特許第6285785号(P6285785)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6285785
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】垂直記録媒体および垂直記録再生装置
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/66 20060101AFI20180215BHJP
   G11B 5/65 20060101ALI20180215BHJP
   G11B 5/64 20060101ALI20180215BHJP
   G11B 5/738 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
   G11B5/66
   G11B5/65
   G11B5/64
   G11B5/738
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-82496(P2014-82496)
(22)【出願日】2014年4月14日
(65)【公開番号】特開2015-18593(P2015-18593A)
(43)【公開日】2015年1月29日
【審査請求日】2017年2月9日
(31)【優先権主張番号】特願2013-121798(P2013-121798)
(32)【優先日】2013年6月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】坂脇 彰
(72)【発明者】
【氏名】山根 明
【審査官】 中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−109798(JP,A)
【文献】 特開2007−273057(JP,A)
【文献】 特開2003−085702(JP,A)
【文献】 特開2010−176784(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/66
G11B 5/64
G11B 5/65
G11B 5/738
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性基板上に、少なくとも下地層と垂直記録層を有する垂直記録媒体において、前記垂直記録層は少なくともCoとPtを含むグラニュラ構造を有する垂直磁性層と、磁性と強誘電性を併せ持つ磁性層とを有し、この2層が互いに反強磁性結合しているものであって、
前記磁性と強誘電性を併せ持つ磁性層が、Bi(Fe1−bMn)O(bは0.3〜0.8の範囲内。)、または、(Bi1−aBa)(Fe1−bMn)O(aは0.3〜0.5及びbは0.3〜0.8の範囲内。)であることを特徴とする垂直記録媒体。
【請求項2】
前記CoとPtを含むグラニュラ構造を有する垂直磁性層を、磁性と強誘電性を併せ持つ磁性層に対して非磁性基板側に設けることを特徴とする請求項1に記載の垂直記録媒体。
【請求項3】
前記CoとPtを含むグラニュラ構造を有する垂直磁性層と、前記磁性と強誘電性を併せ持つ磁性層との間に、非磁性金属層を有することを特徴とする請求項1または2に記載の垂直記録媒体。
【請求項4】
前記CoとPtを含むグラニュラ構造を有する垂直磁性層が、PtとCoを含む強磁性結晶粒子と、粒界構成物質として、Si酸化物、Ti酸化物、W酸化物、Cr酸化物、Co酸化物、Ta酸化物、B酸化物およびRu酸化物のいずれか1種以上を含むことを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の垂直記録媒体。
【請求項5】
前記非磁性基板と下地層との間に軟磁性裏打ち層を有することを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の垂直記録媒体。
【請求項6】
請求項1〜の何れか1項に記載の垂直記録媒体と、前記垂直記録媒体に情報を記録再生するヘッドとを備えた垂直記録再生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直記録媒体およびこの垂直記録媒体を用いた垂直記録再生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ディスク装置、可撓性ディスク装置、磁気テープ装置等の磁気記録装置の適用範囲は著しく増大され、その重要性が増すと共に、これらの装置に用いられる磁気記録媒体について、その記録密度の著しい向上が図られつつある。特にHDD(ハードディスクドライブ)では、MRヘッド、およびPRML技術の導入以来、面記録密度の上昇はさらに激しさを増し、近年ではさらにGMRヘッド、TuMRヘッドなども導入され、面記録密度は1年に約1.5倍ものペースで増加を続けている。
【0003】
一方、HDDの磁気記録方式として、いわゆる垂直磁気記録方式が従来の面内磁気記録方式に代わる技術として近年急速に利用が広まっている。垂直磁気記録方式は、情報を記録する記録層の結晶粒子が基板に対して垂直方向に磁化容易軸をもっているため、面記録密度を高めるのに適している。
【0004】
垂直磁気記録媒体は、非磁性基板上に少なくとも軟磁性材料で構成される裏打ち層と、磁気記録層の垂直配向性を制御する下地層と、垂直配向した磁気記録層から構成するのが一般的である。
【0005】
しかしながら、面記録密度の増大にともない、従来の垂直磁気記録再生方式では、その記録再生を"磁気(磁界)"でおこなうことによる記録再生に限界がある。
【0006】
高密度に記録するためには1ビット(磁気記録したデータの最少単位)の媒体上における占有面積を小さくすることに等しい。これに対応するには、磁気記録媒体の磁気記録層はより粒子径や磁気クラスタをより小さくすることが求められる。粒子径や磁気クラスタを現行通りとすると、データの再生信号のS/N比が悪化し、十分な特性を得ることができないためである。
【0007】
粒子径や磁気クラスタを小さくしていくと、熱による影響のため、記録データの保持が不安定になることが知られている(熱揺らぎ現象)。これに耐えるため高Kuを有する磁性材料を使う必要がある。しかし、高Ku材料を使った場合、磁気記録層の保磁力が増大するため、データを記録する際により高い書き込み磁界を必要とする。
【0008】
一方で、記録再生ヘッド側では、記録磁界が記録素子(磁極)に使われる磁性材料によるところが大きく、このため発生させられる書き込み磁界には限界がある。
【0009】
この問題を解決する案として、電界により磁気記録層にデータを記録する案が提案されている。例えば、磁気により記録する際、媒体側に電界を発生させ、磁気記録層の保磁力を低下させる方法や(例えば、特許文献1参照。)、高周波電界と磁気記録層の磁気スピンとの共鳴を利用して記録層の保磁力を下げる方法(マイクロ波アシスト記録、MAMR)がある(例えば、特許文献2参照。)。前者では、磁気記録装置内で磁気記録媒体側をアーシングする必要がある上、磁界と電界を同時に発生・制御するためヘッドの構造が複雑になる問題がある。後者は、ヘッドに高周波磁界の発生機構を組み込むため構造がより複雑になるという問題がある。
【0010】
その他、強誘電体を記録層として用いることで、磁気による記録再生ではなく電界によりデータを記録再生する方式も提案されている(例えば、特許文献3参照。)。この方式によれば、記録媒体にデータを書き込む際に電圧のみを印加すれば良く、またデータの再生も電界で行うため、記録再生素子を磁性材料ではなく導電性の探針と磁界を発生させるコイルにより構成することができ、書き込みの能力の限界は解消される。しかしながらこの方式では、磁気記録方式に比べて、局在した分極の不安定性や記録速度が遅いといった問題がある。
【0011】
近年、新しい材料として、磁性と強誘電性を併せ持つ材料が研究されている。中でも強磁性と強誘電性を併せ持つマルチフェロイック材料が注目されている。マルチフェロイック材料としては、例えば、磁性を有する強誘電材料であるBiFeO3、及び、BiをBa、FeをMnで置換した材料が知られている。これらの材料を従来の磁性材料からなる磁気記録層に組み込むことで、電界により書き込みを行い、磁界により再生を行う技術が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−139854号公報
【特許文献2】特開2007−265512号公報
【特許文献3】特開2008−219007号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】第60回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集、28a−D3−8、pp.06−017(2013年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
磁性と強誘電性を併せ持つ材料を用いた磁気記録媒体は、電界による書き込みが可能であるため、電界を発生する書き込み素子の小形化により高記録密度を実現できる可能性を有している。一方で、これらの材料は酸素を含んだペロブスカイト構造を取る場合が多く、構造が複雑でありその特性発現には結晶性が重要な因子となる他、組成の化学量論比からのずれや酸素欠損等を起こしやすい。そして、本件発明者の検討によると、これらの材料では結晶性を向上させると、結晶粒の肥大化が著しい。このため平滑な媒体表面が得られにくく、ヘッドの飛行を不安定にさせる他、酸素欠損や肥大化した結晶粒による構造上の欠陥は、磁気ヘッドを用いた情報の読み込みに際して磁気ノイズの発生原因となることが明らかになった。
【0015】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、S/N比に優れた再生特性を有する垂直記録媒体およびこれを用いた垂直記録再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成とした。
(1)非磁性基板上に、少なくとも下地層と垂直記録層を有する垂直記録媒体において、前記垂直記録層は少なくともCoとPtを含むグラニュラ構造を有する垂直磁性層と、磁性と強誘電性を併せ持つ磁性層とを有し、この2層が互いに反強磁性結合しているものであって、前記磁性と強誘電性を併せ持つ磁性層が、Bi(Fe1−bMn)O(bは0.3〜0.8の範囲内。)、または、(Bi1−aBa)(Fe1−bMn)O(aは0.3〜0.5及びbは0.3〜0.8の範囲内。)であることを特徴とする垂直記録媒体。
(2)前記CoとPtを含むグラニュラ構造を有する垂直磁性層を、磁性と強誘電性を併せ持つ磁性層に対して非磁性基板側に設けることを特徴とする(1)に記載の垂直記録媒体
(3)前記CoとPtを含むグラニュラ構造を有する垂直磁性層と、前記磁性と強誘電性を併せ持つ磁性層との間に、非磁性金属層を有することを特徴とする(1)または(2)に記載の垂直記録媒体。
)前記CoとPtを含むグラニュラ構造を有する垂直磁性層が、PtとCoを含む強磁性結晶粒子と、粒界構成物質として、Si酸化物、Ti酸化物、W酸化物、Cr酸化物、Co酸化物、Ta酸化物、B酸化物およびRu酸化物のいずれか1種以上を含むことを特徴とする(1)〜()のいずれか1項に記載の垂直記録媒体。
)前記非磁性基板と下地層との間に軟磁性裏打ち層を有することを特徴とする(1)〜()のいずれか1項に記載の垂直記録媒体。
)(1)〜()の何れか1項に記載の垂直記録媒体と、前記垂直記録媒体に情報を記録再生するヘッドとを備えた垂直記録再生装置。




【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、S/N比に優れた再生特性を有する垂直記録媒体を提供可能となり、またこの垂直記録媒体に高記録密度電界書込ヘッドを組み合わせることで、高記録密度の垂直記録再生装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の垂直記録媒体の一例を表す断面模式図である。
図2】本発明の垂直記録再生装置を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下図面を参照して本発明を詳しく説明する。
【0020】
本願発明は、非磁性基板上に、少なくとも下地層と垂直記録層を有する垂直記録媒体において、前記垂直記録層は少なくともCoとPtを含むグラニュラ構造を有する垂直磁性層(以下、強磁性層とする。)と、その上に少なくとも磁性と強誘電性を併せ持つ磁性層(以下、強誘電磁性層とする。)を有し、この2層が互いに反強磁性結合していることを特徴とする。
【0021】
前述のように、強誘電磁性層を構成する材料としてマルチフェロイック材料が知られているが、これらの材料はペロブスカイト等の複雑な構造を取る場合が多く、成膜が難しいため、理論的な化学量論比からのずれ、特に酸素欠損を起こしやすい。そして、これらの構造上の欠陥は、本願発明者の検討によると磁気ヘッドを用いた情報の読み込みに際してノイズの発生原因となる。
【0022】
そこで本願発明では、強誘電磁性層と強磁性層との間にRu等の非磁性遷移金属薄膜(以下、反強磁性結合層)を設け、両層を反強磁性結合することで強誘電磁性層から生じるノイズを低減し、高密度記録に適した垂直記録媒体を提供する。
すなわち、本発明の構成では、ヘッドからの電界により強誘電磁性層に情報を記録すると、強誘電磁性層に磁気スピンが生じ、これと磁気的な結合を有している強磁性層のスピンの反転を誘発し、結果として磁気記録層全体のスピンを反転させるが、その際強誘電磁性層と強磁性層は反強磁性結合により互いに逆方向の磁気スピンを形成するため、強誘電磁性層の磁化は強磁性層の一部の磁化とはお互いに打ち消しあうことで、磁気記録層全体としては強磁性層から強誘電磁性層の磁化分差し引いた残部に相当する出力のみが有効となる。このため、本願発明の構成を採用することで、強誘電磁性層から生じるノイズが低減し、もって高密度記録に適した垂直記録媒体を提供することが可能となる。
【0023】
図1は本発明に係る垂直記録媒体の一例を表す断面模式図である。本発明の垂直記録媒体は、例えば、非磁性基板1上に少なくとも直上の膜の垂直配向性を制御する下地層3、垂直配向した垂直磁性層4、反強磁性結合層5、強誘電磁性層6、保護層7が順に積層された構造を有する。なお、符号8は密着層である。
【0024】
本発明の垂直記録媒体に使用される非磁性基板1としては、Alを主成分とした例えばAl−Mg合金等のAl合金基板や、通常のソーダガラス、アルミノシリケート系ガラス、アモルファスガラス類、シリコン、チタン、セラミックス、サファイア、石英、各種樹脂からなる基板など、非磁性基板であれば任意のものを用いることができる。
【0025】
非磁性基板1と下地層3の間に、密着層8を設けることが好ましい。密着層8は、非磁性基板1の表面を平滑化して、非磁性基板1と下地層3との密着性を高めると共に、非磁性基板1からのアルカリ性イオンが下地層3に拡散して、下地層3が腐食するのを防ぐ役割がある。密着層8としては、非磁性金属材料を使うことができるが、アモルファス構造であることが望ましい。アモルファス構造とすることで、緻密な構造となり非磁性基板1からのアルカリ性イオンの拡散を防ぐ作用が優れる他、表面粗さ:Raを低く保つことができることで、ヘッドの浮上量を低減することが可能となり、さらなる高記録密度化が可能となるためである。このような材料としては、CrTi、NiTa、AlTi合金等を用いることができる。
【0026】
また、下地層3を形成する前に、裏打ち層2を形成することもできる。裏打ち層2は、垂直記録層の磁化の方向をより強固に非磁性基板1と垂直な方向に固定することで、再生信号を安定化させる働きをする。裏打ち層2は軟磁性材料から構成され、材料としてはCoFe系合金(CoFeTaZr、CoFeZrNbなど)、FeCo合金(FeCo、FeCoVなど)、CoZr系合金(CoZr、CoZrNbなど)、CoTa系合金(CoTa、CoTaZr)などの軟磁気特性を有する材料ならば使用することができる。
【0027】
軟磁性裏打ち層は、アモルファス構造であることが特に好ましい。アモルファス構造とすることで、表面粗さ:Raが大きくなることを防ぎ、ヘッドの浮上量を低減することが可能となり、さらなる高記録密度化が可能となるためである。また、これら軟磁性層単層の場合だけでなく、2層の間にRuなどの極薄い非磁性薄膜をはさみ、軟磁性層間に反強磁性結合を持たせた構造が好ましい。裏打ち層2の保磁力(Hc)は100 Oe以下(より好ましくは20 Oe以下)とするのが好ましい。なお1 Oeは79A/mである。この保磁力(Hc)が上記範囲を超えると軟磁気特性が不十分となり、再生波形がいわゆる矩形波から歪みをもった波形になるため好ましくない。
【0028】
裏打ち層2の飽和磁束密度(Bs)は、0.6T以上(より好ましくは1T以上)とするのが好ましい。飽和磁束密度(Bs)が上記範囲未満であると、再生波形がいわゆる矩形波から歪みをもった波形になるため好ましくない。
【0029】
また、裏打ち層2の飽和磁束密度(Bs)と裏打ち層2の膜厚との積(Bs・T)が15が15Tnm以上(より好ましくは25Tnm以上)であることが好ましい。この積(Bs・T)が上記範囲未満であると、再生波形が歪みをもった波形となるため好ましくない。
【0030】
裏打ち層2は、外部から磁界を印加しない状態で、非磁性基板1の表面と平行かつ半径方向に磁化が向いていることが好ましい。これにより裏打ち層2の磁化方向が制約されることで、再生時におけるいわゆるスパイクノイズを抑制することができる。このような構造としては、裏打ち層2を軟磁性膜の間に非磁性金属膜を設けた積層構造とし、上下の軟磁性間に磁気的な結合(バイアス磁界HBias)を発生させることで実現できる。
【0031】
本発明では、密着層8の上に、垂直記録層の配向性を制御する下地層3を設ける。下地層3の材料としては、hcp構造(Ru、Re、CoCr系合金、RuCo系合金など)、fcc構造(Ni、Pt、Pd、Ti、Ni系合金(NiNb系合金、NiTa系合金、NiV系合金、NiW系合金、NiPt系合金、NiCr系合金、PtCr系合金など)、CoPd系合金、AlTi系合金など)、アモルファスあるいは微結晶構造(Ta、Hf、Zrあるいはこれらを主成分とする合金、PdSi系合金、CrB系合金、CoB系合金など)を有する非磁性材料であることが好ましい。また下地層3を多層構造とし、前記Ni系合金のようなfcc構造層などの上に、PtあるいはPt合金などのfcc構造層を設ける構造や、RuやReなどのhcp構造層を設けることが好ましい。特に下地層3を多層とし、垂直記録層側にhcp構造層を設けることで垂直記録層の垂直配向性や結晶性を高めることができるため、より好ましい。
【0032】
下地層3の厚さは、5〜40nmとするのが好ましい。この範囲とすることで、垂直磁性層4の磁化の垂直配向性が強くなり、再生信号の分解能を高めることができる。
【0033】
下地層に3の厚さが上記範囲未満であると、垂直磁性層4の結晶配向性が低下し、電磁変換特性が劣化するため好ましくない。
【0034】
また、下地層3の厚さが上記範囲を超えると、垂直磁性層4の粒子径が大きくなりすぎることで、再生信号のノイズの増加や分解の低下などにより電磁変換特性が劣化するため好ましくない。
【0035】
本発明における垂直記録層の一例では、非磁性基板1上に、少なくともCoとPtを含むグラニュラ構造を有する垂直磁性層4と、磁性と強誘電性を併せ持つ強誘電磁性層6を有し、この間に両層を互いに反強磁性結合する反強磁性結合層5を有する。
【0036】
本願発明の垂直記録層を構成する垂直磁性層4と強誘電磁性層6は、どちらが非磁性基板1側であっても構わない。強誘電磁性層6を非磁性基板1側とする構成では、垂直磁性層4と再生ヘッドの距離が近くなり再生出力を大きくとることができるため高密度記録化が容易となる。また、垂直磁性層4を非磁性基板1側とする構成では、下地層3による配向制御の効果により垂直磁性層4の結晶性及び配向性が向上し結果として電磁変換特性が向上する他、記録再生ヘッドに設けた電界書き込み素子と強誘電磁性層6との距離が近くなり、強誘電磁性層6への書き込みが容易となり、垂直記録媒体の高記録密度化が容易となるため好ましい。また、特に非磁性基板1側に設けた垂直磁性層4を磁性粒子が非磁性材料中に分散しているような構造(いわゆるグラニュラ構造)とすることで、垂直磁性層4の上に設けた反強磁性結合層5と強誘電磁性層6の粒子径の分散を抑制し、結果として強誘電磁性層6の誘電特性と磁性特性も向上するため、高密度記録媒体としてより好ましい。
【0037】
垂直磁性層4の強磁性材料としては、Coを主成分としてPtを含み、さらにCr、Cuなど他の元素を混ぜた材料を使用することができる。非磁性基板1の垂直方向に磁化容易軸が向くような材料が好ましく、このような材料としては例えば、CoPt合金、CoPtNi合金、CoPtFe合金、CoCrPt合金、CoCrPtB合金、CoCrPtCu合金、CoCrPtNi合金などがあげられる。また、Co層とPt層をそれぞれ交互に積層したいわゆるCoPt多層膜のような構造とすることもできる。さらにCo層、Pt層に加えて、Pd層やNi層やFe層を順に繰り返し積層した構造(CoPtPd積層、CoPtNi積層、CoPtFe積層、CoPtPdNi積層など)とすることもできる。
【0038】
特に垂直磁性層4を磁性粒子が非磁性材料中に分散した構造(グラニュラ構造)とすることが、より好ましい。このような構造の材料としては、例えばCoPtを含んだ磁性合金に酸化物を添加したものがあげられる。酸化物としてはSi酸化物、Ti酸化物、W酸化物、Cr酸化物、Co酸化物、Ta酸化物、B酸化物およびRu酸化物のいずれか1種以上を含むものが好ましい。これらの酸化物を添加した強磁性材料としては、例えばCoCrPt−Si酸化物、CoCrPt−Ti酸化物、CoCrPt−W酸化物、CoCrPt−Cr酸化物、CoCrPt−Co酸化物、CoCrPt−Ta酸化物、CoCrPt−B酸化物、CoCrPt−Ru酸化物、CoRuPt−Si酸化物、CoCrPtRu−Si酸化物などを挙げることができる。これらの酸化物を2種以上添加することも可能である。
【0039】
垂直磁性層4を形成する磁性結晶粒子の平均粒径は、3nm以上12nm以下が好ましい。平均粒界幅は0.3nm以上2.0nm以下であることが好ましい。平均結晶粒径および平均粒界幅は平面TEM観察像を用いて算出することができる。垂直記録層に含まれる磁性層の総膜厚は5nm〜15nmが好ましい。
【0040】
垂直磁性層4の中に存在する酸化物の含有量は、酸化物以外の組成を一つの化合物として算出したmol総量に対して、3〜18モル%が好ましい。酸化物の含有量がこの範囲であると、層を形成した際、磁性粒子の周りに酸化物が析出し、磁性粒子の孤立化、微細化ができる為である。
【0041】
酸化物の含有量が上記範囲を超えた場合、酸化物が磁性粒子中への残留や磁性粒子の上下にも酸化物が析出してしまい、垂直磁性層4の配向性や結晶性を損ねるため好ましくない。
酸化物の含有量が上記範囲未満である場合、磁性粒子の分離、微細化が不十分となることで、電磁変換特性の劣化を生じるため好ましくない。
【0042】
垂直磁性層4のPt含有量は、8at%以上25at%以下であることが好ましい。Pt含有量が上記範囲であるのは、高密度記録に適した電磁変換特性が得られるためである。
【0043】
Ptの含有量が上記範囲未満である場合、熱によってデータの保持が不安定になる(熱揺らぎ)ため好ましくない。また、Pt含有量が25at%を超えると磁性結晶中に積層欠陥が生じて結晶性が悪化し、電磁変換特性が劣化するため好ましくない。特に垂直磁性層4中の磁性結晶がhcp構造をとる場合、hcp構造中にfcc構造の層が形成されてしまい、場合によっては一軸異方性を損なうことで電磁変換特性を劣化させるため好ましくない。
【0044】
垂直磁性層4は、CoとPt、Cr、Ni、Fe、酸化物の他にB、Ta、Mo、Cu、Nd、W、Nb、Sm、Tb、Ru、Reから選ばれる1種類以上の元素を含むことができる。上記元素を含むことにより、磁性粒子の微細化を促進、あるいは結晶性や配向性を向上させることができ、より高密度記録に適した電磁変換特性を得ることができる。
【0045】
上記元素の合計の含有量は、8at%以下であることが好ましい。8at%を超えた場合、磁性粒子中にhcp構造以外の結晶構造が形成されるため、電磁変換特性が劣化するため好ましくない。垂直磁性層4は2層以上の多層構造としてもよい。
【0046】
本願発明では、垂直磁性層4と強誘電磁性層6とを反強磁性結合させるが、そのためには両層間に反強磁性結合層5を設けるのが好ましく、この反強磁性結合層5としては、Ru、Re、Cu、Cr等の非磁性遷移金属材料を用いることができる。反強磁性結合層5の膜厚は、各々の材料により異なる。例えば、Ruを使用した場合には、0.3nm付近で反強磁性結合が発現し、Crの場合には0.7nm付近、Cuの場合は0.8nm付近、Reの場合は0.4nm付近、Rhの場合は0.8nm付近でそれぞれ反強磁性結合が発現する。また、反強磁性結合が発現する膜厚は、上記膜厚を中心として2−7nmの幅を持つ。そのため各材料に合わせて反強磁性結合層5の膜厚を調整する必要があるが、反強磁性結合層5の膜厚は0.2nm以上1.3nm以下の範囲が好ましい。この範囲を超える膜厚では、反強磁性結合エネルギーが弱くなりすぎ、垂直磁性層4と強誘電磁性層6の磁化の向きを逆向きに維持するのが難しくなるからである。
【0047】
この中で特にRu膜を用いるのが好ましい。これは、Ruの反強磁性結合エネルギーが他の材料に比べて大きく、それにより垂直磁性層4と強誘電磁性層6とスピンの向きが逆向きの状態でより安定になるからである。Ruを使用した場合、反強磁性結合を発現する膜厚は0.3nm付近(第一ピーク)と1.4nm付近(第二ピーク)があるが、このうち0.3nm付近の第一ピークを利用するのが制御性や安定性の観点からより好ましい。
【0048】
本願発明では、強誘電磁性層6として、(Bi1−aBa)FeO(aは0.3〜0.5の範囲内。)を用いるのが好ましい。前述のように、BiFeOは強誘電性材料として知られているが、この材料のBiの一部をBaで置換することで、強磁性と強誘電性を併せ持つことが知られている。この場合の置換率aを、0.3〜0.5の範囲内とすることで、強磁性と強誘電性を併せ持つ好適な材料が形成するが、理論的にはaを0.4とすることで構造的に最も安定となる。強誘電磁性層6は同一組成材料のターゲットを用いたスパッタリング法により形成できるが、成膜した膜の酸素欠損を防ぐため、酸素濃度を高めたターゲットを用いることが好ましい。
【0049】
本願発明では、強誘電磁性層6として、Bi(Fe1−bMn)O(bは0.3〜0.4の範囲内。)を用いるのが好ましい。前述のように、BiFeOは強誘電性材料として知られているが、この材料のFeの一部をMnで置換することで、強磁性と強誘電性を併せ持つことが知られている。この場合の置換率bを、0.3〜0.5の範囲内とすることで、強磁性と強誘電性を併せ持つ材料が形成するが、理論的には、bを0.4とすることで構造的に最も安定となる。強誘電磁性層6は同一組成材料のターゲットを用いたスパッタリング法により形成できるが、成膜した膜の酸素欠損を防ぐため、酸素濃度を高めたターゲットを用いることが好ましい。
【0050】
本発明では、前記2つの材料の特性を併せ持った(BiBa1−a)(FeMn1−b)Oなども使うことができる。この場合の置換率aを、0.3〜0.5の範囲内とすることで、強磁性と強誘電性を併せ持つ好適な材料が形成するが、理論的にはaを0.4とすることで構造的に最も安定となる。また置換率bを、0.3〜0.5の範囲内とすることで、強磁性と強誘電性を併せ持つ材料が形成するが、理論的には、bを0.4とすることで構造的に最も安定となる。
【0051】
本願発明では、強誘電磁性層6として、MCoO、MNiO、MFe、MCoFeO、MFeNiO、MCoMnO、MNiMnO(Mは、希土類元素、Bi、Y、アルカリ土類元素の中から1種類以上の元素)、などを用いることができる。
【0052】
強誘電磁性層6は、飽和磁化(Ms)と強誘電磁性層6の膜厚(T)の積(Ms・T)は、0.01memu/cm以上であることが好ましい。上記範囲であることで、反強磁性結合層5を介して磁気的に結合した垂直磁性層4の磁化を強誘電磁性層6の磁化の向きと逆向きにさせることができる。
【0053】
強誘電磁性層6の膜厚は、50nm以下の範囲であることが好ましい。強誘電磁性層6の厚さが50nmを超えると、強誘電磁性層6内の結晶粒が肥大化しすぎてしまい強誘電磁性層6の表面粗さが粗くなることで、その上の垂直磁性層4の結晶性や配向性を悪化させてしまう他、得られた磁気記録媒体の表面形状が粗くなってしまうことでヘッドの飛行高さを低くできず、結果として電磁変換特性が劣化するため好ましくない。
【0054】
特に、非磁性基板1側に垂直磁性層4を設けた構造では、強誘電磁性層6の厚さの上限は20nm以下とするのがさらに好ましい。強誘電磁性層6の厚さだけ垂直磁性層4とヘッドの再生素子との距離が離れるため再生出力の低下が生じるため、20nm以下とするのが最適である。
【0055】
保護層7はヘッドと媒体との接触によるダメージから媒体を保護するためのものであり、カーボン膜、SiO2膜などが用いられるが、多くの場合はカーボン膜が用いられる。膜の形成にはスパッタリング法、プラズマCVD法、イオンビーム法などが用いられるが、近年ではイオンビーム法が用いられることが多い。膜厚は1(nm)〜10(nm)程度である。
【0056】
図2は、上記垂直記録媒体を用いた磁気記録再生装置の一例を示すものである。図2に示す磁気記録再生装置は、図1に示す構成の垂直記録媒体100と、垂直記録媒体100を回転駆動させる媒体駆動部101と、垂直記録媒体100に情報を記録再生する記録再生ヘッド102と、この記録再生ヘッド102を垂直記録媒体100に対して相対運動させるヘッド駆動部103と、記録再生信号処理系104とを備えて構成されている。
【0057】
記録再生信号処理系104は、外部から入力されたデ−タを処理して記録信号を記録再生ヘッド102に送り、記録再生ヘッド102からの再生信号を処理してデ−タを外部に送ることができるようになっている。
【0058】
本発明の磁気記録再生装置に用いる記録再生ヘッド102には記録素子と再生素子が独立して設けられ、記録素子には針状電極を用いた電界書き込み素子、再生素子には巨大磁気抵抗効果(GMR)を利用したGMR素子、トンネル効果を利用したTuMR素子などを用いることができる。
【実施例】
【0059】
(実施例1)
洗浄済みのガラス基板(コニカミノルタ社製、外径2.5インチ(65mm)、内径20mm、平均表面粗さ(Ra)0.2nm)を、DCマグネトロンスパッタ装置(アネルバ社製C−3040)の成膜チャンバ内に収容して、到達真空度1×10−5Paとなるまで成膜チャンバ内を排気した後、チャンバ内を0.8PaになるようにArガスを導入し、このガラス基板上に50Cr−50Ti{Cr含有量50at%−Ti含有量50at%}ターゲットを用いて、膜厚200nmの密着層を成膜した。
【0060】
次に、下地層として層厚5nmの95Ni−5W{Ni含有量95at%、W含有量5at%}膜、層厚10nmのRu膜、さらにチャンバ内の圧力を8.0Paとして層厚10nmのRu膜の順で積層した。次にチャンバ内の圧力を0.8PaになるようにArガスを調整し、強磁性層として層厚15nmの(Co−13Cr−16Pt)88mol%−(SiO)12mol%{Cr含有量13at%、Pt含有量16at%、残部Coの合金を88mol%、SiOからなる酸化物を12mol%}の強磁性膜を積層した。
【0061】
次に、反強磁性結合層として、膜厚0.3nmのRu膜を形成した後、RFスパッタリング法を用いて強誘電磁性層として(Bi0.6Ba0.4)FeOからなるターゲットを用いて厚さ10nmの膜を形成した。
【0062】
次にイオンビーム法にて保護層としてDLC膜を厚さ3nm形成し、潤滑膜を2nm塗布して垂直記録媒体を作製した。
【0063】
以上の方法で作製した垂直記録媒体の誘電特性として電圧−分極曲線を調べたところ、飽和分極50μC/cmが得られた。また、強誘電磁性層6の飽和磁化と膜厚の積(MsT)は、磁気記録媒体の基板面に垂直な方向のVSM測定により得られた飽和磁化(Ms)と残留磁化(Mr)から、(Ms−Mr)/2として計算して求めた強誘電磁性層6のMsをサンプルの面積で割ることで求めた。
【0064】
次にこの媒体をGuzik社製のスピンスタンド上に載せ、測定半径21mm、回転数5400rpm、最大信号周波数514.02MHz(1インチあたり2139キロビットの線記録密度)、書き込み電圧1.5Vの条件で電磁変換特性を測定した。ヘッドは、書き込み素子として先端径10nmの電極針を、再生素子としてTMR薄膜を有するヘッドを用い、データの書き込みにはデータ列を電気の極性に変換し電極針から電圧を印加する方法を用いた。再生は、データ列に応じた磁気変化をTMR素子で読み取ることで行った。その結果、S/Nは16.9dB、ビットエラーレート(BER)は1×10−7.3が得られた。
【0065】
(実施例2−5)
強誘電磁性層の膜厚を表1に記載の厚さとした他は、実施例1と同様に作製した。
得られた磁気記録媒体について、それぞれ実施例1と同様に特性を評価した。結果を表1に示す。
【0066】
(実施例6−9)
実施例1と同様に垂直記録媒体を作製したが、垂直記録層は次のように作製した。すなわち、RFスパッタリング法を用いて強誘電磁性層として(Bi0.6Ba0.4)FeOからなるターゲットを用いて厚さ10nmの膜を形成した。
【0067】
その後、反強磁性結合層として、膜厚0.3nmのRu膜、強磁性層として層厚15nmの(Co−13Cr−16Pt)88mol%−(SiO)12mol%{Cr含有量13at%、Pt含有量16at%、残部Coの合金を88mol%、SiOからなる酸化物を12mol%}の強磁性膜を積層した。
【0068】
次にイオンビーム法にて保護層としてDLC膜を厚さ3nm形成し、潤滑膜を2nm塗布して磁気記録媒体を作成した。
【0069】
得られた磁気記録媒体について、それぞれ実施例1と同様に特性を評価した。結果を表1に示す。
【0070】
(実施例10−20)
密着層8を50Al−50Ti{Al含有量50at%、Ti含有量50at%}、100nmに変え、反強磁性結合層5を表2に記載の材料および膜厚にした他は実施例1と同様に垂直記録媒体を作製した。
【0071】
得られた磁気記録媒体について、それぞれGuzik社製のスピンスタンド上に載せ、測定半径21mm、回転数5400rpm、最大信号周波数514.02MHz(1インチあたり2139キロビットの線記録密度)、書き込み電圧1.5Vの条件で電磁変換特性を測定した。ヘッドは、書き込み素子として先端径10nmの電極針を、再生素子としてTMR薄膜を有するヘッドを用い、データの書き込みにはデータ列を電気の極性に変換し電極針から電圧を印加する方法を用いた。再生は、データ列に応じた磁気変化をTMR素子で読み取ることで行った。
それぞれの結果を表2に示す。
【0072】
(実施例21−35)
強誘電磁性層6を表3に記載の材料に変えた他は、実施例1と同様に磁気記録媒体を作製した。
【0073】
それぞれの磁気記録媒体について、強誘電磁性層6の飽和磁化と膜厚の積(MsT)は、磁気記録媒体を基板面に垂直方向のVSM測定により得られた飽和磁化(Ms)と残留磁化(Mr)から、(Ms−Mr)/2として計算して求めた強誘電磁性層のMsをサンプルの面積で割ることで求めた。
【0074】
次にこの媒体をGuzik社製のスピンスタンド上に載せ、測定半径21mm、回転数5400rpm、最大信号周波数514.02MHz(1インチあたり2139キロビットの線記録密度)、書き込み電圧1.5Vの条件で電磁変換特性を測定した。ヘッドは、書き込み素子として先端径10nmの電極針を、再生素子としてTMR薄膜を有するヘッドを用い、データの書き込みにはデータ列を電気の極性に変換し電極針から電圧を印加する方法を用いた。再生は、データ列に応じた磁気変化をTMR素子で読み取ることで行った。
それぞれの結果を表3に示す。
【0075】
(実施例36)
洗浄済みのガラス基板(コニカミノルタ社製、外径2.5インチ(65mm)、内径20mm、平均表面粗さ(Ra)0.2nm)を、DCマグネトロンスパッタ装置(アネルバ社製C−3040)の成膜チャンバ内に収容して、到達真空度1×10−5Paとなるまで成膜チャンバ内を排気した後、チャンバ内を0.8PaになるようにArガスを導入し、このガラス基板上に50Cr−50Ti{Cr含有量50at%、Ti含有量50at%}ターゲットを用いて、膜厚200nmの密着層を成膜した。
【0076】
次に、DCスパッタリング法を用いて、裏打ち層としてCo−27Fe−5Zr−3Ta−1Al−1Cr{Fe含有量27at%、Zr含有量5at%、Ta含有量3at%、Al含有量1at%、Cr含有量1at%、残部Co}のターゲット用いて厚さ100nmの膜を積層した。この段階で裏打ち層の磁束(Bs)と膜厚(T)の積(BsT)をVSMを用いて測定したところ、120Tnmの値が得られた。
【0077】
さらに下地層として層厚5nmの95Ni−5W{Ni含有量95at%、W含有量5at%}膜、層厚10nmのRu膜、さらにチャンバ内の圧力を8.0Paとして層厚10nmのRu膜の順で積層した。次にチャンバ内の圧力を0.8PaになるようにArガスを調整し、強磁性層として層厚15nmの(Co−13Cr−16Pt)88mol%−(SiO)12mol%{Cr含有量13at%、Pt含有量16at%、残部Coの合金を88mol%、SiOからなる酸化物を12mol%}の強磁性膜を積層した。
【0078】
次に、反強磁性結合層として、膜厚0.3nmのRu膜を形成した後、RFスパッタリング法を用いて強誘電磁性層として膜厚10nmの(Bi0.6Ba0.4)FeOからなるターゲットを用いて厚さ10nmの膜を形成した。
次にイオンビーム法にて保護層としてDLC膜を厚さ3nm形成し、潤滑膜を2nm塗布して垂直記録媒体を作製した。
【0079】
得られた磁気記録媒体について、Guzik社製のスピンスタンド上に載せ、測定半径21mm、回転数5400rpm、最大信号周波数514.02MHz(1インチあたり2139キロビットの線記録密度)、書き込み電圧1.5Vの条件で電磁変換特性を測定した。ヘッドは、書き込み素子として先端径10nmの電極針を、再生素子としてTMR薄膜を有するヘッドを用い、データの書き込みにはデータ列を電気の極性に変換し電極針から電圧を印加する方法を用いた。再生は、データ列に応じた磁気変化をTMR素子で読み取ることで行った。結果を表4に示す。
【0080】
(実施例37)
裏打ち層を表4に記載の材料に変えた他は実施例36と同様に磁気記録媒体を作成した。
この磁気記録媒体について、実施例36と同様に磁気特性の評価を行った。結果を表4に示す。
【0081】
(実施例38)
洗浄済みのガラス基板(コニカミノルタ社製、外径2.5インチ(65mm)、内径20mm、平均表面粗さ(Ra)0.2nm)を、DCマグネトロンスパッタ装置(アネルバ社製C−3040)の成膜チャンバ内に収容して、到達真空度1×10−5Paとなるまで成膜チャンバ内を排気した後、チャンバ内を0.8PaになるようにArガスを導入し、このガラス基板上に50Cr−50Ti{Cr含有量50at%、Ti含有量50at%}ターゲットを用いて、膜厚200nmの密着層を成膜した。
【0082】
次に、DCスパッタリング法を用いて、裏打ち層として層厚40nmのCo−30Fe−3Ta−5Zr{Fe含有量30at%、Ta含有量3at%、Zr含有量5at%、残部Co}膜、層厚0.4nmのRu膜、層厚40nmのCo−30Fe−3Ta−5Zr{Fe含有量30at%、Ta含有量3at%、Zr含有量5at%、残部Co}膜、をこの順で積層した。
この段階で裏打ち層の磁束密度(Bs)と膜厚(T)の積(BsT)を、VSMを用いて測定したところ、140Tnmの値が得られた。
【0083】
さらに下地層として層厚5nmの95Ni−5W{Ni含有量95at%、W含有量5at%}膜、層厚10nmのRu膜、さらにチャンバ内の圧力を8.0Paとして層厚10nmのRu膜の順で積層した。次にチャンバ内の圧力を0.8PaになるようにArガスを調整し、強磁性層として層厚15nmの(Co−13Cr−16Pt)88mol%−(SiO)12mol%{Cr含有量13at%、Pt含有量16at%、残部Coの合金を88mol%、SiOからなる酸化物を12mol%}の強磁性膜を積層した。
【0084】
次に、反強磁性結合層として、膜厚0.3nmのRu膜を形成した後、RFスパッタリング法を用いて強誘電磁性層として(Bi0.6Ba0.4)FeOからなるターゲットを用いて厚さ10nmの膜を形成した。
【0085】
次にイオンビーム法にて保護層としてDLC膜を厚さ3nm形成し、潤滑膜を2nm塗布して垂直記録媒体を作製した。
【0086】
得られた磁気記録媒体について、Guzik社製のスピンスタンド上に載せ、測定半径21mm、回転数5400rpm、最大信号周波数514.02MHz(1インチあたり2139キロビットの線記録密度)、書き込み電圧1.5Vの条件で電磁変換特性を測定した。ヘッドは、書き込み素子として先端径10nmの電極針を、再生素子としてTMR薄膜を有するヘッドを用い、データの書き込みにはデータ列を電気の極性に変換し電極針から電圧を印加する方法を用いた。再生は、データ列に応じた磁気変化をTMR素子で読み取ることで行った。結果を表4に示す。
【0087】
(実施例39−40)
裏打ち層の材料を表4に記載の材料に変えた他は、実施例38と同様に磁気記録媒体を作成した。
【0088】
この磁気記録媒体について、実施例36と同様に磁気特性の評価を行った。結果を表4に示す。
【0089】
(実施例41−45)
垂直磁性層4を表5に記載の材料に変えた他は、実施例1と同様に磁気記録媒体を作成した。得られた磁気記録媒体について、Guzik社製のスピンスタンド上に載せ、測定半径21mm、回転数5400rpm、最大信号周波数514.02MHz(1インチあたり2139キロビットの線記録密度)、書き込み電圧1.5Vの条件で電磁変換特性を測定した。ヘッドは、書き込み素子として先端径10nmの電極針を、再生素子としてTMR薄膜を有するヘッドを用い、データの書き込みにはデータ列を電気の極性に変換し電極針から電圧を印加する方法を用いた。再生は、データ列に応じた磁気変化をTMR素子で読み取ることで行った。結果を表5に示す。
【0090】
(比較例1)
実施例1と同様に垂直記録媒体を作製したが、垂直記録層は次のように作製した。すなわち、強磁性層として層厚10nmの(Co−13Cr−16Pt)88mol%−(SiO)12mol%{Cr含有量13at%、Pt含有量16at%、残部Coの合金を88mol%、SiOからなる酸化物を12mol%}の強磁性膜を形成した。
【0091】
次に、RFスパッタリング法を用いて強誘電磁性層として膜厚3nmの(Bi0.6Ba0.4)FeOからなるターゲットを用いて厚さ10nmの膜を形成した。なお、この垂直記録層の層構成では、強磁性層と強誘電磁性層とは、反強磁性結合をせずに、強磁性結合をしている。
【0092】
以上の方法で作製した垂直記録媒体の誘電特性として電圧−分極曲線を調べたところ、飽和分極50μC/cmが得られた。また、強誘電磁性層6の飽和磁化と膜厚の積(MsT)は、磁気記録媒体を基板面に垂直方向のVSM測定により得られた飽和磁化(Ms)と残留磁化(Mr)から、(Ms−Mr)/2として計算して求めた強誘電磁性層のMsをサンプルの面積で割ることで求めた。
【0093】
次にこの媒体をGuzik社製のスピンスタンド上に載せ、測定半径21mm、回転数5400rpm、最大信号周波数514.02MHz(1インチあたり2139キロビットの線記録密度)、書き込み電圧1.5Vの条件で電磁変換特性を測定した。ヘッドは、書き込み素子として先端径10nmの電極針を、再生素子としてTMR薄膜を有するヘッドを用い、データの書き込みにはデータ列を電気の極性に変換し電極針から電圧を印加する方法を用いた。再生は、データ列に応じた磁気変化をTMR素子で読み取ることで行った。その結果、S/Nは11.1dB、ビットエラーレートは1×10−3.3が得られた。
【0094】
(比較例2)
比較例1と同様に垂直記録媒体を作製したが、垂直記録層は次のように作製した。すなわち、RFスパッタリング法を用いて強誘電磁性層として膜厚3nmの(Bi0.6Ba0.4)FeOからなるターゲットを用いて厚さ10nmの膜を形成した。
【0095】
次に、強磁性層として層厚15nmの(Co−13Cr−16Pt)88mol%−(SiO)12mol%{Cr含有量13at%、Pt含有量16at%、残部Coの合金を88mol%、SiOからなる酸化物を12mol%}の強磁性膜を積層した。なお、この垂直記録層の層構成では、強磁性層と強誘電磁性層とは、反強磁性結合をせずに、強磁性結合をしている。
【0096】
以上の方法で得られた磁気記録媒体について比較例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0097】
(比較例3)
比較例1と同様に垂直記録媒体を作製したが、垂直記録層は次のように作製した。すなわち、強磁性層として層厚15nmの(Co−13Cr−16Pt)88mol%−(SiO)12mol%{Cr含有量13at%、Pt含有量16at%、残部Coの合金を88mol%、SiOからなる酸化物を12mol%}の強磁性膜を積層した。
【0098】
以上の方法で得られた磁気記録媒体について比較例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0099】
(比較例4−8)
反強磁性結合層5を表2に記載の材料に変えた他は、実施例10と同様に磁気記録媒体を作成した。得られた磁気記録媒体について、実施例10と同様の方法で特性を評価した。結果を表2に示す。
【0100】
実施例1及び6と比較例1及び2の比較から、強磁性層と強誘電磁性層との間に反強磁性層を設けた方が著しくS/Nが大きく、ビットエラーレートが小さくなることが分る。これは、反強磁性結合により強誘電磁性層の磁化が見かけ上相殺され、磁気ノイズの影響が少なくなったためである。
【0101】
実施例1と実施例6の比較から、強誘電磁性層を強磁性層の下側に設ける方が、再生時に再生素子と記録層間の距離が短くなる分、良好な特性が得られることが分る。
【0102】
実施例1〜9の比較から、強誘電磁性層の厚さは1nm以上50nm以下が好ましく、20nm以下であることが、より好ましいことが分る。
【0103】
実施例10−20と比較例4−8の比較から、強磁性層と強誘電磁性層が反強磁性で磁気的に結合されていることで著しくS/Nが大きく、ビットエラーレートが小さくなることが分る。これは、反強磁性結合により強誘電磁性層の磁化が見かけ上相殺され、磁気ノイズの影響が少なくなったためである。
【0104】
実施例21−35に示すように、強誘電磁性層として種々の材料を使用することができる。また、実施例30と34から強誘電磁性層の磁化と膜厚の積(MsT)は0.01以上あるほうが良好な特性が得られていることが分る。
【0105】
実施例36−40に示すように、密着層8と下地層3の間に裏打ち層2を設けることもできる。これにより良好なS/Nを大きくすることができる。また、実施例36、37と実施例38−40の比較から、裏打ち層を複数の軟磁性膜の積層とし、層間に非磁性層を設けることで反強磁性結合させた方が良好な特性が得られることが分る。
【0106】
実施例41−45に示すように、強磁性層として種々の磁性材料を使うことができる。
以上のように、強磁性層と強誘電磁性層との間にAFC層を設けることで、高密度記録に適した媒体が得られる。
【0107】
【表1】
【0108】
【表2】
【0109】
【表3】
【0110】
【表4】
【0111】
【表5】
【符号の説明】
【0112】
1 非磁性基板
2 裏打ち層
3 下地層
4 強磁性層
5 反強磁性結合層
6 強誘電磁性層
7 保護層
8 密着層
100 垂直記録媒体
101 媒体駆動部
102 記録再生ヘッド
103 ヘッド駆動部
104 記録再生信号処理系
図1
図2