(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6285550
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】金属締結具
(51)【国際特許分類】
F16B 33/06 20060101AFI20180215BHJP
F16B 35/00 20060101ALI20180215BHJP
B64C 1/00 20060101ALI20180215BHJP
B64D 45/02 20060101ALI20180215BHJP
F16B 19/05 20060101ALN20180215BHJP
F16B 19/08 20060101ALN20180215BHJP
C25D 11/02 20060101ALN20180215BHJP
【FI】
F16B33/06 A
F16B35/00 Y
F16B35/00 R
F16B33/06 C
B64C1/00 A
B64C1/00 B
B64D45/02
!F16B19/05
!F16B19/08 D
!C25D11/02
【請求項の数】11
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-526670(P2016-526670)
(86)(22)【出願日】2013年10月10日
(65)【公表番号】特表2016-532833(P2016-532833A)
(43)【公表日】2016年10月20日
(86)【国際出願番号】FR2013052427
(87)【国際公開番号】WO2015007957
(87)【国際公開日】20150122
【審査請求日】2016年9月6日
(31)【優先権主張番号】1357157
(32)【優先日】2013年7月19日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】513128349
【氏名又は名称】リシー・エアロスペース
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】レニャー,ブノワ
(72)【発明者】
【氏名】ゴイエル,ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】ブルーク,マルティアル
【審査官】
保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】
特表2012−522683(JP,A)
【文献】
特開2012−163205(JP,A)
【文献】
特開2009−127777(JP,A)
【文献】
特開2012−189222(JP,A)
【文献】
特表2013−508646(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0272537(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64B1/00−1/70
B64C1/00−99/00
B64D1/00−47/08
B64F1/00−5/00
B64G1/00−99/00
C25D11/00−11/38
F16B17/00−19/14
23/00−43/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
拡大頭部(12)と、構造体と接触するように意図されかつ回転軸(A)に沿って伸長する滑性軸部(14)とを備える金属締結具(10)であって、
沈着された潤滑剤から形成される少なくとも1つの潤滑部(22)が、前記滑性軸部(14)の表面の一部分に配置されかつ前記締結具の回転軸(A)に沿いながら前記滑性軸部の全長にわたって連続的に伸長し、
前記滑性軸部(14)の長さに沿って伸長する少なくとも1つの導電部(24)が、組み立てられるすべての構造部品上で電気接触表面を確保するために、前記滑性軸部(14)の表面の残された部分に形成されていることを特徴とする金属締結具(10)。
【請求項2】
導電性表面積は、前記金属締結具(10)が挿入された時の前記構造体との接触表面積の20%〜80%であることを特徴とする請求項1に記載の金属締結具(10)。
【請求項3】
滑性軸部(14)は、前記金属締結具(10)の挿入時に徐々に剥がれるように意図された低密着の第2の潤滑層によって被膜されていることを特徴とする請求項1に記載の金属締結具(10)。
【請求項4】
前記導電部(24)及び前記潤滑部(22)は締結具の前記回転軸(A)に平行に配置することを特徴とする請求項1に記載の金属締結具(10)。
【請求項5】
少なくとも2つの潤滑部(22)は締結具の前記回転軸(A)を中心に向かい合って配置することを特徴とする請求項4に記載の金属締結具。
【請求項6】
前記導電部(24)及び前記潤滑部(22)は締結具の前記回転軸(A)を中心に螺旋状に配置することを特徴とする請求項1に記載の金属締結具(10)。
【請求項7】
前記導電部(24)は、露出金属部、又は導電層(26)に被覆された露出金属部であることを特徴とする請求項1に記載の金属締結具(10)。
【請求項8】
前記潤滑部(22)は、固体潤滑膜、又はアルミニウム顔料を含む有機樹脂被膜であることを特徴とする請求項1に記載の金属締結具(10)。
【請求項9】
前記軸部(14)は円筒形状又は円錐形状であることを特徴とする請求項1に記載の金属締結具(10)。
【請求項10】
内径が締結具の前記軸部の外径より小さい金属スリーブを更に備えることを特徴とする請求項1に記載の金属締結具(10)。
【請求項11】
螺子山又はロック溝を備える係止部(16)を有することを特徴とする請求項1に記載の金属締結具(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は部分的な潤滑被膜を有する金属締結具に関する。本発明の技術分野は概して、締結具の技術分野である。より具体的には、本発明は螺子、ロック溝締結具、及び航空機の事前に穿孔した部材などの構造部材を組立てる目的の任意の他の金属締結具に関する。このような締結具は、一般に、ステンレス鋼やチタン合金のような金属材料から作製される。
【背景技術】
【0002】
新世代の飛行機は、飛行機の質量を大幅に減少させ、疲労現象に影響を受けない利点を有する複合材料構造を採用している。しかし金属構造体とは異なり、複合材料には導電性が不十分であるという欠点があり、落雷耐性の問題もある。落雷に抵抗するには、空気の絶縁破壊を防止するために、締結具と穴の間に存在する空間すべてを塞ぐ必要がある。
【0003】
先行技術では、文献、国際公開公報第2011/050040号(特許文献1)は締まり嵌めで複合材料に設置したスリーブ締結具を教示している。締まり嵌めは、締結具を受け入れる穴の直径より大きい外径の締結具を設置することと定義しており、締結具を設置するときに穴を拡大させることである。締結具には、螺子部上、及びストレート軸部と螺子部との間の移行部上に潤滑被膜を有する棒軸が備えられ、スリーブへの棒軸の挿入を容易にしている。
【0004】
この締結システムの欠点は、軸部上の潤滑被膜が非常に少なく、締結具を設置するために非常に大きな力が必要になることである。
【0005】
また、組立てる構造体が厚くなる程、締め付け締結具の挿入に必要な力が大きくなる。その力は締結具を設置する際の最大の力を超える恐れがあり、その力を超えると、螺子山、牽引溝又は結束工具のいずれかで締結具が破壊される。
【0006】
文献、英国特許第2212580号(特許文献2)は、複合材料構造体に設置したスリーブのない金属締結具を教示していることも公知である。この締結具は軸部の一部に、誘電性潤滑被膜―TEFLON(登録商標)又はMoS
2型―を備え、締結具が穴に挿入できるようにしている。落雷に打たれる可能性がある航空機構造体の外表面によって支持された、頭部に接続された軸部の一部は、導電性の露出金属軸部を介して、電流を締結具の頭部から航空機の構造体へ通過させるために露出したままにしてある。この締結具の欠点は、任意にヘッドに近づけて配置した単一の導電性部分が含まれていることであり、このことにより、隣接する構造体が比較的導電性があるか、又は導電性金属メッシュを備えることが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開公報第2011/050040号
【特許文献2】英国特許第2212580号
【特許文献3】米国特許第3,983,304号
【特許文献4】欧州特許第2,406,336号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本出願の1つの目的は、上述の先行技術の締結具の問題に対処することである。本発明の1つの目的は、部材が落雷に打たれたとき、設置する力をあまり必要とせずに少なくとも1つの低導電層を有する構造体のすべての層に電気を通すことができる締結具を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従って、本発明の対象は、拡大された頭部及び回転軸に沿って伸張している滑性軸部を備える金属締結具であり、上記軸部は、締結具の回転軸に沿って連続的に配置された少なくとも1つの導電部及び1つの潤滑部を有している。
【0010】
導電性ストリップの大きさに従って、部品が導体として良好又は不良であるかに関わらず―構造体の組成に関係なく―、本発明の締結具は、組み立てられるすべての構造部品上で電気接触表面を確保することを可能にする。従って当該締結具は、特定の場所で導電性被膜を必要とすることなく、どのような構造にも設置することが可能である。
【0011】
本発明に従った締結具は、全体が複合材料から形成された構造体、又は複合体及び例えばアルミニウム合金やチタン合金のような金属材料の両方を使用する構造体を意味する組み合わせた構造体中に設置することも可能である。これらの例の両方において、本発明に従った締結具の挿入とは、締結具を設置する際の複合体が層剥離するリスクすべてを避けて構造体と締結具との間にあるエアポケットすべてを充填するために構造体の穴に事前に配置した金属スリーブ中に締まり嵌めをすることでもある。
【0012】
本発明の締結具はアルミニウム又はチタンから形成されたものなど、単一の金属構造体に設置することも可能である。
【0013】
本発明の締結具は以下の特長を1つ又は複数有する:
‐ 導電部及び潤滑部は締結具の回転軸に平行に配置し、
‐ 少なくとも2つの潤滑ストリップは、締結具の回転軸を中心に向かい合って配置し、
‐ 導電部及び潤滑部は締結具の回転軸を中心に螺旋状になっており、
‐ 導電性部分は、露出金属部、又は導電層に被覆された露出金属部であり、
‐ 潤滑部は、固体潤滑膜又はアルミニウム顔料を含む有機樹脂被膜であり、
‐ 締結具の軸部は円筒形状又は円錐形状であり、
‐ 締結具は、内径が締結具の軸部の外径より小さい金属スリーブを更に備え、
‐ 係止部は、螺子山又は複数のロック溝である。
【0014】
本発明及びその多様な用途は、以下の説明を読み、添付図面を検討することでより詳細に理解できるものである。これらの図面は単に例示として示すものであり、本発明を何ら制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】
図1Aは本発明に従った第1の例示的な締結具の端面図を示す概略図である;
【
図1B】
図1Bは本発明に従った第1の例示的な締結具の側面図を示す概略図である;
【
図2A】
図2Aは本発明に従った第2の例示的な締結具の端面図を示す概略図である;
【
図2B】
図2Bは本発明に従った第2の例示的な締結具の側面図を示す概略図である;
【
図3A】
図3Aは本発明に従った第3の例示的な締結具の端面図を示す概略図である;
【
図3B】
図3Bは本発明に従った第3の例示的な締結具の側面図を示す概略図である;
【
図4】
図4は本発明に従った第4の例示的な締結具の側面図を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1A及び1Bは本発明に従った第1の例示的な締結具を概略的に示している。
図1Bは、突出している拡大頭部12、円筒状滑性軸部14、及びナット(図示せず)を締め付けることが可能な螺子山形態の係止部16が備えられているチタン合金TiA6V製などの金属締結具10を示している。事前に穿孔した構造体に挿入するため、当該締結具は棒軸の牽引を可能にする牽引幹部18を更に備える。その幹部18は、棒軸10の一体化部分としても、又は螺子山部16の内側に形成された埋め込み端に挿入された螺子山端により取り外し可能にしてもよい。この牽引幹部は任意であり、省略してもよい。
【0017】
金属であるか、又は複合材料から形成された1種以上の材料から成る構造体と接触するように意図された滑性軸部14は露出している。それは電解腐食に対する耐性を改善するために、硫酸陽極酸化によって酸化することが好ましい。螺子山部16の全体を潤滑部20の層で被覆し、設置している間のナットの磨滅を防止する。滑性軸部には、締結具の回転軸Aに平行なストリップの形態で配置された潤滑被膜の2つの部分22が更に含まれる。各潤滑部22は滑性軸部14及び頭部12の下部まで伸長している。
図1Aに示すとおり、2つの潤滑ストリップ22は回転軸Aを中心に向かい合って、各ストリップ間で90°の間隔で配置している。潤滑ストリップ22間に残された軸部14の表面24は導電性であり、軸部14の長さXに沿って伸長している。この例では、軸部14は、50%の潤滑接触表面積及び50%の導電性表面積を有する。導電部24は、回転軸Aに平行に配置され、締結具が挿入される構造体の組成に関係なく、導電が確保される。潤滑部22により、滑性軸部14の潤滑がその全体で確実に最小限になり、それにより締結具はさほど大きな力を要せず、締結具の破壊のリスクもなく設置することが可能となる。
【0018】
螺子山16及び潤滑部22を被覆するために使用する潤滑剤は、MoS
2型の、又は、より一般的にSAE AS5272規格に準拠した固形滑膜とすることも可能である。潤滑剤はまた、カリフォルニア州Torrance、Hi‐Shear Corp.製の被膜剤HI‐KOTE(登録商標)1又はHI‐KOTE(登録商標)1NCなどのアルミニウム顔料を含む有機樹脂でもよい。このタイプの被膜剤は例えば、米国特許第3,983,304号(特許文献3)及び欧州特許第2,406,336号(特許文献4)に記載されている。潤滑剤はまた、NAS4006規格に記載されたタイプのものであってもよい。潤滑剤は、例えば噴霧により5〜13μmの厚さに沈着させる。棒軸は、セチルアルコールなどの第2の潤滑層で被覆してもよい。この第2の被膜は、構造体への締結具の挿入を容易にし、しかも表面に強力に付着している訳ではないため、徐々に設置位置から剥がれ落ちる。
【0019】
図2a及び
図2bは
図1A及び1Bを参照して説明した締結具と同様の締結具10を示す。唯一の違いは、滑性軸部14上に塗布された潤滑部22の数である。これらの図では、軸部14は、
図2Aに示すとおり回転軸Aを中心に向かい合って、各ストリップ間で45°の間隔で配置された4つの潤滑部22に被覆されている。この例では、導電性ストリップ24の総導電性表面積は、締結具の軸部と構造体との間の接触表面積の50%である。
【0020】
図3a及び
図3bは
図1A及び1Bを参照して説明した締結具と同様の締結具10を示す。その違いは、締結具全体が第1の導電層26で被覆され、その第1の金属層26に塗布した2つの潤滑部22が備えられていることである。導電層26により、締結具10と構造体との間の電気伝導が向上する。それはアルミニウムの析出金属又は導電性有機被膜の形態で形成することも可能である。
【0021】
図4は、本発明の第4の例示的な実施形態を示している。締結具は
図1A及び1Bを参照して説明した締結具と同一である。その違いは、潤滑部22が、締結具10の回転軸Aを中心に巻き付いている螺旋の形態で形成されていることである。導電部24も螺旋状である。
【0022】
当然ながら、本発明は、上記の例に限定するものではなく、締結具の形状及び/又は使用する材料は可変である。従って、潤滑部22の数は可変であり、被覆する表面積の割合も締結具の予測される性能に応じて可変である。導電性表面積の割合は、締結具の軸部と構造体との間の接触表面積の50%であることが好ましいが、この割合は締結具の軸部と構造体との間の接触表面積の20%〜80%の間で可変である。総導電性表面積の所望の割合に従って導電部24及び潤滑部22の幅を調整する必要があることから、長さXは可変であり、滑性軸部14の一部のみを被覆してもよい。頭部の下部も潤滑剤で被覆しなくてもよい場合がある。
【0023】
1つの変形例では、係止部16は、金属カラーを加締めたロック溝から形成することも可能である。このような例では、その部分に潤滑剤を差す必要はない。滑性軸部14は円錐形であり、円錐形のキリ穴に設置しても、あるいは、円錐形のキリ穴より形成し易い円筒形のキリ穴に組立て部品を設置するために内表面が円錐形で外表面が円筒形の任意のスリーブに設置してもよい。本発明の装置をスリーブと併用する場合、スリーブの内径は締結具の軸部の外径よりも小さく、それにより、締結具が一旦挿入されると、構造体のキリで開けられた穴の側面に対してスリーブが放射状に拡張する。この変形例は特に、複合材料の少なくとも1層を含む構造体によく適している。
【0024】
締結具の頭部12に皿穴を開け、構造体に形成された付加的な皿穴に嵌めることも可能である。