特許第6285864号(P6285864)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6285864イン・サイテュ重合で得られる熱可塑性(メタ)アクリル樹脂の複合材料と、その使用
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  • 特許6285864-イン・サイテュ重合で得られる熱可塑性(メタ)アクリル樹脂の複合材料と、その使用 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6285864
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】イン・サイテュ重合で得られる熱可塑性(メタ)アクリル樹脂の複合材料と、その使用
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20180215BHJP
【FI】
   C08J5/04CEY
【請求項の数】16
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-536144(P2014-536144)
(86)(22)【出願日】2012年10月19日
(65)【公表番号】特表2014-530928(P2014-530928A)
(43)【公表日】2014年11月20日
(86)【国際出願番号】EP2012004381
(87)【国際公開番号】WO2013056845
(87)【国際公開日】20130425
【審査請求日】2015年10月16日
(31)【優先権主張番号】1159553
(32)【優先日】2011年10月21日
(33)【優先権主張国】FR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100092277
【弁理士】
【氏名又は名称】越場 隆
(72)【発明者】
【氏名】ジェラール, ピエール
(72)【発明者】
【氏名】グロタン,ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】ホッシュテッター,ジル
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−225013(JP,A)
【文献】 特開平04−226740(JP,A)
【文献】 特開昭49−083761(JP,A)
【文献】 特開2000−336176(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第1548168(CN,A)
【文献】 特開2007−106023(JP,A)
【文献】 特開昭64−082697(JP,A)
【文献】 米国特許第03287155(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B11/16
15/08〜15/14
C08J 5/04〜 5/10
5/24
B29C41/00〜41/36
41/46〜41/52
45/00〜45/24
45/46〜45/63
45/70〜45/72
45/74〜45/84
70/00
70/06
70/10〜70/12
70/30
70/52
70/58
70/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)と(b):
(a)ポリマー状の熱可塑性(メタ)アクリルマトリクス、
(b)強化材としてのガラス繊維および炭素繊維から選択される繊維材料、
を含むポリマー複合材料であって、
上記繊維材料アスペクト比が少なくとも1000である繊維であるか、巨視的に二次元構造を有する繊維材料から成り、
上記ポリマー状の熱可塑性(メタ)アクリルマトリクス(a)の重量平均分子量は100,000g/mol以上であり、
上記ポリマー複合材料は上記繊維材料を全組成に対して少なくとも40重量%且つ80重量%以下の比率で含み、
上記熱可塑性(メタ)アクリルマトリクス(a)は80〜99.7重量%のメチルメタクリレート(MMA)と、0.3〜20重量%のメチルメタクリレートと共重合可能な少なくとも一種のエチレン性不飽和基を有する少なくとも一種のモノマーとのコポリマーから成り、
上記繊維材料と上記熱可塑性(メタ)アクリルマトリクスは繊維材料を重合前にポリマー状の熱可塑性(メタ)アクリルを形成するモノマーを含む液体シロップで湿らす段階で互いに接触され、この液体シロップの25℃での動的粘度10mPa*s〜10000mPa*sであり、
上記液体シロップは追加の溶剤を含まない
ことを特徴とするポリマー複合材料。
【請求項2】
上記液体シロップの25℃での動的粘度50mPa*s〜5000mPa*sである請求項1に記載のポリマー複合材料。
【請求項3】
繊維材料が繊維マット、不織布、織成ロービング、編成可能な繊維、またはこれらの混合物の形をしている請求項1または2に記載のポリマー複合材料。
【請求項4】
重量平均分子量が100,000g/mol以上であるポリマー状の熱可塑性(メタ)アクリルマトリクス(a)と、強化材としてのガラス繊維および炭素繊維から選択される繊維材料(b)とを含むポリマー複合材料の製造方法であって、
上記繊維材料はアスペクト比が少なくとも1000である繊維であるか、巨視的に二次元構造を有する繊維材料から成り、ポリマー複合材料は上記繊維材料を全組成に対して少なくとも40重量%且つ90重量%以下の比率で含み、上記熱可塑性(メタ)アクリルマトリクス(a)は80〜99.7重量%のメチルメタクリレート(MMA)と、0.3〜20重量%のメチルメタクリレートと共重合可能な少なくとも一種のエチレン性不飽和基を有する少なくとも一種のモノマーとのコポリマーから成り、
上記繊維材料と上記熱可塑性(メタ)アクリルマトリクスを、繊維材料を重合前にポリマー状の熱可塑性(メタ)アクリルを形成するモノマーを含む液体シロップで湿らす段階で互いに接触させ、この液体シロップの25℃での動的粘度を10mPa*s〜10000mPa*sにし
上記液体シロップは追加の溶剤を含まない
ことを特徴とするポリマー複合材料の製造方法。
【請求項5】
上記液体シロップが一種または複数のモノマーに溶解したオリゴマーまたはポリマーを含む請求項に記載のポリマー複合材料の製造方法。
【請求項6】
繊維材料を湿らせる段階を閉じた金型内で行う請求項4または5に記載のポリマー複合材料の製造方法。
【請求項7】
繊維材料を湿らす段階を閉じた金型内に樹脂をトランスファー成形または注入(infusion)して行う請求項4または5に記載のポリマー複合材料の製造方法。
【請求項8】
上記液体シロップ中の一種または複数のモノマーの比率が少なくとも40重量%である請求項のいずれか一項に記載のポリマー複合材料の製造方法。
【請求項9】
下記(a)と(b)の段階を含む請求項1〜のいずれか一項に記載のポリマー複合材料を含む機械部品または構造部品または物品の製造方法:
(a)繊維基材に上記液体シロップを含浸し、
(b)上記繊維基材に含浸させた上記液体シロップを重合する。
【請求項10】
(a)の段階の繊維基材の含浸を閉じた金型内で実行する請求項に記載の製造方法。
【請求項11】
(a)の段階と(b)の段階を同じ閉じた金型内で実行する請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜のいずれか一項に記載のポリマー複合材料を用いて製造された機械部品または構造部品または物品。
【請求項13】
請求項のいずれか一項に記載のポリマー複合材料の製造方法で得られたポリマー複合材料から製造された機械部品または構造部品または物品。
【請求項14】
気孔を基本的に有しない請求項12または13に記載の機械部品または構造部品または物品。
【請求項15】
請求項1214のいずれか一項に記載の機械部品または構造部品または物品の、自動車、海洋、鉄道、スポーツ、航空または宇宙、太陽光発電、コンピュータ、通信および風力エネルギーの用途での使用。
【請求項16】
自動車部品、船舶部品、列車部品、スポーツ用品、航空機またはヘリコプター部品、宇宙船またはロケット部品、太陽電池モジュール部品、風力タービン部品、家具部品、建設または建築部品、電話または携帯電話部品、コンピュータまたはテレビ部品、プリンタおよびコピー部品である請求項1214のいずれか一項に記載の機械部品または構造部品または物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂を繊維材料と一緒にイン・サイテュ重合(系中重合またはその場重合、in situ polymerization)して得られる複合材料に関するものである。
本発明は特に、熱可塑性(メタ)アクリル樹脂と長繊維を含む繊維材料とをイン・サイテュ重合して得られるポリマー複合材料と、その使用と、この複合材料の製造方法と、このポリマー複合材料から製造された機械部品、構造部品または物品とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
複合材料は互いに混和しない2種以上の材料を巨視的に組み合せたものである。この複合材料は構造物の連続相を形成する少なくとも一つのマトリクス材料を構成し、種々の構造を有する材料の機械特性を強化する材料を構成する。
【0003】
複合材料を使用する目的は、単独で使用した場合には個々の成分からは得られない性能を複合材料にして得ることにある。複合材料は均一材料と比較して優れた機械性能(より高い引張強度、引張係数、破壊靭性)を有し、密度が小さくなるので、多くの工業分野、例えば建築、自動車、航空宇宙、運送、レジャー、エレクトロニクスおよびスポーツの分野で広く使用されている。
【0004】
工業的規模での販売量の点で最大の複合材料は有機マトリクスを有する複合材料であり、そのマトリクス材料は一般にポリマーである。ポリマー複合材料の主たるマトリクスまたは連続相は熱可塑性ポリマーまたは熱硬化性ポリマーである。
【0005】
熱硬化性ポリマーは架橋した三次元構造物から成り、この架橋はいわゆるプレポリマー内部の反応基の硬化によって得られる。硬化(curing)は例えばポリマー鎖を加熱して材料を永久的に架橋、硬化(harden)することによって得られる。ポリマー複合材料を製造する際にはプレポリマーを他の成分(例えば、粒状複合材料の場合にはガラスビーズ、繊維複合材料の場合には短繊維)、その他の成分を混合し、湿らせまたは含浸し(例えば織成ネット)、その後に硬化する。熱硬化性ポリマー用のプレポリマーまたはマトリクス材料の例は不飽和ポリエステル、ビニルエステル、エポキシまたはフェノール系材料である。
【0006】
熱硬化性ポリマーマトリクスの欠点は剛い点(剛性)にある。すなわち、このマトリクスは簡単に他の形に成形することができない。また、ポリマーが一旦硬化した後にはその形態が固定される。そのため熱硬化性複合材料は再生利用が難しく、セメント工場で燃やすか、廃棄物集積場に投棄される。
【0007】
熱可塑性ポリマーは架橋されていない直鎖または分岐鎖のポリマーから成る。熱可塑性ポリマーは加熱され、複合材料を製造するのに必要な2つの成分と混合され、成形後に冷却、硬化(setting)される。
【0008】
複合材料の製造で熱可塑性ポリマーの使用を制限している原因は溶融状態での粘度が高いことにある。繊維を熱可塑性ポリマーで湿潤させ、または正確に含浸させることができるのは熱可塑性樹脂が十分に流動性を有する場合だけである。鎖長(分子量)を小さくすることで熱可塑性ポリマーの粘度を下げ、十分な流動性を得ることができる。しかし、過度に分子量を下げると複合材料の性能、特に機械特性に悪影響を与える。また、熱可塑性ポリマーの温度を上げることで粘度を大きく下げることもできる。その場合には、連続加工温度はかなり高く、200℃以上になり、エネルギーコストが高くなるため複合材料の経済的な面(コスト)に直接影響する。
【0009】
さらに、温度が非常に高くなると熱可塑性ポリマーは劣化し易い。特に、融点の高い半結晶熱可塑性ポリマー、例えばポリアミド(例えばPA6.6)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)またはポリフェニレンスルフィド(PPS)の場合である。この熱劣化によって複合材料の凝集性(cohesion)に重要なポリマーマトリクスの分子量が低下する。
【0010】
繊維基材を含浸する他の方法は熱可塑性ポリマーを有機溶剤に溶かすことである。しかし、この方法は蒸発させなければならない溶剤を多量に必要とする。溶剤の大量使用にはエネルギーおよび汚染の観点から環境問題が存在する。
【0011】
従って、熱可塑性複合材料を用いた強化材料の製造方法、特に連続方法にはいくつかの制限または欠点がある。そのため、繊維材料を含浸する際の初期粘度が熱硬化性複合材料と同程度に低く、製造サイクル時間が短く、複雑な形を連続生産プロセスで製造可能な熱可塑性複合材料に対するニーズがある。
【0012】
特許文献1(米国特許第US2009/0169867号明細書)には複合材料とその製造方法が記載されている。そのポリマーマトリクスは(メタ)アクリルエステルモノマーを含むエチレン性不飽和基モノマーの乳化重合のポリマー粒子を含む水性バインダー組成物の硬化または乾燥で得られる。複合材料の基材は繊維材料から選択できる。
【0013】
特許文献2(米国特許第US 7,723,408号明細書)にはマトリクス材料がPMMAであるのが好ましい熱可塑性ポリマーから成る複合材料が記載されている。充填材は金属皮膜を有するガラス繊維から成る。マトリクスと充填材を乾式混合または溶液混合する。
【0014】
特許文献3(欧州特許第EP0134973号公報)には繊維マット強化ポリアリーレンスルフィド複合材料とその製造方法が記載されている。2つの成分を加圧下で加熱して繊維を熱可塑性ポリマーと接触させるか、キャリア液体中で繊維マットにポリフェニレンスルフィドのスラリーを含浸した後に、乾燥段階を実施して液体を除去し、その後に加熱段階を実施する。
【0015】
特許文献4(米国特許第US 2002/0115748号明細書)には、アミノシランカップリング剤を含むガラス繊維強化スチレン熱可塑性複合材料が記載されている。スチレンコポリマーをカップリング剤およびガラス繊維と混合してマトリクス樹脂とガラス繊維との間の表面接着を改良する。この方法は繊維およびポリマーマトリクスの両方と混合可能な第三成分を必要とする。
【0016】
特許文献5(カナダ国特許第CN1548168号公報)には、骨修復用の連続炭素繊維強化複合材料が記載されている。繊維にメチルメタクリレート(MMA)またはそのオリゴマーを引き抜き成形法またはボディキャスティング(body casting)によって含浸する。MMAに屈曲性長鎖アクリルモノマーを少なくとも5重量%で添加し、材料の脆性を克服する。
【0017】
特許文献6(フランス国特許第FR1374046号公報)にはアクリルモノマーの重合方法、特に、塩化錫および有機過酸化物の存在下で(メタ)アクリルモノマー−ポリマーシロップから硬化生成物を重合する方法が記載されている。
【0018】
上記の従来技術には繊維複合材料用の熱可塑性ポリマーマトリクスとしてPMMAが挙げられており、熱硬化性マトリクスを架橋するためにアクリルモノマーまたは官能基を用いることが示されている。しかし、本発明のメタクリルマトリクスをベースにした熱可塑性繊維複合材料は全く記載がない。
【0019】
また、最終重合段階の前に繊維材料と熱可塑性(メタ)アクリルマトリクスとを接触させる本発明の熱可塑性複合材料は全く記載がない。
【0020】
驚くべきことに、本発明者は下記(a)および(b)を含む複合材料が満足のいく機械特性を有するということを見出した:
(a)ポリマー状の熱可塑性(メタ)アクリルマトリクス、
(b)繊維の少なくともアスペクト比が少なくとも1000であるか、少なくとも巨視的に二次元構造を有する強化材としての繊維材料。
【0021】
驚くべきことに、本発明者は下記(a)および(b):
(a)ポリマー状の熱可塑性(メタ)アクリルマトリクス、
(b)繊維の少なくともアスペクト比が少なくとも1000であるか、少なくとも巨視的に二次元構造を有する強化材としての繊維材料、
を含む複合材料は、繊維材料を、重合前に、上記ポリマー状熱可塑性(メタ)アクリルを形成するモノマーを含む液体シロップで湿らさせてポリマー状の熱可塑性(メタ)アクリルマトリクスと繊維材料とを接触させ、上記液体シロップの25°Cでの動的粘度を10mPa*s〜10000mPa*s、好ましくは50mPa*s〜5000mPa*s、有利には100mPa*s〜1000mPa*sにする方法によって容易に製造できるということを見出した。
【0022】
本発明者はさらに、満足のいく機械特性を有し、複合材料のその他の所望特性を有する下記(a)および(b):
(a)ポリマー状の熱可塑性(メタ)アクリルマトリクス、
(b)強化材としての繊維材料、
を含むポリマー複合材料は、ポリマー状の熱可塑性(メタ)アクリルを形成するモノマーを含む液体シロップで繊維材料を重合前に湿らせる段階を含む方法によって製造できるということを見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】米国特許第US2009/0169867号明細書
【特許文献2】米国特許第US 7,723,408号明細書
【特許文献3】欧州特許第EP0134973号公報
【特許文献4】米国特許第US 2002/0115748号明細書
【特許文献5】カナダ国特許第CN1548168号公報
【特許文献6】フランス国特許第FR1374046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明の目的は上記の問題点を解決することにある。
本発明の目的は、ポリマーマトリクスが高分子量である、満足のいく機械特性を有し、容易に製造でき、変形加工および成形が可能なポリマー複合材料を得ることである。
本発明の他の目的は、大型部品を迅速かつ容易に(短いサイクル時間で)製造でき、しかも、ポリマーマトリクスを容易に再利用でき、修復できる、強化材料として連続繊維を有する、ポリマー複合材料を得ることにある。
【0025】
本発明のさらに他の目的は、繊維材料を正確かつ完全に湿潤し、連続繊維を有するポリマー複合材料を高速生産できることを特徴とする、大型のおよび/または複雑な形態の物品を得る方法を得ることである。
本発明のさらに他の目的は、満足のいく機械的特性、例えば高剛性および少なくとも15GPaの弾性率を有する熱可塑性複合材料を含む構造的部品を得ることである。
【0026】
本発明のさらに他の目的は、含浸中に繊維基材を完全、正確に且つ均一的に湿らすことである。繊維湿潤のいかなる欠陥、例えば気泡および空隙(void)によるいかなる欠陥も複合材料の機械的性能を低下させる。
本発明の他の目的は、品質基準を満たさない複合材料または摩滅した構造的部品の再生利用である。アンダーリサイクリング(under recycling)は使用済みの原料の少なくとも一部を回収することと理解される。これは熱可塑性ポリマーを粉砕および再使用することを意味する。これはさらに、例えば、複合材料の熱可塑性マトリクスからモノマーを回収できることを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0027】
第1の観点から、本発明の対象は下記(a)と(b)を含む複合材料にある:
(a)ポリマー状の熱可塑性(メタ)アクリルマトリクス、
(b)少なくとも繊維のアスペクト比が少なくとも1000であるか、巨視的に少なくとも二次元の構造を有する強化材としての繊維材料。
【0028】
第2の観点から、本発明の対象は下記(a)と(b)を含む複合材料にある:
(a)メチルメタクリレートのホモまたはコポリマーまたはこれらの混合物から選択されるポリマー状の熱可塑性(メタ)アクリルマトリクス、
(b)強化材としての繊維材料。
【0029】
第3の観点から、本発明の対象は、下記(a)と(b):
(a)ポリマー状の熱可塑性(メタ)アクリルマトリクス、
(b)強化材としての繊維材料、
を含む複合材料の製造方法であって、重合前にポリマー状の熱可塑性(メタ)アクリルを形成するモノマーを含む液体シロップで繊維材料を湿らす段階を含む方法にある。
【0030】
第4の観点から、本発明の対象は下記(a)と(b):
(a)ポリマー状の熱可塑性(メタ)アクリルマトリクス、
(b)少なくとも繊維のアスペクト比が少なくとも1000であるか、巨視的に少なくとも二次元の構造を有する強化材としての繊維材料、
を含む複合材料の、自動車、海洋、鉄道、スポーツ、航空宇宙、太陽光発電および風力エネルギーの用途での使用にある。
【0031】
第5の観点から、本発明の対象は、上記ポリマー複合材料で作られた機械部品または構造部品または物品にある。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】注入法と金型の簡単なスキームを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本明細書で「(メタ)アクリル」とは任意のアクリルおよびメタクリルモノマーを意味する。
本明細書で「PMMA」とはメチルメタクリレート(MMA)のホモポリマーおよびコポリマーを意味する。MMAのコポリマーでのMMAの重量比はPMMAの少なくとも70重量%である。
本明細書で「熱可塑性ポリマー」とは加熱した時に液体に変化する、または、より液状になる、または、より粘性が低くなり、熱と圧力を加えることで新たな形状を取ることができるポリマーを意味する。
本明細書で「熱硬化性ポリマー」とは、硬化によって不溶融性、不溶性のポリマーネットワークへ不可逆的に変化する軟かい固体または粘性状態にあるプレポリマーを意味する。
本明細書で「ポリマー複合材料」とは互いに異なる複数の相領域を有する多成分材料を意味し、その少なくとも一つのタイプの相領域が連続相で、少なくとも一つの成分がポリマーである。
【0034】
本明細書で「含浸」とは、モノマー、オリゴマーまたはポリマー液体またはこれらの混合物を繊維集合体に浸透させることを意味する。
本明細書で「プリプレグ」とは、硬化性プレポリマーまたは液体反応物または熱可塑性樹脂が含浸された、ラミネートを直ちに製造できる基材のシートを意味する。
本明細書で「湿らせる、湿潤」とは、固体と気体の界面を同じ固体と液体の界面で置換するプロセスを意味する。
本発明で「高分子量」とはGPCで測定した重量平均分子量をMwが>50000g/molであることを意味する。
【0035】
本発明で繊維の「アスペクト比」とは、繊維の長さと直径の比を意味する。
本発明で繊維材料の「二次元構造物」とは、繊維が単繊維ではなく、互いに接触して少なくとも二次元構造物、例えば不織布またはネットまたはファブリックの形態の二次元構造物を形成することを意味する。
本発明で「イン・サイテュ重合(系中重合またはその場重合、in situ polymerization)」とは、複合材料のポリマー状の熱可塑性マトリクスの最終重合を繊維強化材料の周りで実行して熱可塑性複合材料を直接得ることを意味する。
【0036】
熱可塑性(メタ)アクリルマトリクスは熱可塑性ポリマー、例えばポリアルキルメタクリレートまたはポリアルキルアクリレートを挙げることができる。アルキル基または対応するアルキルメタクリレートまたはアルキルアクリレートモノマーはC1−C12アルキル基を有する。
好ましい実施例の熱可塑性(メタ)アクリルマトリクスはポリメチルメタクリレート(PMMA)である。
【0037】
「PMMA」とは、少なくとも70重量%、好ましくは少なくとも80重量%、有利には少なくとも90重量%、さらに有利には少なくとも95重量%のメチルメタクリレートを含むメチルメタクリレート(MMA)のホモポリマーまたはコポリマーか、MMAの少なくとも一種のホモポリマーと少なくとも一種のコポリマーとの混合物、または、重量平均分子量が異なるMMAの少なくとも2種のホモポリマーと2種のコポリマーの混合物、または、モノマー組成が異なるMMAの少なくとも2種のコポリマーの混合物を意味する。
【0038】
メチルメタクリレート(MMA)のコポリマーは70〜99.7重量%のメチルメタクリレートと、0.3〜30重量%のメチルメタクリレートと共重合可能な少なくとも一つのエチレン性不飽和基を有する少なくとも一種のモノマーとを含む。これらのモノマーは周知で、特にスチレン、α−メチルスチレン、アクリルおよびメタクリル酸および、アルキル基が1〜12の炭素原子を有するアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。一例として、メチルアクリレートおよびエチル、ブチルまたは2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートが挙げられる。コモノマーはアルキル基が1〜4の炭素原子を有するアルキルアクリレートであるのが好ましい。
【0039】
好ましい実施例では、メチルメタクリレート(MMA)のコポリマーは、80〜99.7重量%、有利には90〜99.7重量%、さらに好ましくは90〜99.5重量%のメチルメタクリレートと、0.3〜20重量%、有利には0.3〜10重量%、さらに有利には0.5〜10重量%のメチルメタクリレートと共重合可能な少なくとも一種のエチレン性不飽和基を有する少なくとも一種のモノマーを含む。コモノマーはメチルアクリレートまたはエチルアクリレートまたはこれらの混合物であるのが好ましい。
【0040】
熱可塑性(メタ)アクリルマトリクスの重量平均分子量は高いほうがよい。すなわち、50,000g/mol以上、好ましくは100,000g/mol以上であるのが好ましい。重量平均分子量はサイズ排除クロマトグラフィ(SEC)で測定できる。
【0041】
強化材料としては繊維材料を挙げることができる。繊維材料は種々の形態および一次元、二次元または三次元の次元をとることができる。一次元形態は線形長繊維である。この繊維は不連続または連続繊維にすることができる。繊維はランダムまたは互いに平行な連続フィラメントとして配置できる。繊維はそのアスペクト比(繊維の長さと直径の比)で規定される。本発明で使用する繊維は長繊維または連続繊維である。繊維のアスペクト比は少なくとも1000、好ましくは少なくとも1500、より好ましくは少なくとも2000、有利には少なくとも3000、さらに有利には少なくとも5000である。
【0042】
二次元形態は繊維マットまたは不織布強化材または織成ロービングまたは繊維束であり。編成されていてもよい。三次元形態は例えば積層または折り畳まれた繊維マットまたは不織布強化材または繊維の束またはこれらの混合物、二次元形態を第3次元に組み立てたものである。
【0043】
繊維材料の天然または合成起源刃物にすることがきる。天然材料としては植物繊維、木質繊維、動物繊維または鉱物繊維が挙げられる。天然繊維は例えばサイザル、ジュート、麻、亜麻、綿、ココナツ繊維およびバナナ繊維である。動物繊維は例えば羊毛または毛髪である。合成繊維としては熱硬化性ポリマー、熱可塑性ポリマーまたはこれらの混合物の繊維の中から選択されるポリマー繊維が挙げられる。
【0044】
ポリマー繊維はポリアミド(脂肪族または芳香族)、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂およびビニルエステルで作ることができる。
無機繊維はガラス繊維、特にE, RまたはS2タイプのもの、炭素繊維、ホウ素繊維またはシリカ繊維から選択できる。本発明の繊維材料は植物繊維、木質繊維、動物繊維、無機繊維、合成ポリマー繊維、ガラス繊維、炭素繊維またはこれらの混合物から選択される。
【0045】
熱可塑性(メタ)アクリルマトリクスの重合方法にはラジカル重合、アニオン重合または光重合が挙げられる。
熱可塑性アクリルマトリクスは架橋されない。架橋されないとは、モノマー中の二つ以上の重合性基を有する二つまたはそれ以上の官能基を有するモノマーを用いないことを意味する。重合中に起こる可能性のある二次反応、例えば、グラフト反応または分岐反応(例えば少数のポリマー鎖中のいくつかの架橋点)が生じることは本発明の範囲に含まれる。換言すれば、架橋されないとは三次元網目構造が全く得られないこと、ポリマーマトリクスがそれぞれのポリマーに適した溶剤中で膨潤性ではないこと、ポリマーマトリクスが溶剤に依然として可溶であることと理解しなければならない。
【0046】
ラジカル重合開始剤は、ジアシル過酸化物、ペルオキシエステル、ジアルキルペルオキシド、ペルオキシアセタールまたはアゾ化合物から選択できる。適切なラジカル重合開始剤は例えばイソプロピルカーボネート、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酸化カプロイル、過酸化ジクミル、tert-過安息香酸ブチル、tert-過(2-エチルヘキサン酸)ブチル、クミルヒドロペルオキシド、1, 1-ジ(tert-ブチルぺルオキシ) -3, 3, 5-トリメチル-シクロヘキサン, tert-ブチルペルオキシイソブチレート、tert-過酢酸ブチル、tert-過ピバル酸ブチル、過ピバル酸アミル、tert-ブチルぺルオクトエート、アゾビスイソブチロニトリル (AIBN)、アゾビスイソブチルアミド、2,2'-アゾ-ビス (2, 4-ジメチルバレロニトリル)または4, 4' _アゾビス(4-シアノペンタン)である。上記リストから選択されるラジカル重合開始剤の混合物を使用しても本発明の範囲を逸脱するものではない。好ましいラジカル開始剤はアゾビスイソブチロニトリルである。
【0047】
金型中に注入される混合物のモノマーに対するラジカル開始剤の含有量は100〜2000ppm(重量)、好ましくは200〜1000重量ppmで変化する。
他の成分、例えば分子量を制御するための連鎖制限剤、例えばγ−テルピネンまたはテルピノレンを混合物のモノマーに対して0〜500ppm、好ましくは0〜100ppmの含有量で添加できる。
重合反応を触媒加速する活性剤としての添加物を含む金属は全く添加しない。この活性剤は特に塩化錫のような錫ベースの化合物である。
【0048】
本発明のポリマー複合材料は繊維材料と、ポリマー状の熱可塑性(メタ)アクリルマトリクスとを含む。繊維材料を重合前にポリマー状の熱可塑性(メタ)アクリルを形成するモノマーを含む液体シロップで湿らす段階で両者を接触させる。
本発明のポリマー複合材料を製造する方法、特に繊維材料を正確かつ完全に湿らせ、含浸させるには、単なるモノマーまたはモノマー混合物は過度に液体であるため、粘度を上げて粘度を合せなければならない。本発明の一実施例ではモノマーを半重合して粘度を上げる。この半重合によってオリゴマーが得られる。
【0049】
他の実施例では、オリゴマーまたはポリマーが溶解したモノマーまたはモノマー混合物を用いて粘度を上げる。この溶液は一般に「シロップ」または「プレポリマー」とよばれる。オリゴマーまたはポリマーはモノマーに可溶である。このオリゴマーまたはポリマーはPMMAまたはスチレン/無水マレイン酸コポリマー(SMA)にすることができる。オリゴマーまたはポリマーは少なくとも70重量%、好ましくは少なくとも80重量%、有利には少なくとも90重量%、さらに有利には少なくとも95重量%のメチルメタクリレートを含むメチルメタクリレート(MMA)のホモポリマーまたはコポリマーであるのが好ましい。
【0050】
重合後に熱可塑性(メタ)アクリルマトリクスの一部を形成するシロップ中のモノマーは液体シロップ全体の少なくとも40重量%、好ましくは少なくとも50重量%、有利には55重量%、さらに有利には60重量%である。
重合後に熱可塑性(メタ)アクリルマトリクスの一部を形成するシロップ中のモノマーは液体シロップ全体の99重量%以下、好ましくは95重量%以下、有利には90重量%以下、さらに有利には85重量%以下、さらに有利には82重量%以下、さらに有利には80重量%以下である。
【0051】
重合後に熱可塑性(メタ)アクリルマトリクスの一部を形成するシロップ中のオリゴマーまたはポリマーは、液体シロップ全体の少なくとも1重量%、好ましくは5重量%、有利には少なくとも10重量%、さらに有利には少なくとも15重量%、さらに有利には少なくとも18重量%、さらに有利には少なくとも20重量%である。
重合後に熱可塑性(メタ)アクリルマトリクスの一部を形成するシロップ中のオリゴマーまたはポリマーは、液体シロップ全体の60重量%以下、好ましくは50重量%以下、有利には40重量%以下、さらに有利には35重量%以下である。
【0052】
重合後に熱可塑性(メタ)アクリルマトリクスの一部を形成するシロップ中の一種以上のモノマーは、液体シロップ全体の40〜95重量%、好ましくは50〜90重量%、有利には55〜85重量%、さらに有利には60〜80重量%である。
【0053】
従って、重合後に熱可塑性(メタ)アクリルマトリクスの一部を形成するシロップ中のオリゴマーまたはポリマーは、液体シロップ全体の60〜5重量%、好ましくは50〜10重量%、有利には15〜45重量%、さらに有利には20〜40重量%である。
【0054】
プレポリマーまたは液体シロップの動的粘度は10mPa*s〜10000mPa*s,好ましくは50mPa*s〜5000mPa*s、有利には100mPa*s〜1000mPa*sである。シロップの粘度はレオメータで容易に測定できる。動的粘度は25℃で測定する。液体シロップはニュートン挙動を示し、剪断による減粘がない。従って、動的粘度はレオメータでの剪断から独立し、粘度計でのモービルの速度から独立している。
【0055】
所定温度での液体プレポリマーまたはシロップの粘度が正確な含浸に対して過度に高い場合には、繊維材料を十分に湿らせ、正確、完全な含浸するためにシロップを加熱して、含浸を行う温度で上記動的粘度範囲内でより液体のシロップを得るようにすることができる。
【0056】
本発明の液体シロップは追加の自発的な添加する溶剤を含まない。
【0057】
本発明のポリマー複合材料の構造または組成は、全組成に対して少なくとも20重量%の繊維材料、好ましくは少なくとも40重量%の繊維材料、有利には少なくとも50重量%の繊維材料、さらに有利には少なくとも55重量%の繊維材料を含む。
本発明のポリマー複合材料は全組成に対して99重量%以下の繊維材料、好ましくは95重量%以下の繊維材料、有利には90重量%以下の繊維材料、さらに有利には80重量%以下の繊維材料を含む。
【0058】
本発明の複合材料の構造はラミネートである。熱可塑性繊維複合材料の複数の層またはシートをラミネ−ションによって結合できる。
【0059】
本発明のポリマー複合材料は他の添加物および充填材をさらに含むことができる。全ての添加物および充填材は、湿潤操作および重合の前に液体シロップに添加できる。
【0060】
添加物としては有機添加物、例えば衝撃改質剤またはブロックコポリマー、熱安定剤、紫外線安定剤、潤滑剤およびこれらの混合物が挙げられる。
衝撃改質剤はエラストマーのコアと、少なくとも一つの熱可塑性シェルとを有する微粒子の形をしており、粒径は一般に1μm以下、有利には50〜300nmである。衝撃改質剤は乳化重合で調製される。ポリマー状の熱可塑性マトリクス中の衝撃改質剤の含有量は0〜50重量%、好ましくは0〜25重量%、有利には0〜20重量%である。
【0061】
充填材としてはカーボンナノチューブまたは無機原料、例えば無機ナノ原料(TiO2、シリカ)が挙げられる。
【0062】
重合段階で添加される促進剤に由来する金属、例えば錫は熱可塑性複合材料中に全く存在しない。
液体シロップは含浸段階で追加の溶剤を全く含まないので、本発明複合材料は自発的に添加した追加の溶剤を全く含まない。
【0063】
ポリマー複合材料の製造方法としては三次元サンプルを製造する複数の方法が使用できる。例としてはラミネ−ション、引抜き成形(pultrusion)、注入(infusion)、真空バッグ成形、プレスバッグ成形、オートクレーブ成形、樹脂トランスファー成形(RTM)、強化RIM成形(R−RIM)およびこれらの変形例、プレス成形、フィラメント・ワインディング、圧縮成形または湿式積層(wet lay up)が挙げられる。
【0064】
これら全ての方法で、重合段階前に、ポリマー状の熱可塑性(メタ)アクリルマトリクスを形成するモノマーを含む液体シロップで繊維材料を湿らす段階が含まれる。
熱可塑性ポリマーマトリクスの最終分子量は、ポリマー複合材料の上記製造方法の一つで得られる。
【0065】
引抜き成形(pultrusion)法では一定断面積の長い連続した製品を製造できる。クリールから来る繊維を湿らし、樹脂浴中で液体樹脂を含浸した後に、予備成形、成形、重合する。
【0066】
樹脂トランスファー成形では複合材料の両面を成形する両側の金型セットを使用する。下側を剛性の金型にし、上側を剛性または可撓性のある金型にすることができる。可撓性の金型は複合材料、シリコンまたは押出ポリマーフィルム、例えばナイロンで作ることができる。この両側の金型セットが互いに係合して成形キャピティーを形成する。樹脂トランスファー成形の大きな特徴はこの成形キャピティー中に強化材料を入れ、金型セットを閉じ、その後にマトリクス材料を導入する点にある。樹脂トランスファー成形には成形キャピティー内の強化材に樹脂を導入する方法が異なる多くの種類がある。そうした変形例には真空注入方法から真空補助式の樹脂トランスファー成形方法(VARTM)までの全てが含まれる。この方法は周囲温度または高温のいずれかで実施できる。周囲温度とは10℃〜50℃を意味する。高温とは最大200℃を意味する。高温は50℃から最大160℃であるのが好ましい。
【0067】
注入(infusion)方法では、液体プレポリマーシロップがポリマー複合材料の調製方法に適した粘度を有する必要がある。特殊金型内にわずかな減圧を加えて繊維材料中にシロップを吸引させる。繊維材料に液体プレポリマーシロップを注入し、完全に湿らす。この方法の一つの利点は複合材料中の繊維材料の量を大きくできる点にある。
【0068】
本発明の複合材料を製造するのに好ましい方法は、まだ重合していないマトリクス材料の液体樹脂を繊維材料へトランスファー(移動)する方法、好ましくは金型中へトランスファー(移動)する方法である。
【0069】
繊維材料を湿らす段階は樹脂トランスファー成形または注入(infusion)によって閉じた金型内で実行するのが有利である。
繊維材料を湿らす段階と熱可塑性複合材料の製造とを同じ閉じた金型で実行するのがさらに有利である。少なくとも片側の金型は可視放射および紫外線放射に対して不透明である。
閉じた金型内はモノマーの蒸発を減らし、避けることができ、環境を保護する。
【0070】
本発明のさらに他の観点は、下記の段階を含む本発明の熱可塑性複合材料から成る機械部品または構造部品または物品の製造方法にある:
(a)繊維基材に液体シロップを含浸し、
(b)上記繊維基材に含浸された液体シロップを重合する。
【0071】
(a)段階での繊維基材の含浸は閉じた金型内で実行するのが好ましい。
(a)段階および(b)段階は同じ閉じた金型内で実行するのが有利である。
金型は金型の少なくとも片側が可視放射および紫外線放射に対して不透明である。
同じ閉じた金型を使用することで、含浸後の材料のトランスファー操作を無くすことができ、重合を閉じた金型内で良好な熱分配と満足のいく重合収率で実行でき、モノマーを蒸発させることができる。
【0072】
ポリマー複合材料の使用としては自動車用途、海洋用途、鉄道用途、スポーツ、航空または宇宙用途、太陽光発電用途および風力エネルギー用途が挙げられる。
本発明のポリマー複合材料は機械部品または構造部品または物品、特に三次元の機械部品または構造部品の製造に使用される。
【0073】
含浸中に繊維基材を完全、正確に、均一に湿らすことによって繊維を湿らせる操作時の欠陥、例えば複合材料の機械特性を低下させる気泡および空隙(void)に起因する全ての欠陥を無くすことができる。
【0074】
本発明のポリマー複合材料で製造された機械部品または構造部品または物品は基本的に気孔(pores)を有しない。気孔(pores)とは直径が少なくとも1μmまたはそれ以上の球形ボイド、または、の最小主軸が少なくとも0.5μmまたはそれ以上である扁平な細長い楕円ボイドを意味する。「基本的に気孔を有しな」とは気孔が熱可塑性複合材料の全容積の1容積%以下、好ましくは1容積%以下、好ましくは0.5容積%以下、さらに好ましくは0.2容積%以下であることを意味する。
【0075】
製造された機械部品または構造部品または物品の使用としては自動車用途、海洋用途、鉄道用途、スポーツ、航空または宇宙用途、太陽光発電用途、コンピュータ関連用途、通信用途および風力エネルギー用途が挙げられる。
三次元の機械部品または構造部品は特に、自動車部品、船部品、列車部品、スポーツ用品、航空機またはヘリコプター部品、宇宙船またはロケット部品、太陽電池モジュール部品、風力タービン部品、家具部品、建設または建築部品、電話または携帯電話部品、コンピュータまたはテレビ部品、プリンタおよびコピー部品である。
【0076】
本発明の熱可塑性複合材料または熱可塑性複合材料から成る機械部品または構造部品または物品のリサイクルは、熱可塑性ポリマーを粉砕するか、脱重合(depolymerization)して行なうことができる。
機械的粉砕を行って部品をより小さいピースにする。構造部品は熱可塑性ポリマーから成るので、ポリマーは加熱でき、上記ピースを一定限度内で再加工して再生物体にすることができる。
【0077】
熱可塑性複合材料から成る構造部品を加熱してPMMAを熱分解(pyrolysis)または熱分解(thermal decomposition)し、メチルメタクリレート(MMA)をモノマーとして回収するのが好ましい。ポリマー中に存在するMMAの少なくとも50重量%を熱分解によって回収するのが有利である。構造部品は少なくとも200℃かつ400℃未満の温度で加熱する。
【0078】
測定方法
複合材料中の繊維の重量分率は、NF EN 2564規格(「Serie aerospatiale - Stratifies de fibres de carbone Determination de la teneur en fibres en resine et du taux de porosite」(航空宇宙系−炭素繊維の積層体、樹脂中の繊維含有量および孔隙率の測定))によって得られる。
引張り状態での機械特性は、ISO 527-4 (「プラスチック _ 引張特性の測定- パート 4: 等方性のおよび直交異方性の繊維強化プラスチック複合材料用の試験条件」) タイプ 3規格によって特徴付けられる。
【0079】
圧縮状態での機械特性は、ISO 14126:1999規格(「繊維強化プラスチック複合材料_面内方向での圧縮特性の測定」) セラニーズタイプのセットアップに従ったタイプAlによって特徴付けられる。
三点屈曲状態での機械特性はNF EN 2562 (「炭素繊維強化プラスチック。一方向ラミネート。繊維方向に平行な曲げ試験」) タイプ 1規格によって特徴付けられる。
【実施例】
【0080】
図1]は注入(インフュージョン)法と金型(1)の簡単なスキームを示す。金型(1)の下側部分(2)は剛性で不透明な材料(2)で作られ、金型(1)の上側部分(3)は可撓性材料(3)で作られ、この可撓性材料(3)は金型をしっかりと密封し、金型はジョイント(4)によって密閉される。繊維材料(5)を金型(1)の下側部分(2)と上側部分(3)の間に置く。液体樹脂は分配ライン(6)から金型中に入り、真空ライン(7)によって金型内に分配される。わずかな減圧を加えることで液体樹脂は金型(1)の2つの部分の間に配置された繊維材料(5)中に注入される。
【0081】
本発明の複合材料は注入(インフュージョン)法によって製造される。この方法ではプレポリマーまたはシロップ(液体樹脂)を、剛性の閉じた金型(剛性の不透明ガラスまたは金属板、金型の下側部分)と金型の外周または上側部分の可撓性プラスチックフィルムとの間に配置されたファブリック積層体(繊維材料)を通して吸引する。そのために0.6〜0.95バールに減圧する。注入法ではシロップをファブリックの隅々まで移動させるためだけに減圧を必要とする。
【0082】
実施例1(本発明)
8回折り畳んだ寸法が30cm x 20cmのガラスファブリック(公称重量が160g/m2のHexcel社のガラスE 平織 HexForce(登録商標)01717 820 TF970)を金型の役目をするガラスシート上で折り畳み、厚さ2mmの複合材料部品にした。
25重量%のポリメチルメタクリレート(Altuglas 社のPMMA V825)を、325ppm AIBN (アゾビスイソブチロニトリル) および35ppm テルピノレン(1,4 パラメンタジエン)の存在下で、メチルメタクリレート (MMA)に溶かしてシロップを調製する。溶解は25℃の周囲温度で48時間で行う。ブルックフィールド社のコーン/プレートレオメータを用いて周囲温度(25ーC)で測定したシロップ溶液の粘度は513 mPa*sである。
得られたプレポリマーシロップを真空ポンプを用いて注入する。この真空ポンプによってシロップをファブリックの隅々まで移動させることができる。シートへの注入を3分間行い、注入最前部の速度は100mm/分である。注入済みシートを60℃で4時間オーブンに入れ、125℃で30分間追加の加熱段階を行なってPMMAを完全重合される(モノマーはほぼ100%の変換率に達する)。
完全重合および離型後、注入フィルムを分離してポリマー複合材料を回収する。
【0083】
実施例2(本発明)
実施例1のガラス繊維ファブリックの代わりに炭素繊維のファブリック(Hexcel 社のHexForce(登録商標) 46285 U 1200)を用いる。
【0084】
実施例3(比較例)
メチルメタクリレート(25重量%のPMMAの代わりにMMAを用いる)、AIDNおよびテルピノレンのみを含むシロップを用いて実施例1を繰り返す。シロップの粘度は<5mPa*sである。注入法による含浸中の注入最前部の速度は過度に速く(>500mm/分)で、シロップによるガラス繊維ファブリックの完全な湿潤および含浸は達成できなかった。離型後にオーブン内で硬化(60℃で4時間、次いで125℃で30分)した後の複合材料は不完全なもので、良好な機械特性を全く有していない。乾いた非湿潤ガラス繊維が複合材料の中央に存在している。
【0085】
実施例4(比較例)
8回折り畳んだ寸法が30cm x 20cmのガラス繊維ファブリック(公称重量が160g/m2の、Hexcel社のガラスE 平織 HexForce(登録商標) 01717 820 TF970)を金型の役目をするガラスシート上で折り畳み、厚さ2mmの複合材料部品にした。
1.5重量%のNOROX(登録商標)CHM-50 (Noerac 社の過酸化物)を添加した Reichold社のビニルエステル樹脂DION(R) IMPACT 9102-75を上記ガラス繊維ファブリックに注入して樹脂の架橋を開始する。樹脂の粘度は200mPa*sである。樹脂の架橋反応が周囲温度で24時間行い、その後に65.5℃で2時間、さらに121℃で2時間オーブンで後硬化した。
完全重合および離型後、注入フィルムを分離してポリマー複合材料を回収した。
【0086】
実施例5(比較例)
実施例4のガラス繊維ファブリックの代わりに炭素繊維のファブリック(Hexcel 社のHexForce(登録商標) 46285 U 1200)を用いる。
実施例1、2、4および5で得られたシートを引張、圧縮および屈曲状態での機械特性で特徴づけた。実施例3で得られたシートは特徴付けしていない。
【0087】
【表1】
【0088】
本発明の熱可塑性複合材料を用いても、熱硬化性架橋ポリエステルを用いた比較例4、5の結果と同等な機械特性が得られることがわかる。
実施例1、2の熱可塑性マトリクスでは複合材料の形を変えることができ、例えば溶着を行なうことができる。
図1