(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下の本発明の好適な実施形態について説明する。
【0012】
本実施形態の第1の精製方法は、複数種類の有機化合物の中から目的化合物である特定の有機化合物を精製する方法であって、目的化合物には含まれず目的化合物以外の有機化合物に含まれる特定の官能基の赤外吸収波長光を複数種類の有機化合物に照射しながら目的化合物と目的物以外の有機化合物とを分離するものである。
【0013】
本実施形態の第2の精製方法は、複数種類の有機化合物の中から目的化合物である特定の有機化合物を精製する方法であって、目的化合物に含まれ目的化合物以外の有機化合物には含まれない特定の官能基の赤外吸収波長光を複数種類の有機化合物に照射しながら目的化合物と目的物以外の有機化合物とを分離するものである。
【0014】
例えば、目的化合物(成分A)と目的物以外の有機化合物(成分B)とを含む混合液から再結晶により成分Aを分離する場合について説明する。ここでは、成分A,Bのいずれも結晶性があるものとする。
【0015】
混合液から直接成分Aを再結晶させる場合、成分A,Bが溶解した混合液(
図1(a)参照)に、成分Aには含まれず成分Bに含まれる特定の官能基の赤外吸収波長光を照射しながら、再結晶を行う(
図1(b)参照、第1の精製方法)。
図1では、溶解している成分を点線、結晶化した成分を実線で示す。成分Bは、こうした赤外吸収波長光を照射した場合には照射しない場合に比べて分子の熱運動が活発な状態となることが想定される。その結果、再結晶時、成分A,Bが溶解した溶液の冷却に伴い、分子の熱運動が活発になっていない成分Aから結晶化が始まり、分子の熱運動が活発な成分Bについては結晶化が抑制される。これにより、純度の高い成分Aを得るために必要な再結晶操作の回数を従来に比べて減らすことができる。
【0016】
混合液中の成分Aの濃度を高めたあと成分Aを取り出す場合、まず、成分A,Bが溶解した混合液(
図2(a)参照)に、成分Aに含まれ成分Bには含まれない特定の官能基の赤外吸収波長光を照射しながら、再結晶を行う(
図2(b)参照、第2の精製方法)。
図2も、溶解している成分を点線、結晶化した成分を実線で示す。成分Aは、こうした赤外吸収波長光を照射した場合には照射しない場合に比べて分子の熱運動が活発な状態となることが想定される。その結果、再結晶時、成分A,Bが溶解した溶液の冷却に伴い、分子の熱運動が活発になっていない成分Bから結晶化が始まり、分子の熱運動が活発な成分Aについては結晶化が抑制される。続いて、結晶化した成分Bをろ過して除去することで、成分Aを高濃度で含むろ液が得られる(
図2(c)参照)。その後、ろ液中の溶媒を留去させれば、高純度の成分Aを得ることができる(
図2(d)参照)。なお、ろ液中の溶媒を留去させる代わりに、そのろ液から成分Aを再結晶させてもよい。
【0017】
次に、目的化合物(成分A)と目的物以外の有機化合物(成分B)とを含む混合液から蒸留により成分Aを分離する場合について説明する。
【0018】
成分Aの沸点よりも成分Bの沸点の方が低いならば、成分Aには含まれず成分Bに含まれる特定の官能基の赤外吸収波長光を混合液に照射しながら蒸留を行う(第1の精製方法)。成分Bは、こうした赤外吸収波長光を照射しない場合には通常の沸点前後で気化が進むのに対して、こうした赤外吸収波長光を照射した場合にはエネルギー状態が高くなるため通常の沸点よりも低い温度で気化が進むと考えられる。一方、成分Aは、こうした赤外吸収波長光の照射の有無によってエネルギー状態が変わらないため、照射の有無にかかわらず通常の沸点で気化が進む。その結果、こうした赤外吸収波長光を照射しながら蒸留した場合には、成分Aと成分Bとの沸点差が広がり、精度よく両者を分離することが可能となる。
【0019】
成分Bの沸点よりも成分Aの沸点の方が低いならば、成分Aに含まれ成分Bには含まれない特定の官能基の赤外吸収波長光を混合液に照射しながら蒸留を行う(第2の精製方法)。成分Aは、こうした赤外吸収波長光を照射しない場合には通常の沸点前後で気化が進むのに対して、こうした赤外吸収波長光を照射した場合にはエネルギー状態が高くなるため通常の沸点よりも低い温度で気化が進むと考えられる。一方、成分Bは、こうした赤外吸収波長光の照射の有無によってエネルギー状態が変わらないため、照射の有無にかかわらず通常の沸点で気化が進む。その結果、こうした赤外吸収波長光を照射しながら蒸留した場合には、成分Aと成分Bとの沸点差が広がり、精度よく両者を分離することが可能となる。
【0020】
例えば、メタノール−水の混合液中からメタノールを選択的に効率よく回収するための具体的な方法を以下に説明する。水のO−H伸縮振動が起こらずメタノールのO−H伸縮振動、C−H伸縮振動又はC−H変角振動が起こる約2700〜3000cm
-1の赤外光のみをメタノール−水の混合液に照射することで、メタノールのみが選択的に赤外エネルギーを吸収する。そのため、こうした赤外光を照射せずに従来の方法で加熱蒸留する場合と比べ、より短時間かつ低温でメタノールの気化が進み、メタノールを水と分離することができる。さらに、水のO−H伸縮振動が起こる約3200〜3600cm
-1の赤外光のうち、メタノールが吸収しない波数域、又はO−H変角振動が起こる約1600〜1800cm
-1の赤外光のみをメタノール−水の混合液に照射することで、水のみが選択的に赤外エネルギーを吸収する。そのため、こうした赤外光を照射せずに従来の方法で加熱蒸留する場合と比べ、より短時間かつ低温で水の気化が進み、メタノールを水と分離することができる。
【0021】
次に、目的化合物(成分A)と目的物以外の有機化合物(成分B)とを含む混合液からカラムクロマトグラフィにより成分Aを分離する場合について説明する。
【0022】
成分Aの溶出時間よりも成分Bの溶出時間の方が短いならば、成分Aには含まれず成分Bに含まれる特定の官能基の赤外吸収波長光をカラムの固定相に照射しながら、成分A,Bを移動相と共に固定相を通過させる(第1の精製方法)。成分Bは、こうした赤外吸収波長光を照射しない場合に比べて照射した場合には、固定相との親和性が低下すると考えられるため、より早く溶出される。一方、成分Aは、こうした赤外吸収波長光の照射の有無によって固定相との親和性が変化しないため、照射の有無にかかわらず同じ溶出時間で溶出される。その結果、こうした赤外吸収波長光を照射しながらカラムクロマトグラフィにより分離した場合には、成分Aと成分Bとの溶出時間の差が広がり、精度よく両者を分離することが可能となる。
【0023】
成分Bの溶出時間よりも成分Aの溶出時間の方が短いならば、成分Aに含まれ成分Bには含まれない特定の官能基の赤外吸収波長光をカラムの固定相に照射しながら、成分A,Bを移動相と共に固定相を通過させる(第2の精製方法)。成分Aは、こうした赤外吸収波長光を照射しない場合に比べて照射した場合には、固定相との親和性が低下すると考えられるため、より早く溶出される。一方、成分Bは、こうした赤外吸収波長光の照射の有無によって固定相との親和性が変化しないため、照射の有無にかかわらず同じ溶出時間で溶出される。その結果、こうした赤外吸収波長光を照射しながらカラムクロマトグラフィにより分離した場合には、成分Aと成分Bとの溶出時間の差が広がり、精度よく両者を分離することが可能となる。
【0024】
例えば、成分Aがケトン基を有さないアルコール化合物、成分Bがヒドロキシ基を有さないケトン化合物の場合、成分Aには含まれず成分Bに含まれる特定の官能基をケトン基とし、C=O伸縮振動の赤外吸収波長光を照射してもよい。また、成分Aに含まれ成分Bには含まれない特定の官能基をヒドロキシ基とし、O−H伸縮振動、C−O伸縮振動又はO−H変角振動の赤外吸収波長光を照射してもよい。
【0025】
さらには、結晶多形と呼ばれる同一分子でありながら結晶中での分子の配列の仕方が異なるものに対しても、これまでに述べた原理により特定の結晶形のみを得ることが可能となる。結晶多形は固体医薬品において重要とされ、それぞれの結晶多形間で溶解性、バイオアベイラビリティー、安定性が異なる。また結晶多形が生じる理由は、溶液から結晶が析出する段階でエネルギー状態の異なった状態で結晶化するため、想定される結晶形それぞれに特徴的な赤外吸収スペクトルから、例えば不要な結晶形のみが吸収する赤外光を照射することで、目的とする結晶形の選択的結晶化により、従来と比べ高収率かつ簡便に得ることが可能となる。
【0026】
本実施形態の精製方法では、特定の官能基の赤外吸収波長光を照射するにあたり、外から内に向かって金属パターンと誘電体層と金属基板とがこの順に積層された構造体から目的波長にピークを持つ赤外線を放射する赤外線ヒーターを用いることが好ましい。
【0027】
図3は、赤外線ヒーター10の斜視図であり、一部を断面で示した。
図4は、赤外線ヒーター10の部分底面図である。なお、左右方向、前後方向及び上下方向は、
図3に示した通りとする。赤外線ヒーター10は、ヒーター本体11と、構造体30と、ケーシング70とを備えている。この赤外線ヒーター10は、下方に配置された図示しない対象物に向けて赤外線を放射する。
【0028】
ヒーター本体11は、いわゆる面状ヒーターとして構成されており、線状の部材をジグザグに湾曲させた発熱体12と、発熱体12に接触して発熱体12の周囲を覆う絶縁体である保護部材13とを備えている。発熱体12の材質としては、例えばW,Mo,Ta,Fe−Cr−Al合金及びNi−Cr合金などが挙げられる。保護部材13の材質としては、例えばポリイミドなどの絶縁性の樹脂やセラミックス等が挙げられる。ヒーター本体11は、ケーシング70の内部に配置されている。発熱体12の両端は、ケーシング70に取り付けられた図示しない一対の入力端子にそれぞれ接続されている。この一対の入力端子を介して、発熱体12に外部から電力を供給可能である。なお、ヒーター本体11は、絶縁体にリボン状の発熱体を巻き付けた構成の面状ヒーターとしてもよい。
【0029】
構造体30は、発熱体12の下方に配設された板状の部材である。構造体30は、赤外線ヒーター10の下方外側から内側に向かって、第1導体層31と、誘電体層34と、第2導体層35と、支持基板37とがこの順に積層されている。構造体30は、ケーシング70の下方の開口を塞ぐように配置されている。
【0030】
第1導体層31は、
図4に示すように、誘電体層34上に同じ形状で同じサイズの金属電極32が互いに等間隔に配設された周期構造をもつ金属パターンとして構成されている。具体的には、第1導体層31は、複数の四角形状の金属電極32が誘電体層34上で左右方向に間隔D1ずつ離れて互いに等間隔に配設されると共に前後方向に間隔D2ずつ離れて互いに等間隔に配設された金属パターンとして構成されている。金属電極32は、厚さ(上下高さ)が横幅W1(左右方向の幅)及び縦幅W2(前後方向の幅)よりも小さい形状をしている。金属パターンの横方向の周期はΛ1=D1+W1、縦方向の周期はΛ2=D2+W2である。ここではD1とD2とは等しく、W1とW2とは等しいとする。金属電極32の材料としては、例えば金、アルミニウム(Al)などが挙げられる。金属電極32は、図示しない接着層を介して誘電体層34に接合されている。接着層の材質としては、例えばクロム(Cr)、チタン(Ti)、ルテニウム(Ru)などが挙げられる。
【0031】
誘電体層34は、上面が第2導体層35に接合された平板状の部材である。誘電体層34は、第1導体層31と第2導体層35との間に挟まれている。誘電体層34の下面のうち金属電極32が配設されていない部分は、対象物に赤外線を放射する放射面38となっている。誘電体層34の材質としては、例えばアルミナ(Al
2O
3),シリカ(SiO
2)などが挙げられる。
【0032】
第2導体層35は、上面が支持基板37に図示しない接着層を介して接合された金属板である。第2導体層35の材質は、第1導体層31と同様の材質を用いることができる。接着層の材質としては、例えばクロム(Cr)、チタン(Ti)、ルテニウム(Ru)などが挙げられる。
【0033】
支持基板37は、ケーシング70の内部に図示しない固定具などにより固定された平板状の部材であり、第1導体層31、誘電体層34及び第2導体層35を支持する。支持基板37の材質としては、例えばSiウェハ、ガラスなどのように、平滑面が維持しやすく、耐熱性が高く、熱反りが低い素材が挙げられる。支持基板37は、ヒーター本体11の下面に接触していてもよいし、接触せず空間を介して上下に離間して配設されていてもよい。支持基板37とヒーター本体11とが接触している場合には両者は接合されていてもよい。
【0034】
こうした構造体30は、特定の波長の赤外線を選択的に放射する特性を有するメタマテリアルエミッターとして機能する。この特性は、マグネティックポラリトン(Magneticpolariton)で説明される共鳴現象によるものと考えられている。なお、マグネティックポラリトンとは、上下2層の導体(第1導体層31及び第2導体層35)間の誘電体(誘電体層34)内において強い電磁場の閉じ込め効果が得られる共鳴現象のことである。これにより、構造体30では、誘電体層34のうち第2導体層35と金属電極32とによって挟まれる部分が赤外線の放射源となる。そして、その放射源から放たれる赤外線は金属電極32をまわり込んで、誘電体層34のうち金属電極32が配設されていない部分(すなわち放射面38)から周囲環境に放射される。また、この構造体30では、第1導体層31、誘電体層34及び第2導体層35の材質や、第1導体層31の形状及び周期構造を調整することで、共鳴波長を調整することができる。これにより、構造体30の放射面38から放射される赤外線は、特定の波長の赤外線の放射率が高くなる特性を示す。本実施形態では、構造体30が、波長0.9μm以上25μm以下(好ましくは2.5μm以上25μm以下(4000〜400cm
-1))の範囲内に半値幅が1.5μm以下(好ましくは1.0μm以下)で放射率が0.7以上(好ましくは0.8以上)の最大ピークを有する赤外線を放射面38から放射する特性(以下、単に「所定の放射特性」と称する)を有するように、上述した材質、形状及び周期構造などが調整される。すなわち、構造体30は、半値幅が比較的小さく放射率が比較的高い急峻な最大ピークを有する赤外線を放射する特性を有する。
【0035】
なお、このような構造体30は、例えば以下のように作製することができる。まず、支持基板37の表面(
図3の下面)にスパッタリングにより接着層(図示せず)及び第2導体層35をこの順に形成する。次に、第2導体層35の表面(
図3の下面)にALD法(atomiclayerdeposition:原子層堆積法)により誘電体層34を形成する。続いて、誘電体層34の表面(
図3の下面)に所定のレジストパターンを形成してからヘリコンスパッタリング法により接着層(図示せず)及び第1導体層31の材質からなる層を順次形成する。そして、レジストパターンを除去することにより、第1導体層31(複数の金属電極32)を形成する。
【0036】
ケーシング70は、内部に空間を有し且つ底面が開放された略直方体の形状をしている。このケーシング70内部の空間に、ヒーター本体11及び構造体30が配置されている。ケーシング70は、発熱体12から放出される赤外線を反射するように金属(例えばSUSやアルミニウム)で形成されている。
【0037】
こうした赤外線ヒーター10の使用例を以下に説明する。まず、図示しない電源から入力端子を介して発熱体12の両端に電力を供給する。電力の供給は、発熱体12の温度が予め設定された温度(特に限定するものではないが、ここでは350℃とする)になるように行う。所定の温度に達した発熱体12からは、伝導・対流・放射の伝熱3形態のうち1以上の形態によって周囲にエネルギーが伝達され、構造体30が加熱される。その結果、構造体30は所定温度に上昇し、二次放射体となって、赤外線を放射するようになる。このとき、構造体30が上述したように第1導体層31、誘電体層34及び第2導体層35を有することで、赤外線ヒーター10は所定の放射特性に基づいた赤外線を放射する。
【0038】
図5は、放射面38から放射される赤外線の放射特性の一例を示すグラフである。
図5に示す曲線a〜dは、金属電極32の横幅W1及び縦幅W2を変化させた場合の放射面38からの赤外線の放射率を測定して、測定値をグラフにしたものである。放射率の測定は、以下のように行った。まず、積分球を有するFT−IR(フーリエ変換赤外分光計)で放射面38からの赤外線の垂直入射半球反射率を測定した。次に、透過率を値0として、キルヒホッフの法則を適用することで得られる、(放射率)=1−(反射率)の式により換算した値を、放射率の測定値とした。なお、曲線a〜dのいずれも、第1導体層31及び第2導体層35を金とし、誘電体層34をアルミナとし、第1導体層31の厚さを100μmとし、間隔D1及び間隔D2を1.50μmとし、誘電体層34の厚さを120μmとし、構造体30の温度を200℃とした状態での結果である。曲線a(細い実線)、曲線b(破線)、曲線c(一点鎖線)、曲線d(太い実線)は、それぞれ横幅W1(=縦幅W2)を1.65μm、1.70μm、1.75μm、1.80μmとした場合のグラフである。曲線a〜dのいずれも、最大ピークの半値幅は1.5μm以下で更に1.0μm以下であり、最大ピークの放射率が0.7(=70%)を超え更に0.8(=80%)を超えていた。また、金属電極32の幅が1.65μmから1.85μmに大きくなるに従って、ピーク波長(共鳴波長)は長波長側にシフトしていくことがわかった。表1にピーク波長の計算値と測定値を示す。計算値は、LC回路モデルによる共鳴波長の理論予測値とした。表1から計算値と測定値とは概ね良く一致していた。ここでは、金属電極32の幅を0.05μm刻みで作製したところ、ピーク波長はコンマ数μm刻みで発生した。そのため、ピーク波長を目的波長に精度よく合わせることができる。なお、金属電極32の幅を0.01μm刻みで設計すれば、ピーク波長を数10nm刻みで発生させることができると予測される。その場合、ピーク波長を目的波長により精度よく合わせることが可能になる。
【0040】
上述した赤外線ヒータ−10は、目的波長の赤外線を主として放射するように設計されてはいるが、構造体30の赤外線放射において、目的波長以外の放射をすべて除外することは困難であり、また大気下では、ヒーター各部からの周囲への対流放熱も予測される。したがって、実際のプロセスを構成する場合、こうした付随の熱流動が起因となって原料等が過度に温度上昇しないよう、装置形状等に各種考慮がなされるべきである。
【0041】
以上詳述した本実施形態の第1の精製方法によれば、複数種類の有機化合物のうち目的化合物以外の有機化合物は、選択的にエネルギーを供与されるため、通常の沸点よりも低い温度で気化が進んだり、熱運動が活発になって結晶化しにくくなったり、クロマトグラフィに用いる固定相との親和性が低下したりする。このような特性の変化を利用することにより、目的化合物と目的化合物以外の有機化合物とを従来よりも簡便に高い純度で単離することができる。
【0042】
また、本実施形態の第2の精製方法によれば、目的化合物は、選択的にエネルギーを供与されるため、通常の沸点よりも低い温度で気化が進んだり、熱運動が活発になって結晶化しにくくなったり、クロマトグラフィに用いる固定相との親和性が低下したりする。このような特性の変化を利用することにより、目的化合物と目的化合物以外の有機化合物とを従来よりも簡便に高い純度で単離することができる。
【0043】
更に、発熱体12からのエネルギーを吸収した構造体30から特定波長にピークを持つ赤外線を放射する赤外線ヒーター10を用いる。この赤外線ヒーター10は、放射する赤外線のピーク波長を目的波長(特定の官能基の赤外吸収波長光)に精度よく合うように設計することができる。
【0044】
更にまた、第1導体層31は、同じ形状で同じサイズの金属電極32が互いに等間隔に配設された周期構造をもつ金属パターンとして構成されている。赤外線ヒーター10は、金属電極32の横幅W1及び縦幅W2に応じて放射する赤外線のピーク波長が変化する。金属電極32の横幅W1及び縦幅W2は、例えば周知の電子線描画装置による描画とリフトオフにより設計値通りに精度よく作ることができる。そのため、赤外線ヒーター10から放射される赤外線のピーク波長を目的波長に合わせる作業を、比較的簡単に且つ精度よく行うことができる。
【0045】
そしてまた、目的波長は、波長0.9μm以上25μm以下(好ましくは波長2.5μm以上25μm以下(4000〜400cm
-1))の範囲で設定されるため、通常の赤外吸収スペクトルの測定範囲を網羅することができる。
【0046】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0047】
例えば、上述した実施形態では、精製方法として、再結晶や蒸留、カラムクロマトグラフィを例示したが、特にこれに限定されるものではなく、例えば抽出に本発明の精製方法を適用してもよい。
【0048】
上述した実施形態では、金属電極32は四角形状としたが、これに限られない。例えば、金属電極32は、円形状や十字形状(長方形が垂直に交差した形状)としてもよい。金属電極32が円形状の場合、円の直径が横幅W1及び縦幅W2に相当し、十字形状の場合、交差する2つの長方形の各々の長辺の長さが横幅W1及び縦幅W2に相当する。また、金属電極32は左右方向及び前後方向に沿って等間隔に格子状に配列されていたが、これに限られない。例えば金属電極32は左右方向のみ又は前後方向のみに等間隔に配列されていてもよい。
【0049】
上述した実施形態では、構造体30は支持基板37を備えていたが、支持基板37を省略してもよい。また、構造体30において、第1導体層31と誘電体層34とが接着層を介さずに直接接合されていてもよいし、第2導体層35と支持基板37とが接着層を介さずに直接接合されていてもよい。
【実施例】
【0050】
[実施例1]
50vol%のメタノール水溶液500mLおよび沸騰石を蒸留装置に加え、常圧蒸留を行った。蒸留装置は85℃に加熱し、さらに蒸留装置のうちメタノール水溶液を含むフラスコ上部から3000cm
-1にピークをもつ2950〜3050cm
-1の赤外線の照射(5W:赤外線照射面積3cm角/単位面積当たりの照射エネルギー:約0.5W/cm
2)を開始し、照射を継続しながら蒸留操作を行った。蒸留開始から5分後、10分後、20分後の留出液(メタノール濃縮液)の量をそれぞれ測定した。照射した赤外線の波長域は、メタノールのC−H伸縮振動又はC−H変角振動が起こる波長域である。その結果を表2に示す。
【0051】
[実施例2]
実施例1のうち、赤外線の照射条件を1080cm
-1にピークをもつ1030〜1130cm
-1の赤外線の照射(5W:赤外線照射面積3cm角/単位面積当たりの照射エネルギー:約0.5W/cm
2)とし、蒸留開始から5分後、10分後、20分後の留出液(メタノール濃縮液)の量をそれぞれ測定した。照射した赤外線の波長域は、メタノールのC−O伸縮振動が起こる波長域である。その結果を表2に示す。
【0052】
[比較例1]
50vol%のメタノール水溶液500mLおよび沸騰石を蒸留装置に加え、常圧蒸留を行った。蒸留装置は85℃に加熱し、蒸留開始から5分後、10分後、20分後の留出液(メタノール濃縮液)の量をそれぞれ測定した。その結果を表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
表2より、3000cm
-1にピークをもつ2950〜3050cm
-1の赤外線の照射を行った実施例1と、1080cm
-1にピークをもつ1030〜1130cm
-1の赤外線の照射を行った実施例2と、いずれの赤外線の照射を行わなかった比較例1とでは、照射を行った実施例1,2の方が蒸留が早く進行することが確認できた。この結果から、メタノールがもつ赤外吸収波長領域の赤外線を照射しながら蒸留を行うことにより、そうした照射を行わない場合と比べて高速に留出液を得ることができることが示された。なお、留出液中のメタノール濃度はいずれも80〜85%であった。
【0055】
[実施例3]
50vol%のメタノール水溶液500mLおよび沸騰石を蒸留装置に加え、常圧蒸留を行った。蒸留装置は35℃に加熱し、さらに蒸留装置のうちメタノール水溶液を含むフラスコ上部から1700cm
-1にピークをもつ1650〜1750cm
-1の赤外線の照射(5W:赤外線照射面積3cm角/単位面積当たりの照射エネルギー:約0.5W/cm
2)を開始し、照射を継続しながら蒸留操作を行った。蒸留開始から5分後、10分後、20分後の留出液量をそれぞれ測定した。留出液の組成はいずれもほぼ水(95vol%以上)であることを確認した。照射した赤外線の波長域は、水のH−O−H変角振動が起こる波長域である。その結果を表3に示す。
【0056】
[比較例2]
50vol%のメタノール水溶液500mLおよび沸騰石を蒸留装置に加え、常圧蒸留を行った。蒸留装置は35℃に加熱し、蒸留開始から10分後、30分後、60分後の留出の状況を確認するも、留出は確認できなかった。
【0057】
【表3】
【0058】
表3より、1700cm
-1にピークをもつ1650〜1750cm
-1の赤外線の照射を行った実施例3では、照射を行うことで水が選択的に気化されることが確認できた。
【0059】
[実施例4]
0.042molの1,4−ジブロモベンゼン(10.0g:東京化成工業株式会社製)と0.042molのp−アミノ安息香酸(5.8g:東京化成工業株式会社製)を25mLのエタノール(99.5%)(関東化学株式会社製)の入った冷却管付きフラスコに加え、60℃に加熱して加えた試薬を溶解させた。続いて、溶液中の不純物を除くためろ過を行った後、フラスコ上部開口部から6.25μmにピークをもつ6〜6.5μmの赤外線の照射(5W:赤外線照射面積3cm角/単位面積当たりの照射エネルギー:約0.5W/cm
2)を開始し、照射を継続しながら、ろ液を23℃の部屋内で静置させたところ、結晶が析出することを確認した。照射した赤外線の波長域は、p−アミノ安息香酸の芳香環のC=C伸縮振動及びカルボン酸のC=O伸縮振動が起こる波長域である。
【0060】
[比較例3]
0.042molの1,4−ジブロモベンゼン(10.0g:東京化成工業株式会社製)と0.042molのp−アミノ安息香酸(5.8g:東京化成工業株式会社製)を25mLのエタノール(99.5%)(関東化学株式会社製)の入った冷却管付きフラスコに加え、60℃に加熱して加えた試薬を溶解させた。続いて、溶液中の不純物を除くため、ろ過を行い、ろ液を23℃の部屋内で静置させたところ結晶が析出することを確認した。
【0061】
実施例4及び比較例3にて析出した各結晶を回収し、冷エタノール(4℃)、純水(4℃)、冷エタノール(4℃)の順で洗浄し、乾燥させた。サンプルそれぞれのNMR測定を行い、そのスペクトルのシグナルの積分比の結果から、析出した結晶の1,4−ジブロモベンゼンとp−アミノ安息香酸のmol%を算出した。結果を表4に示す。
【0062】
【表4】
【0063】
表4より、6.25μmにピークをもつ6〜6.5μmの赤外線の照射を行った実施例4といずれの赤外線の照射を行わなかった比較例3とでは、実施例4の方がより1,4−ジブロモベンゼンを選択的に再結晶化できることが確認できた。この結果から、6〜6.5μmの赤外線を照射することで、p−アミノ安息香酸に特有の吸収が起こり、p−アミノ安息香酸の再結晶化を抑制し、1,4−ジブロモベンゼンの結晶化を優位的に行えることが示された。
【0064】
本出願は、2016年8月19日に出願された日本国特許出願第2016−161435号を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容の全てが本明細書に含まれる。
本発明は、複数種類の有機化合物の中から目的化合物である特定の有機化合物を精製する方法に関する。本発明の精製方法の一例としては、目的化合物には含まれず目的化合物以外の有機化合物に含まれる特定の官能基の赤外吸収波長光を複数種類の有機化合物に照射しながら目的化合物とそれ以外の有機化合物とを分離する方法が挙げられる。