特許第6285897号(P6285897)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6285897
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】生体情報読取装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/02 20060101AFI20180215BHJP
   A61B 5/022 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
   A61B5/02 310B
   A61B5/02 635A
   A61B5/02 634E
   A61B5/02 635M
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-147485(P2015-147485)
(22)【出願日】2015年7月27日
(65)【公開番号】特開2016-32631(P2016-32631A)
(43)【公開日】2016年3月10日
【審査請求日】2016年8月17日
(31)【優先権主張番号】特願2014-153171(P2014-153171)
(32)【優先日】2014年7月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000106944
【氏名又は名称】シナノケンシ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000121
【氏名又は名称】アイアット国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩行
【審査官】 伊知地 和之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−207978(JP,A)
【文献】 特開2012−254194(JP,A)
【文献】 特開平07−275226(JP,A)
【文献】 特開2005−066087(JP,A)
【文献】 特開2013−212312(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02 − 5/03
G01N 21/00 − 21/01
G01N 21/17 − 21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体情報読取を行う生体情報読取装置であって、
生体の皮膚に貼付され前記生体からの生体信号を取得する生体信号取得部と、
前記生体信号取得部で取得された前記生体信号である取得生体信号に基づいて、生体情報を推定する演算を行う演算部と、
前記演算部が推定した生体情報である推定生体情報を前記生体情報読取装置の外部へ出力する生体情報出力部と、
を有し、
前記生体信号取得部は、
可撓性があって面発光する有機発光素子および可撓性がある有機受光素子と可撓性がある光透過膜とが積層された層構造をなし、
前記光透過膜の皮膚に貼付される側は粘着性があり、
前記光透過膜の屈折率は、皮膚の屈折率と等しい値である
ことを特徴とする生体情報読取装置。
【請求項2】
請求項1記載の生体情報読取装置であって、
前記生体信号取得部は、前記発光素子および前記受光素子と前記光透過膜との間に可撓性ある1/4波長板を備えた
ことを特徴とする生体情報読取装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の生体情報読取装置であって、
前記生体信号取得部は、前記受光素子と前記光透過膜との間に可撓性ある偏光板を備えた
ことを特徴とする生体情報読取装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の生体情報読取装置であって、
前記演算部が演算した推定生体情報を時間の経過に従って順次記憶する推定生体情報時系列記憶部を有することを特徴とする生体情報読取装置。
【請求項5】
請求項4記載の生体情報読取装置であって、
前記推定生体情報に基づいて前記生体の状態の判断を行う判断部と、
前記判断部が判断を行うために必要な情報を保持する判断情報保持部と、
を有することを特徴とする生体情報読取装置。
【請求項6】
請求項5記載の生体情報読取装置であって、
前記判断部の判断結果に応じたメッセイジを出力するメッセイジ出力部を有することを特徴とする生体情報読取装置。
【請求項7】
請求項6記載の生体情報読取装置であって、
前記メッセイジは、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚のいずれかまたは複数の組合わせで表現されることを特徴とする生体情報読取装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体情報読取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体情報読取技術が種々存在している。生体情報として血圧を例にとると、被測定者の脈波を計測して血圧を推定するための装置が、たとえば特許文献1,2に開示されている。さらに、非特許文献1には、脈波伝搬時間から動脈硬化を考慮した血圧を推定する方法が記載されている。これらの装置や方法によって、被測定者の血圧を計測することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−200262号公報
【特許文献2】特開平1−214339号公報
【非特許文献1】IEEJ Trans.EIS,Vol.130,No.2,2010、「2010 The Institute of Electrical Engineers of Japan」、「高齢者の心血管特性を考慮したクラス分類による光電脈波信号を用いたカフレス血圧推定」、鈴木里実、小栗宏次
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1は、生体情報の読取装置として、光を用いて血管脈波を測定する血管脈波測定システムを提案している。この特許文献1の血管脈波測定システは、発光素子としてLED(Light Emitting Diode)を用い、光を生体の皮膚に照射し、皮膚で散乱反射した光を受光素子で受光して、受光した光から周波数の時間変化としての脈動波形を出力している。
【0005】
重大な疾病の予兆を捉える目的において、生体情報読取を連続して行いその変化を調べることは有意義である。たとえば、被測定者の血圧の日内変動を計測できれば、日常生活中の最高/最低血圧の最高値や最低値や短い時間での急激な変動などが判る。そのためには被測定者の血圧を常時取得することが望ましい。しかしながら、特許文献1,2に開示されている装置は既存の血圧計の延長・代替として測定の簡便性の向上を目的とするものである上に、大型で被測定者の自由な行動の妨げになる。また、特許文献1の装置では、被測定者の皮膚に取り付ける光センサ回路は、柔軟性が乏しいため、被測定者の身体形状個人差を吸収することができず、強い圧迫感を常時与え続ける様な装着方法が必要となる。結果、装着ストレスや圧迫壊死の面から皮膚に常時取り付けて使用するには適さなかった。
したがって、特許文献1,2などの装置によって被測定者の血圧値を常時取得することは難しく、結果として被測定者の重大疾病の発症・再発の予兆を捉えることも期待できない。血圧に限らず、他の生体情報を読取る場合についても同様のことが言える。
【0006】
加えて、生体情報読取を連続して行った結果について被測定者が判断をすることについても困難がともなう。たとえば、連続した生体情報が脳疾患の予兆を示しているとしても、この予兆を認識するために被測定者は生体情報の変化を読み解く知見を持っている必要がある。しかし一般にこれは専門家の領域であるため、折角の予兆が被測定者自身の事前の緊急対応に活かされず、不幸にして被測定者が重篤な状態になってしまうことがある。
【0007】
さらには、重大疾病の予兆は短期間のうちに発現するものが少なく無い。仮に生体情報を連続して読取ることが出来たとしても、被測定者は常にその生体情報の動向を意識していなくてはならず、充実した日常生活を送る上で著しく煩わしいものとなってしまう。
【0008】
また、LEDは、点光源であるため、発熱が一点に集中して皮膚に低温熱傷を生ずる場合があり、LEDを発光素子とした血中酸素濃度測定装置(パルスオキシメーター)では、乳児の皮膚に熱傷を生ずる事例があり、LEDを発光素子とした場合、長時間継続して生体情報を計測するには、発熱の問題も解消することが望ましい。
【0009】
よって、被測定者が煩わしさを感じること無く、また、被測定者の皮膚に柔軟性がある形で取り付けることにより、生体情報を常時、かつ、継続して取得でき、取得した生体情報をその場で遅滞無く解析し、危険な場合には被測定者に警報を発することが出来る可搬的な装置が強く望まれてきた。
【0010】
本発明は、このような背景の下に行われたものであって、被測定者の血圧などの生体情報を常時、継続して取得することができる生体情報読取装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一側面は、生体情報読取を行う生体情報読取装置であって、生体の皮膚に貼付され生体からの生体信号を取得する生体信号取得部と、生体信号取得部で取得された生体信号である取得生体信号に基づいて、生体情報を推定する演算を行う演算部と、演算部が推定した生体情報である推定生体情報を生体情報読取装置の外部へ出力する生体情報出力部と、を有し、生体信号取得部は、可撓性があって面発光する有機発光素子および可撓性がある有機受光素子と可撓性がある光透過膜とが積層された層構造をなし、光透過膜の皮膚に貼付される側は粘着性があり、光透過膜の屈折率は、皮膚の屈折率と等しい値である。
【0012】
さらに、本発明では、生体信号取得部は、発光素子および受光素子と光透過膜との間に可撓性ある1/4波長板を備えることができる。また、受光素子と光透過膜との間に可撓性ある偏光板を備えることができる。
【0013】
さらに、本発明の生体情報読取装置において、演算部が演算した推定生体情報を時間の経過に従って順次記憶する推定生体情報時系列記憶部を有することができる。
【0014】
さらに、本発明の生体情報読取装置において、推定生体情報に基づいて生体の状態の判断を行う判断部と、判断部が判断を行うために必要な情報を保持する判断情報保持部と、を有することができる。
【0015】
さらに、本発明の生体情報読取装置において、判断部の判断結果に応じたメッセイジを出力するメッセイジ出力部を有することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、被測定者の血圧などの生体情報を、常時、また、継続的に取得することができる。また、常時取得した生体情報に基づいて疾病の予兆を常時把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第一の実施の形態に係る生体情報読取装置の概要を示す図である。
図2】本発明の第一の実施の形態に係る生体情報読取装置の構成図である。
図3図2の生体情報読取装置の実装形態の一例を示す図である。
図4】比較例として、空気の屈折率と生体の屈折率が異なる場合の入射光と反射光の状態を示す図である。
図5】本発明の第一の実施の形態に係る生体情報読取装置における空気の屈折率と生体の屈折率が等しい場合の入射光の状態を示す図である。
図6】本発明の第一の実施の形態に係る生体情報読取装置の変形例を示す図である。
図7】実際の浅側頭動脈の脈波形を示す図である。
図8】本発明の第一の実施の形態に係る生体情報読取装置の貼り付け場所の決定方法を説明するための図である。
図9図8の貼り付け場所の決定方法における血管発見時のガイド音量および光量を示す図である。
図10図2の演算部の動作を示すフローチャートである。
図11】本発明の第二の実施の形態に係る生体情報読取装置の構成図である。
図12】本発明の第三の実施の形態に係る生体情報読取装置の構成図である。
図13】本発明の第四の実施の形態に係る生体情報読取装置の構成図である。
図14】本発明の第五の実施の形態に係る生体情報読取装置の実装形態の一例を示す図である。
図15】呼気と連動して脈波に低周波成分が重畳する状況を示す図である。
図16】脈波波形の周期を時系列に並べた変動における揺らぎ周波数を解析する方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施の形態を詳細に説明する前に、本明細書で使用する用語について定義する。
本明細書において「生体情報」とは、たとえば観血的動脈圧測定による血圧が110mmHgであるとか、グルコース分析装置(POCT)による血糖値が120mg/dlといった生体の状態についての情報として定義に沿った測定方法により得られた情報、あるいはカフ式血圧計のように医療界においても実質的な標準として広く認知される方法によって得られた情報である。
【0019】
なお、生体情報の種類としては、血圧以外に、血流量、血流速度、血液成分(血糖値やイオン等)、血中酸素濃度、体温、心拍数、心拍周期、呼吸数、呼吸周期、自律神経活性度、脈波伝播速度、毛細血管の拡張/収縮度、筋肉の弛緩/硬直度、乳酸蓄積度、発汗量、活動状態(運動/安静/睡眠)、外部刺激(気温変動等)に対する反応、などが挙げられる。
【0020】
本明細書において「生体信号」とは、生体より得られる信号であり、呼吸音や心電や筋電、脳波のように生体から発せられるものや、超音波エコーや光線反射のような外部エネルギーに対する受動的反応も含む。
【0021】
本明細書において「推定生体情報」とは、前記の生体信号に基づいて演算処理を行うことで得られる推定値としての生体情報である。
【0022】
(第一の実施の形態)
本発明の実施の形態に係る生体情報読取装置1の概要について、図1を参照しながら説明する。
【0023】
生体情報読取装置1は、図1に示すように、被測定者である被測定対象の皮膚40(生体の表面)の血管の脈動取得に適した部位に取り付けられ、被測定対象の生体測定情報としての血管脈動波形を光センサを用いた生体情報取得部2によって取得する。生体情報取得部2は、光センサとして投光器3と受光器4を有する。なお、図1に示す投光器3と受光器4は、後述する図2に示すものとは異なる形態となっているが、図1は、血管脈動波形の読取の全体を概念的に説明するための図であり、投光器3と受光器4は、概念的に示してある。なお、特許文献1に開示されている血圧推定方法は、本実施の形態と親和性が高く、本実施の形態では、特許文献1と同様の血圧推定方法を用いることができる。
【0024】
図1に示す生体情報読取装置1は、生体情報取得部2に接続され、照射した光と受光した光とから脈動波形を出力する脈動検出部20と、脈動波形データから血圧値を推定する血圧推定部21と、血圧推定部21の推定結果に基づいて警報を発出する警報発出部22と、警報音または警報表示を行う出力部23とを有する。なお、脈動検出部20、血圧推定部21、および警報発出部22をまとめて演算部24と称することにする。
【0025】
本発明の第一の実施の形態に係る生体情報読取装置1について、以下に説明する。図2に示すように、本実施の形態の生体情報読取装置1は、図1に示す生体情報取得部2に相当する部分が人体の表面(皮膚)に貼り付けて使用するものであり、非侵襲の状態で、被測定者の脈拍、血圧等を連続的にモニタリングすることを可能とするものである。さらに、生体情報読取装置1は、図1に示す演算部24および出力部23についても人体の表面(皮膚)に貼り付けられた生体情報取得部2と一体的に構成される。生体情報読取装置1は、このような人体表面への貼り付けを可能とする形態に設けられている。以下に、その詳細について説明する。
【0026】
生体情報読取装置1は、偏光発光部としての発光素子10、偏光板11、受光部としての受光素子12、偏光特性変化部としての1/4波長板13、透過膜部としての透過膜14、脈動検出部20、血圧推定部21、警報発出部22、出力部23、およびバッテリ25を有する。なお、図2に示す発光素子10および1/4波長板13が図1に示す投光器3に相当し、1/4波長板13、偏光板11、および受光素子12が図1に示す受光器4に相当する。
【0027】
すなわち、生体情報取得部2に相当する部分は、発光素子10、偏光板11、受光素子12、1/4波長板13、および透過膜14である。なお、脈動検出部20、血圧推定部21、および警報発出部22をまとめて演算部24と称する。また、図2および図3では、バッテリ25の配線は図示を省略してあるが、バッテリ25は、発光素子10、受光素子12、および演算部24に電力を供給する。以下の図中でもバッテリ25の配線については同様である。
【0028】
発光素子10は、直線偏光されている光を往路光30として発光する。往路光30の偏光方向は、たとえば、図3に示す透過膜14の短手方向に沿う方向である。発光素子10は、一例を挙げると、有機EL(electro-luminescence)のような面発光体であり、製造過程の加工で直線偏光の発光機能を付与することができる。
【0029】
有機ELを発光素子として用いた場合、面発光体であるため、発光に伴う発熱箇所がLEDのように、集中しない利点があり、長時間継続して使用しても皮膚に熱傷を生じさせるおそれは少なく、長時間継続する計測に適する。
【0030】
ここで、光の使用波長域について説明する。発光素子10が発光する光の波長領域として、近赤外光領域としては、700nm〜900nm、可視光領域では450nm近辺、520nm近辺を用いることができる。
【0031】
近赤外光は、可視光や中遠赤外光に比べて生体内部への透過性が高いため、皮下の深くまで到達することができる。また近赤外光は、血中のヘモグロビンに一定の吸光度で吸収される。ヘモグロビンの吸光度は皮下組織の散乱率と比較して有意な違いがあるので、皮膚へ近赤外光を照射し皮下で反射・散乱したものを検出することで、皮下ヘモグロビン量の変動を捉えることが可能である。
動脈が皮下の浅い位置にある手首(掌側)付近などの部位では動脈の脈動による物理的振動が皮下の毛細血管へ強く影響し、これによって皮下ヘモグロビン量も大きく変動する。また、指先のような皮下の毛細血管密度が高い部位においても、動脈の脈動が皮下ヘモグロビン量に強く影響する。
これらの部位では脈波と同期して皮下ヘモグロビン量が変動することになるから、皮下ヘモグロビン量の変動から脈波を検出することが可能となる。
【0032】
また、可視光線である波長が450nm近辺(青)や520nm近辺(緑)の光線は、血液中のヘモグロビンやビリルビンの吸光特性に特徴を有し、さらに皮膚組織の反射・散乱特性などを総合すると皮下ヘモグロビン量の変動を検出することができるので、脈動の測定に利用可能である。
【0033】
偏光板11は、特定の方向に直線偏光された光のみを透過する効果を有する。この偏光板11の透過可能な偏光方向は、発光素子10の発光する直線偏光された光とは90度異なるように設けられている。このため、発光素子10は、往路光30以外の方向(たとえば、受光素子12へ向かう方向)へも発光するものの、受光素子12へ向かう方向の偏光は偏光板11に遮られて受光素子12へは到達できない。これにより、皮膚の表面で反射される光を除くことができ、皮下で散乱反射された光を受光素子12で検出することができる。
【0034】
受光素子12は、偏光板11を透過する光を受光し、受光した光の強度に応じた電圧の電気信号を発生する素子であり、たとえば、フォトダイオードであるが、たとえば有機CMOSセンサのような有機薄膜素材を用いた受光素子としてもよい。特に、有機薄膜素材が、後述する有機ELと同様の柔軟に変形可能な材質から形成されていることが好ましい。この受光素子12は、受光した光の強度を電気信号に変換して脈動検出部20に出力する。なお、受光素子12は、それ自体は偏光特性を有さない。
【0035】
1/4波長板13は、発光素子10で発光した直線偏光の往路光30を時計回りの円偏光に変化させるように配置されている。さらに、1/4波長板13は、皮膚40の内部で反射して反時計回りに円偏光している反射光31を直線偏光に変化させて復路光32とする。その結果、往路光30と復路光32とは互いに90度偏光方向が異なる直線偏光になる。
【0036】
透過膜14のうち皮膚40に貼り付けられる一方の面側には、皮膚40に貼り付けるための粘着剤が塗布されている透明または半透明のシートである。透過膜14は、人体の表面の形状に倣うことが可能なように、柔軟に変形可能な材質から形成されている。このような透過膜14としては、各種の透明な樹脂フィルムがある。なお、人体表面からは汗等の水分蒸発を行うことに鑑みて、たとえばポリスチレンフィルムやポリウレタンエラストマーフィルム等を始めとする各種の高透湿性の透明フィルムを用いることが可能である。
【0037】
また、透過膜14のうち、皮膚40とは反対の他方の面側には、1/4波長板13とそれに連なる発光素子10、偏光板11、および受光素子12が配置される。なお、透過膜14に直接的に1/4波長板13が取り付けられているが、透過膜14と1/4波長板13とは、透明な接着剤等で固定されている。したがって、透過膜14から1/4波長板13を剥がし、新しい透過膜14に再び1/4波長板13を貼り付けることが可能である。これにより、皮膚40への粘着力が低下した透過膜14を新しい透過膜14に交換することができる。
【0038】
かかる発光素子10、偏光板11、受光素子12、および1/4波長板13は、柔軟に変形可能な材質から形成されることが好ましい。偏光板11、1/4波長板13としては、変形可能な柔軟性のあるポリカーボネート等の合成樹脂性のものが提供されているので、それらを用いることができる。発光素子10としては、変形可能な有機EL素子、受光素子12として、変形可能な有機CMOS素子を用いることが可能である。ただし、これらの各部位に柔軟に変形する性質を持たせることが困難な場合には、透過膜14に対して、これらの各部位をコンパクトに設けるようにしてもよい。すなわち、発光素子10、偏光板11、受光素子12、および1/4波長板13が、透過膜14に対して占める面積が小さい場合には、透過膜14が人体表面に追従して柔軟に変形することで、これら各部位の追従性の悪さをカバーすることができるので、生体情報読取装置1の人体表面への貼付性が悪化するのを防ぐことができる。
【0039】
このように、発光素子10、偏光板11、受光素子12、1/4波長板13、透過膜14を積層し、透過膜14を粘着層とした絆創膏タイプにすることの効果を説明する。照射光とその戻り光により脈波波形を取得するには、比較的狭い入力レンジ内を高精度にA/D変換する必要があるため、計測素子の皮膚表面での貼付状態が安定していることが望ましい。計測素子には、可撓性があるが、可塑性がないものがある。皮膚は柔軟であって可撓性も可塑性もあるため、皮膚の柔軟な変化に計測素子の変形が追従できずに、皮膚から剥離することが生じうる。皮膚に当たる透過膜14が粘着層として計測素子と皮膚との中間に介在することで、皮膚の変形に対してより大きな変形度が許容されることになり、装着する部位の自由度が向上し、また、常時、継続的に計測することが可能である。また、運動状態であっても装着することが可能であるため、運動状態の生体情報を計測することが可能となる。
【0040】
また、皮膚40と空気とは、屈折率が異なるため、発光素子10と皮膚40との間に空気が入ると約4%の反射が発生することが見込まれる。これに対し、図2に示すように、発光素子10と皮膚40との間に空気が介在しないことは生体信号の損失を低減させる上で有用である。たとえば、皮膚40の屈折率は、約1.5なので、これに合わせて1/4波長板13および透過膜14の屈折率を約1.5にすれば、生体信号の損失を最小にすることができる。
【0041】
すなわち、図4に示すように、屈折率が1.5前後である生体(皮膚40)と光源との間に、屈折率が1.0である空気が介在すると、光源からの入射光に対し、約4%の反射光が生じる。これに対し、図5に示すように、投光器3と生体(皮膚40)との間に、屈折率が1.5の透過膜14および1/4波長板13が介在することで、投光器3からの入射光は、ほとんど反射することなく皮膚40に達することができる。
【0042】
また、透過膜14は、1/4波長板13が設置されている部分以外は、光が透過しないようにすることで、外乱光の侵入を防ぐことができる。たとえば、1/4波長板13が設置されている部分以外は、遮光塗料を塗布するなどすることが好ましい。
【0043】
また、図6に示すように、生体情報取得部2の皮膚40との接触面とは反対側を透過膜14aによって覆うようにして、生体情報読取装置1を構成してもよい。この場合には、透過膜14aの全体を遮光性を有する材質とすることが外乱光の侵入を防ぐ上で好ましい。室内光や太陽光などの外乱光を遮光することで、信号対雑音比が改善し検出精度が高くなる効果がある。
【0044】
また、生体情報読取装置1を装着する皮膚40の部位については、たとえば脳疾患を予測する場合には、脳へ血流を供給している動脈である外頸動脈もしくはその分岐動脈の附近で脈波を測定することが好ましい。たとえば、浅側頭動脈、顔面動脈、後頭動脈、後耳介動脈、上行咽頭動脈、頬骨眼窩動脈などである。これにより、より実際に近い脳への影響としての脈波波形を得ることができ、精度がより高くなる。
【0045】
たとえば、浅側頭動脈における被測定者の前屈時の脈波強度と立位時の脈波強度とを図7に示す。図7は、横軸に時間をとり、縦軸に脈波強度をとる図であるが、図7からわかるように、浅側頭動脈は、被測定者が立位から前屈しただけで、大きな脈波の変動がみられる。したがって、浅側頭動脈に生体情報読取装置1を装着することで、被測定者の脈波波形の変動を的確に捉えられることがわかる。
【0046】
脈動検出部20は、発光素子10が発光した往路光30と受光素子12が受光した復路光32との比較結果に基づいて脈動を検出する情報処理装置である。なお、図示は省略するが、図2において、脈動検出部20から血圧推定部21および警報発出部22を経て出力部23に至る配線と、脈動検出部20と出力部23とが直接接続される配線とを切替える切替スイッチを設け、出力部23が脈動検出部20の検出結果に応じて音響信号または発光信号などを出力するモードに切替えられる構成としてもよい。これによれば、生体情報読取装置1を皮膚40の上に仮置きし、脈動検出部20の検出結果を出力部23から出力される信号により認識することで、脈動を検出し易い皮膚40の部位を探し当てることを容易にすることができる。たとえば、上述したような外頸動脈もしくはその分岐動脈の附近に生体情報読取装置1を仮置きし、出力部23から出力される信号によって、実際に脈動が良好に検出されているか否かを判断し、良好に検出されている場合には、その部位に生体情報読取装置1を貼付する。これによれば、容易かつ確実に、生体情報読取装置1の最適な貼付位置を決定することができる。
【0047】
たとえば、図8に示すように、生体情報読取装置1を左手首の撓骨動脈の上を通過させると、図9に示すように、血管の上部を通過したときには、ガイド音量または光量が急激に増加する。これにより、撓骨動脈の位置を特定し、生体情報読取装置1を的確に装着することができる。
【0048】
血圧推定部21は、脈動検出部20が検出した脈動に基づいて血圧を推定する情報処理装置である。なお、脈動検出部20および血圧推定部21による血圧推定方法は、特許文献1に記載されたような周期的脈動波形データから推定する方法を用いる。
【0049】
さらに、特許文献2に開示されている手法により、脈動波形と血管41内の圧力変動データとの間の相関関係を補正してもよい。すなわち、生体情報読取装置1によって得られた血圧推定値と、従来のカフを用いた血圧測定値とを比較し、それらの値に乖離がある場合には、その乖離を解消すべく生体情報読取装置1により得られた血圧推定値を補正してもよい。なお、このとき、カフを用いた血圧計と生体情報読取装置1とを接続して情報の送受信を行う必要があるが、生体情報読取装置1に個別の識別子を付与してこの識別子を生体情報読取装置1内のメモリ(不図示)に記憶させておき、血圧計との情報の送受信に際しては、識別子を情報に付与することが好ましい。これによれば、1台の血圧計が複数の生体情報読取装置1をそれぞれ識別することで、個別に対応することができる。
【0050】
警報発出部22は、血圧推定部21が推定した血圧が正常値の範囲外であるときに、警報を発出する。
【0051】
出力部23は、警報発出部22の警報の出力を受け取ると、音または光などによって、外部に警報の発出を報知する。警報が音であれば、出力部23は、たとえば、小型のスピーカやサウンデューサなどである。また、警報が光であれば、出力部23は、たとえば、発光ダイオードなどである。
【0052】
なお、生体情報読取装置1を皮膚40に装着する際には、被測定者の血圧値が正常値であることを確認した上で装着することがよい。これによれば、生体情報読取装置1を装着したときに、正しく装着されていないために、警報が発出された場合に、これを知ることができる。
【0053】
バッテリ25は、発光素子10、受光素子12、および演算部24に電力を供給する。バッテリ25は、たとえば、ボタン電池と呼ばれるリチウム電池である。
【0054】
上述した発光素子10、偏光板11、受光素子12、1/4波長板13、透過膜14、演算部24(脈動検出部20、血圧推定部21、警報発出部22)、出力部23、およびバッテリ25の実装状態を図3に示す。絆創膏状の透過膜14の上に、1/4波長板13が配置され、さらに、その上に、発光素子10、偏光板11、受光素子12が重ねられて配置される。さらに、1/4波長板13、発光素子10、偏光板11、および受光素子12の内部の一部がくり抜かれ、その中に、脈動検出部20、血圧推定部21、および警報発出部22からなる演算部24とバッテリ25が実装される。さらに、生体情報読取装置1の上部には、出力部23が実装される。なお、生体情報読取装置1は、電源スイッチを有さず、バッテリ25の装着によって電源ONとなり稼働する構成である。バッテリ25の装着は、ユーザが生体情報読取装置1を使用する直前に行うことができる。
【0055】
次に、演算部24の動作を図10のフローチャートを参照しながら説明する。図10のフローチャートのSTARTの条件は、バッテリ25が生体情報読取装置1に装着され、稼働している条件である。また、図10のフローチャートにおけるSTARTからENDまでの処理は、1周期分の処理である。1周期分の処理が終了してもSTARTの条件が満たされていれば、処理は再び開始される。
【0056】
ステップS1において、演算部24の脈動検出部20は、受光素子12の出力に基づいて脈波が取得できたか否かを判定する。ステップS1において、脈波が取得できたと判定されると、処理は、ステップS2に進む。一方、ステップS1において、脈波が取得できないと判定されると、処理は、ステップS1を繰り返す。
【0057】
ステップS2において、演算部24の血圧推定部21は、たとえば、上述した特許文献1に開示されている方法により、脈動検出部20が取得した脈動情報から血圧を推定する。ステップS2において、血圧が推定されると、処理は、ステップS3に進む。
【0058】
ステップS3において、演算部24の警報発出部22は、血圧推定部21が推定した血圧が正常値の範囲内か否かを判定する。ステップS3において、血圧が正常値の範囲内であると判定されると、処理は、1周期分の処理を終了する(END)。一方、血圧が正常値の範囲外であると判定されると、処理は、ステップS4に進む。
【0059】
ステップS4において、演算部24の警報発出部22は、出力部23に警報の出力を指示し、処理は、1周期分の処理を終了する(END)。
【0060】
このように、生体情報読取装置1は、偏光を往路光30として発光し、往路光30を皮膚40の内部に入射させ、往路光30とは偏光特性が異なり、皮膚40の内部で反射して戻ってきた復路光32を受光することにより、往路光30と復路光32の位相差に応じて脈動の変化を検出することができる(図10のステップS1)。さらに、生体情報読取装置1は、たとえば、脈動波形のサンプリングデータと、観血法等による血管41内の圧力変動データとの間の相関関係を予め求めて記憶しておくことで、脈動検出結果から血圧を推定し(図10のステップS2)、血圧推定結果に応じて警報を発出することができる(図10のステップS4)。
【0061】
このような生体情報読取装置1によれば、絆創膏を皮膚に貼り付ける要領で、被測定者に装着することができ、被測定者の脈波や血圧の情報を、常時、取得することができる。たとえば、生体情報読取装置1によれば、被測定者の血圧情報に基づき、血圧が異常な値をとる場合には、これを被測定者または被測定者の周囲に対して報知する体制を常時とることができ、被測定者の血圧異常を早期に発見することができる。
【0062】
図10のフローチャートにおいては血圧値の高低に基づいた単純な判断について説明したが、重大な疾病については血圧値以外の生体情報の変動を複数組合わせて警報を発するか否かの判断を行う。
【0063】
演算部24には図示しない推定生体情報時系列記憶部や判断部や判断情報保持部を設けることができる。推定生体情報時系列記憶部は、得られた推定生体情報を時系列に記憶する機能を有する。判断部は、推定生体情報時系列記憶部に記憶された推定生体情報を時系列に解析することで特定の疾病の予兆を把握する。判断情報保持部は、推定生体情報時系列記憶部に記憶された推定生体情報をどのように判断することで特定の疾病の予兆を把握するか、その方法を保持する。判断部がCPUで動作するソフトウェアである場合には、判断情報保持部に保持される判断情報はアルゴリズムに相当する。
【0064】
判断情報としては、例えば、被測定者の年齢・性別・身長・体重・体脂肪率・体水分率・既往歴・服薬有無・動脈硬化度・皮膚色・女性の閉経のような情報の組み合わせに基づくようにする。
【0065】
推定生体情報時系列記憶部を有することで、短期間での急激な生体情報の変化を検出することが可能となり、重篤な状態になる直前に対策を取ることが可能となる。推定生体情報時系列記憶部に記憶された推定生体情報を外部へ送信し、外部の他の機器で時系列に解析するようにしてもよい。
【0066】
(第二の実施の形態)
本発明の第二の実施の形態に係る生体情報読取装置1aを図11を参照しながら説明する。生体情報読取装置1と本実施の形態の生体情報読取装置1aとは一部が異なる。よって、生体情報読取装置1と同一の部材には、生体情報読取装置1と同一または同一系の符号を付すこととする。
【0067】
生体情報読取装置1aの受光素子12aは、そのものの感度に偏光特性を有する偏光受光部である。受光素子12aが有する偏光特性は、発光素子10が発光する往路光30の偏光特性とは異なるものである。たとえば、往路光30の直線偏光の方向と受光素子12aの直線偏光の方向とは90度異なる。
【0068】
生体情報読取装置1aでは、図1に示す投光器3は、発光素子10および1/4波長板13に相当し、受光器4は、1/4波長板13および受光素子12aに相当する。
【0069】
かかる生体情報読取装置1aの構成によると、生体情報読取装置1で必要であった偏光板11を省くことができる。すなわち、発光素子10からの偏光は、直接、受光素子12aに到達するが、この偏光が持つ偏光特性は、受光素子12aが感度を有する偏光方向とは異なるので何ら影響を及ぼすことはない。
【0070】
それにより、生体情報読取装置1aは、生体情報読取装置1に比べてさらに小型軽量化を図ることができる。
【0071】
(第三の実施の形態)
本発明の第三の実施の形態に係る生体情報読取装置1bを図12を参照しながら説明する。生体情報読取装置1と本実施の形態の生体情報読取装置1bとは一部が異なる。よって、生体情報読取装置1と同一の部材には、生体情報読取装置1と同一または同一系の符号を付すこととする。
【0072】
生体情報読取装置1bでは、図1に示す投光器3は、発光素子10および1/4波長板13に相当し、受光器4は、1/4波長板13、偏光板11a、および受光素子12cに相当する。
【0073】
生体情報読取装置1bは、発光素子10の光量を測定するための受光素子12bを有するところが生体情報読取装置1とは異なる。
【0074】
生体情報読取装置1bが光量測定用の受光素子12bを有することにより、発光素子10の光量の変化を検出することができる。たとえば、バッテリ25の電圧は、使用時間が長くなると初期電圧よりも低下する。このようなバッテリ25の電圧降下に伴い、発光素子10の光量も低下する。このときに、生体情報読取装置1bが光量測定用の受光素子12bを有することにより、発光素子10の光量の低下を検出したら、受光素子12cの受光感度を上げるなどの補正を施し、発光素子10の光量の低下を補うことができる。かかる生体情報読取装置1bの構成によれば、脈動検出部20は、バッテリ25の電圧の低下が発生しても常に同じ条件で、受光素子12cからの出力情報を受け取ることができる。それにより、脈動検出部20における脈動の検出精度を高く保つことができる。
【0075】
(第四の実施の形態)
本発明の第四の実施の形態に係る生体情報読取装置1cを図13を参照しながら説明する。生体情報読取装置1と本実施の形態の生体情報読取装置1cとは一部が異なる。よって、生体情報読取装置1と同一の部材には、生体情報読取装置1と同一または同一系の符号を付すこととする。
【0076】
生体情報読取装置1cは、演算部24aに、血圧推定部21の血圧推定結果を無線信号として送信する無線信号送信部25を有する。さらに、生体情報読取装置1cは、演算部24aとは別体に、無線信号送信部25が送信する無線信号を受信する無線信号受信部26を有する。無線信号受信部26の出力は、血圧推定部21の血圧推定結果であり、無線信号受信部26に接続される警報発出部22aに入力される。警報発出部22aに出力部23が接続される。
【0077】
このように、生体情報読取装置1cは、演算部24aとは別体に配置される無線信号受信部26、警報発出部22a、および出力部23を有するので、警報の発出を、被測定者から離れた場所で確認することができる。たとえば、別体部(無線信号受信部26、警報発出部22a、および出力部23)を耳掛け式や耳穴式の補聴器のような形態に構成し、被測定者の耳に装着すれば、被測定者が警報を聞き逃すことがない。警報発出部に可撓式圧電フィルムスピーカを用いることで警報発出部にも柔軟性を持たせ、耳穴形状に沿った装置変形を可能とするような構成としてもよい。または、生体情報読取装置1cを病院内で入院患者を対象に使用する場合には、別体部をナースステーション等に設置することで、入院患者の血圧の異常をナースステーション等で常時監視することができる。また、運動を行う被測定者につけて測定すれば、離れた場所で運動状態での生体情報を取得することができる。
【0078】
あるいは、無線信号送信部25と無線信号受信部26との間で、インターネット等のネットワークを介した通信を可能とすれば、別体部を遠隔地に設置することができる。たとえば、独居老人に生体情報読取装置1cを装着し、別体部を遠隔地にある家族の家等に設置してもよい。
【0079】
また、上述した第一〜第三の実施の形態における生体情報読取装置1,1a,1bと比較すると、人体に装着される(貼付される)部分の構成要素が少なくなるので、人体に装着される(貼付される)部分の軽量化が可能となる。なお、人体に装着される部分の軽量化に着目する場合には、受光素子12の受光情報を無線信号送信部25から無線信号で送信してもよい。この場合には、別体部には、無線信号受信部26の側に、演算部24の全ての構成(脈動検出部20、血圧推定部21、警報発出部22a)と、出力部23が配置される。かかる生体情報読取装置1cの構成によれば、人体に装着される側の軽量化を図ることができる。
【0080】
(第五の実施の形態)
本発明の第五の実施の形態に係る生体情報読取装置1dを図14を参照しながら説明する。本実施の形態の生体情報読取装置1dは、1枚の透過膜14a上に、複数の生体情報読取ユニット1eを配置する構成を有する。生体情報読取ユニット1eは、生体情報読取装置1,1a,または1bから透過膜14を除いたものである。
【0081】
かかる構成の生体情報読取装置1dによれば、複数の生体情報読取ユニット1eが同時に、同じ被測定者のほぼ同じ部位の測定を行うので、測定精度や信頼性を向上させることができる。
【0082】
さらに、非特許文献1に記載されているように、血圧と深い関係を持つ動脈硬化について、所定の間隔を設けた2センサを同一装置内に配置し、それら脈波の遅延時間に基づき伝搬速度を算出することで動脈硬化の指標であるPWV(脈波伝達速度)検査を疑似的に行うことも可能である。よって、生体情報読取装置1dによれば、所定の間隔を設けた複数の生体情報読取ユニット1eを1枚の透過膜14a上に配置し、それら脈波の遅延時間に基づき伝搬速度を算出することで動脈硬化の指標であるPWV検査を疑似的に行うことができる。
【0083】
(その他の実施の形態)
脈動検出部20、血圧測定部21、および警報発出部22は、それぞれ情報処理装置を有するが、1つの情報処理装置内に、これらの機能を実装してもよい。すなわち、脈動検出部20、血圧測定部21、および警報発出部22の出力部以外は、情報処理装置が予めインストールされている所定のプログラムを実行することによって実現することができる。このような情報処理装置は、たとえば、メモリ、CPU(Central Processing Unit)、入出力ポートなどを有する。情報処理装置のCPUは、メモリなどから所定のプログラムとして制御プログラムを読み込んで実行する。これにより、情報処理装置には、脈動検出部20、血圧測定部21、および警報発出部22の出力部以外の機能が実現される。なお、CPUの代わりにASIC(Application Specific Integrated Circuit)、マイクロプロセッサ(マイクロコンピュータ)、DSP(Digital Signal Processor)などを用いてもよい。
【0084】
また、上述の所定のプログラムは、脈動検出部20、血圧測定部21、および警報発出部22の出荷前に、情報処理装置のメモリなどに記憶されたものであっても、脈動検出部20、血圧測定部21、および警報発出部22の出荷後に、情報処理装置のメモリなどに記憶されたものであってもよい。また、プログラムの一部が、脈動検出部20、血圧測定部21、および警報発出部22の出荷後に、情報処理装置のメモリなどに記憶されたものであってもよい。脈動検出部20、血圧測定部21、および警報発出部22の出荷後に、情報処理装置のメモリなどに記憶されるプログラムは、たとえば、CD−ROMなどのコンピュータ読取可能な記録媒体に記憶されているものをインストールしたものであっても、インターネットなどの伝送媒体を介してダウンロードしたものをインストールしたものであってもよい。
【0085】
また、上述の所定のプログラムは、情報処理装置によって直接実行可能なものだけでなく、ハードディスクなどにインストールすることによって実行可能となるものも含む。また、圧縮されたり、暗号化されたりしたものも含む。
【0086】
このように、情報処理装置とプログラムによって脈動検出部20、血圧測定部21、および警報発出部22の出力部以外の機能を実現することにより、大量生産や仕様変更(または設計変更)に対して柔軟に対応可能となる。
【0087】
なお、情報処理装置が実行するプログラムは、本明細書で説明する順序に沿って時系列に処理が行われるプログラムであってもよいし、並列に、あるいは呼び出しが行われたとき等の必要なタイミングで処理が行われるプログラムであってもよい。
【0088】
上述の実施の形態では、発光素子10として有機ELを例示したが、発光素子10をこれに限定するものではない。たとえば、発光素子10として面発光の発光ダイオード等を用いてもよい。
【0089】
また、上述の実施の形態では、発光素子10として有機ELを用いる場合について説明している。しかしながら、有機ELのような有機素材は、たとえば人体表面のように水分が多く与えられる環境下では、劣化が進展しやすいものとなっており、また酸素によっても劣化が進展する。そこで、発光素子10が有機ELの場合には、水分や酸素から発光素子10を保護するために、その全体または主要部を保護層で覆う構成としてもよい。
【0090】
また、上述の実施の形態では、往路光30と復路光32の位相差により脈動を検出すると説明したが、その他にも往路光30と復路光32の様々な比較結果に応じて脈動を検出することができる。たとえば、往路光30は、血液に吸収され易い波長の光であるため、血管41内の血流が多いときと少ないときでは、光の吸収量が異なる。よって、復路光32の強度と往路光30の強度の比較結果に応じて脈動の変化を検出してもよい。
【0091】
また、図示は省略するが、図2において、脈動検出部20から血圧推定部21および警報発出部22を経て出力部23に至る配線の他に、脈動検出部20と出力部23とが直接接続される配線を設け、出力部23が脈動検出部20の検出結果に応じて音響信号または発光信号などを出力してもよい。これによれば、脈動検出部20の検出結果を出力部23から出力される信号により認識することで、たとえば、血圧上昇の前兆である脈拍数の上昇についても警報を発出することができる。すなわち、被測定者は、血圧上昇の警報を受け取る以前に、脈拍数の上昇によって、血圧上昇の前兆を知ることができ、これにより、血圧上昇を回避するための行動をとることができる。このように、警報を2段階とすることで、被測定者は、重篤な状態になる以前に、しかるべき措置を講じることができる。
【0092】
また、図15は、横軸に時間をとり、縦軸に脈波強度をとる図であるが、図15に示すように、呼吸と連動して脈波に低周波成分が重畳することが知られている。たとえば、血圧推定部21は、脈動検出部20が検出した脈動の中から低周波成分を分離することで、血圧推定の精度を高くすることができる。さらに、脈動検出部20が検出した脈動の中から低周波成分を分離することで、被測定者の呼吸の状態を把握することができる。このような被測定者の呼吸の状態に応じて、たとえば、交感神経、副交感神経の活性状況を監視するなどの機能をさらに追加することができる。
【0093】
さらには、図16に示すように、脈波波形の周期を時系列に並べた変動における揺らぎ周波数を解析することによっても交感神経および副交感神経の活性状況が把握できるため、これによる判断機能を追加することができる。図16の上段の図は、横軸に時間をとり、縦軸に脈波の脈動強度をとる。図16の下段の図は、横軸に脈動回数をとり、縦軸に周期(S:秒)をとる。
【0094】
より詳細には、まず、脈動波形信号に対して微分回路によるフィルターを適用し、ゼロクロス点を検出する。これにより脈動波形信号の立上がり直後のピークの位置を把握することができる。このピークの位置を連続して取得することで脈動の周期が得られる。図16ではT1からT6に示す時間がそれぞれの波形の周期時間を意味している。
【0095】
このようにして順次得られる周期Tnの値そのものが脈動の度にどのような変化(=ゆらぎ)をしているかを周波数解析し、これによって得られるゆらぎ周波数により交感神経および副交感神経の活性状況を把握することが可能となる。一心拍毎にその前の心拍との間隔より評価するローレンツプロットの様な時間成分指標の手法も同様である。
【0096】
また、脈拍や呼吸や交感神経活性状況などより睡眠状態か否か、睡眠の善し悪しなども判断可能となる。これにより睡眠時無呼吸症候群なども把握できるようになる。
【0097】
取得した生体情報について判断を行った結果、異常がある場合の警報について、通常は警報表示(視覚)や警報音(聴覚)をもって被測定者に通知するが、これに限定されない。たとえば、特定の振動パターン(触覚)や、香料液体の噴霧(嗅覚)や、口腔内に予め設置された刺激液体放出装置の制御(味覚)なども可能である。
【0098】
加えて、取得した生体情報について判断を行った結果、異常がある場合の応答についても、警報を発する以外の方法がある。被測定者や第三者に異常がある旨の通知を行うのは勿論だが、たとえば特定の疾病を治療する目的で常時携帯型あるいは埋込み型の薬液注入装置を既に設置しているような場合、この薬液注入装置が動作開始するよう制御してもよい。たとえば生体情報より狭心症の症状が検知された場合には薬液としてニトログリセリンを注入する装置を動作させるなどである。また、複数種類の薬液を注入可能な装置を設置し、複数種類の異常に対応できるようにしてもよい。
【0099】
ここまでは、血液に対して吸収能のある特定波長の光線を受発光可能な素子を皮膚上で用いて生体信号である脈波波形を取得し、これに基づいて血圧や呼吸数や交感神経活性状況などの生体情報を推測する技術とその利用について説明してきた。しかしながら、必ずしも皮膚上で用いることに限定されない。
【0100】
たとえば、上述の特定波長の光線を広範囲に投射可能な発光装置とその波長の光線を選択的に受光可能な高精細撮像素子の組合わせとしてもよい。
【0101】
監視カメラと同様に設置して特定の閉空間(部屋の中など)に居る人間の顔を画像処理により識別し、血流の脈波に伴う画像の変化を生体信号として扱い、上述同様に生体情報を推定するようにしてもよい。
【0102】
この構成によれば被測定者に読取装置を都度貼付ける手間が省けるので、被測定者の心理的負担が大きく軽減される。
【0103】
前述の発光装置と撮像素子は、特定波長のレーザー光線を発する内面3Dスキャナーとしてもよい。同様に特定の閉空間内に居る人間を画像処理および形状処理により識別し、血流の脈波に伴う画像の変化を生体信号として把握し、上述同様に生体情報を推定するようにすることもできる。
【0104】
上述までの実施の形態では、血流検出方式として光学を利用したものを例にして説明してきた。これは血液や血管が状況により光学特性が変化することを原理としており、非侵襲での常時測定という目的に対して親和性が高いからである。
しかしながら、血流検出方式は光学を用いたもの以外を採用することも可能である。
【0105】
たとえば、微小な圧力センサーやマイクロフォンを血管近傍で用いても同様に血流の検出を行うことができる。血流の変化である脈波は血管の変形が伝播していくことであるので、血管近傍においてはこの変形が圧力や振動波として検出できるからである。
【0106】
また、生体情報としての心拍数を検出する目的で心電を利用するとより精度が上がる。その為、センサーの一つとして金属電極を設け、生体表面において生体信号を電気信号として取得することもできる。
【0107】
さらに、血液中には電解質が多く含まれており、イオン化している物質が血管中を移動することは微小な電流が生じていることと同じであり、血流量とこれに相当する微小な電流の量には相関が有ることが明らかである。よって、センサーとして磁気センサーを用いることによって微小な電流によって生じる磁界を検出し、これに基づいて血流量を取得することもできる。
【0108】
加えて、取得した生体情報は生体情報読取装置の外部の装置と通信をして送信される。通信には無線や光などの電磁波が使用に適している。これら電磁波を通信のみならず生体情報読取装置の駆動電力源として利用することもできる。無線であれば無線給電装置であり、光であれば太陽電池である。これらは生体情報読取装置へ給電するが、装置を無電池動作とする以外に、装置の電源として二次電池を採用しこの二次電池へ充電するようにしてもよい。
【0109】
無線で通信する際に、生体情報読取装置のアンテナと生体の血管とを電磁的に結合して生体アンテナとなるようにしてもよい。本発明では非侵襲で常時測定を行うことを想定しているため血管へ直接接続はせず、血管近傍(例えば手首の)に他のセンサーと同居する形で薄膜電極を皮膚上に貼付け、この電極が血管と容量結合して血管をアンテナの一部として機能させる。他の方法としては、例えば手首に腕時計のバンド状のものでセンサーを装着している場合に、バンド内にコイルを形成するようにして手首内の血管と誘導結合して血管をアンテナの一部として機能させるようにしてもよい。
【0110】
なお、血管は枝状に多数の分岐を有するため、通信に使用する無線の周波数に対応する波長(および波長の整数比倍)と同じ(および定在波比が電気回路として許容される範囲内となる)長さとなる箇所が存在するため、定在波比などを考慮すること無く自由に波長(=周波数)を選択できるので、通信に使用できる方式を複数より広く採用することができる。
【0111】
加えて、血流を把握するのと同時に他のセンサーを生体信号取得部として副次的に動作するように設けてもよい。例えば、マイクロフォン、圧力センサー、筋電位センサー、心電位センサー、超音波ドップラーセンサー、角度センサー、加速度センサー、温度センサー、フローセンサー、体水分センサー、体脂肪センサー、発汗量センサー、血液成分センサー、気温センサー、湿度センサー、気圧センサー、照度センサー、風速センサー、などが挙げられる。
【0112】
圧力センサーは心拍や脈拍圧力変動を生体信号として取得できる。マイクロフォンは心音や脈音を生体信号として取得できる。筋電位センサーや心電位センサーはいわゆる心電図や筋電図といった生体信号を取得できる。超音波ドップラーセンサーは血流量を生体信号として取得できる。角度センサーや加速度センサーは運動などの活動状態が把握できる。温度センサーは体温を生体信号として取得できる。フローセンサーは呼吸状態をより直接的に把握できる。体水分センサーや発汗量センサーは体内や体表面の水分量を把握できる。体脂肪センサーは体脂肪率の形で生体情報を取得できる。血液成分センサーは血糖値や血液pHを生体信号として取得できる。
【0113】
気温センサーや湿度センサーや気圧センサーや照度センサーや風速センサーは、被測定者の居住環境を把握することができる。
【0114】
これらセンサー類によって得られる信号を適宜利用することにより、血流や脈波から得られる情報を解析する上で更に精度を高めることが可能となる。
【符号の説明】
【0115】
1,1a,1b,1c,1d…生体情報読取装置、2…生体情報取得部、3…投光器、4…受光器、10…発光素子(偏光発光部)、11…偏光板、12,12a,12b,12c…受光素子(受光部、偏光受光部)、13…1/4波長板(偏光特性変化部)、14…透過膜、20…脈動検出部、21…血圧推定部、22,22a…警報発出部、23…出力部(警報発出部の一部)、24…演算部、25…バッテリ
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