの精製に特に有利に使用することができる。
【0088】
このプロセスは、不均一系のアルミニウム、シリコン、またはニッケルを含有するオリゴマー化触媒に毒として作用する硫黄含有不純物を効率的に除去するので、このような混合物への適用に特に優れている。
【0089】
汚染された炭化水素混合物から本発明に従って除去される不純物は、好ましくは、炭化水素混合物の後続の後処理において触媒毒として作用する有機硫黄化合物である。硫黄含有不純物と同様に、塩基、アミン、またはニトリルなどの硫黄を含まない触媒毒も除去されるが、これらの物質は、しばしば検出限界未満である。
【0090】
硫化水素(HS)は、精製していない天然ガスおよび鉱物オイルにはしばしば大量に存在するが、精油所または天然ガス処理において既に除去されているので、典型的な化学原材料流れにはもはや存在しない。
【0091】
それよりむしろ、本状況において除去しなければならない問題の硫黄化合物は、下流の石油化学からの原材料流れに通常存在する有機硫黄化合物である。これらは、特に、次のものである:
a)一般式R−SHのチオール類
b)一般式R−S−S−R’の二硫化物
c)一般式R−S−R’の硫化物、および
d)置換または非置換の硫黄含有ヘテロ環、例えば、特にチオフェンおよび/またはチオランなど。
【0092】
上記の所定の構造式において、RおよびR’は、同一または異なる、アルキル、アリール、シクロアルキル、またはアルケニル基であり、RおよびR’は、特に、メチル、エチル、プロピル、ブチル、フェニル、シクロヘキシル、またはブテニル基であり得る。
【0093】
これらの硫黄含有不純物は、本発明による精製を用いて少なくとも部分的に、しかし実際には通常完全に除去される。好ましくは、上記の物質クラスからの硫黄含有不純物は、90wt%超程度、好ましくは95wt%超程度除去される。
【0094】
本発明に従って使用する収着材料の特定の利点は、この収着材料が、特に、不純物として存在するチオールを収着媒の表面で捕縛することによって不純物を化学的に吸着するということである。吸着器表面において水素を測定添加しないことで起こるチオールからの二硫化物の形成は、正式には、水素脱離による2個のチオールの酸化カップリングである。本発明に従ってここで使用する水素の測定添加は、化学平衡をチオール側にさらにシフトさせ、それにより、二硫化物の形成が明確に抑制される。したがって、同様に、C4流れ中に既に存在するいずれの二硫化物も、収着媒上でチオールに転化され、次いで、捕縛される。したがって、水素支援化学吸着は、本発明によれば、水素を測定添加しない場合の吸着と比較して、特に高レベルの精製をもたらし、その結果、炭化水素混合物から、存在するチオールおよび二硫化物が事実上完全に取り除かれる。
【0095】
触媒毒の化学吸着は、不可逆である。このため、本発明に従って使用する収着媒は、再生することができない。これは、非常に汚染された炭化水素流れが収着媒を急速に消耗し、その結果、収着媒を交換しなければならないことを意味する。精製プロセスの経済的に実行可能な操作のためには、汚染された炭化水素混合物中の不純物の重量割合は、その総重量に対して0.2wt%未満であるべきである。より好ましくは、汚染された炭化水素混合物は、硫黄として計算した場合の各々において、100wtppm未満、より好ましくは10wtppm未満の不純物を含有する。このような低レベルの汚染の場合、収着媒は非常に長期間稼働することができ、さらに、触媒毒の事実上完全な除去が可能になる。通常のように、測定単位ppmは、10−6として理解されたい。
【0096】
鉱物オイル精油所由来の典型的な原材料混合物は、硫黄含有量が0.2wt%を優に上回っている。このため、吸着精製の上流の予備精製段階において原材料混合物を予備精製することが必要である。予備精製段階において、より高度に汚染された原材料混合物を予備精製して、汚染レベルが0.2wt%未満の炭化水素混合物を得る。
【0097】
適切な予備精製段階は、特に、WO2014009148A1に開示されるように、前述のMEROX(登録商標)スクラブまたはチオエーテル化である。
【0098】
本発明の精製形は、MEROX(登録商標)スクラブの後に安全網フィルタとして流れに挿入されるのが特に適切である。
【0099】
この状況では、安全網フィルタとは、第1精製過程の後に配置され、第1精製過程が下流の反応ステップから離れていることにより、または下流の反応ステップへの直接損害を排除する、第1過程での操作が中断された場合において、捕獲されなかった残存量の触媒毒を最終的に保持する機能を有する第2精製過程(精密脱硫)を意味すると理解されたい。
【0100】
好ましくは、MEROX(登録商標)スクラブは、第1精製過程として働き、ほとんどの触媒毒を比較的大量に先に分離する。この場合、MEROX(登録商標)スクラブの適用を受けないメルカプタンおよび二硫化物だけを、水素を添加して、ここに記載の収着媒によって本発明に従って保持する。
【0101】
予備精製において操作が中断された場合、安全網フィルタは、十分な精製機能を示し、回復不可能な直接損害からオリゴマー化を保護する。通常の操作状態における安全網フィルタは少量の吸着質しか請け負わないので、安全網フィルタは、予備精製に通常使用されるMEROX(登録商標)スクラブよりはるかに小さな容量を有するように設計することができる。これは、不具合の場合にそれが消耗される速度に相当する。安全網フィルタの適切な寸法は、入ってくる混合物をどれくらい速く転換することができるかによって決まる。
【0102】
比較的非反応性物質であるチオエーテルは、MEROX(登録商標)スクラブではほとんど除去されない。吸着媒との接触時に濃度が過度に大きくなることを避けるために、これらは、好ましくは、吸着媒の上流のプロセス手順の適切なポイントにおいて高沸点物として蒸留で除去される。
【0103】
予備精製段階、例えばMEROX(登録商標)スクラブと組み合わせて、この場合、躊躇なく、ここに記載の収着媒を不可逆で使用することが可能である。この状況では、不可逆使用とは、活性収着媒が不活性になると、直接再生することはなく、すなわち復元されることはないことを意味すると理解されたい。これは、冶金学的手段によって、その中に存在する金属、例えば特に銅などを回収して、使用済みの収着媒を再生利用することを除外するものではない。これは、このような冶金学的処理では収着媒のはじめの組成が失われ、したがって、この状況では再生について述べることは不可能だからである。
【0104】
本発明によるプロセスは、3〜8個の炭素原子を有する炭化水素混合物の脱硫に基本的に適している。しかし、これは、鉱物オイルの精製における分解C4としてまたはFCC C4もしくは対応するその抽残液として得られるC流れから毒を除去するのに特に好んで使用される。したがって、汚染された炭化水素混合物は、好ましくは、次の仕様A、B、C、およびDのうちの1つを満足するものであり、これらの各々は、合計すると100wt%になり、規定の重量割合は各々、汚染された炭化水素混合物の総重量に基づいている:
仕様A:
・イソブタン15%〜45wt%、好ましくは25%〜35wt%;
・n−ブタン5%〜18wt%、好ましくは8%〜10wt%;
・1−ブテン5%〜20wt%、好ましくは12%〜14wt%;
・イソブテン12%〜25wt%、好ましくは15%〜20wt%;
・2−ブテン9%〜40wt%、好ましくは20%〜30wt%;
・1,3−ブタジエン0%〜3wt%、好ましくは0.5%〜0.8wt%;
・水0%〜1wt%、好ましくは0.1wt%未満;
・硫黄含有不純物0.5wt%未満、好ましくは0.2wt%未満;
・水素1wtppm未満。
仕様B:
・イソブタン0.5%〜15wt%、好ましくは1%〜7wt%;
・n−ブタン0.5%〜20wt%、好ましくは4%〜7wt%;
・1−ブテン9%〜25wt%、好ましくは10%〜20wt%;
・イソブテン10%〜35wt%、好ましくは20%〜30wt%;
・2−ブテン3%〜15wt%、好ましくは5%〜10wt%;
・1,3−ブタジエン25%〜70wt%、好ましくは40%〜50wt%;
・水0%〜1wt%、好ましくは0.5wt%未満;
・硫黄含有不純物0.5wt%未満、好ましくは0.2wt%未満;
・水素1wtppm未満。
仕様C:
・イソブタン0.5%〜18wt%、好ましくは1%〜7wt%;
・n−ブタン0.5%〜25wt%、好ましくは4%〜13wt%;
・1−ブテン9%〜40wt%、好ましくは10%〜35wt%;
・イソブテン10%〜55wt%、好ましくは20%〜50wt%;
・2−ブテン3%〜25wt%、好ましくは5%〜20wt%;
・1,3−ブタジエン0%〜5wt%、好ましくは0.8wt%未満;
・水0%〜1wt%、好ましくは0.5wt%未満;
・硫黄含有不純物0.5wt%未満、好ましくは0.2wt%未満;
・水素1wtppm未満。
仕様D:
・イソブタン0%〜20wt%、好ましくは0%〜5wt%;
・n−ブタン10%〜35wt%、好ましくは25%〜30wt%;
・1−ブテン0.2%〜45wt%、好ましくは3%〜30wt%;
・2−ブテン35%〜85wt%、好ましくは50%〜75wt%;
・水0%〜1wt%、好ましくは0.1wt%未満;
・硫黄含有不純物0.5wt%未満、好ましくは0.1wt%未満;
・水素1wtppm未満。
【0105】
仕様Aは、典型的なFCC C4について述べており、一方、仕様Bは、典型的な分解C4について述べている。仕様Cは、分解C4からの典型的な抽残液Iについて述べている。仕様Dは、FCCまたはCC4からの抽残液IIIについて述べている。このような工業用C4混合物は水素を通常含まないので、本発明に従って必要とされる水素は、接触前に添加しなければならない。
【0106】
したがって、収着媒は、水素の存在下でもいずれの触媒活性もほとんど有さず、このため、最も価値のある構成物質の1−ブテンをブタンまたは2−ブテンに転化しないことから、本発明によるプロセスは、好ましくは、上記の所定の仕様A、B、C、またはDのC4混合物の精密脱硫に利用される。精製プロセスをここに明記した操作条件下で行った場合、1−ブテンの5%未満の転化、すなわち損失が予期される。
【0107】
もちろん、本発明のプロセスは、価値のある1−ブテンを含むが前述の仕様A、B、C、またはDに準拠していない汚染された炭化水素混合物の精製に使用することができる。このような場合でさえ、1−ブテンの損失は5%未満であると予期される。
【0108】
したがって、本発明の特別な実施形態は、汚染された炭化水素混合物が1−ブテンを含み、収着媒との接触によって、汚染された炭化水素混合物に含まれる1−ブテンの5%未満が転化されるプロセスに関係がある。
【0109】
汚染された炭化水素混合物から本発明に従ってその触媒毒が取り除かれた後は、下流で使用する触媒を被毒する危険なしに、このような混合物の慣習的な後処理を行うことができる。ここに記載する精製に続けることができる典型的な後処理ステップには、次のものが挙げられる:
a)炭化水素混合物中に存在する1,3−ブタジエンの抽出;
b)炭化水素混合物中に存在するジオレフィンおよび/またはアセチレンの、オレフィンへの選択的な水素添加;
c)炭化水素混合物中に存在するオレフィンの、対応するオリゴマーへのオリゴマー化;
d)特に1−ブテンおよび/またはイソブタンを高純度で得るための、炭化水素混合物中に存在する1−ブテンおよび/またはイソブタンの蒸留除去;
e)イソブテンを水によりtert−ブタノールに、および/またはメタノールによりメチルtert−ブチルエーテルに転化させることによる炭化水素混合物中に存在するイソブテンの除去;
f)炭化水素混合物中に存在するブタンの、ブテンへの脱水素;
g)炭化水素混合物中に存在するブテンの、ブタジエンへの酸化的脱水素;
h)同様に存在するイソブタンを含む炭化水素混合物中に存在するn−ブテンのアルキル化;
i)無水マレイン酸を調製するための、炭化水素混合物中に存在する4個の炭素原子を有する炭化水素の酸化。
【0110】
列挙した後処理ステップa)〜i)のすべてを行う必要はなく、個々の後処理ステップのみを行うことも可能であることが認識されるであろう。列挙した順序に拘泥するものではない。
【0111】
さらに、列挙したもののうちの個々の後処理ステップが、触媒毒に敏感でないならば、本発明の精製の上流に配置することもできる。有機硫黄化合物は非常に低い濃度でさえニッケル触媒を被毒するので、少なくともニッケル触媒によるオリゴマー化は、本発明による精製プロセスによって保護すべきである。
【0112】
また、使用する炭化水素混合物が水で汚染されている場合、収着媒との接触の前に、水に汚染された炭化水素混合物から水を除去する、すなわち、乾燥させることが望ましい。水を除去するための動機は以下のとおりである:混合物に均一に溶解した水は収着媒の作用を多少弱めるので、流れを、収着媒との接触前に、例えば共沸蒸留(乾燥蒸留)によって乾燥させることが好ましい。可能な限り、水素添加の前に乾燥を行う。
【実施例】
【0113】
第1実験:本発明によるエタンチオールの除去
使用する収着媒は、Clariant AGから購入した、メタノール触媒として使用可能な固体である。この収着媒は、約42wt%のCuO、約44wt%のZnO、約12.5wt%のAl、および約2wt%のグラファイトを含有しており、タブレット形状をしている(5×3mm)。酸化銅の比表面積は、窒素収着により測定すると、酸化銅含有量1g当たり100mである。
【0114】
収着媒27gを、直径が1cmの反応管に投入する。かさ密度は、約1.2kg/dmである。試料採取弁を管の供給口および流出口に取り付ける。管壁を加熱して、収着媒を80℃の温度にし、約37wt%の1−ブテン、約24wt%のtrans−2−ブテン、約14wt%のcis−2−ブテン、約24wt%のn−ブタン、および252wtppmの均一に溶解させたHを含有する液体混合物を、21barの圧力でその中に流入させる。材料は、不純物として平均21.8mg/kgの硫黄を主にエタンチオールの形で含有する。収着媒への負荷は357g/hであり、したがって、硫黄投入は約7.8mg/hである。分析が示すように、硫黄は、混合物から事実上定量的に除去される。281時間目以降の操作時間から、流出口における硫黄含有量は急速に上昇する。この急な破過は、硫黄捕縛量が約2.1g、または収着媒による硫黄収着が約7.8wt%であることに相当する。個々のC4成分の出力値は、全実験期間にわたり対応する供給値と比較して事実上変わらなかった。この実験の終了後、収着媒を含む床を窒素でパージする。収着媒は、劣化のない状態で、十分な安定性を有して取り出すことができる。実験結果を表1に示す。
【0115】
【表1】
【0116】
第2実験:本発明によるメタンチオールの除去
使用する収着媒および実験装置は、第1実験に相当するものである。実験1と同様に、平均20.6mg/kgの硫黄を不純物として主にメタンチオールの形で供給する。均一に溶解させたHの含有量は170wtppmである。28gの量で充填した収着媒への負荷は350g/hである、すなわち、硫黄投入は約7.2mg/hである。接触温度は80℃に設定した。収着媒の分析が示すように、硫黄は混合物から事実上定量的に除去される。約295時間目以降の操作時間から、流出口における硫黄含有量は上昇する。この急な破過は、硫黄捕縛量が約2.1g、または収着媒による硫黄収着が約7.6wt%であることに相当する。個々のC4成分の出力値は、全実験期間にわたり対応する供給値と比較して事実上変わらなかった。この実験の終了後、床を窒素でパージする。収着媒は、劣化のない状態で、十分な安定性を有して取り出すことができる。実験結果を表2に示す。
【0117】
【表2】
【0118】
第3実験:本発明による二硫化ジエチルの除去
使用する収着媒および実験装置は、第1および第2実験に相当するものである。実験1と同様に、約1mg/kgの硫黄を不純物として二硫化ジエチルの形で供給する。均一に溶解させたHの供給濃度は170wtppmである。27gの収着媒を含有する床への負荷は350g/hであり、したがって、硫黄投入は約0.35mg/hである。操作温度は80℃である。分析が示すように、硫黄は混合物から定量的に除去される。操作時間が2865時間になるまで、出力内に全く硫黄成分を検出することができなかった。その時点までに、約0.91gの硫黄が捕縛された。これは、この時までに、収着媒による硫黄収着が約3.3wt%であることに相当する。個々のC4成分の出力値は、全実験期間にわたり対応する供給値と比較して事実上変わらなかった。実験結果を表3に示す。
【0119】
【表3】
【0120】
第4実験:エタンチオールの除去(非発明)
使用する収着媒および実験装置は、第1実験に相当するものである。しかし、実験は、水素を測定添加せずに行った。
【0121】
材料は、不純物として平均5.4mg/kgの硫黄を主にエタンチオールの形で含有する。120gの吸着媒を含有する床への負荷は600g/hであり、したがって、硫黄投入は約3.2mg/hである。
【0122】
分析が示すように、最初、硫黄は混合物から事実上定量的に除去される。480時間目以降の操作時間から、流出口における硫黄含有量は急速に上昇する。この急な破過は、硫黄捕縛量が約1.7g、収着媒による硫黄収着が約1.4wt%であることに相当する。
【0123】
個々のC成分の排出値は、全実験期間にわたり対応する供給値と比較して変わらなかった。
【0124】
この実験の終了後、床を窒素でパージする。収着媒は、劣化のない状態で、十分な安定性を有して取り出すことができる。
【0125】
実験結果を表4に示す。
【0126】
【表4】
【0127】
実験からの結論:
実験から、本発明に従って、水素を測定添加すると共に適切な収着媒を組み合わせることによって行ったプロセスが、次の性質を有することが実証される:
・様々な硫黄化合物からの硫黄が、事実上完全に結合される;
・収着媒は、水素流れにおける活性化をまったく必要としない;
・収着媒は、不可逆性収着媒なので、定期的な精製および脱離流れをまったく必要としない;
・収着媒は、混合物が単一流れとして通る単一容器に、好ましくは少し高い温度(どんな場合でも下流反応器の供給に通常しばしば必要なため)で収容することができる;
・水素を測定添加しても、このプロセスは、オレフィンの副反応、例えば、オリゴマー化、異性化、および水素添加などを事実上引き起こさず、したがって、精製される混合物の価値のある構成物質の著しい損失はない。
・水素を測定添加すると、容量が増大され、したがって、これまでに知られている従来技術と比較して、収着媒の耐用年数が延長される;
・このプロセスは、下流の処理段階に何らかの影響を及ぼす濃度でどんな物質もまったく放出しない;
・硫黄の収着媒の容量が少なくとも3wt%であることから説明される、5wtppm未満という典型的な硫黄濃度での長い耐用年数から見て、収着媒を直接再生できず、その代わり、容量の消耗後、原材料の利用に送るしかできなくても、このプロセスは操作が非常に安価である;これは、銅の含有量が高いため、魅力的に見える;
・収着媒は、発癌性としても分類されず、自然発火性も示さないので、何の問題もなしに取り扱え、廃棄することができる。