(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記直進駆動部材と前記トーチボディまたはこれに結合された第1の直進可動部材との間に設けられ、前記直進駆動部材の移動する方向で弾性変形可能なばね部材を有する、請求項10に記載の接合装置。
前記トーチ電極の先端が前記被接合部に接触したことを検出する位置センサを有し、前記位置センサの出力信号に応答して前記直進駆動部材の移動を停止させる、請求項10または請求項11に記載の接合装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図を参照して本発明の好適な実施形態を説明する。
【0018】
図1に、本発明の一実施形態における接合装置の全体構成を示す。この接合装置は、スポット接合、特に拝み接合(突き合わせ接合)に好適に対応できる据置型の装置構成となっており、直流式の電源回路、制御回路および各種駆動回路等を内蔵したユニット形態の装置本体10と、この装置本体10からの用力の供給と制御の下で電気部品支持体(たとえば回路基板または回路アッセンブリ)S上の被接合材(母材)にアークを用いたろう接(ろう付またはハンダ付)を施す接合ヘッド12と、シールドガスたとえばアルゴンガスの供給源であるガスボンベ14とを有する。
【0019】
接合ヘッド12は、板状のベース16に可動ステージ18とトーチスタンド20を併設し、トーチスタンド20にトーチ22を昇降移動可能に搭載するとともに、トーチスタンド20および可動ステージ18から独立した支持体(図示せず)に支持アーム25を介して溶加材送給装置24を所定位置に保持させている。
【0020】
可動ステージ18は、電気部品支持体Sを水平面内のXY方向で移動させるためのXYステージ26と、電気部品支持体Sを水平面内の方位角方向(θ方向)で移動させるためのθステージ27とを有している。一方、トーチスタンド20は、固定台28の上にたとえばサーボモータを駆動源とする昇降駆動部(図示せず)を内蔵した昇降タワー30を設けている。この昇降タワー30の昇降駆動部に昇降支持軸32を介して直進駆動部材34が結合され、この直進駆動部材34にトーチ22が鉛直方向で一体移動可能に取り付けられている。直進駆動部材34とトーチ22とを連結する機構については、後に詳細に説明する。
【0021】
トーチ22は、水平方向では固定されている。装置本体10より電気ケーブル36を介して送られてくる制御信号の下でXYステージ26およびθステージ27がXY方向の移動動作およびθ方向の移動(回転)動作をそれぞれ行うことにより、ステージ18に載置されている電気部品支持体S上でろう接の対象となる被接合材の被接合部WJをトーチ22の直下に位置決めすることができる。
【0022】
トーチ22は、装置本体10より電気ケーブル内蔵のホース38を介して本実施形態におけるろう接用の電力とシールドガスSGの供給を受けるようになっており、絶縁体たとえば樹脂からなる円筒状のトーチボディ40とこのトーチボディ40の下端(先端)部に取り付けられる円筒状または円錐状のトーチノズル42とを有し、トーチボディ40およびトーチノズル42の中にペンシル形のトーチ電極(タングステン電極棒)44を着脱自在に装着し、トーチノズル42の下端(先端)よりわずかに(通常2〜3mm)トーチ電極44の下端(先端)を突出させている。
【0023】
装置本体10は、ユニット正面に表示器46、操作ボタン48および電源スイッチ50等をタッチパネル形式で配設し、ユニット側面または背面に外部接続端子またはコネクタ類52を配設している。ガスボンベ14よりホース15に送出されるシールドガスSGは、装置本体10およびホース38を経由してトーチ22に供給されるようになっている。
【0024】
図2に、この実施形態におけるスポット接合の適用可能な被接合材(母材)の一例を示す。図示の例では、たとえば銅からなる2つの細長い棒状または板状の金属部材たとえばバスバーW
1,W
2を被接合材(母材)とし、両金属部材W
1,W
2のそれぞれの上端面(頂面)を略面一に揃えてそれぞれの上端部を一体に合わせている。この一体に合わさった金属部材W
1,W
2の上端部が被接合部WJを形成する。各金属部材W
1,W
2の他端(図示せず)は、たとえば、電気部品支持体S上に搭載されている電気部品(図示せず)に通じている。あるいは、一方の端子部材W
1は電気部品支持体S上に搭載され、他の端子部材W
2の他端は別の電気部品支持体(図示せず)上に搭載されている電気部品(図示せず)に通じている。
【0025】
また、
図2に示すように、好ましくは被接合部WJを避けて、両金属部材W
1,W
2に一対の接触子(コンタクト)C
1,C
2が左右両側から着脱可能に接触する。これらの接触子C
1,C
2は、電気ケーブル56を介して装置本体10内の電源回路76(
図5)の正極に電気的に接続されている。
【0026】
さらに、被接合部WJまたはその付近に温度センサとして熱電対58が取り付けられる。この熱電対58は、熱電対ケーブル60および温度測定回路(図示せず)を介して装置本体10内の制御部に接続されている。
【0027】
溶加材送給装置24は、装置本体10より電気ケーブル62を介して送られてくる制御信号の下で動作するようになっており、ワイヤ状の溶加材Mを円滑に送り出せるように巻き付けているワイヤリール(図示せず)、このワイヤリールからワイヤ状溶加材Mを所定の速度で送り出すための送給ローラ(図示せず)、この送給ローラを回転駆動するためのモータ(図示せず)等をその本体24aの中に備え、ワイヤ状溶加材Mを供給先まで案内するための筒状のワイヤガイド24bを本体24aに取り付けている。この実施形態では、ワイヤ状溶加材Mを供給先から任意かつ瞬時に退避させることができるように、送給ローラに逆送りの機能を持たせている。
【0028】
さらに、この実施形態における溶加材送給装置24は、装置本体10の中にワイヤ状溶加材Mの供給量を測定するための溶加材供給量測定部(図示せず)を備えている。この溶加材供給量測定部は、たとえば本体24aの内部またはワイヤガイド24bの先端部に取り付けられ、ワイヤ状溶加材Mの送出された量(長さ)を検出するエンコーダ(図示せず)を有する。装置本体10内の制御部は、溶加材供給量測定部(エンコーダ)の出力信号を受け取り、1回のスポット接合においてワイヤ状溶加材Mの供給量(供給されたワイヤの長さ)が設定値になるように、送給ローラの回転動作(回転速度、回転時間等)を制御する。これにより、ワイヤガイド24bから送り出されたワイヤ状溶加材Mが途中で撓んでも、ワークまたは被接合部WJに対するワイヤ状溶加材Mの供給量(長さ)を一定に制御できるようになっている。
【0029】
この実施形態では、後述するように常にワイヤ状溶加材Mを外さずに必ずアークACのアーク柱または芯部の中に導入して溶かすことができるので、溶加材送給装置24より被接合部WJに向けて送り出されたワイヤ状溶加材Mの全量がろう接に有効に使用されたものとみなすことができる。
【0030】
一例として、母材の金属部材W
1,W
2がそれぞれ断面2mm×2mmのタフピッチ銅の角棒からなるバスバーである場合、トーチ電極44にはたとえば直径(φ)2.4mmのタングステン棒が用いられ、ワイヤ状溶加材Mにはたとえば直径(φ)0.8mmのりん銅ろうワイヤが用いられる。通常の母材においては、両金属部材W
1,W
2の接触界面に必ず幾らか(たとえば0.1mm程度)の隙間gが存在する。この実施形態における被接合部WJのろう接では、後述するように、被接合部WJの頂面付近でアーク熱により溶けた溶加材(りん銅ろう)がねれで拡散して隙間gの中に浸み込むようになっている。
【0031】
次に、
図4A〜
図4Fにつき、この実施形態の接合装置において、直進駆動部材34とトーチ22とを連結する機構について説明する。図示のように、板状の直進駆動部材34の貫通孔34aにトーチボディ40が通され、トーチボディ40の上部ないし中間部に固定された鍔状またはフランジ状の連結部材66が直進駆動部材34の上面に載るようにして、トーチボディ40が直進駆動部材34に連結される。
【0032】
かかる構成のトーチ昇降機構においては、トーチ電極44の下端が空中に浮いている間は(
図4A)、昇降タワー30が直進駆動部材34を下降させると、連結部材66が直進駆動部材34の上面に載った状態でトーチ22が直進駆動部材34と一体に下降移動する(
図4B)。そして、トーチ電極44の下端が母材(W
1,W
2)の被接合部WJの上面に接触し(
図4C)、さらに直進駆動部材34が下降すると、トーチボディ40の連結部66が直進駆動部材34から分離し(
図4D)、トーチボディ40は直進駆動部材34から独立して被接合部WJ上で起立するようになる(
図4D)。この時、被接合部WJにはトーチ22の自重が加わる。
【0033】
また、トーチ電極44の下端が母材(W
1,W
2)の被接合部WJに接触している状態(
図4E)から、直進駆動部材34を元の高さ位置まで上昇移動させると、その途中でトーチボディ40の連結部材66が直進駆動部材34の上に載ってトーチボディ40も直進駆動部材34と一体に上昇移動するようになっている(
図4F)。
【0034】
この実施形態では、トーチボディ40の連結部材66と直進駆動部材34との間の連結または分離状態を検出するためのセンサ70が備わっている。図示のセンサ70は、垂直リニアスケールからなり、連結部材66の側面に取り付けられている鉛直方向に延びる目盛部72と、この目盛部72を直進駆動部材34の相対的な高さ位置に応じたレベルで光学的に読み取るように直進駆動部材34に取り付けられている目盛読取部74とを有している。目盛読取部74は、反射式の光学センサからなり、電気ケーブル(図示せず)を介して装置本体10内の制御回路に電気的に接続されている。
【0035】
このセンサ70においては、トーチボディ40の連結部材66が直進駆動部材34の上に載っている限り、直進駆動部材34が任意の高さ位置で昇降移動しても目盛読取部74の出力信号(読取値)は一定値を保つ。しかし、直進駆動部材34がトーチボディ40の連結部材66から分離すると、目盛部72と目盛読取部74との相対位置が変化し、目盛読取部74の出力信号(読取値)が変化する。装置本体10内の制御部は、目盛読取部74からの出力信号に基づいて直進駆動部材34とトーチボディ40との相対的な位置関係を監視できるとともに、直進駆動部材34が往動(下降移動)する途中でトーチ電極44の下端が母材(W
1,W
2)の被接合部WJに接触したときは、そのことを検出できる。なお、このような目盛を用いる光学式のセンサに代えて、近接センサ等の他の方式のセンサを用いることも可能である。
【0036】
次に、
図3、
図4A〜
図4Fおよび
図5A〜
図5Eを参照して、この実施形態における接合装置の動作およびろう接方法(スポット接合方法)を説明する。
【0037】
先ず、タフピッチ銅の母材(W
1,W
2)を支持する電気部品支持体Sがステージ18上に載置されている状態で、XYステージ26およびθステージ27が上記のように装置本体10内の制御部による制御の下で水平面内の位置合わせを行う。この位置合わせ動作により、母材(W
1,W
2)の被接合部WJ上に予め設定された位置、つまり通電開始のためにトーチ電極44の下端が接触すべき位置(以下、「通電開始位置」と称する。)Pがトーチ電極44の真下に位置するようになる。図示の例のようなスポット接合(拝み接合)の場合は、被接合部WJの頂面上で隙間gまたはその付近の箇所に通電開始位置Pを設定するのが好ましい。
【0038】
通常、電気部品支持体S上で接合対象となっている全ての被接合部WJにXY座標が割り当てられるので、オープンループ制御の位置合わせ動作を行える。もっとも、モニタカメラ等を用いてフィードバック制御の位置合わせ動作を行うことも可能である。
【0039】
上記のようにしてステージ18上で母材(W
1,W
2)の被接合部WJがトーチ電極44の真下に位置決めされると、溶加材送給装置24と被接合部WJとの間でも位置合わせが完了する。すなわち、溶加材送給装置24と被接合部WJとの間では、ワイヤガイド24bの先端またはワイヤ状溶加材Mの先端が母材(W
1,W
2)の被接合部WJ上の通電開始位置Pを斜め上方から指すような位置関係になる(
図5A)。
【0040】
上記のような水平面内の位置合わせとは別に、高さ方向においても装置本体10内の制御部により昇降タワー30を通じてトーチ22のスタート位置が適当な高さ位置に調整される。ただし、同一種類の複数の被接合部に対して同一条件のろう付を続けて行う場合は、各回のろう付の終了後にトーチ22を一定のスタート位置に戻すことによって、次回のろう付けのための初期高さ位置調整を省くこともできる。
【0041】
上記のような位置合わせないし初期高さ位置の調整が済んでいる状態(
図4A)から、装置本体10内の制御部による制御の下で、ステージ18上の母材(W
1,W
2)に対するろう接が接合ヘッド12で実行される。
図3のフローチャートは、この実施形態におけるろう接方法(スポット接合方法)の手順を示す。
【0042】
先ず、制御部は、昇降タワー30の昇降駆動部を作動させて、直進駆動部材34の下降移動を開始する(ステップS
1)。トーチ電極42の下端は空中に浮いているので(
図4A)、直進駆動部材34の下降移動が開始されると、連結部材66が直進駆動部材34の上面に載った状態でトーチ22も直進駆動部材34と一体に下降移動する(
図4B)。
【0043】
そして、トーチ電極44の下端が被接合部WJに通電開始位置P(または少しずれてその近傍)で接触すると(ステップS
2)、トーチ22の下降移動がそこで終了する(
図4C)。その直後に、直進駆動部材34がトーチボディ40の連結部材66から分離すると(
図4D)、制御部がセンサ70の出力信号に応答して直進駆動部材34の下降移動を止める(ステップS
3)。
【0044】
なお、制御部は、トーチ22の下降移動の途中で、あるいは下降移動の終了直後に、シールドガスSGの供給を開始する。シールドガスSGは、ボンベ14から装置本体10およびホース38を介してトーチ22に供給される。トーチ22は、トーチボディ40の上部にシールドガスSGを導入し、導入したシールドガスSGをトーチノズル42の開口から所定の流量(たとえば5リットル/分)で噴出する。
【0045】
こうしてトーチ電極44の下端が被接合部WJ上の通電開始位置P(またはその近傍)に接触している状態の下で、制御部は通電を開始する(ステップS
4)。すなわち、装置本体10内で定電流源からなる直流電源回路76のスイッチSWをそれまでのオフ状態からオン状態に切り換える。そうすると、直流電源回路76の正極→オン状態のスイッチSW→電気ケーブル56→接触子C
1,C
2→被接合部WJ→トーチ電極44→ホース38内の電気ケーブル39→直流電源回路76の負極の経路または閉回路78内で、一定の直流電流iが流れる(
図5C)。
【0046】
この直流電流iの電流値は、通電開始から終了まで一定値に保たれてもよく、あるいは途中で段階的または連続的に切り換えられてもよい。通電時間を通じて一定値に保つ場合は、トーチ電極44の下端を被接合部WJから離してアークを発生させた時に、融点640℃のワイヤ状溶加材(りん銅ろう)Mは速やかに溶けつつも融点1000℃以上の被接合部(タフピッチ銅)WJは全くまたは殆ど溶けないようなアーク熱が得られる電流値I
M(たとえば70A)に設定される。
【0047】
あるいは、この接触状態下の初期通電時において、電流iの電流値をろう接に適した上記の値I
Mより一段と低い値I
Sに制御してもよい。すなわち、トーチ電極42の寿命を延ばすには、トーチ電極42の先端が被接合部WJから離れた瞬間にアーク放電を出来るだけ弱く発生させるのが好ましい。一方で、トーチ電極42の先端を被接合部WJから引き離して開始されるろう接のぬれ性を良くするには、この段階(接触状態下)の通電において被接合部WJに適度のジュール熱を発生させて予備加熱しておくのが好ましい。この実施形態では、これら両面の観点から、上記閉回路78内で流す電流iの通電開始時の電流値I
Sをたとえば10〜20Aの範囲に制御する。
【0048】
あるいは、この実施形態では温度センサ(熱電対)58を通じて被接合部WJの温度をモニタできるので、そのモニタ温度を一定の値または一定の範囲に制御するように、制御部が電源回路76を通じて電流iの初期電流値I
Sを可変に制御することも可能である。
【0049】
制御部は、通電開始から所定時間T
1が経過すると(ステップS
5)、直進駆動部材34を幾らか上昇移動させて、トーチ電極44の下端を被接合部WJから設定離間距離(たとえば3mm)だけ上方に引き離し(ステップS
6)、その高さ位置で静止させる。そして、このトーチ電極44の引き離しと同時に、または引き離しが完了した後に、制御部が電源回路76を制御して、上記閉回路78内で流す電流iの電流値をそれまでの初期電流値I
Sよりも一段と大きいろう接用の正規電流値I
Mに切り換える(ステップS
7)。
【0050】
こうしてトーチ電極44の下端が被接合部WJから離間し、かつ上記閉回路78内で正規電流値I
Mの電流(アーク電流)iが流れることにより、融点1000℃以上の被接合部(タフピッチ銅)WJを全くまたは殆ど溶かさずに融点640℃のワイヤ状溶加材(りん銅ろう)Mを速やかに溶かすことができるアークACが、トーチ電極44と被接合部WJとの間の空間ギャップに、特にトーチ電極44の下端と被接合部WJ上の通電開始位置Pとの間の空間ギャップに生成される。
【0051】
そして、トーチ電極42の先端を被接合部WJから引き離してから、あるいは上記閉回路78内の電流iの電流値を正規値I
Mに切り換えてから所定の遅延時間T
2が経過すると(ステップS
8)、このタイミングで制御部は溶加材送給装置24を通じてアークACの中へのワイヤ状溶加材Mの供給を開始する(ステップS
9)。
【0052】
この遅延時間T
2は、ぬれ性を良くするための最適時間や母材に与える影響等を考慮して決められ、通常は0.1〜0.5秒の範囲に選ばれる。また、この遅延時間T
2の経過後にジャスト・イン・タイムでワイヤ状溶加材Mの先端がアークACのアーク柱の中に突入するように、溶加材送給装置24の動作を開始するタイミングを若干早めてもよい。
【0053】
この実施形態では、ワイヤ状溶加材Mの先端が被接合部WJ上の通電開始位置Pをめがけて斜め上方から送られるため、ワイヤ状溶加材Mが確実にアークACのアーク柱の下端部に導入され、その導入位置でアーク熱を浴びて速やかに溶ける。そして、溶けた溶加材<M>は、ねれで周囲に拡がり、被接合部WJの隙間gの中または内奥に浸み込む(
図5D)。
【0054】
制御部は、溶加材送給装置24を通じてワイヤ状溶加材MをアークACの中に供給しながら、温度センサ(熱電対)58を通じて被接合部WJの温度を監視して、被接合部WJの温度が溶加材Mの融点よりも高くて母材(W
1,W
2)の融点を超えないように、アーク電流iを制御する。より具体的には、被接合部WJの測定温度が溶加材Mの融点より高くて母材(W
1,W
2)の融点より低い所定の基準温度(たとえば750℃)に一致または近似するように、アーク電流iの電流値I
Mを制御する。たとえば、被接合部WJの測定温度が基準温度より下がったときはアーク電流iの電流値I
Mを100A程度に上げ、被接合部WJの測定温度が基準温度を超えた時はアーク電流iの電流値I
Mをたとえば10A程度に下げるような制御を繰り返す。
【0055】
このように被接合部WJの温度を制御し、ひいてはワイヤ状溶加材Mを溶かす温度を制御することによって、アークACのアーク熱を利用して行われるろう接の効率性と信頼性および再現性を向上させることができる。
【0056】
制御部は、ワイヤ状溶加材Mの供給を開始してから所定の時間T
3(たとえば2〜3sec)が経過すると(ステップS
10)、溶加材送給装置24を制御してワイヤ状溶加材MをアークACから退避させ(ステップS
11)、次いで電源回路78のスイッチSWをオフ状態に切り換えて通電を止める(ステップS
12)。直後にシールドガスSGの供給も止める。
【0057】
なお、制御部は、上記のようなタイマ機能に代えて、溶加材送給装置24の溶加材供給量検出部(エンコーダ)の出力信号に基づいて、ワイヤ状溶加材Mの送出量または供給量が設定値に達したタイミングで、ワイヤ状溶加材MをアークACから退避させることもできる。
【0058】
ワイヤ状溶加材MがアークACから退避すると、その瞬間に被接合部WJへの溶加材の供給が停止する。また、通電が止まると、その瞬間にアークは消滅する。アークが消滅すると、被接合部WJの隙間gの中およびその周囲に拡散していた溶融状態(液状)の溶加材<M>が大気中の自然冷却によって直ぐに凝固して固体金属または合金[M]となる。こうして、母材(W
1,W
2)の被接合部WJにろう接の拝み接合(継手)が形成される。
【0059】
この後、制御部は、昇降タワー30の昇降駆動部を通じて直進駆動部材34を上昇移動させて、トーチ22をスタート位置に戻す(ステップS
13)。
【0060】
上述したように、この実施形態においては、母材(W
1,W
2)の被接合部WJにトーチ電極44の先端を接触させた状態で、トーチ電極44の周囲にシールドガスSCを供給しながら、トーチ電極44と被接合部WJとの間で通電を開始する。そして、シールドガスSCの供給と通電を継続しながら、トーチ電極44の先端を被接合部WJから離して、トーチ電極44と被接合部WJとの間で母材(W
1,W
2)を全くまたは殆ど溶かさずに溶加材Mを速やかに溶かすことができるアークACを発生させる。そして、少し遅れてこのアークACの中にワイヤ状の溶加材Mを供給して、溶加材MをアークACの熱で溶かし、溶けた溶加材<M>をぬれで拡散させて被接合部WJの隙間gに浸み込ませる。そして、一定時間経過後に(または、ワイヤ状溶加材Mの送出量または供給量が設定値に達したタイミングで)、溶加材MをアークACから退避させ、次いでアークACを消滅させて、被接合部WJの隙間gおよびその回りに拡散していた溶融状態(液状)の溶加材<M>を凝固させる。
【0061】
このように、この実施形態では、トーチ電極44と母材(W
1,W
2)の被接合部WJとの間に発生させるアークACを、被接合部WJの溶融(アーク溶接)にではなく、専ら可溶材Mの溶融に用いる。これによって、被接合部WJにはろう接による金属接合(継手)が得られる。したがって、たとえば、母材(W
1,W
2)の材質がタフピッチ銅であっても、アーク溶接で見られるようなブローホールが原理的に発生することはない。
【0062】
しかも、タッチスタート方式でアークACを発生させ、被接合部WJのトーチ電極44の先端が接触していた位置(通電開始位置P)をめがけてワイヤ状の溶加材Mを送るので、溶加材Mを外さずに確実にアークACのアーク柱または芯部の中に導入して最も効率よく溶かすことができる。
【0063】
さらには、溶加材送給装置24に備えられる溶加材供給量測定部(エンコーダ)を通じて、1回のスポット接合において被接合部WJに対するワイヤ状溶加材Mの供給量(供給されたワイヤの長さ)を常に設定値に管理できるので、溶加材Mを必ずアークACのアーク柱の中に確実に導入できる上記の作用効果と相まって、ろう接加工の品質、信頼性および再現性を大きく向上させることができる。
【0064】
さらに、ろう接によって形成された金属接合は、仮に接合不良であったとしても、取り戻し(リカバリー)や遣り直しが利くので、歩留まりの面でも有利である。また、アーク溶接と比較して、トーチ電極と母材との間に発生させるアークのアーク熱は格段に弱いので、つまりアーク電流が格段(約1/2程度)に小さいので、周囲に与える熱影響が少なく、消費電力の節約を図ることもできる。
[他の実施形態又は変形例]
【0065】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、上述した実施形態は本発明を限定するものではない。当業者にあっては、具体的な実施態様において本発明の技術思想および技術範囲から逸脱せずに種々の変形・変更を加えることが可能である。
【0066】
たとえば、上述した実施形態では、トーチ電極44の下端が母材(W
1,W
2)の被接合部WJの上面に接触してから直進駆動部材34がさらに下降すると、被接合部WJにはトーチ22の自重が加わるようになっていた。別の実施例(変形例)として、
図6に示すように、直進駆動部材34とトーチボディ40の一部(たとえばトーチボディ40に固定された鍔状のばね受け部80)との間に、直進駆動部材34の移動する方向で弾性変形可能なばね部材たとえばコイルばね82を設けることも可能である。この場合、コイルばね82に圧縮コイルばねを用いることで、トーチ電極42が被接合WJに接触したときに被接合部WJの受ける荷重をトーチボディ40の自重より任意に軽くすることができる。母材(W
1,W
2)が小型精密電子部品の端子部材である場合に有利な形態である。あるいは、コイルばね82に引っ張りコイルばねを用いることで、トーチ電極42が被溶接部WJに接触したときに被溶接部WJの受ける荷重をトーチボディ40の自重より任意に重くすることもできる。なお、ばね受け部80の位置を調整する機構(図示せず)を備えることで、コイルばね82のばね力を調整することもできる。
【0067】
このように直進駆動部材34にコイルばね82を介してトーチボディ40を取り付ける構成においては、直進駆動部材34を斜め方向または水平方向で直進移動させ、トーチ電極42を同方向に直進移動させることも可能である。
【0068】
上述した実施形態における直進駆動部材34の板状の形態は一例であり、直進駆動部材34は任意の形状の板体、ブロック、筒体、筺体の構造を採ることが可能である。同様に、連結部材66も任意の形態を採ることができる。
【0069】
また、上述した実施形態では、直進駆動部材34にトーチ22を直接取り付けた。しかし、
図7に示すように、直進駆動部材34にたとえば昇降棒のような直進可動部材88を鉛直方向で一体移動可能かつ分離可能に取り付け、この直進可動部材88に結合されたホルダ90にトーチ22を着脱可能に取り付ける構成も可能である。
【0070】
また、上述した実施形態では、2つの金属部材W
1,W
2の先端部分を合わせてろう接する拝み接合を行った。しかし、図示省略するが、2つの金属部材W
1,W
2の先端または側面を突き合わせてろう接する突き合わせ接合も可能である。
【0071】
さらには、
図8A〜
図8Cに示すように、2つの金属部材W
1,W
2を重ね合わせてろう接する重ね合わせの接合も可能である。この場合は、被溶接部WJの位置で重ね合わせの上になる方の金属部材W
1に好ましくはテーパ状の開口92を形成し、この開口92の中で露出する下側の金属部材W
2の上面に通電開始位置Pを設定する。そして、上記実施形態と同様に、トーチ電極44の先端を下側の金属部材W
2に通電開始位置P(またはその近傍)にて接触させた状態で通電を開始し(
図8A)、それからトーチ電極44の先端を引き離して上記と同様の強さのアーク熱を放つアークACを発生させ、このアークACの中にワイヤ状溶加材Mを供給する(
図8B)。この場合も、通電開始位置Pをめざしてワイヤ状溶加材Mを送るのが好ましい。そうすると、金属部材W
1,W
2は全くまたは殆ど溶けずに溶加材Mだけが速やかに溶け、溶けた溶加材<M>がぬれで拡散して金属部材W
1,W
2の隙間gの中に浸み込む。そして、一定時間の経過後に、ワイヤ状溶加材Mを退避させ、直後に通電を止めてアークACを消滅させると、開口92および隙間gの中に拡散していた溶融状態(液状)の溶加材Mが直ぐに凝固して固体金属または合金[M]となる(
図8C)。
【0072】
なお、アークACの中にワイヤ状の溶加材Mを供給するときは、被溶接部WJ上の通電開始位置Pをめざして溶加材Mを送るのが最も好ましい。しかし、通電開始位置Pの直上、つまりトーチ電極44の先端と通電開始位置Pとの間のギャップをめがけて溶加材Mを送ることも可能である。溶加材Mの形体は任意であり、ワイヤに限定されず、たとえば棒や板体であってもよい。
【0073】
上記実施形態における接合装置は据置型であったが、ロボットに搭載する形態も可能である。その場合は、直進駆動部材34または昇降支持軸32をロボットアームに結合すればよい。同様に、溶加材送給装置24も、トーチ22と一緒に同一のロボットに搭載してもよく、あるいは別のロボットに搭載することもできる。
【0074】
上記実施形態における接合装置は、接合ヘッド12のステージ18に自動位置合わせ機構(XYステージ25、θステージ26)を備えた。しかし、ステージ18を手動式の可動ステージに構成することや、あるいは固定式のステージ18上でワークまたは電気部品支持体Sの位置合わせを手動で行うことも可能である。
【0075】
被接合部WJにおいて、金属部材W
1,W
2の材質は銅または銅合金に限定されず、たとえばアルミニウムまたはアルミニウム金合や真鍮等の導体であってもよく、端子部材W
1の材質と端子部材W
2の材質が異なっていてもよい。また、金属部材W
1,W
2の形状も任意でよく、たとえば断面が矩形の棒体または板体に限らず断面が円形の棒体または板体であってもよい。