(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、図面を参照して、本発明の第1実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
また、以下に示す第1実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0009】
[第1実施形態の車両]
図1は、本発明に係る車両1を模式的に示したものである。
図1の矢印F−Bは車両1の前後方向、矢印L−Rは、車両1の左右方向を示している。
車両1は、前輪(左の前輪2FL及び右の前輪2FR)を駆動するフロントユニット3を備えており、エンジン及びモータジェネレータの駆動力を備えたハイブリッド車両である。
フロントユニット3は、
図2に示すように、電動機及び発電機として作動する第1モータジェネレータMG1と、同じく電動機及び発電機として作動する第2モータジェネレータMG2と、エンジン4と、第1及び第2モータジェネレータMG1、MG2及びエンジン4が連結されているトランスミッション5と、トランスミッション5の出力により駆動される差動装置6とを有し、差動装置6から車両1の左右に延びる車軸7、7が、左の前輪2FL及び右の前輪2FRに連結されている。
【0010】
[第1実施形態のトランスミッションの内部構造]
図3は、トランスミッション5の内部構造を示すものであり、トランスミッションケース8に、第1及び第2モータジェネレータMG1、2、エンジン4及び差動装置6に連結する回転要素列9が配置されている。
この回転要素列9は、第1モータジェネレータMG1に回転軸10aを介して連結されている第1回転要素10と、差動装置6に回転軸11aを介して連結されている第2回転要素11と、エンジン4に回転軸12aを介して連結されている第3回転要素12と、第2モータジェネレータMG2に回転軸13aを介して連結されている第4回転要素13と、を備えている。そして、回転要素列9は、第1回転要素10及び第2回転要素11が第5回転要素14を介して連結され、第3回転要素12及び第4回転要素13が第6回転要素15を介して連結され、第2回転要素11及び第3回転要素12が変速機構16を介して連結されている。
【0011】
ここで、
図3は、トランスミッション5の内部に配置された回転要素列9を側面から示したものであり、最も下部に変速機構16が配置されており、変速機構16より高い位置に第2回転要素11が配置されている。そして、変速機構16の回転軸40が浸る程度の高さまでトランスミッションケース8内に潤滑オイル52が満たされている。なお、
図3の符号Lは、潤滑オイル52の油面である。
そして、変速機構16の下側の領域を囲むようにバッフルプレート46が配置されている。
【0012】
[第1実施形態の変速機構]
変速機構16は、
図4に示すように、入力軸17の一端側外周に入力歯車18が同軸に固定されており、この入力歯車18は、第2回転要素11の回転要素出力歯車19に噛合している。
また、入力軸17の他端側外周に第1出力歯車20が入力軸17に対して回転自在に同軸に配置されているとともに、第1出力歯車20及び入力歯車18の間の入力軸17の外周に、第1出力歯車20より歯車直径の大きな第2出力歯車21が入力軸17に対して回転自在に配置されている。
変速機構16の第1出力歯車20には、第3回転要素12の第1入力歯車22が噛合し、第2出力歯車21には、第3回転要素12の第2入力歯車23が噛合している。
そして、第1出力歯車20及び入力歯車18を結合状態とする第1変速、第2出力歯車21及び入力歯車18を結合状態とする第2変速、或いは第1出力歯車20及び第2出力歯車21のいずれも入力歯車18と非結合とするニュートラル状態とする歯車選択クラッチ50と、歯車選択クラッチの操作を行うクラッチ操作部51と、を備えている。
【0013】
次に、変速機構16の具体的な構造について、
図5から
図10を参照して詳細に説明する。
図5に示すように、中空円筒形状の入力軸17の軸P方向の一端は、ケース内壁8aにラジアル軸受25を介して回転自在に支持されており、入力軸17の軸P方向の他端は、ケース内壁8bにラジアル軸受26を介して回転自在に支持されている。
入力軸17の軸方向中央の外周には、
図5及び
図6に示すように、径方向外方に突出した円板形状のガイド部27が形成されている。
【0014】
ガイド部27には、軸P方向に対して直交する方向に外周まで貫通したシャフトスライド空隙部28が形成されている。このシャフトスライド空隙部28は、軸Pに沿って互いに平行に形成され、ガイド部27の軸P方向の両端面まで連続する一対のスライド面28a,28bが形成されている。
ガイド部27の外周には、軸P方向にスプライン歯29aが延在しているガイド側スプライン29が形成されている。
ガイド部27のガイド側スプライン29に、円環形状のクラッチスリーブ30の内スプライン歯31が係合している。
【0015】
クラッチスリーブ30の内周には、
図7及び
図8に示すように、ガイド側スプライン29のスプライン歯29aに噛み合うスプライン歯31aを備えたクラッチ側スプライン31と、スプライン歯31aの軸P方向の両端部のクラッチ側ドグ歯32,33とが形成されている。
図7で示すように、クラッチ側ドグ歯32、33は、クラッチ側スプライン31のスプライン歯31aの形状より小さな幅の歯でかつ先端が平面に設計されている。また、歯車側ドグ歯も同形状となっている。
【0016】
入力歯車18は、
図5に示すように、入力軸17の軸P方向の一端側(ラジアル軸受25側)の外周に固定されている。
第1出力歯車20は、
図5に示すように、ラジアル軸受26の内輪に接触している間座34と、入力軸17のガイド部27の軸P方向の一方の端面とに当接した状態で、入力軸17の外周に対して回転自在に配置されている。
第1出力歯車20のガイド部27及びクラッチスリーブ30に対向する面側は、肉厚を減少させることで第1収容凹部35が形成されており、この第1収容凹部35にガイド部27及びクラッチスリーブ30の一部が入り込んでいる。
【0017】
この第1収容凹部35の内部には、クラッチスリーブ30のクラッチ側ドグ歯32と噛み合う歯車側ドグ歯36が形成されている(
図9参照)。
第2出力歯車21は、入力軸の軸P方向の一端側に固定した入力歯車18のガイド部27を向く面と、入力軸17のガイド部27の軸P方向の他方の端面とに当接した状態で、入力軸17の外周に対して回転自在に配置されている。
第2出力歯車21のガイド部27及びクラッチスリーブ30に対向する面側も、肉厚を減少させることで第2収容凹部37が形成されており、この第2収容凹部37にもガイド部27及びクラッチスリーブ30の一部が入り込んでいる。
この第2収容凹部37の内部には、クラッチスリーブ30のクラッチ側ドグ歯33と噛み合う歯車側ドグ歯38が形成されている(
図10参照)。
【0018】
また、
図5に示すように、中空円筒形状の入力軸17には操作軸40が同軸に挿入されている。
操作軸40の軸内には、入力軸17を支持しているラジアル軸受25側の一方の端部から他方の端部側まで軸Pに沿って油路53が形成されている。
操作軸40には、
図5及び
図6に示すように、軸Pに直交する方向で操作軸40を貫通し、シャフトスライド空隙部28を通過して両端にクラッチスリーブ30が固定されているスリーブ連結シャフト41が連結されている。
操作軸40のラジアル軸受25側の一方の端部に、外部から潤滑オイル52を油路53に流し込むオイルチャンネル54が装着されているとともに、軸Pに沿う複数の位置に、油路53に流れ込んだ潤滑オイル52を操作軸40の外部に供給するオイル孔55が形成されている。
【0019】
そして、変速機構16の第2出力歯車21及び入力歯車18の下方領域を囲むように、バッフルプレート46が配置されている。
一方、変速制御装置(不図示)から変速制御信号が入力すると、変速伝達機構(不図示)を介して回転部材44に、R1方向の回転、或いはR2方向の回転が伝達される。
回転部材44には、スラスト移動部材43の周溝42に回転可能に係合しているスラスト変換部材45が連結されている。
そして、回転部材44がR1方向に回転すると、スラスト移動部材43が第1変速方向D1に移動し、回転部材44がR2方向に回転するとスラスト移動部材43が第2変速方向D2に移動する。
【0020】
ここで、
図4で示した歯車選択クラッチ50は、第1出力歯車20の第1収容凹部35に配置した歯車側ドグ歯36と、第2出力歯車21の第2収容凹部37に配置した歯車側ドグ歯38と、入力軸17のガイド部27と、ガイド部27に支持されて軸P方向にスライドするクラッチスリーブ30と、クラッチスリーブ30に設けられて歯車側ドグ歯36,38の一方に噛合するクラッチ側ドグ歯32,33とで構成されている。
また、
図4で示したクラッチ操作部51は、操作軸40と、スリーブ連結シャフト41と、スラスト移動部材43と、回転部材44と、スラスト変換部材45とで構成されている。
また、本発明に係る回転軸が入力軸17に対応し、本発明に係る第1歯車が入力歯車18に対応し、本発明に係る第2歯車が第1出力歯車20に対応し、本発明に係る第3歯車が第2出力歯車に対応している。
【0021】
[第1実施形態の変速機構の動作]
次に、変速制御装置から変速操作(第1変速、或いは第2変速)の制御信号が入力したときの変速機構16の動作について
図5を参照しながら説明する。
変速制御装置から第1変速の制御信号が入力すると、変速伝達機構を介して回転部材44にニュートラル位置NからR1方向の回転力が伝達される。回転部材44がニュートラル位置NからR1方向に回転すると、回転部材44から回転が伝達されたスラスト変換部材45がスラスト移動部材43を第1変速方向D1に移動させる。
【0022】
スラスト移動部材43が第1変速方向D1に移動すると、スラスト移動部材43に固定されている操作軸40も軸P方向に沿って同一方向(
図5の左方向)に移動する。
操作軸40が第1変速方向D1に移動すると、操作軸40に連結されているスリーブ連結シャフト41が、シャフトスライド空隙部28の一対のスライド面28a,28bに摺動しながら第1出力歯車20側に移動していく。
スリーブ連結シャフト41が第1出力歯車20側に移動していくことで、スリーブ連結シャフト41に固定されているクラッチスリーブ30も第1出力歯車20側に移動していく。
【0023】
この際、クラッチスリーブ30の内周に形成されているクラッチ側スプライン31は、入力軸17に一体に形成されたガイド部27のガイド側スプライン29に噛合しているので、クラッチスリーブ30は、ガイド側スプライン29に案内されながら第1出力歯車20側に移動していく。
そして、クラッチスリーブ30のクラッチ側スプライン31の先端に形成されているクラッチ側ドグ歯32が、第1出力歯車20の歯車側ドグ歯36に噛合することで、第1出力歯車20及び入力歯車18が、歯車側ドグ歯36、クラッチ側ドグ歯32、クラッチスリーブ30のクラッチ側スプライン31、ガイド部27のガイド側スプライン29及び入力軸17を介して結合状態となり、第1変速の切換え操作が完了する。
【0024】
次に、変速制御装置から第2変速に切換える制御信号が入力すると、先ず、変速伝達機構を介して回転部材44にはR2方向の回転力が伝達され、回転部材44がニュートラル位置Nまで回転する。回転部材44がニュートラル位置Nまで回転すると、スラスト変換部材45を介してスラスト移動部材43が中立位置まで移動し、クラッチスリーブ30が第1出力歯車20から離れて、第1出力歯車20の歯車側ドグ歯36とクラッチスリーブ30のクラッチ側ドグ歯32の噛合が解除される。
次いで、変速伝達機構を介して回転部材44にニュートラル位置NからR2方向の回転が伝達される。回転部材44がニュートラル位置NからR2方向に回転すると、回転部材44から回転が伝達されたスラスト変換部材45がスラスト移動部材43を第2変速方向D2に移動させる。
【0025】
スラスト移動部材43が第2変速方向D2に移動すると、スラスト移動部材43に固定されている操作軸40も軸P方向に沿って同一方向(
図5の右方向)に移動する。そして、操作軸40に連結されているスリーブ連結シャフト41も、シャフトスライド空隙部28の一対のスライド面28a,28bに摺動しながら第2出力歯車21側に移動していく。
スリーブ連結シャフト41が第2出力歯車21側に移動していくことで、スリーブ連結シャフト41に固定されているクラッチスリーブ30も第2出力歯車21側に移動していく。この場合にも、クラッチスリーブ30は、ガイド側スプライン29に案内されながら第2出力歯車21側に移動していく。
【0026】
そして、クラッチスリーブ30のクラッチ側スプライン31の先端に形成されているクラッチ側ドグ歯33が、第2出力歯車21の歯車側ドグ歯38に噛合することで、第2出力歯車21及び入力歯車18は、歯車側ドグ歯38、クラッチ側ドグ歯33、クラッチスリーブ30のクラッチ側スプライン31、ガイド部27のガイド側スプライン29及び入力軸17を介して結合状態となり、第2変速の切換え操作が完了する。
ここで、変速機構16を第1変速及び第2変速の間で切り替える際には、入力軸17と第1出力歯車20又は第2出力歯車21の回転を略合わせて変速することでシンクロ機構を必要とせずに、クラッチスリーブ30のクラッチ側ドグ歯32と第1出力歯車20の歯車側ドグ歯36との噛合、或いは、クラッチスリーブ30のクラッチ側ドグ歯33と第2出力歯車21の歯車側ドグ歯38との噛合をスムーズに行うことができる。
【0027】
[第1実施形態のトランスミッション内部の潤滑について]
図3に示すように、差動装置6の回転による第2回転要素11、変速機構16の入力歯車18、第1出力歯車20及び第2出力歯車21が回転することで、トランスミッションケース8内に満たされている潤滑オイル52の油面Lが変動する。
ここで、変速機構16は、第2出力歯車21及び入力歯車18の下方領域を囲むように配置されているバッフルプレート46により、変速機構16の周囲の潤滑オイル52の第2出力歯車21及び入力歯車18が、かき上げる潤滑オイル52を抑制することができるので、潤滑オイル52が第2回転要素11側に流れやすくなる。そのため、第2回転要素11側に潤滑オイル52が供給され、第2回転要素により供給された潤滑オイル52が、トランスミッションケース8を伝わってオイルチャンネル54から油路53に流れ込む。
【0028】
そして、
図4、
図5で示すように、変速機構16や第2回転要素11等の各ギヤによりかき上げられたトランスミッションケース8内の潤滑オイル52は、変速機構16の操作軸40の端部に装着したオイルチャンネル54から油路53に流れ込む。操作軸40の油路53に流れ込んだ潤滑オイル52は、操作軸40に形成したオイル孔55から操作軸40の外部に流れ出る。そして、オイル孔55から操作軸40の外部に流れ出た潤滑オイル52は、入力軸17の回転により放射状に流れていき、各軸受け、スラスト移動部材43の周溝42とスラスト変換部材45の摺動部、クラッチスリーブ30のクラッチ側ドグ歯32,33,第1出力歯車20の歯車側ドグ歯36及び第2出力歯車21の歯車側ドグ歯38に達する。
【0029】
[第1実施形態の変速機構の効果]
次に、第1実施形態の変速機構16の効果について説明する。
歯車選択クラッチ50が第1出力歯車20及び第2出力歯車21の間に配置されており、クラッチ操作部51が入力軸17内に配置され、軸P方向に進退させることで歯車選択クラッチ50を操作するようにしており、入力軸17、第1出力歯車20及び第2出力歯車21の外側に、変速を制御する機構を配置していないので、小型でコンパクトな変速機構16とすることができる。
【0030】
また、第1出力歯車20に形成した第1収容凹部35にガイド部27及びクラッチスリーブ30の一部が入り込んでおり、第2出力歯車21に形成した第2収容凹部37にもガイド部27及びクラッチスリーブ30の一部が入り込んだ状態で変速機構16が形成されているので、軸P方向の寸法が小さくなり、さらに小型の変速機構16を提供することができる。
そして、クラッチスリーブ30の内周に形成されているクラッチ側スプライン31は、入力軸17に一体に形成されたガイド部27のガイド側スプライン29に噛合しており、クラッチスリーブ30は、ガイド側スプライン29に案内されながら軸P方向に沿って第1出力歯車20、或いは第2出力歯車21に向けて移動するので、クラッチスリーブ30の軸P方向の移動をスムーズに行うことができる。
【0031】
また、クラッチスリーブ30のクラッチ側スプライン31の両端部に、第1出力歯車20の歯車側ドグ歯36に噛み合うクラッチ側ドグ歯32と、第2出力歯車21の歯車側ドグ歯38に噛み合うクラッチ側ドグ歯33とが形成され、同期装置を有さないので、歯車選択クラッチ50の軸P方向の寸法の短尺化を促進し、さらに変速機構16の小型化を図ることができる。
また、クラッチ操作部51を、入力軸17に対して二重管構造とした操作軸40と、操作軸40及びクラッチスリーブ30を連結するスリーブ連結シャフト41と、操作軸40を軸P方向に移動させるスラスト移動部材43、回転部材44及びスラスト変換部材45とを備えた構成としたことで、大きな操作スペースを必要としない簡便な操作機構とすることができる。