特許第6285931号(P6285931)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コミサリア ア レネルジィ アトミーク エ オ ゼネ ルジイ アルテアナティーフの特許一覧 ▶ サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィクの特許一覧

特許6285931標識されたキラルアルファ−ヒドロキシケト酸誘導体、前記誘導体を調製するための方法およびその使用
<>
  • 特許6285931-標識されたキラルアルファ−ヒドロキシケト酸誘導体、前記誘導体を調製するための方法およびその使用 図000008
  • 特許6285931-標識されたキラルアルファ−ヒドロキシケト酸誘導体、前記誘導体を調製するための方法およびその使用 図000009
  • 特許6285931-標識されたキラルアルファ−ヒドロキシケト酸誘導体、前記誘導体を調製するための方法およびその使用 図000010
  • 特許6285931-標識されたキラルアルファ−ヒドロキシケト酸誘導体、前記誘導体を調製するための方法およびその使用 図000011
  • 特許6285931-標識されたキラルアルファ−ヒドロキシケト酸誘導体、前記誘導体を調製するための方法およびその使用 図000012
  • 特許6285931-標識されたキラルアルファ−ヒドロキシケト酸誘導体、前記誘導体を調製するための方法およびその使用 図000013
  • 特許6285931-標識されたキラルアルファ−ヒドロキシケト酸誘導体、前記誘導体を調製するための方法およびその使用 図000014
  • 特許6285931-標識されたキラルアルファ−ヒドロキシケト酸誘導体、前記誘導体を調製するための方法およびその使用 図000015
  • 特許6285931-標識されたキラルアルファ−ヒドロキシケト酸誘導体、前記誘導体を調製するための方法およびその使用 図000016
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6285931
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】標識されたキラルアルファ−ヒドロキシケト酸誘導体、前記誘導体を調製するための方法およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C07C 59/215 20060101AFI20180215BHJP
   C12P 7/40 20060101ALI20180215BHJP
   C07K 1/13 20060101ALI20180215BHJP
   G01N 24/08 20060101ALI20180215BHJP
   C07B 59/00 20060101ALN20180215BHJP
【FI】
   C07C59/215CSP
   C12P7/40
   C07K1/13
   G01N24/08 510Q
   !C07B59/00
【請求項の数】22
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-525998(P2015-525998)
(86)(22)【出願日】2013年8月7日
(65)【公表番号】特表2015-531757(P2015-531757A)
(43)【公表日】2015年11月5日
(86)【国際出願番号】IB2013056468
(87)【国際公開番号】WO2014024151
(87)【国際公開日】20140213
【審査請求日】2016年7月11日
(31)【優先権主張番号】12305984.2
(32)【優先日】2012年8月8日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506423291
【氏名又は名称】コミサリア ア レネルジィ アトミーク エ オ ゼネ ルジイ アルテアナティーフ
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE ET AUX ENERGIES ALTERNATIVES
(73)【特許権者】
【識別番号】502205846
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィク
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】プレビン マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ケルファ リム
(72)【発明者】
【氏名】ペセイ オンブリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ボワブヴィエ ジェローム
(72)【発明者】
【氏名】ギャン ピエール
【審査官】 前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/083356(WO,A1)
【文献】 特表2005−514953(JP,A)
【文献】 特表2002−541228(JP,A)
【文献】 特開2001−316299(JP,A)
【文献】 Chemical Communications,2012年,48(10),p.1434-1436,published online 26 July 2011
【文献】 Angewandte Chemie, International Edition,2010年,49(11),p.1958-1962,Supporting Information p.1-16
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 59/00
C07K 1/00
C12P 7/00
G01N 24/00
C07B 59/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(S)立体配置を有する式(I):
【化1】
(式中、
−XおよびXは互いに独立して、H(H)またはH(D)であり、
−Y、YおよびYは互いに独立して、12C(C)または13Cであり、
−Rは、メチル基(ここで、炭素原子は12C(C)または13Cであり、水素原子は互いに独立して、H(H)またはH(D)である)であり、
−Rは、メチル基(ここで、炭素原子は12C(C)または13Cであり、水素原子は互いに独立して、H(H)またはH(D)である)であるか、または
−Rは、エチル基(ここで、炭素原子は互いに独立して、12C(C)または13Cであり、水素原子は互いに独立して、H(H)またはH(D)である)である)
の化合物であるが、但し、式(I)の化合物において、同時に、少なくとも1つの水素原子がH(D)であり、少なくとも1つの炭素原子が13Cである化合物。
【請求項2】
−Rが、CD13CH13CHDおよび13CHDからなる群から選択され、
−Rが、13CDからなる群から選択されるメチル基であるか、または
−Rが、CD−CD2、13CH−CD、CH13CD13CHD−CD13CHD13CD13CHD−CD13CHD−13CDおよび13CH13CDからなる群から選択されるエチル基である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
=Y=Y=Cである、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
=Y=Y13Cである、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項5】
・(S)−2−(1’−,2’−13C)エチル−2−ヒドロキシ−3−オキソ−4−()ブタン酸{X=X=H;Y=Y=Y=C;R=CD;R13CH−CD}、
・(S)−2−(1’−,2’−H,2’−13C)エチル−2−ヒドロキシ−3−オキソ−4−()ブタン酸{X=X=H;Y=Y=Y=C;R=CD;R13CHD−CD}、
・(S)−2−(1’−,2’−,2’−13C,)エチル−2−ヒドロキシ−3−オキソ−4−()ブタン酸{X=X=H;Y=Y=Y=C;R=CD;R13CHD−CD}、
・(S)−2−ヒドロキシ−2−(13C)メチル−3−オキソ−4−(13C)ブタン酸{X=X=H;Y=Y=Y=C;R13CH;R13CD}、
・(S)−2−()エチル−2−ヒドロキシ−3−オキソ−4−(13C)メチルブタン酸{X=X=H;Y=Y=Y=C;R13CH;R=CD−CD
からなる群から選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
・(S)−1,2,3−(13C)−2−(1’−13)エチル−2−ヒドロキシ−3−オキソ−4−()ブタン酸{X=X=H;Y=Y=Y13C;R=CD;R13CH13CD}、
・(S)−1,2,3−(13C)−2−(1’−,2’−H,13)エチル−2−ヒドロキシ−3−オキソ−4−()ブタン酸{X=X=H;Y=Y=Y13C;R=CD;R13CHD−13CD}、
・(S)−1,2,3−(13C)−2−(1’−,2’−13)エチル−2−ヒドロキシ−3−オキソ−4−()ブタン酸{X=X=H;Y=Y=Y13C;R=CD;R13CHD13CD
からなる群から選択される、請求項1、2または4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の(S)立体配置を有する式(I)の化合物を調製するための方法であって、式(II)
【化2】
のアルファ−ケト酸を、アセトヒドロキシ酸シンターゼII(AHAS II)、補酵素チアミンピロリン酸(TPP)、酸化還元補因子フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、マグネシウム塩および緩衝液の存在下で式(III)
【化3】
(式中、X1、、Y、Y、Y、RおよびRは、請求項1〜6のいずれか一項において式(I)に関して定義される意味を有する)
のアルファ−ケト酸と反応させること
を含む方法。
【請求項8】
反応のpHが、5から9(端値を含む)である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
緩衝液が、リン酸塩;マレイン酸水素ナトリウム、イミダゾール;3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS);トリエタノールアミン(TEA);3−[[1,3−ジヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)プロパン−2−イル]アミノ]−2−ヒドロキシプロパン−1−スルホン酸(TAPSO);2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES);ピペラジン−N,N’−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES);およびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)からなる群において選択される、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
反応混合物中の緩衝液の濃度が、0.01Mから0.25M(端値を含む)の間である、請求項7〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
反応混合物中のアセトヒドロキシ酸シンターゼII(AHAS II)の濃度が、200から700μg/mlの間(端値を含む)である、請求項7〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
反応混合物中の式(II)のアルファ−ケト酸および式(III)のアルファ−ケト酸のそれぞれの濃度が、2mMから100mMの間(端値を含む)である、請求項7〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
反応が、15〜40℃の温度で実施される、請求項7〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の(S)立体配置を有する式(I)の化合物を使用した、タンパク質および生体分子集合体におけるバリン(Val)、ロイシン(Leu)およびイソロイシン(Ile)からなる群から選択されるアミノ酸の同位体標識のための方法。
【請求項15】
タンパク質および生体分子集合体をNMR分光法により分析するための方法であって、請求項1〜6のいずれか一項に記載の(S)立体配置を有する式(I)の化合物による、分析されるタンパク質および生体分子集合体におけるバリン、ロイシンおよびイソロイシンアミノ酸の同位体標識のステップを含む方法。
【請求項16】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の(S)立体配置を有する式(I)の1つまたは複数の化合物を含む、タンパク質および生体分子集合体におけるバリン、ロイシンおよびイソロイシンアミノ酸の同位体標識のためのキット。
【請求項17】
反応のpHが、6から7.8(端値を含む)である、請求項8に記載の方法。
【請求項18】
リン酸塩がリン酸一カリウム、リン酸二カリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウムである、請求項9に記載の方法。
【請求項19】
反応混合物中のアセトヒドロキシ酸シンターゼII(AHAS II)の濃度が、300から500μg/mlの間(端値を含む)である、請求項11に記載の方法。
【請求項20】
反応混合物中の式(II)のアルファ−ケト酸および式(III)のアルファ−ケト酸のそれぞれの濃度が、5mMから50mMの間(端値を含む)である、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
反応が、20〜30℃の温度で実施される、請求項13に記載の方法。
【請求項22】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の(S)立体配置を有する式(I)の化合物を使用した、タンパク質および生体分子集合体におけるバリン、ロイシンおよびイソロイシンメチル基の特異的な標識のための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標識されたキラルアルファ−ヒドロキシケト酸誘導体、前記誘導体を調製するための方法、ならびにタンパク質および生体分子集合体におけるアミノ酸の同位体標識のための、詳細にはアミノ酸のメチル基の同位体標識のための、より詳細にはバリン、ロイシンおよびイソロイシンメチル基の特異的な同位体標識のためのその使用に関する。
【0002】
本発明はまた、タンパク質および生体分子集合体をNMR分光法により分析するための方法であって、本発明のキラルアルファ−ヒドロキシケト酸誘導体により分析される、タンパク質および生体分子集合体におけるアミノ酸、詳細にはバリン、ロイシンおよびイソロイシンの同位体標識のステップを含む方法に関する。
【0003】
本発明はさらに、本発明の1つまたは複数のキラルアルファ−ヒドロキシケト酸誘導体を含む、タンパク質および生体分子集合体におけるバリン、ロイシンおよびイソロイシンアミノ酸の同位体標識のためのキットに関する。
【背景技術】
【0004】
巨大タンパク質(>100kDa)および超分子系の動態、相互作用ならびに機能の分析に溶液NMR分光法を使用することが次第に実現可能になってきている。この進歩の秘訣は、生体分子を標識する新たな強力な手法の開発であり、それらはNMR方法論における多くの進歩を促すため決定的なものとなってきた。
【0005】
メチル基は、巨大タンパク質の溶液NMR分光法研究のための理想的な分子プローブであることが判明している。
【0006】
初期のメチル標識手順では、アルファ−ケト酸が、メチルプロトン化イソロイシン(Ile)の産生における前駆体として使用された。より最近の戦略は、大腸菌(E. coli)におけるイソロイシンの生合成前駆体である標識された2−(S)−2−ヒドロキシ−2−エチル−3−オキサブタン酸塩を使用することに基づいている(Ayala I.et al.、Chem Comm.、2011、www.rsc.org/chemcomm、DOI:10.1039/C1CC12932E)。この方法では、前駆体が化学的に合成されることから、前駆体がラセミ混合物として得られこと、また得られる混合物の半分のみが細菌により変換され得ることを意味している。
【0007】
バリン(Val)、ロイシン(Leu)およびイソロイシン(Ile)は、それらのメチル基が、タンパク質において利用可能なすべてのメチルプローブの50%超を占めるため、大変興味が持たれる3つのアミノ酸である。
【0008】
過重水素化(perdeuterated)タンパク質におけるロイシンおよびバリンメチル基のプロトン化は一般的に、これらのアミノ酸の生合成における中間体であるメチルプロトン化された2−オキソ−3−メチルブタン酸(アルファ−ケトイソ吉草酸としても公知である)を使用して達成され、ここでは両方のメチル基が、H、13C標識される。このタイプのアルファ−ケトイソ吉草酸を使用することにより、非常に多くのNMR可視メチルプローブに起因して過密した[H,13C]−関連スペクトルがもたらされるため、高分子量タンパク質では効率的ではないことが判明した。
【0009】
国際公開第2011/083356号は、化学合成により得られるアセト乳酸塩誘導体のラセミ混合物を使用した、タンパク質集合体におけるバリン(Val)、ロイシン(Leu)およびイソロイシン(Ile)の特異的な同位体標識のための方法について記載している。従来法により前記ラセミ混合物をそれらの立体化学的に純粋なアセト乳酸塩誘導体へ分割することは、効率的ではないことが判明した。
【0010】
Ruschak A.M.et al.、J Biomol NMR、2010、48(3)、p.129〜35およびAyala I.et al.、J.Chem Commun、2012年、48、p.1434〜1436は、イソロイシンガンマ−2メチル基の特異的な標識のための2−ヒドロキシ−2−メチル−3−オキソブタン酸および2−ヒドロキシ−2−エチル−3−オキソブタン酸塩のエステル誘導体を調製するための合成経路について記載している。これらの参照文献では、化合物は、アセト酢酸メチル(またはエチル)から化学合成により調製され、したがってラセミ混合物の形態で得られる。その結果として、S立体化学を有する得られた化合物の半分のみが、細菌により取り込まれ得る。さらに、2−ヒドロキシ−2−メチル−3−オキソブタン酸および2−ヒドロキシ−2−エチル−3−オキソブタン酸塩の誘導体は、エステルの形態で存在し、使用前に塩基性媒質で化合物を脱保護させるのにさらなるステップが必要とされることを意味する。あまり制御されていない反応条件下では、これが、化合物の著しい分解をもたらし得る。
【0011】
Godoy−Ruiz R.et al.、J.Am.Chem.Soc.、2010、132(51)、p.18340〜50は、アルファ−ケトイソ吉草酸(Ala、LeuおよびVal部位を標識するため)およびアルファ−ケト酪酸(Ile位の標識のため)を使用したアラニン、ロイシン、バリンおよびイソロイシンメチル位の同時選択的同位体標識、ならびに距離制限(distance restraints)や可動性のデータを得るためのそれらの使用について記載している。この参照文献に記載される標識方法は、イソロイシンのガンマ−2位における同位体リーク(isotopic leaks)を導き、構造的な制約を抽出する際に人為的結果をもたらす。この現象は、標識された3−13C−アラニンの幾つかの脱アミノ化に起因し、標識されたピルビン酸塩のin vivo合成を導く。このようにして得られる標識されたピルビン酸塩と内因性2−オキソブタン酸塩とのアセト乳酸シンターゼの存在下での縮合により、2−ヒドロキシ−2−エチル−3−オキソ−4−13C−ブタン酸塩が生じる。
【0012】
Engel,S.et al.、Biotechnology&Bioengineering、88、p.825〜83は、芳香族アルファ−ヒドロキシケトンの立体選択的合成における大腸菌(Escherichia Coli)由来のアセトヒドロキシ酸シンターゼI(AHAS I)の使用を報告している。
【0013】
米国特許第2006/0148042号は、アセトヒドロキシ酸シンターゼ(AHAS)またはタルトロン酸セミアルデヒドシンターゼ(TSAS)を使用したキラル芳香族アルファ−ヒドロキシケトンの調製に関する生体内変換方法に関する。この文書は、キラルアセトヒドロキシ酸の非芳香族合成の合成、特異的にまたは全体的に重水素化され、および/または炭素13(13C)が富化されたキラルアセトヒドロキシ酸の合成、およびアミノ酸の同位体標識のためのそれらの使用に関しては、全く触れていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第2011/083356号
【特許文献2】米国特許第2006/0148042号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Ayala I.et al.、J.Chem Commun.、2011、www.rsc.org/chemcomm、DOI:10.1039/C1CC12932E
【非特許文献2】Ruschak A.M.et al.、J Biomol NMR、2010、48(3)、p.129〜35
【非特許文献3】Ayala I.et al.、J.Chem Commun、2012、48、p.1434〜1436
【非特許文献4】Godoy−Ruiz R.et al.、J.Am.Chem.Soc.、2010、132(51)、p.18340〜50
【非特許文献5】Engel,S.et al.、Biotechnology&Bioengineering、88、p.825〜83
【非特許文献6】Bar−Ilan et al.(Biochemistry 40(2001) 11946〜54)
【非特許文献7】Ayala et al、2012、Chem Commun、48(10):1434〜6
【非特許文献8】Hill et al.(Biochem J.1997)
【非特許文献9】Biotechnol Bioeng.2004 88(7):825〜31
【非特許文献10】P.Gans et al.(Angew.Chem.Int.Ed.、2010、49、1958〜1962)
【非特許文献11】Godoy−Ruiz et al.(J.Am.Chem.Soc.、2010、132、18340〜18350頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、アミノ酸、詳細にはロイシン、バリンおよびイソロイシンから選択されるアミノ酸のメチル基を効率的かつ特異的に標識することが可能である標識された立体特異的なアルファ−ヒドロキシケト酸が依然として必要されている。
【0017】
詳細には、高収率でかつ穏やかな条件下で位置選択的および立体選択的な方法により製造される上述の標識された立体特異なアルファ−ヒドロキシケト酸が依然として必要とされている。
【0018】
より詳細には、アミノ酸が標識される部位、即ち、アミノ酸ロイシン、バリンおよびイソロイシンのメチル基で、同位体リークを引き起こさずにアミノ酸を標識することが可能な上述の標識された立体特異的なアルファーヒドロキシケト酸が依然として必要とされている。
【0019】
さらにより詳細には、検出可能なスクランブリングを伴わずに細菌により標的タンパク質に取り込まれ得る上述の標識された立体特異的なアルファ−ヒドロキシケト酸が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、(S)立体配置を有する式(I):
【0021】
【化1】
【0022】
(式中、
−XおよびXは互いに独立して、H(H)またはH(D)であり、
−Y、YおよびYは互いに独立して、12C(C)または13Cであり、
−Rは、メチル基(ここで、炭素原子は12C(C)または13Cであり、水素原子は互いに独立して、H(H)またはH(D)である)であり、
−Rは、メチル基(ここで、炭素原子は12C(C)または13Cであり、水素原子は互いに独立して、H(H)またはH(D)である)であるか、または
−Rは、エチル基(ここで、炭素原子は互いに独立して、12C(C)または13Cであり、水素原子は互いに独立して、H(H)またはH(D)である)である)
の化合物であるが、但し、式(I)を有する化合物において、同時に、少なくとも1つの水素原子がH(D)であり、少なくとも1つの炭素原子が13Cである化合物を提供することにより、当該技術分野におけるこれらの必要性および他の必要性に対処する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(S)立体配置を有する式(I)の化合物はまた、2−(S)−アルファ−アセト乳酸誘導体または2−(S)−2−ヒドロキシ−2−アルキル−3−オキソブタン酸誘導体としても知られている。
【0024】
式(I)の化合物はキラルである。12C(C)または13Cのいずれかである本発明の化合物における不斉/キラル中心は、(S)立体配置を有する。その結果として、タンパク質においてアミノ酸を同位体標識するのに必要とされる式(I)の化合物の量は、同じ操作に必要な当該技術分野のラセミ混合物の量と比較して半分に低減される。
【0025】
本発明の化合物の別の利点は、当該技術分野のエステル化合物とは異なり、式(I)の化合物が酸の形態で存在し、したがって実験的に困難であり得るエステル官能基のさらなる脱保護ステップが回避されることである。
【0026】
本発明の化合物のさらなる利点は、式(I)の化合物を用いて、アミノ酸の高レベルの同位体標識が、他の位置に対していかなる漏出も伴わずに得られることである。
【0027】
本発明の状況では、下記用語は、下記の意味を有する:
−Valは、アミノ酸バリンを指す;
−Leuは、アミノ酸ロイシンを指す;
−Ileは、アミノ酸イソロイシンを指す;
13Cは、炭素13同位体を指す;
12C(またはC)は、炭素−12同位体を指す;
H(またはD)は、重水素として知られる水素の同位体を指す;
H(またはH)は、水素の一般的な同位体を指す;
−キラル分子は、上に重ねられない鏡像(miror image)、即ち、通過する平面偏光単色光の偏光面を回転させる特性を有する分子である。本発明では、キラル/不斉中心は、4つの異なる置換基を保有する式(I)の化合物における炭素原子(13Cまたは12C)、即ち2位にある炭素である;
−立体配置は、キラル分子における不斉/キラル中心に直接結合された原子の空間的配置を指す。この配置は、文字(R)または(S)を用いて化学式中に割り当てられる。本件では、式(I)の化合物は、(S)立体配置を有する;
−生体分子集合体は、タンパク質、およびDNAループ(二重鎖DNA分子の2本鎖が、DNAの第3の鎖によって一定のストレッチで分離させられ、離れて保持される構造)、脂質、各種リガンド等のような他の群を含有する分子を指す;
−立体特異性は、基質または反応物の幾つかの立体異性体のうちの1つに関する顕著な特異性を指し、通常は酵素または有機反応について言われる;
−位置特異性は、すべての他の考え得る方向よりも優先的に作製または切断する一方向の結合を指す;
−proR、proS:標識されていないLeuのガンマ炭素上のメチル基(デルタ1およびデルタ2)は異ならず、その結果として標識されていないLeuアミノ酸の前記ガンマ炭素はキラルでない。標識されていないValのベータ炭素上のメチル基(ガンマ1およびガンマ2)は異ならず、その結果として標識されていないValアミノ酸の前記ベータ炭素はキラルでない。
【0028】
しかしながら、基RおよびRは、式(I)の化合物では同じ様式で標識されず、それぞれLeuおよびValのガンマおよびベータ炭素原子上の得られたメチル基は、異なって標識される。この差異に起因して、それぞれLeuおよびValのガンマおよびベータ炭素原子はキラルとなる。これらのメチル基は、標識が(R)立体配置を生じる場合にはproRと称され、標識が(S)立体配置を生じる場合にはproSと称される。
【0029】
好ましい実施形態では、(S)立体配置を有する式(I)の化合物では、
−X、X、Y、YおよびYは、すでに定義される通りであり、
−Rは、CD13CH13CHDおよび13CHDからなる群から選択され、
−Rは、13CDからなる群から選択されるメチル基であるか、または
−Rは、CD−CD2、13CH−CD、CH13CD13CHD−CD13CHD13CD13CHD−CD13CHD−13CDおよび13CH13CDからなる群から選択されるエチル基である。
【0030】
別の好ましい実施形態では、(S)立体配置を有する式(I)の化合物では、
−X、X、RおよびRは、様々な実施形態ですでに定義される通りであり、
−Y=Y=Y=Cである。
【0031】
さらに別の好ましい実施形態では、(S)立体配置を有する式(I)の化合物では、
−X、X、RおよびRは、様々な実施形態ですでに定義される通りであり、
−Y=Y=Y13Cである。
【0032】
本発明のある実施形態では、(S)立体配置を有する式(I)の化合物は、
・(S)−2−(1’−,2’−13C)エチル−2−ヒドロキシ−3−オキソ−4−()ブタン酸{X=X=H;Y=Y=Y=C;R=CD;R13CH−CD}、
・(S)−2−(1’−,2’−H,2’−13C)エチル−2−ヒドロキシ−3−オキソ−4−()ブタン酸{X=X=H;Y=Y=Y=C;R=CD;R13CHD−CD}、
・(S)−2−(1’−,2’−,2’−13C)エチル−2−ヒドロキシ−3−オキソ−4−()ブタン酸{X=X=H;Y=Y=Y=C;R=CD;R13CHD−CD}、
・(S)−2−ヒドロキシ−2−(13C)メチル−3−オキソ−4−(13C)ブタン酸{X=X=H;Y=Y=Y=C;R13CH;R13CD}、
・(S)−2−()エチル−2−ヒドロキシ−3−オキソ−4−(13C)メチルブタン酸{X=X=H;Y=Y=Y=C;R13CH;R=CD−CD
からなる群から選択される。
【0033】
本発明の別の実施形態では、(S)立体配置を有する式(I)の化合物は、
・(S)−1,2,3−(13C)−2−(1’−13)エチル−2−ヒドロキシ−3−オキソ−4−()ブタン酸{X=X=H;Y=Y=Y13C;R=CD;R13CH13CD}、
・(S)−1,2,3−(13C)−2−(1’−,2’−H,13)エチル−2−ヒドロキシ−3−オキソ−4−()ブタン酸{X=X=H;Y=Y=Y13C;R=CD;R13CHD−13CD}、
・(S)−1,2,3−(13C)−2−(1’−,2’−13)エチル−2−ヒドロキシ−3−オキソ−4−()ブタン酸{X=X=H;Y=Y=Y13C;R=CD;R13CHD13CD
からなる群から選択される。
【0034】
本発明の別の目的は、(S)立体配置を有する式(I)の化合物を調製するための方法であって、式(II)
【0035】
【化2】
【0036】
のアルファ−ケト酸を、アセトヒドロキシ酸シンターゼII(AHAS II)、補酵素チアミンピロリン酸(TPP)、酸化還元補因子フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、マグネシウム塩および緩衝液の存在下で式(III)
【0037】
【化3】
【0038】
(式中、X1、、Y、Y、Y、RおよびRは、様々な実施形態で式(I)に関して定義される意味を有する)
のアルファ−ケト酸と反応させること
を含む方法を提供することである。
【0039】
この方法は酵素的であり、それは、
−位置選択的であり(酵素は好ましくは、式(II)および/または(III)のアルファ−ケト酸のある特定の部位と反応する)、また立体特異的であり(2−(S)−アルファ−ヒドロキシケト酸が単独で入手される);
−エナンチオマーを分離するステップを必要とせず;
−高収率(少なくとも50%)で(S)立体配置を有する式(I)の化合物を生じ、
−副生成物の形成を低減し、場合によっては排除し;および/または
−穏やかな反応条件下で高い反応速度を提供する。
【0040】
式(I)の化合物を調製するこの酵素的方法の別の利点は、当該技術分野で記載される化学合成により容易に入手可能でない標識された化合物の産生に帰する。
【0041】
この方法は、植物、細菌、酵母または真菌AHAS IIを使用してもよく、それらは、野生型であってもよく、組換えでもよく、遺伝子操作および突然変異されてもよい。
【0042】
本発明のある実施形態では、アセトヒドロキシ酸シンターゼII(AHAS II)は好適には、Bar−Ilan et al.(Biochemistry 40(2001) 11946〜54)で調製される大腸菌(WT)由来の野生型AHASアイソザイムIIである。本発明の別の実施形態では、AHAS IIは好適には、N末端位内にタグを有する組換えAHASアイソザイムIIである。
【0043】
この方法では、反応のpHが、5から9、好ましくは6から7.8(端値を含む)であり得る。
【0044】
式(II)および(III)アルファ−ケト酸間の反応は、緩衝液の存在下で実施される。緩衝液が好適には、リン酸塩、詳細にはリン酸一カリウム、リン酸二カリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム;マレイン酸水素ナトリウム、イミダゾール;3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS);トリエタノールアミン(TEA);3−[[1,3−ジヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)プロパン−2−イル]アミノ]−2−ヒドロキシプロパン−1−スルホン酸(TAPSO);2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES);ピペラジン−N,N’−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES);およびトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)からなる群において選択される。
【0045】
この方法では、反応混合物中の緩衝液の濃度が、0.01M〜0.25M(端値を含む)であり得る。
【0046】
反応混合物中のアセトヒドロキシ酸シンターゼII(AHAS II)の濃度は、200から700μg/mlの間、好ましくは300から500μg/mlの間(端値を含む)であり得る。
【0047】
この方法では、式(II)のアルファ−ケト酸および式(III)のアルファ−ケト酸のそれぞれの濃度が、2mMから100mMの間、好ましくは5mMから50mMの間(端値を含む)である。
【0048】
好ましい実施形態では、式(II)および(III)のアルファ−ケト酸が、化学量論量で存在する。
【0049】
式(II)のアルファ−ケト酸と式(III)のアルファ−ケト酸との間の反応が、15から40℃の間、好ましくは20から30℃の間(端値を含む)の温度で実施され得る。
【0050】
本発明による方法では、式(II)のアルファ−ケト酸と式(III)のアルファ−ケト酸との間の反応は、0から50%v/vの濃度の2−プロパノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)およびアセトアミドから選択される水混和性有機溶媒の存在下で実施され得る。
【0051】
式(II)のアルファ−ケト酸と式(III)のアルファ−ケト酸との間の反応は、総濃度0から150mMのジチオスレイトール(DTT)のような酵素安定性を改善するための還元剤、1つまたは複数の緩衝塩の存在下で任意に実施され得る。
【0052】
マグネシウムイオンは、カルシウム、バリウム、マンガン、亜鉛、コバルトおよびニッケルのような酵素を活性化することが可能である他の二価金属陽イオンで置き換えられてもよい。
【0053】
続いて、過重水素化された発現培養液に添加されると、式(I)の化合物は、検出可能なスクランブリングを伴わずに細菌により標的タンパク質へ取り込まれる。
【0054】
本発明はまた、本発明による(S)立体配置を有する式(I)の化合物を使用した、タンパク質および生体分子集合体におけるバリン(Val)、ロイシン(Leu)およびイソロイシン(Ile)からなる群から選択されるアミノ酸の同位体標識のための、より詳細にはバリン、ロイシンおよびイソロイシンメチル基の特異的な標識のための方法に関する。
【0055】
この方法は、検出可能なスクランブリングを伴わずに、タンパク質または所望のタンパク質を過剰発現する細菌を含有する培養培地における本発明による(S)立体配置を有する式(I)の化合物の添加による、タンパク質および生体分子集合体におけるイソロイシン、ロイシンおよびバリンアミノ酸におけるメチル基の効率的かつ立体特異的な標識を可能にする。細菌は、大腸菌であり得るが、これに限定されない。使用されるプロトコルは、例えば国際公開第2001/083356号に記載されるものであってもよい。
【0056】
本発明はまた、タンパク質および生体分子集合体をNMR分光法により分析するための方法であって、本発明による(S)立体配置を有する式(I)の化合物による、分析されるタンパク質および生体分子集合体におけるバリン、ロイシンおよびアミノ酸の同位体標識のステップを含む方法に関する。
【0057】
したがって、式(I)の化合物は、バリン、ロイシンおよびイソロイシンアミノ酸を含有するタンパク質の構造的研究を実施することを可能にする。式(I)の化合物による標識は、30kDa未満のタンパク質において0.05Hz程度と低い弱い双極子およびスカラー相互作用を検出することを可能にする。
【0058】
本発明はさらに、本発明による(S)立体配置を有する式(I)の1つまたは複数の化合物を含む、タンパク質および生体分子集合体におけるバリン、ロイシンおよびイソロイシンアミノ酸の同位体標識のための、詳細にはバリン、ロイシンおよびイソロイシンメチル基の同位体標識のためのキットに関する。
【0059】
本発明の他の利点および特徴は、説明目的で付与される下記実施例および添付の図面と関連してより良好に理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0060】
図1】大腸菌のアセトヒドロキシ酸シンターゼII(ASAH II)による2−(S)−2−ヒドロキシ,2−エチル,3−オキソブタン酸イオンおよび2−(S)−2−ヒドロキシ,2−メチル,3−オキソブタン酸イオン(前駆体とも称される)の酵素合成を表す。ピルビン酸イオン分子の1つに由来する最終化合物の炭素原子を太字で示す。
図2】2−(S)−2−ヒドロキシ,2−エチル,3−オキソブタン酸塩(前駆体とも称される)の酵素合成を表す。左:時間の関数としてのASAH IIの存在下でのオキソブタン酸塩/ピルビン酸塩の1:1混合物の一次元NMRスペクトルが表される。右:オキソブタン酸塩のメチル基および前駆体のデルタ−1位におけるメチル基の共鳴強度の時間の関数としての漸進的変化が表される。
図3】2−(S)−2−ヒドロキシ,2−(2’−13C−1’−D)−エチル,3−オキソ−4−D−ブタン酸イオン(I)の合成を表す。上部パネル:(U−D)ピルビン酸イオンおよび4−13C−3−D−2−オキソブタン酸イオンの等モル混合物(左)およびAHAS IIの添加後の2−(S)−2−ヒドロキシ,2−(2’−13C−1’−D)−エチル,3−オキソ−4−D−ブタン酸イオン(前駆体デルタ−1とも称される)(右)のNMRスペクトルが表される。幾らかのアセト乳酸塩(10%未満)が反応中に形成されるが、それらは重水素化されると観察不可能である。下部パネル:2−(S)−2−ヒドロキシ,2−(2’−13C−1’−D)−エチル,3−オキソ−4−D−ブタン酸イオンの合成スキームが表される。13C標識された炭素原子を太字で表す。
図4】2−(S)−2−ヒドロキシ,2−(D)エチル,3−オキソ,4−13C−オキソブタン酸イオンの合成を表す。上部パネル:(U−D)−2−オキソブタン酸イオンおよび3−13C−ピルビン酸イオンの等モル混合物(左)およびAHAS IIの添加後の最終生成物(2−(S)−2−ヒドロキシ,2−(D)エチル,3−オキソ,4−13C−ブタン酸イオン)(右)のNMRスペクトルが表される。1.35および1.57ppmのピークは、ピルビン酸イオンの水和形態に相当し(左)、1.32および1.55ppmのピークは、反応中に形成されるアセト乳酸塩に相当する(右)。下部パネル:2−(S)−2−ヒドロキシ,2−(D)エチル,3−オキソ,4−13C−ブタン酸イオン(前駆体ガンマ−2とも称される)の合成スキームが表される。13C標識された炭素位置を太字で表す。
図5】2−(S)−2−ヒドロキシ,2−(13C)メチル,3−オキソ,4−13C−ブタン酸イオンの合成を表す。上部パネル:3−13C−ピルビン酸イオン(左)およびAHAS IIの添加後の最終生成物(2−(S)−2−ヒドロキシ,2−(13C)メチル,3−オキソ,4−13C−ブタン酸イオン)(右)のNMRスペクトルが表される。1.35および1.57ppmのピークは、ピルビン酸イオンの水和形態に相当に相当する。下部パネル:2−(S)−2−ヒドロキシ,2−(13C)メチル,3−オキソ,4−13C−ブタン酸イオン(アセト乳酸イオンとも称される)の合成スキームが表される。13C標識された炭素位置を太字で表す。
図5a】2−(S)−2−ヒドロキシ,2−(13−1’−D)−エチル−3−オキソ−1,2,3−13C−4−D−ブタン酸イオンの合成を表す。上部パネル:(U−13C)−3−D−2−オキソブタン酸イオンおよび(U−D)−2−13C−ピルビン酸イオンの等モル混合物(左)およびAHAS IIの添加後の最終生成物(右)のNMRスペクトルが表される。1.35および1.57ppmのピークは、ピルビン酸イオンの水和形態に相当し(左)、1.32および1.55ppmのピークは、反応中に形成されるアセト乳酸イオンに相当する(右)。下部パネル:2−(S)−2−ヒドロキシ,2−(13−1’−D)−エチル−3−オキソ−1,2,3−13C−4−D−ブタン酸イオンの合成の合成スキームが表される。13C標識された炭素位置を太字で表す。
図6】添加される外因性前駆体の量の関数としての過剰発現されるタンパク質における(S)−2−ヒドロキシ−2−エチル−3−オキソブタン酸塩の取込みのレベルを表す。ユビキチンは、2g/LのU−[H]−グルコースを有するM9/DO培養培地中の大腸菌で発現された。(S)−2−ヒドロキシ−2−エチル−3−オキソブタン酸塩の取込みのレベル(四角)を、化学合成(Ayala et al、2012、Chem Commun、48(10):1434〜6)により得られるラセミ2−ヒドロキシ−2−[H5]エチル−[1,2,3,4−13C4]−3−オキソブタン酸塩の取込みのレベル(黒丸)と比較する。定量化は、イソロイシンガンマ−2メチル基に相当するシグナルの強度を、メチオニンのイプシロンメチル基のシグナルに関して比較することにより実施した。95%のIle側鎖における取込みのレベルは、化学合成した前駆体に関して1リットル当たり100mg以上と比較して、M9/DO培養培地1リットル当たり(S)−2−ヒドロキシ−2−エチル−3−オキソブタン酸塩約50mgを添加することにより得られる。
図7】標識されたアラニンおよび2−オキソブタン酸塩の存在下(上部パネル)、または標識されたアラニンおよび上述のプロトコルを使用して合成される前駆体の存在下(下部パネル)のいずれかで大腸菌で産生されるユビキチンの13C−HSQCスペクトルを表す。スペクトルは、点線領域内(ここでは、スペクトルは1%でプロットされる)を除いてイソロイシンアミノ酸の共鳴の最大強度の10%でプロットされる。Godoy−Ruiz et al.(J.Am.Chem.Soc.、2010、132(51)、p.18340〜50)のプロトコルを使用することにより、1.5〜2%のイソロイシンのガンマ−2メチル基の人為的な標識が導かれ(上部パネル)、その標識は、培養液に関して本発明者らの前駆体を使用する場合には、総合的に抑制される(下部パネル)。
図8】実施例で記載するような本発明者の標識プロトコルに習って産生されたユビキチンの13C−HSQCスペクトル(メチル領域)を表す。ロイシンおよびバリンのproSメチル基ならびにイソロイシンアミノ酸のデルタ−1メチル基のみが標識されていることが観察され得る。他のメチル位への漏出は観察されない。
【実施例】
【0061】
材料および手順
使用する化合物は市販されている:(D)−2−オキソブタン酸塩に関しては、CDN Isotopes Inc.、4−(13C)−2−オキソブタン酸塩、3−13C−ピルビン酸塩、2−13C−ピルビン酸塩、ピルビン酸塩に関しては、Sigma−Aldrich、およびU−(13C)−2−オキソブタン酸塩に関しては、Cambridge Isotopes Laboratories。AHAS IIの2つのサブユニットをコードする配列を保有するプラスミドは、David Chipman博士(ネゲブのベングリオン大学)によりご厚意により提供された。
【0062】
Hおよび13C一次元NMRスペクトルはすべて、極低温三重共鳴パルス磁場勾配プローブヘッドを装備したプロトン周波数600MHzで作動するVarian DirectDrive分光計で記録した。
【0063】
標識されたタンパク質の二次元H−13C HMQCは、直接的な次元における1288個(/780)の複素数データ点(最大値t=99ms)(/60ms))および炭素次元における512個(/380)の点(最大値t=128ms)(/47ms))で記録された。
【実施例1】
【0064】
1’アセトヒドロキシ酸シンターゼII(AHAS II)の調製
AHAS IIの過剰発現および精製は、Hill et al.(Biochem J.1997)の方法に従って行われた。過剰発現されたAHAS IIのプラスミドを保有する大腸菌BL21(DE3)をLuria−Bertani培地中で37℃で成長させた。
【0065】
600nmでの光学密度(OD)または吸光度が0.5〜0.7に達した際に、最終濃度0.4mMになるようにイソプロピルβ−D−1−チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加することより、AHAS II発現を誘発させた。発現は、20℃で12時間実施した。4℃で15分間、5000gでの遠心分離により、細菌を収集して、TRIS−HCl 0.1M pH 7.5 10ml中に再懸濁させて、4℃で15分間、4000gで遠心分離した。細菌を緩衝液(緩衝液A:TRIS 50mM pH8、KCl 0.5M、イミダゾール10mMおよびFAD 20μM)10ml中に再懸濁させた。2分間の超音波処理により、細胞を崩壊させて、4℃で45分間、45,000gで超遠心分離により、不溶性物質を除去した。
【0066】
次に、緩衝液Aで平衡化したNiNTAカラム(Qiagenから入手)上に上清を置いた(deposed)。5倍容量の緩衝液Aでカラムを洗浄した後、緩衝液B(緩衝液B:TRIS 50mM pH8、KCl 0.5M、イミダゾール400mMおよびFAD 20μM)を使用して、AHAS IIを溶出させた。AHAS IIを含有する分画をプールして、濃縮して、脱イオン水に対して透析して、凍結乾燥させた。AHAS IIの活性は、333nmでピルビン酸塩の吸光度の減少を測定することにより決定した。
【実施例2】
【0067】
13CおよびH(D)標識された2−(S)−2−ヒドロキシ,2−エチル,3−オキソ,4−ブタン酸塩および2−(S)−2−ヒドロキシ,2−メチル,3−オキソ,4−ブタン酸塩の合成
本発明による2つの化合物であるDおよび13Cで標識された2−(S)−2−ヒドロキシ,2−エチル,3−オキソ,4−ブタン酸塩および2−(S)−2−ヒドロキシ,2−メチル,3−オキソ,4−ブタン酸塩の合成は、芳香族アルファ−ヒドロキシケトンのキラル合成に関するD.Chipman氏により記載されるプロトコル(Biotechnol Bioeng.2004 88(7):825〜31および米国特許第2006/0148042号)に従って実施した。
【0068】
13CおよびH標識された化合物の合成は、13CおよびH(D)標識されたピルビン酸塩および2−オキソブタン酸塩の等モル混合物中で、上述のように精製したAHAS IIの分割量を添加することにより行った。反応は、H NMRスペクトル(一次元)によりモニタリングして、ピルビン酸塩と2−オキソブタン酸塩との縮合は、図2で示されるように2時間で完了した。13CおよびHにより異なって標識された試薬を使用して、多数の式(I)の化合物を酵素的に合成できた。
【0069】
A.2−(S)−2−ヒドロキシ,2−(2’−13C−1’−D)−エチル,3−オキソ−4−D−ブタン酸塩(前駆体デルタ−1)の合成。
【0070】
33mMの(U−D)ピルビン酸塩(pH10.7で72時間、DO中での標識されていないピルビン酸塩の処理により過重水素化した)を、DO緩衝液(リン酸カリウム50mM pH7.8、MgCl 10mM、チアミン二リン酸1mM、FAD 20mM)3ml中で33mMの4−13C,3−D−2−オキソブタン酸塩と混合させた。
【0071】
反応は、6mM(420mg/ml)のAHAS IIの添加により開始して、続いてH NMR(一次元)を行った。初期および最終化合物のH NMRスペクトルを図3に表す。
【0072】
B.2−(S)−2−ヒドロキシ,2−(D)エチル,3−オキソ,4−13C−ブタン酸塩(前駆体ガンマ−2)の合成
33mMの3−13C−ピルビン酸塩を、DO緩衝液(リン酸カリウム50mM pH7.8、MgCl 10mM、チアミン二リン酸1mM、FAD 20mM)3ml中で同濃度のD−2−オキソブタン酸塩と混合させた。
【0073】
反応は、6mM(420mg/ml)のAHAS IIの添加により開始して、続いてH NMR(一次元)を行った。初期および最終化合物のH NMRスペクトルを図4に表す。
【0074】
C.2−(S)−2−ヒドロキシ,2−(13C)メチル,3−オキソ,4−(13CD)−ブタン酸塩(アセト乳酸塩)の合成
66mMの3−13C−ピルビン酸塩を、DO緩衝液(リン酸カリウム50mM pH7.8、MgCl 10mM、チアミン二リン酸1mM、FAD 20mM)3ml中に溶解させた。
【0075】
反応は、6mM(420mg/ml)のAHAS IIの添加により開始して、続いてH NMR(一次元)を行った。ピルビン酸イオンおよび最終化合物(2−(S)−2−ヒドロキシ,2−(13C)メチル,3−オキソ,4−(13CD)−ブタン酸イオン)のH NMRスペクトルを図5に示す。4位での重水素化は、P.Gans et al.(Angew.Chem.Int.Ed.、2010、49、1958〜1962)により記載されるように、H/H(D)交換により遂行される。
【0076】
D.2−(S)−2−ヒドロキシ,2−(13−1’−D)−エチル−3−オキソ−1,2,3−13C−4−D−ブタン酸塩の合成
33mMのU−D,2−13C−ピルビン酸塩を、DO緩衝液(リン酸カリウム50mM pH7.8、MgCl 10mM、チアミン二リン酸1mM、FAD 20mM)3ml中で同濃度でのU−13C,3−D−2−オキソブタン酸塩と混合させた。
【0077】
反応は、6mM(420mg/ml)のAHAS IIの添加により開始して、続いてH NMR(一次元)を行った。初期および最終化合物のH NMRスペクトルを図5aに示す。
【実施例3】
【0078】
過剰発現されたタンパク質における(S)−2−ヒドロキシ−2−エチル−3−オキソブタン酸塩の取込みの最適化。
【0079】
過剰発現されたタンパク質への(S)−2−ヒドロキシ−2−エチル−3−オキソブタン酸塩取込みのレベルを決定するための初期実験は、モデル系としてユビキチンを使用して実施した。
【0080】
大腸菌BL21(DE3)細胞を、Hisでタグ付したヒトのユビキチン遺伝子を保有するpET41cプラスミド(Novagenから入手)(pET41c−His−Ubi)で形質転換して、形質転換体を、1g/Lの15NDClおよび2g/LのU−[H]−グルコースを含有するM9/DO培地中で成長させた。
【0081】
600nmでの光学密度または吸光度が0.8に達した際に、標識された2−ヒドロキシ−2−エチル−3−オキソブタン酸塩を含有する溶液を添加した。さらに1時間後、最終濃度1mMになるようにβ−D−1−チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加することにより、ユビキチン発現を誘発させた。誘発は、37℃で3時間実施した。ユビキチンを、単一ステップでNi−NTA(Qiagenから入手)クロマトグラフィーカラムにより精製した。
【0082】
過剰発現されたタンパク質におけるほぼ完全な取込みを達成するのに必要とされる2−ヒドロキシ−2−エチル−3−オキソブタン酸塩の最適な量は、200mg/mLのU−[13C]−メチオニンと一緒に15、30、60、80および100mg/Lの最終濃度になるように、種々の量の標識された前駆体が誘発の1時間前に添加された一連の培養物(それぞれ100mL)中で評価した。精製タンパク質への取込みのレベルは、13C−HSQC NMRによりモニタリングした。定量化は、Metのイプシロンメチル基のシグナルに関して、Ileメチル基に相当するシグナルの積算を比較することにより実施した。
【0083】
M9/DO培養培地1リットル当たり約50mgの純粋な(S)−2−ヒドロキシ−2−エチル−3−オキソブタン酸塩の添加により、Ile側鎖における95%の取込みレベルが達成される(図6)。
【実施例4】
【0084】
U−[H],U−[15N],Ile−d1−[13]タンパク質の産生。
【0085】
Hisでタグ付したヒトのユビキチン遺伝子を保有するpET41cプラスミド(pET41c−His−Ubi)で形質転換した大腸菌BL21(DE3)細胞を、1g/Lの15NDClおよび2g/LのD−グルコース−d(Isotecから入手)を含有するM9/DO培地に、三段階で24時間かけて徐々に適合させた。最終的な培養では、細菌を、99.85%のDO(Eurisotopから入手)を用いて調製したM9培地中で37℃で成長させた。
【0086】
600nmでの光学密度または吸光度が0.8に達した際に、(S)−2−ヒドロキシ,2−[2’−13C,1’−D]エチル,[4−D]−3−オキソ−ブタン酸塩(実施例2−Aに記載するプロトコルに従って調製)および2−オキソイソ吉草酸−dを含有する溶液を、それぞれ65mg/Lおよび200mg/Lの最終濃度になるように培養培地に添加した。1時間後、最終濃度1mMになるようにイソプロピル−β−D−1−チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加することにより、ユビキチン発現を誘発させた。発現を37℃で3時間実施した後、収集した。ユビキチンを、単一ステップでNi−NTA(Qiagenから入手)カラムクロマトグラフィーにより精製した。
【0087】
13Cスペクトルを、プロトン周波数600MHzで作動するNMR分光計でDO中で37℃で記録した。デルタ−1イソロイシンメチル炭素に関する唯一のシグナルが、13Cスペクトルで観察され、(S)−2−ヒドロキシ,2−[2−13C,1−D]エチル,[4−D]−3−オキソ−ブタン酸塩の13基が、他のアミノ酸の代謝経路に取り込まれないことを示した。イソロイシンアミノ酸のデルタ−1位における13CH基の取込みレベルは、標識されたタンパク質の二次元H−13C HMQCで観察されるNMRシグナルの積算に基づいて95%よりも高いと推定された。
【実施例5】
【0088】
U−[H],U−[15N],Ile−g2−[13]タンパク質の産生。
【0089】
Hisでタグ付したヒトのユビキチン遺伝子を保有するpET41cプラスミド(pET41c−His−Ubi)で形質転換した大腸菌BL21(DE3)細胞を、1g/Lの15NDClおよび2g/LのD−グルコース−d(Isotecから入手)を含有するM9/DO培地に、三段階で24時間かけて徐々に適合させた。最終的な培養では、細菌を、99.85%のDO(Eurisotopから入手)を用いて調製したM9培地中で37℃で成長させた。
【0090】
600nmでの光学密度または吸光度が0.8に達した際に、2−(S)−2−ヒドロキシ,2−(D)エチル,3−オキソ,4−13C−ブタン酸塩(実施例2−Bに記載するプロトコルに従って調製)および2−オキソイソ吉草酸−dを含有する溶液を、それぞれ65mg/Lおよび200mg/Lの最終濃度になるように培養培地に添加した。1時間後、最終濃度1mMになるようにイソプロピル−β−D−1−チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加することにより、ユビキチン発現を誘発させた。発現を37℃で3時間実施した後、収集した。ユビキチンを、単一ステップでNi−NTA(Qiagenから入手)カラムクロマトグラフィーにより精製した。
【0091】
13Cスペクトルを、プロトン周波数600MHzで作動するNMR分光計でDO中で37℃で記録した。イソロイシンのガンマ−2メチル炭素に関する唯一のシグナルが、13Cスペクトルで観察され、2−(S)−2−ヒドロキシ,2−(D)エチル,3−オキソ,4−13C−ブタン酸塩の13基が、他のアミノ酸の代謝経路に取り込まれないことを示した。イソロイシンのガンマ−2位における13CH基の取込みレベルは、標識されたタンパク質の二次元H−13C HMQCで観察されるNMRシグナルの積算に基づいて95%よりも高いと推定された。
【実施例6】
【0092】
Godoy−Ruiz et al.(J.Am.Chem.Soc.、2010、132、18340〜18350頁)のプロトコルを使用したU−[H],U−[15N],Ala−ベータ[13],Ile−デルタ−1−[13]タンパク質の産生
Hisでタグ付したヒトのユビキチン遺伝子を保有するpET41cプラスミド(pET41c−His−Ubi)で形質転換した大腸菌BL21(DE3)細胞を、1g/Lの15NDClおよび2g/LのD−グルコース−d(Isotecから入手)を含有するM9/DO培地に、三段階で24時間かけて徐々に適合させた。最終的な培養では、細菌を、99.85%のDO(Eurisotopから入手)、2.5g/Lのコハク酸塩−d(Isotecから入手)を用いて調製したM9培地中で37℃で成長させた。
【0093】
600nmでの光学密度または吸光度が0.8に達した際に、13CH−アラニン,4−13C−2−ケト酪酸および2−ケトイソ吉草酸−dを含有する溶液を、それぞれ800、75および200mg/Lの最終濃度になるように培養培地に添加した。スペクトルを簡素化して、重複を回避するために、元のプロトコルからの4−13C,3−メチル()−2−ケトイソ吉草酸を、前駆体の過重水素化形態で置換したことに留意されたい。1時間後、最終濃度1mMになるようにイソプロピル−β−D−1−チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加することにより、ユビキチン発現を誘発させた。発現を37℃で3時間実施した後、収集した。ユビキチンを、単一ステップでNi−NTA(Qiagenから入手)カラムクロマトグラフィーにより精製した。
【0094】
13Cスペクトルを、プロトン周波数600MHzで作動するNMR分光計でDO中で37℃で記録した。アラニン、およびイソロイシンのデルタ−1メチル炭素に関するシグナルが、13Cスペクトルで観察されたが、イソロイシンの共鳴ガンマ−2メチル炭素に相当する疑似ピークも観察された。イソロイシンのガンマ−2メチル炭素における同位体スクランブリングのレベルは、図7に示されるように1.5〜2%であると推定された。イソロイシンのデルタ−1位およびアラニンのベータ位における13CH基の取込みレベルは、標識されたタンパク質の二次元H−13C HMQCで観察されるNMRシグナルの積算に基づいて95%よりも高いと推定された。
【実施例7】
【0095】
U−[H],U−[15N],Ala−ベータ[13],Ile−デルタ−1−[13],Leu/Val−[13]proSタンパク質の産生
Hisでタグ付したヒトのユビキチン遺伝子を保有するpET41cプラスミド(pET41c−His−Ubi)で形質転換した大腸菌BL21(DE3)細胞を、1g/Lの15NDClおよび2g/LのD−グルコース−d(Isotecから入手)を含有するM9/DO培地に、三段階で24時間かけて徐々に適合させた。最終的な培養では、細菌を、99.85%のDO(Eurisotopから入手)を用いて調製したM9培地中で37℃で成長させた。
【0096】
600nmでの光学密度または吸光度が0.8に達した際に、13CH−アラニン,2−(S)−2−ヒドロキシ,2−(2’−13C−1’−D)−エチル,3−オキソ−4−D−ブタン酸塩および2−ヒドロキシ,2−(13C)メチル,3−オキソ,4−(13CD)−ブタン酸塩前駆体を含有する溶液を、それぞれ800mg/L、65mg/L、400mg/Lの最終濃度になるように培養培地に添加した。
【0097】
2−(S)−2−ヒドロキシ,2−(13C)メチル,3−オキソ,4−(13CD)−ブタン酸塩前駆体(実施例2−Cに記載するように酵素的に調製)を使用する場合、最終化合物の量は、400mg/Lに代わって200mg/Lに低減させることができる。1時間後、最終濃度1mMになるようにイソプロピル−β−D−1−チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加することにより、ユビキチン発現を誘発させた。発現を37℃で3時間実施した後、収集した。ユビキチンを、単一ステップでNi−NTA(Qiagenから入手)カラムクロマトグラフィーにより精製した。
【0098】
13Cスペクトルを、プロトン周波数600MHzで作動するNMR分光計でDO中で37℃で記録した。イソロイシンメチル炭素のガンマ−2の共鳴に相当する検出可能な疑似ピークを伴わずに、Ala、Ile−デルタ−1、Leu/Val−proSメチル炭素に関するシグナルが、13Cスペクトルで観察された。イソロイシンのガンマ−2位、Leu/Val−proSおよびAlaのベータ位における13CH基の取込みレベルは、標識されたタンパク質の二次元H−13C HMQCで観察されるNMRシグナルの積算に基づいて95%よりも高いと推定された。
【0099】
したがって、図7に示すように、上述のプロトコルを使用することにより、標識の人為的結果、即ち構造決定(NOE)に関して必要とされるデータを収集することを妨げるイソロイシンのガンマ−2メチル基の残留標識が抑制されることは明らかである。
図1
図2
図3
図4
図5
図5a
図6
図7
図8