【実施例】
【0047】
以下、実施例で本発明を具体的に説明する。燃料タンクの筐体の素材として、厚さ0.8mmの錫亜鉛メッキ鋼板(片面当たり付着量30g/m
2)を縦150mm、横100mmに切り出したテストピース1と、縦230mm、横15mmに切り出したテストピース2との2種類を作製した。
【0048】
(実施例1〜9、比較例1,2)
上記テストピース1およびテストピース2の表面に、実施例1〜9及び比較例1,2の各塗膜の組成成分を塗装した。具体的には、エアレス塗装機(GRACO(株)製エアレスガン、塗装動圧5.0MPa、ガン距離300mm、ノズル型式631)を使用して膜厚が300μmとなるように、上記テストピース表面に塗装した。その後、この鋼板を加熱し、140℃で20分間保持することにより、上記塗膜を焼付け硬化した。
【0049】
なお、実施例1〜9及び比較例1,2の各塗膜の組成成分は、表1に示すものである。
【0050】
【表1】
【0051】
そして、テストピース2については、300μmの膜厚の各テストピースと同様にして、それぞれ600μm、2000μmの膜厚のテストピースも作製した。
【0052】
これら複数の膜厚のテストピース2について、片持梁法損失係数測定機(ブリュエル&ケアー社製)を用いて、2次共振点での半値幅法にて、膜厚別の数損失係数(η)を測定し評価した(測定温度20℃)。
【0053】
この実験結果を
図1に示す。この実験から理解できる点は、実施例1〜9では、塗膜の膜厚が増えることで、損失係数(制振性)が大幅に向上するが、比較例1,2では、膜厚が厚くなっても、損失係数がほとんど変わらない。そのために、制振性の観点では、雲母を加えることが、効果的であると判断できる。特に、加える雲母の量を増やすと制振性が飛躍的に良くなる傾向にあることが判る。
【0054】
この結果を受けて、次に、雲母を加えた際に、本来燃料タンクの筐体が備えるべき耐チッピング機能や耐食性等について、更に、比較実験をした。
【0055】
なお、この比較実験では、実施例1〜7と比較例1とで行った。実施例8,9の雲母の量は、実施例1と同じであり、比較例2は、比較例1と同様に雲母の量がゼロであるので、雲母の量による塗膜の機能は予測できるので省略した。
【0056】
次に、この比較実験の詳細を説明する。
【0057】
(A:塗装性)
上記塗膜(実施例1〜7と比較例1)を形成したテストピース1の表面上に形成されるパターン幅により、塗装性を評価した。評価基準は以下のとおりである。
【0058】
◎:パターン幅が300mmを越える
○:パターン幅が250〜300mm
△:パターン幅が200〜249mm
×:パターン幅が200mm未満
(B:密着性)
上記テストピース1の塗膜表面に刃物を垂直にあて、素地に達する深さで間隔4mmの平行線を5本引き、それらの平行線に交わる直行線を間隔4mmで5本を引いてできた碁盤目に接着テープを貼り、塗膜から粘着テープを急激に引っ張って剥離状態を評価した。
【0059】
◎:剥離なし
○:剥離面積が5%未満
△:剥離面積が5〜15%
×:剥離面積が15%を越える
(C:耐チッピング性)
ASTMD3170規格に規定された飛石試験機に、−20℃および20℃に恒温されたテストピース1を設置し、JIS A 5001に規定する単粒度砕石(大きさ10〜15mm)500gを圧力500KPaで、各テストピースの塗膜面に5回ぶつける。その後、JIS Z 2371規格の塩水噴霧試験を168時間行った後、発錆状態と剥離状態を評価した。
【0060】
◎:直径3mm以上の剥離がなく、発錆個数が5個未満
○:直径3mm以上の剥離がなく、発錆個数が5〜10個
△:直径3mm以上の剥離がなく、発錆個数が11〜15個
×:直径3mm以上の剥離がなく、発錆個数が15個を超える
(D:耐食性)
上記各テストピース1の塗膜表面に刃物を垂直にあて、素地に達する深さでクロスカット(長さ40mm、30度)を入れたテストピースを、JIS Z 2371規格の塩水噴霧試験で480時間行って赤錆発生状態ならびに塗膜の膨れ剥離状態を評価した。
【0061】
◎:赤錆の発生なく、塗膜の膨れ剥がれなし
○:クロスカット部からの素地錆および塗膜の膨れ広がりが片側2mm未満
△:クロスカット部からの素地錆および塗膜の膨れ広がりが片側2〜3mm
×:クロスカット部からの素地錆および塗膜の膨れ広がりが片側3mmを越える
(E:制振性)
上記各テストピース2(塗装膜厚:600μm)について、片持梁法損失係数測定機(ブリュエル&ケアー社製)を用いて、2次共振点での半値幅法にて、膜厚別の数損失係数(η)を測定し評価した(測定温度20℃)。
【0062】
◎:塗装膜厚600μm時に損失係数が0.02を超える
○:塗装膜厚600μm時に損失係数が0.015〜0.02
△:塗装膜厚600μm時に損失係数が0.01〜0.014
×:塗装膜厚600μm時に損失係数が0.01未満
(F:総合判定)
上記A〜Eの比較実験を行った結果を表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
A〜Eの試験結果から総合的に判定した。総合判定では、「×」が少なくとも1つでもあるものは「×」とし、「△」が少なくとも1つあるものを「○」と、また全ての項目で「○」以上のものを「◎」とそれぞれ表示した。
【0065】
この実験結果からは、雲母を増加するほど、制振性は良くなるが、逆に塗装性及び密着性が悪くなり、雲母の適正な投入量の関係が判った。
【0066】
次に、実際に不快音となる周波数領域を調べるために室内音圧レベルを計測した。
【0067】
(G:室内音圧レベル)
比較例1の塗料を平均膜厚600μmで塗装した燃料タンクを排気量1500ccから2500ccのエンジンを搭載できる程度の車両(タンク容量は約50L)に搭載し、給油管(フューエルインレット又はフィラーパイプ)を介して燃料タンクにE点相当の燃料油を投入し、精密マイクロフォン(ブリュエル&ケアー社製)を車内中央に設置して、車両エンジン作動(アイドリング)時、アイドリングストップ時(エンジン非作動で、電磁ポンプのみ作動中)について、音圧レベルを測定した。各実施例及び比較例の音圧レベル測定においては、燃料タンク内の燃料油の量がE点相当になるように適宜燃料油を投入し調整した。
【0068】
そして、比較例1の塗膜に代えて、実施例1,3,6の塗膜で同様な実験を行った。なお、他の全ての実施例についても、同様な実験をすればよいが、それぞれ車両に搭載して実験をすることは、大幅な工数とコストを伴い大変な作業になるので、上記実施例のみで代用した。
【0069】
この実験結果を
図2に示す。比較例1の塗膜で
図2の実験結果を見た場合に、アイドリング時には、100〜1000Hzのどこの周波数帯でも大きな音圧レベルにあるが、アイドリングストップ時には、音圧レベルが全体的に低い結果を示す。しかし、100から200Hzの周波数帯で、音圧レベルが急激に山のように高くなっており、この音圧レベルが、耳障りな音(不快な音)になっているといえる。
【0070】
それに対して、実施例1,3,6では、この領域、即ち100から200Hzの周波数帯の音圧レベルを下げて、山の高さがなだらかになっているので、耳障りな音にならなくなったといえる。
【0071】
上記のように、100〜200Hzの周波数帯では、実施例1,3,6は比較例1に対して、音圧レベルが下がって良くなっていると共に、200〜1000Hzの周波数帯では、実施例1,3,6は比較例1と同様な音圧レベルを示しており、燃料タンクの筐体の塗膜に雲母を加えることが非常に良いことが判る。
【0072】
なお、防錆顔料、着色顔料、安定剤は、一般的に塗膜に含まれており、数値範囲も通常の範囲であり、敢えて範囲の異なる成分での実験は省いた。