(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6285945
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】NOxおよび粒子を含んでいるディーゼル排気ガスを処理するための触媒システム
(51)【国際特許分類】
B01J 23/63 20060101AFI20180215BHJP
B01J 29/74 20060101ALI20180215BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20180215BHJP
F01N 3/035 20060101ALI20180215BHJP
F01N 3/10 20060101ALI20180215BHJP
F01N 3/24 20060101ALI20180215BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
B01J23/63 AZAB
B01J29/74 A
B01D53/94 222
B01D53/94 241
B01D53/94 217
F01N3/035 A
F01N3/10 A
F01N3/24 E
F01N3/28 Q
【請求項の数】14
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-541038(P2015-541038)
(86)(22)【出願日】2013年11月8日
(65)【公表番号】特表2016-502460(P2016-502460A)
(43)【公表日】2016年1月28日
(86)【国際出願番号】EP2013003374
(87)【国際公開番号】WO2014072067
(87)【国際公開日】20140515
【審査請求日】2016年8月29日
(31)【優先権主張番号】12192178.7
(32)【優先日】2012年11月12日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505446895
【氏名又は名称】ユミコア アクチェンゲゼルシャフト ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】シファー, ミカエル
(72)【発明者】
【氏名】ゲーベル, ウルリッヒ
(72)【発明者】
【氏名】ドルンハウス, フランツ
(72)【発明者】
【氏名】シュラー, アンケ
(72)【発明者】
【氏名】ホイヤー, リュディガー
(72)【発明者】
【氏名】パイファー, マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ジェスク, ゲラルド
【審査官】
磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−098274(JP,A)
【文献】
特開2002−349236(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0014099(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0236224(US,A1)
【文献】
特開2008−151100(JP,A)
【文献】
特開2007−192055(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 23/63
B01D 53/94
B01J 29/74
F01N 3/035
F01N 3/10
F01N 3/24
F01N 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ガスの流れ方向に、
− 窒素酸化物吸蔵成分と貴金属とを含む窒素酸化物吸蔵触媒と、
− 白金、パラジウム、および白金・パラジウムの群から選択される貴金属を含んでいるディーゼル微粒子フィルターと
を含むディーゼル排気ガスを処理するための触媒システムにおいて、
前記窒素酸化物吸蔵触媒の貴金属担持量が100〜180g/ft3(3.53〜6.36g/L)であり、前記ディーゼル微粒子フィルターの貴金属担持量が5〜35g/ft3(0.18〜1.24g/L)であることを特徴とし、そして、
前記窒素酸化物吸蔵触媒の貴金属担持量は、前記ディーゼル微粒子フィルターの貴金属担持量よりも多いことを特徴とする、
触媒システム。
【請求項2】
前記使用される窒素酸化物吸蔵成分が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ランタンおよびランタノイド(Ce〜Lu)の、酸化物、水酸化物、酸化水酸化物、炭酸塩および炭酸水素塩から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の触媒システム。
【請求項3】
前記使用される窒素酸化物吸蔵成分が、ストロンチウムおよびバリウムの、酸化物、水酸化物、酸化水酸化物または炭酸塩から選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の触媒システム。
【請求項4】
前記窒素酸化物吸蔵触媒の前記貴金属担持量が150〜180g/ft3(5.30〜6.36g/L)であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の触媒システム。
【請求項5】
前記ディーゼル微粒子フィルターの前記貴金属担持量が10〜25g/ft3(0.35〜0.88g/L)であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の触媒システム。
【請求項6】
前記ディーゼル微粒子フィルターがゼオライト化合物を含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の触媒システム。
【請求項7】
使用されるゼオライト化合物が、β−ゼオライト、ゼオライトY、モルデナイトまたはZSM−5であることを特徴とする、請求項6に記載の触媒システム。
【請求項8】
前記ゼオライト化合物が5〜25g/Lの量で使用されることを特徴とする、請求項6または7に記載の触媒システム。
【請求項9】
前記ディーゼル微粒子フィルターがH2S遮断機能を有することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の触媒システム。
【請求項10】
前記ディーゼル微粒子フィルターよりも前記排気ガスの流れ方向の下流に配置されたSCR触媒を含むことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の触媒システム。
【請求項11】
使用されるSCR触媒が、バナジウムを含む混合酸化物とバナジウムを含まない混合酸化物との群からの混合酸化物であることを特徴とする、請求項10に記載の触媒システム。
【請求項12】
使用されるSCR触媒が、CHA、SAPO、ZSM−5またはゼオライトβ型の、銅交換または鉄交換されたゼオライト類であることを特徴とする、請求項10に記載の触媒システム。
【請求項13】
前記排気ガスの流れ方向に、
− 窒素酸化物吸蔵成分および160〜180g/ft3(5.65〜6.36g/L)の量の貴金属を含む窒素酸化物吸蔵触媒と、
− 10〜25g/ft3(0.35〜0.88g/L)の量の白金とパラジウムを1:1のPt:Pd重量比で含み、かつ10〜25g/Lの量のゼオライト化合物を含むディーゼル微粒子フィルターと
を含むことを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の触媒システム。
【請求項14】
ディーゼル排気ガスの処理方法において、前記ディーゼル排気ガスが、
− 窒素酸化物吸蔵成分と貴金属とを含んでいる窒素酸化物吸蔵触媒と、
− 白金、パラジウム、および白金・パラジウムの群から選択される貴金属を含んでいるディーゼル微粒子フィルターと
を前記排気ガスの流れ方向に含む触媒システムの上を通過するように送られることを特徴とし、
前記窒素酸化物吸蔵触媒の貴金属担持量が100〜180g/ft3(3.53〜6.36g/L)であり、前記ディーゼル微粒子フィルターの貴金属担持量が5〜35g/ft3(0.18〜1.24g/L)である、そして、
前記窒素酸化物吸蔵触媒の貴金属担持量は、前記ディーゼル微粒子フィルターの貴金属担持量よりも多いことを特徴とする、
ディーゼル排気ガスの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ガスの流れ方向に窒素酸化物吸蔵触媒とディーゼル微粒子フィルターとを含む、ディーゼル排気ガスを処理するための触媒システムであって、その2つの構成要素が触媒活性貴金属を含む触媒システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンで動く自動車の排気ガスは、一酸化炭素(CO)および窒素酸化物(NO
x)だけでなく、シリンダーの燃焼室での燃料の不完全燃焼によって生じる成分も含む。これには、通常は同じように主に気体の形態である残留の炭化水素(HC)だけでなく、「ディーゼル煤煙」または「煤煙粒子」とも呼ばれる微粒子排気物も含まれる。それらは、主に、炭素を含んだ固体粒子と、通常は比較的長鎖の炭化水素凝縮物から主に構成される粘着液相とからなる複雑な凝集塊である。固体成分に粘着する液相は、「可溶性有機フラクション(SOF)」または「揮発性有機フラクション(VOF)」とも呼ばれる。
【0003】
これらの排気ガスを清浄にするためには、前記成分を極めて実質的に無害な化合物に変換しなければならず、そのことは好適な触媒を用いる場合にのみ可能である。
【0004】
例えば、一酸化炭素(CO)、気体状の炭化水素(HC)、および煤煙粒子に粘着している任意の有機凝集塊(「揮発性有機フラクション」(VOF)として知られる)は、酸化触媒を用いて酸化させて除去できる。
【0005】
微粒子排気物は、ディーゼル車の排気ガスから微粒子フィルターを用いて除去される。微粒子フィルターは一般に、壁面流フィルター基材である。すなわち、気密に密閉され、多孔質壁によって境界が定められ、互いに分けられている、交互になっている流入路および流出路を有するハニカムである。流入路に流れ込む、微粒子を含んでいる排気ガスは、出口側に存在する気密性閉塞栓ゆえに多孔質壁を強制的に通過させられ、壁面流フィルター基材から、流入側がふさがれている流出路から再び出て行く。この過程で、ディーゼル煤煙は排気ガスから取り除かれる。
【0006】
濾し取られる煤煙粒子の量が増えるにつれ、排気ガスシステムの背圧が上昇し、そのため、定期的に煤煙を焼き尽くしてフィルターを再生しなければならない。酸素によって煤煙を発火および焼き尽くすために必要な550℃を超える温度は、通常は現代の乗用車のディーゼルエンジンでは全負荷運転でしか達成され得ないため、煤煙によるフィルターの閉塞を防ぐために、濾し取られる煤煙粒子を酸化させるための更なる手段が絶対に必要である。この目的のため、煤煙の発火温度を下げることのできる触媒層でフィルターを被覆することができる。触媒層を設けた微粒子フィルターは、cDPF(触媒化ディーゼル微粒子フィルター)とも呼ばれ、例えば、SAE文献であるSAE 2005−01−1756に記載されている。
【0007】
窒素酸化物を除去できる方法の1つは、「リーンNOxトラップ」またはLNTという用語が付けられている窒素酸化物吸蔵触媒を使用することである。その清浄効果は、エンジンのリーン操作段階での吸蔵触媒の吸蔵物質による窒素酸化物の吸蔵(主に硝酸塩の形態)、エンジンのその後のリッチ操作段階での再度のその分解、およびそのように放出された窒素酸化物と還元排気ガス成分とを吸蔵触媒上で反応させることによって、窒素、二酸化炭素および水を生じさせることに基づく。この操作方式は、例えば、SAE文献であるSAE 950809に記載されている。
【0008】
有用な吸蔵物質としては、特に、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルカリ金属、希土類金属またはそれらの混合物の、酸化物、炭酸塩または水酸化物が挙げられる。そうした化合物は、塩基性であるため、排気ガス中で酸性窒素酸化物によって硝酸塩を形成することができ、またそのようにしてそれらを吸蔵することができる。それらは非常に高度に分散して好適な担体物質に付着し、排気ガスとの広い相互作用域を形成する。窒素酸化物吸蔵触媒は一般に、白金、パラジウムおよび/またはロジウムなどの貴金属を触媒活性成分としてさらに含む。それらは、第1に、リーン条件下でNOを酸化してNO
2にし、さらにCOおよびHCを酸化してCO
2にし、第2に、窒素酸化物吸蔵触媒が再生されるリッチ操作段階の間に放出されるNO
2を還元して窒素にするという役割を有する。
【0009】
酸素の存在下で排気ガスから窒素酸化物を除去するための更なる公知の方法は、好適な触媒であるSCR触媒上でアンモニアを使って行う選択的接触還元プロセス(SCRプロセス)である。この方法では、排気ガスから除去される窒素酸化物は、アンモニアと反応して、窒素と水を生じる。還元剤として使用されるアンモニアは、排気ガスシステムにおいて二次排気物として生じさせることができるか、またはアンモニアを生じさせることができる前駆体化合物、例えば、尿素、カルバミン酸アンモニウムまたはぎ酸アンモニウムを排気ガスラインに計量供給し、その後の加水分解によって得られるようにする。
【0010】
SCRプロセスの後者の変形形態を実現するには、還元剤の供給源、必要に応じて還元剤を排気ガスに計量供給するための注入装置、および排気ガスの流路に置かれるSCR触媒が必要とされる。
【0011】
問題になっている有害な排気ガス成分を必要な程度まで除去できるようにするために、前記の触媒およびフィルターを適切な方法で互いに組み合わせて、排気ガス処理システムを構成する必要がある。このことは、ユーロ6(Euro 6)基準、さらには後継の基準に適合する必要のある乗り物にとって特に当てはまる。
例えば、米国特許出願公開第2006/248874号明細書は、排気ガスの流れ方向に、窒素酸化物吸蔵触媒、微粒子フィルターおよび別の窒素酸化物吸蔵触媒を含んでいるシステムを記載している。第1窒素酸化物吸蔵触媒は、比較的低い温度で窒素酸化物を吸蔵するように、また300℃より上の温度で、リーン条件下でさえそれを再び放出するように設計されている。後者については、窒素酸化物は、下流の微粒子フィルターで微粒子の酸化を行うのに利用できる。しかし、窒素酸化物をリッチ条件で放出すると、窒素酸化物は還元触媒、例えば、ロジウムによってN
2に還元されうる。第2窒素酸化物吸蔵触媒は、リーン条件下において300℃〜550℃の温度で窒素酸化物を吸蔵するように設計されている。このシステムの難点は、2種類の窒素酸化物触媒を使用することに関連したスペースが必要なことであり、それは多くの場合、確保できない。また、2種類の窒素酸化物吸蔵触媒を使用することは、経済的理由からも最善ではない。
米国特許出願公開第2010/236224明細書は、排気ガスの流れ方向に窒素酸化物吸蔵触媒および微粒子フィルターを含むことのできるシステムを記載している。このシステムは、窒素酸化物吸蔵触媒に対して流出側に、炭化水素を還元するための、排気ガス流への空気の計量供給用装置を有することを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/248874号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2010/236224号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】SAE 2005−01−1756
【非特許文献2】SAE 950809
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、使用できる空間が十分にあり、経済的に実施可能な方法で製造でき、かつ効果的に前記汚染物質を除去するシステムが必要とされる。
【0015】
窒素酸化物吸蔵触媒と流出端に配設されたディーゼル微粒子フィルターとから構成されるシステムが、こうした条件を満たすこと、さらに詳細には、触媒活性貴金属が両方の構成要素に最適な方法で分散されているときに、COおよびNOx排気物を排気ガスから非常に効果的に除去することがこれまでに見出された。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、排気ガスの流れ方向に、
− 窒素酸化物吸蔵成分と貴金属とを含む窒素酸化物吸蔵触媒と、
− 白金、パラジウム、および白金・パラジウムの群から選択される貴金属を含んでいるディーゼル微粒子フィルターと
を含むディーゼル排気ガスを処理するための触媒システムにおいて、
窒素酸化物吸蔵触媒の貴金属担持量が100〜180g/ft
3(3.53〜6.36g/L)であり、ディーゼル微粒子フィルターの貴金属担持量が5〜35g/ft
3(0.18〜1.24g/L)であることを特徴とする、触媒システムに関する。
【0017】
したがって、窒素酸化物吸蔵触媒の貴金属担持量は、ディーゼル微粒子フィルターの貴金属担持量よりも多い。
【0018】
g/ft
3およびg/Lという単位はそれぞれ、担体基材の単位体積(ft
3およびL)当たりの各成分の量(g)をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
窒素酸化物吸蔵触媒に使用できる窒素酸化物吸蔵成分は、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ランタンおよびランタノイド(Ce〜Lu)の、酸化物、水酸化物、酸化水酸化物、炭酸塩および炭酸水素塩である。ナトリウム、カリウム、ストロンチウム、バリウムおよびランタンの、酸化物、水酸化物、酸化水酸化物、炭酸塩および炭酸水素塩が好ましい。ストロンチウムおよびバリウムの、酸化物、水酸化物、酸化水酸化物および炭酸塩、ならびにそれらの混合物を使用するのが特に好ましい。
【0020】
本発明の実施形態では、使用される窒素酸化物吸蔵成分は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の、酸化物、水酸化物、酸化水酸化物、炭酸塩および/または炭酸水素塩である(それぞれの酸化物を基準にして15〜20g/Lの量)。他の実施形態では、更なる成分、例えば、酸化セリウムが使用される。これらの場合、窒素酸化物吸蔵成分の量は、それぞれの酸化物を基準にして150〜250g/Lである。
【0021】
窒素酸化物吸蔵触媒に有用な貴金属としては、例えば、白金、パラジウムおよび/またはロジウムが挙げられる。特に、単独の貴金属として白金またはパラジウムを使用すること、あるいはそれらを相互の混合物として使用することが可能である。白金とパラジウムを使用する場合、Pt:Pdの重量比は特に2:1〜10:1である。
【0022】
本発明の実施形態では、窒素酸化物吸蔵触媒の貴金属担持量は150〜180g/ft
3(5.30〜6.36g/L)である。
【0023】
窒素酸化物吸蔵成分および貴金属は、典型的には好適な担体物質上に存在する。使用される担体物質は、特に、高表面積で高融点の酸化物、例えば、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、二酸化チタンであるが、それだけでなくセリウム−ジルコニウム混合酸化物およびマグネシウム−アルミニウム混合酸化物も使用される。本発明との関連において、窒素酸化物吸蔵成分および貴金属は、1種の担体物質上に、あるいは種々の担体物質上に一緒に存在してよい。
【0024】
本発明の実施形態では、窒素酸化物吸蔵触媒は、支持体であるセラミックまたは金属の流通基材として存在し、それには触媒活性成分がコーティングの形態で施されている。好適な流通基材は知られており、市販されている。
【0025】
本発明の実施形態における窒素酸化物吸蔵触媒のウォッシュコート総塗布量は、250〜400g/Lである。
【0026】
ディーゼル微粒子フィルターは、貴金属として、白金、パラジウム、または白金・パラジウムを含む。本発明の1つの実施形態では、ディーゼル微粒子フィルターは白金のみまたはパラジウムのみを含む。
【0027】
本発明の別の実施形態では、白金およびパラジウムを、1:2〜12:1、例えば、1:1、6:1、10:1および12:1のPt:Pd重量比で含む。
【0028】
本発明の更なる実施形態では、ディーゼル微粒子フィルターの貴金属担持量は、10〜25g/ft
3(0.35〜0.88g/L)である。
【0029】
本発明の更なる実施形態では、ディーゼル微粒子フィルターは、ゼオライト化合物を、特に5〜25g/L、特に10〜20g/Lの量で含む。好適なゼオライト化合物は、耐熱性のある大孔径または中孔径のゼオライト構造型、特にβ−ゼオライト、ゼオライトY、モルデナイトおよびZSM−5である。
【0030】
本発明の更なる実施形態では、ディーゼル微粒子フィルターは、H
2S遮断機能をもたらす成分を含む。好適な成分は当業者に知られており、文献に記載されている。例えば、欧州特許出願公開第2275194A1号明細書は、銅化合物、例えば、酸化銅と、耐火性担体物質、例えば、γ−酸化アルミニウムとを含んでいるコーティングによって実現されるH
2S遮断機能について記載している。
【0031】
ディーゼル微粒子フィルターにおいても、触媒活性成分、すなわち、特に貴金属および任意のゼオライト化合物が担体物質上に存在する。この目的に有用な物質は、窒素酸化物吸蔵触媒に関連してすでに上で述べたものである。
【0032】
本発明の実施形態では、ディーゼル微粒子フィルターは、支持体としてのセラミックまたは金属の壁面流フィルター基材という形態であり、この基材に触媒活性成分が1つまたは複数のコーティングの形態で施されている。特定の実施形態では、触媒活性成分は、流入路と流出路との間の多孔質壁内に存在する。好適な壁面流フィルター基材は知られており、市販されている。
【0033】
本発明の1つの実施形態では、触媒活性成分は、壁面流フィルター基材の全長にわたって均一に分布している。
【0034】
別の実施形態では、それらはゾーン化された形態で存在してもよい。これは、入口末端面と出口末端面との間に延びる長さLの壁面流フィルター基材が、入口末端面から長さEだけ延びている第1触媒活性ゾーン、および組成の点で第1とは異なりかつ出口末端面から長さZだけ延びている第2触媒活性ゾーンを有していることを意味し、ここで、E+Z≦Lである。流入端のゾーンの長さは、例えば、フィルター基材の全長の20%〜50%である。
【0035】
この2つのゾーンのゼオライト含有量は、等しいかまたはほぼ同じであってよい。一般に、流入端にあるゾーンの貴金属担持量はかなり多く、特にフィルターコーティングの全貴金属含有量の60%〜90%である。
【0036】
フィルターが欧州特許出願公開第2275194A1号明細書に記載のH
2S遮断機能を有している場合、ゾーン化された実施形態が有利である。この目的のため、銅化合物を、基材の長さの20%〜80%、好ましくは、40%〜60%を占め、入口末端または出口末端のゾーンを形成しうるゾーンに施す。次いで、フィルター基材の残りの長さに、基本的に上述の貴金属含有コーティングを設ける。
【0037】
本発明の実施形態におけるディーゼル微粒子フィルターのウォッシュコート塗布量は、8〜40g/Lである。
【0038】
本発明の1つの実施形態では、ディーゼル排気ガスを処理するための触媒システムは、ディーゼル微粒子フィルターよりも排気ガスの流れ方向の下流に配置されたSCR触媒を含む。
【0039】
有用なSCR触媒としては、特に混合酸化物系およびゼオライト系のSCR触媒が挙げられる。
【0040】
好適な混合酸化物は、例えば、バナジウムを含んでいるかまたはバナジウムを含まない混合酸化物、例えば、セリウムを含む混合酸化物およびランタノイドを含む混合酸化物である。
【0041】
ゼオライト系SCR触媒は、例えば、CHA、SAPO、ZSM−5およびゼオライトβ型の、特に銅交換または鉄交換されたゼオライト類である。
【0042】
SCR触媒を含む本発明の触媒システムの実施形態では、微粒子フィルターは、好ましくは白金を多く含んでいるコーティングを含む。これは、微粒子フィルターが、20〜50g/cftの担持量の場合に、白金だけを含むか、または白金とパラジウムとを少なくとも4:1の比率で含むことを意味する。
【0043】
本発明の触媒システムは、好ましくは、排気ガス流に空気を計量供給するためのいかなる装置も含まない。
【0044】
更なる実施形態では、本発明は、排気ガスの流れ方向に、
− 窒素酸化物吸蔵成分および150〜180g/ft
3(5.30〜6.36g/L)の量の貴金属を含む窒素酸化物吸蔵触媒と、
− 10〜25g/ft
3(0.35〜0.88g/L)の量の白金とパラジウムを1:1のPt:Pd重量比で含み、かつ10〜25g/Lの量のゼオライト化合物を含むディーゼル微粒子フィルターと
を含む、ディーゼル排気ガスを処理するための触媒システムに関する。
【0045】
本発明の触媒システムは、ディーゼル排気ガスを処理するのに抜群に適しており、NOx、HC、COおよび微粒子の処理に関してユーロ6の規制条件を満たすことができる。
【0046】
したがって、本発明はまた、ディーゼル排気ガスの処理方法において、ディーゼル排気ガスが、
− 窒素酸化物吸蔵成分と貴金属とを含んでいる窒素酸化物吸蔵触媒と、
− 白金、パラジウム、および白金・パラジウムの群から選択される貴金属を含んでいるディーゼル微粒子フィルターと
を排気ガスの流れ方向に含む触媒システムの上を通過するように送られることを特徴とし、
窒素酸化物吸蔵触媒の貴金属担持量が100〜180g/ft
3(3.53〜6.36g/L)であり、ディーゼル微粒子フィルターの貴金属担持量が5〜35g/ft
3(0.18〜1.24g/L)である、ディーゼル排気ガスの処理方法に関する。
【0047】
本発明の方法では、窒素酸化物吸蔵触媒は、リーン/リッチ排気ガスにおいてNOxおよびCOを変換する役割を担い、一方で、ディーゼル微粒子フィルターは、もっぱらHCおよび微量の残留COを変換し、さらに微粒子を濾過および再生する役割を担う。これは、特に、触媒システム内に存在する貴金属を、窒素酸化物吸蔵触媒とディーゼル微粒子フィルターとの間に最適な方法で分散させることによって実現される。
【0048】
本発明の方法の構成は、上述の本発明の触媒システムの構成と一致する。
【実施例】
【0049】
比較例
a)窒素酸化物吸蔵触媒を製造するために、市販の流通基材を、総量が347g/Lの触媒配合物で従来の方法でコーティングした。ウォッシュコートは、標準ランタン安定化アルミナ上に担持された100g/ft
3の白金と22g/ft
3のパラジウムと5g/ft
3のロジウムを含み、さらに17g/LのBaOおよび220g/Lの酸化セリウムも含んでいた。窒素酸化物吸蔵触媒の全貴金属担持量は127g/ft
3である。
【0050】
b)ディーゼル微粒子フィルターを製造するため、市販の壁面流フィルター基材に以下のようにコーティングした。
吸入ゾーン:ランタン安定化アルミナ上の100g/ft
3の白金とパラジウム(重量比は2:1)および9g/Lの市販のベータ−ゼオライトが、フィルター基材の長さの1/3にある。流出ゾーン:ランタン安定化アルミナ上の10g/cftの白金とパラジウム(重量比は2:1)および10g/Lの市販のベータ−ゼオライトが、フィルター基材の長さの残りの2/3にある。
【0051】
その結果、白金とパラジウム(重量比が2:1)の全担持量が40g/cftとなる。
【0052】
c)a)による窒素酸化物吸蔵触媒とb)によるディーゼル微粒子フィルターを組み合わせて触媒システム(流出端にディーゼル微粒子フィルターを有する)を得た。
【0053】
実施例1
a)窒素酸化物吸蔵触媒を製造するために、ロジウム担持量を5g/ft
3のままにして、白金担持量を126g/ft
3に増やし、パラジウム担持量を37.8g/ft
3に増やしたこと以外は、比較例のa)と同様の手順を実施した。その結果、貴金属の全担持量は168.8g/ft
3となる。
【0054】
b)ディーゼル微粒子フィルターを製造するため、市販の壁面流フィルター基材に以下のようにコーティングした。
吸入ゾーン:ランタン安定化アルミナ上の55g/ft
3の白金とパラジウム(重量比は1:1)および9g/Lの市販のベータ−ゼオライトが、フィルター基材の長さの1/3にある。流出ゾーン:ランタン安定化アルミナ上の10g/ft
3の白金とパラジウム(重量比は1:1)、および10g/Lの市販のベータ−ゼオライトが、フィルター基材の長さの残りの2/3にある。
【0055】
その結果、白金とパラジウム(重量比は1:1)の全担持量が25g/cftとなる。
【0056】
c)a)による窒素酸化物吸蔵触媒とb)によるディーゼル微粒子フィルターを組み合わせて触媒システム(流出端にディーゼル微粒子フィルターを有する)を得た。
【0057】
システム性能の測定
実施例1および比較例による触媒システムのシステム性能は、NEDC(新欧州ドライビングサイクル(New European Driving Cycle))に準拠したエンジンテストベッドで測定した。この目的のため、排出されるCO、HCおよびNO
xの量をmg/kmの単位で測定した。結果は表1に見ることができる。
【0058】
【表1】
【0059】
これは、実施例1による触媒システムが、COの変換の点でもNOxの変換の点でも、比較例によるものよりも明らかに優れていることを示している。
【0060】
実施例2
実施例1のa)による窒素酸化物吸蔵触媒を、実施例1のc)によるディーゼル微粒子フィルターと組み合わせて触媒システムを得た。これは以下のようにして製造したものである。
市販の壁面流フィルター基材に以下のようにコーティングした。
壁面流フィルター基材の全長Lにわたる均質コーティング:ランタン安定化アルミナ上の10g/ft
3の白金とパラジウム(重量比は1:1)および9g/Lの市販のベータ−ゼオライト。
【0061】
その結果、白金とパラジウム(重量比は1:1)の全担持量は10g/ft
3となる。
【0062】
こうして得られた触媒システムは、実施例1の触媒システムの特性に匹敵する特性があることを特徴とする。
【0063】
実施例3
実施例1のa)による窒素酸化物吸蔵触媒を、実施例1のc)によるディーゼル微粒子フィルターと組み合わせて触媒システムを得た。これは以下のようにして製造したものである。
市販の壁面流フィルター基材に以下のようにコーティングした。
吸入ゾーン:ランタン安定化アルミナ上の40g/ft
3の白金とパラジウム(重量比は2:1)および9g/Lの市販のベータ−ゼオライトが、フィルター基材の長さの1/3にある。流出ゾーン:ランタン安定化アルミナ上の10g/ft
3の白金とパラジウム(重量比は2:1)および10g/Lの市販のベータ−ゼオライトが、フィルター基材の長さの残りの2/3にある。
【0064】
その結果、白金とパラジウム(重量比は2:1)の全担持量が20g/ft
3となる。
【0065】
こうして得られた触媒システムは、実施例1の触媒システムの特性に匹敵する特性があることを特徴とする。
【0066】
参考例
a)実施例1のa)による窒素酸化物吸蔵触媒を、ディーゼル微粒子フィルターおよびSCR触媒と組み合わせて触媒システムを得た。これは、排気ガス流れ方向に以下のような順序になっている:窒素酸化物吸蔵触媒、ディーゼル微粒子フィルター、SCR触媒。
【0067】
b)ディーゼル微粒子フィルターを製造するため、市販の壁面流フィルター基材に以下のようにコーティングした。
壁面流フィルター基材の全長Lにわたる均質コーティング:ランタン安定化アルミナ上の50g/ft
3の白金とパラジウム(重量比は6:1)および33g/Lの市販のベータ−ゼオライト。
【0068】
その結果、白金とパラジウム(重量比は6:1)の全担持量は50g/ft
3となる。
【0069】
c)SCR触媒を製造するために、市販の流れ基材を、従来のようにして銅含有ゼオライトのウォッシュコート(総量は200g/L)でコーティングした。
本発明の好ましい実施形態によれば、例えば、以下が提供される。
(項1)
排気ガスの流れ方向に、
− 窒素酸化物吸蔵成分と貴金属とを含む窒素酸化物吸蔵触媒と、
− 白金、パラジウム、および白金・パラジウムの群から選択される貴金属を含んでいるディーゼル微粒子フィルターと
を含むディーゼル排気ガスを処理するための触媒システムにおいて、
前記窒素酸化物吸蔵触媒の貴金属担持量が100〜180g/ft3(3.53〜6.36g/L)であり、前記ディーゼル微粒子フィルターの貴金属担持量が5〜35g/ft3(0.18〜1.24g/L)であることを特徴とする、触媒システム。
(項2)
前記使用される窒素酸化物吸蔵成分が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ランタンおよびランタノイド(Ce〜Lu)の、酸化物、水酸化物、酸化水酸化物、炭酸塩および炭酸水素塩であることを特徴とする、上記項1に記載の触媒システム。
(項3)
前記使用される窒素酸化物吸蔵成分が、ストロンチウムおよびバリウムの、酸化物、水酸化物、酸化水酸化物または炭酸塩であることを特徴とする、上記項1または2に記載の触媒システム。
(項4)
前記窒素酸化物吸蔵触媒の前記貴金属担持量が150〜180g/ft3(5.30〜6.36g/L)であることを特徴とする、上記項1〜3のいずれか一項に記載の触媒システム。
(項5)
前記ディーゼル微粒子フィルターの前記貴金属担持量が10〜25g/ft3(0.35〜0.88g/L)であることを特徴とする、上記項1〜4のいずれか一項に記載の触媒システム。
(項6)
前記ディーゼル微粒子フィルターがゼオライト化合物を含むことを特徴とする、上記項1〜5のいずれか一項に記載の触媒システム。
(項7)
使用されるゼオライト化合物が、β−ゼオライト、ゼオライトY、モルデナイトまたはZSM−5であることを特徴とする、上記項6に記載の触媒システム。
(項8)
前記ゼオライト化合物が5〜25g/Lの量で使用されることを特徴とする、上記項6または7に記載の触媒システム。
(項9)
前記ディーゼル微粒子フィルターがH2S遮断機能を有することを特徴とする、上記項1〜8のいずれか一項に記載の触媒システム。
(項10)
前記ディーゼル微粒子フィルターよりも前記排気ガスの流れ方向の下流に配置されたSCR触媒を含むことを特徴とする、上記項1〜9のいずれか一項に記載の触媒システム。
(項11)
使用されるSCR触媒が、バナジウムを含む混合酸化物とバナジウムを含まない混合酸化物との群からの混合酸化物であることを特徴とする、上記項10に記載の触媒システム。
(項12)
使用されるSCR触媒が、CHA、SAPO、ZSM−5またはゼオライトβ型の、銅交換または鉄交換されたゼオライト類であることを特徴とする、上記項10に記載の触媒システム。
(項13)
前記排気ガスの流れ方向に、
− 窒素酸化物吸蔵成分および160〜180g/ft3(5.65〜6.36g/L)の量の貴金属を含む窒素酸化物吸蔵触媒と、
− 10〜25g/ft3(0.35〜0.88g/L)の量の白金とパラジウムを1:1のPt:Pd重量比で含み、かつ10〜25g/Lの量のゼオライト化合物を含むディーゼル微粒子フィルターと
を含むことを特徴とする、上記項1〜12のいずれか一項に記載の触媒システム。
(項14)
ディーゼル排気ガスの処理方法において、前記ディーゼル排気ガスが、
− 窒素酸化物吸蔵成分と貴金属とを含んでいる窒素酸化物吸蔵触媒と、
− 白金、パラジウム、および白金・パラジウムの群から選択される貴金属を含んでいるディーゼル微粒子フィルターと
を前記排気ガスの流れ方向に含む触媒システムの上を通過するように送られることを特徴とし、
前記窒素酸化物吸蔵触媒の貴金属担持量が100〜180g/ft3(3.53〜6.36g/L)であり、前記ディーゼル微粒子フィルターの貴金属担持量が5〜35g/ft3(0.18〜1.24g/L)である、ディーゼル排気ガスの処理方法。