(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
機能性固体材料前駆体溶液を出発材とする機能性固体材料前駆体層が載置された被処理体を略水平方向に搬送しながら、前記被処理体の搬送経路に設けられた、回転軸を中心に回転自在なローラーが前記機能性固体材料前駆体層を、第2温度で加熱しながら型を押圧することによって、前記機能性固体材料前駆体層に対して型押し構造を形成する型押し部と、
前記型押し構造を形成する前に、前記機能性固体材料前駆体層の表面側から前記機能性固体材料前駆体層を第1温度に加熱するとともに前記ローラーに近接して配置された予備加熱部と、を備え、
前記予備加熱部は、さらに前記ローラーの少なくとも表面を加熱し、
前記第1温度は、前記機能性固体材料前駆体層が前記機能性固体材料前駆体溶液の溶媒の沸点超となるように、第1温度制御部によって制御される、
型押し構造の形成装置。
前記第1温度が、さらに、第2温度未満となるように、前記第1温度制御部によって制御されるとともに、前記第2温度は、前記機能性固体材料前駆体層が機能性固体材料層になる温度よりも低くなるように第2温度制御部によって制御される、
請求項1に記載の型押し構造の形成装置。
機能性固体材料前駆体溶液を出発材とする機能性固体材料前駆体層が載置された被処理体を略水平方向に搬送しながら、前記被処理体の搬送経路に設けられた、回転軸を中心に回転自在なローラーが前記機能性固体材料前駆体層を、前記機能性固体材料前駆体層が機能性固体材料層になる温度よりも低い第2温度で加熱しながら型を押圧することによって、前記機能性固体材料前駆体層に対して型押し構造を形成する型押し工程の前に、前記ローラーに近接した熱源が前記機能性固体材料前駆体層の表面側から前記機能性固体材料前駆体層を、前記機能性固体材料前駆体溶液の溶媒の沸点超となる第1温度に加熱する予備加熱工程を備え、
前記熱源が、さらに前記ローラーの少なくとも表面を加熱する、
型押し構造の形成方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまでの本願発明者らの知見によれば、より適切な型押し加工を施すためには、ある一定の条件を満たす必要がある。具体的な一例は、機能性固体材料前駆体層に対する型の押圧とともに、該前駆体層の裏面側のみならず、該前駆体層の表面側、すなわち該前駆体層にとって型押し構造(代表的には、凹凸形状)が形成される方の表面側からの十分な加熱を行うことである。この十分な加熱によって機能性固体材料前駆体層の軟化が促されるため、型押し構造の形成が可能となる。
【0006】
しかしながら、特にロールツーシート方式を用いて型押し加工を施す際、機能性固体材料前駆体層がローラーに対して相対的に移動するために、型又は型を介した機能性固体材料前駆体層とローラーとは、互いに面による接触ではなく、云わば線による接触しかしないことになる。その結果、仮にローラー内のヒーター温度を相当な高温に設定したとしても、ローラーの熱を機能性固体材料前駆体層に十分に伝えるためには、相当長い時間、その型と機能性固体材料前駆体層との相対位置を維持、又はその移動速度を低減しなければならない。この事実は、ロールツーシート方式の利点の一つである加工の連続性、又は加工速度の速さを失わせることにつながる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の諸問題の少なくとも1つを解決することにより、より確度の高い型押し構造の形成を実現する。その結果、本発明は、工業性ないし量産性に優れた機能性デバイスの提供に大きく貢献するものである。
【0008】
上述のとおり、ロールツーシート方式を用いて型押し加工を施す場合には、機能性固体材料前駆体層に対する表面側からの十分な加熱を行うことは容易ではない。加えて、本願発明者らの研究と分析によれば、ロールツーシート方式の場合、機能性固体材料前駆体層が形成されている被処理体(例えば、基板)を載置する基台との接触面積の広さを利用した該前駆体層に対する裏面側からの加熱だけでは、型押し加工を施す際に求められる局所的に十分な昇温を実現することが困難であることが知見された。本願発明者らが鋭意研究と分析を重ねた結果、実際にローラーによって型押し加工が施される前に、機能性固体材料前駆体層の表面側から該前駆体層を予備的に加熱することが、上述の技術課題を解決し得ることを知見した。本発明は上述の視点に基づいて創出された。
【0009】
本発明の1つの型押し構造の形成装置は、型押し部、予備加熱部、第1温度制御部、及び第2温度制御部を備える。ここで、この型押し構造の形成装置の型押し部は、機能性固体材料前駆体溶液を出発材とする機能性固体材料前駆体層が載置された被処理体を略水平方向に搬送しながら、その被処理体の搬送経路に設けられた、回転軸を中心に回転自在なローラーがその機能性固体材料前駆体層を、第2温度で加熱しながら型を押圧することによって、その機能性固体材料前駆体層に対して型押し構造を形成する。また、この型押し構造の形成装置の予備加熱部は、前述の型押し構造を形成する前に、前述の機能性固体材料前駆体層の表面側からその機能性固体材料前駆体層を第1温度に加熱するとともに前述のローラーに近接して配置される。加えて、この型押し構造の形成装置は、前述の第1温度は、その機能性固体材料前駆体層が前述の機能性固体材料前駆体溶液の溶媒の沸点超となるように、第1温度制御部によって制御される。
【0010】
この型押し構造の形成装置によれば、ローラーに近接して配置された上述の予備加熱部により、ローラーによって型押し構造が形成される前に、機能性固体材料前駆体層が、機能性固体材料前駆体層の表面側から、機能性固体材料前駆体溶液の溶媒の沸点超となる第1温度にまで加熱されることになる。その結果、型押し加工が施される前に、機能性固体材料前駆体層から溶媒を確度高く蒸発させるのみならず機能性固体材料前駆体層の昇温を補助することによって、型押し構造の形成を確度高く実現し得る。従って、この型押し構造の形成装置によれば、ロールツーシート方式を採用した場合であっても、機能性固体材料前駆体層の型押し構造が確度高く形成されることになるため、加工の連続性、又は加工速度の速さを維持することができる。
【0011】
なお、上述の装置に係る発明において、上述の予備加熱部により、ローラーによって型押し構造が形成される前に、機能性固体材料前駆体層が、機能性固体材料前駆体層の表面側から、機能性固体材料前駆体溶液の溶媒の沸点超、型押し構造を形成するための第2温度未満である第1温度にまで加熱されることになることは好適な一態様である。この態様の装置を採用することにより、型押し加工が施される前に、より確度高く、機能性固体材料前駆体層から溶媒を確度高く蒸発させるのみならず機能性固体材料前駆体層の昇温を補助することによって、型押し構造の形成を確度高く実現し得る。
【0012】
また、本発明の1つの型押し構造の形成方法は、機能性固体材料前駆体溶液を出発材とする機能性固体材料前駆体層が載置された被処理体を略水平方向に搬送しながら、その被処理体の搬送経路に設けられた、回転軸を中心に回転自在なローラーが前述の機能性固体材料前駆体層を、その機能性固体材料前駆体層が機能性固体材料層になる温度よりも低い第2温度で加熱しながら型を押圧することによって、その機能性固体材料前駆体層に対して型押し構造を形成する型押し工程の前に、前述のローラーに近接した熱源が前述の機能性固体材料前駆体層の表面側からその機能性固体材料前駆体層を、前述の機能性固体材料前駆体溶液の溶媒の沸点超となる第1温度に加熱する予備加熱工程を備える。
【0013】
この型押し構造の形成方法によれば、ローラーによって型押し構造が形成される前に、ローラーに近接した熱源により、機能性固体材料前駆体層が、機能性固体材料前駆体層の表面側から、機能性固体材料前駆体溶液の溶媒の沸点超となる第1温度までに加熱されることになる。その結果、型押し加工が施される型押し工程の前に、機能性固体材料前駆体層から溶媒を確度高く蒸発させるのみならず機能性固体材料前駆体層の昇温を補助することによって、型押し構造の形成を確度高く実現し得る。従って、この型押し構造の形成方法によれば、ロールツーシート方式を採用した場合であっても、機能性固体材料前駆体層の型押し構造が確度高く形成されることになるため、加工の連続性、又は加工速度の速さを維持することができる。
【0014】
なお、上述の方法に係る発明の予備加熱工程において、上述の第1温度が、さらに、第2温度未満となるように上述の機能性固体材料前駆体層を加熱することは好適な一態様である。この態様の方法を採用することにより、型押し加工が施される前に、より確度高く、機能性固体材料前駆体層から溶媒を確度高く蒸発させるのみならず機能性固体材料前駆体層の昇温を補助することによって、型押し構造の形成を確度高く実現し得る。
【0015】
ここで、本願における「予備加熱部」又は「熱源」は特に限定されないが、代表的には、型押し加工を施す際の型を内部にて、又は外部から加熱するヒーターが挙げられる。また、その他の機能性固体材料前駆体層を加熱するための「予備加熱部」又は「熱源」の例は、輻射熱を利用した公知の手段、及びマイクロ波を利用した公知の手段が含まれ得る。
【0016】
また、本出願における「機能性固体材料前駆体溶液」は、代表的には、金属アルコキシドを含有する溶液、金属有機酸塩を含有する溶液、金属無機酸塩を含有する溶液、金属ハロゲン化物を含有する溶液、金属、窒素、及び水素を含有する無機化合物を含有する溶液、金属水素化物を含有する溶液、金属ナノ粒子を含有する溶液、及びセラミックス微粒子の群から選ばれる少なくとも1種類を含有する溶液である。そして、これらの各溶液の溶質又は各溶液を層状に形成した際に変質しうる溶質が、本出願における「機能性固体材料前駆体」である。従って、本出願における「機能性固体材料前駆体層」とは、「機能性固体材料前駆体」の層又は膜(本出願では、総称して「層」と呼ぶ)を意味する。
【0017】
また、本出願における「機能性固体材料前駆体層」は、代表的には、本焼成された後に、薄膜トランジスタやメモリ型トランジスタにおけるゲート電極層、ゲート絶縁層(強誘電体層)、ソース層、ドレイン層、チャネル層、チャネルストッパー層、パッシベーション層、及び配線層の群から選ばれる少なくとも1つの層となる前駆体層、圧電式インクジェットヘッド等のアクチュエーターにおける圧電体層及び電極層の群から選ばれる少なくとも1つの層となる前駆体層、キャパシタの誘電体層及び/又は電極層となる前駆体層、あるいは、光学デバイスにおける格子層となる前駆体層である。従って、「機能性固体材料層」は、代表的には、薄膜トランジスタやメモリ型トランジスタにおけるゲート電極層、ゲート絶縁層(強誘電体層)、ソース層、ドレイン層、チャネル層、及び配線層の群から選ばれる少なくとも1つの層、圧電式インクジェットヘッド等のアクチュエーターにおける圧電体層及び電極層の群から選ばれる少なくとも1つの層、キャパシタの誘電体層、あるいは、光学デバイスにおける格子層をいう。但し、既に述べたとおり、機能性デバイスの一類型として、薄膜トランジスタ、メモリ型トランジスタ、圧電式インクジェットヘッド、キャパシタ、光学デバイス、又はMEMSデバイス(アクチュエーター含む)が挙げられるため、それらの一部に採用し得る前駆体層、又は固体材料層も、上述の「機能性固体材料前駆体層」又は「機能性固体材料層」に含まれ得る。
【0018】
なお、上述の各「機能性固体材料前駆体溶液」、各「機能性固体材料前駆体」、及びそれらから形成される各「機能性固体材料」は、いずれも不可避不純物を含み得る。以下の各実施形態の説明においては、記載を簡便化するために不可避不純物についての言及を省略する。
【0019】
また、本願において、「型押し」は「(ナノ)インプリント」と呼ばれることもある。
【発明の効果】
【0020】
本発明の1つの型押し構造の形成装置によれば、予備加熱部が、型押し加工が施される前に、機能性固体材料前駆体層から溶媒を確度高く蒸発させるのみならず機能性固体材料前駆体層の昇温を補助ないし支援するため、型押し構造の形成を確度高く実現し得る。また、本発明の1つの型押し構造の形成方法によれば、型押し加工が施される前に、予備加熱工程によって、機能性固体材料前駆体層から溶媒を確度高く蒸発させるのみならず機能性固体材料前駆体層の昇温が補助ないし支援されるるため、型押し構造の形成を確度高く実現し得る。従って、本発明の1つの型押し構造の形成装置、及び本発明の1つの型押し構造の形成方法によれば、ロールツーシート方式を採用した場合であっても、機能性固体材料前駆体層の型押し構造が確度高く形成されることになるため、加工の連続性、又は加工速度の速さを維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態における予備加熱部900を備えた型押し構造の形成装置800、並びに本発明の実施形態における機能性デバイスの一例である薄膜トランジスタ100及びその製造方法を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。なお、この説明に際し、全図にわたり、特に言及がない限り、共通する部分には共通する参照符号が付されている。また、図中、本実施形態の要素は必ずしも互いの縮尺を保って記載されるものではない。さらに、各図面を見やすくするために、一部の符号が省略され得る。
【0023】
<第1の実施形態>
図1は、本実施形態の型押し構造の形成装置800の構成を示す側面図である。また、
図2Aは、本実施形態における型押し構造の形成装置800の一部の構成(ローラー822、予備加熱部900、及び型M1)を示す図である。また、
図2Bは、
図2Aの領域Zの参考拡大斜視図であり、
図3は、
図2Aの領域Z(機能性固体材料前駆体層20a及び被処理体10を含む)の参考拡大側面図である。本実施形態では、型押し構造の形成装置800を用いた型押し工程の例を説明する。
【0024】
[型押し構造の形成装置800の構成]
図1に示すように、本実施形態の型押し構造の形成装置800は、大別して4つの構成部分、すなわち、固定された上部型押し部、型を保持するとともに被処理体(代表的には基板)10が載置された略水平移動可能な下部型押し部、予備加熱部900、及びそれらの制御部860とから構成されている。なお、本実施形態においては、上部型押し部と下部型押し部とをまとめて「型押し部」という。また、下部型押し部が被処理体10を移動させる場合、水平方向に移動させることが理想的であるが、厳密な水平性を要求されない。
【0025】
具体的には、
図1乃至
図3に示すように、本実施形態の上部型押し部は、回転しながら型(例えば、M1)を押圧する円柱状のローラー822と、ローラー822を保持するローラー保持部823、及びローラー822内に収容され、ローラー822を加熱するローラー用ヒーター824とを備えている。なお、本実施形態における型は、ニッケル(Ni)製、又はニッケルを母材(例えば、シリコン)にメッキしたものである。なお、上部型押し部は、ローラー822を回転させる公知の回転機構、昇降させるための公知の昇降機構(いずれも図示しない)を備えている。また、上部型押し部が、型押し加工を施す際の処理対象となる機能性固体材料前駆体層(例えば、ゲート電極用前駆体層)20aに対するゲート電極用型M1等に対するローラー822の押圧力(
図1において、概念的に示した下向きの矢印)をモニターする圧力センサー(図示しない)を備えることは、好適な一態様である。なお、機能性固体材料前駆体層20aは、機能性固体材料前駆体溶液を出発材として、例えば、スピンコート法、インクジェット法、又はスリットコート法によって被処理体10上に形成される。
【0026】
次に、本実施形態の熱源の一例である予備加熱部900は、ローラー保持部823に図示しない保持具を用いて保持されるとともに、ローラー822に近接して配置されている。また、予備加熱部900は、機能性固体材料前駆体層20aに対して型押し構造を形成する前に、機能性固体材料前駆体層20aの表面側から機能性固体材料前駆体層20aを所定の温度(本実施形態において、「第1温度」という)にまで加熱する役割を担っている。ここで、本実施形態において、第1温度は、機能性固体材料前駆体溶液の沸点よりも高く、ローラー822の温度(第2温度)未満である。より具体的には、第1温度は、機能性固体材料前駆体層20aの固化反応をある程度進めるとともに、機能性固体材料前駆体層20aの流動性を予めある程度低くしておくことができる温度である。従って、機能性固体材料前駆体層20aが第1温度を超えると、つまり、第2温度以上になると、機能性固体材料前駆体層20aの固化反応が進み過ぎるという問題が生じ得ることになる。その結果、その後の型押し工程において機能性固体材料前駆体層20aを十分に軟化させること(機能性固体材料前駆体層20aの塑性変形能力を十分に高くすること)ができなくなる可能性が高まる。また、本実施形態のローラー822の温度(第2温度)は、後述する予備加熱工程の後に実施される型押し工程において、機能性固体材料前駆体層20aを十分に軟化させること(機能性固体材料前駆体層20aの塑性変形能力を十分に高くすること)を実現することが出来る温度である。
【0027】
また、本実施形態の制御部860の一部の構成である第1温度制御部が、予備加熱部900の温度を制御することにより、機能性固体材料前駆体層20aが上述の第1温度になるように加熱される。なお、本実施形態の出発材である機能性固体材料前駆体溶液の溶質の一例はRu(III) nitrosylacetate(Alfa Aesar)であり、その溶媒の一例はプロピオン酸である。加えて、その溶媒(プロピオン酸)の沸点は141℃である。また、前述の溶質から形成される機能性固体材料前駆体層(例えば、酸化ルテニウム前駆体層)が機能性固体材料層に変化する温度(本焼成の温度)は300℃以上である。
【0028】
また、より具体的には、
図2B及び
図3に示すように、本実施形態の予備加熱部900は、一部に大小1つずつの円柱状の空洞(孔)を有し、側面視において切り欠き部を有する略直角三角形状の柱状の本体部と、その大きい方の空洞内に挿し込まれたカートリッジヒーター(仕様:AC100V,400W)926と、その小さい方の空洞内に挿し込まれた本体部の温度を測定する熱電対928とを備えている。また、本実施形態の本体部は、熱伝導性の高い銅製である。加えて、予備加熱部900の本体部は、型M1に対向する平面924と、ローラー822の外周面に近接する傾斜面923とを有している。この傾斜面923により、本体部は、平面924の端部を、型押し加工が施されるローラー822の最下点(換言すれば、最も型M1に近接する点)により近づけることが可能となる。従って、本実施形態においては、移動台818をローラー保持部823に対して相対的に水平移動させることにより、予備加熱部900を用いて機能性固体材料前駆体層20aの表面側から機能性固体材料前駆体層20aを上述の第1温度にまで加熱した直後(例えば、10秒後〜30秒後)にローラー822を用いた型押し工程を行うことができる。
【0029】
また、下部型押し部では、基台812上に、処理対象となる機能性固体材料前駆体層20aを備えた被処理体10が載置される。なお、図示しないポンプによって吸引部816から吸引されることにより、被処理体10が基台812に吸着している。加えて、本実施形態では、予備加熱部900とは別に、型押し加工の際に機能性固体材料前駆体層20aに対して熱を供給する他の熱源として、被処理体10並びに機能性固体材料前駆体層20aを加熱するための基台用ヒーター814が、基台812に接続している。また、本実施形態の下部型押し部は、基台812及び基台用ヒーター814を支持するとともに、装置設置台811上を水平方向に移動する移動台818を備えている。さらに、移動台818は、型を保持する型保持部819と、公知の昇降機構によって被処理体10を持ち上げて被処理体10を基台から離れさせるリフト817とを備えた型保持用ステージ825を備えている。従って、型保持用ステージ825も、移動台818が装置設置台811上を水平方向に移動するのに伴って移動する。
【0030】
また、本実施形態の型押し構造の形成装置800は、公知のフィードバック制御による上部型押し部を利用したローラー822の回転運動及び昇降移動の制御、ローラー822による型への押圧力の制御、移動台818の水平移動、ローラー用ヒーター824の温度の制御、予備加熱部900の温度の制御、及び基台用ヒーター814の温度の制御を含む、型押し加工の際の各種制御を担う制御部860、並びに制御部860に接続するコンピューター862を備えている。
【0031】
なお、本実施形態の制御部860及びコンピューター862は、上述の各構成部分を用いた本実施形態の一連の処理を実行するための機能性デバイスの製造プログラムにより、上述の各構成部分の処理を監視し、又は統合的に制御する。
【0032】
なお、本実施形態では、予備加熱部900及び/又は基台用ヒーター814が、機能性固体材料前駆体層20aの予備加熱工程(「乾燥工程」と呼ばれることもある)を行う。
【0033】
特に、本実施形態においては、型M1を介して機能性固体材料前駆体層20aとローラー822との接触面積が極めて限定されるロールツーシート方式を採用している。従って、予備加熱部900は、型押し構造を確度高く形成するため、換言すれば、ローラー822が型押し加工の際の機能性固体材料前駆体層20aに対する加熱(特に、昇温)を積極的に支援するために、機能性固体材料前駆体層20aの表面側から機能性固体材料前駆体層20aを上述の第1温度にまで加熱する。
【0034】
本願発明者らの研究と分析によれば、型押し加工が施される前の、予備加熱部900を用いた機能性固体材料前駆体層20aの、いわば急峻な昇温を助けることが、機能性固体材料前駆体層20aに対する型押し構造の形成を確度高く実現し得ることを知見している。その結果、機能性固体材料前駆体層20aに対して型押し加工が施される前に、機能性固体材料前駆体層20aから溶媒を確度高く蒸発させるのみならず機能性固体材料前駆体層20aの昇温を補助することによって、型押し構造の形成を確度高く実現し得る。
【0035】
なお、この予備加熱工程において、基台用ヒーター814のように被処理体10の下側、換言すれば、被処理体10にとってローラー822と反対側からの別体の熱源によって機能性固体材料前駆体層20aが加熱されたとしても、該熱源は、型押し構造を確度高く形成するための機能性固体材料前駆体層20aの加熱(特に、昇温)を支援する役割を果たしづらい。特に、基台用ヒーター814を用いた場合は、機能性固体材料前駆体層20aに対する局所的な加熱が困難であるため、上述の予備加熱部900が果たす役割は大きいといえる。
【0036】
本実施形態においては、制御部860によって温度制御された、予備加熱部900、ローラー用ヒーター824、及び/又は基台用ヒーター814は、機能性固体材料前駆体層20aに対してそれぞれ熱を供給する。代表的には、予備加熱部900の温度は、ローラー822の温度(第2温度)よりも50℃低い温度以上、第2温度よりも150℃高い温度以下である。従って、例えば、ローラー822の温度(第2温度)が200℃であれば、予備加熱部900の温度は、150℃以上350℃以下である。
【0037】
ここで、本願発明者らが実施した、熱流体力学シミュレーションによる機能性固体材料前駆体層の温度変化を調査した結果について説明する。具体的には、市販のシミュレータ「FLOW−3D」(Flow science社製)を用いたシミュレーションが行われた。シミュレーション用の設定の装置構成は、予備加熱部900が、
図1における横方向の長さが5.6mmの直方体状である以外は、
図1に示す型押し構造の形成装置800に基づくものである。また、ローラー温度は200℃に設定した。また、予備加熱部900からローラー822までの距離は、6mmである。加えて、ローラーと機能性固体材料前駆体層との相対的な水平方向の移動速度は、500μm/秒に設定した。その他の条件は以下のとおりである。
(1)メッシュ数:5000,(x,y,z)=(1,50,100)
(2)現象時間:20秒間
(3)流体(つまり、空気層)は無し
(4)導入物理条件: Heat transfer, Moving and simple deforming objects
【0038】
図4は、上述のシミュレーション条件において、温度の異なる予備加熱部によって加熱された時間に対する機能性固体材料前駆体層の温度変化を示すグラフである。なお、比較例として、予備加熱部が設けられなかった場合も調査した。
図4に示すように、予備加熱部が設けられた場合は、いずれも、機能性固体材料前駆体層の最高到達温度が比較例と比べて高くなることが確認された。また、予備加熱部の温度が高いほど、機能性固体材料前駆体層の温度はより短時間でより高温に到達することができることも確認された。但し、予備加熱部は、型を介して機能性固体材料前駆体層を加熱するため、機能性固体材料前駆体層の最高到達温度は、予備加熱部の温度が200℃以上になると、予備加熱部の温度と比較してかなり低くなることが分かった。従って、例えば、ローラー温度が200℃であって、溶媒がプロピオン酸(沸点が141℃)である場合、少なくとも5秒間という短い時間の昇温状況においても、予備加熱部によって機能性固体材料前駆体層の表面側から加熱することにより、機能性固体材料前駆体層の温度が、機能性固体材料前駆体溶液の沸点よりも高くなることを実現し得ることが確認できる。加えて、機能性固体材料前駆体層の温度が、ローラーの温度(第2温度)未満となることを実現し得ることも確認できる。
【0039】
また、基台用ヒーター814の温度(便宜上、第3温度とする)は、出発材である機能性固体材料前駆体溶液の溶媒の沸点以下である。代表的な基台用ヒーター814の温度は、約100℃である。よって、各温度(第1温度、第2温度、及び第3温度)の高さの代表的な順序については、第3温度が最も低く、第2温度が最も高い値となる。
【0040】
また、上記の予備加熱部900による加熱によって確度高く機能性固体材料前駆体層20aの温度を第1温度にするためには、
図3に示す、予備加熱部900の型M1に対向する平面924と機能性固体材料前駆体層20aとの距離d3は、0.1mm以上5mm以下であることが好ましく、0.3mm以上3mm以下であることが更に好ましい。また同様の観点から、予備加熱部900の型M1に対向する平面924と型M1との距離d2は、0mm以上4.9mm以下であることが好ましく、0mm以上1mm以下であることが更に好ましい。
【0041】
また、本実施形態の1つの変形例として、
図3に示すように、熱源としての予備加熱部900がローラー822と近接していることを利用して、予備加熱部900がローラー822の少なくとも表面を加熱することは、ローラー822の昇温を補助ないし支援することなることから、採用し得る他の好適な一態様である。ローラー用ヒーター824とは別に、予備加熱部を利用してローラー822の加熱が支援されることにより、ローラー用ヒーター824の温度をある程度低く設定することも可能となる。なお、より確度高く、予備加熱部900がローラー822の少なくとも表面を加熱し得る観点、さらに具体的には、相対的に移動するローラー822と型M1との関係において、型M1を押圧しようとする側のローラー822の少なくとも表面を加熱し得ることから言えば、予備加熱部900とローラー822との距離d1が、0.1mm以上10mm以下であることが好ましく、0.1mm以上0.3mm以下であることが更に好ましい。
【0042】
予備加熱部900によって機能性固体材料前駆体層20aが第1温度にまで加熱された後、本実施形態の型押し構造の形成装置800を用いて型押し工程が行われる。このとき、ローラー822は、型押し構造の形成するための第2温度に昇温したローラー822よる加熱とともに、例えば、圧力1MPa以上20MPa以下の押圧力で直接的には型M1を押すことにより、機能性固体材料前駆体層20aの型押し加工を施すことになる。
【0043】
本願発明者らの研究によれば、機能性固体材料前駆体層20aに対する型M1の押圧とともに、機能性固体材料前駆体層20aの加熱を行うことが好ましい。そこで、ローラー822の温度である第2温度は、型押し構造を形成することができる温度であって、機能性固体材料前駆体層20aが機能性固体材料層になる温度(本焼成の温度)よりも低い温度である。また、制御部860の一部の構成である第2温度制御部が、ローラー用ヒーター824の温度を制御することによりローラー822の温度が第2温度になる。第2温度となったローラー822によって、機能性固体材料前駆体層20aが加熱される。なお、例えば、機能性固体材料前駆体溶液の溶質がRu(III) nitrosylacetate(Alfa Aesar)であり、その溶媒がプロピオン酸である場合、機能性固体材料層である酸化ルテニウム層を形成するための本焼成温度は、300℃超である。
【0044】
また、ローラー822の回転速度に合わせて、移動台818は、ローラー保持部823に対して相対的に水平移動する。本実施形態では、例えば、0.1mm/秒〜10mm/秒の速度でローラー保持部823に対して相対的に水平移動する。
【0045】
上述のとおり、本実施形態においては、ローラー822を用いた型押し工程が行われる前に、予備加熱部900によって、機能性固体材料前駆体層20aの表面側から機能性固体材料前駆体層20aを上述の第1温度にまで加熱する。
【0046】
ここで、本願発明者らが実施した、上述のシミュレーションによる機能性固体材料前駆体層の温度変化を調査したもう1つの結果について説明する。シミュレーション用の設定の装置構成は、上述と同様に、予備加熱部900が、
図1における横方向の長さが5.6mmの直方体状である点、及び予備加熱部900からローラー822までの距離が変更(2種類)されている点以外は、
図1に示す型押し構造の形成装置800に基づくものである。また、ローラー温度は200℃に設定した。加えて、ローラーと機能性固体材料前駆体層との相対的な水平方向の移動速度は、500μm/分に設定した。その他の条件は以下のとおりである。
(1)メッシュ数:5000,(x,y,z)=(1,50,100)
(2)現象時間:20秒間
(3)流体(つまり、空気層)は無し
(4)導入物理条件: Heat transfer, Moving and simple deforming objects
【0047】
図5は、上述のシミュレーション条件において、予備加熱部からローラーまでの距離の違いに対する機能性固体材料前駆体層の温度変化を示すグラフである。なお、比較例として、予備加熱部が設けられなかった場合も調査した。また、
図5における6.4mm及び8.9mmという数値は、いずれも予備加熱部からローラーまでの距離を示している。
図5に示すように、いずれも、機能性固体材料前駆体層の最高到達温度が比較例と比べて高くなることが確認された。また、予備加熱部が設けられた位置がローラーに近いほど、機能性固体材料前駆体層の最高到達温度が高くなることが分かった。さらに、予備加熱部が設けられた位置がローラーに近いほど、その最高到達温度に至るまでに時間が短くなることが分かった。これは、予備加熱部が設けられた位置がローラーに近いほど、より急峻な機能性固体材料前駆体層の昇温を実現し得ることを示している。従って、予備加熱部が設けられた位置がローラーに近いほど、ロールツーシート方式において、より確度高く、加工の連続性、又は加工速度の速さを維持することができることが明らかとなった。
【0048】
従って、ローラーと予備加熱部とは、互いにより近接していることが好ましい。より具体的には、ローラーの最下点と予備加熱部の端部との距離(
図3のd4)が10mm以下であることがより好ましく、6.4mm以下であることが更に好ましい。
【0049】
上述のシミュレーション結果に基づけば、予備加熱部900による加熱の直後(例えば、10秒後〜100秒後、より好適には、10秒後〜20秒後)に型押し工程が行われることは好適な一態様である。ローラー822を用いた型M1によって押圧される直前に、十分に機能性固体材料前駆体層20aの温度が(第1温度にまで)高められているため、その後の型押し工程において型押し構造を確度高く形成することが可能となる。
【0050】
本実施形態によれば、型押し工程の後、例えば、RTA(rapid thermal anealing)装置を用いて機能性固体材料前駆体層を加熱する本焼成工程を経ることにより、確度高く、及び/又は精度良く型押し構造が形成された機能性固体材料層が得られる。
【0051】
なお、本実施形態の他の1つの変形例として、上部型押し部が水平移動可能であって、型を保持するとともに被処理体10が載置された下部型押し部が固定された装置及び方法の態様も、本実施形態の効果と同等の効果が奏され得る。
【0052】
また、本実施形態における被処理体10の種類又は材質は特に限定されない。例えば、被処理体10がSiO
2/Si基板、絶縁性基板(例えば、石英ガラス(SiO
2)基板、Si基板の表面にSiO
2層及びTi層を介してSTO(SrTiO
3)層を形成した絶縁性基板、アルミナ(Al
2O
3)基板、SRO(SrRuO
3)基板、STO(SrTiO
3)基板)、又は半導体基板(例えば、シリコン(Si)基板、炭化硅素(SiC)基板)等の固体基板を用いることができる。加えて、フレキシブル基板(代表的には、樹脂製基板)も、本実施形態における被処理体10に含まれ得る。
【0053】
<第2の実施形態>
本実施形態においては、第1の実施形態の型押し構造の形成装置800を用いた、る機能性デバイスの一例である薄膜トランジスタ100の製造方法について説明する。
【0054】
図6A〜
図6Fは、それぞれ、本実施形態における薄膜トランジスタ100の製造方法の一過程を示す断面模式図である。なお、本実施形態の薄膜トランジスタは、いわゆるボトムゲート構造を採用しているが、本実施形態はこの構造に限定されない。従って、当業者であれば、通常の技術常識を以って本実施形態の説明を参照することにより、工程の順序を変更することにより、トップゲート構造を形成することができる。加えて、図面を簡略化するため、各電極からの引き出し電極のパターニングについての記載は省略する。なお、本実施形態における機能性固体材料層20は、機能性固体材料前駆体溶液を出発材とする機能性固体材料前駆体層を焼成することによって形成されている。本出願では、前述のように、前駆体溶液を出発材とし、それを焼成することによって機能性固体材料層20を形成する方法を、便宜上、「溶液法」とも呼ぶ。
【0055】
(1)ゲート電極の形成
[予備加熱工程]
本実施形態では、まず、
図6Aに示すように、被処理体10上に、公知のスピンコーティング法により、機能性固体材料前駆体溶液である、インジウム(In)を含む前駆体(例えば、塩化インジウムやインジウムアセチルアセトナート)及び錫(Sn)を含む前駆体(例えば、塩化錫)を溶質とする前駆体溶液(ここでは、ゲート電極用前駆体溶液)を出発材とする機能性固体材料前駆体層(ゲート電極用前駆体層)20aを形成する。その後、制御部860が、予備加熱部900を用いて、代表的な一例として約10秒間、機能性固体材料前駆体層20aを大気中において加熱する。後述するローラー822の温度が200℃であるため、本実施形態の予備加熱部900の温度は、150℃以上350℃以下である。なお、基台用ヒーター814による被処理体10及び機能性固体材料前駆体層20aの加熱は、型押し工程の前に、予備加熱部900による加熱時間を含めて、約5分間行われる。また、前述の各前駆体の例の他にも、例えば、インジウム(In)を含む前駆体として、インジウムイソプロポキシド、酢酸インジウム、2−エチルヘキサン酸インジウムを採用することができる。また、錫(Sn)を含む前駆体の例として、錫アセチルアセトナート、2−エチルヘキサン酸錫を採用することができる。
【0056】
ここで、予備加熱部900の温度を上述の温度範囲に設定した理由は、機能性固体材料前駆体層(ゲート電極用前駆体層)20aの温度を第1温度にするためである。機能性固体材料前駆体層20aの温度が第1温度未満になると、機能性固体材料前駆体層20a中に残存する溶媒成分の残存量が多くなり、十分に機能性固体材料前駆体層20aを乾燥させることができなくなる可能性が高まる。その結果、機能性固体材料前駆体層20aの固化反応をある程度進めることが困難になる可能性が高まる。一方、上述のとおり、第1温度が第2温度以上になると、機能性固体材料前駆体層20aの固化反応が進み過ぎるために、その後の型押し工程において機能性固体材料前駆体層20aを十分に軟化させること(機能性固体材料前駆体層20aの塑性変形能力を十分に高くすること)が困難になる。その結果、十分な型押し加工の効果を得ること(代表的には、型押し構造を確度高く、又は寸法精度良く形成すること)が困難になる。なお、予備加熱工程における既に述べた好適な各温度範囲は、機能性固体材料前駆体層20aのみならず、後述する他の前駆体層に対しても適用し得るため、重複する説明は省略する。
【0057】
[型押し工程]
その後、ゲート電極のパターニングを行うために、
図6Bに示すように型押し工程が行われる。本実施形態では、
図1に示すように、コンピューター862が接続する制御部860により、予備加熱部900の温度、上部型押し部の移動と温度制御、及び下部型押し部の温度制御が行われながら、型押し加工が施される。以下に、
図6Fに示す機能性デバイス(本実施形態では、薄膜トランジスタ100)の製造工程の一部である各層の形成及び型押し工程を示しながら具体的な処理を説明する。
【0058】
まず、型押し工程の処理対象となる機能性固体材料前駆体層20aを備えた被処理体10を基台812に吸着させる。
【0059】
なお、被処理体10を基台812に吸着させると同時に、又はその前に、制御部860は、基台用ヒーター814を昇温させるとともに、予備加熱部900の温度を昇温させる。その結果、制御部860は、機能性固体材料前駆体層20aを、基台用ヒーター814によって被処理体10の裏面側から加熱するとともに、予備加熱部900によって機能性固体材料前駆体層20aの表面側から加熱する。加えて、制御部860は、被処理体10を基台812に吸着させると同時に、又はその前に、ローラー822を加熱することによってローラー822の温度を第2温度(例えば、200℃)にまで上昇させる。
【0060】
その後、予備加熱部900によって加熱されることによって、第1温度にまで昇温された機能性固体材料前駆体層20aに対して、制御部860は、上部型押し部を下方に移動させる。そして、例えば、機能性固体材料前駆体層20aに対してゲート電極用の型M1を押圧する。なお、本実施形態では、型を用いて、10MPaの圧力で型押し加工が施される。
【0061】
上述の工程により、
図6Bに示すようにゲート電極用の型M1を用いて型押し加工を施した結果、
図6Cに示すように、層厚が約100nm〜約300nmの厚層部と層厚が約10nm〜約100nmの薄層部とを備える、最終的にゲート電極層となる機能性固体材料前駆体層20aが形成される。
【0062】
その後、
図6Dに示すように、機能性固体材料前駆体層20aを全面エッチングすることにより、ゲート電極に対応する領域以外の領域から機能性固体材料前駆体層20aを除去する(機能性固体材料前駆体層20aの全面に対するエッチング工程)。なお、本実施形態のエッチング工程は、真空プロセスを用いることないウェットエッチング技術を用いて行われたが、プラズマを用いた、いわゆるドライエッチング技術によってエッチングされることを妨げない。なお、プラズマ処理を大気圧下において行う技術を採用することも可能である。
【0063】
[熱処理(本焼成)工程]
さらにその後、本焼成として、機能性固体材料前駆体層20aを酸素雰囲気中(例えば100体積%であるが、これに限定されない。以下の「酸素雰囲気」についても同じ。)において約15分間加熱する。本実施形態では、RTA(rapid thermal anealing)装置を用いて機能性固体材料前駆体層20aを加熱する。その結果、
図2Eに示すように、被処理体10上に、機能性固体材料層20であるゲート電極層として、インジウム(In)と錫(Sn)とからなる酸化物層が形成される。なお、インジウム(In)と錫(Sn)とからなる酸化物層は、ITO(indium tin oxide)層とも呼ばれる。
【0064】
上述のとおり、ゲート電極用の型M1を用いて型押し加工を施し、その後、本焼成を行うことにより、確度高く、及び/又は精度良く型押し構造が形成された機能性固体材料層20を形成することが可能となる。
【0065】
ところで、本実施形態の基台用ヒーター814の役割は、機能性固体材料前駆体層中の溶媒を蒸発させるとともに、将来的な塑性変形を可能にする特性を発現させるために好ましいゲル状態(熱分解前であって有機鎖が残存している状態と考えられる)を形成することである。その上で、予備加熱部900を用いて上述の第1温度になるように機能性固体材料前駆体層20aを採用することにより、機能性固体材料層20の成型性の向上、及び比較的低温の成型に再現性良く寄与し得ることになる。
【0066】
ところで、上述のインジウム(In)を含む前駆体の例は、酢酸インジウム、硝酸インジウム、塩化インジウム、又は各種のインジウムアルコキシド(例えば、インジウムイソプロポキシド、インジウムブトキシド、インジウムエトキシド、インジウムメトキシエトキシド)が採用され得る。また、錫(Sn)を含む前駆体の例として、酢酸錫、硝酸錫、塩化錫、又は各種の錫アルコキシド(例えば、錫イソプロポキシド、錫ブトキシド、錫エトキシド、錫メトキシエトキシド)が採用され得る。
【0067】
また、本実施形態では、インジウム(In)と錫(Sn)とからなる酸化物であるゲート電極層となる機能性固体材料層20が採用されているが、機能性固体材料層20はこの組成に限定されない。例えば、他の機能性固体材料層20として、酸化インジウム(In
2O
3)、アンチモンドープ酸化錫(Sb−SnO
2)、酸化亜鉛(ZnO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(Al−ZnO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(Ga−ZnO)、酸化ルテニウム(RuO
2)、酸化イリジウム(IrO
2)、酸化錫(SnO
2)、一酸化錫SnO、ニオブドープ二酸化チタン(Nb−TiO
2)などの酸化物導電体材料を用いることができる。また、本発明の他の一態様の薄膜トランジスタは、前述の機能性固体材料層20として、インジウムガリウム亜鉛複合酸化物(IGZO)、ガリウムドープ酸化インジウム(In−Ga−O(IGO))、インジウムドープ酸化亜鉛(In−Zn−O(IZO))などのアモルファス導電性酸化物を用いることができる。また、本発明の他の一態様の薄膜トランジスタは、前述の機能性固体材料層20として、チタン酸ストロンチウム(SrTiO
3)、ニオブドープチタン酸ストロンチウム(Nb−SrTiO
3)、ストロンチウムバリウム複合酸化物(SrBaO
2)、ストロンチウムカルシウム複合酸化物(SrCaO
2)、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO
3)、酸化ニッケルランタン(LaNiO
3)、酸化チタンランタン(LaTiO
3)、酸化銅ランタン(LaCuO
3)、酸化ニッケルネオジム(NdNiO
3)、酸化ニッケルイットリウム(YNiO
3)、酸化ランタンカルシウムマンガン複合酸化物(LCMO)、鉛酸バリウム(BaPbO
3)、LSCO(La
xSr
1−xCuO
3)、LSMO(La
1−xSr
xMnO
3)、YBCO(YBa
2Cu
3O
7−x)、LNTO(La(Ni
1−xTi
x)O
3)、LSTO((La
1−xSr
x)TiO
3)、STRO(Sr(Ti
1−xRu
x)O
3)、その他のペロブスカイト型導電性酸化物、又はパイロクロア型導電性酸化物を用いることができる。
【0068】
また、本実施形態における効果を適切に奏させるために、ゲート電極用前駆体溶液の溶媒は、以下の(1)乃至(3)のいずれかの溶媒であることが好ましい。
(1)エタノール、プロパノール、ブタノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、及び2−ブトキシエタノールの群から2種が選択されるアルコールの混合溶媒。
(2)エタノール、プロパノール、ブタノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、及び2−ブトキシエタノールの群から選択される1種のアルコール溶媒。
(3)酢酸、プロピオン酸、及びオクチル酸の群から選択される1種又は2種のカルボン酸たる溶媒。
なお、ゲート電極用前駆体溶液についての前述の好適な溶媒の例は、ゲート電極用前駆体溶液のみならず、後述する他の機能性固体材料前駆体層の出発材としての機能性固体材料前駆体溶液に対しても適用し得るため、重複する説明は省略する。
【0069】
(2)その後の薄膜トランジスタ100の製造工程
その後、パターニングされた機能性固体材料層20上に、公知のシリコン(Si)を含む前駆体を溶質とする前駆体溶液を出発材とするゲート絶縁層用前駆体層を焼成することによって形成されるゲート絶縁層30(代表的な厚みは約170nm)が形成される。その後、ゲート絶縁層30上に、インジウム(In)と亜鉛(Zn)とからなる酸化物である、公知のチャネル用酸化物層40(代表的な厚みは約20nm)が形成される。さらにその後、ランタン(La)とニッケル(Ni)とからなる酸化物である、公知のソース/ドレイン電極用酸化物層50が形成されることにより、ドレイン電極52及びソース電極54が形成される。その結果、
図6Fに示す薄膜トランジスタ100が製造される。
【0070】
上述のように、本実施形態では、少なくとも一部の酸化物層に対して型押し加工を施すことによって型押し構造を形成する、「型押し工程」が採用されている。この型押し工程が採用されることにより、真空プロセスやフォトリソグラフィー法を用いたプロセス、あるいは紫外線の照射プロセス等、比較的長時間、及び/又は高価な設備を必要とするプロセスが不要になる。また、本実施形態では、ゲート電極が溶液法によって形成されているが、ゲート絶縁膜、チャネル、ソース電極、及びドレイン電極に対しても溶液法を採用し得る。従って、本実施形態の薄膜トランジスタ100は、極めて工業性ないし量産性に優れている。
【0071】
また、本実施形態における「機能性固体材料前駆体溶液」は、金属アルコキシドを含む溶液、金属有機酸塩を含む溶液、金属無機酸塩を含む溶液、金属ハロゲン化物を含む溶液、金属、窒素、及び水素を含む無機化合物を含む溶液、金属水素化物を含む溶液、及び金属ナノ粒子を含む溶液の群から選ばれる少なくとも1種類を含む溶液であることが好ましい。
【0072】
<その他の実施形態1>
上述の各実施形態の予備加熱部900の代わりに、
図7に示すように、予備加熱部900の傾斜面の下端(又は、型M1に対向する平面924のローラー822側の先端)からローラー822に向けて突出する冷却防止部929を備えた予備加熱部950を採用することは、他の好適な一態様である。この冷却防止部929の材質として、例えば、熱容量が比較的大きい材質が採用されることが好ましい。また、
図7に示す例においては、厚みが約0.3mmのアルミニウム製の板状体である冷却防止部929がL字状に折り曲げられた状態で、予備加熱部950の本体部の外周面に公知の手段によって接着、接合、又は一体化(ビス止め等を含む)がされている。その結果、冷却防止部929の先端とローラー822の最下端との距離(
図7のd5)を、第1の実施形態における距離d4よりも短くすることが可能となる。代表的な比較例においては、距離d4が約20mmであったのに対して、距離d5は約5mm〜約10mmであった。
【0073】
図7に示す構成を採用することにより、第1の実施形態における予備加熱部900の傾斜面の下端(又は、型M1に対向する平面924のローラー822側の先端)からローラー822による型押し加工が施されるまでの時間帯の、機能性固体材料前駆体層20aに生じ得る冷却を、確度高く抑制ないし防止することが可能となる。なお、この例に示す冷却防止部929の代わりに、予備加熱部950の本体部と冷却防止部929とが鋳造等によって一体的に成形されることによって冷却防止部929が予備加熱部950の本体部からローラー822の最下端に向けて延設される構造も、採用し得る他の一態様である。
【0074】
<その他の実施形態2>
また、上述の第2の実施形態では、薄膜トランジスタを例にとって説明したが、上述の各実施形態で採用された製造方法は、それらに限定されない。例えば、他の機能性デバイスの製造方法の実施形態として、メモリ型トランジスタ、圧電式インクジェットヘッド、及び被処理体上に金属酸化物セラミックス層又は金属層が格子状に形成された構造を有する反射型偏光板その他の各種光学デバイスを製造する際、あるいは、キャパシタを製造する際にも第1の実施形態で採用された製造方法を適用することができる。
【0075】
<その他の実施形態3>
また、第2の実施形態における「型押し工程」においては、型による圧力は、代表的に例示されている10MPaには限定されない。この型押し工程における圧力が1MPa以上20MPa以下の範囲内の圧力であれば、第2の実施形態の少なくとも一部の効果が奏され得る。
【0076】
なお、第2の実施形態では、高い塑性変形能力を得た各前駆体層に対して型押し加工を施すこととしている。その結果、型押し加工を施す際に印加する圧力を1MPa以上20MPa以下という低い圧力であっても、各前駆体層が型の表面形状に追随して変形するようになり、所望の型押し構造を高い精度で形成することが可能となる。また、その圧力を1MPa以上20MPa以下という低い圧力範囲に設定することにより、型押し加工を施す際に型が損傷し難くなるとともに、大面積化にも有利となる。
【0077】
ここで、上記の圧力を「1MPa以上20MPa以下」の範囲内としたのは、以下の理由による。まず、その圧力が1MPa未満の場合には、圧力が低すぎて前駆体層(例えば、機能性固体材料前駆体層20a)を型押しすることができなくなる場合があるからである。他方、その圧力が20MPaもあれば、十分にその前駆体層を型押しすることができるため、これ以上の圧力を印加する必要がないからである。前述の観点から言えば、2MPa以上10MPa以下の範囲内にある圧力で型押し加工を施すことがより好ましい。
【0078】
<その他の実施形態4>
また、上述の各実施形態の型押し工程においては、上述の型押し構造の形成装置800の代わりに、ローラー822の表面に型M1を取り付けることも他の採用し得る一態様である。
【0079】
<その他の実施形態5>
さらに、上述の各実施形態の「予備加熱部」又は「熱源」は、機能性固体材料前駆体層を外部から加熱するヒーターとして説明したが、上述の各実施形態の「予備加熱部」又は「熱源」は、そのような態様に限定されない。例えば、上述の各実施形態の「予備加熱部」又は「熱源」が型押し加工を施す際の型(例えば、型M1)の内部に配置されることによって、その型自身が機能性固体材料前駆体層を加熱するヒーターも採用し得る一態様である。
【0080】
以上述べたとおり、上述の各実施形態の開示は、それらの実施形態の説明のために記載したものであって、本発明を限定するために記載したものではない。加えて、各実施形態の他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。