(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ドセタキセルは、乳癌、非小細胞肺癌、胃癌、食道癌、頭頸部癌、卵巣癌、子宮癌、前立腺癌を適応症とする医薬製剤の有効成分として用いられる。
【0003】
ドセタキセル(CAS 114977−28−5)は、タキソイドファミリーに属し、1986年にパクリタキセルの代替薬として開発された抗新生物薬である。これは、一般的に、イチイ(セイヨウイチイ)の針状葉から抽出された前駆体から開始される半合成過程によって調製される。ドセタキセルは、4−アセトキシ−2−ベンゾイルオキシ−5,20−エポキシ−1,7,10−トリヒドロキシ−9−オキソタキサ−11−エン−13−イル−3−tert-ブトキシカルボニルアミノ−2−ヒドロキシ−3−フェニルプロピオネートエステルであり、下記の化学式(1)の化学構造を有する。ドセタキセルは、白色または、略白色の粉状である。
【化1】
【0004】
また、ドセタキセルの水への溶解度は6〜7μg/mLであり難水溶性薬物として知られている。そのため、注射可能製剤を製造するためには、界面活性剤とエタノールを添加した調合物を製造する必要がある。
【0005】
例えば、ドセタキセルを有効成分とする製剤として、2液製剤「タキソテール点滴静注用(登録商標)」が1996年10月9日に承認され、2011年1月14日に1液製剤「ワンタキソテール点滴静注(登録商標)」が追加承認された。これらの使用時の溶液には、エタノールが含有されている。そして、これらの製剤は、有効成分濃度が比較的低いため、多量に投与する必要があることから、上記製剤に含まれるエタノールによってアルコール過敏症又はアルコール中毒症を起こす場合がある。
【0006】
そのため、タキソテール点滴静注用(登録商標)においては、アルコール過敏症患者向けの点滴静注液の調製においては、エタノールを使用せずに輸液に薬剤を溶解する下記のような調製方法が採用されている:すなわち、タキソテール点滴静注用(登録商標)に生理食塩液又は5%ブドウ糖液を加え、激しく振り混ぜ、泡が消えるまで液を放置、泡がある程度消えて、均一となった溶液(プレミックス液)から、必要量を注射筒で抜き取り、生理食塩液又は5%ブドウ糖液に混和する、という方法である。しかしながら、現在採用されているこのような調製方法では手間と時間が掛かるため作業効率が悪く、医療現場での負担が大きい。
【0007】
そして、実際の医療現場では、上記のような手間を少しでも省くために、前記プレミックス溶液を調製せずに、タキソテール点滴静注用主剤バイアルの溶液を直接、輸液と混和する場合がある。しかしながら、この主剤溶液は粘度が高いため、バイアルから注射筒で抜き取ることが難しく、さらに輸液にも混和しにくいため、点滴静注液を調製する医療現場の負担は依然大きい。
【0008】
また、特許文献1及び2には、ドセタキセルを界面活性剤に溶解させ、エタノール含有量を低減させたドセタキセル含有組成物が開示されているが、特許文献1及び2においては、溶液の粘度を下げるために少量のエタノールを含有させることが好ましいとされており、エタノールを含まず、且つ低粘度であるドセタキセル含有組成物は得られていなかった。さらに、特許文献1及び2に記載のドセタキセル含有組成物が、医薬的に安定であるかについては、一切記載されていない。
【0009】
そのため、現場での取扱いが容易な、医薬的に安定なエタノールフリーのドセタキセル含有溶液医薬組成物の開発が求められていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の課題は、エタノールフリーの医薬的に安定なドセタキセル含有溶液医薬組成物を提供すること、さらに、例えば、輸液との混合が容易であるなど、医療現場での取扱いの負担を軽減することができる前記医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記状況に鑑み、本発明者等は鋭意研究を重ねた結果、ある種の可溶化剤を組合せて用いることで、予想外にも、エタノールフリーのドセタキセル含有溶液と輸液との混合が容易になるという本発明に特有の優れた効果を奏する有用にして新たな知見を得、さらに、pHをある範囲に調整することでドセタキセルの医薬的安定性をさらに向上させることができるという新たな知見を得て、さらに検討を重ね、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下に関する。
(1) ドセタキセル及び/又はその薬学的に許容可能な塩を含有し、且つエタノールを含まない、医薬的に安定な溶液医薬組成物。
(2) ポリソルベート80を含み、さらにグリコフロール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油からなる群から選択される1種以上を含有する前記(1)に記載の医薬組成物。
(3) ポリソルベート80及びグリコフロールを含有する前記(1)又は(2)に記載の医薬組成物。
(4) pH調整剤を含有する前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の医薬組成物。
(5) 前記pH調整剤が、クエン酸である前記(4)に記載の医薬組成物。
(6) pHが2.7〜4.5である前記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の医薬組成物。
(7) 輸液に溶解後、1時間以上、均一で澄明な状態である前記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の医薬組成物。
(8) 輸液に溶解後、5時間以上、均一で澄明な状態である前記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の医薬組成物。
(9) 溶液粘度が、200mPa・s以下である前記(1)〜(8)のいずれか1項記載の医薬組成物。
(10) 治療有効量を輸液バッグに入った輸液に加えたとき、10秒以上60秒以下の振盪混和によって、前記輸液に完全に溶解することを特徴とする前記(1)〜(9)のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、医療現場における取扱いが容易な、アルコール過敏症の患者にも投与することができるエタノールフリーのドセタキセル含有溶液医薬組成物を提供することができる。本発明の前記溶液医薬組成物は、医薬的安定性に優れているため長期保存が可能である。加えて、前記溶液医薬組成物は、低粘度であり、且つ、輸液との混合も容易であることから、本発明によれば、医療現場での点滴静注液の調整における負担を大きく軽減させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、ドセタキセル及び/又はその薬学的に許容可能な塩(以降、単に「ドセタキセル」ともいう。)を含有し、且つエタノールを含有しない医薬的に安定な溶液医薬組成物に関する。
【0017】
本発明において前記「ドセタキセル」は、好ましくは、水和物、無水和物又はこれらの任意の混合物のいずれであってもよい。
【0018】
本発明において、薬学的に許容可能な塩としては、特に限定されないが、例えば、無機塩基との塩、有機塩基との塩、無機酸との塩、有機酸との塩、塩基性または酸性アミノ酸との塩などがあげられる。無機塩基との塩の好適な例としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、ならびにアルミニウム塩、アンモニウム塩などがあげられる。有機塩基との塩の好適な例としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミンなどのアルキルアミンとの塩;ピリジン、ピコリンなどの複素環式アミンとの塩;エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアルカノールアミンとの塩;シクロへキシルアミン、ジシクロヘキシルアミンなどのシクロアルキルアミンとの塩;N,N’−ジベンジルエチレンジアミンなどのアルキレンジアミン誘導体との塩等が挙げられる。無機酸との塩の好適な例としては、例えば塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸等との塩があげられる。有機酸との塩の好適な例としては、例えばギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸等のモノカルボン酸との塩;フマル酸、シュウ酸、マレイン酸等の多価カルボン酸との塩;酒石酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸等のオキシカルボン酸との塩;メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等のスルホン酸との塩;安息香酸との塩等が挙げられる。中性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えば、グリシン、バリン、ロイシン等との塩が挙げられ、塩基性アミノ酸との塩の好適な例としては、例えば、アルギニン、リジン、オルニチン等との塩が挙げられ、酸性アミノ酸との好適な例としては、例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸等との塩が挙げられる。
【0019】
さらに、本明細書において「エタノールフリー」又は「エタノールを含まない」とは、通常は、実質的にエタノールを含有しないことを意味する。また、意図的に添加したのではなく、原料に残留してしまっている場合のように微量なエタノールが存在する場合も、本発明の技術的範囲内である。
【0020】
また、本発明において、「医薬的に安定」とは、好ましくは、有効成分であるドセタキセルが分解したり変性したりすることで薬理作用が変化する、ということが抑制され得る状態を包含する。なお、ドセタキセルの分解物又は変性物(以降、まとめて「類縁物質」という。)としては、例えば、2−ジベンゾイル2−ペンタノイルドセタキセル(以降、類縁物質Aともいう。)、6−オキソドセタキセル(以降、類縁物質Bともいう。)、4−エピドセタキセル(以降、類縁物質Cともいう。)及び4−エピ−6−オキソドセタキセル(以降、類縁物質Dという。)等が知られている。
【0021】
本発明のひとつの態様において、前記医薬組成物が「医薬的に安定」とは、具体的には、前記医薬組成物の定量用ドセタキセル(標準品)含有量に対して、苛酷条件(80℃、3日間)下での安定性試験において、類縁物質Aの生成が約0.2%以下、類縁物質Bの生成が約1.5%以下、類縁物質Cの生成が約1.0%以下、類縁物質Dの生成が約0.5%以下、上記類縁物質A〜D及びその他の類縁物質を含めた総類縁物質の生成が約3.5%以下であることをいう。上記類縁物質の生成は、類縁物質Aが約0.15%以下、類縁物質Bが約1.25%以下、類縁物質Cが約0.75%以下、類縁物質Dが約0.35%以下、及び総類縁物質が約3.0%以下であることが好ましく、より好ましくは、類縁物質Aが約0.1%未満、類縁物質Bが約1.0%未満、類縁物質Cが約0.5%未満、類縁物質Dが約0.2%未満、及び総類縁物質が約2.5%未満である。
なお、本発明の安定性試験においては、試料をバイアルに入れて密封するため、湿度は考慮しなくともよい。
【0022】
本発明の好ましい態様において、前記医薬組成物中のドセタキセル及び/又はその薬学的に許容可能な塩の濃度は、通常、約90mg/mL以下、薬効の観点から、好ましくは約5〜約50mg/mL、より好ましくは約10〜約20mg/mLである。
【0023】
本発明のひとつの態様において、本発明の前記医薬組成物は、ドセタキセル及びポリソルベート80を含有する。さらに、前記医薬組成物は、ポリソルベート80に加えて、その他の可溶化剤を含有していてもよい。
【0024】
前記「その他の可溶化剤」としては、特に限定されないが、例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、グリセロール、ペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニトール、トランスクトール(transcutol)、ジメチルイソソルビド、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及び他のセルロース誘導体、シクロデキストリン及びシクロデキストリン誘導体、テトラヒドロフルフリルアルコールPEGエーテル(例えば、グリコフロール)、メトキシポリエチレングリコール、2−ピロリドン、2−ピペリドン、ε−カプロラクタム、N−アルキルピロリドン、N−ヒドロキシアルキルピロリドン、N−アルキルピペリドン、N−アルキルカプロラクタム、ジメチルアセトアミド、ポリビニルピロリドン、エチルプロピオネート、トリブチルシトレート、アセチルシトレート、アセチルトリブチルシトレート、トリエチルシトレート、エチルオレエート、エチルカプリレート、エチルブチレート、トリアセチン、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ε−カプロラクタムおよびその異性体、δ−バレロラクトンおよびその異性体、β−ブチロラクトンおよびその異性体、ジメチルイソソルビド、N−メチルピロリドン、モノオクタノイン、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、ドセタキセルの溶解性を向上させる観点から、グリコフロール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、又はポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が好ましい。これらは単独で、または2種以上を組合せて用いてもよい。
【0025】
本発明の好ましい態様において、本発明の前記医薬組成物は、ドセタキセル及びポリソルベート80に加えて、さらにグリコフロール、ポリエチレングリコール、及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油からなる群から選択される1種以上の可溶化剤を組合せて含有する。
【0026】
本発明のひとつの好ましい態様において、ドセタキセルの溶解性の向上ならびに得られる医薬組成物と輸液との混合性の向上の観点から、前記医薬組成物は、ドセタキセル及びポリソルベート80と、グリコフロールとを組合せて含有する。
【0027】
ここで、前記グリコフロールについて説明する。
グリコフロールとは、テトラヒドロフルフリルアルコールポリエチレングリコールエーテルとしても知られており、以下の構造を有する:
【化2】
(式中、nは任意の整数。)
【0028】
また、本発明のひとつの態様において、グリコフロールとして、上記式(I)において、nの平均が、通常約2〜約8、好ましくは約2〜約6、より好ましくは約2〜約4のものを用いてもよい。
【0029】
本発明の別のひとつの態様において、前記ポリソルベート80の含有量は、特に限定されないが、通常、前記医薬組成物中、約10〜約60v/v%、ドセタキセルの溶解性ならびに前記医薬組成物と輸液との混合容易性の観点から、好ましくは約20〜約55v/v%、より好ましくは約25〜約50v/v%である。また、ポリソルベート80以外の可溶化剤の含有量は、特に限定されないが、通常、医薬組成物中、約10〜約80v/v%、ドセタキセルの溶解性の観点から、好ましくは約20〜約80v/v%、より好ましくは約25〜約75v/v%である。
【0030】
本発明の好ましいひとつの態様において、前記医薬組成物は、組成物中にポリソルベート80を約10〜約60v/v%、及びグリコフロールを約5〜約60v/v%含有する。
【0031】
本発明のひとつの態様において、本発明の前記医薬組成物は、好ましくは、pH調整剤を含有する。なお、本発明において、前記pH調整剤は、ドセタキセルの医薬的な安定化剤として機能してもよい。
【0032】
前記pH調整剤としては、特に限定されず、例えば、有機酸であってもよい。前記有機酸としては、特に限定されないが、例えば、クエン酸、酒石酸、アスコルビン酸、フマル酸、乳酸、マレイン酸、酢酸、シュウ酸等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を混合して用いることができる。また、これらの有機酸は、無水物であっても、水和物であってもよい。
【0033】
本発明のひとつの態様において、前記有機酸の含有量は特に限定されないが、通常、医薬組成物中約0.1〜約200mg/mL、ドセタキセルの安定化の観点から、好ましくは医薬組成物中約0.5〜約50mg/mL、より好ましくは医薬組成物中約1〜約10mg/mLである。
【0034】
本発明において、前記医薬組成物のpHとは、医薬組成物1gを水4mLに希釈して得られた液のpHを、第十六改正日本薬局方一般試験法の項に記載のpH測定法に従って測定して得られた値を意味する。
【0035】
本発明の別のひとつの態様において、前記医薬組成物のpHは、通常pH約2.5〜約5.5であり、好ましくはpH約3.0〜約4.5である。この範囲であることで、好ましくは、ドセタキセルの医薬的な安定性が顕著に向上する。
【0036】
本発明の好ましいひとつの態様において、前記医薬組成物は、ドセタキセル、ポリソルベート80、グリコフロール及びクエン酸を含有し、pH約2.5〜約5.5である。各成分の濃度又は含有量は、上記と同様であってよい。
【0037】
本発明の好ましい別のひとつの態様において、前記医薬組成物は、ドセタキセル、ポリソルベート80、ポリエチレングリコール及びクエン酸を含有し、pH約2.5〜約5.5である。各成分の濃度又は含有量は、上記と同様であってよい。
【0038】
また、本発明の前記医薬組成物の性状は、微黄色〜帯褐黄色澄明の液であってよい。
【0039】
本発明のひとつの態様において、本発明の前記医薬組成物は、粘度が、通常約400mPa・s以下、注射筒での抜き取り易さの観点から、好ましくは約200mPa・s以下、より好ましくは約80mPa・s以下である。
【0040】
本発明の医薬組成物の投与方法は特に限定されないが、非経口投与が好ましく用いられる。非経口投与方法としては、例えば、静注(静脈注射)、筋肉注射、または皮下注射等が挙げられる。さらに具体的には、静注で動脈内、腹膜内、髄膜下、心室内、尿道内、胸骨内、頭蓋内等に投与してもよく、点滴静注により投与してもよい。
【0041】
本発明の医薬組成物の剤の形態は、特に限定されないが、注射剤又は点滴静注の形態にあることが好ましい。
【0042】
本発明の医薬組成物は、所望により、例えば、溶液を血液と等張にするために十分な塩(例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化マグネシウム等のハロゲンのアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩等)又はブドウ糖等を含有させてもよい。滅菌条件下の適当な非経口製剤の製造は、当業者にとって周知の標準的医薬技術によって容易に達成される。
【0043】
本発明のひとつの態様において、本発明の前記医薬組成物を点滴静注で投与する場合、前記医薬組成物を輸液に混合し溶解させることで点滴静注液を調製することができる。本態様において、前記医薬組成物を輸液に混合させるときの比率は、該静注液を投与される患者等の対象の体表面積、年齢、性別、適用箇所、病状の程度等に応じて適宜選択してよく、特に限定されない。具体的には、例えば、前記医薬組成物がドセタキセルを約10mg/mLで含有している場合、例えば250mL又は500mLの輸液に対して、前記医薬組成物を約1〜約20mL混合してもよい。
【0044】
前記輸液としては、特に限定されないが、例えば生理食塩液;ブドウ糖水溶液若しくは果糖水溶液等の糖水溶液;リンゲル液;D−ソルビトール水溶液若しくはキシリトール水溶液等の糖アルコール水溶液;1種以上のアミノ酸を含有するアミノ酸水溶液等が挙げられる。
【0045】
本発明のひとつの態様において、本発明の前記医薬組成物を輸液に溶解して得られた溶液は、通常1時間以上、臨床における投与時間との関係から、好ましくは3時間以上、より好ましくは5時間以上、均一で澄明な状態を維持する。
【0046】
なお、前記「均一で澄明な状態」とは、目視で沈殿物、浮遊物又は析出物等の不溶物が確認されない澄明な状態をいう。
【0047】
本発明の好ましい態様において、前記医薬組成物は、輸液との混和が容易である。具体的には、例えば、輸液バッグに入った輸液に対して、治療有効量の前記医薬組成物を加えて混合し、その後に静置することで、均一で澄明な溶液が容易に得られる。あるいは、本発明の前記医薬組成物は、輸液バッグに入った輸液に加え、該輸液バッグを振盪させることで容易に輸液に溶解する。そして、振盪させたことにより気泡が発生した混合液は、短時間の静置により、使用に支障がない程度にまで脱気することができる。
【0048】
本発明の好ましいひとつの態様において、例えば、輸液バッグに入った250mL又は500mLの輸液に対し、前記医薬組成物を約0.1〜約20mL加え、該輸液バッグを振盪させて溶液を混和し、静置することにより静注液を調製する場合、通常約10秒以上約60秒以下の混和の後に約1分以上約10分以下の静置によって、均一で澄明な混合溶液が得られる。現場での作業効率の観点から、上記振盪混和する時間は好ましくは約45秒以下、より好ましくは約30秒以下であり、上記混和の後の静置時間は好ましくは約5分以下、より好ましくは約3分以下である。本態様において、前記医薬組成物におけるドセタキセルの濃度は、特に限定されないが、通常、約90mg/mL以下、臨床での使用上の安全性等の観点から、好ましくは約5〜約50mg/mL、より好ましくは約10〜約40mg/mLである。
なお、本発明において、輸液バッグを振盪させる操作は、特に制限されるものではないが、具体的には、例えば輸液バッグを1分間に約30〜約100回上下させる速度で行ってもよい。また、上下させる振り幅は、特に限定されず、例えば、約1cm〜約50cmとしてもよい。また、前記輸液バッグは、通常この分野で用いられるものであれば特に限定されず、容量、材質等は所望により適宜選択してよい。
【実施例】
【0049】
次に、代表例として実験例、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0050】
<pHの測定>
試液1gに水4mLを加えて、pHメーターにて測定した。
<性状の確認>
目視にて確認した。
<粘性(注射筒での抜き取りやすさ)の確認>
試験溶液をバイアルから注射筒(テルモシリンジ;10mL、テルモ注射針;18G×1
1/
2)で抜き取ったときの抜き取り易さを評価した。
【0051】
<輸液溶解後の溶液の均一性維持時間の測定>
試験溶液10mL(表1に記載した試験溶液の2.5本相当)をバイアルから注射筒(テルモシリンジ;10mL、テルモ注射針;18G×1
1/
2)に抜き取り、容量250mL(予備容量125mL)の輸液バッグに入れた250mLの生理食塩液に注入後、該輸液バッグをゆっくりと泡立てないように45秒間振盪させた。泡が消えるまで放置し溶解を確認し、溶解が不十分である場合、再度該輸液バッグを45秒間振盪させた。溶解後、輸液の性状(不溶物が析出するまでの時間)を目視にて確認した。
【0052】
<不純物含有量の測定>
本品2mLを正確に量り、エタノール(99.5)2mLを加え、これに希釈液(アセトニトリル/水/酢酸(31)混液(100:100:0.1))を加えて正確に50mLとし、試料溶液とする。試料溶液10μLにつき、次の条件で液体クロマトグラフィーにより測定を行う。
【0053】
<HPLC測定条件>
装置:液体クロマトグラフィー(日本ウォーターズ社製)
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:232nm)
カラム:φ4.6mm×150mmのステンレス管に、3.5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化剤を充填する。
カラム温度:45℃付近の一定温度
移動相A:水
移動相B:アセトニトリル
移動相の送液:移動相A及び移動相Bの混合比(グラジエント条件)を次のように変えて濃度勾配を制御する。
注入後の時間(分) 移動相A(vol%) 移動相B(vol%)
0〜9 72 28
9〜39 72→28 28→72
39〜49 28→ 0 72→100
49〜40 0→72 100→28
流量:毎分1.2mL
【0054】
なお、ドセタキセル類縁物質としては、以下の4つ(類縁物質A〜D)が知られており、変性物として類縁物質A、類縁物質B、類縁物質C、類縁物質D、及びその他の類縁物質の総量を不純物として算出する。
類縁物質A:2−ジベンゾイル2−ペンタノイルドセタキセル
類縁物質B:6−オキソドセタキセル
類縁物質C:4−エピドセタキセル
類縁物質D:4−エピ−6−オキソドセタキセル
【0055】
類縁物質の含有量の計算は、下記数式(I)によって実施する。
類縁物質の量(%)=A
U/A
T×100 (I)
ここで、A
Uは、試料溶液の個々の類縁物質のピーク面積、A
Tは、溶媒ピークを除く試料溶液中の全て(ドセタキセル及び全ての類縁物質)のピーク面積の総量である。
【0056】
<実施例1>
ドセタキセル無水物20mgをグリコフロール0.5mLに溶解させ、無水クエン酸を約5mg添加し、pHを3.2に調整した。その後、ポリソルベート80を0.5mL加え、溶液組成物を得た。
<実施例2〜8>
実施例1のドセタキセル無水物の含有量、ポリソルベートの含有量、ならびにポリソルベート80以外の可溶化剤を表1に示すとおりに変えた以外は、実施例1と同様にして溶液組成物を得た。
<比較例1>
実施例1のグリコフロール0.5mLを濃グリセリン0.5mLに変えた以外は、実施例1と同様にして溶液組成物を得た。
<参考例1>
ワンタキソテール点滴静注80mg/4mLを用いた。
【0057】
上記溶液組成物の性状、粘性及び輸液溶解後の均一性維持時間について評価した。結果を表1に示した。
【0058】
<試験例1:苛酷試験>
上記実施例1〜8及び比較例1で得られた溶液組成物、ならびにワンタキソテール点滴静注80mg/4mL(参考例1)を、バイアルに入れて密封し、80℃で3日間保存した。
苛酷試験開始時の試験溶液の性状、抜き取りやすさ(粘性)、pH及び輸液溶解後の均一性維持時間について測定した。ただし、比較例1は、ドセタキセルが完全に溶解せず、均一で澄明な溶液とならなかったため、その他の試験については実施しなかった。
また、試験後、各溶液組成物について、性状、類縁物質含量の測定を実施した。
結果を表1に示す。
【0059】
なお、性状、抜き取りやすさ、医薬的安定性の下記のように評価した。
<性状及び抜き取りやすさ>
表中の「性状」及び「抜き取りやすさ」についての評価基準は以下の通りである。
◎:参考例1の結果よりも優れている、
〇:参考例1の結果と同等、
△:参考例1の結果よりも劣っている。
<医薬的安定性>
また、医薬的安定性については、類縁物質A、類縁物質B、類縁物質C、類縁物質D、及び類縁物質の総量に基づいて、下記のように評価した。
◎:類縁物質A 0.1%未満、類縁物質B 1%未満、
類縁物質C 0.5%未満、類縁物質D 0.2%未満、
及び、類縁物質の総量 2.5%未満
〇:(上記◎の条件の内、少なくとも1つが下記の結果であったもの)
類縁物質A 0.1〜0.2%、類縁物質B 1〜1.5%、
類縁物質C 0.5〜1%、類縁物質D 0.2〜0.5%、
又は、類縁物質の総量 2.5〜3.5%
△:(上記◎の条件の内、少なくとも1つが下記の結果であったもの)
類縁物質A 0.2%超過、類縁物質B 1.5%超過、
類縁物質C 1%超過、類縁物質D 0.5%超過、
又は、類縁物質の総量 3.5%超過
【0060】
【表1】
表中、N.D.は、検出限界以下であったことを示す。
【0061】
本試験により、ポリソルベート80と、グリコフロール、ポリエチレングリコール及びポリオキシエチレン効果ヒマシ油から選択される1種以上とを組合せることで、エタノールを含有させなくても、ドセタキセルを溶解させた溶液組成物を得られることが示された。また該溶液組成物は、注射筒での抜き取りが比較的容易で、医薬的な安定性に優れ、また輸液と混合させた場合も安定して均一で澄明な溶液となることが示された。