(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6285801
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】植物引込装置および植物株移植システム
(51)【国際特許分類】
A01G 31/02 20060101AFI20180215BHJP
【FI】
A01G31/02
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-108938(P2014-108938)
(22)【出願日】2014年5月27日
(65)【公開番号】特開2015-223098(P2015-223098A)
(43)【公開日】2015年12月14日
【審査請求日】2016年11月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(74)【代理人】
【識別番号】100092200
【弁理士】
【氏名又は名称】大城 重信
(74)【代理人】
【識別番号】100110515
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 益男
(74)【代理人】
【識別番号】100189083
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 圭介
(72)【発明者】
【氏名】河野 浩二
(72)【発明者】
【氏名】平井 達也
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 由
【審査官】
田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第07281740(US,B1)
【文献】
特開2000−166408(JP,A)
【文献】
特開2014−073102(JP,A)
【文献】
特開2000−093027(JP,A)
【文献】
米国特許第05320649(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 31/00−31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下に貫通し植物株を保持可能な孔部が複数設けられた栽培パネルと、植物株の根を前記孔部に引き込む植物引込装置とを有する植物株移植システムであって、
前記植物引込装置が、孔部の下方に配置可能な引込筒と、前記引込筒から突出可能に設けられた引込部材と、前記引込部材を前記引込筒から出没可能に往復動させる駆動部とを有し、
前記引込部材は、前記引込筒から突出した部分が変形して外方に拡がるように形成され、
前記引込筒の内径が、前記栽培パネルの孔部の内径以下であり、
前記引込部材が前記栽培パネルの上方で外方に拡がった際の最大径が、前記栽培パネルの複数の孔部のピッチ以下であることを特徴とする植物株移植システム。
【請求項2】
前記引込筒の先端部が、前記栽培パネルの孔部の下方に挿入可能な形状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の植物株移植システム。
【請求項3】
前記栽培パネルの孔部は、下端部の内径より上端部の内径が大きく形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の植物株移植システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物株の根を栽培パネル等の孔部に引き込む植物引込装置および植物株移植システムに関し、例えば、植物工場等の水耕栽培設備において、成長に応じて植物株を異なる栽培パネルの孔部に移植する
植物株移植システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、植物工場等において、植物株を保持部材、例えば、複数の孔部を有する栽培パネルに保持し、栽培パネルの孔部の下方に伸びる植物株の根を栽培液等に浸け、あるいは、根に向かって栽培液等を散布するようにした水耕栽培設備が公知である。
これらの水耕栽培設備において、例えば、水平方向に大きく広がるように成長する植物を保持パネルで保持して栽培する場合、成長時を想定したピッチの孔部を有する単一の栽培パネルではスペース効率が低くなり、全体の生産効率が悪化してしまう。
【0003】
このため、植物の成長に応じて、孔部のピッチが異なる栽培パネルに植物株を移植することが行われているが、スペース効率上、成長に応じてこの移植作業を頻繁に行うのが望ましい。
また、植物工場等においては、移植作業による全体の生産効率の悪化も避けなければならず、このために孔部のピッチが異なる栽培パネルに植物株を移植する移植作業を移植装置によって自動化した栽培設備が提案されている(例えば、特許文献1等参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−147857号公報
【特許文献2】特開2000−166408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、植物株は成長に伴って根の長さ、太さ、量が増加し、また、個々の植物株毎にそれらにばらつきがあるため、植物株を孔部に移植する際に、根の一部あるいは全部が孔部に入らない虞があり、植物株を孔部に移植できず、あるいは、移植はできても根の一部あるいは全部が孔部の下方に出ない状態となることがあった。
孔部に移植できなかった植物株は、その後の栽培の継続は不可能であり、また、根の一部あるいは全部が孔部の下方に出ない状態では、根に充分な栽培液を供給することができず植物株の成長が阻害され、最悪の場合枯死してしまう。
特許文献1のような公知の移植装置では、植物株の根が孔部に挿入される際の上記の問題は考慮されていないため、これらの弊害を防ぐためには、移植の状態、根の状態を監視し、不完全な場合は作業者が手作業を行う必要があり、全体の生産効率の向上の妨げとなっていた。
【0006】
また、特許文献2のような吸引手段を有する移植装置も公知であるが、植物株の根の一部あるいは全部が孔部に挿入されず孔部の上部周辺に滞留した場合は充分に吸引できず、孔部の下方に伸びないまま残留するという問題があった。
吸引力を増大させることも考えられるが、植物株の根は多数が疎に絡まりあった状態であるため、空気の吸入量のみが増加して根を吸引する力は充分には増大せず、逆に、孔部に植物株自体(あるいは植物株を保持する栽培ポット)を強力に吸引することとなり、植物株にダメージを与えてしまう虞もあった。
そのため、やはり、移植の状態、根の状態を監視し、不完全な場合は作業者が手作業を行う必要があった。
また、吸引のためのポンプ等の駆動源が必要となり、装置が複雑化するという問題があった。
【0007】
本発明は、これらの問題点を解決するものであり、簡単な構成で、植物株の根を確実に孔部に引き込むことができ、根の挿入のための監視や手作業の必要がなく生産効率の向上が可能な
植物株移植システムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る植物株移植システムは、上下に貫通し植物株を保持可能な孔部が複数設けられた栽培パネルと、植物株の根を前記孔部に引き込む植物引込装置とを有する植物株移植システムであって、前記植物引込装置が、
孔部の下方に配置可能な引込筒と、前記引込筒から突出可能に設けられた引込部材と、前記引込部材を前記引込筒から出没可能に往復動させる駆動部とを有し、前記引込部材は、前記引込筒から突出した部分が変形して外方に拡がるように形成され、前記引込筒の内径が、前記栽培パネルの孔部の内径以下であ
り、前記引込部材が前記栽培パネルの上方で外方に拡がった際の最大径が、前記栽培パネルの複数の孔部のピッチ以下であることにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0010】
本請求項1に係る
植物株移植システムによれば、植物引込装置が孔部の下方に配置可能な引込筒と、引込筒から突出可能に設けられた引込部材と、引込部材を前記引込筒から出没可能に往復動させる駆動部とを有し、引込部材は、引込筒から突出した部分が変形して外方に拡がるように形成されていることで、引込筒から突出した引込部材は、孔部を通過して上方で外方に向けて変形して拡がるため、移植する植物株の根を広い範囲で受けることができる。
そして、引込部材を引込筒に引き込むことにより、引込部材が植物株の根を把持しながら孔部の下方まで引き込まれて、植物株の根をほとんど上方に残すことなく移植を完了できる。
このため、駆動部は単純な往復動のみを行うものでよく、また、引込部材も引込筒も単純な構造でよく、簡単な構成で、自動的に植物株の根を確実に孔部に引き込むことができ、根の挿入のための監視や手作業の必要がなく生産効率の向上が可能となる。
さらに、引込筒の内径が栽培パネルの孔部の内径以下であることにより、栽培パネルの孔部の下方から引込部材を突出させる際に、引込部材が孔部を円滑に通過し、確実に孔部の上方で外方に向けて変形して拡がるため、動作を自動化しても確実に移植を完了することができ、引込部材が栽培パネルの上方で外方に拡がった際の最大径が、栽培パネルの複数の孔部のピッチ以下であることにより、複数の植物株が同時に栽培パネルの上方で待機している場合や複数の植物引込装置を用いて移植作業を行う場合、隣接する他の植物株の根を引き込むことや、隣接する引込部材が干渉することを防止でき、確実に植物株を目的の孔部に移植することができる。
【0013】
本
請求項2に記載の構成によれば、引込筒の先端部が栽培パネルの孔部の下方に挿入可能な形状に形成されていることにより、孔部と引込筒の位置決めが容易となり、より確実に引込部材が孔部を円滑に通過することができる。
本
請求項3に記載の構成によれば、栽培パネルの孔部は、下端部の内径より上端部の内径が大きく形成されていることにより、引込部材が把持した植物株の根をさらに円滑に栽培パネルの孔部に引き込むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図3】本発明の1実施形態に係る
植物株移植システムの植物引込装置の斜視図。
【
図5】本発明の1実施形態に係る
植物株移植システムの植物引込装置の引込部材突出時の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の植物株移植システムは、上下に貫通し植物株を保持可能な孔部が複数設けられた栽培パネルと、植物株の根を孔部に引き込む植物引込装置とを有する植物株移植システムであって、植物引込装置が
孔部の下方に配置可能な引込筒と、前記引込筒から突出可能に設けられた引込部材と、前記引込部材を前記引込筒から出没可能に往復動させる駆動部とを有し、前記引込部材は、前記引込筒から突出した部分が変形して外方に拡がるように形成され、引込筒の内径が、栽培パネルの孔部の内径以下であ
り、前記引込部材が前記栽培パネルの上方で外方に拡がった際の最大径が、前記栽培パネルの複数の孔部のピッチ以下であり、簡単な構成で、植物株の根を確実に孔部に引き込むことができ、根の挿入のための監視や手作業の必要がなく生産効率の向上が可能なものであれば、その具体的な構成はいかなるものであってもよい。
なお、以降の説明に用いる全ての図は簡略化されたものであり、実際の配置、形状、寸法比率等を表すものではない。
【0016】
まず、本発明の
植物株移植システムが取り扱う植物株及び栽培パネルの一例の概略を説明する。
植物株101は、
図1に示すように、一株ずつ栽培ポット102で栽培され、茎や葉は栽培ポット102の上方の空間に成長し、根(地下茎を含む)は下方の空間に成長する。
栽培ポット102は、栽培パネル120に設けられた孔部121に挿入、保持され、植物工場等の各種栽培設備内において、栽培パネル120単位でハンドリングされながら植物株101の栽培が行われる。
栽培パネル120は、
図2に示すように、複数の孔部121が設けられており、その孔部121の数、間隔等は、植物株101の茎や葉の拡がりに応じた所定の種類のものが用意され、成長に応じて栽培ポット102ごと異なる栽培パネル120への移植作業が行われる。
【実施例1】
【0017】
本発明の第1実施形態に係る
植物株移植システムの植物引込装置110は、
図3乃至
図6に示すように、栽培パネル120の孔部121の下方に配置可能な引込筒111と、引込筒111から突出可能に設けられた引込部材113と、引込部材113を引込筒111の先端部112から出没可能に往復動させる駆動部114とを有している。
引込部材113は引込筒111の内周に沿って突出方向に延びるように配置された複数の骨材からなる。
引込部材113を構成する複数の骨材は、それぞれ引込筒111の先端部112から突出した部分が変形して外周方向に拡がるように弾性が付与されている。
引込筒111の内径は、栽培パネル120の孔部121の内径以下であり、また、引込筒111の先端部112は、栽培パネル120の孔部121の下方に挿入可能な形状に形成されている。
【0018】
なお、駆動部114は、図示のものは流体シリンダの形態をとっているが、いかなる駆動手段であってもよい。
また、引込部材113は、複数の骨材の外方への拡がりを許容し、その拡がり最大径を規制するリンク部材や可撓性の膜部材等の横部材が設けられていてもよい。
さらに、引込部材113が栽培パネル120の上方で外方に拡がった際の最大径が、栽培パネル120の複数の孔部121のピッチp以下とすることで、隣接する孔部121に挿入すべき植物株101の根103を引き込むことを抑制できる。
【0019】
また、植物株101(あるいは栽培ポット102)の把持や移動を行うハンドリング機構、栽培パネル120の移動、位置決め等を行う機構、植物引込装置110の引込筒111を栽培パネル120の下方に離接させる機構等、移植作業に行うための各種機構の図示は省略したが、これらはいかなる構成であってもよく、また、これらの機構の一部あるいは全ての動作を作業者の手作業で行うように構成されていてもよい。
さらに、前述の各種機構を備えた植物株移植システムとして構成する際には、複数の植物株102の根を栽培パネル120の孔部121に同時に引き込むように、複数の植物引込装置110を栽培ポット102のピッチpに対応して配置してもよい。
【0020】
栽培パネル120の複数の孔部121は、
図1乃至
図6では、内周面122が円筒状のものを示したが、その形状はいかなるものであってもよく、例えば、下端部の内径より上端部の内径が大きく形成された円錐台形状とすることにより、引込部材113が把持した植物株101の根103をさらに円滑に栽培パネル120の孔部121に引き込むことができる。
また、引込筒111の先端部112が挿入される下端部近傍のみ、引込筒111の先端部112の外径と合致する形状のテーパ等を設けてもよい。
【0021】
以上のように構成された、本発明の実施形態によれば、簡単な構成で、植物株の根を確実に孔部に引き込むことができ、根の挿入のための監視や手作業の必要がなく生産効率を向上することができる。
なお、前述実施形態は、栽培パネル120の孔部121に引き込むものであるが、他の空の栽培ポットに栽培ポット102に差し替えるものとしてもよい。
【符号の説明】
【0022】
101 ・・・ 植物株
102 ・・・ 栽培ポット
103 ・・・ 根
110 ・・・ 植物引込装置
111 ・・・ 引込筒
112 ・・・ 先端部
113 ・・・ 引込部材(骨材)
114 ・・・ 駆動部
120 ・・・ 栽培パネル
121 ・・・ 孔部
122 ・・・ 内周面