(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
中心軸Zの周囲に交互に分散された少なくとも3個の山セクタ(3)と、同じ数の谷セクタ(4)とを含むサイクロトロン(1)用の磁極(2)であって、各山セクタが上表面(3U)を含み、前記上表面(3U)が、
− 第1および第2の上側遠位端(3ude)によって境界を定められ、かつ前記中心軸から最も遠くに配置された前記上表面の縁部として画定される上側周囲縁部(3up)、
− 第1および第2の上側近位端(3upe)によって境界を定められ、かつ前記中心軸の最も近くに配置された前記上表面の縁部として画定される上側中心縁部(3uc)、
− 前記第1の上側遠位端および第1の上側近位端を接続する第1の上側側縁部(3ul)、
− 前記第2の上側遠位端および第2の上側近位端を接続する第2の上側側縁部(3ul)
によって画定される、磁極(2)において、
山セクタの前記上側周囲縁部が、円弧であって、その中心が前記中心軸に対してオフセットされ、およびその半径Rhが、前記中心軸から、前記第1および第2の上側遠位端まで等距離である前記上側周囲縁部の中間点までの距離Lhの85%以下である(Rh/Lh≦85%)、円弧を含むことを特徴とする、磁極(2)。
請求項2に記載の磁極において、前記円弧の前記中心が前記上表面の二等分線上にあり、前記二等分線が、前記中心軸と前記上側周囲縁部の前記中間点とをつなぐ直線として画定されることを特徴とする、磁極。
請求項1乃至3の何れか1項に記載の磁極において、前記中心軸から前記上側周囲縁部の前記中間点までの前記距離Lhに対する前記円弧の前記半径Rhの比率Rh/Lhが75%以下、好ましくは65%以下であることを特徴とする、磁極。
請求項1乃至4の何れか1項に記載の磁極において、前記円弧が前記上側周囲縁部の前記第1の上側遠位端から前記第2の上側遠位端まで延在することを特徴とする、磁極。
ギャップ内に含まれる所与の経路を介して粒子ビームを加速するためのサイクロトロンにおいて、請求項1乃至7の何れか1項に記載の第1および第2の磁極を含み、前記第1および第2の磁極が配置されて前記ギャップを形成し、それらの各上表面が互いに向き合い、かつ前記第1および第2の磁極の前記中心軸に対して垂直な中間面に対して対称に向き、前記中心軸が同軸であり、従って2つの対向する山セクタ間の山ギャップ部分(7h)と、2つの対向する谷セクタ間に画定された谷ギャップ部分(7v)とを形成することを特徴とする、サイクロトロン。
請求項8に記載のサイクロトロンにおいて、半径Rhの円弧を含む周囲縁部をそれぞれ有する前記第1および第2の磁極の山セクタの2つの対向する上表面間の山ギャップ部分内に配置された第1の取出し地点(PE1)を含み、
・前記粒子ビームの前記所与の経路が、前記第1の取出し地点PE1まで前記中心軸の周囲を回る外向き螺旋経路であり、それにより、前記粒子ビームが所与のエネルギーで前記サイクロトロンから排出されることができ、および
・前記上側周囲縁部の対の前記円弧が、前記第1の取出し地点PE1の直接上流の前記所与の経路の一部と平行でありかつそれを相似的に再現し、ここで、上流が前記粒子ビームの移動方向に対して定義されることを特徴とする、サイクロトロン。
請求項9に記載のサイクロトロンにおいて、前記第1の取出し地点(PE1)の下流に、かつ対向する山セクタの同じ対の前記上側周囲縁部に隣接して前記山ギャップ部分内に配置された第2の取出し地点(PE2)をさらに含み、前記粒子ビームが前記第2の取出し地点で前記所与のエネルギーで前記サイクロトロンから排出されることができ、前記上側周囲縁部の対の前記円弧が、前記第2の取出し地点の直接上流の前記所与の経路の一部と平行でありかつそれを相似的に再現することを特徴とする、サイクロトロン。
請求項10に記載のサイクロトロンにおいて、使用時、粒子ビームが前記第1の取出し地点(PE1)の下流の第1の取出し経路を辿るか、または代替的に前記第2の取出し地点(PE2)の下流の第2の取出し経路を辿り、前記山ギャップ部分内に含まれる前記第1の取出し経路の長さL1が、同じ山ギャップ部分内に含まれる前記第2の取出し経路の長さL2に等しいことを特徴とする、サイクロトロン。
請求項8乃至10の何れか1項に記載のサイクロトロンにおいて、前記第1および第2の磁極が請求項7に記載の磁極であり、前記上側周囲縁部が、対応する山セクタの前記周囲表面(3P)に少なくとも部分的に延在する窪みを画定する凹状部分を含むことを特徴とする、サイクロトロン。
【背景技術】
【0002】
サイクロトロンは一種の円形粒子加速器であり、そこでは負または正に帯電した粒子がサイクロトロンの中心から外側へ、螺旋状経路に沿って数MeVのエネルギーまで加速される。別段の指示のない限り、用語「サイクロトロン」は、以下、等時性サイクロトロンに言及するために使用される。サイクロトロンは様々な分野、例えば核物理学において、陽子治療などの医療的処置において、または放射性薬理学において使用される。特に、サイクロトロンは、PET画像作成(陽電子放出断層撮影)に好適な短寿命陽電子放出同位元素を生成するために、またはSPECT画像作成(単一光子放射型コンピュータ断層撮影)用にガンマ放出同位元素、例えばTc99mを生成するために使用可能である。
【0003】
サイクロトロンはいくつかの要素を含み、それらには、入射システム、荷電粒子を加速するための高周波(RF)加速システム、加速された粒子を正確な経路に沿って案内するための磁気システム、そのようにして加速された粒子を収集するための取出しシステム、およびサイクロトロン内に真空を生成し維持するための真空システムが含まれる。
【0004】
荷電イオンから構成された粒子ビームは、相対的に低い初期速度で入射システムによってサイクロトロンの中心またはその近くでギャップに導入される。
図3に示されるように、この粒子ビームは連続的かつ反復的にRF加速システムによって加速され、磁気システムによって発生される磁場により、ギャップ内に含められた螺旋経路に沿って外に向かって案内される。粒子ビームはその目標エネルギーに達すると、取出し地点PEに設けられた取出しシステムによってサイクロトロンから取り出され得る。この取出しシステムは、例えば、グラファイトの薄いシートから構成された抜取機を含むことができる。例えば、抜取機を通過するH
−イオンは2つの電子を失い、陽性になる。その結果として、磁場のそれらの経路の曲率がそのサインを変化させ、そのようにして粒子ビームはターゲットに向かってサイクロトロンから放出される。当業者に周知の他の取出しシステムが存在する。
【0005】
磁気システムは磁場を生成し、磁場は、荷電粒子のビームを、それがその目標エネルギーに加速されるまで、螺旋経路に沿って案内かつ収束する。以下、用語「粒子」、「荷電粒子」および「イオン」は、同義語として区別せずに使用される。磁場は、2つの磁極間に画定されたギャップ内に、これら磁極の周囲に巻かれた2つのソレノイド巻きコイル14によって生成される。サイクロトロンの磁極は、中心軸の周囲に分散された交互に存在する山セクタと谷セクタとに分割されることが多い。2つの磁極間のギャップは、山セクタにおいてより小さく、谷セクタにおいてより大きい。そのようにして強い磁場が山セクタ内の山ギャップ部分中に生成され、より弱い磁場が谷セクタ内の谷ギャップ部分中に生成される。そのような方位角磁場変化は、粒子ビームが山ギャップ部分に達するたびに、粒子ビームの半径方向および垂直方向の収束をもたらす。このため、そのようなサイクロトロンは時にセクタ収束型サイクロトロンと称される。いくつかの実施形態では、山セクタは、一切れのケーキと同様の円形セクタの形状を有し、中心軸に向かって実質的に半径方向に延在する第1および第2の側表面と、全体的に湾曲した周囲表面と、中心軸に隣接する中心表面と、山ギャップ部分の片側を画定する上表面とを有する。上表面は第1および第2の側縁部と、周囲縁部と、中心縁部とによって境界を定められる。
【0006】
サイクロトロンの同じ山セクタの2つ以上の地点から粒子ビームを取り出すために2つ以上の取出し地点を有することは一般的である。同じ山セクタ内に少なくとも第2の取出し地点を有する利点は、第1の取出し地点が正常に作動しない場合に備えて予備の取出し地点を提供し、従って運転の連続性を保証することである。別の利点は、粒子ビームの一部のみをインターセプトするように第1の抜取機を配置することにより、および第1の抜取機の横を通過した粒子ビームの残りの部分の一部または全てをインターセプトするように第2の抜取機を配置することにより、同じエネルギーを有する同じイオンを2つの異なる目標に同時に導くことである。しかしながら、少なくとも2つの取出し地点に関する1つの大きい問題は、第1の取出し地点から取り出される粒子ビームが第2の取出し地点から取り出される粒子ビームと同じ特性(エネルギー、収束等)を有することを保証することである。今日までこの問題に対する満足な解決策は得られていない。
【0007】
従って、取り出される粒子ビームの光学特性が山ギャップ部分内に配置された取出し地点の位置に依存しない、等時性セクタ収束型サイクロトロンを提供する必要性が当該技術分野に依然としてある。これは特に、同じ山セクタ内に少なくとも第1および第2の取出し地点を有するサイクロトロンに有利であり、ここで、第1の取出し地点から取り出された粒子ビームは第2の取出し地点から取り出された粒子ビームと同じ特性を有する。
【発明の概要】
【0008】
本発明は添付の独立請求項中で定義される。好ましい実施形態は従属請求項中で定義される。
【0009】
本発明は、中心軸Zの周囲に交互に分散された少なくとも3個の山セクタと、同じ数の谷セクタとを含むサイクロトロンの磁極であって、各山セクタが上表面を含み、前記上表面が、
・第1および第2の上側遠位端によって境界を定められ、かつ中心軸から最も遠くに配置された上表面の縁部として画定される上側周囲縁部、
・第1および第2の上側近位端によって境界を定められ、かつ中心軸の最も近くに配置された上表面の縁部として画定される上側中心縁部、
・第1の上側遠位端および第1の上側近位端を接続する第1の上側側縁部、
・第2の上側遠位端および第2の上側近位端を接続する第2の上側側縁部
によって画定される、磁極において、
山セクタの上側周囲縁部が、円弧であって、その中心が中心軸に対してオフセットされ、およびその半径Rhが、中心軸から、第1および第2の上側遠位端まで等距離である上側周囲縁部の中間点までの距離Lhの85%以下である(Rh/Lh≦85%)、円弧を含むことを特徴とする、磁極に関する。
【0010】
好ましくは、円弧の中心は対応する山セクタの上表面内にある。
【0011】
より好ましくはおよび対称性のために、円弧の中心は上表面の二等分線上にあり、前記二等分線は、中心軸と中間点とをつなぐ直線として画定される。
【0012】
中心軸から中間点までの距離Lhに対する円弧の半径Rhの比率Rh/Lhは75%以下、好ましくは65%以下である。
【0013】
機械加工のために、円弧は上側周囲縁部の第1の上側遠位端から第2の上側遠位端まで延在することができる。
【0014】
好ましくは、磁極の各谷セクタは底表面を含み、および各山セクタは、
(a)第1および第2の側表面(3L)であって、それぞれ第1および第2の上側側縁部から、山セクタの両側に位置する対応する谷セクタの底表面まで横切って延在し、従って第1および第2の下側側縁部(3ll)を、側表面を隣接する底表面と交差させる縁部として画定し、前記第1および第2の下側側縁部がそれぞれ中心軸から最も遠くに配置された下側遠位端を有する、第1および第2の側表面(3L)と、
(b)上側周囲縁部から、第1および第2の下側側縁部の下側遠位端(3lde)によって境界を定められるセグメントとして画定される下側周囲線(3lp)まで延在する周囲表面(3P)と
を含む。
【0015】
磁場の滑らかな変化を有するために、周囲表面は上側周囲縁部に隣接する面取り部を形成する。
【0016】
本発明はまた、ギャップ内に含まれる所与の経路を介して粒子ビームを加速するためのサイクロトロンに関し、前記サイクロトロンは、上に記載したような第1および第2の磁極を含み、第1および第2の磁極が配置されて前記ギャップを形成し、それらの各上表面は互いに向き合い、かつ第1および第2の磁極の中心軸に対して垂直な中間面に対して対称に向き、前記中心軸は同軸であり、従って2つの対向する山セクタ間の山ギャップ部分と、2つの対向する谷セクタ間に画定された谷ギャップ部分とを形成する。
【0017】
好ましくは、サイクロトロンは、半径Rhの円弧を含む周囲縁部をそれぞれ有する第1および第2の磁極の山セクタの2つの対向する上表面間の山ギャップ部分内に配置された第1の取出し地点を含み、粒子ビームの所与の経路は、前記第1の取出し地点PE1まで中心軸の周囲を回る外向き螺旋経路であり、それにより、粒子ビームは所与のエネルギーでサイクロトロンから排出されることができ、および前記上側周囲縁部の対の円弧は、第1の取出し地点の直接上流の所与の経路の一部と平行でありかつそれを再現し、ここで、上流は粒子ビームの移動方向に対して定義される。
【0018】
サイクロトロンはまた、第1の取出し地点の下流に、かつ対向する山セクタの同じ対の上側周囲縁部に隣接して山ギャップ部分内に配置された第2の取出し地点をさらに含むことができ、粒子ビームは前記第2の取出し地点で前記所与のエネルギーでサイクロトロンから排出されることができ、前記上側周囲縁部の対の円弧は、第2の取出し地点の直接上流の所与の経路の一部と平行でありかつそれを再現する。
【0019】
サイクロトロンは、使用時、粒子ビームが第1の取出し地点の下流の第1の取出し経路を辿るか、または代替的に第2の取出し地点の下流の第2の取出し経路を辿り、山ギャップ部分内に含まれる第1の取出し経路の長さL1は、同じ山ギャップ部分内に含まれる第2の取出し経路の長さL2に等しい。
【0020】
好ましくは、サイクロトロンの磁極の上側周囲縁部は、対応する山セクタの周囲表面に少なくとも部分的に延在する窪みを画定する凹状部分を含む。
【0021】
好ましくは、サイクロトロンの磁極の少なくとも1つの山セクタの上表面は、
・中心軸と交差する長手方向軸に沿って延在する窪みであって、第1および第2の上側側縁部の長さの少なくとも80%から分離される窪みと、
・前記窪みと一致する形状を有し、および前記窪み内に配置されかつ前記窪みに可逆的に結合される極インサートと
をさらに含む。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明によるサイクロトロンの形状
本発明は、等時性セクタ収束型サイクロトロンに関し、以下、上掲の背景技術の節で考察した種類のサイクロトロンとして言及される。
図3に示されるように、本発明によるサイクロトロンは、荷電粒子を、サイクロトロンの中心領域から外方へ、螺旋状経路12に沿って、それらが数MeVのエネルギーで取り出されるまで加速する。例えば、そのようにして取り出された荷電粒子は、陽子、H
+、または重陽子、D
+であり得る。好ましくは、取り出される粒子によって到達されるエネルギーは、5〜30MeV、より好ましくは15〜21MeV、最も好ましくは18MeVである。そのようなエネルギーのサイクロトロンは、例えば、PET画像作成(陽電子放出断層撮影)での使用に好適な短寿命陽電子放出同位元素を生成するために、またはSPECT画像作成(単一光子放射型コンピュータ断層撮影)用にガンマ放出同位元素、例えばTc99mを生成するために使用される。
【0025】
図1に示されるように、本発明によるサイクロトロン1は、2つの基板5と、一緒にヨークを形成する磁束反転ヨーク6とを含む。磁束反転ヨークは、サイクロトロンの外壁を形成し、およびコイル14の外側の磁場を、それをサイクロトロン内に含有することによって制御する。サイクロトロンは、第1および第2の磁極2をさらに含み、それらは真空チャンバ内に配置され、中心軸Zに対して垂直な中間面MPに対して対称に互いに向き合い、ギャップ7によって互いに分離される。ヨークおよび磁極は全て磁性材料から、好ましくは低炭素鋼から作製され、磁性システムの一部を形成する。磁性システムは、第1および第2の磁極の周囲に巻かれ、磁極と磁束反転ヨークとの間に画成される環状空間内に取り付けられる電気伝導性ワイヤから作製された第1および第2のコイル14によって完成される。
【0026】
図1(b)および2に示されるように、第1および第2の磁極2のそれぞれは、中心軸Zの周囲に半径方向に分散された少なくともN=3の山セクタ3を含む(
図1(b)はN=4の好ましい実施形態を示す)。淡く陰影を付けられた領域として
図1(b)に示されている各山セクタ3は、山方位角αhにわたって延在する上表面3Uを有する。第1および第2の磁極2のそれぞれは、中心軸Zの周囲に半径方向に分散された、暗く陰影を付けられた領域として
図1(b)に示されている同じ数Nの谷セクタ4をさらに含む。各谷セクタ4は2つの山セクタ3が側方に位置付けられ、谷方位角αvにわたって延在する底表面4Bを有し、その結果、αh+αv=360°/Nである。
【0027】
第1の磁極2の山セクタ3および谷セクタ4は、それぞれ第2の磁極2の対向する山セクタ3および谷セクタ4に面する。
図3に示される粒子ビームによって辿られる経路12は、第1および第2の磁極を分離するギャップ7内に含まれる。第1および第2の磁極間のギャップ7は、従って、2つの対向山セクタ3の上表面3U間に画定される山ギャップ部分7hと、2つの対向谷セクタ4の底表面4B間に画定される谷ギャップ部分7vとを含む。山ギャップ部分7hは、2つの対向上表面3Uの領域にわたる山ギャップ部分の平均高さとして画定される平均ギャップ高さGhを有する。
【0028】
平均山および谷ギャップ高さは、山セクタおよび谷セクタのそれぞれ上表面および下表面全体にわたるギャップ高さの平均として測定される。谷ギャップ高さの平均は、底表面の何れの開口も無視する。
【0029】
上表面3Uは、
・第1および第2の上側遠位端3udeによって境界を定められ、かつ中心軸Zから最も遠くに配置された上表面の縁部として画定される上側周囲縁部3up、
・第1および第2の上側近位端3upeによって境界を定められ、かつ中心軸の最も近くに配置された上表面の縁部として画定される上側中心縁部3uc、
・第1の上側遠位端および第1の上側近位端を接続する第1の上側側縁部3ul、
・第2の上側遠位端および第2の上側近位端を接続する第2の上側側縁部3ul
によって画定される(
図2参照)。
【0030】
山セクタ3は、
・第1および第2の側表面3Lであって、それぞれ第1および第2の上側側縁部から、山セクタの両側に配置された対応する谷セクタの床表面まで横切って延在し、従って側表面を隣接底表面と交差させる縁部として第1および第2の下側側縁部3llを画定し、前記第1および第2の下側側縁部はそれぞれ中心軸から最も遠くに配置された下側遠位端3ldeを有する、第1および第2の側表面3L、
・上側周囲縁部から、第1および第2の下側側縁部の下側遠位端3ldeによって境界を定められるセグメントとして画定される下側周囲線3lpまで延在する周囲表面3P
をさらに含む(
図2参照)。
【0031】
山セクタの平均高さHhは、下側および上側側縁部の間で中心軸と平行に測定される平均距離である。
【0032】
縁部の端部は、その縁部を画定するセグメントの境界を定める2つの末端のうちの1つとして画定される。近位端は、中心軸Zの最も近くに配置された縁部の端部である。遠位端は、中心軸Zの最も遠くに配置された縁部の端部である。端部は、2本以上の線が交わる地点として画定されるコーナー地点であり得る。コーナー地点はまた、曲線の接線がサインを変化させるか、または不連続性を示す地点としても画定され得る。
【0033】
縁部は2つの表面が交わる線セグメントである。縁部は、上で定義されたように2つの端部によって境界を定められ、および2つの交わる表面のそれぞれの片方の側を定める。機械加工工具の制限および応力集中の低減のために、2つの表面は所与の曲率半径Rで交わることが多く、これは、両方の表面と交差する縁部の幾何学的位置を正確に決定することを困難にする。この場合、縁部は、無限の曲率(1/R)で互いに交差するように推定される2つの表面と交差する幾何学的な線として画定される。上側縁部は山セクタの上表面3Uと交差する縁部であり、下側縁部は谷セクタの底表面4Bと交差する縁部である。
【0034】
周囲縁部は、中心軸Zから最も遠くに配置された地点を含む表面の縁部として画定される。最も遠い地点が2つの縁部によって共有されるコーナー地点である場合、周囲縁部はまた、中心軸Zまでの平均距離が最大である表面の縁部である。例えば、上側周囲縁部は、中心軸まで最も遠くに配置された地点を含む上表面の縁部である。山セクタが一切れのタルトと比較される場合、その周囲縁部はタルトの周囲のクラストであろう。
【0035】
同じように、中心縁部は、中心軸Zの最も近くに配置された地点を含む表面の縁部として画定される。例えば、上側中心縁部は、中心軸Zの最も近くに配置された地点を含む上表面の縁部である。
【0036】
側縁部は、近位端の中心縁部を遠位端の周囲縁部に接続する縁部として画定される。そのため、側縁部の近位端は、中心縁部と交差する前記側縁部の端部であり、前記側縁部の遠位端は、周囲縁部と交差する前記側縁部の端部である。
【0037】
サイクロトロンの設計に依存して、上側/下側中心縁部は様々な形状を有し得る。最も一般的な形状は、中心軸に対して有限長さ(0以外)の、多くの場合に円形である凹状の線(または凹状の曲線)であり、これは、互いに分離された第1および第2の上側/下側近位端によって境界を定められる。この構造は、粒子ビームおよび他の要素をギャップへ導入するための空間をあけるために有用である。第1の代替構造において、第1および第2の近位中心端部は、上表面3Uの頂点を形成する単一の近位中心地点に収束され、これは3つの縁部のみを含み、中心縁部はゼロの長さを有する。山セクタが一切れのタルトと再度比較される場合、一切れの鋭利な先端は中心縁部に対応し、従って単一地点に低減される。第2の代替構造において、第1から第2の側縁部への移行部は、中心軸Zに対して湾曲した凸状であり得、これはコーナー地点のない滑らかな移行部をもたらす。この構造において、中心縁部はまた、接線がサインを変化する地点として画定される単一地点に低減される。通常、第1および第2の代替構造においてさえ、山セクタは中心軸まで完全に延在せず、中心軸を直接取り囲む中心領域は、粒子ビームの挿入または他の要素の導入を可能にするように一掃される。
【0038】
図2に示されるように、第1および第2の側表面3Lは好ましくは面取りされ、それぞれ第1および第2の上側側縁部に面取り部3ecを形成する。面取り部は、面取り部のない2つの表面によって形成されたであろう縁部を切除することによって得られた2つの表面間の中間表面として画定される。面取り部は、2つの表面間の縁部に形成された角度を低減する。面取り部は、応力集中を低減するために構造において使用されることが多い。サイクロトロンにおいて、しかしながら、山セクタの上表面のレベルにおける面取りされた側表面は、粒子ビームが山ギャップ部分7hに到達するとき、粒子ビームの収束を向上させる。山セクタの周囲表面3Pも同じく上側周囲縁部に面取りを形成可能であり、これにより周囲縁部の近くの磁場の均一性が改善される。
【0039】
本発明によるサイクロトロンは、N=3〜8の山セクタ3を好ましくは含む。より好ましくは、いくつかの図に示されるように、N=4である。偶数値Nの場合、山セクタ3および谷セクタ4は、中心軸の周囲に2nの対称性で分散され、ここでn=1〜N/2である。好ましくは、n=N/2であり、その結果、N個の山セクタの全てが互いに同一であり、N個の谷セクタの全てが互いに同一である。奇数値Nの場合、山セクタ3および谷セクタ4は、中心軸の周囲にNの対称性で分散される。好ましい実施形態において、全てのN=3〜8の場合、N個の山セクタ3は中心軸の周囲に均一に(すなわちNの対称性で)分散される。第1および第2の磁極2は、それらの各上表面3Uが互いに向き合う状態で、および同軸である第1および第2の磁極2の各中心軸Zに対して垂直な中間面MPに対して対称に向き合う状態で配置される。
【0040】
山セクタの形状は、(しばしば上で考察されるように先端のない)一切れのタルトのようにくさび形であることが多く、その第1および第2の側表面3Lは周囲表面から中心軸Zに向かって(通常それに到達することなく)収束する。山方位角αhは、収束角度に一致し、それは中心軸Zにおけるまたはそれに隣接する側表面の(推定される)上側側縁部の交差地点のレベルで測定される。山方位角αhは、好ましくは360°/2N±10°、より好ましくは360°/2N±5°、最も好ましくは360°/2N±2°に含まれる。
【0041】
中心軸Zのレベルで測定される谷方位角αvは好ましくは360°/2N±10°、より好ましくは360°/2N±5°、最も好ましくは360°/2N±2°に含まれる。谷方位角αvは山方位角αhに等しい場合がある。Nの対称性の程度の場合、αv=360°/N−αhであり、例えば、N=4の場合、αvはαhの相補角であり、αv=90°−αhである。
【0042】
中心軸と周囲縁部との間の最大距離Lhは、好ましくは200〜2000mm、より好ましくは400〜1000mm、最も好ましくは500〜800mmに含まれる。例えば、18MeV陽子サイクロトロンにおいて、最長距離Lhは通常750mm未満であり、500〜750mm、典型的には520〜550mmのオーダーであることができる。上側周囲縁部は、第1および第2の上側周囲端部間で測定される方位角長さAhを有し、およそAh=Lh×αh[rad]であり得る。
【0043】
2つの磁極2および各磁極の周囲に巻かれたソレノイド巻きコイル14は、(電)磁石を形成し、(電)磁石は、磁極間のギャップ7内に磁場を生成し、磁場は、サイクロトロンの(中心軸Zの周囲の)中心領域を起点とする
図3に示される螺旋経路12に沿って荷電粒子のビーム(=粒子ビーム)を、それが例えば18MeVの目標エネルギーに到達するまで案内かつ収束し、その結果としてビームは取り出される。上で考察されたように、磁極は、中心軸Zの周囲に分散される交互に存在する山セクタおよび谷セクタに分割される。その結果、強い磁場が、山セクタ内の平均高さGhの山ギャップ部分7h内に生成され、より弱い磁場が、谷セクタ内の>Ghである平均高さGvの谷ギャップ部分7v内に生成され、その結果、粒子ビームの垂直収束がもたらされる。
【0044】
粒子ビームはサイクロトロン内に導入されると、ディー(不図示)と称される高電圧電極間に、および磁場がより弱い、谷セクタ内に配置された、磁極の側縁部に取り付けられたグラウンド電圧電極間に生成された電界によって加速される。加速粒子は山ギャップ部分7hに進入するたびに、前の山セクタ内で有していた速度よりも速い速度を有する。山セクタ内に存在する高い磁場は加速粒子の軌道を逸らし、それにより、それが前の山セクタ内で辿るよりも大きい半径の本質的に円形の経路を辿るようにする。粒子ビームがその目標エネルギーまで加速されると、粒子ビームは
図3に示されるように取出し地点PEと称される地点でサイクロトロンから取り出される。例えば、高エネルギー陽子H
+は、加速されたH
−イオンのビームを、グラファイトの薄いフォイルシートから構成された抜取機に押し通すことによって取り出すことができる。抜取機を通過するH
−イオンは2つの電子を失い、陽のH
+になる。粒子荷電のサインを変えることによって磁場内のその経路の曲率はサインを変え、そのように粒子ビームはサイクロトロンの外へ目標(不図示)に向かって出される。他の取出しシステムが当業者に知られており、使用される取出しシステムの種類および詳細は本発明に必須ではない。通常、取出し地点は、山ギャップ部分7hに配置される。サイクロトロンは、同一の山部分にいくつかの取出し地点を含むことができる。サイクロトロンの対称要件により、2つ以上の山セクタが取出し地点を含む。Nの対称性の程度の場合、N個全ての山セクタが同じ数の取出し地点を含む。取出し地点は個々に(一度に1つのみ)または同時に(一度に数個)使用可能である。
【0045】
周囲山セクタの設計
図1および3は、N=4の対称性で、中心軸Zの周囲に交互に分散されたN=4の山セクタおよびN=4の谷セクタを含むサイクロトロンの磁極の好ましい実施形態の例を示す。
図2および4は、そのような磁極の1つの山セクタを示し、そのような磁極では、各山セクタ3は、上に定義したような上表面3Uであって、
・第1および第2の上側遠位端によって境界を定められた上側周囲縁部3up、
・上側中心縁部3uc、および、
・第1および第2の上側側縁部3ul
を含む上表面3Uを含む。
【0046】
本発明によれば、山セクタの上側周囲縁部は、円弧3acであって、その中心が中心軸に対してオフセットされ、およびその半径Rhが、中心軸から、第1および第2の上側遠位端まで等距離である上側周囲縁部の中間点までの距離Lhの85%以下である(Rh/Lh≦85%)、円弧3acを含む。
【0047】
好ましくは、距離Lhに対する半径Rhの比率Rh/Lhは75%以下(Rh/Lh≦75%)、より好ましくは65%以下(Rh/Lh≦65%)である。例えば、Lhの値=500mmの場合、円弧の半径Rhは325〜400mmに含まれ得る。
【0048】
上で考察した偶数値Nの場合には2nの対称要件のために、および奇数値Nの場合にはNの対称性のために、同じ対称性が様々な山セクタの上側周囲縁部上の円弧の有無に適用される必要がある。従って、各山セクタの上側周囲縁部は、好ましくは、上で定義したものと同じ円弧を含む。
【0049】
円弧であって、その中心が中心軸に対してオフセットされる円弧を含む上側周囲縁部を有する目的は、この上側周囲縁部の少なくとも一部を、サイクロトロンの山ギャップ部分7h内の螺旋経路12の最大エネルギー(=最終)の軌道に相似的に近づけることである。「軌道に相似的に近づける」は、上側周囲縁部の円弧部分および取出し地点に隣接する粒子の最終軌道の両方が、異なる半径で同じ中心を共有する円の弧であることを意味する。従って、この円弧は、取出し地点に直接隣接し、かつその上流の前記最終軌道の一部とほぼ平行である。取り出される軌道の経路の長さおよび軌道と上側周囲縁部との間の角度は、取出しシステム(例えば抜取機)の方位角位置と無関係になる。結果として、取り出されるビームの特性は、山ギャップ部分7h内の取出し地点の位置と(ほぼ)無関係である。
【0050】
最大エネルギーの軌道を測定可能であり、および/または好ましくは数値シミュレーションで計算可能である。測定および/または数値シミュレーションの結果は、山セクタの所望の形状を達成するように上側周囲縁部を設計および機械加工するために使用される。
【0051】
図4、6(a)および7に示されるように、下側周囲線3lpは、好ましくは、上側周囲縁部の半径Rhよりも大きい半径Rlpの円弧である。好ましくは、山セクタの下側側縁部3llは、(中心軸Zの周囲の)中心領域にまたはそれに隣接して配置される、下側周囲線の円弧の中心に向かって集束する直線である。下側周囲線の円弧の中心は、中心軸に属していてもいなくてもよい。円弧の中心が中心軸に属する場合、半径Rlpは、中心軸から上側周囲縁部の中間点までの距離Lhに等しい。
【0052】
例えば、
図4に示されるように、高さHhの山セクタの場合、周囲表面3Pは、山セクタの高さの一部に等しい高さにわたって上側周囲縁部3upからおよびそれと平行に延在する上側部分3Pupと、山セクタの高さの相補的な部分に等しい高さにわたって周囲表面の上側部分と下側周囲線の間に含まれる下側部分3Plowとを含み得る。周囲表面の第1の下側部分および第2の上側セクションは、接続表面によって互いに結合されてもよい。
【0053】
くさび形山セクタについておよび対称性のため、円弧の中心は、上表面の二等分線上にあると好ましく、前記二等分線は、中心軸と上側周囲縁部の中間点とをつなぐ直線として画定される。
【0054】
好ましくは、円弧は、上側周囲縁部の第1の上側遠位端から第2の上側遠位端まで延在し、従って山セクタの周囲縁部全体を画定する。この形状は機械加工がより簡単であり、山ギャップ部分7h内の異なる位置に取出し地点を配置するためのより優れた自由を与える。
【0055】
好ましくは、周囲表面は、上側周囲縁部に隣接する面取り部を形成する。
【0056】
上に記載したようにかつ
図5に示すように、サイクロトロンは粒子ビームを所与の経路にわたって第1の取出し地点PE1まで加速し、そのため、粒子ビームを所与のエネルギーでサイクロトロンから排出することができる。この実施形態では、2つの磁極の中間面MPに関連する2つの対向する山セクタの上側周囲縁部の円弧部分は、第1の取出し地点の直接上流の所与の経路の一部と平行でありかつそれを相似的に再現する。円弧は、周囲縁部全体にわたって所与の経路の一部と同じ中心を共有し、所与の経路の一部と平行である。用語「上流」および「下流」は、粒子ビームの方向に関連して定義される。
【0057】
通常、最大エネルギーの軌道は、上側周囲縁部から距離dhに配置される。この距離は、好ましくは、山ギャップ部分7h内で測定される平均山ギャップ高さGhの約0.6倍に等しい。円弧の半径Rhは、従って、Rh=Rp+dh≒Rp+0.6Ghであり、ここで、Rpは取出し地点の上流およびそれに隣接する山ギャップ部分内の粒子経路の半径である。
【0058】
有利には、山セクタは、2つ以上の取出し地点を含み得る。例えば、山セクタは、2つの取出し地点を含むことができる。第2の取出し地点PE2は、第1の取出し地点と同じ軌道中のおよび同じ山ギャップ部分内の第1の取出し地点PE1の直接下流に配置される。対称のため、サイクロトロンのいくつかのまたは好ましくは全ての山セクタは、いくつかの取出し地点を含み得る。例えば、山セクタの数Nが4に等しい場合、取出し地点の数は8に等しい可能性がある。
【0059】
図5および8に示されるように、単一山ギャップ部分内の2つの取出し地点を二者択一的に使用可能であり、すなわち、一度に1つの取出し地点のみが使用される。これは、例えば、第2の取出し地点で進行する粒子の取出しを中断することなく第1の取出し地点において抜取機を交換するときに有利であり得る。単一山ギャップ部分内の2つの取出し地点は、同時に使用することもできる。従って、第1の(最も上流の)取出し地点PE1が粒子経路に対してわずかにオフセットされて配置され、その結果、粒子ビームの断面領域の一部のみが抜取機とぶつかり、その一方、第1の取出し地点を迂回した粒子ビームの別の部分が第2の取出し地点PE2に配置された抜取機とぶつかる。
【0060】
粒子ビームがその目標エネルギーに到達すると、粒子ビームは取出し地点で取り出され、次いで、取出し地点の下流の取出し経路を辿る。この取出し経路の一部は第1および第2の磁極の間に横たわり、従って山ギャップ部分内に依然として含まれ、磁場にさらされる。対向する山セクタの対が第1および第2の取出し地点を含む場合、粒子ビームを第1もしくは第2の取出し地点で、またはその両方で取り出すことができる。粒子ビームは、次いで第1または第2の取出し地点の下流の第1または第2の取出し経路を辿る。本発明による上側周囲縁部の少なくとも一部の円形の形状により、第1の取出し地点の下流のギャップ内に含まれる取出し経路の長さL1と、第2の取出し地点の下流のギャップ内に含まれる取出し経路の長さL2とは実質的に等しい。第1および第2の取出し地点の下流の取出し経路の同じ長さを有する主な利点は、1つの取出し地点から取り出される粒子ビームが第2の取出し地点から取り出されるものと同様の光学特性を有することを保証することである。
【0061】
図6は、サイクロトロンの磁極の好ましい実施形態の例を示し、ここで、少なくとも1つの山セクタの上表面は、
− 上側周囲縁部および上側中心縁部と交差する長手方向軸8rlに沿って窪み近位端8rpeと窪み遠位端8rdeとの間の長さL8にわたって延在する窪み8であって、その長さL8の少なくとも80%にわたって第1および第2の上側側縁部から離される、窪み8、および
− 前記窪みに適合し、および前記窪み内に位置付けられ、前記窪みに可逆的に結合される極インサート9
をさらに含む。
【0062】
用語「適合する」は、極インサートが、窪みに正確に挿入かつ組み込み可能な全体形状を有することを意味する。
【0063】
極インサートを含む先行技術のサイクロトロンにおいて、極インサートは、山セクタの上表面の側縁部から機械加工された窪み内に位置付けられた。そのような極インサートへのアクセスは、しかしながら、上側側縁部領域と重なるRF加速システムの一部によって困難となる。そのような極インサートへアクセスするには、RFシステムの重なっている部分を最初に取り外さなければならない。極インサートを上表面に位置付けることにより、取外し、機械加工および窪みへの再挿入のために極インサートに簡単にかつ直接アクセスすることができる。本実施形態を用いると、予測される磁場および粒子経路をもたらす最適な極インサートトポグラフィに到達することは、これまでよりもかなり簡単でありかつ効果的である。
【0064】
好ましくは、全ての極インサートは同じ形状を有し、同じ材料から作製される。好ましくは、極インサートは、対応する山セクタと同じ材料から作製される。
【0065】
好ましくは、窪みは中心軸と交差する長手方向軸に沿って延在し、両端部に開放端部を有し、上側中心縁部から上側周囲縁部までの全てにわたり延在する。さらに好ましい実施形態では、長手方向軸は第1および第2の上側遠位端から等距離に配置された地点で上側周囲縁部と交差し、ここで、第1および第2の上側遠位端は、好ましくは長手軸に対して対称である。例えば、中心縁部に隣接する近位部分9pを除き、極インサートは、
図6(b)に示されるように、概ね平行六面体の形状を有する。
【0066】
図6(a)の実施形態では、窪みは上側周囲縁部まで延在し、開放端部を有し、極インサートの遠位端9dcは上側周囲縁部の一部を形成する。極インサートによって形成される上側周囲縁部の部分は、上側周囲縁部の長さAhの好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下である。好ましくは、この遠位端は周囲表面に面取り部を形成する。
【0067】
極インサートは窪みに組み込まれ、対応する山セクタに可逆的に結合される。例えば、極インサートは、ねじを用いて山セクタに結合可能である。
【0068】
上で考察したように、極インサートは好ましくは、長さL9pの集束近位部分9pを除いて、その長さL9の少なくとも80%にわたって長手方向軸に沿ってプリズム状の形状を有する。山上表面3Uと山側表面との間の隆起部は面取りされ、次いで、窪みの近位部分の対応する隆起部も面取りされ得る。
【0069】
極インサート上表面9Uおよび/または第1および第2の側表面9Lの、
図6に示されるトポグラフィを機械加工して、上表面または側表面の長手方向軸を横切るか、またはそれと平行な溝9gu、9glを形成することができる。溝は直線、曲線または破線に沿って延在し得る。あるいは、穴9hu、9hlを表面にあけることができる。穴は止まり穴(すなわち有限深さの穴)であり得、または通し穴であり得る。上で説明したように、各山セクタは、対称性のために極インサートを含み、極インサートは従って個々に機械加工されるか、または横並びに整列されて全て一緒に機械加工される。機械加工された極インサートの結果として得られる態様は、機械加工前のその態様とかなり異なる場合がある。
【0070】
図7は上で考察した先行実施形態の何れかに従うサイクロトロン用の磁極の好ましい実施形態の例を示す。この例では、各山セクタは、第1および第2の側表面3L、上に定義したものなどの周囲表面3Pをさらに含む。少なくとも1つの山セクタの上表面の上側周囲縁部3upは2つの凸状部分を含み、それらは、対応する山セクタの周囲表面に少なくとも部分的に延在する窪み10を画定する、中心軸に対して凹状の部分によって分離される。
【0071】
用語「凹状」は、内側に湾曲することまたは内側へくり抜かれることを意味する。縁部の中心軸に対して凹状の部分は、中心軸の方に湾曲する縁部の部分である。この用語は、「凸状」の反対であり、「凸状」は外側へ湾曲することまたは中心軸から外方へ延在することを意味する。
【0072】
好ましくは、上側周囲縁部3upは、第1および第2の窪み遠位地点10rdpを含み、それらは窪みの境界を定め、かつ上側周囲縁部の接線がサインを変えるか、または不連続性を示す地点として画定される。第1および第2の窪み遠位地点は、距離L10によって互いに分離される。窪みはまた、中心軸Zの最も近くに位置する窪みの地点として画定される窪み近位地点10rppを含む。第1および第2の窪み遠位地点10rdpは、第1および第2の窪み集束縁部10rcによって窪み近位地点10rppとつながる。窪み深さH10は、第1および第2の窪み遠位地点10rdpと窪み近位地点10rppとによって形成され、かつ窪み近位地点10rppを通過する三角形の平均高さとして定義される。
【0073】
好ましくは、第1および第2の窪み遠位地点間の距離L10は、上側周囲縁部の方位角長さAhの5%〜50%、より好ましくは10%〜30%、最も好ましくは15%〜20%の範囲である。
【0074】
窪みの深さH10は、上側周囲縁部の方位角長さAhの3%〜30%、好ましくは5%〜20%、より好ましくは8%〜15%に含まれる。
【0075】
好ましくは、窪みはまた、上側周囲縁部3upから下側周囲線3lpに向かって周囲表面3Pにわたって中心軸Zと平行に延在する。従って、窪みは、上側周囲縁部と下側周囲線との間で中心軸と平行に測定される周囲表面の高さの画分ζにわたって周囲表面に延在する。画分ζは好ましくは25%〜100%、好ましくは40%〜75%、最も好ましくは45%〜55%に含まれる。
【0076】
先行技術のサイクロトロンでは、突出型グラディエントコレクタが使用された。突出型グラディエントコレクタは、いくつかの欠点を有する:
・真空チャンバの体積の増大、
・ヨークおよびサイクロトロン全体の体積の増大、
・サイクロトロンの重量の増大、
・手動で実行する必要のあるグラディエントコレクタの正確な位置付けの難しさ、
・磁場の外方への偏向。
【0077】
突出型グラディエントコレクタの代わりに窪んだグラディエントコレクタを使用することはいくつかの利点を有する。第1に、これにより、磁極を受け入れる真空チャンバのサイズの低減が可能になり、これにより、真空チャンバから気体を排出するために必要なエネルギーの低減と、気体排出時間の短縮とがもたらされる。第2に、サイクロトロンの全体重量が低減され、なぜなら、一方では山セクタの重量が増大される代わりにわずかに低減されるからであり、他方では磁束反転ヨークの内側表面の直径全体が低減されるからである。第3に、粒子ビームが山セクタの周囲縁部と交差する角度の最適化を可能にする数値的に制御される機械加工により、窪みの位置を正確に形成かつ位置付けすることができる。第4に、突出型グラディエントコレクタが磁場を外側に偏向するとき、磁場は窪んだグラディエントコレクタによって内側に偏向され、その結果、粒子経路の最終サイクルが山セクタの周囲縁部からさらに内側へシフトされ、そこで磁場は周囲縁部の近くよりも均一である。従って、取り出される粒子ビームの特性を制御すること、特にその収束を制御することはより簡単であり、より予測可能である。加速領域に向かうこの偏向はまた、コイルに供給される電力を低減することを可能にする。
【0078】
好ましくは、窪みは概ねくさび形であり、その第1および第2の窪み集束縁部は直線(または内方または外方へわずかに湾曲した)の線である。くさびの先端は窪み近位地点に一致し、中心軸の全体方向を指す。くさびの先端の集束角θは、好ましくは、70°〜130°、より好ましくは80°〜110°、最も好ましくは90°±5°に含まれる。本明細書で使用される表現「内方」および「外方」は、それぞれ中心軸「の方」または「から離れる方」として理解される。
【0079】
窪みの位置は、第1および第2の側縁部から離されることができ、または第1もしくは第2の側縁部に隣接することができる。好ましくは、山セクタは、側縁部から離された少なくとも1つの窪みを含む。
【0080】
より一般的には、くさび形の窪みの集束部分は、以下の形状の1つを有し得る:
・上で考察したくさび状に成形される窪みに対応する、三角形の窪みを形成する鋭角コーナー部分、
・台形状に窪んだくさびを形成する直線縁部、または
・丸みを帯びた縁部のくさび。
【0081】
好ましくは、取出し地点は、対向する山セクタの対の周囲縁部に隣接して山ギャップ部分内に配置される。窪みは、前記第1の取出し地点の下流に配置される。ここで、下流は粒子ビームの方向に関連して定義される。窪みは、粒子ビームが第1の集束窪み縁部と90°±15°の角度で交差するように(
図8参照)、取出し地点に対しておよび取出し経路に対して正確に機械加工され、前記第1の集束窪み縁部は第1の窪み遠位地点10rdpと窪み近位地点10rppとをつなぐ縁部として画定される。粒子ビームは、従って、磁場に対してほぼ直角に山セクタから離れ、これは出ていく粒子ビームの収束を改善する。窪みの位置および形状は、数値的な計算および/または試験によって決定される。
【0082】
図8に示されるように、2つの取出し地点PE1、PE2は、同じ山ギャップ部分内で使用される。好ましくは、これらの取出し地点は、それぞれ第1および第2の窪みの上流に配置される。
【0083】
まとめると、本発明は、取り出される軌道の経路の長さおよび軌道と上側周囲縁部との間の角度が取出しシステム(例えば抜取機)の方位角位置と無関係であるという利点を提供する。その結果として、取り出されるビームの特性は、山ギャップ部分内の取出し地点の位置と(ほぼ)無関係である。