特許第6285917号(P6285917)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6285917反応性代謝物質のスクリーニングのための捕獲剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6285917
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】反応性代謝物質のスクリーニングのための捕獲剤
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20060101AFI20180215BHJP
   C12Q 1/26 20060101ALI20180215BHJP
   C07K 5/06 20060101ALI20180215BHJP
   C07C 323/60 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
   G01N27/62 V
   G01N27/62 X
   C12Q1/26
   C07K5/06
   C07C323/60
【請求項の数】33
【全頁数】57
(21)【出願番号】特願2015-514156(P2015-514156)
(86)(22)【出願日】2013年5月22日
(65)【公表番号】特表2015-524058(P2015-524058A)
(43)【公表日】2015年8月20日
(86)【国際出願番号】US2013042246
(87)【国際公開番号】WO2013177293
(87)【国際公開日】20131128
【審査請求日】2016年5月20日
(31)【優先権主張番号】61/650,448
(32)【優先日】2012年5月22日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】398050098
【氏名又は名称】バイオジェン・エムエイ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Biogen MA Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】ペネル,ナタリア
【審査官】 伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−238597(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0287623(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0248234(US,A1)
【文献】 国際公開第2010/123085(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/042634(WO,A2)
【文献】 特開2005−291958(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/080210(WO,A1)
【文献】 特表2006−506647(JP,A)
【文献】 特表2005−503557(JP,A)
【文献】 ROBERT A MOSS,PREPARATION AND KINETIC PROPERTIES OF CYSTEINE SURFACTANTS,JOURNAL OF THE AMERICAN CHEMICAL SOCIETY,1978年 8月30日,V100 N18,P5920-5927
【文献】 ROBERT A MOSS,MICELLAR DIASTEREOSELECTIVITY - TRIPEPTIDE SUBSTRATES,TETRAHEDRON LETTERS,1981年 1月 1日,V22 N4,P283-286
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
H01J 40/00−49/48
C07K 5/06
C07C 323/60
C12Q 1/00−1/68
G01N 33/48−33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の代謝物質の検出方法であって、
代謝物質を含む試料および下記式(I)又は(II)の化合物を接触させること
【化1】
ここで、
前記代謝物質、式(I)又は(II)の前記化合物とが反て付加物を形成するものであり、
および、
前記付加物を検出すること、
を含み、
式中、
各RとRは、それぞれ独立して水素、置換若しくは非置換のアルキル、置換若しくは非置換のアルケニル、置換若しくは非置換のアルキニル、置換若しくは非置換の炭素環、置換若しくは非置換の複素環、置換若しくは非置換のアリール、置換若しくは非置換のヘテロアリール、−C(=O)R、−C(=O)OR、−C(=O)N(R、若しくはアミノ基の保護基であるか、又は、RとRが結合して置換若しくは非置換の複素環を形成し、
各Rは、それぞれ独立して水素、置換若しくは非置換のアルキル、置換若しくは非置換のアルケニル、置換若しくは非置換のアルキニル、置換若しくは非置換の炭素環、置換若しくは非置換の複素環、置換若しくは非置換のアリール、置換若しくは非置換のヘテロアリール、酸素原子と結合した場合に酸素保護基、若しくは窒素原子と結合した場合に窒素保護基であるか、又は、2つのR基が結合して置換若しくは非置換の複素環を形成し、
は、水素であり、
とRは、独立して−OR、−N(R、及び下記式(i)の基から選択され、
【化2】
ただし、RとRの少なくともいずれか一方が、式(i)の基であり、
各Rは、それぞれ独立して水素、置換若しくは非置換のアルキル、置換若しくは非置換のアルケニル、置換若しくは非置換のアルキニル、置換若しくは非置換の炭素環、置換若しくは非置換の複素環、置換若しくは非置換のアリール、置換若しくは非置換のヘテロアリール、酸素原子と結合した場合に酸素保護基、若しくは窒素原子と結合した場合に窒素保護基であるか、又は、2つのR基が結合して置換若しくは非置換の複素環を形成し、
各Rは、それぞれ独立して置換若しくは非置換のアルキル、置換若しくは非置換のアルケニル、置換若しくは非置換のアルキニル、置換若しくは非置換の炭素環、置換若しくは非置換の複素環、置換若しくは非置換のアリール、置換若しくは非置換のヘテロアリール、若しくはアミノ基の保護基であるか、又は、2つのR基が結合して置換若しくは非置換の複素環を形成し、
nは、1、2、3、4、5又は6であり、
は、対アニオンである、
前記検出方法。
【請求項2】
試験化合物を含む試料中で生成する代謝物質の検出方法であって、
試験化合物、酵素系および下記式(I)又は(II)の化合物を接触させること
【化3】
ここで、
前記試験化合物、前記酵素系により代謝され、代謝物質となり、代謝物質式(I)又は(II)の化合物と反応して付加物を形成するものであり
および、
前記付加物を検出すること
を含み、
式中、
各RとRは、それぞれ独立して水素、置換若しくは非置換のアルキル、置換若しくは非置換のアルケニル、置換若しくは非置換のアルキニル、置換若しくは非置換の炭素環、置換若しくは非置換の複素環、置換若しくは非置換のアリール、置換若しくは非置換のヘテロアリール、−C(=O)R、−C(=O)OR、−C(=O)N(R、若しくはアミノ基の保護基であるか、又は、RとRが結合して置換若しくは非置換の複素環を形成し、
各Rは、それぞれ独立して水素、置換若しくは非置換のアルキル、置換若しくは非置換のアルケニル、置換若しくは非置換のアルキニル、置換若しくは非置換のカルボシクリル、置換若しくは非置換の複素環、置換若しくは非置換のアリール、置換若しくは非置換のヘテロアリール、酸素原子と結合した場合に酸素保護基、若しくは窒素原子と結合した場合に窒素保護基であるか、又は、2つのR基が結合して置換若しくは非置換の複素環を形成し、
は、水素であり、
とRは、独立して−OR、−N(R、及び下記式(i)の基から選択され、
【化4】
ただし、RとRの少なくともいずれか一方が、式(i)の基であり、
各Rは、それぞれ独立して水素、置換若しくは非置換のアルキル、置換若しくは非置換のアルケニル、置換若しくは非置換のアルキニル、置換若しくは非置換の炭素環、置換若しくは非置換の複素環、置換若しくは非置換のアリール、置換若しくは非置換のヘテロアリール、酸素原子と結合した場合に酸素保護基、若しくは窒素原子と結合した場合に窒素保護基であるか、又は、2つのR基が結合して置換若しくは非置換の複素環を形成し、
各Rは、それぞれ独立して置換若しくは非置換のアルキル、置換若しくは非置換のアルケニル、置換若しくは非置換のアルキニル、置換若しくは非置換の炭素環、置換若しくは非置換の複素環、置換若しくは非置換のアリール、置換若しくは非置換のヘテロアリール、若しくはアミノ基の保護基であるか、又は、2つのR基が結合して置換若しくは非置換の複素環を形成し、
nは、1、2、3、4、5又は6であり、
は、対アニオンである、
前記検出方法。
【請求項3】
化合物は、下記式(I−c)で示される化合物であり、
【化5】
式中、
各RとRは、それぞれ独立して水素、置換若しくは非置換のアルキル、置換若しくは非置換のアルケニル、置換若しくは非置換のアルキニル、置換若しくは非置換の炭素環、置換若しくは非置換の複素環、置換若しくは非置換のアリール、置換若しくは非置換のヘテロアリール、−C(=O)R、−C(=O)OR、−C(=O)N(R、若しくはアミノ基の保護基であるか、又は、RとRが結合して置換若しくは非置換の複素環を形成し、
各Rは、それぞれ独立して水素、置換若しくは非置換のアルキル、置換若しくは非置換のアルケニル、置換若しくは非置換のアルキニル、置換若しくは非置換の炭素環、置換若しくは非置換の複素環、置換若しくは非置換のアリール、置換若しくは非置換のヘテロアリール、酸素原子と結合した場合に酸素保護基、若しくは窒素原子と結合した場合に窒素保護基であるか、又は、2つのR基が結合して置換若しくは非置換の複素環を形成し、
は、水素、又は硫黄保護基であり、
は、対アニオンである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
化合物は、下記式からなる群:
【化6】
から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記試料は、酵素系をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記酵素系は、P450ミクロソーム酵素系である、請求項2又は5に記載の方法。
【請求項7】
P450ミクロソーム酵素系は、ミクロソーム、S9画分、及びP450酵素から成る群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
代謝物質は、試験化合物を試料に加えることにより生成される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記付加物の形成は、NADPH生成系、又は、NADPHを添加することにより開始される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記付加物は、質量分析計、または質量分析計に接続した液体クロマトグラフィにより検出される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記質量分析計は、タンデム質量分析計と接続したエレクトロスプレーイオン化質量分析による質量分析計(ESI-MS/MS)である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記液体クロマトグラフィは、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
下記式(I)で示される化合物:
【化7】
式中、
は水素であり、Rは、−C(=O)R、−C(=O)OR、又は、
−C(=O)NHRであり、Rは、下記式で示される基であり、
【化8】
式中、pは、0、1又は、2であり、mは、1、2、3、4、又は、5であり、Rはハロゲンであり、
は、水素、又は硫黄保護基であり、
各Rは、それぞれ独立して置換若しくは非置換のアルキル、置換若しくは非置換のアルケニル、置換若しくは非置換のアルキニル、置換若しくは非置換の炭素環、置換若しくは非置換の複素環、置換若しくは非置換のアリール、置換若しくは非置換のヘテロアリール、若しくはアミノ基の保護基であるか、又は、2つのR基が結合して置換若しくは非置換の複素環を形成し、
nは、1、2、3、4、5又は6であり、
は、対アニオンである。
【請求項14】
下記式(II)で示される化合物:
【化9】
式中、
各RとRは、それぞれ独立して水素、置換若しくは非置換のアルキル、置換若しくは非置換のアルケニル、置換若しくは非置換のアルキニル、置換若しくは非置換の炭素環、置換若しくは非置換の複素環、置換若しくは非置換のアリール、置換若しくは非置換のヘテロアリール、−C(=O)R、−C(=O)OR、−C(=O)N(R、若しくはアミノ基の保護基であるか、又は、RとRが結合して置換若しくは非置換の複素環を形成し、
各Rは、それぞれ独立して水素、置換若しくは非置換のアルキル、置換若しくは非置換のアルケニル、置換若しくは非置換のアルキニル、置換若しくは非置換の炭素環、置換若しくは非置換の複素環、置換若しくは非置換のアリール、置換若しくは非置換のヘテロアリール、酸素原子と結合した場合に酸素保護基、若しくは窒素原子と結合した場合に窒素保護基であるか、又は、2つのR基が結合して置換若しくは非置換の複素環を形成し、
は、水素又は、硫黄保護基であり、
とRは、独立して−OR、−N(R、及び下記式(i)の基から選択され、
【化10】
ただし、RとRの少なくともいずれか一方が、式(i)の基であり、
各Rは、それぞれ独立して水素、置換若しくは非置換のアルキル、置換若しくは非置換のアルケニル、置換若しくは非置換のアルキニル、置換若しくは非置換の炭素環、置換若しくは非置換の複素環、置換若しくは非置換のアリール、置換若しくは非置換のヘテロアリール、酸素原子と結合した場合に酸素保護基、若しくは窒素原子と結合した場合に窒素保護基であるか、又は、2つのR基が結合して置換若しくは非置換の複素環を形成し、
各Rは、それぞれ独立して置換若しくは非置換のアルキル、置換若しくは非置換のアルケニル、置換若しくは非置換のアルキニル、置換若しくは非置換の炭素環、置換若しくは非置換の複素環、置換若しくは非置換のアリール、置換若しくは非置換のヘテロアリール、若しくはアミノ基の保護基であるか、又は、2つのR基が結合して置換若しくは非置換の複素環を形成し、
nは、1、2、3、4、5又は6であり、
は、対アニオンである。
【請求項15】
は水素であり、
(a)Rは水素、−C(=O)R、−C(=O)OR、−C(=O)N(R又はアミノ基の保護基であるか;又は、
(b)Rは水素であるか;又は、
(c)Rは−C(=O)CHであるか;又は、
(d)Rは、−C(=O)R、−C(=O)OR又は−C(=O)NHRであり、Rは、下記式で示される基であり、
【化11】
式中、pは、0、1又は、2であり、mは、1、2、3、4、又は、5であり、Rはハロゲンである;
請求項14に記載の化合物。
【請求項16】
はブロモ又はフルオロである、請求項13または15に記載の化合物。
【請求項17】
mは1であり、Rはブロモである、請求項16に記載の化合物。
【請求項18】
mは5であり、Rはフルオロである、請求項16に記載の化合物。
【請求項19】
は、下記式の基であり、
【化12】
pは、0、1、又は、2であり、mは、1、2、3、4、又は、5であり、Rは、ハロゲンである、請求項14に記載の化合物。
【請求項20】
はブロモ又はフルオロである、請求項19に記載の化合物。
【請求項21】
mは1であり、Rはブロモである、請求項20に記載の化合物。
【請求項22】
mは5であり、Rはフルオロである、請求項20に記載の化合物。
【請求項23】
は水素である、請求項13又は14に記載の化合物。
【請求項24】
は、それぞれ独立して、置換または非置換のアルキルである、請求項13又は14に記載の化合物。
【請求項25】
は、それぞれ独立して、置換または非置換のC1−6アルキルである、請求項24に記載の化合物。
【請求項26】
は、それぞれ-CHである、請求項25に記載の化合物。
【請求項27】
nは2である、請求項13又は14に記載の化合物。
【請求項28】
は、クロリド対アニオンである、請求項13又は14に記載の化合物。
【請求項29】
下記式
【化13】
又は
【化14】
で示される、請求項13に記載の化合物。
【請求項30】
下記式(I−c)で示される化合物:
【化15】
式中、
各RとRは、それぞれ独立して水素、置換若しくは非置換のアルキル、置換若しくは非置換のアルケニル、置換若しくは非置換のアルキニル、置換若しくは非置換の炭素環、置換若しくは非置換の複素環、置換若しくは非置換のアリール、置換若しくは非置換のヘテロアリール、−C(=O)R、−C(=O)OR、−C(=O)N(R、若しくはアミノ基の保護基であるか、又は、RとRが結合して置換若しくは非置換の複素環を形成し、
各Rは、それぞれ独立して水素、置換若しくは非置換のアルキル、置換若しくは非置換のアルケニル、置換若しくは非置換のアルキニル、置換若しくは非置換の炭素環、置換若しくは非置換の複素環、置換若しくは非置換のアリール、置換若しくは非置換のヘテロアリール、酸素原子と結合した場合に酸素保護基、若しくは窒素原子と結合した場合に窒素保護基であるか、又は、2つのR基が結合して置換若しくは非置換の複素環を形成し、
は、水素、又は硫黄保護基であり、
は、対アニオンである。
【請求項31】
下記式からなる群:
【化16】
から選択される、請求項30に記載の化合物。
【請求項32】
下記式からなる群:
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【化21】
【化22】
および
【化23】
から選択される、請求項14に記載の化合物。
【請求項33】
下記式からなる群:
【化24-1】
【化24-2】
【化24-3】
から選択される、請求項14に記載の化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、米国特許法第119条(e)により、2012年5月22日に出願された米国特許仮出願第61/650,448号に基づく優先権を主張し、全ての記載内容を援用する。
【背景技術】
【0002】
承認候補の薬剤が承認されない、また、承認された薬剤が市場から撤去されてしまう主要な原因の一つは薬剤が引き起こす毒性によることが多い。例えば、Olson et al., Regul. Toxicol. Pharmacol. (2000) 32:56-67を参照。薬剤の化学的反応性を持つ求電子性代謝物質は、毒性のメディエータになりやすく、不可欠な細胞機構の共有結合修飾剤として機能する可能性がある。例えば、Guengerich et al., Arch. Biochem. Biophys. (2005) 433:369-378、Kalgutkar et al., Curr. Drug. Metab. (2005) 6:161-225を参照。薬剤は、しばしば体内で、代謝物質へ変化することがあり、その代謝物は、グルタチオン(GSH)に対して、本来の化学的反応を通じて細胞機能を干渉しうる。これによりグルタチオンが減少し、機能的に重要な別の高分子へと向かい、可逆的修飾、不可逆的な付加物形成、又は、不可逆的作用損失を引き起こす。例えば、 Srivastava et al., Handb. Exp. Pharmacol. (2010) 196:165-194を参照。反応性代謝物質は、アセトアミノフェン、タモキシフェン、イソニアジド及びアモジアキンなどの肝毒性を引き起こすとして知られる薬剤から形成されることを示す多くの根拠がある。
【0003】
創薬における初期段階で、生体内活性化における不利益を少なくするように、前臨床スクリーンの開発が行われてきた。例えば、Ma and Subramanian, J. Mass. Spectrom. (2006) 41:1121-1139、を参照。前臨床スクリーンで用いられる最も一般的な分析技術は、質量分析器(MS)に接続したガスクロマトグラフィ(GC)又は、液体クロマトグラフィ(LC)、例えば、タンデム質量分析計(MS/MS)スキャンニングに接続したガスクロマトグラフィ(GC)や液体クロマトグラフィ(LC)などが挙げられる。質量分析器は、核磁気共鳴(NMR)分光法などの他の方法よりも、更に感度が高く、数多くの低量の代謝物質の分析を行うことができるが、定量的な精度は、本来劣っている。質量分析器法を用いて、代謝物質の検出を高める方法は、“ヘビー”及び“ライト”に種類分けした同位体の標識剤を用いて試料を扱い、“ヘビー”及び“ライト”に種類分けし標識した代謝物質を作成することである。例えば、Lamos et al., Anal. Chem. (2007) 79:5143-5149を参照。正に帯電した官能基を配置することによっても、陽イオンモードエレクトロスプレーイオン化質量分析器(ESI−MS)でのイオン効率及び、それに対応する検出感度が高まることが分かっている。例えば、Lamos in supra, Yang et al., Anal. Chem. (2006) 78:4702-4708、 Johnson, Rapid Commun. Mass. Spectrom. (2000)14:2019-2024、 Barry et al., Rapid Commun. Mass. Spectrom. (2003) 17:603-620、Mirzaei et al., Anal. Chem. (2006) 78:4175-4183、 Soglia et al., Chem. Res. Toxicol. (2006) 19:480-490、及び、米国特許第 2004/0248234号を参照。
【0004】
しかし、これらの取り組みにも関わらず、薬剤により引き起こされ毒性の原因となりえ、化学的反応性を持つ可能性のある求電子性代謝物質を特定及び/又は定量化するために、初期スクリーニング分析の更なる改良、開発の必要性があった。
【発明の概要】
【0005】
生体内で活性された化合物のほとんどは、遊離チオールに捕獲され得る穏やかな求電子性を生成することで知られているため、研究者らはグルタチオン(GSH)を有望な捕獲剤として見ていた。例えば、 Baille et al., J. Pharm. Biomed. Anal. (1989) 7:1351-1360を参照。トリチウム標識したグルタチオンの捕獲は、直接的にコンジュゲートを定量化することができる一方、[H]グルタチオン付加物を非反応物質から適切に分離することは、困難であり、しばしば十分な感度が得られない結果になることが判明した。例えば、 Soglia et al., Chem. Res. Toxicol. (2006) 19:480-490 及び米国特許第2004/0248234号を参照。蛍光ダンシルタグと結合したグルタチオン類似体を使用することで、放射性標識の使用を回避することが可能であった。しかし、この方法は、蛍光標識したコンジュゲートを未反応出発物質から高圧液体クロマトグラフィによって分離させることが必要である。例えば、 Gan et al., Chem. Res. Toxicol. (2005) 18:896-903及び米国特許第7,169,576号を参照。Soglia及びその同僚らは、その時から、高処理スクリーニングに適し、かつ、高圧液体クロマトグラフィによる分離を必要としないとみられる固定された正電荷を含む第4級アンモニウムグルタチオン類似体(QA−GSH)の開発を行った。例えば、 Soglia in supraを参照。他の研究者らは、三重四重極質量分析計で、プロトン化したグルタチオン付加物を用いて、EPI(エンハンストプロダクトイオン)スペクトルの取得を引き起こす目的で、多重反応モニタリング(MRM)をサーベイスキャンとして使用した。例えば、Zheng et al., Chem. Res. Toxicol. (2007) 20:757-766を参照。しかしながら、現在では、グルタチオンのスクリーニング分析の感度は、常に十分であるとはいえない。加えて、現在の方法は、実験ごと、試料ごとにクロマトグラフィ及びイオン抑制にばらつきが見られ、十分に定量化できない。
【0006】
本発明の態様は、第4級アミンコラミン(“cys−chol”)を標識剤として用いて修飾されたシステインは、非修飾システイン又はグルタチオンのいずれかを用いた場合とを比べると、高いイオン化効率及びそれに基づく検出感度を脅かすという観察に、少なくとも一部は基づく。これにより、従来知られていなかった薬剤試料中の更なる反応性求電子性を持つ代謝物質特定の改良がなされた。
【化1】
【0007】
コラミンと結合した別のチオール含有化合物も同様に検出感度が改善されると考えられる。この例から、コラミン修飾のグルタチオンも同様に検出感度が改善されると考えられる。
【化2】
【0008】
この発見を幅広く適用し、薬剤試料中の反応性求電子性を持つ代謝物質を検出する標識剤として、コラミン以外の他の第4級アミン、システインやグルタチオン以外のチオールとコンジュゲートする第4級アミンへ適用を広げることが考えられる。
【0009】
したがって、ある態様において、本発明は、代謝物質を捕獲する式(I)のcys−cholコンジュゲートを包含する新たな標識剤を提供する。
【化3】
式中、R、R、R、X及びnは、前記定義に同じであり、標識剤として使用される場合、Rは、水素であり、又は、Rは、硫黄保護基である。
【0010】
別の態様において、本発明は、代謝物質を捕獲する式(II)のGSH−cholコンジュゲートを包含する新たな標識剤を提供する。
【化4】
式中、R、R、R、X及びnは、前記定義に同じであり、標識剤として使用される場合、Rは、水素であり、又は、Rは、硫黄保護基であり、及びRとRの少なくともいずれか一方が、式(i)の基である。
【化5】
式中、R、X及びnは、前記定義に同じである。
【0011】
別の態様において、本発明は、代謝物質を含む試料と、下記式(I)又は(II)の化合物とを接触させることを含む試料中の代謝物質の検出方法を提供する。
【化6】
式中、R、R、R、R、R、X及びnは、前記定義に同じであり、Rは、水素であり、前記代謝物質と、式(I)又は(II)の前記化合物とを反応させて付加物を形成し、
前記付加物を、
例えば、質量分析法により検出する検出方法。
【0012】
ある実施形態において、試料は、酵素系を含有する。ある実施形態において、試料は、試験化合物を含有する。ある実施形態において、試験化合物を含む試料と酵素系とを接触させ、試験化合物の前記代謝物質は、酵素系による代謝から生成される。ある実施形態において、前記酵素系は、P450ミクロソーム酵素系である。ある実施形態において、P450ミクロソーム酵素は、ミクロソーム、S9画分、及びP450酵素から成る群から選択される。ある実施形態において、ミクロソームは、哺乳動物肝臓ミクロソームであり、例えば、ヒト肝臓ミクロソームである。ある実施形態において、S9画分は、哺乳動物S9画分であり、例えば、ヒト肝臓S9画分である。
【0013】
ある実施形態において、代謝物質と、式(I)又は(II)との化合物反応による付加物の形成は、NADPH生成系、又は、NADPHを添加することにより開始される。ある実施形態において、付加物の形成は、NADPHを添加することにより、開始される。
【0014】
ある実施形態において、付加物は、質量分析器を用いて検出される。ある実施形態において、付加物は、質量分析計に接続した液体クロマトグラフィにより検出される。ある実施形態において、質量分析器は、タンデム質量分析計と接続したエレクトロスプレーイオン化質量分析による質量分析計(ESI−MS/MS)である。ある実施形態において、液体クロマトグラフィは、高圧液体クロマトグラフィ(HPLC)である。ある実施形態において、液体クロマトグラフィは、超高圧液体クロマトグラフィ(UPLC又はUHPLC)である。
【0015】
別の態様によれば、試験化合物、酵素系を式(I)又は(II)の化合物とを接触させることを含む試料中の代謝物質の検出方法を提供する。
【化7】
式中、R、R、R、R、R、X及びnは、前記定義に同じであり、Rは、水素であり、
前記試験化合物は、前記酵素系により代謝され、代謝物質となり、前記代謝物質を、式(I)又は(II)の化合物と反応させ、付加物を形成し、
例えば、質量分析法により、前記付加物を検出する検出方法。
【0016】
ある実施形態において、本明細書中に記載された方法は、低い量の既知の代謝物質を検出する方法である。ある実施形態において、本明細書中に記載された方法は、新たな代謝物質を特定する方法である。ある実施形態において、本明細書中に記載された方法は、代謝物質の検出の分析や確実性を高める方法である。
【0017】
本発明のいくつかの実施形態は、以下の発明を実施するための形態に詳細に記載される。本発明のその他の特徴、目的、利点は、定義、実施例、図、請求項から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1A図1A及び1Bは、クロザピン(+TOF MS-MS (100-1000): 632.21 +/-0.05 Da)及び2個の反応性クロザピン代謝物質を用いて形成したグルタチオン付加物ののLC−MS/MS分析を示す。
図1B】同上。
【0019】
図2A図2A及び2Bは、クロザピン(+TOF MS/MS (100-1000): 446.14 +/-0.05 Da)及び2個の反応性クロザピン代謝物質を用いて形成したシステイン付加物のLC−MS/MS分析を示す。
図2B】同上。
【0020】
図3A図3A及び3Bは、クロザピン(+TOF MS-MS (100-1000): 530.25 +/-0.05 Da)及び3個の反応性クロザピン代謝物質を用いて形成したcys−chol付加物のLC−MS/MS分析を示す。グルタチオン又はシステインを用いた場合よりもcys−cholを用いた捕獲反応性代謝物質の方が、より高いイオン化効率及び検出感度を示す。
図3B】同上。
【0021】
図4-1】図4は、特定されたアトルバスタチン(Ator)の反応性cys−chol代謝物質のLC−MS/MS分析を示す。
図4-2】同上。
【0022】
図5-1】図5は、特定されたカルバマゼピン(CMZ)の反応性cys−chol代謝物質のLC−MS/MS分析を示す。
図5-2】同上。
【0023】
図6A図6A及び6Bは、カルバマゼピン(+TOF MS/MS (100-1000): 440.21 +/-0.05 Da)を用いて形成したcys−chol付加物のLC−MS/MS分析を示す。グルタチオン及びシステイン(Cys)を捕獲剤として用いた同様の実験では、検出可能なコンジュゲートは得られなかった。
図6B】同上。
【0024】
図7A図7A及び7Bは、スプロフェン (+TOF MS/MS (100-1000): 380.06 +/-0.05 Da)を用いて形成したシステイン(Cys)付加物のLC−MS/MS分析を示す。
図7B】同上。
【0025】
図8A図8A及び8Bは、スプロフェン(+TOF MS/MS (100-1000): 464.17 +/-0.05 Da)を用いて形成したcys−chol付加物のLC−MS/MS分析を示し、システイン付加物の形成と比べるとより高いイオン化効率及び検出感度(20倍)を示す(図7Aを参照。)。
図8B】同上。
【0026】
定義
特定の官能基及び化学的な用語の定義を下記に詳細に示す。化学元素は、CAS version, Handbook of Chemistry and Physics, 75th Ed., の内表紙にある元素周期表に基づき特定され、又、官能基についても概ねその中で定義される。更に、有機化学の一般原則や、特定の機能的部分及び反応性については、Organic Chemistry, Thomas Sorrell, University Science Books, Sausalito, 1999、 Smith and March March’s Advanced Organic Chemistry, 5th Edition, John Wiley & Sons, Inc., New York, 2001、 Larock, Comprehensive Organic Transformations, VCH Publishers, Inc., New York, 1989、及びCarruthers, Some Modern Methods of Organic Synthesis, 3rd Edition, Cambridge University Press, Cambridge, 1987に記載がある。
【0027】
本明細書に記載される化合物は、1以上の不斉中心を含むことができ、よって、様々な異性体、例えば、エナンチオマー及び/又はジアステレオマー、の中に存在する。例えば、本明細書に記載される化合物は、個々のエナンチオマー、ジアステレオマー若しくは幾何異性体であり得、又は、立体異性体の混合体であり得、ラセミ混合物及び1以上の立体異性体中に濃縮された混合物などが含まれる。異性体は、当業者に既知の方法で、混合物から分離することができ、キラル高圧液体クロマトグラフィ(HPLC)及びキラル塩の結晶の形成が含まれる。また、異性体は、不斉合成により、作成される。例えば、 Jacques et al., Enantiomers, Racemates and Resolutions (Wiley Interscience, New York, 1981)、 Wilen et al., Tetrahedron 33:2725 (1977)、Eliel, E.L. Stereochemistry of Carbon Compounds(McGraw-Hill, NY, 1962)及び、Wilen, S.H. Tables of Resolving Agents and Optical Resolutions p. 268 (E.L. Eliel, Ed., Univ. of Notre Dame Press, Notre Dame, IN 1972)を参照。本発明は、実質的に他の異性体を含まない個々の異性体としての化合物、又は、様々な異性体の混合体を包含する。
【0028】
値の範囲を列挙する場合、その範囲の各値とそのサブレンジを包含することを意図するものとする。例えば、“C1-6アルキル”は、C、C、C、C、C、C、C1-6、C1-5、C1-4、C1-3、C1-2、C2-6、C2-5、C2-4、C2-3、C3-6、C3-5、C3-4、C4-6、C4-5、及びC5-6アルキルを含むことを意図している。
【0029】
ここで用いられる“アルキル”とは、1〜10個の炭素原子(“C1-10アルキル”)を有する直鎖または分岐の飽和炭化水素基の基を意味する。いくつかの実施形態において、アルキル基は、1〜9個の炭素原子(“C1-9アルキル”)を有する。いくつかの実施形態において、アルキル基は、1〜8個の炭素原子(“C1-8アルキル”)を有する。いくつかの実施形態において、アルキル基は、1〜7個の炭素原子(“C1-7アルキル”)を有する。いくつかの実施形態において、アルキル基は、1〜6個の炭素原子(“C1-6アルキル”)を有する。いくつかの実施形態において、アルキル基は、1〜5個の炭素原子(“C1-5アルキル”)を有する。いくつかの実施形態において、アルキル基は、1〜4個の炭素原子(“C1-4アルキル”)を有する。いくつかの実施形態において、アルキル基は、1〜3個の炭素原子(“C1-3アルキル”)を有する。いくつかの実施形態において、アルキル基は、1〜2個の炭素原子(“C1-2アルキル”)を有する。いくつかの実施形態において、アルキル基は、1炭素原子(“Cアルキル”)を有する。いくつかの実施形態において、アルキル基は、2〜6個の炭素原子(“C2-6アルキル”)を有する。C1-6アルキル基類の例としては、メチル(C)、エチル(C)、n‐プロピル(C)、イソプロピル(C)、n-ブチル(C)、tert-ブチル(C)、sec-ブチル(C)、iso-ブチル(C)、n-ペンチル(C)、3-ペンタニル(C)、アミル(C)、ネオペンチル(C)、3-メチル-2-ブタニル(C)、第三級アミル(C)及び、n-ヘキシル(C)などが挙げられる。前記アルキル基には、n-ヘプチル(C)、n-オクチル(C)等なども含まれる。明記されていない限り、各アルキル基は、それぞれ独立して置換されない(“非置換アルキル”)又は、1以上の置換基で置換される(“置換アルキル”)。ある実施形態において、前記アルキル基は、非置換のC1-10アルキルである。ある実施形態において、アルキル基は、置換C1-10アルキルである。
【0030】
ここで用いられる“アルケニル”とは、2〜10個の炭素原子、及び、1以上の炭素-炭素二重結合(“C2-10アルケニル”)を有する直鎖または分岐の炭化水素基の基を意味する。いくつかの実施形態において、アルケニル基は、2〜9個の炭素原子(“C2-9アルケニル”)を有する。いくつかの実施形態において、アルケニル基は、2〜8個の炭素原子(“C2-8アルケニル”)を有する。いくつかの実施形態において、アルケニル基は、2〜7個の炭素原子(“C2-7アルケニル”)を有する。いくつかの実施形態において、アルケニル基は、2〜6個の炭素原子(“C2-6アルケニル”)を有する。いくつかの実施形態において、アルケニル基は、2〜5個の炭素原子(“C2-5アルケニル”)を有する。いくつかの実施形態において、アルケニル基は、2〜4個の炭素原子(“C2-4アルケニル”)を有する。いくつかの実施形態において、アルケニル基は、2〜3個の炭素原子(“C2-3アルケニル”)を有する。いくつかの実施形態において、アルケニル基は、2炭素原子(“Cアルケニル”)を有する。1以上の炭素-炭素二重結合は、内部にあってもよく(例えば、2-ブテニル)、又は、末端にあっても良い(例えば、1-ブテニル)。C2-4アルケニル基としては、エテニル(C)、1-プロペニル(C)、2-プロペニル(C)、1-ブテニル(C)、2-ブテニル(C)、ブタジエニル(C)等が含まれる。C2-6アルケニル基としては、前述のC2-4アルケニル基とペンテニル(C)、ペンタジエニル(C)、ヘキセニル(C)等が含まれる。アルケニルとしては、ヘプテニル(C)、オクテニル(C)、オクタトリエニル(C)等も挙げられる。明記されていない限り、アルケニル基は、それぞれ独立して置換されない(“非置換アルケニル”)又は、1以上の置換基で置換される(“置換アルケニル”)。ある実施形態において、アルケニル基は、非置換のC2-10アルケニルである。ある実施形態において、アルケニル基は、置換C2-10アルケニルである。
【0031】
ここで用いられる“アルキニル”とは、2〜10個の炭素原子、及び、1以上の炭素‐炭素三重結合(“C2-10アルキニル”)を有する直鎖または分岐の炭化水素基の基を意味する。いくつかの実施形態において、アルキニル基は、2〜9個の炭素原子(“C2-9アルキニル”)を有する。いくつかの実施形態において、アルキニル基は、2〜8個の炭素原子(“C2-8アルキニル”)を有する。いくつかの実施形態において、アルキニル基は、2〜7個の炭素原子(“C2-7アルキニル”)を有する。いくつかの実施形態において、アルキニル基は、2〜6個の炭素原子(“C2-6アルキニル”)を有する。いくつかの実施形態において、アルキニル基は、2〜5個の炭素原子(“C2-5アルキニル”)を有する。いくつかの実施形態において、アルキニル基は、2〜4個の炭素原子(“C2-4アルキニル”)を有する。いくつかの実施形態において、アルキニル基は、2〜3個の炭素原子(“C2-3アルキニル”)有する。いくつかの実施形態において、アルキニル基は、2炭素原子(“Cアルキニル”)を有する。1以上の炭素-炭素三重結合は、内部にあってもよく(例えば、2−ブチニル)、末端にあってもよい(例えば、1−ブチニル)。C2-4アルキニル基は、例えばエチニル(C)、1-プロピニル(C)、2-プロピニル(C)、1-ブチニル(C)、2-ブチニル(C)等であるが、これらに限定されない。C2-6アルケニル基には、例えば、前述のC2-4アルキニル基やペンチニル(C)、ヘキシニル(C)等が含まれる。アルキニルの別の例としては、ヘプチニル(C)、オクチニル(C)等である。明記されていない限り、アルキニル基は、それぞれ独立して置換されない(“非置換アルキニル”)又は、1以上の置換基と置換される(“置換アルキニル”)。ある実施形態において、アルキニル基は、非置換のC2-10アルキニルである。ある実施形態において、アルキニル基は、置換C2-10アルキニルである。
【0032】
ここで用いられる“カルボシクリル”又は、“カルボサイクリック”とは、3〜10個の環炭素原子(“C3-10カルボシクリル”)を有し、ヘテロ原子を非芳香族環系に有さない非芳香族環状炭化水素基の基を意味する。いくつかの実施形態において、カルボシクリル基は、3〜8個の環炭素原子(“C3-8カルボシクリル”)を有する。いくつかの実施形態において、カルボシクリル基は、3〜7個の環炭素原子(“C3-7カルボシクリル”)を有する。いくつかの実施形態において、カルボシクリル基は、3〜6個の環炭素原子(“C3-6カルボシクリル”)を有する。いくつかの実施形態において、カルボシクリル基は、5〜10個の環炭素原子(“C5-10カルボシクリル”)を有する。例示的なC3-6カルボシクリル基類は、シクロプロピル(C)、シクロプロペニル(C)、シクロブチル(C)、シクロブテニル(C)、シクロペンチル(C)、シクロペンテニル(C)、シクロヘキシル(C)、シクロヘキセニル(C)、シクロヘキサジエニル(C)等であるが、これらに限定されない。例示的なC3-8カルボシクリル基類は、前述のC3-6カルボシクリル基類、シクロヘプチル(C)、シクロヘプテニル(C)、シクロヘプタジエニル(C)、シクロヘプタトリエニル(C)、シクロオクチル(C)、シクロオクテニル(C)、ビシクロ[2.2.1]ヘプタニル(C)、ビシクロ[2.2.2]オクタニル(C)等が含まれるが、これらに限定されない。例示的なC3-10カルボシクリル基類は、前述のC3-8カルボシクリル基類、シクロノニル(C)、シクロノネニル(C)、シクロデシル(C10)、シクロデセニル(C10)、オクタヒドロ-1H-インデニル(C)、デカヒドロナフタレニル(C10)、スピロ[4.5]デカニル(C10)等であるが、これらに限定されない。前述の例で示したように、ある実施形態において、カルボシクリル基は、単環(“単環カルボシクリル”)又は、多環(例えば、二環系(“二環カルボシクリル”)若しくは三環系(“三環カルボシクリル”)の縮合、架橋又はスピロ環系を含む)であり、飽和され、1以上の炭素-炭素二重又は三重結合を含む。“カルボシクリル”には、前記に定義したカルボシクリル環が1以上のアリール又は、ヘテロアリール基と縮合する環系が含まれ、付着点は、カルボシクリル環であり得る。このような例では、炭素の数が、カルボサイクリック環系の中の炭素数を指定し続ける。明記されていない限り、カルボシクリル基は、それぞれ独立して置換されない(“非置換カルボシクリル”)又は、1以上の置換基と置換される(“置換カルボシクリル”)。ある実施形態において、カルボシクリル基は、非置換のC3-10カルボシクリルである。ある実施形態において、カルボシクリル基は、置換されたC3-10カルボシクリルである。
【0033】
いくつかの実施形態において、“カルボシクリル”とは、3〜10個の環炭素原子を有する単環、又は、二環飽和カルボシクリル基(“C3-10シクロアルキル”)である。いくつかの実施形態において、シクロアルキル基は、3〜8個の環炭素原子(“C3-8シクロアルキル”)を有する。いくつかの実施形態において、シクロアルキル基は、3〜6個の環炭素原子(“C3-6シクロアルキル”)を有する。いくつかの実施形態において、シクロアルキル基は、5〜6個の環炭素原子(“C5-6シクロアルキル”)を有する。いくつかの実施形態において、シクロアルキル基は、5〜10個の環炭素原子(“C5-10シクロアルキル”)を有する。C5-6不飽和シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル(C)及び、シクロヘキシル(C)が含まれる。C3-6シクロアルキル基としては、例えば、前述のC5-6シクロアルキル基や、シクロプロピル(C)及び、シクロブチル(C)が含まれる。C3-8シクロアルキル基としては、例えば、前述のC3-6シクロアルキル基やシクロヘプチル(C)及びシクロオクチル(C)含まれる。明記されていない限り、シクロアルキル基は、それぞれ独立して置換されない(“非置換シクロアルキル”)又は、1以上の置換基と置換される(“置換シクロアルキル”)。ある実施形態において、前記シクロアルキル基は、非置換のC3-10シクロアルキルである。ある実施形態において、前記シクロアルキル基は、置換C3-10シクロアルキルである。
【0034】
ここで用いられる“ヘテロシクリル”又は“複素環の(ヘテロサイクリック)”とは、環炭素原子及び1〜4個の環ヘテロ原子を有する3-14員環非芳香族環系の基であり、各ヘテロ原子がそれぞれ独立して窒素、酸素、及び硫黄(“3-14員環ヘテロシクリル”)から選択される。1以上の窒素原子を含むヘテロシクリル基は、原子価数が許せば、付着点は、炭素又は窒素原子であり得る。ヘテロシクリル基は、単環(“単環ヘテロシクリル”)若しくは、多環(例えば、二環系などの縮合、架橋若しくはスピロ環系(“二環ヘテロシクリル”)又は、三環系(“三環ヘテロシクリル”))であり、飽和され若しくは1以上の炭素-炭素二重又は三重結合を含むことができる。ヘテロシクリル多環系は、1以上のヘテロ原子を片方又は両方の環に含むことができる。“ヘテロシクリル”には、前記に定義したヘテロシクリル環が1以上のカルボシクリル基と縮合する環系を含み、その際の付着点は、カルボシクリル若しくはヘテロシクリル環上であり、又は、前記に定義したヘテロシクリル環が1以上のアリール若しくはヘテロアリールを縮合する環系であり、その際の付着点は、ヘテロシクリル上であり、このような例では、環員数が、ヘテロシクリル環系の環員数を指定し続ける。明記されていない限り、各ヘテロシクリルは、それぞれ独立して置換されない(“非置換ヘテロシクリル”)又は、1以上の置換基で置換される(“置換ヘテロシクリル”)。ある実施形態において、ヘテロシクリル基は、非置換の3-14員環ヘテロシクリルある。実施形態において、ヘテロシクリル基は、置換された3-14員環ヘテロシクリルである。
【0035】
いくつかの実施形態において、ヘテロシクリル基は、環炭素原子と1-4環へテロ原子を有する5-10員環非芳香族環系であり、各ヘテロ原子は、それぞれ独立して窒素、酸素、及び硫黄から選択される(“5-10員環ヘテロシクリル”)。いくつかの実施形態において、ヘテロシクリル基は、環炭素原子及び1-4環へテロ原子を有する5-8員環非芳香族環系であり、各ヘテロ原子は、それぞれ独立して窒素、酸素、及び硫黄から選択される(“5-8員環ヘテロシクリル”)。いくつかの実施形態において、ヘテロシクリル基は、環炭素原子及び1-4環へテロ原子を有する5−6員環非芳香族環系であり、各ヘテロ原子それぞれ独立して窒素、酸素、及び硫黄(“5-6員環ヘテロシクリル”)から選択される。いくつかの実施形態において、5-6員環ヘテロシクリルは、窒素、酸素、及び硫黄から選択される1-3環へテロ原子を有する。いくつかの実施形態において、5-6員環ヘテロシクリルは、窒素、酸素、及び硫黄から選択される1-2環へテロ原子を有する。いくつかの実施形態において、5-6員環ヘテロシクリルは、窒素、酸素、及び硫黄から選択される1個の環へテロ原子を有する。
【0036】
例示的な1個のヘテロ原子を含む3員環ヘテロシクリル基類は、アジリジニル、オキシラニル、チオレニルであるが、これらに限定されない。例示的な1個のヘテロ原子を含む4員環ヘテロシクリル基類は、アゼチジニル、オキセタニル及びチエタニルであるが、これらに限定されない。例示的な1個のヘテロ原子を含む5員環ヘテロシクリル基類は、テトラヒドロフラニル、ジヒドロフラニル、テトラヒドロチオフェニル、ジヒドロチオフェニル、ピロリジニル、ジヒドロピロリル及びピロリル-2,5-ジオンであるが、これらに限定されない。例示的な2個のヘテロ原子を含む5員環ヘテロシクリル基類は、ジオキソラニル、オキサチオラニル及びジチオラニルであるが、これらに限定されない。例示的な3個のヘテロ原子を含む5員環ヘテロシクリル基類は、トリアゾリニル、オキサジアゾリニル、及びチアジアゾリニルであるが、これらに限定されない。例示的な1個のヘテロ原子を含む6員環ヘテロシクリル基類は、ピペリジニル、テトラヒドロピラニル、ジヒドロピリジニル、及びチアニルであるが、これらに限定されない。例示的な2個のヘテロ原子を含む6員環ヘテロシクリル基類は、ピペラジニル、モルホリニル、ジチアニル、ジオキサニルであるが、これらに限定されない。例示的な2個のヘテロ原子を含む6員環ヘテロシクリル基類は、トリアジナニルであるが、これに限定されない。例示的な1個のヘテロ原子を含む7員環ヘテロシクリル基類は、アゼパニル、オキセパニル及びチエパニルであるが、これらに限定されない。例示的な1個のヘテロ原子を含む8員環ヘテロシクリル基類は、アゾカニル、オキセカニル及びチオカニルであるが、これらに限定されない。例示的な二環ヘテロシクリル基類は、インドリニル、イソインドリニル、ジヒドロベンゾフラニル、ジヒドロベンゾチエニル、テトラヒドロベンゾチエニル、テトラヒドロベンゾフラニル、テトラヒドロインドリル、テトラヒドロキノリニル、テトラヒドロイソキノリニル、デカヒドロキノリニル、デカヒドロイソキノリニル、オクタヒドロクロメニル、オクタヒドロイソクロメニル、デカヒドロナフチリジニル、デカヒドロ-1,8-ナフチリジニル、オクタヒドロピロロ[3,2-b]ピロール、インドリニル、フタルイミジル、ナフタルイミジル、クロマニル、クロメニル、1H-ベンゾ[e][1,4]ジアゼピニル、1,4,5,7-テトラヒドロピラノ[3,4-b]ピロリル、5,6-ジヒドロ-4H-フロ[3,2-b]ピロリル、6,7-ジヒドロ-5H-フロ[3,2-b]ピラニル、5,7-ジヒドロ-4H-チエノ[2,3-c]ピラニル、2,3-ジヒドロ-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジニル、2,3-ジヒドロフロ[2,3-b]ピリジニル、4,5,6,7−テトラヒドロ-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジニル、4,5,6,7-テトラヒドロフロ[3,2-c]ピリジニル、4,5,6,7-テトラヒドロチエノ[3,2-b]ピリジニル、1,2,3,4-テトラヒドロ-1,6-ナフチリジニル等であるが、これらに限定されない。
【0037】
ここで用いられる“アリール”とは、6〜14個の環炭素原子を有し且つヘテロ原子を芳香族環系に有さない単環、又は、多環(例えば、二環、又は、三環)の4n+2芳香族環系(例えば、環状配置状に共有される6、10、又は14π電子)の基を意味する(“C6-14アリール”)。いくつかの実施形態において、アリール基は、6個の炭素原子を有する(“Cアリール”、例えば、フェニル)。いくつかの実施形態において、アリール基は、10個の環炭素原子(“C10アリール”、例えば、1-ナフチル及び2-ナフチルなどのナフチル)を有する。いくつかの実施形態において、アリール基は、14環炭素原子(“C14アリール”、例えば、アントラシル)を有する。“アリール”は、更に、前記定義のアリール環が1以上のカルボシクリル又はヘテロシクリル基と縮合する環系を含み、その際の付着点は、アリール環上であり得る。このような例では、炭素の数が、アリール環系の中の炭素原子数を指定し続ける。明記されていない限り、アリール基は、それぞれ独立して置換されない(“非置換アリール”)又は、1以上の置換基で置換される(“置換アリール”)。ある実施形態において、アリール基は、非置換のC6-14アリールである。ある実施形態において、アリール基は、置換C6-14アリールである。
【0038】
ここで用いられる“ヘテロアリール”とは、環炭素原子と1-4環へテロ原子を芳香族環系に有する5-14員環単環、又は、多環(例えば、二環、又は三環)4n+2芳香族環系(例えば、環状配置状に共有される6、10、又は14π電子)の基を意味し、各ヘテロ原子は、独立して窒素、酸素及び硫黄(“5-14員環ヘテロアリール”)から選択される。1以上の窒素原子を含むヘテロアリール基は、原子価数が許せば、付着点は、炭素又は窒素原子であり得る。“ヘテロアリール多環系”は、1以上のヘテロ原子を片方又は両方の環に含めることができる。“ヘテロアリール”には、前記に定義したヘテロアリール環が1以上のカルボシクリル又はヘテロシクリル基と縮合する環系を含み、その際の付着点は、ヘテロアリール環上にあり、このような例では、環員数がヘテロアリール環系の環員数を指定し続ける。“ヘテロアリール”は、前記に定義したヘテロアリール環が、1以上のアリール基と縮合する環系を含み、その際の付着点は、アリール又はヘテロアリール環のいずれかにあり、このような例では、環員数は、縮合多環(アリール/ヘテロアリール)系の環員数を指定し続ける。1つの環にヘテロ原子(例えば、インドリル,キノリニル,カルバゾリル等)が含まれない多環ヘテロアリール基は、付着点は環上、すなわちヘテロ原子(例えば、2-インドリル)を持つ環若しくはヘテロ原子を有しない環(例えば、5-インドリル)である。
【0039】
いくつかの実施形態において、ヘテロアリール基は、環炭素原子及び1-4環へテロ原子を芳香族環系に有する5-10員環芳香族環系であり、各ヘテロ原子がそれぞれ独立して窒素、酸素、及び硫黄(“5-10員環ヘテロアリール”)から選択される。いくつかの実施形態において、ヘテロアリール基は、環炭素原子及び1-4環へテロ原子を芳香族環系に有する5-8員環芳香族環系であり、各ヘテロ原子がそれぞれ独立して窒素、酸素、及び硫黄(“5-8員環ヘテロアリール”)から選択される。いくつかの実施形態において、ヘテロアリール基は、環炭素原子及び1-4環へテロ原子を芳香族環系に有する5-6員環芳香族環系であり、各ヘテロ原子がそれぞれ独立して窒素、酸素、及び硫黄(“5-6員環ヘテロアリール”)から選択される。いくつかの実施形態において、前記5-6員環ヘテロアリールは、窒素、酸素、及び硫黄から選択される1-3環へテロ原子を有する。いくつかの実施形態において、前記5-6員環ヘテロアリールは、窒素、酸素、及び硫黄から選択される1-2環へテロ原子を有する。いくつかの実施形態において、前記5-6員環ヘテロアリールは、窒素、酸素、及び硫黄から選択される1環へテロ原子を有する。明記されていない限り、ヘテロアリール基は、それぞれ独立して置換されない(“非置換ヘテロアリール”)又は、1以上の置換基で置換される(“置換ヘテロアリール”)。ある実施形態において、前記ヘテロアリール基は、非置換の5-14員環ヘテロアリールである。ある実施形態において、前記ヘテロアリール基は、置換5-14員環ヘテロアリールである。
【0040】
例示的な、1ヘテロ原子を含む5員環ヘテロアリール基は、ピロリル、フラニル及び、チオフェニルであるが、これらに限定されない。例示的な2個のヘテロ原子を含む5員環ヘテロアリール基は、イミダゾリル、ピラゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、及びイソチアゾリルであるが、これらに限定されない。例示的な3個のヘテロ原子を含む5員環ヘテロアリール基は、トリアゾリル、オキサジアゾリル、及びチアジアゾリルであるが、これらに限定されない。例示的な4個のヘテロ原子を含む5員環ヘテロアリール基は、テトラゾリルであるが、これらに限定されない。例示的な1個のヘテロ原子を含む6員環ヘテロアリール基は、ピリジニルである。例示的な2ヘテロ原子を含む6員環ヘテロアリール基は、ピリダジニル、ピリミジニル、及びピラジニルであるが、これらに限定されない。例示的な3又は4個のヘテロ原子を含む6員環ヘテロアリール基は、それぞれトリアジニル及びテトラジニルであるが、これらに限定されない。例示的な1個のヘテロ原子を含む7員環ヘテロアリール基は、アゼピニル、オキセピニル、及びチエピニルであるが、これらに限定されない。例示的な5,6-二環ヘテロアリール基は、インドリル、イソインドリル、インダゾリル、ベンゾトリアゾリル、ベンゾチオフェニル、イソベンゾチオフェニル、ベンゾフラニル、ベンゾイソフラニル、ベンズイミダゾリル、ベンゾオキサゾリル、ベンズイソオキサゾリル、ベンゾキサジアゾリル、ベンズチアゾリル、ベンズイソチアゾリル、ベンズチアジアゾリル、インドリジニル、及びプリニルであるが、これらに限定されない。例示的な6,6-二環ヘテロアリール基は、ナフチリジニル、プテリジニル、キノリニル、イソキノリニル、シンノリニル、キノキサリニル、フタルアジニル、及びキナゾリニルであるが、これらに限定されない。例示的な三環ヘテロアリール基は、フェナントリジニル、ジベンゾフラニル、カルバゾリル、アクリジニル、フェノチアジニル、フェノキサジニル及びフェナジニルであるが、これらに限定されない。
【0041】
ここで用いられる“部分的に不飽和”とは、少なくとも1個の二重又は三重結合を含む環の一部分を意味する。“部分的に不飽和”とは、複数の不飽和部分を有する環を包含することを意図するが、明細書中に定義した芳香族基類(例えば、アリール又はヘテロアリールの一部分)を、含むことを意図するものではない。
【0042】
本明細書中に定義されるアルキル、アルケニル、アルキニル、カルボシクリル、ヘテロシクリル、アリール、及びテロアリール基は、置換または非置換であり、本明細書では“任意に置換される”とも記載される。通常、“置換”という用語は、“任意に”という用語がある否かに関わらず、少なくとも、基に存在する1つの水素(例えば、炭素又は、窒素原子)が許容される置換基、例えば、置換の結果、安定した化合物になる置換基、例えば、転位、環化、脱離、又は他の反応などによって、自発的に変化しない化合物)で置き換えられることを意味する。記載がない限りは、“置換”基は、1又は複数の基の置換可能な位置に置換基を有し、任意の構造の1以上の位置が置換された場合、その置換基は同一の位置である、又は、異なる位置である。“置換”とは、全ての許容される有機化合物の置換基で置換することを含むことを想定しており、安定した化合物を形成する本明細書中に記載されたいずれの置換基を含む。本発明は、安定した化合物に達するために、いずれの化合物、及びそれらの組み合わせを想定している。本発明の目的を達成するために、窒素などのヘテロ原子は、水素置換基を有する、及び/又は、本明細書中に記載されるヘテロ原子の価数を満たす好適な置換基を有し、安定した部分の形成を図る。
【0043】
例示的な炭素原子置換基には、ハロゲン、-CN、-NO、-N、-SOH、-SOH、-OH、-ORaa、-ON(Rbb、-N(Rbb、-N(Rbb-、-N(ORcc)Rbb、-SeH、-SeRaa、-SH、-SRaa、-SSRcc、-C(=O)Raa、-COH、-CHO、-C(ORcc、-COaa、-OC(=O)Raa、-OCOaa、-C(=O)N(Rbb、-OC(=O)N(Rbb、-NRbbC(=O)Raa、-NRbbCOaa、-NRbbC(=O)N(Rbb、-C(=NRbb)Raa、-C(=NRbb)ORaa、-OC(=NRbb)Raa、-OC(=NRbb)ORaa、-C(=NRbb)N(Rbb、-OC(=NRbb)N(Rbb、-NRbbC(=NRbb)N(Rbb、-C(=O)NRbbSOaa、-NRbbSOaa、-SON(Rbb、-SOaa、-SOORaa、-OSOaa、-S(=O)Raa、-OS(=O)Raa、-Si(Raa、-OSi(Raa-C(=S)N(Rbb、-C(=O)SRaa、-C(=S)SRaa、-SC(=S)SRaa、-SC(=O)SRaa、-OC(=O)SRaa、-SC(=O)ORaa、-SC(=O)Raa、-P(=O)aa、-OP(=O)aa、-P(=O)(Raa、-OP(=O)(Raa、-OP(=O)(ORcc、-P(=O)N(Rbb、-OP(=O)N(Rbb、-P(=O)(NRbb、-OP(=O)(NRbb、-NRbbP(=O)(ORcc、-NRbbP(=O)(NRbb、-P(Rcc、-P(Rcc、-OP(Rcc、-OP(Rcc、-B(Raa、-B(ORcc、-BRaa(ORcc)、C1-50アルキル、C2-50アルケニル、C2-50アルキニル、C3-10カルボシクリル、3-14員環ヘテロシクリル、C6-14アリール、及び5-14員環ヘテロアリールが含まれるが、これらに限定されず、各アルキル、アルケニル、アルキニル、カルボシクリル、ヘテロシクリル、アリール、及びヘテロアリールは、それぞれ独立して0、1、2、3、4、5Rdd基に置き換えられ、
又は、炭素原子上の2個のジェミナルな水素が、基=O、=S、=NN(Rbb、=NNRbbC(=O)Raa、=NNRbbC(=O)ORaa、=NNRbbS(=O)aa、=NRbb、又は=NORccと置換され、
各Raaは、それぞれ独立して、C1-50アルキル、C2-50アルケニル、C2-50アルキニル、C3-10カルボシクリル、3-14員環ヘテロシクリル、C6-14アリール、及び5-14員環ヘテロアリールから選択され、又は、2つのRaa基が結合し、3-14員環ヘテロシクリル若しくは5-14員環ヘテロアリール環を形成し、各アルキル、アルケニル、アルキニル、カルボシクリル、ヘテロシクリル、アリール、及びヘテロアリールは、それぞれ独立して0、1、2、3、4、又は5Rdd基に置き換えられ、
各Rbbは、それぞれ独立して水素、-OH、-ORaa、-N(Rcc、-CN、-C(=O)Raa、-C(=O)N(Rcc、-COaa、-SOaa、-C(=NRcc)ORaa、-C(=NRcc)N(Rcc、-SON(Rcc、-SOcc、-SOORcc、-SORaa、-C(=S)N(Rcc、-C(=O)SRcc、-C(=S)SRcc、-P(=O)aa、-P(=O)(Raa、-P(=O)N(Rcc、-P(=O)(NRcc、C1-50アルキル、C2-50アルケニル、C2-50アルキニル、C3-10カルボシクリル、3-14員環ヘテロシクリル、C6-14アリール、及び5-14員環ヘテロアリールから選択され、又は、2個のRbb基が結合し、3-14員環ヘテロシクリル若しくは5-14員環ヘテロアリール環を形成し、各アルキル、アルケニル、アルキニル、カルボシクリル、ヘテロシクリル、アリール、及びヘテロアリールが、それぞれ独立して0、1、2、3、4、又は5Rdd基に置き換えられ、
ccは、それぞれ独立して水素、C1-50アルキル、C2-50アルケニル、C2-50アルキニル、C3-10カルボシクリル、3-14員環ヘテロシクリル、C6-14アリール、及び5-14員環ヘテロアリール、又は、2つのRcc基が結合し、3-14員環ヘテロシクリル若しくは5-14員環ヘテロアリール環を形成し、各アルキル、アルケニル、アルキニル、カルボシクリル、ヘテロシクリル、アリール、及びヘテロアリールは、それぞれ独立して0、1、2、3、4、又は5Rdd基に置き換えられ、
ddは、それぞれ独立してハロゲン、-CN、-NO、-N、-SOH、-SOH、-OH、-ORee、-ON(Rff、-N(Rff、-N(Rff-、-N(ORee)Rff、-SH、-SRee、-SSRee、-C(=O)Ree、-COH、-COee、-OC(=O)Ree、-OCOee、-C(=O)N(Rff、-OC(=O)N(Rff、-NRffC(=O)Ree、-NRffCOee、-NRffC(=O)N(Rff、-C(=NRff)ORee、-OC(=NRff)Ree、-OC(=NRff)ORee、-C(=NRff)N(Rff、-OC(=NRff)N(Rff、-NRffC(=NRff)N(Rff、-NRffSOee、-SON(Rff、-SOee、-SOORee、-OSOee、-S(=O)Ree、-Si(Ree、-OSi(Ree、-C(=S)N(Rff、-C(=O)SRee、-C(=S)SRee、-SC(=S)SRee、-P(=O)ee、-P(=O)(Ree、-OP(=O)(Ree、-OP(=O)(ORee、C1-50アルキル、C2-50アルケニル、C2-50アルキニル、C3-10カルボシクリル、3−10員環ヘテロシクリル、C6-10アリール、5-10員環ヘテロアリール、から選択され、各アルキル、アルケニル、アルキニル、カルボシクリル、ヘテロシクリル、アリール、及びヘテロアリールは、それぞれ独立して0、1、2、3、4、5又はRgg基と置換される、又は、2つのジェミナルなRdd置換基が結合して=O若しくは=Sを形成し得、
各Reeは、それぞれ独立して、C1-50アルキル、C2-50アルケニル、C2-50アルキニル、C3-10カルボシクリル、C6-10アリール、3-10員環ヘテロシクリル、及び3-10員環ヘテロアリールから選択され、各アルキル、アルケニル、アルキニル、カルボシクリル、ヘテロシクリル、アリール、及びヘテロアリールは、それぞれ独立して0、1、2、3、4、又は、5Rgg基に置き換えられ、
各Rffは、それぞれ独立して、水素、C1-50アルキル、C2-50アルケニル、C2-50アルキニル、C3-10カルボシクリル、3-10員環ヘテロシクリル、C6-10アリール及び5-10員環ヘテロアリールから選択され、又は、2つのRff基が結合し、3-14員環ヘテロシクリル又は5-14員環ヘテロアリール環を形成し、各アルキル、アルケニル、アルキニル、カルボシクリル、ヘテロシクリル、アリール、及びヘテロアリールは、それぞれ独立して0、1、2、3、4、又は5Rgg基に置き換えられ、
各Rggは、それぞれ独立して、ハロゲン、-CN、-NO、-N、-SOH、-SOH、-OH、-OC1-50アルキル、-ON(C1-50アルキル)、-N(C1-50アルキル)、-N(C1-50アルキル)-、-NH(C1-50アルキル)-、-NH(C1-50アルキル)-、-NH-、-N(OC1-50アルキル)(C1-50アルキル)、-N(OH)(C1-50アルキル)、-NH(OH)、-SH、-SC1-50アルキル、-SS(C1-50アルキル)、-C(=O)(C1-50アルキル)、-COH、-CO(C1-50アルキル)、-OC(=O)(C1-50アルキル)、-OCO(C1-50アルキル)、-C(=O)NH、-C(=O)N(C1-50アルキル)、-OC(=O)NH(C1-50アルキル)、-NHC(=O)(C1-50アルキル)、-N(C1-50アルキル)C(=O)(C1-50アルキル)、-NHCO(C1-50アルキル)、-NHC(=O)N(C1-50アルキル)、-NHC(=O)NH(C1-50アルキル)、-NHC(=O)NH、-C(=NH)O(C1-50アルキル)、-OC(=NH)(C1-50アルキル)、-OC(=NH)OC1-50アルキル、-C(=NH)N(C1-50アルキル)、-C(=NH)NH(C1-50アルキル)、-C(=NH)NH、-OC(=NH)N(C1-50アルキル)、-OC(NH)NH(C1-50アルキル)、-OC(NH)NH、-NHC(NH)N(C1-50アルキル)、-NHC(=NH)NH、-NHSO(C1-50アルキル)、-SON(C1-50アルキル)、-SONH(C1-50アルキル)、-SONH、-SO1-50アルキル、-SOOC1-50アルキル、-OSO1-6アルキル、-SOC1-6アルキル、-Si(C1-50アルキル)、-OSi(C1-6アルキル)-C(=S)N(C1-50アルキル)、C(=S)NH(C1-50アルキル)、C(=S)NH、-C(=O)S(C1-6アルキル)、-C(=S)SC1-6アルキル、-SC(=S)SC1-6アルキル、-P(=O)(C1-50アルキル)、-P(=O)(C1-50アルキル)、-OP(=O)(C1-50アルキル)、-OP(=O)(OC1-50アルキル)、C1-50アルキル、C2-50アルケニル、C2-50アルキニル、C3-10カルボシクリル、C6-10アリール、3-10員環ヘテロシクリル、5-10員環ヘテロアリールから選択され、又は、2個のジェミナルなRgg置換基が、結合して=O若しくは=Sを形成し得、
-は、対アニオンである。
【0044】
ここで用いられる“ハロ”又は”ハロゲン”とは、フッ素(フルオロ、-F)、塩素(クロロ、-Cl)、臭素(ブロモ、-Br)又はヨウ素(ヨード、-I)を意味する。
【0045】
ここで用いられる“対アニオン”とは、正に帯電した第四級アミンと結合する、負に帯電した基、を意味する。例示的な対アニオンは、ハロゲン化物イオン(例えば、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物)、NO-、ClO-、OH-、HPO-、HSO-、スルホン酸イオン(例えば、メタンスルホネート、トリフルオロメタンスルホネート、p-トルエンスルホネート、ベンゼンスルホネート、10-カンファースルホネート、ナフタレン-2-スルホネート、ナフタレン-1-スルホン酸-5-スルホネート、エタン-1-スルホン酸-2-スルホネート)、及びカルボン酸イオン(例えば、酢酸塩、エタン酸、プロパン酸、安息香酸、グリセリン酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩)である。
【0046】
窒素原子は、原子価数が許せば、置換される、又は、置換されず、第一級、第二級、第三級、及び、第四級窒素原子を含む。例示的な窒素原子置換基は、水素、-OH、-ORaa、-N(Rcc、-CN、-C(=O)Raa、-C(=O)N(Rcc、-COaa、-SOaa、-C(=NRbb)Raa、-C(=NRcc)ORaa、-C(=NRcc)N(Rcc、-SON(Rcc、-SOcc、-SOORcc、-SORaa、-C(=S)N(Rcc、-C(=O)SRcc、-C(=S)SRcc、-P(=O)aa、-P(=O)(Raa、-P(=O)N(Rcc、-P(=O)(NRcc、C1-10アルキル、C1-10ペルハロアルキル、C2-10アルケニル、C2-10アルキニル、C3-10カルボシクリル、3-14員環ヘテロシクリル、C6-14アリール、及び5-14員環ヘテロアリールが含まれるが、これらに限定されない。又は、1個の窒素原子と結合した2個のRcc基が、結合して、3-14員環ヘテロシクリル、若しくは、5-14員環ヘテロアリール環を形成し、各アルキル、アルケニル、アルキニル、カルボシクリル、ヘテロシクリル、アリール、及びヘテロアリールは、それぞれ独立して0、1、2、3、4又は、5Rdd基類と置き換えられるが、Raa、Rbb、Rcc、及びRddは前記定義に同じである。
【0047】
ある実施形態において、窒素原子に存在する置換基は、アミノ保護基であり、ここでは窒素保護基とも呼ばれる。アミノ保護基は、当該技術分野において、既知であり、詳細は、Protecting Groups in Organic Synthesis, T. W. Greene and P. G. M. Wuts, 3rd edition, John Wiley & Sons, 1999に記載されており、その記載内容を本明細書に援用するものとする。
【0048】
アミド基類などの窒素保護基(例えば、-C(=O)Raa)には、ホルムアミド、アセトアミド、クロロアセトアミド、トリクロロアセトアミド、トリフルオロアセトアミド、フェニルアセトアミド、3-フェニルプロパンアミド、ピコリンアミド、3-ピリジルカルボキサミド、N-ベンゾイルフェニルアラニル誘導体、ベンズアミド、p-フェニルベンズアミド、o-ニトフェニルアセトアミド、o-ニトロフェノキシアセトアミド、アセトアセタミド、(N’-ジチオベンジルオキシアシルアミノ)アセトアミド、3-(p-ヒドロキシフェニル)プロパンアミド、3-(o-ニトロフェニル)プロパンアミド、2-メチル-2-(o-ニトロフェノキシ)プロパンアミド、2-メチル-2-(o-フェニルアゾフェノキシ)プロパンアミド、4-クロロブタンアミド、3-メチル-3-ニトロブタンアミド、o-ニトロシンナミド、N-アセチルメチオニン誘導体、o-ニトロベンズアミド及びo-(ベンゾイルオキシメチル)ベンズアミドなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0049】
カルバメート基(例えば、-C(=O)ORaa)などの窒素保護基には、メチルカルバメート、エチルカルバメート、9-フルオレニルメチルカルバメート(Fmoc)、9-(2-スルホ)フルオレニルメチルカルバメート、9-(2,7-ジブロモ)フルオレニルメチルカルバメート、2,7-ジ-t-ブチル-[9-(10,10-ジオキソ-10,10,10,10-テトラヒドロチオキサンチル)]メチルカルバメート(DBD-Tmoc)、4-メトキシフェナシルカルバメート(Phenoc)、2,2,2-トリクロロエチルカルバメート(Troc)、2-トリメチルシリルエチルカルバメート(Teoc)、2-フェニルエチルカルバメート(hZ)、1-(1-アダマンチル)-1-メチルエチルカルバメート(Adpoc)、1,1-ジメチル-2-ハロエチルカルバメート、1,1-ジメチル-2,2-ジブロモエチルカルバメート(DB-t-BOC)、1,1-ジメチル-2、2、2-トリクロロエチルカルバメート(TCBOC)、1-メチル-1-(4-ビフェニルイル)エチルカルバメート(Bpoc)、1-(3、5-ジ-t-ブチルフェニル)-1-メチルエチルカルバメート(t-Bumeoc)、2-(2’-及び4’-ピリジル)エチルカルバメート(Pyoc)、2-(N、N-ジシクロヘキシルカルボキシアミド)エチルカルバメート、t-ブチルカルバメート(BOC)、1-アダマンチルカルバメート(Adoc)、ビニルカルバメート(Voc)、アリルカルバメート(Alloc)、1-イソプロピルアリルカルバメート(Ipaoc)、シンナミルカルバメート(Coc)、4-ニトロシンナミルカルバメート(Noc)、8-キノリルカルバメート、N-ヒドロキシピペリジニルカルバメート、アルキルジチオカルバメート、ベンジルカルバメート(Cbz)、p-メトキシベンジルカルバメート(Moz)、p-ニトベンジルカルバメート、p-ブロモベンジルカルバメート、p-クロロベンジルカルバメート、2,4-ジクロロベンジルカルバメート、4-メチルスルフィニルベンジルカルバメート(Msz)、9-アントリルメチルカルバメート、ジフェニルメチルカルバメート、2-メチルチオエチルカルバメート、2-メチルスルホニルエチルカルバメート、2-(p-トルエンスルホニル)エチルカルバメート、[2-(1,3-ジチアニル)]メチルカルバメート(Dmoc)、4-メチルチオフェニルカルバメート(Mtpc)、2,4-ジメチルチオフェニルカルバメート(Bmpc)、2-ホスホニオエチルカルバメート(Peoc)、2-トリフェニルホスホニオイソプロピルカルバメート(Ppoc)、1,1-ジメチル-2-シアノエチルカルバメート、m-クロロ-p-アシルオキシベンジルカルバメート、p-(ジヒドロキシボリル)ベンジルカルバメート、5-ベンズイソオキサゾリルメチルカルバメート、2-(トリフルオロメチル)-6-クロモニルメチルカルバメート(Tcroc)、m-ニトロフェニルカルバメート、3,5-ジメトキシベンジルカルバメート、o-ニトロベンジルカルバメート、3,4-ジメトキシ-6-ニトロベンジルカルバメート、フェニル(o-ニトロフェニル)メチルカルバメート、t-アミルカルバメート、S-ベンジルチオカルバメート、p-シアノベンジルカルバメート、シクロブチルカルバメート、シクロヘキシルカルバメート、シクロペンチルカルバメート、シクロプロピルメチルカルバメート、p-デシルオキシベンジルカルバメート、2、2-ジメトキシアシルビニルカルバメート、o-(N、N-ジメチルカルボキシアミド)ベンジルカルバメート、1,1-ジメチル-3-(N、N-ジメチルカルボキシアミド)プロピルカルバメート、1,1-ジメチルプロピニルカルバメート、ジ(2-ピリジル)メチルカルバメート、2-フラニルメチルカルバメート、2-ヨードエチルカルバメート、イソボリニルカルバメート、イソブチルカルバメート、イソニコチニルカルバメート、p-(p’-メトキシフェニルアゾ)ベンジルカルバメート、1-メチルシクロブチルカルバメート、1-メチルシクロヘキシルカルバメート、1-メチル-1-シクロプロピルメチルカルバメート、1-メチル-1-(3,5-ジメトキシフェニル)エチルカルバメート、1-メチル-1-(p-フェニルアゾフェニル)エチルカルバメート、1-メチル-1-フェニルエチルカルバメート、1-メチル-1-(4-ピリジル)エチルカルバメート、フェニルカルバメート、p-(フェニルアゾ)ベンジルカルバメート、2,4,6-トリ-t-ブチルフェニルカルバメート、4-(トリメチルアンモニウム)ベンジルカルバメート、及び2,4,6-トリメチルベンジルカルバメートなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0050】
スルホンアミド基(例えば、-S(=O)aa)などの窒素保護基には、p-トルエンスルホンアミド(Ts)、ベンゼンスルホンアミド、2,3,6,-トリメチル-4-メトキシベンゼンスルホンアミド(Mtr)、2,4,6-トリメトキシベンゼンスルホンアミド(Mtb)、2,6-ジメチル-4-メトキシベンゼンスルホンアミド(Pme)、2,3,5,6-テトラメチル-4-メトキシベンゼンスルホンアミド(Mte)、4-メトキシベンゼンスルホンアミド(Mbs)、2,4,6-トリメチルベンゼンスルホンアミド(Mts)、2,6-ジメトキシ-4-メチルベンゼンスルホンアミド(iMds)、2,2,5,7,8-ペンタメチルクロマン-6-スルホンアミド(Pmc)、メタンスルホンアミド(Ms)、β-トリメチルシリルエタンスルホンアミド(SES)、9-アントラセンスルホンアミド、4-(4’,8’-ジメトキシナフチルメチル)ベンゼンスルホンアミド(DNMBS)、ベンジルスルホンアミド、トリフルオロメチルスルホンアミド、及びフェナシルスルホンアミドなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0051】
その他の窒素保護基には、フェノチアジニル-(10)-アシル誘導体、N’-p-トルエンスルホニルアミノアシル誘導体、N’-フェニルアミノチオアシル誘導体、N-ベンゾイルフェニルアラニル誘導体、N-アセチルメチオニン誘導体、4,5-ジフェニル-3-オキサゾリン-2-オン、N-フタルイミド、N-ジチアスクシンイミド(Dts)、N-2,3-ジフェニルマレイミド、N-2,5-ジメチルピロール、N-1,1,4,4-テトラメチルジシリルアザシクロペンタン付加物(STABASE)、5-置換1,3-ジメチル-1,3,5-トリアザシクロヘキサン-2-オン、5-置換1,3-ジベンジル-1,3,5-トリアザシクロヘキサン-2-オン、1-置換3,5-ジニトロ-4-ピリドン、N-メチルアミン、N-アリルアミン、N-[2-(トリメチルシリル)エトキシ]メチルアミン(SEM)、N-3-アセトキシプロピルアミン、N-(1-イソプロピル-4-ニトロ-2-オキソ-3-ピロオリン-3-イル)アミン、第四級アンモニウム塩、N-ベンジルアミン、N-ジ(4-メトキシフェニル)メチルアミン、N-5-ジベンゾスベリルアミン、N-トリフェニルメチルアミン(Tr)、N-[(4-メトキシフェニル)ジフェニルメチル]アミン、(MMTr)、N-9-フェニルフルオレニルアミン(PhF)、N-2,7-ジクロロ-9-フルオレニルメチレンアミン、N-フェロセニルメチルアミノ(Fcm)、N-2-ピコリルアミノN’-オキシド、N-1,1-ジメチルチオメチレンアミン、N-ベンジリデンアミン、N-p-メトキシベンジリデンアミン、N-ジフェニルメチレンアミン、N-[(2-ピリジル)メシチル]メチレンアミン、N-(N’,N’-ジメチルアミノメチレン)アミン、N,N’-イソプロピリデンジアミン、N-p-ニトロベンジリデンアミン、N-サリチリデンアミン、N-5-クロロサリチリデンアミン、N-(5-クロロ-2-ヒドロキシフェニル)フェニルメチレンアミン、N-シクロヘキシリデンアミン、N-(5,5-ジメチル-3-オキソ-1-シクロヘキセニル)アミン、N-ボラン誘導体、N-ジフェニルボリン酸誘導体、N-[フェニル(ペンタアシルクロミウム-又はタングステン)アシル]アミン、N-銅キレート、N-亜鉛キレート、N-ニトロアミン、N-ニトロソアミン、アミン、N-酸化物、ジフェニルホスフィンアミド(Dpp)、ジメチルチオホスフィンアミド(Mpt)、ジフェニルチオホスフィンアミド(Ppt)、ジアルキルホスホロアミド酸、ジベンジルホスホロアミド酸、ジフェニルホスホロアミド酸、ベンゼンスルフェンアミド、o-ニトロベンゼンスルフェンアミド(Nps)、2、4-ジニトロベンゼンスルフェンアミド、ペンタクロロベンゼンスルフェンアミド、2-ニトロ-4-メトキシベンゼンスルフェンアミド、トリフェニルメチルスルフェンアミド、及び3-ニトロピリジンスルフェンアミド(Npys)などが含まれるが、これらに限定されない。
【0052】
ある実施形態において、酸素原子に存在する置換基は、酸素保護基である。酸素保護基は-Raa、-C(=O)SRaa、-C(=O)Raa(“acyl”)、-COaa、-C(=O)N(Rbb、-C(=NRbb)Raa、-C(=NRbb)ORaa、-C(=NRbb)N(Rbb、及び-Si(Raaが含まれるが、これらに限定されず、Raa、Rbb及びRccは、前記定義に同じである。ヒドロキシ保護基は、当該技術分野では既知であり、参考文献としてここに含まれるProtecting Groups in Organic Synthesis, T. W. Greene and P. G. M. Wuts, 3rd edition, John Wiley & Sons, 1999,に詳細な記述がある。
【0053】
例示的な酸素保護基には、メチル、メトキシルメチル(MOM)、メチルチオメチル(MTM)、t-ブチルチオメチル、(フェニルジメチルシリル)メトキシメチル(SMOM)、ベンジルオキシメチル(BOM)、p-メトキシベンジルオキシメチル(PMBM)、(4-メトキシフェノキシ)メチル(p-AOM)、グアヤコールメチル(GUM)、t-ブトキシメチル、4-ペンテンイルオキシメチル(POM)、シロキシメチル、2-メトキシエトキシメチル(MEM)、2,2,2-トリクロロエトキシメチル、ビス(2-クロロエトキシ)メチル、2-(トリメチルシリル)エトキシメチル(SEMOR)、テトラヒドロピラニル(THP)、3-ブロモテトラヒドロピラニル、テトラヒドロチオピラニル、1-メトキシシクロヘキシル、4-メトキシテトラヒドロピラニル(MTHP)、4-メトキシテトラヒドロチオピラニル、4-メトキシテトラヒドロチオピラニルS、S-ジオキシド、1-[(2-クロロ-4-メチル)フェニル]-4-メトキシピペリジン-4-イル(CTMP)、1,4-ジオキサン-2-イル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロチオフラニル、2,3,3a,4,5,6,7,7a-オクタヒドロ-7,8,8-トリメチル-4,7-メタノベンゾフラン-2-イル、1-エトキシエチル、1-(2-クロロエトキシ)エチル、1-メチル-1-メトキシエチル、1-メチル-1-ベンジルオキシエチル、1-メチル-1-ベンジルオキシ-2-フルオロエチル、2,2,2-トリクロロエチル、2-トリメチルシリルエチル、2-(フェニルセレニル)エチル、t-ブチル、アリル、p-クロロフェニル、p-メトキシフェニル、2、4-ジニトロフェニル、ベンジル(Bn)、p-メトキシベンジル、3、4-ジメトキシベンジル、o-ニトロベンジル、p-ニトロベンジル、p-ハロベンジル、2、6-ジクロロベンジル、p-シアノベンジル、p-フェニルベンジル、2-ピコリル、4-ピコリル、3-メチル-2-ピコリルN-オキシド、ジフェニルメチル、p,p’-ジニトロベンズヒドリル、5-ジベンゾスベリル、トリフェニルメチル、α-ナフチルジフェニルメチル、p-メトキシフェニルジフェニルメチル、ジ(p-メトキシフェニル)フェニルメチル、トリ(p-メトキシフェニル)メチル、4-(4′-ブロモフェナシルオキシフェニル)ジフェニルメチル、4,4′,4″-トリス(4,5-ジクロロフタルイミドフェニル)メチル、4,4′,4″-トリス(レブリノイルオキシフェニル)メチル、4,4′,4″-トリス(ベンゾイルオキシフェニル)メチル、3-(イミダゾール-1-イル)ビス(4′,4″-ジメトキシフェニル)メチル、1,1-ビス(4-メトキシフェニル)-1′-ピレニルメチル、9-アントリル、9-(9-フェニル)キサンテニル、9-(9-フェニル-10-オキソ)アントリル、1,3-ベンゾジスルフラン-2-イル、ベンズイソチアゾリルS,S-ジオキシド、トリメチルシリル(TMS)、トリエチルシリル(TES)、トリイソプロピルシリル(TIPS)、ジメチルイソプロピルシリル(IPDMS)、ジエチルイソプロピルシリル(DEIPS)、ジメチルテキシルシリル、t-ブチルジメチルシリル(TBDMS)、t-ブチルジフェニルシリル(TBDPS)、トリベンジルシリル、トリ-p-キシリルシリル、トリフェニルシリル、ジフェニルメチルシリル(DPMS)、t-ブチルメトキシフェニルシリル(TBMPS)、ギ酸、ベンゾイルギ酸、アセテート、クロロアセテート、ジクロロアセテート、トリクロロアセテート、トリフルオロアセテート、メトキシアセテート、トリフェニルメトキシアセテート、フェノキシアセテート、p-クロロフェノキシアセテート、3-フェニルプロピオネート、4-オキソペンタノアート(レブリネート)、4,4-(エチレンジチオ)ペンタノアート(レブリノイルジチオアセタール)、ピバロエート、アダマントエート、クロトネート、4-メトキシクロトナート、安息香酸、p-フェニル安息香酸、2,4,6-トリメチル安息香酸(メシトエート)、アルキルメチルカーボネート、9-フルオレニルメチルカーボネート(Fmoc)、アルキルエチルカーボネート、アルキル2,2,2-トリクロロエチルカーボネート(Troc)、2-(トリメチルシリル)エチルカーボネート(TMSEC)、2-(フェニルスルホニル)エチルカーボネート(Psec)、2-(トリフェニルホスホニオ)エチルカーボネート(Peoc)、アルキルイソブチルカーボネート、アルキルビニルカーボネートアルキルアリルカーボネート、アルキルp-ニトロフェニルカーボネート、アルキルベンジルカーボネート、アルキルp-メトキシベンジルカーボネート、アルキル3、4-ジメトキシベンジルカーボネート、アルキルo-ニトロベンジルカーボネート、アルキルp-ニトロベンジルカーボネート、アルキルS-ベンジルチオカーボネート、4-エトキシ-1-ナチフルカーボネート、メチルジチオカーボネート、2-ヨード安息香酸、4-アジドブチラート、4-ニトロ-4-メチルペンタノアート、o-(ジブロモメチル)安息香酸、2-ホルミルベンゼンスルホネート、2-(メチルチオメトキシ)エチル、4-(メチルチオメトキシ)ブチラート、2-(メチルチオメトキシメチル)安息香酸、2,6-ジクロロ-4-メチルフェノキシアセテート、2,6-ジクロロ-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノキシアセテート、2,4-ビス(1,1-ジメチルプロピル)フェノキシアセテート、クロロジフェニルアセテート、イソブチラート、モノスクシノエート,(E)-2-メチル-2-ブテノアート、o-(メトキシアシル)安息香酸、α-ナフトエート、硝酸塩、アルキルN,N,N’,N’-テトラメチルホスホロジアミデート、アルキルN-フェニルカルバメート、ホウ酸塩、ジメチルホスフィノチオイル、アルキル2,4-ジニトロフェニルスルフェナート、硫酸塩、メタンスルホネート(メシラート)、ベンジルスルホネート、及びトシレート(Ts)が含まれるが、これらに限定されない。
【発明を実施するための形態】
【0054】
本明細書中に記載される通り、本発明は、薬剤及び薬剤候補の反応性代謝物質を捕獲及び検出する新たな標識剤を提供する。そのような試薬は、例えば、代謝物質が試料中の存在する又は、試験化合物の代謝から生成される場合に、試料中の反応性代謝物質を検出する方法において有益であり得、代謝物質及び式(I)又は(II)の試薬が反応し、例えば、質量分析器により検出可能な付加物を形成する。本発明は、更に、例えば、付加物が全く検出されない場合、反応性代謝物質が試料中に存在しないことを確認する場合にも有益であると考えられる。
【0055】
したがって、ある態様において、Rが水素であるとき、標識剤として使用されうる式(I)の化合物を提供する。
【化8】
式中、
各RとRは、それぞれ独立して水素、置換若しくは非置換のアルキル、置換若しくは非置換のアルケニル、置換若しくは非置換のアルキニル、置換若しくは非置換のカルボシクリル、置換若しくは非置換のヘテロシクリル、置換若しくは非置換のアリール、置換若しくは非置換のヘテロアリール、−C(=O)R、−C(=O)OR、−C(=O)N(R、若しくはアミノ保護基、又は、RとRが結合して置換若しくは非置換の複素環を形成し、
各Rは、それぞれ独立して水素、置換若しくは非置換のアルキル、置換若しくは非置換のアルケニル、置換若しくは非置換のアルキニル、置換若しくは非置換のカルボシクリル、置換若しくは非置換のヘテロシクリル、置換若しくは非置換のアリール、置換若しくは非置換のヘテロアリール、酸素原子と結合した場合に酸素保護基、若しくは窒素原子と結合した場合に窒素保護基、又は、2つのR基が結合して置換若しくは非置換の複素環を形成し、
は、水素、又は硫黄保護基であり、
各Rは、それぞれ独立して置換若しくは非置換のアルキル、置換若しくは非置換のアルケニル、置換若しくは非置換のアルキニル、置換若しくは非置換のカルボシクリル、置換若しくは非置換のヘテロシクリル、置換若しくは非置換のアリール、置換若しくは非置換のヘテロアリール、若しくはアミノ保護基、又は、2つのR基が結合して置換若しくは非置換の複素環を形成し、
nは、1、2、3、4、5又は6であり、
は、対アニオンである。
【0056】
更に、別の態様によれば、Rが水素であるとき、標識剤として使用されうる式(II)の化合物を提供する。
【化9】
式中、
各RとRは、それぞれ独立して水素、置換若しくは非置換のアルキル、置換若しくは非置換のアルケニル、置換若しくは非置換のアルキニル、置換若しくは非置換のカルボシクリル、置換若しくは非置換のヘテロシクリル、置換若しくは非置換のアリール、置換若しくは非置換のヘテロアリール、−C(=O)R、−C(=O)OR、−C(=O)N(R、若しくはアミノ保護基、又は、RとRが結合して置換若しくは非置換の複素環を形成し、
各Rは、それぞれ独立して水素、置換若しくは非置換のアルキル、置換若しくは非置換のアルケニル、置換若しくは非置換のアルキニル、置換若しくは非置換のカルボシクリル、置換若しくは非置換のヘテロシクリル、置換若しくは非置換のアリール、置換若しくは非置換のヘテロアリール、酸素原子と結合した場合に酸素保護基、若しくは窒素原子と結合した場合に窒素保護基、又は、2つのR基が結合して置換若しくは非置換の複素環を形成し、
は、水素又は、硫黄保護基であり、
とRは、独立して−OR、−N(R、及び式(i)の基から選択され、
【化10】
ただし、RとRの少なくともいずれか一方が、式(i)の基であり、
各Rは、それぞれ独立して水素、置換若しくは非置換のアルキル、置換若しくは非置換のアルケニル、置換若しくは非置換のアルキニル、置換若しくは非置換のカルボシクリル、置換若しくは非置換のヘテロシクリル、置換若しくは非置換のアリール、置換若しくは非置換のヘテロアリール、酸素原子と結合した場合に酸素保護基、若しくは窒素原子と結合した場合に窒素保護基、又は、2つのR基が結合して置換若しくは非置換の複素環を形成し、
各Rは、それぞれ独立して置換若しくは非置換のアルキル、置換若しくは非置換のアルケニル、置換若しくは非置換のアルキニル、置換若しくは非置換のカルボシクリル、置換若しくは非置換のヘテロシクリル、置換若しくは非置換のアリール、置換若しくは非置換のヘテロアリール、若しくはアミノ保護基、又は、2つのR基が結合して置換若しくは非置換の複素環を形成し、
nは、1、2、3、4、5又は6であり、
は、対アニオンである。
【0057】
前記に一般的に記載された通り、式(I)又は(II)の化合物は、ある実施形態において、Rが水素である標識剤として有益であり得る。本発明これらの化合物の保護形なども含まれ、例えば、対応する合成中間体であり、式中、Rは、硫黄保護基である。
【0058】
ある実施形態において、Rは、水素である。ある実施形態において、Rは、置換若しくは非置換のアルキルであり、例えば、−CH、又は、置換若しくは非置換のアラルキルである。ある実施形態において、Rは、置換又は非置換のアルケニルであり、例えば、アリルである。ある実施形態において、Rは、置換または非置換のアルキニルであり、例えば、プロピニルである。ある実施形態において、Rは、置換または非置換のカルボシクリルである。ある実施形態において、Rは、置換または非置換のヘテロシクリルである。ある実施形態において、Rは、置換または非置換のアリールである。ある実施形態において、Rは、置換または非置換のヘテロアリールである。ある実施形態において、Rは、−C(=O)Rである。ある実施形態において、Rは、−C(=O)ORである。ある実施形態において、Rは、−C(=O)N(Rである。ある実施形態において、Rは、アミノ保護基である。
【0059】
ある実施形態において、Rは、水素である。ある実施形態において、Rは、置換若しくは非置換のアルキルであり、例えば、−CH、又は、置換若しくは非置換のアラルキルである。ある実施形態において、Rは、置換または非置換のアルケニルであり、例えば、アリルである。ある実施形態において、Rは、置換または非置換のアルキニルであり、例えば、プロピニルである。ある実施形態において、Rは、置換または非置換のカルボシクリルである。ある実施形態において、Rは、置換または非置換のヘテロシクリルである。ある実施形態において、Rは、置換または非置換のアリールである。ある実施形態において、Rは、置換または非置換のヘテロアリールである。ある実施形態において、Rは、−C(=O)Rである。ある実施形態において、Rは、−C(=O)ORである。ある実施形態において、Rは、−C(=O)N(Rである。ある実施形態において、Rは、アミノ保護基である。
【0060】
ある実施形態において、RとRが結合して置換若しくは非置換の複素環を形成し、例えば、置換又は非置換のピロリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、モルホリニル環である。
【0061】
また、RとRが結合して置換または非置換のヘテロアリール環、例えば、5、6員環ヘテロアリール環を形成しても良い。
【0062】
ある実施形態において、Rは、水素であり、Rは、水素、−C(=O)R、−C(=O)OR、−C(=O)N(R、又は、アミノ保護基である。ある実施形態において、Rは、水素であり、Rは、−C(=O)R,−C(=O)OR,又は、−C(=O)N(Rである。ある実施形態において、Rは、水素であり、Rは、−C(=O)Rである。ある実施形態において、Rは、水素であり、Rは、−C(=O)ORである。ある実施形態において、Rは、水素であり、Rは、−C(=O)N(Rである。ある実施形態において、Rは、水素であり、Rは、水素である。
【0063】
ある実施形態において、少なくともRは、それぞれ水素である。ある実施形態において、少なくともRは、それぞれ置換若しくは非置換のアルキル、例えば、-CH、又は、置換若しくは非置換のアラルキルである。ある実施形態において、少なくともRは、それぞれ置換または非置換のアルケニル、例えば、アリルである。ある実施形態において、少なくともRは、それぞれ置換または非置換のアルキニル、例えば、プロピニルである。ある実施形態において、少なくともRは、それぞれ置換または非置換のカルボシクリルである。ある実施形態において、少なくともRは、それぞれ置換または非置換のヘテロシクリルである。ある実施形態において、少なくともRは、それぞれ置換または非置換のアリールである。ある実施形態において、少なくともRは、それぞれ置換または非置換のヘテロアリールである。ある実施形態において、Rは、酸素保護基である。ある実施形態において、少なくともRは、それぞれ窒素保護基である。
【0064】
ある実施形態において、2個のR基は、1個のN原子と結合し、その2個のR基は、置換または非置換の複素環を形成するように結合され、例えば、置換若しくは非置換のピロリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、又はモルホリニル環である。
【0065】
また、2個のR基は、置換または非置換のヘテロアリール環、例えば、5、6員環ヘテロアリール環を形成するように結合されても良い。
【0066】
ある実施形態において、少なくとも1個のRは、-CHであり、例えば、−C(=O)CH、−C(=O)OCH、又は、−C(=O)NHCHの式の基である。ある実施形態において、Rは、水素であり、Rは、−C(=O)CH、−C(=O)OCH、又は、−C(=O)NHCHである。ある実施形態において、Rは、水素であり、Rは、−C(=O)CHである。ある実施形態において、Rは、水素であり、Rは、−C(=O)OCHである。ある実施形態において、Rは、水素であり、Rは、−C(=O)NHCHである。
【0067】
ある実施形態において、少なくとも1個のRは、置換若しくは非置換のアリール、または、置換若しくは非置換のアラルキルである。この例では、ある実施形態において、少なくとも1個のRは、式(a)の基であり、
【化11】
式中、
pは、0であり、置換若しくは非置換のアリールとなる、又は、
pは、1又は2であり、置換若しくは非置換のアラルキルとなる、
mは、1、2、3、4、又は5であり、
は、それぞれ独立してハロゲン、置換若しくは非置換のアルキル、置換若しくは非置換のアルケニル、置換若しくは非置換のアルキニル、置換若しくは非置換のカルボシクリル、置換若しくは非置換のヘテロシクリル、置換若しくは非置換のアリール、置換若しくは非置換のヘテロアリールである。
【0068】
例えば、ある実施形態において、Rは、水素であり、Rは、−C(=O)R、−C(=O)OR、又は、−C(=O)N(Rであり、Rは、式(a)の基である。ある実施形態において、Rは、水素であり、Rは、−C(=O)Rであり、Rは、式(a)の基である。ある実施形態において、Rは、水素であり、Rは、−C(=O)ORであり、Rは、式(a)の基である。ある実施形態において、Rは、水素であり、Rは、−C(=O)NH(R)であり、Rは、式(a)の基である。
【0069】
ある実施形態において、pは、0である。ある実施形態において、pは、1又は2である。ある実施形態において、pは、1である。ある実施形態において、pは、2である。
【0070】
ある実施形態において、Rは、それぞれ独立してハロゲン、例えば、フルオロ、ブロモ、ヨード、クロロから成る群から選択される。ある実施形態において、R それぞれ独立してブロモ及びフルオロから成る群から選択される。ある実施形態において、Rは、それぞれブロモである。ある実施形態において、Rは、それぞれフルオロである。
【0071】
モノ-、ジ-、トリ-、及びテトラ-により置換された数多くの式(a)の基が、検討された。例えば、ある実施形態において、式中、mは、1であり、式(a)の基は、オルト、メタ、又は、パラにより置換された式の基である。
【化12】
【0072】
ある実施形態において、式中、mは、2であり、式(a)の基は、下記式のいずれか一つの二置換基である。
【化13】
【0073】
ある実施形態において、式中、mは、3であり、式(a)の基は、下記式のいずれか一つの三置換基である。
【化14】
【0074】
ある実施形態において、式中、mは、4であり、式(a)の基は、下記式のいずれか一つの四置換基である。
【化15】
【0075】
ある実施形態において、式中、mは、5であり、式(a)の基は、五置換基である。
【化16】
【0076】
ある実施形態において、mは、1であり、Rは、ブロモである。ある実施形態において、Rは、オルトブロモ基である。
【0077】
ある実施形態において、mは、5であり、Rは、フルオロである。
【0078】
ある実施形態において、少なくとも1個のRは、それぞれ置換若しくは非置換のアルキルであり、例えば、−CH3、置換若しくは非置換のアラルキルである。ある実施形態において、少なくとも1個のRは、それぞれ置換または非置換のアルケニルであり、例えば、アリルである。ある実施形態において、少なくとも1個のRは、それぞれ置換または非置換のアルキニルであり、例えば、プロピニルである。ある実施形態において、少なくとも1個のRは、それぞれ置換または非置換のカルボシクリルである。ある実施形態において、少なくとも1個のRは、置換または非置換のヘテロシクリルである。ある実施形態において、少なくとも1個のRは、それぞれ置換または非置換のアリールである。ある実施形態において、少なくとも1個のRは、それぞれ置換または非置換のヘテロアリールである。ある実施形態において、少なくとも1個のRは、それぞれアミノ保護基である。
【0079】
ある実施形態において、2個のRは、同一である。ある実施形態において、Rは、それぞれ同様である。ある実施形態において、Rは、それぞれ異なる。
【0080】
ある実施形態において、少なくとも1個のRは、置換若しくは非置換のアルキルであり、例えば、置換若しくは非置換のC、C、C、C、C、C、C1-6、C1-5、C1-4、C1-3、C1-2、C2-6、C2-5、C2-4、C2-3、C3-6、C3-5、C3-4、C4-6、C4-5、又は、C5-6アルキルである。ある実施形態において、Rは、それぞれ置換若しくは非置換のCアルキルであり、例えば、-CHである。ある実施形態において、Rは、それぞれ-CHである。
【0081】
ある実施形態において、2個のR基は、置換若しくは非置換の複素環を形成するように結合され、例えば、置換若しくは非置換のピロリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、又はモルホリニル環である。
【0082】
また、1個のR基は、存在しないか、または、別の2個のR基が結合して置換または非置換のヘテロアリール環、例えば、5、6員環ヘテロアリール環を形成しても良い。
【0083】
ある実施形態において、nは、1である。ある実施形態において、nは、2である。ある実施形態において、nは、3である。ある実施形態において、nは、4である。ある実施形態において、nは、5である。ある実施形態において、nは、6である。
【0084】
ここで用いられる“対アニオン”又は、”アニオン”とは、正に帯電する第四級アミンと結合した、負に帯電した基、を意味する。例示的な対アニオンは、ハロゲン化物イオン(例えば、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物)、NO-、ClO-、OH-、HPO-、HSO-、スルホン酸イオン(例えば、メタンスルホネート、トリフルオロメタンスルホネート、p-トルエンスルホネート、ベンゼンスルホネート、10-カンファースルホネート、ナフタレン-2-スルホネート、ナフタレン-1-スルホン酸-5-スルホネート、エタン-1-スルホン酸-2-スルホネート)、及びカルボン酸イオン(例えば、酢酸塩、エタン酸、プロパン酸、安息香酸、グリセリン酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩)である。ある実施形態において、Xは、ハロゲン化物対アニオンであり、例えば、クロリド対アニオンである。
【0085】
一般的に上記に定義された通り、式(II)において、RとRは、独立して−OR、−N(R及び下記式(i)の基から選択される。
【化17】
ただし、RとRの少なくともいずれか一方が、式(i)の基であり、X、R、及び、nは、前記定義に同じである。
【0086】
ある実施形態において、Rは、−ORであり、Rは、式(i)の基である。
【0087】
ある実施形態において、Rは、−N(Rであり、Rは、式(i)の基である。
【0088】
ある実施形態において、Rは、−ORであり、Rは、式(i)の基である。
【0089】
ある実施形態において、Rは、−N(Rであり、Rは、式(i)の基である。
【0090】
ある実施形態において、少なくとも1個のRは、水素である。ある実施形態において、少なくとも1個のRは、置換または非置換のアルキル、例えば、−CH、置換または非置換のアラルキルである。ある実施形態において、少なくとも1個のRは、置換または非置換のアルケニル、例えば、アリルである。ある実施形態において、少なくとも1個のRは、置換または非置換のアルキニル、例えば、プロピニルである。ある実施形態において、少なくとも1個のRは、置換または非置換のカルボシクリルである。ある実施形態において、少なくとも1個のRは、置換または非置換のヘテロシクリルである。ある実施形態において、少なくとも1個のRは、置換または非置換のアリールである。ある実施形態において、少なくとも1個のRは、置換または非置換のヘテロアリールである。ある実施形態において、Rは、酸素保護基である。ある実施形態において、少なくとも1個のRは、窒素保護基である。
【0091】
ある実施形態において、2個のR基は、1個のN原子と結合し、その2個のR基は、置換若しくは非置換の複素環を形成すように結合され、例えば、置換または非置換のピロリジニル、ピペリジニル、ピペラジニル、又はモルホリニル環である。
【0092】
また、2個のR基は、置換または非置換のヘテロアリール環、例えば5、6員環ヘテロアリール環を形成するように結合されても良い。
【0093】
ある実施形態において、少なくとも1個のRは、置換若しくは非置換のアリール、又は、置換若しくは非置換のアラルキルである。この例では、ある実施形態において、少なくとも1個のRは、前記に定義した式(a)の基である。
【0094】
当業者には理解されるように、本明細書中に記載したR、R、R、R、R、R、R、R、X及びnについては、本発明は、多くの組み合わせが可能であり、意図している。本発明は、明記されたされた特定の式や条件に限定されない。
【0095】
ある実施形態において、Rは、水素であり、式(I)の化合物は、式(I−a)で示される。
【化18】
【0096】
ある実施形態において、nは、2であり、式(I)の化合物は、式(I−b)で示される。
【化19】
式(I−b)のある実施形態において、Rは、水素である。
【0097】
ある実施形態において、nは、2であり、各Rは、それぞれ-CHであり、式(I)の化合物は、式(I−c)で示される。
【化20】
式(I−c)のある実施形態において、Rは、水素である。
【0098】
式(I)の例示的な化合物は、下記に示されるが、これらに限定されない。
【化21】
式中、Xは、対アニオンである。ある実施形態において、Xは、クロリド対アニオンである。
【0099】
ある実施形態において、Rは、水素であり、式(II)の化合物は、式(II-a)で示される。
【化22】
【0100】
ある実施形態において、式中、Rは、式(i)の基であり、Rは、-ORであり、式(II)の化合物は、式(II−b)で示される。
【化23】
式(II−b)のある実施形態において、Rは、水素である。
【0101】
ある実施形態において、nは、2であり、Rは、式(i)の基であり、及びRは、-ORであり、式(II)の化合物は、式(II−c)で示される。
【化24】
式(II−c)のある実施形態において、Rは、水素である。
【0102】
ある実施形態において、nは、2であり、Rは、それぞれ-CH、Rは、式(i)の基であり、Rは、-ORであり、式(II)の化合物は、式(II−d)で示される。
【化25】
式(II−d)のある実施形態において、Rは、水素である。
【0103】
ある実施形態において、式中、Rは、式(i)の基であり、及びRは、-OR、式(II)の化合物は、式(II−e)で示される。
【化26】
式(II−e)のある実施形態において、Rは、水素である。
【0104】
ある実施形態において、nは、2であり、Rは、式(i)の基であり、Rは、-ORであり、式(II)の化合物は、式(II−f)で示される。
【化27】
式(II−f)の実施形態において、Rは、水素である。
【0105】
ある実施形態において、nは、2であり、Rは、それぞれ-CH,Rは、式(i)の群であり、Rは、-ORであり、式(II)の化合物は、式(II−g)で示される。
【化28】
式(II−f)の実施形態において、Rは、水素である。
【0106】
式(II)の例示的な化合物には、下記のものが含まれるが、それらに限定されない。
【化29-1】
【化29-2】
【化29-3】
式中、Xは、対アニオンである。ある実施形態において、Xは、クロリド対アニオンである。
【0107】
スクリーニング方法及びキット
ある態様において、本発明は、代謝物質を含む試料と、下記式(I)又は(II)の試薬とを接触させることを含む試料中の代謝物質の検出方法を提供する。
【化30】
式中、R、R、R、R、R、X及びnは、前記定義に同じであり、Rは、水素であり、
式中、代謝物質及び式(I)又は(II)の試薬とを、反応させて付加物を形成し、例えば、質量分析器により、前記付加物を検出する。
【0108】
ある実施形態において、試料には、酵素系が含まれる。ある実施形態において、試料には、試験化合物が含まれる。ある実施形態において、試験化合物を含む試料を酵素系と接触させ、代謝物質は、酵素系による代謝により、試験化合物に生成される。ある実施形態において、酵素系は、P450ミクロソーム酵素系である。体内のP450ミクロソーム酵素系は、例えば、一般的には肝臓にあり、人体の解毒を促進する。したがって、薬剤や薬剤候補などの試験化合物が体内に取り入れられると、P450ミクロソーム酵素系は、前記薬剤や薬剤候補を代謝させる。前記工程による副成物は、反応性代謝物質であり得る。ある実施形態において、P450ミクロソーム酵素系は、ミクロソーム、S9画分、及びP450酵素から成る群から選択される。ある実施形態において、ミクロソームは、哺乳動物の肝臓ミクロソーム、例えば、ヒト肝臓ミクロソームである。ある実施形態において、S9画分は、哺乳動物のS9画分、例えば、ヒト肝臓S9画分である。種々のP450ミクロソーム酵素系の記載については、米国特許第5,478,723号、及び第5,891,696号参照。
【0109】
別の態様によれば、前記スクリーニング方法は、試験化合物、酵素系を式(I)又は(II)の化合物とを接触させることを含む試料中の代謝物質の検出方法である。
【化31】
式中、R、R、R、R、R、X及びnは、前記定義に同じであり、R は、水素であり、
前記試験化合物は、前記酵素系により代謝され、代謝物質となり、前記代謝物質を、式(I)又は(II)の化合物と反応させ、付加物を形成し、例えば、質量分析法により前記付加物を検出する方法である。
【0110】
ある実施形態において、試験化合物の濃度は、約1nMから約1mM、例えば、約100nMから100uMである。ある実施形態において、試験化合物の濃度は、約10uMである。しかし、他の濃度を用いても良い。
【0111】
ある実施形態において、式(I)又は(II)の化合物の濃度は、約1nMから約1mM、例えば、約100nMから100uMである。ある実施形態において、式(I)又は(II)の化合物の濃度は、約5uMである。しかし、他の濃度を用いても良い。
【0112】
ある実施形態において、代謝物質の濃度は、約1nMから約1mMであり、例えば、約100nMから100uMである。しかし、他の濃度を用いても良い。
【0113】
ある実施形態において、試験化合物、酵素系、及び式(I)又は(II)の化合物は、例えば、水溶液などの溶液中に用意する。ある実施形態において、前記水溶液には、水、有機溶剤、又はそれらの混合溶液が含まれる。ある実施形態において、前記水溶液は、例えば、リン酸カリウム緩衝液を用いて緩衝化される。ある実施形態において、水溶液のpH値は、約7.0〜7.6であり、例えば、約7.4である。
【0114】
ある実施形態において、前記接触は、NADPH生成系、又は、NADPHを添加する前に、約1〜10分間のプレインキュベーションを含む。ある実施形態において、NADPH生成系、又は、NADPHを添加することにより付加物の形成が開始される。ある実施形態において、プレインキュベーションは、約3〜5分間である。ある実施形態において、プレインキュベーションは、約3分間である。
【0115】
ある実施形態において、NADPH生成系、又は、NADPHを添加後、混合物を更に、約30分から約2時間インキュベーションする。ある実施形態において、混合物を更に、約1時間インキュベーションする。
【0116】
ある実施形態において、インキュベーション中の溶液の温度は、約30°C〜約40°Cである。ある実施形態において、インキュベーション中の溶液の温度は、約37°Cである。
【0117】
ある実施形態において、前記反応を、検出を行う前に急冷する。ある実施形態において、前記反応を酸で急冷する。ある実施形態において、酸は、例えば、塩酸などの無機酸である。ある実施形態において、酸は、例えば、ギ酸などの有機酸である。ある実施形態において、前記反応を、0.1%のギ酸を用いて、例えば、アセトニトリルなどの有機溶剤中で急冷する。ある実施形態において、急冷後、前記反応は、遠心分離させ、精製又は追加的な検査を行うことなく、試料を直接分析する。
【0118】
ある実施形態において、前記付加物は、質量分析法(MS)により検出される。ここで用いられる“検出する(detecting)”とは、付加物の生成物の特徴的な部分や断片の特定から付加物の存在を推定して、付加物の存在を直接的又は間接的に特定すること、例えば、付加物が更に処理される場合(例えば、三連四重極型質量分析計により生じる衝突誘起解離)をも包含する。ある実施形態において、質量分析計は、タンデム質量分析計(MS/MS)である。ある実施形態において、質量分析計は、タンデム質量分析計と接続したエレクトロスプレーイオン化質量分析による質量分析計(ESI−MS/MS)である。ある実施形態において、質量分析計に接続した液体クロマトグラフィの組み合わせを使用して、付加物を検出する。ある実施形態において、液体クロマトグラフィは、高圧液体クロマトグラフィ(HPLC)である。ある実施形態において、液体クロマトグラフィは、超高圧液体クロマトグラフィ(UPLC又はUHPLC)である。
【0119】
ある実施形態において、本明細書中に記載された方法は、既知の代謝物質を低いレベルで検出する方法である。ある実施形態において、本明細書中に記載された方法は、新たな代謝物質を特定する方法である。ある実施形態において、本明細書中に記載された方法は、代謝物質検出の分析や確実性を高める方法である。
【0120】
本明細書中に記載される分析を行うためのキットを提供する。前記キットは、1以上の酵素系、標準的な試験化合物、薬瓶及び/又は容器、溶液、式(I)又は(II)の1以上の化合物、及び、使用説明書が含まれるが、これらに限定されない。
【0121】
共有結合付加物の形成 インビボで、グルタチオン(GSH)は、その求核性チオール基を通じて反応性種の反応性求電子性部分と共有結合し、安定したS−置換コンジュゲートを形成する。これらは、体内から排出されることにより、そのような反応性種が重要な細胞構成と結合することを防ぐ本来の機能を付与している。本明細書中に記載されたスクリーニング分析によれば、インビボでグルタチオンに似た性質を示すと考えられる。1以上の反応性代謝物質が、試料中に存在し、共有結合付加体を形成する式(I)又は(II)の化合物において、遊離チオール基の反応は、当該技術分野では既知の化学反応である。例えば、Fluharty, Biochemistry of the Thiol Group, In the Chemistry of the Thiol Group, ed. S. Patai, Wiley, New York, 1974; Clark, Chemical Reviews (1980) 80:429-452; Fujita et al., Bioorganic Chemistry (1977) 6:287-309; 及び Perlmutter, Conjugated Addition Reactions in Organic Synthesis, Pergamon, Oxford, 1992、参照。例えば、チオール基は、1,4−付加により、マイケル受容体若しくはジオン、又は、1,2−付加により、活性カルボニル基類若しくはオレフィン基類と反応して、結合付加体を形成しうる。
【0122】
したがって、別の態様によれば、代謝物質と式(I)又は(II)の化合物の共有結合付加体を提供する。
【化32】
式中、R、R、R、R、R、X及びnは、前記定義に同じであり、付加物が形成される前の代謝物質は、任意の試験化合物であり、例えば、求電子反応性部分を含む薬剤又は薬剤候補である。例えば、遊離チオール基との共有結合コンジュゲーションが可能であり、付加物を形成するマイケル受容体、ジエン、オレフィン、又は、活性カルボニル基である。
【0123】
代謝物質に対する例示的な被験薬剤は、本明細書中に記載されたチオール試薬を用いて共有結合付加体を形成し得、また被験薬剤は、アメリカ食品医薬品局に承認され、連邦規則集(CFR)に記載された任意の薬品が含まれるが、これらに限定されない。薬剤候補は、未承認であるものの、ある対象、例えば、ヒト(すなわち,あらゆる年齢層の男性又は女性、例えば、小児対象(例えば、幼児、子ども、青年)又は成人対象(例えば、若年成人、中年成人、若しくは、老人)及び/又は人間以外の動物、例えば、哺乳動物[例えば、霊長類(例えば、カニクイザル、アカゲザル)、及び商業的に入手可能な哺乳動物、例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、及び/又はイヌ]並びに鳥類(例えば、商業的に入手可能な鳥類、例えば、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、及び/又はシチメンチョウ)に生物実験が行われ開発中の化合物である。
【0124】
いくつかの実施形態においては、試料中の付加物の検出は、好ましくない反応性代謝物質を示す場合があると理解するべきである(例えば、ある対象にとって潜在的に毒性となりうるもの)。いくつかの実施形態において、付加物が検出された場合(例えば、薬剤候補)、付加物の分析を更に行い、反応性代謝物質を特定するために役立てることができる。いくつかの実施形態において、ある特定の反応性代謝物質の存在及び/若しくはその不十分な量、又は、1以上反応性代謝物質が存在する場合は、薬剤又は薬剤候補が治療目的には選択されないおそれがある。いくつかの実施形態において、特定の反応性代謝物質及び/若しくは不十分な量、又は、1以上反応性代謝物質が試料中に検出される場合、薬剤候補は変更できる、及び/又は、薬剤や薬剤候補の1以上の合成工程を1以上変更して、1以上の反応性代謝物の量を回避する又は減らすことができる。
【実施例】
【0125】
これまでに記載された本発明の態様及び別の態様は、下記の実施例の検討により、更に理解されるであろう。下記の実施例は、本発明の特定の実施形態を記載することを意図するもので、請求項に記載された範囲を限定することを意図するものではない。

コラミン修飾システイン(cys−chol)の合成
【化33】
【0126】
保護されたシステインを標準的なペプチド結合条件の下で、コラミンと結合させた。脱保護により最終生成物cys−cholが得られ、それをWCXカートリッジを用いてSPEにより精製した。最終生成物の純度を液体クロマトグラフィー質量分析器により確認した。
【0127】
インビトロ肝臓ミクロソームのインキュベーション
保管されたヒト肝臓ミクロソーム(HLM)を入手し、ヒト肝臓ミクロソームmaster mixを320uL(HLM,20mg/mL;1mg/mL 最終濃度)をリン酸緩衝液(最終濃度0.1M、pH7.4)中のシステイン又はcys−cholを含むインキュベーションチューブに添加し、水に100uMの試験化合物を40uL添加した(最終濃度10uM)。37度で3分間プレインキュベーションした後、10mMのNADPH生成系を40uL添加することにより、反応が開始され、6.2mMのDL−イソクエン酸、及び0.5units/mLのイソクエン酸デヒドロゲナーゼを添加する。最終インキュベーション量は、250uLであった。基質を持たない試料、又は、添加されたNADPHを、負の制御として用いた。37℃及び400rpmで、60分間インキュベーションした後、0.1%のギ酸と共に、アセトニトリルを400uLインキュベーションに添加し、遠心分離機にかけた(最大回毎分、5分間)。得られた上澄み(200uL)を96穴プレートに移し、蒸発工程を行うことなく、直接、液体クロマトグラフィー質量分析を行った。
【0128】
結果
液体クロマトグラフィ及びエレクトロスプレーイオン化(ESI)‐タンデム質量分析計を用いた。システイン又は、cys−cholを捕獲試薬として用いて、9の試験薬剤から得られた代謝物質をUPLC−LTQ Orbitrap又は、UPLC−AB SCIEX 5600を用いて分析した。表1参照。これらの実験から、cys−cholを用いた捕獲は、システインを用いた捕獲より、高感度であることが判明した。表2参照。

【表1】
【表2】
【化34】
【0129】
3種類の捕獲剤の感度比較 表3は、グルタチオン、システイン(Cys)、及びCys−cholコンジュゲートを用いた捕獲クロザピン及びクロザピン代謝物質、の感度の比較を示す。図1A、1B、2A、2B、3A、及び3Bを参照。
【表3】
【0130】
均等物および範囲
本特許請求の範囲において、“a”、“an”及び“the”などの冠詞は、反対のことが示されていないか、または文脈から明らかでない限り、1つまたは複数を意味する。あるグループの1つ以上のメンバーに“または”を含む請求項または明細書は、反対のことが示されていないか、または文脈から別途明らかでない限り、1つ、複数、またはすべてのグループのメンバーが、ある生成物または工程に存在するか、採用されているか、または関連があることを満たすとみなされる。本発明は、そのグループの1つ以上のグループのメンバー、又は全てのメンバーが、ある生成物または工程に存在するか、使用されているか、または関連がある、実施形態を含む。
【0131】
さらに、本発明には、限定、構成要素、節、記述的な用語を、記載された請求項から、別の請求項へ1つ以上用いた場合における、全ての変形、組合せ、置き換えが含まれる。例えば、ある従属請求項は、同一のグループ請求項に従属する請求項に記載された1以上の限定を含むように修正することができる。同じグループとなる請求項に従属する他の請求項に要素が列挙され、例えば、マーカッシュ形式(Markush group format)で提示されている場合、それらのメンバーの各サブグループもまた開示され、任意のメンバー(複数可)が、その群から除去され得る。通常、本発明または本発明の態様が、特定のメンバー、特徴などを含むと言及される場合、本発明のある実施形態または本発明の態様は、このような構成要素、特徴などからなるか、本質的にそのような構成要素、特徴から成ると理解するべきである。単純化のため、これらの言葉で本明細書中に具体的に示されていない。“含む(comprising, containing)”及び“包含する(comprising)”という用語は、非制限語句として用いられ、構成要素や工程を更に含めることができる。範囲が記載されている場合、エンドポイントは含まれる。さらに、別途記載されていないか、または文脈および当業者の理解から明らかでない限り、範囲として示される値は、本発明の様々な実施形態において、記載される範囲内の任意の特定の値または部分領域を、文脈が明らかに別のことを示していない限りその範囲の下限の単位の10分の1まで想定し得ると理解されるべきである。
【0132】
本出願は許可された特許、公開特許出願、学術誌の記事、その他の出版物について参照しているが、それらは、参考文献として全て援用される。参考文献と本明細書に矛盾がある場合は、本明細書を優先するものとする。さらに、従来技術に包含される本発明の任意の特定の実施形態は、本請求項の任意の1つまたは複数から明確に除外され得る。このような実施形態は、当業者に公知であるとみなされるので、それらは、その除外が本明細書中で明確に示されていない場合も除外され得る。本発明のある特定の実施形態は、従来技術の存在に関係があるか否かに関わらず、いかなる理由があっても任意の1つまたは複数の請求項から除外され得る。
【0133】
当業者は、本明細書中に記載される特定の実施形態に対する多くの均等物を、認識する、または通常の実験を用いて確かめることができるであろう。本明細書中に記載された実施形態の範囲は、明細書の範囲を限定することを意図するものではなく、添付した特許請求の範囲に基づく。本明細書に対する数多くの変更および改良が、以下のクレームの定義に基づき、本発明の趣旨から外れることなく実施されうることは、同業者には理解されるであろう。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4-1】
図4-2】
図5-1】
図5-2】
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B