(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、樹脂パネルに開口部を形成するために金型内部に柱体を備えて樹脂材料を充填すると、樹脂の流動が柱体付近で阻害され、樹脂材料の粒子(分子)の向きが不均一となる。向きの不均一な粒子により樹脂パネルを透過する光に位相差が生じ、樹脂パネルに虹色の線状模様が発生する要因となる。このような虹色の線状模様は、ディスプレイの視認性を低下させる恐れがあった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑み、粒子の向きを均一とし、ディスプレイの視認性低下を防止する樹脂パネルを生産する技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、ディスプレイの表面を覆う樹脂パネルの生産方法であって、(a)開口部を形成するための柱体が内部に存在しない金型に液体の樹脂材料を充填する工程と、(b)前記樹脂材料を硬化して、前記開口部のない
外縁部が丸みを帯びた凹部を有するパネル体を生成する工程と、(c)前記パネル体
の前記凹部に前記開口部を設ける工程と、を備え
、前記外縁部の丸み部分の曲率半径よりも、前記凹部の深さを短く形成する。
【0008】
また、請求項
2の発明は、ディスプレイの表面を覆う樹脂パネル
を形成するためのパネル体であって
、開口部を形成するための
外縁部が丸みを帯びた凹部を有し、
前記外縁部の丸み部分の曲率半径よりも、前記凹部の深さを短く形成する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1
及び2の発明によれば、内部に柱体が存在しない金型を用いるので、液体の
樹脂材料を充填する際に樹脂材料の流れが阻害されず、樹脂材料の粒子の向きを均一化で
きる。このため、樹脂材料を硬化して得られる樹脂パネルを介したディスプレイの視認性
を向上できる。
【0012】
また
、請求項
1及び2の発明によれば、外縁部が丸みを帯びた凹部に開口部が設けられるため、開口部の周縁が鋭い角とならず、樹脂パネルに触れた場合の安全性を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<1.第1の実施の形態>
<1−1.概要>
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を説明する。
図1は、車両内に表示システム10が設置された様子を示す。表示システム10の備えるディスプレイ装置11は、樹脂パネル12に覆われている。樹脂パネル12は、三次元に滑らかに湾曲した光沢ある意匠パネル(オーバーレイ)であり、表示システム10の美観を向上させる。ユーザは、樹脂パネル12を透してディスプレイ装置11の表示画面11aを視認する。表示画面11aは、液晶画面等のディスプレイであり、ナビゲーション画像やオーディオの操作画像が表示される。また、表示システム10は、ユーザの操作を受け付ける操作部材11bが配置される。操作部材11bは、音量調節やチューニング用の回転コントローラや、押しボタンである。
【0016】
図2は、表示システム10の側面を示す分解構成図である。表示システム10は、ディスプレイ装置11、樹脂パネル12、及び本体部13を備える。
【0017】
ディスプレイ装置11は、表示画面11a、操作部材11b、タッチパネルとなる静電センサ(図示せず)を備える。
【0018】
樹脂パネル12は、樹脂材料を射出成型して生成された板状体である。前述の通り三次元に滑らかに湾曲した光沢ある透明パネルであり、車両インテリアの美観を向上させ、高級感を醸成する。樹脂パネルは、工具鋼等の密閉型金型に、液体の樹脂材料を射出成型して生産される。なお、液体の樹脂材料とは、溶融された液状態の樹脂材料である。樹脂材料は、ポリカーボネート(polycarbonate)が好ましい。けだし、ポリカーボネートは、エンジニアリングプラスチックの中でも耐衝撃性や、耐熱性、難燃性等において高い物性を示し、かつ透明性があり透光パネルとして有用だからである。
【0019】
樹脂パネル12には開口部12a及び12bが設けられる。開口部12aは、ユーザの操作を受け付ける操作部材11bが貫通する。操作部材11bは、ディスプレイ装置11に備えられた音量調節やチューニング用の回転コントローラや、押しボタンである。操作部材11bを開口部12aに配置すると、ユーザはディスプレイ装置11の表示画面11aから視線を外さなくとも操作部材11bを操作でき、表示システム10の操作性が向上する。開口部12bは、メディアの挿入口となる。メディアはCDやDVD等である。
【0020】
本体部13は、表示画面11aに表示すべき画像を生成する電子制御装置である。例えば、ナビゲーション装置や、メディアの挿入口に挿入されたメディアの音楽データ等を再生するオーディオ装置である。
【0021】
図3は、表示システム10の斜視図である。前述の通り表示システム10は、ディスプレイ装置11、樹脂パネル12、及び本体部13が組み合わされて構成される。ディスプレイ装置11と樹脂パネル12とが組み合わされると、ディスプレイ装置11の備える操作部材11bは、樹脂パネル12の開口部12aを貫通し、樹脂パネル12から突出する。また、メディアの挿入口は、樹脂パネル12のうち本体部13が組み合わされる位置に設けられる。
【0022】
<1−2.従来の生産方法>
樹脂パネルの従来の生産方法について説明する。なお、以下の金型に関する説明では、三次元直交座標系(XYZ)を示す。直交座標系は、各図共通の方向及び向きを示す。X軸方向は左右方向、Y軸方向は上下方向、Z軸方向は前後方向である。+X側は金型の右側、−X側は金型の左側である。+Y側は金型の上側、−Y側は金型の下側である。+Z側は手前側、−Z側は奥行側である。
【0023】
図4は、従来の金型20の断面を示す。金型20の内部には空間21が形成され、湯口22で外部と繋がる。空間21には柱体23が備えられる。柱体23は、金型20の一方の面から対向する面(例えば、−Z側の面から+Z側の面)へ柱状又は壁状に繋がった部分である。金型20が柱体23を備えることにより、金型20で射出成型された樹脂材料には柱体23の形状の開口部が形成される。
【0024】
図5は、
図4に示した金型20のV−V位置における断面を示し、
図4とは異なる角度から見た柱体23を示す。金型20は、奥行側(−Z側)の金型と手前側(+Z側)の金型とが、合わせ目24で合わさり、密閉された空間21を備える。柱体23は、合わせ目24に対して奥行側(−Z側)の金型から手前側(+Z側)の金型へ繋がって形成され、空間21において柱及び壁を形成する。
【0025】
図6は、金型20内に湯口22から樹脂材料25を射出した際の、空間21内における樹脂材料25の流入経路を示す。樹脂材料25が、湯口22から空間21内に射出されると、柱体23を回り込み空間21に充填される。樹脂材料25は、溶融された液状のため、柱体23のような流動を妨げる障害物が存在すると、残留応力が残りやすい。樹脂材料25に残留応力が残ったまま冷却されると、樹脂材料25の分子に配向の歪み(粒子の不均一)が生じる。射出充填時や冷却時の残留応力や熱応力に伴って分子に配向の歪みが生じると、偏光状態により光線が分化する複屈折が樹脂材料25に形成される。特にポリカーボネート系樹脂は、光弾性係数が高く、応力がかかると複屈折を生じ易い。
【0026】
図7は、従来の金型20で生産された樹脂パネル26に虹色の線状模様27(たとえば、水面に浮かぶ油膜の虹模様の如し)が発生した例を示す。分子に配向の歪みが生じた樹脂パネル26を偏光レンズを通して見ると、樹脂パネル26に虹色の線状模様27が観察される。けだし、偏光レンズは一定方向に振動する光波を通過させるので、液晶画面から発せられる円偏光が樹脂パネル26の複屈折により回旋ないし屈曲するからである。この場合、樹脂パネル26の美観が低下するのみならず、ユーザは樹脂パネル26に覆われた表示画面に表示された画像を視認し難くなる。このような虹色の線状模様27の発生は、樹脂パネル生産における技術的な課題であった。
【0027】
<1−3.工程>
本実施の形態における樹脂パネル12を生産する工程を説明する。
図8は、樹脂パネル12を生産する工程を示すフローチャートである。
【0028】
樹脂パネル12を生産するには、まず開口部を形成するための柱体が内部に存在しない金型を用意する(ステップS101)。
【0029】
次に、金型の内部空間の所定位置にフィルムを添付する(ステップS102)。フィルムは、樹脂パネル12内部に形成され、樹脂パネル12の模様や色彩となる。
【0030】
金型内部にフィルムを添付すると、金型に溶融した液状の樹脂材料を射出して充填する(ステップS103)。このように、樹脂パネルは、模様や着色のために樹脂にカラーフィルムが転写される、いわゆるフィルム・イン・モールドにより成型される。
【0031】
金型に樹脂材料が充填されると、樹脂材料を硬化させ(ステップS104)、パネル体を生成する(ステップS105)。パネル体とは、金型に充填された樹脂材料が冷却し硬化した状態であり、開口部が形成される前の樹脂パネル12である。
【0032】
次に、生成したパネル体に開口部を形成する(ステップS106)。すなわち、パネル体に穴を穿つ。開口部の形成は、ルーターカットが好ましい。けだし、カット断面の形状にバリ(加工面に生ずる不要な突起)が出にくく、加工時間も短いからである。開口部は、ディスプレイ装置11の操作部材11bが貫通する貫通口及びメディアの挿入口となる。パネル体に開口部が形成されると、樹脂パネル12が完成する。
【0033】
<1−4.構成>
樹脂パネル12を生産する金型の構成を説明する。
図9は、樹脂パネル12に開口部を形成するための柱体が内部空間31に存在しない金型30の断面を示す。内部空間31は湯口32で外部と繋がる。
【0034】
図10は、
図9に示した金型30のX−X位置における断面を示す。金型30は、合わせ目34で合わさり、内部空間31を形成する。柱体が空間31に存在せず、空間31内に樹脂材料を射出した際、樹脂材料の流動を遮るものがない。
【0035】
図11は、樹脂パネルに開口部を形成するための柱体が内部空間31に存在しない金型30に、液状の樹脂材料33を射出した状態を示す。湯口32から射出された液状の樹脂材料33は、内部空間31に障害物がないため、内部空間31に曲折せず流入し、充填される。充填された樹脂材料33の分子の配向は、内部空間31において均一となる。
【0036】
図12は、柱体が内部に存在しない金型を用いて射出成型した樹脂パネル12に、開口部12a及び12bを形成した図である。液体の樹脂材料を充填する際に樹脂材料の流れが阻害されず、樹脂材料の分子の配向が均一化されるため、樹脂材料を硬化して得られる樹脂パネルを偏光レンズを通して見ても、虹色の線状模様は観察されない。
【0037】
以上のように、第1の実施の形態の樹脂パネルの生産方法は、開口部を形成するための柱体が内部に存在しない金型に液体の樹脂材料を充填する工程と、樹脂材料を硬化し、開口部のないパネル体を生成する工程と、パネル体に開口部を設ける工程と、を備える。これにより、内部に柱体が存在しない金型を用いるので、液体の樹脂材料を充填する際に樹脂材料の流動が阻害されず、樹脂材料の分子の配向を均一化できる。このため、樹脂材料を硬化して得られる樹脂パネルを偏光レンズを通して見ても、虹色の線状模様が観察されず、樹脂パネルの美観及びディスプレイの視認性を向上できる。
【0038】
<2.第2の実施の形態>
第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態における樹脂パネルの生産工程は、第1の実施の形態と同様のため、説明を省略する。以下、第2の実施の形態に係る金型及び樹脂パネルの構成について説明する。なお、本実施の形態の説明において、第1の実施の形態で示した三次元直交座標系(XYZ)を用いる。
【0039】
図13は、パネル体に開口部を形成すべき位置の外縁部が丸みを帯びた凸部42となった金型である。丸みを帯びるとは、いわゆるR面取り加工された状態である。このような金型の内部空間41に樹脂材料を射出し成型することで、開口部を形成すべき位置の外縁部が丸みを帯びた凹部を備えたパネル体を生成できる。このようなパネル体の凹部に開口部を形成すると、外縁部が丸みを帯びた開口部を備える樹脂パネルを生産できる。外縁部が丸みを帯びた凹部に開口部を設けることで、ユーザが開口部に触れた場合に、滑らかな感触を得る。また、美観を向上する。
【0040】
図14は、
図13に示した金型40のXIV−XIV位置における断面を示す。金型40は、合わせ目40aで合わさり、内部空間41を形成する。柱体が空間41に存在せず、空間41内に樹脂材料を射出した場合、樹脂材料の流動を遮るものがない。合わせられた金型の一方に、パネル体に開口部を形成すべき位置に凸部42が形成される。凸部42の外縁部42aは、丸みを帯びるよう加工される。
【0041】
図15は、
図14に示した金型40の領域Aを示す。外縁部42aの丸み部分の曲率半径Rは、例えば0.4[mm]である。凸部42の高さTは、例えば0.3[mm]である。外縁部42aの丸み部分の曲率半径Rよりも凸部42の高さTを短く、すなわち凸部42を低く形成することが好ましい。パネル体について換言すれば、外縁部42aの丸み部分の曲率半径よりも、凹部の深さを短く形成することが好ましい。
【0042】
前述の通り、樹脂パネルは、模様や着色のために樹脂にカラーフィルムが転写される、いわゆるフィルム・イン・モールドにより成型される。この際、樹脂材料の射出前に金型内部にフィルムを添付するため、金型内部の構成に大きな段差があると、添付したフィルムにシワやヨレ、破れが生じる恐れがある。このため、金型内部にはなるべく段差を設けないか、段差を低く設計すべきである。そこで、開口部44及び45の外縁部44a及び45aに丸みを形成すると共に、丸み外縁の凸部(パネル体にとっては凹部)の高さTは、丸みの曲率半径Rよりも短く設計される。これにより、丸みの大きさを保ちつつ、金型内部の段差を低く設計でき、フィルムを添付した際に、フィルムのシワやヨレ、破れを防止できる。
【0043】
図16は、パネル体に開口部44及び45が形成された樹脂パネル43である。開口部44及び45の外縁部44a及び45aは、丸みを帯びた形状となる。
【0044】
以上のように、第2の実施の形態の樹脂パネルの生産方法は、開口部を形成するための柱体が内部に存在しない金型に液体の樹脂材料を充填する工程と、樹脂材料を硬化し、外縁部が丸みを帯びた凹部を有し、開口部のないパネル体を生成する工程と、パネル体の凹部に開口部を設ける工程と、を備える。
【0045】
これにより、外縁部が丸みを帯びた凹部に開口部を設けるので、ユーザが開口部に触れた場合には、滑らかな感触を得ることができる。また、外形的な美観を向上できる。一方、外縁部が丸みを帯びず略直角や鋭角(いわゆる、エッジ)になる場合には、ユーザが開口部の外縁部を素手で触れた際に鋭い感触から怪我の恐れを抱く、いわゆる危害感がある。外縁部の丸みは、このような危害感を抑制できる。
【0046】
<3.変形例>
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかし、本発明は上記実施の形態に限定されない。変形可能である。以下、変形例を説明する。上記実施の形態及び以下で説明する形態を含む全形態は、適宜組み合わせ可能である。
【0047】
上記実施の形態では、樹脂材料は、ポリカーボネートが好ましいとしたが、ポリカーボネートでなくともよい。ポリスチレン系樹脂やポリアミド系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、アクリル系樹脂でもよい。熱可塑性プラスチックでよい。要するに、内部に柱体のある金型で射出成型した場合に、分子の配向に歪み(粒子の不均一)が生じる恐れのある材料であればよい。
【0048】
また、上記実施の形態では、金型の材料は、工具鋼等の鉄鋼であるとしたが、セラミックスでもよい。
【0049】
また、上記実施の形態では、樹脂パネルの用途は、車両インテリア用の意匠パネルとしたが、パソコンや、テレビ、携帯電話、スマートフォン等の液晶ディスプレイの前面板でもよい。
【0050】
また、上記実施の形態では、樹脂パネル43の開口部44及び45の外縁部を丸みを帯びるように加工(いわゆる、R面取り加工)するとしたが、かかる外縁部を辺で加工(いわゆる、C面取り加工)してもよい。