特許第6285951号(P6285951)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6285951乳清タンパク質ミセルによって安定化されたエマルション
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6285951
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】乳清タンパク質ミセルによって安定化されたエマルション
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20180215BHJP
   A61K 8/06 20060101ALI20180215BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20180215BHJP
   A61K 8/92 20060101ALI20180215BHJP
   A61K 8/97 20170101ALI20180215BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20180215BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20180215BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20180215BHJP
   A23L 2/66 20060101ALI20180215BHJP
   A23K 20/147 20160101ALI20180215BHJP
   A23K 20/158 20160101ALI20180215BHJP
   A23K 50/40 20160101ALI20180215BHJP
【FI】
   A23D7/00 504
   A61K8/06
   A61K8/64
   A61K8/92
   A61K8/97
   A61K9/107
   A61K47/42
   A23L5/00 L
   A23L2/00 J
   A23K20/147
   A23K20/158
   A23K50/40
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-547015(P2015-547015)
(86)(22)【出願日】2013年12月12日
(65)【公表番号】特表2016-510209(P2016-510209A)
(43)【公表日】2016年4月7日
(86)【国際出願番号】EP2013076324
(87)【国際公開番号】WO2014090920
(87)【国際公開日】20140619
【審査請求日】2016年12月8日
(31)【優先権主張番号】12196978.6
(32)【優先日】2012年12月13日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599132904
【氏名又は名称】ネステク ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【弁理士】
【氏名又は名称】戸津 洋介
(72)【発明者】
【氏名】ゲアン‐デルヴァル, セシル
(72)【発明者】
【氏名】シュミット, クリストフ ジョゼフ エティエンヌ
(72)【発明者】
【氏名】ビンクス, バーナード ポール
(72)【発明者】
【氏名】デストリバッツ, マチュー ジュリアン
【審査官】 田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/112695(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A23K
A23L
A61K
A23J
CAplus/BIOSIS/WPIDS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳清タンパク質ミセル、水及び分散油滴を含み、前記乳清タンパク質ミセルによって安定化されており、前記油滴の平均直径が40〜1000μmであり、前記油の体積分率が40%〜80%である、エマルション。
【請求項2】
前記乳清タンパク質ミセルがエマルションの0.01〜5wt%の濃度で存在する、請求項1に記載のエマルション。
【請求項3】
前記油滴が、油溶性の生体活性化合物を含有する、請求項1又は2に記載のエマルション。
【請求項4】
前記油が、精油;ヒマワリ油;オリーブ油;パーム油;ヤシ油、ラッカセイ油;パーム核油;コーン油;ヘーゼルナッツ油;ゴマ油、及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1〜のいずれか一項に記載のエマルション。
【請求項5】
pHが2〜8である、請求項1〜のいずれか一項に記載のエマルション。
【請求項6】
前記油滴が、合一に対して少なくとも6カ月間安定している、請求項1〜のいずれか一項に記載のエマルション。
【請求項7】
水相と油滴とが対比色を有する、請求項1〜のいずれか一項に記載のエマルション。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか一項に記載のエマルションを含み、食品組成物;飲料;飲料増強剤、例えばコーヒークリーマー;化粧品組成物;医薬組成物;栄養製剤;又は経管栄養製剤である組成物。
【請求項9】
前記食品組成物が、乳製品;アイスクリーム;ソース;スープ;デザート;菓子製品;ベーカリー製品;サラダドレッシング;又はペットフードである、請求項に記載の組成物。
【請求項10】
請求項1〜のいずれか一項に記載のエマルションを乾燥することにより得られた組成物。
【請求項11】
水に分散されるための、請求項10に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エマルションに関する。特に、本発明は、乳清タンパク質ミセル、水、及び分散油滴を含み、乳清タンパク質ミセルによって安定化されたエマルションに関する。油滴は、平均直径が40〜1000μmであってもよい。本発明の更なる態様は、このエマルションを含む組成物、及びこのエマルションを乾燥させることによって得ることができる組成物である。
【0002】
エマルションは、通常混和しない二つ又はそれより多い液体の混合物からなる。分散相である一つ又は複数の液体が、連続相である他の液体に分散している。例えば、水中油型エマルションでは、油が分散相であり、水が連続相である。エマルションは、食品、例えばマヨネーズ、サラダドレッシング、ソース、アイスクリーム及び牛乳においてよく見られるものであり、医薬、整髪、個人衛生及び化粧用の製品に多く使用されている。普通のエマルションは本質的に不安定なため、自然に形成されることはない。エマルションを形成するには、エネルギーの入力、例えば振とう又は混合が必要である。エマルションは、経時的にエマルションを構成する相の安定した状態へと戻る傾向がある。その一例は、ほとんど絶え間なく振とうしない限りすぐに分離する不安定なエマルションであるシンプルなビネグレットサラダドレッシングの油成分と食酢成分との分離に見られる。
【0003】
エマルションの安定性は、エマルションの持つ、経時的に伴う特性の変化に抵抗する能力である。不安定さは、ほとんどの場合、排液、オストワルド熟成、及び合一という3つの現象に起因している。排液、すなわちクリーミングは、物質の一つが浮力のためにエマルションの上部に移動する場合である。オストワルド熟成は、サイズの異なる液滴の浸透圧の差のために熱力学的に誘起されるプロセスであり、小さな液滴から連続相を経由して大きな液滴への分子の拡散を生じさせる。合一は、二つ又はそれより多い液滴が接触時に結合して単一の娘液滴を形成するプロセスである。一般に、この3つの現象は同時に起こり、エマルションの不安定さの原因となって、最終的には液滴を消失させて完全に相分離した系へと戻す。
【0004】
乳化剤は、エマルションの動力学的安定性を高めることによってエマルションを安定化させる物質である。乳化剤の一つのクラスは、「表面活性物質」、すなわち界面活性剤として知られている。例えば、マスタードをビネグレットサラダドレッシングに添加すると、マスタードの種皮を包んでいる粘液中の化学物質が乳化剤として作用するため、ドレッシングのエマルションの安定性が高まる。このエマルションは最終的には消滅するが、油と食酢のみの場合より長持ちする。市場では数多くの乳化剤、例えばレシチン、タンパク質及び低分子量乳化剤が入手可能である。また、粒子も、エマルションを安定化できることが知られている。粒子安定化エマルションは、ピッカリングエマルションとして知られることもある[S.U.Pickering、J.Chem.Soc.Trans.、91、2001(1907)]。
【0005】
エマルションは、外観が大きく異なる場合がある。例えば牛乳のように、光がエマルション内の多数の相界面を通過するために光の散乱によって混濁又は白色に見えるものもある。エマルションの液滴のサイズが非常に小さく約100nm未満の場合、光は散乱しないのでエマルションは半透明に見える。しかし、製品の用途によっては、エマルションの液滴が個々に見えることで、魅力的な外観を生み出すことがある。加えて、水中油エマルションの場合、エマルションの液滴サイズが大きいほど酸化が抑えられ[K.Nikovska、Emirates Journal of Food and Agriculture、24、17(2012)]、そのため、食品用途の場合「異臭」発生のリスクが低下する。液滴が大きなエマルションは、「粗エマルション」と呼ばれることもある。
【0006】
安定した大きな液滴サイズのエマルションを作り出そうとすると、技術的課題に直面する。エマルションの液滴は、オストワルド熟成及び合一などのプロセスによってサイズが大きくなることがあるが、大きな液滴は、エマルションの中では不安定であり、完全な相分離が起こるまでこれらのプロセスは続く。粒子は、エマルションを安定化させると可溶性タンパク質又は小分子界面活性剤よりも大きな液滴サイズを実現することが知られている[E.Dickinson、Trends in Food Science & Technology、24、4(2012)]。最近の10〜15年で、理論的観点と実用的観点の両方から、粒子安定化エマルションの更なる理解に関して相当な進歩があった。粒子の疎水性は粒子のコーティングの程度によって異なり、エマルションのタイプ(水中油型又は油中水型)及び合一安定性を規定する際に極めて重要である。しかし、こうした研究で使用された粒子のほとんどは、合成されたものであり、食品、医薬、農業又は食品用途への適用可能性が限定的な無機材料(例えば、シリカ)である場合が多い。実際、エマルションを安定化させるのに使用されるシリカ粒子は一般に、吸着させた非食品グレードである又は有毒である分子又はポリマーで、部分的に疎水化されている。天然由来であって、こうした用途への使用に適する、エマルションを安定化させるための他の粒子を開発できれば望ましい。特に、油滴の大きい水中油型エマルションを安定化させるための材料が特定できれば有益である。エマルションは、胞子[B.P.Binksら、Langmuir、23、9143(2007)]、化学的に修飾されたデンプン粒、セルロース粒子、及び不水溶性のタンパク質ゼイン[J.W.J.de Folterら、Soft Matter、8、2807(2012)]によって既に安定化されている。しかし、これらの材料の中には栄養価が低いために食品に使用するにはあまり魅力的ではないものや、界面付着を確実にするには追加的な化学的処理を必要とするものがある。
【0007】
本発明の目的は、技術水準を向上させ、上記の不都合のうちの少なくともいくつかを克服するための改善された解決策を提供する、又は少なくとも有用な代替策を提供することである。
【0008】
本明細書における先行技術文献へのいかなる言及も、そうした先行技術が周知であること、又は本分野における共通の一般的な知識の一部を形成することを認めたものと考えるべきではない。本明細書において使用する場合、「含む(comprises)」、「含んでいる(comprising)」という語、及び同様な語は、排他的又は網羅的な意味であると理解すべきではない。換言すれば、これらの語は、「〜を含むがそれに限定されない」ということを意味するように意図されている。
【0009】
本発明の目的は、独立請求項の主題によって達成される。従属請求項は、本発明の考えを更に発展させるものである。
【0010】
従って、本発明は、第一の態様において、乳清タンパク質ミセル、水及び分散油滴を含み、乳清タンパク質ミセルによって安定化され、油滴の平均直径が40〜1000μmであるエマルションを提供する。第二の態様においては、本発明は、本発明のエマルションを含み、食品組成物、医薬組成物、化粧品製剤、栄養製剤、経管栄養製剤(tube feeding formulation)又はドリンクである組成物に関する。本発明の更なる態様は、このエマルションを乾燥させることによって得ることができる組成物である。
【0011】
本発明者らは、例えば、噴霧乾燥させた乳清タンパク質ミセルを水中に分散させ、油を添加し、次いで混合又は振とうすると、安定したエマルションが生成できることを驚くべきことに発見した。乳清タンパク質ミセルの量を限定することにより、大きくて肉眼で見える油滴を有するエマルションを生成できることを本発明者らは発見した。その結果、乳清タンパク質ミセルの量は、エマルション中に結果的に生じる油滴サイズの制御に使用することもできる。生成される油滴は合一に対して極めて安定しており、少なくとも8カ月間安定した状態を保った。乳清タンパク質ミセルの油水界面への吸着が高い安定性をもたらし、エマルションのバルク相の粘度を高める必要もない。これは、様々なテクスチャーのエマルション製品の調合に更に柔軟性を持たせ、より滑らかなエマルションを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(a)乳清タンパク質ミセル(WPM)が(左から右に)0.036、0.075、0.132、0.256及び0.488wt%の初期分散液、(b)pH=3にpHを調節した後の対応する分散液、並びに(c)乳化1時間後の対応する油/水が50/50のエマルションの肉眼写真を示す。
【0013】
図2】(a)WPMが(左から右に)0.032、0.065、0.141、0.276及び0.484wt%の初期分散液、(b)pH=4.7にpHを調節した後の対応する分散液、並びに(c)乳化1時間後の対応する油/水が50/50のエマルションの肉眼写真を示す。
【0014】
図3】(a)WPMが(左から右に)0.024、0.055、0.082、0.166、0.322及び0.662wt%の初期分散液、並びに(b)乳化1時間後の対応する油/水が50/50のエマルションの肉眼写真を示す。pH=7.2±0.3である。
【0015】
図4】pH=3の水相(水相は0.06MのNaNも含有する)のWPMのwt%が様々なエマルションの光学顕微鏡画像を示す。写真は乳化1時間後に撮影され、サンプルは観察前に手作業での振とうによって穏やかに均質化させてある。
【0016】
図5】pH=4.7の水相(水相は0.06MのNaNも含有する)のWPMのwt%が様々なエマルションの光学顕微鏡画像を示す。写真は乳化1時間後に撮影され、サンプルは観察前に手作業での振とうによって穏やかに均質化させてある。
【0017】
図6】pH=7の水相(水相は0.06MのNaNも含有する)のWPMのwt%が様々なエマルションの光学顕微鏡画像を示す。写真は乳化1時間後に撮影され、サンプルは観察前に手作業での振とうによって穏やかに均質化させてある。
【0018】
図7】pH7で水相の0.024wt%のWPMによって安定化させた水中ミグリオール(Miglyol)(登録商標)エマルションの肉眼写真を示す。
【0019】
図8】2種類の油;ミグリオール(登録商標)◆(黒菱形)及びヘキサデカン▲(黒三角)の場合に、水相の0.11wt%のWPMによって安定化させた水中油型エマルションの平均液滴直径の比較変化をpHの関数として示す。
【0020】
図9】油の体積比を、左から右に60、70、80及び90%v/vに増加させた水中ミグリオール(登録商標)エマルションの肉眼写真を示す。水相のpH=4.7、WPM質量/油質量=60mg/gである。写真は、乳化2日後に撮影した。
【0021】
図10】水相にNaNを0.4wt%含む水中ミグリオール(登録商標)エマルション(50/50vol%)の肉眼写真を示し、エマルションは、異なるpH値(a.pH=3、b.pH=4.8及びc.pH=7)で水相の0.11wt%のWPMによって安定化させ、乳化後室温にて8カ月保存したものである。
【0022】
図11】異なるpH(a.pH=3、b.pH=4.8及びc.pH=7)で水相の0.11wt%のWPMによって安定化させた水中ミグリオール(登録商標)エマルション(50/50vol%)の乳化1日後(1)又は8カ月後(2)の光学顕微鏡画像を示す。水相は、0.4wt%のNaNを含有し、エマルションは室温で保存した。サンプルは観察前に手作業での振とうによって穏やかに均質化させてある。スケールバーは500μmである。
【0023】
結果として、本発明の一つの方面は、乳清タンパク質ミセル、水及び分散油滴を含み、乳清タンパク質ミセルによって安定化されており、油滴の平均直径が40〜1000μmであるエマルションに関する。エマルションは、油滴の表面にある乳清タンパク質ミセルによって安定化されていてもよい。
【0024】
「乳清タンパク質ミセル」(WPM)は、欧州特許出願公開第1839492号に記載され、乳清タンパク質ミクロゲル(WPM)と称されるSchmitt[C.Schmittら、Soft Matter、6、4876(2010)]によって更に特徴付けられているとおりに、本明細書においては定義される。特に、「乳清タンパク質ミセル」は、欧州特許出願公開第1839492号に開示されたプロセスによって得ることができる乳清タンパク質ミセル濃縮物に含まれるミセルである。この中で、乳清タンパク質ミセル濃縮物の製造プロセスは、a)乳清タンパク質水溶液のpHを3.0〜8.0の値に調節するステップ、b)水溶液を80〜98℃の温度とするステップ、及びc)ステップb)で得た分散液を濃縮するステップを含む。これにより、生成されるミセルは、生成されたミセルの80%超が直径1ミクロン未満のサイズを有する、好ましくは100nm〜900nmのサイズであるような、極めて鋭いサイズ分布を有する。「乳清タンパク質ミセル」は、液体濃縮物又は粉末の形態とすることもできる。重要なことは、乳清タンパク質の基本的なミセル構造が、濃縮物の形態であっても、粉末の形態であっても、粉末から例えば水で復元されても維持されることである。「乳清タンパク質ミセル」は、分散液中で、粉末として、更には噴霧乾燥時又は凍結乾燥時でも、物理的に安定している。乳清タンパク質ミセルは、様々なサイズ又は様々な表面特性に容易に調整することができる。乳清タンパク質ミセルの親水性/疎水性比は、その環境のイオン強度及びpHを調節することによって変えることができ、これを用いて油水界面における乳清タンパク質ミセルの吸着を最適化できる。乳清タンパク質ミセルは天然由来であり、牛乳タンパク質から作られる。これがエマルション安定剤に良好な消費者受容性を与える。
【0025】
本発明において、「平均直径」とは、表面平均直径D[3;2]を意味する。適切な色の対比及び照明の下では、個々の液滴は直径が40μmであれば丁度肉眼で識別可能なため、本発明のエマルションの中の油滴は、目に見えるものであってもよい。油滴の可視性は、その安定性と相まって、エマルションを魅力的で独特なものにする。大きく、安定した油滴は、製品、例えば食品及び化粧品で生じれば、魅力的で独特な外観を生み出す。例えば、ビネグレットサラダドレッシングの透明なボトルの中の目に見える油滴は、丁度小さな真珠やキャビアのように見えることもある。
【0026】
加えて、油滴は大きいほど表面積は小さくなる。表面積が小さければ油の化学的安定性又は油中の生体活性成分の安定性は増す。例えば、全体として油の表面積が小さいエマルションを形成する大きな油滴は、酸化しにくい。更に、表面積の減少によって油滴からの生体活性材料の放出はゆっくりとなり、そのため長期にわたる徐放が実現できる。例えば、カフェインを含有する大きな油滴を有するエネルギードリンクは、マラソン走者が消費してもよい。カフェインをより長期にわたって放出させ、体内のカフェイン濃度をより長期間一定に保ちその生体利用効率を最大化することは、利点である。
【0027】
本発明のエマルションは、乳清タンパク質ミセルがエマルションの0.01〜5%、例えば、エマルションの0.02〜1%の濃度であってもよい。エマルション安定剤は、多くの場合、エマルションの中のより高価な原材料の一つであり、そのため、低濃度の安定化材料を用いてエマルションを安定化できることは利点である。加えて、本発明者らは、水中油型エマルションの安定化に低濃度のWPMを用いることが大きな油滴をもたらすことを発見した。
【0028】
本発明のエマルションは、油の体積分率が40%〜80%、例えば50%〜75%であってもよい。油の体積分率は、混合前のエマルションの全構成物質の体積で油の体積を割ったものである。エマルション中に分散させた液滴の体積分率が40%を超えると、液滴の表面同士が接近して相互作用を起こす。これがエマルションのレオロジーを変化させ、例えば、食品に魅力的なテクスチャーを与えることが可能な粘弾性特性を導入する。エマルション中の油の体積分率が50%を超えている(高濃度エマルション)場合、油分散相は水相よりも大きな体積を占め、液滴は最密充填される。液滴全てが同じサイズであるわけではなく、液滴は変形して完全な球体でなくなることも可能であるため、64%(同じサイズの球体の場合のランダム最密充填の限界)を超える体積分率も可能である。油の体積分率が高い本発明の油滴の安定性は、水に容易に再分散させることが可能な低水分組成物としてエマルションが提供されることを可能にする。使用前に再分散させる低水分組成物は、保存及び輸送のための体積及び重量がより小さく、微生物による腐敗に対して、より安定させることもできるという利点がある。
【0029】
本発明のエマルションの油滴は、油溶性の生体活性化合物を含有してもよい。油の体積分率が高いほどより多くの生体活性材料を送達できる。本発明の範囲内において、生体活性化合物という用語は、経口摂取された場合又は化粧品に適用された場合に生物活性又は健康への影響を示す分子又は成分を意味するものと理解される。生体活性化合物は、脂溶性カロテノイド;ポリフェノール;ビタミン、例えばビタミンA及びD;フラボノイド;イソフラボン;クルクミノイド;セラミド;プロアントシアニジン;テルペノイド;カフェイン、ステロール;植物ステロール;ステロールエステル;トコトリエノール;スクアレン;レチノイド;並びにこれらの組合せからなる群から選択されてもよい。
【0030】
本発明のエマルションは、精油;ヒマワリ油;オリーブ油;パーム油;ヤシ油,ラッカセイ油;パーム核油;コーン油;ヘーゼルナッツ油;ゴマ油、及びこれらの混合物からなる群から選択される油を含んでもよい。精油は、オレガノ、ニンニク、ショウガ、バラ、マスタード、シナモン、ローズマリー、オレンジ、グレープフルーツ、ライム、レモン、レモングラス、チョウジ、チョウジ葉、バニラ、バニリン、ミント、ティーツリー、タイム、ブドウ種子、シラントロ、ライム、コリアンダー、セージ、ユーカリ、ラベンダー、オリーブ、オリーブ葉、アニス、バジル、ピメント、ディル、ゼラニウム、ユーカリ、アニシード、ショウノウ、松樹皮、タマネギ、緑茶、オレンジ、アルテミシア・ヘルバアルバ(artemisia herba−alba)、アネット、柑橘類、マジョラム、セージ、オシマム・グラティシマム(ocimum gratissimum)、キムス・バルガリス(thymus vulgaris)、キンボポゴン・キトラトゥス(cymbopogon citratus)、ジンギベル・オフィシナレ(zingiber officinale)、モノドラ・ミリスティカ(monodora myristica)、及びクルクマ・ロンガ(curcuma longa)又はこれらの組合せからなる群から選択される植物材料由来の油であってもよい。これらの油は食品、栄養製剤、又は化粧品への使用に特に適している。
【0031】
本発明のエマルションは、pHが2〜8、例えば3.5〜7、更なる例では4〜6であってもよい。このpH範囲は、食品で一般的に遭遇する値を網羅しており、そのため、このpH範囲でエマルションを安定化できることは調理用途にとって、とりわけ、油滴が大きく油の体積分率が高いエマルションの場合に利点である。これに対し、油の体積分率が大きい乳清タンパク質分離物安定化エマルションは中性pHでは安定しているが、pH値が4〜5では機械的応力に対して非常に敏感である。pHがこれらの値の乳清タンパク質分離物エマルションは、穏やかに振とうするだけでも油の分離が引き起こされる。
【0032】
乳清タンパク質ミセルによって安定化された油滴は、合一に対して優れた安定性を有する。これは、市販品において非常に有用となり得る。例えば、乳化製品、例えばビネグレットサラダドレッシングの製造時に一度油滴を形成すると、油滴はその製品保存可能期間中、安定した状態を保つ。消費者は、使用前にボトルを穏やかに振とうして液滴を再分散させるだけでよく、激しい振とうは必要ない。本発明のエマルションにおける油滴は、合一に対して少なくとも6カ月、例えば少なくとも12カ月安定であることが可能である。
【0033】
エマルションの水相と油滴とは、対比色を有してもよい。対比色とは、目で見て明確に区別できる色同士である。異なる相を対比色で着色すると、消費者に対して油滴の視覚的アピールを高めることができる。対比色は、油滴の正しい形成を容易に観察できるようにするので、品質管理に役立てることもできる。使用する着色材料はいずれも天然原料由来とすることが好ましい。
【0034】
本発明のエマルションは、組成物中に含まれていてもよい。組成物は、食品組成物;飲料;飲料増強剤、例えばコーヒークリーマー;化粧品組成物;医薬組成物;栄養製剤;又は経管栄養製剤であってもよい。本発明のエマルションの安定性は、エマルションを食品への使用に理想的なものとする。液滴のサイズは、魅力的な官能感覚をもたらす。液滴は、口中で知覚されるほど充分に大きなものである。舌及び歯がエマルションにせん断を付与すると液滴は破壊されて油を放出するため、テクスチャーの変化と、風味付けされた油を使用している場合には風味の湧き上がりがもたらされる。他の一部の粒子乳化剤とは対照的に、乳清タンパク質ミセルは、食品への使用に適している。また、乳清タンパク質ミセルは牛乳に由来するので、多くの商業用食品乳化剤の合成化学名より消費者に受け入れられやすいと考えられる。本発明のエマルションを含む食品組成物は、乳製品;アイスクリーム;ソース;スープ;デザート;菓子製品;ベーカリー製品;サラダドレッシング;又はペットフードであってもよい。
【0035】
本発明のエマルションは、飲料に使用してもよい。例えば、飲料は、ボトル入りの水性ドリンク、エネルギードリンク、牛乳ドリンク、及び茶飲料からなる群から選択されてもよい。舌触りと外見が対照的な飲料、例えばバブルティーは消費者に人気がある。また、目に見える液滴を有することは、例えば液滴が油溶性の生体活性化合物を含有する場合、機能性原材料の存在を消費者に強調することにもなり得る。本発明のエマルションは、新規で関心を引く魅力的な飲料の創出に使用することができる。
【0036】
化粧用製品は、エマルションの持つ視覚的アピール、及び油滴内に脂溶性生体活性材料を組み込める可能性から恩恵を受けることができる。大きな油滴は、皮膚に塗布する化粧用製品に使用されると楽しい感触をもたらす。エマルションを皮膚上で摺り動かすと、液滴が壊れて油を放出する。
【0037】
エマルションを安定化させるための乳清タンパク質ミセルの使用は、低粘度の連続相を持つエマルションの形成を可能にする。これは、エマルションの流れを助けるため、経管栄養組成物にとって利点である。
【0038】
油の体積分率が高い本発明の油滴の安定性は、油滴の著しい合一を起こすことなくエマルションを乾燥させて後に水に容易に再分散できる組成物とすることを可能にする。従って、本発明の一実施形態は、例えば、本発明のエマルションを乾燥することによって得ることができる、組成物であってもよい。このような組成物は、水に分散させることでエマルションを復元するのに使用してもよい。
【0039】
当業者は、本明細書に開示された本発明の全ての特徴を自由に組み合わせることができることを理解する。特に、本発明の生成物に関して記載した特徴は本発明の方法と組み合わせてもよく、逆の場合も同じである。更に、本発明の様々な実施形態に関して記載した特徴同士を組み合わせてもよい。特定の特徴に周知の均等物が存在する場合、こうした均等物は、本明細書において具体的に言及されたかの如く組み込まれる。本発明の更なる利点及び特徴は、図面と非制限的な例から明らかとなる。
【実施例】
【0040】
実施例1:乳清タンパク質ミセル(WPM)粉末の製造
50kgバッチのWPM粉末を生成した。このバッチは、タンパク質が4wt%になるように乳清タンパク質分離物WPI(プロラクタ(Prolacta)90、Lactalis、Retiers、フランス)をpH5.9±0.05(天然のpH6.48を1MのHClで調節)の軟水(160mg.L−1Na)に分散させた分散液を熱処理することで得た。WPI分散液を60℃に予熱し、次いで1000L.h−1の流量で作動するSojaプレートプレート熱交換器(PHE)を用いて85℃に加熱し、続いてチューブ状熱交換器での15分の保持時間後に4℃に冷却した。こうした操作条件下、レイノルズ数Reは約1,500であり、PHEでの層流が確保された。初期タンパク質の85%超がWPMに変換された(26,900gで20分間の遠心分離によりWPMを除去した後に278nmの吸光測定によって判定)。WPM分散液は136±7nmの流体力学半径と、0.1の多分散性指数(動的光散乱DLSによって判定)を示した。その後、WPM分散液を温度10℃、流量180L.h−1で全表面が6.8m(Novasep Process、Miribel、フランス)の二つのカルボセップ(Carbosep)0.14膜を用いた精密ろ過によって22wt%まで濃縮した。次いで、GEA Niro SD6.3N噴霧乾燥機(Sφborg、デンマーク)を用いて(供給速度:WPM濃縮物25kg.h−1;入口空気温度:145〜150℃;出口空気温度:75〜77℃;噴霧ノズルφ:0.5mm;噴霧圧力40bar)液体濃縮物を噴霧乾燥し、2kgアルミニウム密封バッグに入れて10℃で保存した。WPM粉末は、ミクロゲルの形態のタンパク質を97%含有していた。その組成(g/100gの湿式粉末)は:タンパク質(Nx6.38、Kjeldhal)91;水分3.6;ラクトース3;脂肪0.4、及び灰分2であった。タンパク質サンプルのHNO/H無機化及びVista MPX同時ICP−AES分光計(Varian Inc.Palo Alto、CA、米国)を用いた分析に基づいて判定した粉末のミネラル組成(g/100gの湿式粉末)は:Ca2+0.320;K0.409;Na0.468;Mg2+0.060;Cl0.178であった。
【0041】
実施例2:油がミグリオール812の場合のpHと乳清タンパク質ミセルの量が水中油エマルションに対する影響
実施例1で調製した乳清タンパク質ミセル(WPM)粉末を4wt%になるように、10mLのミリQ(Milli−Q)水に20分間の超音波プローブ(直径6mm、振幅30%、パルスオン1秒、パルスオフ0.5秒)を用いた超音波処理によって分散させた。超音波処理時、分散液は氷浴に浸して温度を50℃未満に維持した。プロセスの最後に測定した分散液温度は、40〜45℃であった。20分後、ほぼ全ての顆粒が脱凝集しており(数個の顆粒がまだ分散液中に観察可能であったが、無視できる数であった)、約215nmの粒子径及び0.07未満の多分散性指数(動的光散乱により判定)が得られた。
【0042】
同体積(50/50vol%)の水相と油相を用いてエマルションを調製した。ただし、最初に水相に分散させるWPMのwt%は0.024〜0.662wt%で様々とした(これにより、全体として0.012〜0.331wt%の濃度で乳清タンパク質ミセルが存在するエマルションが生成する)。使用した油はSasolのミグリオール(登録商標)812(C8:0とC10:0との混合物)であった。水相は、0.06MのNaNを防腐剤として含有しており、そのpH値はHCl又はNaOH溶液の滴加によって調節した。乳化は、寸法の小さなヘッドを備えたウルトラタラックス(Ultra−Turrax)ミキサーを用い、一定のスピード(13500rpm)で30秒間行った。3つのpH領域(pH=3、4.7及び7)を調べた。エマルションは全て直接(水中油型)エマルションであり、安定していた。液滴のサイズ及び油と水との密度の不釣り合いのため、エマルションは数分以内に容器の上部にクリーム状層を形成し、下にある水相と共存した。同様のエマルションを防腐剤としてのNaNを添加することなく形成した。ただし、微生物増殖を防ぐため、これらのエマルションは、4℃で保存しなければならなかった。
【0043】
初期WPM分散液(pH調節の前後)と最終エマルションの肉眼像を図1、2及び3に示す。pH7の分散液の場合、pHの調節は行わなかった(本来のpH)。WPM量の関数としての油滴直径の変化を図4、5及び6に示す。各pH領域において、WPM量が増加するに従い液滴直径は減少する。WPM濃度がこの範囲内では、平均液滴直径は40から900μmへと変化する。図7は、WPMが0.012wt%であり、pHが7(水相中の元の分散液のWPMは0.024wt%)のエマルションの中の油滴の肉眼写真を示しており、液滴の独特な外観が示されている。エマルション液滴のサイズ分布は、光学顕微鏡法によって直接判定し、少なくとも50の液滴の寸法を測定した。平均液滴直径D[3;2](表面平均直径)を以下の式で定義するように評価した。式中、Nは直径がDの液滴の総数である。
【数1】
【0044】
実施例3:油がヘキサデカンの場合の乳清タンパク質ミセル安定化水中油型エマルション
油相としてヘキサデカン(Sigma、>99%)を使用した以外は実施例2の場合と同じ方法でエマルションを調製した。すぐにクリーミングが起こる直接エマルションが形成された。
【0045】
図8は、水中ミグリオール(登録商標)エマルションと水中ヘキサデカンエマルションのpHの関数としての平均液滴直径の比較変化を示す。pH=4〜5.5の範囲内で液滴は最大のサイズとなるが、pHがこの範囲の外では、エマルション液滴はより小さく、わずかに凝集する(凝集は、個々の分散した液滴が集まり塊状になることであるが、それで個々の液滴が独自性を失うことはない)。サイズの変化に関しては、ヘキサデカンとミグリオール(登録商標)の場合で同じ傾向が観察されるが、ヘキサデカンの液滴はミグリオール(登録商標)の液滴よりも小さくなる。
【0046】
実施例4:油の体積分率の影響:
油の体積分率がエマルションに対する影響を調べるため、ミグリオール(登録商標)/水体積比は様々であるが、WPM質量/油質量比を60mg/gに固定した様々なサンプルをpH4.7、0.06MのNaNで調製した。油の体積分率が高いほどクリーミングに対する安定性が向上する。80%v/v未満のエマルションは安定であるが、80%v/vを超えるエマルションは相分離することがわかった(図9)。
【0047】
実施例5:エマルションの安定性:
WPMによって安定化させたエマルションを室温で8カ月保存した後に観察した。図10及び11は、pH値の異なる水中ミグリオール(登録商標)エマルション(50vol%)の肉眼及び顕微鏡での観察結果を示す。乳化前の水相は0.4wt%のNaN防腐剤を含むWPMの0.11wt%分散液であった。油滴のサイズ分布は、8カ月にわたりほとんど変化せず、乳清タンパク質ミセルは、エマルションを合一に対して長期にわたって安定化する効果があることを示している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11