(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6285859
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】核酸の自動サイズ選択
(51)【国際特許分類】
G01N 27/447 20060101AFI20180215BHJP
【FI】
G01N27/447 315C
G01N27/447 325E
G01N27/447 325B
【請求項の数】43
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2014-515016(P2014-515016)
(86)(22)【出願日】2012年6月15日
(65)【公表番号】特表2014-517314(P2014-517314A)
(43)【公表日】2014年7月17日
(86)【国際出願番号】CA2012050404
(87)【国際公開番号】WO2012171127
(87)【国際公開日】20121220
【審査請求日】2015年6月12日
(31)【優先権主張番号】61/497,586
(32)【優先日】2011年6月16日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513314425
【氏名又は名称】ブリティッシュ コロンビア キャンサー エイジェンシー ブランチ
【氏名又は名称原語表記】British Columbia Cancer Agency Branch
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】クープ,ロビン ジェイ.ノエル
(72)【発明者】
【氏名】スロボダン,ジャレッド レイモンド
【審査官】
櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特表2010−502962(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0142365(US,A1)
【文献】
特表平07−508833(JP,A)
【文献】
特開2000−088803(JP,A)
【文献】
特開2007−163186(JP,A)
【文献】
特開2004−144532(JP,A)
【文献】
特表2006−509996(JP,A)
【文献】
特表2001−521169(JP,A)
【文献】
特開2004−290109(JP,A)
【文献】
特開2004−155687(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/447
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸のサイズ選択方法において、
抜出ウェルへの標的画分の到達時間をスケジュールする工程;
電気泳動によりチャンネルに沿って試料から前記標的画分を含む核酸を移動させる工程;
前記チャンネルに沿った前記核酸の基準画分の進行を自動的に監視する工程;
前記監視に基づき、前記チャンネルに沿った前記核酸の前記標的画分の平均速度を決定し、前記平均速度に基づき、前記チャンネルにおける前記抜出ウェルへの前記核酸の前記標的画分の推定到達時間を推定する工程;
前記抜出ウェルへ前記標的画分をスケジュールされた時間に到達するように、前記標的画分の進行を制御するのに十分な速度で周期的に、前記スケジュールされた到達時間を前記推定到達時間と比較し、前記スケジュールされた到達時間と前記推定到達時間との間の任意の差に基づき電気泳動信号の1つ又は複数の電気泳動パラメータを調整することによって、前記抜出ウェルへ前記標的画分をスケジュールされた時間に到達させる工程;及び
前記スケジュールされた到達時間に前記抜出ウェルから前記標的画分を含有する流体を抜出す工程;
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記基準画分が前記標的画分と同じであることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、前記基準画分が前記標的画分と異なり、及び前記標的画分の前記推定到達時間を推定する工程が、前記抜出ウェルへの前記基準画分の推定到達時間と前記抜出ウェルへの前記標的画分の前記推定到達時間との差を推定する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の方法において、前記監視する工程が、間隔を置いた時点で前記チャンネルの画像を得る工程と、前記画像において前記基準画分に対応する範囲を特定する工程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法において、前記標的画分の前記推定到達時間を推定する工程が、前記画像の2つ以上における前記基準画分の位置の差に基づき前記標的画分の平均速度を決定する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の方法において、前記核酸を前記チャンネルに沿って移動させる前に、前記核酸を色素と組み合わせる工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法において、前記色素がフルオロフォア又は発色団を含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の方法において、前記画像の各々を得る工程が、前記チャンネルの複数の異なる露光像が得られるように撮像デバイスを操作する工程と、前記複数の異なる露光像を組み合わせて前記画像を得る工程とを含み、ここで前記画像は前記複数の異なる露光像のいずれよりも大きいダイナミックレンジを有することを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項6乃至8の何れか一項に記載の方法において、前記画像を得る間に前記チャンネルを可視光又は紫外光で照射する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法において、前記可視光又は前記紫外光が、前記色素の吸収帯に対応する波長を含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法において、前記1つ又は複数の電気泳動パラメータを調整する工程が、前記電気泳動信号のデューティサイクルを調整する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1又は11に記載の方法において、前記1つ又は複数の電気泳動パラメータを調整する工程が、前記電気泳動信号の電位を調整する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1乃至12の何れか一項に記載の方法において、前記予定到達時間と前記推定到達時間との差を含む誤差信号に基づく前記1つ又は複数の電気泳動パラメータの比例フィードバック制御により、前記チャンネルに沿った前記核酸の移動速度を制御する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1乃至13の何れか一項に記載の方法において、前記チャンネルへの電気泳動信号の印加を一時的に中断することにより前記推定到達時間と前記予定到達時間との差を低減する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項1乃至14の何れか一項に記載の方法において、画像解析により前記チャンネルにおける前記抜出ウェルの位置を決定する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法において、前記抜出ウェルへの前記核酸の前記標的画分の前記推定到達時間を推定する工程が、一部には、前記画像解析により決定されるとおりの前記抜出ウェルの前記位置に基づくことを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項1乃至16の何れか一項に記載の方法において、前記抜出ウェルから前記標的画分を含有する流体を抜出す工程が、前記標的画分に含まれる核酸のサイズ範囲から自動的に決定される期間にわたり実施されることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法において、前記標的画分の前縁及び後縁の前記抜出ウェルへの推定到達時間を推定する工程と、前記標的画分の前記前縁及び前記後縁の前記抜出ウェルへの前記推定到達時間を基準として前記標的画分の抜出し開始時刻及び停止時刻を調整する工程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法において、前記標的画分の前記前縁が前記抜出ウェルに到達すると電気泳動速度が増加するように、前記チャンネルの電気泳動を自動的に制御する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項1乃至19の何れか一項に記載の方法において、前記チャンネルが複数のチャンネルのうちの一つであり、前記方法が、前記複数のチャンネルにおける複数の試料を処理するように並行して実施されることを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項1乃至13の何れか一項に記載の方法において、前記チャンネルが複数のチャンネルのうちの一つであり、前記複数のチャンネルの各々の前記電気泳動パラメータが、独立して制御されることを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項20又は21に記載の方法において、ピペッターを含むロボットシステムを操作して前記複数の試料を前記複数のチャンネルに移す工程をさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法において、前記抜出ウェルから前記標的画分を含有する前記流体を抜出す工程が、前記ロボットシステムを操作してピペット先端を前記抜出ウェルに入れる工程、前記ピペッターを操作して前記抜出ウェルから前記流体を引き込む工程、及び前記ロボットシステムを操作して前記取り出された流体を終着ウェルに移す工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項24】
請求項23に記載の方法において、前記チャンネルの第1及び第2のチャンネルにおける前記核酸の動きを、前記第1のチャンネルの前記標的画分の前記推定到達時間が前記第2のチャンネルの前記標的画分の前記推定到達時間と異なるように自動的に制御する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項25】
請求項22に記載の方法において、前記ピペッターがマルチチャンネルピペッターを含み、前記抜出ウェルから前記標的画分を含有する前記流体を抜出す工程が、前記ロボットシステムを操作して前記マルチチャンネルピペッターの前記チャンネル用のピペット先端を、対応する複数の前記チャンネルの前記抜出ウェルに入れ、前記ピペッターを操作して前記抜出ウェルから前記流体を引き込み、且つ前記ロボットシステムを操作して前記取り出された流体を対応する複数の終着ウェルに移すことにより、複数の前記チャンネルで同時に実施されることを特徴とする方法。
【請求項26】
請求項25に記載の方法において、前記複数の前記チャンネルにおける前記核酸の動きを、前記複数の前記チャンネルの各々の前記標的画分の前記推定到達時間が同じになるように自動的に制御する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項27】
請求項26に記載の方法において、前記複数のチャンネルの前記標的画分が、複数の異なる標的画分を含むことを特徴とする方法。
【請求項28】
請求項1乃至27の何れか一項に記載の方法において、前記核酸の前記標的画分が、目的の核酸分子に連結されたアダプターを含み、及び前記核酸の前記基準画分が、前記目的の核酸分子に連結されない前記アダプターを含むことを特徴とする方法。
【請求項29】
請求項1乃至28の何れか一項に記載の方法において、前記監視する工程が、前記チャンネルに沿った前記核酸の複数の基準画分の進行を自動的に監視する工程を含み、前記基準画分が、前記核酸の前記複数の基準画分のうちの一つであることを特徴とする方法。
【請求項30】
請求項29に記載の方法において、前記核酸の前記複数の基準画分が、既知のサイズのDNA又はRNAラダーを含むことを特徴とする方法。
【請求項31】
請求項1乃至30の何れか一項に記載の方法において、前記核酸の前記標的画分のサイズ又はサイズ範囲を指定する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項32】
請求項1乃至31の何れか一項に記載の方法において、
前記核酸が少なくとも第1の標的画分と第2の標的画分とを含み、前記推定する工程及び抜出す工程が、
前記チャンネルにおける前記抜出ウェルへの前記第1の標的画分の推定到達時間を推定する工程;
前記第1の標的画分の前記推定到達時間に前記抜出ウェルから前記第1の標的画分を含有する流体を抜出す工程;
前記チャンネルにおける電気泳動を継続する工程;
前記チャンネルにおける前記抜出ウェルへの前記第2の標的画分の推定到達時間を推定する工程;及び
前記第2の標的画分の前記推定到達時間に前記抜出ウェルから前記第2の標的画分を含有する流体を抜出す工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項33】
請求項32に記載の方法において、前記第1の標的画分を含有する前記流体及び前記第2の標的画分を含有する前記流体を別個の終着ウェルに移す工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項34】
請求項32に記載の方法において、前記第1の標的画分を含有する前記流体及び前記第2の標的画分を含有する前記流体を同じ終着ウェルに移す工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項35】
請求項32乃至34の何れか一項に記載の方法において、前記第1の標的画分を抜出す第1の予定時間をスケジュールする工程と、前記第2の標的画分を抜出す第2の予定時間をスケジュールする工程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項36】
請求項35に記載の方法において、前記第1の標的画分を前記第1の予定時間に前記抜出ウェルに至らせるように前記チャンネルの1つ又は複数の電気泳動パラメータを制御する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項37】
請求項35に記載の方法において、前記第1の標的画分が抜出された後の前記第2の予定時間に前記第2の標的画分を前記抜出ウェルに至らせるように前記チャンネルの1つ又は複数の電気泳動パラメータを制御する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項38】
請求項32乃至37の何れか一項に記載の方法において、前記核酸が複数の標的画分を含み、前記複数の標的画分が複数の異なる時間に前記チャンネルの前記抜出ウェルから抜出されることを特徴とする方法。
【請求項39】
請求項20乃至27の何れか一項に記載の方法において、前記複数のチャンネルの各チャンネルにおける前記核酸が複数の標的画分を含み、前記チャンネルの各チャンネルにおける前記複数の標的画分が、複数の時間に前記抜出ウェルから抜出されることを特徴とする方法。
【請求項40】
請求項39に記載の方法において、前記複数のチャンネルの前記複数の標的画分の第1の標的画分を共通の第1の予定時間に前記抜出ウェルに至らせるように前記チャンネルの1つ又は複数の電気泳動パラメータを制御する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項41】
請求項40に記載の方法において、前記複数のチャンネルの前記複数の標的画分の第1の標的画分を異なる時間に前記抜出ウェルに至らせるように前記チャンネルの1つ又は複数の電気泳動パラメータを制御する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項42】
請求項40又は41に記載の方法において、前記複数のチャンネルの前記複数の標的画分の第2の標的画分を共通の第2の予定時間に前記抜出ウェルに至らせるように前記チャンネルの1つ又は複数の電気泳動パラメータを制御する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項43】
請求項40又は41に記載の方法において、前記複数のチャンネルの前記複数の標的画分の第2の標的画分を異なる時間に前記抜出ウェルに至らせるように前記チャンネルの1つ又は複数の電気泳動パラメータを制御する工程を含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2011年6月16日に出願された、「Method and Apparatus for Automated Size Selection of Nucleic Acids」と題される米国仮特許出願第61/497586号明細書のパリ条約による優先権を主張し、この仮特許出願は、本明細書によってあらゆる目的から参照により本明細書に援用される。アメリカ合衆国の目的上、本願は、米国特許法第119条に基づき、2011年6月16日に出願された「Method and Apparatus for Automated Size Selection of Nucleic Acids」と題される米国仮特許出願第61/497586号明細書の利益を主張し、この仮特許出願は、本明細書によってあらゆる目的から参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、核酸の自動サイズ選択に関する。本発明の態様は、核酸をサイズに基づき選択するのに有用な方法及び装置を提供する。
【背景技術】
【0003】
DNA又はRNAなどの核酸をサイズによって選択することが望ましい適用は、広範囲に及ぶ。例えば、サイズ選択は、配列決定及び他の適用に使用するDNAライブラリの作成において用いられる。
【0004】
様々なDNAサイズ選択技術が存在する。それらの技術のあるものは、望ましくないことに、多大な労力を要する。DNAサイズ選択方法の一つは、ゲルにおいてDNA含有試料の電気泳動を実施することである。異なるサイズのDNAはゲル中での移動度が異なるため、電気泳動によりDNAはサイズ毎に異なるバンドに分離される。目標とするサイズ範囲のDNAを含有するバンドを特定し、次に手動でゲルから切り取ることができる。次に目標のDNAをゲルから抽出することができる。
【0005】
一部の電気泳動システムは、ゲルに形成されたウェルを含む。電気泳動によってDNAがウェルに流れ込み得る。InvitrogenのE−gel及びLonzaのFlash Gel(商標)が、かかるウェルを提供する。
【0006】
Y型チャンネルサイズ選択機械が、もう一つのDNAサイズ選択技術である。例えば、SageのPippin Prep(商標)機及びCaliperのXT(商標)機である。これらの機械は、目標とするサイズ範囲のDNAを側方チャンネルへと分流し、分子量カットオフフィルタに突き当たって分流されたDNAを収集することにより、試料から目標とするサイズ範囲のDNAを抽出することができる。
【0007】
Beckman Coulter他から入手可能な固相可逆固定化ビーズ(Solid Phase Reversible Immobilization:SPRI)のビーズを用いてもよく、これにより特定のサイズのDNAを捕捉し、次に洗浄及びpHの変化後にDNAを遊離させ得る。
【0008】
ハイスループットを提供することのできるDNAサイズ選択技術が依然として必要とされている。より少ない労力で正確なDNAサイズ選択を提供することのできるDNAサイズ選択技術が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0009】
この発明は、同時に適用し得る多くの態様を有する。それらの態様の一部は独立した適用を有する。一態様は、核酸の自動サイズ選択装置を提供する。別の態様は、核酸の自動サイズ選択装置を制御するためのコンピュータシステムを提供する。別の態様は、核酸の自動サイズ選択方法を提供する。核酸には、DNA及び/又はRNAが含まれ得る。別の態様は、核酸の自動サイズ選択にとりわけ有用なカートリッジを提供する。
【0010】
一例示的実施形態において、核酸は、各々がチャンネルの一端に負荷ウェルを有し、且つ下流に抜出ウェルを有するアガロースチャンネルに個々にDNA試料を負荷することにより、サイズ選択される。負荷後、核酸に対して電気泳動が実施され、核酸は抜出ウェルに向かって移動するに従いサイズ毎に分離される。このプロセスの間、チャンネルは一定の間隔で画像化され、ソフトウェアアルゴリズムがこれらの画像を使用して基準バンドを特定し、目標の核酸断片が抜出ウェルに到達する時間を予測する。チャンネル流もまた、直流電圧のパルス幅変調によって個々に制御可能であり、従って隣接する試料が異なる速度で流れている場合、2つの試料を同時に抜出す必要がないように抜出し時間を変更することができる。
【0011】
本発明の別の態様は、DNA、RNAなどの核酸のサイズ選択方法を提供する。かかる方法は、電気泳動によりチャンネルに沿って試料から核酸を移動させる工程;チャンネルに沿った核酸の基準画分の進行を自動的に監視する工程;監視に基づき、チャンネルにおける抜出ウェルへの核酸の標的画分の推定到達時間を推定する工程;及び推定到達時間に抜出ウェルから標的画分を含有する流体を抜出す工程を含む。基準画分は標的画分と同じであっても、又は異なってもよい。例えば、一部の実施形態では、基準画分は、試料中に豊富に含まれている核酸(試料に当初から存在するか、或いはサイズマーカーとして試料に添加される)を含むことができ、標的画分は、基準画分とサイズが異なる核酸を含むことができる。チャンネルに沿った標的画分の進行は、基準画分の進行から推測されてもよい。例えば、標的画分は、一定の割合だけ基準画分に先行するか、又はそれより遅れることが分かっていてもよい。一部の実施形態では、核酸の標的画分は、目的の核酸分子に連結されるアダプターを含み、及び核酸の基準画分は、目的の核酸分子に連結されないアダプターを含む。一部の実施形態では、この方法は、チャンネルに沿った核酸の複数の基準画分の進行を自動的に監視する工程を含み得る。複数の基準画分は、既知のサイズのDNA又はRNAラダーを含み得る。
【0012】
一部の実施形態では、監視する工程は、間隔を置いた時点で、チャンネルの画像を得る工程、及び画像において基準画分に対応する範囲を特定する工程を含む。画像は、例えば、チャンネルを観察するために装備されたカメラによって取得されてもよい。カメラは、多数のチャンネルを同時に撮像してもよい。複数のチャンネルにおける基準画分(これは異なるチャンネルについて同じである必要はない)の進行は、同じ画像セットを使用して監視されてもよい。標的画分の推定到達時間は、ある場合には、画像の2つ以上における基準画分の位置の差に基づく標的画分の平均速度に基づき推定されてもよい。画像は高ダイナミックレンジ画像を含み得る。例えば、画像は高ダイナミックレンジセンサを使用して得られてもよく、又は2つ以上の異なる露光像から合成されてもよい。一部の実施形態では、画像は10ビット又は12ビット以上のビット深度を有する。一部の実施形態では、画像の各々を得る工程は、チャンネルの複数の異なる露光像が得られるように撮像デバイスを操作する工程、及び複数の異なる露光像を組み合わせて画像を得る工程を含み、ここで画像は、複数の異なる露光像のいずれよりも大きいダイナミックレンジを有する。
【0013】
一部の実施形態は、標的画分のサイズ又はサイズ範囲を指定する工程を含む。例えば、標的画分のサイズ又はサイズ範囲は、絶対項で指定されても、又は基準画分の1つ又は複数との相対で指定されてもよい。例えば、標的画分のサイズ又はサイズ範囲は、基準画分からの一定の割合の先行又は遅れとして指定されてもよい。一部の実施形態は、抜出ウェルへの標的画分の到達時間をスケジュールする工程;予定到達時間を推定到達時間と比較する工程、及び予定到達時間と推定到達時間との間の任意の差に基づき電気泳動信号の1つ又は複数の電気泳動パラメータを調整する工程を含む。かかる実施形態において、異なるチャンネルにおける標的画分は、異なる時間に抜出ウェルに到達させてもよい(予定時間に各チャンネルで作業を行うピペッターを備えるロボットなどの単一の機構を使用した標的画分の抜出しを促進する)。また、かかる実施形態において、異なるチャンネルにおける標的画分は、同じ時間に抜出ウェルに到達させてもよい(予定時間にいくつかのチャンネルで同時に作業を行うマルチチャンネルピペッターを備えるロボットなどのマルチチャンネル機構を使用した標的画分の抜出しを促進する)。
【0014】
1つ又は複数の電気泳動パラメータを調整する工程は、電気泳動信号のデューティサイクルを調整する工程、電気泳動信号の電位を調整する工程又は電気泳動信号を定義する他のパラメータを調整する工程を含み得る。
【0015】
一部の実施形態では、この方法は、画像解析によって1つ又は複数のチャンネルにおける抜出ウェル及び/又は負荷ウェルの位置を決定する。これにより、異なるチャンネルの抜出ウェルが異なる位置にあるシステムが促進され、また、抜出ウェル及び/又は負荷ウェルの位置のばらつきの自動補償も促進される。
【0016】
本発明の別の態様は、核酸のサイズ選択装置を提供する。この装置は、第1及び第2の端部を有するチャンネル並びにチャンネルにおける抜出ウェル;核酸を試料からチャンネルに沿って移動させるためチャンネルに電気泳動信号を送出するように接続された電気泳動電源;チャンネルを撮像するように取り付けられた撮像デバイス;撮像デバイスから画像を得るように接続された制御器を含む。制御器は、画像を解析することによりチャンネルに沿った核酸の基準画分の進行を自動的に監視し;監視に基づき、チャンネルにおける抜出ウェルへの核酸の標的画分の推定到達時間を推定し;及び機構を操作して推定到達時間に抜出ウェルから標的画分を含有する流体を抜出すように構成される。
【0017】
撮像デバイスは電子カメラを含み得る。カメラは、核酸と会合した色素の発光帯域外の光を減衰させるフィルタを備えてもよい。
【0018】
一部の実施形態では、この機構は、試料をチャンネルの負荷ウェルに移し、且つ抜出ウェルから流体を抜出すよう動作するピペッターを含むロボットシステムを含む。一部の実施形態では、ピペッターは、複数の試料を複数のチャンネルに同時に導入する能力又は複数のチャンネルの抜出ウェルから同時に流体を抜出す能力を有するマルチチャンネルピペッターを含む。
【0019】
一部の実施形態では、チャンネルは、対向する第1及び第2の側面を有する細長い溝と溝中の電気泳動媒体とを含み、第1及び第2の側面が、第1及び第2の側面に沿って長手方向に延在するステップを有し、電気泳動媒体がステップに達するまで溝を充填する。
【0020】
電気泳動媒体は、例えば、アガロースゲル、アクリルアミドゲル、又は変性アクリルアミドゲルなどのゲルを含み得る。
【0021】
一部の実施形態では、制御器は、画像の1つ又は複数の画像解析によってチャンネルにおける抜出ウェルの位置を決定し、且つピペット先端を決定された抜出ウェルの位置に動かすように構成される。
【0022】
一部の実施形態では、制御器は、抜出ウェルへの標的画分の推定到達時間を、抜出ウェルへの標的画分の目標到達時間と比較し、且つ目標到達時間と推定到達時間との間の任意の差に基づき電気泳動信号の1つ又は複数の電気泳動パラメータが調整されるよう電気泳動電源を制御するように構成される。
【0023】
一部の実施形態では、制御器は、抜出ウェルへの標的画分の推定到達時間と目標到達時間との差を含む誤差信号に基づく1つ又は複数の電気泳動パラメータの比例フィードバック制御によりチャンネルに沿った核酸の移動速度を制御するように構成される。
【0024】
一部の実施形態では、制御器は、抜出ウェルへの標的画分の目標到達時間を生成するように構成されるスケジューラを含む。
【0025】
この装置は、抜出ウェルへの標的画分の推定到達時間と抜出ウェルへの標的画分の目標到達時間との差を表す誤差信号に応答してチャンネルに沿った標的画分の平均速度が変化するよう電気泳動電源を制御するように構成される比例フィードバック制御器を含み得る。一部の実施形態では、制御器は、チャンネルに対する電気泳動信号の印加を一時的に中断することにより、推定到達時間と目標到達時間との差を低減するように構成される。
【0026】
本発明の別の態様は、核酸のサイズ選択用カセットを提供する。このカセットは、チャンネルが形成されたプレートを含み、チャンネルは対向する第1及び第2の側面を有する細長い溝と溝中の電気泳動媒体とを含み、第1及び第2の側面はステップを有し、電気泳動媒体がステップに達するまで溝を充填する。プレートは、プレートをロボットに対して既知の位置に固定するための1つ又は複数の穴、溝又は他の特徴を有し得る。チャンネルは、負荷ウェルと抜出ウェルとの双方を、チャンネルに沿って離間された位置に含み得る。プレートは任意選択で、少なくともそのチャンネルの下方の位置で透明であってもよい。
【0027】
本発明のさらなる態様及び本発明の例示的実施形態の特徴が、添付の図面に示され、及び/又は以下に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
添付の図面は、本発明の非限定的で例示的な実施形態を示す。
【0029】
【
図1】
図1は、例示的実施形態に係る核酸のサイズ選択方法を示す。
【
図2】
図2は、一つのチャンネルの画像を概略的に示す。
【
図2A】
図2Aは、チャンネルに沿った位置の関数としての密度を示すプロットである。
【
図3】
図3は、所定のサイズのDNAに対応するピークの特定方法を示す。
【
図6】
図6は、例示的なグラフィック表示のスクリーンショットである。
【
図7】
図7は、例示的なチャンネルプレートの平面図である。
【
図7B】
図7Bは、負荷ウェル又は抜出ウェルの形成に有用な例示的なコームを示す。
【
図7C】
図7Cは、別の実施形態に係る例示的なチャンネルプレートの平面図である。
【
図7D】
図7Dは、供給ウェル及び抜出ウェルを形成するためコームが係合されたチャンネルプレートの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
当業者に対してより完全な理解を提供することを目的に、以下の記載全体を通して具体的な詳細が示される。しかしながら、本開示が不必要に曖昧になることを避けるため、周知の要素は詳細には図示又は説明されていないこともある。従って、記載及び図面は、制限する意味でなく、例示の意味で捉えられるべきである。
【0031】
本発明の一態様は、複数の核酸試料をサイズ選択するための自動化された方法を提供する。この方法は、予測アルゴリズムと併せた画像化を用いることにより、抜出す時間を決め、サイズ選択された目標サイズ範囲の核酸を提供する。この方法は、1つ又は複数の電気泳動チャンネルと、1つ又は複数の電気泳動チャンネルの画像を取得するカメラと、対応するチャンネルに試料を導入し、且つサイズ選択された核酸をチャンネルから抜出すためのピペッターを含むロボットとを含む自動化された装置と併せることで有利となるように実施され得る。チャンネルは、例えばアガロースゲル又はアクリルアミドゲルで充填され得る。チャンネルは、各々、チャンネルにおける負荷ウェルと、チャンネルに沿って負荷ウェルから離間された抜出ウェルとを有し得る。
【0032】
以下の記載は、DNAのサイズ選択に用いられる例示的な実施形態の構成及び操作を説明する。例えば、DNAは、RNAに由来するcDNAを含み得る。サイズ選択されるDNAは、10bp〜10kbpの範囲のサイズを有し得る。しかしながら、本発明は、RNAなどの他の核酸のサイズ選択に適用されてもよい。一部の実施形態では核酸は、剪断された核酸を含む。
【0033】
図1は、本発明の例示的実施形態に係る方法10を示す。ブロック11において、DNA含有試料が、電気泳動によりDNAを移動させることができる媒体が入ったチャンネルの負荷ウェルに導入される。DNA含有試料はまた、DNAと共に負荷ウェルに導入される色素(例えば、SYBR Green(商標)色素又は臭化エチジウム)も含み得る。色素の機能は、媒体中のDNAの検出又は画像化を促進することである。一部の実施形態では、試料中のDNA分子がアダプターを含んでもよく、これはDNA配列決定などの下流適用に有用であり得る。媒体は、例えばアガロースゲル又はアクリルアミドゲルを含み得る。ブロック12において、電気泳動が開始される。電気泳動は、チャンネルの両端の電極間に電位差を印加することにより実施され得る。電位差は、例えば、直流電位、パルス直流電位又は不平衡交流電位を含み得る。印加された電位によりDNAが推進され、チャンネルに沿って負荷ウェルから抜出ウェルに向かって移動する。異なるサイズのDNAはチャンネルにおける移動度が異なるため、DNAはサイズ別に分かれる。
【0034】
任意選択のブロック13は、異なるサイズのDNAの濃度を検出することができるよう十分にチャンネルに沿って遠くまでDNAを移動させるための遅延を提供する。ブロック14は、目標サイズ範囲の標的DNAのチャンネルに沿った位置を決定することを含む。一部の実施形態では、ブロック14は、カメラでチャンネルの連続画像を得ること、1つ又は複数の画像において1つ又は複数の既知のサイズのDNAに対応する1つ又は複数の目印を検出すること、及び1つ又は複数の目印の1つ又は複数の位置に基づき標的DNAの位置を決定することを含む。ブロック14の出力は、チャンネルに沿った標的DNAの一連の位置である。
【0035】
1つ又は複数のサイズ分け基準(例えば目印)は、それがDNAラダーであるにしろ、又は電気泳動図に存在すると予想される固有の特徴であるにしろ、実行時又はその前に指定され得る。用いられるサイズ基準がDNAラダーである場合、DNAラダーは、試料を負荷ウェルに負荷する前に、試料に添加されてもよい。一部の実施形態では、サイズ基準は試料中に固有に存在する。例えば、miRNAから得られたcDNA試料をサイズ選択するため、試料は、cDNA+アダプター断片(例えば、109bpのサイズを有する)並びにアダプター−アダプター断片(例えば、80bpのサイズを有する)の両方を含み得る。アダプター−アダプター断片は、サイズ基準として用いられ得る。
【0036】
標的DNAのサイズ範囲は、様々な方法で、例えば絶対項で、又は所与の1つ又は複数の基準との相対で指定されてもよく、それにより入力試料の電気泳動図プロファイルに依存的な、或いは非依存的なサイズの画分を切り出すことが可能になる。例えば、入力試料が、予想ピーク中心が約250bpである剪断されたゲノムDNAである場合、標的画分の移動度範囲はピーク中心との相対で指定されてもよく(例えばピーク中心の移動度の110%〜90%)、又は標的は、ピーク中心の実際の移動度と無関係に絶対的なサイズ範囲(例えば150bp〜200bp)として指定されてもよい。
【0037】
ブロック15は、チャンネルに沿った標的DNAの平均速度を決定する。ブロック15は、例えば、標的DNAの2つの位置の差を、それらの位置が決定された画像間の経過時間で除すといった単純なものであってよい。ブロック15は3つ以上の位置を考慮に入れてもよい。例えば、ブロック15は複数の速度を平均するか、又はその中央値を求めてもよい。
【0038】
ブロック16は、抜出ウェルへの標的DNAの到達時間を推定する。この決定は、予め分かっている、抜出ウェルの所定の位置に基づき得る。一部の実施形態では抜出ウェルの位置は、ブロック17で、ブロック15で得られた画像(或いは、抜出ウェルの位置特定のために得られた別個の画像)において抜出ウェルの画像の位置を特定することにより決定される。この画像認識はモデルベースであってよい(すなわち、ある画像においてチャンネルの画像がどのように見えると予想されるか(ここで画像中に各チャンネルが見出されることが予想される)、及びその画像において抜出ウェルの画像がどのように見えると予想されるかが前もって分かっている)。抜出ウェルの位置を特定することは、例えば、画像において抜出ウェルのモデル画像との相関が最大になる位置を見つけることを含み得る。他のより単純な実施形態では、画像において抜出ウェルの位置を特定することは、画像において抜出ウェルに対応する1つ又は複数の縁部の位置を特定することを含む。
【0039】
例えば、推定到達時間は、現在時刻に推定移動時間を足すことにより得てもよい。推定移動時間は、例えば、抜出ウェルの位置と標的DNAの現在の位置との間の距離を、ブロック15で推定されたとおりの標的DNAの現在の速度で除すことにより決定されてもよい。
【0040】
ブロック18は、推定到達時間に抜出ウェルから標的DNAを抜出す。ブロック18は、例えば、ピペッターを備えるロボットを制御することにより、推定到達時間又はその前にピペッターを抜出ウェルに入れ、推定到達時間に抜出ウェルから流体をピペッターに引き込むことを含み得る。次にロボットは、収集した流体をリザーバに分注してもよく、ここで流体は保持されるか、又はさらなる処理のため送られ得る。
【0041】
方法10は、様々な変動を有する。一部の実施形態では、標的DNAの速度及び/又は位置に関する情報が、標的DNAの速度の制御に適用される。実行時電気泳動図から得られる位置情報及び時間情報をフィードバックループに用いることにより、標的DNA画分の電気泳動速度が、抜出ウェルへのその到達時間に加えて制御される。
【0042】
フィードバック制御を適用することにより、例えば、抜出ウェルへの標的DNAの推定到達時間が調整され得る。推定到達時間は、例えば、電気泳動電界のデューティサイクル及び/又は電圧を調整して、及び/又は電気泳動電界の印加を1回または複数回休止することにより、調整され得る。デューティサイクルを調整することにより標的DNAの速度を調整する実施形態は、デューティサイクルと速度との間の関係が線形的又はほぼ線形的な傾向にあるため、有利であり得る。これは制御を単純化する。電気泳動速度及び抜出しのスケジューリングが、任意の数の試料について同時に制御されてもよい。一実施形態において、抜出しスケジューリングは、泳動している96試料を並列で処理する。
【0043】
図1Aは代替的な例示的方法10Aを示し、これは方法10と同様であるが、但し、標的DNAの予定到達時間をスケジュールするブロック19と、標的DNAについてブロック16からの推定到達時間を予定到達時間と比較するブロック20とを含む。ブロック21はブロック20から制御信号を受け取り、制御信号に基づき電気泳動パラメータを調整する。ループ22は、標的DNAが予定時間に抜出ウェルに到達するよう標的DNAの進行を制御するのに十分な速度で周期的に繰り返され得る。
【0044】
ブロック21において、電気泳動パラメータは、必要に応じて、標的DNAの進行を遅らせるか、標的DNAの進行を速めるか、又は標的DNAの現在の進行速度を維持するように調整され得る。一部の実施形態では、調整は、単に制御信号の符号(すなわち推定到達時間が予定到達時間より前か、それとも後か)に依存するに過ぎない。他の実施形態にでは、調整は、少なくとも一部において、推定到達時間と予定到達時間との差の大きさ(又は同等に、推定速度と、予定時間に抜出ウェルに到達する標的DNAをもたらす速度との差の大きさ)に基づく。
【0045】
典型的な場合、標的DNAは特定のサイズを有するのでなく、サイズの範囲を有する。従って標的DNAは、DNA画分のサイズ範囲並びに電気泳動パラメータにより決定される長さを有する時間ウィンドウの間に抜出ウェルに到達し得る。一部の実施形態では、標的画分は最初に指定され、その画分が抜出されるまで連続的に調整されてもよい。
【0046】
標的DNAが抜出ウェルに到達する時間の制御は、複数の電気泳動チャンネルが同時に操作されている場合に十分効果的に適用され得る。例えば、複数のチャンネルの各々におけるDNAの電気泳動が、異なるチャンネルの予定時間が異なるようにして各チャンネルの標的DNAを予定時間に抜出ウェルに到達させるよう制御され得る。異なるチャンネルの標的DNAは同じであっても、又は異なってもよい。これにより、ロボットの同じピペッターが2つの抜出ウェルから同時に流体を抜出す必要なしに、ロボットを使用してチャンネルの各々から標的DNAを抜出すことが促進され得る。予定時間は、ロボットがスケジュールされた抜出しの各々を行うのに十分な時間があることを確実にするように割当てられ得る。
【0047】
電気泳動速度の制御は、チャンネル間の電気泳動速度のばらつき(例えば、電気泳動媒体の不均質性又は異なるチャンネルに用いる電気泳動媒体の他の差異により引き起こされる)を補償するために適用されてもよい。制御はまた、チャンネル間の抜出ウェルの位置の差を補償するためにも適用され得る。制御はまた、異なるチャンネルの標的DNAの差を補償するためにも適用され得る。
【0048】
一部の実施形態はマルチチャンネルロボットを用いる。例えば、かかるロボットは、先端を複数の抜出ウェルに同時に挿入できるように配置された複数のピペッターを有し得る。例えば、ロボットは、8個、16個又は他の何らかの個数のピペッターを備えてもよい。一部のかかる実施形態において、チャンネルは並列に配置され、ロボットは、流体をN個の隣接する負荷ウェルに同時に導入し、又はN個の隣接する抜出ウェルから同時に流体を取り出すように構成され得る。
【0049】
マルチチャンネルロボットを使用する一部の実施形態では、複数のチャンネルでの電気泳動は、複数のチャンネルの標的DNAを同じ予定時間に抜出ウェルに到達させるように制御される。標的DNAは複数のチャンネル間で異なってもよい。次にロボットは、予定時間にピペット先端を複数のチャンネルの抜出ウェルに入れ、且つ抜出ウェルから同時に流体を抜出すように制御され得る。かかる実施形態により、チャンネルのグループに異なる予定到達時間を割り当てることが可能となる。各グループの個々のチャンネルにおける電気泳動は、グループにおける各チャンネルの標的DNAを当該のグループについてスケジュールされた時間に対応する抜出ウェルに到達させるように個別に制御され得る。異なるチャンネルグループの予定時間は、ロボットがスケジュールされた抜出しを行う時間を有するように離間され得る。かかる実施形態は、ハイスループット電気泳動を提供することができる。
【0050】
上記に記載される原理はまた、同じ試料から2つ以上の画分を抜出すことが所望される状況において適用され得る。かかる適用では、電気泳動の実施により第1の標的画分が抜出ウェルに運ばれ、その第1の標的画分が抜出され得る。続いて、さらなる電気泳動の実施により第2の画分が抜出ウェルに運ばれ得る。次に第2の画分が抜出され得る。所望される場合、第1及び第2の標的画分は互いに隔離されたままにしておかれ得る。例えば、第1及び第2の標的画分の各々が、抜出ウェルから別個の終着(destination)ウェルに移されてもよい。また、所望される場合には、同じ試料からの複数の画分を同じ終着ウェルに移すことも可能である。
【0051】
一部の適用では、同じ試料から3つ以上の画分が抜出され得る。同じ試料から2つ以上の標的画分を抜出す場合、標的画分の各々の抜出しは個別にスケジュールされ得る。第1の予定時間に第1の標的画分がチャンネルから抜出された後、チャンネルの電気泳動パラメータが、第2の標的画分を第2の予定時間に抜出すため抜出ウェルに至らせるように制御され得る。
【0052】
一部の実施形態では、電気泳動は、複数のチャンネルにおいて、対応する複数の第1の標的画分を第1の時間に複数のチャンネルの抜出ウェルに至らせるように制御される。次に、第1の標的画分を対応する終着ウェルに移すため、マルチチャンネルピペッター又は他のマルチチャンネル抜出し機構が適用され得る。次に複数のチャンネルにおける電気泳動が、チャンネルにおいて第2の標的画分を同じ時間に抜出ウェルに至らせるように制御され得る。第1の標的画分と第2の標的画分との間の間隔が異なるチャンネル間で同じである必要はない。電気泳動は、第2の標的画分を一部のチャンネルで他より速く抜出ウェルに向けて移動させるように制御されてもよい。一部の実施形態では、電気泳動は、第2の標的画分を複数のチャンネルで同じ時間に抜出ウェルに至らせるように制御され、従ってマルチチャンネルピペッターを使用して第2の標的画分を同時に抜出すことができる。
【0053】
図2は、一つのチャンネル24の像を概略的に示す。チャンネル24は、各端部に緩衝液リザーバ25A、25Bを備える好適な電気泳動媒体のストリップ25を含む。負荷ウェル26Aが、媒体25の緩衝液リザーバ25Aの近傍に位置する。抜出ウェルが、媒体25において負荷ウェル26Aから緩衝液リザーバ25Bに向かって離間された位置に位置する。
【0054】
図2には、負荷ウェル26Aから電気泳動により媒体25に沿って運ばれた様々なDNAバンドも示される。電気泳動下では異なるサイズのDNAは異なる速度で動くため、異なる位置のバンドは異なるサイズのDNAを表す。この像では、異なるバンドは異なる密度を有し得る。バンドは全て、試料中に存在するDNAを表し得る。一部の実施形態では、標的DNAの位置の決定に用い得るサイズスケールを提供するため、既知のサイズのDNA又は一組の既知のサイズのDNA(例えばDNAラダー)が試料に添加され得る。
【0055】
一部の実施形態では、DNAラダーなどのサイズ分け基準が入力試料と同じチャンネル24で泳動される。これにより、サイズ分け基準と試料とが別個のチャンネルで泳動される実施形態と比較して、サイズ分けの精度が確保される。
【0056】
図2Aは、チャンネル24に沿った位置の関数としての密度を示すプロットである。曲線27のピークは、
図2に示されるバンドの位置に対応する。上記に記載される方法は、標的DNAに対応する曲線27のピークを特定し、又は標的DNAと既知の1つ又は複数のサイズ関係を有するDNAに対応する1つ又は複数の他のピークの位置から標的DNAの現在の位置を推測し得る。
【0057】
一部の実施形態はスケジューラを提供する。スケジューラは、例えばソフトウェアに実装され得る。スケジューラは、チャンネル24の供給ウェル26Aへの試料の移し替え、チャンネル24における電気泳動の開始及び抜出ウェル26Bからの標的画分の抜出しをスケジュールし得る。一部の実施形態では、スケジューラはチャンネル24において試料が泳動されている間に動作し、標的画分(又は標的画分と既知の関係を有するバンド)の進行の監視に応答して再度標的画分の抜出しをスケジュールし直してもよい。スケジュールは、最初は、チャンネルにおける電気泳動の開始時刻から、標的画分が供給ウェル26Aから対応する抜出ウェル26Bまで進行し得ると考えられる最短期間より長い期間だけ離れたタイムスロットにおいて、標的画分の抜出しをスケジュールし得る。この最初のスケジューリングに用いられる時間は、一部の実施形態では、供給ウェル26Aから抜出ウェル26Bまでの計測距離に基づき決定され得る。この時間は、利用可能な電気泳動パラメータ範囲のなかで達成可能な最高速度より遅い標的画分の想定平均速度に基づき生成されてもよい。想定平均速度は、標的画分のサイズ及び電気泳動が実施されている媒体の特性の関数であってもよい。
【0058】
一部の実施形態では、スケジューラによって標的画分の抜出しのためにスケジュールされる期間の長さは様々であり、標的画分に含まれる核酸のサイズに依存する(より広いサイズ範囲を含む標的画分ほど、サイズの開きが小さい標的画分と比べて抜出しにより長い時間がかかる)。一部の実施形態では、標的画分の前縁及び後縁の抜出ウェルへの推定到達時間を基準として、標的画分の抜出しの開始時刻及び停止時刻が調整される。
【0059】
一部の実施形態では、スケジューラは、異なるチャンネル24からの標的画分の抜出し時間の間のコンフリクトを監視する。一部のかかる実施形態において、コンフリクトがある(すなわち異なるチャンネル24からの標的画分の抜出しに割り当てられた期間が重なる)場合、スケジューラはチャンネル24の一つからの標的画分の抜出し予定時間を修正してコンフリクトを取り除き得る。予定抜出し時間の変更により、標的画分がスケジュールし直された予定時間に抜出ウェルに到達するようチャンネル24の標的画分の進行を制御するため、スケジュールし直されたチャンネル24における電気泳動のパラメータが自動的に変更され得る。
【0060】
一部の実施形態では、チャンネル24の電気泳動パラメータは、標的画分の前縁が対応する抜出ウェル26Bに到達して抜出しが始まると、電気泳動速度が増加し、それにより標的画分全体を抜出すために抜出しを継続しなければならない時間が短縮されるように制御される。
【0061】
図3は、チャンネル24において所定のサイズのDNAに対応するピークを特定する方法30を示す。ブロック32は、既知の電気泳動パラメータを使用して、ある期間、チャンネルに電気泳動を加える。ブロック33は、ブロック33の終了時にチャンネルの画像を得る。ブロック34は、標的DNAの既知の特性に基づき、チャンネルに沿った位置の範囲を特定する。例えば、チャンネルに沿った位置をDNAサイズと関係付ける所定の検量線35が提供されてもよい。一部の実施形態では、複数の異なる検量線35が提供される。異なる検量線は、チャンネル24において用いられ得る異なる媒体に適用され得る。
【0062】
ブロック34は、標的DNAが見出されるものと予想される位置又は位置の範囲を推定する。推定された位置は、電気泳動が実施されている時間の長さ、チャンネル24の媒体、電気泳動パラメータ及び標的DNAの特性(特にサイズ)の関数であってもよい。操作者が標的DNAのサイズ又はサイズ範囲を入力し得る。ブロック34は適切な検量線35を使用して、曲線27における標的DNAに対応する予想ピーク位置を特定し得る。ブロック36は範囲37(
図2Aを参照のこと)を設定し、曲線27において範囲37内にピークを探す。ピークの検出に成功した場合(例えばブロック39のYESの結果により決定されるとおり、そのピークが標的DNAの初期位置として特定される。一つの画像で標的DNAに対応するピークが特定された後、そのピークが後続の画像にわたり、チャンネルに沿ったその伝播に従い追跡され得る。電気泳動図プロファイルの顕著な特徴を実行時に特定してもよく、それを用いると、より速く動くサイズ基準が視野外に出るときのサイズ完全性の維持に役立ち得る。
【0063】
方法30は、DNAラダー及び/又は試料中のDNAに対応する1つ又は複数のピークを特定するために適用され得る。一部の実施形態では、標的DNAと異なる1つ又は複数のピークが上記に記載したとおり特定及び追跡される。標的DNAの現在の位置は、かかるピークに対して特定されてもよい。例えば、使用者が、標的DNAが1つ又は複数のかかるピークに先行する又は遅れると予想される量を指定してもよい。
【0064】
図4は、例示的実施形態に係る装置40を示す。装置40は、ロボット42により作業域43における目標の位置上に位置決めされ得るピペッター44を含むロボット42を含む。例えば、ロボット42は、シングルチャンネルピペットポンプを支持するXYZステージを含んでもよく、これはまた緩衝液負荷ライン及び先端吐出機構も支持する。供給プレート45が複数の供給ウェル45Aを含む。終着プレート46が複数の終着ウェル46Aを含む。作業域43内に複数のチャンネル47が提供される。
【0065】
ロボット42は、ピペッター44の位置を制御することができる制御器42Aを含む。制御器42Aは、例えば、以下によってチャンネルを負荷するようにロボット42を制御し得る:ステーション48Aでピペット先端48を拾い、選択された供給ウェル45Aの上にピペット先端を位置決めし、ピペット先端を降下させて供給ウェル45Aに入れ、ピペット先端45Aに流体を吸い込み、ピペット先端を上昇させて、その位置を選択されたチャンネル47の負荷ウェルの上に移し、ピペット先端を降下させて負荷ウェルに入れ、流体を供給ウェルに分注するようピペッターを操作し、ピペット先端を上昇させて、ピペット先端を使用済みピペット先端用の保管エリアに動かし、使用済みピペット先端を切り離す。
【0066】
制御器42Aは、例えば、以下によってチャンネルから標的DNAを回収するようにロボット42を制御し得る:ステーション48Aでピペット先端48を拾い、選択されたチャンネルの抜出ウェルの上にピペット先端を位置決めし、標的DNAの推定される到達の直前にピペット先端を降下させてチャンネルの抜出ウェルに入れ、標的DNAの予想される到達に対応する時間にわたりピペット先端45Aに流体を吸い込み、ピペット先端を上昇させて、その位置を再度終着ウェル46Aの上に移し、ピペット先端を降下させて終着ウェルに入れ、流体を終着ウェルに分注するようピペッターを操作し、ピペット先端を上昇させて、ピペット先端を使用済みピペット先端用の保管エリアに動かし、使用済みピペット先端を切り離す。
【0067】
本明細書に記載されるとおりの装置は、任意の合理的な数の試料を処理するように構成され得る。一部の実施形態では、本明細書に記載されるとおりの装置は、同時に96個の試料の自動サイズ選択を提供する。他の例示的実施形態では、装置は、同時に96個の試料の倍数を処理する。他の例示的実施形態は、他の数の試料を処理するように構成される。
【0068】
ロボット42として使用するのに好適なロボットは、市販されている。ロボット42として使用するのに好適なロボットはまた、市販の構成部品から当業者に公知の方法で作製されてもよい。
【0069】
装置40は撮像デバイス50を含み、それには、例えば、チャンネル47の画像を得るように配置されたカメラが含まれ得る。撮像デバイス50には、高ダイナミックレンジ撮像デバイスが含まれ得る。例えば、カメラ50又はカメラ50から画像を受け取るように接続された制御器が、検出可能なダイナミックレンジを広げるため異なる露光時間で撮られた画像を得て合成するように構成され得る。これにより、最も明るいバンドを飽和させることなしに不鮮明なバンドを見えるようにすることができる。
【0070】
光源52は、チャンネル47を照射して、チャンネルに沿って伝播する核酸の撮像を促進する。DNAが色素と会合される場合、光源は、色素の吸収帯に対応する光を発し得る(例えば色素のフルオロフォアを励起する波長に対応するバンド。光源52は、この範囲の外側の波長を遮断するフィルタを含み得る。例えば、SYBR Green(商標)色素は488nmの光を吸収する。光源は青色光を発してもよい。例えば、光源は、青色LEDのアレイを含み得る。それに代えて又は加えて、光源は紫外光を発してもよい。カメラ50は、色素の蛍光を選択的に通すフィルタを含んでもよい。例えば、SYBR Green(商標)色素は520nmの光を発する。カメラは、520nmの光を通過させるが、他の波長の光は減衰させる帯域通過フィルタ又はノッチフィルタを有してもよい。
【0071】
例えば、カメラは、カメラがチャンネル47から一定の距離にあるようにしてロボット42の構成部品に固定されてもよい。プロトタイプの実施形態では、カメラ50及びLED照明器52はロボット42のY軸アームに固定される。
【0072】
マルチチャンネル電気泳動電源54が、チャンネル47にわたり電気泳動電位を提供するように構成される。電源54は、単一のユニット又は複数の別個のユニットを含み得る。制御器55が、カメラ50から画像を受け取り、電源54を制御してロボット42の動作を連動させるように接続される。使用者インタフェース56により、使用者は制御入力及び情報を提供して装置40の操作を案内することが可能である。
【0073】
例示的なシステムの動作において、供給プレート45及び終着プレート46は、ピペット先端を収容する2つの先端ボックスと共に装填される。チャンネル47を含むプレートがデッキに設置され、電極アレイが、それらの電極がチャンネル47とチャンネルプレートの端部で電気的に接触するようにして置かれる。一部の実施形態では、電極は、各チャンネルの各端部の緩衝液ウェルに電極を導入することが可能な構造に取り付けられる。例えば、この装置は、各チャンネルに対応する第1及び第2の電極を有するヒンジ式フレームを含み得る。第1及び第2の電極はヒンジ式フレームに取り付けられてもよく、ヒンジ式フレームは、第1及び第2の電極がチャンネルの第1及び第2の緩衝液リザーバに突入する第1の位置と、第1及び第2の電極が第1及び第2の緩衝液リザーバから取り出される第2の位置との間を移動可能であり得る。
【0074】
制御ソフトウェアは、試料の位置(96ウェルプレート全体又はそれ未満又はそれを越える)、試料のタイプ及び1つ又は複数のチャンネルプレートの位置を用いて構成される。
【0075】
実行が始まると、チャンネルプレートの緩衝液ウェルが充填される。試料が順次(例えばロボットによりチャンネル47の負荷ウェル中に)負荷され、電気泳動が始まる。一実施形態では、オンボードカメラ50を使用して各チャンネル47における抜出ウェルの位置が特定されることにより、抜出ウェルの位置を手動で設定する必要が回避される。これにより、抜出ウェルをそれらのチャンネル47内で異なる位置に提供する可能性が促進される。
【0076】
一部の実施形態は、ピペット先端のY位置を計測及び/又は設定するための機構を含む。ピペット先端の正確な位置を知ることで、小さいウェルにおける核酸試料の精密な負荷及び回収が促進される。異なるピペット先端の端部は、ピペッターに取り付けられたときにロボットに対していくらか異なる位置にあり得るため、かかる機構は有用である。例示的実施形態では、機構はスイッチ(例えば、マイクロスイッチ、近接スイッチなどであってもよい)を含み、これはピペット先端がスイッチに対して所定の位置にあるときの状態を変化させる。スイッチは、ロボットの作業域における好都合な位置にあってよい。
【0077】
一部の実施形態では、スイッチは、未使用のピペット先端の供給部近傍に位置し、ロボットを動かしてピペット先端をスイッチと当接させることにより各新しいピペット先端のY位置が設定されるようにされる。かかる実施形態において、ピペット先端はスイッチの近傍に位置決めされ、次にスイッチに向かってY方向に、スイッチが状態を変化させるまで動かされてもよい。この機構を使用して、先端が装填された後に各ピペット先端の端部の位置を個々に計測してもよい。計測された位置を使用して、異なるピペット先端における僅かな整列のずれを補償し得る。示されるシステム40は、ピペット先端がY方向(チャンネル47と平行な方向)にスイッチに押し付けられたときに切り換わるように配置されるスイッチ49を含む。
【0078】
図5は、例示的なロボットを示す。
図5は、制御器及び電源を収容する下側デッキと、チャンネルプレート及び電極を収容する上側デッキとを示す。その上方には、ポンプを備えたピペット操作ヘッド、緩衝液送液システム並びにチャンネルの撮像用カメラ及びライトがある。
【0079】
図5Aは、例示的なデッキを示す。
図5Aは、デッキを所定位置に保つデッキロケータプレートを示す。先端ボックス、供給場所、終着プレート及びチャンネルプレートが全て、デッキに取り付けられる。少なくとも供給場所、終着プレート及びチャンネルプレートは、デッキから取り外し可能である。プレートをロケータピンに対して保持するスプリングピンが提供され、それによりプレートがデッキに据え付けられたときに、供給ウェル、終着ウェル及びチャンネルが既知の位置となる。
【0080】
図5Bは、カメラ50とLEDアレイ52とを含む例示的なカメラシステムを示す。LEDアレイ52は、一部の実施形態では青色フィルタによって被覆されたLEDの青色LEDなどの青色発光源を含む。
【0081】
例示的実施形態において、制御器55は、ソフトウェアにおいて提供される命令を実行するように構成されるプロセッサを含む。ソフトウェアは、使用者により入力されるデータに基づき実行プロトコル(どの試料をどのチャンネルで、どの順序で実行するか、及びそれぞれの抜出しが最後に行きつくのはどの終着ウェルか)を作成する。これは使用者にグラフィカルに伝えられる。
【0082】
図6は、例示的なグラフィック表示のスクリーンショットである。
図6は、実行途中のディスプレイを示す。試料が左下から始まって順次負荷されており、最初の2つと半分のプレートの実行が完了している。右側へと残りの試料が実行されていて、各チャンネルの状態が直近の画像に基づきグラフィカルに示される。最上面のプロットは、使用者により選択されたチャンネルの電気泳動図であり、サイズ基準ピーク59A及び標的領域59Bを示す。
【0083】
上記に記載したとおりのロボットと共に用いられ得るが、しかし他の適用も有し得る本発明の別の態様は、核酸の分離に使用されるチャンネルプレートを提供する。一部の実施形態では、プレートに1つ又は複数のチャンネルが提供される。プレートは、例えば、上記に記載したとおりロボットの作業域内に取り外し可能に置かれ得る。スラブ(例えばスラブゲル)とは対照的に、チャンネルにDNA分離媒体を提供することには、ある試料から他の試料への交差汚染の可能性が低下するという利点がある。
【0084】
図7は、例示的なチャンネルプレート80の平面図である。プレート80は、ロボット又は他の装置の作業域にプレート80を反復可能に位置決めすることを可能にする位置決めピン又は他の位置決め特徴を受け入れるための穴(
図7Aを参照のこと)又はノッチ(
図7Cを参照のこと)などの位置特徴81を含む。プレート80に沿って複数のチャンネル24が延在する。各チャンネル24は、好適な電気泳動媒体のストリップ25を含む。ストリップ25の各端部に緩衝液リザーバ25A、25Bが提供される。ストリップ25において緩衝液リザーバ25Aの近傍に負荷ウェル26Aが位置する。ストリップ25において負荷ウェル26Aから緩衝液リザーバ25Bに向かって離間された位置に抜出ウェル26Bが位置する。一部の適用では、異なるチャンネルの抜出ウェル26Bは互いに整列するが、しかしながらこれは必須ではない。一部の適用では、異なるチャンネル24のストリップ25に沿って異なる位置にある抜出ウェル26Bを提供することが、好都合であり得る。
【0085】
図7Aは、個々のチャンネル24の断面である。チャンネル24は、任意選択でストリップ25の両側面に小さいステップ状縁部を有する。例示される実施形態では、ステップ83が図示される。ステップ83は、角84を提供する。角84はストリップ25に沿って互いに平行に長さ方向に延在する。例示される実施形態では、角84は、プレート80の平坦な上面84A及び下面84Bに平行である。媒体86(例えばアガロースゲル、アクリルアミドゲルなど)が角84の高さまでストリップ25を充填する。ステップ83は、ストリップ85における材料86の上面をストリップ25の長さに沿って平坦にするのに役立つ。材料86がストリップ25に導入されるときに角84が存在することは、材料86の表面張力が材料86の表面にメニスカスを形成する傾向を低減するのに役立つ。材料86をその場所に機械的に固定するため、ストリップ25の端部近傍のストリップ25の壁に、小さいディボット又はディンプル89(
図7Cを参照のこと)などの任意選択の特徴が形成されてもよい。
【0086】
チャンネル24の寸法は様々であってよい。例示的実施形態において、ストリップ25は、約6〜12mm、好ましくは8〜10mmの範囲の深さを有する。例示的実施形態において、ストリップ25は、3mm〜11mm、好ましくは4mm〜7mmの幅を有する。しかしながら、本明細書に記載される原理は、他の寸法のチャンネルに適用されてもよい。
【0087】
プレート80は、好適なプラスチック又は他の電気絶縁材料で作製され得る。一部の実施形態では、プレート80は射出成形され、しかしながらプレート80はまた、機械加工又は任意の他の好適な方法で製造されてもよい。
【0088】
プレート80は、緩衝液リザーバ25A及び25Bを一時的にせき止めるか、又は充填し、且つ好適な量の固化可能な材料86をストリップ25に注入することにより調製され得る。好ましくは、材料86がキャストされる間、各緩衝液リザーバの全容積が充填され、材料86が緩衝液リザーバに流れ込むことができないようにされる。例えば、ストリップ25にアガロースゲルを、ゲルが液状形態にある間に注入し、次にストリップ25において固化させてもよい。各ストリップに導入される材料86の量は、材料の表面がちょうど角84の高さとなる程度あってよい。
【0089】
負荷ウェル及び抜出ウェルは、材料がストリップ25にキャストされている間に材料86に形成されてもよい。他の実施形態において、負荷ウェル及び/又は抜出ウェルは、材料86が固化した後に形成されてもよい。一部の実施形態では、負荷ウェル及び/又は抜出ウェルは、負荷コーム及び/又は抜出コームをストリップ25に沿った適切な位置に置くことにより形成される。
図7Bは例示的なコーム87を示す。各コーム87は一列のピン87Aを含む。コーム87は、プレート80上にストリップ25に対して横断方向に、コーム87が交差するチャンネル24のストリップ25にピン87Aが突入して配置されるように置かれ得る。
【0090】
プレート80は、コーム87を負荷ウェル及び/又は抜出ウェルの形成に望ましい整列状態に置くための位置決め特徴88を含み得る。位置決め特徴88の複数のセットを提供することにより、ストリップ25に沿った異なる位置における抜出ウェルの形成を促進してもよい。上述のとおり、実施される分離に適合した位置に抜出ウェルを提供することが望ましいこともある。負荷ウェル26Aと抜出ウェル26Bとの間の分離チャンネルの最良の長さは、DNA又は他の標的核酸の長さ及び目標とする分離程度に依存する。
【0091】
抜出ウェルの形成用コーム87は、負荷ウェルの形成に用いられるピン87Aよりいくらか幅の広いピン87Aを有し得る。ストリップ25の全幅に延在しない負荷ウェル26Aを提供することは、負荷ウェルの側面での試料の損失を回避するのに役立つ。抜出ウェル26Bは、ストリップ25の全幅又はストリップ25のほぼ全幅に延在してもよい。
【0092】
様々な実施形態が、負荷ウェルが抜出ウェルより幅広であるチャンネルを提供する。詳細な一例示的実施形態において、負荷ウェルは1.2×3.5×9mmの寸法を有し、抜出ウェルは1.2×5.5×9mmの寸法を有する(すなわち、負荷ウェルより2mm幅広である)。1.2×3.5×9mmの寸法を有する負荷ウェルにより、最大37.8μlの容積の試料を負荷することが可能になる。1.2×5.5×9mmの寸法を有する抜出ウェルにより、最大59.4μlの容積を引き込むことが可能になる。
【0093】
コーム87は、ウェルを形成するピン87Aがそれらの取り付けフレームにおいて僅かに(例えば約0.25mm)「浮く」ことができるように設計され得る。これにより、材料86が固化した後のコーム87の取り外しが促進される。
【0094】
1つ又は複数のチャンネル24を含むプレート80が、無菌包装に提供される予め調製されたカセットの形態で提供されてもよい。包装は、例えば、チャンネル24を露出させるため剥離され得る無菌カバーを含み得る。一部の実施形態では、カセットは、コームが負荷ウェル及び/又は抜出ウェルに挿入されて提供され得る。使用者は使用前にコームを取り除き得る。
【0095】
図7Cは、別の実施形態に係る例示的なチャンネルプレートの平面図である。
【0096】
図7Dは、チャンネル24への電気泳動媒体のキャストに備えてコーム87−1及び87−2が挿入されたチャンネルプレートの斜視図である。コーム87−1は、一部の実施形態ではコーム87−2より細いピンを有し得る。
【0097】
カメラは、複数のチャンネルを撮像し、同時にチャンネルの各々において1つ又は複数の基準画分の進行を追跡するのに好都合な手段を提供するが、カメラの代わりに他の手段が用いられてもよい。例えば、チャンネルに沿った位置の関数として核酸の濃度を計測するため、一次元ラインスキャナが提供され得る。さらに、カメラが上方からチャンネルを観察することは必須ではない。一部の実施形態では、チャンネルを有するトレーが、少なくともそれらのチャンネルの下にある部分において透明であり、カメラは下側からプレートを介してチャンネルを観察する。
【0098】
用語の解釈
文脈上明らかに別段の解釈を要する場合を除き、本記載及び特許請求の範囲の全体を通して:
・「〜を含む」、「〜を含んでいる」などは、排他的意味又は網羅的意味とは対照的に、包含的意味で;すなわち、「〜が包含されるが、限定はされない」という意味で解釈されるべきである。
・「接続される」、「結合される」、又はその任意の変化形は、直接的であれ、又は間接的であれ、2つ以上の要素の間の任意の接続又は結合を意味する;要素間の結合又は接続は、物理的なもの、論理的なもの、又はそれらの組み合わせであってよい。
・「本明細書では」、「上記の」、「以下の」、及び同様の意味の語句は、本明細書を記載するために用いられるとき、全体としての本明細書を指すものとし、本明細書のいかなる特定の一部分も指すものではない。
・2つ以上の項目のリストに関連して「又は」は、その語句の以下の解釈を全て網羅する:リスト中の項目のいずれか、リスト中の項目の全て、及びリスト中の項目の任意の組み合わせ。
・単数形「a」、「an」及び「the」は、任意の適切な複数形の意味も包含する。
【0099】
本記載において、及び任意の添付の特許請求の範囲において(存在する場合)用いられる方向を指示する語句、例えば「垂直」、「横」、「水平」、「上向き」、「下向き」、「前」、「後ろ」、「内向き」、「外向き」、「垂直」、「横」、「左」、「右」、「表」、「裏」、「上部」、「下部」、「下側」、「上側」、「下方」などは、記載及び図示される装置の具体的な向きに依存する。本明細書に記載される主題は、様々な代替的な向きを想定し得る。従って、これらの方向に関する用語は厳密に定義されるものでなく、狭義に解釈されてはならない。
【0100】
本発明の実施形態は、特別に設計されたハードウェア、構成可能なハードウェア、データプロセッサ上で実行可能なソフトウェア(これは任意選択で「ファームウェア」を含み得る)の提供により構成されるプログラム可能なデータプロセッサ、本明細書に詳細に説明されるとおりの方法における1つ又は複数のステップを実施するように特別にプログラムされ、構成され、又は構築された専用コンピュータ又はデータプロセッサ、及び/又はこれらの2つ以上の組み合わせを使用して実装され得る。特別に設計されたハードウェアの例は、論理回路、特定用途向け集積回路(「ASIC」)、大規模集積回路(「LSI」)、超大規模集積回路(「VLSI」)などである。構成可能なハードウェアの例は、1つ又は複数のプログラマブル論理デバイス、例えば、プログラマブルアレイ論理(「PAL」)、プログラマブル論理アレイ(「PLA」)及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(「FPGA」))である。プログラム可能なデータプロセッサの例は、マイクロプロセッサ、デジタルシグナルプロセッサ(「DSP」)、組み込みプロセッサ、グラフィックプロセッサ、数値演算コプロセッサ、汎用コンピュータ、サーバコンピュータ、クラウドコンピュータ、メインフレームコンピュータ、コンピュータワークステーションなどである。例えば、デバイス用の制御回路における1つ又は複数のデータプロセッサが、プロセッサがアクセス可能なプログラムメモリにおけるソフトウェア命令を実行することにより、本明細書に記載されるとおりの方法を実装し得る。
【0101】
処理は集中型であっても、又は分散型であってもよい。処理が分散型である場合、ソフトウェア及び/又はデータを含む情報は集中保管されても、又は分散させてもよい。かかる情報は、ローカルエリアネットワーク(LAN)、広域ネットワーク(WAN)、又はインターネット、有線又は無線データリンク、電磁信号、又は他のデータ通信路などの通信網を経由して異なる機能ユニット間で交換され得る。
【0102】
例えば、プロセス又はブロックが所与の順序で提示される場合、代替的な例は、異なる順序でステップを有するルーチンを実施し、又は異なる順序でブロックを有するシステムを用いてもよく、一部のプロセス又はブロックを削除し、移動させ、追加し、分割し、組み合わせ、及び/又は修正することにより、代替例又は部分的な組み合わせを提供してもよい。これらのプロセス又はブロックの各々は、様々な異なる方法で実装され得る。また、プロセス又はブロックはときに順次実施されるものとして示されるが、これらのプロセス又はブロックは、代わりに並行して実施されてもよく、又は異なる時点で実施されてもよい。加えて、要素はときに連続的に実施されるものとして示されるが、代わりに要素は、同時に又は異なる順番で実施されてもよい。
【0103】
ソフトウェア及び他のモジュールは、サーバ、ワークステーション、パーソナルコンピュータ、組み込みプロセッサ、プロセス制御器、タブレットコンピュータ、及び本明細書に記載される目的に好適な他のデバイスにあってもよい。
【0104】
本発明はまた、プログラム製品の形態で提供され得る。プログラム製品は、データプロセッサにより実行されるとデータプロセッサに本発明の方法を実行させる一組のコンピュータ可読命令を有する任意のトランジトリでない(non−transitory)媒体を含み得る。例えば、コンピュータ可読命令は、本明細書に記載されるとおりのロボット核酸サイズ分けシステムを制御し、及び/又は本明細書に記載されるとおりの核酸サイズ分けシステムにおける操作をスケジュールするようコンピュータをプログラムし得る。本発明に係るプログラム製品は、多種多様な形態のいずれであってもよい。プログラム製品は、例えば、磁気データ記憶媒体、例えばフロッピーディスケット、ハードディスクドライブ、光学データ記憶媒体、例えばCD ROM、DVD、電子データ記憶媒体、例えばROM、フラッシュRAM、EPROM、配線チップ又は事前にプログラムされたチップ(例えば、EEPROM半導体チップ)、ナノテクノロジーメモリなどのトランジトリでない媒体を含み得る。プログラム製品上のコンピュータ可読信号は、任意選択で圧縮又は暗号化され得る。
【0105】
一部の実施形態では、本発明はソフトウェアに実装されてもよい。さらに明確にするため、「ソフトウェア」には、プロセッサ上で実行される任意の命令が含まれ、(限定はされないが)ファームウェア、常駐ソフトウェア、マイクロコードなどを挙げることができる。処理ハードウェア及びソフトウェアのいずれも、当業者に公知のとおり、全体として、又は部分的に、集中型又は分散型(又はそれらの組み合わせ)であってよい。例えば、ソフトウェア及び他のモジュールは、ローカルメモリを経由して、ネットワークを経由して、分散コンピューティングコンテキストにおけるブラウザ又は他のアプリケーションを経由して、又は上記に記載される目的に好適な他の手段を経由してアクセス可能であってよい。
【0106】
上記で構成要素(例えばソフトウェアモジュール、プロセッサ、アセンブリ、デバイス、回路等)が参照される場合、特に指示されない限り、当該の構成要素に対する言及は(「〜を意味する」との言及を含め)、本発明の示される例示的実施形態の機能を実施する本開示の構造と構造的には等価でない構成要素を含め、当該の構成要素の均等物として、記載される構成要素の機能を実施する(すなわち、機能的に等価な)任意の構成要素を含むものとして解釈されなければならない。
【0107】
システム、方法及び装置の具体例は、説明を目的として本明細書に記載されている。これらは例に過ぎない。本明細書に提供される技術は、上記に記載される例示的なシステム以外のシステムに適用することができる。本発明の実施の範囲内で多くの代替、変更、追加、省略及び並べ替えが可能である。本発明は、以下により得られる変形例を含め、当業者には明らかであろう記載される実施形態に関する変形例を包含する:特徴、要素及び/又は動作を等価な特徴、要素及び/又は動作に置き換える;異なる実施形態の特徴、要素及び/又は動作を混ぜて適合させる;本明細書に記載されるとおりの実施形態の特徴、要素及び/又は動作を、他の技術の特徴、要素及び/又は動作と組み合わせる;及び/又は記載される実施形態の特徴、要素及び/又は動作を組み合わせることを省略する。
【0108】
従って、以下の添付の特許請求の範囲及び今後組み込まれるクレームは、合理的に推論され得るとおりのかかる変更形態、並べ替え形態、追加形態、省略形態及び部分的組み合わせ形態を全て包含するものと解釈されることが意図される。特許請求の範囲の範囲が、これらの例に示される好ましい実施形態により限定されてはならず、全体として本記載と一致する最も広義の解釈が与えられなければならない。
【0109】
数多くの例示的な態様及び実施形態が上記で考察されているが、当業者は、その特定の変更形態、並べ替え形態、追加形態及び部分的組み合わせ形態を認識するであろう。従って、以下の添付の特許請求の範囲及び今後組み込まれるクレームは、かかる変更形態、並べ替え形態、追加形態及び部分的組み合わせ形態を全て包含するものと解釈されることが意図される。