特許第6285706号(P6285706)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6285706
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】自動車用燃料タンク
(51)【国際特許分類】
   B60K 15/03 20060101AFI20180215BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20180215BHJP
   F02M 37/00 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
   B60K15/03 B
   B32B27/30 101
   B32B27/30 A
   F02M37/00 301J
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-256198(P2013-256198)
(22)【出願日】2013年12月11日
(65)【公開番号】特開2015-112999(P2015-112999A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2016年9月28日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】590000721
【氏名又は名称】株式会社キーレックス
(73)【特許権者】
【識別番号】000232542
【氏名又は名称】日本特殊塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】城本 克伸
(72)【発明者】
【氏名】藤山 修
(72)【発明者】
【氏名】廣▲瀬▼ 幸信
【審査官】 畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−131368(JP,A)
【文献】 特開平04−145174(JP,A)
【文献】 特開2010−19088(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 15/03
B32B 27/30
F02M 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属系シート材で形成した筐体からなる燃料タンクに、燃料をエンジンへ供給する電動ポンプが内設され、アイドリングストップ時に、上記燃料タンク内の上記電動ポンプが作動している自動車用燃料タンクにおいて、
前記筐体の外表面には耐チッピング用塗膜が被覆されており、
前記耐チッピング用塗膜が、塩化ビニール樹脂を10〜30質量%又はアクリル樹脂を10〜30質量%の範囲で、前記塩化ビニール樹脂又は前記アクリル樹脂の単独又は混合した合計値が、10〜30質量%を基材とし、
前記耐チッピング用塗膜には、上記アイドリングストップ時の上記電動ポンプの100Hz〜200Hzの周波数帯の作動音の外部への伝達を低減する雲母粉体が、7.5〜15.0質量%の範囲で混成されていることを特徴とする自動車用燃料タンク。
【請求項2】
請求項1において、
前記耐チッピング用塗膜は、塗料全体に対して、可塑剤を15〜40質量%、炭酸カルシウムを0〜50質量%、付着付与剤を0.1〜15質量%、防錆顔料を1〜15質量%、着色顔料を0.1〜1.0質量%、安定剤を0.1〜5質量%、軽量骨材を1〜5質量%含むことを特徴とする自動車用燃料タンク。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記雲母粉体は、アスペクト比50(50:1)以上で粒子径(長さ)は10〜200μmであることを特徴とする自動車用燃料タンク。
【請求項4】
請求項1ないしのいずれか1つにおいて、
前記耐チッピング用塗膜の膜厚が、300〜2000μmであることを特徴とする自動車用燃料タンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐チッピング性に優れた塗膜が外表面に被覆された金属製の自動車用燃料タンクであって、燃料タンクに内蔵された電動ポンプの作動音及び作動振動の伝達、特にアイドリングストップ時の電動ポンプの作動音及び作動振動の外部への伝達を低減する自動車用の燃料タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気環境規制の関係から、自動車の燃料消費を低減することを目的にアイドリングストップ機能(停車時または極低速時にエンジンを停止させ、発進又は走行に際して再びエンジンを起動する)を有した自動車が実現されてきている。
【0003】
そうした中で、アイドリングストップ機能で問題になるのが、停止したエンジンをいかに短時間でスムーズに再始動するかということであり、該再始動に係る対策が様々に研究され、一部は実用化されている。例えば、アイドリングストップ(エンジン停止)時でも、電動ポンプの作動を維持させて、燃料配管内の圧力を一定に保つようにし、エンジンの再始動をできるだけスムーズに行えるようにしたものが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−19088号公報(段落[0024]、[0040]、[0041])
【特許文献2】特開2007−91149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のようにアイドリングストップ時に電動ポンプを作動させる技術において、この電動ポンプが燃料タンク内に配設される場合に、乗り心地(車内の快適性)に影響する問題がある。
【0006】
即ち、エンジンが停止してエンジンルームから自動車車内に伝播していたエンジン作動(運転)時の騒音が無くなるが、燃料タンクに内蔵された電動ポンプが作動しているために、この作動音および作動振動が、燃料タンクの筐体を伝って、車内に耳障りな音として聞こえている。特に、この状態、即ちアイドリングストップ時では、エンジン音は全く発生しておらず車内は静かな状態であるために、上記作動音が非常に顕著に聞こえて、耳障りな音として不快感を与えることとなっていることが判明した。
【0007】
そこで、本発明者らはその現象を詳しく知得するために、電動ポンプの作動音および作動振動について調査・分析を行った。その結果、燃料タンク内の電動ポンプの作動による振動が燃料タンク本体および該燃料タンク内部空間で共鳴し、該共鳴した振動が燃料タンクの筐体(タンク壁)から車体を伝って自動車車内の居住空間に伝播するNVH(Noise Vibration Harshness)となっていることが分かった。
【0008】
これは、高密度ポリエチレン樹脂を基材とした樹脂製の燃料タンクよりも金属系シートを基材とした金属製の燃料タンクの方が顕著であり、更に、金属製タンクの外面に被覆される塗料の質にも影響されることが判明した。また、これらのポンプ作動音および作動振動は特定の周波数帯で金属製の燃料タンクとそれを搭載した車体を伝わり易い傾向があることが分かった。また、同時に燃料タンク内部の燃料油の量(燃料タンクの総重量)にも影響を受け、燃料油がF点(Full:フルの略称で燃料タンク内の燃料が満タン状態を示す)付近よりもE点(Empty:エンプティの略称で燃料タンク内の燃料油が所定以下の状態を示す)付近にある方が顕著になることが判明した。
【0009】
そこで、本発明者らは、この特定周波数帯のノイズを低減するために、更に対策について研究を重ね、その研究の中で、燃料タンクの筐体へ被覆する塗膜に工夫することで対応できないかという観点で研究を深めていった。
【0010】
一般的に、自動車用燃料タンクでは、耐食性、耐チッピング性などのために、金属製燃料タンクの筐体の外表面に塗装を行うことが知られている。例えば、特許文献2では、耐食性などのためにアクリル樹脂とメラミン樹脂とからなる混合塗料を塗布することが開示されている。また、耐チッピング性能の確保のために塩化ビニール被膜を形成することもよく知られている。しかし、従来の塗膜では、耐食性や耐チッピング性等の一般的に燃料タンクに要求される性能から塗膜を形成しているだけであり、上記アイドリングストップ時の電動ポンプの作動音に対しては、全く考慮された文献が見当たらなかった。
【0011】
そのために、本研究者らは独自に研究を掘り下げていった結果、特定の塗膜を被覆すると、燃料タンクの塗膜として外表面に被覆されている耐チッピング塗膜の本来の性能を維持しつつ、上記特定周波数帯のノイズを低減できる本発明にいたった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
具体的には、請求項1の発明は、金属系シート材で形成した筐体からなる燃料タンクに、燃料をエンジンへ供給する電動ポンプが内設され、アイドリングストップ時に、上記燃料タンク内の上記電動ポンプが作動している自動車用燃料タンクにおいて、前記筐体の外表面には耐チッピング用塗膜が被覆されており、前記耐チッピング用塗膜が、塩化ビニール樹脂を10〜30質量%又はアクリル樹脂を10〜30質量%の範囲で、前記塩化ビニール樹脂又は前記アクリル樹脂の単独又は混合した合計値が、10〜30質量%を基材とし、前記耐チッピング用塗膜には、上記アイドリングストップ時の上記電動ポンプの100Hz〜200Hzの周波数帯の作動音の外部への伝達を低減する雲母粉体が、7.5〜15.0質量%の範囲で混成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1において、前記耐チッピング用塗膜は、塗料全体に対して、可塑剤を15〜40質量%、炭酸カルシウムを0〜50質量%、付着付与剤を0.1〜15質量%、防錆顔料を1〜15質量%、着色顔料を0.1〜1.0質量%、安定剤を0.1〜5質量%、軽量骨材を1〜5質量%含むことを特徴とする。
【0014】
請求項3の発明は、請求項1又は2において、前記雲母粉体は、アスペクト比50(50:1)以上で粒子径(長さ)は10〜200μmであることを特徴とする。
【0015】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれか1つにおいて、前記耐チッピング用塗膜の膜厚が、300〜2000μmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、金属系シート材(鋼鈑)をプレス等により形成した筐体を被覆する塗膜として、耐チッピング性や耐食性などの性能を満足すると共に、燃料タンクの筐体(タンク壁)を伝わって伝播される電動ポンプの騒音が低減されるので、アイドリングストップ時の不快な騒音を低減でき、乗り心地を改善でき、快適性を得られる。
【0017】
さらに、塩化ビニール樹脂又はアクリル樹脂の単独又は混合した成分からなる基材に雲母粉体が混在して設けられた塗膜とすると、自動車用燃料タンクの塗膜として、耐チッピングや耐食性などの性能を十分に有している。
【0018】
さらに、雲母が、3.0〜15.0質量%の範囲で混成され、特に7.5〜15.0質量%の範囲で混成されていると、上記燃料タンクとしての性能と、アイドリングストップ時の騒音低減とをバランス良く、効果的に発揮できる。
【0019】
さらに、耐チッピング用塗膜が塩化ビニール樹脂を10〜30質量%又はアクリル樹脂を10〜30質量%の範囲で、塩化ビニール樹脂又はアクリル樹脂の単独又は混合した合計値が、10〜30質量%とすると、上記燃料タンクとしての性能と、アイドリングストップ時の騒音低減とをバランス良く、更に効果的に発揮できる。
【0020】
請求項4の発明によれば、耐チッピング用塗膜の膜厚が、300〜2000μmであるので、上述の燃料タンクとしての性能と、制振性を十分に発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】膜厚と損失係数との関係を示すグラフである。
図2】室内音圧レベルの計測値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。
【0023】
本発明の実施形態では、図示しないが、自動車用燃料タンクに、その燃料をエンジンへ供給するための電動ポンプが内蔵され、金属系シート材(鋼鈑)からなる燃料タンクの筐体の外表面に耐チッピング塗膜が被覆され、この耐チッピング塗膜に雲母が含まれているものである。このことによって、アイドリングストップ時には、燃料タンクに内蔵された電動ポンプが作動しているが、そのときの作動音及び作動振動による特定周波数での不快音(振動を含む)が低減されている。
【0024】
なお、電動ポンプ作動音及び作動振動には、ポンプに内設されたインペラが電動モータにより回転することで発生する振動成分と、ポンプから圧送される燃料がエンジン側に送られない場合にポンプ内圧力の上昇を避けるために排出(リリーフ弁等より)される燃料の吐出に伴う振動などがある。
【0025】
以下、本発明の実施形態では、アイドリングストップ時に、燃料タンク内で作動している上記作動音及び作動振動を、電動ポンプの作動音と称す。なお、本発明では、電動ポンプは、燃料タンク内に設けられて、燃料タンク内の燃料を供給するためのポンプであって、エンジンの作動(運転)と関係なく作動できるポンプのことであって、「インタンク型電動燃料ポンプ」、「電動式燃料ポンプ」、「電磁ポンプ」と呼ばれているものも含む。
【0026】
本発明の燃料タンクの筐体は、金属系シート材からなる各種の鋼板が使用可能であるが、メッキ鋼板、特に内外面の防錆性能が優れている新日鐵住金(株)製の「エココート(登録商標)-S」鋼鈑(溶融錫亜鉛メッキ鋼板)が好ましい。
【0027】
該耐チッピング塗膜は、塩化ビニール樹脂やアクリル樹脂からなる基材とし、この基材に雲母を分散配合してなるものが好ましく、他の添加剤を含んでいても良い。
【0028】
上記雲母としては、天然雲母や合成雲母などが使用可能である。
【0029】
本発明の燃料タンクの製造方法は、上記鋼板をプレス成形し、タンク内付帯部品を溶接等により組立て、燃料タンクの上部構造物と下部構造物とし、所謂モナカ状に上部構造物と下部構造物を重ね合わせてシーム溶接などにより接合し、タンク状にした後、一般的な塗装の前処理である脱脂洗浄工程を経て、本発明の塗膜の組成物から調製した塗料を被覆して製造される。該プレス加工、接合、成形等を含む燃料タンクの製造は、従来公知の方法により行われる。また、この際に燃料タンクの形状、大きさなどは特に限定されない。更に、塗膜を被覆して形成する方法は、スプレー塗装、粉体塗装、浸漬塗装、カーテンフロー、カチオン電着塗装等の公知の方法で実施される。また、一般的な塗装の前処理の中でリン酸亜鉛処理等の化成処理の工程を施す場合もある。
【0030】
該塗膜の膜厚は特に限定されないが、目標となる機能に合わせて決定される。塗膜が薄すぎると、耐チッピング性能や特定周波数での不快音の低減性能が不足し、塗膜が厚すぎると、コストアップや重量増加になるので好ましくない。そのために、平均的な厚さが、300〜2000μm、特に600〜1500μmとすることが好ましい。乾燥条件は特に限定されないが、100〜200℃の雰囲気中で、10〜30分程度焼付け硬化させることが好ましい。
【0031】
次に、各成分について説明する。
【0032】
(塩化ビニール樹脂(PVC))
塩化ビニール系樹脂は、塗料の乾燥塗膜の物性向上を目的として、塗料の樹脂成分全体の合計が塗料に対して10〜30質量%の割合で混入することが好ましく、特に15〜25質量%以上とすることが好ましい。10質量%よりも少ないと、乾燥塗膜の機械的な特性(強度)が不十分となり、耐チッピング性が低下し、30質量%よりも多いと、塗膜のTg値(ガラス転移点)が低温側にシフトするため、常温での制振性が低下するとともに組成物の貯蔵安定性が低下し粘度が増加する傾向にあるため塗布作業性が悪化するので、上記範囲とすることが好ましい。
【0033】
(アクリル樹脂)
アクリル系樹脂は、塗料の乾燥塗膜の物性向上と周波数特性の向上を目的として、塗料の樹脂成分全体の合計が塗料に対して10〜30質量%の割合で混入することが好ましく、特に15〜25質量%以上とすることが好ましい。10質量%よりも少ないと、塗膜のTg値が低温側にシフトし、常温での制振性が低下するとともに塗膜の密着性が悪化し、30質量%よりも多いと、貯蔵安定性が低下し粘度が増加する傾向にあるため塗布作業性が悪化するので、上記範囲とすることが好ましい。
【0034】
(塩化ビニール樹脂とアクリル樹脂の組み合わせ)
なお、耐チッピング用塗膜の基材としては、塩化ビニール樹脂とアクリル樹脂の少なくとも一方の樹脂があることが好ましい。特に、両者を含むことが、耐チッピング特性や制振性の観点上からは好ましく、少ないと効果が弱く、多すぎるとコストアップや生産性が悪くなるので、塩化ビニール樹脂又は前記アクリル樹脂の単独又は混合した合計値が、10〜30質量%であることが好ましい。
【0035】
(付着付与剤)
付着付与剤は、被塗装物である金属素材への付着性向上を目的として、塗料全体に対して0.1〜15質量%の割合で混入することが好ましい。0.1質量%よりも少ないと、付着付与材の極性分子が働き難く付着性が低下する。15質量%よりも多いと、貯蔵安定性が低下し粘度が増加する傾向にあるため塗布作業性が悪化する。付着付与剤としては、公知の材料が使用できるものである。
【0036】
(雲母)
雲母は、特定の周波数でのノイズを低減することができるものであり、塗料全体に対して3〜15質量%、特に7.5〜10.5質量%の割合で混入することが好ましい。3質量%よりも少ないと、塗膜の制振性効果が低下する。15質量%よりも多いと、制振性は向上するが塗料の粘度が増加する傾向にあるため塗布作業性が悪化する。制振性能及び作業性を考慮すると、アスペクト比50(50:1)以上で粒子径(長さ)は10〜200μmが好ましい。
【0037】
本発明の雲母としては、天然雲母の金雲母と白雲母、合成雲母のフッ素金雲母、四珪素雲母が制振性の向上として特に有効である。
【0038】
(防錆顔料)
防錆顔料は、タンク壁を構成する金属基材の防錆性能の向上を目的として混入されるものであり、塗料全体に対して1〜15質量%の割合で混入することが好ましい。1質量%よりも少ないと、不動態皮膜の形成量が減少し、防錆効果が低下する。15質量%よりも多いと、塗料の粘度が増加する傾向にあるため塗布作業性が悪化する。前記防錆顔料としては特に限定されず公知のものを使用すればよく、例えば、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛、シアン化亜鉛、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム、リンモリブデン酸アルミニウム、水酸化ビスマス、酸化ビスマス、乳酸ビスマス、硝酸ビスマス等が挙げられ、リン酸、トリポリリン酸、リンモリブデン酸などのリン酸系、亜リン酸系などの無機リン酸系の防錆顔料が好ましい。
【0039】
なお、亜鉛、錫、ビスマス、銅、マンガン、コバルトなどの金属化合物の硬化触媒も防錆顔料として、顔料分散用樹脂と共に分散して使用してもよい。
【0040】
その他の顔料としては、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、黒色酸化鉄、銅クロムブラック、銅鉄マンガンブラック及びベンガラのような着色顔料、カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカ、クレー及びシリカのような体質顔料等を使用することができる。
【0041】
(着色顔料)
カーボンブラック等の着色顔料は、塗膜の耐候性能(紫外線やオゾンなどによる変色や劣化などの変質)を向上させることを目的に混入されるものであり、塗料全体に対して0.1〜1.0質量%の割合で混入することが好ましい。0.1質量%よりも少ないと、色調が低下し、耐候性能も低下する。1.0質量%よりも多いと、機械的な特性が低下すると同時に粘度が増加する傾向にあるため塗布作業性が悪化する。着色顔料としては、公知なものが採用できる。 (安定剤)
安定剤は、塩化ビニール樹脂成分が塗料の焼付乾燥などの高温環境や塗装後に二次的に発生する塩化物などによる脱塩化水素反応により、分子構造が不安定になることを抑制し、塗膜を安定して形成させる。安定剤としては、公知なものが採用できる。
【0042】
また、樹脂分の吸湿発泡性を維持し耐チッピング性能を向上させると同時に、塗膜の耐久性の向上を目的に混入される。そのために、塗料全体に対して0.1〜5質量%の割合で混入することが好ましい。0.1質量%よりも少ないと、脱塩化水素反応を抑制する効果が低下すると同時に、耐吸湿発泡性も低下する。5質量%よりも多いと、塗料の粘度が増加する傾向にあるため塗布作業性が悪化する。安定剤は、公知なものを採用すればよい。
【0043】
(可塑剤)
可塑剤は、塩化ビニール樹脂などの熱可塑性樹脂成分の可塑化を制御し安定した塗膜形成を行うことを目的として混入される。塗料全体に対して15〜40質量%の割合で混入することが好ましい。15質量%よりも少ないと、可塑化が制御し難くなるとともに貯蔵安定性が低下し粘度が増加する傾向にあるため塗布作業性が悪化する。40質量%よりも多いと、乾燥塗膜のTg値が低温側にシフトし制振性が低下する。可塑剤は、公知なものを採用すればよい。
【0044】
(軽量骨剤)
プラスチックバルン等の軽量骨材は、塗料の軽量化を目的とし塗料全体に対して1〜5質量%の割合で混入することが好ましい。1質量%よりも少ないと、塗料の軽量化に効果が少なく乾燥後の塗膜重量が増加する傾向にある。5質量%よりも多いと、樹脂成分の比率が下がり乾燥塗膜の機械的な特性(強度)が不十分となり、耐チッピング性が低下する。軽量骨材は、公知なものを採用すればよい。
【0045】
(炭酸カルシウム)
重質炭酸カルシウム、表面処理炭酸カルシウム等の炭酸カルシウムは、塗料の粘度特性(チキソトロピー)、機械的な特性、密着性に寄与し、同時に樹脂分や顔料よりも価格低減効果が大きいことから、塗料の各種性能を調整することを目的として混入される塗料の調整剤である。塗料全体に対して0〜50質量%の割合で混入することが好ましく、特に、塗料全体に対して2.0〜16.5質量%とすることが好ましい。
【0046】
その他添加物としては、ポリエステル樹脂等の耐薬品性付与剤等、市販の付着付与剤、消泡剤、分散剤、レベリング剤などを含有することができるが、これらは特に限定されない。
【実施例】
【0047】
以下、実施例で本発明を具体的に説明する。燃料タンクの筐体の素材として、厚さ0.8mmの錫亜鉛メッキ鋼板(片面当たり付着量30g/m)を縦150mm、横100mmに切り出したテストピース1と、縦230mm、横15mmに切り出したテストピース2との2種類を作製した。
【0048】
(実施例1〜9、比較例1,2)
上記テストピース1およびテストピース2の表面に、実施例1〜9及び比較例1,2の各塗膜の組成成分を塗装した。具体的には、エアレス塗装機(GRACO(株)製エアレスガン、塗装動圧5.0MPa、ガン距離300mm、ノズル型式631)を使用して膜厚が300μmとなるように、上記テストピース表面に塗装した。その後、この鋼板を加熱し、140℃で20分間保持することにより、上記塗膜を焼付け硬化した。
【0049】
なお、実施例1〜9及び比較例1,2の各塗膜の組成成分は、表1に示すものである。
【0050】
【表1】
【0051】
そして、テストピース2については、300μmの膜厚の各テストピースと同様にして、それぞれ600μm、2000μmの膜厚のテストピースも作製した。
【0052】
これら複数の膜厚のテストピース2について、片持梁法損失係数測定機(ブリュエル&ケアー社製)を用いて、2次共振点での半値幅法にて、膜厚別の数損失係数(η)を測定し評価した(測定温度20℃)。
【0053】
この実験結果を図1に示す。この実験から理解できる点は、実施例1〜9では、塗膜の膜厚が増えることで、損失係数(制振性)が大幅に向上するが、比較例1,2では、膜厚が厚くなっても、損失係数がほとんど変わらない。そのために、制振性の観点では、雲母を加えることが、効果的であると判断できる。特に、加える雲母の量を増やすと制振性が飛躍的に良くなる傾向にあることが判る。
【0054】
この結果を受けて、次に、雲母を加えた際に、本来燃料タンクの筐体が備えるべき耐チッピング機能や耐食性等について、更に、比較実験をした。
【0055】
なお、この比較実験では、実施例1〜7と比較例1とで行った。実施例8,9の雲母の量は、実施例1と同じであり、比較例2は、比較例1と同様に雲母の量がゼロであるので、雲母の量による塗膜の機能は予測できるので省略した。
【0056】
次に、この比較実験の詳細を説明する。
【0057】
(A:塗装性)
上記塗膜(実施例1〜7と比較例1)を形成したテストピース1の表面上に形成されるパターン幅により、塗装性を評価した。評価基準は以下のとおりである。
【0058】
◎:パターン幅が300mmを越える
○:パターン幅が250〜300mm
△:パターン幅が200〜249mm
×:パターン幅が200mm未満
(B:密着性)
上記テストピース1の塗膜表面に刃物を垂直にあて、素地に達する深さで間隔4mmの平行線を5本引き、それらの平行線に交わる直行線を間隔4mmで5本を引いてできた碁盤目に接着テープを貼り、塗膜から粘着テープを急激に引っ張って剥離状態を評価した。
【0059】
◎:剥離なし
○:剥離面積が5%未満
△:剥離面積が5〜15%
×:剥離面積が15%を越える
(C:耐チッピング性)
ASTMD3170規格に規定された飛石試験機に、−20℃および20℃に恒温されたテストピース1を設置し、JIS A 5001に規定する単粒度砕石(大きさ10〜15mm)500gを圧力500KPaで、各テストピースの塗膜面に5回ぶつける。その後、JIS Z 2371規格の塩水噴霧試験を168時間行った後、発錆状態と剥離状態を評価した。
【0060】
◎:直径3mm以上の剥離がなく、発錆個数が5個未満
○:直径3mm以上の剥離がなく、発錆個数が5〜10個
△:直径3mm以上の剥離がなく、発錆個数が11〜15個
×:直径3mm以上の剥離がなく、発錆個数が15個を超える
(D:耐食性)
上記各テストピース1の塗膜表面に刃物を垂直にあて、素地に達する深さでクロスカット(長さ40mm、30度)を入れたテストピースを、JIS Z 2371規格の塩水噴霧試験で480時間行って赤錆発生状態ならびに塗膜の膨れ剥離状態を評価した。
【0061】
◎:赤錆の発生なく、塗膜の膨れ剥がれなし
○:クロスカット部からの素地錆および塗膜の膨れ広がりが片側2mm未満
△:クロスカット部からの素地錆および塗膜の膨れ広がりが片側2〜3mm
×:クロスカット部からの素地錆および塗膜の膨れ広がりが片側3mmを越える
(E:制振性)
上記各テストピース2(塗装膜厚:600μm)について、片持梁法損失係数測定機(ブリュエル&ケアー社製)を用いて、2次共振点での半値幅法にて、膜厚別の数損失係数(η)を測定し評価した(測定温度20℃)。
【0062】
◎:塗装膜厚600μm時に損失係数が0.02を超える
○:塗装膜厚600μm時に損失係数が0.015〜0.02
△:塗装膜厚600μm時に損失係数が0.01〜0.014
×:塗装膜厚600μm時に損失係数が0.01未満
(F:総合判定)
上記A〜Eの比較実験を行った結果を表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
A〜Eの試験結果から総合的に判定した。総合判定では、「×」が少なくとも1つでもあるものは「×」とし、「△」が少なくとも1つあるものを「○」と、また全ての項目で「○」以上のものを「◎」とそれぞれ表示した。
【0065】
この実験結果からは、雲母を増加するほど、制振性は良くなるが、逆に塗装性及び密着性が悪くなり、雲母の適正な投入量の関係が判った。
【0066】
次に、実際に不快音となる周波数領域を調べるために室内音圧レベルを計測した。
【0067】
(G:室内音圧レベル)
比較例1の塗料を平均膜厚600μmで塗装した燃料タンクを排気量1500ccから2500ccのエンジンを搭載できる程度の車両(タンク容量は約50L)に搭載し、給油管(フューエルインレット又はフィラーパイプ)を介して燃料タンクにE点相当の燃料油を投入し、精密マイクロフォン(ブリュエル&ケアー社製)を車内中央に設置して、車両エンジン作動(アイドリング)時、アイドリングストップ時(エンジン非作動で、電磁ポンプのみ作動中)について、音圧レベルを測定した。各実施例及び比較例の音圧レベル測定においては、燃料タンク内の燃料油の量がE点相当になるように適宜燃料油を投入し調整した。
【0068】
そして、比較例1の塗膜に代えて、実施例1,3,6の塗膜で同様な実験を行った。なお、他の全ての実施例についても、同様な実験をすればよいが、それぞれ車両に搭載して実験をすることは、大幅な工数とコストを伴い大変な作業になるので、上記実施例のみで代用した。
【0069】
この実験結果を図2に示す。比較例1の塗膜で図2の実験結果を見た場合に、アイドリング時には、100〜1000Hzのどこの周波数帯でも大きな音圧レベルにあるが、アイドリングストップ時には、音圧レベルが全体的に低い結果を示す。しかし、100から200Hzの周波数帯で、音圧レベルが急激に山のように高くなっており、この音圧レベルが、耳障りな音(不快な音)になっているといえる。
【0070】
それに対して、実施例1,3,6では、この領域、即ち100から200Hzの周波数帯の音圧レベルを下げて、山の高さがなだらかになっているので、耳障りな音にならなくなったといえる。
【0071】
上記のように、100〜200Hzの周波数帯では、実施例1,3,6は比較例1に対して、音圧レベルが下がって良くなっていると共に、200〜1000Hzの周波数帯では、実施例1,3,6は比較例1と同様な音圧レベルを示しており、燃料タンクの筐体の塗膜に雲母を加えることが非常に良いことが判る。
【0072】
なお、防錆顔料、着色顔料、安定剤は、一般的に塗膜に含まれており、数値範囲も通常の範囲であり、敢えて範囲の異なる成分での実験は省いた。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、耐チッピング性に優れた塗膜が外表面に被覆された金属製の自動車用燃料タンクであって、燃料タンクに内蔵された電動ポンプの作動音の伝達、特にアイドリングストップ時の電動ポンプの作動音の外部への伝達を低減する自動車用の燃料タンクに適用できる。
図1
図2