(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記太繊度合成繊維が、単一繊維、及び/または、融点が140℃を超える熱可塑性樹脂を鞘成分とする芯鞘型複合繊維である、請求項1〜3のいずれかに記載の不織布。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の不織布は、分割型複合繊維に由来する繊維、親水性繊維、および太繊度合成繊維を含む。そこで、これらの繊維についてまず説明する。
【0014】
[分割型複合繊維に由来する繊維]
分割型複合繊維は、2以上の成分からなる複合繊維であって、分割により1本の繊維から複数本のより繊度の小さい繊維を形成し得る繊維である。「分割型複合繊維に由来する繊維」とは、分割型複合繊維の分割により形成された、分割前の一つのセクションのみからなる単一繊維、および2以上のセクションからなる繊維のほか、1本の分割型複合繊維の一部が分割されているが、他の部分において全く分割していない繊維を指す。あるいは、不織布中に分割型複合繊維の分割により形成された繊維が含まれる限りにおいて、1本の分割型複合繊維が全く分割されていないことがある場合に、そのような全く分割されていない分割型複合繊維も、分割型複合繊維に由来する繊維に含まれる。
【0015】
分割型複合繊維は、具体的には、繊維断面において構成成分のうち少なくとも1成分が2個以上に区分されてなり、構成成分の少なくとも一部が繊維表面に露出し、その露出部分が繊維の長さ方向に連続的に形成されている繊維断面構造を有する。本発明で用いる分割型複合繊維は2以上の成分で構成され、かつ、当該2以上の成分のうち、一つの成分は融点が140℃以下の熱可塑性樹脂の成分(「低融点成分」)であり、別の一つの成分は、融点が140℃を超える熱可塑性樹脂の成分(「高融点成分」)である。ここで、融点は、繊維にした後の樹脂の融点であり、JIS K7121(1987)に準じて測定したDSC曲線より求める。低融点成分は繊維同士を接着させる役割をするので、熱接着成分と呼ぶこともできる。本発明においては、分割型複合繊維の1成分を低融点成分とし、低融点成分からなる極細繊維で繊維同士の交点の少なくとも一部を接着させる。それにより、不織布はその取り扱い性が向上し、また、伸びにくくなるので、液体を含浸させて折り畳まれた状態から展開しやすくなり、また、折り畳まれた状態から展開した際に生じる不織布の伸び、即ち、変形度合いを小さくできる。高融点成分は、低融点成分と十分な融点差、好ましくは10℃以上の融点差、より好ましくは15℃以上の融点差を有し、低融点成分を溶融する温度で熱により変形等しないものであることが好ましい。
【0016】
分割型複合繊維を構成する成分は、特に限定されず、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネートおよびその共重合体等のポリエステル系樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン(高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等を含む)、ポリブテン−1、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、およびエチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン系樹脂、ナイロン6、ナイロン12およびナイロン66のようなポリアミド系樹脂等から任意に選択される。分割型複合繊維を構成する成分は、それ単独で繊維が構成されたときに公定水分率が5%未満となるものであってよく、あるいは5%を超えるものであってもよい。
【0017】
分割型複合繊維を構成する高融点成分/低融点成分の組み合わせは、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/エチレン−プロピレン共重合体、ポリプロピレン/ポリエチレン等である(ポリエチレンは、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、および直鎖状低密度ポリエチレンのいずれか一つまたはそれらの組み合わせである)。ポリエチレンは比較的低い温度で溶融して、繊維同士を良好に接着するので、これを熱接着成分とすることが好ましい。さらに、高融点成分がポリエステル系樹脂であり、かつ後述する太繊度合成繊維がポリエステル系繊維である場合には、太繊度合成繊維の繊度および分割型複合繊維の分割数等を調節することによって、不織布中に繊度の異なるポリエステル系繊維を含めることができる。ウェットシートにおいて、より太い繊度のポリエステル系繊維は液体放出性を高くし、より細い繊度のポリエステル系繊維は微細な繊維間空隙を形成して液体保持性を高くするので、異なる繊度のポリエステル繊維を含むウェットシートは、液体放出性と液体保持性のバランスが良好となる。したがって、上記の組み合わせのうち、特に、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレンの組み合わせが好ましく、他のポリエステル系樹脂/ポリエチレンの組み合わせもまた好ましい。
【0018】
分割型複合繊維の繊度は、各成分に分割したときに(即ち、各セクションが一本の繊維となったときに)、繊度0.6dtex以下、好ましくは繊度0.5dtex以下の極細繊維を与えるものであれば、特に限定されない。本発明においては、分割型複合繊維に由来する繊維として、低融点成分からなる極細繊維が含まれ、これが繊維同士の交点の少なくとも一部を熱接着している。低融点成分からなる極細繊維の繊度が0.6dtex以下であると、熱接着点が小さいために、不織布の風合いが損なわれにくく、また、不織布が硬くなりにくい。
【0019】
そのような極細繊維を発生させるために、分割型複合繊維の繊度は、好ましくは、1dtex以上、9dtex以下であり、より好ましくは、1.5dtex以上、3.5dtex以下であり、さらにより好ましくは、1.5dtex以上、2.5dtex以下である。また、分割型複合繊維における各成分への分割数(即ち、複合繊維におけるセクションの数)は、例えば、4以上、32以下であることが好ましく、4以上、20以下であることがより好ましく、6以上、10以下であることが最も好ましい。分割数が小さいと、繊度0.6dtex以下の極細繊維を形成するために、分割前の繊度を小さくする必要がある。小さい繊度の分割型複合繊維は、製造することが難しく、また不織布の生産性を低下させることがある。分割数が大きい分割型複合繊維は、複雑な紡糸ノズルを用いて、溶融紡糸条件を厳密に制御して製造する必要がある。そのため、そのような分割型複合繊維の使用は不織布の製造コストを上昇させることがある。極細繊維の繊度の下限は、特に限定されないが、0.05dtex以上であることが好ましい。また、太繊度合成繊維の繊度と、分割型複合繊維の分割により形成される繊維のうち、最も繊度が小さい繊維の繊度との比(太繊度合成繊維の繊度/最小繊度となる極細繊維の繊度)の比は、3以上、10以下であることが好ましく、4以上、8以下であることがより好ましい。繊度の比がこの範囲内にあると、不織布の広げやすさが向上し、また、不織布の伸びも抑えられる。
【0020】
セクションの形状は特に限定されない。例えば、分割型複合繊維は、楔形のセクションが菊花状に並べられたものであってよい。あるいは、分割型複合繊維は、繊維断面において各セクションが層状に並べられたものであってよい。また、分割型複合繊維は繊維断面を観察したとき長さ方向に連続する空洞部分を有さない、いわゆる中実分割型複合繊維であってよく、あるいは長さ方向に連続する1箇所以上の空洞部分を有する、いわゆる中空分割型複合繊維であってもよい。
【0021】
分割型複合繊維を構成する成分の容積比は、得ようとする極細繊維の繊度等に応じて決定される。例えば、低融点成分と高融点成分との容積比は、2:8〜8:2(低融点成分:高融点成分)であることが好ましい。上記範囲内に容積比があると、複合繊維の生産性および複合繊維の分割性が高くなる傾向にある。より好ましい低融点成分:高融点成分の容積比は、4:6〜6:4である。
【0022】
[親水性繊維]
親水性繊維は、不織布に含浸される液体(例えば、液体化粧料)を保持するとともに、保持した液体を対象物に供給する役割をする。
親水性繊維は公定水分率が5%以上の繊維である。公定水分率は、JIS L0105(2006)に示されている。公定水分率が知られていない場合には、次の式から算出される値を公定水分率とする。
公定水分率(%)=[(W−W’)/W’]×100
ここで、Wは温度20℃、湿度65%RHの環境下における繊維の質量(g)、W’は繊維絶乾時の質量(g)をそれぞれ意味する。なお、温度20℃、湿度65%RHの環境下における繊維の質量は、温度20℃、湿度65%RHの環境下に繊維を放置し、一定の質量になった時の質量を意味し、繊維絶乾時の質量は、105℃に設定した乾燥機中に繊維を放置し、一定の質量になった時の質量を意味する。
【0023】
親水性繊維は、具体的には、パルプ、コットン、麻、シルク、およびウールなどの天然繊維、ビスコースレーヨン、キュプラ、および溶剤紡糸セルロース繊維などの再生繊維、ならびに親水性を有する合成繊維、または疎水性の合成繊維(公定水分率が5%未満の合成繊維)に親水化処理を施したもの等である。親水化処理として、例えば、コロナ放電処理、スルホン化処理、グラフト重合処理、繊維への親水化剤の練り込み、および耐久性油剤の塗布が挙げられる。親水性繊維は、セルロース系繊維であることが好ましい。セルロース系繊維は、より具体的には、1)機械パルプ、再生パルプおよび化学パルプ等のパルプ、2)コットン(木綿)、麻などの植物性天然繊維、ならびに3)ビスコースレーヨン、キュプラ、および溶剤紡糸セルロース繊維(例えば、レンチングリヨセル(登録商標)およびテンセル(登録商標))等の再生繊維である。
【0024】
パルプは、針葉樹木材または広葉樹木材を用いて常套の方法で製造されたものであってよい。一般的に、パルプ繊維の繊度は、1.0dtex〜4.0dtex程度、繊維長は0.8mm〜4.5mm程度であるが、この範囲外の繊度および/または繊維長を有するパルプ繊維を使用してもよい。
【0025】
再生繊維を使用する場合、その繊度は、0.1dtex〜6dtex程度であることが好ましく、0.3dtex〜3.5dtex程度であることがより好ましい。この範囲内の繊度の再生繊維は柔軟性を確保するのに適している。再生繊維の繊度が小さすぎると、繊維ウェブを製造する際のカード通過性が悪化し、不織布の生産性が低下することがある。再生繊維の繊度が大きすぎると、不織布が粗いものとなって、触感が低下することがある。
【0026】
親水性繊維は、再生繊維であることが好ましく、特に、ビスコースレーヨンであることが好ましい。ビスコースレーヨンは、対人用のウェットシートの分野で使用されてきた実績があること、および比較的安価で得やすいことによる。
【0027】
[太繊度合成繊維]
前記親水性繊維はそれを含む不織布が液体で濡らされると、不織布の嵩を減少させる、あるいは不織布の強度を減少させやすい。また、親水性繊維を多く含む不織布を濡れた状態で折り畳むと、親水性繊維の影響で不織布表面にも液体が多く存在するようになり、不織布同士が密着しやすく、折り畳まれた不織布を広げにくくなる。かかる不都合を避ける又は軽減するために、本発明の不織布は、繊度が0.8dtex以上であり、融点が140℃を超える熱可塑性樹脂で繊維表面が構成されている繊維(太繊度合成繊維)を含む。ここで、融点は繊維にした後の樹脂の融点であり、JIS K7121(1987)に準じて測定したDSC曲線より求める。本発明において、太繊度合成繊維は、親水性繊維を含む不織布が濡れたときの嵩の減少(へたり)を抑制するとともに、不織布全体の液含浸性を適度に低下させることにより不織布に含まれる液体の量をコントロールし、不織布が濡れた状態で折り畳まれたときでも、不織布を広げることを容易にする。さらにまた、太繊度合成繊維は、その繊維表面が疎水性である場合には、不織布に液体を保持させたときに、保持した液体をスムーズに放出させる役割をし、ウェットシートの液放出性を高める。
【0028】
太繊度合成繊維は、融点が140℃を超える熱可塑性樹脂で繊維表面が構成されている限りにおいて、単一繊維であっても、複合繊維であってもよい。融点が140℃を超える熱可塑性樹脂は、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸およびその共重合体などから選択されるポリエステル系樹脂;ポリプロピレン、ポリメチルペンテンなどから選択されるポリオレフィン系樹脂;ナイロン6、ナイロン12およびナイロン66などから選択されるポリアミド系樹脂;アクリル系樹脂;ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスチレンおよび環状ポリオレフィンなどのエンジニアリング・プラスチック;ならびにそれらのエラストマー系である。太繊度合成繊維の繊維表面を構成する樹脂は、これらの樹脂から選択される一つの樹脂であってよく、あるいは2以上の樹脂の混合物であってよい。
【0029】
太繊度合成繊維が複合繊維である場合、太繊度合成繊維は、例えば、芯成分と鞘成分からなる同心または偏心芯鞘型複合繊維であってよく、2成分を並列して配置した並列型複合繊維(サイドバイサイド型複合繊維とも称す)であってよく、2成分のうち、一方の成分を繊維断面において複数の島成分となるように配置し、もう一方の成分を、前記島成分を取り囲む海成分となるように配置した海島型複合繊維であってもよい。複合繊維を構成する成分は、繊維表面を構成する熱可塑性樹脂の融点が140℃を超える限りにおいて、融点が140℃以下の熱可塑性樹脂であってよい。
【0030】
太繊度合成繊維の繊度は、0.8dtex以上であり、好ましくは0.8dtex以上、5.0dtex以下、より好ましくは1.0dtex以上、3.5dtex以下、最も好ましくは1.1dtex以上、2.5dtex以下である。この範囲内の繊度の太繊度合成繊維は、濡れた状態で折り畳まれた不織布を広げやすくする。太繊度合成繊維の繊度が大きすぎると、肌触りが低下し、肌への密着性、液保持性が低下する。
【0031】
[不織布構成]
本発明の不織布は、単層構造を有し、分割型複合繊維に由来する繊維、親水性繊維および太繊度合成繊維を合わせた質量を100質量%としたときに、分割型複合繊維に由来する繊維を22質量%以上、38質量%以下、親水性繊維を20質量%以上、53質量%以下、および太繊度合成繊維を22質量%以上、58質量%以下含む。好ましくは、分割型複合繊維に由来する繊維を25質量%以上、35質量%以下、親水性繊維を25質量%以上、50質量%以下、および太繊度合成繊維を25質量%以上、50質量%以下含む。より好ましくは、分割型複合繊維に由来する繊維を25質量%以上、35質量%以下、親水性繊維を30質量%以上、45質量%以下、および太繊度合成繊維を30質量%以上、45質量%以下含む。
【0032】
本発明の不織布は、所定の三種類の繊維を含む単層構造の不織布として提供される。これは、積層形態の不織布を低い目付で得ようとすると、不織布の均一性が低下し、触感および風合いが低下することがあることによる。
【0033】
上記の割合で三種類の繊維を含む単層構造の不織布は、液体を含浸させた状態で折り畳んだときでも、広げやすい。また、この不織布は、広げた後に変形が生じにくい、即ち、広げるときに伸びが生じにくい。
【0034】
折り畳まれた不織布の広げやすさ(「展開性」とも呼ぶ)は、特に、液体(例えば、化粧料)を含浸させて皮膚に貼付する(即ち、皮膚を被覆する)液体含浸皮膚被覆シートにおいて要求される。液体含浸皮膚被覆シートには、適用させる体の部位に密着するように、切り込み、切り欠け(例えば、基材の外縁部の一部から、半円、台形、三角形等を切り取って形成される)、打ち抜き加工による開口部などが設けられる。これは、顔の一部または全部に貼付して使用するフェイスマスクであれば、使用時に、不織布を完全に広げた後、目、鼻および口に相当する箇所に設けられた切り込みを、目、鼻および口に合わせながら顔面に密着させる必要があり、角質ケアシート、特に踵に貼付して使用する角質ケアシートであれば、使用時に、不織布を完全に広げた後、踵の曲線に合わせて肌に密着させる必要があり、首から胸元にかけての部位(デコルテ)をケアするデコルテシートであれば、使用時に不織布を完全に広げた後、首から胸元にの曲線に合わせて密着させる必要があるからである。このことからも分かるように、フェイスマスク、角質ケアシートおよびデコルテシートなどの液体含浸皮膚被覆シートは、一部分が折り畳まれた状態で使用することが想定されておらず、完全に広げなければ適切に使用できない。この点は、他のウェットシート(例えば、メイク落とし用シート、制汗シート)とは異なる点である。他のウェットシートにおいても、展開性が良好であれば、シート全体を拭き取り面または液体塗布面として有効に使用でき、あるいはシートに含浸された液体を有効に利用できることはいうまでもない。
【0035】
ウェットシートの展開性の良し悪しは、上記のとおり、基材である不織布の厚みが薄くなるほど、あるいは不織布の目付が小さくなるほど顕著になる。本発明者らが得た知見によれば、不織布の厚み、または目付が大きいと、不織布を構成する繊維の種類等によらず、展開性は向上する傾向にある。そのため、70g/m
2程度の目付の不織布が実施例として製造された特許文献2および3においては、展開性は着目されておらず、展開性と目付との関係は何ら言及されていない。しかしながら、上記のとおり、ウェットシートの多様化に伴い、低目付の基材を用いることが必要となったため、低目付化に伴う展開性の低下に対処する必要が生じた。本発明は、目付50g/m
2以下の低目付不織布の展開性を、分割型複合繊維に由来する繊維により繊維同士を熱接着すること、太繊度合成繊維を使用すること、これらの繊維および親水性繊維の割合を所定の範囲内とすることによって向上させている。
【0036】
分割型複合繊維に由来する繊維の割合が、上記の範囲内にあることにより、分割型複合繊維の分割により形成される極細繊維によって、不織布の触感が柔らかくなる。また、分割型複合繊維の分割により形成される低融点成分の極細繊維による熱接着の度合いが適度なものとなって、不織布の展開性が向上し、不織布の過度な伸びも抑制される。分割型複合繊維に由来する繊維の割合が大きすぎると、不織布が硬くなり、ざらついた触感を与える。
【0037】
親水性繊維の割合が上記の範囲内にあることにより、不織布に液体を良好に保持させることが可能となる。親水性繊維の割合が大きすぎると、不織布全体の液含浸性が高くなり、不織布が液体を大量に保持するようになる。その結果、折りたたみにより重なり合った不織布表面同士の境界面にも液体が多量に存在するようになり、不織布表面を覆う液体によって不織布表面の間で強い表面張力が生じるために、折り畳んだ状態から不織布を広げようとしても広げにくくなる。また、不織布を広げるのに大きな力が必要になることから、広げた後の不織布に変形(すなわち不織布の伸び)が生じやすくなる。親水性繊維の割合が小さすぎると、不織布の液含浸性が低くなり、ウェットシートや液体含浸皮膚被覆シートに適した量の液体を不織布に含浸できなくなる可能性があるほか、肌への密着性が低下し、使用時の感触が悪くなる可能性がある。
【0038】
太繊度合成繊維の割合が上記の範囲内にあることにより、不織布の展開性が向上する。これは、太繊度合成繊維の存在により不織布の弾性(コシ)が高くなり、折り畳まれた状態から元に戻ろうとしやすくなる、と推測される。加えて、不織布内部に太繊度合成繊維が存在することで、不織布の液含浸性が適度に抑制され、不織布に含浸される液体の量が過度に大きくならず、液体を含浸させた不織布の重なり合った面の間に生じる液体の表面張力が大きくなりすぎないためとも推測される。太繊度合成繊維の割合が少なすぎると、他の繊維の割合が大きくなって、展開性および不織布強度の点で不都合が生じる。太繊度合成繊維の割合が大きすぎると、液体が保持されにくくなる、あるいは不織布の柔軟性および触感が低下する。
【0039】
不織布は、分割型複合繊維に由来する繊維を25質量%以上、35質量%以下、親水性繊維を30質量%以上、50質量%以下、太繊度合成繊維を25質量%以上、40質量%以下の割合で含むことが好ましい。これらの割合で三種類の繊維を含む不織布は、展開性、伸び防止、および柔軟性だけでなく、毛羽防止の点でも有利である。
【0040】
また、不織布は、分割型複合繊維に由来する繊維と太繊度合成繊維を合わせて47質量%以上含み、好ましくは50質量%以上、75質量%以下含み、より好ましくは55質量%以上、70質量%以下含む。分割型複合繊維に由来する繊維と太繊度合成繊維とを合わせた割合が47質量%以上であると、分割型複合繊維に由来する繊維によって、不織布の展開性をより向上させることができ、不織布を展開した後の伸びをより抑制できる。これは、分割型複合繊維の低融点成分の太繊度合成繊維に対する熱接着強度が、当該低融点成分のレーヨンに対する熱接着強度よりも大きいことによると考えられる。したがって、分割型複合繊維に由来する繊維と太繊度合成繊維とを合わせた割合が一定量以上であると、不織布において強固な熱接着点がある程度多く確保され、外から力が加わっても繊維間の接合が解除されにくく、伸びが生じにくいと考えられる。
【0041】
不織布の目付は、上記のとおり32g/m
2以上、50g/m
2以下である。目付がこの範囲内にある不織布をウェットシートとして用いる場合に、展開性の問題が顕著となることによる。また、目付がこの範囲に含まれる不織布は、上記所定の繊維を所定の割合で含有する限りにおいて、実用的な強度を有し、手持ち感、柔軟性および触感において、使用者の満足感を得やすい。不織布の目付が32g/m
2以下であると、不織布の強度(特に後述する10%伸長時応力)が低くなり、上記所定の繊維を所定の割合で混合しても、良好な展開性が得られない。不織布の目付が50g/m
2を超える場合、展開性の問題がそもそも生じにくいため、本発明の効果が得られにくい。不織布のより好ましい目付は35g/m
2以上、45g/m
2以下であり、最も好ましい不織布の目付は35g/m
2以上、43g/m
2以下である。
【0042】
不織布の厚みは特に限定されず、構成繊維の割合、目付および製造条件等によって変化する。不織布の厚み(1cm
2あたり3gf(2.94cN)の荷重を加えたときの厚さ)は、例えば、0.35mm以上、1.0mm以下であることが好ましく、0.40mm以上、0.85mm以下であることがより好ましく、0.45mm以上、0.80mm以下であることがさらにより好ましい。不織布の厚みが小さすぎると、不織布を濡らした状態で折り畳んだときに不織布同士が密着しやすく、展開性が低下することがある。また、不織布の厚みがこの範囲内にあると、手持ち感において使用者の満足を得やすく、取り扱い性にも優れている。不織布の厚みが小さすぎると、手持ち感が得られにくい。不織布の厚みが大すぎると、嵩張って取り扱いにくくなり、また、所定の包装袋内に収納できるシートの枚数が少なくなる。
【0043】
本発明の不織布は、液体を含浸させた状態(即ち、湿潤状態)にて、横方向の10%伸長時応力が、好ましくは0.3N/50mmより大きく、より好ましくは0.32N/50mm以上、0.8N/50mm以下であり、最も好ましくは0.34N/50mm以上、0.75N/50mm以下である。本発明の不織布は、液体を含浸させた状態(即ち、湿潤状態)にて、横方向の破断伸度が、好ましくは120%以上であり、より好ましくは130%以上であり、特に好ましくは135%以上であり、最も好ましくは140%以上である。破断伸度の上限は、例えば200%以下である。
【0044】
不織布は一般に縦方向(MD方向)よりも横方向(CD方向)においてその機械的強度が小さくなる傾向にあり、横方向の機械的強度が最終製品の実用性に影響を与えることが多い。ウェットシートの場合も同様であり、縦方向の強度等は十分であっても、横方向の強度等が小さいと、全体として実用性がないと判断される。液体含浸皮膚被覆シート等のウェットシートは、縦方向と平行な方向にも折り畳まれ、縦方向に折ったシートを広げるときには、横方向に力が加わる。そのため、基材である不織布が、横方向で僅かな力により伸びやすいものであると、展開性が低下し、あるいは広げた後の不織布における伸び(変形度合い)が大きくなる。そのような不都合を避けるために、本発明の不織布の横方向の10%伸長時応力および破断伸度は上記の範囲内にあることが好ましい。
【0045】
湿潤状態における不織布の横方向の10%伸長時応力が0.3N/50mm以下であると、僅かな力で不織布が伸びやすく、取り扱いにくくなるため、濡れた状態で折り畳まれた不織布の端を摘むだけで不織布に伸びが生じやすい、または不織布を広げるときに加わる力で伸びが生じやすい。不織布の破断伸度は、不織布が破断に至るまでの伸びを百分率で表したものであり、これが大きいほど破断に至るまでの伸び代が大きく、繊維が抜けにくいと考えられる。したがって、不織布の破断伸度が120%未満であると、僅かな力で繊維の抜けが生じて、不織布に伸びが生じやすく、展開性または展開後の不織布の変形度合いが大きくなる傾向にある。
【0046】
湿潤状態における不織布の縦方向の10%伸長時応力は、横方向の10%伸長時応力が上記範囲内にある限りにおいて特に限定されないが、好ましくは2.8N/50mmより大きく、12.0N/50mm以下である。より好ましくは3.2N/50mm以上、10.0N/50mm以下であり、最も好ましくは3.5N/50mm以上、8.5N/50mm以下である。また、湿潤状態における不織布の縦方向の破断伸度は、好ましくは25%以上であり、より好ましくは30%以上であり、特に好ましくは35%以上であり、最も好ましくは40%以上である。縦方向の破断伸度の上限は、例えば100%以下である。縦方向の10%伸長時応力が2.8N/50mm以下であると、不織布全体の強度が低くなる傾向があるため、当該不織布の横方向の10%伸長時応力が0.3N/50mm以下になりやすくなる。その結果、当該不織布は濡れた状態で折り畳まれた不織布の端を摘むだけで不織布に伸びが生じやすかったり、不織布を広げるときに加わる力で伸びが生じやすくなるおそれがある。縦方向の10%伸長時応力が12.0N/50mmを超えると不織布全体の強度が高すぎる状態になり、弱い力では縦方向に全く伸びない不織布となる。このような不織布を各種ウェットシートに使用した場合、不織布全体が硬い触感となり使用感が低下する。特に、このような不織布を液体含浸皮膚被覆シートの基材として使用した場合、弱い力では縦方向にほとんど伸びないのでシートを肌に貼りにくくなる。
【0047】
[不織布の製造方法]
本発明の不織布は、分割型複合繊維、親水性繊維および太繊度合成繊維を含む繊維ウェブを作製し、繊維ウェブを繊維交絡処理に付した後、分割型複合繊維の低融点成分により繊維同士を熱接着させることにより製造される。繊維ウェブは構成繊維を混合して作製する。繊維ウェブの形態は、パラレルウェブ、クロスウェブ、セミランダムウェブおよびランダムウェブ等のカードウェブ、エアレイウェブ、湿式抄紙ウェブ、ならびにスパンボンドウェブ等から選択されるいずれの形態であってもよい。
【0048】
カードウェブを作製する場合、構成繊維の繊維長は25mm以上、100mm以下とすることが好ましく、30mm以上、70mm以下とすることがより好ましい。エアレイウェブを作製する場合、構成繊維の繊維長は1mm以上、50mm以下とすることが好ましく、5mm以上、30mm以下とすることがより好ましい。湿式抄紙ウェブを作製する場合、構成繊維の繊維長は0.5mm以上、20mm以下とすることが好ましく、1mm以上、10mm以下とすることがより好ましい。
【0049】
本発明の不織布の製造において、繊維ウェブに施す交絡処理は水流交絡処理であることが好ましい。水流交絡処理によれば、繊維同士が緻密に交絡し、均一で表面の平坦な不織布を得ることができるとともに、分割型複合繊維の分割を繊維交絡と同時に行うことができるからである。
【0050】
水流交絡処理は、支持体に積層体を載せて、柱状水流を噴射することにより実施する。支持体は、不織布表面が平坦となり、かつ凹凸を有しないように、1つあたりの開孔面積が0.2mm
2を超える開孔を有さず、また、突起またはパターンが形成されていないものであることが好ましい。例えば、支持体は、80メッシュ以上、100メッシュ以下の平織の支持体であることが好ましい。
【0051】
水流交絡処理は、孔径0.05mm以上、0.5mm以下のオリフィスが0.3mm以上、1.5mm以下の間隔で設けられたノズルから、水圧1MPa以上、15MPa以下の水流を、繊維ウェブの表裏面にそれぞれ1〜5回ずつ噴射することにより実施してよい。水圧は、好ましくは、1MPa以上、10MPa以下であり、より好ましくは、1MPa以上、7MPa以下である。
【0052】
交絡処理後の繊維ウェブは、熱接着処理に付される。熱接着処理は分割型複合繊維を構成する低融点成分のみが溶融する温度で実施する。交絡処理が水流交絡処理である場合には、熱接着処理が、繊維ウェブから水分を除去する乾燥処理を兼ねてよい。あるいは、熱接着処理と乾燥処理は別々に実施してよい。
【0053】
熱接着処理において、低融点成分以外の繊維成分が溶融すると、接着点が増える又は大きな接着点が形成されて、不織布の柔軟性が損なわれるので、低融点成分のみが溶融するように、温度を選択する。例えば、分割型複合繊維がポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン(ポリエチレンが低融点成分)の組み合わせからなる場合、熱接着処理は、130℃以上、150℃以下の温度で実施することが好ましい。熱処理温度を調節することによって、低融点成分による熱接着の度合いを変化させることもできる。熱接着の度合いは、不織布の強度、柔軟性、および肌触り等に影響を与える。
【0054】
繊維交絡処理後、熱接着処理の前に、必要に応じて、不織布を拡幅ロールによる拡幅処理に付してよい。拡幅処理を施すことにより、CD方向に向いた繊維の数を増やすことができ、不織布の10%伸長時応力を向上させることができる。
【0055】
熱接着処理により本発明の不織布が完成する。本発明の不織布はこれに液体を含浸させることにより、ウェットシートを構成する。含浸させる液体および含浸量は、用途に応じて適宜選択される。例えば、ウェットシートを、対人用のウェットワイピングシートとして提供する場合には、水、または洗浄成分を含む水性溶液等を不織布100質量部に対して、100質量部以上、1000質量部以下の含浸量で含浸させてよい。対人用のウェットワイピングシートは、より具体的には、例えば、お手拭き、おしり拭き、経血拭き、化粧落とし用シート、洗顔シート、制汗シート、およびネイルリムーバーとして提供される。
【0056】
ウェットシートを対人用フェイスマスク、角質ケアシートおよびデコルテシートといった対人用液体含浸皮膚被覆シートとして提供する場合には、有効成分を含む液体(例えば化粧料)を不織布100質量部に対して、150質量部以上、2500質量部以下の含浸量で含浸させてよい。有効成分は、例えば、保湿成分、角質柔軟成分、クレンジング成分、制汗成分、香り成分、美白成分、血行促進成分、紫外線防止成分、および痩身成分等であるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
フェイスマスクは、顔を被覆するのに適した形状を有し、さらに、例えば、目、鼻および口に相当する部分に、必要に応じて打ち抜き加工による開口部又は切り込み部が設けられた形態で提供される。あるいは、フェイスマスクは、顔の一部分(例えば、目元、口元、鼻または頬)のみを覆うような形状のものであってよい。あるいはまた、フェイスマスクは、目の周囲を覆うシートと、口の周囲を覆うシートとから成るセットとして提供してよく、あるいは3以上の部分を別々に覆うシートのセットとして提供してよい。
【0058】
角質ケアシートは角質が厚く、硬化しやすい踵、肘、膝などに使用される皮膚被覆シートであり、角質柔軟成分および保湿成分等を含む液体を含浸させることにより、角質に対し保湿や軟化を促すシートや、余分な角質の除去を促進する効果を発揮するシートである。本発明の不織布は、いずれの効果・効能を発揮する角質ケアシートにおいても、基材として使用することができる。角質ケアシート、例えば踵用の角質ケアシートは、貼り付ける際に、シートが踵の曲線に合わせやすくなるように、切り込みおよび/もしくは切り欠き、ならびに/またはシートの一部が打ち抜かれて開口部を有する形態で提供される。
【0059】
液体含浸皮膚被覆シートは、身体の任意の部位(例えば、首、手の甲、首から胸元までの部位(デコルテとも呼ばれている))を保湿またはその他のケアをするために用いられる、保湿成分またはその他の有効を含む液体を含浸させた保湿シートであってよい。あるいは、液体含浸皮膚被覆シートは、痩身成分を含む液体を含浸させた、痩身用シートであってよい。痩身用シートは、例えば、大腿部または腹部に貼り付けて用いられる。
【0060】
上記対人用のウェットワイピングシートまたは対人用液体含浸皮膚被覆シートは、基材である不織布が折り畳まれた状態で提供されてよい。本発明の不織布は、濡らして折り畳まれた状態から広げやすいものであるため、所定の包装袋または容器に収納するために、複数回折り畳まれた状態で提供されるのに適している。折り畳みは、不織布の一方向においてのみ行ってよく、あるいは不織布の異なる方向においてそれぞれ1回以上行われていてよい。例えば、液体を含浸させた不織布を、縦方向と平行な方向に(即ち、折り目が縦方向と平行となるように)1回以上折り畳み、横方向と平行な方向に(即ち、折り目が横方向と平行となるように)1回以上折り畳んで、ウェットワイピングシートまたは液体含浸皮膚被覆シートとして提供してよい。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例により説明する。
本実施例で用いる繊維として下記のものを用意した。
【0062】
[親水性繊維1] 繊度1.5dtex〜1.7dtex、繊維長40mmのビスコースレーヨン(商品名CD ダイワボウレーヨン(株)製)
[親水性繊維2] 繊度1.0〜5.0dtex、繊維長10〜60mmのコットン
[太繊度合成繊維] 繊度1.45dtex、繊維長38mmのポリエチレンテレフタレートからなる繊維(商品名T402 東レ(株)製)
[分割型複合繊維] 繊度2.2dtex、繊維長51mmのポリエチレンテレフタレート/高密度ポリエチレンの組み合わせから成る、分割数8の分割型複合繊維(分割により形成される繊維のうち最小の繊度を有するものの繊度は0.275dtex)(商品名DFS(SH) ダイワボウポリテック(株)製)
【0063】
(実施例1)
親水性繊維40質量%、太繊度合成繊維としてのポリエステル繊維35質量%、分割型複合繊維25質量%を混合して、パラレルカード機を用いて、ウェブ狙い目付約35g/m
2でパラレルウェブを作製した。このウェブに、水流交絡処理を施して、繊維同士を交絡させるとともに、分割型複合繊維を分割させた。水流交絡処理は、孔径0.08mmのオリフィスが0.6mm間隔で設けられたノズルを用いてウェブの一方の面に2.0MPaの柱状水流を3回噴射し、他方の面に2.5MPaの柱状水流を2回噴射して実施した。水流交絡処理後の繊維ウェブを、温度140℃の熱処理に付し、乾燥処理と熱接着処理を同時に実施した。熱処理により、分割型複合繊維を構成するポリエチレンのみを溶融させて、ポリエチレンによって構成繊維同士を熱接着して、不織布を得た。
【0064】
(実施例2〜9、比較例1〜7)
親水性繊維の種類および割合、太繊度合成繊維の割合、分割型複合繊維の割合、およびウェブ狙い目付を表1および表2に示すとおりとして、実施例1で採用した条件と同じ条件で水流交絡処理、および熱接着処理(乾燥処理)を実施して不織布を得た。
実施例1〜9、比較例1〜7で得た不織布について、目付、厚み、湿潤時の引張強度、破断伸度、および10%伸長時応力、ならびに使用感を、以下の方法に従って評価した。評価結果を表1および表2に示す。
【0065】
[厚み]
厚み測定機(商品名 THICKNESS GAUGE モデル CR−60A (株)大栄科学精器製作所製)を用い、試料1cm
2あたり3gの荷重を加えた状態で測定した。
【0066】
[湿潤時の引張強度、破断伸度、10%伸長時応力]
JIS L 1096 6.12.1 A法(ストリップ法)に準じて、定速緊張形引張試験機を用いて、試料片の幅5cm、つかみ間隔10cm、引張速度30±2cm/分の条件で引張試験に付し、切断時の荷重値(引張強度)、破断伸度、ならびに10%伸長時応力を測定した。これらの物性は、試料100質量部に対して、200質量部の蒸留水を含浸させた状態で測定した。引張試験は、不織布の縦方向(MD方向)および横方向(CD方向)を引張方向として実施した。評価結果はいずれも3点の試料について測定した値の平均で示している。
【0067】
[使用感]
本発明の不織布をウェットシートにして使用した場合の使用感を評価するため、下記の方法で官能評価を行った。
不織布を縦20cm×横20cmの大きさに裁断する。次に、前記不織布の試料100質量部に対し、600質量部となるように市販の化粧料(ロート製薬(株)製 極潤(登録商標) ヒアルロン液)を秤量する。裁断した不織布をまず3つ折りにし、その後に長辺方向に2つ折りした状態でポリエチレン製の袋に入れ、その中に秤量した化粧料を入れ、不織布試料が折られた状態を維持しつつ、無加重の状態で平面にて24時間放置して、不織布に化粧料を十分に含浸させる。ポリエチレン袋から試料を静かに取り出し、折り畳んだ状態から広げ、その際の展開性(広げやすさ)と伸びにくさを評価する。シート状に広げた試料表面を成人女性が指先で触り、不織布の柔らかさを評価した。柔らかさ、展開性(広げやすさ)、展開後の伸び(伸びにくさ)の評価基準は下記のとおりである。
(1)柔らかさ
○:非常にソフトで肌あたりが良い。
△:触感に硬さがあるが、対人ウェットシートとして使用できる。
×:不織布が硬い、あるいは指先にチクチクした刺激を感じる。
(2)展開性
○:簡単に、完全に開くことができる。
△:完全に開くことができるが開くまでに若干時間を要する。
×:一部において開くことができない、または完全に開くのに相当な時間を要する。
(3)展開後の伸び
○:開いた後に、不織布がほとんど伸びない。
△:開いた後に、不織布が若干伸びている。
×:開いた後に、不織布が伸びている。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
表1および表2に示すように、実施例1〜9の不織布は「柔らかさ」、「展開性」および「展開後の伸び」のうち2つ以上で「○」の評価が得られ、また、いずれの項目についても「×」と評価されず、ウェットシート、並びに液体含浸皮膚被覆シートとして使用するのに適しているものであった。実施例3および4は、分割型複合繊維に由来する繊維の割合が、実施例1、6および7のそれと同じであったが、太繊度合成繊維の割合が多かったために、良好な展開性が得られたものと考えられる。
【0071】
比較例1の不織布は、実施例1の不織布と同じ繊維構成を有していたが、目付が小さかったために、10%伸長時応力が十分な大きさとならず、展開性および展開後の伸びについて実施例1よりも劣っていた。比較例2の不織布は太繊度合成繊維を含まなかったために、展開性が悪く、伸びやすいものであった。比較例2の不織布は、太繊度合成繊維を含まないことに加え、親水性繊維の割合が多かったことで、液体を含浸させると不織布が液体を大量に含み、不織布表面にも液体が大量に存在する。そのため、液体を含浸させた状態で不織布が折り畳まれていると、折り畳まれて、接触している不織布表面の境界面にも液体が過剰に存在し、当該境界面にて液体の表面張力が大きくなることで展開性が悪くなり、実施例の不織布よりも大きな力で広げようとするため、使用時の伸びが大きくなったと考えられる。比較例3においては、分割型複合繊維に由来する繊維の割合が小さく、繊維同士が十分に熱接着されなかったために、得られた不織布は展開性が悪く、伸びも生じやすくなったと考えられる。
【0072】
比較例4においては、分割型複合繊維に由来する繊維の割合が大きく、熱接着点の数が多かったために、柔らかい不織布が得られなかったと考えられる。比較例5においては、太繊度合成繊維の割合が少ないために、得られた不織布において展開性が悪く、また、伸びが生じやすくなったと考えられる。比較例6および7においては、親水性繊維の割合が大きく、分割型複合繊維の割合も比較的大きかったために、繊維同士が交絡しすぎて、柔らかい不織布が得られなかったと考えられる。また、比較例7においては、分割型複合繊維の割合が小さかったために、得られた不織布において伸びが大きくなったと考えられる。
【0073】
本発明には以下の態様のものが含まれる。
(態様1)
液体を含浸させたウェットシートの基材として用いる不織布であって、
2以上の成分から成る分割型複合繊維に由来する繊維、親水性繊維、および繊度0.8dtex以上の合成繊維(以下、「太繊度合成繊維」)を含む単層構造を有し、
前記分割型複合繊維に由来する繊維、前記親水性繊維、および前記太繊度合成繊維を合わせた質量を100質量%としたときに、前記分割型複合繊維に由来する繊維を22質量%以上、38質量%以下、前記親水性繊維を20質量%以上、53質量%以下、および前記太繊度合成繊維を22質量%以上、58質量%以下含み、
前記分割型複合繊維は、融点が140℃以下の熱可塑性樹脂の成分(以下、「低融点成分」)と、融点が140℃を超える熱可塑性樹脂の成分(以下、「高融点成分」)とを含み、
前記太繊度合成繊維は、融点が140℃を超える熱可塑性樹脂で繊維表面が構成されており、
前記分割型複合繊維に由来する繊維として、前記低融点成分からなる繊度0.6dtex以下の極細繊維、および前記高融点成分からなる繊度0.6dtex以下の極細繊維を含み、
構成繊維の交点の少なくとも一部が、前記低融点成分からなる極細繊維によって熱接着されている、
不織布。
(態様2)
前記低融点成分がポリエチレンである、態様1に記載の不織布。
(態様3)
前記高融点成分が、ポリエステル系樹脂またはポリオレフィン系樹脂である、態様1または2に記載の不織布。
(態様4)
前記太繊度合成繊維が、単一繊維、及び/または、融点が140℃を超える熱可塑性樹脂を鞘成分とする芯鞘型複合繊維である、態様1〜3のいずれかに記載の不織布。
(態様5)
前記太繊度合成繊維が、ポリエステル系樹脂からなる単一繊維である、態様1〜3のいずれかに記載の不織布。
(態様6)
前記分割型複合繊維に由来する繊維、前記親水性繊維、および前記太繊度合成繊維のみからなる、態様1〜5のいずれかに記載の不織布。
(態様7)
前記分割型複合繊維および前記太繊度合成繊維を合わせて60質量%以上含む、態様1〜6のいずれかに記載の不織布。
(態様8)
湿潤状態における不織布の横方向の10%伸長時応力が0.3N/50mmを超える、態様1〜6のいずれかに記載の不織布。
(態様9)
態様1〜8のいずれかに記載の不織布を基材とし、前記基材100質量部に対して、液体が100質量部以上、1000質量部以下の範囲内にある割合で含浸されている、対人用ウェットワイピングシート。
(態様10)
前記不織布の縦方向と平行な方向に1回以上、横方向と平行な方向に1回以上折り畳まれている、態様9に記載の対人用ウェットワイピングシート。
(態様11)
態様1〜8のいずれかに記載の不織布を基材とし、前記基材100質量部に対して、液体が150質量部以上、2500質量部以下の範囲内にある割合で含浸されている、対人用液体含浸皮膚被覆シート。
(態様12)
前記不織布の縦方向と平行な方向に1回以上、横方向と平行な方向に1回以上折り畳まれている、態様11に記載の対人用液体含浸皮膚被覆シート。